特許第5684328号(P5684328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5684328表面粗化銅板の製造方法及び表面粗化銅板
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5684328
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】表面粗化銅板の製造方法及び表面粗化銅板
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/34 20060101AFI20150219BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
   C25D5/34
   H05K1/09 A
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-120000(P2013-120000)
(22)【出願日】2013年6月6日
(62)【分割の表示】特願2009-502576(P2009-502576)の分割
【原出願日】2008年3月3日
(65)【公開番号】特開2013-177695(P2013-177695A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2013年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2007-52568(P2007-52568)
(32)【優先日】2007年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 元
(72)【発明者】
【氏名】石浜 貞夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 清旭
(72)【発明者】
【氏名】今井 高広
(72)【発明者】
【氏名】大吉 利弘
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−273790(JP,A)
【文献】 特開2002−332544(JP,A)
【文献】 特開昭55−058389(JP,A)
【文献】 特開平03−202500(JP,A)
【文献】 特開2001−210932(JP,A)
【文献】 特開2005−072184(JP,A)
【文献】 特開昭58−151465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅板の表面に微細瘤状突起を形成して銅板の表面を粗化する表面粗化銅板の製造方法であって、
電気銅めっき液中に、同極の電極を対向配置し、
前記電極間に銅板を配置して、
電気銅めっき液の温度を18〜32℃に保った状態で、前記銅板を陽極、前記電極を陰極として定電流を1〜8A/dmの電流密度で3〜10分間通電させる電気分解により銅板の両面に銅微粒子を生成させる陽極処理と、その陽極処理の後に、前記銅板を陰極、前記電極を陽極として定電流を1〜8A/dmの電流密度で3〜10分間通電させる電気銅めっきにより前記銅微粒子を銅板の表面に定着させる陰極処理とを1サイクルとして、前記陽極処理と陰極処理とを1サイクル以上行う
ことで、前記微細瘤状突起を形成することを特徴とする表面粗化銅板の製造方法。
【請求項2】
最初の陽極処理の前に、電気銅めっき液の中で、前記銅板を陰極、前記電極を陽極として銅めっき処理を行う
ことを特徴とする請求項1記載の表面粗化銅板の製造方法。
【請求項3】
電気銅めっき液中に、1対の同極電極を対向配置し、
前記同極電極の間に銅板を配置して、
前記銅板を前記同極電極に対して移動させないまま前記陽極処理と陰極処理を1サイクル以上行う
ことを特徴とする請求項1又は2記載の表面粗化銅板の製造方法。
【請求項4】
2枚の銅板を重ね合わせて1枚状にした複合銅板に、請求項1乃至3の何れかに記載の方法で陽極処理と陰極処理を施し、
複合銅板を1枚ずつの銅板に分離して片面が粗化された2枚の表面粗化銅板を得る
ことを特徴とする表面粗化銅板の製造方法。
【請求項5】
陽極処理と陰極処理とを行う前に予め銅板の所定の位置に所定の穴を形成する
ことを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の表面粗化銅板の製造方法。
【請求項6】
所定の位置に所定の穴が形成され、請求項1乃至の何れかに記載の表面粗化銅板の製造方法によって製造された表面粗化銅板であって、
銅板表面の微細瘤状突起の粒径が10μm以下であり、表面粗さRzが3μm〜20μmである
ことを特徴とする表面粗化銅板。
【請求項7】
穴の内面が粗化され、穴の内面の微細瘤状突起の高さが20μm以下である
ことを特徴とする請求項に記載の表面粗化銅板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルコア回路基板のメタルコア等に使用される表面粗化銅板の製造方法と表面粗化銅板とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタルコア回路基板は、絶縁基板の内部に熱伝導性に優れた金属板を埋め込んで、均熱性及び放熱性を高めたものである。金属板の埋め込みにより基板の熱的特性が向上することで、同じ回路パターンでも大電流を流すことができ、回路や周辺部品の小型化を図ることができる。
【0003】
図15はメタルコア回路基板の一例を示す断面図である。図において、11は絶縁基板(プリプレグを加圧加熱して硬化させたもの)、12は絶縁基板11内に埋め込まれた金属板、13は絶縁基板11の表面に形成された回路パターン、14はスルーホールめっき、15はソルダーレジストである。
【0004】
メタルコア回路基板のコアとなる金属板としては、銅板、銅合金板、アルミ板又はアルミ合金板が使用されるが、熱伝導性の点で銅板が好ましい。メタルコア回路基板が十分な均熱性、放熱性を発揮するためには、コアを銅板とした場合でも100〜500μm程度の厚さが選定される。
【0005】
メタルコア回路基板は、部品実装工程で、リフロー炉等によるハンダ付けが行われるが、その際の加熱によってコア金属板12と絶縁基板11の界面に剥離が生じないことが求められる。また、回路使用時に発生する熱に対しても、コア金属板と絶縁基板が剥離しない十分な接着性(密着性)、耐熱性が求められる。
【0006】
一般に、回路基板の回路導体として用いられている銅箔は、電解めっきにより片面が粗化面、反対面が光沢面となっている電解銅箔である。電解銅箔は通常、電解めっきにより生成した粗化面に、さらに銅めっき等を施して微細瘤状突起を成長させることにより製造される。図16に回路基板用電解銅箔の粗化面の電子顕微鏡写真を示す。電解めっきにより製造できる銅箔の厚さは、35〜70μm程度であり、それより厚い銅箔はめっき時間が長くなりすぎて著しいコストとなるため、使用できない。さらに、メタルコア回路基板のコアは両面が粗化面となっている必要があり、電解銅箔をコア金属板として使用するためには、光沢面に対しても工程を追加して粗化処理を行う必要が生じることから、さらにコスト高になることは避けられない。
【0007】
また、メタルコア回路基板のコア金属板には、両面の回路パターンを導通させるスルーホールを形成するための穴が多数あけられることが多い。穴のない銅板に両面粗化処理を行った後に、穴あけ加工を行うことは、穴あけ加工時に粗化面を損傷させてしまう可能性が高く、かつ穴あけ加工時に加工油が付着するため再洗浄しなければならない場合があることを考慮すると、コア用銅板にスルーホール用の穴を形成した後で、両面粗化処理を行うことが望ましい。
【0008】
以上の理由から、メタルコア回路基板のコア金属板として電解銅箔を使用することはきわめて困難である。
【0009】
メタルコア回路基板のコアに好適な厚さ100μm程度以上の銅板として、ロール圧延により比較的安価に製造できる圧延銅板を使用できれば、大幅なコスト低減が見込める。しかし、圧延銅板は両面が平滑であることから、銅板を絶縁基板内に埋め込む場合には、絶縁基板材料(ガラスエポキシ基板)との接着性を高めるため、両面に粗化処理を施す必要がある。
【0010】
銅板の表面を粗化する手段としては、銅板表面をエッチングや化学処理によって粗化する方法があり、代表的なものとしては、メック株式会社のCZ処理が挙げられる。CZ処理は、2価銅化合物による酸化還元反応を利用して、銅板表面に銅エッチング粒子と有機窒素化合物皮膜を形成する方法で、JIS−C6471のピール強度で0.4〜0.8kN/m以上の値が得られるとされている。この程度のピール強度があれば、絶縁基板接着用の粗化処理として現行最低条件を満たす。
【0011】
他に、プリント回路基板用銅箔のように、銅板の表面に高電流密度での銅めっき処理により微細瘤状突起を形成する方法が公知である(例えば特許文献1参照)。微細瘤状突起はアンカー効果があるため、エッチングや化学処理よりも、絶縁基板材料との接着性を高めるのに極めて有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−8973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、圧延銅板の表面を粗化する場合、エッチングや化学処理による方法では電解銅箔に比べて非常に浅い粗化面しか得ることができず、電解銅箔に比してピール強度が低く、耐熱性においても電解銅箔並みの信頼性を得ることができない。また、エッチングによる方法は、処理回数に応じた多量の廃液が生じ、コスト的にも環境問題からも好ましくない。
【0014】
また、特許文献1に記載された銅箔の表面を銅めっき処理により粗化する方法は、高電流密度で銅めっき処理を行うため、銅めっき液の劣化が激しく、多量の銅めっき液を消費することから、コスト高になるという難点がある。
【0015】
また、電解銅箔は、回転するドラム電極に片面を接触させた状態でめっきを行うことにより製造されるため、銅箔の片面しか粗化されておらず、さらに光沢面を銅めっき処理により粗化する必要がある。このため銅箔の表面を銅めっき処理により粗化する方法は、銅板の両面粗化に適用することは困難である。
【0016】
本発明の目的は、電気銅めっき液が劣化し難く、スルーホール用の穴の有無に拘わらず銅板の両面を同時に粗化できる表面粗化銅板の製造方法及び表面粗化銅板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、銅板の表面に微細瘤状突起を形成して銅板の表面を粗化した表面粗化銅板の製造方法であって、
電気銅めっき液中に、同極の電極を対向配置し、その間に銅板を配置して、
電気銅めっき液の温度を18〜32℃に保った状態で、前記銅板を陽極、前記電極を陰極として定電流を1〜8A/dmの電流密度で3〜10分間通電させる電気分解により銅板の両面に銅微粒子を生成させる陽極処理と、その陽極処理の後に、前記銅板を陰極、前記電極を陽極として定電流を1〜8A/dmの電流密度で3〜10分間通電させる電気銅めっきにより前記銅微粒子を銅板の表面に定着させる陰極処理とを1サイクルとして、前記陽極処理と陰極処理とを1サイクル以上行うことで、前記微細瘤状突起を形成することを特徴とするものである。
【0018】
本発明の製造方法においては、陽極処理及び陰極処理を行う電気銅めっき液の中で、最初の陽極処理の前に、前記銅板を陰極、前記電極を陽極として板厚調整を目的とした銅めっき処理を行ってもよい。この処理を行う場合、板厚調整銅めっき処理後の板厚に対して粗化処理を行うことになる。
【0019】
本発明の製造方法においては、電気銅めっき液中に、1対の同極電極を対向配置し、この1対の同極電極の間に銅板を配置して、前記銅板を前記同極電極に対して移動させないまま前記陽極処理と陰極処理を1サイクル以上行うことでも、表面粗化銅板を製造することができる。
【0020】
本発明の製造方法においては、2枚の銅板を重ね合わせて1枚状にした複合銅板に、上記のいずれかの方法で陽極処理と陰極処理を施した後、複合銅板を1枚ずつの銅板に分離すれば、片面が粗化された2枚の表面粗化銅板を得ることもできる。
【0022】
本発明の製造方法においてさらに好ましい電気銅めっき液の温度は24〜30℃である。
本発明の製造方法においては、陽極処理と陰極処理とを行う前に予め銅板の所定の位置に所定の穴を形成することが好ましい。
【0023】
そして、本発明に係る表面粗化銅板は、所定の位置に所定の穴が形成され、上述した表面粗化銅板の製造方法によって製造された表面粗化銅板であって、銅板表面の微細瘤状突起の粒径が10μm以下であり、表面粗さRzが3μm〜20μmであることを特徴とする。この場合、穴の内面が粗化され、穴の内面の微細瘤状突起の高さが20μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電気銅めっき液の温度を18〜32℃に保った状態で、銅板を陽極、前記電極を陰極として定電流を1〜8A/dmの電流密度で3〜10分間通電させる電気分解により銅板の両面に銅微粒子を生成させる陽極処理を行った後、前記銅板を陰極、前記電極を陽極として定電流を1〜8A/dmの電流密度で3〜10分間通電させる電気銅めっきにより前記銅微粒子を銅板の表面に定着させる陰極処理を行うことで、銅板の両面に微細瘤状突起を形成して銅板の両面を粗化することができる。そして、前記陽極処理と陰極処理は同じ電気銅めっき液中で行うため、陽極処理時に銅板より銅イオンが供給され、陰極処理時に液中の銅イオンが消費されることで、各処理時の電流値を近づけることで処理液中の銅イオン濃度変化がきわめて少なくなることから、銅めっき液の劣化が進行し難く、銅めっき液を長時間にわたって使用することが可能となり、銅めっき液の使用量を少なくし、コストを削減することができる。陽極処理時と陰極処理時の電流値は同じであることが望ましいが、差がある場合でも通常の銅めっきに比べて銅イオンの消費をきわめて低く抑えることができる。また、銅板の両面やスルーホール用の穴の内面を同時に粗化できるため、メタルコア回路基板のメタルコアに好適な表面粗化銅板を容易に得ることができる。
【0025】
また、最初の陽極処理の前に、銅板を陰極、電極を陽極として銅めっき処理を行うと、微細瘤状突起が形成しやすくなると共に、銅板の厚さの調整を行える利点もある。
【0026】
また、2枚の銅板を合わせて1枚状にした複合銅板に、陽極処理と陰極処理を施した後、複合銅板を1枚ずつの銅板に分離すれば、片面が粗化された2枚の表面粗化銅板を得ることも可能である。このようにして得た片面粗化銅板は、粗化面の裏面に粗化が回りこむことがほとんどないので、裏面を平滑に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態を示す、(A)は平面図、(B)は(A)のB−B線断面図、(C)は(B)のC−C線断面図。
図2】本発明の他の一実施形態を示す、(A)は平面図、(B)は(A)のB−B線断面図。
図3】本発明のさらに他の一実施形態を示す、(A)は平面図、(B)は(A)のB−B線断面図。
図4】実施例1の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真。
図5】実施例2の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真。
図6】実施例3の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真。
図7】実施例4の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真。
図8A】実施例5の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、主表面を示す。
図8B】実施例5の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、穴の内面を示す。
図8C】実施例5の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、穴の縁部分を示す。
図9A】実施例6の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、主表面を示す。
図9B】実施例6の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、穴の内面を示す。
図9C】実施例6の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、穴の縁部分を示す。
図10A】実施例7の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、主表面を示す。
図10B】実施例7の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、穴の内面を示す。
図10C】実施例7の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、穴の縁部分を示す。
図11】比較例2の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真。
図12】比較例4の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真。
図13】比較例6の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真。
図14A】比較例7の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、主表面を示す。
図14B】比較例7の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、穴の内面を示す。
図14C】比較例7の表面粗化銅板の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真で、穴の縁部分を示す。
図15】メタルコア回路基板の一例を示す断面図。
図16】一般的なプリント回路基板用の電解銅箔の表面状態を示す走査電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<実施形態1>
図1は本発明の一実施形態を示す。図において、1は電解槽、2は電解槽1に収容された電気銅めっき液、3、3は電気銅めっき液2中に対向配置された1対の同極の電極、4は電極3、3の間に配置された表面を粗化すべき銅板、5は銅板4を保持する枠体、6は吊下げ金具、7は吊下げ金具6及び枠体5を介して銅板4を陽極又は陰極に保つバスバーである。電極3、3を銅板4と反対の極に保つ電気配線は図示を省略してある。
【0029】
電極3、3には銅板又は銅棒が用いられる。市販の不溶性電極(チタンを基材とした酸化物系不溶性電極や白金系不溶性電極等)を用いることも可能である。電極は通常、粗化される銅板片面と同じ対向面積のものが用いられるが、状況に応じて面積の増減や複数枚への分割を行っても差し支えない。電気銅めっき液2は市販の電気銅めっき液である。銅めっき液2の組成は例えば、硫酸銅40〜250g/l、硫酸30〜210g/l、塩酸10〜80ppm、光沢剤等の添加剤をメーカーの指定量(2〜10ml/l程度)、である。銅めっき液2は、電解槽1内の底部に設置されたエアー撹拌手段(バブリング)あるいは槽1内の電極と表面を粗化すべき銅板との間に設置された噴流ノズル(図示省略)等により撹拌されている。
【0030】
上記のように構成された装置の中で、まず、銅板4を陽極、電極3、3を陰極とする電気分解により銅板4の両面に微細瘤状突起を形成するのに必要な量の銅微粒子を生成させる陽極処理を行う。次に、極性を反転させて、銅板4を陰極、電極3、3を陽極とする電気めっきにより前記銅微粒子を銅板の表面に定着させる陰極処理を行う。この陽極処理と陰極処理により、従来の電解銅箔の表面の微細瘤状突起と同様な、絶縁基板材料との接着性に優れた微細瘤状突起を銅板の表面に形成することができる。陰極処理を終了した表面粗化銅板は、電解槽1外に移動し、水洗、必要に応じ酸洗浄、水洗、防錆などの後処理が施される。この後処理は通常の電気銅めっきで行う後処理と同じである。
【0031】
陽極処理で生成する銅微粒子は、一般にアノードスライムといわれる銅電解時の邪魔物であり、陽極処理によって銅板から銅イオンが析出する速度とめっき液中へのイオンの拡散速度の差によって、銅板表面に銅、酸化銅、銅イオン等が高濃度に滞留するために生じるものと考えられる。本発明はこのアノードスライムを微細瘤状突起の形成に活用する。生成する銅微粒子は、量が多すぎると銅板表面から離脱してしまい、微細瘤状突起を形成できない。また量が少なすぎても微細瘤状突起を形成できない。銅板表面に微細瘤状突起を形成するのに必要な量の銅微粒子を生成させる陽極処理の条件は、電流密度、処理時間、液温などにより異なるので、実験的に求められる。実験によれば陽極処理の好ましい条件は、電流密度1〜8A/dm、液温18〜32℃、処理時間3〜10分である。また、生成された銅微粒子を銅板表面に定着させる陰極処理の条件も、同様に、実験的に求められる。実験によれば陽極処理の好ましい条件は、電流密度1〜8A/dm、液温18〜32℃、処理時間3〜10分である。これらの条件は通常の電気銅めっきの条件とほとんど同じである。
【0032】
本発明で重要なことは、電解銅箔の表面粗化処理のように高電流密度で電気銅めっきを行うのではなく、通常の電気銅めっき条件で銅微粒子の生成処理と定着処理を行うことで、微細瘤状突起を形成できることを見いだしたということである。この方法は、同じ電気銅めっき液の中で陽極処理と陰極処理を行うので、銅イオンの消費が少なく、したがって電気銅めっき液の劣化が少なく、めっき液を長時間使用できるため、めっき液の使用量を少なくできる。
【0033】
陽極処理と陰極処理は1サイクル行うだけで銅板表面の粗化は可能であるが、より高い耐熱性を求める場合は2サイクル以上行うことが望ましい。また同じ装置で、最初の陽極処理を行う前に電気銅めっき処理を行ってもよい。この銅めっき処理は、微細瘤状突起を形成しやすくしたり、銅板の厚さを調整したりするのに有効である。
【0034】
なお、上記と同じ方法で、2枚の銅板を重ね合わせて1枚状にした複合銅板に、陽極処理と陰極処理を施した後、複合銅板を1枚ずつの銅板に分離すれば、片面が粗化された2枚の表面粗化銅板を得ることができる(以下の実施形態でも同じ)。このようにして得た片面粗化銅板は、粗化面の裏面に粗化が回りこむことがほとんどないので、裏面を平滑に保つことができる。
【0035】
<実施形態2>
図2は本発明の他の実施形態を示す。図2において、図1と同一部分には同一符号を付してある。この実施形態が実施形態1と異なる点は、電解槽1を長くして、電気銅めっき液2中に、対向する1対の陽極電極3a、3aと、対向する1対の陰極電極3c、3cとを縦列配置したことである。前記1対の陽極電極3a、3aの中間の上方には陰極バスバー7cを水平に設置し、前記1対の陰極電極3c、3cの中間の上方には陽極バスバー7aを水平に設置してある。陰極バスバー7cと陽極バスバー7aは絶縁バー8を介して直線状に連結されている。陰極電極3cには銅板又は銅棒が用いられる。陽極電極3aには銅板又は銅棒を用いることもできるが、不溶性電極(チタンを基材とした酸化物系不溶性電極や白金系不溶性電極等)を用いることが好ましい。陰極電極、陽極電極共に、通常、粗化される銅板片面と同じ対向面積のものが用いられるが、状況に応じて面積の増減や複数枚への分割を行っても差し支えない。
【0036】
この装置で表面粗化銅板を製造するには、まず、図2(A)、(B)のように、銅板4を陽極バスバー7aに吊下げて陰極電極3c、3cの間に配置し、銅板4を陽極とする陽極処理を行う。これにより、実施形態1と同様、銅板4の両面に微細瘤状突起を形成するのに必要な量の銅微粒子を生成させる。陽極処理が終えたら、吊下げ金具6を陽極バスバー7aから絶縁バー8を越えて陰極バスバー7cまで移動させて、同図(C)、(D)のように、銅板4を陽極電極3a、3aの間に配置し、この状態で銅板4を陰極とする陰極処理を行う。銅板の表面に生成された銅微粒子はこの陰極処理(銅めっき)により銅板に定着し、銅板の表面に微細瘤状突起が形成される。陰極処理を終了した表面粗化銅板は、電解槽1外に移動し、水洗、必要に応じ酸洗浄、水洗、防錆などの後処理が施される。
【0037】
銅板の陽極処理と陰極処理は1サイクルでもよいが、2サイクル以上行うことが望ましい。2サイクル以上行う場合は、前のサイクルの陰極処理を終了した後、銅板を陰極電極3c、3cの間に戻して陽極処理を行う。2サイクル以上行う場合も最後は陰極処理で終了する。また、最初の陽極処理を行う前に、銅板を陰極電極の間に配置して電気銅めっき処理を行ってもよい。
【0038】
また、陽極処理と陰極処理を1サイクルで終了する場合は、陽極処理を終えた銅板を図2(C)、(D)のように陽極電極3a、3aの間に移動させて陰極処理を行うときに、空いた陰極電極3c、3cの間に次に粗化すべき銅板を配置して、陽極処理と陰極処理を同時に行うこともできる。このようにすれば表面粗化銅板の生産効率を、実施形態1の場合のほぼ2倍にすることができる。
【0039】
<実施形態3>
図3は本発明のさらに他の実施形態を示す。図3において、図2と同一部分には同一符号を付してある。この実施形態は、銅板の陽極処理と陰極処理を2サイクル行うために、電解槽1の長さを図2の装置のほぼ2倍とし、電気銅めっき液2中に、対向する1対の陽極電極3a、3aと、対向する1対の陰極電極3c、3cとを交互に縦列配置してある。1対の陽極電極3a、3aの中間の上方には陰極バスバー7cを水平に設置し、1対の陰極電極3c、3cの中間の上方には陽極バスバー7aを水平に設置してある。隣り合う陰極バスバー7cと陽極バスバー7aは絶縁バー8を介して直線状に連結されている。
【0040】
この装置で表面粗化銅板を製造するには、銅板4を電解槽1の一端側(図で左側)の陰極電極3c、3cの間から他端側の陽極電極3a、3aの間へ順次移動させ、陽極処理と陰極処理を交互に行えばよい。他端側の陽極電極3a、3a間で陰極処理を終了した表面粗化銅板は、電解槽1外に移動させ、水洗、必要に応じ酸洗浄 水洗、防錆などの後処理が行われる。他端側の陽極電極3a、3a間の銅板4を電解槽1外に移動させた後は、残る3枚の銅板4を1ピッチだけ他端側へ移動させ、空いた一端側の陰極電極3c、3cの間に次に粗化すべき銅板を配置して、全ての電極間で陽極処理と陰極処理を同時に行う。このようにすれば、2サイクルの陽極処理と陰極処理を連続的に行うことができる。
【0041】
陰極電極3cには銅板又は銅棒が用いられる。陽極電極3aには銅板又は銅棒を用いることもできるが、不溶性電極(チタンを基材とした酸化物系不溶性電極や白金系不溶性電極等)を用いることが好ましい。陰極電極、陽極電極共に、通常、粗化される銅板片面と同じ対向面積のものが用いられるが、状況に応じて面積の増減や複数枚への分割を行っても差し支えない。
【0042】
なお、さらに多くの銅板を処理する場合、大量の処理を行う場合は、陰極処理部、陽極処理部を、対向する複数対の各電極と共に複数倍の長さ・数として、その倍数に応じた数の銅板の同時処理を行い、その倍数に応じて銅板の移動速度を増すことで、処理タクトを任意に上げることができる。この場合は、必要な陰極処理と陽極処理の回数、時間比に応じて処理槽の長さ比を設定すればよい。このような装置とすることで、陰極処理や陽極処理に必要な時間以下のタクトで、粗化銅板を製造することができる。
【0043】
また、陽極処理と陰極処理は必要に応じ3サイクル以上行ってもよい。3サイクル以上行う場合は、対向する1対の陽極電極3a、3aと、対向する1対の陰極電極3c、3cとを3組以上交互に縦列配置すればよい。
【0044】
<陽極処理の条件>
陽極処理の条件は実験により定められる。実験によれば、銅板の両面に微細瘤状突起を形成するのに必要な量の銅微粒子を生成させるには、通常の電気銅めっき液(硫酸銅40〜250g/l、硫酸30〜210g/l、塩酸10〜80ppm、光沢剤等の添加剤をメーカーの指定量)中で、めっき液の温度を18〜32℃に保ち、1〜8A/dmの電流密度で、3〜10分間行うとよい。
【0045】
液温及び電流密度が上記の範囲でも、陽極処理時間が3分より短いと、銅板の表面に生成される銅微粒子の量が少なすぎて、微細瘤状突起を形成することができない傾向がみられる。また陽極処理の時間が10分を超えると、銅板の表面に生成される銅微粒子の量が多すぎて、良好な微細瘤状突起を形成することができない傾向がみられる。陽極処理の時間は好ましくは4〜8分であり、さらに好ましくは4〜6分である。
【0046】
また、液温及び処理時間が上記の範囲でも、電流密度が1A/dmより低いと、銅板の表面に生成される銅微粒子の量が少なすぎて、微細瘤状突起を形成することができない傾向がみられる。また電流密度が8A/dmを超えると、銅板の表面に生成される銅微粒子の量が多すぎて端面などに剥離が生じ、良好な微細瘤状突起を形成することができない傾向がみられる。陽極処理の電流密度は好ましくは1〜8A/dmであり、さらに好ましくは1〜5A/dmである。
【0047】
また、電流密度及び処理時間は上記の範囲でも、液温が18℃より低いと、銅板の表面に生成される銅微粒子の量が少なすぎて、微細瘤状突起を形成することができない傾向がみられる。また液温が32℃を超えると、銅板の表面に生成される銅微粒子の量が多すぎて、良好な微細瘤状突起を形成することができない傾向がみられる。
【0048】
<陰極処理の条件>
陰極処理の条件も実験により定められる。陰極処理は陽極処理と同じ銅めっき液中で行われるため、液温は陽極処理の場合と同じである。また処理時間も、陽極処理と陰極処理を同時に行うことを考えると、陽極処理の場合と同じであることが好ましい。陽極処理と異なることがあるのは電流密度である。陰極処理は1〜8A/dmの電流密度で行うとよい。電流密度が1A/dmより低いと、銅めっき量が少なすぎて、銅微粒子を銅板表面に十分に定着させることができない傾向がみられる。また、電流密度が8A/dmを超えると、銅めっき量が多すぎて、微細瘤状突起がめっき層により覆われてしまい、良好な微細瘤状突起を形成することができない傾向がみられる。陰極処理の電流密度は好ましくは1〜8A/dmであり、さらに好ましくは1〜5A/dmである。
【0049】
<微細瘤状突起について>
瘤状突起とは、銅板下地と粒子、又は粒子と粒子との間にネッキング(くびれ)を持ちながら互いに付着し合っているような析出形態をいう。このネッキングにより、絶縁基板の樹脂との間でアンカー効果が発揮され、接着強度が向上することになる。なお、粒子同士が付着し合うことで、1〜20μm程度のクラスター状(ブドウの房状)の瘤になるものも含む。但し、突起の全てが瘤状である必要はなく、ネッキングのない突起と瘤状突起とが混在するものであっても、後述する粒径及び粒度を満足させるものであれば、瘤状突起に含まれる。
この瘤状突起の粒度は、10μm以下であることが好ましい。この範囲では突起と銅板の下地との密着性が良く、絶縁基板との接着強度も良好となるからで、さらには微細瘤状突起の粒度が0.5μm〜3μmであると、均一さが増して突起と下地との密着強度がより向上し、好ましい。
また、マクロに測定できる粗さとしてはRzがあるが、Rzは3μm〜20μmであることが好ましい。この範囲では突起と下地の密着性が良く、絶縁基板との接着強度も良いからで、Rzが7μmから16μmであるとさらに好ましく、均一さが増して粒子と下地の密着強度が向上する。
但し、穴の内面では粗さの測定は困難である。従って、穴内面では粗化されていれば良く、瘤が異常成長して穴径を規定より狭めたり、瘤が絶縁基板の積層時に剥離することがなければ良い。瘤の高さは(クラスター状の場合は、クラスター全体の高さを瘤高さと考える)、20μm以下であることが好ましく、この範囲では穴径が狭まったり瘤が剥離したりすることがない。
【0050】
なお、以上全ての処理において、粗化を行う銅板の保持は必要に応じた任意の治具で行えばよい。治具は銅又は銅合金、ステンレス、チタン等の金属製が望ましい。処理に必要な電流値は、治具自体の金属表面においても処理電流が消費されるため、治具が処理液中に浸かっている金属表面積分を処理板の表面積に加え、処理に必要な電流値を設定する必要がある。
【実施例】
【0051】
本実施例に用いた銅板は、長さ500mm×幅380mm×厚さ400μm及び200μmのタフピッチ圧延銅板である。厚さ400μmの銅板は内径1〜2mmのスルーホール用の穴を、穴面積総計が板面積の10%となる数の穴あけ加工(穴の位置は任意)を行ったものを用いた。また、厚さ200μmの銅板は2枚重ねで処理を行って片面粗化銅板とし、ピール試験に用いた。
【0052】
処理に用いた電気めっき液の組成は、硫酸銅90g/l、硫酸180g/l、塩酸60ppmである。助剤として、一般に光沢銅めっきに用いられる光沢剤及び抑制剤をメーカー指定量添加した。光沢剤・抑制剤の市販品の例としては、Rohm and Haas 社製の硫酸銅めっき光沢剤カパーグリームシリーズ、日本化学産業株式会社製のクッペライトシリーズ、ピロニッカシリーズ等が挙げられるが、これらの中からめっき槽方式、電極材質、製品の使用目的に応じて選択すればよい。
【0053】
<実施例1>
400μm銅板及び200μm銅板に対し、液温28℃、電流密度4.5A/dmで、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、電流密度1.4A/dmで、5分間、陰極処理を行って、表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を図4に示す。主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下で、当該微細瘤状突起で実質的に全面が均一に覆われていることが分かる。クラスター状の瘤になっている部分も認められるが、当該部分の粒度及び高さは10μm以下であった。
また、表面粗さを、キーエンス社製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9510によって測定した。表面粗さRzは7.5μmであった。
なお、微細瘤状突起の形状は400μm銅板と200μm銅板で違いが認められなかった。
【0054】
この表面粗化銅板に市販の10mm幅セロハンテープを貼り付け、引き剥がし試験を行ったところ、微細瘤状突起の剥離はなく、セロハンテープの接着剤とセロハン界面が剥離し、テープの接着剤が表面粗化銅板上に残った。
【0055】
次に、200μm片面粗化銅板に、市販の0.1mm厚のFR−4ガラスエポキシプリプレグ(絶縁基板材料)を10枚積層し、電解銅箔とFR−4プリプレグをホットプレスする条件と同じ条件で加熱加圧して一体化し、銅板と絶縁板の積層板を得た。この積層板からサンプルを切出し、現品及び260℃溶融はんだ60秒間浸漬後のサンプルについてJIS−C6471に規定されたピール強度試験を行った。その結果を表1に示す。このピール強度は、メタルコア回路基板に要求されるメタルコアと絶縁基板の接着強度(1kN/m以上)を十分満足するものである。
【0056】
【表1】
【0057】
<実施例2>
400μm銅板及び200μm銅板に対し、液温24℃、電流密度4.5A/dm2で、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、電流密度2A/dmで、5分間、陰極処理行うことを1サイクルとし、これを2サイクル行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を図5に示す。主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下で、当該微細瘤状突起で実質的に全面が均一に覆われていることが分かる。クラスター状の瘤になっている部分も認められるが、当該部分の粒度及び高さは10μm以下であった。
また、表面粗さを、キーエンス社製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9510によって測定した。表面粗さRzは11.0μmであった。
【0058】
この表面粗化銅板に市販の10mm幅セロハンテープを貼り付け、引き剥がし試験を行ったところ、微細瘤状突起の剥離はなく、セロハンテープの接着剤とセロハン界面が剥離し、テープの接着剤が表面粗化銅板上に残った。
【0059】
次に、200μm片面粗化銅板に、実施例1と同様にプリプレグ積層し、加熱加圧して、銅板と絶縁板の積層板を得た。この積層板について実施例1と同様にピール強度試験を行った。その結果を表2に示す。このピール強度は、メタルコア回路基板に要求されるメタルコアと絶縁基板の接着強度(1kN/m以上)を十分満足するものである。
【0060】
【表2】
【0061】
<実施例3>
400μm銅板及び200μm銅板に対し、液温32℃、電流密度2A/dmで、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行うことを1サイクルとし、これを2サイクル行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を図6に示す。主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下で、当該微細瘤状突起で実質的に全面が均一に覆われていることが分かる。クラスター状の瘤になっている部分も認められるが、当該部分の粒度及び高さは10μm以下であった。
また、表面粗さを、キーエンス社製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9510によって測定した。表面粗さRzは15.0μmであった。
【0062】
この表面粗化銅板に市販の10mm幅セロハンテープを貼り付け、引き剥がし試験を行ったところ、微細瘤状突起の剥離はなく、セロハンテープの接着剤とセロハン界面が剥離し、テープの接着剤が表面粗化銅板上に残った。
【0063】
次に、200μm片面粗化銅板に、実施例1と同様にプリプレグ積層し、加熱加圧して、銅板と絶縁板の積層板を得た。この積層板について実施例1と同様にピール強度試験を行った。その結果、板全体の最小値が2.1kN/m、最大値が3.1kN/m、平均値が2.5kN/mであった。また、はんだ耐熱後のピール強度は、板全体の最小値が1.9kN/m、最大値が2.8kN/m、平均値が2.4kN/mであった。このピール強度は、メタルコア回路基板に要求されるメタルコアと絶縁基板の接着強度(1kN/m以上)を十分満足するものである。
【0064】
<実施例4>
400μm銅板及び200μm銅板に対し、液温22℃、電流密度2A/dmで、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行うことを1サイクルとし、これを2サイクル行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を図7に示す。主表面での微細瘤状突起の粒度は5μm以下で、当該微細瘤状突起で実質的に全面が均一に覆われていることが分かる。クラスター状の瘤になっている部分も認められるが、当該部分の粒度及び高さは10μm以下であった。
また、表面粗さを、キーエンス社製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9510によって測定した。表面粗さRzは4.0μmであった。
【0065】
<実施例5〜7>
厚さ200〜400μmのコア用銅板に、ドリルによって、スリーホール用の直径3mmから5mmの穴を複数形成した。なお、基板の設計仕様によっては多数の穴が必要となるので、プレス機を用いてパンチ金型で打ち抜いてもよい。
その後、本発明の製造方法により穴の内面を含む表面に微細瘤状突起を形成した。後述する比較例での製造方法で形成したものに比べ、銅板の主表面だけでなく穴の内面も含めて微細瘤状突起が均一に形成された穴あき表面粗化銅板を得ることができた。図8〜10は夫々表面粗化銅板の表面状態を示すもので、上が主表面のSEM3000倍、中が穴内面のSEM3000倍、下が穴の縁部分のSEM125倍である。
【0066】
実施例5では、主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下、クラスター状となった部分の粒度及び高さは10μm以下であった。また、表面粗さRzは8.0μmであった。さらに、穴内面も粗化され、穴内面の瘤状突起の高さは15μm以下であった。
実施例6では、主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下、クラスター状となった部分の粒度及び高さは10μm以下であった。また、表面粗さRzは7.0μmであった。さらに、穴内面も粗化され、穴内面の瘤状突起の高さは10μm以下であった。
実施例7では、主表面での微細瘤状突起の粒度は3μm以下、クラスター状となった部分の粒度及び高さは10μm以下であった。また、表面粗さRzは11.0μmであった。さらに、穴内面も粗化され、穴内面の瘤状突起の高さは5μm以下であった。
【0067】
このようにして得た穴あき表面粗化銅板に、ガラスエポキシプリプレグ(絶縁基板材料)を複数枚積層し、加熱加圧して一体化した。さらに、スルーホールの位置の絶縁基板材料部分を除去し、その周囲にメッキを行い、直径1mmのスルーホールのある回路基板を得た。
この完成品に高電圧試験(1000V)を行った結果、スルーホールとコア間の十分な絶縁性が保たれ、優れた性能を発揮した。また、ハンダ耐熱試験後も、スルーホールの回りでコアと樹脂との剥離やクラックは生じず、コアと樹脂との密着は良好であった。
【0068】
<実施例8>
実施例1〜4と同様に表面粗化銅板を作製し、主表面に微細瘤状突起を形成した。その後、銅板にスルーホール用の穴を加工形成した。さらに実施例5と同様に、絶縁基板を積層した回路基板を得た。
この実施例では、ドリル或いはパンチによる穴あけ加工時に、穴の周囲で先に粗化した部分がつぶれたり、瘤状粒子が剥離し、見かけが不均一になることもあった。また、穿孔時に加工油が付着し、再洗浄を必要とすることもあった。さらに、穴の内面は粗化していないので、穴の内面で樹脂との密着性が弱いことも考えられたが、主表面での密着が良好であるので、絶縁性に問題なく使用できた。
【0069】
<比較例1>
前記銅板に対し、液温25℃、電流密度8.5A/dmで、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この場合、板中央部は良好に粗化されるが、電流密度が高すぎるため板端部で電解による溶解が進みすぎ、かつ、めっきが強くかかりすぎることで極度に白化して、板全面でムラが生じ、メタルコアとして使用できないものであった。
【0070】
<比較例2>
前記銅板に対し、液温25℃、電流密度0.9A/dmで、10分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を図11に示す。この場合、全体に粗化が進まず、微細瘤状突起の形成が十分でなかった。主表面での表面粗さRzは2.5μmであった。
【0071】
<比較例3>
前記銅板に対し、液温25℃、電流密度4.5A/dmで、11分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この場合、板中央部は良好に粗化されるが、板端部やスルーホール用穴で電解による溶解が進みすぎ、かつ、めっきが強くかかりすぎることで極度に白化して、板全面でムラが生じ、メタルコアとして使用できないものであった。
【0072】
<比較例4>
前記銅板に対し、液温25℃、電流密度4.5A/dmで、2.5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、電流密度2A/dmで、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を図12に示す。この場合、全体に粗化が進まず、微細瘤状突起の形成が十分でなかった。主表面での表面粗さRzは2.0μmであった。
【0073】
<比較例5>
前記銅板に対し、液温35℃、電流密度4.5A/dmで、5分間、陽極処理を行った後、同じ液温、電流密度1.4A/dmで、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この場合、銅板表面に黒色の亜酸化銅による焼けが発生した。この粗化銅板に市販の10mm幅セロハンテープを貼り付け、引き剥がし試験を行ったところ、黒色部が隔離し、メタルコアとして使用できないものであった。
【0074】
<比較例6>
前記銅板に対し、液温17℃、電流密度4.5A/dmで、10分間、陽極処理を行った後、同じ液温、同じ電流密度で、同じ時間、陰極処理行って表面粗化銅板を製造した。この表面粗化銅板の表面状態(SEM3000倍)を図13に示す。この場合、全体に粗化が進まず、微細瘤状突起が形成されていない。このためメタルコアとして使用できないものであった。主表面での表面粗さRzは1.8μmであった。
【0075】
<比較例7>
厚さ200〜400μmのコア用銅板に、ドリルによって、スルーホール用の直径3mmから5mmの穴を複数形成した。その後、従来の電解メッキ法により、穴の内面を含む表面に数μmの瘤状突起を形成した。この銅板の表面状態を図14に示す。上が主表面のSEM3000倍、中が穴内面のSEM500倍、下が穴内面のSEM125倍となっている。主表面での微細瘤状突起の粒度は5μm以下、クラスター状となった部分の粒度及び高さは10μm以下であった。また、表面粗さRzは10.0μmであった。
但し、この銅板では、主表面に比べて穴内面の瘤状突起の大きさすなわち凹凸の差が20μm以上となっている。電解メッキの条件調整では、両者を含めて均一な微細瘤状突起を形成することができなかった。
【0076】
この原因は、従来の電解メッキ法では電流密度が大きいため、電極と向かい合った銅板の面の中でも、穴が貫通している場所では、電極からの大電流が総表面積の小さい穴内面へ集中するためである。
その後、実施例5と同様に、樹脂基板を密着させ回路基板を作製したところ、高電圧試験(1000V)でスルーホールとコア間の絶縁性が保たれない場合があった。
分析すると、密着性に問題があることに加え、樹脂の絶縁基板積層時に銅微粒子突起がプレス圧によって剥がれて樹脂中に侵入し、穴とコアとの絶縁距離が十分取れていなかったため、絶縁性を悪化させたことがわかった。すなわち、従来の電解メッキ法により、穴のあいた粗化銅板を作製すると、このような問題があることが明確となった。
【0077】
以上のように、特にスルーホール用の穴を持つメタルコア銅板では、銅板に穴を形成した後で、本発明の方法により表面に微細瘤状突起を形成することにより、表面及び穴の内面に均一な粗化処理が行え、最適であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0078】
1:電解槽
2:電気銅めっき液
3:電極
3a:陽極電極
3c:陰極電極
4:表面を粗化すべき銅板
5:枠体
6:吊下げ金具
7:バスバー
7a:陽極バスバー
7c:陰極バスバー
8:絶縁バー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15
図16