(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、モータの回転軸やサーボ機構中の回転体の回転角度を測定するための装置として、耐久性および信頼性の点で優れるホール素子を利用した非接触回転角度センサが多用されるに到っている。
このようなホール素子を利用した非接触回転角度センサでは、回転体の回転変位に同期して変位する磁石が作る磁界によって、ホール素子に生起するホール起電力の変化をΔΣ変調器を用いた量子化処理(AD変換)を適用して検出し、該検出値に基づいて磁石の(従って、当該回転体の)回転角度を求める(例えば、非特許文献1、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
図11に上述のような非接触回転角度センサの一例としてシリコンモノリシックホール素子を利用した非接触回転角度センサを示す。
図11の非接触回転角度センサでは、シリコン基板30の中にホール素子X1、X2、Y1、Y2、および、信号処理回路が形成されている。
そして、ホール素子X1で発生するホール起電力信号とホール素子X2で発生するホール起電力信号との差を計算することによりVx信号を得ることができる。
【0004】
同様に、ホール素子Y1で発生するホール起電力信号とホール素子Y2で発生するホール起電力信号との差を計算することによりVy信号を得ることができる。
上述のようにして得られたVx信号、Vy信号は、回転体に取り付けられた磁石が作る磁場と回転角センサの間の角度θに対して、次の式(1)の関係がある。
【0005】
【数1】
【0006】
上掲の式(1)において、Vamp,x、Vamp,yは、それぞれ1対のホール素子X1およびX2、ホール素子Y1およびY2に係る磁気感度である。
理想的には、Vamp,x=Vamp,yであることが望ましいが、半導体製造プロセス上のプロセス勾配などの理由により、Vamp,x≠Vamp,yとなり、このような各対のホール素子X1およびX2、ホール素子Y1およびY2の磁気感度のミスマッチは回転角度センサにおける角度検出誤差の一つの要因となる。
【0007】
例えば、回転角度センサにおいてVamp,xとVamp,yの間で磁気感度のミスマッチが1%あるときには(Vamp,x:Vamp,y=1.00:1.01のとき)、次の式(2)におけるように、角度の真値が45°の場合に、回転角度センサが出力する角度検出結果には約0.29度の角度誤差が発生してしまうことになる。
【0008】
【数2】
【0009】
CMOSプロセスを使用して、シリコンモノリシックホール素子を形成する場合には、通常、磁気感度Vamp,xとVamp,yとの間のミスマッチは、最大で2%程度である。
一方、回転角度センサの角度誤差を0.03度程度に抑制して高精度の回転角度センサを実現する場合には、磁気感度Vamp,xとVamp,yのミスマッチを、0.1%、ないしは、それ以下の分解能で補正することが必要となり、信号処理回路には極めて高い分解能でのゲイン調整機能が要求されることになる。
【0010】
図12は、ホール素子のバイアス電流の向きを、周波数f_Mod(周期T_Mod)のクロック信号に従って周期的に切り替えることにより、ホール素子のオフセットをキャンセルする方式のホール起電力信号検出装置の従来例を表す図である。
図12のホール起電力信号検出装置は、ホール素子を用いた回転角度センサに適用される場合、ホール素子X1およびX2の対に対応する系統と、ホール素子Y1およびY2の系統に対応する系統との双方の系統についてこの
図12と同様の構成の回路がそれぞれに設けられ、これら双方の系統におけるホール起電力信号検出装置で精密なゲイン調整を行うことによって上述の磁気感度Vamp,xとVamp,yのミスマッチが極小となるようにされる。
【0011】
図12において、ホール素子410からスイッチ回路420を通して検出されたホール起電力信号は、復調器430を介して1次のΔΣ変調器440に入力され、このΔΣ変調器440によって、基準電圧 +Vref、−Vrefを基準にして、1ビットに量子化される。
ΔΣ変調器440は、加算器441、積分器442、コンパレータ443、および、1ビットD−A変換器444を含んで構成されている。
【0012】
上述のように1ビットに量子化されたホール起電力信号は、ローパスフィルタ450を通して検出出力信号として出力される。このローパスフィルタ450のカットオフ周波数f_LPFは、ΔΣ変調器440のサンプリング周波数f_SAMPおよびクロック周波数f_Modと比較して、充分に低く設定されている。
なお、スイッチ回路420にはクロック信号生成器460からクロック信号が供給されて、該クロック信号に同期した切替え操作(従って、これによる変調処理)が行われる。また、復調器430にも、クロック信号生成器460からクロック信号が供給されて該クロック信号に同期した復調処理が行われる。
【0013】
図12のホール起電力信号検出装置におけるホール素子のバイアス電流の向きの切替え操作について、
図13を参照して更に詳述する。
図13は、ホール素子をバイアスする駆動電流(バイアス電流)の向きを、基準となる向きに対し、0度および90度に交互に切替えたときのホール起電力の検出について説明するための図である。
図13(a)はバイアス電流の向きが0度のとき、
図13(b)はバイアス電流の向きが90度のときを表している。
【0014】
図13において、ホール素子は、4つの抵抗からなる4端子の素子としてモデル化されており、定電流駆動されている。磁束Bは図示のとおり、紙面に垂直で奥行き方向に向かう向きであると仮定している。
ホール素子へのバイアス電流の向きを0度および90度の間で交互に切替えた時に測定される電圧信号 V_Sig_0degとV_Sig_90degとは、次の式(3)におけるように、ホール起電力信号V_HallとオフセットV_Offsetとの和として表される。
【0015】
【数3】
【0016】
ここで、式(4)に示したように、ホール素子のバイアス電流の方向を0度および90度の間で交互に切替えることによって、ホール起電力信号 V_Hallを、クロック信号によって変調することが出来る。
【0017】
【数4】
【0018】
一方、オフセットV_Offsetに関しては、式(5)に示したように、ホール素子の駆動方向を0度および90度の間で交互に切替えても、ほぼ一定の値となる。
【0019】
【数5】
【0020】
上述のようにして、ホール素子のバイアス電流の向きを0度および90度の間で交互に切替える操作を、周期T_Mod(周波数f_Mod=1/T_Mod)で繰返した場合、ホール素子から出力される信号V_Sig_Modは、
図14の如くになる。
【0021】
図14は、ホール素子から出力される信号V_Sig_Modを関連する信号とのタイミング関係において表した信号波形図である。
図14に示されたように、ホール素子から出力される信号V_Sig_Modは、クロック信号生成器460(
図12)からのクロック信号によって変調されたホール起電力信号V_HallにオフセットV_Offsetが重畳されたものとなり、周期T_Modで繰返す波形となる。
【0022】
図14における信号V_Sig_Modは、復調器430(
図12参照)に入力され、ホール素子のバイアス電流の向きを切替えるために用いられたものと同じクロック信号に同期して復調されて、信号V_Sig_Dmodとなる。復調器430における復調処理は、式(6)に示したように、該クロック信号の位相に従って信号V_Sig_Modの符号を切替える操作となる。
【0023】
【数6】
【0024】
この信号V_Sig_Dmodにおいて、ホール起電力信号成分V_HallはDCに復調されており、一方で、オフセット成分V_Offsetは、既述の変調処理に用いたクロック信号で変調されている。
以上の結果、復調器430の出力信号V_Sig_Dmodは、次の式(7)に示したように表される。
【0025】
【数7】
【0026】
図15は、信号V_Sig_Modと復調器430(
図12)を通過後の信号V_Sig_Dmodの周波数スペクトルを表す図である。
図15(a)は、信号V_Sig_Modの周波数スペクトルを表し、
図15(b)は信号V_Sig_Dmodの周波数スペクトルを表している。
図15(a)の信号V_Sig_Modでは、ホール起電力信号は、変調周波数f_Modに変調されており、DC信号であるオフセットV_Offsetが重畳している。
図15(b)の復調器を通過後の信号V_Sig_Dmodでは、ホール起電力信号V_HallがDCに復調される一方で、オフセットV_Offsetは変調周波数f_Modに変調されている。
図15のようなスペクトルを持つ信号V_Sig_Dmodを、
図12に示したようにカットオフ周波数f_LPFを持つローパスフィルタ450を通すことによって、式(7)における周波数f_Modの成分を除去することができる。
【0027】
上述のようにしてホール起電力信号V_Sig_ModからオフセットV_Offsetをキャンセルする方法は公知である(例えば、非特許文献2参照)。非特許文献2にはホール起電力信号からオフセットを除去する方法について“Connection commutation method”として開示されており、この方法は、ホール素子に対するオフセットキャンセルの技術として既に普及している。
【0028】
なお、上掲の
図15に示した信号スペクトルにおいて、ΔΣ変調器のサンプリングクロックのサンプリング周波数f_SAMPは、変調周波数f_Modに対して充分高い周波数となっているので、ノイズの折り返し(エイリアシング)は発生しない。
図16は、ゲイン調整機能を備えたΔΣ変調器の回路構成を示す図である。なお、
図16のような構成の回路自体は公知である(非特許文献3参照)。
【0029】
図16の回路では、入力信号は、復調器430(
図12)から出力される信号V_Sig_Dmodであり、この回路から出力される信号はV_Sig_Dmodを基準電圧+Vref、−Vrefを基準にしてΔΣ変調して得られるΔΣ(V_Sig_Dmod)である。
図16の回路は、積分器の部分がスイッチドキャパシタ回路として構成されており、2相のノンオーバーラップクロックφ1、φ2によって駆動される。
【0030】
図16の回路においては、ゲイン調整信号(以下、適宜、GAIN_ADJ信号と表記する)の値に応じて積分器に入力される電荷量が変わるので、GAIN_ADJ信号が「1」になったときには、ΔΣ変調器のゲインが(1−α1)倍となる。
図16において、各スイッチはシンボルに付記された条件、例えば、φ1=1、且つ、GAIN_ADJ=1、φ1=1、且つ、GAIN_ADJ=0、φ2=1等々の条件が充足される場合にオンとなる。
上述のGAIN_ADJ信号によるΔΣ変調器のゲイン切り替え状況について次の表にまとめて示す。
【0031】
【表1】
【0032】
図17は、
図16のΔΣ変調器に供給するサンプリングクロックと或るデューティー比を持つゲイン調整信号との関係を表す図である。
図17に示したように、GAIN_ADJ信号のデューティー比がα2となるように生成された場合には、1回のサンプリング動作あたり(1−α1)倍となるゲイン補正をα2の頻度で行うことになるので、ΔΣ変調器のゲインは、次の式(8)で与えられるようになる。
【0033】
【数8】
【0034】
このようなゲイン調整は、キャパシタにおける分解能=α1に加えて、GAIN_ADJ信号のデューティー比=α2という時間軸上で高精度で管理され得るタイミングによる分解能を利用できるため、式(8)から判るように、ゲイン調整に関して高い分解能を得ることが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
図18は、ホール素子から出力される信号V_Sig_Modを関連する信号とのタイミング関係において表した信号波形図である。この
図18では、特に、上述のようなゲイン調整機能を、既述のホール起電力信号を変調−復調してオフセットキャンセルを行う方法と組み合わせた際に、オフセットキャンセルの効果が損なわれる状況を例示している。
図18に例示された状況では、ホール起電力信号を変調するクロック信号周期T_ModがΔΣ変調器のサンプリング周期の整数倍になっている。
【0038】
そして、この
図18の場合には、GAIN_ADJ信号が「1」になるタイミングが、ホール素子のバイアス方向が0度となる位相と毎回合致しているので、復調器430(
図12)から出力される信号V_Sig_Dmodのローレベル期間のみで毎回のゲイン調整を行うことになり、従って、V_Sig_Dmodのハイレベル期間との相殺によるオフセットキャンセルの作用が生ぜず、既述の式(5)に示されたオフセットキャンセルの精度が損なわれることが判る。
【0039】
従来の技術の課題をさらに詳細に説明する。
即ち、
図19は、上記のゲイン調整機能を、前出のホール起電力信号を変調−復調してオフセットキャンセルを行う方法と組み合わせた際に、オフセットキャンセルの精度が損なわれるより具体的なケースを示している。
図19(a)は、ΔΣ変調器のサンプリングクロックを示し、そのサンプリングクロックが8回生成される毎に位相が切り替わるチョッパークロック(周期T_chop)の波形は、
図19(b)のようになる。つまり、サンプリングクロックを16分周することで、チョッパークロックが生成されている。そして、GAIN_ADJ信号をチョッパークロックに同期して1回ずつ生成してしまうと、
図19(c)に示すようになる。この
図19(c)の例では、チョッパークロックがハイレベル期間にあるときにGAIN_ADJ信号が生成されている様子を示しており、GAIN_ADJ信号は、常に、チョッパークロックがハイレベルにあるときのみに生成されている。このため、信号V_Sig_Dmodの直流成分(ホール起電力信号V_Hall)のゲイン調整が行われる一方で、交流成分(オフセットV_Offset)に対してもゲイン調整が影響してしまう。よって、既述の式(5)に示されたオフセットキャンセルの精度が損なわれることになる。
【0040】
図20は、オフセットキャンセルの精度が損なわれる他のケースを示している。この例では、サンプリングクロックが16回生成される毎に、GAIN_ADJ信号を3回生成する場合を示している。この場合には、チョッパークロックがハイレベル期間にあるときにGAIN_ADJ信号が1回生成され、ローレベル期間にあるときに2回生成される様子を示している。このため、GAIN_ADJ信号は、交流成分(オフセットV_Offset)に対しては平均値を押し下げる作用があり、オフセットキャンセルの精度が損なわれることになる。
【0041】
発明者は、上述のように従来の技術を具に分析・考察した結果、これらゲイン調整およびオフセットキャンセルに係るそれぞれの従来技術を組み合わせて実施する場合には、上掲のようなオフセット抑制の精度が損なわれるという問題が生じることを突き止めた。
即ち、ホール素子に供給するバイアス電流の向きを2相のクロック信号に同期して順次交互に切替えることによって前記ホール素子から検出されるホール起電力信号を変調し、該変調されたホール起電力信号を前記クロック信号に同期して復調する変調−復調処理を行った後ΔΣ変調器でΔΣ変調し、該ΔΣ変調された信号からオフセット成分を周波数分離して除去するオフセットキャンセル処理の方式と、前記ΔΣ変調器の積分器での積分動作の繰り返しにおけるデューティー比を調整するゲイン調整信号に基づいてゲイン調整を行う方式とを単純に組み合わせると、オフセットキャンセルの精度が損なわれてしまう。そして、上述におけるようなオフセットキャンセルの精度が損なわれるという問題を回避する技術は未だ提案されるに到っていない。
【0042】
従って、本発明の目的は、ホール素子に供給するバイアス電流の向きをクロック信号によって順次交互に切替えることによって検出されるホール起電力信号を変調−復調してオフセットキャンセルを行う方法と、ホール起電力信号を処理して検出出力を得るためのΔΣ変調器の積分器での積分動作の繰り返しにおけるデューティー比の調整によってゲイン調整を行う方法とを組み合わせながらもオフセットキャンセルの精度が損なわれないようにしたホール起電力信号検出装置を実現するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0043】
上記目的を達成するべく、ここに、以下に列挙するような技術を提案する。
(1)磁界強度に応じて変動し、磁気信号成分及びオフセット信号成分を含む信号を出力する磁電変換素子部と、
クロック信号を出力するクロック信号出力部と、
前記クロック信号がN回生成される毎に、前記磁電変換素子部が出力する信号のうち、前記磁気信号成分は直流成分に復調し、オフセット信号成分を交流成分に変調する信号調整部と、
前記クロック信号がN’回カウントされる毎に、調整値n’回の頻度で、前記信号調整部の出力信号を変調した信号を出力する感度補正部と、
前記感度補正部の出力信号を前記クロック信号に同期してA/D変換するA/D変換部と、
を備え、
N、n、N’、n’は自然数、N、N’は2の累乗、N’>n’、N’≧2Nであって、
n’=2n−1
を満たすことを特徴とする信号処理装置。
【0044】
(2)上記(1)において、 前記N’は256であり、 前記調整値n’は1以上15以下の奇数である信号処理装置。
(3)上記(1)又は(2)において、前記クロック信号出力部は所定の時間間隔毎にクロック信号を出力することを特徴とする信号処理装置。
(4)上記(1)から(3)の何れかにおいて、 前記感度補正部は、所定の時間間隔毎に前記信号調整部の出力信号を変調することを特徴とする信号処理装置。
(5)上記(1)から(4)の何れかに記載の信号処理装置を含むことを特徴とする回転角度検出装置。
(6)上記(1)から(4)の何れかに記載の信号処理装置における前記調整値n’を設定する調整値設定装置であって、
前記調整値n’を複数ビットの二進数として記憶する記憶部を備え、
前記記憶部は、前記調整値n’として記憶される各ビットのうち、最下位ビットについては予め論理値1が設定され、それ以外のビットについては論理値1又は論理値0が設定可能になっていることを特徴とする調整値設定装置。
【発明の効果】
【0045】
磁電変換素子に供給するバイアス電流の向きをクロック信号によって順次交互に切替えることによって検出される起電力信号を変調−復調してオフセットキャンセルを行う方法と、起電力信号を処理して検出出力を得るための積分器での積分動作の繰り返しにおけるデューティー比の調整によってゲイン調整を行う方法とを組み合わせながらもオフセットキャンセルの精度が損なわれないようにした信号処理装置を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態につき詳述することにより本発明を明らかにする。
(第1実施形態)
図1は、本発明の一つの実施の形態であるホール起電力信号検出装置を表す機能ブロック図である。
このホール起電力信号検出装置は、磁電変換素子としてのホール素子を用いた回転角度センサに適用される場合、一対のホール素子X1およびX2に対応する第1の系統と、これらホール素子X1およびX2ホール素子の整列方向とは直行する方向に整列した他の一対のホール素子Y1およびY2に対応する第2の系統とについて、
図1と同様の構成の回路がそれぞれに設けられる。
【0048】
これにより、一対のホール素子X1およびX2に関する磁気感度Vamp,xと他の一対のホール素子Y1およびY2に関する磁気感度Vamp,yとのミスマッチが極小となるような精密なゲイン調整を可能にする。
即ち、本実施形態では、周期Tのクロック信号(サンプリングクロック)を生成するクロック信号生成器161を備え、そのクロック信号生成器161で生成されたクロック信号(周期T)を分周してチョッパークロック(周期T_chop)を生成する分周器165が設けられている。分周器165で生成されたチョッパークロックは、スイッチ回路120及び復調器130に供給されている。また、クロック周波数が供給されるビットストリーム生成器200が設けられている。
【0049】
ビットストリーム生成器200は、GAIN_ADJ信号を生成する回路であって、非特許文献3にも記載されるように公知のものである。具体的には、ビットストリーム生成器200は、
図2に示すように、デジタル式のビットストリーム生成器であって、x-bitのシフトレジスタ201、フルアダー202、レジスタ203を備えて構成される。
調整値n’はGAIN_ADJ信号の生成頻度、サンプリングクロックはΔΣ変調器サンプリングクロック(クロック信号)と同様のものである。この構成では、調整値n’がサンプリングクロック毎にフルアダー202及びレジスタ203で積算されていき、積算結果がフルアダーのレンジN’(通常x’-bitの場合、N’=2
x’)を超え、オーバーフローした際にGAIN_ADJ信号が生成される。つまり、ΔΣ変調器サンプリングクロックが2x’回カウントされる間にGAIN_ADJ信号はn’回生成され、補正を行う頻度α2はn’/N’で表される。
【0050】
図1に戻り、ホール素子110には、スイッチ回路120によって、流れる方向が順次交互に直交する方向に切替えられるバイアス電流が供給されると共に、該切替えに同期して極性が反転するように生起するホール起電力信号がスイッチ回路120を介して出力される。
上述のようにして出力されたホール起電力信号は、スイッチ回路120における切替え動作によって該切替えの周波数、つまりチョッパークロックで変調された信号である。そして、この変調された信号が復調器130によって上述の変調における周波数と同じ周波数に同期した復調動作によって復調される。なお、スイッチ回路120の後段には、増幅器(プリアンプ回路)125を設けていて、その増幅器125で増幅された信号V_Sig_Modが復調器130に供給されるようになっている。
【0051】
復調器130によって復調された信号は、1次のΔΣ変調器140に入力されて、基準電圧+Vref、−Vrefを基準にして、1ビットに量子化される。
ΔΣ変調器140は、加算器141、積分器142、コンパレータ143、1ビットD−A変換器144、増幅器210、および、乗算器220を含んで構成されている。
そして、ΔΣ変調器140におけるゲイン調整は、ビットストリーム生成器220から供給されるゲイン調整信号を利用して行われるようになっている。
【0052】
即ち、復調器130の出力である信号V_Sig_Dmodをゲインα1倍する増幅器210と、その増幅器210の出力とGAIN_ADJ信号とを掛け合わせる乗算器220と、が設けられている。そして、乗算器220の出力が加算器141に供給されている。
本実施形態の構成では、ビットストリーム生成器200に供給される調整値n’を適宜選定することで、ゲイン調整回路としての調整量を任意に設定することができる。つまり、この回転角度検出装置の出荷前に、調整値n’が0の状態(GAIN_ADJ信号を入力しない状態)で、且つ、大きさが既知の磁気がホール素子に加わった状態で、ホール起電力信号V_Detを測定する。そのときのホール起電力信号V_Detが、大きさが既知の磁気に応じて本来ならば出力されるべき大きさの信号からどの程度ずれているかを把握し、そのずれが0になるようなゲイン調整がなされるように、調整値n’を選定し、ビットストリーム生成器200内のメモリ等にセットする。
【0053】
上述のようにして1ビットに量子化されたホール起電力信号は、ローパスフィルタ150を通して検出出力信号として出力される。
ローパスフィルタ150のカットオフ周波数f_LPFは、ΔΣ変調器140のサンプリング周波数f_SAMPおよびクロック周波数f_Modと比較して、充分に低く設定される。これは、上述のようにしてホール起電力信号に対して変調−復調処理を行った後、ΔΣ変調器でΔΣ変調し、該ΔΣ変調された信号からオフセット成分を周波数分離して除去するオフセットキャンセル処理を効果的に行うためである。
【0054】
なお、
図1のホール起電力信号検出装置におけるホール素子のバイアス電流の向きの切替え動作自体については
図13を参照して既述の説明を援用する。
ここで、
図3は、(a)信号V_Sig_Dmodに含まれる信号成分(直流成分)であるホール起電力信号V_Hallと、(b)信号V_Sig_Dmodに含まれるオフセット成分(交流成分)V_Offsetと、(c)ゲイン調整信号GAIN_ADJとを、それぞれ時間軸上で示す図である。
【0055】
ゲイン調整信号GAIN_ADJによるゲイン調整は、α2の頻度で、α1の大きさのパルス信号を信号V_Sig_Dmodに乗じるということであるから、信号成分毎に考えると、
図3(a)に示す信号成分に
図3(c)に示すゲイン調整信号GAIN_ADJを乗じるとともに、
図3(b)に示すオフセット成分に
図3(c)に示すゲイン調整信号GAIN_ADJを乗じるということになる。
【0056】
それら乗算の結果を、
図4(a)(b)に示すようになる。つまり、信号V_Sig_Dmodに含まれる信号成分(直流成分)であるホール起電力信号V_Hallについては、ゲイン調整信号GAIN_ADJに同期して常に正方向に振幅を有するパルス列となり、オフセット成分(交流成分)V_Offsetについては、ゲイン調整信号GAIN_ADJに同期して交互に正方向及び負方向に振幅が逆転するパルス列となる。
【0057】
そして、
図4(a)(b)に示す各信号が、元の信号V_Sig_Dmodに加算されることになるから、信号成分毎に考えると、
図5(a)(b)に示すようになる。つまり、ホール起電力信号V_Hallについては、元の信号である直流成分に対してゲイン調整信号GAIN_ADJに同期して常に正方向に微小な振幅が加わった信号となり、オフセット成分(交流成分)V_Offsetについては、ゲイン調整信号GAIN_ADJに同期して交互に正方向及び負方向に振幅が逆転するパルス列となる。
【0058】
このため、
図5(a)に示す信号が積分されることで、ホール起電力信号V_Hallについてはゲイン調整信号GAIN_ADJの大きさ及び発生頻度に応じてゲイン調整が行われたことになる。これに対し、
図5(b)の示す信号が積分されても、ゲイン調整信号GAIN_ADJの積分値は0であるから、オフセットキャンセルの精度を維持することができる。ちなみに、
図18に示したようなタイミングでGAIN_ADJ信号が生成されてしまうと、
図6(a)に示すようにオフセット成分V_OffsetにGAIN_ADJ信号が重畳されてしまうため、それを積分すると、
図6(b)に示すようにオフセットキャンセルの効果が損なわれることになる。
【0059】
即ち、
図7は、チョッパークロックの周期が16である場合において、クロック信号が256(=N’=2
8)回生成される毎に、n’回の頻度でGAIN_ADJ信号を生成する場合において、そのn’を、0から255まで振ったことに対応するオフセットの影響を示すグラフである。
オフセットの影響だけを考えた場合のベストは、
図7のAで示す部分、つまり、オフセットへの影響が0になるケースのいずれかである。このベストケースでは、GAIN_ADJ信号は、オフセット成分V_Offsetの正方向及び負方向に等しい回数ずつ重畳されるため、積分値が0になるというものである。
【0060】
このようなベストケースに該当するようなGAIN_ADJ信号によって、連続した期間の中でオフセット信号がその相対的にハイレベルの期間とローレベル期間とが対を成すように積算され精度よくキャンセルされることになる。
しかしながら、
図7のAで示す部分が必ずしも選択できない場合もある。
そこで、本実施の形態では、調整値n’として適当な値を容易に選べるようにすることで、設計者の負担を軽減するとともに、許容範囲の精度を備えたホール起電力信号検出装置を確実に得られるようにする工夫を行っている。
【0061】
ここで、ΔΣ変調器のゲインは、上記式(8)で与えられるように、キャパシタにおける分解能(α1)と、GAIN_ADJ信号のデューティー比(α2)との積(α1×α2)によって決まってくる。
大幅なゲイン調整が必要な場合は、α1もα2もそれぞれ有る程度の大きさになるため特に問題はないが、実際には、それほど大幅なゲイン調整が不要な場合も多い。
【0062】
ゲイン調整の幅自体が小さい場合、
図16に示したキャパシタC1の容量値を、十分に小さくする、或いは、GAIN_ADJ信号のデューティー比を十分に小さくするか、その何れかが必要になる。
キャパシタC1の容量を小さくすることは容易ではあるが、半導体製造プロセスの精度が十分に高くないと、装置間のばらつきが大きくなってしまい、ゲイン調整に手間取る可能性がある。
【0063】
そこで、キャパシタC1の容量値はそれほど小さくはせずに、GAIN_ADJ信号のデューティー比α2を小さくすることを考えるとともに、オフセットへの影響を顕著に悪化させないことを考える。
具体的には、本実施の形態では、調整値n’として、奇数(=2n−1)を用いる構成としている。
【0064】
ここで、チョッパークロックの1周期を360度とすると、360度×N’/2Nの角度範囲を2n−1分割する位置に、GAIN_ADJ信号が生成されることになる。この場合、GAIN_ADJ信号が生成されるチョッパークロックの各位相について、以下の関係式が成り立つ。
即ち、チョッパークロックの各位相を数列で書くと、
【0066】
となる。
上記(9)式をMOD演算すると、下記(10)式となる。
【0068】
上記(10)式から、チョッパークロック360度×N’/2Nの範囲を、n’(=2n−1)で分割する構成は、360度の範囲を奇数(2n−1)で等分割するものと等価である。
360度の範囲を奇数で分割した場合、その各位相での正弦関数の符号は、1回だけ+が多く含まれる場合か、又は、1回だけ−が多く含まれる場合かのいずれかになり、厳密には0にはならないが、ほぼバランスするといえる。つまり、本実施形態のような工夫を行えば、チョッパークロック周期のN’/2N倍の周期で1回のみ+または−のオフセットを取り込む構成になる。
【0069】
図8は、本実施形態での各調整値n’におけるオフセットへの影響を表しており、
図7のB及びCの部分に示した最悪の場合に比して、オフセットの増加量は1/8程度に抑えられている。
図9は、調整値n’を設定する際に用いる調整値設定装置300の概略構成を示す斜視図であり、
図10は、調整値n’を設定する際の手順を示すフローチャートである。
【0070】
即ち、調整値設定装置300は、スライダ350上を順次搬送されてくるゲイン未調整状態のホール起電力信号検出装置301を、ハンドラー302によって一つずつゲイン調整用のテストボード310上にセットし、そのテストボード310上にてゲイン調整が完了したホール起電力信号検出装置302を、再びハンドラー303によってスライダ350上に戻して順次搬出するという装置である。
【0071】
テストボード上310には、X方向磁場印加コイル311Xと、Y方向磁場印加コイル311Yとが備えられていて、それらコイル311X、311Yには、検査ユニット320によって順番に所定の大きさの電流が供給されて既知の磁場が生成されるようになっている。そして、それぞれの磁場の大きさがテストボード310上にセットされたゲイン調整中のホール起電力信号検出装置301によって測定され、その測定値がモニター360に表示され、操作者は、そのモニター360に表示された測定と、既知の基準値との偏差に基づいて、調整値n’を選択し、その調整値n’を、検査ユニット32によりテストボード310上にセットされたゲイン調整中のホール起電力信号検出装置301に書き込むようになっている。なお、調整値n’は、具体的には、ビットストリーム生成器200に設けられた不揮発性メモリに記憶される。
【0072】
調整値設定装置300における調整値の設定処理は、より詳細には
図10に示すようになっている。
即ち、先ずステップS100において、スライダ350からテストボード310上へ感度補正前の素子(ゲイン未調整のホール起電力信号検出装置301)をハンドラー303で移動させて固定する。
【0073】
次いで、ステップS110に移行し、X方向磁場印加コイル311Xに通電し、X方向の磁場が発生している状態で、X方向の磁気感度Vamp,x(単位:V/T)を、検査ユニット350を通じて素子から読み出す。具体的には、検査ユニット350は、
図1に示すローパスフィルタ150からホール起電力信号V_Detを読み出すということになる。
次いで、ステップS120に移行し、ステップS110と同様の手順を行って、Y方向の磁気感度Vamp,y(単位:V/T)を、検査ユニット350を通じて素子から読み出す。
【0074】
次いで、ステップS130に移行し、1−(Vamp,Y/Vamp,X)の計算から、XY間の感度ミスマッチの大きさを算出する。
そして、ステップS140に移行し、感度ミスマッチの大きさにより、調整値n’を決定し、検査ユニット350を通してホール起電力信号検出装置301に内蔵されている不揮発性メモリ(ビットストリーム生成器200内の不揮発性メモリ)に、調整値n’の値を書き込む。このステップS140の処理を終えたら、次の素子について、ステップS100以降の処理を再び実行する。
【0075】
ここで、ステップS140における処理では、強制的に、調整値n’として奇数のみが設定されるようになっている。
具体的には、複数ビットの二進数(例えば、4ビット「0000〜1111」)で調整値n’は書き込めるようになっており、その4ビットのうち、最下位ビットについては、予め論理値1がセットされていて、操作者はそれを変更できないようになっている。なお、その他のビットについては、論理値1又は論理値0を自由にセットできるようになっている。つまり、本実施形態では、調整値n’には、十進数で1以上15以下の奇数値のみがセットされるようになっている。これは、ビットストリーム生成器200内の不揮発性メモリが4ビット構成であることが現実的には良くあるケースであることを考えると、調整値n’を1以上15以下の奇数とすることは現実的な対応として好ましいものである。
【0076】
例えば、本実施形態の構成であれば、操作者が調整値n’として「1000」(十進数で8)をセットしようとしても、自動的に「1001」(十進数で9)がセットされることになる。
このように調整値n’として奇数のみが設定されるようにしたことで、調整値n’によるオフセットへの影響は、
図8に示すような所定値になる。即ち、オフセットの影響は0にはならないが、最小値で済むということになる。
【0077】
このため、熟練した操作者でなくても、オフセットへの影響が誤って
図7のBの部分やCの部分となる調整値n’を選択することはなく、これにより、確実にオフセットの影響を小さくできるホール起電力信号検出装置を得ることができる。
また、
図1の如く、ゲイン調整信号生成器145をΔΣ変調器140内に設けた構成では、別途にゲイン調整信号生成器145をΔΣ変調器外に設けることなく、ΔΣ変調器140内でゲイン調整に係る処理を完結させることが可能である。
【0078】
一方、ゲイン調整信号生成器145は、ΔΣ変調器140の外部に配する構成を採ってもよい。この構成を採った場合には、ΔΣ変調器自体の構成が簡素化される。
ここで、本実施の形態では、スイッチ回路120及び復調器130によって信号調整部が構成され、ビットストリーム生成器200、増幅器210及び乗算器220によって感度補正部が構成され、ΔΣ変調器140のうち感度補正部以外構成がA/D変換部に対応する。
【0079】
(変形例等)
ホール素子をモデル化して表す
図13を参照して既述の説明では、ホール素子のバイアス電流の向きを0度および90度の間で交互に切替えるものとしたが、バイアス電流の向きの切替えに関する選択の可能性は上述の限りではない。
即ち、ホール素子において発生されるホール起電力信号V_Sig_Modが既述のクロック信号によって変調される様に、ホール素子のバイアス電流の向きを切替えてホール起電力信号を検出する限りにおいては、切替え選択するバイアス電流の向きを180度、270度といった向きにする場合を選択可能な向きとして含めるようにしてもよい。
また、クロック信号は一定時間間隔毎に生成されることが設計容易性の観点から好ましい。またGAIN_ADJ信号は一定時間間隔毎に生成されるが設計容易性の観点から好ましい。すなわち、クロック信号が所定時間間隔T毎に生成されるとした場合、GAIN_ADJ信号は所定時間間隔(N’ /n’)×T 毎に生成されることが好ましい。
【0080】
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、請求項1により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。