【実施例】
【0040】
[実施例1]
炭酸リチウム0.515mol、四酸化三コバルト0.327mol、炭酸マグネシウム0.01mol、酸化アルミニウム0.005mol、酸化ジルコニウム0.4×10
−3mol、重合度約11のポリリン酸アンモニウム(太平化学産業株式会社製タイエンP、窒素約16%、リン約30%含有)9.09×10
−4molを混合機で混合した。得られた原料混合物において、リン酸塩化合物はポリリン酸アンモニウムの形態で存在していた。次いで、この原料混合物を大気雰囲気中900℃で8時間焼成した。得られた焼成品を粉砕し、乾式篩を通し、一般式Li
1.0Co
0.9796Mg
0.01Al
0.01Zr
0.0004O
2で表されるコバルト酸リチウム粒子と、リン酸リチウムを含有する表面部とを含む正極活物質を得た。表面部のリン酸リチウムは、コバルト酸リチウム粒子1molに対して0.01molである。
【0041】
[比較例1]
炭酸リチウム0.515mol、四酸化三コバルト0.327mol、炭酸マグネシウム0.01mol、酸化アルミニウム0.005mol、酸化ジルコニウム0.4×10
−3molを混合機で混合し、大気中900℃で8時間焼成した。得られた焼成品を粉砕し、乾式篩を通し、一般式Li
1.0Co
0.9796Mg
0.01Al
0.01Zr
0.0004O
2で表されるコバルト酸リチウム粒子からなる正極活物質を得た。
【0042】
[比較例2]
炭酸リチウム0.515mol、四酸化三コバルト0.327mol、炭酸マグネシウム0.01mol、酸化アルミニウム0.005mol、酸化ジルコニウム0.4×10
−3mol、リン酸リチウム0.01molを混合機で混合した。得られた原料混合物において、リン酸塩化合物はリン酸リチウムの形態で存在していた。次いで、この原料混合物を大気雰囲気中900℃で12時間焼成した。得られた焼成品を粉砕し、乾式篩を通し、一般式Li
1.0Co
0.9796Mg
0.01Al
0.01Zr
0.0004O
2で表されるコバルト酸リチウム粒子と、リン酸リチウムを含有する表面部とを含む正極活物質を得た。表面部のリン酸リチウムは、コバルト酸リチウム粒子1molに対して0.01molである。
【0043】
[正極の作製]
実施例1並びに比較例1及び2の正極活物質を用いて、以下の手順で正極を作製した。
正極活物質90重量部と、アセチレンブラック5.0重量部と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5.0重量部とをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを、集電体としてのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥後プレス機で圧縮成形して正極極板を得た。この極板を、サイズが
15cm
2となるように裁断して正極を得た。塗布された正極活物質層の重量は、正極1枚当たり約0.35gであった。
【0044】
[負極の作製]
以下に示す手順で負極を作製した。
天然黒鉛97.5重量部と、カルボキシメチルセルロース(CMC)1.5重量部と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1.0重量部とを純水に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを、集電体としての銅箔の片面に塗布し、乾燥後プレス機で圧縮成形して負極極板を得た。この極板を、サイズが16.64cm
2となるように裁断して負極を得た。塗布された負極活物質層の重量は、負極1枚当たり約3.3gであった。
【0045】
[電解液の調製]
以下に示す手順で電解液を作製した。
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とを体積比率3:7で混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を濃度1mol/Lになるように溶解させて、電解液を調製した。
【0046】
[電池の組み立て]
実施例1並びに比較例1及び2の正極活物質の各々から作製した上述の各正極を用いて、以下に示す手順で非水電解液二次電池を組み立てた。
正極および負極の集電体に各々リード電極を取り付けたのち、正極と負極との間にセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。次いで、これを60℃で
真空乾燥させて、各部材に吸着した水分を除去した。その後、アルゴン雰囲気下でラミネートパック内に電解液を注入し、封止した。こうして得られた電池を25℃の恒温槽に入れ、微弱電流でエージングを行い、正極及び負極に電解質を十分なじませた。
【0047】
[コバルト溶出量測定]
実施例1並びに比較例1及び2に係る電池の各々について、以下に示す手順でコバルト溶出量の測定を行った。
各電池を25℃の恒温槽に入れ、充電電位4.4V−充電電流0.2C(なお、1Cは1時間で放電が終了する電流負荷を意味する)、充電時間12時間の条件で満充電を行った。充電完了後、各電池を60℃に設定した恒温槽において15時間静置させた。
【0048】
次に、電池から負極を取り出した。取り出した負極を純水中に投入することによって、銅箔から負極活物質層を剥離させた。この負極活物質層を含有する水溶液に塩酸を加えた。ICP発光分光分析機を用いて水溶液中のコバルトの含有量を測定し、その値をコバルト溶出量とした。結果を表1に示す。溶出コバルトの量が少ないほど、高温保存特性が良好であるといえる。
【0049】
【表1】
【0050】
[サイクル特性試験]
実施例1並びに比較例1及び2の各電池について、充電容量及び放電容量を以下の様にして繰り返し測定して、サイクル特性試験を行った。
45℃に設定した恒温槽に各電池を接続し、充電電位4.4V−充電電流1.0Cで定電流にて充電した後、放電電位2.75V−放電電流1.0Cにて放電し、この充放電を1サイクルとして200サイクルの充放電を行った。試験結果を表1および
図1に示す。容量低下率が小さいほど、サイクル特性が良好であるといえる。
【0051】
表1及び
図1より、実施例1の電池は、リン酸リチウムを含有する表面部を有しない比較例1の電池と比較して、溶出コバルト量が低減していることがわかる。一方、比較例2の電池は、実施例1の電池と同等の溶出コバルト量を示した。このことから、原料混合物におけるリン酸塩化合物の存在形態に関係なく、コバルト酸リチウム粒子の表面にリン酸リチウムを含有する表面部を形成することにより、正極活物質からのコバルトの溶出を抑制し得ることがわかる。
しかし、実施例1の電池が200サイクル後に88%の高い容量維持率を示したのに対し、比較例2の電池の容量維持率は30%以下であった。このことから、原料混合物においてリン酸塩化合物がリチウムを含まないリン酸塩の形態で存在していた場合にのみ、サイクル特性が向上することが分かる。なお、リン酸リチウムを含有する表面部を有しない比較例1の電池は、200サイクル後において実施例1と同等の容量維持率を示した。