【実施例1】
【0032】
材料
すべての合成オリゴヌクレオチドは、Invitrogen社から購入した。Sf21昆虫細胞中で発現された組換えヒトVEGF
165及び大腸菌中で発現された組換えヒトVEGF
121は、無担体凍結乾燥粉末の形態にあるものをR&D Systems社から購入した。これらのタンパク質は、TBSE (10 mM Tris/HCl, 100 mM NaCl, and 0.05 mM EDTA, pH 7.0)に再溶解した。
【0033】
方法
SELEXプロトコール
約30mer(28mer〜31mer)のランダム化領域と、両端に各18merのプライマー結合領域を含む、FITC-標識一本鎖DNAライブラリー(表1)を第1のスクリーニングライブラリーとして用いた。ライブラリーは、TBSEに溶解した。アプタマーの立体構造をフォールディングするために、ライブラリーを95℃で3分間加熱し、次いで2℃/分の速度で25℃までゆっくりと冷却した。5pmolのVEGF
121をニトロセルロース膜上に固定化した。ニトロセルロースは、窒素原子上に陽イオン、酸素原子上に陰イオンを持つので、核酸はニトロセルロース膜に容易に結合する。次にニトロセルロース膜を、10%(v/v)のTBSTE(0.05%(v/v)のTween 20(商品名)を含むTBSE)中ヒト血清でブロッキングした。フォールディングされたDNAライブラリーと、ニトロセルロース膜上に固定化されたVEGF
121を一緒に24℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、ニトロセルロース膜をTBSTEで2回洗浄した。次いでVEGF
121に結合したDNAを抽出し、エタノールで沈殿させた。回収したDNAを、フォワードプライマー(Fw)及びリバースプライマー(Rev)(表1)並びにAmplitaq Gold (商品名、Applied Biosystems)を用いた40サイクルのPCRにより増幅した。増幅されたDNAを次のスクリーニングライブラリーとして用いた。
【0034】
【表1】
【0035】
DNAライブラリーのVEGF121に対する親和性は、アプタマーブロッティングアッセイ(Noma, T.; Ikebukuro, K.; Sode, K.; Ohkubo, T.; Sakasegawa, Y.; Hachiya, N.; Kaneko, K. Biotechnol Lett 2006, 28, 1377-1381.)により各ラウンドごとに測定した。この測定方法では、DNAライブラリーとインキュベーション及び洗浄後、膜を0.1 % (v/v) HRP-標識抗FITC抗体 (Dako Cytomation社製)と共に24℃で1時間インキュベートした。次いで、TBSTEで2回洗浄し、VEGF
121にDNAが結合したことを示すスポットを、Immobilon Western chemiluminescent HRP substrate (商品名、Millipore社製)で可視化した。
【0036】
アプタマーブロッティングアッセイ
FITC-標識アプタマーをTBSEに溶解し、95℃で3分間加熱し、上記のとおりゆっくりと冷却した。VEGF
165 又はVEGF
121を標的タンパク質としてニトロセルロース膜上に固定化した。チログロビンとBSAも競合タンパク質として固定化した。次いで、アプタマーをこれらのタンパク質と共にTBSTE中でインキュベートした。次に、膜を0.1% (v/v)のHRP標識抗FITC抗体と共に24℃で1時間インキュベートした。次いでTBSTEで2回洗浄し、VEGF
165 又はVEGF
121にDNAが結合したことを示すスポットを、Immobilon Western chemiluminescent HRP substrate (商品名、Millipore社製)で可視化した。
【0037】
円二色性分光測定
アプタマーの構造は、円二色性分光測定により分析した。円二色性(CD)は、分光偏光計JASCO (J-725)(商品名)で測定し記録した。アプタマーをTBSEに溶解し、95℃で3分間加熱し、上記したフォールディングの際と同様にゆっくり冷却した。フォールディングしたアプタマー試料をCD測定に用いた。DNA濃度は10μMに固定した。
【0038】
表面プラズモン共鳴(SPR)による結合親和性の測定
VEGF
165に対するアプタマーの結合親和性は、BIACORE X instrument(商品名、Biacore AB社製)を用いて24℃で測定した。400UのVEGF
165(10mM酢酸緩衝液、pH6.0に溶解)を、商品説明書の指示通りにCM5センサーチップ(商品名、Biacore AB社製)上にアミンカップリングにより固定化した。次に種々の濃度のアプタマーを分析物として注入した。TBSEをランニング緩衝液として用いた(流速は20μL/ML)。K
D値は、Biacore T100 evaluation software(商品名)を用い、会合速度と解離速度を合わせる(カーブフィッティング)ことにより1:1結合モデルを用いて測定した。
【0039】
結果
アプタマーのスクリーニング
VEGFファミリーに対するアプタマーは、SELEX法を用いて単離した。この選択において、VEGF
121を膜上に固定化し、FITC-標識オリゴヌクレオチドを膜と一緒にインキュベートした。さらに、一本鎖DNAライブラリー中のオリゴヌクレオチドのVEGF
121に対する結合性を、アプタマーブロッティングアッセイにより各ラウンドごとに測定した。3ラウンドの選択後、VEGF
121に結合する8つのクローンを分析した(表2)。これらには重複した配列はなかった。VEGF特異的アプタマーを同定するために、VEGF
165を固定化した膜を用いて全てのクローンについてアプタマーブロッティングアッセイを行った(
図1)。その結果、Vap7が膜上のVEGF
165によく結合した。また、Vap7がVEGF
121に結合するかどうかをアプタマーブロッティングアッセイ(
図2)及びSPR測定(表3)によりチェックした。
【0040】
【表2】
(表2には、ランダム配列部分のみを示す。全てのアプタマーには、このランダム配列の5'末端に、表1に示すフォワード側プライマー、3'側末端にリバース側プライマーの相補鎖が結合されている)
【0041】
得られたアプタマーの特徴付けと改良
Vap7の特異性を調べるために、競合物質と共にアプタマーブロッティングアッセイを行った。
【0042】
競合物質としてチログロビンを用いた。なぜなら、このタンパク質は、癌の診断に用いられるマーカータンパク質の1つであるからである。Vap7はチログロビンには結合せず、VEGF
165に特異的に結合した(
図3)。Vap7は、VEGF
121とVEGF
165の両方に結合するので、これら2種類のタンパク質の共通部分であるRBDを認識するものと考えられる。アプタマーブロッティングアッセイにおいては、Vap7のVEGF
121に対する結合親和性は、VEGF
165に対する結合親和性よりも低かった(
図2)。これは、SPR測定の結果と異なっていた。これは、タンパク質の固定化の方法がアプタマーブロッティングアッセイとSPR測定とで異なっていることに起因するものと考えられる。アプタマーブロッティングでは、標的タンパク質は、膜上に固定化される。従って、固定化されたタンパク質は、自由に動けないかもしれない。一方、SPR測定では、タンパク質は、リンカーを介してベースに固定化される。リンカーがタンパク質の動きを妨害するとは考えにくい。
【0043】
標的分子に対するアプタマーの接近容易性(接近のしやすさ(accessibility))は、親和性と密接に関連する。アプタマーの構造を最適化することにより接近容易性が向上する可能性があると考えられる。アプタマーと標的分子間の結合に寄与しない余剰な配列を削除すれば、アプタマーは標的に対してよりスムースに接近できるかもしれない。従って、どの配列がアプタマーの親和性に重要であるのかを推測するために、Vap7の構造を調べた。
【0044】
m-foldソフトウェア(Zuker, M. Nucleic Acids Res 2003, 31, 3406-3415.)を用いて解析すると、Vap7は、ステム−ループ構造を含む2種類の二次構造をとることが予測された(
図8)。また、QGRS Mapper(
図9、Kikin, O.; D'Antonio, L.; Bagga, P. S. Nucleic Acids Research 2006, 34, W676-W682.)により、Vap7は、Gカルテット構造(G-quadruplex structure)を形成することが示唆された。どの構造がVap7の親和性に関係しているのかを決定するために、K
+イオンの存在下及び非存在下における種々の条件下でフォールディングしたVap7の親和性を調べた。その結果、KCl含有TBSE中でフォールディングしたVap7は、KClを含まないTBSE中でフォールディングしたものよりもVEGF
165に強く結合した。K
+イオンは核酸のGカルテット構造を安定化できることが報告されている。これらの実験結果から、Vap7はGカルテット構造でVEGF
165を認識しているものと考えられる。Vap7の親和性は、Gカルテット構造の安定化の結果改善されるものと考えられる。
【0045】
Vap7がGカルテット構造をとることが示唆されたので、Vap7のCD分光測定を行い、Vap7の構造を解析した。Gカルテット構造をとるDNAが特徴的なCD分光スペクトルを有することはよく知られている(Paramasivan, S.; Rujan, I.; Bolton, P. H. Methods 2007, 43, 324-331.)。Vap7のCD分光スペクトルを
図5に示す。Vap7のCD分光スペクトルでは、240nmに1つのネガティブバンドと、220nm及び270nmに2つのポジティブバンドが見られる。このCD分光スペクトルの特徴は、報告されている平行Gカルテット構造のCD分光スペクトルの特徴(Paramasivan, S.; Rujan, I.; Bolton, P. H. Methods 2007, 43, 324-331.)と類似している。CD分光スペクトルの測定結果とQGRS mapperによる予測に基づき、Vap7の切断変異体であるV7t1を設計した。V7t1は、予測されるGカルテット構造を構成するために必要なすべての配列を含む(表4)。V7t1とVEGFとの結合を、アプタマーブロッティングアッセイ(
図10)とSPR測定(表3、
図7)とによりチェックした。これらの実験の結果、V7t1はVEGF
121及びVEGF
165に結合した。また、CDスペクトル(
図6)を測定することにより、V7t1の構造を予測した。Vap7及びV7t1はいずれもVEGF
165に結合できるが、V7t1のCDスペクトルは、Vap7のCDスペクトルとは異なっていた。アプタマーのネイティブな(すなわち、標的に結合していない状態での)構造が変化してもその親和性が維持されることは驚くべきことである。アプタマーの構造は容易に変化するので、アプタマーの構造が、結合状態と非結合状態で異なるのは不合理ではない。V7t1がVEGF
165に対して十分な親和性を有していたので、V7t1を特定の同力学的試験に付した。
【0046】
Vap7とV7t1の詳細な特徴を研究するために、SPR測定を行った(表3、
図7)。次いで、各アプタマーとVEGF
165との相互作用の結合解離定数(K
D)を測定した。Vap7とV7t1のVEGF
165に対するK
Dは、それぞれ20nM及び1.4nMであった。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】