【実施例】
【0032】
まず、
図1及び
図2を参照して、本願発明の一例である脳信号計測装置21における6個のセンサ27
1〜27
6(以下、添え字について、複数を意味する場合は「6個のセンサ27」等と省略する。)を配置する処理の概要について説明する。
【0033】
図1にあるように、頭部1は、外部から、順に、頭皮等3、頭蓋骨5、硬膜7、クモ膜9、血管11、軟膜13及び脳15の階層構造である。硬膜7とクモ膜9の間17は、実際はほとんど隙間がない状況ではあるが、電極等を配置することは可能である。本願発明の脳信号計測装置は、頭皮等3、頭蓋骨5及び硬膜7を貫通する穴19が設けられ、この穴19を用いて、硬膜7とクモ膜9の間17に挿入される。穴19は、例えば直径1cm以下で実現可能である。
【0034】
図2(a)〜(c)は、本願発明の脳信号計測装置21(本願請求項の「脳信号計測装置」に対応)による通電加熱による自動展開の概要を示す図である。脳信号計測装置21は、2本の並行する管であり、一方の端が直径1cm以下の尖頭で穴19より頭内部に挿入される導入管23と、ライン状であり、導入管の一方の管について、頭内部に挿入されない方の端から挿通して頭内部に挿入される方の端に延び、さらに、導入管の他方の管について、頭内部に挿入される方の端から挿通して頭内部に挿入されない方の端に延びる保持部25(本願請求項の「保持部」に対応)を備える。保持部25は、6個のセンサ27(本願請求項の「計測手段」に対応)を保持する。保持部25は、形状記憶合金であるSMAガイド(本願請求項の「形状記憶部」に対応)と、SMAガイドを覆う熱・電気的絶縁体である熱収縮チューブ(本願請求項の「刺激遮断部」に対応)を備える。SMAガイドの材料は、例えばチタンとニッケルの合金である。これは生体適合性も既に証明されており、生体埋め込み用途も含め医療応用が多数なされている。なお、鉄系形状記憶合金などであってもよい。また、センサ27の材料は、例えば、白金(プラチナ)、白金とイリジウムの合金である。これらも、既に生体適合性が証明されており、カテーテルやペースメーカ用の電極として多数医療応用がなされている。
図4では、白金を例に説明している。また、熱収縮チューブの材料は、例えば、PTFEというフッ素樹脂を使用したものである(例えば、テフロン(登録商標)である。)。これも、既に生体適合性が証明済みのものが存在する。
【0035】
本実施例では、SMAガイドは、少なくとも室温〜体温では硬膜7及びクモ膜9よりも柔軟であり、通電加熱により所定の温度以上となったときに記憶処理された形状となるものである。ここで、SMAガイドの中央部分は正六角形に記憶処理されており、センサ27は、保持部25において、SMAガイドの正六角形の各頂点に対応して保持されているとする。
【0036】
図2(a)を参照して、導入管23を穴19に挿入する時点では、導入管23の頭内部に挿入される側の端から保持部25を出さず、センサ27を導入管23に配置して、導入管23を穴19に挿入する。
【0037】
次に、
図2(b)を参照して、導入管23を穴19に挿入して、導入管23の端が硬膜7とクモ膜9の間17に到達すると導入管23を穴19に固定し、導入管23の頭内部に挿入される側の端から保持部25の中央部分(少なくとも正六角形に記憶処理されている部分)を硬膜7とクモ膜9の間17に挿入する。
【0038】
次に、
図2(c)を参照して、電源29(本願請求項の「刺激付与装置」に対応)が保持部25のSMAガイドを通電加熱することにより、保持部25のSMAガイドは記憶処理された正六角形の形状へと変化する。その頂点に保持された各センサ27は、SMAガイドの形状変更に伴い、所定の位置へと移動する。穴19は直径1cm以下のもので足り、このような穴から硬膜下に挿入後、輪を広げるように電極を展開することができ、低侵襲な手術で硬膜下電極を留置可能となる。
【0039】
続いて、
図3を参照して、本願発明の一例である脳信号計測システム31(本願請求項の「脳信号計測システム」に対応)の構成について、具体的に説明する。
【0040】
脳信号計測システム31は、硬膜とクモ膜の間に設置されて脳信号を計測する複数のセンサ33と複数のセンサ33を保持する保持部35とを有する脳信号計測装置37と、保持部35のSMAガイドに刺激を付与する刺激付与装置39と、センサ33の計測結果を受信する計測装置41と、体外からX線等により撮影して表示する撮影装置43を備える。
【0041】
保持部35は、正六角形に記憶処理された形状記憶特性を有するセンサ保持部45と、センサ保持部45に刺激付与装置39からの刺激を導入する刺激導入部47を備える。
【0042】
本実施例では、センサ33は六角形の各頂点に位置し、センサ保持部45及び刺激導入部47は、加熱により形状記憶特性を示す形状記憶合金(SMAガイド)(センサ保持部45のSMAガイドが本願請求項の「形状記憶部」に対応)が、熱・電気的絶縁体である熱収縮チューブ(本願請求項の「刺激遮断部」に対応)により覆われたものであるとする。
【0043】
刺激付与装置39は、体内に挿入されたセンサ保持部45(
図2(c)参照)に対して、保持部35の一方の端49から他方の端51へ通電して加熱することにより、センサ保持部45の形状記憶特性により予め記憶処理された形状へ変化させて、各センサ33の位置を変更する。通電加熱は、1〜2A程度の電流で瞬時加熱するものであり、絶縁体の熱伝導率は低いので、外部に熱は伝わらない。これにより、センサ33の設置が容易となる。また、室温〜体温では柔軟な状態となるため、頭部内での位置の調整や抜去も容易である。よって、硬膜下電極の挿入・抜去が容易となる。
【0044】
計測装置41は、保持部35の端49に近いセンサ33
1、33
2及び33
3について端49から計測結果を得、他方の端51に近いセンサ33
4、33
5及び33
6について端51から計測結果を得る。
図4を参照して、センサ33
4、33
5及び33
6の周辺59の保持部35の構造については、後に具体的に説明する。
【0045】
撮影装置43は、術中X線写真など、頭部内のセンサ保持部45のSMAガイドを体外から撮影可能な撮影部53(本願請求項の「撮影部」に対応)と、撮影部53により撮影された画像情報を画像処理して、直接検出可能なセンサ33については検出した位置によりセンサ33の位置を推定し、直接検出されないセンサ33についてはセンサ保持部45の多角形の辺の情報から頂点の位置を推定してセンサ33の位置を推定する位置推定処理部55(本願請求項の「位置推定処理手段」に対応)と、撮影部53の撮影結果及び位置推定処理部55の位置推定結果を表示する表示部57を備える。
【0046】
続いて、
図4を参照して、センサ33
4、33
5及び33
6の周辺59の保持部35の構造について、より具体的に説明する。
【0047】
保持部35は、形状記憶合金であるSMAガイド71と、SMAガイド71を覆う熱・電気的絶縁体である熱収縮チューブ73を備える。なお、
図4(a)では、内部の構造を明確化するため、熱収縮チューブ73は、破線で表現している。
【0048】
被覆白金線77、79及び81は、テフロン(登録商標)により被覆されたものであり、それぞれ、センサ33
6、33
5及び33
4のためのものである。被覆白金線77、79及び81の一部は、熱収縮チューブ73に覆われている。被覆白金線77の一方の端は、被覆された状態で測定装置41に電気的に接続される。他方の端は、六角形の頂点に位置する場所において熱収縮チューブ73の外に出され、被覆を剥離した白金線83とされ、熱収縮チューブ73の外側に巻き付け、センサ33
6として機能する電極として利用する。このような電極の微細化を利用することにより、空間分解能の向上を図ることが可能となる。被覆白金線79及び81も、同様に、それぞれ、六角形の頂点に位置する場所において熱収縮チューブ73の外に出され、被覆を剥離した白金線とされ、熱収縮チューブ73の外側に巻き付け、それぞれ、センサ33
5及び33
4として機能する電極として利用する。
【0049】
図4(b)は、
図4(a)の断面85における断面図である。ここで、熱収縮チューブ73は、SMAガイド71を覆う熱収縮チューブ73
1と、熱収縮チューブ73
1の外側にあり、被覆白金線77、79及び81とともに覆う熱収縮チューブ73
2の階層構造としている。
【0050】
脳信号計測装置37の具体例について説明する。保持部35の線径は0.3mmである。SMAガイド71の材質はNi−Ti合金54.9wt%(wt%:質量パーセント濃度)であり、直流抵抗値は約23Ωである。センサ保持部45は1辺2cmの正六角形に記憶処理されており、刺激導入部47は4cmである。記憶処理は、370℃で、40分間熱することにより行う。熱収縮チューブは、フルオロポリマー製で、収縮後膜厚が0.25mmである。
【0051】
上記の材質・形状・記憶処理条件の場合、27℃の空気中においては、SMAガイドに0.2mAの電流を約2秒間流すことで記憶形状に回復する。一方、2秒間の加熱では熱収縮チューブの外には熱はほとんど伝わらず、熱で脳細胞に損傷を与えることはない。
【0052】
図5は、電極−生理食塩水の接触インピーダンスの実験結果を示すグラフである。
図6は、2つの電極間の電気的絶縁度の実験結果を示すグラフである。
図5及び
図6において、横軸は周波数であり、縦軸はインピーダンス(破線)及び位相遅れ(実線)である。
【0053】
この実験は、髄液や神経細胞などを包括的に模擬する生理食塩水中で行っている。電極と電極の間は生理食塩水で満たされており、電気的に接続していることになる。以下では、ある脳波が隣接する2つのセンサにより検出される場合として、
図3のセンサ33
4とセンサ33
5を例にして説明する。
【0054】
センサ33
4の真下で発生した脳波は、信号源である神経細胞から「電極−生理食塩水の接触インピーダンス」を介して電極へと伝わる(
図5参照)。しかし、この脳波は、同様に「信号源から髄液を経由してセンサ33
5」という経路でも伝わる。ただし、後者の経路で伝わった信号は、信号源と電極との距離などに応じて減衰する。「電極−電極間のインピーダンス」はこの減衰する具合を表す(
図6参照)。
【0055】
本実験では、脳波の信号周波数帯域において、電極と生理食塩水の接触インピーダンスに比べ、電極間のインピーダンスが10倍程度である。よって、あるセンサの直下の脳波について、隣接する電極では、10分の1程度にまで減衰するものと評価することができる。このように、電極−生理食塩水の接触インピーダンスは脳波の信号周波数帯域において十分小さく、また、2つの電極間の電気的絶縁度は十分高い値となっている。そのため、測定した脳波の振幅が小さすぎてノイズに埋もれることはなく、さらに、異なる電極で測定した脳波が混信することもないと評価することができる。
【0056】
なお、形状記憶部は、形状記憶合金だけでなく、例えば、形状記憶樹脂等の形状記憶特性を示すものであればよい。この場合、与えられる刺激は、材料に合わせたものとする。また、記憶される形状も、正六角形に限らず、例えば、相似形の複数の多角形を入れ子状に設けたもの(くもの巣状)など、自由に設定してよい。
【0057】
また、撮影装置43は、利用者がセンサ33の位置情報を入力する入力部を備え、位置推定処理部55は、入力されたセンサ33の位置情報と推定した位置情報を比較し、表示部57は、その比較結果も表示するようにしてもよい。
【0058】
さらに、本願発明を、被覆された柱状の伝達線と、前記伝達線を覆う筒状の絶縁体とを備え、前記伝達線の一方の端は、前記絶縁体の外部へ出され、被覆を剥離して前記絶縁体の同一断面上で前記絶縁体に巻き付けた電極であり、他方の端は、前記電極が計測した信号を、前記絶縁体の外部からの影響を遮断され及び外部への影響を遮断して出力する計測装置として捉えてもよい。