特許第5689543号(P5689543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5689543
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】Fe系磁性材焼結体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/851 20060101AFI20150305BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
   G11B5/851
   G11B5/65
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-553169(P2013-553169)
(86)(22)【出願日】2013年8月6日
(86)【国際出願番号】JP2013071251
(87)【国際公開番号】WO2014034390
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2013年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-191052(P2012-191052)
(32)【優先日】2012年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】荻野 真一
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−288321(JP,A)
【文献】 特開平06−049510(JP,A)
【文献】 特開昭63−259068(JP,A)
【文献】 特開2010−159491(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/086335(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/070860(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/851
G11B 5/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ptが5mol%以上60mol%以下、BNが1mol%以上50mol%以下、残余がFeであるBNを含有するFe系磁性材焼結体であって、酸素含有量が4000wtppm以下であることを特徴とするFe系磁性材焼結体。
【請求項2】
さらに、Cを0.5mol%以上40mol%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のFe系磁性材焼結体。
【請求項3】
添加元素として、B、Ru、Ag、Au、Cuからなる群から選択した一種以上の元素を0.5mol%以上10.0mol%以下含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のFe系磁性材焼結体。
【請求項4】
添加材として、酸化物、窒化物、炭化物、炭窒化物からなる群から選択した一種以上の無機物材料を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のFe系磁性材焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱アシスト磁気記録メディアにおける磁性薄膜の製造に用いられる焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブに代表される磁気記録の分野では、磁気記録媒体中の磁性薄膜の材料として、強磁性金属であるCo、FeあるいはNiをベースとした材料が用いられている。例えば、面内磁気記録方式を採用するハードディスクの磁性薄膜では、Coを主成分とするCo−Cr系やCo−Cr−Pt系の強磁性合金が用いられてきた。また、近年実用化された垂直磁気記録方式を採用するハードディスクの磁性薄膜には、Coを主成分とするCo−Cr−Pt系の強磁性合金と非磁性の無機物粒子からなる複合材料が多く用いられている。そして上記の磁性薄膜は生産性の高さから、上記材料を成分とするスパッタリングターゲットをDCマグネトロンスパッタ装置でスパッタして作製されることが多い。
【0003】
ハードディスクの記録密度は年々急速に増大しており、現状の600Gbit/inの面密度から、将来は1Tbit/inに達すると考えられている。1Tbit/inに記録密度が達すると記録bitのサイズが10nmを下回るようになり、その場合、熱揺らぎによる超常磁性化が問題となってくると予想され、現在使用されている磁気記録媒体の材料、例えばCo−Cr基合金にPtを添加して結晶磁気異方性を高めた材料では十分ではないことが予想される。10nm以下のサイズで安定的に強磁性として振る舞う磁性粒子は、より高い結晶磁気異方性を持っている必要があるからである。
【0004】
上記の理由から、L1構造を持つFePt相が超高密度記録媒体用材料として注目されている。FePt相は高い結晶磁気異方性とともに、耐食性、耐酸化性に優れているため、磁気記録媒体としての応用に適した材料と期待されているものである。そして、FePt相を超高密度記録媒体用材料として使用する場合は、規則化したFePt磁性粒子を磁気的に孤立させた状態で出来るだけ高密度に方位をそろえて分散させるという技術の開発が求められている。
【0005】
このようなことから、L1構造を有するFePt磁性粒子を酸化物や炭素といった非磁性材料で孤立させたグラニュラー構造磁性薄膜が、熱アシスト磁気記録方式を採用した次世代ハードディスクの磁気記録媒体用として提案されている。このグラニュラー構造磁性薄膜は、磁性粒子同士が、非磁性物質の介在により磁気的に絶縁される構造となっている。一般的に、このようなグラニュラー構造磁性薄膜はFe系の磁性材焼結体スパッタリングターゲットを用いて成膜される。
【0006】
Fe系の磁性材焼結体スパッタリングターゲットについて、本発明者らは以前Fe−Pt合金などの磁性相と、それを分離している非磁性相から構成されており、非磁性相の材料の一つとして金属酸化物を利用した強磁性材焼結体スパッタリングターゲットに関する技術を開示した(特許文献1)。
また、その他、特許文献2には、FePt合金相中にC層が分散した組織を有した焼結体からなる磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットが開示されている。また、特許文献3には、Bを含有し、残余がCo、Fe、Niの元素から選択した1種以上である磁性材スパッタリングターゲットが開示されている。また、特許文献4には、Fe及びCoから選ばれる1種以上の元素と、Pt及びPdから選ばれる1種以上の元素からなり、酸素含有量が1000ppm以下である記録媒体用スパッタリングターゲットが開示されている。また、特許文献5には、ニッケルが78〜85wt%、残部が鉄からなり、不純物である酸素濃度が25ppm以下の焼結体からなるパーマロイ膜形成用ターゲットが開示されている。さらに、特許文献6には、酸素含有量が50ppm以下である磁性薄膜形成用Ni−Fe合金スパッタリングターゲットが開示されている。
【0007】
ところで、磁性材料のFeは、イオン化傾向が高いため、大気中もしくは酸素存在の雰囲気下で容易に酸素と反応して、酸化鉄を形成する。しかしながら、この酸化鉄は非常に脆いため、焼結体中に存在すると、焼結体をスパッタリングターゲットなどに加工する際、割れやチッピングを発生させるなど、焼結体の機械加工性を著しく悪化させ、歩留まりを低下させるという問題があった。特に、焼結体中にCやBNなどの難焼結材料を含む場合には、他の成分系の焼結体に比べて、より一層機械加工性を悪化させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第WO2012/029498号
【特許文献2】特開2012−102387号公報
【特許文献3】国際公開第WO2011/070860号
【特許文献4】特開2003−313659号公報
【特許文献5】特開平7−26369号公報
【特許文献6】特開平11−335821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、熱アシスト磁気記録メディアの磁性薄膜の作製を可能にする、非磁性材料としてBNを用いたFe系磁性材焼結体を提供することであり、特には、焼結体中の酸素量を低減することにより、機械加工性を向上した焼結体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、原材料として使用するFe粉末の形態を調整することにより、酸素量を著しく低減したFe系の磁性材焼結体を作製できることを見出した。そして、このようにして作製された焼結体は、機械加工性が良好となり、スパッタリングターゲットなどに加工する際、割れやチッピングの発生を抑制することが可能となり、製品の歩留まりを向上できることを見出した。
【0011】
このような知見に基づき、本発明は、
1)BNを含有するFe系磁性材焼結体であって、酸素含有量が4000wtppm以下であることを特徴とするFe系磁性材焼結体、
2)Ptが5mol%以上60mol%以下、BNが1mol%以上50mol%以下、残余がFeであることを特徴とする上記1)記載のFe系磁性材焼結体、
3)さらに、Cを0.5mol%以上40mol%以下含有することを特徴とする上記1)又は2)記載のFe系磁性材焼結体、
4)添加元素として、B、Ru、Ag、Au、Cuからなる群から選択した一種以上の元素を0.5mol%以上10.0mol%以下含有することを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一に記載のFe系磁性材焼結体、
5)添加材として、酸化物、窒化物、炭化物、炭窒化物からなる群から選択した一種以上の無機物材料を含有することを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一に記載のFe系磁性材焼結体、を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のBNを含有するFe系磁性材焼結体は、特にスパッタリングターゲットに加工する際に割れやチッピングの発生を抑制することができるので、当該スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うと、異常放電やパーティクルの発生が少なく、良質の薄膜、特にはグラニュラー構造の磁性薄膜の成膜を可能にするという、優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の焼結体をターゲットに加工した後のその表面の写真である。
図2】比較例1の焼結体をターゲットに加工した後のその表面の写真である。
図3】実施例1の焼結体の断面のFE−EPMAを用いて得られた元素マッピングである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のFe系磁性材焼結体は、非磁性材料としてBNを含有し、酸素含有量を低減することを特徴とするものである。酸素は焼結体中のFeと反応しやすく、非常に脆い酸化鉄を形成してしまうため、酸素量は4000wtppm以下とする。好ましくは、1000wtppm以下であり、さらに好ましくは、500wtppm以下とする。
【0015】
また、本発明のFe系磁性材焼結体は、Ptが5mol%以上60mol%以下、BNが1mol%以上50mol%以下、残余がFeとすることができる。Pt含有量は、5mol%未満、60mol%超であると、良好な磁気特性が得られない場合がある。また、BN含有量は、1mol%未満、50mol%超であると、磁気的に十分な絶縁ができない場合がある。
【0016】
また、本発明のFe系磁性材焼結体において、合金中にC粒子を分散させることが有効である。C含有量は好ましくは0.5mol%以上40mol%以下とする。0.5mol%未満、40mol%超であると、磁気的に十分な絶縁ができないからである。
【0017】
また、本発明のFe系磁性材焼結体は、添加元素としてB、Ru、Ag、Au、Cuからなる群から選択した一種以上の元素を総量で0.5mol%以上10.0mol%以下含有することができる。これらの添加元素は、スパッタ後の膜の磁気特性を向上させるために有効な成分である。
【0018】
また、本発明のFe系磁性材焼結体は、添加材として、酸化物、窒化物、炭化物、炭窒化物からなる群から選択した一種以上の無機物材料を含有することが好ましい。これら添加材は、焼結体中においてBNと母材合金との焼結性を向上する機能を有する。ここで、前記酸化物は、酸化鉄以外の酸化物を意味し、そこに含まれる酸素は本発明で規定する酸素含有量から除かれる。
【0019】
次に、本発明のFe系磁性材焼結体は、例えば以下の方法で作製することができる。
まず、原料粉末を用意し、所望の組成になるように秤量した後、公知の手法を用いて混合する。原料粉末としてFe粉末を使用する場合、粉末はバルク状のものに比べて、表面積が大きいことから酸素と反応しやすい。そして、粉末の粒子径が小さくなればなるほど、表面積が増大し、酸化が進行することになる。したがって、Fe粉末を原料として使用する場合には、Fe粉末の粉砕を伴わないような方法で、混合することが重要である。したがって、ボールミルや媒体攪拌ミルなどの粉砕を伴う混合装置は避け、乳鉢やV型混合機などの比較的粉砕の少ない混合装置を使用することが好ましい。
また、原料粉末としてPtを成分に含有する場合には、FeとPtとをあらかじめ熱処理やアトマイズ法などを用いて合金化することにより、Fe単体の場合に比べて、酸化しにくいFe−Pt合金粉を作製することができる。このように作製したFe−Pt合金粉に対しては、ボールミルや媒体攪拌ミルなどを用いて粉砕混合を行ったとしても、酸素含有量を低く維持することができる。
【0020】
これらの粉末は、粒径が0.5μm以上10μm以下のものを用いることが望ましい。原料粉末の粒径が小さ過ぎると、酸化が促進されてスパッタリングターゲット中の酸素濃度が上昇するなどの問題があるため、0.5μm以上とすることが望ましい。一方、原料粉末の粒径が大きいと、各成分が合金中に微細分散することが難しくなるため10μm以下のものを用いることがさらに望ましい。また、合金粉末を用いる場合も、粒径が0.5μm以上10μm以下のものを用いることが望ましい。
【0021】
こうして得られた混合粉末をホットプレスで成型・焼結する。ホットプレス以外にも、プラズマ放電焼結法、熱間静水圧焼結法を使用することもできる。焼結時の保持温度は、スパッタリングターゲットの組成にもよるが、多くの場合、800°C〜1400°Cの温度範囲とする。
次に、ホットプレスから取り出した焼結体に等方熱間加圧加工を施す。等方熱間加圧加工は焼結体の密度向上に有効である。等方熱間加圧加工時の保持温度は焼結体の組成にもよるが、多くの場合、900°C〜1200°Cの温度範囲である。また加圧力は100MPa以上に設定する。
【0022】
このようにしてBNを含有するFe系磁性材焼結体であって、酸素含有量が4000wtppm以下の焼結体を作製することができる。また、このようにして得られた焼結体を旋盤で所望の形状に加工することにより、スパッタリングターゲットを作製できる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0024】
(実施例1)
原料粉として、Fe−Pt合金粉末、Ag粉末、BN粉末を用意した。これらの粉末を60(45Fe−45Pt−10Ag)−40BN(mol%)となるように秤量した。
次に、秤量した粉末を乳鉢に投入し、均一に混合した。そして、乳鉢から取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。
ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度950°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、昇温速度300°C/時間、保持温度950°C、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、950°Cで保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ96.9%であった。
また、得られた焼結体の酸素含有量を測定した結果、酸素含有量は3500wtppmと少なかった。なお、酸素分析装置は、LECO社製TC−600を使用し、不活性ガス溶解法で分析を行った。
次に焼結体を直径90.0mm、厚さ4.0mmの形状へ旋盤で切削加工して、ターゲットを得、その表面を観察した。機械加工後のターゲットの外観写真を図1に示す。図1に示されるように、ターゲットの表面には割れやチッピングはなく、綺麗に仕上がっていることが確認できた。
【0025】
(比較例1)
原料粉として、Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末、BN粉末を用意した。これらの粉末を60(45Fe−45Pt−10Ag)−40BN(mol%)となるように秤量した。
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量5Lの媒体攪拌ミルに投入し、2時間、回転(回転数300rpm)させて混合・粉砕した。そして媒体攪拌ミルから取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填し、ホットプレスした。
ホットプレスの条件は、実施例1と同様、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度950°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、実施例1と同様に、昇温速度300°C/時間、保持温度950°C、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、950°Cで保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ96.0%であった。
また、得られた焼結体の酸素含有量を実施例1と同様の方法で測定した結果、実施例1と比べて、酸素含有量は13000wtppmと著しく増加していた。なお、酸素含有量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
次に焼結体を直径90.0mm、厚さ4.0mmの形状へ旋盤で切削加工して、ターゲットを得、その表面を観察した。機械加工後のターゲットの外観写真を図2に示す。図2に示されるように、ターゲットの表面には激しくチッピングが生じていることを確認した。
なお、焼結体の端面を切り出し、断面を研磨してその組織をFE−EPMAで分析したところ(図3、参照)、酸素および鉄がほぼ同じ領域に観察され、酸化鉄が形成されていることを確認した。
【0026】
(実施例2)
原料粉として、Fe−Pt合金粉末、BN粉末を用意した。これらの粉末70(50Fe−50Pt)−30BN(mol%)となるように秤量した。
次に、秤量した粉末を乳鉢に投入し、均一に混合した。そして、乳鉢から取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。
ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度1400°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、昇温速度300°C/時間、保持温度1100°C、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、1100°Cで保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ98.3%であった。
また、得られた焼結体の酸素含有量を測定した結果、酸素含有量は3100wtppmと少なかった。なお、酸素含有量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
次に焼結体を直径90.0mm、厚さ4.0mmの形状へ旋盤で切削加工しターゲットを得た。その表面を観察したところ、ターゲットの表面には割れやチッピングはなく、綺麗に仕上がっていることが確認できた。
【0027】
(実施例3)
原料粉として、Fe−Pt合金粉末、Ag粉末、BN粉末、C粉末を用意した。これらの粉末65(45Fe−45Pt−10Ag)−5BN−30C(mol%)となるように秤量した。
次に、秤量した粉末を乳鉢に投入し、均一に混合した。そして、乳鉢から取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。
ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度950°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、昇温速度300°C/時間、保持温度950°C、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、950°Cで保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ96.8%であった。
また、得られた焼結体の酸素含有量を測定した結果、酸素含有量は3400wtppmと少なかった。なお、酸素含有量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
次に焼結体を直径90.0mm、厚さ4.0mmの形状へ旋盤で切削加工しターゲットを得た。その表面を観察したところ、ターゲットの表面には割れやチッピングはなく、綺麗に仕上がっていることが確認できた。
【0028】
(実施例4)
原料粉として、Fe−Pt合金粉末、Cu粉末、BN粉末、C粉末を用意した。これらの粉末65(30Fe−60Pt−10Cu)−5BN−30C(mol%)となるように秤量した。
次に、秤量した粉末を乳鉢に投入し、均一に混合した。そして、乳鉢から取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。
ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度1060°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、昇温速度300°C/時間、保持温度1100°C、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、1100°Cで保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ96.8%であった。
また、得られた焼結体の酸素含有量を測定した結果、酸素含有量は3300wtppmと少なかった。なお、酸素含有量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
次に焼結体を直径90.0mm、厚さ4.0mmの形状へ旋盤で切削加工しターゲットを得た。その表面を観察したところ、ターゲットの表面には割れやチッピングはなく、綺麗に仕上がっていることが確認できた。
【0029】
(比較例2)
原料粉として、Fe粉末、Pt粉末、Cu粉末、BN粉末、C粉末を用意した。これらの粉末を65(30Fe−60Pt−10Cu)−5BN−30C(mol%)となるように秤量した。
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量5Lの媒体攪拌ミルに投入し、2時間、回転(回転数300rpm)させて混合・粉砕した。そして媒体攪拌ミルから取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填し、ホットプレスした。
ホットプレスの条件は、実施例1と同様、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度1060°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、実施例1と同様に、昇温速度300°C/時間、保持温度1100°C、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、1100°Cで保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ96.0%であった。
また、得られた焼結体の酸素含有量を実施例1と同様の方法で測定した結果、実施例4と比べて、酸素含有量は11800wtppmと著しく増加していた。なお、酸素含有量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
次に焼結体を直径90.0mm、厚さ4.0mmの形状へ旋盤で切削加工して、ターゲットを得、その表面を観察した。その結果、ターゲットの表面には激しくチッピングが生じていることを確認した。
なお、焼結体の端面を切り出し、断面を研磨してその組織をFE−EPMAで分析したところ、酸素および鉄がほぼ同じ領域に観察され、酸化鉄が形成されていることを確認した。
【0030】
(実施例5)
原料粉として、Fe−Pt合金粉末、Ag粉末、BN粉末、SiC粉末を用意した。これらの粉末85(60Fe−30Pt−10Ag)−10BN−5SiC(mol%)となるように秤量した。
次に、秤量した粉末を乳鉢に投入し、均一に混合した。そして、乳鉢から取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。
ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度950°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、昇温速度300°C/時間、保持温度950°C、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、950°Cで保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ96.8%であった。
また、得られた焼結体の酸素含有量を測定した結果、酸素含有量は2400wtppmと少なかった。なお、酸素含有量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
次に焼結体を直径90.0mm、厚さ4.0mmの形状へ旋盤で切削加工しターゲットを得た。その表面を観察したところ、ターゲットの表面には割れやチッピングはなく、綺麗に仕上がっていることが確認できた。
【0031】
(比較例3)
原料粉として、Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末、BN粉末、SiC粉末を用意した。これらの粉末を85(60Fe−30Pt−10Ag)−10BN−5SiC(mol%)となるように秤量した。
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量5Lの媒体攪拌ミルに投入し、2時間、回転(回転数300rpm)させて混合・粉砕した。そして媒体攪拌ミルから取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填し、ホットプレスした。
ホットプレスの条件は、実施例1と同様、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度950°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、実施例1と同様に、昇温速度300°C/時間、保持温度950°C、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、950°Cで保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ96.0%であった。
また、得られた焼結体の酸素含有量を実施例1と同様の方法で測定した結果、実施例5と比べて、酸素含有量は11500wtppmと著しく増加していた。なお、酸素含有量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
次に焼結体を直径90.0mm、厚さ4.0mmの形状へ旋盤で切削加工して、ターゲットを得、その表面を観察した。その結果、ターゲットの表面には激しくチッピングが生じていることを確認した。
なお、焼結体の端面を切り出し、断面を研磨してその組織をFE−EPMAで分析したところ、酸素および鉄がほぼ同じ領域に観察され、酸化鉄が形成されていることを確認した。
【0032】
(実施例6)
原料粉として、Fe−Pt合金粉末、Fe−B粉末、Ru粉末、BN粉末、C粉末を用意した。これらの粉末70(60Fe−30Pt−5B−5Ru)−10BN−20C(mol%)となるように秤量した。
次に、秤量した粉末を乳鉢に投入し、均一に混合した。そして、乳鉢から取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。
ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度1200°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、昇温速度300°C/時間、保持温度1100°C、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、1100°Cで保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ96.8%であった。
また、得られた焼結体の酸素含有量を測定した結果、酸素含有量は3000wtppmと少なかった。なお、酸素含有量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
次に焼結体を直径90.0mm、厚さ4.0mmの形状へ旋盤で切削加工しターゲットを得た。その表面を観察したところ、ターゲットの表面には割れやチッピングはなく、綺麗に仕上がっていることが確認できた。
【0033】
(比較例4)
原料粉として、Fe粉末、Pt粉末、Fe−B粉末、Ru粉末、BN粉末、C粉末を用意した。これらの粉末を70(60Fe−30Pt−5B−5Ru)−10BN−20C(mol%)となるように秤量した。
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量5Lの媒体攪拌ミルに投入し、2時間、回転(回転数300rpm)させて混合・粉砕した。そして媒体攪拌ミルから取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填し、ホットプレスした。
ホットプレスの条件は、実施例1と同様、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度1200°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、実施例1と同様に、昇温速度300°C/時間、保持温度1100°C、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、1100°Cで保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ96.0%であった。
また、得られた焼結体の酸素含有量を実施例1と同様の方法で測定した結果、実施例6と比べて、酸素含有量は12300wtppmと著しく増加していた。なお、酸素含有量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
次に焼結体を直径90.0mm、厚さ4.0mmの形状へ旋盤で切削加工して、ターゲットを得、その表面を観察した。その結果、ターゲットの表面には激しくチッピングが生じていることを確認した。
なお、焼結体の端面を切り出し、断面を研磨してその組織をFE−EPMAで分析したところ、酸素および鉄がほぼ同じ領域に観察され、酸化鉄が形成されていることを確認した。
【0034】
実施例、比較例の結果をまとめたものを表1に示す。以上のように、粉砕を伴わない方法で原材料のFe粉末又はFe合金粉末を混合することにより、Fe系磁性材焼結体中の酸素量を著しく低減することができた。そして、このような焼結体をスパッタリングターゲットに加工する際には、割れやチッピングの発生を抑制することができた。また、実施例に挙げた組成のほか、添加元素や添加材を含有する場合についても、同様の効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の酸素含有量を低減したBNを含有するFe系磁性材焼結体は、スパッタリングターゲットなどに加工する際、割れやチッピングの発生を抑制することができるという優れた効果を有する。そして、このようなターゲットを用いてスパッタリングを行うと、異常放電やパーティクルの発生が少なく良質の薄膜を形成することができるという優れた効果を有する。したがって、このような焼結体は、特にグラニュラー構造の磁性薄膜の成膜に用いられるスパッタリングターゲットとして有用である。
図1
図2
図3