【実施例】
【0102】
以下、参考例および実施例により本発明をより詳細に説明する。これらの参考例および実施例は、本発明を限定するものではない。
【0103】
参考例1
STAT3タンパク質およびNF-κBタンパク質と相乗的にIL-6アンプを活性化し、IL-6生産を引き起こす原因因子の候補をスクリーニングした。
【0104】
<実験方法>
マウスI型コラーゲン陽性細胞BC-1に、添付の手順書に従い、shRNA搭載レンチウイルスライブラリーであるMISSION(登録商標) Whole Viral Library(The RNAi Consotrium)を導入し、shRNA搭載レンチウイルスが導入された細胞をピューロマイシン選択により選別した。
【0105】
得られた各クローンについて、50 ng/mlのヒトIL-6(hIL-6)タンパク質(東レ)、50 ng/mlのヒト可溶性IL-6受容体(hIL-6Rタンパク質、R&D Systems社)および50 ng/mlのマウスIL-17Aタンパク質(mIL-17A、R&D Systems社)を添加した、10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum、FBS)の存在下のRPMI 1640培地中で96穴プレートにて24時間培養した。
【0106】
培養後、各々のクローンにおけるマウスIL-6(mIL-6)タンパク質の産生量、すなわち培地溶液中のmIL-6タンパク質の物質量、をELISA法により定量した。ELISA法は、eBiosciences社製の抗mIL-6抗体およびELISAキットを用いた。また、各々のクローンについての細胞増殖アッセイを、TetraColor ONEキット(生化学工業社)により行なった。
【0107】
当該クローン感染細胞からのmIL-6タンパク質の産生量が当該96穴プレート平均の25%以下であり、細胞増殖アッセイの結果が全クローン平均の90%以上であるクローンに導入されたshRNA搭載レンチウイルスが標的とする遺伝子を、STAT3タンパク質およびNF-κBタンパク質と相乗的にIL-6アンプを活性化し、IL-6タンパク質生産を引き起こす遺伝子の候補として選別した。
【0108】
<実験結果>
選別された候補遺伝子には、IL-6信号伝達系に含まれる遺伝子(gp130、JAK、STAT3等)およびIL-17信号伝達系に含まれる遺伝子(IL-17受容体、TRAF6、NF-κB等)の他に、ErbB1遺伝子、エピレギュリン遺伝子が含まれていた。ErbB1遺伝子を標的とするshRNAクローンについての追試の結果を
図3に示す。後述する参考例2の条件(e)〜(h)の各条件下、かつ、ピューロマイシンの存在下で培養を行なった。ErbB1遺伝子の発現がshRNAにより抑制されると、ErbB1遺伝子の発現がshRNAにより抑制されない対照と比較して、mIL6タンパク質の発現量が減少した。
【0109】
参考例2
IL-6アンプの活性化によるIL-6タンパク質生産において、血清の有無の効果を検証した。
【0110】
<実験方法>
2×10
5個のマウスBC-1細胞をRPMI 1640培地中で、
(a)10% FBSの存在下、
(b)50 ng/mlのhIL-6タンパク質および50 ng/mlのhIL-6Rタンパク質(以下、「hIL-6/6Rタンパク質」と記載。)を添加し、10% FBSの存在下、
(c)50 ng/mlのmIL-17Aタンパク質を添加し、10% FBSの存在下
(d)50 ng/mlのhIL-6/6Rタンパク質および50 ng/mlのmIL-17Aタンパク質を添加し、10% FBSの存在下、
(e)FBS非存在化、
(f)50 ng/mlずつのhIL-6/6Rタンパク質を添加し、FBS非存在化、
(g)50 ng/mlのmIL-17Aタンパク質を添加し、FBS非存在化、または
(h)50 ng/mlずつのhIL-6/6Rタンパク質および50 ng/mlのmIL-17Aタンパク質を添加し、FBS非存在化、
の各条件下で、24時間培養した。
【0111】
培養後、各々のクローンにおけるmIL-6タンパク質の産生量を、参考例1と同様にELISA法により定量した。
【0112】
また、mIL-6遺伝子の発現量を、リアルタイムRT-PCR法により定量した。リアルタイムRT-PCR法は、GeneAmp 5700 sequence detection system(アプライドバイオシステムズ社)およびSYBER green PCR Master Mix(シグマアルドリッチ社)を用いて行なった。PCR増幅の条件は、次の通りとした:熱変性を94℃で15秒間、アニーリングを60°Cで30秒間、および伸長反応を72℃で30秒間行うサイクルを、40サイクル。
【0113】
リアルタイムRT-PCR法におけるプライマーは、下記に示す塩基配列を有するプライマーセットを用いた:
mIL-6遺伝子
フォワードプライマー:5'-GTGGCAGGTAGAGCAGGAAG-3' (配列番号1)
リバースプライマー :5'-CCACCTGAAAGGCACTCTGT-3' (配列番号2)
マウスHPRT遺伝子
フォワードプライマー:5’-GATTAGCGATGATGAACCAGGTT-3' (配列番号3)
リバースプライマー :5’-CCTCCCATCTCCTTCATGACA-3’ (配列番号4)。
【0114】
さらに、各々のクローンについての細胞増殖アッセイを、TetraColor ONEキット(生化学工業社)により行なった。
【0115】
結果を、
図4に示す。mIL-6遺伝子の発現量は、対照となるHPRT遺伝子の発現量に対する相対比で示す。FBSを添加した条件下において、mIL-6タンパク質の発現量およびmIL-6遺伝子の発現量が有意に(p値<0.01)増大した。
【0116】
参考例3
IL-6アンプの活性化によるIL-6生産において、特定の成長因子の添加の効果を検証した。
【0117】
<実験方法>
2×10
5個のマウスBC-1細胞を、50 ng/mlずつのhIL-6/6Rタンパク質および50 ng/mlのmIL-17Aタンパク質を添加したRPMI 1640培地中で、
・100 ng/mlのマウスEGFタンパク質(R&D Systems社)、
・100 ng/mlのヒトHB-EGFタンパク質(R&D Systems社)、
・0.1、1、10、100 ng/mlのマウスエピレギュリンタンパク質(R&D Systems社)、
・50 ng/mlのマウスVEGFタンパク質(R&D Systems社)、
・50 ng/mlのマウスFGF7タンパク質(R&D Systems社)、または
・300 ng/mlのmPDGF-CCタンパク質(R&D Systems社)をそれぞれ添加した条件下で、24時間培養した。hIL-6/6Rタンパク質およびmIL-17Aタンパク質のみを添加したものを対照群とした。
【0118】
培養後、各々の条件下におけるmIL-6タンパク質の産生量を、参考例1と同様にELISA法により定量した。結果を
図5および6に示す。
図5に示されるように、ErbB1タンパク質のリガンドであるEGFタンパク質、HB-EGFタンパク質、およびエピレギュリンタンパク質を添加した各々の条件下では、添加しない場合と比較して、mIL-6タンパク質の産生量が有意に(p値<0.01)増大した。一方、ErbB1タンパク質のリガンドではないVEGFタンパク質、FGF7タンパク質、およびPDGF-CCタンパク質を添加した各々の条件下では、mIL-6タンパク質の産生量は、添加しない場合に対して有意差が測定されなかった。
【0119】
参考例4
エピレギュリンタンパク質の添加によるIL-6アンプの標的遺伝子の発現量への効果を検証した。
【0120】
<実験方法>
2×10
5個のマウスBC-1細胞またはマウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast、MEF)を、参考例2の(e)〜(h)の条件で、または該条件においてさらに100 ng/mlのマウスエピレギュリンタンパク質を添加した条件下で、24時間培養した。
【0121】
培養後、各々の条件下におけるmIL-6遺伝子および転写因子NF-κBの標的であるマウスCCL20遺伝子の発現量を、参考例2と同様にリアルタイムRT-PCR法により定量した。
【0122】
リアルタイムRT-PCR法におけるプライマーは、参考例2に記載のプライマーセットおよび下記に示す塩基配列を有するプライマーセットを用いた:
マウスCCL20遺伝子
フォワードプライマー:5'- ACAGTGTGGGAAGCAAGTCC-3'(配列番号5)
リバースプライマー :5'- CCGTGAACTCCTTTGACCAT-3'(配列番号6)。
【0123】
結果を
図7に示す。発現量は、タンパク質を添加しない条件(参考例2の(e)の条件)を対象群とし、該条件におけるCCL20遺伝子の発現量に対する相対比で示す。BC-1細胞およびMEF細胞のいずれにおいても、エピレギュリンタンパク質の添加によりmIL6遺伝子の転写量が有意に増大した。
【0124】
参考例5
IL-6アンプの活性化によるIL-6タンパク質生産において、エピレギュリンの下流で機能する受容体の特異性を検証した。
【0125】
<実験方法>
2×10
5個のマウスBC-1細胞を、参考例2の(e)〜(h)の条件の各々においてさらに100 ng/mlのマウスエピレギュリンタンパク質を添加し、
・0、0.1、1もしくは10マイクロモル/LのPD153065(Calbiochem社)の存在下、または
・0、0.1、1もしくは10マイクロモル/LのErbB2 Inhibitor II(Calbiochem社、Cat# 324732)の存在下で、24時間培養した。
【0126】
培養後、各々の条件下におけるマウスIL-6タンパク質の産生量を、参考例1と同様にELISA法により定量した。結果を
図8に示す。ErbB1タンパク質の阻害剤であるPD153065の添加量に依存して、エピレギュリンタンパク質によるmIL-6転写量増大は阻害された。一方、ErbB2タンパク質の阻害剤であるErbB2 Inhibitor IIの添加によっては、エピレギュリンタンパク質によるmIL-6転写量増大は阻害されなかった。
【0127】
参考例6
IL-6アンプの活性化がエピレギュリン遺伝子の発現量へ与える効果を検証した。
【0128】
<実験方法>
2×10
5個のマウスBC-1細胞またはマウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast、MEF)を、参考例2の(e)〜(h)の条件で、または100 ng/mlのマウスエピレギュリンタンパク質を添加したRPMI 1640培地中で、2時間培養した。
【0129】
培養後、各々の条件下におけるマウスエピレギュリン遺伝子の発現量を、参考例2と同様にリアルタイムRT-PCR法により定量した。
【0130】
リアルタイムRT-PCR法におけるプライマーは、下記に示す塩基配列を有するプライマーセットを用いた:
マウスエピレギュリン遺伝子
フォワードプライマー:5’-CTGCCTCTTGGGTCTTGACG-3’ (配列番号7)
リバースプライマー :5’-GCGGTACAGTTATCCTCGGATTC-3’ (配列番号8)。
【0131】
結果を
図9に示す。マウスエピレギュリン遺伝子の発現量は、タンパク質を添加しない条件(参考例2の(e)の条件)を対象群とし、該条件の発現量に対する相対比で示す。BC-1細胞およびMEF細胞のいずれにおいても、hIL-6/6Rタンパク質およびmIL-17Aタンパク質の添加、ならびに、エピレギュリンタンパク質の添加により、エピレギュリン遺伝子の転写量が増大した。
【0132】
参考例7
ヒト関節リウマチ症患者由来の滑膜細胞における、IL-6アンプへのエピレギュリンタンパク質の関与を検証した。
【0133】
<実験方法>
ヒト関節リウマチ患者由来滑膜細胞050127(非特許文献4)を、参考例2の(e)〜(h)の条件で、または該条件においてさらに100 ng/mlのヒトエピレギュリンタンパク質を添加した条件下で、3時間培養した。
【0134】
培養後、hIL-6遺伝子の発現量を、参考例2と同様にリアルタイムRT-PCR法により定量した。
【0135】
リアルタイムRT-PCR法におけるプライマーは、下記に示す塩基配列を有するプライマーセットを用いた:
ヒトIL-6遺伝子
フォワードプライマー:5’-GGAGACTTGCCTGGTGAAAA-3’ (配列番号10)
リバースプライマー :5’- GTCAGGGGTGGTTATTGCAT-3’ (配列番号11)。
【0136】
発現量は、タンパク質を添加しない条件(参考例2の(e)の条件)を対象群とし、該条件の発現量に対する相対比で示す。結果を
図10に示す。ヒト関節リウマチ患者由来滑膜細胞において、IL-6アンプ活性時には、エピレギュリンタンパク質の添加により、hIL-6遺伝子の転写量が増大した。
【0137】
参考例8
皮膚炎発症におけるIL-6アンプの異常の関与を、疾患モデルマウスを用いて検証した。
【0138】
<実験方法>
F759マウス(非特許文献3)とSTAT3
fl/fl-K5 Creマウス(非特許文献5)との交配により、下記表1に示す各々の遺伝子型のマウスを常法により作製した。
【0139】
各々の遺伝子型のマウスにおける皮膚炎の発症率、発症時期および6ヶ月齢以内の死亡匹数を下記表1に示す。また、
図11(A)にはF759/F759-STAT3
fl/fl-K5 Creマウスの外観所見、および
図11(B)および(C)はF759/F759-STAT3
fl/fl-K5 CreマウスおよびF759/F759-STAT3
fl/flマウスそれぞれの、皮膚組織のヘマトキシリン・エオシン(HE)染色像を示す。F759/F759-STAT3
fl/fl-K5 Creマウスにおいて、皮膚炎によると考えられる脱毛が観察され、また、皮膚組織切片の観察にて細胞浸潤を伴う炎症像が観察された。
【0140】
【表1】
【0141】
なお、STAT3
fl/fl-K5 Creマウスとは、STAT3遺伝子座がCreリコンビナーゼ標的配列であるloxP配列により挟まれた形(flanked by loxP sites)であり、かつ、皮膚組織特異的プロモーターであるケラチン5(K5)プロモーターによって発現するCreリコンビナーゼが導入された遺伝子組み換えマウスである。すなわち、STAT3
fl/fl-K5 Creマウスにおいては、皮膚組織特異的に発現するCreリコンビナーゼの作用により、皮膚組織がSTAT3遺伝子を欠損すると考えられる。STAT3
fl/fl-K5 Creマウスにおいて、皮膚の創傷治癒における異常のため、生後1年程度で皮膚炎が生じることが知られている(非特許文献5)。
【0142】
F759マウスは、後述するように、IL-6アンプの暴走が引き起こされると考えられるマウスである。
【0143】
すなわち、IL-6アンプの暴走を引き起こすと考えられるF756変異を有するマウスにおいて、アトピー性皮膚炎様の症状が悪化することが示された。
【0144】
参考例9
ヒト由来細胞における、IL-6アンプへのエピレギュリンタンパク質の関与を検証した。
【0145】
<実験方法>
1×10
4個のヒト由来滑膜線維芽細胞を、参考例2の(e)〜(h)の条件で、または該条件においてさらに100 ng/mlのヒトエピレギュリンタンパク質を添加した条件下で、3時間培養した。
【0146】
培養後、hIL-6遺伝子の発現量を、参考例2と同様にリアルタイムRT-PCR法により定量した。
【0147】
発現量は、タンパク質を添加しない条件(参考例2の(e)の条件)を対象群とし、該条件の発現量に対する相対比で示す。結果を
図22(A)に示す。ヒト由来滑膜線維芽細胞において、IL-6アンプ活性時には、エピレギュリンタンパク質の添加により、hIL-6遺伝子の転写量が増大した。
【0148】
参考例10
ヒト由来細胞において、ErbB1タンパク質の阻害剤が、IL-6アンプに与える効果を評価した。
【0149】
<実験方法>
1×10
4個のヒト滑膜線維芽細胞を、参考例2の(e)〜(h)の条件の各々においてさらに100 ng/mlのマウスエピレギュリンタンパク質を添加し、
・0もしくは10マイクロモル/LのPD153065(Calbiochem社)の存在下で、3時間培養した。
【0150】
培養後、各々の条件下におけるヒトIL-6遺伝子の発言を、参考例9と同様にRT-PCR法により定量した。結果を
図22(B)に示す。ErbB1タンパク質の阻害剤であるPD153065の添加量に依存して、エピレギュリンタンパク質によるhIL-6転写量増大は阻害された。
【0151】
参考例11
ヒト由来細胞におけるIL-6アンプの活性化が、エピレギュリン遺伝子の発現量へ与える効果を検証した。
【0152】
<実験方法>
1×10
4個のヒト由来滑膜線維芽細胞を、参考例2の(e)〜(h)の条件で、または100 ng/mlのヒトエピレギュリンタンパク質を添加したRPMI 1640培地中で、3時間培養した。
【0153】
培養後、各々の条件下におけるヒトエピレギュリン遺伝子の発現量を、参考例2と同様にリアルタイムRT-PCR法により定量した。
【0154】
リアルタイムRT-PCR法におけるプライマーは、下記に示す塩基配列を有するプライマーセットを用いた:
ヒトエピレギュリン遺伝子
フォワードプライマー:5’- CTGCCTGGGTTTCCATCTTCT-3’ (配列番号12)
リバースプライマー :5’- GCCATTCATGTCAGAGCTACACT-3’ (配列番号13)。
【0155】
結果を
図23に示す。マウスエピレギュリン遺伝子の発現量は、タンパク質を添加しない条件(参考例2の(e)の条件)を対象群とし、該条件の発現量に対する相対比で示す。hIL-6/6Rタンパク質およびmIL-17Aタンパク質の添加、ならびに、エピレギュリンタンパク質の添加により、ヒトエピレギュリン遺伝子の転写量が増大した。
【0156】
実施例1
培養細胞において、ErbB1タンパク質の阻害剤が、IL-6アンプに与える効果を評価した。
【0157】
<実験方法>
2×10
5個のマウスBC-1細胞またはマウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast、MEF)を、
・0.1、1もしくは10マイクロモル/LのPD153065、または
・0.1、1もしくは10マイクロモル/LのPD168393(Calbiochem社)の存在下で30分間 RPMI 1640培地中で、培養した。
【0158】
次に、阻害剤で処理した細胞を、参考例2の(a)〜(d)の条件下で刺激して、24時間培養した。
【0159】
BC-1細胞をErbB1タンパク質の阻害剤に代えて、FGF RTK阻害剤(Calbiochem社、Cat# 341608)またはFGF/PDGF/VEGF RTK阻害剤(Calbiochem社、Cat# 341610)で処理した試料を、対照群とした。
【0160】
培養後、各々の条件下におけるマウスIL-6タンパク質の産生量をELISA法により定量した。結果を
図12に示す。ErbB1タンパク質の阻害剤の添加により、阻害剤の添加量に依存して、IL-6アンプの活性化により増大するmIL-6タンパク質の発現量増大が有意に抑制された。一方、ErbB1タンパク質とは異なる受容体型チロシンキナーゼに対する阻害剤の添加によっても、IL-6アンプの活性化により増大するmIL-6タンパク質の発現量増大は抑制されなかった。
【0161】
実施例2
培養細胞において、PI3キナーゼの阻害剤が、IL-6アンプに与える効果を評価した。
【0162】
<実験方法>
2×10
5個のマウスBC-1細胞を、参考例2の(a)〜(d)の条件下においてさらに0または100 ng/mlのマウスエピレギュリンタンパク質を添加し、ならびに0.1、1もしくは10マイクロモル/LのLY294002(Cell Signaling Technology社)または0.01、0.03(マウスエピレギュリンタンパク質を添加した場合のみ)、0.1、0.3もしくは1.0マイクロモル/LのPIK75(Cayman Chemical社)の存在化で24時間培養した。
【0163】
培養後、各々の条件下におけるマウスIL-6タンパク質の産生量をELISA法により定量した。結果を
図13に示す。PI3キナーゼの阻害剤の添加により、阻害剤の添加量に依存して、IL-6アンプの活性化により増大するmIL-6タンパク質の発現量増大が抑制された。
【0164】
実施例3
サイトカイン誘導関節炎マウスにおいて(関節リウマチ症の疾患モデルマウス)、病変部へのErbB1タンパク質の阻害剤投与の効果を評価した。
【0165】
<実験方法>
8週齢のF759マウスにおいて、0日目、1日目および2日目の各日に、サイトカインとして100 ngのmIL-6タンパク質および100 ngのmIL-17Aタンパク質を踝関節に注射投与し、関節炎を誘導した。同時に、0〜23日目の各日に10マイクログラムのPD153035を溶解したDMSOを踝関節に注射投与した(n=6)。サイトカインおよびDMSOのみを注射投与したマウス(n=6)、ならびにDMSOのみを注射投与したマウス(n=6)をそれぞれ対照群とした。
【0166】
0〜23日目にわたり、関節炎の症状を臨床スコアにより評価した。評価の具体例を下記および
図2に示す。すなわち、例えば、
図14(A)に示すように踝関節の可動域が正常な場合には臨床スコアは0であり、
図14(B)に示すように重度の関節炎が発症し踝関節の可動域が正常と比べて60度狭い場合には臨床スコアは3である。また、踝関節の可動域が正常と比べて20°狭い場合には臨床スコアは1であり、踝関節の可動域が正常と比べて40°狭い場合には臨床スコアは2である。
【0167】
評価の結果を
図15(A)に示す。ErbB1タンパク質の阻害剤であるPD153035の投与により、サイトカイン誘導関節炎の症状が緩和されるないし症状の悪化が抑制されることが観察された。
【0168】
なお、サイトカイン誘導関節炎マウスに用いるF759マウスとは、IL-6タンパク質などの受容体であるgp130タンパク質において、759番目のチロシン残基(Y)がフェニルアラニン(F)に置換される変異(F759変異)が導入された遺伝子組み換えマウスであり(非特許文献3)、F759マウスではIL-6アンプの暴走が観察される(非特許文献1)。F759マウスにおいて観察されるIL-6アンプの暴走は、gp130タンパク質の759番目のチロシン残基(Y759)のリン酸化状態に依存したSOCS3タンパク質のシグナル伝達がF759変異により阻害され、これによりSOCS3タンパク質を介したSTAT3シグナルに対する抑制作用が低減しSTAT3依存性のシグナルが増強されることにより引き起こされると考えられる。当該マウスは、生後1年〜1年半経過するとほぼ100%の個体において自己免疫性の関節炎が発症することが知られている。また、当該マウスの関節(例えば、踝関節)にIL-6やIL-17などの炎症性サイトカインを注射することで、より早期に関節炎を発症することも知られている。
マウスにおける自己免疫性関節炎は、ヒトの関節リウマチ症の疾患モデルであると考えられている。
【0169】
実施例4
サイトカイン誘導関節炎マウスにおいて、病変部へのErbB1タンパク質の阻害剤投与の効果を評価した。
【0170】
<実験方法>
8週齢のF759マウスにおいて、0日目、1日目および2日目の各日に、サイトカインとして100 ngのmIL-6タンパク質および100 ngのmIL-17Aタンパク質を踝関節に注射投与し、関節炎を誘導した。同時に、0〜11日目の各日に10マイクログラムのPD168393を溶解したDMSOを踝関節に注射投与した(n=4)。サイトカインおよびDMSOのみを注射投与したマウス(n=4)、ならびにDMSOのみを注射投与したマウス(n=4)をそれぞれ対照群とした。
【0171】
0〜23日目にわたり、実施例3と同様の方法により、関節炎の症状を臨床スコアにより評価した。評価の結果を
図15(B)に示す。ErbB1タンパク質の阻害剤であるPD168393の投与により、サイトカイン誘導関節炎の症状が緩和されるないし症状の悪化が抑制されることが観察された。
【0172】
実施例5
サイトカイン誘導関節炎マウスにおいて、病変部へのエピレギュリン遺伝子に対するshRNA投与の効果を評価した。
【0173】
<実験方法>
8週齢のF759マウスにおいて、0日目、2日目および4日目の各日に、3.8×105 TU(Total transducing units needed)のエピレギュリン遺伝子に対するshRNAを発現するレンチウイルス(シグマアルドリッチ社、TRCN0000250419(sh #1)、TRCN0000250420(sh #2)またはTRCN0000250421(sh #3))を3.8×105 TU溶解した生理食塩水を踝関節に注射投与した。次いで、6日目、7日目および8日目の各日に、サイトカインとして100 ngのmIL-6タンパク質および100 ngのmIL-17Aタンパク質を溶解した生理食塩水を踝関節に注射投与し、関節炎を誘導した(n=4)。エピレギュリン遺伝子に対するshRNAに代えて非特異的shRNA(Nontarget sh、シグ
マアルドリッチ社)を3.8×105 TUを注射投与したマウス(n=3)、および、エピレギュリン遺伝子に対するshRNAに代えて、NFκ-B p65遺伝子に対するshRNA(p65 sh、シグマアルドリッチ社、TRCN0000055346)を注射投与したマウス(n=3)、ならびに生理食塩水のみを注射投与したマウス(n=3)をそれぞれ対照群とした。
【0174】
なお、TU(Total transducing units needed)は、シグマアルドリッチ社が各レンチウイルスベクターのロットについて提供する情報(TU/ml)に従って求めた。
【0175】
0〜26日目にわたり、実施例3と同様の方法により、関節炎の症状を臨床スコアにより評価した。評価の結果を
図16(A)に示す。エピレギュリン遺伝子に対するshRNAの投与により、IL-6アンプを構成すると知られるNFκ-B p65遺伝子に対するshRNAを投与した同程度に、サイトカイン誘導関節炎の症状が緩和されるないし症状の悪化が抑制されることが観察された。
【0176】
なお、用いたshRNAの遺伝子発現を抑制する効果について検証した結果を、
図16(B)に示す。BC-1細胞に対して当該shRNAを搭載したレンチウイルスにより3マイクロリットル量のshRNA(sh #1:4.8×10
4 TU、sh #2:5.4×10
4TU、sh #3:6.0×10
4TU)を導入した試料と、shRNAを導入しない対照試料との間で、参考例2と同様にリアルタイムRT-PCR法によりエピレギュリン遺伝子の発現量を比較した。
【0177】
実施例6
サイトカイン誘導関節炎マウスにおいて、病変部への抗エピレギュリン抗体投与の効果を評価した。
【0178】
<実験方法>
8週齢のF759マウスにおいて、0日目、1日目および2日目の各日に、サイトカインとして100 ngのmIL-6タンパク質および100 ngのmIL-17Aタンパク質を踝関節に注射投与し、関節炎を誘導した。同時に、0〜14日目の各日に1マイクログラムのラット由来抗エピレギュリン抗体(R&D Systems社、Cat# MAB1068)を踝関節に注射投与した(n=3)。サイトカインのみを注射投与したマウス(n=3)、および生理食塩水のみを注射投与したマウス(n=3)をそれぞれ対照群とした。
【0179】
0〜29日目にわたり、実施例3と同様の方法により、関節炎の症状を臨床スコアにより評価した。評価の結果を
図16(C)に示す。抗エピレギュリン抗体の投与により、サイトカイン誘導関節炎の症状が緩和されるないし症状の悪化が抑制されることが観察された。
【0180】
なお、当該実施例で用いた抗エピレギュリン抗体(R&D Systems社、Cat# MAB1068)は、Balb/3T3マウス由来のマウス胚性線維芽細胞において、エピレギュリンタンパク質が誘発する細胞増殖を中和する活性を有する抗エピレギュリン抗体である。すなわち、当該抗エピレギュリン抗体は、ErbB1タンパク質とエピレギュリンタンパク質との結合を阻害する抗体であると考えられる。
【0181】
実施例7
実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis、EAE)マウスにおける、抗エピレギュリン抗体投与の効果を評価した。
【0182】
<実験方法>
(i)EAEマウスの作成
EAEマウスの作成は、非特許文献1に記載の方法に従い行なった。概略を
図17に示す。
【0183】
7-8週齢のC57/B6系統マウスにおいて、200マイクログラムのMOG(myelin oligodendrocyte glycoprotein)ペプチド(マウスMOGタンパク質の全長アミノ酸配列の33-55番目の残基(配列番号9に示すアミノ酸配列)を有するペプチド)を、完全フロイントアジュバント(Complete Freund’s adjuvant、CFA)で溶解し、これを尾部に皮下注射(subcutaneous injection、s.c.)し、次いで、200ナノグラムの百日咳毒素(Pertussis Toxin、PTx)を静脈注射(intravenous injection、i.v.)した。
【0184】
上記マウスを10日間飼育した後に摘出した脾臓から、常法に従いMOG特異的CD4
+T細胞群を得た。2×10
6細胞の該MOG特異的CD4
+T細胞を、20 ng/mlのリコンビナントIL-23(rIL-23)タンパク質の存在下で、5×10
5細胞のMOGペプチドでパルスしたC57/B6系統マウス骨髄由来の樹状細胞(bone marrow derived dendritic cells、BMDC)とともに、10%FBSを含むRPMI 1640培地中で温度条件37℃の恒温槽中で培養し、病原性のTh17細胞を含む細胞群を得た。
【0185】
得られた細胞群(8×10
6細胞)を、亜致死量の5 Gyのγ線を照射した7-8週齢のC57/B6系統マウスに静脈注射し、次いで、200ナノグラムの百日咳毒素を静脈注射し、EAEマウスを得た(0日目)。
【0186】
(ii)抗エピレギュリン抗体の投与
上記(i)で得たEAEマウスにおいて、0日目、4日目および7日目に、100マイクログラムのラット由来抗エピレギュリン抗体(R&D Systems社、Cat# MAB1068)を含む生理食塩水を腹腔注射により投与した(n=4)。100マイクログラムの非特異的IgG(シグマアルドリッチ社)を含む溶液を同様に投与したものを、対照群とした(n=4)。
【0187】
非特許文献1に記載の方法に従い、0〜12日目の各マウスの臨床スコアを評価した。結果を
図18(A)に示す。抗エピレギュリン抗体の投与により、実験的自己免疫性脳脊髄炎の症状が緩和されるないし症状の悪化が抑制されることが観察された。
【0188】
なお、実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis、EAE)マウスは、ヒトの多発性硬化症の疾患モデルであると考えられている。
【0189】
実施例8
EAEマウス(多発性硬化症のモデルマウス)における、ゲフィチニブ(商品名:イレッサ(登録商標)、アストラゼネカ社)投与の効果を評価した。
【0190】
<実験方法>
(i)EAEマウスの作成
実施例7と同様の方法により、EAEマウスを得た。
(ii)ゲフィチニブの投与
上記(i)で得たEAEマウスにおいて、0日目〜6日目の各日に、5 mgのゲフィチニブを溶解したDMSOを腹腔注射により投与した(n=5)。溶媒のDMSOのみを同様に投与したものを、対照群とした(n=5)。
【0191】
非特許文献1に記載の方法に従い、0〜13日目の各マウスの臨床スコアを評価した。結果を
図18(B)に示す。ゲフィチニブの投与により、実験的自己免疫性脳脊髄炎の症状が緩和されるないし症状の悪化が抑制されることが観察された。
【0192】
実施例9
サイトカイン誘導関節炎マウスにおいて、病変部へのErbB1遺伝子に対するshRNA投与の効果を評価した。
【0193】
<実験方法>
エピレギュリン遺伝子に対するshRNAを発現するレンチウイルスに替えて、ErbB1(Egfr)遺伝子に対するshRNAを発現するレンチウイルス(シグマアルドリッチ社、TRCN0000023480(sh #1)、TRCN0000023481(sh #2)またはTRCN0000023483(sh #3))を投与した以外は、実施例5と同様の方法により、サイトカイン誘導関節炎マウスにおいて、病変部へのErbB1に対するshRNA投与の効果を評価した。
【0194】
0〜29日目にわたり、実施例3と同様の方法により、関節炎の症状を臨床スコアにより評価した。評価の結果を
図19に示す。ErbB1(Egfr)遺伝子に対するshRNAの投与により、IL-6アンプを構成すると知られるNFκ-B p65遺伝子に対するshRNAを投与した同程度に、サイトカイン誘導関節炎の症状が緩和されるないし症状の悪化が抑制されることが観察された。
【0195】
実施例10
サイトカイン誘導関節炎マウスにおいて、病変部へのゲフィチニブ(商品名:イレッサ(登録商標)、アストラゼネカ社)投与の効果を評価した。
【0196】
<実験方法>
8週齢のF759マウスにおいて、0日目、1日目および2日目の各日に、サイトカインとして100 ngのmIL-6タンパク質および100 ngのmIL-17Aタンパク質を踝関節に注射投与し、関節炎を誘導した。同時に、0〜23日目の各日に10マイクログラムのゲフィチニブを溶解したDMSOを踝関節に注射投与した(n=4)。サイトカインおよびDMSOのみを注射投与したマウス(n=4)、ならびにDMSOのみを注射投与したマウス(n=4)をそれぞれ対照群とした。
【0197】
0〜23日目にわたり、実施例3と同様の方法により、関節炎の症状を臨床スコアにより評価した。評価の結果を
図20に示す。ゲフィチニブの投与により、サイトカイン誘導関節炎の症状が緩和されるないし症状の悪化が抑制されることが観察された。
【0198】
実施例11
IL-6アンプの活性化時において、エピレギュリンの発現抑制によるIL-6タンパク質の発現量減少を検出した。
【0199】
<実験方法>
マウスBC-1細胞に、常法従い、エピレギュリン遺伝子に対するshRNAを発現するレンチウイルス(シグマアルドリッチ、TRCN0000250421)を導入し、shRNA搭載レンチウイルスが導入された細胞をピューロマイシン選択により選択した。
【0200】
次いで、得られたクローンおよび対照クローン(非特異的shRNAを発現するレンチウイルス)について、2×10
5個の細胞を、参考例2の(e)〜(h)の条件で、または該条件においてさらに100 ng/mlのマウスエピレギュリンタンパク質を添加した条件下で、48時間または72時間培養した。
【0201】
培養後、各々の条件下におけるmIL-6タンパク質の産生量を、参考例1と同様にELISA法により定量した。結果を
図21に示す。マウスエピレギュリンタンパク質を添加した条件下および添加しない条件下のいずれにおいても、エピレギュリン遺伝子に対するshRNAの効果により、mIL-6タンパク質の産生量減少が測定された。
【0202】
考察
参考例1および2により、ErbB1タンパク質および成長因子がIL-6アンプの活性化に寄与することが示唆された。成長因子については、参考例3および4により、ErbB1経路の成長因子(リガンド)が特異的にIL-6アンプの活性化に寄与することが示唆された。さらに、参考例6によりエピレギュリンがIL-6アンプにおける正のフィードバック制御に寄与することが示唆された。また、参考例5および実施例1により、IL-6アンプの活性化においては、ErbB1受容体が特異的に関与することが示唆された。参考例7および9〜11は、同様の機構がヒトにも存在することを示している。
【0203】
実施例1および2の結果が示すように、hIL-6タンパク質、hIL-6Rタンパク質およびmIL-17Aタンパク質の添加によりIL-6アンプが活性化されることにより誘導されるIL-6の産生を、ErbB1の阻害剤であるPD153065およびPD168393、ならびにPI3キナーゼの阻害剤であるLY294002が抑制できることが示された。また、この結果から、ErbB1経路に属するタンパク質の機能を阻害できる化合物が、IL-6アンプの抑制剤、すなわち炎症性サイトカインの産生抑制剤として機能することも示唆される。さらには、当該化合物が免疫抑制剤として機能することをも示唆される。
【0204】
実施例3〜10の結果は、ErbB1経路のタンパク質の機能発現を抑制できる化合物が、関節リウマチ症や多発性硬化症のモデルマウスにおける症状を緩和できることが示されている。また、参考例7により、関節リウマチ症の患部において、IL-6アンプが活性化し炎症性サイトカインの産生が亢進することが示唆された。また、参考例8の結果は、IL-6アンプの暴走がアトピー性皮膚炎の発症に寄与することを示唆している。そのため、ErbB1経路のタンパク質の機能発現を抑制できる化合物は自己免疫疾患、炎症性疾患およびアレルギー性疾患などの疾患、ならびに臓器移植に伴う症状の治療薬または予防薬として用いることができる。
【0205】
ErbB1経路のタンパク質のなかで、エピレギュリンタンパク質はIL-6アンプの活性化に寄与し、かつ、エピレギュリン遺伝子はIL-6アンプの活性化により発現量が増加する。このことは、エピレギュリンがIL-6アンプにおける正のフィードバック制御に寄与することが示唆している。すなわち、エピレギュリンタンパク質機能発現を抑制できる化合物は、IL-6アンプの活性化を抑制できる化合物、ならびに、自己免疫疾患、炎症性疾患およびアレルギー性疾患などの疾患、ならびに臓器移植に伴う症状の治療薬または予防薬の有効成分として、特に高い効果を奏すると推測される。
【0206】
また、実施例1〜10の結果は、ErbB1経路のタンパク質の機能発現を抑制できる化合物をスクリーニングすることで、炎症性疾患およびアレルギー性疾患などの疾患、ならびに臓器移植に伴う症状の治療薬または予防薬がスクリーニングされることをも示唆している。実施例11は、スクリーニング方法において用いることができる、炎症性サイトカインの発現を抑制できる化合物であるか否かを判定するための好適な手段が実証されている。