【文献】
G. J. SUTTON et al.,Poly-α-Ester Degradation Studies. II. Thermal Degradation of Poly(Isopropylidene Carboxylate),JOURNAL OF POLYMER SCIENCE: Polymer Chemistry Edition,1973年,11,1079-1093
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
乳酸又はその誘導体、あるいは、ピルビン酸又はその誘導体から2−ヒドロキシイソ酪酸及び/又はその誘導体を合成し、これを重合することによって2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを製造し、次いで、得られた2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを、酸性物質処理によって安定化することを特徴とする2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの製造方法。
乳酸又はその誘導体、あるいは、ピルビン酸又はその誘導体が、動植物あるいは微生物によって生産される有機物資源、又は、これら有機物資源から誘導された二次資源(再生可能資源)から得られたものであることを特徴とする請求項1記載の2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの製造方法。
乳酸又はその誘導体のメチル化によって、2−ヒドロキシイソ酪酸及び/又はその誘導体を合成することを特徴とする請求項1記載の2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの製造方法。
2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの酸性物質処理による安定化が、有機酸、無機酸、有機酸無水物又はこれらの混合物を用いて処理されるものであることを特徴とする請求項1記載の2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガスの増大に基づく地球温暖化の問題のために、化石燃料から合成されるプラスチック材料に代わって、再生可能資源であるバイオマスから合成され、かつバイオリサイクル及びケミカルリサイクル可能な乳酸ポリマーの利用が活発に展開されてきている。
乳酸ポリマーを利用することの利点は、主に、乳酸ポリマーが炭酸ガスを固定したバイオマスから合成されているため、例え焼却処理されても、全プロセスを通じて炭酸ガスの増大は非常に少ない、というカーボンニュートラルの考え方によって支持されている。加えて、効率的に原料に還元する解重合型ケミカルリサイクルは、非常に少ないエネルギーによって元の原料に戻す方策であり、環境対応策としては、カーボンニュートラルの考え方から更に一歩踏み込んだ方策である。
【0003】
しかしながら、乳酸ポリマーにはいくつかの物性的な問題、例えば、溶融成形や熱分解の際に高温で加熱するとその化学構造が変化してしまう(ラセミ化)という問題、また、結晶化速度が遅くかつガラス転移温度が低いため、高速成型が難しく、不十分な結晶化の状態で成形した成形品は、60℃以上で変形するという問題がある。一般に用いられている実用的な乳酸ポリマーは、光学活性なL,L―ラクチドの開環重合によって製造され、融点約175℃の透明で高強度のポリマーであるが、ラセミ化によるわずかの光学活性の低下は、融点の著しい低下を招き、更には結晶性さえ消失しその実用性を失ってしまう。そのため、これらの問題の改善に向けた努力が行われている。
【0004】
以上のような乳酸ポリマーの物性的な問題点の原因の一つは、光学活性中心である3級炭素上の水素の存在にあることが知られている(非特許文献1)。この水素原子は容易に脱着反応を繰り返し、その反応の間にラセミ化を進行させる。
【0005】
この水素原子をメチル基で置き換えた構造のポリマーとして、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーが知られている。この2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー(又はポリ(α−ヒドロキシイソ酪酸))は、乳酸ポリマーよりも高い耐熱性(特許文献1)と、乳酸ポリマーに類似した原料への還元特性を示すことが知られている(非特許文献2)。更にこの2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーは、その化学構造中に光学活性中心を含んでいないため、ラセミ化による物性低下が回避できるという特性を持っている。
【0006】
しかしながら、この2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーにもいくつかの問題点がある。例えば、(1)再生可能資源由来のポリ乳酸と違って、化石資源由来のポリマーであるという点、(2)脂肪族ポリエステルの本質的な反応特性である易分解性、(3)物性改良に不可欠な他のポリマーとのブレンド・アロイ化特性の不明確さ、及び、(4)資源循環のための安全で効率的なモノマー還元方法が見出されていない等の点である。
【0007】
(1)の化石資源由来の点については、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーは、現状、石油由来のアセトンを利用したアセトンシアンヒドリン法によって合成されている(特許文献2)。しかし、再生可能資源由来の原料から合成された例はこれまでにない。
【0008】
(2)の2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの分解抑制については、分解反応が低分子量ポリマーほど顕著に進行することから、分解が分子末端から開始することが推定され、無水酢酸処理による末端アセチル化によって熱安定性が向上することが見出されている(非特許文献3)。
【0009】
(3)の2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの物性改良に不可欠な他のポリマーとのブレンド・アロイ化特性については、2−ヒドロキシイソ酪酸の環状二量体とカプロラクトン及びラクチドとの開環共重合、2−ヒドロキシイソ酪酸メチルエステルとメタクリル酸ヒドロキシエチル、テレフタル酸、エチレングリコール、及び、アジピン酸との共重合が実施され、その透湿係数の増大が見出されたが、融点や熱変形温度などの耐熱性、及び、引張強度による機械的特性は、低下してしまうという傾向が見出されている(特許文献3)。ただし、ブレンドによる物性改良特性については、従来、報告された例はない。
【0010】
(4)の2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの資源循環特性については、熱分解によって、2−ヒドロキシイソ酪酸の環状二量体(テトラメチルグリコリド(TMG))やメタクリル酸、更に一酸化炭素やアセトンに変換されることが知られている(非特許文献4)。しかしながら、いずれかの熱分解生成物に選択的に変換し回収するという資源循環技術については、従来、何ら開示されていない。
【0011】
以上のように、従来、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの再生可能資源からの合成に関して技術的開示は一切無い。また、その資源循環を意図したモノマーへの選択的解重合についても、未だ明確な選択性に関する技術は開示されていない。前記したように、再生可能資源から製造される乳酸ポリマーが様々な用途にその応用が検討されているものの、乳酸ポリマーに対し多くの問題点も指摘されてきている。従って、乳酸ポリマーと同様な資源循環特性を保持しつつ、それよりも物性が改善された材料として、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの開発とその資源循環技術の確立が強く望まれていた。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、再生可能資源を原料として2−ヒドロキシイソ酪酸を、次いで2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを合成し、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの安定化と物性改善を図り、更にその資源循環利用の方法に関するものである。本発明において再生可能資源とは、植物や動物、あるいは微生物によって生産される有機物資源、及び、これら有機物資源から誘導された二次資源をいう。
【0020】
ここで有機物資源としては、例えば、アセトン、乳酸、ピルビン酸、エタノール、アンモニアなどの一次発酵生産物を意味し、それから誘導された二次資源とは、乳酸から誘導される乳酸ポリマー;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、ラクチドなどの乳酸エステル類;ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチルなどのピルビン酸エステル類;及び、メタノール、一酸化炭素、二酸化炭素、水素などの有機物資源の熱分解生成物などを意味する。
【0021】
本発明において、2−ヒドロキシイソ酪酸とは、α−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸、2,2−ジメチルグリコール酸、又は、2−ヒドロキシ―2,2−ジメチル酢酸とも呼ばれる水酸基を有する脂肪族オキシ酸の一つである。本明細書においては、これらの名称を代表して2−ヒドロキシイソ酪酸と記載し、その重合体を2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーと称する。しかし、以下においては、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを、ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)と記載する場合もある。
【0022】
再生可能資源から2−ヒドロキシイソ酪酸を合成する方法としては、従来、アセトンシアンヒドリンからニトリラーゼ活性またはニトリルヒドラターゼとアミダーゼ活性の組み合わせを有する酵素触媒を用いて合成する方法(特許文献4、5)、あるいはロドコッカス属の微生物(特許文献6)を使用する生化学的方法が知られているが、反応速度及び処理量が極めて小さく、ポリマー原料への変換反応としては不向きである。
【0023】
本発明における化学合成反応を用いることによって、工業的に要求される反応速度で、かつ、工業的に利用するための量で2−ヒドロキシイソ酪酸の生産が可能となる。再生可能資源から2−ヒドロキシイソ酪酸を合成する方法のうち、好ましい化学合成反応を例示すれば以下のとおりである。
【0024】
(1)発酵生産アセトンからの2−ヒドロキシイソ酪酸の合成(下記の化1の反応式)。
【0026】
(2)発酵生産ピルピン酸のアルキルエステルからの2−ヒドロキシイソ酪酸の合成(下記の化2の反応式)。
【0028】
(3)発酵生産乳酸エステルからの2−ヒドロキシイソ酪酸の合成(下記の化3の反応式)。
【0030】
上記反応式(化1)で示された、アセトンシアンヒドリン法は公知の製造方法であるが、再生可能資源由来の原材料での実施は知られていない。ここで用いられるアセトン、シアン化水素、エタノールはいずれもアセトン発酵、メタン/アンモニア/空気混合ガスからの合成反応(アンドルソフ法)、エタノール発酵によって合成される再生可能資源及びその誘導体である。本反応による2−ヒドロキシイソ酪酸の合成には、従来公知の石油由来の原材料によるアセトンシアンヒドリン法の反応条件をそのまま利用することが可能である。
【0031】
上記反応式(化2)で示された、発酵生産ピルビン酸のアルキルエステルからの2−ヒドロキシイソ酪酸の合成方法は、グリニャール反応として知られている反応であり、グリニュール反応で実施される反応条件が何ら制限無く用いられる。発酵生産ピルピン酸を用いたグリニャール反応について、好ましい反応条件を例示すれば以下のとおりである。即ち、エステル化したピルビン酸を脱水有機溶剤、例えば、テトラヒドロフランに溶解し、この溶液にピルビン酸エステルに対して90〜250モル%、好ましくは95〜120モル%のメチルマグネシウムブロマイドを同じ脱水有機溶剤に溶解した溶液を、40℃以下、好ましくは5℃以下の温度で滴加し、その後、70℃以下、好ましくは0〜30℃の温度で攪拌する。反応の進行は、例えば、薄層クロマトグラフィー法により、原料と生成物に由来する成分スポットの変化を追跡することによって確認することができる。反応後、生成した2−ヒドロキシ酪酸エステルは、蒸留、カラム、抽出などの操作により単離できる。
【0032】
なお、ここで用いた原料のピルビン酸は、発酵生産される乳酸からも容易に誘導可能な物質である。乳酸からのピルピン酸への誘導方法としては、一般公知の酸化反応の技術がなんら制限無く利用することができる。好ましい乳酸の酸化反応条件について例示すると、乳酸メチルを例えばジエチルエーテルに溶解し、この溶液に乳酸メチルに対して30モル%のリン酸二水素ナトリウムを加え氷冷する。更に、この溶液を攪拌しながら、乳酸メチルに対し80モル%の過マンガン酸カリウムを徐々に加える。反応温度を15℃に保ち、3時間攪拌する。所定時間経過後、反応溶液を濾過し濾液を濃縮するとピルビン酸メチルが得られる。
【0033】
上記反応式(化3)で示した、乳酸エステルからの2−ヒドロキシイソ酪酸の合成反応は、一般公知のメチル化試剤を用いて実施される。ここで用いられるメチル化試剤としては、従来公知のメチル化試剤が何ら制限無く用いることができるが、より好適には、ヨウ化メチルなどのハロゲン化メチル類;炭酸ジメチル;N−メチルコハク酸イミド、更に好適には炭酸ジメチルがメチル化試剤として用いられる。
【0034】
炭酸ジヨウ化メチルをメチル化試剤として用いた乳酸エステルの3級水素のメチル化について、好ましい反応条件を例示すれば以下の通りである。即ち、トリメチルシリル基などの保護基によって水酸基を保護した乳酸エステルに対して少なくとも10.8〜1.5倍モル、好ましくは30.9〜1.2倍モル、更に好ましくは100.95〜1.1倍モル以上のプロトン引き抜き用試剤、たとえばリチウムジイソプロピルアミドを加えて十分に混合した後、炭酸ジヨウ化メチルを乳酸エステルに対して少なくとも1倍モル、好ましくは1.5〜5倍モル、更に好ましくは2〜3倍モル加え均一溶液とし、これに触媒として金属酸化物、例えば、炭酸セシウムを溶液中に分散させて、不活性雰囲気で加熱攪拌を行うことにより、2−ヒドロキシイソ酪酸誘導体が得られる。反応時間は、5分〜10時間、好ましくは10分〜5時間、更に好ましくは20分〜1時間、ここで、触媒の量は、基質に対して0.01モル%以上、好ましくは1〜500モル%、更に好ましくは、10〜300モル%が好適に用いられる。また、反応温度は、−120〜50〜250℃30℃、好ましくは、100−100〜2300℃、更に好ましくは140から−90〜220−10℃で実施される。
【0035】
上記の反応以外に、ラクチド及び乳酸オリゴマーを原料にして、上記したメチル化試剤を用いたメチル化反応によって光学活性中心炭素上の活性水素をメチル基に変換し、2−ヒドロキシイソ酪酸誘導体としてのTMG及び2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーを合成する方法も実施可能である。
【0036】
本発明において、2−ヒドロキシイソ酪酸及びその誘導体からのポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)への重合は、一般公知の重合方法を何ら制限無く用いることができる。好適に用いられる重合方法としては、(1)2−ヒドロキシイソ酪酸の脱水重縮合(下記の化4の反応式)、(2)2−ヒドロキシイソ酪酸エステル類の脱アルコール重縮合(下記の化5の反応式)、(3)2−ヒドロキシイソ酪酸の環状2量体TMGの開環重合(下記の化6の反応式)、(4)2−ヒドロキシイソ酪酸無水サルフェートの開環脱離重合(下記の化7の反応式)などである。
【0041】
上記の4種類の重合方法の中でも、より高分子量のポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)を合成するためには、化6及び化7の反応が好ましい。
【0042】
化6の反応式で示した重合反応は、まず、2−ヒドロキシイソ酪酸をパラトルエンスルホン酸のような酸触媒を用いて、脱水環化することによって環状二量体TMGを合成し、次にこのTMGのアニオン重合を行い、ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)を合成する。ここでアニオン重合は、アルキルリチウムやアルコキシリチウムのような有機リチウム化合物、オクタン酸スズのような有機スズ化合物を開始剤及び/又は触媒として用いて、バルク又は溶液重合によって実施される。溶液重合を行う場合、溶媒としてはトルエン、キシレンなどの芳香族溶剤;THFやイソブチルエーテルなどのエーテル系溶剤;クロロホルムやジクロロメタンなどのハロゲン系溶剤などが好適に用いられ、なかでも芳香族溶剤がより広い温度域で利用できるためより好適に用いられる。
【0043】
化7の反応式で示した2−ヒドロキシイソ酪酸無水サルフェートの開環脱離重合は、環構造の歪エネルギーのために、より容易に高分子量のポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)を合成することができる有効な重合方法である(特許文献1、非特許文献5)。
【0044】
本発明において、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーとは、2−ヒドロキシイソ酪酸エステル構造を基本ユニットとするポリマーであり、2−ヒドロキシイソ酪酸エステル構造ユニットが全ユニットの90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のポリマーである。
【0045】
2−ヒドロキシイソ酪酸エステル構造ユニット以外の成分としては、2−ヒドロキシイソ酪酸エステルと共重合可能なラクトン類、環状エーテル類、環状アミド類、環状酸無水物類、オキシ酸類及びそのエステル類;アミノ酸類などに由来する共重合成分ユニットが存在することが可能である。好適に用いられる共重合成分としては、L,L−ラクチド、D,D−ラクチド、メソ−ラクチド、カプロラクトン、バレロラクトン、β−ブチロラクトン、バラジオキサノンなどのラクトン類;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、オキセタン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類;ε-カプロラクタムなどの環状アミド類;琥珀酸無水物、アジピン酸無水物などの環状酸無水物類;グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、ω−ヒドロキシカプロン酸、リンゴ酸などのオキシ酸類及びそれらのエステル類;グリシン、アラニンなどのアミノ酸類がある。
【0046】
更に、開始剤成分として、本発明の2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー中に共存しうるユニットとして、アルコール類、グリコール類、グリセロール類、その他の多価アルコール類、カルボン酸類、及び多価カルボン酸類、フェノール類などが用いられる。好適に用いられる開始剤成分を具体的に例示すれば、エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリン、オクチル酸、乳酸、グリコール酸などである。
【0047】
本発明の再生可能資源を原料として製造した2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーは、その中に、上記した重合用の触媒や開始剤が分子末端に塩の形で、あるいは残渣成分として残留する場合がある。このような分子末端の金属塩や残留金属類は、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの分解反応を著しく促進する場合があり、それらの除去が2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの実用物性の安定化に顕著に寄与することが見出された。
【0048】
2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー中に共存する分子末端の金属塩や残留金属類は、重合後の2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを有機酸、無機酸、有機酸無水物及び/又は有機酸のオルトエステル、好ましくは、有機酸、無機酸、有機酸無水物又はこれらの混合物を用いて洗浄することにより除去可能であり、除去の結果、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの著しい安定化が図られる。ここで用いられる酸及び/又は酸無水物として好適に用いられる化合物を例示すれは、以下のとおりである。即ち、塩酸、硫酸などの無機酸類;酢酸、蟻酸、プロピオン酸、アジピン酸などの脂肪族カルボン酸類およびその酸無水物類である。
【0049】
本発明において、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの酸性物質処理とは、前記のような有機酸、無機酸、有機酸無水物及び/又は有機酸のオルトエステルによる処理を意味する。これらの酸又は酸無水物処理は、溶液相、懸濁分散相、溶融相のいずれでも可能であり、溶液相で実施する場合、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーは水と混和しないトルエンやクロロホルムのような有機溶剤に溶解し、3当量以下の希薄な無機酸水溶液あるいは有機酸又は有機酸無水物、あるいはオルトエステルを用いて、液−液洗浄法によって金属成分を除去することができる。処理後、処理液は一般公知の液−液分離手法によって、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー含有相から分離される。懸濁分散相実施する場合は、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを膨潤若しくは非晶相と混和可能な有機溶剤を用いて、溶液相と同様の方法で金属成分を除去することができる。溶融相で実施する場合は、有機酸無水物あるいはオルトエステルを溶融相に混和させることで、金属成分を除去することが可能である。溶融相で処理する場合、処理後、酸無水物又はオルトエステルを混和したままで、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーをそれを含む樹脂組成物としてそのまま用いる場合がある。従って、溶融相で処理する場合は、有機酸無水物又はオルトエステルの添加量は、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー中に共存する金属成分に対して、10倍量当量以下、好ましくは5倍当量以下、更に好ましくは2倍当量以下で用いるのが好ましい。
【0050】
本発明における2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを、他のポリマーとブレンド及び/又は複合化して樹脂組成物として用いる場合は、ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)成分が10重量%以上であれば、後述する選択的ケミカルリサイクルが何ら問題なく実施可能である。しかしながら、実際的な操作効率を考えたとき、ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)成分が20重量%以上のものが好ましい。
【0051】
前記樹脂組成物は、実用的な物性を発現するために他の汎用樹脂や強化用繊維類やフィラー類や添加剤等が共存した、いわゆるブレンド、アロイ、コンポジット、複合樹脂組成物であってもよい。共存可能な成分としては、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの実用物性及びケミカルリサイクルを妨げないことが必要な要件である。実用的な物性を付与するための他の汎用樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類;ポリスチレン、ABS、ASなどのスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリカーボネート(PC)、PC/ABS、PC/ASなどのポリカーボネート系樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコールなどのビニルアルコール系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリオキシメチレンなどのエンジニアリングプラスチック類;ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムなどの耐衝撃性改良用ゴム類;ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリテトラメチレンサクシネート、ポリテトラメチレンサクシネートアジペート、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリパラジオキサノン、アセチルセルロース、ポリ−γ−グルタミン酸、ポリリシンなどの生分解性改良剤などが好適に用いられる。これらの樹脂類の添加量は、製品物性に要求される物性に応じて適宜選択することができるが、一般的に2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー100重量部に対して900重量部以下、好ましくは400重量部以下、更に好ましくは100重量部以下である。これらの樹脂類は、通常、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー樹脂組成物のケミカルリサイクルの際に溶融し、再ペレット化によってマテリアルリサイクルされる。
【0052】
強化用繊維類及びフィラー類としては、特に制限されず、公知の強化用繊維類及びフィラー類が何ら制限無く用いられるが、好適に使用される繊維類としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、ケナフなどの植物由来のセルロース繊維などであり、また、好適に使用されるフィラー類としては、ガラスマイクロビーズ、チョーク、石英、長石、雲母、タルク、ケイ酸塩、カオリン、ゼオライト、アルミナ、シリカ、マグネシア、フェライト、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどの無機フィラー類;エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、パーフルオロ樹脂などの有機フィラー類などがあり、これらのフィラー類は1種又は2種以上を混合して使用してもかまわない。これらのフィラー類の添加量は、製品に要求される物性に応じて適宜選択することができるが、一般的に2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー100重量部に対して200重量部以下、好ましくは100重量部以下、更に好ましくは50重量部以下である。
【0053】
2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの樹脂組成物に共存可能なその他の添加剤としては、難燃剤、加水分解抑制剤、結晶化促進剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、相溶化剤、帯電防止剤などである。これらの添加剤は、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの実用物性やケミカルリサイクル挙動に、顕著な影響を及ぼさない範囲で添加可能であり、通常、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの樹脂組成物100重量部に対して5重量部以下、好ましくは3重量部以下で使用される。難燃剤としては、縮合型又は非縮合型リン酸エステルなどのリン系難燃化剤;水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物系難燃化合物類;ホウ酸系難燃化合物類;硫酸金属化合物、アンチモン系化合物、酸化鉄化合物、硝酸金属化合物、チタン系化合物、ジルコニウム系化合物、モリブデン系化合物、アルミニウム系化合物などの無機系難燃化合物類;トリアジン環を有するシアヌレート化合物などのチッソ系難燃化合物類;シリコーンオイル、低融点ガラス、オルガノシロキサンなどのシリカ系難燃化合物類;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、アルミン酸カルシウムなどのコロイド系難燃化合物類などが用いられる。
【0054】
2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの樹脂組成物に、共存可能な加水分解抑制剤としては、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの加水分解を抑制する機能を有する、公知の加水分解抑制剤が何ら制限無く使用できる。好適に使用される加水分解抑制剤としては、カルボジイミド化合物類、イソシアネート化合物類、オキサゾリン化合物類であり、これらの加水分解抑制剤の添加量は、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの樹脂組成物100重量部に対して5重量部以下、好ましくは3重量部以下、更に好ましくは1重量部以下である。
【0055】
2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの樹脂組成物は、種々の用途に応用可能である。例えば、この樹脂組成物を用いて、ラジオ、マイク、テレビ、キーボード、携帯型音楽再生機、携帯電話、パソコン、各種レコーダー類などの電気・電子機器の筐体などの成形物が得られる。また、自動車の内装部品類や各種梱包材、各種化粧シート類などの用途にも使用できる。これらの成形物の成形方法としては、例えば、フィルム成形、シート成形、押出成形、または射出成形などが挙げられ、中でも電気・電子機器製品部品の成形には射出成形が好ましく利用される。より具体的には、押出成形は、常法に従い、例えば単軸押出機、多軸押出機、タンデム押出機などの公知の押出成形機を用いて行うことができる。また、射出成形は、常法に従い、例えばインラインスクリュー式射出成形機、多層射出成形機、二頭式射出成形機などの公知の射出成形機を用いて行うことができる。
【0056】
本発明が最終的に目的とするところは、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの資源循環利用法であり、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを水やアルコールによる加溶媒分解して、あるいは触媒の存在下に熱分解して、2−ヒドロキシイソ酪酸やその誘導体等、あるいはメタクリル酸やそのエステル等の原料物質に変換し、これらを原料として用いることによって再びポリマーを合成し、再利用することにある。従って、本発明のもう一つの態様は、バイオリサイクル及びケミカルリサイクルが可能な2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを解重合するに際し、該2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを水及び/又はアルコールの存在下に加溶媒分解して、2−ヒドロキシイソ酪酸及び/又はその誘導体を得るか、又は、該2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを又は用いないで熱分解することによって、メタクリル酸及び/又は2−ヒドロキシイソ酪酸の環状2量体を得ることからなる2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの解重合方法である。以下、この解重合方法について説明する。
【0057】
ここで水又はアルコールの存在下での分解は、公知の加溶媒分解法を用いることができるが、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを2−ヒドロキシイソ酪酸またはそのエステルに変換する場合、直接に水溶液あるいはアルコールとの接触によって行われるのが好ましい。一方、2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーのような低分子量個体の2−ヒドロキシイソ酪酸誘導体に変換する場合、加熱水蒸気雰囲気中で2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを加水分解する方法が、反応後の後処理の容易さ、カルボキシル基の自己触媒作用による加水分解の促進効果、所定の分子量に変換するための反応制御の容易さなど、さまざまの利点のために好ましい方法である。
【0058】
2−ヒドロキシイソ酪酸に変換するための加水分解は、固形分100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは15〜1,000質量部の水を加えて行う。加水分解の場合の生成物は、主としてヒドロキシイソ酪酸及びその鎖状オリゴマーである。 加水分解の温度範囲としては、80〜250℃、好ましくは、150〜230℃、更に好ましくは、180〜210℃(100℃以上の場合は、水蒸気分解)。加水分解方法は特に制限されないが、水蒸気分解の場合は、オートクレーブ、もしくは水蒸気発生装置内で実施
される。触媒は特に用いる必要はないが、必要に応じ、例えば、触媒として、アンモニア、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ類、酸化第一鉄等の鉄酸化物、もしくは、希塩酸、希硫酸、トルエンスルホン酸などの酸類を用いてもよい。触媒の添加量は全体の0.5〜5重量%程度が適当である。加熱時間は特に限定されないが、0.25〜5時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。
更に、加水分解による溶解を促進する目的で加水分解酵素を用いてもよい。加水分解酵素の種類は特に限定されず、例えば、各種微生物由来リパーゼ等が挙げられるが、従来公知のものを単独または二種以上を併用して使用できる。
【0059】
加アルコール分解の場合には、生成物は主として、ヒドロキシイソ酪酸エステル及びその鎖状オリゴマーのエステルである。アルコールの種類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等を用いることができる。加アルコール分解の場合の温度は、100〜250℃、好ましくは、130〜220℃、更に好ましくは、150〜200℃である。加アルコール分解方法としては、通常、加圧反応容器内で実施される。触媒を用いる場合、触媒の添加量は、加水分解の場合と同様であり、加熱時間も同様である。
【0060】
加熱水蒸気雰囲気で2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーに変換する場合、加熱水蒸気処理の温度及び圧力は、100〜155℃、及び0.10〜0.56MPaの条件下で行われるのが好ましい。かかる範囲の場合、加水分解速度が実用上十分に大きく、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの溶融が起こりにくく、その他のポリマーとの分離が容易となる。また、より好ましい加熱水蒸気処理の温度及び圧力は、100〜135℃、及び0.10〜0.32MPaである。かかる範囲の場合、上記した効果に加えて、水蒸気の圧力が比較的低く抑えられ、安全面での問題が生じにくくなるという効果も得られる。また、加水分解の時間は、容器内の温度及び圧力、並びに目標とする2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの分子量に応じて、適宜選択されるが、30分〜5時間で処理するのが処理プロセス上適当である。加水分解反応中の反応容器中の水蒸気量は、本加水分解処理全体を通じて、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー内部での自己触媒的加水分解を実行する観点から、好ましくは550〜2,800g/m
3、より好ましくは550〜1,700g/m
3の範囲で維持するのが適当である。
【0061】
本発明において、オリゴマーとは、一般には、ポリマーの低分子量成分のものをいうが、本明細書では、2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーをポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)と区別している。即ち、本明細書におけるポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)とは2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーを除く高分子量体を意味する。一方、本明細書における2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーは、定性的には非晶相の均一分解から不均一分解へと移行する臨界点での分子量(臨界点分子量)未満の分子量として定義される。かかる臨界点を超えることによって、結晶相同士を結びつけている非晶相において進行する加水分解によって非晶相の強度が著しく低下し、弱い外的圧力によって容易にクラックが生じ破断が起きやすくなる(崩壊臨界値)。崩壊臨界値に到ると成型体は崩壊しやすくなる。定量的な臨界点分子量は、結晶化度や結晶サイズ(ラメラ厚に相当する繰り返し分子長)に依存する。一方、崩壊臨界値は、結晶配向やラメラ結晶同士を結ぶ分子密度、並びに外圧の程度、及び外圧のかかる方向性などによって様々に変化する値であるが、通常、「崩壊臨界値」よりも「臨界点分子量」の方が、値としては大きい。
【0062】
臨界点分子量に達する時間は、一般に、初期分子量、結晶化度、及び表面積に依存する。初期分子量が高いほど、臨界点分子量に到達する時間は長くなり、表面積が大きいほど、水蒸気の浸透開始面積が広がり、反応が加速しうる。一方、結晶化度が大きいほど、非晶質の割合が相対的に減少するため、非晶質部分で進行するランダム加水分解(均一な加水分解)が早期に非ランダム加水分解(不均一な加水分解)へと移行し、非晶質で優先される非ランダム加水分解(不均一な加水分解)は、結晶相を取り巻く非晶質部分の破断を促進し、早期に崩壊臨界値に到ることとなりやすい。崩壊臨界値に到るまでの時間を長くするには、結晶サイズを小さくし、結晶化度を低下させることが一つの方法であるが、一方で製品全体の強度の低下を招き、低応力での崩壊を招きやすい。また、結晶化度の低下は、優先的に分解しやすい非晶質部分を増加させるため、加水分解速度そのものを増大させうる。なお、本発明において、2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーというときには、2−ヒドロキシイソ酪酸エステル構造ユニットおよび末端2−ヒドロキシイソ酪酸ユニットが全ユニットの90%以上のものをいい、その他の構造ユニットとして、前述のようなポリマーの場合と同じ成分を含み得るものとする。
【0063】
また、2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーは、以下のような特徴を有している。(1)機械的強度が小さいため、容易に破砕・粉砕されやすい。(2)熱分解温度が低いため、より小さなエネルギーで原料に変換される。(3)加水分解速度が大きいため、溶液系では容易に2−ヒドロキシイソ酪酸に変換される。(4)固体であるため、液の漏洩や酸性による腐食がない。(5)破砕・粉砕後は、ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)成型品のように嵩高くはない。このような特徴は、使用済みプラスチック成型品をケミカルリサイクルする際に不可避となる、輸送・破砕・保管プロセスを効率的に行うために極めて有効である。
【0064】
本発明において回収される2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーは、その重量平均分子量が1,000未満になると、融点が著しく低下し、軟化しやすくなる。さらに、加水分解の進行によって、親水性のカルボキシル基や水酸基の生成が促進され、凝縮水分を吸着・水和することにより、膨潤しやすくなる。膨潤した2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーは融着を起こしやすく、結果的に破砕・粉砕化を妨げることとなりやすい。かかる膨潤や融着を防ぐために、水蒸気処理の後に再び減圧しながら冷却し、系内の水蒸気を排出後、乾燥空気及び/または不活性ガスを導入することによって、融着の主要因である残留水分を効率的に排除することにより、効果的に破砕・粉砕化しやすい固体状の2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーとすることができる。
【0065】
2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーのケミカルリサイクルによる循環利用を有意に効果的かつ容易にするためには、回収される2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーの破砕や粉砕化を容易にすることが重要となる。そして、2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーの破砕や粉砕化の指標となり得る、上記した臨界点分子量が結晶サイズに依存するという観点より、2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマー及び/又はその誘導体の重量平均分子量は50,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、20,000以下であることがさらに好ましく、15,000以下であることが特に好ましく、1,000〜15,000であることが最も好ましい。また、2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマー及び/又はその誘導体の数平均分子置は25,000以下であることが好ましく、15,000以下であることがより好ましく、10,000以下であることが更に好ましく、7,500以下であることが特に好ましく、1,000〜7,500であることが最も好ましい。
【0066】
本発明の加水分解によるオリゴマー化によれば、使用済みの嵩高い2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー成型品を、輸送・保管に効率的な嵩密度の大きな2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマー破砕物又は粉砕物へと容易に変換することができる。また、ケミカルリサイクルの対象となるのは、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー成型品とその他のポリマー成型品との混合物である場合が多い。前記混合物から優先的に2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー成型品だけを加水分解して2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーとし、容易に破砕・粉砕可能な結果として、2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーの破砕物・粉砕物をその他のポリマー成型品から容易に分離回収できる。従って、使用済みの高分子量の2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー、又は2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーを含む樹脂混合物からなる成型品を、後述する熱分解によるケミカルリサイクルする上で、その前処理方法として本態様の加水分解処理方法を極めて効果的に利用できる。即ち、本発明は、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー成型品と他のポリマー成型品との混合物から、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー成型品を優先的に嵩密度の大きな2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーの破砕物・粉砕物に変換し、輸送・保管に有効なケミカルリサイクルの前処理方法を提供することができる。
【0067】
本発明における2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの循環利用のもう一つの態様は、熱分解による2−ヒドロキシイソ酪酸誘導体あるいはメタクリル酸及び/又はメタクリル酸エステルへの変換によるケミカルリサイクル方法である。
【0068】
2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー及び前記した加水分解方法により得られる2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーからは、熱分解によって各種の環状オリゴマー、直鎖状オリゴマー、メタクリル酸及びメタクリル酸オリゴマーができる。これらの熱分解生成物の中でも、ポリマーを再生する際に有用な環状二量体であるTMG若しくはメタクリル酸に優先的に変換することができる。熱分解によりTMGあるいはメタクリル酸を得る場合、好ましくは190〜350℃、より好ましくは200〜300℃の温度で加熱する。かかる範囲の場合、短時間で解重合を行うことができる。かかる熱分解の際、圧力は、0.01MPa以下、より好ましくは0.005MPa以下、さらに好ましくは0.001MPa以下、最も好ましくは0.0001〜0.001MPaの減圧下で実施するほうがTMGあるいはメタクリル酸の高い回収率を得るために有利である。
【0069】
2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー及び2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーのみの加熱下では、熱分解の際に十分な反応速度が得られないような場合には、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー及び2−ヒドロキシイソ酪酸オリゴマーを、触媒を用いて減圧下で接触熱分解することによって2−ヒドロキシイソ酪酸及び/又はその誘導体あるいはメタクリル酸およびメタクリル酸オリゴマーを得ることが好ましい。また、適切な触媒を用いる熱分解なよって、TMGあるいはメタクリル酸をより選択的に変換・回収することができる。熱分解の温度は200℃以上が好ましい。
【0070】
TMGに選択的に変換するための触媒は、均一系のエステル交換触媒であれば特に制限されることはなく、例えば、オクチル酸スズが挙げられる。また、メタクリル酸に選択的に変換するための触媒は、金属酸化物系触媒であれば特に制限無く用いることができる。好ましいメタクリル酸選択触媒としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどのアルカリ土類酸化物類;酸化スズなどの長周期III〜XV属の金属酸化物類であり、より好ましくは、アルカリ土類金属酸化物類およびSnやTi、Zr、Znの酸化物であり、更に好ましくは、アルカリ土類金属酸化物類とSnOである。本発明で用いられるアルカリ土類金属化合物は、何ら特別なものである必要はない。一般に知られているアルカリ土類金属化合物としては、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、バリウム化合物などがあり、それらの酸化物、水酸化物、炭酸化物、及び有機酸との塩類等が好適に用いられる。好ましくは、カルシウム化合物とマグネシウム化合物が入手のしやすさ等から好ましく用いられる。更に好ましくは、マグネシウムの酸化物が熱分解反応の選択性から好適に用いられる。本発明において最も好適に用いられる触媒であるマグネシウムの酸化物としては、一般に海水から、あるいは鉱石から製造されている酸化マグネシウムであれば、特に制限されず利用できる。好適に用いられる酸化マグネシウムとしては、軽焼マグネシア、重焼マグネシア、電融マグネシアなどである。
【0071】
本発明においては、アルカリ土類金属化合物及び/又は金属酸化物類は、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの樹脂組成物中の2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマー成分100重量部当たり0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部加えられる。本発明における接触熱分解の一例としてオクチル酸スズ触媒を用いたTMGへの選択変換について述べると、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの100重量部に対して0.01〜5重量部のオクチル酸スズを添加し、200〜300℃で1〜10時間ポリマーを熱分解してTMG留分を得ることができる。なお、熱分解して蒸気として留出してくるTMGを蒸留塔に通して分留し、精製TMGを回収することもできる。熱分解蒸留工程からのTMG解分の純度は高いが、さらに、晶析法、有機溶剤を用いた再結晶化法によって精製することにより、より純度の高いTMGを得ることができる。
【0072】
本発明において、純度の高いTMGあるいはメタクリル酸を回収する方法として、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの樹脂組成物を、例えば、200〜300℃の温度範囲に設定された熱分解反応器中に投入することが望ましいが、より低温から昇温する方法も選択可能である。好適に利用される熱分解反応器としては、バッチ式、連続式のいずれも実施可能である。好適に用いられる反応器としては、押出機(エクストルーダー)、オートクレーブ、流動床式反応器などである。押出機を用いる場合、シリンダーの各ブロックの温度設定とスクリューの回転数、スクリューの形状、一軸/二軸スクリューなどの形式によって、熱分解温度や熱分解速度の制御及び昇温速度を、本発明における温度範囲に設定することが可能である。
【0073】
これらの熱分解反応器を用いて、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの樹脂組成物の熱分解を実施する場合、生成したTMGあるいはメタクリル酸は気相中に揮発して来るため、気相成分を取り出すプロセスが不可欠である。上記した各反応器は、気相成分を取り出すための排出口、及び/又は、気相成分を押出し置換するための窒素ガス等の不活性ガスの注入口を有する。例えば、ベント構造を有する押出機の場合、ベント口が排出口として好適に用いられる。ベント口より気相成分を取り出す際に、一般的には、減圧下に取り出す方法が好適に実施される。減圧度及び/又は排気速度は、気化成分の量や温度に応じて設定することができるが、通常、0.01MPa以下、より好ましくは0.005MPa以下、更に好ましくは0.001MPa以下の減圧度で好適に実施される。以上のような方法・手段で、2−ヒドロキシイソ酪酸ポリマーの樹脂組成物から、TMGあるいはメタクリル酸を高選択的に回収することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
[実施例1]ピルビン酸メチルからの2−ヒドロキシイソ酪酸メチルの合成(下記の化8の反応式参照)。
【0076】
【化8】
【0077】
冷却管、滴下ロートを具備した100mL三口フラスコに、ピルビン酸メチル2.00g(19.60mmol)と脱水テトラヒドロフラン(THF)20mLを投入した。氷冷下、窒素雰囲気でメチルマグネシウムブロマイド18.15mL(1.08mol/L;THF溶液,19.60mmol)と、脱水THF15mLの混合液を滴下ロートより滴下した。滴下終了後、室温で1時間反応を行った。反応の進行は薄層クロマトグラフィー(TLC、展開溶媒;塩化メチレン)で追跡した。反応終了後、室温まで放冷し、これに10%塩化アンモニウム水溶液を徐々に加え反応を停止させた。反応溶液を塩化メチレンで抽出、水洗後、有機層を分取した。有機層は無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶液を濾取して、溶媒を減圧留去した。残渣をプレパレイティブTLCに付し生成物:2−ヒドロキシイソ酪酸メチルを単離した。収量1.15g(収率50%)。IRとGCMSの値は以下のとおりであった。
【0078】
IR(cm-1):3461(νOH), 2983, 2952−1737(νC=O), 1465, 1430, 1374, 1275, 1193, 1145, 986, 883, 814, 767, 616; GCMS(EI):m/Z
103(M-15)
【0079】
[実施例2]乳酸エチルからの2−ヒドロキシイソ酪酸の合成(下記の化9の反応式参照)。
【0080】
【化9】
【0081】
乳酸エチル(0.4g、0.003mol)と炭酸ジメチル(5.5g、0.061mol)をアンプル管に加え、触媒として炭酸セシウム(2.2g、0.006mol)を加えた。アンプル管を液体窒素で十分冷やし凍結した後に真空ポンプで減圧し、その後、窒素雰囲気下で内容物を水浴上で融解し窒素置換を行った。再度、液体窒素温度に冷却して真空ポンプで減圧しながらガスバーナーを用いて封管を行った。封管したものを150℃に設定したドライブロックバス上で7時間反応させた。1時間ごとにアンプル管を振り混ぜながら7時間の反応終了後、取り出したアンプル管を水に浸し一晩静置した。その後、反応液をデカンテーションし、アンプル管内表面上に析出した白色透明で針状の結晶を回収した。収量は10mg以下であった。生成した結晶は
1H−NMRを用いて構造確認を行った。結果は以下のとおりであった。
【0082】
1H-NMR
(CDCl3、TMS基準、ppm): 1.55 (s, CH3)
【0083】
[参考例1]2−ヒドロキシイソ酪酸からテトラメチルグリコリド(TMG)の合成とTMGの開環重合によるポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)の合成(下記の化10の反応式参照)。
【0084】
【化10】
【0085】
2−ヒドロキシイソ酪酸(40.0g、0.38mol)を200mlの丸底フラスコに入れ、トルエン
(100ml)を加え撹拌した。これをDean-Stark
Trapを用いて還流し、p−トルエンスルホン酸(p−TSA)(3.7g、0.02mol))を0.05当量加え48時間反応させた。水分受器トラップに、出発物質と約等モル量(7.2ml、0.40mol)の水が溜まっていることを確認して、反応液を室温に戻し、減圧下トルエンを可能な限り取り除いた。これをジエチルエーテルで希釈して、水による洗浄を2回行った。更に飽和食塩水により有機層を洗浄した後、MgSO4を用いて乾燥させ、減圧濃縮を行うと白色の結晶が24.4g得られた。更に、再結晶法により精製を行った。得られた粗結晶に酢酸エチル20mlを加え、50−60℃で加熱しながら全て溶解させた。これを徐々に冷却しながらn−ヘキサンを少量ずつ加えてゆき、ドラフト内で一晩静置したところ無色透明の結晶が得られた。この操作をさらに二回繰り返して20.1g(0.12mol)の透明な結晶TMGを得た。合成収率73%であった。IRやNMR等の値は以下のとおりであった。
【0086】
FT-IR(一回反射):(cm-1) 2985 (C-H, CH3), 1740 (C=O, carboxylic group), 1H-NMR
(CDCl3) (ppm): 1.73 (12H, s, CH3)、EI-MS: m/z = 173 (M+1)+、DSC: Tm83.1℃
【0087】
次に、合成したTMG(8.0g、0.046mol)を100mlアンプル管に入れ、液体窒素で冷却しながら、真空ポンプによる減圧及び塩化カルシウム管を通した乾燥窒素の加圧下に融解する操作を3回行い、凍結脱気乾燥を行った。これを室温に戻し、重合開始剤としてLi-t-Buを1.7Mペンタン溶液(30μl、0.05mmol)を10
−3当量加えて、再び液体窒素で冷却しながら真空ポンプによる減圧操作を行った。減圧を行いながらガスバーナーを用いて封管して、130℃のオイルバス中で8時間反応させると白色の固体が得られた。反応終了後、管を開封し、生成した白色固体はクロロホルムに溶解し、大過剰のメタノールに滴下して−35℃で一晩静置した。白色の沈殿物を吸引濾過により濾し分けながらアセトンで洗浄すると白色の粉末状が得られた。これをバキュームオーブンを用いて110℃で2時間減圧乾燥させた。得られたポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)の収量は、7.1gで重合収率は88.8%であった。得られたポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)は、
1H−NMRにより構造確認、GPCにより分子量、DSCによりガラス転移温度と融点を測定した。結果は以下のとおりであった。
【0088】
1H−NMR(CDCl3)
(ppm):1.54(s,CH3)
GPC(ポリスチレン換算):Mn22000、MW32000
DSC:Tg=70.8℃、Tm=190.7℃
【0089】
[実施例3及び比較例1]ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)の希塩酸処理による熱安定化。
ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)(Mn8100、Mw12000)0.2087gを、100mL容量の三角フラスコに取り、これにクロロホルム20mLを加えて攪拌して溶解した。この溶液を分液ロートに移し、1NのHCl水溶液10mLで3回洗浄を行った。その後、クロロホルム溶液を分離し、この溶液からロータリーエバポレーターを用いて、減圧下にクロロホルムを溜去した。溜去後、フラスコ底部に残ったフィルム状のポリマーを取り出し、真空下、40℃で4時間乾燥した。乾燥したフィルム状のサンプルは、TG/DTAを用いて、窒素ガス気流(100mL/min)下、昇温速度9℃/minの条件400℃まで加熱した。その結果、熱分解による重量減少は、約250℃から開始し、310℃でほぼ完全に消失した。比較として、無処理のポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)を用いて、同様の条件下でTG/DTAを用いて加熱した。その結果、熱分解による重量減少は、約235℃から開始し、295℃でほぼ完全に消失した。以上の結果を比較すると、ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)を1NのHCl水溶液で洗浄することにより、約15℃の熱分解温度が上昇し、熱安定化することが確認された
【0090】
[実施例4〜6及び比較例2]ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)のブレンドフィルムの作成。
表1に示した量のポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)(以下、PTMGと略記することがある)(Mn8100、Mw12000)とポリカーボネート(PC、Mn11000、Mw34000)、ポリコハク酸ブチル(PBS、Mn25600、Mw72000)及び、ポリカプロラクトン(PCL、Mw120000)を20mL容量のサンプル管瓶にとり、その中にクロロホルム4mLを加え、一晩室温で攪拌して溶解した。双方のポリマーが溶解した溶液は無色透明であった。この溶液を5cm内径のフラットシャーレに移し、水平台上で溶剤のクロロホルムを徐々に気化させてキャスト膜を形成させた。得られたフィルムは無職透明乃至白色であったが、単離可能なフィルムであった。単離されたフィルムは、真空下70℃、5時間の条件で乾燥を行った。真空乾燥器内からフィルムを取り出し、示差走査熱量計(DSC)を用いて、熱的性質の測定を、窒素気流(50mL/min)下、9℃/minの昇温速度で加熱した。その結果、ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)とブレンドした他樹脂の結晶融解に基づく吸熱ピークがそれぞれ表1に記載した温度で観測された。比較として、他の樹脂をブレンドせずに、実施例4〜6と同じ分子量のポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)のみを同様の方法でキャスト試験(比較例2)を行った。しかしながら、比較例2の場合には、実施例4〜6と異なり、単離可能なフィルムは形成しなかった。以上の結果から、他の樹脂の共存が、ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)のフィルム形成に効果的に働いたことが明らかである。
【0091】
【表1】
【0092】
[実施例7〜9及び比較例3]ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)の熱分解(下記の化11の反応式参照)。
【0093】
【化11】
【0094】
ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)及び熱分解触媒を表2の割合で試料瓶に測り取り、クロロホルム(5ml)に溶解させ、3時間撹拌した。この溶液をフラットシャーレに移し、水平台上で一晩静置乾燥させキャストフィルムを作成した。得られたフィルムは、バキュームオーブンで70℃に加熱させながら真空ポンプで減圧(17Pa)し、クロロホルムを完全に除去した。
【0095】
ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)の熱分解は、表2の試料約10mgをアンプル管に取り、真空ポンプで3時間減圧乾燥した。続いて液体窒素で冷却し、真空ポンプで減圧しながら封管を行いガラスチューブ内に設置した。ガラスチューブオーブンは表2に示した所定の温度に設定し、30分の加熱を行った。分解生成物はアンプル内で発生し滞留した。加熱処理後、アンプル管を冷却して、破砕し内部の熱分解生成物をクロロホルムに溶解し、構造確認は1H-NMR分析により行った。生成物のモル組成比は
1H-NMRスペクトルの積分比から算出した。結果を表2に記載した。
【0096】
表2の結果から、触媒を全く用いなかった場合(比較例3)、主生成物はメタクリル酸(3)であったが、大量のアセトン(2)が生成し、TMG(1)の割合はわずかであった。熱分解触媒として、エステル交換触媒であるオクチル酸スズ(Sn(Oct)
2)を用いた場合、TMGの生成量が著しく増加し、TMG選択的な熱分解が起こっていることが分かった。酸化スズ(SnO)および酸化マグネシウム(MgO)を添加した場合、メタクリル酸が大部分を占め、メタクリル酸選択的熱分解が進行していることがわかった。
【0097】
【表2】
【0098】
[実施例10]乳酸誘導体からの2−ヒドロキシイソ酪酸誘導体の合成(下記の化12の反応式参照)。
【0099】
【化12】
【0100】
冷却管、窒素導入管(三方コック)、滴下漏斗、セプタムキャップを具備した内容積200mLの三口フラスコに攪拌子を入れ、窒素置換を行った。DL-乳酸エチル(18.07g、150mmol)とトリエチルアミン(31.6mL、230mmol)とクロロホルム150mlを添加し、氷水を用いてフラスコを0℃に冷却した。滴下漏斗にトリメチルシリルクロライド(29.2mL、230mmol)を入れ、これをゆっくりとフラスコ内に滴下した。滴下終了後、反応温度を室温に戻し、窒素雰囲気下で3時間反応させた。反応はGCガスクロマトグラフで追跡した。反応終了後、反応溶液を水で3回洗浄し、分取した有機層を無水硫酸マグネシウム上で脱水した。溶液を濾取し、クロロホルムを減圧留去した。得られた粗生成物の精製はシリカゲルカラムによって行った。その際、溶媒としてヘキサン:酢酸エチル(3:1)を使用した。純度99%(GC純度)の2−トリメチルシロキシプロパン酸エチルが、無色透明液体として7.0g得られた(収率:25%)。物性値は以下のとおりであった。
【0101】
1H-NMR:δ=0.16 ( 9H, s, Si(CH
3)
3)
), 1.27‐1.30 (
3H, t, J = 7.3 Hz, CH
3 ), 1.39 ( 3H, d, J = 6.5 Hz, CH
3
), 4.15‐4.22(
2H, q, CH
2−), 4.28‐4.32( 1H, q, J = 6.8 Hz, CH )
【0102】
窒素導入管(三方コック)を具備した内容積100mLのナス型フラスコに攪拌子を入れ、窒素置換を行った。2−トリメチルシロキシプロパン酸エチル(0.5g、2.6mmol)と脱水THFを50mL
を加え、フラスコを−84℃(酢酸エチル+液体窒素)に冷却し、リチウムジイソプロピルアミド溶液(2.0Mヘプタン−テトラヒドロフラン−エチルベンゼン混合溶液)(1.3mL、2.6mmol)を加え、30分間、窒素雰囲気下で攪拌した。30分後、ヨウ化メチル(0.4mL、5.2mmol)を加え、−84℃を維持し、30分間攪拌した。反応終了後、10%塩化アンモニウム水溶液を加え反応を停止させた。反応溶液を塩化メチレンで抽出し、水洗を2回行い、無水硫酸マグネシウム上で乾燥させた後、反応溶液を濾取し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(溶媒:ヘキサン)で精製し、生成物2−トリメチルシロキシ−2−イソ酪酸エチルが、黄色液体として0.1g得られた(収率:19%)。物性値は以下のとおりであった。
【0103】
1H-NMR :δ=0.14 ( 9H , s , Si(CH
3)
3)
), 1.27‐1.30 (
3H , t , J = 7.3 Hz , CH
3 ), 1.45 ( 6H, s, CH
3 ),
4.14‐4.19 ( 2H
, q , J =7.0 Hz, CH
2−),
13C-NMR : δ=2.01 , 14.1 , 28.6 , 60.9 , 75.0 , 176.
【0104】
[実施例11〜14]ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)の熱分解。
ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)286.4mg及び熱分解触媒として酸化カルシウム(CaO)16.2mg(5重量%)を試料瓶に測り取り、クロロホルム (3ml)に溶解させ、3時間撹拌した。この溶液をフラットシャーレに移し、水平台上で一晩静置乾燥させキャストフィルムを作成した。得られたフィルムは、バキュームオーブンで50℃に加熱させながら真空ポンプで減圧しながら4時間乾燥させた。
【0105】
ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)の熱分解は、熱分解−ガスクロマトグラフ/質量分析計(熱分解−GC/MS)を用いて行った。上記の試料約0.1mgをパイロライザーに投入し、60℃から表3に示した温度まで昇温速度9℃/分で昇温しながら熱分解を行った。熱分解生成物は、GC/MS装置で分離し、各成分の量をトータルイオンカウント(TIC)%として計測した。得られた結果を表3に示した。表3の結果から、高いメタクリル酸選択的熱分解が進行していることがわかった。
【0106】
【表3】
【0107】
[参考例2]ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)の平衡融点の測定。
参考例1で合成したポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)約10mgを、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素気流(20mL/分)で加熱熱処理・冷却を繰り返すことによって、結晶化を促進し、熱処理温度と融点の確認を行った。その結果、熱処理温度を5℃ずつ徐々に上昇し、最終的に200℃で10分間保持した後に、その融点(Tm)を測定した結果、融点205.4℃を確認した。さらに、熱処理温度と融点の上昇曲線との交点(平衡融点)は、220℃であることが見出された。
【0108】
[実施例15〜17]ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)の水蒸気分解。
ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)(Mn44,000、Mw 61,000)約10mgを試料瓶に測り取り、これを常圧水蒸気処理装置(直本工業製)の中で、180℃、200℃、および210℃の水蒸気を1時間吹き付けて、水蒸気による分解反応を行った。その後、サンプルをクロロホルムに溶解し、GPC装置を用いて分子量の測定を行った。その結果を表4に示した。表の結果から、水蒸気温度が高くなるにつれて、加水分解が効率的に進行することが見出された。
【0109】
【表4】