特許第5678685号(P5678685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5678685リチウム二次電池用正極活物質の前駆体とその製造方法およびリチウム二次電池用正極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678685
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質の前駆体とその製造方法およびリチウム二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20150212BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150212BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20150212BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   C01B25/45 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-12528(P2011-12528)
(22)【出願日】2011年1月25日
(65)【公開番号】特開2012-155916(P2012-155916A)
(43)【公開日】2012年8月16日
【審査請求日】2013年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106596
【弁理士】
【氏名又は名称】河備 健二
(72)【発明者】
【氏名】池内 研二
(72)【発明者】
【氏名】大迫 敏行
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−054576(JP,A)
【文献】 特開2010−218838(JP,A)
【文献】 特開2003−292308(JP,A)
【文献】 特開2004−259470(JP,A)
【文献】 特開2009−302044(JP,A)
【文献】 特開2008−159495(JP,A)
【文献】 特開2009−301813(JP,A)
【文献】 特開2009−029663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン型リン酸鉄リチウムの単相一次粒子および該一次粒子が凝集した二次粒子からなり、且つX線回析における(311)面の回折ピーク半価幅が0.1〜0.3°および走査型電子顕微鏡観察から求められる該一次粒子の平均粒径が0.05〜0.5μmであるリチウム二次電池用正極活物質を製造するための原料として用いられる前駆体であって、
2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合して、リチウム鉄リン酸組成物を晶析させることによって得られ、且つX線回析において、該リチウム鉄リン酸組成物に由来する回折ピークが未検出の状態であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
【請求項2】
ナトリウム含有量が0.5質量%以下であることを特徴とする請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
【請求項3】
2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合して、反応水溶液(c)を形成し、該リチウム水溶液(b)により混合後の該反応水溶液(c)をpH8〜9の範囲となるように制御して、反応させることにより、リチウム鉄リン酸組成物を晶析させる晶析工程、及び該リチウム鉄リン酸組成物を水洗後、非酸化性雰囲気中で乾燥させる乾燥工程からなることを特徴とする請求項又はに記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記pH制御のために、さらにアルカリ金属水酸化物を、前記反応水溶液(c)に添加することを特徴とする請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記2価の鉄塩が硫酸第一鉄水和物(FeSO・7HO)であることを特徴とする請求項又はに記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項6】
請求項又はに記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体を、導電性炭素質材料生成物と混合して混合物とした後、不活性または還元雰囲気中において350〜700℃で加熱して熱処理することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理前に、前記前駆体を乾式または湿式粉砕することを特徴とする請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質とその製造方法および該正極活物質の前駆体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコン、携帯電話、ビデオカメラ等の小型電子機器の電源として、リチウムイオン二次電池が広く使用されている。このリチウムイオン二次電池については、コバルト酸リチウムがリチウムイオン二次電池の正極活物質として有用であるとの報告がなされて以来、コバルト酸リチウムに関する研究開発が活発に進められており、これまで多くの提案がなされている。
しかしながら、Coは、地球上に偏在し、希少な資源であるため、コバルト酸リチウムに代わる新たな正極活物質として、例えば、LiNiO、LiMn、LiFePO等の開発が進められている。
【0003】
上記正極活物質の中でも、オリビン型リン酸リチウム化合物であるLiFePOは、体積密度が3.6g/cmと大きく、3.4Vの高電位を発生し、理論容量も170mAh/gと大きいという特徴を有している。そして、Feは、資源が豊富で安価であることに加え、LiFePOは、安定なポリリン酸骨格を有するため、酸素原子を放出しにくく、安全性に優れるため、コバルト酸リチウムに代わる新たなリチウム二次電池の正極活物質としての期待は大きい。
しかしながら、LiFePOは、電子伝導性が低いため、そのままでは十分な電極特性が得られない。これらの欠点を改善するため、数百nmへの粒子の微細化、黒鉛などの導電材との複合化、このFeの一部を他の金属で置換したLiFePOを正極活物質とするリチウム二次電池が提案されている。
【0004】
一般的なLiFePOの製造方法としては、当初から知られているシュウ酸鉄とリン酸水素アンモニウムおよび炭酸リチウムなどのリチウム塩の組み合わせ以外に、リン酸第一鉄含水塩とリチウム塩、あるいは硝酸アンモニウム鉄とリチウム塩などの固体原料の組み合わせを用い、これらを混合して焼成することで、固相反応によりオリビン構造を持つLiFePOを得る方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。また、鉄源としては、リン酸塩の他にも、金属鉄粉や鉄酸化物を用いる方法も提案されている(例えば、特許文献3、4参照。)。
これらの製造方法では、それぞれの成分に対して個別の原料を用いるため、構成成分が十分に拡散して均一組成を持つ良好なオリビン構造を得るためには、比較的高い焼成温度が必要となる。
しかしながら、高温で焼成を行うと、平均粒径が数μm〜数十μmまで粗大化し、また、その粒子は、結晶が発達し、非常に硬いものとなる。このため、反応性が悪く、また、粉砕等の加工がし難いという欠点がある。この結果、リチウム二次電池用正極活物質としてのLiFePOの用途展開を困難なものとしている。
【0005】
一方、低温でオリビン構造を得る方法として、高圧を付加する水熱合成法も提案されている(例えば、特許文献5参照。)。この方法によれば、低温で微細なオリビン構造が得られるが、特別な高圧容器を必要とするばかりか、装置も複雑であり、工業的生産には、不向きである。
また、このような高圧容器を用いずに、均一な組成の反応前駆体を得る試みとして、溶液の噴霧乾燥法や静置乾燥固化なども提案されている(例えば、特許文献6参照。)。
しかしながら、これらの方法では、媒体である水を除去するために、大きな熱量を必要とするため、生産性に劣る。
【0006】
その他に、目的組成を有する反応前駆体を得る試みとしては、リチウム塩と鉄塩とを含有するリン酸水溶液に水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液を混合して、リチウムと鉄との複合リン酸化物の共沈体を得る方法も、提案されている(特許文献7参照。)。
しかしながら、この提案においては、詳細な反応条件は明らかにされておらず、また、例えば、水酸化ナトリウムを用いて中和反応を行うと、反応途中で生成するナトリウム塩などが混入し、電池特性に悪影響を与える恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−292307号公報
【特許文献2】特開2006−056754号公報
【特許文献3】特開2008−004317号公報
【特許文献4】特開2008−159495号公報
【特許文献5】特開2005−276474号公報
【特許文献6】特開2006−131485号公報
【特許文献7】特開2002−117831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術の問題点に鑑み、リチウム二次電池用正極活物質の製造原料として、好適な均一微細な前駆体を提供するとともに、これを用いることによって得られる、より微細で不純物の少ない優れた正電池特性を有する正極活物質とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、リチウム二次電池用正極活物質として有用なLiFePOリチウム二次電池用正極活物質について、鋭意研究を重ねた結果、2価の鉄塩およびリン酸を含む混合水溶液と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液とを、特定pH条件下で反応させることにより、得られる微細均一で反応性に優れた前駆体を、熱処理することにより、優れた正極活物質が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、オリビン型リン酸鉄リチウムの単相一次粒子および該一次粒子が凝集した二次粒子からなり、且つX線回析における(311)面の回折ピーク半価幅が0.1〜0.3°および走査型電子顕微鏡観察から求められる該一次粒子の平均粒径が0.05〜0.5μmであるリチウム二次電池用正極活物質を製造するための原料として用いられる前駆体であって、
2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合して、リチウム鉄リン酸組成物を晶析させることによって得られ、且つX線回析において、該リチウム鉄リン酸組成物に由来する回折ピークが未検出の状態であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体が提供される。
【0011】
また、本発明の第の発明によれば、第の発明において、ナトリウム含有量が0.5質量%以下であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体が提供される。
【0012】
一方、本発明の第の発明によれば、2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合して、反応水溶液(c)を形成し、該リチウム水溶液(b)により混合後の該反応水溶液(c)をpH8〜9の範囲となるように制御して、反応させることにより、リチウム鉄リン酸組成物を晶析させる晶析工程、及び該リチウム鉄リン酸組成物を水洗後、非酸化性雰囲気中で乾燥させる乾燥工程からなることを特徴とする第又はの発明に係るリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法が提供される。
また、本発明の第の発明によれば、第の発明において、前記pH制御のために、さらにアルカリ金属水酸化物を、前記反応水溶液(c)に添加することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第の発明によれば、第又はの発明において、前記2価の鉄塩が硫酸第一鉄水和物(FeSO・7HO)であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第の発明によれば、第又はの発明に係るリチウム二次電池用正極活物質前駆体を、導電性炭素質材料生成物と混合して混合物とした後、不活性または還元雰囲気中において350〜700℃で加熱して熱処理することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第の発明によれば、第の発明において、前記熱処理前に、前記前駆体を乾式または湿式粉砕することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0014】
本発明は、上記の如く、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極活物質前駆体などに係るものであるが、その好ましい態様として、次のものが包含される。
(1)第の発明において、前記晶析工程における晶析時の反応温度は、5〜80℃であり、および晶析時の雰囲気は、窒素などの不活性ガス雰囲気であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
)第の発明において、前記乾燥工程では、非酸化性雰囲気は、不活性雰囲気または真空雰囲気であり、および乾燥温度は、35〜250℃であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
)第の発明において、熱処理時間は、2〜20時間であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
)第又はの発明に係るリチウム二次電池用正極活物質の製造方法から得られるリチウム二次電池用正極活物質を正極に用いてなる二次電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、均一微細なオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)粒子からなり、該正極活物質を用いた正極により構成される電池は、LiFePOの理論放電容量に近い値を示し、優れた特性を示すものとなる。
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質前駆体は、結晶性が低く、熱処理することにより、容易に上記正極活物質が得られるものである。
さらに、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、有毒物質を用いずに容易に高収率で上記正極活物質が得られるものであり、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を項目毎に、詳細に説明する。
【0017】
1.リチウム二次電池用正極活物質
本発明のリチウム二次電池用正極活物質(以下、単に本発明の正極活物質と記載することがある)は、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)の単相一次粒子および該一次粒子が凝集した二次粒子からなり、且つX線回析における(311)面の回折ピーク半価幅(または半値全幅)が0.1〜0.3°、および走査型電子顕微鏡観察から求められる前記一次粒子の平均粒径が0.05〜0.5μmであることを特徴とする。
【0018】
上記回折ピーク半価幅と一次粒子の平均粒径の両方を有することにより、リン酸鉄リチウム粒子が十分な結晶性を有するとともに、微細な粒子となり、電池の電解液との反応性が向上してリチウム二次電池用正極活物質として優れた特性、特に電池容量を有するものとなる。
一方、前記平均粒径が上記範囲であっても、回折ピーク半価幅が0.3°を超えた場合には、リン酸鉄リチウム粒子の結晶性が十分でなく、正極活物質として優れた特性は得られない。また、回折ピーク半価幅が上記範囲であっても、平均粒径が0.5μmを超えた場合には、結晶性が十分であってもリン酸鉄リチウム粒子が粗大となるため、優れた特性は得られない。
なお、本発明の正極活物質の形態は、上記一次粒子が集合してなる平均粒径1〜60μmの集合体粒子(二次粒子)であってもよい。
【0019】
また、一方、前記回折ピーク半価幅が0.1°未満になると、リン酸鉄リチウム粒子が粗大となり、そして、平均粒径が0.05μm未満になると、リン酸鉄リチウム粒子の十分な結晶が得られず、いずれの場合も、正極活物質として優れた特性が得られない。
ここで、回折ピーク半価幅は、粉末X線回折(XRD)装置を用いて、Cu−Kα線による粉末X線回折で測定し、結晶面である(311)面の結晶性を評価している。その技術的意義は、以下のとおりである。
一般に、XRD回折ピークは、結晶性と関係が深く、結晶性が高い(原子配列が規則的な)ほど、回折ピークが高く、かつ幅が狭くなる。また一方、回折ピークは、結晶子の大きさにも影響を受け、結晶子が微細になると、結晶性が悪い状態と同様に、回折ピークが低く、かつ幅が広くなる。さらに、粗大粒子では、多結晶となることが多いが、本発明に係る微細な一次粒子では、単結晶に近い状態となり、結晶子の大きさにより、一次粒子の大きさを評価できる。本発明では、LiFePOで大きな回折ピークが現れる(311)面の回折ピークにより、結晶性と結晶子の大きさを評価している。その結果、回折ピーク半価幅と一次粒子平均径が上記範囲となることにより、微細かつ結晶性に優れた一次粒子が得られることになる。
【0020】
また、前記一次粒子表面は、リチウム二次電池用正極活物質全量に対して、含有される炭素量で3〜10質量%、好ましくは3〜8質量%の導電性炭素質材料で被覆されていることが好ましい。
本発明の正極活物質を構成するリン酸鉄リチウム粒子は、導電性が低いため、上記範囲の導電性炭素質材料で被覆されることにより、該粒子間で十分な導電性が確保され、正極活物質として、優れた特性が得られる。導電性炭素質材料の被覆量が3質量%未満では、十分な導電性が確保されず、一方、導電性炭素質材料の被覆量が10質量%、好ましくは8質量%を超えると、正極活物質の体積当たりのリン酸鉄リチウム粒子量が減少するため、電池の体積当たりの電池容量が減少して、不利である。
上記導電性炭素質材料(または炭素材料)としては、例えば、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び土状黒鉛等の天然黒鉛及び人工黒鉛等の黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることができる。この中、ケッチェンブラックが微粒なものを工業的に容易に入手できるため、特に好ましい。
また、上記導電性炭素質材料からなる被覆層は、例えば、上記導電性炭素質材料の他、ショ糖等の炭素を含む有機材料をその原料化合物(前駆体)と混合し、焼成して上記正極活物質を得る際に、有機材料を燃焼させて導電性を有するカーボンを生じさせると共に、該カーボンを正極活物質の粒子に被覆させることにより形成することもできる。
【0021】
本発明の正極活物質の不純物としてのナトリウム(Na)含有量は、少ないほど好ましく、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。ナトリウム含有量が0.5質量%を超えると、正極活物質中でリン酸ナトリウムとなって、該正極活物質を用いた電池の性能を低下させることがある。
【0022】
上記正極活物質のBET比表面積は、好ましくは10〜100m/g、より好ましくは30〜70m/gである。BET比表面積が10m/g未満の場合は、電池に用いた場合に電解液との反応面積が十分に得られず、高容量とならない。また、BET比表面積が100m/gを超えると、かさ密度が高くなりすぎ、容積が制限される電池材料としては不利である。
【0023】
本発明の正極活物質は、正極、負極、セパレータ及びリチウム塩を含有する非水電解質からなるリチウム二次電池の正極活物質として、好適に用いることができ、得られるリチウム二次電池は、高容量で安全性の高いものとなる。
また、上記正極活物質は、公知の他のリチウムコバルト系複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物またはリチウムマンガン系複合酸化物などのリチウム金属複合酸化物と併用して用いることにより、従来のリチウム二次電池の安全性を、更に向上させることができる。この場合、併用する上記他のリチウム金属複合酸化物は、特に制限されるものではなく、一般的なものを用いることができる。
【0024】
2.リチウム二次電池用正極活物質前駆体
本発明のリチウム二次電池用正極活物質前駆体(以下、単に本発明の前駆体と記載することがある)は、上記正極活物質の原料として用いられるものであって、2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合して、リチウム鉄リン酸組成物を晶析させることによって得られ、且つX線回析において、該リチウム鉄リン酸組成物に由来する回折ピークが未検出の状態であることを特徴とする。
【0025】
本発明の前駆体は、一次粒子の平均粒径が0.05μm以下であり、また、X線回析において前記リチウム鉄リン酸組成物に由来する回折ピークが未検出の状態にあることが重要な意義を持つ。
すなわち、前記前駆体は、非晶質の状態にあり、反応性に優れ、低温での焼成により、容易に結晶化して、上記微細なリン酸鉄リチウム粒子が生成する。ここで、上記回折ピークが未検出の状態とは、ピークがブロードな状態となり、回折角が特定されない状態、すなわち、X線回析装置で機械的に検出されない状態にあることを意味する。一方、上記回折ピークが検出されるような結晶性の高い前駆体は、リン酸鉄リチウム粒子を生成させるためには、反応性が低く、高温での焼成が必要となり、該粒子も粗大化する。
【0026】
上記前駆体は、オリビン構造が形成されてなく、非晶質的な構造を持っているが、一部にFe(POやLiPOの結晶性ピークが弱く見られる場合がある。しかし、この場合においても、極めて微細に各相が分散しているため、反応性は高い。
【0027】
上記前駆体は、2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合して、中和晶析させることによって得られる。中和晶析することにより、前駆体を構成する成分が均一に混合され、かつ結晶性および粒子径の制御も、容易に行うことができる。
したがって、上記前駆体は、例えば、リン酸鉄とリン酸リチウムを混合した前駆体とは異なり、上記正極活物質の目標組成を有し、成分の均一性および反応性に優れるため、上記混合による前駆体の焼成温度よりも、低い熱処理温度でオリビン構造を得ることができ、リン酸鉄リチウム粒子の粗大化、焼結を抑制できる。
【0028】
本発明の前駆体は、高純度が要求されるリチウム電池正極材料の製造原料として用いられるため、高純度が要求される。特に、上記正極活物質のナトリウム含有量が0.5質量%以下であることが好ましいため、本発明の前駆体のナトリウム含有量も、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。前駆体のナトリウム含有量が0.5質量%を超えると、前駆体から正極活物質中を生成させる過程で、ナトリウムを除去する工程が必要となり、ナトリウム除去の工程を採用しない場合には、上記正極活物質のナトリウム含有量が0.5質量%を超えることがある。
【0029】
3.リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造法
本発明の前駆体の製造方法は、2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合して、反応水溶液(c)を形成し、該リチウム水溶液(b)により、混合後の該反応水溶液(c)をpH8〜9の範囲となるように、制御して反応させることにより、リチウム鉄リン酸組成物を晶析させる晶析工程、および該リチウム鉄リン酸組成物を水洗後、非酸化性雰囲気中で乾燥させる乾燥工程からなることを特徴とする。
以下、工程毎に説明する。
【0030】
(1)晶析工程
本発明の前駆体は、微細構造を有するとともに低結晶性であるため、中和晶析法を用いることが最適であり、その晶析条件を制御することにより、得られる。
晶析工程においては、2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)と、水酸化リチウムを含有するリチウム水溶液(b)とを混合することにより、上記正極活物質の目標組成を有し、均一に成分が混合された反応水溶液(c)を形成することができる。
ここで、先ず、2価の鉄塩とリン酸を含有する混合水溶液(a)を調製するが、2価の鉄塩もしくはリン酸と、上記リチウム水溶液(b)とを先に混合すると、反応生成物が生じるため、その後に未混合の2価の鉄塩もしくはリン酸と混合しても、成分的に均一に混合された前駆体が得られない。
【0031】
具体的には、先ず、リン酸を2価の鉄塩中の鉄原子に対するモル比で、目的物であるリン酸鉄リチウム(LiFePO)の組成に合わせ、好ましくは0.9〜1.1、より好ましくは0.95〜1.05となるように、2価の鉄塩とリン酸を溶解して、上記混合水溶液(a)を調製する。
ここで、該混合水溶液の濃度は、2価の鉄塩とリン酸を溶解できる濃度であれば、特に制限はないが、2価の鉄塩の濃度で0.1モル/L以上とすることが好ましく、0.5〜1.0モル/Lとすることがより好ましい。
一方、上記リチウム水溶液(b)は、上記混合後の反応水溶液(c)の成分がLiFePOの組成となるように、リチウム含有量を調整するが、2価の鉄塩中の鉄原子に対するモル比で、好ましくは0.8〜1.2、より好ましくは0.95〜1.1とすることが望ましい。
【0032】
前記2価の鉄塩としては、例えば、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、酢酸鉄、蓚酸鉄等が挙げられ、これらの中から少なくとも1種もしくはその混合物を用いることができ、また、これらは含水物であっても無水物であってもよい。これらの中では、硫酸第一鉄7水和物(FeSO・7HO)が工業的に容易に入手することができ、安価であるため、特に好ましい。
【0033】
このように、晶析工程において、組成の調整を行うことにより、目的物であるLiFePOの均一な組成分布を持つ前駆体が得られることが、本発明の前駆体の製造方法の大きな特徴である。このため、後工程で成分調整のために、原料を追加して焼成時に固相反応を行わせる必要がなく、焼成温度の低温化が可能となる。
前記混合水溶液(a)は、鉄およびリン酸を含有する酸性溶液であり、リチウムを含有する前記リチウム水溶液(b)と混合して、上記反応水溶液(c)を形成することで、中和され、晶析反応により、上記前駆体が生成する。
上記晶析時は、水酸化リチウム又はリチウム水溶液(b)の添加により、反応水溶液(c)をpH8〜9の範囲に制御する。pH8未満の酸性または中性領域で反応させると、リチウムが沈澱し難く、一方、pH9を超える高アルカリ領域では、Feが水酸化物化してしまい、均一に混合されたリチウム鉄リン酸組成物が得られない。pH8〜9の範囲で、反応水溶液(c)を反応させることにより、リチウムとFeがリン酸塩として晶出し、目的組成であるLiFePO組成のリチウム鉄リン酸組成物を得ることができる。
【0034】
上記pHの制御は、水酸化リチウム又はリチウム水溶液(b)の添加により行うが、補助的なpHの調整に、他の無機アルカリなどを併用することができる。無機アルカリとしては、水酸化ナトリウムが、工業的に入手が容易で安価であり、好ましい。しかしながら、水酸化リチウム又リチウム水溶液(b)のみを用いる場合には、得られる前駆体中に、ナトリウムが実質的に含有されない状態とすることができるが、水酸化ナトリウムを用いた場合には、該前駆体中に、ナトリウムが残留することがある。このため、上記pHの調整に用いる水酸化ナトリウムの量は、上記pHの範囲内となるように、最小限度とすることが好ましい。
【0035】
上記混合水溶液(a)とリチウム水溶液(b)の混合方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、いずれかの原料水溶液に、他方の原料水溶液を添加するシングルジェット法、また、両水溶液を同時に反応系に添加するダブルジェット法を用いることができる。シングルジェット法を用いる場合は、上記混合後の反応水溶液(c)のpHが8〜9となるように調整すればよい。一方、ダブルジェット法では、予めpHを調整した反応系内に上記両水溶液を同時添加するが、一方の水溶液の流量を一定として、除々に反応系内に導入し、pHコントローラで他方の水溶液の流量を調整する方法が、安定した品質のものを得るために好ましい。
【0036】
上記シングルジェット法であれば、アルカリにpH調整され、リチウムが存在する反応系内、すなわちリチウム水溶液(b)に、LiFePOの組成と同じ比率で、鉄とリンが共存する混合水溶液(a)を添加することにより、均一にリン酸の解離が起こり、これと周囲に所定比で共存するリチウムイオンおよび鉄イオンと反応して、均一に目標組成であるLiFePOの平均組成を持つ前駆体が生じる。このような前駆体は、組成が極めて均一であるために、反応性のよいものとなると、考えられる。
また、上記ダブルジェット法においても、一定のpHに制御された反応水溶液中で、上記両水溶液が接触することにより、同様の反応が起こると考えられる。ダブルジェット法は、混合中のpHを常に上記pHの範囲に制御することが可能であり、Fe(POやLiPO等の異相の晶析のおそれがなく、均一に混合されたリチウム鉄リン酸組成物が得られるため、好ましい。上記混合中のpHを常に上記pHの範囲に制御するためには、予め混合前の水溶液のpHを8〜9に制御しておくことが好ましく、pH制御は、水酸化リチウムの添加によって行うことが好ましい。
【0037】
上記晶析時の反応温度は、特に限定されるものではなく、通常は5〜80℃、好ましくは15〜40℃である。反応温度が5℃未満であると、反応水溶液中での鉄の溶解度が低いため、水酸化鉄(Fe(OH))等の異相が晶析することがある。一方、反応温度が80℃を超えると、鉄の酸化が起こり、酸化鉄等の異相が晶析することがある。
また、上記晶析時の雰囲気としては、大気雰囲気でも可能であるが、鉄の酸化が起こりやすく、酸化鉄(FeO)等の異相が晶析することがある。このため、非酸化性雰囲気とすることが好ましく、窒素などの不活性ガス雰囲気中で、反応を行うことがより好ましい。
上記晶析工程に用いられる装置としては、反応を均一に生じさせるため、撹拌装置付の反応槽が好ましく、晶析時の雰囲気制御を可能とするため、密閉構造を有するものとすることがより好ましい。
晶析反応終了後、ろ過、遠心分離などにより、固液分離して、リチウム鉄リン酸組成物を回収する。
【0038】
(2)乾燥工程
乾燥工程では、不純物を除去するため、上記晶析工程で得られたリチウム鉄リン酸組成物を十分に水洗した後、乾燥させる。特に、晶析工程において、pH調整のため、水酸化ナトリウムを用いた場合には、ナトリウム含有量が0.5質量%以下となるまで、水で十分に洗浄することが好ましい。
ここで、上記リチウム鉄リン酸組成物は、微細でかつ非晶質的な構造を持っているため、水洗により、ナトリウムが容易に除去可能である。
【0039】
晶析工程で得られたリチウム鉄リン酸組成物は、乾燥時に酸化しやく、鉄が2価から酸化すると、後工程の熱処理によって、LiFePOを得ることが困難となる。
このため、洗浄後の乾燥は、非酸化性雰囲気中で行う。非酸化性雰囲気中であれば、特に限定されるものではないが、不活性雰囲気中または真空雰囲気中で行うこと好ましい。
また、乾燥温度は、酸化が抑制可能な範囲であればよく、250℃以下とすることが好ましく、100℃以下とすることがより好ましい。一方、35℃未満では、乾燥に時間がかかるため、好ましくない。
【0040】
一方、酸化を抑制できる温度範囲では、大気雰囲気中で乾燥させることも、可能である。大気雰囲気の場合、乾燥温度は、35〜50℃とすることが好ましく、40〜50℃で行うことがより好ましい。35℃未満では、乾燥に時間がかかり、一方、50℃を超えると、2価の鉄の酸化が起こることがある。
また、乾燥工程で用いる装置は、静置式または流動床式等の撹拌式のいずれの乾燥装置でも可能であるが、鉄の酸化を抑制するため、雰囲気制御可能な乾燥装置とすることが好ましい。
【0041】
4.リチウム二次電池用正極活物質の製造法
本発明の正極活物質の製造方法は、上記前駆体を、導電性炭素質材料生成物と混合して、混合物とした後、不活性または還元雰囲気中において、350〜700℃で加熱して、熱処理するものである。
【0042】
リン酸鉄リチウム(LiFePO)は、導電性が低く、リチウム二次電池の正極活物質として、好適なものとするためには、LiFePOの粒子表面を導電性炭素質材料(または導電性炭素材料)で被覆する必要がある。
このため、上記熱処理前に、上記前駆体を、導電性炭素質材料生成物(導電性炭素質材料を生成する物質を意味する。)と混合する。用いる導電性炭素質材料(または炭素材料)生成物としては、前記したように、例えば、天然黒鉛、人工黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維、ショ糖、アスコルビン酸その他、分解によって炭素質を生じる有機化合物等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることができる。この中で、アセチレンブラック、ショ糖は、導電性炭素材料による被覆を容易に形成でき、工業的に入手も容易であるため、特に好ましい。
また、導電性炭素材料に含まれる炭素原子の量は、熱処理により、導電性炭素材料生成物より減少する傾向がある。このため、導電性炭素材料生成物の配合量は、熱処理後に含有される炭素量に対して、質量比で40〜100%多くすることが好ましく、50〜100%多くすることがより好ましい。
【0043】
上記混合は、上記前駆体と導電性炭素質材料生成物が均一に混合されるように、ブレンダー等を用いて、乾式で十分に行うことが好ましい。
【0044】
また、上記前駆体を、熱処理前、すなわち上記混合の前後において、乾式または湿式粉砕することが好ましい。粉砕することによって、その後の熱処理で得られる正極活物質がより微細となるとともに、微細なLiFePOの粒子表面を、導電性炭素材料で均一に被覆することができるため、電池の正極材に用いられた場合における放電容量を向上させることができる。導電性炭素材料で均一に被覆させるためには、上記混合後に粉砕を行うか、または混合と粉砕を同時に行うことがより好ましい。
上記粉砕は、容器中に上記前駆体または混合物とボール、ビーズ等の粉砕媒体を入れ、該媒体同士を衝突させることで、主として該媒体の剪断・摩擦作用によって行うことが好ましい。粉砕媒体を用いた混合により、混合と粉砕を同時に行うことができる。
用いることができる粉砕機としては、転動ボールミル、振動ミル、遊星ミル、媒体攪拌ミルなどせん断力を有する粉砕機が好ましい。このような装置としては、市販されているものを利用することができる。
【0045】
上記粉砕媒体の粒径は、1〜15mmであると、粉砕が十分に行えるため、好ましい。また、該媒体の材質は、ジルコニア、アルミナのセラミックであることが、硬度が高く、耐摩耗性が高いこと及び被砕物の金属汚染を防止することができることから、好ましい。
また、前記粉砕媒体は、空間容積50〜90%で容器内に粉砕媒体を収納し、流動媒体による剪断力と摩擦力を適切に管理するため、粉砕機の運転条件を適宜調整して、粉砕処理することが好ましい。
【0046】
さらに、本発明の正極活物質の製造方法においては、必要に応じて、上記熱処理前に上記混合物を加圧成形処理して、更に、前駆体と導電性炭素質材料生成物の接触面積を高めると、放電容量とサイクル特性をより向上させることができる。加圧成形処理のプレス成形機は、ハンドプレス、打錠機、ブリケットマシン、ローラコンパクター等を好適に使用できるが、材料のプレスが可能であるものであれば、特に制限はなく、用いることができる。
【0047】
次いで、上記前駆体と導電性炭素質材料生成物の混合物を熱処理する。熱処理温度は、350〜700℃、好ましくは450〜650℃である。
本発明の正極活物質の製造方法において、この熱処理温度を上記範囲とすることにより、得られる正極活物質を用いたリチウム二次電池は、放電容量及び充電サイクル特性を向上させることができる。熱処理温度が350℃未満では、結晶構造が十分に発達せず、一方、700℃を超えると、焼結が進行して、粒子成長が起こり、粗大粒子となる。
【0048】
また、熱処理時間は、2〜20時間とすることが好ましく、5〜10時間とすることがより好ましい。熱処理は、鉄の酸化を抑制するため、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中または水素や一酸化炭素等の還元雰囲気中のいずれかで行うが、操作時の安全性の面で、窒素、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。また、これらの熱処理は、必要により、複数回に分けて行うことができる。
【0049】
上記熱処理後は、適宜冷却し、必要に応じて、さらに粉砕または分級することにより、微細なLiFePOの粒子表面を導電性炭素材料で均一に被覆した正極活物質を得ることができる。
なお、鉄の酸化を抑制するため、上記冷却は、上記不活性ガス雰囲気または還元雰囲気中で行うことが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明の実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例で用いた原材料は、市販の試薬特級を用い、試料の分析および評価は、以下の方法により行った。
【0051】
(1)元素金属の分析:
ICP発光分析装置(VARIAN社、725ES)を用いて、ICP発光分析法により分析した。
(2)X線回折:
粉末X線回折装置(PANALYTICAL社製、X‘Pert PRO MRD)を用いて、Cu−Kα線による粉末X線回折で測定した。
(3)平均粒径:
電子顕微鏡観察により、50個の一次粒子の粒径を測定して個数で平均することにより求めた。
(4)炭素(C)含有量:
炭素分析計(LECO社製)を用いて測定した。
【0052】
(前駆体の合成)
[実施例1]
硫酸第一鉄7水和物(FeSO・7HO)278g(1モル)と80質量%リン酸(HPO)115g(1モル)を水1Lに溶解させ、混合水溶液(a)を作製した。一方、水酸化リチウム24g(1モル)を水1Lに溶解してリチウム水溶液(b)を作製した。
窒素雰囲気中に設置した反応槽内に純水を入れ、水酸化リチウムを添加して、pH8.5になるように調整した後、上記混合水溶液(a)を20ml/分の速度で滴下しながら、pH8.5を保持するように、上記リチウム水溶液(b)を添加することにより、反応水溶液(c)中で反応させてリチウム鉄リン酸組成物の晶出物を得た。
次に、ろ過して上記リチウム鉄リン酸組成物を回収し、これを純水2Lで入念に洗浄した。さらに、洗浄後の上記リチウム鉄リン酸組成物を、真空中60℃で12時間乾燥し、前駆体155gを得た(収率98%)。
得られた前駆体のLi、Fe、Pのモル比は、1.0:1.0:1.0であった。また、得られた前駆体をX線回折で分析したところ、ブロードなピークが認められたが、ピークが示す物質の特定は困難であった。
【0053】
[実施例2]
実施例1と同様に、混合水溶液(a)とリチウム水溶液(b)を作製した。
次に、リチウム水溶液(b)に混合水溶液(a)を20ml/分の速度で滴下して、反応水溶液(c)を形成し、pHが8になった時点で、1mol%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、反応水溶液(c)のpHが8.1になるように維持しながら、混合水溶液(a)の添加を終了し、リチウム鉄リン酸組成物の晶析物を得た。
次に、ろ過して上記リチウム鉄リン酸組成物を回収し、これを純水2Lで入念に洗浄した。さらに、洗浄後の上記リチウム鉄リン酸組成物を、真空中60℃で12時間乾燥し、前駆体153gを得た(収率98%)。
得られた前駆体のLi、Fe、Pのモル比は、0.98:1.0:1.0であった。また、得られた乾燥品をX線回折で分析したところ、ブロードなピークが認められたが、ピークが示す物質の特定は困難であった。なお、前記前駆体のナトリウム含有量を原子吸光法で測定したところ、0.1質量%以下であることが確認された。
【0054】
[比較例1]
晶析時の反応水溶液(c)のpHを11.6に制御した以外は、実施例1と同様にして、前駆体を得た。
得られた晶析物をX線回折で分析したところ、Feの酸化物に由来するピークが検出された。
【0055】
[比較例2]
水酸化ナトリウム水溶液を滴下せず、晶析時の反応水溶液(c)のpHを6.5に制御した以外は、実施例2と同様にして、前駆体124gを得た(収率88%)。
得られた前駆体の分析を行ったところ、Liは、検出下限(<0.1質量%)以下で含有されておらず、また、FeとPのモル比が59.8:40.2と、約3:2となった。X線回折から、前駆体は、Fe(PO・n(HO)であることが確認された。
また、これについては、従来法に従って、LiPOとの混合による正極活物質の合成を試みた(比較例5、6)。
【0056】
(正極活物質の合成)
[実施例3]
実施例1で得られた前駆体300gと平均粒径0.05μmのケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製、商品名ECP)30gおよびジルコニアボール(粒径5mm)200gを2Lポリ容器へ入れ、シェーカーミキサーで振動させることにより、混合と粉砕を同時に行うことで、混合物を得た。
次に、得られた混合物を、窒素−2容量%水素雰囲気中500℃で5時間熱処理し、該雰囲気中で冷却することにより、ケッチェンブラックで被覆されたLiFePOからなる正極活物質を得るとともに評価した。粉砕、分級は行わなかった。
得られた正極活物質の主物性を表1に示す。
【0057】
[実施例4]
実施例1で得た前駆体500gと100gのショ糖およびジルコニアボール(粒径5mm)200gを混合した以外は、実施例3と同様にして、炭素で被覆されたLiFePOからなる正極活物質を得るとともに評価した。粉砕、分級は行わなかった。
得られた正極活物質の主物性を表1に示す。
【0058】
[比較例3]
実施例1で得た前駆体500gと100gのショ糖をおよびジルコニアボール(粒径5mm)200gを混合したこと、並びに熱処理温度を800℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、炭素で被覆されたLiFePOからなる正極活物質を得るとともに評価した。粉砕、分級は行わなかった。
得られた正極活物質の主物性を表1に示す。
【0059】
[比較例4]
実施例1で得た前駆体500gと100gのショ糖およびジルコニアボール(粒径5mm)200gを混合したこと、熱処理温度を325℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、炭素で被覆されたLiFePOからなる正極活物質を得るとともに評価した。
X線回折より、LiFePO以外に、Fe(POおよびLiPOが検出され、目的合成物であるLiFePOの単相が得られなかった。粉砕、分級は行わなかった。
得られた正極活物質の主物性を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
[比較例5]
比較例2で得られたFe(POを180gとLiPO(高純度化学製)58gおよびジルコニアボール(粒径5mm)50gを、500ccポリ容器へ入れて混合したこと、熱処理温度を700℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、LiFePOからなる正極活物質を得た。
【0062】
[比較例6]
比較例2で得られたFe(POを180gとLiPO(高純度化学製)58g、ケッチェンブラック24gおよびジルコニアボール(粒径5mm)50gを、500ccポリ容器に入れて混合した以外は、実施例3と同様にして、ケッチェンブラックで被覆されたLiFePOからなる正極活物質を得るとともに評価した。
X線回折より、ケッチェンブラックを加えた場合では、原料であるFe(POおよびLiPOが検出され、目的合成物であるLiFePOの単相が得られなかった。
これは、従来の製造方法で炭素導電材料を加えると、熱処理時の原料の反応を阻害してしまうと、考えられる。
【0063】
(電池評価)
上記のように調製した実施例3〜4および比較例3〜6で得られた正極活物質を真空乾燥し、重量比で、この正極活物質50質量%、黒鉛粉末33質量%、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)17質量%を混合して、正極剤とし、プレスして正極膜(正極板)を作製した。
この正極板を用いて、グローブボックス内でコイン型セル2032を作製した。
この際、負極は、金属リチウム箔を用い、また、電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの容積比1:1の等量混合液1リットルにLiClO1モルを溶解したものを使用した。
作製したリチウム二次電池を室温において、充電0.2mA/cm、休止60分、4.5V、放電0.2mA/cm、1.5Vで作動させ、初期放電容量および10サイクル後の放電容量を測定した。
得られた電池評価結果を表2にまとめて示す。
【0064】
表2の結果より、本発明の正極活物質は、LiFePOの理論放電容量(170mAh/g)に近い値を示し、極めて高い放電容量のリチウム二次電池が得られた。
一方、高温熱処理により、正極活物質粒子が粗大化した比較例3では、導電性が低いため、放電容量が低い。
また、熱処理温度の低い比較例4では、容量が著しく低くなっており、良好な結晶構造が得られていないと、考えられる。
また、Fe(POとLiPOを用いて、従来法で得られた炭素系材料を添加しない比較例5の電池容量は、低い。
また、比較例5において、さらに、混合時にケッチェンブラックを添加した比較例6では、オリビン単相構造になっておらず、電池容量は、低くなっている。
【0065】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、均一微細なオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)粒子からなり、本発明の正極活物質を用いた正極により構成される電池は、LiFePOの理論放電容量に近い値を示し、優れた特性を示すものとなるので、産業上の利用可能性は、高い。
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、有毒物質を用いずに容易に高収率で上記正極活物質が得られるものであり、その工業的価値は、極めて大きい。