特許第5678281号(P5678281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キッコーマン株式会社の特許一覧

特許5678281グルタミン酸の旨味が増強した液体調味料
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678281
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】グルタミン酸の旨味が増強した液体調味料
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/22 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
   A23L1/22 D
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-160130(P2012-160130)
(22)【出願日】2012年7月19日
(65)【公開番号】特開2014-18146(P2014-18146A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2012年8月16日
【審判番号】不服2013-1165(P2013-1165/J1)
【審判請求日】2013年1月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100125542
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 英之
(72)【発明者】
【氏名】山下 有紀
(72)【発明者】
【氏名】中島 文子
(72)【発明者】
【氏名】内田 理一郎
【合議体】
【審判長】 森林 克郎
【審判官】 千壽 哲郎
【審判官】 山崎 勝司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−148431(JP,A)
【文献】 特開2000−139378(JP,A)
【文献】 米国特許第5064673(US,A)
【文献】 特開2007−37530(JP,A)
【文献】 特開2003−88354(JP,A)
【文献】 特開昭48−72396(JP,A)
【文献】 特開2011−83262(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/110493(WO,A1)
【文献】 栄養学雑誌,1987年,Vol.45,No.2,p.67−76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン酸またはその塩を含み、かつ、しょうゆまたはつゆである液体調味料(ただし、鶏だし、畜肉だし、魚しょうゆを除く)において、前記液体調味料が食される際の濃度としてメチオナールを3,000〜12,000ppb含有させることにより得られる、グルタミン酸の旨味が増強した液体調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタミン酸またはその塩を含む液体調味料の、グルタミン酸の旨味を増強した液体調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の味を構成する要素のうち旨味が重要視され、旨味の増強された調味料などの飲食品の需要は高まっており、少量で旨味増強効果の高い液体調味料の開発が望まれている。調味料の旨味を増強する方法としては、酵母エキス、蛋白加水分解物、魚介エキス、畜肉エキス等を調味料に添加する方法が知られているが、いずれも添加量が多く、元の調味料の風味が変化してしまうため、使用量に制限が生じ、十分に旨味を付与することができないという問題点を有している。
【0003】
一方、メチオナールは、じゃがいも、トマト、醤油、味噌、チーズ、コーヒー等多様な食品中に存在する成分であり、様々な食品の香りに大きく貢献する成分であることが知られている。これまで、メチオナールを複数のフレーバー成分と組み合わせることにより芋含有食品の芋風味を向上させる技術(例えば、特許文献1参照)や、メチオナールを複数の成分と組み合わせることによりコク味を付与させる技術(例えば、特許文献2参照)が報告されている。また、食塩存在下においてメチオナールは塩味を増強する作用があることが報告されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、これまで、メチオナールに旨味を増強する効果があることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−304700号公報
【特許文献2】特開2003−079336号公報
【特許文献3】特開2011−083262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、グルタミン酸またはその塩を含む液体調味料において、従来の天然エキス等による旨味増強物質の添加では不十分であった、グルタミン酸の旨味を増強した液体調味料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、グルタミン酸またはその塩を含む液体調味料において、メチオナールを特定量以上含有させることにより、グルタミン酸含有液体調味料のグルタミン酸の旨味を増強させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
1)グルタミン酸またはその塩を含む液体調味料において、メチオナールを1,000〜15,000ppb含有させることにより得られる、グルタミン酸の旨味が増強した液体調味料。
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、グルタミン酸またはその塩を含む液体調味料において、グルタミン酸の旨味を増強した液体調味料を提供することができる。また、本発明の液体調味料は、グルタミン酸またはその塩を含む従来の液体調味料と比較して旨味が強いため、各種調理に用いることにより、少量で旨味豊かな飲食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明において用いる「グルタミン酸またはその塩を含む液体調味料」は、グルタミン酸またはその塩が液体調味料中に含まれている調味料であれば何れのものでもよく、また、グルタミン酸またはその塩を液体調味料中に含有させる手段によっては区別されない。例えば、食品に用いることが可能なグルタミン酸またはその塩を液体調味料に直接添加させる方法や、植物性蛋白質を醸造により酵素加水分解させて得られるグルタミン酸を液体調味料に含有させる方法など、グルタミン酸またはその塩を調味料中に含有させる方法はいかなる方法でも構わない。
【0011】
本発明における「メチオナール」は、3−メチルチオ−プロピオンアルデヒドまたは、3−メチルチオプロパナールともいう。本発明で用いるメチオナールは、飲食品に用いられるものであれば特に限定はなく、合成品、抽出品、発酵品やその処理品、各種素材の加熱反応、酵母を用いたメチオニンの発酵を利用して生成するものを用いてもよい。また、必要により調味料にメチオニンや糖を加えて加熱したり、発酵条件を変更することにより、液体調味料にメチオナールを添加することなく増加させることも可能である。
【0012】
メチオナールの濃度は、1,000〜15,000ppbであることが好ましく、3,000〜12,000ppbの範囲であることが特に好ましい。メチオナールの濃度が3,000ppb以上の場合に、グルタミン酸の旨味をより強く感じられるようになる。
【0013】
本発明のグルタミン酸の旨味が増強した液体調味料は、各種飲食物に特に制限なく使用することができる。例えば、各種しょうゆ、各種減塩しょうゆ、各種つゆ、各種たれ、酵母エキス、畜肉エキス、魚介エキス、蛋白加水分解物等の調味料や、核酸(イノシン一リン酸やグアノシン一リン酸など)を含有する調味料に添加することにより、それら調味料の旨味をより増強させることが可能である。
【0014】
また、本発明の液体調味料を使用する飲食品の調整方法としては、いかなる方法を用いてもよいが、混合中や混合後に再加熱を行うことにより、飲食品中のメチオナールの濃度を調整することも可能である。
【0015】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
<各種グルタミン酸ナトリウム濃度におけるメチオナールの旨味増強効果の確認>
各種濃度(1.8〜200mM)のグルタミン酸ナトリウム溶液に、各種濃度(1,000〜12,000ppb)のメチオナールを添加し、習熟したパネル5名による旨味の強度の評価を行った。
【0017】
メチオナールを添加したグルタミン酸ナトリウム溶液(本発明品)と同じ濃度のグルタミン酸ナトリウム溶液(対照品)を比較し、メチオナールを添加したグルタミン酸ナトリウム溶液(本発明品)の旨味強度を4段階で評価した。
具体的には、各種濃度のグルタミン酸ナトリウム溶液(対照品)と比較してメチオナール添加溶液の旨味が非常に強いと感じられたものは4点、強いと感じられたものは3点、やや強いと感じられたものは2点、差がないまたは弱いと感じられたものは1点と評点し、検体ごとの平均点を算出した。
【0018】
【表1】
【0019】
各種濃度のグルタミン酸ナトリウム溶液における各種濃度のメチオナールの官能評価結果を示した表1の結果より、グルタミン酸ナトリウムが1.8〜200mMの濃度範囲において、メチオナールを添加することでグルタミン酸の旨味を増強できることが確認された。また、メチオナールを3,000ppb以上添加した場合にグルタミン酸の旨味がより強く感じられた。
【0020】
なお、グルタミン酸ナトリウムを添加せずに1,500ppbのメチオナールを添加した水溶液は、旨味を呈さないことを確認した。このことから、メチオナールはグルタミン酸ナトリウムの旨味を増強する効果があることが示された。
【実施例2】
【0021】
<しょうゆ及びつゆ中におけるメチオナールの旨味増強効果の確認>
調味料中のメチオナール含有量が1,000〜12,000ppbとなるように、市販濃口しょうゆ(キッコーマン社製)及び市販3倍濃縮つゆ(キッコーマン社製)にメチオナールを添加した調味料(本発明品)について、実施例1と同様にして官能評価を行った。3倍濃縮つゆは水で3倍希釈し、官能評価に用いた。
具体的には、メチオナール未添加の市販濃口しょうゆ及び市販つゆ(対照品:メチオナール濃度1000ppb未満)と比較して、旨味が非常に強いと感じられたものは4点、強いと感じられたものは3点、やや強いと感じられたものは2点、差がないまたは弱いと感じられたものは1点と評点し、検体ごとの平均点を算出した。
【0022】
【表2】
【0023】
官能評価結果を表2に示した。濃口しょうゆ及びつゆにメチオナールを1,000〜12,000ppbの濃度で含有させた場合も、メチオナールによるグルタミン酸の旨味増強効果を確認することができた。特に、メチオナールを3,000ppb以上含有させた場合にグルタミン酸の旨味がより強く感じられた。
【0024】
なお、液体調味料が濃口しょうゆの場合には、メチオナール含有量が12,000ppbを超える濃度では、メチオナールの風味が強くなり、醤油の風味バランスがやや崩れてしまうことが確認された。
【実施例3】
【0025】
<メチオナールを添加したしょうゆを用いた調理試験>
メチオナールを添加したしょうゆと、メチオナールを添加していないしょうゆを調理試験で比較し、より好ましいのはどちらのしょうゆであるかを習熟したパネル10名に評価させた。
【0026】
調理試験は、市販濃口しょうゆ(キッコーマン社製)にメチオナール含有量が3,000ppbとなるようにメチオナールを添加したしょうゆ(本発明品)と、市販濃口しょうゆ(キッコーマン社製)にメチオナールを全く添加しないしょうゆ(対照品)を調製し、ほうれん草のおひたしに同量ずつ滴下した後、パネルに食させることにより実施した。
【0027】
【表3】
【0028】
官能評価結果を表3に示した。メチオナール含有量が3,000ppbとなるようにメチオナールを添加したしょうゆ(本発明品)の方が、好ましいと感じる人数が多いことが確認された。