特許第5673895号(P5673895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5673895コア−シェル型ナノ粒子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5673895
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】コア−シェル型ナノ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20150129BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20150129BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20150129BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20150129BHJP
【FI】
   B22F1/02 D
   B22F1/02 B
   B22F1/00 K
   B82Y30/00
   B82Y40/00
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-527995(P2014-527995)
(86)(22)【出願日】2014年1月21日
(86)【国際出願番号】JP2014051076
【審査請求日】2014年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-50421(P2013-50421)
(32)【優先日】2013年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】木下 宏司
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−072312(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136452(WO,A1)
【文献】 特開2013−048040(JP,A)
【文献】 特開2006−001232(JP,A)
【文献】 特開2003−342496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 1/02
B22F 9/00− 9/30
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子(A)からなるコア層と、
一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)と酸化物(C)とを主成分とする複合体からなるシェル層と、
を有し、
前記シェル層が、前記化合物(B)および前記酸化物(C)の分子レベルなハイブリッド構造を有することを特徴とするコア−シェル型ナノ粒子。
【請求項2】
前記化合物(B)中に、更にノニオン性有機セグメント(b2)を含有する請求項1記載のコア−シェル型ナノ粒子。
【請求項3】
前記ノニオン性有機セグメント(b2)がポリエチレングリコールからなるセグメントである請求項2記載のコア−シェル型ナノ粒子。
【請求項4】
前記シェル層上にポリシルセスキオキサン(D)を含有する層を有する、請求項1〜3の何れか1項記載のコア−シェル型ナノ粒子。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子(A)が金又は銀のナノ粒子である請求項1〜4の何れか1項記載のコア−シェル型ナノ粒子。
【請求項6】
前記ポリアミンセグメント(b1)がポリエチレンイミンからなるセグメントである請求項1〜5の何れか1項記載のコア−シェル型ナノ粒子。
【請求項7】
前記酸化物(C)がシリカ又は酸化チタンである請求項1〜6の何れか1項記載のコア−シェル型ナノ粒子。
【請求項8】
前記シェル層の厚みが1〜10nmである、請求項1〜7のいずれか1項記載のコア−シェル型ナノ粒子。
【請求項9】
表面に一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)層を有する金属ナノ粒子(A)の存在下で、前記一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)を触媒として酸化物ソース(C’)の水存在下でのゾルゲル反応を行うことを特徴とする、金属ナノ粒子(A)からなるコア層と、一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)と酸化物(C)とを主成分とする複合体からなるシェル層と、を有し、前記シェル層が、前記化合物(B)および前記酸化物(C)の分子レベルなハイブリッド構造を有するコア−シェル型ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
更に有機シランのゾルゲル反応を行い、ポリシルセスキオキサン(D)を含有する層を形成する、請求項記載のコア−シェル型粒子の製造方法。
【請求項11】
表面に一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)層を有する金属ナノ粒子(A)の存在下で酸化物ソース(C’)のゾルゲル反応を行ってから有機成分を除去することを特徴とするコア−シェル型ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属をコア部として有し、シェル層に酸化物と有機成分とを含むコア−シェル型ナノ粒子、及びこれから有機成分を除去してなるコア−シェル型ナノ粒子と、それらの簡便な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は通常のバルク金属とは異なり、特異な光学的、電気的、熱的、磁気的性質を示すことから、近年、多分野から着目され、触媒、電子材料、磁気材料、光学材料、各種センサー、色材、医療検査用途等への応用が期待されている。たとえば、金および銀のナノ構造体は、サイズおよび形状に依存する特異な光学/触媒機能を有するために特に興味深い。しかしながら、金属ナノ粒子は極めて高い表面エネルギーを有するため、表面原子が酸化されやすくなったり、融点低下により金属ナノ粒子同士の融着が起こりやすくなったりをすることがある。
【0003】
金属ナノ粒子の酸化または融着を防ぐために、ナノ粒子をシリカのシェルに包み込むことが一つの有効な方法である。シリカは、1)様々な溶液中で化学的に不活性であり、熱的にも安定である、2)多様なシラン化学を用いることで様々な官能基化が可能であるために有用である。金属ナノ粒子にシリカのシェルを形成するには、Stober法が一般的である。たとえば、Ungらよって開発された手法は、シランカップリング剤で金属ナノ粒子の表面を修飾した後にアンモニア触媒でゾルゲル反応によりシリカシェルを形成する方法が提供されている(非特許文献1参照。)。しかしながら、この方法はゾルゲル反応を行う際に高アンモニア濃度が要求されるなど、環境負荷が大きく、且つ生産性も低いものであった。また、前記非特許文献1で得られるコア−シェル型ナノ粒子は、シリカがシェルとして金属ナノ粒子の表面に形成されるものであって、シリカのマトリックスに有機成分が導入されたものではない。さらに、Stober法は金属ナノ粒子表面だけでのゾルゲル反応が制御しにくいため、厚みが10nm以下のシリカシェルの効率的な合成は困難であった。
【0004】
近年、自然界のバイオシリカの形成を模倣したナノシリカの合成が盛んでなされており、ポリアミン類をテンプレートとして用いる事で、水性媒体中、温和条件下でのシリカナノ粒子合成が検討されている。温和条件下でシリカ形成に触媒機能するアミン類化合物で修飾した金属ナノ粒子を設計し、その金属ナノ粒子表面で、biomimeticなゾルゲル反応を選択的に行うことで、組成とナノ構造が制御されたシリカシェルが形成できることが知られている(例えば、非特許文献2、3参照)。前記非特許文献3では、金ナノ粒子表面をアミノ系アクリレートで修飾し、金ナノ粒子表面だけでのゾルゲル反応により、有機/無機複合シリカシェル形成が開示されている。Stober法に基づいたシリカ析出とは異なって、金ナノ粒子表面に存在するポリアミンを反応場かつ触媒として形成したシリカ層は、シリカのマトリックスにアクリレート系の三級ポリアミンが導入された有機/無機複合体である。
【0005】
しかしながら、これらの方法では、リビング重合など特殊の重合方法を用いて、アミノ系アクリレートポリマー鎖を金属ナノ粒子表面にグラフト化させる工程が必要である点において、生産性が非常に低く、コストも高い。前記特許文献3のシェル層のシリカのマトリックスに導入されたポリアミンはアクリレート系三級ポリアミンである。このアクリレート系三級ポリアミンは、一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミン、たとえばポリエチレンイミンと比べて、比較的に高い疎水性を持っており、水中でのゾルゲル反応場としての触媒能力は低く、シリカシェルの効率的な形成は容易ではない。さらに、金属ナノ粒子の表面に物理吸着でポリアミン層を形成する場合には、アクリレート系三級ポリアミンは、ポリエチレンイミンなど一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンと比べて立体障害が大きいため、安定なポリアミン層形成は困難であり、金属ナノ粒子表面での選択的なシリカシェルの形成には適していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T.Ung,et al.,Langmuir,1998,14,3740.
【非特許文献2】P.Graf,ACS Nano,2011,5,820.
【非特許文献3】S.M.Kang,et al.,Nanotechnology,2006,17,4719.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、金属ナノ粒子をコア部とし、一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンと酸化物とが複合化されてなるシェル層とを有するコア−シェル型ナノ粒子、当該シェル層から有機成分を除去することで得られる、金属ナノ粒子をコア部とし、シリカを主成分とするシェル層とするコア−シェル型金属ナノ粒子、及びこれらの簡便且つ効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、表面に一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメントを有する化合物層を有する金属ナノ粒子の存在下で酸化物ソースのゾルゲル反応を行うことにより、簡便且つ高効率でコア−シェル型ナノ粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、金属ナノ粒子(A)からなるコア層と、一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)と酸化物(C)とを主成分とする複合体からなるシェル層と、を有し、前記シェル層が、前記化合物(B)および前記酸化物(C)の分子レベルなハイブリッド構造を有することを特徴とするコア−シェル型ナノ粒子およびそれの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明で得られるコア−シェル型金属ナノ粒子は、コアである金属ナノ粒子表面にあるポリアミンを設計することで、シェル層の厚みが20nm以下、特に1−10nmの範囲内であるコア−シェル型の金属ナノ粒子である。従来のコア−シェル型金属微粒子とは異なり、本発明のコア−シェル型ナノ粒子のシェル層は酸化物が形成するマトリックスに均質的にポリアミンが複合化された、分子レベルなハイブリッド構造を有する。また、該コア−シェル型金属ナノ粒子は、ポリアミン由来の化学的、または物理的な機能を備える。例えば、ポリアミンは強い配位子であるので、金属イオンを酸化物中に濃縮することが出来る。また、ポリアミンは還元剤であるので、濃縮された貴金属イオンを金属原子に還元して、酸化物/貴金属複合ナノ粒子を合成することもできる。また、ポリアミンはカチオン性ポリマーであることから、滅菌、耐ウイルスなどの機能を有するため、該ナノ粒子にそれらの機能を発現させることも出来る。さらに、シェル層に存在しているポリアミンの化学反応性を利用して、機能性有機分子または生体分子などを導入することもできる。従って、本発明のコア−シェル型ナノ粒子は先進医療診断材料、光学材料、機能性フィラー、触媒、防菌剤など多くの領域での応用展開が可能である。
【0011】
また、本発明の製造方法では、生体系でのシリカ形成を模倣した反応法を用いることで、低温、中性などの温和な反応条件下で、シェル層組成と厚みの制御に優れ、且つポリアミン機能を備えたコア−シェル型ナノ粒子を短時間で製造することが出来る。該製造方法は環境負荷が少なく、生産プロセスも簡便であり、且つ、各種用途に応じた構造設計が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得たコア−シェル型金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
図2】実施例2で得たコア−シェル型銀ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例3で得たコア−シェル型銀ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
図4】実施例4で得たコア−シェル型銀ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
図5】実施例5で得たコア−シェル型銀ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
水存在下でのゾルゲル反応から、金属ナノ粒子の表面に酸化物とポリマーとが複合してなるシェル層を構築するためには、二つの重要な条件が不可欠であると考えられる。それは、(1)ゾルゲル反応を行う反応場、(2)酸化物ソースを加水分解、重合させる触媒である。
【0014】
本発明においては、上記二つの要素を満たすために、金属ナノ粒子の表面に一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)を使用することを特徴とする。この化合物(B)の存在下で金属ナノ粒子を形成させる、あるいは形成した金属ナノ粒子の表面に当該化合物(B)を吸着させることによって、表面に一級アミノ基および/または二級アミノ基構造を有する金属ナノ粒子を容易に形成することができる。
【0015】
本発明は、上記によって得られる表面に一級アミノ基および/または二級アミノ基構造を有する金属ナノ粒子を用い、溶媒中で、ポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)のポリアミンセグメントを反応場かつ触媒として用いることで、酸化物ソースのゾルゲル反応を、金属ナノ粒子(A)の表面のポリアミンセグメント(b1)を有する化合物からなる層で選択的に行うことで、酸化物(C)が形成するマトリックス中に化合物(B)が複合化されてなるシェル層を形成し、従って、金属ナノ粒子をコア層とする、コア−シェル型ナノ粒子を得ることができることを見出したものである。以下、詳細に述べる。
【0016】
[金属ナノ粒子(A)]
本発明のコア−シェル型ナノ粒子におけるコア部は、金属のナノ粒子である。金属種としては、一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)がその表面にポリマー層として固定化できれば、特に限定されず、たとえば、貴金属、遷移金属、希土類金属、およびこれらの合金や混合物などが使用できる。好ましくは、Au、Ag、Pt、Pd、Cu、Al、Ni、Co、Si、Snおよびこれらの合金や混合物からなるナノ粒子であり、さらに好ましくは、Au、Ag、Pt、Pd、Cu、Siおよびこれらの合金や混合物からなるナノ粒子である。最も好ましいのは、金又は銀のナノ粒子である。
【0017】
金属ナノ粒子(A)の形状は特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。たとえば、球状、多面体状、ワイヤ状、ファイバー状、チューブ状またランダム状のいずれであってもよく、またこれらの混合物やこれらの形状が組み合わせてなる形状であってもよい。これらの中でも、容易に合成または入手できる観点より、球状であることが好ましい。また、その形状としては、得られるコア−シェル型ナノ粒子を用いて各種用途への展開を図る際に、取り扱いやすさの観点より、単一形状あるいは単分散性であることが好ましい。
【0018】
金属ナノ粒子(A)のサイズとしては、数ナノメートルから数百ナノメートルのいわゆるナノサイズである限り、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができるが、2nm−1000nmの範囲であることが好ましく、2nm−100nmの範囲であることがより好ましい。なお、球状以外の形状を有する金属ナノ粒子(A)の場合には、その形状を構成する部分の中で、最も短い部分がこの範囲であることが好ましいことをいうものであり、例えば、ワイヤ状の金属ナノ粒子(A)を用いる場合には、その直径がこの範囲であることをいうものである。
【0019】
[一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)]
本発明において、化合物(B)中のポリアミンセグメント(b1)としては、一級アミノ基及び/又は二級アミノ基を有し、前記金属ナノ粒子(A)の表面に安定なポリマー層を形成できれば特に限定されず、例えば、分岐状ポリエチレンイミン、直鎖状ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルピリジンなどからなるセグメントが挙げられる。目的とする酸化物(C)をマトリックスとするシェル層を効率的に製造できる観点により、分岐状ポリエチレンイミンセグメントであることが望ましい。また、ポリアミンセグメント(b1)の分子量としては、酸化物ソース(C’)のゾルゲル反応を行う際の溶液における溶解度と、金属ナノ粒子(A)表面への固定化とのバランスを取って、安定なポリマー層を形成できる範囲であれば特に制限されないが、好適に安定な層を形成できる観点から、ポリアミンセグメントの重合単位の繰り返し単位数が5−10,000の範囲であることが好ましく、特に10−8,000の範囲であることが好ましい。
【0020】
ポリアミンセグメント(b1)の分子構造も特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐状、デンドリマー状、星状、又は櫛状などが好適に使用できる。酸化物の析出の際(ゾルゲル反応の際)におけるテンプレート機能と、触媒機能とを容易に発現できると共に、工業的な原料の入手容易性などの観点から、分岐状ポリエチレンイミンからなるセグメントであることが好ましい。
【0021】
一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)は、一種アミンを有するモノマー単位の単独重合体であっても、二種類以上のアミン単位を有する共重合からなるものであってもよい。また、化合物(B)は、金属ナノ粒子の表面に安定なポリマー層を形成できる範囲であれば、ポリアミンセグメント(b1)のみからなるものであっても、これ以外の重合単位(セグメント)が存在していてもよい。安定なポリマー層を金属ナノ粒子(A)の表面に形成できる点からは、化合物(B)中にポリアミンセグメント以外の重合単位の割合が50モル%以下で含まれていることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、15モル%以下であることが最も好ましい。
【0022】
前記ポリアミンセグメント(b1)以外の重合単位としては、ノオン性有機セグメント(b2)であることが好ましく、ポリアミンセグメント(b1)とグラフト重合またはブロック重合させ、ポリアミンセグメント(b1)とノオン性有機セグメント(b2)とを有する共重合体であると、ゾルゲル反応時の媒体中での分散安定性の観点から好ましい。ノオン性有機セグメント(b2)としては、共重合体が金属ナノ粒子(A)表面に安定なポリマー層を形成できれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどの水溶性ポリマーからなるセグメントや、ポリアクリレート、ポリスチレンなどの疎水性ポリマー鎖からなるものであってもよい。特に、酸化物ソース(C’)のゾルゲル反応を水性媒体中で効率的に行う場合には、ノニオン性有機セグメント(b2)として、水溶性ポリマーからなるものを用いることが好ましい。さらに、得られるコア−シェル型ナノ粒子表面の生体適合性機能を備える観点から、ポリアルキレングルコール鎖を用いることがより好ましく、ポリエチレングリコールからなるものであることが最も好ましい。
【0023】
ノニオン性有機セグメント(b2)の長さとしては、金属ナノ粒子(A)表面にゾルゲル反応に有効なポリアミンセグメントからなる層を形成できる範囲であれば特に制限されないが、好適にポリアミンセグメントからなる層を形成するためには、ノオン性有機セグメント(b2)の重合単位の繰り返し単位数が5〜100,000の範囲であることが好ましく、特に10〜10,000の範囲であることが好ましい。
【0024】
化合物(B)中にポリアミンセグメント(b1)とノオン性有機セグメント(b2)とを有する場合の共重合形式は、安定な化学結合であれば特に制限されず、例えば、ポリアミンセグメントの末端にカップリングすることによって結合したもの、またはポリアミンセグメントの骨格の上にグラフト化によって結合しても良い。
【0025】
共重合体である化合物(B)中のポリアミンセグメント(b1)とノオン性有機セグメント(b2)との割合は、金属ナノ粒子(A)の表面に安定なポリマー層が形成でき、且つ酸化物ソース(C’)のゾルゲル反応が当該表面でのみ進行する範囲であれば特に制限されない。好適にこれらの条件を満たす観点から、ポリアミンセグメント(b1)の割合が共重合体である化合物(B)中、5〜90質量%の範囲であることが好ましく、10〜80質量%の範囲であることがより好ましく、30〜70質量%の範囲であることが最も好ましい。
【0026】
本発明において使用する化合物(B)としては、様々な機能性を有する分子を適宜選択して、ポリアミンセグメント(b1)、ノニオン性有機セグメント(b2)を修飾することが可能である。ポリアミンセグメント(b1)への修飾は、金属ナノ粒子(A)表面に安定なポリマー層を形成できれば、どのような機能性分子を導入してもよく、修飾されたポリアミンセグメント部分が金属ナノ粒子(A)の表面に反応場かつ触媒として機能し、酸化物(C)を析出することによって、任意の機能性分子が導入されたコア−シェル型ナノ粒子を得ることができる。このような観点から、特に蛍光性化合物で修飾することが好ましく、該蛍光性化合物を用いた場合には、得られるコア−シェル型ナノ粒子も蛍光性を発現し、種々の応用分野で好適に用いることが可能となる。
【0027】
[酸化物(C)]
シェル層にある酸化物(C)は、金属ナノ粒子(A)表面に存在しているポリアミンセグメント(b1)層を反応場かつ触媒として、酸化物ソース(C’)のゾルゲル反応により析出し、安定な酸化物シェル層を形成できれば、特に限定されず、たとえば、シリコン、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、イットリウム、亜鉛、錫の酸化物、およびこれらの複合/混合酸化物であってもよい。金属ナノ粒子(A)表面に容易かつ選択的なゾルゲル反応によって、制御された酸化物(C)を効率的に形成できる観点から、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウムが好ましく、シリカと酸化チタンが最も好ましい。
【0028】
[コア−シェル型ナノ粒子]
本発明のコア−シェル型ナノ粒子は、金属ナノ粒子からなるコア層(A)と、ポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)と酸化物(C)とを主成分とする複合体からなるシェル層とを有するコア−シェル型ナノ粒子である。ここで、主成分とするとは、意図的に第三成分を導入しない限りにおいて、化合物(B)と酸化物(C)以外の成分が入らないことをいうものである。このシェル層は、酸化物(C)が形成するマトリックスに化合物(B)が複合化されてなる有機無機複合体である。
【0029】
本発明のコア−シェル型ナノ粒子は、シェル層の厚みは1〜100nmの範囲のものが得られ、特に1−20nmの範囲のコア−シェル型シリカナノ粒子を好適に得ることができる。該コア−シェル型ナノ粒子のシェル層の厚みは金属ナノ粒子(A)表面に存在している化合物(B)層の調節〔例えば、用いるポリアミンセグメント(b1)の種類、組成、分子量、層を形成するポリアミン鎖の密度など〕や、酸化物ソース(C’)の種類及びゾルゲル反応条件等により調整できる。また、コア−シェル型ナノ粒子のシェル層は、金属ナノ粒子(A)表面に形成された化合物(B)中のポリアミンセグメント(b1)からなる層を反応場かつ触媒として形成されるものであることから、極めて優れた均一性を有する事が可能である。
【0030】
本発明のコア−シェル型ナノ粒子の形状は、基本的にコアである金属ナノ粒子(A)の形状を維持する。
【0031】
本発明のコア−シェル型ナノ粒子のシェル層中の酸化物(C)の含有量は、ゾルゲル反応の条件などにより一定の幅で変化させることが可能であり、一般的にはシェル層全体の30〜95質量%、好ましくは60〜90質量%の範囲とすることができる。酸化物(C)の含有量はゾルゲル反応の際に用いた金属ナノ粒子(A)表面の化合物(B)の分子パラメーター、酸化物ソース(C’)の種類及び量、ゾルゲル反応時間や温度などを変えることで変化させることができる。
【0032】
本発明のコア−シェル型ナノ粒子は、酸化物(C)を析出させた後に、更に有機シランを用いてゾルゲル反応を行う事で、コア−シェル型ナノ粒子にポリシルセスキオキサンを含有させることができる。このような、ポリシルセスキオキサンを含有するコア−シェル型ナノ粒子は、溶媒中高いゾル安定性を持つことが出来る。また、乾燥しても、再び媒体中に再分散することができる。これは、従来、酸化物(C)で被覆されてなる微細構造物を一旦乾燥したら、媒体への再分散が困難であることと大きく異なる特性である。従来のゾルゲル反応法などで得られる酸化物(C)で被覆された粒子の場合、粒子の表面を界面活性剤のような物質で化学修飾しない限り、媒体中への再分散性は困難であり、又、乾燥によって、二次凝集などが生じるため、ナノレベルの超微小粒子を得るための粉砕処理等が必要である場合が多い。
【0033】
本発明のコア−シェル型ナノ粒子の製造に際し、ポリアミンセグメント(b1)とノオン性有機セグメント(b2)としてポリエチレングリコールを用いた、共重合体である化合物(B)を用いた場合は、ゾルゲル反応条件を制御することで、粒子表面にポリエチレングリコール鎖を有するコア−シェル型ナノ粒子を合成することができる。一般的に、ポリアミンセグメント(b1)と比べると、ポリエチレングリコール鎖は金属ナノ粒子(A)表面への吸着が比較的弱いため、金属ナノ粒子(A)の表面にポリアミンセグメントの吸着層ができて、その上にポリエチレングリコールセグメントからなる層が形成する。ポリエチレングリコール鎖は基本的にゾルゲル反応に触媒機能を発現しないため、ゾルゲル反応条件を調節することで、酸化物(C)の析出をポリアミンセグメントからなる層中で選択的に行うことができる。このようにして得られたコア−シェル型ナノ粒子は最表面にポリエチレングリコール鎖を有することになる。
【0034】
ポリエチレングリコールはほかの水溶性ポリマーに比べて、極めて大きな運動性を示す。更に1)溶媒親和性、2)大きな排除体積効果を併せもつ特性が、とくにバイオインターフェース構築に大きな効果を及ぼすことになる。ポリエチレングリコールは優れた生体(とくに血液)適合性を有するため、基材表面に固定することで、得られた表面でタンパク質や細胞の接着が抑制され、いわゆるnon−fouling表面構築ができる。本発明によって、表面にポリエチレングリコールを有するコア−シェル型金属ナノ粒子を簡便で合成できることから、先進医療領域での応用が期待できる。
【0035】
また、本発明のコア−シェル型ナノ粒子は、シェル層の酸化物(C)のマトリックスに存在するポリアミンセグメント(b1)により、金属イオンを高度に濃縮して吸着させることができる。また、該ポリアミンセグメント(b1)のアミン官能基の化学反応性を利用して、本発明のコア−シェル型ナノ粒子は、様々な生体材料などの固定化、各種機能を付与することが可能である。
【0036】
例えば、機能の付与としては、蛍光性物質の固定化などが挙げられる。例えば、ポリアミンセグメント(b1)に少量の蛍光性物質、ピレン類、ポルフィリン類などを導入すると、その機能性残基が酸化物(C)を有するシェル層に取りこまれることになる。さらに、ポリアミンセグメント(b1)の塩基に酸性基、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基を有するポルフィリン類、フタロシアニン類、ピレン類など蛍光性染料を少量混合させたものを使用することで、ナノ粒子中のシェル層にこれらの蛍光性物質を取り込むことができる。
【0037】
また、本発明のコア−シェル型ナノ粒子のシェル層にあるポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)を除去することで、金属ナノ粒子(A)からなるコアと、酸化物(C)からなるシェル層を有するナノ粒子を得ることができる。有機化合物、特には、ポリアミンセグメント(b1)の存在が望ましくない応用領域においては、このような、基本的に無機物からなるコア−シェル型ナノ粒子としてから使用することが可能である。
【0038】
本発明で得られるコア−シェル型ナノ粒子は、粉体としての使用が可能であり、その他の樹脂等の化合物へのフィラーとして用いることもできる。乾燥後の粉体を溶媒に再分散させてなる分散体、又はゾルとして、その他の化合物へ配合することも可能である。また、本発明で得られるコア−シェル型ナノ粒子を基材の表面に固定された薄膜としての使用も可能である。
【0039】
[コア−シェル型ナノ粒子の製造方法]
本発明のコア−シェル型ナノ粒子の製造方法は、表面に一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)層を有する金属ナノ粒子(A)の存在下で、酸化物ソース(C’)のゾルゲル反応により酸化物(C)を析出させる工程を有することを特徴とする。さらに、前記工程で酸化物(C)を形成させた後、有機シランのゾルゲル反応を行う工程を有すると、ポリシルセスキオキサン(D)を導入することもできる。
【0040】
本発明の製造方法においては、まず、金属ナノ粒子(A)の表面に一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメントを有する化合物(B)層を形成する。化合物(B)と金属ナノ粒子(A)表面の結合は、アミノ基と金属表面との配位結合を利用して直接物理吸着しても良いが、他の分子を経由して固定することもできる。
【0041】
金属ナノ粒子(A)表面に化合物(B)層を形成する方法としては、あらかじめ形成された金属ナノ粒子(A)を用いて、その表面に化合物(B)層を形成させてもよいが、化合物(B)の存在下で、金属イオンを還元することにより、化合物(B)で保護された金属ナノ粒子(A)をone−potで形成しても良い。化合物(B)中のポリアミンセグメント(b1)は安定剤として、還元された金属をナノ粒子として成長させることができ、この還元反応は、簡便且つ穏やかな反応で行うことが可能である観点から、one−pot方式はより好ましい。このone−pot方法において、ポリアミンセグメント(b1)は還元剤として機能することもでき、この場合は、ポリアミンセグメント(b1)が金属ナノ粒子(A)形成における還元剤と安定剤との二つの役割を同時に発現する。また、金属イオンの還元効率を上げるために、他の還元剤を加えることにより、金属ナノ粒子(A)を形成させ、ナノ粒子の状態で、化合物(B)によって安定化させることもできる。
【0042】
表面に化合物(B)からなる層を有する金属ナノ粒子(A)中の、ポリアミンセグメント(b1)の含有量は、安定な酸化物(C)を含有するシェル層を形成できる範囲であれば良いが、通常、含有量の範囲としては、0.01〜80質量%であり、好ましい濃度範囲は0.05〜40質量%であり、最も好ましい濃度範囲は0.1〜20質量%である。
【0043】
表面に化合物(B)層を有する金属ナノ粒子(A)においては、官能基を2以上持つ有機化合物を用いて、そのシェル層のポリアミンセグメント鎖を架橋することも可能である。例えば、官能基を2個以上持つアルデヒド類化合物、エポキシ化合物、不飽和二重結合含有化合物、カルボキシル基含有化合物などを使用してもよい。
【0044】
本発明のコア−シェル型ナノ粒子の製造方法は、前記表面に化合物(B)層を有する金属ナノ粒子(A)の形成の工程に引き続き、酸化物(C)形成の工程、即ち水の存在下で、前記金属ナノ粒子(A)の表面に存在しているポリアミンセグメント(b1)を反応場かつ触媒とし、酸化物ソース(C’)のゾルゲル反応を行う工程を有する。更に、前述のように、酸化物(C)を析出させた後に、有機シランを用いてさらにゾルゲル反応を行うと、コア−シェル型ナノ粒子にポリシルセスキオキサン(D)を含有させることもできる。
【0045】
ゾルゲル反応を行う際、表面に化合物(B)層を有する金属ナノ粒子(A)が溶液中に分散して、分散液となっているものを用いることが良いが、基材表面に膜となっている状態で、ゾルゲル反応を行ってもよい。
【0046】
ゾルゲル反応を行う方法としては、表面に化合物(B)層を有する金属ナノ粒子(A)を酸化物ソース(C’)に接触させればよく、これで容易に、コア−シェル型ナノ粒子を得ることができる。
【0047】
上記ゾルゲル反応は、溶媒の連続相では基本的に起こらず、金属ナノ粒子(A)表面にあるポリアミンセグメント部分だけで選択的に進行する。従って、ポリアミンセグメント(b1)が金属ナノ粒子(A)表面から解離することがなければ、反応条件は任意である。
【0048】
ゾルゲル反応においては、表面にポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)層を有する金属ナノ粒子(A)の量に対する酸化物ソース(C’)の量は特に制限されない。目的とするコア−シェル型ナノ粒子の組成に応じて、表面に化合物(B)層を有する金属ナノ粒子(A)と酸化物ソース(C’)との割合は適宜に設定することが出来る。また、酸化物(C)析出後に、有機シランを用いて、コア−シェル型ナノ粒子にポリシルセスキオキサン(D)の構造を導入する場合は、有機シランの量としては、酸化物ソース(C’)の量に対して、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
酸化物(C)としては、いわゆるゾルゲル反応によって形成されるものであれば特に限定されるものではなく、シリコン、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、イットリウム、亜鉛、錫の酸化物、およびこれらの複合/混合酸化物等が挙げられ、工業的な原料の入手容易性の観点と、得られる構造物の応用分野が広い点から、シリコン又はチタンの酸化物であることが好ましい。
【0050】
酸化物(C)がシリカの場合、酸化物ソース(C’)はシリカソースであり、水ガラス、テトラアルコキシシラン類、テトラアルコキシシランのオリゴマー類などが挙げられる。
【0051】
テトラアルコキシシラン類としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシランなどを挙げられる。
【0052】
オリゴマー類としては、テトラメトキシシランの4量体、テトラメトキシシランの7量体、テトラエトキシシラン5量体、テトラエトキシシラン10量体などが挙げられる。
【0053】
酸化物(C)が酸化チタンの場合、酸化物ソース(C’)はチタンソースであり、水中で安定な水溶性チタン化合物を好ましく用いることができるが、ゾルゲル反応条件を工夫すれば、水性媒体不安定であるチタンソースを用いることもできる。
【0054】
水溶性チタン化合物として、例えば、チタニウムビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド水溶液、チタニウムビス(ラクテート)の水溶液、チタニウムビス(ラクテート)のプロパノール/水混合液、チタニウム(エチルアセトアセテート)ジイソプロポオキシド、硫酸チタンなどが挙げられる。
【0055】
水性媒体不安定なチタン化合物としては、アルコキシチタン、例えば、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタンなどを好ましく用いることができる。粒子の表面に酸化チタンを容易に析出させる際には、水性媒体中安定なチタン化合物を用いることが好ましい。
【0056】
酸化物(C)がジルコニアである場合には、酸化物ソース(C’)はジルコニアソースであり、例えば、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトラ−iso−プロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−sec−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−tert−ブトキシドなどのジルコニウムテトラアルコキシド類が挙げられる。
【0057】
更に、酸化物(C)がアルミナである場合には、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリ−n−プロポキシド、アルミニウムトリ−iso−プロポキシド、アルミニウムトリ−n−ブトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、アルミニウムトリ−tert−ブトキシドなどのアルミニウムトリアルコキシド類をアルミニウムソースとして用いることができる。
【0058】
また、酸化物(C)が酸化亜鉛の場合には、そのソースとして、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛類を用いることができ、酸化タングステンの場合は、その原料として、塩化タングステン、アンモニウムタングステム酸などを好適に用いることができる。
【0059】
ポリシルセスキオキサン(D)をナノ粒子に導入する場合に用いることができる有機シランとしては、アルキルトリアルコキシシラン類、ジアルキルアルコキシシラン類、トリアルキルアルコキシシラン類などが挙げられる。
【0060】
アルキルトリアルコキシシラン類としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシトキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシトキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0061】
ジアルキルアルコキシシラン類としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0062】
トリアルキルアルコキシシラン類としては、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシランなどが挙げられる。
【0063】
ゾルゲル反応の温度は特に制限されず、例えば、0〜90℃の範囲であることが好ましく、10〜40℃の範囲であることがより好ましい。効率的にコア−シェル型ナノ粒子を製造するために、反応温度を15〜30℃の範囲に設定すればさらに好適である。
【0064】
ゾルゲル反応の時間は1分から数週間まで様々であり任意で選択できるが、反応活性の高いソースの場合は、反応時間は1分〜24時間でよく、反応効率を上げることから、反応時間を30分〜5時間に設定すればさらに好適である。また、反応活性の低いソースの場合は、ゾルゲル反応時間は5時間以上であることが好ましく、その時間を一週間程度とすることも好ましい。有機シランでのゾルゲル反応の時間としては、反応の温度によって、3時間〜1週間の範囲にあることが望ましい。
【0065】
以上記載したように、本発明のコア−シェル型ナノ粒子の製造方法では、従来のコア−シェル型ナノ粒子とは異なって、シェル層中の酸化物(C)がマトリックスを形成し、その中に反応性の高い一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)が導入され、シェルの厚みが1〜100nm、特には1〜20nmの範囲内であるコア−シェル型ナノ粒子を製造できる。得られたコア−シェル型ナノ粒子はポリシルセスキオキサンで修飾することも出来ることから、樹脂フィラーとしての応用も期待できる。
【0066】
また、本発明のコア−シェル型ナノ粒子は、シェル層の酸化物のマトリックスに複合化されて存在する、反応性の高い一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミン(B)により、各種物質の固定化や濃縮が可能である。このように本発明のコア−シェル型ナノ粒子は、金属ナノ粒子(A)のシェル層に選択的に他の金属や生体材料の固定化、濃縮や機能性分子修飾が可能であることから、金属ナノ粒子(A)とその他の材料との複合化物であり、電子材料分野、バイオ分野、環境対応製品分野などの各種分野において有用な材料である。
【0067】
さらに、本発明のコア−シェル型ナノ粒子は、化合物(B)としてポリアミンとポリエチレングリコールとの共重合体を用いることで、粒子の表面に生体適合性に優れたポリエチレングリコール鎖を配置し、機能化することができる。このようにして得られたコア−シェル型ナノ粒子はセンシング、診断など先進医療領域での応用が期待できる。
【0068】
本発明のコア−シェル型ナノ粒子の製造方法におけるシェル層の形成は広範に利用されている既知のストーバー法等の製造方法に比べて、極めて容易であり、ストーバー法ではできない有機無機複合シェル層であることから、その応用には業種、領域を問わず、大きな期待が寄せられる。金属ナノ粒子(A)や酸化物(C)材料の全般応用領域にはもちろんのこと、ポリアミンが応用される領域においても有用な材料である。
【0069】
[シェル層からの有機成分の除去]
前記で得られたコア−シェル型ナノ粒子のシェル層に存在する化合物(B)、すなわち有機成分を除去することで、金属コア―酸化物シェルの構成を有するコア−シェル型ナノ粒子を形成することができる。化合物(B)の除去方法としては、焼成処理や溶剤洗浄の方法が挙げられるが、有機成分である化合物(B)を完全に除去できる点から、焼成炉中での焼成処理法が好ましい。
【0070】
焼成処理では、空気、酸素存在下での高温焼成と不活性ガス、例えば、窒素、ヘリウムの存在下での高温焼成を用いることもできるが、通常、空気中での焼成が好ましい。
【0071】
焼成する温度としては、化合物(B)が基本的に300℃付近から熱分解するため、300℃以上の温度であれば好適である。焼成温度の上限としては、コアである金属ナノ粒子(A)の構造を維持することができれば、特に制限されないが、1000℃以下で行うことが好ましい。
【0072】
ポリシルセスキオキサンを含有するコア−シェル型ナノ粒子の焼成については、ポリシルセスキオキサンが熱分解する温度以下で焼成すれば、特に限定されない。例えば、ポリメチルシルセスキオキサンを含有するコア−シェル型ナノ粒子を400℃で焼成すると、化合物(B)を除去できると共に、ポリメチルシルセスキオキサンを有したままの金属コア−酸化物シェルナノ粒子を得ることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断わりがない限り、「%」は「質量%」を表わす。
【0074】
[透過電子顕微鏡による観察]
合成したコア−シェル型ナノ粒子の分散溶液をエタノールで希釈し、それを炭素蒸着された銅グリッドに乗せ、サンプルを日本電子株式会社製、JEM−2200FSにて観察を行った。
【0075】
[蛍光X線によるコア−シェル型ナノ粒子の組成分析]
試料の約100mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて蛍光X線測定(ZSX1002P/理学電機工業株式会社)を行った。
【0076】
[TGA測定によるコア−シェル型ナノ粒子のシェル層の有機成分含有量分析]
合成したコア−シェル型ナノ粒子粉体を白金パンにてTGA(SIIナノテクノロジー株式会社製、TG/DTA6300)測定を行った
【0077】
[焼成法]
焼成は、株式会社アサヒ理化製作所製セラミック電気管状炉ARF−100K型にAMF−2P型温度コントローラ付きの焼成炉装置にて行った。
【0078】
合成例1 <表面に分岐状ポリエチレンイミン層を有する金ナノ粒子の合成>
分岐状ポリエチレンイミン(SP003、株式会社日本触媒製、平均分子量300)の0.2gとテトラクロロ金(III)酸(和光製薬)の0.2gとを4mL水に溶解させた。反応を室温にて24時間行った。混合直後は薄い黄色であったが、反応と共に変化し、24時間後には綺麗なワインレッドの金ナノ粒子の分散液を得た。TEM観察により、得られた金ナノ粒子の直径が5nm−30nmであることを確認した。
【0079】
合成例2 <表面に分岐状ポリエチレンイミンとポリエチレングリコールとの共重合体層を有する銀ナノ粒子の合成>
共重合体は分岐状ポリエチレンイミン中のアミノ基にポリエチレングリコール鎖を結合させることで合成できる。特開2010−118168号公報の合成例1に示された方法に従って、平均分子量が10,000の分岐状ポリエチレンイミンと数平均分子量が5,000のポリエチレングリコールとの共重合体を合成した。該共重合体の中にエチレンイミン単位対エチレングリコール単位のモル比は1:3である。
【0080】
得られた共重合体を用いて、特開2010−118168号公報の合成例1に示された方法に従って、水溶液中アスコルビン酸で還元することにより、銀ナノ粒子を合成した。精製、濃縮した後に、表面に分岐状ポリエチレンイミンとポリエチレングリコールとの共重合体層を有する銀黒赤色の銀ナノ粒子の水分散液を得た。TEM観察より粒子径が25nm−40nmの銀ナノ粒子が確認された。
【0081】
実施例1
合成例1で得られた金ナノ粒子の水分散液用いて、金の含有量の0.25%の水分散液を10mL作成した。この分散液にMS51(メトキシシランの4量体)の0.25mLをシリカソースとして加えた。得られた分散溶液を室温にて4時間攪拌した後、エタノールでの洗浄、再分散を経て、コア−シェル型金ナノ粒子の分散液を得た。TEM観察により、得られた粒子が金ナノ粒子の表面に4nmのシェル層を有することが確認出来た(図1)。また、TEM評価により、溶液中での金ナノ粒子表面以外のnon−templatedシリカ形成は観察されなかった。これは金ナノ粒子表面に存在するポリエチレンイミンがシリカ析出の際の足場と触媒として機能し、シリカ形成は選択的に金ナノ粒子の表面で行うことを強く示唆する。
【0082】
実施例1で得られたコア−シェル型ナノ粒子のエタノール分散液を濃縮し、乾燥を経て、コア−シェル型ナノ粒子の粉体を得た。この乾燥した粉体は、シリカシェルを有することで優れた再分散性を示し、たとえば、この粉体は再び水またはエタノールなどの溶剤中に簡単に再分散することができた。一方、シリカシェル形成する前の金ナノ粒子は、シリカの保護層がないため、乾燥につれて粒子同士が融合し、媒体中への再分散は不可能であった。
【0083】
比較例1
Langmuir,2006,22(6),11022−11027に示された方法に従って、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート(PDMA)を用いて、金ナノ粒子を合成した。実施例1に参考して、シリカ析出を行ったところ、金ナノ粒子の表面だけでの選択的なシリカシェル形成はできなかった。これは、分岐状ポリエチレンイミンと比べて、三級アミンだけを持つPDMAは金ナノ粒子の表面に安定な親水性の高いポリアミン層の形成が困難であるためと考えられる。
【0084】
実施例2
合成例2で得られた銀ナノ粒子の水分散液(濃度0.75%)の25mLにMS51の0.25mLをシリカソースとして加えた。得られた分散溶液を室温にて4時間攪拌した後、エタノールでの洗浄、再分散を経て、コア−シェル型銀ナノ粒子の分散液を得た。TEM観察により、得られた粒子が銀ナノ粒子の表面に9nmのシェル層を有することが確認出来た(図2)。乾燥したコア−シェル型銀ナノ粒子粉体を蛍光X線測定により評価したところ、粒子中シリカの含有量は11%であった。
【0085】
また、銀ナノ粒子表面のポリマー層は分岐状ポリエチレンイミンとポリエチレングリコールとの共重合体であるため、形成された有機/無機複合シェル層にノニオン性ポリエチレングリコールを有する。
【0086】
さらに、実施例2で得られたコア−シェル型ナノ粒子のエタノール分散液を濃縮し、乾燥を経て、コア−シェル型ナノ粒子の粉体を得た。この乾燥した粉体は、シリカシェルを有することで優れた再分散性を示し、たとえば、この粉体は再び水またはエタノールなどの溶剤中に簡単に再分散することができた。
【0087】
実施例3
合成例2で得られた銀ナノ粒子の水分散液(濃度0.75%)の25mLにMS51の0.05mLをシリカソースとして加えた。得られた分散溶液を室温にて4時間攪拌した後、エタノールでの洗浄、再分散を経て、コア−シェル型銀ナノ粒子の分散液を得た。TEM観察により、得られた粒子が銀ナノ粒子の表面に3nmのシェル層を有することが確認出来た(図3)。
【0088】
実施例4
合成例2で得られた銀ナノ粒子の水分散液(濃度0.75%)の25mLにMS51の0.25mLをシリカソースとして加えた。得られた分散溶液を室温にて40min攪拌した後、エタノールでの洗浄、再分散を経て、コア−シェル型銀ナノ粒子の分散液を得た。TEM観察により、得られた粒子が銀ナノ粒子の表面に5nmのシェル層を有することが確認出来た(図4)。
【0089】
実施例4で得られたコア−シェル銀ナノ粒子分散液を濃縮し、乾燥を経て、優れた再分散性を有するコア−シェル銀ナノ粒子の粉体を得た。この粉体をTGA測定により評価したところ、有機/無機複合シェルの中に存在するポリマーの含有量はコア−シェル粒子全体に対して4%であった。
【0090】
実施例5
実施例4で合成されたコア−シェル銀ナノ粒子粉体を空気中500℃で焼成した。焼成したサンプルの分散性を評価したところ、媒体中での優れた再分散性を確認した。TEM観察により、銀ナノ粒子の表面にシリカシェル層構造が維持できていることを確認した(図5)。
【0091】
実施例6 <ポリシルセスキオキサンを有するコア−シェル型ナノ粒子の合成>
合成例2で得られた銀ナノ粒子の水分散液(濃度0.75%)の25mLにMS51の0.25mLをシリカソースとして加えた。得られた分散溶液を室温にて40min攪拌した後に、トリメチルメトキシシランの0.1mLを加えた。得られた溶液を室温にて24時間攪拌して、エタノールでの洗浄、乾燥を経て、ポリシルセスキオキサンを有するコア−シェル型ナノ粒子を得た。この粒子は、水やエタノールへの優れた再分散性を有する。更に、液状エポキシ樹脂(DIC株式会社製EPICLON 850S)や、ウレタン樹脂水分散体等、他の化合物への分散性も良好であることを確認した。
【要約】
金属ナノ粒子をコア部とし、一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンと酸化物とが複合化されてなるシェル層とを有するコア−シェル型ナノ粒子、当該シェル層から有機成分を除去することで得られる、金属ナノ粒子をコア部とし、シリカを主成分とするシェル層とするコア−シェル型金属ナノ粒子、及びこれらの簡便且つ効率的な製造方法を提供する。
表面に一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するポリアミンセグメント(b1)を有する化合物(B)層を有する金属ナノ粒子(A)の存在下で酸化物ソース(C’)のゾルゲル反応を行うことを特徴とするコア−シェル型ナノ粒子の製造方法、更に有機シランのゾルゲル反応を行うことで、シェル層にポリシルセスキオキサン(D)を含有するコア−シェル型金属ナノ粒子の製造方法、及び得られたナノ粒子を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5