(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、及びエチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる親水性樹脂(A)と、エポキシ基を有する化合物(B)を反応させた後に、アミノ基を有する化合物(C)を反応させ、更に前記アミノ基と糖類を反応させ、前記糖類が共有結合により結合されて得られる樹脂化合物。
前記アミノ基を有する化合物(C)が、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、3,3’−ジアミノジプロピルアミン、ジエチレントリアミン、フェニレンジアミン、ポリアリルアミン、又はポリエチレンイミンである、請求項1又は2に記載の樹脂化合物。
前記糖類が、ヘパリン、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体、ヘパリンのN−硫酸基の硫酸基脱離体をN−アセチル化したヘパリン誘導体、低分子量ヘパリン、デキストラン硫酸、フコイダン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、デルマタン硫酸、ヘパリン類似物質、ヘパラン硫酸、ラムナン硫酸、ケタラン硫酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、又はカルボキシメチルセルロースである請求項1〜3の何れか一項に記載の樹脂化合物。
前記親水性樹脂(A)が、モル換算で、エチレンとビニルアルコールの比率が、エチレン/ビニルアルコール=0.5〜1.0の範囲である、エチレン−ビニルアルコール共重合体又はエチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体である請求項1〜4の何れか一項に記載の樹脂化合物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
即ち、本発明は、
(1)エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、及びエチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる親水性樹脂(A)と、エポキシ基を有する化合物(B)を反応させた後に、アミノ基を有する化合物(C)を反応させ更に前記アミノ基と糖類を反応させて得られる樹脂化合物、
(2)エポキシ基を有する化合物(B)が、エピクロロヒドリン、又はジエポキシ化合物である前記(1)項に記載の樹脂化合物、
(3)アミノ基を有する化合物(C)が、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、3,3’−ジアミノジプロピルアミン、ジエチレントリアミン、フェニレンジアミン、ポリアリルアミン、又はポリエチレンイミンである、前記(1)又は(2)項に記載の樹脂化合物、
(4)糖類が、ヘパリン、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体、ヘパリンのN−硫酸基の硫酸基脱離体をN−アセチル化したヘパリン誘導体、低分子量ヘパリン、デキストラン硫酸、フコイダン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、デルマタン硫酸、ヘパリン類似物質、ヘパラン硫酸、ラムナン硫酸、ケタラン硫酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、又はカルボキシメチルセルロースである前記(1)〜(3)項の何れか一項に記載の樹脂化合物、
(5)前記親水性樹脂(A)が、モル換算で、エチレンとビニルアルコールの比率が、エチレン/ビニルアルコール=0.5〜1.0の範囲である、エチレン−ビニルアルコール共重合体又はエチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体である前記(1)〜(4)項の何れか一項に記載の樹脂化合物、
(6)前記(1)〜(5)項の何れか一項に記載の樹脂化合物を表面に塗工してなるウイルス除去用高分子基材、
(7)ウイルスが、肝炎ウイルスである前記(6)に記載のウイルス除去用高分子基材、
(8)前記高分子基材が、多孔性中空糸、不織布、又は透析膜である前記(6)又は(7)項に記載のウイルス除去用高分子基材、
(9)前記高分子基材が、多孔性中空糸である前記(8)項に記載のウイルス除去用高分子基材、
(10)前記多孔性中空糸の平均流量孔径が50〜500nmの範囲である前記(9)項に記載のウイルス除去用高分子基材、
(11)前記多孔性中空糸の内径が150〜500μmの範囲である前記(9)又は(10)項に記載のウイルス除去用高分子基材、
(12)前記多孔性中空糸の膜厚が30〜100μmの範囲である前記(9)〜(11)項の何れか一項に記載のウイルス除去用高分子基材、
(13)前記(6)〜(8)項の何れか一項に記載のウイルス除去用高分子基材を用いたウイルス除去装置、
(14)前記(9)〜(12)項の何れか一項に記載のウイルス除去用高分子基材を用いたウイルス除去装置、
(15)前記(14)項に記載のウイルス除去装置の作動方法において、ウイルスを含む液を多孔性中空糸に通じることにより、多孔性中空糸の有する孔を通過した液と、孔を通過しなかった液とを混合する工程を有する、ウイルス除去装置の作動方法、
(16)前記ウイルスを含む液が、ウイルスを含む血液である前記(15)項に記載のウイルス除去装置の作動方法、及び
(17)前記(1)〜(5)の何れか一項に記載の樹脂化合物を用いた生体適合性材料、
に関する。
【0018】
以下、詳細に本発明を説明する。
本発明の樹脂化合物は、親水性樹脂(A)と、エポキシ基を有する化合物(B)を反応させた後に、アミノ基を有する化合物(C)を反応させ更に前記アミノ基と糖類を反応させて得られる。
【0019】
・親水性樹脂(A)
本発明に用いる親水性樹脂(A)は、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、及びエチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる。これらの中で好ましいものとしては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、又はエチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体が挙げられる。これらの樹脂化合物はヒドロキシル基を含有することから、血液適合性が高く好ましい。エチレン−ビニルアルコール共重合体、又はエチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体を用いる場合のエチレンとビニルアルコールのモル比としては、0.5〜1.0の範囲にあることが好ましい。エチレンとビニルアルコールのモル比が0.5以上であると、樹脂の耐水性が向上する。また、該モル比が1.0以下であると、樹脂の親水性が向上し、糖鎖固定化樹脂化合物(表面処理用樹脂)の表面親水化効果が向上するため好ましい。
【0020】
親水性樹脂(A)の分子量分布としては、重量平均分子量として、10000〜300000が好ましい。重量平均分子量が10000以上であると、樹脂の耐水性が向上する。また、重量平均分子量が300000以下であると、溶剤への溶解性が向上する。本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定された標準ポリスチレン換算重量平均分子量を意味する。
【0021】
・エポキシ基を有する化合物(B)
本発明に用いるエポキシ基を有する化合物(B)は、前記した親水性樹脂(A)と後述するアミノ基を有する化合物(C)とを架橋するために用いられる。そのため、前記した親水性化合物(A)と反応した後に、アミノ基と反応する官能基を持つことが必要である。このような化合物としては、エピクロロヒドリン、ジエポキシ化合物、又はポリエポキシ化合物等が挙げられる。この中で、エピクロロヒドリン又はジエポキシ化合物が好ましく使用され、、エピクロロヒドリンがより好ましく使用される。
【0022】
・親水性樹脂(A)とエポキシ基を有する化合物(B)との反応
本発明における親水性樹脂(A)と化合物(B)との反応は、公知各種の方法で行うことができる。その中でも好ましい条件としては、親水性樹脂(A)及び化合物(B)の両方を溶解する溶媒中で均一に反応させることが好ましい。そのような溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、といった非プロトン性極性溶媒や、エタノールと水、n−プロパノールと水、メタノールと水、イソプロピルアルコールと水、といったアルコールと水との混合溶媒、ピリジン、フェノール、クレゾールなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いることも可能である。反応条件としては、40〜100℃で10分〜20時間反応させることで生成物を得ることができる。
【0023】
また、親水性樹脂(A)としてエチレン−ビニルアルコール共重合体またはエチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体を用いる場合、親水性樹脂(A)とエポキシ基を有する化合物(B)との反応における溶媒は、溶解性が高い点と副反応が起こりにくい点から、ジメチルスルホキシドを用いることが好ましい。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体またはエチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体を用いる場合、反応を促進させるために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムといった塩基触媒を添加することが好ましく、添加する量としては、親水性樹脂(A)1g当り、0.38〜3.8mmolの範囲が好ましく、0.75〜2.0mmolの範囲がさらに好ましい。親水性樹脂(A)とエポキシ基を有する化合物(B)との反応生成物のエポキシ当量としては、370〜3700g/molが好ましく、530〜2775g/molがより好ましく、690〜1850g/molがさらに好ましい。
【0024】
・アミノ基を有する化合物(C)
本発明に用いるアミノ基を有する化合物(C)は、前記した親水性樹脂(A)とエポキシ基を有する化合物(B)との反応物にアミノ基を導入するために用いられる。このような化合物としては、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、3,3’−ジアミノジプロピルアミン、ジエチレントリアミン、フェニレンジアミン、ポリアリルアミン、又はポリエチレンイミン等が挙げられる。多価アミノ化合物は樹脂のゲル化を引き起こし易いため、この中で好ましいものとして、ゲル化を引き起こし難いアンモニア、メチルアミン、エチルアミン、2−アミノエタノール等が挙げられる。
【0025】
・親水性樹脂(A)とエポキシ基を有する化合物(B)との反応生成物と、アミノ基を有する化合物(C)との反応
本発明における親水性樹脂(A)と化合物(B)との反応生成物と、アミノ基を有する化合物(C)との反応は、公知各種の方法で行うことができる。その中でも好ましい条件としては、親水性樹脂(A)及び化合物(B)の反応生成物と、アミノ基を有する化合物(C)の両方を溶解する溶媒中で均一に反応させることが好ましい。そのような溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、といった非プロトン性極性溶媒や、エタノールと水、n−プロパノールと水、メタノールと水、イソプロピルアルコールと水、といったアルコールと水との混合溶媒、ピリジン、フェノール、クレゾールなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いることも可能である。この中でも、沸点が低く、塗工後の乾燥が容易である点から、アルコールと水との混合溶媒を用いることが好ましい。反応条件としては、40〜100℃で10分〜20時間反応させることで生成物を得ることができる。表面処理用樹脂に導入されるアミノ基の量としては、アミン価が15〜150mgKOH/gの範囲にあることが好ましく、30〜80mgKOH/gの範囲にあることがさらに好ましい。
【0026】
・糖類
本発明に用いられる糖類は、公知各種のものを用いることができるが、ウイルスを吸着等の作用によって効率的に捕捉し、ウイルスを含む液からウイルスを除去することのできるものが好ましい。例示するならば、ヘパリン、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体、ヘパリンのN−硫酸基の硫酸基脱離体をN−アセチル化したヘパリン誘導体、低分子量ヘパリン、デキストラン硫酸、フコイダン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、デルマタン硫酸、ヘパリン類似物質、ヘパラン硫酸、ラムナン硫酸、ケタラン硫酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、又はカルボキシメチルセルロースを挙げることができる。
【0027】
ヘパリンは、通常公知のものを制限なく使用することができる。ヘパリンは、小腸、筋肉、肺、脾や肥満細胞など体内で幅広く存在し、化学的にはグリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸の一種であり、β−D−グルクロン酸、或いはα−L−イズロン酸とD−グルコサミンが1,4−結合により重合した高分子であって、ヘパラン硫酸と比べて硫酸化の度合いが特に高いという特徴を有する。
また、ヘパリンの重量平均分子量についても特に制限はないが、重量平均分子量が大きい場合には化合物(C)との反応性が低くなる為、ヘパリンの固定化の効率が悪いと考えられる。従って、ヘパリンの重量平均分子量は、概ね、500から500,000ダルトン、より好ましくは1,200から50,000ダルトン、更に好ましくは5,000〜30,000ダルトンであることが好ましい。
【0028】
本発明で用いられるヘパリン誘導体としては、上記ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体、上記ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体、又はヘパリンのN−硫酸基の硫酸基脱離体をN−アセチル化したヘパリン誘導体を好ましく用いることができる。
【0029】
ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体を合成する場合には、例えば、上記ヘパリンのアルカリ塩類をイオン交換樹脂(H
+)等に通じ、アミン類と処理することによりヘパリンアミン塩を調製する。その後に、硫酸化剤で処理して目的とするヘパリン誘導体とすることができる。硫酸化剤としては、公知慣用のSO
3・ピリジン等が好ましい。
【0030】
ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体を合成する場合には、例えば、ヘパリンのN−アセチル基をヒドラジン等で脱アセチル化した後に、硫酸化剤で処理して目的とするヘパリン誘導体とすることができる。硫酸化剤としては、公知慣用のSO
3・NMe
3等が好ましい。
ヘパリンのN−硫酸基の硫酸基脱離体をN−アセチル化したヘパリン誘導体を合成する場合には、例えば、ヘパリンのピリジニウム塩を調製後、窒素原子上の硫酸基のみを脱硫酸化し、公知慣用の方法でN−アセチル化すればよい。
【0031】
また、低分子量ヘパリン、デキストラン硫酸(イオウ含量3〜6重量%)、デキストラン硫酸(イオウ含量15〜20重量%)、フコイダン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、デルマタン硫酸、ヘパリン類似物質、ヘパラン硫酸、ラムナン硫酸、ケタラン硫酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロースは公知慣用の化合物を用いることができる。
デキストラン硫酸の硫酸化度は、高硫酸化度(イオウ含量15〜20重量%)であっても、低硫酸化度(イオウ含量3〜6重量%)であっても良く、公知慣用の方法で得られるものであれば、特に硫酸化度に制限はない。
ヘパリン類似物質は、一般に日本薬局方外医薬品成分規格等に収載されている硫酸化多糖類を指すものである。しかし、公知慣用の抽出方法や調製方法で得られるものであれば、日本薬局方外医薬品成分規格に収載されているものに限定されるものではない。
【0032】
このような糖類の中で、ウイルスの吸着性が高いことから、ヘパリン及びヘパリン類似物質が好ましい。
【0033】
アミノ基を有する化合物(C)を介して糖類が固定化されるためには、化合物(C)と糖類が共有結合により結合されることが必要である。このような結合は公知慣用の反応を適宜行うことにより形成することができる。
糖類の固定化に好ましい反応として、アミド化反応もしくは還元アミノ化反応を挙げることができる。アミド化方法は、例えば、活性エステルによるアミド化、縮合剤によるアミド化、これらの併用、混合酸無水物法、アジド法、酸化還元法、DPPA法、ウッドワード法など、ペプチド合成などで用いられている公知慣用のアミド化反応を適宜行えばよい。還元アミノ化反応は、化合物(C)のアミノ基と糖類の還元末端を反応させる公知慣用の方法を用いればよい。
【0034】
活性エステルによるアミド化としては、例えば、NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)、ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノール、DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)、HOBT(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOAT(ヒドロキシアザベンゾトリアゾール)等を用いて、脱離能の高い基をカルボキシ基と一旦縮合させた活性エステルを形成させておき、これにアミノ基を反応させる方法が挙げられる。縮合剤によるアミド化は、それ単独で用いても良いが、上記活性エステルと併用することができる。縮合剤としては、EDC(1−(3−ジメチルアミノプロピル−3−エチル−カルボジイミドヒドロクロライド)、HONB(エンド−N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキサミド)、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、HBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、TBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOOBt(3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン)、ジ−p−トリオイルカルボジイミド、DIC(ジイソプロピルカルボジイミド)、BDP(1−ベンゾトリアゾールジエチルホスフェート−1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニルエチル)カルボジイミド)、フッ化シアヌル、塩化シアヌル、TFFH(テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスホスフェート)、DPPA(ジフェニルホスホラジデート)、TSTU(O−(N−スクシニミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HATU(N−[(ジメチルアミノ)−1−H−1,2,3−トリアゾロ[4,5,6]−ピリジン−1−イルメチレン]−N−メチルメタンアミニウム・ヘキサフルオロホスフェート・N−オキシド)、BOP−Cl(ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィンクロライド)、PyBOP((1−H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)−トリス(ピロリジノ)ホスホニウム・テトラフルオロホスフェート)、BrOP(ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、DEPBT(3−(ジエトキシホスホリルオキシ)−1,2,3−ベンゾトリアジン−4(3H)−オン)、PyBrOP(ブロモトリス(ピロリジノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)などが挙げられる。
【0035】
これらのアミド化方法において利用できる溶媒としては、水及びペプチド合成に用いられる有機溶媒を使用することができ、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、エタノールと水、n−プロパノールと水、メタノールと水、イソプロピルアルコールと水、といったアルコールと水との混合溶媒、ピリジン、フェノール、クレゾール等、更にはこれらの混合溶媒やこれらを含む水溶液が挙げられる。
還元アミノ化反応に用いられる還元剤の例としては、ソディウムボロシアノトリハイドライドや、ソディウムトリアセトキシボロハイドライド、ピリジンボラン、ピコリンボラン等の還元剤が挙げられる。
また、これらの反応の条件としては、20〜100℃で10分〜100時間程度行うことで目的の反応物を得ることができる。高い温度だと糖類の加水分解反応等が進行する恐れがあるため、20〜60℃程度で反応させることがより好ましい。
【0036】
・アミノ基のアミド化反応
本発明の糖鎖固定化樹脂化合物は、未反応のアミノ基が残留していると、未反応アミノ基と糖鎖中のカルボキシル基または硫酸基との相互作用によってイオンコンプレックスを形成し、その効果を最大限に発揮できないと推測される。そのため、残存した未反応のアミノ基をアミド化することが好ましい。
【0037】
このようなアミド化反応としては、公知各種の方法を用いることができるが、例示するならば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ブタン酸、無水ヘキサン酸、無水クエン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸といった無水酸を作用させてアミノ基をアミド化する方法や、酢酸クロリド、プロピオン酸クロリド、ブタン酸クロリド、ヘキサン酸クロリドといったハロゲン化カルボン酸化合物を用いる方法が挙げられる。また、カルボン酸を用いて、糖鎖固定化法で記述したような活性エステルを用いる方法や縮合剤を用いる方法でアミド化することも可能である。
【0038】
この中でも、ハロゲン化カルボン酸化合物を用いてアミド化を行うことが好ましく、生成するハロゲン化水素をトラップして反応を円滑に進めるために、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジンといった塩基化合物を加えることがより好ましい。
このような反応を例示するならば、糖鎖固定化樹脂化合物をDMSO中に溶解させ、0℃〜40℃で、酢酸クロリドと共に前記塩基化合物を添加して1〜3時間反応させることによりアミド化を行うことができる。
【0039】
本発明の糖鎖固定化樹脂化合物中に含まれる糖鎖(D)の含有量としては、糖鎖固定化樹脂化合物の全重量に対して、1〜40wt%の範囲が好ましく、1〜20wt%の範囲がさらに好ましい。1wt%以上であると、ウィルス除去効率が向上し、40wt%以下であると樹脂の耐水性が向上する。
【0040】
本発明のウィルス除去用高分子基材は、前記樹脂化合物用いて調製される。好ましくは、本発明のウィルス除去用高分子基材は、前記樹脂化合物を含む表面層を有する。前記表面層は、前記樹脂化合物を高分子支持材表面に塗工してなるものであることがより好ましい。
【0041】
本発明のウイルス除去用高分子基材の形態としては特に限定はなく、多孔性中空糸、ビーズ、不織布、又は透析膜など種々の形態であることができるが、多孔性中空糸、不織布、又は透析膜であることが好ましい。
【0042】
本発明に用いる高分子基材(高分子支持材)は公知種々のものを用いることができるが、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スルホン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、エーテル系樹脂又はセルロース混合エステル等が挙げられ、より具体的には、高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン、トリアセチルセルロース、又は再生セルロース等を例示できる。
【0043】
本発明のウイルス除去用高分子基材は、高分子基材(高分子支持材)表面に本発明の糖鎖固定化樹脂化合物を塗工して得ることができる。使用される高分子支持材には特に限定はなく、多孔性中空糸、ビーズ、不織布、又は透析膜など種々の形態のものを用いることができる。
塗工方法としては、公知各種の方法を用いることができる。例えば高分子支持材を本発明の糖鎖固定化樹脂化合物の溶液中に浸漬し、引き上げた後乾燥する等を好ましい方法として挙げることができる。ここで、高分子支持体上の糖鎖固定化樹脂化合物の樹脂固形分と、高分子支持材上に糖鎖固定化樹脂化合物を固定化する過程で必要となった溶液量の比率(樹脂固形分(重量部)/溶液量(体積部))は、大きければ大きいほど、同一容量の反応釜で多量の樹脂を処理できることになり、反応効率が高く、生産のコストを下げることが可能になる。
【0044】
もしくは、本発明のウイルス除去用高分子基材は、予め、ポリオレフィン等(高分子支持材)と本発明の糖鎖固定化樹脂化合物とを混合させたものを多孔化する手法を用いて得ることも可能である。
【0045】
もしくは、本発明のウイルス除去用高分子基材は、本発明の糖鎖固定化樹脂化合物を公知各種の方法で紡糸または成形して、多孔性中空糸、ビーズ、不織布などの形態として得ることも可能である。
【0046】
本発明のウイルス除去用高分子基材における糖類の固定化量は、ウイルスを効率的に除去出来れば特に制限はない。ただし、体外循環時は、生体適合性が重要になるため、血漿タンパクの吸着や補体の活性化などが起きないよう調整する必要がある。その際には、アミノ基を有する化合物(C)の導入量を調整する方法や糖類を固定化する反応条件を変える方法等で固定化量を調整することが可能である。検討した結果、糖類の固定化量は、1〜100μg/cm
2であることが好ましく、より好ましくは2〜80μg/cm
2、よりさらに好ましくは3〜70μg/cm
2である。
【0047】
本発明のウイルス除去用高分子基材が多孔性中空糸である場合は、使用目的に応じて、多孔性中空糸を公知慣用の方法で製造すれば良い。ポリオレフィン多孔性中空糸の場合は、紡出糸をアニール処理、冷延伸、熱延伸、熱固定を行うことでさまざまな細孔径、孔径分布を有したものが調製可能である。
【0048】
本発明のウイルス除去用高分子基材が多孔性中空糸である場合、ウイルスを含む液を多孔性中空糸の有する孔内に通すことにより、効率的にウイルスを除去することができる。体外循環時に血液を処理する場合、全血を孔内で処理出来ることが簡便で望ましいが、滞留や細孔内に直接血球が接するために要求される高い生体適合性に鑑みて、血球と血漿成分を分離し、血漿成分だけを孔内に通過させ、血漿からウイルスを除去する方法がより望ましい。その場合は多孔性中空糸の有する孔を通過した液と孔を通過しなかった液とが生成する。ウイルスを含む液中のウイルスの除去率の検討から、多孔性中空糸の孔を通過した液中のウイルスの除去率は好成績であり、また、血液中の有用な成分であるアルブミンは除去しないことが明らかとなっている。また、多孔性中空糸の孔を通過した液中のウイルス除去率は、多孔性中空糸の孔を通過しなかった液すなわち多孔性の表面や表面近傍の細孔のみに接触した液中のウイルス除去率よりも高く、ウイルス除去の多くは、多孔性中空糸の孔を通過する際に起こっていることが示唆されている。
ここで、孔を通過するとは、多孔性中空糸の内表面から外表面側に、もしくは外表面から内表面側に液が通り抜ける状態をさす。
【0049】
多孔性中空糸の細孔は必ずしも直状の管として膜を貫通している必要はなく、膜の内部で屈曲していても良い。また、幾つかの孔が膜内部で融合していたり、逆に一つの孔が枝分かれしていても良く、これらが混在していても良い。
【0050】
本発明のウイルス除去用高分子基材が多孔性中空糸である場合の多孔性中空糸の細孔径は、上記のウイルスを効率的に除去させうる孔径のものであれば、特に制限はない。例えば、体外循環で血漿中からウイルスを効率的に除去する場合は、以下のように設計することが好ましい。血球と血漿を分離し、血漿中からウイルスを除去する場合の血漿分離膜としての機能の観点から、血球成分や血小板が細孔内に入らないように平均流量孔径が500nm以下であることが望ましい。さらに、血漿中のタンパク成分の透過性が落ちないように、平均流量孔径が50nm以上であることが望ましい。血漿分離膜としての機能の観点から、平均流量孔径が50〜500nmであることがより好ましい。これらの中でも、除去対象となるウイルスの大きさによって多孔性中空糸の細孔径が適宜設定される。C型肝炎ウイルスの場合を例に挙げると、好ましい細孔径(平均流量孔径)は80〜250nm、さらに好ましくは100〜180nmとなる。また、比較的大きいヒト免疫不全ウイルスの場合などは、好ましい細孔径(平均流量孔径)が100〜250nm、さらに好ましくは120〜200nmとなる。
【0051】
本発明のウイルス除去用高分子基材が多孔性中空糸である場合の多孔性中空糸の内径は、上記のウイルスを効率的に除去させうる内径のものであれば、特に制限はない。例えば、体外循環で用いられる場合、当該多孔性中空糸の内径は以下のように設計されることが好ましい。
ヒトから取り出して循環させられる血液量は限られているため、循環モジュール等のサイズは過度に大きくすることはできない。内径が過度に大きい場合は、モジュールに入れられる糸の本数が少なくなるため接触面積が減少してしまうことや線速が劣って血液が滞留してしまう恐れがある。一方、内径が過度に小さい場合は、血球成分が詰まりやすくなることが考えられる。それらの点を考慮した場合、当該多孔性中空糸の内径は150〜500μmが好ましく、より好ましくは160〜400μm、さらに好ましくは170〜350μmとなる。ここで、前記内径とは、光学顕微鏡または電子顕微鏡による観察で測定される。
【0052】
本発明のウイルス除去用高分子基材が多孔性中空糸である場合の多孔性中空糸の膜厚は、上記のウイルスを効率的に除去させうる膜厚のものであれば、特に制限はない。例えば、体外循環で血漿中からウイルスを効率的に除去する場合などは血漿分離性能、接触面積、中空糸の機械強度等を考慮して、30〜100μmが好ましく、より好ましくは35〜80μm、さらに好ましくは40〜60μmとなる。ここで、前記膜厚とは、光学顕微鏡または電子顕微鏡による観察で測定される。
【0053】
本発明のウイルス除去用高分子基材は、更に、多孔性中空糸外部に、ウイルスを捕捉し除去させる機能を有する他の基材を組み合わせた構成とすることができる。このような構成とすることで、ウイルスの除去率の向上を図ることも可能である。このような他の基材としては、ウイルスを捕捉し除去させる機能を有するものであれば特に制限はないが、例えば、糖鎖固定化ゲルや糖鎖固定化不織布等を挙げることができる。
【0054】
また、高分子基材として透析膜を用いる場合にも、前記と同様にして本発明の樹脂化合物を透析膜表面に塗工して得ることができる。ここで、使用される透析膜は、公知慣用のものを挙げることができ、好ましい材質としては、ポリスルホン、トリアセチルセルロース、又は再生セルロース等を挙げることができる。
さらに、本発明で得られる樹脂化合物を塗工した透析膜は、透析を行うと同時に血液中のウイルスの除去を行うことができ、特に有用である。
【0055】
基材上の官能基に糖鎖を共有結合にて固定化する方法は、操作が煩雑であり、基材へのダメージが懸念されるとともに、反応試薬や副生成物の溶出を防ぐため、大掛かりな洗浄が必要という課題がある。本発明の糖鎖固定化樹脂化合物を基材上に塗工する方法又は、糖鎖固定化樹脂化合物を成形して用いる方法を用いれば、このような課題を解決することが可能であり、糖鎖を固定化した樹脂化合物による表面処理は医療用具の提供には有用と考えられる。
【0056】
・ウイルスを含む液
本発明で対象とするウイルスを含む液は、ウイルスを含む液であれば特に制限はない。より具体的には、例えば、ヒトの体内液体成分である体液、ウイルスを含んだ培養液等を挙げることができる。体液のより具体的な例としては、血液、唾液、汗、尿、鼻水、精液、血漿、リンパ液、組織液等を挙げることができる。
【0057】
本発明のウイルス除去用高分子基材を備えてなる医療器具(ウイルス除去装置)の形態としては、前記用途に適用可能な形状であれば特に限定されるものではないが、例えば中空糸モジュールや濾過カラム、フィルターなどが挙げられる。中空糸モジュールや濾過カラムにおいて、容器の形状及び材質は特に限定されないが、体液(血液)の体外循環に適用する場合、内部容量が10〜400mLで外径が2〜10cm程度の筒状容器とすることが好ましく、内部容量が20〜300mLで外径が2.5〜7cm程度の筒状容器とすることがより好ましい。
【0058】
図1にウイルス除去装置の一例を挙げる。
図1で示されるウイルス除去装置において、ウイルス除去用高分子基材(多孔性中空糸膜)3は容器5内に格納されている。隣り合う多孔性中空糸膜3、3は、並列されている。また、多孔性中空糸膜3と容器5の内壁との間、また、隣り合う多孔性中空糸膜3、3の間に、隔壁6を設けられている。前記容器5の長手方向の一端面の中央には、前記多孔性中空糸膜3の内部空間と通じるウイルス液流入口(第1の開口部)1が設けられている。一方、前記容器5の他端面の中央には、前記多孔性中空糸膜3の内部空間を介して、前記ウイルス液流入口1と通じる、孔を通過しなかった液の流出口(第2の開口部)2が、設けられている。更に、前記容器5の外周面には、多孔性中空糸膜3を介して前記ウイルス液流入口1と通じる、孔を通過した液の流出口(第3の開口部)4が設けられている。
【0059】
更に、図示されていないが、各開口部(流出口)からの流出液が混合されてなる混合液が、再度、ウイルス除去装置に投入され、多孔性中空糸膜3を介した濾過工程が繰り返されるように、ウイルス液流入口1、孔を通過しなかった液の流出口2、及び、孔を通過した液の流出口4が構成されていることが、ウイルス除去効率向上の観点から好ましい。
このような構成を有するウイルス除去装置において、ウイルスを含む液が前記ウイルス液流入口1から投入されて前記多孔性中空糸膜3の内部空間へと通される場合は、前記多孔性中空糸膜3の内表面から外表面側に通過後、前記多孔性中空糸膜3の外部空間から孔を通過した液の流出口4へ流出される液と、前記多孔性中空糸膜3の内表面や内表面近傍の細孔と接触後、前記多孔性中空糸膜3の内部空間から孔を通過しなかった液の流出口2へ流出される液とが混合され、得られた混合液が、再度、ウイルス液流入口1から孔をウイルス除去装置に投入される。
一方、ウイルスを含む液が前記第3の開口部4,4の一方から投入されて前記多孔性中空糸膜3の外部空間へと通される場合、前記多孔性中空糸膜3の外表面から内表面側に通過後、前記多孔性中空糸膜3の内部空間から前記第1の開口部1又は前記第2の開口部2へ流出する液と、前記多孔性中空糸膜3の外表面や外表面近傍の細孔と接触後、前記多孔性中空糸膜3の外部空間からもう一方の第3の開口部4へ流出する液とが、混合され、得られた混合液が、再度、ウイルス除去装置に投入される。
【0060】
本発明のウイルス除去装置(医療器具)の使用(作動)方法としては、上記ウイルスを含む液と接触させて該液中のウイルスを除去、分離することができればいずれの方法でもよいが、
図1に示されるウイルス除去装置の作動方法について以下に具体的に説明する。まず、ウイルスを含む液を前記ウイルス液流入口1から投入する。投入されたウイルスを含む液は、前記多孔性中空糸膜3に通じると、ウイルスを含む液が多孔性中空糸膜3の孔を通過する際に、当該孔にウイルスが捕獲除去される。多孔性中空糸膜3の孔を通過した液は、孔を通過した液の流出口4から排出され、多孔性中空糸膜3の孔を通過しなかった液は、孔を通過しなかった液の流出口2から排出される。
前記ウイルスを含む液として、例えば、血液が使用される場合には、前記孔を通過しなかった液の流出口2から排出された液と、前記孔を通過した液の流出口4から排出され液とを混合し、得られた混合液を、再度、ウイルス液流入口1から前記多孔性中空糸膜3に通し、前記多孔性中空糸膜3の孔にてウイルスを捕獲除去する工程を繰り返し実施することが好ましい。当該工程を反復して実施することにより、ウイルス除去効率をより向上させることができる。
また、例えば、前記ウイルスを含む液として血漿が使用される場合には、前記孔を通過しなかった液の流出口2を封鎖し、前記孔を通過した液の流出口4から装置外に排出される液のみを、再度、ウイルス液流入口1から前記多孔性中空糸膜3に通し、前記多孔性中空糸膜3の孔にてウイルスを捕獲除去する工程を繰り返し実施することも好ましい。
【0061】
あるいは、ウイルスを含む液を、第3の開口部4、4の一方から、多孔性中空糸膜3の外部空間へ通し、多孔性中空糸膜3の孔を通過する際に、当該孔にてウイルスを捕獲除去することもできる。この場合、多孔性中空糸膜3の外表面から内表面側に通過した液は、第1の開口部1又は第2の開口部2から流出され、多孔性中空糸膜3の外表面から内表面側に通過せず、多孔性中空糸膜3の外表面や外表面近傍の細孔のみに接触した液は、もう一方の第3の開口部4から流出される。
前記ウイルスを含む液として、例えば、血液が使用される場合には、前記第1の開口部1又は第2の開口部2から流出された液と、前記第3の開口部4から流出された液とを混合し、得られた混合液を、再度、前記第3の開口部4から前記多孔性中空糸膜3の外部空間に通し、前記多孔性中空糸膜3の孔にてウイルスを捕獲除去する工程を繰り返し実施することが好ましい。当該工程を反復して実施することにより、ウイルス除去効率をより向上させることができる。
また、例えば、前記ウイルスを含む液として血漿が使用される場合には、前記第1の開口部1と第2の開口部2から流出される液のみを回収し、再度、第3の開口部4から前記多孔性中空糸膜3の外部空間に通し、前記多孔性中空糸膜3の孔にてウイルスを捕獲除去する工程を繰り返し実施することも好ましい。
【0062】
また、本発明の糖鎖固定化樹脂化合物は、生体適合性材料としても好適に使用することができる。一般的に細胞の表面には糖鎖が存在する場合が多く、それを模倣した材料として、本発明の糖鎖含有樹脂化合物は高い生体適合性を発現する。本発明の生体適合性材料は、医療用として、例えばドラッグデリバリーシステム材、pH調整剤、成型補助材、包装材、人工血管、血液透析膜、カテーテル、コンタクトレンズ、血液フィルター、血液保存パック及び人工臓器等に用いることができる。
また、本発明の糖鎖含有樹脂化合物を生体適合性材料として用いる場合は、フィルムや成型体、コーティング材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0064】
<多孔性高分子基材の孔径の測定>
ASTM F316−86およびASTM E1294−89に準拠し、Porous Materials,Inc.社製「パームポロメータCFP−200AEX」を用いてハーフドライ法により平均流量孔径(膜の一方から他方に向けて貫通する孔の窄み部分の平均孔径)を測定した。試液はパーフルオロポリエステル(商品名「Galwick」)を用いた。
【0065】
<糖鎖固定化樹脂化合物中の糖鎖固定化量>
糖鎖固定化樹脂化合物に固定化された糖類の量は、1,9−ジメチルメチレンブルーの色素吸着量より算出した。
検量線の作成:色素水溶液を調製し、糖類を所定量添加し、糖類と色素の複合体を形成させた。そこへ、ヘキサンを加えて色素と糖類の複合体を水相から分離し、残った水溶液中の色素量を吸光度(650nm)で測定し、糖類の添加量と吸光度を用いて検量線を作成した。
サンプル測定:糖鎖固定化樹脂サンプル所定量をエタノール/水中に溶解させた後、蒸留でエタノール分を留去し、糖鎖固定化樹脂化合物の水分散液を得た。この水分散液中に1,9−ジメチルメチレンブルーを加えて、色素吸着量より糖類固定化量を算出した。
【0066】
<糖類の固定化量の算出>
中空糸に固定化された糖類の量は、1,9−ジメチルメチレンブルーの色素吸着量より算出した。
検量線の作成:色素水溶液を調製し、糖類を所定量添加し、糖類と色素の複合体を形成させた。そこへ、ヘキサンを加えて色素と糖類の複合体を水相から分離し、残った水溶液中の色素量を吸光度(650nm)で測定し、糖類の添加量と吸光度を用いて検量線を作成した。
サンプル測定:色素溶液に、中空糸を所定の長さ入れ、色素の吸着量から換算して糖類の固定化量を算出した。
【0067】
<HCV除去試験>
膜面積1.8cm
2の中空糸モジュールを作製し、HCV患者血漿(原液)0.6mLを通液して、孔を通過した液(ろ液)0.3mL、孔を通過しなかった液(内液)0.3mLを得た。検体をオーソ製HCV抗原ELISAテストで測定し、
HCV除去率(%)=(1−ろ液中のHCV量/原液中のHCV量)×100
を求めた。
【0068】
<ELISA法>
検体を前処理液(SDS)で前処理し、HCVコア抗原を遊離させると同時に共存するHCV抗体を失活させ測定試料とした。測定試料をHCVコア抗原抗体固定化プレートに添加し、インキュベーションした。所定時間反応後、洗浄し、ホールラディッシュ由来ペルオキシダーゼ標識化HCVコア抗原抗体を添加し、インキュベーションした。所定時間反応後、洗浄し、o−フェニレンジアミン試薬を添加し、インキュベーションした。所定時間反応後、反応停止液を添加した。492nmの波長で発色を測光した。標品の吸光度より、濃度を算出した。
【0069】
<血漿中アルブミン透過量の算出>
検体にブロムクレゾールグリーン試薬を添加し、630nmの波長で発色を測光した。標品の吸光度より、濃度を算出した。
アルブミン透過率(%)=(ろ液中のアルブミン量/原液中のアルブミン量)×100
【0070】
<糖鎖固定化中空糸を得る過程での樹脂固形分(mg)/溶媒量(ml)>
樹脂固定化中空糸を得る過程での樹脂固形分(mg)は固定化前後の中空糸の重量変化により測定されたにより測定された。一方、樹脂固定化中空糸を得る過程での溶媒量(ml)は仕込み溶媒の容量により測定された。
【0071】
(参考例1)高分子基材の調製
密度0.968g/cm
3、メルトインデックス5.5の高密度ポリエチレン(三井石油化学工業株式会社製HIZEX 2200J)を吐出口径16mm、円環スリット幅が2.5mm、吐出断面積が1.06cm
2の中空糸賦型用紡糸口金を用い、紡糸温度160℃で紡糸し、紡糸ドラフト1890でボビンに巻き取った。得られた未延伸中空糸の寸法は内径が324μm、膜厚が48μmであった。
この未延伸中空糸を115℃で24時間、定長で熱処理した。つづいて室温で7500%/minの変形速度で1.8倍延伸した後、100℃の加熱炉中で変形速度が220%/minとなるように総延伸倍率が3.8倍になるまで熱延伸を行った、さらに125℃の加熱炉で総延伸倍率が2.3倍になるまで連続的に熱収縮を行い、延伸糸を得た。得られた多孔性中空糸膜の内径は294μm、膜厚は40μmであった。
【0072】
(実施例1)
エポキシ基導入エチレン−ビニルアルコール共重合体(1)の調製
温度計、攪拌機、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学製品、エチレン含量44モル%、重量平均分子量90000)の170重量部、及びジメチルスルホキシド(和光純薬製品)の2380重量部を仕込んで90℃に昇温し、エチレン−ビニルアルコール共重合体を溶解させた。その後50℃まで温度を下げて、攪拌しながらエピクロロヒドリンの2550重量部を加えて溶解させた。そこに、5重量%水酸化ナトリウム水溶液を85重量部加えて、50℃にて1時間加熱攪拌した。その後、再沈殿法にて樹脂分を析出させ、濾過、洗浄、乾燥を行い、エポキシ基導入エチレン−ビニルアルコール共重合体(1)を得た。エポキシ当量は2146g/mol、重量平均分子量は126000であった。
アミノ基導入エチレン・ビニルアルコール共重合体(1)の調製
温度計、攪拌機、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、前記エポキシ基導入エチレン−ビニルアルコール共重合体(1)の120重量部、及びエタノールの1602重量部、イオン交換水の678重量部を仕込んで90℃に昇温し、エポキシ基導入エチレン−ビニルアルコール共重合体(1)を溶解させた後、40℃まで温度を下げた。上述のエポキシ基導入エチレン−ビニルアルコール共重合体(1)の溶液を、28重量%アンモニア水の675重量部及びエタノールの830重量部の混合溶媒物中に滴下後、40℃にて4時間加熱攪拌した。その後、ジメチルスルホキシドを376重量部加え、蒸留によって余剰のアンモニア分及びエタノール、水を留去し、アミノ基導入エチレン・ビニルアルコール共重合体(1)のジメチルスルホキシド溶液(固形分アミン価25mgKOH/g、不揮発分5.9重量%)を得た。
【0073】
糖鎖含有エチレン−ビニルアルコール共重合体(1)の調製
温度計、攪拌機、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、前記アミノ基導入エチレン−ビニルアルコール共重合体(1)のジメチルスルホキシド溶液(不揮発分5.9重量%)の370重量部に、ヘパリン(LDO社製品)の8.7重量部及びシアノ水素化ホウ素ナトリウムの0.87重量部、イオン交換水の44.6重量部、ジメチルスルホキシドの103重量部の混合物を加え、40℃にて70時間加熱攪拌した。その後、酢酸クロリドの32.8重量部とトリエチルアミンの48.2重量部を加えて20℃にて3時間反応させた。その後、再沈殿法にて樹脂分を析出させ、濾過、洗浄、乾燥を行い、糖鎖含有エチレン−ビニルアルコール共重合体(1)を得た。糖鎖固定化樹脂化合物中に含まれる糖類の量を色素吸着法により測定したところ、6.3wt%であった。
【0074】
(実施例2)
実施例1で調製された糖鎖含有エチレン−ビニルアルコール共重合体(1)溶液を50℃に保温した浸漬槽中に、参考例1で得られた延伸糸を100秒間浸漬し、50℃のエタノール飽和蒸気下で80秒保温した後、さらに80秒かけて溶剤を乾燥させて親水化処理を行い、ヘパリン固定化中空糸を得た。ヘパリンの固定化量をメチレンブルーの吸着量で測定したところ、11μg/cm
2(内表面積換算)固定化されていた。中空糸の平均流量孔径は137nmであった。糖鎖含有エチレン−ビニルアルコール共重合体(1)を固定化した中空糸を得る過程における樹脂固形分(mg)/溶媒量(ml)の比は、最小で40mg/mlであった。
【0075】
(実施例3)
実施例2で得られた中空糸を用いてモジュールを作製し、HCV患者血清を濾過し、ろ液中のHCVをELISA法で測定してHCVの吸着除去率(%)を算出した。その結果、HCV吸着率は52%であった。このとき、アルブミンの透過率は99%以上だった。
【0076】
(実施例4)生体適合性評価
実施例1で得られた糖鎖含有エチレン−ビニルアルコール共重合体(1)をエタノール/水の混合溶媒中に濃度1wt%となるように溶解させた溶液に、スライドガラスを10分間浸漬させた。その後、50℃のエタノール飽和蒸気中で80秒間保持した後、空気雰囲気下でさらに80秒間乾燥して、生体適合性材料(1)を得た。
また、タンパク質としてBSA(牛血清アルブミン)をpHが7である10mMリン酸緩衝液に溶かし、タンパク質濃度が4mg/mLであるタンパク質溶液を調製した。前記生体適合性材料(1)を前記タンパク質溶液中に室温で1.5時間浸漬することにより、試験片にタンパク質を付着させた。その後、精製水で数回すすぎ、乾燥させた後、島津製作所製品「UV−1650」で波長560nmにおける生体適合性材料(1)の吸光度を測定した。タンパク質で処理していない基材の吸光度を100としたときの相対的な吸光度を求めたところ、その値は30であった。なお、前記吸光度の値が小さいほど、タンパク質の吸着量が少ないことから、生体適合性がより優れている。
【0077】
(比較例1)
参考例1で得られた中空糸を、実施例2と同様にエチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学製品、エチレン含量44モル%、重量平均分子量90000)2.5wt%エタノール/水混合溶液によって親水化処理を行った。このようにして得られた中空糸(約13cm、約150本:樹脂固定化量19.5mg)を、アセトン20mL、エピクロロヒドリン16mL、40wt%NaOH水溶液4mLを入れた試験管中に浸漬した。超音波をかけながら、30〜40℃で5時間反応させ、反応終了後、アセトンと水で洗浄し、真空乾燥し、エポキシ基が導入された中空糸を得た。
【0078】
28wt%アンモニア水にエポキシ基を導入した中空糸を浸漬し、40℃で2時間反応させた。反応終了後は水で洗浄し、1級アミノ基が導入された中空糸を得た。試験管にヘパリン40mgとシアノ水素化ホウ素ナトリウム4mgを入れ、PBS40mLに溶解し、中空糸を浸漬して、40℃で1日間反応させた。反応終了後、水で洗浄した。0.2M AcONa水溶液26mLを入れ、氷冷する。氷冷しながら、無水酢酸13mLをゆっくり滴下した。氷冷しながら、超音波で30分反応させた。さらに、室温に戻しながら30分反応させた。反応終了後、20wt%NaCl、0.1M NaHCO
3水溶液、水、PBSで洗浄し、ヘパリン固定化中空糸を得た。ヘパリンの固定化量をメチレンブルーの吸着量で測定したところ、10μg/cm
2(内表面積換算)固定化されていた。中空糸の平均流量孔径は150nmであった。ヘパリン固定化中空糸を得る過程で、糖鎖含有エチレン−ビニルアルコール樹脂固形分(mg)/溶媒量(ml)の比は最小で0.5mg/mlであった。
【0079】
(比較例2)
比較例1で得られた中空糸を用いてモジュールを作製し、HCV患者血清を濾過し、ろ液中のHCVをELISA法で測定してHCVの吸着除去率(%)を算出した。その結果、HCV吸着率は49%であった。このとき、アルブミンの透過率は99%以上だった。
【0080】
(比較例3)
参考例1で得られた中空糸を、実施例2と同様にエチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学製品、エチレン含量44モル%、重量平均分子量90000)2.5wt%エタノール/水混合溶液によって親水化処理を行った。この中空糸膜の平均流量孔径は139nmであった。この中空糸を用いてモジュールを作製し、HCV患者血清を濾過し、ろ液中のHCVをELISA法で測定してHCVの吸着除去率(%)を算出した。その結果、HCV吸着率は29%であった。このとき、アルブミンの透過率は99%以上だった。
【0081】
(比較例4)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学製品、エチレン含量44モル%、重量平均分子量90000)を実施例4と同様にスライドガラス表面にコーティングして、比較用生体適合性材料(1)を得た。そして、実施例4と同様にタンパク吸着後の試験片の吸光度を測定したところ、その値は105であった。