(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物の実施の形態について詳細に説明する。
本明細書においては、数平均分子量をMnと、質量平均分子量をMwと、分子量分布をMw/Mnと記す。
なお、本明細書における質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、CF
2ClCF
2CHClF(旭硝子社製、商品名:AK225cb、以下、AK225cbという。)を溶媒として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりPMMA(ポリメチルメタクリレート)換算分子量として算出したものを意味する。
なお、本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物の硬化物を、特に言及しない限り、単に硬化物ともいう。
【0013】
[含フッ素硬化性樹脂組成物]
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物は、重合性二重結合を有するフルオロポリマー(P)とチオール化合物(S)とを含む。該フルオロポリマー(P)は、フルオロモノエン(a)および不飽和側鎖残存性のフルオロジエン(b)に由来する繰り返し単位を有する共重合体であり、該フルオロポリマー(P)の100質量部に対して該チオール化合物(S)を0.01〜1質量部含む。
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物はさらに、必要に応じて重合性化合物(Y)、硬化のための硬化剤または光開始剤、その他の添加物が添加されていてもよい。
【0014】
[フルオロポリマー(P)]
本発明のフルオロポリマー(P)は、重合性二重結合(炭素−炭素二重結合)を有する。フルオロポリマー(P)は重合性二重結合を分子内に有することで、光または熱により重合性二重結合が架橋して硬化することができる。
【0015】
本発明のフルオロポリマー(P)は、フルオロモノエン(a)に由来する繰り返し単位と、不飽和側鎖残存性のフルオロジエン(b)(以下、単にフルオロジエン(b)という。)に由来する繰り返し単位とを有する。
【0016】
(フルオロモノエン(a))
フルオロモノエン(a)は、分子内に重合性二重結合を1つ有する含フッ素化合物である。
フルオロモノエン(a)としては、たとえば、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン等のフルオロエチレン類や、ヘキサフルオロプロピレン、CF
2=CFO−Rf(式中、Rfは炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す。なお、フルオロアルキル基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるフルオロビニルエーテル、下記式(a−1)、下記式(a−2)に示す環状フルオロモノマー等が挙げられる。中でも、CF
2=CFO−Rf(式中、Rfは炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す。なお、フルオロアルキル基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるフルオロビニルエーテルをフルオロモノエン(a)として用いると、得られるフルオロポリマー(P)の粘度が低減し、また、得られる硬化物の柔軟性が高くなるので、ハイパワーLED用透光性封止材等として有用である。また、環状フルオロモノマーをフルオロモノエン(a)として用いると、硬化物のガラス転移温度が上昇して硬度が高くなり、レンズ等として有用である。
【0017】
フルオロモノエン(a)としては、熱安定性の点から、ペルフルオロモノマーが好ましく、テトラフルオロエチレンがより好ましい。特にテトラフルオロエチレンをフルオロモノエン(a)として用いる場合に、フルオロポリマー(P)は、流動性および熱安定性に最も優れる。また、テトラフルオロエチレンと、CF
2=CFO−Rf(式中、Rfは炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す。なお、フルオロアルキル基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるフルオロビニルエーテルとを併用することも流動性をさらに高める点でより好ましい。より好ましくは、テトラフルオロエチレンと、CF
2=CFO−Rf
1(式中、Rf
1は炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基を表す。なお、ペルフルオロアルキル基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるペルフルオロビニルエーテルとの併用である。また、フルオロモノエン(a)としてクロロトリフルオロエチレンを用いた場合には、屈折率を高めることができる。一定量のクロロトリフルオロエチレンを用いることで、屈折率を0.03〜0.1程度高めることができる。これによりLEDの光取り出し効率が向上する。
テトラフルオロエチレンを用いる場合、フルオロモノエン(a)に由来する繰り返し単位とフルオロジエン(b)に由来する繰り返し単位との合計量に対して、テトラフルオロエチレンに由来する繰り返し単位の割合は、1〜80モル%であることが好ましく、50〜70モル%が特に好ましい。上記範囲であると硬化物の熱安定性および透明性、フルオロポリマー(P)の流動性が良好である。
テトラフルオロエチレンとCF
2=CFO−Rf
1とを併用する場合、両者に由来する繰り返し単位の合計量に対するCF
2=CFO−Rf
1に由来する繰り返し単位の割合は、1〜49モル%であることが好ましく、10〜40モル%であることが特に好ましい。
【0018】
【化1】
式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立にフッ素原子またはOCF
3基であり、R
3およびR
4はそれぞれ独立にフッ素原子またはCF
3基である。また、R
5およびR
6はそれぞれ独立にフッ素原子、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基またはペルフルオロ(アルコキシアルキル)基である。
【0019】
(フルオロジエン(b))
フルオロジエン(b)は、分子内に重合性二重結合を2つ有する含フッ素化合物である。2つの重合性二重結合のうちの少なくとも一部が重合反応に寄与せず、重合後も二重結合のまま残存する化合物である。すなわち、フルオロジエン(b)の一方の重合性二重結合における2つの炭素原子は重合後に主鎖を形成する。もう一方の重合性二重結合のうち少なくとも一部は重合反応に寄与せず、フルオロポリマー(P)中に重合性二重結合を有する不飽和側鎖を形成させる。フルオロジエン(b)を用いることにより、フルオロポリマー(P)中に不飽和側鎖が残存するため、この不飽和側鎖を利用した硬化反応により硬化物が得られる。
フルオロジエン(b)としては、炭素原子とフッ素原子のみから構成されるか、または炭素原子とフッ素原子と酸素原子のみから構成されるペルフルオロジエンが挙げられる。また、前記ペルフルオロジエンの1つもしくは2つのフッ素原子が水素原子で置換されたフルオロジエンが挙げられる。フルオロジエン(b)は、熱安定性の点から、ペルフルオロジエンであることが好ましい。流動性と熱安定性の点から、炭素原子とフッ素原子と酸素原子のみから構成されるペルフルオロジエンであることがさらに好ましい。
【0020】
フルオロジエン(b)は、2つの重合性二重結合を連結する連結鎖の原子数が5〜10であることが好ましく、5〜8であることがより好ましい。
前記連結鎖の原子数が上記範囲の下限値以上であれば、重合反応時にこれら2つの重合性二重結合が反応して分子内環化が起こることを抑えて、フルオロポリマー(P)中に重合性二重結合を有する不飽和側鎖を残存させやすい。また、前記連結鎖の原子数が上記範囲の上限値以下であれば、硬化前に各々のフルオロポリマー(P)の側鎖に残存した重合性二重結合により架橋反応が起こり、フルオロポリマー(P)の高分子量化やゲル化が生じてしまうことを防ぎやすい。これにより、含フッ素硬化性樹脂組成物を硬化させる前の流動性が著しく低下することを防止できる。また、連結鎖の長すぎるフルオロジエン(b)は、それ自体を合成し、高純度に精製することが容易でない。
【0021】
フルオロジエン(b)は、分子内に脂肪族環構造を有するフルオロ環状ジエンであってもよく、脂肪族環構造を有さないフルオロ非環状ジエンであってもよい。中でも、フルオロジエン(b)は、硬化物に柔軟性を付与する効果が大きい点、流動性が低下しすぎない点から、脂肪族環構造を有さないフルオロ非環状ジエンであることが好ましい。
【0022】
<フルオロ非環状ジエン>
フルオロ非環状ジエンは、前記のような脂肪族環構造を有さない化合物である。また、2個の重合性二重結合を連結する連結鎖は、流動性が低下しすぎることを防ぐ点から、環構造を有さない直鎖構造であることが好ましい。
フルオロ非環状ジエンとしては、下記式に示す化合物が好ましい。
CF
2=CFO−Q
F1−OCF=CF
2
CF
2=CFOCH
2−Q
F2−CH
2OCF=CF
2
CH
2=CFCF
2O−Q
F3−OCF
2CF=CH
2
CH
2=CFCF
2O−Q
F4−OCF=CF
2
ただし、式中、Q
F1、Q
F2、Q
F3およびQ
F4は、それぞれ独立に、フルオロアルキル基の側鎖を有していてもよいフルオロアルキレン基である。なお、該フルオロアルキレン基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。Q
F1およびQ
F3が表すフルオロアルキレン基における炭素原子数は3〜8、好ましくは3〜6である。Q
F2が表すフルオロアルキレン基における炭素原子数は2〜6、好ましくは2〜4である。Q
F4が表すフルオロアルキレン基における炭素原子数は1〜6、好ましくは2〜5である。
上記のうち、フルオロポリマー(P)の合成の際に重合性二重結合を側鎖に残すために適度な重合性を有する点、また硬化物の熱安定性の点で、CF
2=CFO−Q−OCF=CF
2(式中、Qは炭素数が3〜8のフルオロアルキレン基を表す。好ましくは、炭素数が3〜6のフルオロアルキレン基である。なお、フルオロアルキレン基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で示される化合物がより好ましい。CF
2=CFO−Q
1−OCF=CF
2(式中、Q
1は炭素数が3から8のペルフルオロアルキレン基を表す。好ましくは、炭素数が3から6のペルフルオロアルキレン基である。なお、ペルフルオロアルキレン基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で示される化合物が特に好ましい。
【0023】
前記フルオロ非環状ジエンの具体例としては、下記式に示す化合物が挙げられる。
CF
2=CFO(CF
2)
4OCF=CF
2
CF
2=CFO(CF
2)
5OCF=CF
2
CF
2=CFO(CF
2)
6OCF=CF
2
CF
2=CFO(CF
2)
4OCF(CF
3)CF
2OCF=CF
2
CF
2=CFOCH
2(CF
2)
2CH
2OCF=CF
2
CF
2=CFOCH
2(CF
2)
4CH
2OCF=CF
2
CH
2=CFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF=CF
2
CH
2=CFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF=CF
2
これらフルオロジエン(b)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
<フルオロ環状ジエン>
フルオロ環状ジエンは、脂肪族環構造を1つまたは2つ有する化合物である。フルオロ環状ジエンにおける脂肪族環構造は、炭素原子のみから構成されるか、または炭素原子と酸素原子とから構成される。脂肪族環構造を構成する原子数は4〜8であることが好ましく、5または6であることがより好ましい。特に好ましい脂肪族環構造は、1つまたは2つの酸素原子を含む5員環または6員環である。
フルオロ環状ジエンが脂肪族環構造を2つ有する場合は、それらの脂肪族環同士は単結合や2価以上の連結基で連結されていてもよく、縮合(1個の炭素結合を共有する場合も含む。)していてもよい。前記連結基としては、たとえば、酸素原子、ペルフルオロアルキレン基(炭素原子数8以下が好ましい。)、一方もしくは両方の末端、または炭素原子間にエーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキレン基(炭素原子数8以下が好ましい。)等が挙げられる。
【0025】
脂肪族環構造を構成する炭素原子には、フッ素原子以外の置換基が結合していてもよい。置換基としては、炭素原子数15以下のペルフルオロアルキル基、炭素原子間に1つ以上のエーテル性酸素原子を有する炭素原子数15以下のペルフルオロアルキル基、炭素原子数15以下のペルフルオロアルコキシ基、炭素原子間に1つ以上のエーテル性酸素原子を有する炭素原子数15以下のペルフルオロアルコキシ基等が好ましい。
【0026】
フルオロ環状ジエンが有する2つの重合性二重結合のうち、少なくとも1つの重合性二重結合における一方または両方の炭素原子は、前記脂肪族環構造を構成する炭素原子である。すなわち、フルオロ環状ジエンでは、前記脂肪族環構造を構成する隣接する炭素原子間において重合性二重結合が形成されているか、または前記脂肪族環構造を構成する1つの炭素原子と該炭素原子に結合する炭素原子との間に重合性二重結合が形成されている。フルオロ環状ジエンが脂肪族環構造を2つ有する場合は、2つの重合性二重結合はそれぞれの脂肪族環構造が有する。
【0027】
フルオロ環状ジエンの全炭素原子数は、その沸点や得られる硬化物の熱安定性の観点から、8〜24であることが好ましく、10〜18であることがより好ましい。
また、フルオロ環状ジエンとしては、前記脂肪族環構造を2つ有し、その脂肪族環のそれぞれが重合性二重結合を有する化合物であることが好ましく、ペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造を2つ有する化合物がより好ましい。また、下記式(b−1)に示す、ペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造を2つ有し、それらの脂肪族環同士を、4位を連結位として単結合や2価の連結基で結合した化合物(以下、化合物(b−1)という。)、または下記式(b−2)に示すペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造を2つ有し、それらの脂肪族環同士を、4位および5位を連結位として単結合や2価の連結基で結合した化合物であることがさらに好ましく、化合物(b−1)が特に好ましい。
また、その他のフルオロ環状ジエンとしては、下記式(b−3)に示す化合物が挙げられる。
【0028】
【化2】
式中、Q
F5は、単結合、酸素原子、またはエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素原子数1〜10のペルフルオロアルキレン基のいずれかである。また、Q
F6およびQ
F7は、それぞれ独立に、単結合、酸素原子、またはエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素原子数1〜5のペルフルオロアルキレン基である。
【0029】
化合物(b−1)に由来する繰り返し単位において側鎖に残存した重合性二重結合は、ラジカル重合性が高い。そのため、含フッ素硬化性樹脂組成物の硬化反応の際に充分に反応することができ、得られる硬化物中に重合性二重結合を有する側鎖が残存してしまうことが抑えられることから、硬化物の熱安定性が向上する。
化合物(b−1)の具体例としては、下記式に示す化合物が挙げられる。化合物(b−1)は、国際公開第2005/085303号に記載された方法により製造することが好ましい。
【0031】
好ましいフルオロポリマー(P)の例としては、以下が挙げられる。
テトラフルオロエチレンと、
CF
2=CFO−Rf
1(式中、Rf
1は炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基を表す。なお、ペルフルオロアルキル基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるペルフルオロエーテル類の少なくとも1種と、
CF
2=CFO−Q
1−OCF=CF
2(式中、Q
1は炭素数が3〜8のペルフルオロアルキレン基を表す。なお、ペルフルオロアルキレン基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるペルフルオロジエンの少なくとも1種と、の共重合体。
【0032】
フルオロジエン(b)に由来する繰り返し単位の割合は、フルオロモノエン(a)に由来する繰り返し単位とフルオロジエン(b)に由来する繰り返し単位との合計量に対して、1〜95モル%であることが好ましく、1〜30モル%がより好ましく、5〜15モル%が特に好ましい。上記範囲の下限値以上であると、架橋が充分で硬化物の熱安定性が良好になる。上記範囲の上限値以下であると、重合性二重結合を有する側鎖が残存してしまうことが抑えられることから、硬化物の熱安定性が良好になる。
【0033】
(フルオロポリマー(P)の合成)
以上のように、フルオロモノエン(a)とフルオロジエン(b)とを共重合させることにより、フルオロジエン(b)に由来する繰り返し単位の少なくとも一部に、重合性二重結合を有する不飽和側鎖が残存している共重合体であるフルオロポリマー(P)が得られる。
例えば、フルオロジエン(b)として、CF
2=CF−O−(CF
2)
4−O−CF=CF
2を使用した場合、フルオロポリマー(P)は、下記式に示す繰り返し単位を少なくとも有する。
【0035】
フルオロポリマー(P)は、前記フルオロモノエン(a)と前記フルオロジエン(b)とを共重合させることにより得られる。フルオロモノエン(a)とフルオロジエン(b)とを共重合させる重合方法は特に限定されず、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、塊状重合等の公知の重合方法を採用することができる。溶媒で希釈した状態で重合でき、側鎖に残存する重合性二重結合による分子間の架橋反応を抑制できる点から、溶液重合が特に好ましい。
溶液重合は、重合溶媒中で、重合開始剤に、前記フルオロモノエン(a)と前記フルオロジエン(b)とを添加して共重合させる重合方法である。また連鎖移動剤を添加してもよい。
溶液重合における重合媒体としては、生成するフルオロポリマー(P)が溶解できる含フッ素溶媒であることが好ましい。含フッ素溶媒としては、例えば、ジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC−225)、CF
3CH
2CF
2H(HFC−245fa)、CF
3CF
2CH
2CF
2H(HFC−365mfc)、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、ペルフルオロ(トリブチルアミン)、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2H、CF
3CH
2OCF
2CF
2H、CF
3CH
2OCH
2CF
3、CF
3CF
2OCF
2CF
2OCF
2CF
3等が挙げられる。
【0036】
また、フルオロポリマー(P)の合成方法においては、フルオロモノエン(a)とフルオロジエン(b)の全使用量を一度に反応させずに、その全使用量のうちの一部を予め反応容器内に投入して重合反応を開始させ、重合反応の進行中に残りのフルオロモノエン(a)およびフルオロジエン(b)を逐次添加しながら重合させる工程を含む製造方法が特に好ましい。これにより、得られるフルオロポリマー(P)の分子量分布および組成分布を狭くすることができ、フルオロポリマー(P)中の分子量1,000未満の低分子量成分の含有量を10質量%未満にすることが容易になり、フルオロポリマー(P)の収率が向上する。また、フルオロポリマー(P)中には、重合性化合物である低分子量成分以外に、特にフルオロジエン(b)含量が少なく、実質的に重合性化合物とならない成分が含まれるが、このような化合物を低減することが容易になる。
【0037】
フルオロポリマー(P)の合成方法における、フルオロモノエン(a)とフルオロジエン(b)とのモル比は、40:60〜95:5であることが好ましい。また、フルオロモノエン(a)としてフルオロエチレン類を用いる場合、フルオロエチレン類とフルオロジエンのモル比は50:50〜95:5であることがより好ましく、70:30〜95:5であることが特に好ましい。フルオロエチレン類の仕込み割合が大きくなりすぎると、フルオロポリマー(P)の分子量が高くなりすぎて流動性が低下する。また、得られる硬化物の透明性が低下する傾向がある。
【0038】
<重合開始剤>
重合反応に用いる重合開始剤としては、10時間半減温度が20〜120℃の有機過酸化物の多くが使用可能であるが、重合開始剤中の水素原子の引き抜き反応による反応率の低下が起きることを防ぐ点から、含フッ素ジアシルペルオキシド等の含フッ素過酸化物を用いることが好ましい。
反応溶液中の重合開始剤の濃度は、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましい。
また、重合温度は、開始剤の10時間半減温度とモノマーの重合速度によっても異なるが、20〜120℃が好ましく、40〜90℃がより好ましい。
【0039】
<連鎖移動剤>
重合反応においては、連鎖移動剤を用いることが好ましい。
連鎖移動剤としては、例えば、CCl
4、CH
3Cl、SO
2Cl
2、CHFCl
2等の塩素化合物、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、ジエチルエーテル等の炭化水素化合物が挙げられる。なかでも、連鎖移動効率が高く、高収率でフルオロポリマー(P)が得られる点から、SO
2Cl
2が好ましい。
連鎖移動剤の使用量は、連鎖移動定数によっても異なるが、SO
2Cl
2を用いた場合、フルオロモノエン(a)とフルオロジエン(b)との混合物の合計量に対し、モル比で0.001〜0.1であることが好ましく、0.001〜0.05であることがより好ましい。前記モル比が上記範囲の下限値以上であれば、ポリマーの分子量が高くなりすぎない。また、前記モル比が上記範囲の上限値以下であれば、フルオロポリマー(P)の分子量が低下しすぎない。
【0040】
(フルオロポリマー(P)の精製)
得られたフルオロポリマー(P)を含フッ素硬化性樹脂組成物に用いる場合には、分子量が1,000未満の低分子量成分を除去するのが好ましい。
フルオロポリマー(P)中の重合性二重結合は、硬化反応に用いられた際に一般に体積収縮を伴うことが知られている。分子量が1,000未満の低分子量成分を除去すると、フルオロポリマー(P)の単位体積あたりの重合性二重結合の割合が少なくなるので、得られる硬化物の体積収縮が抑えられかつ寸法安定性が向上すると考えられる。
【0041】
分子量が1,000未満の低分子量成分の除去方法としては、フルオロポリマー(P)を減圧下に加熱し除去する方法、超臨界二酸化炭素によりフルオロポリマー(P)から低分子量成分を抽出する方法、フルオロポリマー(P)の溶液を貧溶媒中に投入し、分子量が1,000以上のフルオロポリマー(P)を沈殿させ、沈殿しない低分子量成分を除去する方法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、低分子量成分を分割し除去する方法等が挙げられる。好ましい低分子量成分の除去方法は、減圧下に加熱し除去する方法である。
【0042】
減圧下に加熱することにより分子量が1,000未満のものを除去する条件として、圧力は1〜100hPaが好ましく、1〜20hPaがより好ましく、1〜10hPaが特に好ましい。温度は、100〜150℃が好ましく、120〜150℃が特に好ましい。圧力は低い(真空度が高い)ほど良いが、装置サイズが大きくなるにつれ、圧力を低くすることは一般的に容易ではない。温度が上記範囲の下限値以上であると、低分子量成分の除去に長い時間を要しない。また、温度が上記範囲の上限値以下であると、加熱中にゲル化反応が生じない。
【0043】
より好ましい実施態様としては、減圧下に加熱する方法を用いて、フルオロポリマー(P)に含有される低分子量体の含有量を低下させた後に、更に超臨界状態にある抽出溶媒を用いて低分子量体を除去する方法である。
フルオロポリマー(P)を超臨界状態にある抽出溶媒と接触させた後にフルオロポリマー(P)と抽出溶媒を分離することで、フルオロポリマー(P)に含まれている低分子量体の量を低減することができる。
【0044】
上記抽出における抽出溶媒は、上記低分子量体を溶解することにより、該低分子量体をフルオロポリマー(P)から分離することができる媒体である。
抽出溶媒としては、用いる抽出溶媒の臨界温度以上、130℃未満の温度、且つ、該抽出溶媒の臨界圧力以上の圧力下に、上述の低分子量体を抽出することができるものであれば特に限定されない。例えば、二酸化炭素の他、フルオロホルム(CF
3H;R23)、パーフルオロエタン(C
2F
6;R116)等の炭素数1〜3のフルオロカーボン等が挙げられる。なかでも、容易に超臨界状態にすることができ、抽出効率に優れる点で、二酸化炭素、フルオロホルムまたはパーフルオロエタンが好ましく、二酸化炭素がより好ましい。
抽出溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよいが、二酸化炭素、フルオロホルムおよびパーフルオロエタンは、それぞれ1種のみを用いても充分にフルオロポリマー(P)を精製することができる。
【0045】
抽出における抽出溶媒の温度は、上記抽出溶媒の臨界温度以上、130℃未満の温度であり、且つ、上記抽出溶媒の臨界圧力以上の圧力下にある。即ち、上記抽出は、用いる抽出溶媒を130℃未満の超臨界流体にしてフルオロポリマー(P)に接触させることにより行うことが好ましい。
上記温度は、上記範囲内であれば、使用する抽出溶媒に応じて適宜設定することができるが、好ましい下限が臨界温度より0.1℃高い温度であり、好ましい上限は100℃であり、より好ましい上限は80℃である。
上記圧力は、上記範囲内であれば、使用する抽出溶媒に応じて適宜設定することができるが、好ましい下限は、臨界圧力より10,000Pa高い圧力であり、好ましい上限は、臨界圧力より70MPa高い圧力である。
【0046】
上記記載の精製方法において、二酸化炭素、フルオロホルム等の上記抽出溶媒の密度を高くすることにより、低分子量体の抽出効率を向上することができる。この機構として、抽出溶媒の密度が高い方が低分子量体の抽出溶媒に対する溶解度が上昇することが考えられる。
二酸化炭素、フルオロホルム等の抽出溶媒の密度は、抽出の場、即ち、抽出溶媒が上述の温度と圧力である条件下において、0.2g/cm
3以上、1.3g/cm
3以下であることが好ましい。
【0047】
また、助溶媒として、超臨界状態にある抽出溶媒と併用してハロゲン化炭化水素系溶媒または炭化水素系溶媒(以下、エントレーナーという。)を用いても良い。溶解性の点から含フッ素系溶媒が好ましい。用いるエントレーナーは、単独で使用しても良いし、混合して用いても良い。用いる含フッ素系溶媒の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
CF
3CF
2CHCl
2、CF
2ClCF
2CHClF、CF
3CF
2CHCl
2、CFC1
2CF
2Cl、CCl
4、CF
3CHFCHFCF
2CF
3、CF
3CH
2OCF
2CF
2H等。
炭化水素系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ジメチルエーテル等が挙げられる。
【0048】
上記記載の精製方法は、超臨界状態にある抽出溶媒を用いて抽出を行うものであるので、低分子量体を効率的に低減することができ、得られるフルオロポリマー(P)は、分子量分布が狭分散なものとして得ることができる。
上記記載の精製方法は、上記低分子量体を低減することができるものであるので、得られるフルオロポリマー(P)は、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)との比であるMw/Mnで表される分子量分布がより小さく狭分散なものとすることができる。
【0049】
(フルオロポリマー(P))
フルオロポリマー(P)は、質量平均分子量(Mw)が3,000〜20,000であることが好ましく、5,000〜15,000であることがより好ましい。フルオロポリマー(P)の質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、PMMA(ポリメチルメタクリレート)換算分子量として算出できる。
フルオロポリマー(P)の質量平均分子量(Mw)が上記範囲の下限値以上であれば、含フッ素硬化性樹脂組成物の硬化反応中における低分子量成分の揮発を防止しやすい。また、上記範囲の上限値以下であれば、成形時に硬化反応が起こる最低温度以下での流動性が確保される。分子量が高すぎて流動性が悪い場合には、所望の形状に成形ができなかったり、流動が不均一になり成形物の特性に偏りが発生する。
また、フルオロポリマー(P)の質量平均分子量(Mw)を上記範囲内において高く設定することにより、より高い熱安定性を有する硬化物が得られやすい。
【0050】
また、フルオロポリマー(P)は、分子中の側鎖に残存する重合性二重結合の含有量が、0.1〜2mmol/gであることが好ましく、0.2〜0.5mmol/gであることがより好ましい。前記重合性二重結合の含有量は、F
19−NMRによる測定により算出できる。
前記重合性二重結合の含有量が上記範囲の下限値以上であれば、硬化物において架橋が不足して硬度が低下したり、含フッ素硬化性樹脂組成物の表面の粘性が高くなりすぎたりすることを防ぎやすい。また、上記範囲の上限値以下であれば、フルオロポリマー(P)同士の架橋反応によるゲル化や高分子量化により、重合反応時における溶媒に対する溶解性や硬化反応時に溶剤を用いる場合の溶解性が低くなりすぎない。また、得られる硬化物中に未反応の重合性二重結合が残り、熱安定性を低下させることを防ぎやすい。
【0051】
フルオロポリマー(P)は、高分子量であるために室温では高粘度液状であるが、加熱されれば粘度が下がり、流動性を得ることができる。フルオロポリマー(P)は、50〜100℃において粘度が1〜100Pa・sとなることが好ましい。
また、フルオロポリマー(P)は、100℃以下においては実質的に熱硬化しない。該熱硬化温度としては、100〜200℃が好ましく、より好ましくは150〜200℃である。
【0052】
[重合性化合物(Y)]
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物は、重合性化合物としてフルオロポリマー(P)以外に、他の重合性化合物(Y)を含んでいてもよい。重合性化合物(Y)は、単体で分子量が1,000以上であるモノマーか、または、重合させて分子量を1,000以上としたものである。
重合性化合物(Y)は、重合性二重結合を有するフルオロポリマーまたはフルオロオリゴマーが好ましく、重合性二重結合を有するペルフルオロポリマーまたはペルフルオロオリゴマーがより好ましい。ペルフルオロポリマーまたはペルフルオロオリゴマーにおける重合性二重結合は不飽和側鎖残存性のペルフルオロジエンに由来する繰り返し単位における一方の重合性二重結合であることが好ましい。不飽和側鎖残存性のペルフルオロポリマーまたはペルフルオロオリゴマーを構成するモノマーとしては、例えば、CF
2=CFO−Rf
2−OCF=CF
2、またはCF
2=CFOCH
2−Rf
3−CH
2OCF=CF
2が挙げられる。
ただし、式中、Rf
2およびRf
3は、側鎖にペルフルオロアルキル基を有していてもよいペルフルオロアルキレン基、または、該ペルフルオロアルキレン基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
Rf
2およびRf
3の具体例としては、例えば、−CF
2−、−CF
2O−、−CF
2CF
2O−、−CF
2CF
2CF
2O−、−CF(CF
3)CF
2O−等の繰り返し単位を含有するペルフルオロポリエーテルが挙げられる。
上記ペルフルオロジエンとペルフルオロモノエンなどを重合して、重合性二重結合を有するフルオロポリマーまたはフルオロオリゴマーが得られる。ただし、重合性化合物(Y)としてのこの重合性二重結合を有するフルオロポリマーまたはフルオロオリゴマーは、前記本発明のフルオロポリマー(P)以外の化合物である。
【0053】
[チオール化合物(S)]
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物には、チオール化合物(S)が含まれる。チオール化合物(S)を含むことで、硬化物の熱安定性と接着性を向上させることができる。なお、チオール化合物とはメルカプト基を有する化合物を意味する。
熱安定性向上に及ぼすチオール化合物(S)の作用機構は定かではないが以下のように推定される。硬化物中には、フルオロポリマー(P)の主鎖末端や側鎖に−COOH、−COOCH
3などの熱安定性の低い官能基が存在している。硬化物が加熱されると、該熱安定性の低い官能基が分解し、続いてフルオロポリマー(P)の主鎖の分解が生じることにより、硬化物の重量減少が発生する。この分解はラジカルが生成する反応であり、チオール化合物(S)を含んでいると、メルカプト基のHを引き抜くことにより安定化して、フルオロポリマー(P)の主鎖の分解を防ぐものと考えられる。すなわち、チオール化合物(S)はラジカルトラップ剤として作用しているものと考えられる。上記のラジカルトラップ剤としての作用機構は、以下のように表すことができる。
〜〜CF
2COOH → 〜〜CF
2・ ・COOH〜〜CF
2・ HS〜〜SH → 〜〜CF
2H ・S〜〜SH〜〜CF
2・ ・S〜〜SH → 〜〜CF
2S〜〜SH
また、この際に一部のチオール化合物(S)がフルオロポリマー(P)に結合し、メルカプト基がフルオロポリマー(P)の末端や側鎖に組み込まれることにより、その極性や水素結合性などにより基材との接着性向上にも寄与する。特に配線材料として用いられる金には有効と考えられる。
【0054】
チオール化合物(S)としては、特に限定されないが、フルオロポリマー(P)との混合が容易であるために、融点が50〜100℃である化合物が好ましい。融点が上記範囲であれば、フルオロポリマー(P)との加熱混合時に液体となり、混合しやすくなる。
チオール化合物(S)としては、フルオロポリマー(P)との相溶性が良いことから、含フッ素チオール化合物が好ましい。
【0055】
チオール化合物(S)としては、アルコキシシリル基を有するチオール化合物、アルコキシシリル基を有しないチオール化合物が挙げられる。
【0056】
(アルコキシシリル基を有するチオール化合物)
アルコキシシリル基を有するチオール化合物としては、下記一般式
(R
A)(R
B)(R
C)Si―
(式中、R
A、R
BおよびR
Cはそれぞれ独立に水素または炭素原子数1〜5のアルコキシ基を表す。)を含み、メルカプト基を1分子中に1〜10個有する化合物が挙げられる。分子中にアルコキシシリル基を有することで、基材との接着性を向上させることができる。このため、メルカプト基を1分子中に1個有する場合は上記ラジカルトラップ剤として作用し、メルカプト基を1分子中に2個以上有する場合は、上記ラジカルトラップ剤と接着性向上両方に作用すると考えられる。接着性の点からR
A、R
BおよびR
Cがいずれもアルコキシ基であるトリアルコキシシリル基であるのが好ましい。また、該アルコキシ基の炭素原子数は1〜5であり、反応性が向上する点から1〜3がより好ましく、1〜2が特に好ましい。トリアルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基またはトリエトキシシリル基が好ましい。
アルコキシシリル基を有するチオール化合物のその他の例としては、下記一般式、
【0057】
【化5】
(式中、R
D、R
E、R
F、R
GおよびR
Hはそれぞれ独立に炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、Aは、炭素原子数1〜10のアルキレン基またはアルケニレン基を表し、n、mはそれぞれ独立に1〜10の整数を表す。)で表される化合物が挙げられる。
アルコキシシリル基を有するチオール化合物(S)の具体例として、KBM803(商品名、信越化学社製)、X41−1810(商品名、信越化学社製)、X41−1805(商品名、信越化学社製)などが挙げられる。
【0058】
(アルコキシシリル基を有しないチオール化合物)
アルコキシシリル基を有しないチオール化合物としては、メルカプト基を1分子中に2〜10個有する化合物が挙げられる。メルカプト基は、2〜8個が好ましく、2〜5個がより好ましい。アルコキシシリル基を有しないチオール化合物の具体例としては、1,2−エタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,9−ノナンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,11―ウンデカンジチオール、1,12−ドデカンジチオールなどのアルカンジチオール;上記アルカンジチオール中のアルキレン基中の任意位置に重合性二重結合を有するアルケンジチオール、ビス(2‐メルカプトエチル)エーテル、1,2‐ビス(2‐メルカプトエトキシ)エタンなどの上記アルカンジチオール中の任意のアルキレン基中に酸素原子が導入されたジチオール化合物;ビス(2‐メルカプトエチル)スルフィド、2,2′‐(エチレンビスチオ)ビス(エタンチオール)などの上記アルカンジチオール中の任意のアルキレン基が硫黄原子で中断されたジチオール化合物;1,3−シクロブタンジチオール、1,4−シクロヘキサンジチオール、p‐メンタン‐2,9‐ジチオールなどのシクロアルカンジチオール、ベンゼン−1,4−ジチオール、ベンゼン−1,3−ジチオール、4,5‐ジメチル‐1,2‐ベンゼンビス(メタンチオール)、1,4‐ベンゼンジメタンチオール、2,6−ナフタレン−ジチオール、ビフェニル‐4,4′‐ビスチオール、9H‐プリン‐2,6‐ジチオール、テトラヒドロ‐1H‐1,2,4‐トリアゾール‐3,5‐ジチオン、1,3,4‐チアジアゾール‐2,5‐ジチオールなどの芳香族ジチオール;1,1,1‐ブタントリチオール、エテン‐1,1,2‐トリチオール、トリチオシアヌル酸、1,3,5‐ベンゼントリチオール、トリフェニレン‐1,5,9‐トリチオール、2,2,5,5‐ヘキサンテトラチオール、テトラチアフルバレンテトラチオール、シクロブタジエン1,2,3,4‐テトラチオール、エテンテトラチオール、1,3‐ブタジエン‐1,2,3,4‐テトラチオール、1,2,4,5‐ベンゼンテトラチオール、ビベンジル‐2,2′,3,3′‐テトラチオール、1,1′,4′,1′′‐テルベンゼン‐3,3′′,4,4′′‐テトラチオール等が挙げられる。
アルコキシシリル基を有しないチオール化合物の市販品としては、EGMP−4(商品名、SC有機化学株式会社製)、カレンズMTBD1(登録商標、昭和電工株式会社製)、TMMP(商品名、SC有機化学株式会社製)、TEMPIC(商品名、SC有機化学株式会社製)、カレンズMT NR1(登録商標、昭和電工株式会社製)、PEMP(商品名、SC有機化学社製)、カレンズMT PE1(登録商標、昭和電工株式会社製)などが挙げられる。
中でも、下記一般式
HSCH
m1(CF
2)
nCH
m2SH
(式中、m1およびm2は1または2を表す。nは2〜10の整数を表す。m1とm2は同じでも異なっていてもよい。)で表される2官能の含フッ素ジチオール化合物は、フルオロポリマー(P)との相溶性が良く、硬化物の着色がないので好ましい。
上記一般式で表される含フッ素ジチオール化合物は、たとえば、ICH
m1(CF
2)
nCH
m2Iで表される含フッ素ジヨージド化合物のヨウ素原子をメルカプト基に置換する方法で製造することができる。メルカプト基に置換する方法としては、たとえば、塩基の存在下でメルカプト尿素を反応させる方法が挙げられる。
【0059】
チオール化合物(S)の添加量は上記フルオロポリマー(P)の100質量部に対して0.01〜1質量部であり、好ましくは0.01〜0.1質量部である。添加量が上記範囲の下限値以上であると、本発明の所期の効果を得ることができ、一方、上記範囲の上限値以下であると硬化物が着色しにくくなる。
【0060】
[他の添加物]
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物は、前記重合性化合物(Y)とチオール化合物以外に、必要に応じて硬化のための硬化剤または光開始剤、その他の添加物を添加してもよい。
他の添加物としては、たとえば、光学素子用としての蛍光体、色素、シリカまたはアルミナ微粒子等の光拡散剤等が挙げられる。また、光学材料以外の耐熱性、耐薬品性を必要とする用途における添加物としては、各種の無機フィラー、ガラス繊維、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子等が挙げられる。
他の添加物としてジルコニアナノ粒子、チタニアナノ粒子などを用いた場合、透明性を維持したまま添加量に応じて屈折率を0.05から0.15程度高めることが可能である。
【0061】
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物は、フルオロポリマー(P)の100質量部に対して、チオール化合物(c)を0.01〜1質量部含有させることにより、得られる硬化物の熱安定性および接着性が優れる。さらに、含フッ素硬化性樹脂組成物中に、フルオロポリマー(P)の主鎖末端がアミド化されているものが含まれる場合、硬化物の熱安定性および接着性の向上に関して相乗効果が得られる。フルオロポリマー(P)の主鎖末端のアミド化は、フルオロポリマー(P)に対して、アンモニアやアミン等のアミド化剤を接触させることにより行われ、フルオロポリマー(P)を含む溶液に、アンモニアを直接吹き込む方法によることが好ましい。
【0062】
[硬化物]
本発明の硬化物は、前記含フッ素硬化性樹脂組成物を硬化させることにより得られる硬化物である。
本発明の硬化物は、耐光性(特に波長200〜500nmの短波長光に対する耐久性)および透明性が高く、かつ熱安定性および接着性に優れる。
【0063】
(硬化物の製造方法)
本発明の硬化物は、前記含フッ素硬化性樹脂組成物を熱または紫外線(UV)により硬化させることにより得ることができる。
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物はUV硬化することにより、チオール化合物(S)の存在下においても硬化反応が阻害を受けることなく進行し、得られた硬化物を長時間高温に曝しても熱分解反応を抑える効果がある。一方、熱硬化した場合にはチオール化合物(S)が硬化阻害の原因となるため熱安定性の良い硬化物が得られにくい。したがって、本発明の含フッ素硬化性組成物は、UV硬化させることが好ましい。
【0064】
<熱硬化>
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物を熱硬化させる場合、硬化温度は、100〜250℃が好ましく、125〜220℃がより好ましく、150〜200℃が特に好ましい。
硬化温度を上記範囲の下限値以上にすることにより、短時間で硬化物を得ることができ、生産性が高くなる。また、上記範囲の上限値以下にすることにより、寸法安定性に優れた硬化物を得ることが容易になる。
【0065】
熱硬化させる方法は、特に限定されず、含フッ素硬化性樹脂組成物を50〜100℃で加熱して流動させ、これを塗布した後に硬化させる方法、溶剤を使用して塗布した後に硬化させる方法等が挙げられ、前者が好ましい。
熱硬化における加熱は、段階的に温度が高くなるように多段階で行ってもよい。硬化反応を多段階で行う場合は、硬化温度は少なくともその最高温度が上記範囲内となるようにすればよい。
【0066】
熱硬化反応においては、含フッ素有機過酸化物等の硬化剤を用いてもよい。硬化物の熱安定性の点からは硬化剤を用いないのが好ましい。本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物は前記硬化剤を用いない場合であっても、加熱によって硬化させることができる。含フッ素有機過酸化物としては、例えば、(C
6F
5C(CO)O)
2、((CF
3)
3CO)
2、C
6F
5C(CO)OOC(CH
3)
3等が挙げられる。
【0067】
前記硬化剤を用いない場合の架橋反応の機構は明らかでないが、フルオロポリマー(P)中に溶解している酸素がラジカル源となること、フルオロポリマー(P)中の構造の一部が熱分解してラジカルを発生すること、フルオロポリマー(P)中の側鎖−CF=CF
2基同士の熱カップリング反応等が要因であると考えられる。
【0068】
<UV硬化>
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物をUV硬化させる場合、UV(紫外線)の波長は、150〜400nmが好ましく、193〜365nmがより好ましく、248〜365nmが特に好ましい。
150〜300nmのUVを用いる場合、特に光開始剤を用いずに硬化させることが可能であり、300〜400nmのUVを用いる場合には、光開始剤の使用が望ましい。光源は特に限定されないが、例えば、250〜400nmにおいてはメタルハライドランプまたは無電極ランプ、254nm、313nm、および365nmには高圧水銀ランプまたは低圧水銀ランプが用いられる。また、248nmにはKrFエキシマーレーザー、193nmにはArFエキシマーレーザー、157nmにはF
2レーザーが用いられる。
【0069】
照射強度、照射時間は、光開始剤の有無、UVの波長により異なる。照射強度が0.1〜500mW/cm
2、照明時間が1分〜10時間で行うのが好ましい。
【0070】
なお、150〜300nmの短波長紫外線を用いた場合に、光開始剤を用いなくても硬化する機構については明らかではない。しかし、
19F−NMRによる構造解析によれば、硬化物中に、フルオロポリマー(P)中の側鎖の−CF=CF
2基同士の熱カップリングで生じるシクロブタン環が存在しないことが確認できた。このことから、フルオロポリマー(P)中の−CF=CF
2基の重合が進行していることが示唆される。開始源としては、フルオロポリマー(P)の主鎖末端に存在する−COOH基等のカルボニル基を有する末端基が紫外線により脱CO
2を起こすか、または、微量に存在するO
2が−CF=CF
2基と反応して生成した−COFが紫外線により脱COFを起こしてラジカルを発生する(J.Fluorine Chemistry,(1987)Vol.36、449)こと等が考えられる。
【0071】
光開始剤としては、アセトフェノン系、ベンゾインエーテル系、ベンジルケタール系、ベンゾフェノン、ベンジルなどのケトン系、アシルフォスフォンオキサイド系、O-アシルオキシム系、チタノセン系、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジンなどのハロメチルトリアジン系の各種の化合物が挙げられる。フルオロポリマー(P)との相溶性から、水素の一部がフッ素またはフルオロアルキル基に置換された含フッ素系光開始剤が好ましい。
光開始剤の使用量は、フルオロポリマー(P)と重合性化合物(Y)との合計100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜1質量部が特に好ましい。光開始剤の使用量が上記範囲にあれば、硬化速度を低下させずに着色の少ない透明な硬化物が得られる。
【0072】
[光学材料および発光素子]
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、耐光性(特に波長200〜500nmの短波長光に対する耐久性)および透明性が高く、かつ耐熱性に優れることから、光学材料として有用である。
光学材料の用途としては、光ファイバーのコア用材料またはクラッド用材料、光導波路のコア用材料またはクラッド用材料、ペリクル用材料、ディスプレイ(たとえば、PDP(Plasma Display Panel)、LCD(Liquid CrystalDisplay)、FED(Field Emission Display)、有機EL等)の表面保護用材料、レンズ(たとえば、発光素子用集光レンズ、人工水晶体レンズ、コンタクトレンズ、低屈折率レンズ等)の表面保護用材料、レンズ(たとえば、発光素子用集光レンズ、人工水晶体レンズ、コンタクトレンズ、低屈折率レンズ等)の材料、素子(たとえば、発光素子、太陽電池素子、半導体素子等)製造に使用される封止用材料等が挙げられる。
【0073】
本発明の硬化物からなる光学材料は、前記含フッ素硬化性樹脂組成物を任意形状の型中で硬化させて、任意形状(たとえば、板型、管状、棒状等)を有する硬化物からなる成形品として光学用途に用いるか、または任意基材(たとえば、前記のディスプレイ、レンズ、素子等)上に形成した前記含フッ素硬化性樹脂組成物の膜状物を硬化させて、形成された硬化物の被膜を光学用途に用いることが好ましい。特に光学用途に使用する被膜としては、被膜が基材に接着するとともに光が該被膜を透過する用途が好ましい。さらに、発光素子などにおいて、発光チップを基材中に封止するとともに発光チップから放射される光が封止材を透過して素子から放出されるようにする、いわゆる透光封止材として本発明の硬化物が用いられることが好ましい。
【0074】
前記成形品として用いる光学材料としては、光ファイバーのコア材料やクラッド材料、光導波路のコア材料やクラッド材料、レンズ用材料が好ましい。
前記被膜として用いる光学材料としては、半導体素子、太陽電池素子、発光素子(たとえば、LED、レーザーダイオード(LD)、エレクトロルミネッセンス素子等)等を透光封止する素子用の封止材料が好ましく、本発明における硬化物が前記性質を有する観点から、短波長光発光素子を透光封止する封止材としての用途に使用されることが特に好ましい。短波長光発光素子としては、白色LEDが挙げられる。
【0075】
このように、本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物を用いることにより、前記光学材料で透光封止した発光素子を得ることができる。本発明の発光素子が、波長200〜500nmの短波長光発光素子である場合、前記含フッ素硬化性樹脂組成物には、必要に応じてLEDの発光波長変換用の蛍光体等が添加されてもよい。本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物は、含まれるフルオロポリマー(P)の質量平均分子量(Mw)が20,000以下であれば加熱により容易に流動するため、溶媒を使用せずにポッティングによる発光素子の封止が可能で、封止樹脂としての熱安定性に優れる。また、照明用LEDランプなどの高出力発光素子は配線材料に金を用いることがあるため、接着性に優れる本発明の硬化物は、封止材として有用である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
本実施例では、フルオロポリマー(P)における二重結合の含有量は、
19F−NMRにより測定した。また、質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、CF
2ClCF
2CHClF(旭硝子社製、商品名:AK225cb。)を溶媒として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりPMMA(ポリメチルメタクリレート)換算分子量として算出した。
実施例におけるガラス板として、300〜400nmの紫外線の透過性が高い透明ガラス板(鉄分の含有量が少ないソーダライムガラスからなる)を使用した。
用いた原料の略号は以下の通りである。
【0077】
<モノマー>
PPVE:ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)
[CF
2=CFO−CF
2CF
2CF
3]
TFE:テトラフルオロエチレン [CF
2=CF
2]
C4DVE:ペルフルオロ(1,4−ジビニルオキシブタン)
[CF
2=CFO(CF
2)
4OCF=CF
2]
<チオール化合物(S)>
TMMP(商品名、SC有機化学社製)
TEMPIC(商品名、SC有機化学社製)
KBM803(商品名、信越化学社製)
【0078】
[合成例1:フルオロポリマー(P1)の製造]
内容積が1Lの撹拌機付きステンレス製オートクレーブを脱気した後、該オートクレーブに、フルオロモノエン(a)であるPPVE(290g)とTFE(20g)、フルオロジエン(b)であるC4DVE(28g)、AK225cb(600g)および重合開始剤である(C
3F
7COO)
2(10g)を圧入し、撹拌しながらオートクレーブ内を50℃に昇温した。その後、TFE(全仕込み量75g)およびC4DVE(全仕込み量35g)を、圧力を0.2MPaに保ちながら逐次添加して2時間重合反応を行った。
室温まで冷却し、未反応のTFEをパージした後、内容物を内容積が2Lのガラスビーカーに取り出した。次に、撹拌しながらメタノールの500gを投入して共重合体を析出させた。上澄みを除去してAK225cbに再溶解した後、水洗して下層を分離して細孔径1μmのPTFE製メンブランフィルターを用いてろ過し、ほぼ透明な重合体溶液を得た。該溶液をエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、120℃で2時間真空乾燥することにより、無色透明な高粘度液状のフルオロポリマー(P1)(65g)が得られた。
フルオロポリマー(P1)の平均分子量をGPCにより測定したところ、質量平均分子量(Mw)が11,500、数平均分子量(Mn)が6,100であった。
また、
19F−NMRによりフルオロポリマー(P1)の組成および二重結合含有量を測定したところ、TFEに基づく繰り返し単位とC4DVEに基づく繰り返し単位とPPVEに基づく繰り返し単位とのモル比は67/6/27であり、二重結合含有量は0.22mmol/gであった。
【0079】
[合成例2:含フッ素ジチオール化合物(S1)の製造例]
フラスコ(内容積300mL)に、ICH
2CH
2CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2I(4.9g)とチオ尿素(1.5g)、エタノール(37g)を加えて攪拌し、80℃に加熱した状態で約11時間維持した。
次にフラスコ内のエタノールの約25gを留去し、20重量%の水酸化カリウム水溶液の約20gを加え、90℃に昇温し4時間攪拌した。その後、室温で終夜攪拌した。
次に2規定塩酸水溶液の約23gを加え、pH4になった状態で15分攪拌し、AK−225(旭硝子社製、CF
2ClCF
2CHClFとCF
3ClCF
2CHCl
2の混合物)の約54gを加えて分液した。水相をAK−225で6回洗浄し、有機相のAK−225を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、NMRとFT−IRで分析した結果下記化合物(S1)を1.51g得た。
化合物(S1)のNMRデータは以下の通りであった。
1H−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl
3、基準:TMS)δ(ppm):1.6(2H)、2.4(4H)、2.8(4H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl
3、基準:CFCl
3)δ(ppm):−115.1(4F)、−122.6(4F)、−124.3(4F)。
FT−IRによる分析結果、2,550cm
−1付近にメルカプト基の吸収が確認された。
【0080】
【化6】
【0081】
[実施例1]
ガラス板上にシリコーンゴムシートを切り抜いて作製した枠を載せて密着させ、合成例1で得たフルオロポリマー(P1)の100質量部に合成例2で得た含フッ素ジチオール化合物(S1)の0.1質量部を100℃にて加熱混合し、上記の枠の内側に流し込んだ後、減圧脱泡して冷却した。これに低圧水銀ランプUVB−40(装置名、セン特殊光源社製、主波長254nm)を用いてUV照射して硬化させることにより、ガラス板上に幅1cm、長さ3cm、厚さ1mmの無色透明な短冊状硬化物を得た。該短冊状硬化物を用いて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
<200℃加熱試験>
ガラス板上に接着させた短冊状硬化物を、200℃オーブン中で1,000時間保持し、重量減少率(%)を確認した。重量減少率(%)が小さいほど、熱安定性が良好であるといえる。
<接着性試験>
ガラス板上に接着させた短冊状硬化物の端を、ガラス板から15mm/minの速度で剥離し、90度剥離試験機(装置名、日新科学社製)でガラス板からの90度剥離強度を測定した。
【0082】
[比較例1]
合成例1のフルオロポリマー(P1)のみを用いて実施例1と同様に硬化物を作成し、200℃オーブン中で1,000時間保持したところ、重量減少が6.3%であった。
【0083】
[実施例2〜4]
実施例1の含フッ素ジチオール化合物(S1)の代わりに表1に記載のチオール化合物を用いて実施例1と同様にガラス板上に接着させた短冊状硬化物を作成し、各評価を行った。結果は表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
[実施例5]
実施例1で得たフルオロポリマー(P1)と含フッ素ジチオール化合物(S1)との混合物を用いて、LED素子を封止した。具体的には、GaN系LED(発光波長460nm)をワイヤーボンディング接続したカップ型のLED素子(ハウジング:アルミナ製、電極:金)の凹部に上記混合物を100℃に加熱して注入し、減圧脱泡して冷却した。これに低圧水銀ランプUVB−40(装置名、セン特殊光源社製:主波長254nm)を用いてUV照射して硬化させることにより、LED素子を封止した。
該LED素子に通電したところ、
図1のような電圧−電流の関係が得られた。該LED素子に3.5V、350mAの電流を通電したところ、2ヶ月後においても電流量は変化せず、透明性を維持していた。
【0086】
[比較例2]
フルオロポリマー(P1)のみを用いて、実施例5と同様にLED素子を封止し、3.5Vで連続通電したところ3週間後には電流量が低下して、1ヵ月後には点灯不良となった。
【0087】
実施例1〜4で得られた硬化物は、優れた熱安定性および接着性を有していることを確認した。中でも、含フッ素硬化性樹脂組成物中に含フッ素ジチオール化合物(S1)を含む実施例1で得られた硬化物は、200℃で1,000時間まで加熱しても無色透明であった。着色を好まないLED封止材として有用である。一方、含フッ素硬化性樹脂組成物中に含フッ素ジチオール化合物(S1)でないチオール化合物を含む実施例2〜4で得られた硬化物は、加熱時間によっては淡黄色に着色した。
実施例5で得たLED素子は、含フッ素硬化性樹脂組成物にチオール化合物を用いたので、良好な電圧を保持できた。一方、比較例2で得たLED素子は、含フッ素硬化性樹脂組成物にチオール化合物を用いなかったので、良好な電圧を保持できなかった。