【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕
目的:生体内組織に極めて少数存在する幹細胞などの機能的細胞を、低浸襲かつ高効率に回収するための新規技術開発
方法:上記の目的に対して以下の方法により研究を行った。
1)8週齢マウス(オス)に放射線(10Gy)照射した後、green fluorescent protein (GFP)トランスジェニックマウス由来骨髄細胞(5x10
6個/0.1ml生理的リン酸緩衝溶液pH7.4 )を尾静脈から移植してGFP骨髄移植マウスを作成した。
【0063】
2)生体内低刺激性材料(シリコン)で作られたチューブにHMGB1、ヒアルロン酸、皮膚抽出液、生理的リン酸緩衝溶液(pH7.4)をそれぞれ充填し、これをGFP骨髄移植マウス背部皮下に移植した(
図1)。
【0064】
3)2週間後に移植チューブを取り出し(
図2)、チューブ内に集積した細胞(tube-entrapping cells; TECs)を回収した後、10%牛胎仔血清含有ダルベッコ培地(D-MEM)にて37℃、炭酸ガス濃度5%の条件下で培養した。
【0065】
4)TECsの培養密度が培養皿底面積の約80%となった段階で、培地を骨分化誘導培地、脂肪分化誘導培地、表皮分化誘導培地のそれぞれに交換し、さらに培養を継続した。それぞれの分化誘導培地で培養開始2週間後に、骨分化はアリザリンレッド染色、脂肪分化はオイルレッド染色、表皮分化はケラチン5に対する免疫染色により評価した。
【0066】
5)TECsにおけるplatelet-derived growth factorα(PDGFRα陽性、CD44陽性細胞の割合を、フローサイトメトリーにより解析した。
【0067】
結果:HMGB1、ヒアルロン酸、皮膚抽出液を充填したシリコンチューブをGFP骨髄移植マウス皮下に移植した結果、いずれの溶液を充填した場合にも、1週間でGFP陽性の骨髄由来細胞(TECs)が多数チューブ内に集積した。
図2にHMGB1充填シリコンチューブ内に集積したGFP陽性細胞像を示す。一方リン酸緩衝液を充填したシリコンチューブでは、回収された付着性TECsの数は有意に少なかった。HMGB1充填シリコンチューブから回収した細胞を培養した結果、培養開始後24時間で培養皿に付着して増殖する付着性TECsが観察された(
図3)。これらHMGB1充填シリコンチューブ内に遊走した付着性TECsを骨分化、脂肪分化、および表皮分化誘導培地で培養した結果、それぞれアリザリンレッド陽性骨芽細胞、オイルレッド陽性脂肪細胞、ケラチン5陽性表皮細胞への分化能を示し、付着性TECsに間葉系および上皮系の分化能を持つ細胞集団が存在することが明らかとなった(
図4〜6)。また、フローサイトメトリーにて、間葉系幹細胞表面で発現していることが知られているPDGFRαおよびCD44のTECsにおける発現を検討した結果、TECsの約60%がPDGFRαおよびCD44陽性であることが示された(
図7)。
【0068】
また、ヒアルロン酸を100ng/ml (PBS)で充填したシリコンチューブをGFP骨髄移植マウス背部皮下に移植し、2週間後に取り出してチューブ内に動員された細胞の表面マーカーをFACSにて解析した結果、HMGB1チューブから得られたTECsと同様に、約60%がCD44陽性、PDGFRα陽性のP44細胞で、骨芽細胞や脂肪細胞などの間葉系細胞や上皮系細胞への分化能を示した。
【0069】
考察:今回本発明者らは、HMGB1、ヒアルロン酸、皮膚抽出液をそれぞれ充填したシリコンチューブを皮下に移植することにより、極めて効率よく骨分化能、脂肪分化能、表皮分化能を持つ骨髄由来TECsを回収できることを見出した。これら骨髄由来TECsの多くが間葉系幹細胞表面で発現することが知られているPDGFRαおよびCD44を発現していること、HMGB1、ヒアルロン酸、皮膚抽出液がいずれも間葉系幹細胞動員活性を持つことと併せ考えると、TECsに骨髄由来間葉系幹細胞が選択的に動員されていると思われる。シリコンチューブに充填する溶液を選択することにより、その溶液内に含まれる特定機能細胞動員活性物質に応じて選択的かつ高効率に、特定の生体内機能細胞を回収することが可能になる。この新しい発明技術を用いることにより、骨髄に針を刺入するなどの高浸襲性の方法を回避して、必要に応じた生体内機能細胞を回収し、目的に応じたオーダーメード再生医療をデザインすることが可能になると期待される。また、回収した細胞は、幹細胞研究をはじめとする多くの基礎研究の材料として提供可能であり、基礎的、臨床的研究の進展、創薬、医療技術の進歩に大きく寄与すると確信する。
【0070】
〔実施例2〕
目的:皮下デバイスに動員した骨髄由来細胞の皮膚潰瘍治療効果の評価
方法:
1)体内埋め込み型デバイスを作製した。
【0071】
2)骨髄多能性幹細胞動員因子を含有する皮膚組織抽出液を調製するために、C57/BL6新生マウス(2日齢)2匹から得た遊離皮膚片を生理的リン酸緩衝液pH7.4(PBS)2ml内に浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃で10分間、440Gで遠心し上清を回収して皮膚抽出液を作製した。また、末梢血単核球抽出液を調製するために、4週齢C57/BL6 マウス2匹から末梢血全血を採取した後PBSを用いて全量を4mLに希釈した。遠心管にFicoll-Paque Plus(GE)液を3mL 挿入後、その上に希釈血液を重層した。100G (18℃)で10分間遠心し、単核球を含む中間層を新しい遠心管に回収した。回収した中間層からFicoll-Paque Plus 液をのぞくため、45 mL のPBSを加え440G(18℃)5分で遠心し上清を除去し、さらにもう一度45 mL のPBSを加え440G(18℃)5分で遠心し上清を除去した。沈殿した細胞に200μLのPBSを加え懸濁した。細胞懸濁液は-80℃の冷凍庫内において30分間凍結し、冷凍庫から氷上で融解した。この凍結融解の操作を3回繰り返した。さらに440G(4℃)15分で遠心して上清を回収した(末梢血抽出液)。
【0072】
3)C57/BL6雄マウス(6〜8週齢)に致死量放射線(10Gy)を照射し、その直後に尾静脈からGFP(green fluorescent protein)トランスジェニックマウス由来骨髄細胞(5x10
6個/0.1ml 生理的リン酸緩衝溶液pH7.4)を移植した。移植後8週間後まで生存しているマウスのみ以後の実験に使用した。
【0073】
4)デバイスに、2)で作製した皮膚抽出液、末梢血抽出液、陰性コントロールのためのPBS40μLを挿入した。このデバイスを3)で作製したマウスの左右の背部皮下の筋膜側にデバイスの穴が接するように左右一個ずつ(計2個/匹)挿入した。2週間後、デバイスをマウスから取り出した。
【0074】
5)C.B-17/lcr-scid/scidJcl8週齢(日本チャールズリバー)の背部の毛を除去後、背部左右に直径6mmの円形の皮膚潰瘍を作製した。マウスの皮膚が収縮することを防ぐため、シリコン製の外径10mm内径6mm厚さ1mmの円盤を両面粘着テープおよび医療用接着剤アロンアルファA(三共)を用いて潰瘍部に接着した。3)で取り出した左右のデバイスの片側のデバイス内部から細胞を採取し、皮膚潰瘍に投与した。潰瘍部分の乾燥と細菌感染を防ぐため直径10mm厚さ1mmのシリコン製の円盤で潰瘍部を覆った。潰瘍部を保護するため、テガダーム(3M)で被覆した。7日後に潰瘍の面積を測定した。(
図27)
【0075】
その結果、陰性コントロールの潰瘍面が7日経過しても閉鎖しなかったのに対し、血液抽出液で採取した細胞を投与した潰瘍では5日目に潰瘍面積の減少が観察された。また、皮膚抽出液で採取した細胞を投与した潰瘍では7日目に潰瘍面積の閉鎖が観察された(
図27)。
【0076】
本実施例によって、組織抽出液を含む体内埋め込み型デバイス内に動員された、骨髄由来の細胞を皮膚潰瘍部分に投与することによる、潰瘍治療効果が確認された。骨髄細胞を骨髄から採取するのではなく、体内デバイスに動員しその細胞を利用して治療に応用する例はこれまでにない新規の治療法である。
【0077】
〔実施例3〕
1)上記実施例2に記載の方法で、皮膚抽出液および末梢血抽出液を作製した。
HiTrap Heparin HP 1mL カラム(GE)を10mM リン酸バッファーpH.7.5 10mLで平衡化した。皮膚抽出液、末梢血抽出液をそれぞれ10倍容の10mM リン酸バッファーpH 7.5で希釈し、平衡化したカラムに結合させた。10mM リン酸バッファーpH7.5を10mL用いてカラム内を洗浄し、非特異的吸着した成分を洗い流した。吸着した成分は1000mM NaCl 含有10mM リン酸バッファーpH7.5を用いて溶出し、120μLずつプラスチックチューブに分注した。Protein assay kit(Bio-Rad)を用いてタンパク量を定量し最も濃度の高い3フラクションを回収した(組織抽出液ヘパリン吸着)。
【0078】
2)0.1%ヒアルロン酸含有PBSを作製し、このヒアルロン酸溶液10μLと組織抽出液40μLを混合して実施例2のデバイス内に挿入した。陰性コントロールは1000mM NaCl 含有10mM リン酸バッファーpH7.5とヒアルロン酸との混合液を使用した。
【0079】
3)実施例2と同様にGFP骨髄移植マウスを作製し、同マウスの背部皮下に2)で作製したデバイスを挿入した。挿入10日後、皮下からデバイスを取り出し、細胞を回収した。回収した細胞は、10%Fetal bovine serum 含有IMDM(Invitrogen)中で培養皿を用いて、37℃、5%CO
2環境下で培養した。培養開始1日後に培地を交換し非付着性細胞を除去した。その後は3日おきに培地を交換した。細胞回収1週間後に蛍光顕微鏡を用いて観察し、骨髄由来細胞(GFP陽性細胞)を検出した(
図28)。また。GFP陽性細胞数を画像処理ソフト(Image J)を用いて計測した(
図29)。
【0080】
ヒアルロン酸と組織抽出液のヘパリン結合画分混合液(血液抽出液(
図28C)、皮膚抽出液(
図28D))では、ヒアルロン酸単独(
図28B)やPBS(
図28A)に比べ、デバイス内への骨髄由来付着系細胞に対して強い動員活性があることが観察された(
図28、29)。
【0081】
本実施例により、組織抽出液の骨髄細胞動員因子がヘパリンカラムで精製できることが確認された。皮膚抽出液中には、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8、S100A9が含有されており、これらの成分はヘパリンカラムに結合することから、骨髄細胞の動員はこれらの細胞が関与している可能性が示唆される。また、ヘパリンカラムには多くの成長因子などのサイトカインも結合するため、これらの複数の因子による総合的な効果によるものとも考えられる。
【0082】
〔実施例4〕
1)新生マウス皮膚からTrizol (invitrogen) を用いてRNA を抽出し、更にSuperScript III cDNA synthesis kit(Invitrogen) を用いてcDNA を合成した。このcDNA をテンプレートとしてS100A8のcDNAをPCR (ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いて増幅し、精製のためにアミノ酸配列のN末端にFlag tagおよび6XHis tagの配列を付加したタンパク質を発現するように、哺乳類細胞でタンパク質を発現させるプラスミドベクターpCAGGSに挿入した。ヒト胎児腎細胞由来HEK293培養細胞株にポリエチレンイミン(PEI)を用いてpCAGGS-Flag-His-S100A8をトランスフェクションし、48時間後細胞及び培養上清を回収した。細胞及び培養上清は4℃で4400G・5分間遠心し上清と細胞を分離しそれぞれ回収した。回収した上清はさらに直径0.8μm孔をもつセルロースアセテートフィルター(Nalgene)を通過させた後、0.45μmの孔を持つニトロセルロースフィルター(Corning)を通過させ不溶画分を除去したサンプルを調製した。本サンプルを、50mMNaCl含50mM Tris HCl pH8.0 (50mL)で平衡化した5 mL HisTrap FF(GE)に挿入し、吸着成分をさらに、10mM イミダゾール含有50mMNaCl 50mM Tris HCl pH8.0で洗浄して非特異的吸着成分を除去した。特異的吸着成分をカラムから100mM イミダゾール含有50mM NaCl 50mM Tris HCl pH8.0溶出した。吸着画分はそれぞれ、500μLずつシリコンコートしたプラスチックチューブに分画し、タンパク質含有フラクションをまとめて抗Flag 抗体M2ビーズ(Sigma)と混合し、4℃、12時間緩やかに混合しながら反応させた。反応後、ビーズを440G 5分間遠心し、上清を除去後、PBSでビーズを懸濁し、さらに同様に遠心して上清を除去した。ビーズを容量3mL内径1cm のカラムに挿入し、100mM Glycine-pH3.5 でビーズから吸着タンパク質を溶出させ、10分の1量の500 mM Tris HCl pH 7.5 を用いて中和した。精製したタンパク質量はProtein assay kit (Bio-Rad)を用いて定量した。
【0083】
2)新生マウス皮膚からTrizol (invitrogen) を用いてRNA を抽出し更にSuperScript III cDNA synthesis kit(Invitrogen) を用いてcDNA を合成した。このcDNA をテンプレートとしてHMGB1のcDNAをPCR (ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いて増幅し、精製のためにアミノ酸配列のN末端にFlag tagおよび6XHis tagの配列を付加したタンパク質を発現するように、哺乳類細胞でタンパク質を発現させるプラスミドベクターpCAGGSに挿入した。ヒト胎児腎細胞由来HEK293培養細胞株にポリエチレンイミン(PEI)を用いてpCAGGS-GST-His-HMGB1をトランスフェクションし、48時間後細胞及び培養上清を回収した。細胞及び培養上清は4℃で4400g・5分間遠心し上清と細胞を分離しそれぞれ回収した。回収した上清はさらに直径0.8μm孔をもつセルロースアセテートフィルターを通過させた後、0.45μmの孔を持つニトロセルロースフィルターを通過させ不溶画分を除去したサンプルを調整した。本サンプルを、50mM NaCl含50mM Tris HCl pH8.0 (50mL)で平衡化した5 mL HisTrap FF(GE)に挿入し、吸着成分をさらに、10mM イミダゾール含有50mM NaCl 50mM Tris HCl pH8.0で洗浄して非特異的吸着成分を除去した。特異的吸着成分をカラムから100mM イミダゾール含有50mMNaCl 50mM Tris HCl pH8.0溶出した。吸着画分はそれぞれ、500μLずつシリコンコートしたプラスチックチューブに分画し、タンパク質含有フラクションをまとめた後、脱塩カラムPD10(GE)を用いてイミダゾールを除去し、50mM Tris HCl pH. 7.5, 150mM NaCl を用いて溶出した。溶出したサンプルにHRV3C(Novagen)を添加し、4℃、3時間反応させた。切断後サンプルを50mM Tris HCl pH.7.5,150 mM NaClで平衡化したHiTrap Heparin 1 mL カラム(GE)に結合させ、50mM Tris HCl pH.7.5,150 mM NaClでカラム内部を洗浄後、50mM Tris HCl pH.7.5,1000 mM NaClで結合タンパク質を溶出した。溶出したサンプルはシリコンコートしたプラスチックチューブに500μLずつ分注した。
【0084】
3)S100A8、HMGB1、HMGB2、HMGB3をそれぞれ40μgずつシリコン製デバイスに挿入し、GFP骨髄移植マウスの左右背部皮下に孔が筋膜と接するように挿入した。挿入10日後、皮下からデバイスを取り出しデバイス内に集積した細胞を回収した。細胞は、10%Fetal bovine serum 含有IMDM(Invitrogen)中で培養皿を用いて、37℃、5%CO
2環境下で培養した。培養開始1日後に培地を交換し非付着性細胞を除去した。その後は3日おきに培地を交換した。細胞回収1週間後に蛍光顕微鏡を用いて観察し、骨髄由来細胞(GFP陽性細胞)を検出した(
図30)。
【0085】
4)BALB/cAJcl-nu/nu 8週齢(日本クレア)の背部左右に直径6mmの円形の皮膚潰瘍を作製した。マウスの皮膚が収縮することを防ぐため、シリコン製の外径10mm内径6mm厚さ1mmの円盤を両面粘着テープおよび医療用接着剤アロンアルファA(三共)を用いて潰瘍部に接着した。
【0086】
5)3)の細胞を0.5g/l-Trypsin/0.53mmol/l-EDTA 液(ナカライ)を用いて処理し、培養皿から遊離させ、10% FBS 含IMDMでトリプシンを不活化後、440G、4℃、5分間遠心し上清を除去後、4)で作製した潰瘍に投与した。局所の乾燥と細菌感染を防ぐため直径10mm厚さ1mmのシリコン製の円盤で潰瘍部を覆った。さらに潰瘍部を保護するため、テガダーム(3M)で被覆した。7日後に潰瘍の大きさを測定した(
図31)。
【0087】
陰性コントロール(E)に比較し、S100A8、HMGB1、HMGB2、HMGB3のいずれにおいても骨髄細胞の動員活性が認められた(
図30-A;S100A8、B;HMGB1、C;HMGB2、D;HMGB3)。特に、HMGB1、HMGB2に強い動員活性が観察された。
また、HMGB1、HMGB2、S100A8によって動員された骨髄由来細胞を投与することで、皮膚潰瘍を治療した結果陰性コントロール(PBS投与)に比較し潰瘍の縮小効果が観察された(
図31)。
【0088】
本実施例においては、S100A8、HMGB1、HMGB2、HMGB3いずれにおいてもデバイス内への骨髄由来付着性細胞の動員活性が認められた。骨髄内の主な細胞は赤血球、血球などの血球系細胞であるが、これらの細胞のほとんどは非付着性の細胞である。付着性の細胞としては間葉系幹細胞などの間葉系細胞が知られており、また上皮系や神経系に分化可能な多能性の細胞が含まれていると考えられている。本実施例によってS100A8、HMGB1、HMGB2によってデバイス内に動員した細胞によって皮膚潰瘍の治療効果が認められたことから、デバイス内に動員された細胞は、組織損傷を治療誘導可能な骨髄由来細胞である。骨髄間葉系幹細胞を皮膚潰瘍部位に投与することで治療効果を示すという報告もあり(Mesenchymal stem cells enhance wound healing through differentiation and angiogenesis. Wu Y, Chen L, Scott PG, Tredget EE.Stem Cells. 2007 Oct;25(10):2648-59. Epub 2007 Jul 5.)、本実施例における治療効果には骨髄間葉系幹細胞の関与が示唆される。また、骨髄間葉系幹細胞などの骨髄由来細胞は、神経細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、上皮系細胞に分化することが知られている。本デバイスで採取した細胞によって、損傷組織においてこれらの細胞を供給し治療する新しい再生誘導医療に応用することが可能である。
【0089】
〔参考例1〕
目的:皮膚抽出液中HMGB1ファミリーの同定と骨髄間葉系幹細胞誘導活性の検討
方法:新生マウス皮膚抽出液中に含まれるHMGB蛋白ファミリーの有無をWestern blot 法を用いて確認した。サンプルとして、新生マウス400匹から得た遊離皮膚片を生理的リン酸緩衝液pH7.4(PBS)400ml内に浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃の条件下で10分間、440Gで遠心し上清を回収して得られた皮膚抽出液を10μl をSDS-PAGE法を用いて電気泳動し、ゲル中で分離した蛋白をブロッティング装置(ATTO)を用いPVDF膜にトランスファーした。3%スキムミルク0.1% Tween 20 含PBS(S-T-PBS)にて、室温で1時間インキュベートした後、S-T-PBSで1000倍に希釈したラビット抗マウスHMGB1 抗体、ラビット抗マウスHMGB2抗体、ラビット抗マウスHMGB3抗体をそれぞれ4℃で16時間反応させた。反応後、同PVDF膜をS-T-PBSにて5分間5回洗浄後、S-T-PBSで2000倍希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ラビットIgG抗体(GE Healthcare)にて同PVDF膜を25℃で1時間インキュベートした。さらにS-T-PBSにて5分間5回洗浄後ECL Western Blotting Detection System (GE Healthcare)を同PVDF膜と反応させ、ECL film を感光させた後現像してHMGB1、HMGB2、HMGB3タンパク質の存在を検出した。
【0090】
新生マウス皮膚からTrizol (invitrogen) を用いてRNA を抽出し更にSuperScript III cDNA synthesis kit(Invitrogen) を用いてcDNA を合成した。このcDNA をテンプレートとしてHMGB1、HMGB2、及びHMGB3 のcDNAをPCR (ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いて増幅し、アミノ酸配列のN末端にFlag tagの配列(Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Lys;配列番号:30)を付加したタンパク質を発現するように、哺乳類細胞でタンパク質を発現させるプラスミドベクターpCAGGSに挿入した。これらのプラスミドベクターをHEK293 (ヒト胎児腎細胞由来培養細胞株)に遺伝子導入し48時間培養しタンパク質を発現させた。HMGB1、HMGB2、及びHMGB3タンパク質をそれぞれ発現させた細胞及び培養上清は4℃で16時間インキュベートした後、4400g・5分間遠心し上清を回収した。この上清50mL あたり100μLのAnti Flag 抗体Gel(Sigma) を混合し4℃で16時間インキュベートした。 遠心しGelを回収した後PBSを用いて、5回洗浄した。更に 3X Flag peptide (final 100μg/ml) を用いて溶出した。リコンビナントタンパク質の発現をS-T-PBS で1000倍希釈したマウス抗Flag 抗体、及びS-T-PBS で2000倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(GE Healthcare) を用いたWestern blot 法にて確認した。これらの精製リコンビナントタンパク質のマウス骨髄間葉系幹細胞の遊走活性をボイデン・チャンバーを用いて評価した。また、HMGBファミリーのin vivoでの薬効を観察するために、8週齢C57BL/6マウスの背部皮膚を直径8μmの円形に切除し皮膚潰瘍モデルを作製し、そこに精製したHMGB1・HMGB2・HMGB3それぞれ(100ng/μL)を、1g/100mL PBSの濃度のヒアルロン酸溶液と等量ずつ混合しそのうち100 μLを潰瘍面に投与した。潰瘍面は乾燥しないように、粘着性透明創傷被覆・保護材Tegaderm (スリーエムヘルスケア)で覆い、経時的に創傷面積を計測し治癒効果を測定した。
【0091】
さらにヒト骨髄間葉系幹細胞をヒト皮膚抽出液およびヒト精製HMGB1が遊走する活性があるかを調べるために、ボイデン・チャンバーを用いて評価した。面積1cm
2のヒト皮膚を1mlのPBSに浸し、4℃の条件下で16時間インキュベーションした後、4℃の条件下で10分間440Gで遠心した。上清のみを回収し、ヒト皮膚抽出液として使用した。また、ボイデン・チャンバーの上部に入れる細胞はヒト骨髄間葉系幹細胞(Cambrex社)を用いた。(本細胞はフローサイトメトリーによる細胞表面抗原の分析の結果、CD105陽性、CD166陽性、CD29陽性、CD44陽性、CD34陰性、CD45陰性とされている。さらに分化誘導試験によって脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞への分化が陽性である。)また、チャンバー下部には、ヒトHMGB1を100ng /well (R &D社)及びPBSにて10倍希釈したヒト皮膚抽出液を入れ、コントロールとしてPBSを用いた。
【0092】
結果:Western blotの結果、HMGB1のバンドの他にHMGB2やHMGB3のバンドが検出された。よって新生マウス皮膚抽出液の中には、HMGB1の他にファミリータンパク質であるHMGB2およびHMGB3が含有されていることが確認された(
図8)。それぞれのタンパク質のN末端にFlag tagを付加したHMGB1・HMGB2・HMGB3の発現ベクターを作製した(
図9)。HEK293細胞に発現ベクターを遺伝子導入し、発現したタンパク質をFlag tag を用いて精製した後、Western blot 法を用いてタンパク質を確認した(
図10)。これらの精製タンパク質を用いたマウス骨髄間葉系幹細胞の遊走活性を測定したところ、いずれのタンパク質においても活性が確認された(
図11)。マウスの背部に作製した潰瘍面積を7日毎に計測したところ、非治療群に比べHMGB1,2および3による治療群の方が有意に潰瘍面積の縮小効果を確認できた(
図12)。マウスの場合と同様に、ヒトHMGB1及びヒト皮膚抽出液はヒト骨髄間葉系幹細胞を遊走する活性があることが明らかとなった(
図13)。
【0093】
考察:HMGB1と相同性が高いタンパク質としてHMGB2及びHMGB3が知られている。これらのタンパク質もHMGB1と同様の性質を有することが期待される。そこで、遊離皮膚片抽出液からHMGB1のファミリーであるHMGB2およびHMGB3も産生されることを確認した。さらに HMGB1・HMGB2・HMGB3のリコンビナントタンパク質を作製し、in vitroでの骨髄間葉系幹細胞遊走活性を確認し、in vivoにおける皮膚潰瘍治療効果も確認した。新生マウス遊離皮膚片中のHMGBファミリー(HMGB1・HMGB2・HMGB3)およびリコンビナントHMGBファミリーには骨髄間葉系幹細胞誘導活性や骨髄由来の上皮系に分化可能な幹細胞を局所に誘導する活性があり、さらにこれらの誘導された骨髄由来の細胞群が損傷組織において表皮ケラチノサイトや毛包や線維芽細胞のようなさまざまな細胞に分化して損傷組織の治癒を促進する効果があることが明らかになった。また骨髄間葉系幹細胞は多能性幹細胞であるので、他の組織損傷状態、例えば、脳損傷、心筋梗塞、骨折などの組織損傷の治療にHMGBファミリーを全身投与もしくは局所投与することで同様に治療効果が期待できると確信する。
【0094】
また、ヒトとマウスのHMGB1はそれぞれを構成するアミノ酸配列で98%(213/215)の相同性があり、HMGB2はそれぞれを構成するアミノ酸配列で96%(202/210)の相同性があり、HMGB3はそれぞれを構成するアミノ酸配列で97%(195/200)の相同性があることがわかっている。そこで、ヒトのHMGBがマウスのHMGBと同様の活性を有することが考えられるが、本結果から、ヒトの皮膚抽出液やHMGB1がマウスの皮膚抽出液や、HMGB1と同様に骨髄間葉系幹細胞を誘導する活性があることが明らかになった。
【0095】
〔参考例2〕
目的:骨髄間葉系幹細胞誘導因子組織抽出液の作製方法の確立
方法:6週齢C57BL6一匹分の脳、心臓、腸、腎臓、肝臓及び新生マウス皮膚一匹分を生理的リン酸緩衝液pH7.4(PBS)1ml内に浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃の条件下で10分間、440Gで遠心し上清を回収して組織抽出液とした。得られた抽出液の中に骨髄間葉系幹細胞誘導活性が存在することを確認するため、ボイデン・チャンバーを用い、骨髄由来間葉系幹細胞に対する遊走活性を検討した。また、同じサンプル中に含まれるHMGB1の濃度をHMGB1 ELISA kit(シノテスト)を用いて計測した。更に脳、心臓および皮膚の組織抽出液をヘパリンアフィニティーカラムに結合させ、結合画分のタンパク質の骨髄間葉系幹細胞誘導活性をボイデン・チャンバーを用いて確認した。
【0096】
結果:マウス脳抽出液には新生マウス皮膚抽出液と同等のHMGB1が含有されていた。さらに、骨髄間葉系幹細胞の誘導活性はマウス脳でも皮膚と同様に認められた。マウス腸抽出液とマウス心臓抽出液中にHMGB1はほとんど含まれなかったが、骨髄間葉系幹細胞の誘導活性は認められた。また、マウス脳、マウス心臓のヘパリンカラム結合画分はマウス皮膚のヘパリンカラム結合画分と同様に骨髄間葉系幹細胞を誘導する活性があった(
図14)。表1は、マウス各組織抽出液のHMGB1濃度と骨髄間葉系幹細胞の誘導活性を測定した結果を示す。
【0097】
【表1】
【0098】
考察:皮膚のみならず脳でも臓器を生理的緩衝液に浸すだけという簡便な方法でHMGB1を簡便に抽出する方法を開発した。この方法は、他の臓器例えば、肝臓や腎臓でも同様である。また心臓や腸からの抽出液にはHMGB1をほとんど含有しないにもかかわらず骨髄間葉系幹細胞誘導活性を認めた。このことは抽出液中にHMGB1と異なる、他の骨髄間葉系幹細胞誘導物質が含まれていることが考えられる。これらの抽出液に含まれる物質は、もともとそれぞれの組織に存在するものであり、生理的には組織損傷時に骨髄間葉系幹細胞を損傷組織に誘導していると考えられる。本発明によってHMGB1を含む複数の骨髄間葉系幹細胞誘導物質を各種臓器から機能的にかつ簡便に抽出する新規の方法を開発できた。さらに、組織抽出液から骨髄間葉系幹細胞誘導物質を精製するためにヘパリンカラムに結合させる方法を開発した。また、これらの骨髄間葉系幹細胞誘導活性を有する成分は皮膚と同様の方法で脳や心臓からもヘパリンカラムを用いて精製することが可能である。
【0099】
〔参考例3〕
目的:培養細胞から間葉系幹細胞遊走活性物質を抽出する方法を確立する。
方法:ヒト胎児腎由来培養細胞株HEK293及びヒト子宮頸癌細胞株HeLaはそれぞれ10%胎仔牛血清含D-MEM(nacalai 社製)で培養した。それぞれの細胞をPBSで洗浄後、細胞10
7個を4℃の5mlのPBS(nacalai社製)に16時間浸した。重力加速度440Gで4℃で5分間遠心し上清を回収した。ボイデン・チャンバーの上層にヒト骨髄間葉系幹細胞をいれ、下層にDMEMで5倍希釈した細胞抽出液をいれ、ヒト骨髄間葉系幹細胞遊走活性を確認した。
結果:HEK293抽出液もHeLa抽出液も同様に骨髄間葉系幹細胞を遊走する活性を示した(
図15)。
考察:培養細胞をPBSに浸すという簡便な方法で骨髄間葉系幹細胞を遊走する活性物質を抽出することに成功した。
【0100】
〔参考例4〕
目的:マウス脳欠損モデルを作成し、局所損傷部位に皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分を徐放化して投与することで、自己の骨髄系に含まれる幹細胞を局所損傷部位に遊走させ、神経系細胞の再生を誘導できないか検討する。
方法:
(1) 皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分の作製
切除した新生マウス皮膚からPBS(一匹/ml)中に4℃で16時間インキュベーションし抽出した皮膚抽出液を4℃の9倍容20 mM リン酸バッファー pH 7.5を用い 10倍に希釈した。あらかじめ、20 mM リン酸バッファー pH 7.5(30ml)をHiTrap Hepalin HP column(カラム容量: 5ml、GE Healthcare)の中に流しカラムを平衡化した。さらに、希釈液をカラムに結合させた。その後20 mM リン酸バッファー pH 7.5, 100mM NaCl(30ml)でカラムを洗浄した。吸着したタンパク質を溶出するため20 mM リン酸バッファー pH 7.5, 1000mM NaClをカラム内に流入し、溶出液をチューブに分画した。吸着画分をそれぞれ、マウス骨髄由来細胞株の遊走活性をボイデン・チャンバー法を用いて評価し遊走能を有する画分を集めた。この活性を有する溶液を皮膚抽出液ヘパリン精製画分として以下の参考例に使用した。
【0101】
(2)骨髄抑制マウスの作成
マウスに10GyのX線単回照射を行い、骨髄抑制マウスを作成した。
【0102】
(3)骨髄抑制マウスへのGFPマウス骨髄移植
GFPマウスの両側大腿骨および下腿骨より骨髄細胞を採取した。これを照射後24時間経過した骨髄抑制マウスの尾静脈より投与した。なお、投与はイソフルランによる吸入麻酔下に施行した。
【0103】
(4)マウス脳損傷(脳組織欠損)モデルの作成
GFPマウスの骨髄細胞を移植した骨髄抑制マウスにイソフルランにて吸入麻酔を行い、ペントバルビタール(45mg/kg)を腹腔内に注入した。マウスを脳定位固定装置に固定し、メスにて頭部に正中切開を加えた。ブレグマから右外側2.5mm、前方1mmにドリルを用いて穿頭を施した(
図16A)。この部位から深さ3mmの位置を先端にして、20Gサーフロー針の外筒を挿入して固定した。ここでシリンジを用いて、陰圧をかけ、脳組織を一部吸引した(
図16B)。
【0104】
(5)皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分の脳組織欠損部への投与
前述の位置に、ハミルトンシリンジと26Gシリンジを用いて、フィブリン糊製剤(フィブリノゲン)(ボルヒール(化血研))に溶解した皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分を5μl注入し、次にフィブリン糊製剤(トロンビン)(ボルヒール(化血研))を5μl注入した(
図16C)。この操作によって、皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分の徐放剤としての効果を狙った。
【0105】
(6)脳組織欠損部における神経系細胞再生効果の評価
コントロール群と治療群のマウスとを用いて評価した。適切な経過設定を決め(経時的に)、マウスを4%パラホルムアルデヒドにて灌流固定後、脳の切り出しを行った。さらに、4%パラホルムアルデヒドを外固定した。15%と30%の勾配をつけたショ糖にて脱水後、凍結切片を作成した。
DAPI(4',6-Diamidino-2-phenylindole, dihydrochloride)solusionにて核染色を行い、退光防止剤を用いて封入した。共焦点レーザー顕微鏡にて損傷部位(脳組織欠損部)でのGFP陽性細胞の集積を評価した。
結果:投与後、2週間および6週間後のGFP陽性細胞集積を定性的に示す。2週間後(コントロール;
図16D, 皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分;
図16E)および6週間後(コントロール;
図16F 皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分;
図16G)ともに、コントロール群に比して治療群の損傷部位にGFP陽性細胞の集積が高い傾向にあった。
考察:皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分投与により、骨髄由来細胞が脳組織欠損部位に集積し神経細胞の形態を示した。骨髄由来間葉系幹細胞は神経細胞にも分化することが知れており、本結果から、皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分によって脳損傷部位における神経系細胞再生の誘導できることが明らかになった。また、これは、脳虚血性疾患や脳挫傷における脳組織障害部位での神経再生にも応用可能である。
【0106】
〔参考例5〕
目的:皮膚組織抽出液内に存在する骨髄由来組織幹細胞誘導因子の同定
方法:疎血状態にある切除皮膚からの放出が予想される骨髄間葉系幹細胞動員因子の同定を目的として以下の方法のように研究を進めた。
1)マウス骨髄由来間葉系幹細胞を得るために、C57BL/6マウスの骨髄細胞を大腿骨もしくは下腿の骨から採取し、10%胎仔ウシ血清含D-MEM(Nacalai 社製)を細胞培養培地として細胞培養皿に撒き、37℃、炭酸ガス濃度5%の条件下で培養した。細胞が占める面積が培養皿底面積に対して70から100%に増殖した時点で、0.25%トリプシン1mMEDTA(Nacalai社製)を用いて細胞を培養皿からはがし、さらに同じ条件で継代培養した。継代作業は少なくとも5回以上繰り返した。さらにこれらの付着細胞を単離培養しフローサイトメトリーによる細胞表面抗原の分析を行いLin陰性、CD45陰性、CD44陽性、Sca-1陽性、c-kit陰性であることを確認した。これらの細胞は骨細胞、脂肪細胞に分化可能で骨髄間葉系幹細胞の性質を有することを確認した。
2)新生マウス(2日齢)5匹から得た遊離皮膚片を生理的リン酸緩衝液pH7.4(PBS)5ml内に浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃の条件下で10分間、440Gで遠心し上清を回収して皮膚抽出液を作製した。また同様に、6週齢マウス1匹から得た遊離皮膚片を生理的リン酸緩衝液pH7.4(PBS)5ml内に浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃の条件下で10分間、440Gで遠心し上清を回収して皮膚抽出液を作製した。
3)得られた皮膚抽出液の中に骨髄間葉系幹細胞誘導活性が存在することを確認するため、ボイデン・チャンバーを用い、本発明者らが既に株化しているC57BL6マウス骨髄由来間葉系幹細胞に対する遊走活性を検討した。具体的にはボイデン・チャンバーの下槽(容量25μl)に2日齢もしくは6週齢のマウス皮膚抽出液(5μl)とDMEM(20μl)の混合液を挿入し、8μmの微細穴を持つポリカーボネートメンブレンを乗せ、さらにこれに接してボイデン・チャンバー上槽(容量50μl)を載せて、その中に骨髄由来間葉系幹細胞浮遊液(5x10
4個/50ml培養液:DMEM/10%ウシ胎仔血清)を入れ、CO
2インキュベーター内で37℃、4〜24時間培養した。培養後、チャンバーの上槽をはずし、シリコン薄膜を取り出して、その微細穴を通過してチャンバー下槽に遊走した骨髄由来間葉系幹細胞の数を染色により定量的に検討した(
図17)。
【0107】
4)2日齢マウス、6週齢マウスそれぞれの皮膚を約2cm
2採取し、速やかに液体窒素で凍結後、乳鉢を用いて粉砕した。これらのサンプルからRNeasy (Qiagen)を用いてRNAを抽出精製した。精製したRNAを用いてマイクロアレイアッセイにより2日齢マウスでより多く発現しているmRNAをスクリーニングした。2日齢マウスの方が2倍以上のスコアが高い遺伝子は767あった。これらの遺伝子のうち、ヘパリンに親和性の高いタンパク質、分泌される可能性のあるタンパク質、2日齢マウスの方が6倍以上スコアが高い遺伝子を検討したところ上位57番目の遺伝子としてS100A9が存在した。そこで、S100A9とヘテロダイマーを形成することで知られているS100A8の2日齢皮膚抽出液中の存在をWestern blot 法で検出した。すなわち、2日齢皮膚抽出液5μl とSDS-PAGE sample buffer 5μl(Bio-Rad)を混合し、98℃、5分間ヒートブロックで熱した後、25℃にまで冷却した。このサンプルを12.5% アクリルアミドゲルのe-PAGEL(ATTO)にアプライし、電気泳動装置(ATTO)を用いて、40mA で75分間電気泳動した。電気泳動後ゲルを回収し、ブロッティング装置(ATTO)を用いて、あらかじめ100% メタノールにて処理した縦7cm 横9cmのPVDF膜(Millipore)にゲル中のタンパク質を転写した。転写は120mA 、75分間施行した。転写終了後、PVDF膜を回収し、4%スキムミルク含PBS(nacalai)中で30分間室温振盪した。その後、抗S100A8抗体(R&D)もしくは抗S100A9(R&D)5μlを10mLの4%スキムミルク含PBSに希釈した液中に回収したPVDF膜を浸し、60分間室温振盪した。抗体液を除去後、30 mL の0.1% Tween 20 含PBSで膜を5分間室温で振盪し洗浄した。洗浄は5回繰り返した。洗浄後、HRP標識抗goat IgG 抗体(GE healthcare)5μlを10mLの4%スキムミルク含PBSに希釈した液中に膜を入れ室温で45分間振盪した。抗体液を除去後、30 mL の0.1% Tween 20 含PBSで膜を5分間室温で振盪し洗浄した。洗浄は5回繰り返した。膜をECL検出キット(GE healthcare)にて発光させフィルムを感光させた。現像装置でフィルムを現像し、S100A8及びS100A9のタンパク質のシグナルを得た(
図18)。
【0108】
5)皮膚抽出液内の骨髄由来間葉幹細胞動員活性をもつ因子を精製するために、ヘパリンアフィニティーカラム・クロマトグラフィーを施行した。以下の操作は、FPLC装置(GE healthcare)を用いて施行した。まず、2日齢マウス皮膚抽出液を4℃の9倍容20 mM リン酸バッファー pH 7.5を用い 10倍に希釈した(希釈液A)。あらかじめ、20 mM リン酸バッファー pH 7.5(300ml)をHiPrep 16/10 Heparin FF(GE Healthcare)の中に流しカラムを平衡化した。さらに、希釈液Aをカラムに結合させた。その後20 mM リン酸バッファー pH 7.5, (300ml)でカラムを洗浄した。吸着したタンパク質を溶出するため、(A液)20 mM リン酸バッファー pH 7.5, 10mM NaCl と(B液)20 mM リン酸バッファー pH 7.5, 500mM NaClを作製した。はじめA液100%/B液0%で送液し、徐々にB液の割合を増加し最終的にA液0%/B液100%で送液した。総送液量は150mLとした。溶出液はシリコンコートしたチューブに3mLずつ分画した。分画したサンプルのそれぞれ5μl とSDS-PAGE sample buffer 5μl(Bio-Rad)を混合し、98℃、5分間ヒートブロックで熱した後、25℃にまで冷却した。このサンプルを(5-20% graduent) アクリルアミドゲルのe-PAGEL(ATTO)にアプライし、電気泳動装置(ATTO)を用いて、40mA で75分間電気泳動した。泳動後、Dodeca silver stain kit(Bio-Rad)を用いて泳動したタンパク質を検出した(
図19)。
分画したサンプルをそれぞれ、上記と同様にボイデン・チャンバーを利用した遊走活性を評価した(
図20)。
分画したサンプルをそれぞれ、上記と同様にWestern blot法を用いてS100A8とS100A9のタンパク質の存在を検出した(
図21)。
【0109】
6)新生マウス皮膚からTrizol (invitrogen) を用いてRNA を抽出し更にSuperScript III cDNA synthesis kit(Invitrogen) を用いてcDNA を合成した。このcDNA をテンプレートとしてS100A8及びS100A9のcDNAをPCR (ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いて増幅し、アミノ酸配列のN末端にGST tagの配列(配列番号:31(アミノ酸配列)、配列番号:32(DNA配列))を付加したタンパク質を発現するように、哺乳類細胞でタンパク質を発現させるプラスミドベクターpCAGGSに挿入した。(
図22)ヒト胎児腎細胞由来HEK293培養細胞株にリポフェクション試薬(Invitrogen)を用いてpCAGGS-GST-S100A8もしくはpCAGGS-GST-S100A9をトランスフェクションし、48時間後細胞及び培養上清を回収した。細胞及び培養上清は4℃で4400g・5分間遠心し上清(上清A)と細胞を分離しそれぞれ回収した。細胞は0.1%Tween20含PBSを加え氷冷下で30秒間超音波をあてることで細胞膜を破壊した。さらに、4℃で4400g・5分間遠心し上清を回収した(上清B)。上清Aおよび上清Bを混合し、あらかじめ30mLのPBSでバッファーを置換したHiTrap GST FF column (GE healthcare, 5mL)に添加した。添加後PBS100mLでカラムを洗浄し、還元型グルタチオン含20mM リン酸バッファー(pH.8)で吸着したタンパク質を溶出した。リコンビナントS100A8およびS100A9のボイデン・チャンバーを用いた、骨髄間葉系幹細胞遊走活性を検討した。ボイデン・チャンバーの下層には、精製したS100A8およびS100A9タンパク質を0.1ng/μLの濃度に調整しDMEMに溶かしたサンプルもしくは2日齢マウス皮膚抽出液は4倍容のDMEMで希釈したサンプルを挿入した。Negative controlはS100AおよびS100A9 cDNAを挿入していないコントロールベクターをトランスフェクションした細胞からタンパク質を抽出し、HiTrap GST FF columnから溶出した画分を同様に用いた。下層にサンプルを挿入後、8μmの微細穴を持つポリカーボネートメンブレンを乗せ、さらにこれに接してボイデン・チャンバー上槽(容量50μl)を載せて、その中に骨髄由来間葉系幹細胞浮遊液(5x10
4個/50ml培養液:DMEM/10%ウシ胎仔血清)を入れ、CO
2インキュベーター内で37℃、4〜24時間培養した。培養後、チャンバーの上槽をはずし、シリコン薄膜を取り出して、その微細穴を通過してチャンバー下槽に遊走した骨髄由来間葉系幹細胞の数を染色により定量的に検討した(
図23)。
【0110】
7)前述の精製したGST-S100A8およびS100A9リコンビナントタンパク質を8週齢雄マウスの尾静脈から250μL(1ng/μL)注入した。12時間後イソフルランに容吸入麻酔下に、マウスの心臓からヘパリンコートした1mLのシリンジを用いて、末梢血1mLを採血し、3mLのPBSと混合した後、3mLのFicol(GE healthcare)の上に静かに重層した。遠心機を用い、25℃で400g、40分間遠心した。中間層の白濁した層の細胞を単核球画分として回収した。回収した細胞に1mLの溶血剤であるHLB solution(免疫生物研究所)を加え室温で5分インキュベートした。この溶血操作を2回繰り返した。10mLのPBSを加え、25℃で440g、5分間遠心し上清を除去して細胞を回収した。この細胞1,000,000個に抗マウスPE標識PDGFRα抗体(e-Bioscience)、PE標識抗マウスPDGFRβ抗体(e-Bioscience)、FITC標識抗マウスCD45抗体(BD biosciences)、PerCy5標識抗マウスCD44抗体(BD biosciences)それぞれをPBSで100倍希釈し20分間室温でインキュベートした。その後この細胞を25℃、440g、5分間遠心し上清を除去した。1%パラホルムアルデヒド含PBSを400μL加え、フローサイトメトリー解析のサンプルとした。抗体は(I)PDGFRα/CD45/CD44(II)PDGFβ/CD45/CD44の組み合わせで使用した。解析結果はCD45弱陽性-陰性細胞に対してのPDGFRα(もしくはβ)及びCD44の発現細胞の割合を検討した。(
図24A,
図24B)
【0111】
結果:切除した2日齢マウス皮膚及び6週齢マウス皮膚の骨髄間葉系幹細胞の遊走活性を検討し、6週齢マウスに比べ2日齢マウスの皮膚抽出液に強い活性を見出した。DNAマイクロアレイの結果からS100A9が2日齢マウス皮膚で強い発現が認められた。皮膚抽出液をヘパリンカラムで粗精製したサンプルの間葉系幹細胞遊走活性とS100A9及びS100A8の含有に相関が認められた。これらのタンパク質の発現ベクターを作製し、HEK293を用いてリコンビナントタンパク質を生産精製した。これらのS100A8・S100A9精製品はボイデン・チャンバーを用いたアッセイにおいて骨髄間葉系幹細胞遊走活性を有していた。また、マウス静脈投与によってもPDGFRα、CD44陽性細胞群を末梢血中に動員する活性が認められた(
図24)。
【0112】
考察:今回本発明者らは、世界で初めて、遊離皮膚片がS100A8およびS100A9を産生し、産生されたS100A8およびS100A9は骨髄由来間葉系幹細胞を遊走する強い活性を有することを見出した。また、骨髄間葉系幹細胞は骨組織、脂肪組織、軟骨組織、線維芽細胞等に分化する多能性幹細胞であることが知られているが、最近骨髄由来細胞の中には、心筋、神経細胞、表皮細胞等の組織にも分化する多能性幹細胞も存在することも指摘されている。今回植皮片の表皮細胞、毛包細胞、皮下組織の線維芽細胞などが骨髄由来の細胞で構成されていることから、S100A8やS100A9が骨髄由来組織幹細胞を植皮片に動員し、損傷組織の機能的修復を誘導していると考えられる。S100A8およびS100A9は静脈注射による投与で末梢血中に骨髄間葉系幹細胞を動員可能なため、局所投与が困難な深部組織(脳、心臓、脊髄など)にも末梢循環を介して投与可能である。本技術を医薬品をとして利用することで、損傷組織再生時に間葉系幹細胞を含む骨髄由来組織幹細胞を局所に動員することが可能になれば、皮膚組織の組織損傷治癒のみならず脳、筋肉、骨などの様々な組織損傷治癒過程において治癒期間の短縮、損傷組織の機能的再生などの効果が期待されると確信する。
【0113】
〔参考例6〕
目的:正常マウスおよび糖尿病マウスにおけるS100A8の皮膚潰瘍治療効果の確認
方法:マウス皮膚潰瘍モデルにリコンビナントS100A8タンパク質を投与し、潰瘍治療効果を検討した。被験マウスはGFPを発現する骨髄細胞を移植したC57/Bl6 マウスもしくは糖尿病モデルマウスであるBKS.Cg-m+/+Leprdb/J(dbマウス)を使用した。マウス皮膚に直径6mmの皮膚潰瘍を作成した。マウスに作製した皮膚潰瘍は皮膚欠損部分の周囲の皮膚が速やかに収縮する。本実験では、欠損皮膚を収縮ではなく再生皮膚で覆うことにより治療するモデルを作製するために、皮膚欠損部に外径10mm 、内径6mm 、厚さ0.5mm のシリコンゴム製の円盤を皮膚手術用接着剤(アロンアルファA)およびナイロン糸で潰瘍周囲の皮膚を固定した。さらにリコンビナントS100A8タンパク質を1.5μg /日、7日間連日潰瘍面に直接投与した。また潰瘍面の乾燥を防ぐため表面をフィルムドレッシング剤 Tegaderm(3M)で保護した。治療効果を確認するため経時的に潰瘍面積を測定した。
【0114】
結果と考察:正常マウスにおいては、治療開始7日目以降から優位にS100A8治療群においてコントロール群より潰瘍面積の縮小がみられた(
図25)。また、糖尿病マウスにおいても、治療開始7日目以降から優位にS100A8治療群においてコントロール群より潰瘍面積の縮小がみられた(
図26)。すなわち、正常マウス、糖尿病マウスいずれでも有意な皮膚潰瘍の縮小効果が確認された。今回の結果からS100A8は正常のマウスのみならず糖尿病マウスにおいても皮膚潰瘍の治療効果を有することが確認された。
【0115】
〔参考例7〕
目的:皮膚組織抽出液内に存在する骨髄由来組織幹細胞誘導因子による骨髄組織幹細胞の末梢血への動員
方法:上記の目的に対して以下の方法により研究を行った。
1)骨髄由来組織幹細胞誘導剤の調製:新生マウス(2日齢)25匹から得た遊離皮膚片を生理的リン酸緩衝液pH 7.4(PBS)25 mlに浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃の条件下で10分間、440 Gで遠心し上清を回収して皮膚抽出液(SE)を作製した。
また、C57/Bl6新生マウス皮膚からTrizol (invitrogen) を用いてRNA を抽出し更にSuperScript III cDNA synthesis kit(Invitrogen) を用いてcDNA を合成した。このcDNA をテンプレートとしてHMGB1のcDNAをPCR (ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いて増幅し、アミノ酸配列のN末端にFlag tagの配列(Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Lys;配列番号:30)を付加したタンパク質を発現するように、哺乳類細胞でタンパク質を発現させるプラスミドベクターpCAGGSに挿入した(
図32)。これらのプラスミドベクターをHEK293 (ヒト胎児腎細胞由来培養細胞株)に遺伝子導入し48時間培養しタンパク質を発現させた。HMGB1タンパク質をそれぞれ発現させた細胞及び培養上清は4℃で16時間インキュベートした後、4400 g・5分間遠心し上清を回収した。この上清50 mL あたり100μLのAnti Flag 抗体Gel(Sigma)を混合し4℃で16時間インキュベートした。遠心しGelを回収した後PBSを用いて、5回洗浄した。更に 3X Flag peptide(final 100μg/ml)を用いて溶出した。溶出したタンパク質はHMGB1 ELISA kit (シノテスト)を用いて濃度を確認し、凍結乾燥後PBSを用いて200μg/mLに調整した。
【0116】
2)8週齢雄マウス(C57/Bl6)の尾静脈から前述の皮膚抽出液(SE)500μLもしくは陰性コントロール群としてPBS500μLを30G1/2の注射針を装着したシリンジを用い投与した(
図33)。投与6/12/24/48時間後、イソフルランによる吸入麻酔下、マウスの心臓からヘパリンコートした1 mLのシリンジを用いて末梢血1 mLを採血し、3 mLのPBSと混合した後、3 mLのFicol(GE healthcare)の上に静かに重層した。遠心機を用い、25℃で400 g、40分間遠心した。中間層の白濁した層の細胞を単核球画分として回収した。回収した細胞に1 mLの溶血剤であるHLB solution(免疫生物研究所)を加え室温で5分インキュベートした。この溶血操作を2回繰り返した。10 mLのPBSを加え、25℃で440 g、5分間遠心し上清を除去して細胞を回収した。この細胞1,000,000個に抗マウスPE標識PDGFRα抗体(e-Bioscience)、PE標識抗マウスPDGFRβ抗体(e-Bioscience)、PerCy5標識抗マウスCD44抗体(BD biosciences)それぞれをPBSで100倍希釈し20分間室温でインキュベートした。その後この細胞を25℃、440 g、5分間遠心し上清を除去した。1%パラホルムアルデヒド含PBSを400μL加え、フローサイトメトリー解析のサンプルとした。
8週齢雄マウス(C57/Bl6)の尾静脈からマウスHMGB1を250μL(1μg/μL)もしくは陰性コントロール群としてPBS250μLを30G1/2の注射針を装着したシリンジを用い投与した(
図35)。投与12時間後、イソフルランによる吸入麻酔下、マウスの心臓からヘパリンコートした1 mLのシリンジを用いて末梢血1 mLを採血し、3 mLのPBSと混合した後、3 mLのFicol(GE healthcare)の上に静かに重層した。遠心機を用い、25℃で400 g、40分間遠心した。中間層の白濁した層の細胞を単核球画分として回収した。回収した細胞に1 mLの溶血剤であるHLB solution(免疫生物研究所)を加え室温で5分インキュベートした。この溶血操作を2回繰り返した。10 mLのPBSを加え、25℃で440 g、5分間遠心し上清を除去して細胞を回収した。この細胞1,000,000個に抗マウスPE標識PDGFRα抗体(e-Bioscience)、PerCy5標識抗マウスCD44抗体(BD biosciences)それぞれをPBSで100倍希釈し20分間室温でインキュベートした。その後この細胞を25℃、440 g、5分間遠心し上清を除去した。1%パラホルムアルデヒド含PBSを400μL加え、フローサイトメトリー解析のサンプルとした。
【0117】
結果:皮膚抽出液(SE)を注射12時間後の末梢血において、有意にPDGFRα陽性、CD44陽性細胞が動員されていることが確認された(
図34)。HMGB1を注射12時間後の末梢血において、有意にPDGFRα陽性、CD44陽性細胞が動員されていることが確認された(
図36)。
【0118】
〔参考例8〕
目的:組み換えHMGB1蛋白の静脈内投与によって、間葉系幹細胞が末梢血中へ動員されるかを確認した。
方法:C57BL6マウス(8〜10週齢、オス)尾静脈より組み換えHMGB1蛋白/生理食塩水(100 μg/ml)を400μl (40μg HMGB1)あるいは生理食塩水400μl投与した。12時間後にマウス末梢血を採取してPBSを加え全量を4mLに希釈した。遠心管にFicoll-Paque Plus(GE)液を3mL 挿入後その上に希釈血液を重層した。100G (18℃)で10分間遠心し、単核球を含む中間層を新しい遠心管に回収し、45 mL のPBSを加え440G(18℃)5分で遠心し上清を除去した。さらにもう一度45 mL のPBSを加え440G(18℃)5分で遠心し上清を除去した。得られた単核球をPhycoerythrobilin(PE)標識抗マウスPDGFRα抗体およびAllophycocyanin(APC)標識抗マウスCD44抗体で反応させた後、フローサイトメトリー(Facscan ; Becton, Dickinson and Company)により単核球分画内のPDGFRα陽性/CD44陽性細胞の存在頻度を評価した。
【0119】
結果:HMGB1投与12時間後に、末梢血単核球分画内のPDGFRα陽性かつCD44陽性細胞およびPDGFRα陽性かつCD44陰性細胞が有意に増加していることが明らかとなった(
図37)。即ち、HMGB1は骨髄内から末梢血中に、間葉系幹細胞のマーカーとして知られているPDGFRα陽性細胞を動員する活性があることが示された。
【0120】
考察:PDGFRαおよびCD44は骨髄由来の多能性幹細胞を代表する骨髄間葉系幹細胞の表面マーカーとして知られている。骨髄間葉系幹細胞は骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞に分化可能な多能性幹細胞であり、さらに神経細胞や上皮細胞などにも分化可能とされている。また、本実験で使用した皮膚片は、阻血状態であるため、徐々に組織が壊死状態となり、細胞の表面のタンパク質から核などの細胞内のタンパク質が周囲に放出される。また、HMGB1は皮膚抽出液に含有されるタンパク質である。植皮などではこれらのタンパク質が、シグナルとなって植皮片に骨髄由来の組織幹細胞を動員し、植皮片内で骨髄細胞由来表皮、皮下組織、毛包組織などを再構築し、機能的皮膚を再生していると考えられる。本実験は、このような皮膚抽出液もしくはHMGB1を静脈内に投与することで、末梢循環中に骨髄由来組織幹細胞を動員することに成功した初めての発見である。本発見によって、骨髄由来多能性幹細胞を末梢血中に動員し、脳梗塞や心筋梗塞、骨折、皮膚潰瘍、などの組織損傷を伴う難治性疾患に対する新規治療法が可能になる。また、末梢血中に動員した細胞は通常の採血と同様に採取が可能であり、これまで脳梗塞治療のために骨髄から採取してきた従来の方法にくらべ、簡便で安全な骨髄由来組織幹細胞の採取方法が可能になった。