(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
片面に、2つ以上の層を有し、かつ、圧縮応力を有する多層膜が形成された単結晶基板の上記多層膜が形成された面側と反対側の面側から、レーザを照射することにより、上記単結晶基板をその厚み方向において2等分して得られる2つの領域のうち、少なくとも上記単結晶基板の上記多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内に、熱変性層が形成される多層膜成膜後熱変性層形成工程を、少なくとも経ることにより、
上記単結晶基板の上記多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内のみに上記熱変性層が形成された多層膜付き単結晶基板を製造し、
さらに、当該多層膜付き単結晶基板の上記多層膜に対して、少なくともパターニング処理を施すことにより、発光素子、光発電素子、半導体素子から選択されるいずれか1つの素子として機能する素子部分を作製する素子部分形成工程を少なくとも経て、上記素子部分と当該素子部分に略対応するサイズを有する単結晶基板とを含む素子を製造することを特徴とする素子製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上に説明したように、発光素子などの各種素子を作製するために、サファイア基板などの単結晶基板上に、素子の構成に応じた多層膜を成膜すると、成膜後の基板(多層膜付き単結晶基板)は、通常は、反ってしまう。一方、素子を製造する上では、多層膜付き単結晶基板に対して、通常は、さらに種々の後工程が実施される。しかしながら、多層膜付き基板が反った状態で、後工程を実施する場合、素子の品質ばらつきや歩留まり低下などを招いていた。
【0011】
たとえば、後工程において多層膜をパターニング処理しようとした場合、以下に説明する問題が発生する。すなわち、多層膜をパターニング処理する場合、フォトマスクを用いて、多層膜上に形成されたレジストを露光することになる。この際、多層膜付き単結晶基板は反った状態である。それゆえ、単結晶基板の中央部に位置する多層膜の表面に対して露光のために照射される光の焦点を合わせると、単結晶基板の端部近傍に位置する多層膜の表面では、焦点がぼけることになる。この場合、多層膜の面内において露光ムラが生じるため、後工程を経て製造される素子の品質ばらつきや、歩留まりの低下を招くことになる。
【0012】
また、後工程において、多層膜付き単結晶基板の多層膜が形成された面と反対側の面を研磨(バックラップ処理)しようとした場合、多層膜付き単結晶基板の多層膜が形成された面を平坦な研磨盤に貼り付けて固定する必要がある。しかし、この場合、多層膜付き単結晶基板が反っていると、バックラップ処理する面を平坦にするために、貼り付け時に、多層膜付き単結晶基板に対して大きな圧力を加えて貼り付け処理を行う必要がある。しかしながら、反りが大きいほど、大きな圧力を加えなければならなくなるため、結果として、多層膜付き
単結晶基板にクラックが生じ易くなり、歩留まりの低下を招くことになる。なお、このような問題の発生を回避するために、より厚みのある単結晶基板を用いることも考えられる。しかしながら、この方法では、バックラップ処理に必要な研磨量が増大し、研磨時間がより長時間となるため、生産性が低下し実用性に欠ける。
【0013】
上述した事情を考慮すれば、多層膜付き単結晶基板は、出来る限り平坦な状態となるように、後工程実施前において、多層膜の成膜により生じた反りが矯正されていることが好ましいといえる。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、多層膜の成膜により生じた反りが矯正された多層膜付き単結晶基板、その製造方法、および、当該製造方法を利用した素子製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明の多層膜付き単結晶基板は、単結晶基板と、該単結晶基板の片面に形成された2つ以上の層を有
し且つ圧縮応力を有する多層膜と、を含み、単結晶基板をその厚み方向において2等分して得られる2つの領域のうち、
(I)単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内
のみに、
レーザ照射により形成された熱変性層が設けられ
るか、あるいは、
(II)単結晶基板の上記多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内に、レーザ照射により形成された第1の熱変性層が設けられ、単結晶基板の多層膜が形成された面側の領域内に、レーザ照射により形成された第2の熱変性層が設けられると共に、第1の熱変性層により第1の熱変性層が形成された領域側に凸を成すように単結晶基板を反らす作用が、第2の熱変性層により第2の熱変性層が形成された領域側に凸を成すように単結晶基板を反らす作用よりも大きいことを特徴とする。
【0016】
本発明の多層膜付き単結晶基板の一実施態様は、
単結晶基板をその厚み方向において2等分して得られる2つの領域のうち、(II)単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内に第1の熱変性層が設けられ、単結晶基板の多層膜が形成された面側の領域内に前記第2の熱変性層が設けられる場合において、単結晶基板の平面方向における第2の熱変性層の総面積が、第1の熱変性層の総面積よりも小さいことが好ましい。
【0017】
本発明の多層膜付き単結晶基板の他の実施態様は、
(I)に示す態様における前記熱変性層
あるいは(II)に示す態様における第1の熱変性層および第2の熱変性層が、多層膜と平行に設けられていることが好ましい。
【0018】
本発明の多層膜付き単結晶基板の他の実施態様は、単結晶基板の厚み方向の相対位置を、多層膜が設けられた側の面を0%と仮定し、多層膜が設けられた面と反対側の面を100%とし仮定した際に、
(I)に示す態様における熱変性層
あるいは(II)に示す態様における第1の熱変性層が、単結晶基板の厚み方向の50%を超え95%以下の範囲内に設けられていることが好ましい。
【0019】
本発明の多層膜付き単結晶基板の他の実施態様は、
(I)に示す態様における熱変性層
あるいは(II)に示す態様における第1の熱変性層および第2の熱変性層が、単結晶基板の平面方向に対して、
i)複数個の同一形状および同一サイズの多角形を規則的に配置した形状、
ii)複数個の同一形状および同一サイズの円または楕円を規則的に配置した形状、
iii)同心円状、
iv)単結晶基板の中心点に対して略点対称に形成された形状、
v)単結晶基板の中心点を通じる直線に対して略線対称に形成された形状、
vi)ストライプ形状、ならびに、
vii)らせん形状
から選択される少なくともいずれか1つのパターン形状で設けられていることが好ましい。
【0020】
本発明の多層膜付き単結晶基板の他の実施態様は、複数個の同一形状および同一サイズの多角形を規則的に配置した形状が、格子形状であることが好ましい。
【0021】
本発明の多層膜付き単結晶基板の他の実施態様は、格子形状を成すパターンを構成するラインのピッチが、50μm〜2000μmの範囲内であることが好ましい。
【0022】
本発明の多層膜付き単結晶基板の他の実施態様は、単結晶基板の厚み方向の相対位置を、多層膜が設けられた側の面を0%と仮定し、多層膜が設けられた面と反対側の面を100%とし仮定した際に、
(II)に示す態様における第2の熱変性層が、単結晶基板の厚み方向の0%以上50%未満の範囲内に設けられていることが好ましい。
【0023】
本発明の多層膜付き単結晶基板の他の実施態様は、単結晶基板の材質が、サファイアであることが好ましい。
【0024】
本発明の多層膜付き単結晶基板の他の実施態様は、単結晶基板の直径が50mm以上300mm以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の多層膜付き単結晶基板の他の実施態様は、単結晶基板の厚みが0.05mm以上5.0mm以下であることが好ましい。
【0026】
本発明の多層膜付き単結晶基板の他の実施態様は、多層膜を構成する少なくともいずれか1層が、窒化物半導体結晶層であることが好ましい。
【0027】
本発明の多層膜付き単結晶基板の他の実施態様は、多層膜に対して、少なくともパターニング処理を施すことにより、発光素子、光発電素子、半導体素子から選択される素子が作製できることが好ましい。
【0028】
第一の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法は、
(I)片面に、2つ以上の層を有し、かつ、圧縮応力を有する多層膜が形成された単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側から、レーザを照射することにより、単結晶基板をその厚み方向において2等分して得られる2つの領域のうち、少なくとも単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内に、熱変性層
が形成
される多層膜成膜後熱変性層形成工程を、少なくとも経ることにより、
単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内のみに熱変性層が形成された多層膜付き単結晶基板を製造することを特徴とする。
また、第2の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法は、(II)(1)
単結晶基板の片面側からレーザを照射することにより、 単結晶基板の厚み方向の相対位置を、レーザが照射される側の面を0%と仮定し、レーザが照射される側の面と反対側の面を100%と仮定した際に、第2の熱変性層が、単結晶基板の厚み方向の0%以上50%未満の範囲内に位置するように形成される多層膜成膜前熱変性層形成工程と、 (2)第2の熱変性層が形成された単結晶基板の上記レーザが照射された側の面に、2つ以上の層を有し、かつ、圧縮応力を有する多層膜を形成する多層膜形成工程と、(3)多層膜および第2の熱変性層が形成された単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側から、レーザを照射することにより、多層膜および第2の熱変性層が形成された単結晶基板をその厚み方向において2等分して得られる2つの領域のうち、多層膜および第2の熱変性層が形成された単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内に、第1の熱変性層が形成される多層膜成膜後熱変性層形成工程とを、この順に少なくとも経ることにより、第1の熱変性層により第1の熱変性層が形成された領域側に凸を成すように単結晶基板を反らす作用が、第2の熱変性層により第2の熱変性層が形成された領域側に凸を成すように単結晶基板を反らす作用よりも大きい多層膜付き単結晶基板を製造することを特徴とする。
第二の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法の一実施態様は、単結晶基板の平面方向における前記第2の熱変性層の総面積が、第1の熱変性層の総面積よりも小さいことが好ましい。
【0029】
第一および第二の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法の一実施態様は、レーザの照射が、下記A〜Bに示す少なくともいずれか1つに記載の照射条件を満たすように実施されることが好ましい。
<照射条件A>
・レーザ波長:200nm〜350nm
・パルス幅:ナノ秒オーダー
<照射条件B>
・レーザ波長:350nm〜2000nm
・パルス幅:フェムト秒オーダー〜ピコ秒オーダー
【0030】
第一および第二の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法の他の実施態様は、
(I)に示す態様における熱変性層
あるいは(II)に示す態様における第1の熱変性層および第2の熱変性層が、多層膜と平行となるように形成されることが好ましい。
【0031】
第一および第二の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法の他の実施態様は、単結晶基板の厚み方向の相対位置を、多層膜が設けられた側の面を0%と仮定し、多層膜が設けられた面と反対側の面を100%と仮定した際に、
(I)に示す態様における熱変性層
あるいは前記(II)に示す態様における第1の熱変性層が、単結晶基板の厚み方向の50%を超え95%以下の範囲内に位置するように形成されることが好ましい。
【0032】
第一および第二の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法の他の実施態様は、
(I)に示す態様における熱変性層
あるいは(II)に示す態様における第1の熱変性層および第2の熱変性層が、単結晶基板の平面方向に対して、
i)複数個の同一形状および同一サイズの多角形を規則的に配置した形状、
ii)複数個の同一形状および同一サイズの円または楕円を規則的に配置した形状、
iii)同心円状、
iv)単結晶基板の中心点に対して略点対称に形成された形状、
v)単結晶基板の中心点を通じる直線に対して略線対称に形成された形状、
vi)ストライプ形状、ならびに、
vii)らせん形状
から選択される少なくともいずれか1つのパターン形状を描くように形成されることを特徴とすることが好ましい。
【0033】
第一および第二の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法の他の実施態様は、複数個の同一形状および同一サイズの多角形を規則的に配置した形状が、格子形状であることが好ましい。
【0034】
第一および第二の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法の他の実施態様は、格子形状を成すパターンを構成するラインのピッチが、50μm〜2000μmの範囲内であることが好ましい。
【0036】
第一および第二の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法の他の実施態様は、単結晶基板の材質が、サファイアであることが好ましい。
【0037】
第一および第二の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法の他の実施態様は、単結晶基板の直径が50mm以上300mm以下であることが好ましい。
【0038】
第一および第二の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法の他の実施態様は、単結晶基板の厚みが0.05mm以上5.0mm以下であることが好ましい。
【0039】
第一および第二の本発明の多層膜付き単結晶基板の製造方法の他の実施態様は、多層膜を構成する少なくともいずれか1層が、窒化物半導体結晶層であることが好ましい。
【0040】
第一の本発明の素子製造方法は、片面に、2つ以上の層を有し、かつ、圧縮応力を有する多層膜が形成された単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側から、レーザを照射することにより、単結晶基板をその厚み方向において2等分して得られる2つの領域のうち、少なくとも単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内に、熱変性層
が形成
される多層膜成膜後熱変性層形成工程を、少なくとも経ることにより、
単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内のみに熱変性層が形成された多層膜付き単結晶基板を製造し、さらに、当該多層膜付き単結晶基板の多層膜に対して、少なくともパターニング処理を施すことにより、発光素子、光発電素子、半導体素子から選択されるいずれか1つの素子として機能する素子部分を作製する素子部分形成工程を少なくとも経て、素子部分と当該素子部分に略対応するサイズを有する単結晶基板とを含む素子を製造することを特徴とする。
第二の本発明の素子製造方法は、(1)単結晶基板の片面側からレーザを照射することにより、 単結晶基板の厚み方向の相対位置を、レーザが照射される側の面を0%と仮定し、レーザが照射される側の面と反対側の面を100%と仮定した際に、 第2の熱変性層が、単結晶基板の厚み方向の0%以上50%未満の範囲内に位置するように形成される多層膜成膜前熱変性層形成工程と、(2)第2の熱変性層が形成された単結晶基板のレーザが照射された側の面に、2つ以上の層を有し、かつ、圧縮応力を有する多層膜を形成する多層膜形成工程と、(3)多層膜および第2の熱変性層が形成された単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側から、レーザを照射することにより、多層膜および第2の熱変性層が形成された単結晶基板をその厚み方向において2等分して得られる2つの領域のうち、多層膜および第2の熱変性層が形成された単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内に、第1の熱変性層が形成される多層膜成膜後熱変性層形成工程とを、この順に少なくとも経ることにより、第1の熱変性層により第1の熱変性層が形成された領域側に凸を成すように単結晶基板を反らす作用が、第2の熱変性層により第2の熱変性層が形成された領域側に凸を成すように単結晶基板を反らす作用よりも大きい多層膜付き単結晶基板を製造し、さらに、当該多層膜付き単結晶基板の多層膜に対して、少なくともパターニング処理を施すことにより、発光素子、光発電素子、半導体素子から選択されるいずれか1つの素子として機能する素子部分を作製する素子部分形成工程を少なくとも経て、素子部分と当該素子部分に略対応するサイズを有する単結晶基板とを含む素子を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
以上に説明したように本発明によれば、多層膜の成膜により生じた反りが矯正された多層膜付き単結晶基板、その製造方法、および、当該製造方法を利用した素子製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(多層膜付き単結晶基板およびその製造方法)
本実施形態の多層膜付き単結晶基板は、単結晶基板と、単結晶基板の片面に形成された2つ以上の層を有し、かつ、熱変性層形成前に圧縮応力を有する多層膜と、を含み、単結晶基板をその厚み方向において2等分して得られる2つの領域のうち、少なくとも単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内に、熱変性層が設けられていることを特徴とする。
【0045】
本実施形態の多層膜付き単結晶基板では、単結晶基板の片面に圧縮応力を有する多層膜が設けられている。それゆえ、この圧縮応力を解放するために、多層膜には、単結晶基板の平面方向に対して伸びようとする力が常に作用する。従って、通常であれば、多層膜付き単結晶基板は、多層膜が設けられた側に凸を成すように大きく反ってしまうことになる。
【0046】
しかしながら、本実施形態の多層膜付き単結晶基板においては、単結晶基板をその厚み方向において2等分して得られる2つの領域のうち、少なくとも単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内に、熱変性層が設けられている。このため、単結晶基板をその厚み方向において2等分するラインの多層膜が設けられた側の領域内おいて、多層膜中の圧縮応力を解放する力(単結晶基板の平面方向に広がろうとする力)が、単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内において、熱変性層に起因して生じる単結晶基板の平面方向に広がろうとする力により相殺される。その結果、多層膜の成膜に起因して生じる反りが矯正される。この場合、この反りが矯正されることで単結晶基板ができるだけ平坦な状態に近づくことが基本的に望ましいが、多層膜の成膜に起因して生じた反りの向きは同じままで、反りの程度が多少小さくなっているだけでもよく、あるいは、多層膜の成膜に起因して生じた反りの向きを反転させて逆向きに反らせるように、多層膜の成膜に起因して生じた反りを矯正してもよい。なお、多層膜の形成に起因する反りが矯正されることで単結晶基板が略平坦な状態に近づいた場合、従来の多層膜付き単結晶基板を用いる場合と比較して、本実施形態の多層膜付き単結晶基板を用いて、後工程を実施して素子を作製するときは、素子の品質ばらつきを抑制したり、歩留まりを向上させることがより容易となる。
【0047】
なお、「熱変性層」は、単結晶基板の一部の領域を局所的に加熱することにより形成される層である。この熱変性層は、単結晶基板をその厚み方向において2等分するラインで分割される2つの領域のうちの一方の領域内に、この熱変性層を形成した場合に、当該一方の領域側に凸を成すように単結晶基板を反らす作用を有する。このことから、熱変性層も、多層膜と同様に圧縮応力を有しているものと推定される。
【0048】
この熱変性層の形成方法としては特に限定されるものではないが、通常は、単結晶基板に対してレーザ照射する方法が用いられる。この場合、レーザ照射された領域に存在する原子の多光子吸収により、当該領域が局所的に加熱され、周囲の領域に対して結晶構造や結晶性の変化などの何がしかの変性が生じることで、熱変性層が形成される。すなわち、本実施形態の多層膜付き単結晶基板は、片面に、2つ以上の層を有し、かつ、圧縮応力を有する多層膜が形成された単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側から、レーザを照射することにより、単結晶基板をその厚み方向において2等分して得られる2つの領域のうち、少なくとも単結晶基板の多層膜が形成された面側と反対側の面側の領域内に、熱変性層を形成する多層膜成膜後熱変性層形成工程を、少なくとも経ることにより製造することができる。
【0049】
−レーザ照射条件−
なお、レーザの照射は、熱変性層が形成できるのであれば、如何様な照射条件で実施してもよいが、一般には、短い時間幅の中にエネルギーを集中させることが出来るため、高いピーク出力が得ることができるという点で、断続的にレーザ光を出すパルスレーザを用いて、下記1)および2)に示す範囲内で実施することが好ましい。
1)レーザ波長:200nm〜5000nm
2)パルス幅:フェムト秒オーダー〜ナノ秒オーダー(1fs〜1000ns)
【0050】
ここで、レーザ波長やパルス幅は、レーザ照射の対象となる単結晶基板の材質に起因する光透過性/光吸収性や、単結晶基板内に形成される熱変性層のサイズ・パターン精度、実用上利用可能なレーザ装置などを考慮して適宜選択される。しかしながら、レーザ照射に際しては、特に下記A〜Bに示す照射条件を選択することが好ましい。
<照射条件A>
・レーザ波長:200nm〜350nm
・パルス幅:ナノ秒オーダー(1ns〜1000ns)。なお、より好ましくは、10ns〜15ns。
<照射条件B>
・レーザ波長:350nm〜2000nm
・パルス幅:フェムト秒オーダー〜ピコ秒オーダー(1fs〜1000ps)。なお、より好ましくは、200fs〜800fs。
【0051】
なお、照射条件Aは、照射条件Bよりも、レーザ波長がより短波長域のレーザを利用する。このため、レーザ波長およびパルス幅以外のその他の条件を同一として、レーザ照射を実施した場合、照射条件Bよりも、照射条件Aの方が、同程度の反り矯正効果を得るために必要なレーザ加工時間を短縮できる。また、使用するレーザの波長は、レーザ照射の対象となる単結晶基板の吸収端波長よりも長波長域の波長を選択することが好適である。
【0052】
ここで、単結晶基板がサファイア基板である場合は、上記照射条件A、Bを利用できる。この場合、レーザ波長およびパルス幅以外のその他の条件としては、たとえば、実用性や量産性等の観点から、以下に示す範囲内で選択することが好ましい。
・繰り返し周波数:50kHz〜500kHz
・レーザパワー:0.05W〜0.8W
・レーザのスポットサイズ:0.5μm〜4.0μm(より好ましくは2μm前後)
・試料ステージの走査速度:100mm/s〜1000mm/s
【0053】
また、単結晶基板が、Si基板の場合は、上記照射条件Bが利用できる。この場合、レーザ波長以外のその他の条件としては、たとえば、実用性や量産性等の観点から、以下に示す範囲内で選択することが好ましい。
・パルス幅:50ns〜200ns
・繰り返し周波数:10kHz〜500kHz
・照射エネルギー:3μJ〜12μJ
・レーザのスポットサイズ:0.5μm〜4.0μm
・試料ステージの走査速度:50mm/s〜1000mm/s(より好ましくは100mm/s〜1000mm/s)
【0054】
また、単結晶基板が、GaAs基板の場合は、上記照射条件Bが利用できる。この場合、レーザ波長以外のその他の条件としては、たとえば、実用性や量産性等の観点から、以下に示す範囲内で選択することが好ましい。
・パルス幅:30ns〜80ns
・繰り返し周波数:10kHz〜500kHz
・照射エネルギー:8μJ〜20μJ
・レーザのスポットサイズ:0.5μm〜4.0μm
・試料ステージの走査速度:50mm/s〜1000mm/s(より好ましくは100mm/s〜1000mm/s)
【0055】
また、単結晶基板が、水晶基板の場合は、上記照射条件Bが利用できる。この場合、レーザ波長以外のその他の条件としては、たとえば、実用性や量産性等の観点から、以下に示す範囲内で選択することが好ましい。
・パルス幅:200fs〜800fs
・繰り返し周波数:10kHz〜500kHz
・照射エネルギー:3μJ〜6μJ
・レーザのスポットサイズ:0.5μm〜4.0μm
・試料ステージの走査速度:50mm/s〜1000mm/s(より好ましくは100mm/s〜1000mm/s)
【0056】
なお、表1に、Si基板、GaAs基板および水晶基板に対して熱変性層を形成する場合のレーザ照射条件の一例を示す。また、レーザ照射する場合、単結晶基板のレーザ照射される側の面は鏡面状態(表面粗さRaで1nm以下程度)であることが特に好ましい。レーザ照射される面を鏡面状態とするためには、たとえば、鏡面研磨を実施することができる。
【0058】
−多層膜成膜後熱変性層形成工程の具体例−
次に、多層膜成膜後熱変性層形成工程の具体例を図面を用いて説明する。
図1および
図2は本実施形態の多層膜付き単結晶基板の製造方法の一例を示す模式説明図であり、具体的には、多層膜成膜後熱変性層形成工程の一例を説明する模式説明図である。ここで、
図1は、多層膜成膜後熱変性層形成工程の実施前後での多層膜付き単結晶基板の反りの状態を示す模式断面図であり、
図1の上段は、多層膜成膜後熱変性層形成工程を実施する前の多層膜付き単結晶基板を表し、
図1の下段は、多層膜成膜後熱変性層形成工程を実施した後の多層膜付き単結晶基板を表すものである。また、
図2は多層膜成膜後熱変性層形成工程を実施している最中の状態、すなわち、単結晶基板の多層膜が形成されていない側の面からレーザを照射している状態を示す模式断面図である。なお、
図1および
図2中、多層膜を構成する各層については記載を省略してある。
【0059】
図1の上段に示すように、多層膜成膜後熱変性層形成工程を実施する前の多層膜付き単結晶基板(レーザ処理前膜付き基板)10は、単結晶基板20と、この片面に形成された多層膜30とを有している。そして、レーザ処理前膜付き基板10は、多層膜30が設けられた面側に凸を成すように反っている。これに対して、
図1の下段に示す多層膜成膜後熱変性層形成工程を実施した後の多層膜付き単結晶基板(レーザ処理後膜付き基板12)は、
図1の上段に示す反りが矯正され、略平坦な状態により近づいている。そして、単結晶基板20をその厚み方向において、一点鎖線Lにより2等分して得られる2つの領域20U、20Dのうち、少なくとも単結晶基板20の多層膜30が形成された面側と反対側の面側の領域(非成膜面側領域)20D内に、一定の厚みを有する複数の熱変性層22が、単結晶基板20の平面方向に対して等間隔に形成されている。
【0060】
ここで、多層膜成膜後熱変性層形成工程は、
図2に一例を示すように、レーザ処理前膜付き基板10を、多層膜30が設けられた側の面が下面側となるように不図示の試料ステージに固定した状態で実施される。なお、固定は、たとえば、真空吸着などにより、レーザ処理前膜付き基板10の反りを矯正できるように実施することが好ましい。反りが大きすぎて真空吸着ができない場合には、レーザ処理前膜付
き基板10表面の形状をモニタリングして、レーザ照射領域をレーザ処理前膜付き基板10表面と平行にすることができる。そして、試料ステージに固定されたレーザ処理前膜付き基板10の多層膜が設けられた側の面と反対側の面(非成膜面)24側から、レーザ照射装置40によりレーザを照射する。この際、単結晶基板20の非成膜面側領域20D内にレーザを集光させると共に、レーザ照射装置40とレーザ処理前膜付き基板10とを水平方向に相対的に移動させることで、熱変性層22を形成する。ここで、レーザのスポットサイズ、レーザパワー、パルス幅などを適宜選択することで、単結晶基板20の平面方向や厚み方向に対する熱変性層22のサイズや変性度合などを制御できる。また、レーザ処理前膜付き基板10に対するレーザ照射装置40の相対的な移動速度(たとえば試料ステージが移動可能な場合は、試料ステージの走査速度)、レーザの繰り返し周波数を適宜選択することにより、単結晶基板20の平面方向に対する個々の熱変性層22A、22B、22C、22D間の間隔を制御することができる。
【0061】
−熱変性層の配置パターン−
なお、本実施形態の多層膜付き単結晶基板では、
図1に例示したように、少なくとも非成膜面側領域20D内に熱変性層22を設ければ、多層膜30の圧縮応力に起因する単結晶基板20の反りを矯正できる。しかしながら、熱変性層22が、単結晶基板20の厚み方向や平面方向に対して、偏った位置に設けられたり、不規則に配置されたり、非対称的に配置されたりすると、多層膜30に起因して発生する反りを矯正することが困難となったり、あるいは、レーザ処理後膜付き基板12の形状が歪んでしまう場合がある。
【0062】
上述した問題の発生を回避するためには、単結晶基板20の厚み方向については、熱変性層22は、多層膜30と平行に設けられていることが好ましい。なお、この場合、単結晶基板20の厚み方向の相対位置を、多層膜30が設けられた側の面を0%と仮定し、多層膜30が設けられた面と反対側の面(非成膜面24)を100%とし仮定した際に、熱変性層22が、単結晶基板20の厚み方向の50%を超え95%以下の範囲内に設けられていることが好ましく70%以上95%以下の範囲内に設けられていることがより好ましい。単結晶基板20の厚み方向に対して熱変性層22を上記数値範囲内に設けることにより、多層膜30の圧縮応力に起因する単結晶基板20の反りをより効果的に矯正して、レーザ処理後膜付き基板12の変形も抑制できる。なお、単結晶基板20の厚み方向に対する熱変性層22の存在位置は、個々の熱変性層22A、22B、22C、22Dが、全て同じ位置に存在することが好ましいが、異なる位置に存在していてもよい。この場合は、単結晶基板20の平面方向に対する個々の熱変性層22A、22B、22C、22Dの配置位置も考慮の上、レーザ処理後膜付き基板12の形状が歪んだり、熱変性層22を設けたことに起因する反りの矯正効果を著しく損失しないように、個々の熱変性層22A、22B、22C、22Dを、単結晶基板20の厚み方向に対して異なる位置に配置してもよい。また、単結晶基板20の厚み方向に対する熱変性層22の長さは、レーザのスポットサイズ、照射エネルギー(レーザパワー/繰り返し周波数)、パルス幅に依存して決定され、通常は、数μm〜数十μmの範囲内である。
【0063】
また、上述した問題の発生を回避するためには、単結晶基板20の平面方向については、熱変性層22は、以下に示されるパターン形状で設けられることが好ましい。すなわち、熱変性層22は、単結晶基板20の平面方向に対して、下記i)〜vii)から選択される少なくともいずれか1つのパターン形状で設けられていることが好ましい。この場合、多層膜30の圧縮応力に起因する単結晶基板20の反りをより効果的に矯正して、その変形も抑制できる。
i)複数個の同一形状および同一サイズの多角形を規則的に配置した形状
ii)複数個の同一形状および同一サイズの円または楕円を規則的に配置した形状
iii)同心円状
iv)単結晶基板の中心点に対して略点対称に形成された形状
v)単結晶基板の中心点を通じる直線に対して略線対称に形成された形状
vi)ストライプ形状
vii)らせん形状
【0064】
なお、上記i)〜vii)に示されるパターン形状のうち、多層膜30の圧縮応力に起因する単結晶基板20の反りをより均一に矯正でき、形状の歪みもより小さくできる観点からは、i)〜iv)に示されるパターン形状がより好ましい。
【0065】
また、熱変性層22の形成に際して、レーザ走査、すなわち、レーザ処理前膜付き基板10に対するレーザ照射装置40の相対的な移動が、他のパターン形状と比べて比較的単純でレーザ加工が容易となる観点からは、パターン形状は、i)複数個の同一形状および同一サイズの多角形を規則的に配置した形状であることが好ましい。さらに、i)複数個の同一形状および同一サイズの多角形を規則的に配置した形状としては、複数個の同一形状および同一サイズの四角形を個々の四角形を構成する4辺が隣接する四角形のいずれか1辺と互いに重なり合うように規則的に配置した形状、すなわち、格子形状であることが特に好ましい。この場合、レーザ走査が縦方向および横方向の2方向のみでよく、レーザ加工がより容易となる上に、レーザ処理後膜付き基板12の反り量制御や形状制御の設計もより容易となる。
【0066】
ここで、格子形状を成すパターンを構成するラインのピッチは、50μm〜2000μmの範囲内であることが好ましく、100μm〜1000μmの範囲内であることがより好ましい。ピッチを50μm以上とすることにより、レーザ加工に要する時間が必要以上に増大するのを抑制でき、また、ピッチを2000μm以下とすることにより、多層膜30の圧縮応力に起因する単結晶基板20の反りをより確実に矯正できる。
【0067】
図3は、単結晶基板の平面方向に対する熱変性層の配置パターン形状の一例を示す平面図であり、具体的には、単結晶基板20の平面形状がオリフラ面を有する円形状である場合における熱変性層22の配置パターン形状の一例を示したものである。熱変性層22の配置パターン形状は、
図3に示すように、たとえば、複数本のラインを基板のオリフラ面に対して垂直又は平行に形成したストライプ形状(
図3(a)、
図3(b))、それら両方を組み合わせた格子形状(
図3(c))などが挙げられる。また、この他の配置パターン形状として、同一サイズの複数の正六角形を、正六角形の6つの頂点全てが当該正六角形に隣接する正六角形のいずれか一つの頂点と必ず重なり合うように規則的に配置した形状(
図3(d))、同心円形状(
図3(e))なども挙げられる。なお、
図3(a)に示す幅Wは、ライン間のピッチを意味する。
【0068】
なお、多層膜30の圧縮応力に起因して発生する反りの程度は、多層膜30の層構成や膜厚などにより決定される圧縮応力や、単結晶基板20の厚みや材質などにより決定される剛性等により様々である。しかしながら、この反りの程度に応じて、以上に説明した、i)熱変性層22の単結晶基板20の厚み方向における長さ、ii)単結晶基板20の厚み方向における熱変性層22の配置位置、および、iii)単結晶基板20の平面方向における熱変性層22の配置パターン形状を適宜選択して組み合わせることで、レーザ処理前膜付き基板10に対して、レーザ処理後膜付き基板12において多層膜30に起因する反りを矯正できるのみならず、レーザ処理後膜付き基板12を略平坦状とすることもできる。
【0069】
−多層膜成膜前の熱変性層の形成−
本実施形態の多層膜付き単結晶基板の製造方法では、基本的に、多層膜30の成膜を終えた後に、レーザ照射によって単結晶基板20内に熱変性層22を形成することで、多層膜30の成膜に起因する
レーザ処理後膜付き基板12の反りを矯正している。それゆえ、このレーザ処理後膜付き基板12を用いて後工程を実施した際の反りに起因する品質ばらつきや歩留まり低下などの弊害を抑制できる。よって、多層膜30の成膜プロセス中において、単結晶基板20が、如何様に反ったとしても、後工程への悪影響は非常に小さい。このことは、後工程との関係で、i)多層膜30の成膜プロセスの自由度、すなわち、採用可能な成膜方法・成膜条件の選択肢をより大きくすることができるという第一のメリット、および、ii)多層膜30成膜後の反りの発生や、反りの大きさを考慮することなく多層膜30の層構成を選択できるという第二のメリットをもたらす。
【0070】
本実施形態の多層膜付き単結晶基板は、(1)単結晶基板の片面側からレーザを照射することにより、単結晶基板の厚み方向の相対位置を、レーザが照射される側の面を0%と仮定し、レーザが照射される側の面と反対側の面を100%とし仮定した際に、熱変性層が、単結晶基板の厚み方向の0%以上50%未満の範囲内に位置するように形成する多層膜成膜前熱変性層形成工程と、(2)熱変性層が形成された単結晶基板のレーザが照射された側の面に、2つ以上の層を有し、かつ、圧縮応力を有する多層膜を形成する多層膜形成工程と、(3)多層膜成膜後熱変性層形成工程とを、この順に少なくとも経ることにより、製造することができる。なお、以下の説明において、多層膜成膜前熱変性層形成工程により形成される熱変性層を「第2の熱変性層」と称し、多層膜成膜後熱変性層形成工程により形成される熱変性層を「第1の熱変性層」と称す場合がある。
【0071】
上述したように多層膜形成工程の実施前に、単結晶基板内に予め第2の熱変性層を形成する多層膜成膜前熱変性層形成工程をする。なお、多層膜成膜前熱変性層形成工程において形成される第2の熱変性層は、単結晶基板の厚み方向の0%以上50%未満の範囲内に位置するように形成されることが必要である。上記以外の範囲に第2の熱変性層を形成した場合、多層膜成膜後熱変性層形成工程において形成される第1の熱変性層を形成する領域が、単結晶基板の厚み方向において制限されるため、多層膜30の成膜後における単結晶基板20の反りの矯正が困難となる場合があるためである。
【0072】
多層膜成膜前熱変性層形成工程において形成される第2の熱変性層は、上述したように単結晶基板の厚み方向の0%以上50%未満の範囲内に位置するように形成されることが必要であるが、その下限値は3%以上であることが好ましい。単結晶基板の厚み方向の0%近傍、すなわち、多層膜が成膜される成膜面の近傍に第2の熱変性層が形成された場合、成膜面に露出する結晶面に変化が生じ易くなる。このため、特に、多層膜30を構成する各層のうち、成膜面と直接接触する層(最下層)が、結晶性の膜である場合は、成膜面に露出する結晶面の変化の影響を受けて、最下層の結晶構造や結晶性に変化が生じ易くなる。また、最下層上に連続して他の結晶性の層を順次積層する場合においても、これらの他の結晶性の層は、下地である最下層の結晶構造や結晶性の影響を受けて変化しやすくなる。それゆえ、単結晶基板の成膜面本来の結晶面を利用して最下層を結晶成長させようとする場合、これが阻害されることになる。しかしながら、下限値を3%以上とすることにより、第2の熱変性層の形成による成膜面に露出する結晶面の変化を抑制できるため、上述した問題の発生を回避することができる。なお、第2の熱変性層は、単結晶基板の厚み方向に対して、より好ましくは5%以上30%以下の範囲内に位置するように形成される。
【0073】
また、第2の熱変性層は、単結晶基板をその厚み方向に対して2等分するラインに対して、多層膜が設けられた側に設けられるため、単結晶基板の反りの発生という点では、多層膜と同様に作用する。すなわち、第2の熱変性層は、多層膜成膜直後における単結晶基板の多層膜が設けられた側に凸を成すように反ることを促進する。たとえば、単結晶基板の厚み方向に対して、この単結晶基板を2等分するラインを基準として線対称となる位置に第1の熱変性層および第2の熱変性層が設けられ、単結晶基板の厚み方向における第1の熱変性層の長さと第2の熱変性層の長さとが同一で、かつ、単結晶基板の平面方向における第1の熱変性層および第2の熱変性層の配置パターン形状も相似形である場合を仮定する。この場合、単結晶基板の反りの向き・反り量は、単純に2つの熱変性層の総面積の差に依存することになるため、単結晶基板の平面方向における第2の熱変性層の総面積が、第1の熱変性層の総面積よりも小さくなるように、単結晶基板内に第2の熱変性層を形成すればよい。
【0074】
なお、以上に説明した点を除けば、第2の熱変性層を形成する際のレーザ照射条件およびレーザ加工の方法、ならびに、第2の熱変性層の単結晶基板の平面方向における配置パターン形状は、第1の熱変性層の場合と同様に適宜選択することができる。
【0075】
図4は、本実施形態の多層膜付き単結晶基板の製造方法の他の例を示す模式説明図であり、具体的には、なんらのレーザ加工および成膜処理がなされていない単結晶基板に対して、多層膜成膜前熱変性層形成工程、多層膜形成工程および多層膜成膜後熱変性層形成工程をこの順に実施して多層膜付き単結晶基板を作製する場合について説明する図である。また、
図5は、本実施形態の多層膜付き単結晶基板の他の例を示す模式断面図であり、具体的には
図4に示す製造プロセスを実施した後に、
図2に示す製造プロセスを実施することにより得られた多層膜付き単結晶基板の断面構造の一例を示す図である。ここで、
図4および
図5中、
図1および
図2に示すものと同様の機能・構成を有するものについては同様の符号が付してある。
【0076】
ここで、
図4の上段に示すように、多層膜成膜前熱変性層形成工程の実施に際しては、何らのレーザ加工および成膜処理がなされていない略平坦な状態の単結晶基板20を、非成膜面24が下面側となるように不図示の試料ステージに固定した状態で実施される。そして、試料ステージに固定された単結晶基板20に対して、非成膜面24と反対側の面(成膜面26)側から、レーザ照射装置40によりレーザを照射する。この際、単結晶基板20をその厚み方向に2等分する図中1点鎖線で示されるラインの非成膜面側領域20Dと反対側の領域(成膜面側領域20U)内にレーザを集光させると共に、レーザ照射装置40と単結晶基板20とを水平方向に相対的に移動させる。これにより、
図4の中段に示されるように、単結晶基板20の成膜面側領域20U内に第2の熱変性層28が形成される。なお、多層膜成膜前熱変性層形成工程を終えた後の単結晶基板20は、第2の熱変性層28が成膜面側領域20U内に形成されたことにより、多層膜成膜前熱変性層形成工程実施前と比較して、成膜面26側に若干凸を成すように反ることになる。ここで、レーザのスポットサイズ、レーザパワー、パルス幅などを適宜選択することで、単結晶基板20の平面方向や厚み方向に対する第2の熱変性層28のサイズや変性度合などを制御できる。また、単結晶基板20に対するレーザ照射装置40の相対的な移動速度(たとえば試料ステージが移動可能な場合は、試料ステージの走査速度)、レーザの繰り返し周波数を適宜選択することにより、単結晶基板20の平面方向に対する個々の第2の熱変性層28A、28B、28C、28D間の間隔を制御することができる。
【0077】
次に、第2の熱変性層28が形成された単結晶基板20の成膜面26側に、多層膜30を形成する多層膜形成工程を実施する。これにより、
図4の下段に示すように、第2の熱変性層28が形成された単結晶基板20の成膜面26側に多層膜30が形成された2回目のレーザ処理前膜付き基板10Aを得ることができる。この多層膜形成工程の実施に際しては、第2の熱変性層28が形成されることで、多層膜形成工程の実施中における単結晶基板20の反り挙動の任意の過程において、単結晶基板20の反りを零に設定ことが可能となる。なお、2回目のレーザ処理前膜付き基板10Aは、多層膜30の有する圧縮応力の影響により、成膜面26側に凸を成すように反ることになる。
【0078】
多層膜形成工程を終えた後は、レーザ処理前膜付き基板10の代わりに、2回目のレーザ処理前膜付き基板10Aを用いることを除いて、
図2に例示したものと同様にして、多層膜成膜
後熱変性層形成工程を実施する。これにより、単結晶基板20の非成膜面側領域20D内に第1の熱変性層22がさらに形成され、
図5に例示するような、単結晶基板20内に第1の熱変性層22および第2の熱変性層28が形成された多層膜30付きの単結晶基板(2回目レーザ処理後膜付き基板12A)を得ることができる。この2回目レーザ処理後膜付き基板12Aにおいては、単結晶基板20の非成膜面側領域20D内に形成された第1の熱変性層22により、多層膜30の有する圧縮応力の影響により成膜面26側に凸を成すように反る力が相殺される。なお、
図5に示す例では、単結晶基板20をその厚み方向に2等分するラインLを基準として、単結晶基板20の厚み方向に対して線対称な位置に、単結晶基板20の厚み方向の長さが同一である第1の熱変性層22および第2の熱変性層28が設けられている。また、単結晶基板20の平面方向に対する第1の熱変性層22および第2の熱変性層28の配置パターンは同一とされているが、単結晶基板20の平面方向における第1の熱変性層22の総面積は第2の熱変性層28の総面積よりも大きくなるように設定されている。
【0079】
−単結晶基板−
本実施形態の多層膜付き単結晶基板の作製に用いられる単結晶基板20を構成する材質としては、レーザ照射により熱変性層22、28の形成が可能な公知の単結晶材料であればいずれも利用できるが、たとえば、サファイア、窒化物半導体、Si、GaAs、水晶、SiCなどが挙げられる。なお、本実施形態の多層膜付き単結晶基板は、単結晶材料からなる基板を利用するものである。しかしながら、このような基板の代わりに、多結晶材料からなる基板(たとえば石英基板)や、非晶質材料からなる基板(たとえばガラス基板)を用いても、多層膜に起因する反
りが矯正された平坦な多層膜付き基板を得ることもできる。
【0080】
また、単結晶基板20は、通常、少なくとも片面が鏡面研磨されたものが用いられる。この場合、多層膜30は、鏡面研磨された面側に形成される。なお、必要に応じて両面が鏡面研磨された単結晶基板20を用いてもよい。この場合、任意にいずれか一方の面を成膜面26として利用できる。また、本実施形態の多層膜付き単結晶基板の作製に用いられる単結晶基板20としては、基板の製造および入手容易性の観点から、レーザ加工などによる何らの熱変性層やイオン打ち込みなどによる何らの組成変性層も形成されておらず、かつ、何らの膜も成膜されていない状態では、通常、その反り量はほぼゼロ、すなわち略平坦なものが用いられる。
【0081】
単結晶基板20の平面方向の形状は特に限定されるものではなく、たとえば、方形などでもよいが、公知の各種素子の製造ラインでの適用が容易であるという観点からは、円形状であることが好ましく、特にオリフラ面が設けられた円形状であることが好ましい。
【0082】
単結晶基板20の形状が円形状またはオリフラ面が設けられた円形状である場合、単結晶基板20の直径は50mm以上であることが好ましく、75mm以上であることがより好ましく、100mm以上であることが更に好ましい。直径を50mm以上とした場合、多層膜30の成膜中および成膜後に単結晶基板20が反った際に、直径の増大と共に単結晶基板20を平坦な面に静置したと仮定した際の鉛直方向に対する単結晶基板20の中央部付近と端部付近との高低差(反り量)が大きくなる。しかしながら、多層膜30の成膜後に第1の熱変性層22を形成すれば、このような大きな反りを矯正して、反り量を容易に小さくすることができるので、後工程への悪影響を小さくすることができる。これに加えて多層膜30の成膜前に第2の熱変性層28を形成する。また、上述した理由から、本実施形態の多層膜付き単結晶基板を製造する場合、従来と比較して、単結晶基板20の直径が大きいほど多層膜30の成膜後の反りをより効果的に抑制できることになる。なお、直径の上限値は特に限定されるものではないが、実用上の観点からは300mm以下が好ましい。
【0083】
また、単結晶基板20の厚みは、5.0mm以下であることが好ましく、3.0mm以下であることが好ましく、2.0mm以下であることがより好ましい。厚みを5.0mm以下とした場合、厚みが薄いため単結晶基板20の剛性が低下し、変形しやすくなる。この場合、多層膜30の成膜後においては、単結晶基板20の反り量が増大しやすくなる。しかしながら、多層膜30の成膜後に第1の熱変性層22を形成すれば、このような大きな反りを矯正して、反り量を容易に小さくできるので、後工程への悪影響を小さくすることができる。さらに、以上に説明した事情から、後工程において非成膜面24側の研磨により、単結晶基板20を所定の厚みとなるまで研磨する必要がある場合には、後工程への悪影響が増大しない範囲で、研磨代がより小さくなるように厚みのより薄い単結晶基板20を用いて多層膜30を形成することができる。この場合、後工程での研磨に要する時間を短縮でき、後工程における生産性を向上させることができる。
【0084】
厚みの下限値は特に限定されるものではないが、熱変性層22、28を形成できる領域を確保する観点から0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることが好ましい。なお、単結晶基板20の形状が、円形状またはオリフラ面が設けられた円形状である場合、直径が50mm以上100mm以下のときは、厚みは0.3mm以上であることが好ましく、直径が100mmを超えるときは、厚みは0.5mm以上が好ましい。
【0085】
−多層膜−
本願明細書において「多層膜」とは、2つ以上の層を含み、かつ、熱変性層形成前(即ち、多層膜成膜後熱変性層形成工程前)に圧縮応力を有するものである。これに加えて、この多層膜を構成する各層が基板の平面方向に対して同一の膜厚を有する連続した層から構成された最表層の膜を貫通する段差を持たない膜を意味する。多層膜30の層構成、ならびに、多層膜30を構成する各層の膜厚、材料および結晶性/非結晶性は、本実施形態の多層膜付き単結晶基板を用いて更に後加工することにより作製される素子の種類や、素子を製造する際に適用する製造プロセスに応じて適宜選択される。
【0086】
しかしながら、多層膜30を構成する少なくともいずれか1層が、結晶性の層であることが好ましい。また、単結晶基板20の成膜面26に露出する結晶面を利用してエキタピシャル成長させることができるという観点からは、多層膜30を構成する各層のうち、少なくとも単結晶基板20の成膜面26に直接接触する層が結晶性の層であることが好ましく、多層膜30を構成する全ての層が結晶性の層であってもよい。なお、エキタピシャル成長とは、同一組成または混晶を含むホモエキタピシャル成長、ヘテロエキタピシャル成長を含む。また、多層膜30を構成する各層の材料も、作製する素子に応じて適宜選択されるが、単結晶基板20がサファイ
アなどの無機材料で構成されることを考慮すると、各層を構成する材料も、金属材料、金属酸化物材料、無機半導体材料などの無機材料とすることが好ましく、全ての層がこれらの無機材料から構成されることが望ましい。ただし、MOCVD法を成膜法として用いた場合、層の無機材料中に有機金属由来の有機物を含有することがある。
【0087】
多層膜30を構成する各層の具体例としては、たとえば、面発光レーザなどに用いる発光素子、光センサや太陽電池などに用いる受光素子、電子回路などに用いる半導体素子などの各種の窒化物半導体を利用した素子の製造に適したものとして、GaN系、AlGaN系、InGaN系などの窒化物半導体結晶層を挙げることができる。なお、この場合、単結晶基板20として、サファイア基板を用いることが好適である。また、多層膜30の層構成の具体例としては、たとえば、素子として窒化物半導体を利用した発光素子を作製するのであれば、単結晶基板20としてサファイア基板を用い、このサファイア基板側から、(1)GaNより成るバッファ層、n型GaNより成るn型コンタクト層、n型AlGaNより成るn型クラッド層、n型InGaNより成る活性層、p型AlGaNよりなるp型クラッド層、p型GaNより成るp型コンタクト層をこの順に積層した層構成を採用することができる。
【0088】
多層膜30の膜厚としては、作製する素子に応じて適宜選択され、一般的に、多層膜30の膜厚が大きくなるほど多層膜30の成膜後における単結晶基板20の反り量も増大する。従来であれば、素子の品質ばらつきや歩留まりへの影響が顕著となってくる上に、多層膜30の成膜中の反り挙動もより大きくなりやすい。また、この場合、多層膜30には、反りに起因する脆性破壊によりクラックが発生しやすくなる。しかしながら、単結晶基板20内に、多層膜30の成膜後に第1の熱変性層22を形成することで多層膜30の成膜に起因して生じた反りを矯正することで反り量を小さくすることができる。なお、多層膜30の膜厚の上限は特に限定されるものではない。また、多層膜の層数は2層以上であればよく、作製する素子の種類に応じて層数が適宜選択できる。
【0089】
多層膜30の成膜方法としては特に限定されず、公知の成膜方法が利用でき、多層膜30を構成する各層毎に異なる成膜方法および/または成膜条件を採用して成膜することもできる。成膜法としてはメッキ法などの液相成膜法も挙げられるが、スパッタリング法やCVD法(Chemical Vapor Deposition)などの気相成膜法を用いることが好ましい。なお、発光素子などの作製を目的として窒化物半導体結晶層などの半導体結晶層を成膜する場合、MOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)、HVPE法(Hydride vapor phase epitaxy)、MBE法(Molecular
Beam Epitaxy)などの気相成膜法を利用することがより好ましい。なお、単結晶基板20の多層膜30が成膜される側の面は、鏡面状態(表面粗さRaで1nm以下程度)であることが特に好ましい。多層膜30が形成される面を鏡面状態とするためには、たとえば、鏡面研磨を実施することができる。
【0090】
−多層膜成膜時の単結晶基板の反り(曲率)の制御−
本実施形態の多層膜付き単結晶基板の製造方法では、多層膜30の成膜後に単結晶基板20内に第1の熱変性層22を形成することで、多層膜30の成膜後に生じる単結晶基板20の反りを矯正できる。このため、従来と比べて、本実施形態の多層膜付き単結晶基板の製造方法では、多層膜30の成膜が終了した後の反りの発生を考慮することなく、多層膜形成工程を実施でき、多層膜30の成膜プロセスの自由度が大きい。この観点からは、多層膜形成工程において、単結晶基板20が如何様に反った状態となることも許容されるといえる。しかしながら、多層膜30を構成する各層の成膜に際して、単結晶基板20が大きく反った状態にある場合、基板面内における膜厚ばらつきや膜質ばらつきが発生する。そしてこのような基板面内におけるばらつきは、一般的には、単結晶基板20の反りに比例して大きくなる傾向にある。そして、上記の基板面内におけるばらつきが増大すると、本実施形態の多層膜付き単結晶基板を後加工して得られる素子の品質ばらつきの増大や、歩留まりの低下を招くことになる。以上に説明した事情を考慮すれば、多層膜形成工程においては、多層膜30を構成する各層のうち、少なくともいずれか1層の成膜中における単結晶基板20の多層膜30が形成される面の曲率が、±30km
−1の範囲内であることが好ましく、±20km
−1の範囲内であることがより好ましい。
【0091】
なお、上記に示す曲率範囲は、多層膜30を構成する全ての層で満たされていることが理想的である。しかし、一般的に多層膜30を成膜する過程において、単結晶基板20は複雑な反り挙動を示すため、多層膜30を構成する全ての層において、上記に示す曲率範囲を満たすことは事実上、困難である。この点を考慮すれば、上記に示す曲率範囲は、多層膜30を構成する各層のうち、単結晶基板20の反りが大きくなった場合に素子の品質ばらつきや歩留まりに最も大きく影響する層(最重要層)において満たされるようにすることが特に好ましい。このような最重要層は、素子の種類や、素子の種類に応じた多層膜30の構成により様々である。なお、最重要層の一例としては、素子が窒化物半導体を用いた発光素子である場合、多層膜30を構成する各層のうち、少なくとも1層が、発光層として機能することが可能な窒化物半導体結晶層が挙げられる。
【0092】
多層膜30を構成する各層のうち、少なくともいずれか1層の成膜中における単結晶基板20の多層膜30が形成される面の曲率を上記範囲内に制御する方法としては、特に限定されず、たとえば、1)多層膜30を構成する各層の成膜方法・成膜条件を変更する方法、2)単結晶基板20のサイズを変更する方法、3)単結晶基板20の厚みを変更する方法、4)多層膜30の成膜前に、単結晶基板20内に第2の熱変性層28を形成する方法などが挙げられる。しかしながら、素子の量産を考慮した場合、上記1)〜上記3)に示す方法いずれも、素子の性能や、素子の生産性・歩留まりにも大きく影響するため、大幅な変更は実用上困難な場合が多い。このため、これら1)〜3)に示す方法を採用しても曲率を上記範囲内に制御することが困難となる場合もある。以上に説明した事情を考慮すると、曲率を上記範囲内に制御する方法としては、4)多層膜30の成膜前に、単結晶基板20内に第2の熱変性層28を形成する方法を採用することが最も好ましい。この理由は以下の通りである。すなわち、当該方法は、第2の熱変性層28の単結晶基板20内における形成位置・形成領域の大きさを適宜選択することで、多層膜30の成膜プロセスに合わせて、多層膜30を成膜する前の単結晶基板20の反りの程度(曲率)や、剛性を容易に制御できる。このため、当該方法は、素子の性能や、素子の生産性・歩留まりに悪影響を与えることなく、単結晶基板20の曲率の制御することが容易であるためである。
【0093】
−多層膜形成工程の具体例−
次に、多層膜30を成膜する場合の具体例として、単結晶基板20としてサファイア基板を用い、このサファイア基板の片面に、エピタキシャル成長により窒化物半導体層を複数層積層して多層膜30を形成する場合を図面を用いて説明する。
図6は、多層膜形成工程の一例を示す模式説明図であり、具体的には、サファイア基板上に窒化物半導体層等を積層することで多層膜を形成するプロセスを示した図である。ここで、
図6(a)は成膜開始前の状態を示す図であり、
図6(b)は低温バッファ層を形成した後の状態を示す図であり、
図6(c)はn−GaN層を形成した後の状態を示す図であり、
図6(d)は多重量子井戸構造を有するInGaN系活性層を形成した後の状態を示す図である。なお、図中、多層膜成膜中および多層膜成膜後のサファイア基板の反りの有無や反りの程度、第1の熱変性層、ならびに、必要に応じて設けられる第2の熱変性層については記載を省略してある。
【0094】
まず、サファイア基板50(単結晶基板20)の成膜面52側を成膜開始前にサーマルクリーニングする(
図6(a))。次に、成膜面52上に、低温バッファ層60(
図6(b))、n−GaN層62(
図6(c))、多重量子井戸構造を有するInGaN系活性層64(
図6(d))をこの順に成長させる。これによりサファイア基板50の片面に3層からなる多層膜70(多層膜30)が形成される。なお、この後、所定の後加工を行うことでLEDチップなどの発光素子を得ることができる。なお、多層膜70を構成する各層は、たとえばMOCVD法、HVPE法、MBE法等を利用して形成できる。
【0095】
次に、多層膜形成工程における単結晶基板20の反り挙動について説明する。
図7は、多層膜形成工程における単結晶基板の反り挙動の一例を示すグラフであり、具体的には
図6に示す多層膜70を成膜中のサファイア基板の反り挙動を示したグラフである。ここで、
図7中、横軸は時間を表し、縦軸は成膜面52におけるサファイア基板50の曲率を表す。なお、縦軸の正の方向が成膜面52側が凸を成すようにサファイア基板50が反っている状態を意味し、縦軸の負の方向が成膜面52側が凹を成すようにサファイア基板50が反っている状態を意味する。
【0096】
なお、
図7に例示したような多層膜形成工程の実施中におけるサファイア基板50の反り挙動は、非特許文献2に開示されるIn−situ観察方法を利用することで把握することができる。また、
図7の縦軸として例示する基板の曲率からは、基板の反り量を計算することができる。
図8は円形状基板の曲率から基板の反り量を計算する方法を説明する模式説明図である。
図8においては、基板の曲率半径をR、曲率1/Rを有する基板の反り量X、基板の直径を近似的にDとして示した。これらの値の関係性として、三平方の定理を用いることで,(1/R)
2=((1/R)-X)
2+(D/2)
2と示すことができる。この式から、基板の直径が50mmの場合は、0.322×曲率(km
−1)、基板の直径が100mmの場合は、1.250×曲率(km
−1)としてそり量(um)を求めることができる。
【0097】
図7に示される反り挙動の変化を示す3つのスペクトルのうち、スペクトルAは、第2の熱変性層が形成されていないサファイア基板50を用いて多層膜70を形成した場合の反り挙動の変化を示したものある。また、スペクトルBおよびスペクトルCは、サファイア基板50に対して予め第2の熱変性層を形成したことを除いては、スペクトルAの測定と同じ条件で多層膜70を形成した場合の反り挙動の変化を示したものである。なお、スペクトルBおよびスペクトルCの違いは、スペクトルBの測定に用いたサファイア基板50単体の曲率(
図7中では、相対値で+50km
−1程度)よりも、スペクトルCの測定に用いたサファイア基板50単体の曲率(
図7中では、相対値で+150km
−1程度)がより大きくなるように、サファイア基板50内に第2の熱変性層を形成したことに起因するものである。すなわち、スペクトルAの測定に用いたサファイア基板50よりも、スペクトルBの測定に用いた第2の熱変性層が予め形成されたサファイア基板50の方が、この第2の熱変性層を設けたことにより剛性が向上していると言える。
【0098】
なお、
図7に示す例では、スペクトルBの測定に用いたサファイア基板50内に設けられた第2の熱変性層と、スペクトルCの測定に用いたサファイア基板50内に設けられた第2の熱変性層とは、共に、サファイア基板50の厚み方向に対して成膜面52側から同じ深さ位置に設けられ、かつ、サファイア基板50の平面方向における第2の熱変性層は格子状パターンで設けられている。しかし、格子状パターンを構成するラインのピッチを異なるものとすることで、サファイア基板50の平面方向における第2の熱変性層の総面積は、スペクトルBの測定に用いたサファイア基板50よりも、スペクトルCの測定に用いたサファイア基板50の方がより大きくしてある。このため、スペクトルBの測定に用いたサファイア基板50よりも、スペクトルCの測定に用いたサファイア基板50の方が、曲率が大きくなっている。
【0099】
また、
図7の横軸に沿って(a)〜(e)として示される区間は、多層膜形成工程において順次実施される各プロセスに対応している。ここで、プロセス(a)は、サファイア基板50の成膜面52をサーマルクリーニングするプロセスに対応し、プロセス(b)は、低温バッファ層60を形成するプロセスに対応し、プロセス(c)は、n−GaN層62を形成するプロセスに対応し、プロセス(d)は、InGaN系活性層64を形成するプロセスに対応し、プロセス(e)はクールダウンするプロセスに対応している。
【0100】
次に、
図7に示されるスペクトルAの反り挙動の変化を説明する。まず、(a)成膜面52のサーマルクリーニングプロセスでは、サファイア基板50の成膜面52と非成膜面54との温度差により、成膜面52が凹面を成そうとする方向(
図7中の縦軸におけるマイナス側)に反り、曲率が大きく変化する。次に、(b)低温バッファ層60を形成するプロセスでは、サファイア基板50の温度が、(a)成膜面52のサーマルクリーニングプロセスを実施中の温度よりも降下し、通常は、500〜600℃程度の温度に維持される。このため、成膜面52が凸面を成そうとする方向(
図7中の縦軸におけるプラス側)に反り、曲率の絶対値は小さくなる。
【0101】
次に、(c)n−GaN層62を形成するプロセスでは、サファイア基板50の温度を再び1000℃程度まで上昇させて、n−GaN層62を形成する。このプロセスでは、窒化ガリウムとサファイアの格子定数差に起因して、成膜面52が凹面を成そうとする方向に反り、曲率の絶対値は増大する。さらに成膜が進行し、膜厚が大きくなるほど曲率の絶対値が増大する。このため、膜厚および膜品質の基板面内における均一性は著しく悪化する。なお、膜の基板面内における均一性を、成膜条件のみによって大幅に改善することは、成膜する膜の組成・膜厚に変更が無い限り、技術的には極めて困難である。また、スペクトルAのプロセス(c)に例示されるように、基板の反りが増大した場合、窒化物半導体結晶層の内部に応力が発生する。そして、この応力を緩和するために窒化物半導体結晶層内で転位が発生し膜品質が悪化することが問題とされている。
【0102】
次に、(d)InGaN系活性層64を形成するプロセスでは、サファイア基板50の温度を700〜800℃程度に下降させて、InGaN系活性層64を形成する。ここで、
図6(d)に示す多層膜70付きのサファイア基板50を用いて、所定の後加工を行うことにより、LEDチップなどの発光素子を製造する場合、InGaN系活性層64の膜厚およびInGaN系活性層64中のIn組成の均一性が、発光波長の面内均一性に影響し、ひいては、発光素子の製造歩留まりにも影響する。InGaN系活性層64の膜厚およびInGaN系活性層64中のIn組成の均一性は成膜温度に影響を受ける。このため、(d)InGaN系活性層64を形成するプロセスでは、基板面内の温度均一性を向上させるために、成膜中のサファイア基板50の曲率はできるだけ0に近づけることが望ましい。なお、スペクトルAとして示す例では、プロセス(d)における曲率はほぼ0近傍に維持されている。
【0103】
次に、多層膜70が形成されたサファイア基板50を、(e)クールダウンするプロセスでは、多層膜70とサファイア基板50との熱膨張係数差により、サファイア基板50が成膜面52側に凸を成す方向に反り、曲率の絶対値も増大する。また、常温近傍に冷却される過程で多層膜70中には圧縮応力が生じるため、これを解放するために、クールダウン終了後もサファイア基板50が成膜面52側に凸を成すように反った状態が維持される。しかしながら、このような反りは、多層膜成膜後熱変性層形成工程を実施することで矯正することができ、さらに、第1の熱変性層22の配置パターンを最適化することで、曲率を0近傍とすることもできる。この場合、LEDチップ等の発光素子を得るために、パターニング処理やバックラップ処理などの各種の後工程を実施しても、反りに起因する発光素子の品質ばらつきや歩留まり低下を確実に抑制することができる。
【0104】
(素子製造方法)
以上に説明した製造プロセスを経て作製された本実施形態の多層膜付き単結晶基板に対して、さらに各種の後工程を実施することにより素子を作製することができる。この場合、後工程において、多層膜30に対して、少なくともパターニング処理を施すことにより、発光素子、光発電素子、半導体素子から選択されるいずれか1つの素子として機能する素子部分を作製する素子部分形成工程を少なくとも経て、素子部分と当該素子部分に略対応するサイズを有する単結晶基板とを含む素子を製造することができる。ここで、多層膜30の層構成は、最終的に作製する素子の種類に応じて適宜選択される。また、素子の製造に際して、後工程として、素子部分形成工程以外に、研磨工程、分割予定ライン形成工程および分割工程をこの順に実施してもよい。
【0105】
この場合、本実施形態の多層膜付き単結晶基板を用いた素子製造方法は、具体的には以下の(1)〜(4)に示す工程を少なくとも順次実施することで、素子部分と当該素子部分に略対応するサイズを有する単結晶基板とを含む素子を作製することができる。
(1)本実施形態の多層膜付き単結晶基板の多層膜をパターニングして個々の素子部分を形成する素子部分形成工程
(2)素子部分が片面に形成された素子部分付き単結晶基板の素子部分が形成されていない面を、少なくとも、多層膜成膜後熱変性層形成工程において形成された第1の熱変性層が除去されるまで研磨する研磨工程
(3)研磨工程において研磨された面側から、個々の素子部分の境界ラインに沿って、レーザを照射することで分割予定ラインを形成する分割予定ライン形成工程
(4)分割予定ライン形成工程において形成された分割予定ラインに沿って外力を加えることで、素子部分付きの単結晶基板を素子部分単位で分割する分割工程
ここで、(3)分割予定ライン形成工程、および、(4)分割工程を実施する場合、特許文献3に記載の技術を利用することができる。
【0106】
なお、第1の熱変性層を格子状パターンに形成した場合、研磨工程において第1の熱変性層が完全に除去されない程度に研磨した上で、単結晶基板内に残留している第1の熱変性層を分割予定ラインとして利用することで分割工程を実施することも原理的には可能である。しかしながら、多層膜が個々の素子部分に個別化された後でないと、素子部分の存在位置を確認した上でレーザ照射のための位置合わせを行うことができない。このため、個々の素子部分を作製する前に、分割予定ラインの機能も兼ねる熱変性層を形成する上記の方法では、個々の素子部分に対応させて正確に分割予定ラインを形成することが困難である。すなわち、上記の方法では、分割予定ラインは隣接する2つの素子部分間の境界線からずれてしまう可能性が大きくなるため、実用性に欠けやすい。このため、レーザ照射により形成された熱変性層を利用して分割工程を実施する場合、上記(1)〜(4)に示す工程をこの順に実施することが特に好ましいといえる。
【0107】
また、分割予定ライン形成工程を実施する場合、レーザの照射条件としては、既述した照射条件Bを選択することが特に望ましい。レーザ波長が紫外域の照射条件Aでは、レーザ波長に起因するレーザのエネルギーが大きいために、形成される分割予定ラインの幅が太く、その太さもラインの長さ方向に対してばらつきやすくなる。このため、分割工程において、直線的かつ正確な分割が困難となる場合があるためである。
【0108】
図9は、本実施形態の素子製造方法の一例を示す模式説明図であり、具体的には
図1の下段に示すレーザ処理後膜付き基板12を用いて、(1)素子部分形成工程(
図9(a))、(2)研磨工程(
図9(b))、(3)分割予定ライン形成工程(
図9(c))、および(4)分割工程(
図9(d))をこの順に実施した場合の一例を示したものである。なお、図中、
図1に示すものと同様の機能・構成を有するものには同じ符号が付してあり、また、単結晶基板20の反りの有無やその程度については記載を省略してある。
【0109】
まず、
図1の下段に示すレーザ処理後膜付き基板12の多層膜30に対してパターニング処理を行うことで、多層膜30を個別化して複数の素子部分32を形成する。ここで、パターニング処理は、たとえば以下のように実施できる。まず、多層膜30上にレジスト膜を形成後、フォトマスクを用いてこのレジスト膜を露光後に現像することでパターニングしてレジスト膜を部分的に除去する。その後、レジスト膜が除去された部分の多層膜30をエッチングにより除去することで素子部分32を形成する(
図9(a))。次に、素子部分32が形成された面と平坦な研磨盤80とを貼り合わせることで、研磨盤80上に素子部分32が形成された単結晶基板20を固定し、非成膜面24側を研磨する。この研磨は、少なくとも第1の熱変性層22が完全に除去されるまで実施する(
図9(b))。その後、研磨後の非成膜面24A側からレーザ照射することにより、分割予定ライン90を形成する。この分割予定ライン90は、研磨後の単結晶基板20Aの平面方向に対して、隣接する2つの素子部分32間に形成される(
図9(c))。最後に、この分割予定ライン90に沿って外力を加えることで、個々の素子部分32毎に単結晶基板20を分割し、複数の素子100を得る(
図9(d))。
【0110】
なお、非成膜面24の研磨(バックラップ処理)を容易とし、かつ、歩留まりを確保する観点から、
図9(a)に示す素子部分32が形成された単結晶基板20の反りは、基本的には小さければ小さい程好ましい。
【0111】
この理由は、以下の通りである。まず、
図9(a)に示す素子部分32付きの単結晶基板20において、レーザ処理による反りの矯正が行われていないと仮定する。この場合、素子部分32付きの単結晶基板20は大きく反った状態になる。そして、この反った状態の素子部分32付きの単結晶基板20を、液状化したワックスを用いて研磨盤80に貼り付けても、研磨盤80に固定された素子部分32付きの単結晶基板20の非成膜面24の外縁側が著しく反り上がったり、あるいは、非成膜面24が大きくうねったりすることになる。この場合、バックラップ処理する際に、単結晶基板20の面内における研磨量にばらつきが生じ易くなる。このような現象は、
図1の上段に示すようなレーザ処理による反りの矯正が全く行われないレーザ処理前膜付き基板10を用いた場合に一般的に見られる。
【0112】
しかしながら、全く反りの無い素子部分32付きの単結晶基板20を研磨盤80に貼り付けた場合には、貼り合わせ後の素子部分32付きの単結晶基板20と研磨盤80との界面に存在する固化したワックス層中に気泡が残り易くなる。その結果、反った素子部分32付き単結晶基板20を用いた場合程に顕著では無いものの、研磨盤80に固定された素子部分32付きの単結晶基板20の非成膜面24がうねり易くなる。なお、固化したワックス層中に気泡が残留する理由は、以下の通りであると推定される。
【0113】
まず、素子部分32付き単結晶基板20の非成膜面24が凹みを成すように大きく反っている場合、貼り付けに際して
素子部分32付き単結晶基板20と研磨盤80との間に存在する液状のワックスは、貼り合わせ界面の中央部から外縁部側へと押し出されるように流動することになる。素子部分32付き単結晶基板20を研磨盤80に貼り付けて固定する際に、素子部分32付き単結晶基板20の反りが平坦化されるように、素子部分32付き単結晶基板20の非成膜面24の全面に対して押圧力が加えられるためである。この場合、貼り付けに際して貼り合わせ界面に巻き込まれた気泡は液状のワックスの流動と共に、貼り合わせ界面の外縁部側へと容易に移動できる。それゆえ、貼り合わせ界面においてワックスが固化した後に、この固化したワックス層中に気泡が残留し難い。
【0114】
しかしながら、全く反りの無い素子部分32付きの単結晶基板20を研磨盤80に貼り付けた場合には、貼り合わせを開始してから、液状のワックスが固化して貼り合わせが完了するまでの全期間において、貼り合わせ界面全面に均一な押圧力が加わることになる。このため、貼り合わせ界面に存在する液状のワックスの平面方向に対する流動性は、低くなる。したがって、貼り付けに際して貼り合わせ界面に巻き込まれた気泡は、貼り合わせ界面の中央部側から外縁部側へと移動することが困難となる。それゆえ、貼り合わせ界面においてワックスが固化した後に、この固化したワックス層中に気泡が残留し易い。
【0115】
以上の点を考慮すれば、素子部分32付きの単結晶基板20は、全く反りが無い状態よりも、非成膜面24が凹みを成すように僅かに反っている状態であることが好ましい。この場合、反り矯正のためにレーザ処理を施していないが故に、非成膜面24が凹みを成すように大きく反っている状態に起因する問題点、および、非成膜面24が全く平坦面である状態に起因する問題点の双方を解消できる。すなわち、非成膜面24の大きな反りに起因して、貼り合わせ後に、非成膜面24の外縁側が著しく反り上がったり、あるいは、非成膜面24が大きくうねるという問題点、および、気泡が固化したワックス層中に残留することにより非成膜面24がうねり易くなるという問題点の双方を解消できる。
【0116】
この場合、素子部分32付きの単結晶基板20の非成膜面24が凹みを成すように僅かに反っているため、貼り合わせに際して、非成膜面24を平坦化することが極めて容易である。これに加えて、貼り合わせに際して、
素子部分32付き単結晶基板20と研磨盤80との間に存在する液状のワックスは、貼り合わせ界面の中央部から外縁部側へと押し出されるように流動することになる。このため、貼り合わせに際して、貼り合わせ界面に巻き込まれた気泡が、貼り合わせ後に固化したワックス層中に残留し難しい。
【0117】
ここで、素子部分32付きの単結晶基板20の非成膜面24が凹みを成すように僅かに反っている状態とするためには、第1の熱変性層22を形成する際のレーザ照射条件や、必要に応じて設けられる第2の熱変性層28を形成する際のレーザ照射条件を適宜選択することで容易に実現することができる。
【実施例】
【0118】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。以下に、サファイア基板に多層膜を形成した後、レーザ照射により第1の熱変性層を形成した場合(1回レーザ照射の実施例)と、レーザ照射により第2の熱変性層を形成したサファイア基板に多層膜を形成した後、レーザ照射により第1の熱変性層を形成した場合(2回レーザ照射の実施例)とに大別して実施例を説明する。
【0119】
<<1回レーザ照射の実施例>>
(評価用サンプルの作製)
評価用サンプルとして
図6(d)に示すものと同様のサファイア基板50の片面に3層構成の多層膜70が形成されたものを以下の手順で作製した。まず、サファイア基板50の成膜面52に多層膜70を形成した後、非成膜面54側からのレーザ照射により格子状パターンで第1の熱変性層22を形成して得られた多層膜付きサファイア基板を作製した。この際、多層膜成膜後におけるレーザ照射前後での反り量および成膜面側から見た反りの方向、ならびに、レーザ照射時のライン間のピッチに対するレーザ照射前後での反り量の変化量の関係について評価した。以下に、テスト条件および評価結果の詳細を説明する。
【0120】
−サファイア基板−
サファイア基板50としては、オリフラ面付きの円形状のサファイア基板(直径:4インチ(100mm)、厚み:650μm)を用いた。なお、このサファイア基板は、片面が鏡面研磨されたものであり、多層膜70はこの鏡面研磨された面を成膜面52として形成される。また、何らの成膜処理やレーザ照射処理を行わない状態でのこのサファイア基板50の反り量は、±30μmの範囲内である。
【0121】
−多層膜の層構成および成膜条件−
サファイア基板50の成膜面52には、3層構成の多層膜70を形成した。なお、具体的な成膜条件は以下の通りであり、以下に示す(1)〜(5)の順にプロセスを実施した。
(1)サーマルクリーニング
サファイア基板50をMOCVD装置内に配置した後、成膜面52のサーマルクリーニングを、基板温度1100℃にて約120秒間実施した。
(2)低温バッファ層60の形成
成膜時の基板温度を530℃とし、成膜レート0.16nm/sにて膜厚が30nmとなるまで低温バッファ層60を形成した。
(3)n−GaN層62の形成
成膜時の基板温度を1050℃とし、成膜レート2000nm/sにて膜厚が3500nmとなるまでn−GaN層62を形成した。
(4)InGaN系活性層64の形成
成膜時の基板温度を750℃とし、成膜レート10nm/sにて、膜厚が408nmとなるまでInGaN系活性層64を形成した。
(5)クールダウン
片面に低温バッファ層60、n−GaN層62およびInGaN系活性層64をこの順に形成したサファイア基板50を常温近傍まで冷却した。
【0122】
−第1の熱変性層形成条件−
まず、多層膜70が形成された単結晶基板50の非成膜面54を鏡面研磨した。次に、平坦な試料ステージ上に、多層膜70が形成された面を下面側として、真空吸着によりサファイア基板50を固定した。この状態で、サファイア基板50の多層膜70が形成されていない非成膜面54側から、以下の照射条件にてレーザ照射を行うことで第1の熱変性層22を形成した。なお、レーザ照射に際しては、試料ステージの縦方向の走査方向がサファイア基板50のオリフラと一致するように、試料ステージ上にサファイア基板50を固定した。そして、レーザ照射装置に対して、試料ステージを縦方向および横方向に走査し、サファイア基板の平面方向に対して格子状パターンとなるように第1の熱変性層22を形成した。ここで、試料ステージの走査速度を変えることにより格子状パターンのライン間ピッチを変化させたサンプルも作製した。
・レーザ波長:1045nm
・パルス幅:500fs
・繰り返し周波数:100kHz
・スポットサイズ:1.6〜3.5μm
・レーザパワー:0.3W
・試料ステージ走査速度:400mm/s(ライン間のピッチに応じて左記範囲内で適宜選択)
【0123】
(評価結果)
−反り量および反りの方向の評価−
表2に、多層膜成膜後におけるレーザ照射前後での反り量および成膜面側から見た反りの方向について評価した結果を、上記に示した以外のレーザ照射条件と共に示す。表2に示されるように多層膜70の成膜により反り量が70μm前後まで増大したが、レーザ照射によりサファイア基板50内に第1の熱変性層22を形成することにより、多層膜70の成膜に起因する反りが矯正され、反り量は5μm前後まで減少することが判った。
【0124】
【表2】
【0125】
−レーザ照射前後での反り量の変化量−
また、
図10に、表2に示す実施例A1〜実施例A5の実験条件において、ライン間のピッチのみを変えた場合の多層膜成膜後におけるレーザ照射前後での反り量の変化量(μm、レーザ照射前の反り量−レーザ照射後の反り量)を示す。
図10から明らかなように、ライン間のピッチを小さくすることにより、すなわち、サファイア基板50の平面方向における第1の熱変性層22の形成領域をより大きくすることにより、レーザ照射前後での反り量の変化量は増大することが判った。このことから、多層膜成膜後のサファイア基板50の反り量が如何様な値であっても、サファイア基板50の平面方向における第1の熱変性層22の形成領域を適宜選択するなどにより、多層膜70の成膜に起因して生じる反り量を所望量だけ相殺できることが判った。よって、
図10に示す結果からは、たとえば、多層膜成膜後の反り量が100μm前後である場合において、この多層膜70の成膜に起因して生じた反りをレーザ照射によりサファイア基板50をほぼ平坦な状態となるまで矯正したい場合には、ライン間のピッチを150μmに設定してレーザ照射すればよいと言える。
【0126】
(評価方法)
表2および
図10に示す反り量については、リニアゲージで測定した。なお、反り量はレーザ干渉計でも検証・確認した。また、表2に示す成膜面側から見た反りの方向はレーザ干渉計により測定した。
【0127】
<<2回レーザ照射の実施例>>
(評価用サンプルの作製)
評価用サンプルとして
図6(d)に示すものと同様のサファイア基板50の片面に3層構成の多層膜70が形成されたものを以下の手順で作製した。まず、サファイア基板50の成膜面52側からのレーザ照射により格子状パターンで第2の熱変性層28を形成し、次に、成膜面52に多層膜70を形成し、その後、非成膜面54側からのレーザ照射により格子状パターンで第1の熱変性層22を形成して得られた多層膜付きサファイア基板を作製した。この際、多層膜成膜前におけるレーザ照射前後での反り量および成膜面側から見た反りの方向と、多層膜成膜後におけるレーザ照射前後での反り量および成膜面側から見た反りの方向と、多層膜成膜後におけるレーザ照射時のライン間のピッチに対するレーザ照射前後での反り量変化の関係と、多層膜成膜中におけるサファイア基板の曲率の最大値と最小値との差とについて評価した。以下に、テスト条件および評価結果の詳細を説明する。
【0128】
−サファイア基板−
サファイア基板50としては、オリフラ面付きの円形状のサファイア基板(直径:2インチ(50.8mm)、厚み:430μm)を用いた。なお、このサファイア基板50は、片面が鏡面研磨されたものであり、多層膜70はこの鏡面研磨された面を成膜面52として形成される。また、何らの成膜処理やレーザ照射処理を行わない状態でのこのサファイア基板50の反り量は、±10μmの範囲内である。
【0129】
−第2の熱変性層形成条件−
第2の熱変性層28の形成は、平坦な試料ステージ上に、成膜面52が上面となるようにサファイア基板50を配置し、真空吸着によりサファイア基板50を固定した状態で、成膜面52側から、以下の照射条件にてレーザ照射を行うことで実施した。なお、レーザ照射に際しては、試料ステージの縦方向の走査方向がサファイア基板50のオリフラと一致するように、試料ステージ上にサファイア基板50を固定した。そして、レーザ照射装置に対して、試料ステージを縦方向および横方向に走査し、サファイア基板50の平面方向に対して格子状パターンとなるように第2の熱変性層28を形成した。ここで、ライン間ピッチは、試料ステージの走査速度を変えることで変化させた。
・レーザ波長:1045nm
・パルス幅:500fs
・繰り返し周波数:100kHz
・スポットサイズ:1.6〜3.5μm
・レーザパワー:0.3W
・試料ステージ走査速度:400mm/s(ライン間のピッチに応じて左記範囲内で適宜選択)
【0130】
−多層膜の層構成および成膜条件−
第2の熱変性層2
8が形成されたサファイア基板50の成膜面52には、3層構成の多層膜70を形成した。なお、具体的な成膜条件は以下の通りであり、以下に示す(1)〜(5)の順にプロセスを実施した。
(1)サーマルクリーニング
サファイア基板50をMOCVD装置内に配置した後、成膜面52のサーマルクリーニングを、基板温度1100℃にて約120秒間実施した。
(2)低温バッファ層60の形成
成膜時の基板温度を530℃とし、成膜レート0.16nm/sにて膜厚が30nmとなるまで低温バッファ層60を形成した。
(3)n−GaN層62の形成
成膜時の基板温度を1050℃とし、成膜レート2000nm/sにて膜厚が3500nmとなるまでn−GaN層62を形成した。
(4)InGaN系活性層64の形成
成膜時の基板温度を750℃とし、成膜レート10nm/sにて、膜厚が408nmとなるまでInGaN系活性層64を形成した。
(5)クールダウン
片面に低温バッファ層60、n−GaN層62およびInGaN系活性層64をこの順に形成したサファイア基板50を常温近傍まで冷却した。
【0131】
−第1の熱変性層形成条件−
まず、多層膜70が形成された単結晶基板50の非成膜面54を鏡面研磨した。次に、平坦な試料ステージ上に、多層膜70が形成された面を下面側として、真空吸着によりサファイア基板50を固定した。この状態で、サファイア基板50の多層膜70が形成されていない非成膜面54側から、以下の照射条件にてレーザ照射を行うこと第1の熱変性層22を形成した。なお、レーザ照射に際しては、試料ステージの縦方向の走査方向がサファイア基板50のオリフラと一致するように、試料ステージ上にサファイア基板50を固定した。そして、レーザ照射装置に対して、試料ステージを縦方向および横方向に走査し、サファイア基板50の平面方向に対して格子状パターンとなるように第1の熱変性層22を形成した。ここで、試料ステージの走査速度を変えることにより格子状パターンのライン間ピッチを変化させたサンプルも作製した。
・レーザ波長:1045nm
・パルス幅:500fs
・繰り返し周波数:100kHz
・スポットサイズ:1.6〜3.5μm
・レーザパワー:0.3W
・試料ステージ走査速度:400mm/s(ライン間のピッチに応じて左記範囲内で適宜選択)
【0132】
(評価結果)
−反り量および反りの方向の評価−
表3に、多層膜成膜前におけるレーザ照射前後での反り量および成膜面52側から見た反りの方向と、多層膜成膜後におけるレーザ照射前後での反り量および成膜面側から見た反りの方向と、について評価した結果を示す。表3に示すようにいずれの実施例においても、多層膜成膜前における1回目のレーザ照射により反り量が増大し、この反り量を基準として多層膜成膜後にはさらに反り量が増大した。しかし、多層膜成膜後における2回目のレーザ照射後の反り量は、多層膜成膜前における1回目のレーザ照射前の反り量よりは大きいものの多層膜成膜前における1回目のレーザ照射後の反り量よりも小さくなった。この結果からは、多層膜成膜後における2回目のレーザ照射によって、多層膜の成膜に起因して生じた反りを完全に相殺した上で、さらに、多層膜成膜前における1回目のレーザ照射に起因して生じた反りもある程度相殺できたことが判った。
【0133】
【表3】
【0134】
−多層膜成膜中における曲率の最大値と最小値との差−
表4に、表3に示した実施例B1〜B4および比較例B1の多層膜成膜中におけるサファイア基板の曲率の最大値と最小値との差の測定結果を示す。表4に示すように、比較例B1に対していずれの実施例も多層膜成膜中における反り挙動が抑制されていることが判った。さらに、実施例B1〜B4に示すように1回目のレーザ照射時のライン間のピッチを小さくするに伴い、多層膜成膜中における反り挙動がより一層抑制されることが判った。
【0135】
【表4】
【0136】
(評価方法)
表3に示す反り量については、リニアゲージで測定した。なお、反り量はレーザ干渉計でも検証・確認した。また、表3に示す成膜面52側から見た反りの方向はレーザ干渉計により測定した。また、表4に示す多層膜成膜中の曲率の最大値および最小値は、(1)サーマルクリーニング開始直後〜(5)クールダウン終了までの期間において、非特許文献2に開示されるIn−situ観察方法を利用して測定した。
【0137】
<<1回レーザ照射、単結晶基板厚み方向における曲率変化量の実施例>>
(評価用サンプルの作製)
評価用サンプルとして
図6(d)に示すものと同様のサファイア基板50の片面に3層構成の多層膜70が形成されたものを以下の手順で作製した。まず、サファイア基板50の成膜面52に多層膜70を形成した後、非成膜面54側からのレーザ照射により格子状パターンで第1の熱変性層22を形成して得られた多層膜付きサファイア基板を作製した。この際、
第1の熱変性層22形成位置であるサファイア基板50の厚み方向に対する、前記サファイア基板50の曲率変化量の関係について評価した。以下に、テスト条件および評価結果の詳細を説明する。
【0138】
−サファイア基板−
サファイア基板50としては、オリフラ面付きの円形状のサファイア基板(直径:4インチ(100mm)、厚み:650μm)を用いた。なお、このサファイア基板は、片面が鏡面研磨されたものであり、多層膜70はこの鏡面研磨された面を成膜面52として形成される。また、何らの成膜処理やレーザ照射処理を行わない状態でのこのサファイア基板50の反り量は、±30μmの範囲内である。
【0139】
−多層膜の層構成および成膜条件−
サファイア基板50の成膜面52には、3層構成の多層膜70を形成した。なお、具体的な成膜条件は以下の通りであり、以下に示す(1)〜(5)の順にプロセスを実施した。
(1)サーマルクリーニング
サファイア基板50をMOCVD装置内に配置した後、成膜面52のサーマルクリーニングを、基板温度1100℃にて約120秒間実施した。
(2)低温バッファ層60の形成
成膜時の基板温度を530℃とし、成膜レート0.16nm/sにて膜厚が30nmとなるまで低温バッファ層60を形成した。
(3)n−GaN層62の形成
成膜時の基板温度を1050℃とし、成膜レート2000nm/sにて膜厚が3500nmとなるまでn−GaN層62を形成した。
(4)InGaN系活性層64の形成
成膜時の基板温度を750℃とし、成膜レート10nm/sにて、膜厚が408nmとなるまでInGaN系活性層64を形成した。
(5)クールダウン
片面に低温バッファ層60、n−GaN層62およびInGaN系活性層64をこの順に形成したサファイア基板50を常温近傍まで冷却した。
【0140】
−第1の熱変性層形成条件−
まず、多層膜70が形成された単結晶基板50の非成膜面54を鏡面研磨した。次に、平坦な試料ステージ上に、多層膜70が形成された面を下面側として、真空吸着によりサファイア基板50を固定した。この状態で、サファイア基板50の多層膜70が形成されていない非成膜面54側から、以下の照射条件にてレーザ照射を行うことで第1の熱変性層22を形成した。なお、レーザ照射に際しては、試料ステージの縦方向の走査方向がサファイア基板50のオリフラと一致するように、試料ステージ上にサファイア基板50を固定した。そして、レーザ照射装置に対して、試料ステージを縦方向および横方向に走査し、サファイア基板の平面方向に対して格子状パターンとなるように第1の熱変性層22を形成した。ここで、格子状パターンのライン間ピッチは500μmとした。
・レーザ波長:1045nm
・パルス幅:500fs
・繰り返し周波数:100kHz
・スポットサイズ:1.6〜3.5μm
・レーザパワー:0.3W
・試料ステージ走査速度:400mm/s(ライン間のピッチに応じて左記範囲内で適宜選択)
【0141】
(評価結果)
−サファイア基板の厚み方向に対する、前記サファイア基板の曲率変化量の評価−
図11に、サファイア基板50の厚み方向に対する、前記サファイア基板50の曲率変化量について評価した結果を示す。
図11に示されるように第1の熱変性層22の形成位置が80%を超えたあたりから、急激にサファイア基板50の曲率変化量が増大していることが判った。
【0142】
(評価方法)
図11に示す曲率変化量については、リニアゲージで測定した。 なお、曲率変化量はレーザ干渉計でも検証・確認した。
【0143】
<<多層膜付き単結晶基板の研磨盤に対する貼り合わせ評価>>
(評価用サンプルの作製)
評価用サンプルとして
図6(d)に示すものと同様のサファイア基板50の片面に3層構成の多層膜70が形成されたものを以下の手順で作製した。まず、サファイア基板50の成膜面52に多層膜70を形成した後、非成膜面54側からのレーザ照射により格子状パターンで第1の熱変性層22を形成して得られた多層膜付きサファイア基板を作製した。この際、多層膜成膜後におけるレーザ照射前後での反り量および成膜面側から見た反りの方向、ならびに、レーザ照射時のライン間のピッチに対するレーザ照射前後での反り量の変化量の関係について評価した。以下に、テスト条件および評価結果の詳細を説明する。
【0144】
−サファイア基板−
サファイア基板50としては、オリフラ面付きの円形状のサファイア基板(直径:4インチ(100mm)、厚み:650μm)を用いた。なお、このサファイア基板は、片面が鏡面研磨されたものであり、多層膜70はこの鏡面研磨された面を成膜面52として形成される。また、何らの成膜処理やレーザ照射処理を行わない状態でのこのサファイア基板50の反り量は、±30μmの範囲内である。
【0145】
−多層膜の層構成および成膜条件−
サファイア基板50の成膜面52には、3層構成の多層膜70を形成した。なお、具体的な成膜条件は以下の通りであり、以下に示す(1)〜(5)の順にプロセスを実施した。
(1)サーマルクリーニング
サファイア基板50をMOCVD装置内に配置した後、成膜面52のサーマルクリーニングを、基板温度1100℃にて約120秒間実施した。
(2)低温バッファ層60の形成
成膜時の基板温度を530℃とし、成膜レート0.16nm/sにて膜厚が30nmとなるまで低温バッファ層60を形成した。
(3)n−GaN層62の形成
成膜時の基板温度を1050℃とし、成膜レート2000nm/sにて膜厚が3500nmとなるまでn−GaN層62を形成した。
(4)InGaN系活性層64の形成
成膜時の基板温度を750℃とし、成膜レート10nm/sにて、膜厚が408nmとなるまでInGaN系活性層64を形成した。
(5)クールダウン
片面に低温バッファ層60、n−GaN層62およびInGaN系活性層64をこの順に形成したサファイア基板50を常温近傍まで冷却した。
【0146】
−第1の熱変性層形成条件−
まず、多層膜70が形成された単結晶基板50の非成膜面54を鏡面研磨した。次に、平坦な試料ステージ上に、多層膜70が形成された面を下面側として、真空吸着によりサファイア基板50を固定した。この状態で、サファイア基板50の多層膜70が形成されていない非成膜面54側から、以下の照射条件にてレーザ照射を行うことで第1の熱変性層22を形成した。なお、レーザ照射に際しては、試料ステージの縦方向の走査方向がサファイア基板50のオリフラと一致するように、試料ステージ上にサファイア基板50を固定した。そして、レーザ照射装置に対して、試料ステージを縦方向および横方向に走査し、サファイア基板の平面方向に対して格子状パターンとなるように第1の熱変性層22を形成した。ここで、試料ステージの走査速度を変えることにより格子状パターンのライン間ピッチを変化させたサンプルも作製した。
・レーザ波長:1045nm
・パルス幅:500fs
・繰り返し周波数:100kHz
・スポットサイズ:1.6〜3.5μm
・レーザパワー:0.3W
・試料ステージ走査速度:400mm/s(ライン間のピッチに応じて左記範囲内で適宜選択)
【0147】
−評価用サンプルの仕様−
表5に、評価に用いた多層膜70付き単結晶基板(サンプルC1〜サンプルC5)のレーザ照射前後の反り量および非成膜面54側から見た反りの方向、ならびに、多層膜成膜後のレーザ照射条件の概略を示す。表5から明らかなように、レーザ処理を行ったサンプルC1〜サンプルC4は、レーザ処理を行っていないサンプルC5に対して反り量がより小さくなっており、多層膜70の成膜に起因する反りが矯正されていることが判った。なお、表5に示す反り量については、リニアゲージで測定した。この反り量は、レーザ干渉計でも検証・確認した。また、表5に示す非成膜面54側から見た反りの方向はレーザ干渉計により測定した。
【0148】
【表5】
【0149】
−研磨盤への貼り付け−
各サンプルについては、多層膜70のパターニング処理を省略して、多層膜70が設けられた面を研磨盤に貼り付けた。ここで、研磨盤80としては、直径140mm、厚み 20mmの両面が平坦なアルミナ盤を用いた。リニアゲージおよびレーザ干渉計で測定したこの研磨盤の両面の反り量は、いすれの測定方法でも各々±1.5μm以下である。
【0150】
次に、この研磨盤80の片面全面に、加熱して液状にしたワックス(融点:約120度)を薄く均一に塗布した後、研磨盤80上に、サンプルを配置して貼り合わせた後、さらに、このサンプル上に、重しとしてもう一枚の研磨盤80を配置した。続いて、重しとして用いた研磨盤80を介して、貼り合わせ界面の全面に対して20kgの荷重を均一に印加した。そして、この状態で、自然冷却によりワックスを固化させることで、研磨盤80上に、サンプル(多層膜付き単結晶基板)を貼り付けた。
【0151】
(評価結果)
研磨盤80上に貼り付けられたサンプルについては、このサンプルの非成膜面54について、オリフラ面と水平な方向の反り量および非成膜面54側から見た反りの向き、ならびに、オリフラ面と直交する方向の反り量および非成膜面54側から見た反りの向き、を評価した。また、貼り合わせ界面を、研磨盤80側から目視観察することにより、貼り合わせ界面に気泡が存在するか否かを評価した。結果を表6に示す。
【0152】
【表6】
【0153】
表6から明らかなように、実施例C1〜実施例C4のいずれにおいても、研磨盤80に貼り合わせた後の反り量は10μm以下となり、比較例C1の反り量よりも小さくなっていることが確認された。また、貼り合わせ前の反り量を40μm程度以下に制御した実施例C1および実施例C2に対して、貼り合わせ前の反り量を40μm〜55μm程度に制御した実施例C3および実施例C4では、貼り合わせ界面に気泡の発生も確認されなかった。さらに、実施例C4に対して貼り合わせ前の反り量をより小さくした実施例C3では、貼り合わせ後の反り量も実施例C1および実施例C2と同程度に小さくすることができた。以上のことから、貼り合わせ後の反り量の抑制および貼り合わせ界面における気泡の発生防止の両立という観点では、貼り合わせ前の反りについては、レーザ照射処理によってほぼ完全に平坦化するよりも、多少、反った状態としておくことが好ましいと言える。
【0154】
(評価方法)
表6に示す反り量については、リニアゲージで測定した。なお、反り量は、レーザ干渉計でも検証・確認した。また、表6に示す非成膜面54側から見た反りの方向はレーザ干渉計により測定した。