(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5686194
(24)【登録日】2015年1月30日
(45)【発行日】2015年3月18日
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック構造体の成形方法と車両用ホイール
(51)【国際特許分類】
B29C 43/10 20060101AFI20150226BHJP
B29C 45/36 20060101ALI20150226BHJP
B60B 5/02 20060101ALI20150226BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20150226BHJP
【FI】
B29C43/10
B29C45/36
B60B5/02 E
B29K105:08
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-528858(P2013-528858)
(86)(22)【出願日】2013年6月11日
(86)【国際出願番号】JP2013066119
(87)【国際公開番号】WO2013187418
(87)【国際公開日】20131219
【審査請求日】2013年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-133241(P2012-133241)
(32)【優先日】2012年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091948
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 武男
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】高野 恒男
(72)【発明者】
【氏名】風早 祐二
(72)【発明者】
【氏名】西村 光史
【審査官】
田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】
特開平4−294132(JP,A)
【文献】
特開昭59−124813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/10
B29C 45/36
B60B 5/02
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の高剛性粒子を含む粒子群を可撓性材質の袋体に充填し複数の中子を形成すること、
前記中子を1枚以上のプリプレグからなるプリプレグ層の片面に密着させて配置すること、
前記プリプレグ層の他方の面に別の前記中子を密着して配置すること、
金型内キャビティに向けて出没する押圧手段をもって、少なくとも一つの中子の外周面の一部を押圧して、前記中子の内圧を高めて中子を変形させること、
前記中子の押圧変形により、プリプレグと前記金型及び前記金型内キャビティに配置された全ての中子との密着性を高めること、
成形用金型のキャビティ内で前記中子を収納した前記プリプレグを加圧状態において樹脂を硬化させること、及び
前記中子に充填された高剛性粒子を袋体から除去することを含んでなる、
ことを特徴とする複数の空洞を有する繊維強化プラスチック構造体の成形方法。
【請求項2】
対称性を有する複数の空洞を有する繊維強化プラスチック構造体の成形方法であって、対称に選択された複数の中子のそれぞれに対応する外周面の一部を、金型内キャビティに向けて金型ブロックを成形用金型内に挿入して押圧することを特徴とする、請求項1記載の繊維強化プラスチック構造体の成形方法。
【請求項3】
前記成形用金型で成形した後、前記金型ブロックの挿入位置を通して、前記粒子群を成形品の外部に排出することを特徴とする、請求項2記載の繊維強化プラスチック構造体の成形方法。
【請求項4】
前記粒子群は直径が異なる粒子を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化プラスチック構造体の成形方法。
【請求項5】
前記粒子群が高剛性粒子と弾性体粒子とを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化プラスチック構造体の成形方法。
【請求項6】
前記成形用金型キャビティ内に独立する金属部材を更に配置し、前記プリプレグと一体に成形することを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化プラスチック構造体の成形方法。
【請求項7】
多数の高剛性粒子を含む粒子群を可撓性材質の袋体に充填し複数の中子を形成すること、
前記中子を強化繊維基材の片面に密着させて配置すること、
前記強化繊維基材の他方の面に別の前記中子を密着して配置すること、
前記強化繊維基材に樹脂を含浸させて該樹脂を硬化させること、
金型内キャビティに向けて出没する押圧手段をもって、少なくとも一つの中子の外周面の一部を押圧して、前記中子の内圧を高めて中子を変形させること、
前記中子の押圧変形により、強化繊維基材と前記金型及び前記金型内キャビティに配置された全ての中子との密着性を高めること、
成形用金型キャビティ内で中子が収納された強化繊維基材を加圧状態において樹脂を硬化させること、及び
前記中子に充填された粒子群を袋体から除去すること、
を含む、複数の空洞を有する繊維強化プラスチック構造体の成形方法。
【請求項8】
対称性を有する複数の空洞を有する繊維強化プラスチック構造体の成形方法であって、対称に選択された複数の中子のそれぞれに対応する外周面の一部を、金型内キャビティに向けて金型ブロックを成形用金型内に挿入して押圧することを特徴とする、請求項7記載の繊維強化プラスチック構造体の成形方法。
【請求項9】
前記成形用金型で成形した後、前記金型ブロックの挿入位置を通して、前記粒子群を成形品の外部に排出することを特徴とする、請求項8記載の繊維強化プラスチック構造体の成形方法。
【請求項10】
前記成形用金型キャビティ内に独立する金属部材を更に配置し、強化繊維基材と金属部材とを一体成形することを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載の繊維強化プラチック構造体の成形方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の複数の空洞を有する繊維強化プラチック構造体の成形方法によって製造された車両用ホイール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中子を用いた閉断面を有する繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)構造体の成形方法に関し、代表的には繊維強化プラスチック製の車両用ホイールの成形方法と同成形方法により得られる車両用ホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
閉断面を有する繊維強化プラスチックの構造体は、航空機の胴体や翼のような大型の構造体から、自転車のフレーム、テニスラケット、釣竿、ゴルフシャフト等の小型の構造体まで幅広く利用されている。また、開断面を有する繊維強化プラスチックの構造体は、ヘルメットなどに幅広く利用されている。
【0003】
閉断面を形成するための中子としては、粉粒子群を包装フィルムで包んで真空パック包装を行って所定形状に形成される中子や、ブロー成形によって形成される中子などが用いられている。真空パック包装した粉粒子群を所望の形状に形成した中子を使った先行技術には、例えば特開平2−238912号公報(特許文献1)に開示された中空部を有する成形体とその成形方法などで提案されており、またブロー成形によって形成される中子については、例えば特開平7−100856号公報(特許文献2)の多層プラスチック成形体とその製造方法が提案されている。
【0004】
本発明の従来例1として、上記特許文献1に記載された発明について、
図8及び
図9を参照しながら説明する。
図8は、成形用金型30によって閉断面の一種である中空部を有する構造体を成形する途中の状態を示している。即ち、同図は成形用金型30の下型31上に、予備加熱を行って溶融状態にあるシート状の繊維強化熱可塑性樹脂材(下部FRTP)34を載置した状態を示している。下部FRTP34は、溶融状態にあるため自重により垂れ下がり、下型31の凹部に沈み込んだ状態となる。
図9は、
図8に示す状態を模式的に示している。
【0005】
粉粒子群33aを包装材33bで包み込み、真空パック包装によって所定形状に固形化した中子33は、基本的に
図9に示す構造を有し、溶融状態にあって自重により垂れ下がっている下部FRTP34の凹部に載置されている。中子33を載置した下部FRTP34の上部には、加熱して溶融状態にある新たなシート状の上部FRTP35が載置される。この状態では、中子33の周囲は、下部FRTP34と上部FRTP35とによって囲まれた状態になっている。
【0006】
この状態から、成形用金型30の上型32を下降させ、下型31との間で上部FRTP35と下部FRTP34とを加圧して一体固化することにより、中子33を内部に包んだ状態で上部FRTP35と下部FRTP34とを一体的に成形する。ここで出来上がった半成形品から中子33を排出するために、半成形品に小さな孔を開ける。半成形品に孔を開けると、真空パックされた中子33の粉粒子群33aに空気が入り込み、粉粒子群33aの結束が緩められる。
【0007】
そして、半成形品に形成された小さな孔を通して、中子33を構成している粉粒子群33aを半成形品の外に排出して成形品を完成させる。このとき、粉粒子群33aを真空パック包装している包装材33bを、成形品に対して剥離性がよい材料から構成しておけば、包装材33bも成形品から容易に取外すことができる。
【0008】
本発明の従来例2として、上記特許文献2に記載された発明について、
図10を参照しながら説明する。
図10は、ブロー成形によって成形した中子を、外層を成形するための成形用金型41a、41b間にセットした状態を示している。
図10に示すように、成形用金型41a、41bは、中子43を収納可能に構成されており、成形用金型41a、41bの型締め時には、成形用金型41a、41bの各合せ面42a、42bと中子43との間に溶融樹脂を充填させる中空部としてのキャビティが形成されている。
【0009】
キャビティ内には、押出し機44で可塑化された溶融樹脂45が供給される。型締め状態にある成形用金型41a、41bのキャビティ内に溶融樹脂45を供給することによって、中空部を有する製品を所望の形状に成形することができる。しかし、製品を成形するときに、溶融樹脂の温度に対して中子43の耐熱性が低い場合や、中子43の肉厚が薄い場合には、成形時に中子43に加わる圧力によっては、中子43が変形してしまう場合がある。また、中子43の形状に広い平坦部分が存在すると、この平坦部分の剛性が不足しがちとなるため、同様に中子43が変形してしまうことになる。
【0010】
中子43の変形を防止するため、特許文献2に記載された発明では、中子43の内圧を高めることができる構成を採用している。そのための構成として、中子43に連通する加圧ユニット46が設けられており、加圧ユニット46から中子43の内部に、加圧した気体や液体を導入することにより、中子43の内圧を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2−238912号公報
【特許文献2】特開平7−100856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示された発明では、中子33を下部FRTP34と上部FRTP35との間に挟んだ状態で上型32を下降させ、上型32と下型31との間で下部FRTP34及び上部FRTP35に対して加圧を加えている。しかし、下型31の凹部に沈み込んで形成された下部FRTP34の凹部に中子33を載置したとき、また中子33の上から上部FRTP35を被せたとき、下型31の凹部における隅部と下部FRTP34との間や、中子33と下部FRTP34及び上部FRTP35との間に空隙が生じる。
【0013】
この空隙が残っている状態で上型32と下型31とによる加圧が行われると、中子33によって下部FRTP34及び上部FRTP35を内側から十分に支えておくことができず、特に、上型32が移動する上下方向と同じ方向に沿って成形される下部FRTP34の部位、即ち縦の部位において、肉厚の変化が生じたり、更には、下部FRTP34の外表面形状を下型31の凹部における隅部形状に沿った形状に形成することができなかったり、外面にシワが生じたり、上下方向に座屈した形状に成形されてしまうことがある。あるいは、縦の部位における長さ寸法が、規定の長さ寸法よりも短い長さ寸法に圧縮された状態で成形され、製品の寸法精度が低下してしまう。
【0014】
特に、下部FRTP34及び上部FRTP35が、長繊維を用いた長繊維強化樹脂材料から構成されているときには、中子33と下部FRTP34及び上部FRTP35との間や、上型32及び下型31と下部FRTP34及び上部FRTP35との間に、空隙が存在したまま加圧成形されると、長繊維の繊維配向が乱れて屈曲が生じてしまい、繊維強化プラスチックとしての強度の低下、成形品における外観の悪化などを招くことになる。
【0015】
これらの不具合を、従来例1を示す
図9を用いて、更に説明する。
図9では、シート状の繊維強化熱硬化性樹脂材(プリプレグ)36を用い、上述した縦の部位を符号37で示している。
図9は、内部に中子33を配した環状のプリプレグ36を下型31に形成した凹部内に収納し、上型32を下型31に向けて下降させたときの状態を示している。
【0016】
図9に示すように、上型32と下型31との間に、内部に中子33が配されたプリプレグ36を挟んで加熱加圧することにより、中子33が収容されたままの半成形品を成形する。この出来上がった半成形品に小孔を開けて、中子33を構成している粉粒子群を小孔から外に排出させて、中空状の成形品を完成させる。
【0017】
ところで、下型31に収納したプリプレグ36に形成された凹部内に中子33を載置したとき、例えば角部を有する形状に半成形品を成形する場合などに、中子33の外表面とプリプレグ36の内周面との間に空隙が生じてしまう。特に、成形用金型にプリプレグ36をスムーズに投入させるためには、成形用金型とプリプレグ36との間にある程度間隔を空ける必要があり、成形面における隅部とプリプレグ36との間にも、同様の空隙を作っておく必要がある。
【0018】
そして、上型32を下型31に向けて下降させて、プリプレグ36を加熱加圧しているときには、この空隙の影響によって、プリプレグ36における縦の部位37においてシワや曲がりが生じてしまい、プリプレグ36における外面側の角部が、所望の直角形状に形成されず、未充填状態になってしまう。特に複雑な構造を有する成形体を成形するとき、中子を、それらの複雑な構造をもつ成形体に倣った形状に形成することは極めて難しい。
【0019】
中子33を構成する粉粒子群の使用量が少ないと、プリプレグ36と中子33との間に空隙が形成されてしまい、プリプレグ36における縦の部位37において曲がりが生じてしまう。すなわち、
図9に示すように、縦の部位37の一部が中子33側に湾曲した形状に変形することになる。しかも、中子33を構成する粉粒子群の流動性が低い場合には、変形の影響は顕著になる。また仮に、縦の部位37の一部が中子33側に湾曲しないとしても、上型の下降量を規制しないかぎり、
図9に示すように、縦の部位37における長さ寸法が、規定の長さ寸法よりも短い長さ寸法に圧縮されてしまう。
【0020】
特許文献1に記載された発明において、不良品を発生させないようにするには、プリプレグ36と中子33との間に空隙を形成しないように、プリプレグ36のプリフォーム精度を向上させたり、中子33の形状が所望の形状となるように形成しておくことが必要になる。しかし、中子33を構成する粉粒子群の使用量を正確に測定して構成し、形状を所望の形状に固定させ、プリプレグ36を中子33に密着させると、同時にプリプレグ36の外形形状を、成形用金型の内面形状に沿わせることは、流動性を有する粉粒子群や、未硬化のプリプレグでは、形状が安定しないため、成形体の構造が複雑化するほど多数の手間がかかり、成形に長時間を要してしまうことになる。
【0021】
図10に示す特許文献2に記載された発明にあっては、加圧した気体や液体を中子43に導入することにより、中子43の内圧を高めることができる。加圧した気体や液体では、任意の一点における圧力は、全ての方向において同一の圧力になる物理的性質を有している。このため、内圧を高めるために加圧された気体や液体の一部が、中子43から漏れ出たときには、漏れ出た気体や液体は、高速で高圧のジェット流となり、しかも、高温状態のままで、成形用金型41a、41bの隙間から外部に噴出してしまうことになる。そして、特に、液体が噴出した場合は、成形用金型の周囲に大きな損害を与えたり、作業者の安全性を損ねてしまう虞れがあるため、十分な安全対策を講じた設備が必要になる。
【0022】
本発明は、上述した従来の問題点を解決すると共に、成形用金型による閉断面を有する成形品、特に構造が複雑な成形品の成形時に、気体や液体を用いることなくプリプレグと中子との間における圧力を均一に高めることができ、しかも、中子に圧力を加えても、また通常の成形用金型を用いた場合であっても、中子の構成材料の一部が成形用金型から漏れ出ることが防止できる繊維強化プラスチック構造体の成形方法、特に車両用ホイールに好適に適用できる成形方法と同車両用ホイールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明では、多数の高剛性粒子を含む粒子群を可撓性材質からなる袋体で収容した中子を用いる。袋体としては、プラスチックフィルムやブロー成形によって成形した中空プラスチック構造体を用いることができる。袋体にプラスチックフィルムを用いる場合には、袋状のプラスチックフィルムに所定量の粒子群を計量し、所定の形状に成形して、袋内を真空にすることで真空パックとして所定の形状が維持される中子とすることができる。袋体として、ブロー成形などによって所定の形状に成形した中空プラスチック成形体を用いる場合には、中空プラスチック成形体の壁面の一部に開けた穴から、中空プラスチック成形体の内部に粒子群を投入し、中空プラスチック成形体の内部の空間を埋めることで、所定の形状を維持する中子とすることができる。
【0024】
本発明の複数の空洞を有する繊維強化プラスチック構造体の成形方法の第一の形態では、高剛性粒子を主とする多数の粒子を可撓性材質の袋体に充填し複数の中子を形成すること、前記中子を1枚以上のプリプレグからなるプリプレグ層の片面に密着させ配置すること、前記プリプレグ層の他方の面に別の前記中子を密着して配置すること、前記プリプレグ層に含浸された樹脂を硬化させること、及び前記中子に充填された高剛性粒子を袋体から除去することを含んでなることを主要な構成としている。
【0025】
好ましい態様によれば、成形用金型のキャビティ内で前記中子を収納した前記プリプレグを加圧状態において樹脂を硬化させることを含んでいる。本形態にあって、金型内キャビティに向けて出没する押圧手段をもって、少なくとも一つの中子の外周面の一部を押圧して、前記中子の内圧を高めて中子を変形させること、及び前記中子の押圧変形により、プリプレグと前記金型及び前記金型内キャビティに配置された全ての中子との密着性を高めることを含んでいることが好ましい。
【0026】
繊維強化プラスチック構造体が、対称性を有する複数の空洞を有する場合には、対称に選択された複数の中子のそれぞれに対応する外周面の一部を押圧するには、金型ブロックを成形用金型に沿ってキャビティに向けて挿入し、押圧することが好ましい。前記粒子群は直径が異なる粒子を含むことが好ましく、また前記粒子群が高剛性粒子と弾性体粒子とを含むことが望ましい。
本形態にあっては、前記成形用金型内に独立した図示せぬ金属部材を更に配置し、前記プリプレグと一体的に成形することを含んでもよいし、成形用金型により前記金属部材と前記プリプレグとを一体成形した後、前記金属部材を通して前記粒子群を成形品の外部に排出するようにすることができる。
【0027】
また、本発明の複数の空洞を有する繊維強化プラスチック構造体の成形方法の第二の形態では、高剛性粒子を主とする多数の粒子を可撓性材質の袋体に充填し複数の中子を形成すること、前記中子を強化繊維基材の片面に密着させて配置すること、前記強化繊維基材の他方の面に別の前記中子を密着させて配置すること、前記強化繊維基材に樹脂を含浸させて該樹脂を硬化させること、及び前記中子に充填された高剛性粒子を袋体から除去することを含むことを主要な構成としている。
【0028】
この第二の形態にあっても、好ましくは中子が収納された強化繊維基材を成形用金型キャビティ内を加圧状態にして樹脂を硬化させることが望ましい。また好ましくは、金型内のキャビティに向けて出没する押圧手段により、少なくとも一つの中子の外周面の一部を押圧して、前記中子の内圧を高めて中子を変形させること、及び前記中子の押圧変形により、
前記強化繊維基材と前記金型及び前記金型内のキャビティに配置された全ての中子との密着性を高めることを含むとよい。更に好ましくは、成形用金型キャビティ内に、更に上述のような金属部材を配置し、強化繊維基材と金属部材とを一体成形することもできる。
本発明の第三の形態は、複数の空洞を有する繊維強化プラチック構造体の上述の成形方法によって製造される車両用ホイールにある。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、多数の高剛性を有する粒子を含む、高い流動性を有する粒子群を、ブロー成形、真空成形、インジェクション成形などによって所望の立体形状に賦形された複数の袋体にそれぞれ収容して、これらを成形用中子として用いる。これらの複数の成形用中子は、繊維強化プラスチック構造体の空洞の形状に合わせて単に隣り合わせに配置するのではなく、隣り合う成形用中子の間にプリプレグ又は強化繊維基材(以下、単に強化繊維材料という。)を挟むように互いに密着させて配置することで、成形用中子が外された完成品の複雑な空洞配置であっても、複数の空洞間に繊維強化プラスチック成形品が一体となって配されることになり、複雑な配置及び形状をもつ複数の空洞間に繊維強化プラスチック成形品を一体に介装させて複雑な構造を備えた繊維強化プラスチック構造体を得ることができる上に、同繊維強化プラスチック構造体に所要の強度と形態の安定性とを与えることができる。
【0030】
しかも、成形用金型を用いた成形時に、強化繊維材料を介して、又はこれらの強化繊維材料を介さずに、少なくとも一つの中子の一部外表面を押圧することにより、該中子を構成する粒子群の粒子間に強制的に滑りを生じさせ、中子の外表面が広がるように変形させる。中子の外表面を広げることで、中子を包み込んでいる、強化繊維材料と中子との間に空隙が形成されていても、中子の変形によってこの空隙が埋められ閉塞させることができる。また、特に、成形用金型の成形面における隅部と強化繊維材料との間に空隙が生じていても、中子の変形によって強化繊維材料をこの空隙を埋める方向に移動させることができ、空隙の発生を解消することができる。
【0031】
中子の変形によって強化繊維材料と中子との間に形成されていた空隙は、中子による高い内圧によって潰れるか、空隙を構成する空気が強化繊維材料を通して成形用金型から大気中に放出されることになる。空気が強化繊維材料を通ったときに形成される通路は、空気が排出された後では溶融状態にある樹脂によって自然に閉塞される。
【0032】
中子は、高剛性の粒子を含む多数の粒子群を内部に収容した構成となっている。このため、中子の外表面の一部を押圧して中子の外周の表面積が広がるように変形させても、中子内における内部圧力は、格別の手だてを講じないかぎり、通常は液体や気体を用いたときのように全ての部位において均一な圧力状態にはならない。即ち、粒子群の一部に対して圧力を加えても、他の部位において圧力が加えられた部位における圧力よりも小さい圧力が生じる。このとき加えられた圧力がある値を超えると、粒子群を構成する粒子間に滑りが生じる。
【0033】
すなわち、中子の一部外表面を押圧したときに、押圧された中子の部位が潰れ、そこでの内部圧力が大きく上昇しても、この部位から離れた中子の部位での圧力上昇は、押圧された部位での内部圧力よりも低くなる。
【0034】
特に、中子内での圧力の伝達性、粒子群の流動性は、粒子群を構成する粒子の形状、粒子の表面の粗さ、粒子径が影響する。均一の粒子径の粒子のみで構成された粒子群を用いると、中子内に粒子が高密度で充填されることになり、粒子群の流動性が阻害され、圧力の伝達性が損なわれる。従って、中子内での粒子径の分布状況や粒子表面の粗さの分布状況を考慮したり、高密度の充填状態を崩すため異なる粒子径の粒子を組み合わせて使用することにより、中子内での粒子群の流動性と圧力伝達性が向上する。また、粒子群として、高剛性粒子と弾性体粒子よりなる粒子群を用いることによっても、中子内での粒子群の流動性と圧力伝達性を向上させることができる。
【0035】
中子は押圧された部位から離れた部位においても、粒子群を構成する粒子の滑りによって中子の外周表面積が広がるように変形する。これによって、強化繊維材料を成形用金型の成形面に対して押圧することができ、例えば、金型の押圧方向に対して平行な、上下方向の縦の部位を支持している中子の部位と強化繊維材料との間で圧力を上昇させることができる。そして、上型と下型とによる加圧時において、上述したような縦の部位が屈曲して変形してしまうのを防止できる。
【0036】
しかも、上述した縦の部位における縦方向の長さ寸法が規定の長さ寸法となるように、成型用金型の型締め位置を固定し、中子の一部を押圧することにより、中子の外表面と強化繊維材料の内面間での圧力を上昇させることができる。これによって、上述したような縦の部位における縦方向の長さ寸法が、所定の寸法以下に圧縮されて短くなってしまうような事態を発生させることが回避でき、強化用材料を所望の肉厚に成形できる。
【0037】
また、強化用材料の外表面における角部に、例えば、直角やさらには鋭角の角部を形成する場合においても、角部を成形する成形用金型の隅部に十分な量の強化繊維材料を移動させることができるので、角部に強化繊維材料が充填された外表面をもつ繊維強化プラスチック構造体を成形することができる。
【0038】
中子の内圧を高めると、粒子群を構成する各粒子は前後左右上下方向に滑りを生じて移動することになるが、粒子群を包含している袋体は延伸可能な材質から構成されている。そのため、延伸可能な袋体によって、各粒子群の移動に伴う中子の外形形状の変形を許容できる。
【0039】
仮に、成形用金型の型締めや、中子の押圧により粒子群の圧力が上昇し、粒子群が袋体を破ることがあった場合にも、成形用金型の隙間が粒子群を構成する粒子の直径よりも小さければ、粒子が破砕しないかぎり、成形用金型から漏れ出すことはない。しかるに、万が一にも粒子が破砕して成形用金型から外部へと漏れ出すような事態となると、得られる繊維強化プラスチック構造体の空洞自体の変形を招き、強いては繊維強化プラスチック構造体の形状にも影響を与えかねない。そこで、本発明にあっては粒子に高剛性の材質が使われる。
【0040】
中子の外表面の一部を押圧する手段としては、成形用金型にキャビティ内に出没自在な金型ブロックを用いた構成を採用することができる。金型ブロックは、成形金型の一部を構成し、成形用金型の成形面内に出没自在な金属製のブロックからなり、例えば、金型ブロックとしてプランジャーや、外部の操作により金型内面の一部をスライドできる機構をもつ金属製のブロックが使われる。本発明に係る繊維強化プラスチック構造体の成形方法の最も特徴とする構成は、複数の空洞をもち複雑な構造や対称形状の繊維強化プラスチック構造体を成形するにあたって、比較的簡単な形状の複数の中子を用い、強化繊維材料と複数の中子との配置を上述のように規定することにあり、それらの中子を組み合わせることによって、高精度で且つ所要の強度が確保された閉断面を有する複雑な構造の繊維強化プラスチック構造体を効率的に成形できる成形方法が実現される。このように本発明にあっては複数の中子を使うため、押圧を必要とする各中子の押圧部位に対応して、上記押圧手段を前記成形用金型の一つの部位又は複数部位に設置する。
【0041】
本発明にあって、中子の一部外表面を押圧するときに、強化繊維材料を介して中子の一部外表面を押圧する場合には、強化繊維材料に凹部が形成される。この押圧部位に形成される凹部に孔を開け、半成形品から中子を構成している粒子群を排出することが好ましい。また押圧場所が略平面形状をもつときに、平面全体を強化繊維材料を介して押圧する場合には、当該面が全体として沈み込むため、実質的に凹部は形成されない。中子を構成している粒子群を排出する排出孔は、これら押圧部位である凹部や平面部、あるいは押圧部位以外にも任意に設けることができる。
【0042】
また、強化繊維材料を介さずに中子の一部外表面を押圧する場合には、金型ブロック等の押圧部に相当する大きさの孔を強化繊維材料に予め開けておき、その孔を通して中子を直接加圧する。この場合、成形品に形成される孔位置から袋体を破り、粒子を排出することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明により成形される車両用ホイールの一例を示す前面斜視図である。
【
図3】同車両用ホイールの分割中子の全配置例を示す背面斜視図である。
【
図4】同車両用ホイールの分割中子単位断面を拡大して示す背面斜視図である。
【
図5】同車両用ホイールを分割中子単位の半成形品例を示す拡大斜視図である。
【
図6】車軸用金属ハブを一体成形した車両用ホイールの一例を示す前面斜視図である。
【
図7】前記車両用ホイール成形時の金型及び半成形品の横断面図である。
【
図8】従来例1を示す中空部を有する成形品の成形時初期の状態図である。
【
図9】
図8の加圧成形時の状態を模式的に示す断面図である。
【
図10】従来例2を示す成形用金型間に中子をセットした状態を示すシステム図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の好適な実施の形態を、添付図面に基づいて具体的に説明する。本発明に係る繊維強化プラスチック構造体の成形方法としては、以下で説明する成形用金型、中子等の構成をも含めて、成形用金型による加圧成形中の中子の一部外表面積を広げることができる構成であれば、それらの構成について多様な変形が可能である。更に、本発明は中子の構成単位の個数を増加させることで、容易に大型成形品にも適用できる。
【0045】
以下に述べる実施の形態は、繊維強化プラスチック構造体の代表的な成形品である繊維強化プラスチック製の車両用ホイールの成形方法を中心として説明する。なお、本発明の繊維強化プラスチック構造体の成形方法は車両用ホイールの成形方法に限定されないことは勿論であり、他の例えば自動車や列車などの車両本体、あるいは飛行機の胴体や翼などの大型成形品にも適用が可能である。
【0046】
図1及び
図2は繊維強化プラスチック成形品からなる車両用ホイール10を示している。同車両用ホイール10は軽量化のため内部に複数の空洞が形成されている。車両用ホイール10の内部に空洞を形成するため、複数の中子4が使われる。本実施の形態にあっては、ホイール全体の中子4を、
図3に示す分割線IV−IV及びV−Vに沿って4分割するとともに、リム部11に使われる4個の中子4a〜4dとディスク部12に使われる4個の中子4e〜4hとを分離して、都合8個の分割中子4a〜4hを形成する。
【0047】
したがって、これらの分割中子4a〜4hを使って得られる車両用ホイール10には計8個の空洞が形成される。
【0048】
分割中子4a〜4hは、ブロー成形にて製造された袋状成形品(袋体)に、高剛性の粒子単独、若しくは高剛性粒子と弾性体粒子との混合粒子を充填して作られる。本発明にあっては、こうして作られた分割中子4a〜4hを車両用ホイール10に形成される空洞の形状に沿って単に配するだけでなく、プリプレグを介して配している。具体的には、
図7に示すように、下型1の所定領域に配されるプリプレグ3の片面に、例えばリム部11の分割中子4aを密着させて配置し、同プリプレグ3の他方の面に隣り合うディスク部12の分割中子4eを密着して配置して、分割中子4a及び4eの全面をプリプレグ3にて覆う。リム部11の残る分割中子4b〜4dとディスク部12の残る分割中子4f〜4hとを、分割中子4a及び4eと同様に、それぞれプリプレグ3にて密着させて覆う。
【0049】
こうして各分割中子4a〜4hを覆ったプリプレグ3を、
図7に示す下型1及び側面型2bの各対応するキャビティ内に互いを密接させて配置する。この配置が終わったら、上型2aと金型ブロック5aを一緒に下降させる。この上型2a及び金型ブロック5aの下降の途中で上型2aの下面及び金型ブロック5aの下面突出端面がそれぞれ先に配置されているプリプレグ3に当接し、プリプレグ3の一部表面への加圧が開始され、上型2aは所定の下限位置に達する一方、金型ブロック5aは加圧を持続する。このときの上型2aの下降の下限位置は側面型2bの上面位置の高さによって決まるが、金型ブロック5aは金型と衝突することなくプリプレグ3の表面を押圧する。上型2aが下降して下限位置に達し、金型ブロック5aが押圧を続ける加圧時に、プリプレグ層に含浸された樹脂を硬化させ、所望の形状を有する繊維強化プラスチック構造体を成形する。
【0050】
本実施の形態における上型2aは、
図7に示すように、車両用ホイール10のリム部11の一部外部表面である上端平面部の位置を規制することを目的とし、一方の金型ブロック5aは、同図に示すように、その突出部5a' によって車両用ホイール10のディスク部12の上面の一部を加圧するために専ら使われる。そして、金型ブロック5aの加圧による圧力は中子に充填された粒子群の流動により伝達されて車両用ホイール10のリム部11の一部外部表面である上端平面部が上型2aを押す力となるが、上型2aはこの力によっては移動しないように固定されている。このようにして、上型2a、金型ブロック5a、側面型2bと下型1は、それらが形成するキャビティに配された8個の分割中子4a〜4hを独立して内包するプリプレグ3全体を加圧する。
【0051】
プリプレグ3は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維等の強化繊維に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させたシート状のものとして構成しておくことができる。強化繊維の種類は目的とする繊維強化プラスチック構造体の性能に合わせて選択する。
【0052】
図示の実施形態は、複数の分割中子4a〜4hが、それぞれを覆うプリプレグ3を介して隣接する空洞を形成するものであるが、例えば、複数の分割中子4a〜4hを個々に覆った各プリプレグ3の間に、さらに複数層のプリプレグ3を追加することもできる。また、8個の分割中子4a〜4hを個々にプリプレグ3で覆ったものを下型1の型内にセットしているが、8個の分割中子4a〜4hを個々にプリプレグ3で覆ったものを組み合わせたのちに、更にその全体を覆うようにプリプレグを積層してから下型1にセットすることもできる。また、
図3〜
図5に示す実施の形態では、ディスク部12の中子の分割方向とリム部11の分割方向とを一致させているが、両者の分割方向を必ずしも一致させる必要はない。分割方向の相対的配置は、得ようとする繊維強化プラスチック構造体の種類や、使用時における応力の分散、質量の分散が最適になるように選択することができる。
【0053】
また図示実施形態によれば、リム部11及びディスク部12の各分割中子4a〜4hの間に挟着されるプリプレグと、リム部11の各分割中子4a〜4dとディスク部12の各分割中子4e〜4hとの間で挟着されているプリプレグとが存在することになる。このことは、全てのプリプレグが硬化されたのち、分割中子4a〜4hが半成形品から取り外されると、その取り外された部位に空洞ができるが、隣接する空洞の間に必ずプリプレグの成形品が一体となって残ることになり、これがそれぞれに複雑な配置で連なる複数の空洞の間を連結して、構造体全体の強度と剛性を確保するとともに、複雑に配置された異なる空洞自体の補強リブとして機能する。
【0054】
上述の説明は熱硬化性樹脂を使って説明したが、熱硬化性樹脂の代わりに熱可塑性樹脂を含浸させたプリプレグを使う場合は、プリプレグ3を予め加熱して賦形したプリフォームを、成形用金型にて加圧冷却し、所望の形状のFRP成形品を製造することができる。さらにプリプレグの代わりに、強化繊維織布などの強化繊維基材をもって複数の中子を個々に覆って成形用金型内に配置し、成形用金型を閉じた後、成形用金型の成形面と各中子を覆った強化繊維基材との間のキャビティに熱硬化性樹脂を加圧注入して充填し、加熱する成形用金型により硬化させるレジントランスファー成形にも適用することもできる。
【0055】
繊維に含浸させる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、フェノール樹脂等を用いることができ、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、塩化ビニール、ポリアミド樹脂などを用いることができる。
【0056】
中子4は、所望の外形形状に賦形されたブロー成形品、真空成形品、インジェクション成形品などの袋体6に、高剛性を有する粒子群を充填して構成される。粒子群6aを構成する高剛性の粒子としては、アルミナ、ジルコニア等のセラミック、ガラス、硬質耐熱樹脂、金属、鋳物砂等を用いることができる。粒子として、ジルコニア、石英を用いた場合には、これらの物質は、熱伝導率が低いので、好適な材料となる。中子4の形態を保持するために用いる袋体6の素材としては、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂フィルム、シリコンゴム等を用いることができ、袋体を除去しない場合には、樹脂接着性に優れるナイロンが適している。また、袋体の密着性を向上させるため、コロナ放電処理なども有効に利用できる。
上記金型ブロック5aは、成形用金型15の上型の一部を構成しており、その本体の下面には成形用金型15のキャビティ内に出没可能な複数の突出部5a’を有している。図示例では、突出部5a’は本体と一体に形成されており、本体と一体となって成形用金型15のキャビティ内に出没可能とである。そのため、この金型ブロック5aの本体に、図示を省略したシリンダやプランジャーが連結されている。金型ブロック5aは、上型2aの内周面に摺動可能に密嵌される構成を備えている。ここで金型ブロック5aの本体と突出部5a’とを分離した構成とすることもできる。その場合、金型ブロック5aの本体と突出部5a’とに、それぞれ独立したシリンダやプランジャーなどの作動手段を設けることができる。
【0057】
次に、本発明の実施の形態である繊維強化プラスチック構造体の成形方法について、車両用ホイールを例に挙げて、図面を参照して具体的に説明する。
まず、
図3において、リム部11とディスク部12、分割線IV−IVと分割線V−Vに沿って分割された8個の分割中子4a〜4hをプリプレグで個々に包んだ成形材料(以下、成形原材3a〜3hという。)を下型1と下型1上に載置された水平方向に可動な側面型2bによって形成されるキャビティ内の所定位置にそれぞれ載置する。ここで、上型2aを下型1に向けて下降させて、側面型2bを挟んで固定し、型締めがなされる。上記成形原材3a〜3hは、下型1に載置した時点から加熱されるが、型締めにより全周から効率的に加熱することができる。この段階では圧力は高くなく、次の段階の金型ブロック5aにより圧力を高めるため、型締め機としては型の開閉機構があればよく、高圧プレス機は不要である。
【0058】
続いて、金型ブロック5aを成形用金型15のキャビティ内に押し入れて、プリプレグ3に覆われている各分割中子4a〜4hの外表面の一部をプリプレグ3を介して押圧する。この押圧により、中子4内の粒子群6aを構成する粒子間に滑りが生じて、粒子群6aが流動して中子4が変形し、中子4の外周表面積が増大する。中子4の外周表面積を広げると、特に空隙が生じ易いプリプレグ3の内面における四隅にも、中子4が隙間なく行き届き、中子4をプリプレグ3の内面に密接させることができ、曲がりやシワのない寸法精度の高い成型品が得られる。
【0059】
すなわち、中子4の外周表面積を広げることで、中子4を包み込んでいるプリプレグ3と中子4との間に空隙が形成されていたとしても、空隙を構成していた空気は、中子による高い内圧により潰れるか、プリプレグ3を通って成形用金型15から大気中に放出されることになる。空気がプリプレグ3を通ったときに形成された通路は、空気が通った後では溶融しているプリプレグ3によって自然に塞がれることになる。
【0060】
また、成形用金型15の角部において、成形用金型15とプリプレグ3との間に空隙が存在していた場合であっても、中子の外周表面積の拡大により中子4からの押圧が生じプリプレグ3は空隙側に移動する。そして、この空隙を形成していた空気は、高い内圧により潰れるか、成形用金型15とプリプレグ3の隙間から大気中に押し出される。空気が押し出された空隙の部分にはプリプレグ3が移動して、成形用金型15の角部形状に沿った形状に形成される。これにより、プリプレグ3を加熱加圧して形成した成形品は、例えば、角部が直角や鋭角に形成された成形品や、アンダーカット形状が可能になる。
【0061】
なお、実施例の説明で用いる各図において、袋体6を分かり易く説明するため、誇張した状態で袋体6の肉厚を厚く示している。実際には、袋体6は、1mm前後に構成されることができる。ここでは、車両用ホイールの成形品を成形する構成について説明を行っているが、ディスク形状の意匠性やリム幅など、適宜適用することができ、成形品としては、閉断面を有する他の形状や、閉断面と開断面の組み合わせた形状など、更に複雑な構造体の成形が可能である。
【0062】
閉断面に近い形状としては、断面形状がC字状の形状等がある。例えば、C字状の断面形状を有する成形品を形成する場合には、中子の一部を上型2a、金型ブロック5a又は下型1の成形面に直接当接させた配置構成を採用することができる。そして、成形面に当接していない中子の周囲をプリプレグ3で覆うことにより、C字状の断面形状を有する成形品を成形することができる。このため、本発明における閉断面とは、角パイプ形状等の形状以外にも、例えば、C字状の断面形状が包含される。
【0063】
図7に示すように、金型ブロック5aで中子4の外表面の一面を押圧することによって、プリプレグ3の外表面には実質的に凹部を形成せずに、中子4内の内圧を高めることができる。
【0064】
中子4を構成する粒子群6aの一部の内圧が高まることによって、粒子群6aを構成する粒子は相互に滑りを生じて前後左右上下方向に移動し、粒子群6aは圧力の低い側に拡大する。粒子群6aを包含している袋体6は熱可塑性樹脂など、比較的軟質な材質から構成されているので、袋体6は粒子群6aの移動を実質的に制限せず、中子の外周表面積が拡大するように延伸することができる。
【0065】
金型ブロック5aによる押圧前に中子4とプリプレグ3との間に空隙がある場合、金型ブロック5aによる押圧時に、空隙近傍の粒子群6aの圧力の上昇は空隙が無い部分の圧力の上昇に遅れるが、中子4を構成する粒子群6aの一部の内圧が高まり、中子4の外周表面積が広がり、中子4とプリプレグ3との間に空隙をなくすことができる。
【0066】
しかも、中子4の外表面表面積の広がりは、空隙が生じているようなプリプレグ3との間での圧力が低い部位において生じるので、空隙をなくしながらプリプレグ3の肉厚を所定の肉厚に維持しておくことができる。
このように、所定の肉厚を有するとともに、所望の外表面形状を備えた形状に成形品を加圧成形することができる。
【0067】
図6には、成形用金型15による加圧成形が終了した半成形品を、成形用金型15から取り出した状態を示している。金型ブロック5aで押圧したプリプレグ3の部位は、各分割中子4a〜4hの存在部位の上面の一部ではなく、上面全体を押圧しているため、外観上押圧の痕跡は認められない。なお、同図は、プリプレグで覆ったディスク部12の4個の中子4e〜4hの間に配置して、成形用金型で加圧加熱成形すると、本発明における金属部材の一つである車軸用金属ハブ7をも一体に成形が可能となる例を示している。こうして得られる車両用ホイールの半成形品において、プリプレグ成形部分の一部に粒子群6aの排出用の孔を開けると、この孔から中子4を構成していた粒子群6aを外部に排出して、中空部を有する成形品である車両用ホイールを完成させることができる。粒子群6aを収容する、ブロー成形品、真空成形品、インジェクション成形品などの立体形状に賦形された袋体6は、粒子群6aの排出用の孔が大きい場合には、成形品に対して剥離性がよい材料での構成や、袋体6を二重に構成しておけば、粒子群6aに接する袋体6も成形品から取外すことができるが、袋体の厚さが厚く、形状が複雑で、袋体を取り出すのが困難な場合には、成形品内に袋体を残し、成形品と袋体を接着させることもできる。
【0068】
このように、中子4とプリプレグ3との間に空隙が生じない状態でプリプレグ3に対する加圧成形を施すことができるので、成形品としては曲がりやシワのない所望の肉厚で所望の外表面形状を有する製品として製造することができる。また、成形用金型を閉めた状態において中子4内の内圧が低い場合であっても、例えば金型ブロック5aから加えられる押圧力によって中子4内の内圧を高めることができるため、成形品としては所望の肉厚で所望の外表面形状を有する製品に製造することができる。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
【実施例】
【0069】
(実施例1)
図3に示す車両用ホイールの内部空洞形成用の中子4を、リム部11の中子とディスク部12の中子とを分割し、更に同図の分割線IV−IV及びV−Vに沿って分割して、
図4及び
図5に示す形状の計8個の分割中子4a〜4hを作成した。それぞれの分割中子4a〜4hは、ジルコニア粒子(直径1mm、3mmの混合)をナイロンブロー成形品からなる袋体6に収容して、
図3に示す形状の8個の分割中子4a〜4hを作製した。5層に積層した炭素繊維強化エポキシ樹脂プリプレグ3(三菱レイヨン社製TR3110 391IMU)で各分割中子4a〜4hを覆って8個の成形原材を作成した。これを下型1の内周面形状と略同形状に組み合わせて、室温にて集合しプリフォームとした。このとき各成形原材の表面はそれぞれプリプレグ3で包み込まれた状態にあるため、プリフォームの隣接する分割中子4a〜4hの間には全てプリプレグ3が介在することになる。
【0070】
次いで、予め140℃に加熱した成形用金型15の下型1に形成した凹部1a内にプリフォームをセットしたのち、上型2aを下型1に向けて下降させ型締めし、続いて金型ブロック5aを下降させて突出部5a’にて各分割中子4a〜4hの外表面の一部をプリプレグ3を介して4MPaで押圧した。10分後、型開きを行い、半成形品を取り出した。半成形品の表面の、それぞれの中子の表面に配されたプリプレグ3の部位に排出用の孔を開け、粒子群6aを排出用の孔から外部に排出して、内部に複雑で連続して連なる複数の空洞を有する繊維強化プラスチック製の車両用ホイール10を得た。複数の空洞間にはプリプレグ3から成形された成形品が介在しているため、車両用ホイール10として必要な強度と剛性を有していた。この車両用ホイール10は角部、アンダーカット形状、垂直面を有する複雑形状であるが、寸法精度が高く、外面にシワなど欠陥のない外観に優れるものであった。
【0071】
(実施例2)
本発明の実施例2を、
図7を参照して具体的に説明する。実施例1では、プリプレグ材料で中子を覆い、成形用金型15を用いて圧縮成形を行う例を挙げて説明したが、実施例2では、実施例1と同様の成形用金型を用いてレジントランスファー成形を行うため、複数の分割中子を図示せぬ強化繊維織布からなる強化繊維基材で覆う構成になっている。他の構成は、実施例1と同様の構成となっており、同様の構成部材については、実施例1で用いた部材符号と同じ部材符号を用いることにより、その部材について十分理解できることから、それらの説明は省略する。
【0072】
プリプレグの代わりに強化繊維織布を用い、上記成形金型15を閉じて、図示されない樹脂注入孔からキャビティ内に熱硬化樹脂を注入し、樹脂充填後、金型ブロック5aにより1MPaで加圧を行い、加熱硬化させる。次いで型開きを行い、半成形品である車両用ホイール10を取り出し、半成形品の所要の箇所に中子排出用の孔を開け、粒子群6aを排出用孔から外部に排出し、中空成形品を得る。空洞部に残された袋体は樹脂の硬化時に熱硬化性樹脂により強化繊維織布と一体化する。
【符号の説明】
【0073】
1・・・・・・・・下型
2a・・・・・・・上型
2b・・・・・・・側面型
3・・・・・・・・プリプレグ(強化繊維織布)
4・・・・・・・・中子
4a〜4h・・・・分割中子
5a・・・・・・・金型ブロック
5a’・・・・・・突出部
6・・・・・・・・袋体
6a・・・・・・・粒子群
7・・・・・・・・車軸用金属ハブ
10・・・・・・・車両用ホイール
11・・・・・・・リム部
12・・・・・・・ディスク部
15・・・・・・・成形用金型
30・・・・・・・成形用金型
31・・・・・・・下型
32・・・・・・・上型
33・・・・・・・中子
33a・・・・・・粉粒子群
33b・・・・・・袋体
34,35・・・・繊維強化熱可塑性樹脂材(FRTP)
36・・・・・・・プリプレグ
41a,41b・・成形用金型
42a,42b・・合せ面
43・・・・・・・中子
46・・・・・・・加圧ユニット