【実施例】
【0051】
本実施例に用いた銅板は、長さ500mm×幅380mm×厚さ400μm及び200μmのタフピッチ圧延銅板である。厚さ400μmの銅板は内径1〜2mmのスルーホール用の穴を、穴面積総計が板面積の10%となる数の穴あけ加工(穴の位置は任意)を行ったものを用いた。また、厚さ200μmの銅板は2枚重ねで処理を行って片面粗化銅板とし、ピール試験に用いた。
【0052】
処理に用いた電気めっき液の組成は、硫酸銅90g/l、硫酸180g/l、塩酸60ppmである。助剤として、一般に光沢銅めっきに用いられる光沢剤及び抑制剤をメーカー指定量添加した。光沢剤・抑制剤の市販品の例としては、Rohm and Haas 社製の硫酸銅めっき光沢剤カパーグリームシリーズ、日本化学産業株式会社製のクッペライトシリーズ、ピロニッカシリーズ等が挙げられるが、これらの中からめっき槽方式、電極材質、製品の使用目的に応じて選択すればよい。
【0053】
<実施例1>
400μm銅板及び200μm銅板に対し、液温28℃、電流密度4.5A/dm
2で、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、電流密度1.4A/dm
2で、5分間、陰極処理を行って、表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を
図4に示す。主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下で、当該微細瘤状突起で実質的に全面が均一に覆われていることが分かる。クラスター状の瘤になっている部分も認められるが、当該部分の粒度及び高さは10μm以下であった。
また、表面粗さを、キーエンス社製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9510によって測定した。表面粗さRzは7.5μmであった。
なお、微細瘤状突起の形状は400μm銅板と200μm銅板で違いが認められなかった。
【0054】
この表面粗化銅板に市販の10mm幅セロハンテープを貼り付け、引き剥がし試験を行ったところ、微細瘤状突起の剥離はなく、セロハンテープの接着剤とセロハン界面が剥離し、テープの接着剤が表面粗化銅板上に残った。
【0055】
次に、200μm片面粗化銅板に、市販の0.1mm厚のFR−4ガラスエポキシプリプレグ(絶縁基板材料)を10枚積層し、電解銅箔とFR−4プリプレグをホットプレスする条件と同じ条件で加熱加圧して一体化し、銅板と絶縁板の積層板を得た。この積層板からサンプルを切出し、現品及び260℃溶融はんだ60秒間浸漬後のサンプルについてJIS−C6471に規定されたピール強度試験を行った。その結果を表1に示す。このピール強度は、メタルコア回路基板に要求されるメタルコアと絶縁基板の接着強度(1kN/m以上)を十分満足するものである。
【0056】
【表1】
【0057】
<実施例2>
400μm銅板及び200μm銅板に対し、液温24℃、電流密度4.5A/dm2で、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、電流密度2A/dm
2で、5分間、陰極処理行うことを1サイクルとし、これを2サイクル行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を
図5に示す。主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下で、当該微細瘤状突起で実質的に全面が均一に覆われていることが分かる。クラスター状の瘤になっている部分も認められるが、当該部分の粒度及び高さは10μm以下であった。
また、表面粗さを、キーエンス社製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9510によって測定した。表面粗さRzは11.0μmであった。
【0058】
この表面粗化銅板に市販の10mm幅セロハンテープを貼り付け、引き剥がし試験を行ったところ、微細瘤状突起の剥離はなく、セロハンテープの接着剤とセロハン界面が剥離し、テープの接着剤が表面粗化銅板上に残った。
【0059】
次に、200μm片面粗化銅板に、実施例1と同様にプリプレグ積層し、加熱加圧して、銅板と絶縁板の積層板を得た。この積層板について実施例1と同様にピール強度試験を行った。その結果を表2に示す。このピール強度は、メタルコア回路基板に要求されるメタルコアと絶縁基板の接着強度(1kN/m以上)を十分満足するものである。
【0060】
【表2】
【0061】
<実施例3>
400μm銅板及び200μm銅板に対し、液温32℃、電流密度2A/dm
2で、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行うことを1サイクルとし、これを2サイクル行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を
図6に示す。主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下で、当該微細瘤状突起で実質的に全面が均一に覆われていることが分かる。クラスター状の瘤になっている部分も認められるが、当該部分の粒度及び高さは10μm以下であった。
また、表面粗さを、キーエンス社製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9510によって測定した。表面粗さRzは15.0μmであった。
【0062】
この表面粗化銅板に市販の10mm幅セロハンテープを貼り付け、引き剥がし試験を行ったところ、微細瘤状突起の剥離はなく、セロハンテープの接着剤とセロハン界面が剥離し、テープの接着剤が表面粗化銅板上に残った。
【0063】
次に、200μm片面粗化銅板に、実施例1と同様にプリプレグ積層し、加熱加圧して、銅板と絶縁板の積層板を得た。この積層板について実施例1と同様にピール強度試験を行った。その結果、板全体の最小値が2.1kN/m、最大値が3.1kN/m、平均値が2.5kN/mであった。また、はんだ耐熱後のピール強度は、板全体の最小値が1.9kN/m、最大値が2.8kN/m、平均値が2.4kN/mであった。このピール強度は、メタルコア回路基板に要求されるメタルコアと絶縁基板の接着強度(1kN/m以上)を十分満足するものである。
【0064】
<実施例4>
400μm銅板及び200μm銅板に対し、液温22℃、電流密度2A/dm
2で、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行うことを1サイクルとし、これを2サイクル行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を
図7に示す。主表面での微細瘤状突起の粒度は5μm以下で、当該微細瘤状突起で実質的に全面が均一に覆われていることが分かる。クラスター状の瘤になっている部分も認められるが、当該部分の粒度及び高さは10μm以下であった。
また、表面粗さを、キーエンス社製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9510によって測定した。表面粗さRzは4.0μmであった。
【0065】
<実施例5〜7>
厚さ200〜400μmのコア用銅板に、ドリルによって、スリーホール用の直径3mmから5mmの穴を複数形成した。なお、基板の設計仕様によっては多数の穴が必要となるので、プレス機を用いてパンチ金型で打ち抜いてもよい。
その後、本発明の製造方法により穴の内面を含む表面に微細瘤状突起を形成した。後述する比較例での製造方法で形成したものに比べ、銅板の主表面だけでなく穴の内面も含めて微細瘤状突起が均一に形成された穴あき表面粗化銅板を得ることができた。
図8〜10は夫々表面粗化銅板の表面状態を示すもので、上が主表面のSEM3000倍、中が穴内面のSEM3000倍、下が穴の縁部分のSEM125倍である。
【0066】
実施例5では、主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下、クラスター状となった部分の粒度及び高さは10μm以下であった。また、表面粗さRzは8.0μmであった。さらに、穴内面も粗化され、穴内面の瘤状突起の高さは15μm以下であった。
実施例6では、主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下、クラスター状となった部分の粒度及び高さは10μm以下であった。また、表面粗さRzは7.0μmであった。さらに、穴内面も粗化され、穴内面の瘤状突起の高さは10μm以下であった。
実施例7では、主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下、クラスター状となった部分の粒度及び高さは10μm以下であった。また、表面粗さRzは11.0μmであった。さらに、穴内面も粗化され、穴内面の瘤状突起の高さは5μm以下であった。
【0067】
このようにして得た穴あき表面粗化銅板に、ガラスエポキシプリプレグ(絶縁基板材料)を複数枚積層し、加熱加圧して一体化した。さらに、スルーホールの位置の絶縁基板材料部分を除去し、その周囲にメッキを行い、直径1mmのスルーホールのある回路基板を得た。
この完成品に高電圧試験(1000V)を行った結果、スルーホールとコア間の十分な絶縁性が保たれ、優れた性能を発揮した。また、ハンダ耐熱試験後も、スルーホールの回りでコアと樹脂との剥離やクラックは生じず、コアと樹脂との密着は良好であった。
【0068】
<実施例8>
実施例1〜4と同様に表面粗化銅板を作製し、主表面に微細瘤状突起を形成した。その後、銅板にスルーホール用の穴を加工形成した。さらに実施例5と同様に、絶縁基板を積層した回路基板を得た。
この実施例では、ドリル或いはパンチによる穴あけ加工時に、穴の周囲で先に粗化した部分がつぶれたり、瘤状粒子が剥離し、見かけが不均一になることもあった。また、穿孔時に加工油が付着し、再洗浄を必要とすることもあった。さらに、穴の内面は粗化していないので、穴の内面で樹脂との密着性が弱いことも考えられたが、主表面での密着が良好であるので、絶縁性に問題なく使用できた。
【0069】
<比較例1>
前記銅板に対し、液温25℃、電流密度8.5A/dm
2で、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この場合、板中央部は良好に粗化されるが、電流密度が高すぎるため板端部で電解による溶解が進みすぎ、かつ、めっきが強くかかりすぎることで極度に白化して、板全面でムラが生じ、メタルコアとして使用できないものであった。
【0070】
<比較例2>
前記銅板に対し、液温25℃、電流密度0.9A/dm
2で、10分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を
図11に示す。この場合、全体に粗化が進まず、微細瘤状突起の形成が十分でなかった。主表面での表面粗さRzは2.5μmであった。
【0071】
<比較例3>
前記銅板に対し、液温25℃、電流密度4.5A/dm
2で、11分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この場合、板中央部は良好に粗化されるが、板端部やスルーホール用穴で電解による溶解が進みすぎ、かつ、めっきが強くかかりすぎることで極度に白化して、板全面でムラが生じ、メタルコアとして使用できないものであった。
【0072】
<比較例4>
前記銅板に対し、液温25℃、電流密度4.5A/dm
2で、2.5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、電流密度2A/dm
2で、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を
図12に示す。この場合、全体に粗化が進まず、微細瘤状突起の形成が十分でなかった。主表面での表面粗さRzは2.0μmであった。
【0073】
<比較例5>
前記銅板に対し、液温35℃、電流密度4.5A/dm
2で、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、電流密度1.4A/dm
2で、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この場合、銅板表面に黒色の亜酸化銅による焼けが発生した。この粗化銅板に市販の10mm幅セロハンテープを貼り付け、引き剥がし試験を行ったところ、黒色部が隔離し、メタルコアとして使用できないものであった。
【0074】
<比較例6>
前記銅板に対し、液温17℃、電流密度4.5A/dm
2で、10分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を
図13に示す。この場合、全体に粗化が進まず、微細瘤状突起が形成されていない。このためメタルコアとして使用できないものであった。主表面での表面粗さRzは1.8μmであった。
【0075】
<比較例7>
厚さ200〜400μmのコア用銅板に、ドリルによって、スルーホール用の直径3mmから5mmの穴を複数形成した。その後、従来の電解メッキ法により、穴の内面を含む表面に数μmの瘤状突起を形成した。この銅板の表面状態を
図14に示す。上が主表面のSEM3000倍、中が穴内面のSEM500倍、下が穴内面のSEM125倍となっている。主表面での微細瘤状突起の粒度は5μm以下、クラスター状となった部分の粒度及び高さは10μm以下であった。また、表面粗さRzは10.0μmであった。
但し、この銅板では、主表面に比べて穴内面の瘤状突起の大きさすなわち凹凸の差が20μm以上となっている。電解メッキの条件調整では、両者を含めて均一な微細瘤状突起を形成することができなかった。
【0076】
この原因は、従来の電解メッキ法では電流密度が大きいため、電極と向かい合った銅板の面の中でも、穴が貫通している場所では、電極からの大電流が総表面積の小さい穴内面へ集中するためである。
その後、実施例5と同様に、樹脂基板を密着させ回路基板を作製したところ、高電圧試験(1000V)でスルーホールとコア間の絶縁性が保たれない場合があった。
分析すると、密着性に問題があることに加え、樹脂の絶縁基板積層時に銅微粒子突起がプレス圧によって剥がれて樹脂中に侵入し、穴とコアとの絶縁距離が十分取れていなかったため、絶縁性を悪化させたことがわかった。すなわち、従来の電解メッキ法により、穴のあいた粗化銅板を作製すると、このような問題があることが明確となった。
【0077】
以上のように、特にスルーホール用の穴を持つメタルコア銅板では、銅板に穴を形成した後で、本発明の方法により表面に微細瘤状突起を形成することにより、表面及び穴の内面に均一な粗化処理が行え、最適であることが明らかとなった。