特許第5673962号(P5673962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5673962
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】脳信号計測システム及び計測システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0408 20060101AFI20150129BHJP
   A61B 5/0478 20060101ALI20150129BHJP
   A61B 5/0492 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   A61B5/04 300J
   A61B5/04 300N
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-550984(P2011-550984)
(86)(22)【出願日】2011年1月24日
(86)【国際出願番号】JP2011051237
(87)【国際公開番号】WO2011090199
(87)【国際公開日】20110728
【審査請求日】2013年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-13482(P2010-13482)
(32)【優先日】2010年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116573
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 幸司
(72)【発明者】
【氏名】山川 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】山川 烈
【審査官】 後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−191571(JP,A)
【文献】 特開平8−266497(JP,A)
【文献】 特表平7−507709(JP,A)
【文献】 実開平2−102204(JP,U)
【文献】 特開2010−370(JP,A)
【文献】 特開平4−241853(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0299447(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00−1/32
A61B 5/00−5/053
A61B 5/06−5/22
A61B 9/00−10/06
A61B 17/22−17/24
A61C 1/00−1/18
A61N 1/00−1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬膜とクモ膜の間に設置されて脳信号を計測する複数の計測手段と、前記複数の計測手段を保持する保持部とを有する脳信号計測装置を備える脳信号計測システムであって、
前記保持部は、
所定の刺激による形状記憶特性を有し、前記形状記憶特性による形状変化により前記複数の計測手段の位置を変更可能な形状記憶部と、
前記形状記憶部に対して外部から刺激を与えるための刺激導入部と、
前記形状記憶部を覆い、前記形状記憶部に対して外部から所定の刺激が与えられることにより前記形状記憶部において生じる形状変化以外の所定の現象が外部へ与える影響を遮断する刺激遮断部を有し、
刺激を与えられていない状態では前記硬膜及び前記クモ膜よりも柔軟なものであり、
前記形状記憶部は、前記保持部が前記硬膜と前記クモ膜の間に挿入されて、刺激付与装置により前記刺激導入部を介して所定の刺激が与えられることにより、前記形状記憶特性により予め記憶処理された形状へ変化して、前記複数の計測手段を配置する、脳信号計測システム。
【請求項2】
前記形状記憶部は、形状記憶合金であり、加熱されて所定の温度以上となることにより、前記形状記憶特性により形状が変化し、
前記刺激付与装置が与える刺激は通電加熱であり、
前記刺激遮断部は、熱及び電気的絶縁体である、請求項1記載の脳信号計測システム。
【請求項3】
前記脳信号計測装置は、一方の端が前記硬膜と前記クモ膜の間に挿入される並行する一対の管から構成される導入管を有し、
前記保持部は、ライン状であって、
導入管の一方の管について、前記硬膜と前記クモ膜の間に挿入されない方の端から挿通して前記硬膜と前記クモ膜の間に挿入される方の端に延び、さらに、
導入管の他方の管について、前記硬膜と前記クモ膜の間に挿入される方の端から挿通して頭内部に挿入されない方の端に延びるものである、請求項1又は2に記載の脳信号計測システム。
【請求項4】
前記計測手段は、計測装置に電気的に接続されて、電極における計測結果を伝達可能な伝達線であって、
前記伝達線は、前記電極以外の部分は被覆されており、前記電極以外の前記伝達線の少なくとも一部は、被覆に加えて前記刺激遮断部により覆われることにより、外部からの影響を遮断され及び外部への影響を遮断して、前記電極における計測結果を伝達可能であり、
前記電極は、前記伝達線の被覆を剥離して前記保持部の外側に巻き付けたものである、請求項1から3のいずれかに記載の脳信号計測システム。
【請求項5】
前記形状記憶部は、前記複数の計測手段の個数以上の頂点を有する多角形に記憶処理されており、
前記各計測手段は、前記保持部において、前記多角形の頂点に保持される、請求項1から4のいずれかに記載の脳信号計測システム。
【請求項6】
前記形状記憶部を体外から撮影可能な撮影部と、
前記撮影部により撮影された画像情報を画像処理して、
検出した前記計測手段については、検出した位置により当該計測手段の位置を推定し、
検出されない前記計測手段については、前記形状記憶部の多角形の辺の情報から頂点の位置を推定して当該計測手段の位置と推定する位置推定処理手段
を有する撮影装置を備える請求項5記載の脳信号計測システム。
【請求項7】
体内の所定の空間に設置されて信号を計測する複数の計測手段と、前記複数の計測手段を保持する保持部とを有する生体内計測装置を備える計測システムであって、
前記生体内計測装置は、一方の端が前記体内の所定の空間に挿入される並行する一対の管から構成される導入管を有し、
前記保持部は、
所定の刺激による形状記憶特性を有し、前記形状記憶特性による形状変化により前記複数の計測手段の位置を変更可能な形状記憶部と、
前記形状記憶部に対して外部から刺激を与えるための刺激導入部と、
前記形状記憶部を覆い、前記形状記憶部に対して外部から所定の刺激が与えられることにより前記形状記憶部において生じる形状変化以外の所定の現象が外部へ与える影響を遮断する刺激遮断部を有し、
刺激を与えられていない状態では前記体内の所定の空間の外壁よりも柔軟なものであり、
前記形状記憶部は、前記保持部が前記体内の所定の空間に挿入されて、刺激付与装置により前記刺激導入部を介して前記所定の刺激が与えられることにより、前記形状記憶特性により予め記憶処理された形状へ変化して、前記複数の計測手段を配置し、
前記保持部は、ライン状であって、
導入管の一方の管について、前記体内の所定の空間に挿入されない方の端から挿通して前記体内の所定の空間に挿入される方の端に延び、さらに、
導入管の他方の管について、前記体内の所定の空間に挿入される方の端から挿通して体内に挿入されない方の端に延びるものである、計測システム。
【請求項8】
前記形状記憶部は、形状記憶合金であり、加熱されて所定の温度以上となることにより、前記形状記憶特性により形状が変化し、
前記刺激付与装置が与える刺激は通電加熱であり、
前記刺激遮断部は、熱及び電気的絶縁体であり、
前記刺激付与装置は、前記保持部の一端から他端へ通電することにより、前記刺激を与える、請求項7記載の計測システム。
【請求項9】
前記計測手段は、計測装置に電気的に接続されて、電極における計測結果を伝達可能な伝達線であって、
前記伝達線は、前記電極以外の部分は被覆されており、前記電極以外の前記伝達線の少なくとも一部は、被覆に加えて前記刺激遮断部により覆われることにより、外部からの影響を遮断され及び外部への影響を遮断して、前記電極における計測結果を伝達可能であり、
前記電極は、前記伝達線の被覆を剥離して前記保持部の外側に巻き付けたものである、請求項7又は8に記載の計測システム。
【請求項10】
前記形状記憶部は、前記複数の計測手段の個数以上の頂点を有する多角形に記憶処理されており、
前記各計測手段は、前記保持部において、前記多角形の頂点に保持される、請求項7から9のいずれかに記載の計測システム。
【請求項11】
前記形状記憶部を体外から撮影可能な撮影部と、
前記撮影部により撮影された画像情報を画像処理して、
検出した前記計測手段については、検出した位置により当該計測手段の位置を推定し、
検出されない前記計測手段については、前記形状記憶部の多角形の辺の情報から頂点の位置を推定して当該計測手段の位置と推定する位置推定処理手段
を有する撮影装置を備える請求項10記載の計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳信号計測システム及び計測システムに関し、特に、硬膜とクモ膜の間に設置されて脳信号を計測する複数の計測手段と、前記複数の計測手段を保持する保持部とを有する脳信号計測装置を備える脳信号計測システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
脳信号の計測は、例えばてんかん発作時の脳信号を計測するなど、様々な治療で用いられる。脳信号の計測は、一般的には、患者の頭表面に電極を配置して行う場合と、頭蓋内に頭蓋内電極を配置して脳信号を計測する場合がある。頭蓋内で脳信号を計測する頭蓋内電極として、一般的に、脳表面に留置する硬膜下電極と、脳実質内深部に刺入する脳深部電極がある(特許文献1参照)。
【0003】
硬膜下電極の留置は、一般的には、電極を配置する部分の開頭手術をして行われる。なお、特許文献2には、装置を、クモ膜下腔中に、ある一定の進入部位から経皮的に挿入することが記載されている。また、特許文献3には、アームで神経調整器組立体NMAを折り曲げて保持させ、套管を介して脳梁付近まで挿入し、套管の遠位端開口から開放してNMAを広げ、目標位置に配置することが記載されている。特許文献4には、心臓における生理的信号を測定するために、カテーテルを挿入して、心臓内でリングを広げ、リングに設けられた電極を配置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−45368号公報
【特許文献2】特表2004−534590号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0288760号明細書
【特許文献4】特表2001−502189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の開頭手術をして硬膜下電極を留置する場合、広範囲の開頭手術であるため、侵襲性が高い。さらに、設置だけでなく除去の場合にも全身麻酔が必要となるため、所定の期間内に、少なくとも2回は、広範囲の開頭手術を行うことが必要となる。そのため、患者に多大な負担がかかる。さらに、このような広範囲の開頭手術には全身麻酔が必要となるため、麻酔医などの多くの医師の確保が必要となる。硬膜下電極の設置手術は、侵襲性の高さという患者への影響だけでなく、医師の事前のスケジュール調整の困難さという点でも、行うことが困難なものとなっていた。
【0006】
さらに、特許文献2に記載の手法は、基本的に、ガイドワイヤ等で、前進・後退により一次元的に挿入するものである。複数の電極は三次元的に配置する必要があり、このような一次元的な調整で複数の電極を所望の位置に配置することは困難である。
【0007】
さらに、特許文献3に記載の手法は、NMAを硬い材質のアームで挟んで変形させたまま体内へ挿入し、配置位置付近でアームによる力を緩めて形状を復元して、NMAを体内へ配置するものである。硬い材質のアームは、配置位置付近まで挿入されることとなり、脳を傷つけるおそれがある。さらに、アームからNMAを離して体内に配置した後は、NMAの位置を調整することは困難となる。特許文献4に記載の手法では、リングは弾性材料で作成される。リングは、その弾性により心臓内で円形形状を呈する。そのため、特許文献3に記載の手法と同様の問題がある。
【0008】
このような生体内で信号を計測する計測手段の設置の困難さは、脳信号に限らず、例えば体内埋め込み式ペースメーカ等の信号を計測する場合等にも当てはまる。
【0009】
そこで、本願発明は、生体内に低侵襲な手術で信号を計測する複数の計測手段を留置でき、さらに、各計測手段を配置する位置を容易に調整可能な脳信号計測システム等を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の第1の観点は、硬膜とクモ膜の間に設置されて脳信号を計測する複数の計測手段と、前記複数の計測手段を保持する保持部とを有する脳信号計測装置を備える脳信号計測システムであって、前記保持部は、所定の刺激による形状記憶特性を有し、前記形状記憶特性による形状変化により前記複数の計測手段の位置を変更可能な形状記憶部と、前記形状記憶部に対して外部から刺激を与えるための刺激導入部と、前記形状記憶部を覆い、前記形状記憶部に対して外部から所定の刺激が与えられることにより前記形状記憶部において生じる形状変化以外の所定の現象が外部へ与える影響を遮断する刺激遮断部を有し、刺激を与えられていない状態では前記硬膜及び前記クモ膜よりも柔軟なものであり、前記形状記憶部は、前記保持部が前記硬膜と前記クモ膜の間に挿入されて、刺激付与装置により前記刺激導入部を介して所定の刺激が与えられることにより、前記形状記憶特性により予め記憶処理された形状へ変化して、前記複数の計測手段を配置する。
【0011】
本願発明の第2の観点は、第2の観点であって、前記形状記憶部は、形状記憶合金であり、加熱されて所定の温度以上となることにより、前記形状記憶特性により形状が変化し、前記刺激付与装置が与える刺激は通電加熱であり、前記刺激遮断部は、熱及び電気的絶縁体である。
【0012】
本願発明の第3の観点は、第1又は第2の観点であって、前記計測手段は、一方の端が電極であり、計測装置に電気的に接続されて前記電極における計測結果を伝達可能な伝達線であって、前記伝達線は、前記電極以外の部分は被覆されており、前記電極以外の前記伝達線の少なくとも一部は、被覆に加えて前記刺激遮断部により覆われることにより、外部からの影響を遮断され及び外部への影響を遮断して、前記電極における計測結果を伝達可能であり、前記電極は、前記伝達線の被覆を剥離して前記保持部の外側に巻き付けたものである。
【0013】
本願発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点であって、前記形状記憶部は、前記複数の計測手段の個数以上の頂点を有する多角形に記憶処理されており、前記各計測手段は、前記保持部において、前記多角形の頂点に保持される。
【0014】
本願発明の第5の観点は、第4の観点であって、前記形状記憶部を体外から撮影可能な撮影部と、前記撮影部により撮影された画像情報を画像処理して、検出した前記計測手段については、検出した位置により当該計測手段の位置を推定し、検出されない前記計測手段については、前記形状記憶部の多角形の辺の情報から頂点の位置を推定して当該計測手段の位置と推定する位置推定処理手段を有する撮影装置を備える。
【0015】
本願発明の第6の観点は、体内の所定の空間に設置されて信号を計測する複数の計測手段と、前記複数の計測手段を保持する保持部とを有する生体内計測装置であって、前記保持部は、所定の刺激による形状記憶特性を有し、前記形状記憶特性による形状変化により前記複数の計測手段の位置を変更可能な形状記憶部と、前記形状記憶部に対して外部から刺激を与えるための刺激導入部と、前記形状記憶部を覆い、前記形状記憶部に対して外部から所定の刺激が与えられることにより前記形状記憶部において生じる形状変化以外の所定の現象が外部へ与える影響を遮断する刺激遮断部を有し、刺激を与えられていない状態では前記体内の所定の空間の外壁よりも柔軟なものであり、前記形状記憶部は、前記保持部が前記体内の所定の空間に挿入されて、刺激付与装置により前記刺激導入部を介して所定の刺激が与えられることにより、前記形状記憶特性により予め記憶処理された形状へ変化して、前記複数の計測手段を配置する。
【0016】
本願発明の第7の観点は、硬膜とクモ膜の間に設置されて脳信号を計測する複数の計測手段と、前記複数の計測手段を保持する保持部とを有する脳信号計測装置における前記保持部を制御する脳信号計測位置制御方法であって、前記保持部は、所定の刺激による形状記憶特性を有し、前記形状記憶特性により前記複数の計測手段の位置を変更可能な形状記憶部と、前記形状記憶部に対して外部から刺激を与えるための刺激導入部と、前記形状記憶部を覆い、前記形状記憶部に対して外部からの刺激が与えられることにより前記形状記憶部において生じる形状変化以外の所定の現象が外部へ与える影響を遮断する刺激遮断部を有し、刺激を与えられていない状態では前記硬膜及び前記クモ膜よりも柔軟なものであり、前記保持部が前記硬膜と前記クモ膜の間に挿入され、前記保持部の前記形状記憶部が、刺激付与装置により前記刺激導入部を介して所定の刺激を与えられることにより、前記形状記憶特性により予め記憶処理された形状へ変化して、前記複数の計測手段を配置するステップを含む。
【0017】
なお、本願発明を、挿入時におけるものだけでなく、除去時におけるものとして捉えてもよい。すなわち、刺激付与装置から形状記憶部へ刺激が与えられていない状態とし、保持部を硬膜とクモ膜の間から抜去するものとして捉えてもよい。これにより、除去する場合に、体内へ挿入される状態と同様の条件とすることができ、形状記憶特性を示さずに柔軟な状態とすることができる。そのため、低侵襲の手術で脳信号計測装置を除去することが可能となる。
【0018】
また、本願発明において、一方の端が頭内部に挿入される並行する一対の管から構成される導入管を備え、保持部は、ライン状であり、導入管の一方の管について、頭内部に挿入されない方の端から挿通して頭内部に挿入される方の端に延び、さらに、導入管の他方の管について、頭内部に挿入される方の端から挿通して頭内部に挿入されない方の端に延びるものとしてもよい。このような導入管を用いて配置することにより、形状記憶部を通電加熱等する場合にも、留置処理がさらに容易になる。
【0019】
さらに、本願発明において、形状記憶部を体外から撮影可能な撮影部と、撮影部による撮影された情報を表示する表示部を有する撮影装置を備えるようにしてもよい。
【0020】
さらに、形状記憶部は、例えば形状記憶合金により作成されてもよい。形状記憶合金の材料は、例えばチタンとニッケルの合金である。これは生体適合性も既に証明されており、生体埋め込み用途も含め医療応用が多数なされている。なお、鉄系形状記憶合金などであってもよい。また、計測手段の材料は、例えば、白金(プラチナ)、白金とイリジウムの合金である。これらも、既に生体適合性が証明されており、カテーテルやペースメーカ用の電極として多数医療応用がなされている。また、刺激遮断部(絶縁被覆)の材料は、例えば、PTFEというフッ素樹脂を使用したものである。これも、既に生体適合性が証明済みのものが存在する。
【0021】
さらに、本願発明を、コンピュータを第5の観点の位置推定処理手段として動作させるためのプログラム及びこのプログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体として捉えてもよい。さらに、本願発明において、推定した位置を表示する表示部を備えるようにしてもよい。また、利用者が各計測手段の位置情報を入力する入力手段と、入力された各計測手段の位置情報と推定された位置情報を比較する比較手段を備え、表示部は、その比較結果も表示するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本願発明によれば、保持部は、複数の計測手段を保持し、計測手段の間を接続する形状記憶部に刺激が与えられずに体内へ挿入される状態では柔軟な状態であり(例えば温度変化により形状記憶特性を示す場合に、温度が室温から体温までの環境にある状態では柔軟な状態であり)、この状態で体内の例えば硬膜とクモ膜の間などの所定の空間に挿入され、体内で形状記憶部に所定の刺激が与えられて、形状記憶部が予め記憶処理した形状へ変化することにより、複数の計測手段を配置する。この挿入するための穴は、例えば直径1cm以下で実現可能である。ここで、保持部が硬膜とクモ膜よりも柔軟であるとは、例えば、硬膜とクモ膜の間に空間が存在することから、保持部の挿入にともない、保持部から硬膜やクモ膜に力が加えられたとしても、硬膜とクモ膜の間の空間への挿入が継続される程度の硬さを意味するものである。
【0023】
また、本願発明は、刺激導入部及び刺激遮断部を有し、保持部は、体内への挿入時には刺激が与えられていない状態として柔軟な状態であり、体内において形状記憶部に刺激が与えられるものである。そのため、特許文献3記載の技術と異なり、体内へ挿入される部分は、刺激が与えられていない状態で例えば硬膜やクモ膜よりも柔軟な状態であり、挿入時にこれらを傷つける危険性が低い。
【0024】
さらに、保持部は、一旦刺激が与えられた状態とされたとしても、再度、刺激を与えられていない状態として柔軟な状態へと戻し、保持部の位置を調整して、再度、刺激が与えられた状態とすることにより、体内において位置を容易に調整することができる。そのため、低侵襲な手術で計測手段を留置し、さらに、体内において複数の計測手段の位置を容易に調整することが可能となる。
【0025】
また、本願発明において、記憶処理される形状は、凸形状などに限られるものではなく、例えば、相似形の複数の多角形を入れ子状に設けたもの(くもの巣状)とするなど、自由に設定することができる。これにより、様々な計測手段の配置が可能となる。このように、本願発明の形状記憶部により二次元的・三次元的な広がりで各計測手段を配置することが可能となり、各計測手段の位置が容易に調整可能となる。
【0026】
さらに、本願発明の第2の観点によれば、通電加熱を利用して形状記憶部に対する刺激を与えることにより、形状記憶部の形状変化がさらに容易に実現可能となる。
【0027】
さらに、本願発明の第3の観点によれば、計測手段が、伝達線の被覆を剥離して保持部の外側に巻き付けた微小な電極であるから、空間分解能を向上させることができる。さらに、保持部の断面を、計測手段が設けられている部分と設けられていない部分で、ほぼ同一のものとすることが可能となる。そのため、体内で形状記憶部が形状の変更をしても、硬膜やクモ膜を傷つける可能性は大幅に低下する。
【0028】
さらに、本願発明の第4の観点は、形状記憶部に記憶する形状を多角形とし、保持部においてその頂点に計測手段を保持させる。体内に計測手段を設置する場合、例えば術中X線撮影等により計測手段そのものを撮影して行うことは可能である。しかし、常に計測手段そのものが撮影できるとは限らない。そのため、本願発明の第4の観点によれば、仮に計測手段そのものは撮影できなくとも、多角形の辺を示す情報が一部でも撮影できれば、その情報から各頂点の情報を求め、撮影できなかった計測手段の位置を推定することが可能となる。これにより、計測手段の適切な配置がさらに容易になる。
【0029】
さらに、本願発明の第5の観点にあるように、各計測手段の位置推定処理は、コンピュータを用いた装置等において実現するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】頭部1の断面と本願発明の一例である脳信号計測装置21を挿入するための穴19の概要を示す図である。
図2図1の脳信号計測装置21を穴19に挿入してセンサ271〜276を配置する処理の概要を示す図である。
図3】本願発明の一例である脳信号計測システム31の概要を示すブロック図である。
図4図3のセンサ334〜336の周辺部59の概要を示す図である。
図5】電極−生理食塩水の接触インピーダンスの実験結果を示す。
図6】2つの電極間の電気的絶縁度の実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
まず、図1及び図2を参照して、本願発明の一例である脳信号計測装置21における6個のセンサ271〜276(以下、添え字について、複数を意味する場合は「6個のセンサ27」等と省略する。)を配置する処理の概要について説明する。
【0033】
図1にあるように、頭部1は、外部から、順に、頭皮等3、頭蓋骨5、硬膜7、クモ膜9、血管11、軟膜13及び脳15の階層構造である。硬膜7とクモ膜9の間17は、実際はほとんど隙間がない状況ではあるが、電極等を配置することは可能である。本願発明の脳信号計測装置は、頭皮等3、頭蓋骨5及び硬膜7を貫通する穴19が設けられ、この穴19を用いて、硬膜7とクモ膜9の間17に挿入される。穴19は、例えば直径1cm以下で実現可能である。
【0034】
図2(a)〜(c)は、本願発明の脳信号計測装置21(本願請求項の「脳信号計測装置」に対応)による通電加熱による自動展開の概要を示す図である。脳信号計測装置21は、2本の並行する管であり、一方の端が直径1cm以下の尖頭で穴19より頭内部に挿入される導入管23と、ライン状であり、導入管の一方の管について、頭内部に挿入されない方の端から挿通して頭内部に挿入される方の端に延び、さらに、導入管の他方の管について、頭内部に挿入される方の端から挿通して頭内部に挿入されない方の端に延びる保持部25(本願請求項の「保持部」に対応)を備える。保持部25は、6個のセンサ27(本願請求項の「計測手段」に対応)を保持する。保持部25は、形状記憶合金であるSMAガイド(本願請求項の「形状記憶部」に対応)と、SMAガイドを覆う熱・電気的絶縁体である熱収縮チューブ(本願請求項の「刺激遮断部」に対応)を備える。SMAガイドの材料は、例えばチタンとニッケルの合金である。これは生体適合性も既に証明されており、生体埋め込み用途も含め医療応用が多数なされている。なお、鉄系形状記憶合金などであってもよい。また、センサ27の材料は、例えば、白金(プラチナ)、白金とイリジウムの合金である。これらも、既に生体適合性が証明されており、カテーテルやペースメーカ用の電極として多数医療応用がなされている。図4では、白金を例に説明している。また、熱収縮チューブの材料は、例えば、PTFEというフッ素樹脂を使用したものである(例えば、テフロン(登録商標)である。)。これも、既に生体適合性が証明済みのものが存在する。
【0035】
本実施例では、SMAガイドは、少なくとも室温〜体温では硬膜7及びクモ膜9よりも柔軟であり、通電加熱により所定の温度以上となったときに記憶処理された形状となるものである。ここで、SMAガイドの中央部分は正六角形に記憶処理されており、センサ27は、保持部25において、SMAガイドの正六角形の各頂点に対応して保持されているとする。
【0036】
図2(a)を参照して、導入管23を穴19に挿入する時点では、導入管23の頭内部に挿入される側の端から保持部25を出さず、センサ27を導入管23に配置して、導入管23を穴19に挿入する。
【0037】
次に、図2(b)を参照して、導入管23を穴19に挿入して、導入管23の端が硬膜7とクモ膜9の間17に到達すると導入管23を穴19に固定し、導入管23の頭内部に挿入される側の端から保持部25の中央部分(少なくとも正六角形に記憶処理されている部分)を硬膜7とクモ膜9の間17に挿入する。
【0038】
次に、図2(c)を参照して、電源29(本願請求項の「刺激付与装置」に対応)が保持部25のSMAガイドを通電加熱することにより、保持部25のSMAガイドは記憶処理された正六角形の形状へと変化する。その頂点に保持された各センサ27は、SMAガイドの形状変更に伴い、所定の位置へと移動する。穴19は直径1cm以下のもので足り、このような穴から硬膜下に挿入後、輪を広げるように電極を展開することができ、低侵襲な手術で硬膜下電極を留置可能となる。
【0039】
続いて、図3を参照して、本願発明の一例である脳信号計測システム31(本願請求項の「脳信号計測システム」に対応)の構成について、具体的に説明する。
【0040】
脳信号計測システム31は、硬膜とクモ膜の間に設置されて脳信号を計測する複数のセンサ33と複数のセンサ33を保持する保持部35とを有する脳信号計測装置37と、保持部35のSMAガイドに刺激を付与する刺激付与装置39と、センサ33の計測結果を受信する計測装置41と、体外からX線等により撮影して表示する撮影装置43を備える。
【0041】
保持部35は、正六角形に記憶処理された形状記憶特性を有するセンサ保持部45と、センサ保持部45に刺激付与装置39からの刺激を導入する刺激導入部47を備える。
【0042】
本実施例では、センサ33は六角形の各頂点に位置し、センサ保持部45及び刺激導入部47は、加熱により形状記憶特性を示す形状記憶合金(SMAガイド)(センサ保持部45のSMAガイドが本願請求項の「形状記憶部」に対応)が、熱・電気的絶縁体である熱収縮チューブ(本願請求項の「刺激遮断部」に対応)により覆われたものであるとする。
【0043】
刺激付与装置39は、体内に挿入されたセンサ保持部45(図2(c)参照)に対して、保持部35の一方の端49から他方の端51へ通電して加熱することにより、センサ保持部45の形状記憶特性により予め記憶処理された形状へ変化させて、各センサ33の位置を変更する。通電加熱は、1〜2A程度の電流で瞬時加熱するものであり、絶縁体の熱伝導率は低いので、外部に熱は伝わらない。これにより、センサ33の設置が容易となる。また、室温〜体温では柔軟な状態となるため、頭部内での位置の調整や抜去も容易である。よって、硬膜下電極の挿入・抜去が容易となる。
【0044】
計測装置41は、保持部35の端49に近いセンサ331、332及び33について端49から計測結果を得、他方の端51に近いセンサ334、335及び336について端51から計測結果を得る。図4を参照して、センサ334、335及び336の周辺59の保持部35の構造については、後に具体的に説明する。
【0045】
撮影装置43は、術中X線写真など、頭部内のセンサ保持部45のSMAガイドを体外から撮影可能な撮影部53(本願請求項の「撮影部」に対応)と、撮影部53により撮影された画像情報を画像処理して、直接検出可能なセンサ33については検出した位置によりセンサ33の位置を推定し、直接検出されないセンサ33についてはセンサ保持部45の多角形の辺の情報から頂点の位置を推定してセンサ33の位置を推定する位置推定処理部55(本願請求項の「位置推定処理手段」に対応)と、撮影部53の撮影結果及び位置推定処理部55の位置推定結果を表示する表示部57を備える。
【0046】
続いて、図4を参照して、センサ334、335及び336の周辺59の保持部35の構造について、より具体的に説明する。
【0047】
保持部35は、形状記憶合金であるSMAガイド71と、SMAガイド71を覆う熱・電気的絶縁体である熱収縮チューブ73を備える。なお、図4(a)では、内部の構造を明確化するため、熱収縮チューブ73は、破線で表現している。
【0048】
被覆白金線77、79及び81は、テフロン(登録商標)により被覆されたものであり、それぞれ、センサ33、33及び33のためのものである。被覆白金線77、79及び81の一部は、熱収縮チューブ73に覆われている。被覆白金線77の一方の端は、被覆された状態で測定装置41に電気的に接続される。他方の端は、六角形の頂点に位置する場所において熱収縮チューブ73の外に出され、被覆を剥離した白金線83とされ、熱収縮チューブ73の外側に巻き付け、センサ33として機能する電極として利用する。このような電極の微細化を利用することにより、空間分解能の向上を図ることが可能となる。被覆白金線79及び81も、同様に、それぞれ、六角形の頂点に位置する場所において熱収縮チューブ73の外に出され、被覆を剥離した白金線とされ、熱収縮チューブ73の外側に巻き付け、それぞれ、センサ33及び33として機能する電極として利用する。
【0049】
図4(b)は、図4(a)の断面85における断面図である。ここで、熱収縮チューブ73は、SMAガイド71を覆う熱収縮チューブ73と、熱収縮チューブ73の外側にあり、被覆白金線77、79及び81とともに覆う熱収縮チューブ73の階層構造としている。
【0050】
脳信号計測装置37の具体例について説明する。保持部35の線径は0.3mmである。SMAガイド71の材質はNi−Ti合金54.9wt%(wt%:質量パーセント濃度)であり、直流抵抗値は約23Ωである。センサ保持部45は1辺2cmの正六角形に記憶処理されており、刺激導入部47は4cmである。記憶処理は、370℃で、40分間熱することにより行う。熱収縮チューブは、フルオロポリマー製で、収縮後膜厚が0.25mmである。
【0051】
上記の材質・形状・記憶処理条件の場合、27℃の空気中においては、SMAガイドに0.2mAの電流を約2秒間流すことで記憶形状に回復する。一方、2秒間の加熱では熱収縮チューブの外には熱はほとんど伝わらず、熱で脳細胞に損傷を与えることはない。
【0052】
図5は、電極−生理食塩水の接触インピーダンスの実験結果を示すグラフである。図6は、2つの電極間の電気的絶縁度の実験結果を示すグラフである。図5及び図6において、横軸は周波数であり、縦軸はインピーダンス(破線)及び位相遅れ(実線)である。
【0053】
この実験は、髄液や神経細胞などを包括的に模擬する生理食塩水中で行っている。電極と電極の間は生理食塩水で満たされており、電気的に接続していることになる。以下では、ある脳波が隣接する2つのセンサにより検出される場合として、図3のセンサ334とセンサ335を例にして説明する。
【0054】
センサ334の真下で発生した脳波は、信号源である神経細胞から「電極−生理食塩水の接触インピーダンス」を介して電極へと伝わる(図5参照)。しかし、この脳波は、同様に「信号源から髄液を経由してセンサ335」という経路でも伝わる。ただし、後者の経路で伝わった信号は、信号源と電極との距離などに応じて減衰する。「電極−電極間のインピーダンス」はこの減衰する具合を表す(図6参照)。
【0055】
本実験では、脳波の信号周波数帯域において、電極と生理食塩水の接触インピーダンスに比べ、電極間のインピーダンスが10倍程度である。よって、あるセンサの直下の脳波について、隣接する電極では、10分の1程度にまで減衰するものと評価することができる。このように、電極−生理食塩水の接触インピーダンスは脳波の信号周波数帯域において十分小さく、また、2つの電極間の電気的絶縁度は十分高い値となっている。そのため、測定した脳波の振幅が小さすぎてノイズに埋もれることはなく、さらに、異なる電極で測定した脳波が混信することもないと評価することができる。
【0056】
なお、形状記憶部は、形状記憶合金だけでなく、例えば、形状記憶樹脂等の形状記憶特性を示すものであればよい。この場合、与えられる刺激は、材料に合わせたものとする。また、記憶される形状も、正六角形に限らず、例えば、相似形の複数の多角形を入れ子状に設けたもの(くもの巣状)など、自由に設定してよい。
【0057】
また、撮影装置43は、利用者がセンサ33の位置情報を入力する入力部を備え、位置推定処理部55は、入力されたセンサ33の位置情報と推定した位置情報を比較し、表示部57は、その比較結果も表示するようにしてもよい。
【0058】
さらに、本願発明を、被覆された柱状の伝達線と、前記伝達線を覆う筒状の絶縁体とを備え、前記伝達線の一方の端は、前記絶縁体の外部へ出され、被覆を剥離して前記絶縁体の同一断面上で前記絶縁体に巻き付けた電極であり、他方の端は、前記電極が計測した信号を、前記絶縁体の外部からの影響を遮断され及び外部への影響を遮断して出力する計測装置として捉えてもよい。
【符号の説明】
【0059】
21 脳信号計測装置、23 導入管、25、保持部、271,・・・,276 センサ、29 電源、31 脳信号計測システム、331,・・・,336 センサ、35 保持部、37 脳信号計測装置、39 刺激付与装置、43 撮影装置、45 センサ保持部、47 刺激導入部、53 撮影部、55 位置推定処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6