特許第5684172号(P5684172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5684172二次電池状態検出装置および二次電池状態検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5684172
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】二次電池状態検出装置および二次電池状態検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20060101AFI20150219BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20150219BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20150219BHJP
   B60R 16/04 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
   G01R31/36 A
   H01M10/48 P
   H02J7/00 Q
   B60R16/04 W
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-47442(P2012-47442)
(22)【出願日】2012年3月3日
(65)【公開番号】特開2013-181928(P2013-181928A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2013年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130247
【弁理士】
【氏名又は名称】江村 美彦
(74)【代理人】
【識別番号】100167863
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 恵
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悦藏
(72)【発明者】
【氏名】杉村 竹三
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 勇一
【審査官】 菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−244179(JP,A)
【文献】 特開2007−179968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
B60R 16/04
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されている二次電池の状態を検出する二次電池状態検出装置において、
エンジンの停止時において前記二次電池の内部抵抗の値を測定する測定手段と、
放電電流によって前記二次電池の電解液に生じるイオンの拡散に起因する拡散抵抗の時間的変化を示す情報を複数の放電電流値に関して格納する格納手段と、
前記エンジンの始動時においてスタータモータに流れる電流と、前記エンジンを始動するために要する時間とを測定し、前記格納手段に格納されている対応する放電電流値に関する情報に前記時間を適用することで拡散抵抗の値を推定する推定手段と、
前記測定手段によって測定された前記内部抵抗の値に、前記推定手段によって推定された前記拡散抵抗の値を加算して得られる抵抗値と、前記エンジンを始動する際に流れる始動電流と、前記二次電池の始動前電圧とから、前記エンジンの始動に要する電圧である始動電圧を算出する算出手段と、
を有することを特徴とする二次電池状態検出装置。
【請求項2】
前記格納手段は、所定の温度における前記拡散抵抗の時間的変化を示す情報を複数の放電電流値に関して格納しており、
前記推定手段は、前記格納手段に格納されている対応する放電電流値に関する情報に前記時間を適用することで推定した前記拡散抵抗の値に対して、その時点における前記二次電池の温度に基づいて補正を行うことを特徴とする請求項1に記載の二次電池状態検出装置。
【請求項3】
前記推定手段は、過去のエンジン始動時おいて前記スタータモータに流れた電流と、前記エンジンを始動するために要した時間を複数回測定し、これらの平均値に基づいて前記拡散抵抗の値を推定することを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池状態検出装置。
【請求項4】
前記推定手段は、過去のエンジン始動時おいて前記スタータモータに流れた電流として、前記エンジンのクランキング中に、突入電流を除いて最も電圧が低下する最大トルクポイントの電流を用いることを特徴とする請求項3に記載の二次電池状態検出装置。
【請求項5】
車両に搭載されている二次電池の状態を検出する二次電池状態検出方法において、
エンジンの停止時において前記二次電池の内部抵抗の値を測定する測定ステップと、
放電電流によって前記二次電池の電解液に生じるイオンの拡散に起因する拡散抵抗の時間的変化を示す情報を複数の放電電流値に関して格納手段に格納する格納ステップと、
前記エンジンの始動時においてスタータモータに流れる電流と、前記エンジンを始動するために要する時間とを測定し、前記格納手段に格納されている対応する放電電流値に関する情報に前記時間を適用することで拡散抵抗の値を推定する推定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定された前記内部抵抗の値に、前記推定ステップにおいて推定された前記拡散抵抗の値を加算して得られる抵抗値と、前記エンジンを始動する際に流れる始動電流と、前記二次電池の始動前電圧とから、前記エンジンの始動に要する電圧である始動電圧を算出する算出ステップと、
を有することを特徴とする二次電池状態検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池状態検出装置および二次電池状態検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、二次電池に略矩形形状のパルス放電を行わせ、そのときの応答電圧をサンプリングしてこれを直交する矩形波成分に展開し、得られた係数と電流値から二次電池の擬似インピーダンスを算出し、この擬似インピーダンスに基づいて二次電池の劣化を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−284537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、パルス放電を長時間続けると二次電池の充電レベルが低下してしまう。また、長時間放電させるためには容量が大きい抵抗素子を使用する必要があることから装置のサイズが大きくなる。これらの理由により、パルス放電の時間は短時間に限られる。
【0005】
ところで、二次電池の抵抗には、図6に示すような種類のものが存在する。すなわち、導体抵抗、正・負極反応抵抗、および、拡散抵抗である。ここで、導体抵抗と正・負極反応抵抗は二次電池の劣化に応じて増加する。拡散抵抗は、二次電池の劣化の影響は受けない。
【0006】
二次電池の内部抵抗を測定する最も重要な目的は、二次電池電池の劣化度を検知することにある。内部抵抗を測定する際の放電時間を、図6に示す劣化判定に適した範囲に設定することで精度のよい劣化度検知が実現可能である。
【0007】
一方、エンジンを始動する際には、内部抵抗を測定する場合よりも長時間(図6に示すエンジン始動時の放電時間)に亘って放電時間が継続することから、図6に示すように拡散抵抗の分だけ内部抵抗は増加する。
【0008】
エンジン始動電圧の推定を目的として、エンジン始動時の電流、電圧応答から内部抵抗を測定する手法は多々考案されているが、電池の劣化度が正しく検知できなくなることや、エンジン始動時以外は内部抵抗が測定できないなどの問題があった。
【0009】
そこで、本発明は二次電池の劣化度を正確に検出しつつ、エンジンを始動可能か否かも正確に判定することが可能な二次電池状態検出装置および二次電池状態検出装置方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、車両に搭載されている二次電池の状態を検出する二次電池状態検出装置において、エンジンの停止時において前記二次電池の内部抵抗の値を測定する測定手段と、放電電流によって前記二次電池の電解液に生じるイオンの拡散に起因する拡散抵抗の時間的変化を示す情報を複数の放電電流値に関して格納する格納手段と、前記エンジンの始動時においてスタータモータに流れる電流と、前記エンジンを始動するために要する時間とを測定し、前記格納手段に格納されている対応する放電電流値に関する情報に前記時間を適用することで拡散抵抗の値を推定する推定手段と、前記測定手段によって測定された前記内部抵抗の値に、前記推定手段によって推定された前記拡散抵抗の値を加算して得られる抵抗値と、前記エンジンを始動する際に流れる始動電流と、前記二次電池の始動前電圧とから、前記エンジンの始動に要する電圧である始動電圧を算出する算出手段と、を有することを特徴とする。
このような構成によれば、二次電池の劣化度を正確に検出しつつ、エンジンを始動可能か否かも正確に判定することが可能となる。
【0011】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記格納手段は、所定の温度における前記拡散抵抗の時間的変化を示す情報を複数の放電電流値に関して格納しており、前記推定手段は、前記格納手段に格納されている対応する放電電流値に関する情報に前記時間を適用することで推定した前記拡散抵抗の値に対して、その時点における前記二次電池の温度に基づいて補正を行うことを特徴とする。
【0012】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記推定手段は、過去のエンジン始動時おいて前記スタータモータに流れた電流と、前記エンジンを始動するために要した時間を複数回測定し、これらの平均値に基づいて前記拡散抵抗の値を推定することを特徴とする。
【0013】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記推定手段は、過去のエンジン始動時おいて前記スタータモータに流れた電流として、前記エンジンのクランキング中に、突入電流を除いて最も電圧が低下する最大トルクポイントの電流を用いることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、車両に搭載されている二次電池の状態を検出する二次電池状態検出方法において、エンジンの停止時において前記二次電池の内部抵抗の値を測定する測定ステップと、放電電流によって前記二次電池の電解液に生じるイオンの拡散に起因する拡散抵抗の時間的変化を示す情報を複数の放電電流値に関して格納手段に格納する格納ステップと、前記エンジンの始動時においてスタータモータに流れる電流と、前記エンジンを始動するために要する時間とを測定し、前記格納手段に格納されている対応する放電電流値に関する情報に前記時間を適用することで拡散抵抗の値を推定する推定ステップと、前記測定ステップにおいて測定された前記内部抵抗の値に、前記推定ステップにおいて推定された前記拡散抵抗の値を加算して得られる抵抗値と、前記エンジンを始動する際に流れる始動電流と、前記二次電池の始動前電圧とから、前記エンジンの始動に要する電圧である始動電圧を算出する算出ステップと、を有することを特徴とする。
このような方法によれば、二次電池の劣化度を正確に検出しつつ、エンジンを始動可能か否かも正確に判定することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、二次電池の劣化度を正確に検出しつつ、エンジンを始動可能か否かも正確に判定することが可能な二次電池状態検出装置および二次電池状態検出装置方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る二次電池状態検出装置の構成例を示す図である。
図2図1に示す制御部の詳細な構成例を示すブロック図である。
図3】定常拡散における関係を示すフィックの第1法則を説明するための図である。
図4】放電電流および放電時間と拡散抵抗との関係を示す図である。
図5図1に示す実施形態において実行される処理の一例を説明するフローチャートである。
図6】各種内部抵抗の放電時間による変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
(A)実施形態の構成の説明
図1は、本発明の実施形態に係る二次電池状態検出装置を有する車両の電源系統を示す図である。この図において、二次電池状態検出装置1は、制御部10、電圧センサ11、電流センサ12、温度センサ13、および、放電回路15を主要な構成要素としており、二次電池14の状態を検出する。ここで、制御部10は、電圧センサ11、電流センサ12、および、温度センサ13からの出力を参照し、二次電池14の状態を検出する。電圧センサ11は、二次電池14の端子電圧を検出し、制御部10に通知する。電流センサ12は、二次電池14に流れる電流を検出し、制御部10に通知する。温度センサ13は、二次電池14自体または周囲の環境温度を検出し、制御部10に通知する。放電回路15は、例えば、直列接続された半導体スイッチと抵抗素子等によって構成され、制御部10によって半導体スイッチがオン/オフ制御されることにより二次電池14を間欠的に放電させる。制御部10は、間欠的な放電が実行されている際の電圧と電流から二次電池14の内部抵抗を求める。
【0019】
二次電池14は、例えば、正極(陽極板)に二酸化鉛、負極(陰極板)に海綿状の鉛、電解液として希硫酸を用いた液式鉛蓄電池等によって構成され、オルタネータ16によって充電され、スタータモータ18を駆動してエンジン17を始動するとともに、負荷19に電力を供給する。オルタネータ16は、エンジン17によって駆動され、交流電力を発生して整流回路によって直流電力に変換し、二次電池14を充電する。
【0020】
エンジン17は、例えば、ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジン等のレシプロエンジンまたはロータリーエンジン等によって構成され、スタータモータ18によって始動され、トランスミッションを介して駆動輪を駆動し車両に推進力を与えるとともに、オルタネータ16を駆動して電力を発生させる。スタータモータ18は、例えば、直流電動機によって構成され、二次電池14から供給される電力によって回転力を発生し、エンジン17を始動する。負荷19は、例えば、電動ステアリングモータ、デフォッガ、イグニッションコイル、カーオーディオ、および、カーナビゲーション等によって構成され、二次電池14からの電力によって動作する。
【0021】
図2は、図1に示す制御部10の詳細な構成例を示す図である。この図に示すように、制御部10は、CPU(Central Processing Unit)10a、ROM(Read Only
Memory)10b、RAM(Random Access Memory)10c、タイマ10d、通信部10e、I/F(Interface)10fを有している。ここで、CPU10aは、ROM10bに格納されているプログラム10baに基づいて各部を制御する。ROM10bは、半導体メモリ等によって構成され、プログラム10ba等を格納している。RAM10cは、半導体メモリ等によって構成され、プログラム10baを実行する際に生成されるパラメータ10caを格納する。タイマ10dは、時間を計時して出力する。通信部10eは、他の装置(例えば、図示しないECU(Engine Control Unit))等に通信線を介して接続され、他の装置との間で情報を授受する。I/F10fは、電圧センサ11、電流センサ12、および、温度センサ13から供給される信号をデジタル信号に変換して取り込むとともに、放電回路15に駆動電流を供給してこれを制御する。
【0022】
(B)実施形態の概略の動作の説明
つぎに、図3〜5を参照して、実施形態の概略の動作について説明する。本実施形態では、エンジン17を始動可能な二次電池14の電圧である始動電圧を求める。なお、始動電圧は、以下の式(1)によって求めることができる。
【0023】
始動電圧=始動前電圧+始動電流×内部抵抗 ・・・(1)
【0024】
ここで、始動前電圧は、スタータモータ18に通電する前の二次電池14の電圧であり、始動電流はスタータモータ18が回転中に流れる電流であり、内部抵抗は二次電池14の内部の抵抗成分である。なお、内部抵抗は、例えば、エンジン17が停止中に、放電回路15によって二次電池14を間欠的にパルス放電させ、その時の電圧および電流に基づいて測定した値に対して、後述する方法によって求めた拡散抵抗を加算することで得ることができる。また、始動電流としては、エンジン17のクランキング中に、突入電流を除いて最も電圧が低下するポイント、すなわち、スタータモータ18のトルクが最も大きくなるポイント(以下「最大トルクポイント」と称する)を用いることが望ましい。なお、最大トルクポイントは、例えば、電流の極小値を検出することにより求めることができる。
【0025】
ところで、内部抵抗には、図6に示すように、導体抵抗、正・負反応抵抗、および、拡散抵抗が存在する。ここで、導体抵抗とは、電極板の電子伝導に係る抵抗である。正・負反応抵抗とは、電解液と活物質界面での電荷の移動抵抗である。また、拡散抵抗とは、二次電池の電解液中のイオン(鉛蓄電池の場合には硫酸イオン)が充放電反応に関与しており、放電時にはイオンが活物質に消費され電解液濃度は低下し、充電時には逆に放出され電解液濃度は上昇する。このため、電極付近においてイオンの濃度勾配が生じ、この濃度勾配に起因して生ずるのが拡散抵抗である。前述したように、エンジン17の始動時には、拡散抵抗が増加することから、パルス放電によって測定した内部抵抗よりも、拡散抵抗の分だけ内部抵抗値が増加する。このため、拡散抵抗を考慮しない場合、内部抵抗による電圧降下が、拡散抵抗の分だけ大きくなり、始動電圧Vsに基づく判定ではエンジン17を始動可能と判断したにも拘わらず、エンジン17を始動することができない場合が生ずる。
【0026】
そこで、本実施形態では、拡散抵抗を推定してこれを内部抵抗に加算し、得られた値に基づいて始動電圧を求める。これにより、正確な始動電圧を得ることができることから、始動の可否を正確に判定することができる。
【0027】
図3は、定常拡散における関係を示すフィックの第1法則を説明するための図である。この図において横軸は位置を示し、縦軸は濃度を示している。この図において、Jは拡散束または流束(flux)を表し、単位時間当たりに単位面積を通過するある性質の量と定義される。例えば、質量が通過する場合には次元は[ML−2−1]で与えられる。Dは拡散係数を示し次元は[L−1]であり、cは濃度を示し次元は[ML−3]であり、xは位置を示し次元は[L]である。ここで、拡散係数Dは温度によって定まり、濃度勾配dc/dxは放電時間と放電電流によって定まる。そこで、本実施形態では、エンジン17の始動時における二次電池14の放電電流、放電時間、および、温度に基づいて拡散抵抗を求める。
【0028】
図4は、所定の温度における放電時間および放電電流と、拡散抵抗との関係を示す図である。この図4に示すように、拡散抵抗は放電時間が長い程大きくなり、また、電流が小さい程大きくなる。本実施形態では、例えば、過去の複数回の始動時における放電電流の平均値と、放電時間の平均値とを求め、これに基づいて所定の温度(例えば、25℃)における拡散抵抗を図4に示すようなグラフから求め、この求めた拡散抵抗を、二次電池14の温度に応じて補正するとともに、補正によって得られた拡散抵抗の値をエンジン17の停止時に放電回路15によるパルス放電によって求めた内部抵抗の値に加算し、得られた値を前述した式(1)に代入することにより、正確な始動電圧を求める。
【0029】
つぎに、図5を参照して、本発明の実施形態の詳細な動作について説明する。図5図1に示す実施形態において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。図5に示すフローチャートは、エンジン17の停止時に、所定の周期で(例えば、数時間毎または数日毎に)実行される。このフローチャートの処理が実行されると、以下のステップが実行される。
【0030】
ステップS1では、CPU10aは、I/F10fを介して放電回路15をオン/オフ制御することで、二次電池14をパルス放電させる。具体的には、例えば、ミリセカンドオーダのパルス幅を有する矩形パルスにより、二次電池14を放電させる。もちろん、これ以外のパルス幅でもよいことはいうまでもない。
【0031】
ステップS2では、CPU10aは、パルス放電の際の電圧Vおよび電流Iを、電圧センサ11および電流センサ12により取得する。
【0032】
ステップS3では、CPU10aは、所定の回数パルス放電を実行したか否かを判定し、所定の回数パルス放電を実行したと判定した場合(ステップS3:Yes)にはステップS4に進み、それ以外の場合(ステップS3:No)にはステップS1に戻って前述の場合と同様の処理を繰り返す。例えば、パルス放電を数十回繰り返した場合には、ステップS4に進む。もちろん、これ以外の回数でもよいことはいうまでもない。
【0033】
以上のステップS1〜S3の処理により、放電回路15により二次電池14が所定の回数パルス放電されるとともに、その際の電圧Vと電流Iが電圧センサ11および電流センサ12によって測定される。
【0034】
ステップS4では、CPU10aは、ステップS1〜S3の繰り返し処理において測定されたパルス放電時の二次電池14の電圧Vおよび電流Iに基づいて、二次電池14の内部抵抗Rを求める。なお、このようにして求めた内部抵抗Rは、図6に示す導体抵抗および正・負反応抵抗に該当するものである。
【0035】
ステップS5では、CPU10aは、始動時放電電流Idを取得する。ここで、始動時放電電流とは、例えば、エンジン17の始動時において、二次電池14からスタータモータ18に供給される電流の平均値をいう。CPU10aは、エンジン17の始動時において始動時放電電流を電流センサ12により測定し、RAM10cのパラメータ10caとして格納しておく。そして、ステップS5では、CPU10aは、RAM10cに格納された始動時放電電流Idを取得する。なお、始動時放電電流Idとして、複数回の始動における放電電流の平均値を用いるようにしてもよい。
【0036】
ステップS6では、CPU10aは、始動時放電時間Tdを取得する。ここで、始動時放電時間とは、例えば、エンジン17の始動時において、二次電池14からスタータモータ18に電流が供給される時間をいう。具体的には、CPU10aは、エンジン17の始動時において始動時放電時間をタイマ10dにより測定し、RAM10cのパラメータ10caとして格納しておく。そして、ステップS6では、CPU10aは、RAM10cに格納された始動時放電時間Tdを取得する。なお、始動時放電時間Tdとして、複数回の始動における始動時間の平均値を用いるようにしてもよい。
【0037】
ステップS7では、CPU10aは、ステップS5,S6で取得した始動時放電電流Idおよび始動時放電時間Tdに基づいて、拡散抵抗Rdを算出する。具体的には、図4に示す、所定の温度(例えば、25℃)における、放電電流および放電時間と拡散抵抗との関係を示すテーブル、または、関係式をRAM10cのパラメータ10caとして格納しておき、ステップS5,S6において取得した始動時放電電流Idと始動時放電時間Tdに対応する拡散抵抗Rdの値をテーブルまたは関係式から取得する。
【0038】
ステップS8では、CPU10aは、温度センサ13によって二次電池14自体またはその周辺の温度Tcを取得する。
【0039】
ステップS9では、CPU10aは、ステップS8で取得した温度Tcに基づいて、ステップS7で算出した拡散抵抗Rdの値を補正する。具体的には、温度Tcと拡散抵抗Rdとの関係を示すテーブルまたは関係式をRAM10cのパラメータ10caとして格納しておき、ステップS8で取得した温度Tcに基づいて、ステップS7で求めた拡散抵抗Rdの値を補正する。
【0040】
ステップS10では、CPU10aは、ステップS4で求めた内部抵抗Rの値に、ステップS9で温度補正がなされた拡散抵抗Rdの値を加算し、得られた値を内部抵抗Rとして新たに格納する。これにより、内部抵抗Rは、拡散抵抗Rdが加算された値となる。
【0041】
ステップS11では、CPU10aは、始動前電圧Vbを取得する。ここで、始動前電圧とは、エンジン17を始動する前の二次電池14の電圧をいう。CPU10aは、エンジン17の始動前の電圧を電圧センサ11により測定し、RAM10cのパラメータ10caとして格納しておく。そして、ステップS11では、CPU10aは、RAM10cに格納された始動前電圧Vbを取得する。なお、始動前電圧としては、例えば、直近の放電電流がほぼ0Aであるタイミングにおける電圧、あるいは、安定電圧推定値を用いることもできる。
【0042】
ステップS12では、CPU10aは、ステップS11で取得した始動前電圧Vbと、ステップS10において補正した拡散抵抗Rdが加算された内部抵抗Rと、ステップS5で取得した始動時放電電流Idに基づいて、始動電圧Vs(=Vb+R×Id)を求める。なお、このようにして求めた始動電圧Vsと、二次電池14の電圧に基づいて、エンジン17を始動可能か否か、あるいは、二次電池14の交換が必要か否かを判定することができる。このようにして得られた判定結果は、例えば、通信部10eを介して図示しない上位の装置であるECU等に送ることができる。
【0043】
以上の処理により、始動時においてスタータモータ18に流れる電流に起因して発生する拡散抵抗Rdを内部抵抗Rに加算し、得られた内部抵抗Rの値に基づいて始動電圧Vsを求めるようにしたので、始動電圧Vsを正確に求めることができる。
【0044】
また、以上の処理では、比較的変動が大きい温度を固定値とし、変動が小さい始動時放電電流と始動時放電時間に基づいて拡散抵抗を求め、求めた拡散抵抗を実測した温度に基づいて補正するようにしたので、計算を簡易化することで、処理を高速化することができる。
【0045】
さらに、以上の実施形態では、図6に示す、二次電池14の劣化の影響を受けない拡散抵抗Rdを除外した内部抵抗Rを求めるとともに、この内部抵抗Rに基づいて始動電圧の推定に適した内部抵抗を拡散抵抗との和(R+Rd)に基づいて算出するようにした。これにより、前者の内部抵抗Rを用いることにより二次電池14の劣化検知を正確に行うことができるとともに、拡散抵抗Rdを考慮した後者の内部抵抗(R+Rd)を用いることにより正確な始動電圧の推定の双方を両立することができる。
【0046】
(C)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、以上の実施形態では、内部抵抗Rをパルス放電によって求めるようにしたが、これ以外の方法によって求めるようにしてもよい。具体的には、例えば、交流電流を二次電池14に流し、そのときの電圧に基づいて内部抵抗を求めることも可能である。
【0047】
また、以上の実施形態では、温度Tcを所定の値で固定し、取得された始動時放電電流Idおよび始動時放電時間Tdに基づいて拡散抵抗Rdを求めるようにしたが、始動時放電電流Idまたは始動時放電時間Tdの一方を所定の値で固定し、これらの他方と温度Tcとの関係を示すテーブルまたは関係式に基づいて拡散抵抗Rdを求めた後に、固定値とされたパラメータに基づいて補正を行うようにしてもよい。より詳細には、始動時放電電流Idを所定の値で固定し、始動時放電時間Tdおよび温度Tcの関係を示すテーブルまたは関係式に基づいて拡散抵抗Rdを求め、求めた値を始動時放電電流Idの測定値に基づいて補正するようにしてもよい。あるいは、始動時放電時間Tdを所定の値で固定し、始動時放電電流Idおよび温度Tcの関係を示すテーブルまたは関係式に基づいて拡散抵抗Rdを求め、求めた値を始動時放電時間Tdの測定値に基づいて補正するようにしてもよい。さらに、以上では、1つのパラメータを固定するようにしたが、例えば、2つのパラメータを所定の値で固定して拡散抵抗Rdを求め、固定したパラメータの実測値に基づいて、拡散抵抗Rdを補正するようにしてもよい。
【0048】
また、始動時放電電流および始動時放電時間については、それぞれの車両において想定される最大の電流および時間を用いるようにしてもよい。そのような場合には、処理をさらに簡略化することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 二次電池状態検出装置
10 制御部
10a CPU(測定手段、推定手段、算出手段)
10b ROM
10c RAM
10d タイマ
10e 通信部
10f I/F
11 電圧センサ(測定手段)
12 電流センサ(測定手段)
13 温度センサ
14 二次電池
15 放電回路
16 オルタネータ
17 エンジン
18 スタータモータ
19 負荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6