特許第5681418号(P5681418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5681418
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 1/00 20060101AFI20150219BHJP
【FI】
   B24B1/00 B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-201036(P2010-201036)
(22)【出願日】2010年9月8日
(65)【公開番号】特開2012-56009(P2012-56009A)
(43)【公開日】2012年3月22日
【審査請求日】2013年8月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】若原 匡俊
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−089551(JP,A)
【文献】 特開2005−028550(JP,A)
【文献】 特開平09−235197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 1/00
B24B 37/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶方位を示す直線状の切欠きを有するとともに、主面に直交する直交軸に対して傾斜し、かつ、結晶構造における前記切欠きと平行な辺と平行な結晶面を有する被加工物を、回転する保持テーブルに保持し、該被加工物の該主面に対し、研削砥石または研削パッドを有する回転軸が前記保持テーブルの回転軸と平行な回転式の加工手段で研削または研磨を施す加工方法であって、
被加工物の前記主面の全面において、前記加工手段の加工方向を、該被加工物の外周縁から前記切欠きに向かう方向とすることで該加工方向と前記結晶面とがなす角が、該加工方向の後方側で鈍角になる向きとすることを特徴とする加工方法。
【請求項2】
前記被加工物が、リチウムナイオベイトまたはリチウムタンタレイトから構成されていることを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主面に直交する直交軸に対して傾斜した結晶面を有する被加工物の該主面に対し、研削または研磨を施す加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、携帯電話の雑音カットなどに用いられるSAW(Surface Acoustic Wave)フィルタの製造工程は、概ね次のようなものである。まず、リチウムナイオベイト(LiNbO:ニオブ酸リチウム)やリチウムタンタレイト(LiTaO:タンタル酸リチウム)のインゴットをスライスした後、スライス面を研削、研磨することにより平坦化してウェーハに形成する。次いで、半導体リソグラフィ技術を用いてアルミニウムやアルミニウム合金の薄膜で複数の櫛形電極を形成してから、ウェーハの裏面を研削して所定の厚さに薄化加工する(特許文献1参照)。この後、切削加工によりウェーハを分割して個片化したチップをセラミックやガラス等で封止することで、SAWフィルタが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−28550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、リチウムナイオベイトやリチウムタンタレイトからなる被加工物を研削したり研磨したりした際には、被加工面に“むしれ”と呼ばれる部分的な脱落が分散して起こる加工不良が発生しやすいという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、リチウムナイオベイトやリチウムタンタレイトからなる被加工物を研削あるいは研磨する際に、むしれという加工不良の発生を低減させることができる加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、結晶面(結晶格子を結ぶ面)に対する加工方向によってむしれが低減する場合があることを知見し、これによって本発明を想到するに至った。すなわち本発明の加工方法は、結晶方位を示す直線状の切欠きを有するとともに、主面に直交する直交軸に対して傾斜し、かつ、結晶構造における前記切欠きと平行な辺と平行な結晶面を有する被加工物を、回転する保持テーブルに保持し、該被加工物の該主面に対し、研削砥石または研削パッドを有する回転軸が前記保持テーブルの回転軸と平行な回転式の加工手段で研削または研磨を施す加工方法であって、被加工物の前記主面の全面において、前記加工手段の加工方向を、該被加工物の外周縁から前記切欠きに向かう方向とすることで該加工方向と前記結晶面とがなす角が、該加工方向の後方側で鈍角になる向きとすることを特徴とする。
【0007】
本発明では、前記被加工物が、リチウムナイオベイトまたはリチウムタンタレイトから構成されている場合に特に有効とされる。また、サファイア(Al)からなる被加工物にも好適に採用することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウムナイオベイトやリチウムタンタレイトからなる被加工物を研削あるいは研磨する際に、むしれという加工不良の発生を低減させることができる加工方法が提供されるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る加工方法で裏面が研削加工される被加工物の平面図である。
図2】被加工物の結晶構造を示す斜視図である(表面側が上方)。
図3】被加工物の結晶構造を示す斜視図である(裏面側が上方)。
図4】一実施形態の加工方法を模式的に示す断面図である。
図5】加工方向と結晶面とがなす角を示す図である。
図6】一実施形態の加工方法を示す平面図である。
図7】本発明の実施例1による加工方法を示す(a)平面図、(b)特に加工方向を示す平面図である。
図8】比較例1による加工方法を示す(a)平面図、(b)特に加工方向を示す平面図である。
図9】比較例2による加工方法を示す(a)平面図、(b)特に加工方向を示す平面図である。
図10】比較例3による加工方法を示す(a)平面図、(b)特に加工方向を示す平面図である。
図11】(a)比較例2の被加工面、(b)比較例3の被加工面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、一実施形態の方法で裏面が研削される被加工物を示している。この被加工物1はリチウムナイオベイトからなる材料から得た円形状のウェーハであり、周縁の一部には、結晶方位を示す直線状の切欠き(オリエンテーションフラット)2が形成されている。リチウムナイオベイトの結晶は三方晶系イルメナイト構造を示し、1つの結晶構造すなわちユニットセルは、図2および図3に示すように六角柱状である。ここで、図2は被加工物1に設定される表面側を上方に配置した図であり、図3は被加工物1に設定される裏面側を上方に配置した図である。
【0011】
図2および図3に示すように、ユニットセルの内部には、結晶格子を結ぶ複数の結晶面3(斜線で示す)が、該ユニットセルにおける互いに平行な表面4Aおよび裏面5Aに直交する直交軸6に対し角度αをもって傾斜する状態に存在している。ユニットセルの表面4Aおよび裏面5Aは、被加工物1の表面および裏面と平行である。結晶面3はオリエンテーションフラット2と平行な辺7と平行であり、オリエンテーションフラット2と平行な2つの面8の途中から、表面4Aおよび裏面5Aにわたって、それぞれ台形状に延びている。
【0012】
本実施形態においては、図4および図5に示すように、被加工物1の裏面(主面)5を研削するにあたり、裏面5の全面に対して加工方向Mを一定方向と定め、かつ、その加工方向Mを、該加工方向Mと結晶面3とがなす角θが加工方向Mの後方側で鈍角になる向きで加工するものとする。図4は、円板状の基台11の下面の外周縁部に多数の研削砥石12が該外周縁部に沿って環状に配列して固着された研削ホイール(加工手段)10を回転させながら(矢印Mが回転方向すなわち加工方向)、研削砥石12を被加工物1の裏面5に押し付けることにより、裏面5を研削している状態を示している。
【0013】
図6は、本実施形態の加工方法を実施可能とする研削機構を示しており、矢印G方向に回転する上記研削ホイール10の下方に、裏面5を露出した状態に被加工物1を保持する円板状の保持テーブル20が矢印C方向に回転可能に配設されている。保持テーブル20における被加工物1の保持面(上面)21は、中心Oを頂点とした傾斜が緩やかな円錐状に形成されている。保持テーブル20と研削ホイール10の外径は同等であって、半径は被加工物1よりも大きいサイズに設定されている。
【0014】
研削ホイール10は、研削砥石12の回転軌跡(図6の破線に相当する)が保持テーブル20の中心O上を通るようになっており、かつ、回転する保持テーブル20に対し、円弧状の実線15で示す加工点のみに研削砥石12が作用するように設定されている。被加工物1は、保持テーブル20の保持面21に中心Oを外して保持され、保持テーブル20が回転して加工点15を通過する際に、該被加工点15に沿って回転している研削砥石12により裏面5が研削される。
【0015】
このような研削機構で、上記のように裏面5を研削する加工方向Mと結晶面3とがなす角θを加工方向Mの後方側で鈍角とするには、図6に示すように、被加工物1を、研削ホイール10による加工方向Mが、被加工物1の裏面5の全面においてオリエンテーションフラット2以外の円弧状の外周縁からオリエンテーションフラット2側に向かうように、保持テーブル20の保持面21に載置し保持する。
【0016】
この状態で、保持テーブル20を回転させながら、回転駆動させた研削ホイール10を下降させて加工点15で被加工物1の裏面5を研削すると(研削ホイール10と保持テーブル20の回転方向は同じ)、被加工物1の被加工面である裏面5の全面に対して加工方向Mが一定方向であり、かつ、図4に示したように研削の加工方向Mと結晶面3とがなす角θが加工方向Mの後方側で鈍角となる。これにより、従来、被加工面に発生していたむしれという加工不良を低減させることができる。
【0017】
なお、本発明は上記のように被加工物の研削のみならず、研磨に適用しても同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0018】
以下、図7図10を参照して、本発明の実施例と本発明の方法を満たさない比較例を説明して、本発明の効果を実証する。なお、これら図で図6の構成要素と同一要素には同一の符号を付している。また、矢印G,C,Mは、それぞれ研削ホイール10の回転方向、保持テーブル20の回転方向、研削ホイール10による加工方向を示している。また、特に図7図10の(b)の図は、符号Mは付していないが、被加工面での加工方向を矢印で示している。
【0019】
(1)実施例1
図7に示すように、φ4インチ、厚さ0.55mmのリチウムナイオベイトからなるウェーハ(被加工物)1の裏面5を、φ8インチ:♯2000の研削ホイール10で厚さ約0.45mmまで研削した。実施例1での研削ホイール10によるウェーハ1への加工方向Mは、ウェーハ1の裏面5の全面においてオリエンテーションフラット2以外の円弧状の外周縁からオリエンテーションフラット2側に向かう方向であり、すなわち本発明での加工方向である。なお、研削ホイール10と保持テーブル20の回転方向は同じである。
【0020】
(2)比較例1
図8に示すように、保持テーブル20へのウェーハ1の載せ方を実施例1と逆向き、すなわち研削ホイール10によるウェーハ1への加工方向Mが、ウェーハ1の裏面5の全面においてオリエンテーションフラット2側からオリエンテーションフラット2とは概ね反対側の円弧状の外周縁に向かう方向とした以外は、実施例1と同様にしてウェーハ1の裏面5を研削した。
【0021】
(3)比較例2
図9に示すように、外径がウェーハ1と同程度の保持テーブル20を用い、この保持テーブル20上にウェーハ1を同心状に載置して保持した以外は、実施例1と同様にしてウェーハ1の裏面5を研削した。この場合の加工点15は、ウェーハ1の中心から外周縁にわたる半径に相当する領域で、加工方向Mはウェーハ1の外周縁から中心までの放射方向の内向きである。
【0022】
(4)比較例3
図10に示すように、研削ホイール10の回転方向Gを逆にした以外は、比較例2と同様にしてウェーハ1の裏面5を研削した。この場合の加工点15も、ウェーハ1の中心から外周縁にわたる半径に相当する領域であるが、加工方向Mはウェーハ1の中心から外周縁までの放射方向の外向きである。
【0023】
以上の実施例1および比較例1〜3につき、研削後の被加工面を観察したところ、実施例1では被加工面の全面においてむしれによる加工不良は認められなかった。一方、比較例1では被加工面の全面にむしれが発生していた。
【0024】
また、比較例2では図11(a)のドットで示す領域にむしれが発生しており、また、比較例3では図11(b)のドットで示す領域にむしれが発生していた。比較例2,3においては、図9(b)、図10(b)にそれぞれ示すように、加工方向はウェーハ1の被加工面の全面で一定方向ではなく、比較例2では放射方向の内向き、比較例3では放射方向の外向きとなる。このため、被加工面の一部では本発明に準じた加工方向となっているが、その反対側では逆向きとなっている。この逆向きとなった領域が、図11のドットで示している領域、すなわちむしれが発生した領域である。
【0025】
以上より、被加工面の全面において加工方向と結晶面とがなす角が該加工方向の後方側で鈍角になる向きで加工するといった本発明の加工方法が、むしれの発生を低減させるにあたって有効であることが実証された。
【符号の説明】
【0026】
1…被加工物
3…結晶面
5…裏面(主面)
6…直交軸
10…研削ホイール(加工手段)
12…研削砥石
M…加工方向
θ…加工方向と結晶面とがなす角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11