【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明の熱処理温度と熱処理時間についての効果を実証する。本実施例では、まずニッケルめっき液に超砥粒を分散せずにニッケルよりなる金属めっき相の
みからなる試験片を公知の電鋳法によって複数製造し、これらに熱処理時間を1時間で一定として種々の熱処理温度で熱処理を施して、その硬度(ビッカース硬さ)を測定した。この結果を
図4に示す。なお、熱処理前の試験片の硬度はビッカース硬さHv600であった。
【0025】
この
図4の結果より、熱処理温度が200℃から250℃くらいまでは熱処理前以上の硬度であって、しかも硬度が漸増する傾向にあるのに対し、熱処理温度が260℃以上となったところで硬度が下がり始めて275℃では熱処理前の硬度よりも低下し、さらに熱処理温度が300℃では熱処理前の2/3であるビッカース硬さHv400程度にまで低下した。また、さらに熱処理温度を上げて350℃、400℃としても硬度の著しい低下は認められなかったが、金属めっき相に著しい脆化が認められた。
【0026】
次に、上記と同様の製造条件で製造した試験片に対して、熱処理温度を300℃で一定として種々の熱処理時間で保持して熱処理を施し、その硬度(ビッカース硬さ)を測定した。この結果を
図5に示す。
【0027】
この
図5の結果より、熱処理時間が0.5時間〜1.5時間の場合にはビッカース硬さがHv400前後で、上述のように300℃で1時間保持した場合とそれほど変わりはなく、脆化も認められなかった。さらに2時間、3時間保持した場合には、硬度自体はそれほど変化していないが、やはり金属めっき相に著しい脆化が認められた。
【0028】
そこで、次に上記の試験片を製造したのと同様の製造条件で、ただしニッケルめっき液に超砥粒を添加してニッケルよりなる金属めっき相に該超砥粒が分散された電鋳ブレードを複数製造し、これらに熱処理時間を1時間で一定として種々の熱処理温度で熱処理を施したものと、熱処理を施さなかったものとで実際に硬脆材料を切断し、その際のチッピングの大きさを測定した。この結果を、熱処理温度が260℃〜300℃の温度範囲のものを実施例1〜3とし、それ以外のものを比較例1〜4として熱処理温度とともに表1に示す。
【0029】
なお、このとき製造した電鋳ブレードは、外径58.2mm、内径40mm、厚さ0.1mmの円環薄板状のもので、その外周縁には径方向の深さ2mm、周方向の幅1mmのスリットを等間隔に16本形成した。また、金属めっき相に分散した砥粒は粒度#800のダイヤモンド砥粒でブレード本体における含有率が5〜15vol%となるようにした。
【0030】
一方、切断した硬脆材料は幅100mm、長さ100mm、厚さ0.5mmの石英板で、切断長が3800mmに達したときの最大のチッピングの大きさを測定した。また、電鋳ブレードは外径52mmのフランジを介して切断装置の主軸に取り付けられ、主軸回転数12000min
-1、送り速度10mm/secとして、湿式切断を行った。
【0031】
【表1】
【0032】
この表1の結果より、熱処理を施さなかった比較例1および熱処理温度が260℃未満である比較例2、3では、比較的大きなチッピングが発生しており、特に熱処理を施した比較例2、3を比べると熱処理温度が高くなるほどチッピングの大きさも増加していて、これは
図4に示した硬度の増減の傾向と同じである。
【0033】
ところが、熱処理温度が260℃とされた実施例1では、これら比較例1〜3に対してチッピングの大きさが減少し、この傾向は熱処理温度が300℃の実施例3まで連続していて、特に熱処理温度が275℃の実施例2から上記実施例3ではこのチッピングの大きさの減少傾向が顕著であった。これも、
図4に示した硬度の低下傾向と符合するものである。
【0034】
その一方で、熱処理温度が300℃を上回る比較例4では、
図4に示した硬度については実施例3と略等しいにも関わらず、チッピングの大きさは一転して増大する結果となった。そこで、切断試験後の比較例4の電鋳ブレードの状態を調べたところ、ニッケルよりなる金属めっき相が著しく脆くなっていて、金属めっき相ごとダイヤモンド砥粒が多く脱落しているのが認められた。
【0035】
次に、上記電鋳ブレードを製造したときと同じ製造条件で複数の電鋳ブレードを製造して、これらに熱処理温度を300℃で一定として種々の熱処理時間で熱処理を施したものと、熱処理を施さなかったものとで実際に硬脆材料を切断し、その際の最大のチッピングの大きさを測定した。この結果を、熱処理時間が0.5時間(h)〜1.5時間(h)の範囲のものを実施例3〜5とし、それ以外のものを比較例1、5〜8として熱処理時間とともに表1に示す。
【0036】
なお、このときの電鋳ブレードの諸元、脆性材料の切断条件は、表1に結果を示した場合と同様である。また、熱処理を施さなかった、すなわち熱処理時間が0時間(h)の比較例1と、熱処理温度300℃で1.0時間(h)実施例3とは、その結果も表1に示した場合と同様である。
【0037】
【表2】
【0038】
この表2の結果より、やはり熱処理を施さなかった比較例1では上記と同じく比較的大きなチッピングが発生していたのに対し、熱処理時間が0.5時間(h)〜1.5時間(h)の範囲内の実施例3〜5では、これに比べてチッピングの大きさが顕著に減少していた。
【0039】
一方、熱処理時間が1.5時間(h)を上回る比較例5〜8では、
図5の結果より硬度は実施例3〜5と略等しいにも関わらず、やはりチッピングの大きさは増大している。そして、切断試験後の比較例5〜8の電鋳ブレードの状態を調べたところでも、表1に結果を示した比較例4と同様にニッケルよりなる金属めっき相が著しく脆くなっていて、金属めっき相ごとダイヤモンド砥粒が多く脱落しているのが認められた。