特許第5682714号(P5682714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5682714
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】炭素繊維束の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/22 20060101AFI20150219BHJP
【FI】
   D01F9/22
【請求項の数】18
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-554709(P2013-554709)
(86)(22)【出願日】2013年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2013081526
(87)【国際公開番号】WO2014081015
(87)【国際公開日】20140530
【審査請求日】2013年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-256638(P2012-256638)
(32)【優先日】2012年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-116722(P2013-116722)
(32)【優先日】2013年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-128123(P2013-128123)
(32)【優先日】2013年6月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】濱田 益豊
(72)【発明者】
【氏名】中尾 洋之
(72)【発明者】
【氏名】麻生 宏実
(72)【発明者】
【氏名】景山 義隆
【審査官】 宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−200078(JP,A)
【文献】 特開平09−143824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F9/08−9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を加熱して耐炎化処理した後の繊維束Aに、気相中でプラズマガスを接触させるプラズマ処理をすること、及びプラズマ処理された後の繊維束Bを炭素化処理することを含む、炭素繊維束の製造方法。
【請求項2】
前記プラズマ処理に供される繊維束Aの単位体積当りの繊維密度が、1.30g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内である、請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項3】
前記プラズマ処理に供される繊維束Aの単位体積当りの繊維密度が、1.30g/cm3以上1.50g/cm3以下の範囲内であるか、又は、1.50g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内である、請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項4】
プラズマ発生装置のプラズマガスの噴出口と前記繊維束Aと間の距離dを0.5mm以上10mm以下の範囲内として、プラズマガスを該噴出口から噴出させて該繊維束Aに接触させる、請求項1〜3のいずれかの一項に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項5】
不活性ガスが97.00体積%以上99.99体積%以下の範囲内、及び活性ガスが0.0100体積%以上3.000体積%以下の範囲内の混合ガスを前記プラズマ発生装置へ導入して、プラズマガスを発生させる、請求項4に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項6】
前記繊維束Aを、単位幅当たりの繊度が500dtex/mm以上5000dtex/mm以下の範囲内のシート形状とし、該シート形状の繊維束にプラズマガスを接触させる、請求項4に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項7】
前記繊維束Aを、単位幅当たりの繊度が500dtex/mm以上5000dtex/mm以下の範囲内のシート形状とし、該シート形状の繊維束にプラズマガスを接触させる、請求項5に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項8】
前記シート形状の繊維束の両面方向から、前記プラズマガスを噴出させる、請求項6又は7に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項9】
前記炭素化処理に供される繊維束Bについて、以下の測定法により測定される吸光度が、以下の「条件1」及び/又は「条件2」を満足する、請求項4に記載の炭素繊維束の製造方法:
[条件1:波長240nmにおける吸光度が1.5以下である。
条件2:波長278nmにおける吸光度が1.0以下である。
<測定法>
繊維束2.0g及び浸漬液としてクロロホルム18.0gを容量100mlのビーカー内に入れる。次に超音波処理装置を用いて、出力100W、周波数40KHzで、該浸漬液を30分間超音波処理する。超音波処理後、該浸漬液から繊維束を取り除き、得られた浸漬液を吸光度測定用のサンプル液とする。分光光度計と石英セル(セル長10mm)を用いて、分光光度計のサンプル側に前記サンプル液を、リファレンス側にクロロホルムを設置して、波長200〜350nmの範囲内で吸光度測定を行う。]。
【請求項10】
前記炭素化処理に供される繊維束Bについて、以下の測定法により測定される吸光度が、以下の「条件1」及び/又は「条件2」を満足する、請求項5〜7のいずれかの一項に記載の炭素繊維束の製造方法:
[条件1:波長240nmにおける吸光度が1.5以下である。
条件2:波長278nmにおける吸光度が1.0以下である。
<測定法>
繊維束2.0g及び浸漬液としてクロロホルム18.0gを容量100mlのビーカー内に入れる。次に超音波処理装置を用いて、出力100W、周波数40KHzで、該浸漬液を30分間超音波処理する。超音波処理後、該浸漬液から繊維束を取り除き、得られた浸漬液を吸光度測定用のサンプル液とする。分光光度計と石英セル(セル長10mm)を用いて、分光光度計のサンプル側に前記サンプル液を、リファレンス側にクロロホルムを設置して、波長200〜350nmの範囲内で吸光度測定を行う。]。
【請求項11】
前記炭素化処理に供される繊維束Bについて、以下の測定法により測定される吸光度が、以下の「条件1」及び/又は「条件2」を満足する、請求項8に記載の炭素繊維束の製造方法:
[条件1:波長240nmにおける吸光度が1.5以下である。
条件2:波長278nmにおける吸光度が1.0以下である。
<測定法>
繊維束2.0g及び浸漬液としてクロロホルム18.0gを容量100mlのビーカー内に入れる。次に超音波処理装置を用いて、出力100W、周波数40KHzで、該浸漬液を30分間超音波処理する。超音波処理後、該浸漬液から繊維束を取り除き、得られた浸漬液を吸光度測定用のサンプル液とする。分光光度計と石英セル(セル長10mm)を用いて、分光光度計のサンプル側に前記サンプル液を、リファレンス側にクロロホルムを設置して、波長200〜350nmの範囲内で吸光度測定を行う。]。
【請求項12】
前記炭素化処理に供される繊維束Bの表面に存在する単繊維の表面の面積100μm2当たりに存在する、大きさが1μm以上の窪み又は微粒子の個数の合計が5個以下である、請求項4に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項13】
前記炭素化処理に供される繊維束Bの表面に存在する単繊維の表面の面積100μm2当たりに存在する、大きさが1μm以上の窪み又は微粒子の個数の合計が5個以下である、請求項5〜7のいずれかの一項に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項14】
前記炭素化処理に供される繊維束Bの表面に存在する単繊維の表面の面積100μm2当たりに存在する、大きさが1μm以上の窪み又は微粒子の個数の合計が5個以下である、請求項8に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項15】
前記炭素化処理に供される繊維束Bの表面に存在する単繊維の表面の面積100μm2当たりに存在する、大きさが1μm以上の窪み又は微粒子の個数の合計が5個以下である、請求項9又は11に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項16】
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を加熱して耐炎化処理し、その後、単位体積当りの繊維密度が1.30g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内とされた繊維束Cを炭素化処理する炭素繊維束の製造方法であって、前記炭素化処理に供される繊維束Cが、前記耐炎化処理後に、気相中でプラズマガスを接触させるプラズマ処理、又は、気相中酸素存在下で紫外線を照射する紫外線処理を行って得られる繊維束であり、以下の測定法により測定される吸光度が、以下の「条件1」及び/又は「条件2」を満足する炭素繊維束の製造方法:
[条件1:波長240nmにおける吸光度が1.5以下である。
条件2:波長278nmにおける吸光度が1.0以下である。
<測定法>
繊維束2.0g及び浸漬液としてクロロホルム18.0gを容量100mlのビーカー内に入れる。次に超音波処理装置を用いて、出力100W、周波数40KHzで、該浸漬液を30分間超音波処理する。超音波処理後、該浸漬液から繊維束を取り除き、得られた浸漬液を吸光度測定用のサンプル液とする。分光光度計と石英セル(セル長10mm)を用いて、分光光度計のサンプル側に前記サンプル液を、リファレンス側にクロロホルムを設置して、波長200〜350nmの範囲内で吸光度測定を行う。]。
【請求項17】
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を加熱して耐炎化処理し、その後、単位体積当りの繊維密度が1.30g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内とされた繊維束Cを炭素化処理する炭素繊維束の製造方法であって、前記炭素化処理に供される繊維束Cが、前記耐炎化処理後に、気相中でプラズマガスを接触させるプラズマ処理、又は、気相中酸素存在下で紫外線を照射する紫外線処理を行って得られる繊維束であり、前記炭素化処理に供される繊維束Cの表面に存在する単繊維の表面の面積100μm2当たりに存在する、大きさが1μm以上の窪み又は微粒子の個数の合計が5個以下である、炭素繊維束の製造方法。
【請求項18】
前記紫外線処理で照射される紫外線の単位面積当りの光量が3mW/cm2以上10mW/cm2以下の範囲内である、請求項16又は17に記載の炭素繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維束の製造方法に関し、さらに詳しくは炭素繊維前駆体繊維束を焼成して炭素繊維束を製造するに際し、炭素化処理に供される繊維束の表面上の付着物を除去することを含む、炭素繊維束の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維束を製造する方法として、炭素繊維前駆体アクリル繊維束に対して200〜300℃の酸化性雰囲気下で加熱処理する耐炎化処理を施し、次いで、得られた耐炎化繊維束に対して1000℃以上の不活性雰囲気下で加熱処理する炭素化処理を施して炭素繊維束を得る方法が知られている。この方法で得られた炭素繊維束は、優れた機械的物性により、特に複合材料用の強化繊維として工業的に広く利用されている。
【0003】
炭素繊維束を製造する際、炭素繊維前駆体アクリル繊維束に耐炎化処理を施す耐炎化工程において単繊維間に融着が発生し、耐炎化工程およびそれに続く炭素化工程(以下、耐炎化工程と炭素化工程を併せて「焼成工程」と表記する場合がある。)において、毛羽や束切れといった工程障害が発生する場合がある。この融着を回避するためには、炭素繊維前駆体アクリル繊維束に付着させる油剤の選択が重要であることが知られており、その中でも耐炎化工程における融着を防止する効果が良好であるシリコーンを含有するシリコーン系油剤が最も一般的に用いられている(特許文献1)。
【0004】
炭素繊維前駆体アクリル繊維束に耐炎化処理を施す耐炎化炉内では、加熱された酸化性気体がファンにより循環されている。この炉内で、炭素繊維前駆体アクリル繊維束に付与されたシリコ−ン系油剤中のシリコーン化合物の一部は、酸化性気体中へ揮発し、循環気体中に長期間滞留することになる。一方、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の表面上に残留したシリコ−ン化合物は、単繊維同士の融着防止、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の収束性維持、及び単繊維切れの抑制に効果を奏している。酸化性気体中へ揮発し、耐炎化炉中に長時間滞在することとなったシリコ−ン系化合物は、やがて固化し、炉中に堆積し、耐炎化処理中の繊維束にも微粒子として付着する。この繊維束に付着した微粒子が、その後の炭素化工程で毛羽の発生や単糸切れの発生起点となり、得られる炭素繊維の性能を著しく低下させることが知られている。加えてシリコーン化合物以外の油剤成分や炭素繊維前駆体アクリル繊維束に由来するタール分、繊維束が炉外から持ち込む粉塵や吸気に含まれている粉塵なども、繊維束に付着して炭素繊維の強度を低下させる要因であることが明らかにされている。
【0005】
上記の課題を解決するため、耐炎化炉内に存在する粉塵を除去するという観点から、耐炎化炉に設置された排ガス循環経路に排気口を設け、耐炎化炉の運転開始前に、循環ファンで吸引した排ガスの一部を排気口から排気して、炉内の粉塵を低減除去する技術が特許文献2において提案されている。
【0006】
一方、炭素繊維束の製造過程中に繊維束の表面に付着するピッチ及びタ−ル状物質等を除去するという観点から、界面活性剤を含有する液体中で耐炎化繊維束を超音波処理することにより、繊維束の表面に付着したピッチ及びタ−ル状物質等を除去し、その後の均一な炭素化を可能にして、短時間の耐炎化処理で強度の優れた炭素繊維束を得る技術が特許文献3及び4において提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示された技術は、炭素繊維束の製造運転を停止した状態で行う必要があり、かつ耐炎化炉の長期連続稼動の安定性は期待できない。また、特許文献3に開示された技術では、数千から数万本という単繊維の集合体である繊維束の内部にまで侵入したシリコ−ン系油剤由来の酸化珪素等の微粒子を効率的に除去することは困難である。加えて、特許文献3及び4に開示された技術は、繊維束の表面の付着物を除去するために、ウェット洗浄処理を利用しており、必然的に繊維束の乾燥処理工程が必要となり、経済的に好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−12855号公報
【特許文献2】特開平8−311723号公報
【特許文献3】特開昭50−25823号公報
【特許文献4】特開2006−200078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の耐炎化処理において発生した繊維束の表面上の付着物を、高温での炭素化処理を行う前に効率的に除去し、優れた物性を有する炭素繊維束を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、以下の技術的手段を有する発明〔1〕、発明〔2〕または発明〔3〕によって解決される。
【0011】
〔1〕炭素繊維前駆体アクリル繊維束を加熱して耐炎化処理した後の繊維束Aに、気相中でプラズマガスを接触させるプラズマ処理をすること、及びプラズマ処理された後の繊維束Bを炭素化処理することを含む、炭素繊維束の製造方法。
【0012】
前記発明〔1〕において、前記プラズマ処理に供される繊維束Aの単位体積当りの繊維密度が、1.30g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内であることが好ましい。
【0013】
前記発明〔1〕において、プラズマ発生装置のプラズマガスの噴出口と前記繊維束Aとの間の距離dを0.5mm以上10mm以下の範囲内として、プラズマガスを該噴出口から噴出させて前記繊維束Aに接触させることが好ましい。
【0014】
前記プラズマ処理において、不活性ガスが97.00体積%以上99.99体積%以下の範囲内、及び活性ガスが0.0100体積%以上3.000体積%以下の範囲内の混合ガスを前記プラズマ発生装置へ導入して、プラズマガスを発生させることが好ましい。
【0015】
前記プラズマ処理において、前記繊維束Aを単位幅当たりの繊度が500dtex/mm以上5000dtex/mm以下の範囲内のシート形状とし、該シート形状の繊維束にプラズマガスを接触させることが好ましい。その際、前記シート形状の繊維束の両面方向から、前記プラズマガスを噴出させることが好ましい。
【0016】
前記発明〔1〕において、前記炭素化処理に供される繊維束Bは、以下の測定法により測定される吸光度が、以下の「条件1」及び/又は「条件2」を満足することが好ましい。
条件1:波長240nmにおける吸光度が1.5以下である。
条件2:波長278nmにおける吸光度が1.0以下である。
【0017】
<測定法>
繊維束2.0g及び浸漬液としてクロロホルム18.0gを容量100mlのビーカー内に入れる。次に超音波処理装置を用いて、出力100W、周波数40KHzで、該浸漬液を30分間超音波処理する。超音波処理後、該浸漬液から繊維束を取り除き、得られた浸漬液を吸光度測定用のサンプル液とする。分光光度計と石英セル(セル長10mm)を用いて、分光光度計のサンプル側に前記サンプル液を、リファレンス側にクロロホルムを設置して波長200〜350nmの範囲内で吸光度測定を行う。
【0018】
また前記発明〔1〕において、前記プラズマ処理された後の繊維束Bの表面に存在する単繊維の表面の面積100μm2当たりに存在する、大きさが1μm以上の窪み又は微粒子の個数の合計が5個以下であることが望ましい。
【0019】
〔2〕炭素繊維前駆体アクリル繊維束を加熱して耐炎化処理し、その後、単位体積当りの繊維密度が1.30g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内とされた繊維束Cを炭素化処理する炭素繊維束の製造方法であって、前記炭素化処理に供される繊維束Cについて、前記測定法により測定される吸光度が、前記の「条件1」及び/又は「条件2」を満足する炭素繊維束の製造方法。
【0020】
〔3〕炭素繊維前駆体アクリル繊維束を加熱して耐炎化処理し、その後、単位体積当りの繊維密度が1.30g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内とされた繊維束Cを炭素化処理する炭素繊維束の製造方法であって、前記炭素化処理に供される繊維束Cの表面に存在する単繊維の表面の面積100μm2当たりに存在する、大きさが1μm以上の窪み又は微粒子の個数の合計が5個以下である、炭素繊維束の製造方法。
【0021】
前記発明〔2〕または発明〔3〕において、前記炭素化処理に供される繊維束Cが、前記耐炎化処理後に、気相中でプラズマガスを接触させるプラズマ処理、又は、気相中で紫外線を照射する紫外線処理を行って得られる繊維束であることが好ましい。また、前記紫外線処理は、酸素存在下で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、炭素繊維前駆体アクリル繊維束(以下、「前駆体繊維束」と表記する場合がある。)の耐炎化処理において発生し、繊維の表面に付着する前駆体繊維束由来の付着物、或いは前駆体繊維束に付与されているシリコーン油剤由来の付着物を、高温での炭素化処理を行う前に効率的に除去し、炭素繊維束の製造途中に繊維束の単繊維同士が融着することを防止して、炭素繊維ストランド引張強度が向上した炭素繊維束を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0024】
炭素繊維の強度が低下するメカニズムとしては、耐炎化炉内で繊維表面に付着した前駆体繊維束由来の付着物、或いは前駆体繊維束に付与されているシリコーン油剤由来の付着物が、後の炭素化工程での高温下において炭素繊維と反応し、炭素繊維が酸化され一酸化炭素等となって気化していることが考えられる。この反応が起こる温度は、付着物の成分により異なると考えられるが、概して500℃以上であると考えられる。
【0025】
本発明者等は、上記付着物が炭素繊維と反応する前に、前駆体繊維束を耐炎化処理した後の繊維束の表面から、前記付着物の除去方法として、前駆体繊維束を耐炎化処理した後の繊維束に、気相中でプラズマ処理をすること又は気相中で紫外線処理をすることが有効であることを見出した。プラズマ処理又は紫外線処理された繊維束を炭素化処理することにより、性能に優れた炭素繊維束を安定に製造することが可能となる。
【0026】
前記発明〔1〕、発明〔2〕または発明〔3〕において、炭素化処理に供される繊維束Bまたは繊維束Cは、耐炎化処理された繊維束、または、耐炎化処理及び前炭素化処理された繊維束である。前駆体アクリル繊維束は、耐炎化処理によって、単位体積当りの繊維密度が1.30g/cm3以上1.50g/cm3以下の範囲内の繊維束とすることができる。また前駆体アクリル繊維束は、耐炎化処理及び前炭素化処理によって、単位体積当りの繊維密度が1.50g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内の繊維束とすることができる。
【0027】
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束>
まず、本発明で使用される前駆体繊維束について説明する。前駆体繊維束は、アクリロニトリル系重合体を、有機溶剤あるいは無機溶剤に溶解し、得られた紡糸原液を紡糸装置に供給して、公知の紡糸方法によって製造することができる。紡糸方法及び紡糸条件には特に制限はない。
【0028】
ここで、アクリロニトリル系重合体としては、特に制限はないが、アクリロニトリル単位を85モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有する単独重合体または共重合体を使用することができる。あるいは、これらの重合体の2種以上の混合重合体を使用することができる。アクリロニトリル共重合体は、アクリロニトリルと共重合しうる単量体とアクリロニトリルとの共重合生成物であり、アクリロニトリルと共重合しうる単量体としては、例えば以下のものが挙げられる。メチル(メタ)アクリレ−ト、エチル(メタ)アクリレ−ト、プロピル(メタ)アクリレ−ト、ブチル(メタ)アクリレ−ト、ヘキシル(メタ)アクリレ−ト等の(メタ)アクリル酸エステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の酸類およびそれらの塩類;マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル;スチレンスルホン酸ソ−ダ、アリルスルホン酸ソ−ダ、β−スチレンスルホン酸ソ−ダ、メタアリルスルホン酸ソ−ダ等のスルホン基を含む重合性不飽和単量体;2−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン等のピリジン基を含む重合性不飽和単量体等。
【0029】
重合法については、従来公知の溶液重合、懸濁重合、乳化重合などを適用することができる。アクリル系重合体溶液の調製に使用される溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、塩化亜鉛水溶液、硝酸などが挙げられる。
【0030】
紡糸方法としては、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法などを採用できる。得られた凝固糸は、従来公知の水洗、浴延伸、乾燥緻密化、スチ−ム延伸、シリコ−ン系油剤等の工程油剤の付与など、を行うことにより所定の繊度を有する前駆体繊維束とされる。
【0031】
前駆体繊維束に対するシリコーン系油剤の付与方法は、特に制限はなく、一般に用いられているようにシリコーン系油剤の水分散液中に前駆体繊維束を浸漬する方法が挙げられる。
【0032】
ここで、シリコ−ン系油剤とは、シリコ−ン原子を含む有機化合物(シリコ−ン化合物)を主成分とする油剤である。シリコ−ン系油剤は、シリコ−ン化合物以外の有機化合物との混合物であってもよい。また、シリコ−ン系油剤は、シリコ−ン化合物に対して界面活性剤や平滑剤、帯電防止剤、耐酸化防止剤などを添加して構成された混合物であってもよい。シリコ−ン系油剤の代表例としては、従来から知られているアミノ変性シリコ−ン系油剤を挙げることができる。
【0033】
尚、油剤としては、シリコ−ン系油剤の他に、非シリコ−ン系油剤を使用することができる。非シリコ−ン系油剤とは、シリコーン原子を含まない有機化合物(非シリコーン化合物)を主成分とする油剤である。非シリコーン系油剤の代表例としては、芳香族系化合物を主成分とする油剤(例えば、芳香族系ポリエステル、芳香族系アミン化合物、トリメリット酸エステルなど)や脂肪族系化合物を主成分とする油剤(例えば、ポリオレフィン系高分子、エチレンジアミド系化合物、高級アルコールリン酸エステル塩など)等を挙げることができる。
【0034】
<耐炎化処理>
プラズマ処理に供される繊維束Aであって、繊維密度が1.30g/cm3以上1.50g/cm3以上の範囲内にある繊維束は、前駆体繊維束を、200℃以上300℃以下の酸化性雰囲気中、緊張下あるいは延伸条件下で、加熱して耐炎化処理することにより得ることができる。酸化性雰囲気は、酸素を含む気体であれば特に制限はないが、経済性及び安全性を考慮すると、空気が特に優れている。また、酸化能力を調整する目的で、酸化性雰囲気中の酸素濃度を変更することもできる。耐炎化工程での繊維束の加熱方法及び耐炎化炉の構造を含む加熱方式としては、一般的な熱風循環方式、特開平7−54218号公報に記載された多孔板表面を有する固定熱板方式などを挙げることができるが、これ以外の方式も適用可能である。
【0035】
繊維密度を1.30g/cm3以上とすることにより、耐炎化反応が十分に進行し、後に行う不活性ガス雰囲気下での前炭素化処理及び炭素化処理などの高温加熱処理の際に単繊維同士の融着が抑制され、炭素繊維束を安定に生産すること可能となる。繊維密度を1.50g/cm3以下とすることにより、前記繊維束の内部への酸素の導入が適度に保たれ、最終的に得られる炭素繊維の内部構造を緻密にすることができ、性能の優れた炭素繊維束を得ることが可能となる。経済的な面から、繊維密度は1.45g/cm3以下とすることが、より好ましい。
【0036】
<前炭素化処理>
一方、プラズマ処理に供される繊維束Aであって、前記繊維密度が1.50g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内である繊維束は、上述した耐炎化繊維束を300℃以上1000℃以下の不活性雰囲気中で加熱処理(前炭素化処理)することにより得ることができる。前炭素化処理の条件としては、最高温度を550〜1000℃として、不活性雰囲気中、緊張下での処理が好ましい。その際、300〜500℃の温度領域においては、500℃/分以下、好ましくは300℃/分以下の昇温速度で加熱することが、最終的に得られる炭素繊維束の機械的特性を向上させるために有効である。雰囲気については、窒素、アルゴン、ヘリウムなど公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が望ましい。プラズマガスとの接触時に耐炎化反応を進行させない観点から、前記前炭素化処理後の繊維密度は1.50g/cm3以上であることが好ましい。また経済性の観点から前記前炭素化処理後の繊維密度は1.70g/cm3以下であることが好ましい。
【0037】
<プラズマ処理>
発明〔1〕において、耐炎化処理された後の繊維束Aは、気相中でプラズマガスを接触させるプラズマ処理が行われる。
【0038】
ここで、プラズマ処理について説明する。プラズマガスは、気体分子が部分的或いは完全に電離し陽イオンと電子に分かれて運動している状態にあるため、非常に高活性である。そのため、プラズマガスを被処理物に接触させることで、被処理物の表面は改質されて、被処理物に様々な機能を付与することが出来る。
【0039】
プラズマ処理は、大気圧プラズマ処理と低圧・真空プラズマ処理に大別されるが、連続生産性及び経済性の観点から工程中の減圧処理を必要としない大気圧プラズマ処理が望ましい。前記繊維束のプラズマ処理方法は、ダイレクト方式とリモート方式に大別され、特に制限されない。ダイレクト方式とは、互いに平行に配置された2枚の平板電極の間に繊維束を配置して処理する方式である。ダイレクト方式は、繊維束がプラズマ雰囲気中に直接導入されることから一般的に処理効率が高く、また処理条件の精密な制御が可能であることから化学的な改質(例えば、被処理物の表面への官能基の導入)と物理的な改質(例えば、被処理物の表面の粗面化)を任意に制御することができる。リモート方式とは、電極間で発生させたプラズマを繊維束に噴き付けて処理する方式である。繊維束への熱及び電気的なダメージを考慮すると、よりダメージの少ないリモート方式を選択することが好ましい。
【0040】
前記プラズマ処理を行うための大気圧プラズマ発生装置において、該発生装置のプラズマガスの噴出口と前記繊維束Aとの間の距離dは、プラズマガスを繊維束に効率的に接触させる観点から10mm以下であることが好ましい。また、処理効率の観点からこの距離は5.0mm以下であることが好ましく、3.0mm以下であることがより好ましい。また、プラズマガスの噴出口と前記繊維束の接触を避けるために、該距離dは0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。
【0041】
耐炎化処理された後の繊維束Aにプラズマ処理を行う際に、プラズマ発生装置のプラズマ処理室に導入する導入ガスについては、特に制限はないが、安全性の観点から不活性ガスが優れており、さらに入手の容易さ及び経済性の観点から窒素、アルゴン、又は、窒素とアルゴンを主成分とするガスが優れている。
【0042】
また、付着物の除去能力の観点から、前記不活性ガス中に、少量の活性ガスを添加した混合ガスを用いることが好ましい。具体的な活性ガスとしては、空気、酸素、水素、一酸化炭素、その他の危険を伴わないガス、が挙げられる。この混合ガス中の体積組成比としては、不活性ガスが97.00体積%以上99.99体積%以下の範囲内、及び活性ガスが0.0100体積%以上3.000体積%以下の範囲内であることが好ましい。付着物の除去能力及びプラズマ発生の安定性の観点から、この体積組成比は、不活性ガスが99.00体積%以上99.99体積%以下の範囲内、及び活性ガスが0.0100体積%以上1.000体積%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0043】
前記活性ガスとしては、酸素を含むガスが好ましい。プラズマ処理を酸素存在下で行うことにより、前記繊維束の表面の付着物を、より効率的に除去することが可能となる。これは、プラズマガスが酸素と反応するとオゾンが発生し、このオゾンと、気相中のガスがプラズマ化する際に発生する励起光とが、相乗的に作用することにより、繊維表面の付着物を効率的に除去すると考えられる。
【0044】
繊維束Aに、プラズマガスを接触させる際、この繊維束をシート形状とし、該繊維束の単位幅当たりの繊度を500dtex/mm以上5000dtex/mm以下の範囲内とすることが好ましい。前記繊度が500dtex/mm以上であれば、繊維束の幅が広がり過ぎず、多数の繊維束を同時に生産できるので好ましい。また、前記繊度が5000dtex/mm以下であれば、繊維束に付着した付着物を効率よく除去しやすくなる。前記観点から、前記繊度は4000dtex/mm以下がより好ましく、3000dtex/mm以下がさらに好ましい。
【0045】
繊維束Aに均一なプラズマ処理を施すために、1台以上の大気圧プラズマ発生装置を使用することが望ましい。繊維束Aに対して多方面からプラズマ処理を施すことが好ましいが、経済性の観点から、前記シート形状の繊維束の両面方向からプラズマ処理を施すことが好ましい。すなわち、該繊維束の片側の方向からプラズマガスを接触させ、さらに、それと同時か或いはその後に、該繊維束を挟んで反対側の方向から前記繊維束にプラズマガスを接触させることが好ましい。
【0046】
プラズマ処理に供される繊維束Aの総繊度は、生産性の観点から3,000dtex以上であることが好ましく、また均一に処理する観点から100,000dtex以下であることが好ましい。更なる生産性の向上及びより均一な処理の実施のために、総繊度は5,000〜70,000dtexの範囲内であることが好ましい。
【0047】
前記プラズマ処理された後の繊維束であって、炭素化処理に供される繊維束Bは、以下の測定法により測定される吸光度が、以下の「条件1」及び/又は「条件2」を満足していることが好ましい。前記吸光度が「条件1」及び/又は「条件2」の範囲内にあれば、前記繊維束Bを炭素化することにより高品質な炭素繊維束を得ることができる。
条件1:波長240nmにおける吸光度が1.5以下である。
条件2:波長278nmにおける吸光度が1.0以下である。
【0048】
<測定法>
繊維束2.0g及び浸漬液としてクロロホルム18.0gを容量100mlのビーカー内に入れる。次に超音波処理装置を用いて、出力100W、周波数40KHzで、該浸漬液を30分間超音波処理する。超音波処理後、該浸漬液から繊維束を取り除き、得られた浸漬液を吸光度測定用のサンプル液とする。分光光度計と石英セル(セル長10mm)を用いて、分光光度計のサンプル側に前記サンプル液を、リファレンス側にクロロホルムを設置して波長200〜350nmの範囲内で吸光度測定を行う。
【0049】
前記吸光度の測定において、波長240nm付近の吸光度は、シリコーン化合物に由来する付着物の吸収ピークであり、波長278nm付近の吸光度は前駆体繊維束に由来する付着物の吸収ピークを示している。
【0050】
前記プラズマ処理に供される繊維束Aの単位体積当りの繊維密度が1.30g/cm3以上1.50g/cm3以下の範囲内の場合は、波長240nmにおける吸光度は1.5以下であることが好ましい。この吸光度が1.5以下であれば、繊維表面の付着物が十分に除去され、その後に行なわれる炭素化処理の最中に、繊維束の単繊維同士が融着することが抑制され、さらに炭素繊維束は強度が優れたものとなる。この吸光度は1.0以下であることがさらに好ましい。この吸光度の下限は、特に限定されないが、小さいほど好ましい。また、波長278nmにおける吸光度は1.0以下であることが好ましい。この吸光度が1.0以下であれば、繊維表面の付着物が十分に除去され、その後の炭素化処理中に繊維束の単繊維同士の融着が抑制され、炭素繊維束は強度が優れたものとなる。この吸光度は0.50以下であることがさらに好ましい。なお、この吸光度の下限は、特に限定されないが、小さいほど好ましい。
【0051】
また、前記プラズマ処理に供される繊維束Aの単位体積当りの繊維密度が、1.50g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内の場合は、波長240nmにおける吸光度は0.20以下であることが好ましい。この吸光度が0.20以下であれば、繊維表面の付着物が十分に除去され、その後の炭素化処理中の繊維束の単繊維同士の融着が抑制され、炭素繊維束は強度が優れたものとなる。この吸光度は0.10以下であることがさらに好ましい。この吸光度の下限は、小さいほど好ましいが、特に限定されない。また、波長278nmにおける吸光度は1.0以下であることが好ましい。この吸光度が0.15以下であれば、繊維表面の付着物が十分に除去され、その後の炭素化処理中に繊維束の単繊維同士の融着が抑制され、炭素繊維束は強度が優れたものとなる。この吸光度は0.10以下であることがさらに好ましい。この吸光度の下限は、小さいほど好ましいが、特に限定されない。
【0052】
耐炎化処理された後の繊維束の表面には、前駆体繊維や油剤由来の熱分解生成物が繊維束に付着したタール状付着物や、低結晶性炭素化物からなる付着物(以下、「微粒子」と略す。)、あるいは該繊維束の熱的損傷または機械的損傷により生じた強度的に脆弱な不均質構造(以下、「窪み」と略す。)が存在している。この脆弱部は一般に比較的結晶性の低い、乱れた構造の炭素材より構成されている。これらの繊維表面上の微粒子や窪みの部分は、最終的に得られる炭素繊維の表面において、微粒状付着物や窪みとして残る。これらの付着物や窪みは、炭素繊維とマトリックス樹脂との結合を弱めたり、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面に空隙を生じさせる。このような炭素繊維とマトリックス樹脂からなるコンポジット製品に負荷を加えると、前記結合の弱い部分や空隙に応力集中がおこり、破壊開始点となりやすい。即ち、耐炎化処理をされた後の繊維束の表面に存在する微粒子及び窪みは、コンポジット製品の品質を低下させる原因となる。
【0053】
前記プラズマ処理された前炭素化繊維束は、該繊維束の表面に存在する単繊維の表面の面積100μm2(=10μm×10μm)当たりに存在する、大きさが1μm以上の窪み又は微粒子の個数の合計が5個以下であることが好ましく、3個以下であることがより好ましい。前記窪み又は微粒子の個数の合計が5個以下であれば、炭素化処理中の繊維束の単繊維同士の融着や、炭素繊維束の強度の低下を抑えることができる。大きさが1μm以上の窪み又は微粒子とは、最短径が1μm以上の窪み又は微粒子を意味する。窪み又は微粒子の大きさの上限は特にないが、一般的には5μmである。窪み又は微粒子の個数は、電子顕微鏡を用いて、単繊維の繊維軸方向に対して垂直な方向から繊維表面を観察して、測定することができる。窪み又は微粒子の個数は、繊維表面上の任意の3箇所を測定箇所として、3箇所の測定個数の平均値で表示することができる。
【0054】
<発明〔2〕及び発明〔3〕>
本発明〔2〕は、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を加熱して耐炎化処理し、その後、単位体積当りの繊維密度が1.30g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内とされた繊維束Cを炭素化処理する炭素繊維束の製造方法であって、前記炭素化処理に供される繊維束Cについて、以下の測定法により測定される吸光度が、以下の「条件1」及び/又は「条件2」を満足することを特徴とする。
条件1:波長240nmにおける吸光度が1.5以下である。
条件2:波長278nmにおける吸光度が1.0以下である。
【0055】
<測定法>
繊維束2.0g及び浸漬液としてクロロホルム18.0gを容量100mlのビーカー内に入れる。次に超音波処理装置を用いて、出力100W、周波数40KHzで、該浸漬液を30分間超音波処理する。超音波処理後、該浸漬液から繊維束を取り除き、得られた浸漬液を吸光度測定用のサンプル液とする。分光光度計と石英セル(セル長10mm)を用いて、分光光度計のサンプル側に前記サンプル液を、リファレンス側にクロロホルムを設置して波長200〜350nmの範囲内で吸光度測定を行う。
【0056】
本発明〔3〕は、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を加熱して耐炎化処理し、その後、単位体積当りの繊維密度が1.30g/cm3以上1.70g/cm3以下の範囲内とされた繊維束Cを炭素化処理する炭素繊維束の製造方法であって、前記炭素化処理に供される繊維束Cの表面に存在する単繊維の表面の面積100μm2当たりに存在する、大きさが1μm以上の窪み又は微粒子の個数の合計が5個以下であることを特徴とする。
【0057】
発明〔2〕または発明〔3〕においては、発明〔1〕の場合と同様に、耐炎化処理及び前炭素化処理を行うことができる。
【0058】
<紫外線処理>
以上、炭素化処理に供される繊維束の表面上の付着物の除去方法として、プラズマ処理について説明してきたが、プラズマ処理の代わりに、紫外線処理を採用することができる。即ち、炭素化処理に供される繊維束は、気相中でプラズマガスを接触させるプラズマ処理、又は、気相中で紫外線を照射する紫外線処理を行って得ることができる。
【0059】
前記紫外線処理における紫外線は、波長が10〜400nmの範囲内の不可視光線の電磁波であり、そのエネルギーは繊維束の表面上の付着物を効率的に分解し、除去することが十分に可能である。そのため、耐炎化繊維束の表面に、紫外線を照射することにより、該繊維の表面の付着物を除去することが可能となる。前記紫外線処理を酸素存在下で行うことによって、該繊維の表面の付着物を効率的に除去することができる。
【0060】
紫外線は更に波長1〜10nmの範囲内の極紫外線、10〜200nmの範囲内の遠紫外線、200〜380nmの範囲内の近紫外線に大別され、特に限定されるものではないが、耐炎化繊維束の損傷を抑制する観点から遠紫外線領域、或いは近紫外線領域の紫外線を用いることが好ましい。
【0061】
前記紫外線処理で照射される紫外線の単位面積当たりの光量は3mW/cm2以上10mW/cm2以下の範囲内であることが好ましい。3mW/cm2以上であれば、紫外線処理による付着物除去の効果が得られ、10mW/cm2以下であれば、工程障害(毛羽発生)の懸念がない。
【0062】
前記紫外線処理においては、紫外線処理される繊維束の前記単位体積当りの繊維密度を1.30g/cm3以上1.50g/cm3以下の範囲内とすることにより、繊維の表面の付着物を効率的に除去することができる。
【0063】
前記繊維密度が1.30g/cm3以上1.50g/cm3以上の範囲内である繊維束は、前駆体繊維束を、200℃以上300℃以下の範囲内の酸化性雰囲気中、緊張あるいは延伸条件下で加熱して耐炎化処理することにより得ることができる。前記繊維密度が1.30g/cm3以上である繊維束は、耐炎化が十分に進行した繊維束であるので、後に行う不活性ガス雰囲気下での前炭素化処理及び炭素化処理などの高温加熱処理の際に単繊維同士の融着が抑制され、炭素繊維束を安定に生産すること可能となる。前記繊維密度が1.50g/cm3以下である繊維束は、繊維束内部への酸素の導入が適度に保たれた繊維束であるので、最終的に得られる炭素繊維の内部構造を緻密にすることができ、性能の優れた炭素繊維束を得ることが可能となる。経済的な面から、前記繊維密度は1.45g/cm3以下であることが、より好ましい。
【0064】
<炭素化処理>
上記の方法によって得られたプラズマ処理された後の繊維束、または紫外線処理された後の繊維束を、炭素化処理することにより炭素繊維束を得ることができる。
【0065】
炭素化処理の条件としては、1000℃超、3000℃以下の範囲内の不活性雰囲気中、1000℃超、1200℃以下の範囲内の温度領域から、500℃/分以下、好ましくは300℃/分以下の昇温速度で、最高温度1200〜3000℃まで昇温して炭素化処理をすることが、炭素繊維の機械的特性を向上させるために有効である。雰囲気については、窒素、アルゴン、ヘリウム、など公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が望ましい。
【0066】
このようにして得られた炭素繊維束を、さらに最高温度が2500〜3000℃の範囲内の温度領域で加熱して黒鉛化繊維束とすることもできる。
【0067】
かくして得られた炭素繊維束または黒鉛化繊維束は、従来公知の電解液中での電解酸化処理、または、気相中もしくは液相中での酸化処理によって、その表面状態を改質して、複合材料における炭素繊維または黒鉛化繊維とマトリックス樹脂との親和性や接着性を向上させることが好ましい。さらに、必要に応じて従来公知の方法により、炭素繊維束または黒鉛化繊維束にはサイジング剤を付与することができる。
【実施例】
【0068】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。尚、評価方法は以下の通りである。
【0069】
[1.吸光度]
上述した方法に従って、以下の装置及び溶剤を用いて吸光度を測定する。
超音波洗浄装置:IUCHI製、VS−200(製品名)。
分光光度計:HITACHI製、U−3300(製品名)。
クロロホルム:分光分析用99.8%クロロホルム(和光純薬製)。
【0070】
吸光度測定は、まずクロロホルムを用いたリファレンスの測定を行い、所定の波長(240nmまたは278nm)における透過度をT0とする。続いて、サンプル液を用いて、同様の方法で測定を行い、得られた透過度をTとする。下記式により算出する吸光度Aを、繊維表面の付着物の付着量を示す指標とする。
吸光度A=−log10(T/T0
ここで240nm付近の吸光度はシリコーン化合物由来のピーク、278nm付近の吸光度は前駆体繊維束由来のピークを示している。
【0071】
[2.樹脂含浸ストランド特性]
ストランド強度およびストランド弾性率を、JIS R7608に記載された試験法に準拠して測定する。
【0072】
[3.前炭素化繊維束の繊維表面100μm2当りの付着物数]
プラズマ処理された前炭素化繊維束を試料台に乗せ、走査型電子顕微鏡(JSM−5300、日本電子(株)製)により、加速電圧15kV、倍率5000倍で単繊維の表面を観察する。撮影した画像から、単繊維の表面の任意の3箇所を選び、各箇所の面積100μm2(=10μm×10μm)当りに含まれる、大きさ1μm以上の窪み又は微粒子の個数の合計を測定する。3箇所の測定の平均値を算出し、「異物量」として表示する。
【0073】
[4.耐炎化繊維束または前炭素化繊維束の分散試験]
繊維束を切断して長さ3mmのサンプルを得る。容量100mlのビーカー内にクロロホルム50ml及び該サンプルを入れて、攪拌機にて10分間撹拌して、クロロホルム中に繊維束を分散させる。その後、12000(12K)フィラメント当りの単繊維同士が接着している数(繊維集合体の数)を計測し、その数を分散試験の結果とする。
【0074】
[実施例1]
アクリロニトリル単位96モル%、アクリルアミド単位3モル%、及びメタクリル酸単位1モル%からなる共重合体を用いて、該共重合体の濃度が20質量%のジメチルアセトアミド(DMAc)溶液を作成した。この溶液(紡糸原液)を、孔径60μm、ホ−ル数12000の紡糸口金を通して温度35℃、濃度67質量%のDMAc水溶液中に噴出して、凝固させ、凝固繊維束とした。次いで、凝固繊維束を、水洗槽中で脱溶媒しながら5.4倍に延伸して膨潤状態の前駆体繊維束とした。その後、アミノ変性シリコ−ン油剤を含む処理液を満たした油剤処理槽に、この膨潤状態の前駆体繊維束を浸漬して、繊維束の表面に前記処理液を付与させた。その後、前記処理液が付与された前駆体繊維束を、表面温度180℃に設定した加熱ロールに接触させて乾燥した後に、表面温度190℃に設定したロールを用いて1.4倍延伸を施し、単繊維繊度0.8dtex、総繊度9600dtexの前駆体繊維束を得た。
【0075】
得られた前駆体繊維束を空気中230〜270℃で緊張下に加熱し、密度1.35g/cm3の耐炎化繊維束を得た。この耐炎化繊維束に、次に示す条件でプラズマ処理を行った。大気圧プラズマ装置(株式会社ウェル製、MyPL Auto100)のプラズマ処理室内に、導入ガスとしてのアルゴンを流量15L/minで導入して、プラズマガスの噴出口と繊維束との間の距離dが1.0mm、大気圧プラズマ装置の出力が100Wの条件で、プラズマガスを繊維束に1秒間接触させ、プラズマ処理された耐炎化繊維束を得た。
【0076】
次いで、プラズマ処理された耐炎化繊維束を、窒素雰囲気中、最高温度700℃で緊張下に加熱し前炭素化繊維束とした後、さらに窒素雰囲気中最高温度1300℃で緊張下に加熱して炭素化繊維束とした。
【0077】
得られた炭素化繊維束を表面処理した後に、サイジング剤を付与し、総繊度4500dtexの炭素繊維束を得た。この炭素繊維束の樹脂含浸ストランド特性を測定すると弾性率326GPa、強度5.6GPaであった。
【0078】
一方、プラズマ処理された耐炎化繊維束を2.0g採取し、吸光度測定に供した。波長240nm及び278nmにおける吸光度は、それぞれ1.2及び0.87であった。
【0079】
[比較例1]
実施例1と同様にして得られた耐炎化繊維束に、プラズマ処理を行わずに、実施例1と同様の方法により波長240nm及び278nmにおける吸光度を測定した。吸光度は、それぞれ2.3及び1.6であった。さらに、該耐炎化繊維束を、実施例1と同様にして加熱処理して、炭素繊維束を得た。この炭素繊維束の樹脂含浸ストランド特性は、弾性率324GPa及び強度5.3GPaであった。
【0080】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られた耐炎化繊維束を、単位幅当たりの繊度が1920dtex/mmのシート形状の繊維束とした。大気圧プラズマ装置AP−T03−S230(積水化学工業株式会社)のプラズマ処理室内への導入ガスとして窒素を用い、75L/minで導入した。シート形状の繊維束のシート面の垂直方向から、プラズマガスが繊維束に吹き付けられるように、プラズマ装置のプラズマガスの噴出口を配置した状態で、出力375Wで、0.5秒間、該繊維束をプラズマ処理した。次いで、プラズマ処理された繊維束を、実施例1と同様にして加熱処理して、炭素繊維束を得た。実施例1と同様の方法で測定して得られた結果を表1に記載した。
【0081】
[実施例3]
プラズマ処理室内への導入ガスとして、窒素:酸素=99.99:0.0100(体積%)の混合ガスを用い75L/minで導入したこと以外は、実施例2と同様の方法により、耐炎化繊維束のプラズマ処理を行った。これら以外は実施例1と同様にして、炭素繊維束を得て、各測定を行った。測定結果を表1に記載した。
【0082】
[実施例4]
プラズマ処理室内への導入ガスとして窒素:酸素=99.90:0.1000(体積%)の混合ガスを用いたこと以外は、実施例2と同様の方法により、耐炎化繊維束のプラズマ処理を行った。これら以外は実施例1と同様にして、炭素繊維束を得て、各測定を行った。測定結果を表1に記載した。
【0083】
[実施例5]
実施例1と同様にして得られた耐炎化繊維束を、単位幅当たりの繊度が4800dtex/mmのシート形状の繊維束とした。2台の大気圧プラズマ装置を、それぞれ、耐炎化繊維束の両側に設置し、該繊維束のシート面の垂直方向から、プラズマガスが繊維束に吹き付けられるように、プラズマガスの噴出口を配置した。一方のプラズマ装置を用いて、導入ガスとしての窒素を120L/min、酸素を0.012L/minで導入して、大気圧プラズマ装置のプラズマガスの噴出口と繊維束との間の距離dを1.0mmとし、大気圧プラズマ装置の出力を600Wとして、プラズマガスを繊維束に0.5秒間接触させ、プラズマ処理した。次いで、他方のプラズマ装置を用いて、該繊維束の反対側のシート面の垂直方向から、前記と同じ処理条件で、、プラズマガスを該繊維束に接触させてプラズマ処理した。
【0084】
このようにしてプラズマ処理された耐炎化繊維束を用いて、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。また、プラズマ処理された耐炎化繊維束を用いて、実施例1と同様の処理により炭素繊維束を得て、樹脂含浸ストランド特性を測定した。各測定結果を表2に記載した。
【0085】
[実施例6〜9]
プラズマガスの噴出口と耐炎化繊維束との距離dを、表2に記載の通りとしたこと以外は、実施例5と同様にして、プラズマ処理を行った。このようにしてプラズマ処理された耐炎化繊維束を用いて、実施例1と同様にして吸光度を測定した。測定結果を表2に記載した。また、表2には比較として比較例1の結果も記載した。
【0086】
[実施例10〜16]
実施例1と同様にして得られた耐炎化繊維束をシート形状の繊維束とし、プラズマ処理工程を通過させる際の耐炎化繊維束の単位幅当たりの繊度を、表3に記載の通りとしたこと以外は、実施例5と同様にして、プラズマ処理を行った。このようにしてプラズマ処理された耐炎化繊維束を用いて、実施例1と同様にして吸光度を測定した。また、実施例13については、プラズマ処理された耐炎化繊維束を用いて、実施例1と同様の加熱処理により炭素繊維束を得て、樹脂含浸ストランド特性を測定した。各測定結果を表3に記載した。
【0087】
[実施例17〜21]
実施例1と同様にして得られた耐炎化繊維束をシート形状の繊維束とし、該耐炎化繊維束の片側のみに大気圧プラズマ装置を設置して、該繊維束の片方一方向からのみ、プラズマガスを繊維束に接触させた。さらに、プラズマ処理工程を通過する際の耐炎化繊維束の単位幅当たりの繊度を表3に記載の通りとした。それ以外は、実施例10と同様の方法により、プラズマ処理を行った。このようにしてプラズマ処理された耐炎化繊維束を用いて、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。また、実施例18については、プラズマ処理された耐炎化繊維束を用いて、実施例1と同様の処理により炭素繊維束を得て、樹脂含浸ストランド特性を測定した。各測定結果を表3に記載した。
【0088】
[実施例22]
実施例1と同様にして得られた耐炎化繊維束をシート形状の繊維束とし、プラズマ処理時間を1秒間としたこと以外は、実施例18と同様の処理により、プラズマ処理を行った。このようにしてプラズマ処理された耐炎化繊維束を用いて、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。測定結果を表3に記載した。
【0089】
[実施例23〜28]
実施例1と同様にして得られた耐炎化繊維束をシート形状の繊維束とし、プラズマ処理室内への導入ガスとして窒素と酸素の混合ガスを用い、流量を表4に記載の通りとしたこと以外は、実施例5と同様の処理により、プラズマ処理を行った。このようにしてプラズマ処理された耐炎化繊維束を用いて、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。測定結果を表4に記載した。
【0090】
実施例27、28ではプラズマの発生が不安定になっている様子が観察された。また、表4には、比較として比較例1の結果を記載した。
【0091】
[実施例29]
実施例1と同様にして得られた耐炎化繊維束をシート形状の繊維束とし、窒素雰囲気中、最高温度700℃で緊張下に加熱し前炭素化繊維束を得た。次いで、該前炭素化繊維束を用いて、実施例5と同様にしてプラズマ処理を行った。このようにしてプラズマ処理された前炭素化繊維束を用いて、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。測定結果を表5に記載した。
【0092】
[実施例30〜33]
プラズマガスの噴出口と繊維束との間の距離dを、表6に記載の条件とした以外は、実施例29と同様の処理により、プラズマ処理を行った。このようにしてプラズマ処理された前炭素化繊維束を用いて、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。測定結果を表5に記載した。
【0093】
[比較例2]
実施例29と同様にして得られた前炭素化繊維束を用い、プラズマ処理を行わずに、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。測定結果を表5に記載した。
【0094】
[実施例34〜40]
実施例29と同様の方法で前炭素化繊維束を得た後、この前炭素化繊維束について、プラズマ処理工程を通過する際の前炭素化繊維束の単位幅当たりの繊度を、表6に記載の通りとしたこと以外は、実施例10と同様の条件でプラズマ処理を行った。このようにしてプラズマ処理された前炭素化繊維束を用いて、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。測定結果を表6に記載した。表6には比較として比較例2の結果を記載した。また、実施例37及び比較例2については、分散試験の結果を表6に記載した。
【0095】
[実施例41〜45]
実施例29と同様の方法で前炭素化繊維束を得た後、この前炭素化繊維束について、プラズマ処理工程を通過する際の前炭素化繊維束の単位幅当たりの繊度を、表6に記載の通りとしたこと以外は、実施例17と同様の条件で、プラズマ処理された前炭素化繊維束を得た。このようにしてプラズマ処理された前炭素化繊維束を用いて、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。測定結果を表6に記載した。また、実施例42については、分散試験の結果を記載した。
【0096】
[実施例46]
実施例29と同様の方法で前炭素化繊維束を得た後、この前炭素化繊維束について、プラズマ処理時間を1秒間としたこと以外は、実施例22と同様の条件で、プラズマ処理された前炭素化繊維束を得た。このようにしてプラズマ処理された前炭素化繊維束を用いて、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。測定結果を表6に記載した。
【0097】
[実施例47〜52]
実施例29と同様の方法で得た前炭素化繊維束を用いて、プラズマ処理室内への導入ガスとしての窒素と酸素の流量を表7に記載の通りとしたこと以外は、実施例34と同様の条件で、プラズマ処理された前炭素化繊維束を得た。このようにしてプラズマ処理された前炭素化繊維束を用いて、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。測定結果を表7に記載した。また、表7には比較(前炭素化繊維束がプラズマ処理されていない例)として比較例2の結果を記載した。
【0098】
[実施例53〜56]
実施例29と同様の方法で得た前炭素化繊維束を用いて、プラズマ処理時間を表8に記載の通りとしたこと以外は、実施例46と同様の処理を行って、プラズマ処理された前炭素化繊維束を得た。このようにしてプラズマ処理された前炭素化繊維束の繊維表面を走査型電子顕微鏡で観察して、繊維表面100μm2当りに存在する大きさが1μm以上下の付着物の数をカウントして、その数値を「異物量」として、表8に掲載した。
【0099】
[比較例3]
実施例29と同様の方法で得た前炭素化繊維束に、プラズマ処理を行わず、実施例53と同様の方法により「異物量」を測定した。測定結果を表8に掲載した。
【0100】
[実施例57〜63]
実施例5と同様にして得られた、単位幅当たりの繊度4800dtex/mmのシート形状の耐炎化繊維束と、光化学実験用エキシマ光(172nm)照射ユニット(ウシオ電機(株))を用いて、該耐炎化繊維束と紫外線ランプとの距離、及び紫外線処理の時間を表9に記載の通りとして、該耐炎化繊維束を紫外線処理した。紫外線処理後の耐炎化繊維束を用いて、実施例1と同様の方法により吸光度を測定した。測定結果を表9に記載した。また、紫外線処理された耐炎化繊維束、および紫外線処理された耐炎化繊維束を用いて実施例29と同様の方法で処理して得た前炭素化繊維束について、分散試験を行った。評価結果を表9に記載した。また、表9には比較として比較例1の結果を記載した。
【0101】
[比較例4〜6]
これらの比較例は、オゾンガスのみを用いて繊維束の表面上の付着物を除去する場合は、除去効率が悪いことを示すものである。
【0102】
実施例5と同様にして得られた、単位幅当たりの繊度4800dtex/mmのシート形状の耐炎化繊維束を用いた。オゾン発生器(OZONAIZER−SG−01A、住友精密工業(株))を用いて濃度100g/Lのオゾンガスを満たした処理室内に、該耐炎化繊維束を通過させた。繊維束が処理室内に滞在して、耐炎化繊維束がオゾンガスに接触している時間は、表10に記載の通りとした。前記オゾン処理された耐炎化繊維束について、実施例1と同様の方法で測定した吸光度を表10に記載した。比較例4〜6においては、繊維表面の付着物を、実施例1〜63の場合と同程度に除去するために、長時間が必要であった。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
【表5】
【0108】
【表6】
【0109】
【表7】
【0110】
【表8】
【0111】
【表9】
【0112】
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の炭素繊維束は、航空機やロケットなどの航空・宇宙用の材料、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣竿などのスポーツ用品の材料、船舶、自動車などの運輸機械の材料、携帯電話やパソコンの筐体等の電子機器部品の材料や、燃料電池の電極の材料を含む多くの分野で使用可能である。