特許第5690273号(P5690273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690273
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】排ガス浄化フィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20150305BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20150305BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20150305BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20150305BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20150305BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
   B01D39/20 D
   C04B41/85 C
   B01D69/12
   B01D71/02
   B01D53/36 104B
   F01N3/02 301C
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-534327(P2011-534327)
(86)(22)【出願日】2010年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2010067134
(87)【国際公開番号】WO2011040561
(87)【国際公開日】20110407
【審査請求日】2012年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2009-228767(P2009-228767)
(32)【優先日】2009年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 正道
(72)【発明者】
【氏名】岸本 淳
(72)【発明者】
【氏名】根矢 直
(72)【発明者】
【氏名】石崎 啓太
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−297468(JP,A)
【文献】 特開2001−072479(JP,A)
【文献】 特開2009−085010(JP,A)
【文献】 特開2004−216226(JP,A)
【文献】 国際公開第02/026351(WO,A1)
【文献】 特許第3954501(JP,B2)
【文献】 特開2011−074275(JP,A)
【文献】 特表平07−505083(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/040554(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/040563(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/112052(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/133857(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/85F01N 3/022
B01D 39/20,53/94,69/12,71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備えた排ガス浄化フィルタであって、
前記フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、
前記ガス流路は、前記流入面側が解放された流入セルと、前記排出面側が解放された流出セルとにより構成され、
前記流入セルの内壁面に、炭化珪素を含み前記隔壁の気孔よりも小さい気孔径を有する気孔が形成された多孔質膜が設けられ、
前記多孔質膜の少なくとも外表面部分を構成する炭化珪素粒子の表面に、厚さが0.5nm以上かつ30nm以下の二酸化珪素層が形成されていることを特徴とする排ガス浄化フィルタ。
【請求項2】
前記多孔質膜の外表面部分を構成する前記炭化珪素粒子の表面、及び前記多孔質膜内部の前記気孔のガスと接する壁面部分の前記炭化珪素粒子の表面に、二酸化珪素層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項3】
前記二酸化珪素層が、前記多孔質膜を構成する炭化珪素粒子の表面を酸化することにより形成された層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項4】
前記二酸化珪素層が、前記多孔質膜に塗布又は含浸又は吸着させたシラン化合物から形成された層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項5】
前記多孔質膜が、表面に二酸化珪素層を有する炭化珪素粒子を焼結して得られたことを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項6】
前記多孔質膜の平均気孔径が、0.05μmよりも大きくかつ3μm以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のディーゼルエンジンなどから排出される排ガスから粒子状物質を除去するための排ガス浄化フィルタに関するものである。
本願は、2009年9月30日に、日本に出願された特願2009−228767号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジン、特にディーゼルエンジンから排出される排ガス中に含まれる種々の物質は、大気汚染の原因となり、これまでに様々な環境問題を引き起こしている。特に排ガス中に含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)は、喘息や花粉症のようなアレルギー症状を引き起こす原因と言われている。
一般に、自動車用ディーゼルエンジンでは、粒子状物質を捕集するための排ガス浄化フィルタとして、セラミックス製の目封じタイプのハニカム構造体(フィルタ基体)を有するDPF(Diesel Particulate Filter)が使用されている。このハニカム構造体は、セラミックス製のハニカム構造体のセル(ガス流路)の両端を市松模様に目封じしたものであり、このセル間の隔壁中の細孔を排ガスが通過する際、粒子状物質が捕集される(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−23512号公報
【特許文献2】特開平09−77573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自動車の走行時には、常にエンジンから粒子状物質が排出されるため、上記のハニカム構造体の隔壁の細孔ならびにその細孔の上に粒子状物質が層状に堆積する。このように、粒子状物質が、ハニカム構造体の隔壁の細孔ならびにその細孔の上に層状に堆積すると、やがては隔壁表面を覆いつくすことになり、フィルタ機能が損なわれる。
また粒子状物質が層状に堆積することにより圧力損失が上昇するため、自動車の走行に負荷が生じる。このため、定期的に何らかの方法で粒子状物質を除去し、ハニカム構造体を再生する必要がある。
そこで、従来、粒子状物質を除去するため、燃料を噴射し排気ガス温度を上昇させることでセラミックスハニカム構造体の温度を上昇させ、堆積した粒子状物質を燃焼させることにより再生している。しかしながら、この再生方法は、燃焼の際に600℃から700℃の高温となりさらに初期にはこの温度より高くなる。このため、燃焼により生じる熱応力によってセラミックスハニカム構造体の隔壁の強度が維持できずに破損に至る場合がある。このような隔壁の破損を防止するためには熱応力のかかる時間を短くする必要があり、これには、粒子状物質の堆積量を少なくすることで、燃焼時間を極力短くすることで対処するほかない。このことから、粒子状物質の燃焼・再生サイクルの頻度は多くなり、燃焼のために使われる燃料も多くなることで燃費に悪影響を及ぼす。現在では、セラミックスハニカム構造体の性能を100%使いきってはいない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、再生時の燃焼効率を高めることができるともに、フィルタ基体の破損も防止することができる排ガス浄化フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、DPFのハニカム構造体の隔壁に、所定の平均気孔径及び平均気孔率を有するとともに、特定の組成と構造を有する多孔質膜を設けることにより、粒子状物質の堆積量が少ない状態でも高い捕集効率が得られ、同時に圧力損失の上昇を抑えられること、さらには、DPFの再生時において、従来の排ガス浄化フィルタに比べてその隔壁に堆積する粒子状物質の燃焼時間を短縮することができること、また、DPF再生時の高温の熱処理による多孔質膜及び排ガス浄化フィルタの気孔径分布変化や酸化触媒成分の劣化が抑制され、結果として高温の熱処理による粒子状物質の燃焼特性の変化が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の排ガス浄化フィルタは、粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備えた排ガス浄化フィルタであって、前記フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、前記ガス流路は、前記流入面側が解放された流入セルと、前記排出面側が解放された流出セルとにより構成され、前記流入セルの内壁面に、炭化珪素を含み前記隔壁の気孔よりも小さい気孔径を有する気孔が形成された多孔質膜が設けられ、前記多孔質膜の少なくとも外表面部分を構成する炭化珪素粒子の表面に、厚さが0.5nm以上かつ30nm以下の二酸化珪素層が形成されていることを特徴とする。
【0008】
前記多孔質膜の外表面部分を構成する前記炭化珪素粒子の表面、及び前記多孔質膜内部の前記気孔のガスと接する壁面部分の前記炭化珪素粒子の表面に、二酸化珪素層が形成されていることが好ましい。
【0009】
前記二酸化珪素層が、前記多孔質膜を構成する炭化珪素粒子の表面を酸化することにより形成された層であることが好ましい。
【0010】
前記二酸化珪素層が、前記多孔質膜に塗布又は含浸又は吸着させたシラン化合物から形成された層であることが好ましい。
【0011】
前記多孔質膜が、表面に二酸化珪素層を有する炭化珪素粒子を焼結して得られた構成であることが好ましい。
【0012】
前記多孔質膜の平均気孔径が、0.05μmよりも大きくかつ3μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の排ガス浄化フィルタは、粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備えた排ガス浄化フィルタであって、前記フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、前記ガス流路は、前記流入面側が解放された流入セルと、前記排出面側が解放された流出セルとにより構成され、前記流入セルの内壁面に、炭化珪素を含み前記隔壁の気孔よりも小さい気孔径を有する気孔が形成された多孔質膜が設けられ、前記多孔質膜の少なくとも外表面部分を構成する炭化珪素粒子の表面に、厚さが0.5nm以上かつ30nm以下の二酸化珪素層が形成されている構成とした。
これにより、再生時における粒子状物質の燃焼効率を高めることができる。これは、排ガス浄化フィルタの再生工程において、捕集されている粒子状物質が、多孔質膜表面の二酸化珪素層に発生した酸化点の作用と、粒子状物質と多孔質膜との接触面において熱引けが起らない環境に保持されることとによって分解され易くなるからであると推測される。
さらに本発明の排ガス浄化フィルタでは、多孔質膜の表面以外は炭化珪素であるため、耐熱性が高く、温度サイクルによっても多孔質の構造が変化せず、耐久性の高い多孔質膜を備えたものとなる。
【0014】
また本発明の排ガス浄化フィルタにおいては、捕集される粒子状物質は、フィルタ基体の隔壁内部に侵入することなく、多孔質膜の表面に捕集される。これにより、隔壁の目詰まりを防ぐことができる。その結果、粒子状物質の捕集効率を維持しつつ、圧力損失の上昇を抑えることができる。特に、使用時の粒子状物質の堆積に伴う圧力損失の上昇割合を低く抑えることができる。また、フィルタの再生サイクルの間隔を長くすることができ、再生回数を少なくできる。さらに、フィルタ基体の再生時に、多孔質膜上の粒子状物質に燃焼ガスを均質に接触させるとともに多孔質膜を通過する燃焼ガスとの熱交換が有効に働き、粒子状物質を短時間に燃焼除去することができる。したがって、車の燃費を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る排ガス浄化フィルタを示す一部破断斜視図。
図2】実施形態に係る排ガス浄化フィルタの隔壁構造を示す断面図。
図3】本発明の実施形態のハニカム構造型フィルタに係る隔壁構造の断面を示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(排ガス浄化フィルタ)
本発明の排ガス浄化フィルタの最良の形態について説明する。ここでは、自動車用ディーゼルエンジンに用いられる排ガス浄化フィルタであるDPFを例にとり説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであって、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
本発明の排ガス浄化フィルタは、粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備えた排ガス浄化フィルタであって、前記フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、該隔壁の表面に炭化珪素を含み前記隔壁の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜が設けられ、前記多孔質膜の少なくとも外表面部分に二酸化珪素層が形成されていることを特徴とする排ガス浄化フィルタである。
【0018】
図1は、本発明の排ガス浄化フィルタの一実施形態であるDPFを示す一部破断斜視図である。図2は、図1において符号βで示す面におけるDPFの隔壁構造を示す断面図である。
DPF10は、多数の細孔(気孔)を有する円柱状の多孔質セラミックスからなるフィルタ基体11と、このフィルタ基体内に形成されたガス流路12と、ガス流路12のうち排気上流側端部が開放された流入セル12Aの内壁面12aに設けられた多孔質膜13と、を備えている。
フィルタ基体11の軸方向の両端面のうち一方の端面αが、粒子状物質を含む排ガスGが流入する流入面であり、他方の端面γが、上記の排ガスGから粒子状物質を取り除いた浄化ガスCを排出する排出面である。
【0019】
フィルタ基体11は、炭化珪素、コーディエライト、チタン酸アルミニウム、窒化珪素等の耐熱性の多孔質セラミックスからなるハニカム構造体である。フィルタ基体11には、排ガスGの流れ方向である軸方向に沿って延びる隔壁14が形成されており、隔壁14により囲まれた軸方向の中空の領域が多数のセル状のガス流路12とされている。
ここで、本実施形態における「ハニカム構造」とは、フィルタ基体11に複数のガス流路12を互いに平行となるように形成した構造を用いている。ガス流路12の軸方向に直交する方向の断面形状は四角形状であるが、これに限らず、多角形、円形、楕円形などの種々の断面形状とすることができる。また、フィルタ基体11の外周付近に形成されたガス流路12は、断面形状の一部が円弧状となっているが、これはフィルタ基体11の外周付近まで隙間無くガス流路12を配置するために、フィルタ基体11の外形状に倣う断面形状のガス流路12としたものである。
【0020】
多孔質セラミックスからなる隔壁14の平均気孔径は、5μm以上かつ50μm以下であることが好ましい。平均気孔径が5μmを下回ると、隔壁14自体による圧力損失が大きくなるため好ましくない。逆に平均気孔径が50μmを上回ると、隔壁14の強度が十分でなくなったり、隔壁14上に多孔質膜13を形成するのが困難になるため好ましくない。
【0021】
ガス流路12は、排ガスGの流れ方向(長手方向)から見た場合に、上流側端部と下流側端部とが交互に閉塞された構造、すなわち、排ガスGの流入側である上流側端部(流入面)が開放された流入セル12Aと、浄化ガスCを排出する側である下流側端部(排出面)が開放された流出セル12Bとにより構成されている。流入セル12Aの内壁面12a(流入セル12Aを構成する隔壁14の表面)に、炭化珪素を含む多孔質膜13が形成されている。
【0022】
ここで、多孔質膜13が炭化珪素を含むとは、多孔質膜13が炭化珪素を少なくとも含む粒子から形成されていること、若しくは多孔質膜13が炭化珪素を含む粒子とそれ以外の成分の粒子との複合体から形成されていることを意味する。多孔質膜13中の炭化珪素の割合は、50体積%以上であることが好ましく、80体積%以上がより好ましい。
多孔質膜13を構成する炭化珪素以外の粒子としては、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)等の3族〜14族から選ばれた少なくとも1種類の元素又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物からなる粒子を、単独又は炭化珪素に複合化させて含有させることができる。また、ホウ素(B)とその酸化物、炭化物、窒化物からなる粒子を、単独又は炭化ケイ素に複合化させて含有させてもよい。
すなわち、多孔質膜13を形成する粒子は、(1)炭化珪素単体からなる粒子、(2)炭化珪素と他の成分、例えば3族〜14族から選ばれた少なくとも1種類の元素又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物とが複合化された粒子、(3)炭化珪素単体からなる粒子と、他の成分、例えば3族〜14族から選ばれた少なくとも1種類の元素又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物からなる粒子との複合体、(4)炭化珪素と他の成分、例えば3族〜14族から選ばれた少なくとも1種類の元素又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物とが複合化された粒子と、他の成分、例えば3族〜14族から選ばれた少なくとも1種類の元素又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物からなる粒子との複合体、のいずれであってもよい。
なお、珪素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン等の3族〜14族から選ばれた少なくとも1種類の元素又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物からなる粒子は、炭化珪素の焼結助剤として含有させてもよい。
【0023】
多孔質膜13は、フィルタ基体11の隔壁14を構成する多孔質セラミックスの細孔内にあまり入り込むことなく、流入セル12Aの内壁面12a上に独立した膜として形成されている。すなわち、多孔質膜13を形成する炭化珪素を含む粒子は、隔壁14に形成されている気孔の入口部分までしか侵入しない状態で流入セル12Aの内壁面12aに形成されている。そして、多孔質膜13は、多数の気孔を有することにより、これらの気孔が連通し、結果として、貫通孔を有するフィルタ状多孔質となっている。
【0024】
ここで、DPF10における排ガスの流れを示すと、図2のようになる。流入面側、すなわち端面α側から流入した粒子状物質30を含む排ガスGは、流入面に開口している流入セル12AからDPF10内に流入し、流入セル12A内を端面α側から端面γ側へと流れる過程で、フィルタ基体11の隔壁14を通過する。この際、排ガスG中に含まれる粒子状物質30は、流入セル12Aの内壁面12aに設けられた多孔質膜13により捕集されて除去され、粒子状物質30が除去された浄化ガスCは、流出セル12B内を端面α側から端面γ側へと流れ、流出セル12Bの開口端(端面γ)からフィルタ外へ排出される。
【0025】
次に、隔壁14上に形成された多孔質膜13についてさらに詳細に説明する。
本実施形態において、多孔質膜13は、その少なくとも外表面(流入セル12A内に臨む表面)部分に二酸化珪素層を有している。この構成により、多孔質膜13に捕集された粒子状物質30を燃焼させて排ガス浄化フィルタ10を再生させる際の粒子状物質30の燃焼効率を向上させることができる。この理由は必ずしも明確ではないが、排ガス浄化フィルタ10の再生工程において、多孔質膜13に捕集されている粒子状物質30が、多孔質膜13表面の二酸化珪素層に発生した酸化点の作用と、粒子状物質と多孔質膜接触面において熱引けが起らない環境に保持されることとによって燃焼分解され易くなるためと考えられる。さらに、本実施形態においては、気孔径を後述のように制御することなどにより、粒子状物質30のほぼすべてが深層ろ過ではなく表層ろ過で捕集される。ここで、深層ろ過捕集された粒子状物質30は、燃焼ガスの供給が不均一になることや多孔質膜との接触状態のばらつきから、急激な燃焼(異常燃焼)を起こしやすいが、本実施形態においては深層ろ過捕集された粒子状物質30がないため、急激な燃焼を防止出来ると考えられる。これらの結果、熱暴走性の悪化を招くことなく捕集した粒子状物質の燃焼性を向上できるものと推測される。
【0026】
ここで、「多孔質膜の少なくとも外表面部分に二酸化珪素層が設けられている」構成では、多孔質膜の表面部分を構成する炭化珪素粒子の表面に二酸化珪素層が設けられていればよく、多孔質膜13の内部に二酸化珪素層が設けられていることは要しない。
しかしながら、本実施形態においては、多孔質膜13の外表面部分に加えて、多孔質膜13の気孔内部のガスと接する部分に二酸化珪素層が形成されていることが好ましい。この、「多孔質膜の表面部分及び内部気孔中のガスと接する部分に、二酸化珪素層が設けられている」構成では、多孔質膜の表面部分を構成する炭化珪素粒子及び内部の気孔壁にあたる部分、つまり多孔質膜内をガスが流れていく際にガスと接触する部分の炭化珪素粒子表面に二酸化珪素層が設けられていればよい。このように、「多孔質膜の気孔内部のガスと接する部分に二酸化珪素層が形成されていることが好ましい」理由としては、ごく一部ではあるが、粒子状物質30が多孔質膜内部に入り込む可能性があること、さらには、排気ガスや燃焼ガス中に含まれる不完全燃焼ガスの燃焼分解に対しても効果があるためと考えられる。
【0027】
また、多孔質膜13における二酸化珪素層は、炭化珪素粒子を焼結して多孔質膜を形成した後に、多孔質膜を酸素含有雰囲気下で加熱する方法や、多孔質膜にシラン化合物を塗布、含浸、吸着した後熱分解等の化学的処理させる方法で形成してもよく、また予め表面に二酸化珪素層が形成された炭化珪素粒子を用いて多孔質膜13を形成してもよい。
多孔質膜13における二酸化珪素層の厚さは、0.5nm以上かつ30nm以下が好ましい。より好ましくは、1nm以上かつ10nm以下の範囲である。二酸化珪素層の厚さが0.5nm未満では、粒子状物質30の燃焼効率を向上させる効果が得られなくなる虞がある。二酸化珪素層の厚さが30nmを超えると、二酸化珪素層の形成に多くの時間を要する一方で、得られる効果はほとんど変わらなくなる。
多孔質膜13における二酸化珪素層の体積比は、2体積%以上かつ50体積%以下が好ましい。より好ましくは10体積%以上かつ40体積%以下の範囲である。二酸化珪素層の体積が2体積%未満では、多孔質膜を構成する粒子が好ましい平均一次粒子径を有する範囲である0.05μmより大きく3μm以下において、好ましい膜厚0.5nm以上30nm以下の二酸化珪素層を形成することができず、燃焼効率を向上させる効果が得られなくなる虞がある。一方、二酸化珪素層の割合が50体積%を超えると、多孔質膜13において膜構造の耐熱性が著しく低下する虞がある。
【0028】
多孔質膜13の平均気孔径は、0.05μmより大きく、かつ3μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.06μm以上3μm以下であり、最も望ましくは0.1μm以上2.5μm以下である。
このように多孔質膜13の平均気孔径は、隔壁14の気孔径(すなわち従来のDPFの平均気孔径:5〜50μm程度)より小さい。このため、粒子状物質30は、隔壁14にほとんど入り込むことなく、その堆積量が少ない段階から多孔質膜13により高効率に捕集される。
多孔質膜13の平均気孔径が上記範囲とされるのは、平均気孔径が0.05μm以下では、粒子状物質を含む排ガスを排ガス浄化フィルタ10内に流入させた場合に圧力損失が大きくなるからであり、多孔質膜13の平均気孔径が3μmを超えると、排ガス浄化フィルタ10の再生処理を行う場合に粒子状物質の燃焼効率の向上が見られない虞があるからである。
【0029】
多孔質膜13の平均気孔率は、50%以上かつ90%以下であることが好ましく、より好ましくは60%以上かつ85%以下である。
多孔質膜13の平均気孔率が50%未満では、多孔質膜13の平均気孔率がフィルタ基体11の気孔率と同じか低くなるため、圧力損失の上昇を招き、またコスト増加要因となる虞がある。一方、多孔質膜13の平均気孔率が90%を超えると、多孔質膜の構造や強度を維持することが困難となる虞がある。
【0030】
また、多孔質膜13の膜厚は、内壁面12aにおいて隔壁14が有する空孔部と平面的に重なる部分において60μm以下であり、かつ内壁面12aにおいて隔壁の固体部と平面的に重なる箇所において5μm以上60μm以下であることが好ましい。この点につき、図3も用いて説明する。
図3は、隔壁14および隔壁14上に設けられた多孔質膜13の断面の微細構造を模式的に示した図であり、排ガスおよび燃焼ガスの流れ(流路)も併せて示した図である。ここで、図3(a)(b)は、多孔質膜の膜厚が上記に示す本実施形態の範囲内である場合であって、図3(a)は粒子状物質30が捕集される前の状態、図3(b)は多孔質膜13上に粒子状物質30が捕集堆積した状態を示している。また、図3(c)(d)は多孔質膜の膜厚が5μm未満の場合であって、図3(c)は粒子状物質30が捕集される前の状態、図3(d)は多孔質膜13上に粒子状物質30が捕集堆積した状態を示している。
【0031】
ここで、隔壁14の「空孔部」は、隔壁14を構成する多孔質体によって形成される細孔が、内壁面12aに接続することによって設けられた開口部を指しており、図3におけるH部分が相当する。すなわちここでは、隔壁14の内部の細孔ではなく、内壁面12aに露出(開口)している細孔と、該細孔上に位置する多孔質膜13の部分(細孔と多孔質膜13との重なり部分)における、多孔質膜13の厚さを問題としている。また、「固体部」とは、多孔質セラミックスであるフィルタ基体11の一部である隔壁のうち、空孔部を除いた部分であって、内壁面12aにセラミックス部分が直接露出している部分を指しており、図3におけるS部分が相当する。
固体部における多孔質膜13の膜厚は、5μm以上かつ20μm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10μm以上かつ20μm以下、最も好ましくは10μm以上かつ15μm以下である。また、空孔部における多孔質膜13の膜厚は、35μm以下であることがより好ましい。
【0032】
この好適な厚さの範囲は、次のような理由によるものである。
まず、排ガス浄化フィルタ10において、粒子状物質30を捕集する際には、排ガスは、流入セル12A側から隔壁14の空孔部に侵入し、流出セル12B側へ通過する。そのため、多孔質膜13において、隔壁14の空孔部と重なる部分では、多孔質膜13の外表面と隔壁14の空孔部とをつなぐ排ガスの流路、例えば図3(a)のFが形成されることとなる。
ここで、多孔質膜13の厚さが5μm以上であると、図3(a)に示すように、多孔質膜13が隔壁14の固体部と重なる箇所において、多孔質膜13中に、多孔質膜13の外表面と隔壁14の空孔部とを接続するための流路を形成するのに十分な量の細孔が存在することとなる。したがって、隔壁14の固体部と平面的に重なる箇所においても、多孔質膜13の外表面と隔壁14の空孔部とをつなぐ排ガスの流路、例えば図3(a)のPが形成される。この流路が形成されることにより、圧力損失が低減され、また、粒子状物質30は多孔質膜13上に均一に捕集される。
さらに、粒子状物質30を燃焼させることによりフィルタの再生処理を行う場合においても、図3(b)のF’,P’に示すような燃焼ガスの流路が同様に形成されることから、燃焼ガスは粒子状物質30内を均一に流れることができるので、燃焼効率の向上を図ることができる。
【0033】
しかし、多孔質膜13の厚さが5μm未満では、図3(c)に示すように、多孔質膜13の外表面から内壁面12aまでの距離が小さく、多孔質膜13中の細孔数が少ないため、多孔質膜13が隔壁14の固体部と平面的に重なる箇所においては、例えば図3(c)のXのように多孔質膜13の外表面と隔壁14の空孔部とをつなぐ排ガスの流路が形成されにくく、圧力損失が大きくなる虞がある。また、同様に多孔質膜13中の細孔数が少ないため、粒子状物質を燃焼させることにより再生処理を行う場合、粒子状物質30の燃焼効率の向上が図れない虞がある。また、粒子状物質30が空孔部と重なる部分の多孔質膜13にしか捕集されず、捕集が不均一となるために、捕集効率の低下が早まり、再生処理回数の増加をまねく虞がある。
また、同様に多孔質膜13中の細孔数が少ないため、図3(d)に示すように、粒子状物質30を燃焼させることにより再生処理を行う場合、粒子状物質30の燃焼効率の向上が図れない虞がある。
さらに、多孔質膜13の厚さが60μmを超えると、粒子状物質30を含む排ガスを排ガス浄化フィルタ10に流入させた場合に、多孔質膜13を設けることによる圧力損失も大きくなる一方で、再生処理を行う場合の粒子状物質30の燃焼効率は、多孔質膜13の厚みが60μm以下のものに比べてほとんど向上しないことから、本発明の排ガス浄化フィルタ10を取り付けたエンジンの出力低下を招く虞がある。
以上のような理由により、多孔質膜13の厚さの最適な範囲が設定される。
【0034】
多孔質膜13は、その外表面が内壁面12aと略平行となるように実質的に平坦な面で形成されていることが好ましい。つまり、内壁面12aは、隔壁14を構成する粒子の形状に倣った凹凸形状を有しているが、多孔質膜13の外表面では、内壁面12aの表面プロファイルはほとんど反映されず、実質的に平坦な面となっていることが好ましい。さらに、内壁面12aを代表させる平面を近似的に仮定し、当該平面と多孔質膜13の外表面とが実質的に平行となっていることが好ましい。この、多孔質膜の表面と内壁面12aを代表させる仮定された平面とが実質的に平行となっていることを「略平行」と表記する。
例えば、多孔質膜13の外表面形状が内壁面12aに倣う形状であると、隔壁14の空孔部上に位置する部分の多孔質膜13は凹んだ形状となる。そうすると、多孔質膜13で捕集される粒子状物質30が当該凹部に溜まりやすく、結果、排ガスが通過すべき空孔部と重なる位置で塞栓を形成するため、圧力損失が生じやすい。これに対して多孔質膜13の外表面がほぼ平坦に形成されていると、多孔質膜13の全面で粒子状物質30が捕集され、局在化しないので、圧力損失が生じにくくなる。
【0035】
また、多孔質膜13は、平均一次粒子径が0.01μm以上かつ5μm以下の炭化珪素粒子からなることが好ましく、平均一次粒子径が1μm以上かつ4μm以下の炭化珪素粒子からなることがより好ましい。
多孔質膜13が、平均一次粒子径が0.01μm以上かつ5μm以下の炭化珪素粒子からなることが好ましい理由は、炭化珪素粒子の平均一次粒子径が0.01μm未満では、粒子状物質30を含む排ガスを排ガス浄化フィルタ10内に流入した場合に圧力損失が大きくなる虞があるからであり、一方、炭化珪素粒子の平均一次粒子径が5μmを超えると、粒子自体の表面活性が低下することや、多孔質膜の気孔径が大きくなり比表面積が小さくなるため、排ガス浄化フィルタ10の再生処理を行う場合、粒子状物質の燃焼効率の向上が見られないからである。
【0036】
また、この実施形態では、流入セル12Aの内壁面12aに多孔質膜13が設けられた排ガス浄化フィルタ10を例示したが、流出セル12Bの内壁面(流出セル12Bを構成する隔壁14の表面)にも設けられていてもかまわない。
また、多孔質膜13としては、粒子状物質30やガス状物質の分解を促進する分解促進触媒が担持された構成としてもよい。分解促進触媒は多孔質膜13の外表面に担持されていてもよく、内部の気孔壁面に担持されていてもよい。あるいは、分解促進触媒は、多孔質膜13の上層及び下層のいずれか又は両方に膜状に形成されていてもよい。また、炭化珪素を含む粒子と分解促進触媒を含む粒子とを複合化した粒子を用いて多孔質膜13を形成してもよい。
【0037】
以上のように、本実施形態の排ガス浄化フィルタ10では、少なくとも外表面に二酸化珪素層を有する多孔質膜13を備えていることで、再生時における粒子状物質30の燃焼効率を高めることができる。さらに、多孔質膜13の内部は炭化珪素であるため、耐熱性が高く、温度サイクルによっても多孔質の構造が変化せず、耐久性の高い多孔質膜となる。
【0038】
また排ガス浄化フィルタ10では、フィルタ基体11の多孔質の隔壁14の表面に、炭化珪素を含みかつ隔壁14の気孔よりも小さい気孔径を有する多孔質膜13が設けられているので、粒子状物質30の捕集効率を維持しつつ、圧力損失の上昇を抑えることができ、特に使用時の粒子状物質の堆積に伴う圧力損失の上昇割合を低く抑えることができる。これにより、走行時の車への負荷を低減することができる。また、使用時の粒子状物質の堆積に伴う圧力損失の上昇割合を低く抑えることができることから、多くの粒子状物質を排ガス浄化フィルタに堆積させることができ、排ガス浄化フィルタの再生サイクルの間隔を長くすることができる。
【0039】
(排ガス浄化フィルタの製造方法)
次に、本発明の排ガス浄化フィルタの製造方法について説明する。
本実施形態の排ガス浄化フィルタは、フィルタのガス流路を構成する隔壁、すなわち平均気孔径が5〜50μmの細孔を有する多孔質支持体の表面に、少なくとも炭化珪素を含む粒子を含有する多孔質膜形成用塗料を塗布する工程と、熱処理により多孔質支持体表面に多孔質膜を形成する工程と、熱処理ないしは化学的処理により多孔質膜表面に二酸化珪素層を形成する工程と、を含む工程より製造することができる(第Iの製造方法)。
あるいは、フィルタのガス流路を構成する多孔質支持体(隔壁)の表面に、少なくとも炭化珪素を含むとともに表面に二酸化珪素層を有する粒子を含有する多孔質膜形成用塗料を塗布する工程と、熱処理により多孔質支持体表面に多孔質膜を形成する工程と、を含む工程より製造することができる(第IIの方法)。
この方法によれば、例えば粒子を分散させたガスをフィルタ基体に流入させて多孔質膜を形成する等の方法に比べ、生産性良くフィルタを製造することができる。
【0040】
まず、第Iの製造方法について説明する。
本発明の第Iの製造方法に用いる多孔質膜形成用塗料は、炭化珪素を含む粒子と分散媒とを含む分散液である。
ここで、炭化珪素を含む粒子とは、炭化珪素粒子単体、炭化珪素とそれ以外の成分との複合体から形成されている粒子、炭化珪素粒子とそれ以外の成分粒子との混合粒子、炭化珪素とそれ以外の成分との複合体から形成されている粒子と炭化珪素以外の成分粒子との混合粒子、のいずれかであることを意味する。
炭化珪素単体の粒子(炭化珪素粒子)としては、シリカ還元法、アチソン法、熱プラズマ法あるいはシリカ前駆体焼成法などにより得られたものが用いられる。また、炭化珪素以外の成分としては、珪素、アルミニウム、ホウ素、ジルコニウム、チタン等の3族〜14族から選ばれた少なくとも1種類の元素又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物を選択することができる。
【0041】
多孔質膜形成用塗料は、先に記載の炭化珪素を含む粒子を分散媒中に分散させて調製する。
この分散工程は、湿式法によることが好ましい。また、この湿式法で用いられる分散機としては、開放型、密閉型のいずれも使用可能であり、例えば、ボールミル、攪拌ミル、ジェットミル、振動ミル、アトライター、高速ミル、ハンマーミル、等が好適に用いられる。ボールミルとしては、転動ミル、振動ミル、遊星ミル等が挙げられ、また、攪拌ミルとしては、塔式ミル、攪拌槽型ミル、流通管式ミル、管状ミル等が挙げられる。
【0042】
分散媒としては、水又は有機溶媒が好適に用いられる。その他、必要に応じて、高分子モノマーやオリゴマーの単体若しくはこれらの混合物も用いることができる。
上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルコール類、酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステル等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド等の酸アミド類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種のみ、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
また、上記の高分子モノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のアクリル系又はメタクリル系のモノマー、エポキシ系モノマー等が好適に用いられる。また、上記のオリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、アクリレート系オリゴマー等が好適に用いられる。
【0044】
これらの分散媒のうち、塗料用として好ましいものは、水、アルコール類、ケトン類であり、これらの中でも、水、アルコール類がより好ましく、水が最も好ましい。
【0045】
この塗料では、粒子と分散媒との親和性を高めるために、炭化珪素を含む粒子の表面改質を行っても良い。表面改質剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、システアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、アミノエタンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、炭化珪素を含む粒子の表面に吸着する官能基を有し、かつ分散媒と親和性を有する末端基を有する表面改質剤であれば良い。
【0046】
多孔質膜形成用塗料は、親水性あるいは疎水性の高分子等を適宜含有していてもよい。
この高分子等により、炭化珪素を含む粒子と、例えば排ガス浄化フィルタの隔壁等の多孔質支持体との間にバインダー機能などの機能性を付与することができる。上記の高分子等は、上記の分散媒に溶解し、かつ塗料中の粒子の平均二次粒子径、塗料の粘度が所望の値になる範囲で適宜選択することができる。
【0047】
ここで、水を分散媒とした場合、親水性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸ポリビニルビロリドン、ポリアリルアミン等の合成高分子、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン、キトサン、ペクチン、アガロース、カラギーナン、キチン、マンナン等の多糖類及び多糖類由来の物質等の天然高分子;ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン等のタンパク質及びタンパク質由来の物質;等を用いることができる。
また、これら合成高分子、多糖類、タンパク質等を由来とするゲル、ゾル等の物質を用いることもできる。
【0048】
なお、この塗料における上記の粒子の質量に対する上記の高分子の質量の比(高分子の質量/粒子の質量)は、塗料中の粒子の平均二次粒子径及び塗料の粘度が所望の値になる範囲で適宜選択することができるが、0以上かつ1以下の範囲が好ましく、より好ましくは0以上かつ0.8以下、さらに好ましくは0以上かつ0.5以下である。
上記の高分子は、最終的に熱処理によって焼失し、多孔質膜には残存しない成分であるから、上記の比が1を超えると、高分子の含有率が高すぎてしまい、コストの上昇を招くことになり好ましくない。また、親水性高分子は必ずしも用いる必要はないため、範囲の下限値は0となる。
【0049】
この塗料の分散安定性を確保したり、あるいは塗布性を向上させたりするために、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を適宜添加してもよい。これらは、塗料中の粒子の平均二次粒子径及び塗料の粘度が所望の範囲になるように適宜選択することができる。
これら界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等の添加量に特に制限はなく、塗料の粘度及び塗料中の粒子の平均二次粒子径が本発明の範囲内となるように、添加する目的に応じて加えればよい。
【0050】
このように、炭化珪素を含む粒子を分散媒中に分散させ、必要に応じ、親水性あるいは疎水性の高分子、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を加えて混合し、多孔質膜形成用塗料とする。
【0051】
次いで、上記の多孔質膜形成用塗料を、多孔質支持体の表面に塗布して、粒子等の固形成分の他溶媒等の液体成分も多く含む塗布膜を形成し、得られた塗布膜を乾燥後、熱処理し、さらに二酸化珪素膜を形成して多孔質膜を形成する。
例えば排ガス浄化フィルタ10においては、ガス流路12のうち、排気上流側端部が開放された流入セル12Aの内壁面12a(流入セル12Aを構成する隔壁14の表面)に、上記の多孔質膜形成用塗料を塗布して塗布膜を形成し、得られた塗布膜を熱処理し、さらに熱処理や化学的処理により多孔質膜の少なくとも外表面に二酸化珪素膜を形成して、多孔質膜13を形成する。
【0052】
塗布方法については、多孔質支持体の形状や材質に合わせて適宜選択すればよく、特に制限はないが、ウォッシュコート、ディップコート等、通常のウエットコート法を用いることができる。また、塗布した後に、圧縮空気等を用いて、所望の膜厚を得るのに必要な量以上の余分な塗布液を除去する等の工程を行ってもよい。
【0053】
なお、塗布時においては、この多孔質支持体は乾燥した状態でもよいが、この多孔質支持体をあらかじめ溶媒に浸漬し、この多孔質支持体の気孔内の空気を予め溶媒で置換した状態としたものが好ましい。このようにする理由は、多孔質支持体の気孔内に残留している空気が、塗布工程中あるいはその後に多孔質支持体から気泡となって放出され、多孔質膜が部分的に形成されなくなるといった事態を抑制し、均一な多孔質膜が得られる効果があるからである。
【0054】
このように、塗布膜や多孔質支持体に溶媒が多く含まれているので、熱処理前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥条件は溶媒の種類や使用量によるため一概には規定できないが、例えば水の場合では50℃以上かつ200℃以下にて15分以上かつ10時間以下程度であることが好ましい。
なおこの乾燥工程は、次に述べる熱処理工程と併せて行なってもよい。例えば、乾燥工程終了後そのまま昇温させて熱処理工程を行なってもよい。また、熱処理工程における昇温条件を調整し、熱処理工程中の昇温段階と乾燥工程とを兼ねさせることで、実質的に乾燥工程を省略することもできる。
【0055】
この塗布膜には、分散剤の他、必要に応じて上記の高分子、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等が添加されているので、これらの有機成分を除去し、かつ塗布膜中の炭化珪素を含む粒子を焼結して多孔質構造を形成する等のために熱処理を行う。
熱処理温度は、900℃以上かつ2000℃以下であることが好ましく、より好ましくは1000℃以上かつ1800℃以下である。
また、熱処理時間は、0.5時間以上かつ10時間以下が好ましく、より好ましくは1時間以上かつ4時間以下である。
この熱処理の際の雰囲気は、窒素、アルゴン、ネオン、キセノン等の不活性雰囲気、あるいは水素、一酸化炭素等の還元性雰囲気、のいずれかの雰囲気中にて行うことが好ましい。不活性雰囲気、あるいは還元性雰囲気で熱処理すれば、炭化珪素を含む粒子の表面や、熱処理で形成された多孔質膜の外表面が酸化されて二酸化珪素膜を生じる虞がないから、次工程の「多孔質膜の表面に二酸化珪素層を形成する」工程により、膜厚が制御された二酸化珪素膜を得ることができる。
なお、熱処理を大気等の酸化性雰囲気中で行うこともできるが、その場合、次工程と同等の内容となることから、多孔質構造を形成するための熱処理(焼結)条件と、二酸化珪素層を形成するための条件とを同時に制御する必要が生じ、熱処理条件の厳密化や制御の高精度化などが必要となる。したがって、この2条件を同時に解決できれば、工程の短縮化を行うことができるので好ましいが、そうでない場合には、多孔質構造を形成するための熱処理(焼結)工程は不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気、多孔質膜の表面に二酸化珪素層を形成する工程は酸化性雰囲気で、それぞれを分けて行うことが好ましい。
【0056】
そして本実施形態の製造方法では、熱処理により得られた多孔質膜を、大気雰囲気等の酸化性雰囲気下で熱処理するか、あるいはシラン化合物の熱分解等による化学的処理を用いて、少なくとも多孔質膜の外表面、すなわち多孔質膜の外表面や、必要に応じ多孔質の気孔の内部のガスと接する部分の表面に二酸化珪素層を形成する。二酸化珪素層の好ましい膜厚は、0.5nm以上30nm以下である。
二酸化珪素層形成のために酸化性雰囲気下で熱処理する場合の熱処理温度は、多孔質膜を形成する炭化珪素を含む粒子の表面が酸化する温度以上であればよいが、高温の場合、酸化速度が速くなりすぎて好適な層厚を得ることが難しくなることから、600℃以上かつ1000℃以下であることが好ましい。また、熱処理時間は、熱処理温度や要求される二酸化珪素層の厚さにも依るが、0.5時間以上かつ20時間以下であることが好ましい。0.5時間未満では層厚の制御がむずかしくなり、一方20時間を越えても層厚の制御性はそれ以下と変わらないためである。熱処理の際の雰囲気は、前述の通り大気や酸素等の酸化性雰囲気とする。
【0057】
また、二酸化珪素層形成のためにシラン化合物の熱分解等による化学的処理を用いる場合、多孔質膜の外表面や、気孔の内部のガスと接する部分の表面にシラン化合物を付着させ、この多孔質膜を熱処理して付着したシラン化合物を熱分解させることにより、二酸化珪素層を形成することができる。シラン化合物の付着方法としては、液状のシラン化合物や溶媒に溶解させたシラン化合物溶液を多孔質膜に塗布する、または液状のシラン化合物やシラン化合物溶液中に多孔質膜を含浸させる、という方法を用いることができる。また、揮発性の高いシラン化合物、例えばヘキサメチルジシラザン(HMDS)などの蒸気を多孔質膜に当てることにより、シラン化合物の蒸気を吸着させてもよい。
シラン化合物としては、上記ヘキサメチルジシラザンの他、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、あるいはこれらの置換体や部分加水分解物などが挙げられる。
付着させたシラン化合物を分解させて二酸化珪素層を形成する方法は、前工程で得られた多孔質膜を劣化させなければ特に限定はないが、熱処理によりシラン化合物を熱分解させる方法を好適に用いることができる。熱処理条件は、シラン化合物の種類や付着量によるが、通常500℃以上かつ1000℃以下、0.5時間以上かつ20時間以下であり、酸化性雰囲気で熱処理すればよい。
【0058】
このようにして、炭化珪素を含む粒子からなる多孔質膜の少なくとも外表面に二酸化珪素層を形成することで、本実施形態の多孔質膜13を得ることができる。
なお、炭化珪素を含む粒子の粒子径が増大するにつれて、必要とする二酸化珪素層の厚さが増大する傾向にあるが、これは粒子径の拡大に伴い粒子自体が有する活性が低下してくるためと推測する。これは、IIの製造方法の場合も同様である。
【0059】
本実施形態の第Iの製造方法では、まず、還元性雰囲気中または不活性雰囲気中での熱処理により、炭化珪素を含む粒子を部分的に焼結させて、気孔を有する三次元構造を形成することで多孔質膜を形成し、しっかりした三次元構造の多孔質膜を得る。その後、多孔質膜を酸化性雰囲気で熱処理する、ないしは多孔質膜にシラン化合物を付着させこのシラン化合物を熱分解することにより、三次元構造を壊すことなく、多孔質膜の少なくとも外表面部分に二酸化珪素層を形成することができる。
より詳細には、例えば、炭化珪素粒子からなる塗布膜をアルゴン雰囲気下で1200℃×2時間熱処理することで炭化珪素粒子が部分焼結したモノリス構造を形成させた後、大気雰囲気下で800℃×4時間熱処理することにより1nm厚の二酸化珪素層を多孔質膜を構成する炭化珪素粒子の表面に形成することができる。
また、例えば、炭化珪素粒子からなる塗布膜をアルゴン雰囲気下で1200℃×2時間熱処理することで炭化珪素粒子が部分焼結したモノリス構造を形成させた後、テトラメトシキシランの部分加水分解物を塗布し、大気雰囲気下で600℃×10時間熱処理することで2nm厚の二酸化珪素層を炭化珪素粒子の表面に形成することができる。
【0060】
次に、IIの製造方法について説明する。
本発明のIIの製造方法に用いる多孔質膜形成用塗料は、炭化珪素を含むとともに、表面に二酸化珪素層を有する粒子と分散媒とを含む分散液である。
ここで、炭化珪素を含むとともに表面に二酸化珪素層を有する粒子とは、炭化珪素粒子単体、炭化珪素とそれ以外の成分との複合体から形成されている粒子、炭化珪素粒子とそれ以外の成分粒子との混合粒子、炭化珪素とそれ以外の成分との複合体から形成されている粒子と炭化珪素以外の成分粒子との混合粒子、のいずれかであって、当該粒子の内、炭化珪素を成分として含む粒子(炭化珪素粒子単体または炭化珪素とそれ以外の成分との複合体から形成されている粒子)の表面に、二酸化珪素層が形成されているものを言う。この二酸化珪素層の厚さは、0.5nm以上かつ30nm以下が好ましく、より好ましくは、1nm以上かつ10nm以下の範囲である。また、粒子全体に対する二酸化珪素層の体積比は、2体積%以上かつ50体積%以下が好ましく、より好ましくは10体積%以上かつ40体積%以下の範囲である。これらの範囲から外れると、この炭化珪素を含むとともに表面に二酸化珪素層を有する粒子を用いて形成された多孔質膜13において、二酸化珪素層の厚さや二酸化珪素層の体積比が、所定の範囲に収まらなくなる虞がある。
炭化珪素単体の粒子(炭化珪素粒子)としては、第Iの製造方法と同様、シリカ還元法、アチソン法、熱プラズマ法あるいはシリカ前駆体焼成法などにより得られたものが用いられる。また、炭化珪素以外の成分としては、珪素、アルミニウム、ホウ素、ジルコニウム、チタン等の3族〜14族から選ばれた少なくとも1種類の元素又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物を選択することができる。なお、第IIの製造方法においては、あらかじめ粒子表面に形成されている二酸化珪素層が焼結助剤等の効果を有するため、炭化珪素以外の成分は必ずしも添加する必要はない。
【0061】
炭化珪素を成分として含む粒子の表面に二酸化珪素層を形成する方法には、特段の限定はないが、大気等の酸化性雰囲気で熱処理する方法を好適に用いることができる。熱処理温度は600℃以上かつ1000℃以下、熱処理時間は、0.5時間以上かつ20時間以下であることが好ましい。
また、炭化珪素を成分として含む粒子の表面に、あらかじめシラン化合物を付着させておき、このシラン化合物より熱分解等の化学的処理により二酸化珪素層を形成してもよい。
【0062】
多孔質膜形成用塗料は、先に記載の炭化珪素を含む粒子を分散媒中に分散させて調製する。この塗料の形成方法は、第Iの製造方法と同一であるから、詳細は省略する。
【0063】
次いで、上記の多孔質膜形成用塗料を、多孔質支持体の表面に塗布して、粒子等の固形成分の他溶媒等の液体成分も多く含む塗布膜を形成し、得られた塗布膜を乾燥後、熱処理して多孔質膜を形成する。
例えば排ガス浄化フィルタ10においては、ガス流路12のうち、排気上流側端部が開放された流入セル12Aの内壁面12a(流入セル12Aを構成する隔壁14の表面)に、上記の多孔質膜形成用塗料を塗布して塗布膜を形成し、得られた塗布膜を熱処理して、多孔質膜13を形成する。
ここで、塗布膜の形成方法および乾燥方法は、第Iの製造方法と同一であるから、詳細は省略する。
また、熱処理方法においては、すでに粒子表面に二酸化珪素層が形成されていることから、不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気で行い、酸化性雰囲気では行わない。この点を除いては、第Iの製造方法と同一であり、詳細は省略する。
【0064】
本実施形態のIIの製造方法では、まず、少なくとも炭化珪素を含む粒子を酸化性雰囲気中で熱処理したり、粒子表面に付着させたシラン化合物を熱分解することにより、少なくとも炭化珪素を含むとともに表面に二酸化珪素層を有する粒子を得る。そして、得られた粒子を還元性雰囲気中または不活性雰囲気中での熱処理することにより、炭化珪素を含むとともに表面に二酸化珪素層を有する粒子を部分的に焼結させて、気孔を有する三次元構造を形成することにより、多孔質膜の少なくとも外表面部分に二酸化珪素層を有し、しっかりした三次元構造を有する多孔質膜を形成することができる。
より詳細には、例えば、予め炭化珪素粒子の表面を大気雰囲気下にて800℃で2時間熱処理し、表面に二酸化珪素層を形成した炭化珪素粒子を用いて、多孔質膜を形成する方法が挙げられる。
第IIの製造方法では、排ガス浄化フィルタの製造工程において多孔質膜表面に二酸化珪素層を形成する処理が不要であり、製造効率を高めることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0066】
まず、実施例1〜7、及び比較例1,2の排ガス浄化フィルタのサンプルを作製した。
その後、以下に示す評価方法を用いて各サンプルの評価を行った。
【0067】
(排ガス浄化フィルタの物性評価)
作製した排ガス浄化フィルタの各サンプルについて、多孔質膜及び二酸化珪素層の膜厚測定、多孔質膜の平均気孔径及び気孔率の測定、圧力損失試験、燃焼試験、を下記の方法により行った。
【0068】
(1)多孔質膜及び二酸化珪素層の膜厚測定
排ガス浄化フィルタの隔壁を破断し、この隔壁断面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)S−4000(日立計測器サービス社製)により観察することにより、多孔質膜の膜厚を測定した。
具体的には、測定倍率400倍にて、膜の断面の長さ1mmを0.1mm間隔でセラミックスハニカム構造体の粒子表面(固体部)、細孔部(空孔部)のそれぞれを10点測定した厚さを平均して、それぞれの多孔質膜の膜厚とした。
また、作成した多孔質膜を基材とともに切り出し、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)にて多孔質膜表面より組成分析を行い二酸化珪素層の膜厚を計測した。
【0069】
(2)多孔質膜の平均気孔径及び気孔率の測定
排ガス浄化フィルタの隔壁表面に形成した多孔質膜の平均気孔径及び気孔率を、水銀ポロシメーター(Pore Master 60GT、Quantachrome社製)を用いて測定した。膜部分の水銀侵入容積の50%累積を、排ガス浄化フィルタの多孔質膜の平均気孔径とした。
【0070】
(3)圧力損失試験
排ガス浄化フィルタの流入口から、流量100L/minで乾燥空気を流入させ、この乾燥空気を、排ガス浄化フィルタの隔壁を通過させて、排出口から排出させ、この時の流入口における圧力損失を測定した。
作成した排ガス浄化フィルタについて、排気量2.2Lのディーゼルエンジンに取り付け、エンジン回転数1500rpmで運転し、排ガス浄化フィルタ内に3g/LのPM(排ガス中に含まれる粒子状物質)を堆積させ、(3g/LのPMを堆積させた排ガス浄化フィルタの圧力損失)/(初期(堆積前)の排ガス浄化フィルタ基体の圧力損失)≦4.0であれば良好と判定した。
【0071】
(4)燃焼試験
それぞれの排ガス浄化フィルタを、排気量2.2Lのディーゼルエンジンに取り付け、エンジン回転数1500rpmで運転し、排ガス浄化フィルタ内に粒子状物質を堆積させた。
粒子状物質を堆積させた排ガス浄化フィルタを、窒素雰囲気中で600℃まで加熱した後、温度を保持しつつ、酸素3.8%、一酸化窒素(NO)200ppm、窒素残部からなる混合ガスを13.5リットル/分の流量で導入して粒子状物質を燃焼させた。酸素を導入した時点から、燃焼により粒子状物質が焼失してその質量が堆積量の10%となるまでの時間を測定し、粒子状物質燃焼性の指標とした。
なお、燃焼処理においては、HORIBA製MEXA-7500Dを用い、二酸化炭素量及び一酸化炭素を測定した。検出される二酸化炭素及び一酸化炭素に含まれる炭素の総量が、粒子状物質の全堆積量に相当するものとし、二酸化炭素量の累積量から、粒子状物質の残量が全堆積量の10%となるまでの時間を算出した。
【0072】
「実施例1」
平均粒子径0.03μmの炭化珪素粉末粒体100質量部と、焼結助剤としての平均粒子径0.2μmのアルミナ粉粒体2質量部とを混合し、炭化珪素粉粒体およびアルミナ粉粒体からなるセラミックス粉粒体(SiC−Al)を得た。
次に、セラミックス粉粒体の含有量が12体積%、水の含有量が87体積%、ゲル化剤の含有量が1体積%となるように、まず、セラミックス粉粒体を純水に入れ、これを撹拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリーを得た。
その後、このスラリーにゲル化剤としてゼラチンを添加して15分間混合し、実施例1に係る多孔質膜形成用塗料を得た。
【0073】
次に、多孔質膜形成用塗料にセラミックスハニカム構造体(フィルタ基体(炭化珪素製ハニカムフィルタ:DPF,隔壁における平均気孔径が12μm、平均気孔率が45%))を浸漬した後引き上げ、100℃で12時間乾燥させた。その後、このセラミックス粉粒体を塗布されたセラミックスハニカム構造体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保持して焼結を行い、セラミックス粉粒体を焼結してなる多孔質膜をセラミックスハニカム構造体の表面に形成した。
その後、大気雰囲気下にて800℃で8時間熱処理を行って多孔質膜の表面を酸化させ、表面に二酸化珪素層を有する多孔質膜を備えた排ガス浄化フィルタを製造した。
製造された排ガス浄化フィルタは、多孔質膜の平均気孔径が0.08μmになっていた。また形成された多孔質膜は、セラミックスハニカム構造体の粒子表面までの厚さ(細孔がない固体部上における厚さ)が平均で10μmであり、細孔部までの厚さ(細孔が表面に開口した空孔部上における厚さ)が平均で18μmであった。また、多孔質膜の最表面には2.0nm厚のニ酸化珪素層が形成されていた。多孔質膜の平均気孔率は、85%であった。
【0074】
「実施例2」
平均粒子径0.9μmの炭化珪素粉末粒体を多孔質膜の構成材料であるセラミックス粉粒体(SiC)として用い、このセラミックス粉粒体の含有量が6体積%、水の含有量が91体積%、ゲル化剤の含有量が3体積%となるように、まず、セラミックス粉粒体を純水に入れ、これを撹拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリーを得た。
その後、このスラリーにゲル化剤としてゼラチンを添加して15分間混合し、実施例2に係る多孔質膜形成用塗料を得た。
【0075】
次に、この多孔質膜形成用塗料にセラミックスハニカム構造体(炭化珪素製ハニカムフィルタ:DPF,隔壁における平均気孔径が12μm、平均気孔率が45%)を浸漬した後引き上げ、100℃で12時間乾燥させた。その後、このセラミックス粉粒体を塗布されたセラミックスハニカム構造体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で1800℃まで昇温し、1800℃で2時間保持して焼結を行い、セラミックス粉粒体を焼結してなる多孔質膜をセラミックスハニカム構造体の表面に形成した。
その後、大気雰囲気下にて900℃で6時間熱処理を行って多孔質膜の表面を酸化させ、表面に二酸化珪素層を有する多孔質膜を備えた排ガス浄化フィルタを製造した。
製造された排ガス浄化フィルタは、多孔質膜の平均気孔径が1.1μmになっていた。
また形成された多孔質膜は、セラミックスハニカム構造体の固体部上における厚さが平均で11μmであり、空孔部上における厚さが平均で20μmであった。また、多孔質膜の最表面には1.5nm厚のニ酸化珪素層が形成されていた。多孔質膜の平均気孔率は、81%であった。
【0076】
「実施例3」
平均粒子径1.2μmの炭化珪素粉末粒体100質量部と、焼結助剤としての平均粒子径0.1μmのイットリア粉粒体2質量部とを混合し、炭化珪素粉粒体およびイットリア粉粒体からなるセラミックス粉粒体(SiC−Y)を得た。
次に、セラミックス粉粒体の含有量が6.5体積%、水の含有量が92.5体積%、ゲル化剤の含有量が1体積%となるように、まず、セラミックス粉粒体を純水に入れ、これを撹拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で3時間混合してスラリーを得た。
その後、このスラリーにゲル化剤としてゼラチンを添加して15分間混合し、実施例3に係る多孔質膜形成用塗料を得た。
【0077】
次に、多孔質膜形成用塗料にセラミックスハニカム構造体(炭化珪素製ハニカムフィルタ:DPF,隔壁における平均気孔径が12μm、平均気孔率が45%)を浸漬した後引き上げ、100℃で12時間乾燥させた。その後、このセラミックス粉粒体を塗布されたセラミックスハニカム構造体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で1700℃まで昇温し、1700℃で2時間保持して焼結を行い、セラミックス粉粒体を焼結してなる多孔質膜をセラミックスハニカム構造体の表面に形成した。
その後、大気雰囲気下にて850℃で10時間熱処理を行って多孔質膜の表面を酸化させ、表面に二酸化珪素層を有する多孔質膜を備えた排ガス浄化フィルタを製造した。
製造された排ガス浄化フィルタは、多孔質膜の平均気孔径が1.6μmになっていた。
また形成された多孔質膜は、セラミックスハニカム構造体の固体部上における厚さが平均で10μmであり、空孔部上における厚さが平均で15μmであった。また、多孔質膜の最表面には2.0nm厚のニ酸化珪素層が形成されていた。多孔質膜の平均気孔率は、76%であった。
【0078】
「実施例4」
平均粒子径2.0μmの炭化珪素粉末粒体100質量部と、焼結助剤としての平均粒子径0.1μmのイットリア粉粒体2質量部とを混合し、炭化珪素粉粒体およびイットリア粉粒体からなるセラミックス粉粒体(SiC−Y)を得た。
次に、セラミックス粉粒体の含有量が8体積%、水の含有量が90体積%、ゲル化剤の含有量が2体積%となるように、まず、セラミックス粉粒体を純水に入れ、これを撹拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で3時間混合してスラリーを得た。
その後、このスラリーにゲル化剤としてゼラチンを添加して15分間混合し、実施例4に係る多孔質膜形成用塗料を得た。
【0079】
次に、多孔質膜形成用塗料にセラミックスハニカム構造体(炭化珪素製ハニカムフィルタ:DPF,隔壁における平均気孔径が12μm、平均気孔率が45%)を浸漬した後引き上げ、100℃で12時間乾燥させた。その後、セラミックス粉粒体を塗布されたセラミックスハニカム構造体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で1700℃まで昇温し、1700℃で2時間保持して焼結を行い、セラミックス粉粒体を焼結してなる多孔質膜をセラミックスハニカム構造体の表面に形成した。
その後、大気雰囲気下にて800℃で8時間熱処理を行って多孔質膜の表面を酸化させ、表面に二酸化珪素層を有する多孔質膜を備えた排ガス浄化フィルタを製造した。
製造された排ガス浄化フィルタは、多孔質膜の平均気孔径が2.0μmになっていた。
また形成された多孔質膜は、セラミックスハニカム構造体の固体部上における厚さが平均で21μmであり、空孔部上における厚さが平均で35μmであった。また、多孔質膜の最表面には0.6nm厚のニ酸化珪素層が形成されていた。多孔質膜の平均気孔率は、63%であった。
【0080】
「実施例5」
平均粒子径5.0μmの炭化珪素粉末粒体100質量部と、焼結助剤としての平均粒子径0.8μmのボロンカーバイド粉粒体1質量部とを混合し、炭化珪素粉粒体およびボロンカーバイド粉粒体からなるセラミックス粉粒体(SiC−BC)を得た。
次に、セラミックス粉粒体の含有量が12体積%、水の含有量が87体積%、ゲル化剤の含有量が1体積%となるように、まず、セラミックス粉粒体を純水に入れ、これを撹拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で6時間混合してスラリーを得た。
その後、このスラリーにゲル化剤としてゼラチンを添加して15分間混合し、実施例5に係る多孔質膜形成用塗料を得た。
【0081】
次に、多孔質膜形成用塗料にセラミックスハニカム構造体(炭化珪素製ハニカムフィルタ:DPF,隔壁における平均気孔径が12μm、平均気孔率が45%)を浸漬した後引き上げ、100℃で12時間乾燥させた。その後、セラミックス粉粒体を塗布されたセラミックスハニカム構造体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で2000℃まで昇温し、2000℃で2時間保持して焼結を行い、セラミックス粉粒体を焼結してなる多孔質膜をセラミックスハニカム構造体の表面に形成した。
その後、大気雰囲気下にて850℃で15時間熱処理を行って多孔質膜の表面を酸化させ、表面に二酸化珪素層を有する多孔質膜を備えた排ガス浄化フィルタを製造した。
製造された排ガス浄化フィルタは、多孔質膜の平均気孔径が3.0μmになっていた。
また形成された多孔質膜は、セラミックスハニカム構造体の固体部上における厚さが平均で5μmであり、空孔部上における厚さが平均で11μmであった。また、多孔質膜の最表面には12nm厚のニ酸化珪素層が形成されていた。多孔質膜の平均気孔率は、51%であった。
【0082】
「実施例6」
平均粒子径0.6μmの炭化珪素粉末粒体100質量部と、焼結助剤としての平均粒子径0.2μmのアルミナ粉粒体2質量部とを混合し、炭化珪素粉粒体およびアルミナ粉粒体からなるセラミックス粉粒体(SiC−Al)を得た。
次に、セラミックス粉粒体の含有量が12体積%、水の含有量が87体積%、ゲル化剤の含有量が1体積%となるように、まず、セラミックス粉粒体を純水に入れ、これを撹拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリーを得た。
その後、このスラリーにゲル化剤としてゼラチンを添加して15分間混合し、実施例6に係る多孔質膜形成用塗料を得た。
【0083】
次に、多孔質膜形成用塗料にセラミックスハニカム構造体(炭化珪素製ハニカムフィルタ:DPF,隔壁における平均気孔径が12μm、平均気孔率が45%)を浸漬した後引き上げ、100℃で12時間乾燥させた。その後、セラミックス粉粒体を塗布されたセラミックスハニカム構造体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で1700℃まで昇温し、1700℃で2時間保持して焼結を行い、セラミックス粉粒体を焼結してなる多孔質膜をセラミックスハニカム構造体の表面に形成した。
こうして得られた多孔質膜が表面に形成されたセラミックスハニカム構造体を、テトラメトキシシランを部分加水分解した0.01%SiO固形分の塗布液に浸漬した後引き上げ、大気雰囲気下で100℃で5時間乾燥させた。その後、セラミックスハニカム構造体を電気炉に入れ、大気雰囲気下で600℃で60時間熱処理して、表面に二酸化珪素層を有する多孔質膜を備えた排ガス浄化フィルタを製造した。
製造された排ガス浄化フィルタは、多孔質膜の平均気孔径が0.9μmになっていた。
また形成された多孔質膜は、セラミックスハニカム構造体の固体部上における厚さが平均で19μmであり、空孔部上における厚さが平均で40μmであった。また、多孔質膜の最表面には27.0nm厚のニ酸化珪素層が形成されていた。多孔質膜の平均気孔率は、70%であった。
【0084】
「実施例7」
多孔質膜の表面に二酸化珪素層を形成するための条件を、大気雰囲気下で500℃で2時間熱処理としたことを除いては、実施例6と同様の方法を用いて、表面に二酸化珪素層を有する多孔質膜を備えた排ガス浄化フィルタを製造した。
製造された排ガス浄化フィルタは、多孔質膜の平均気孔径が0.9μmになっていた。
また形成された多孔質膜は、セラミックスハニカム構造体の固体部上における厚さが平均で18μmであり、空孔部上における厚さが平均で41μmであった。また、多孔質膜の最表面には23.0nm厚のニ酸化珪素層が形成されていた。多孔質膜の平均気孔率は、71%であった。
【0085】
「実施例8」
平均粒子径0.03μmの炭化珪素粉末粒体を大気雰囲気下にて800℃で2時間熱処理し、表面に二酸化珪素層を3nm形成した炭化珪素粉末粒体100質量部と、焼結助剤としての平均粒子径0.2μmのアルミナ粉粒体2質量部とを混合し、炭化珪素粉粒体およびアルミナ粉粒体からなるセラミックス粉粒体((SiC+SiO)−Al)を得た。
次に、セラミックス粉粒体の含有量が12体積%、水の含有量が87体積%、ゲル化剤の含有量が1体積%となるように、まず、セラミックス粉粒体を純水に入れ、これを撹拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリーを得た。
その後、このスラリーにゲル化剤としてゼラチンを添加して15分間混合し、実施例8に係る多孔質膜形成用塗料を得た。
【0086】
次に、多孔質膜形成用塗料にセラミックスハニカム構造体(炭化珪素製ハニカムフィルタ:DPF,隔壁における平均気孔径が12μm、平均気孔率が45%)を浸漬した後引き上げ、100℃で12時間乾燥させた。その後、セラミックス粉粒体を塗布されたセラミックスハニカム構造体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で1700℃まで昇温し、1700℃で2時間保持して焼結を行い、セラミックス粉粒体を焼結してなる多孔質膜をセラミックスハニカム構造体の表面に形成し、表面に二酸化珪素層を有する多孔質膜を備えた排ガス浄化フィルタを製造した。
製造された排ガス浄化フィルタは、多孔質膜の平均気孔径が0.9μmになっていた。
また形成された多孔質膜は、セラミックスハニカム構造体の固体部上における厚さが平均で20μmであり、空孔部上における厚さが平均で42μmであった。また、多孔質膜の最表面には3.0nm厚のニ酸化珪素層が形成されていた。多孔質膜の平均気孔率は、81%であった。
【0087】
「比較例1」
平均粒子径0.03μmの二酸化珪素粉末粒体からなるセラミックス粉粒体(SiO)を用意した。次いで、このセラミックス粉粒体の含有量が12体積%、水の含有量が87体積%、ゲル化剤の含有量が1体積%となるように、まず、セラミックス粉粒体を純水に入れ、これを撹拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリーを得た。
その後、このスラリーにゲル化剤としてゼラチンを添加して15分間混合し、比較例1に係る多孔質膜形成用塗料を得た。
【0088】
次に、多孔質膜形成用塗料にセラミックスハニカム構造体(炭化珪素製ハニカムフィルタ:DPF,隔壁における平均気孔径が12μm、平均気孔率が45%)を浸漬した後引き上げ、100℃で12時間乾燥させた。その後、セラミックス粉粒体を塗布されたセラミックスハニカム構造体を大気雰囲気下にて800℃で6時間熱処理することで、二酸化珪素粒子からなる多孔質膜を備えた排ガス浄化フィルタを製造した。
製造された排ガス浄化フィルタは、多孔質膜の平均気孔径が0.14μmになっていた。また形成された多孔質膜は、セラミックスハニカム構造体の固体部上における厚さが平均で12μmであり、空孔部上における厚さが平均で43μmであった。多孔質膜の平均気孔率は、86%であった。
【0089】
「比較例2」
平均粒子径0.1μmの炭化珪素粉末粒体100質量部と、焼結助剤としての平均粒子径0.8μmのボロンカーバイド粉粒体1質量部とを混合し、炭化珪素粉粒体およびボロンカーバイド粉粒体とからなるセラミックス粉粒体(SiC−BC)を得た。
次に、セラミックス粉粒体の含有量が8.0体積%、水の含有量が91.0体積%、ゲル化剤の含有量が1体積%となるように、まず、セラミックス粉粒体を純水に入れ、これを撹拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリーを得た。
その後、このスラリーにゲル化剤としてゼラチンを添加して15分間混合し、比較例2に係る多孔質膜形成用塗料を得た。
【0090】
次に、多孔質膜形成用塗料にセラミックスハニカム構造体(炭化珪素製ハニカムフィルタ:DPF,隔壁における平均気孔径が12μm、平均気孔率が45%)を3分間浸漬した後引き上げ、100℃で12時間乾燥させた。その後、セラミックス粉粒体を塗布されたセラミックスハニカム構造体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で2000℃まで昇温し、2000℃で30分保持して焼結を行い、セラミックス粉粒体を焼結してなる多孔質膜をセラミックスハニカム構造体の表面に形成した。
上記の工程により得られた排ガス浄化フィルタは、多孔質膜の平均気孔径が0.3μmになっていた。また形成された多孔質膜は、セラミックスハニカム構造体の固体部上における厚さが平均で24μmであり、空孔部上における厚さが平均で50μmであった。なお、多孔質膜の表面には二酸化珪素層は形成されていなかった。多孔質膜の平均気孔率は、80%であった。
【0091】
以上の実施例および比較例について、得られた排ガス浄化フィルタのサンプルの評価結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示した評価結果によれば、実施例1〜8の排ガス浄化フィルタでは、比較例1、2の二酸化珪素層を形成しなかった排ガス浄化フィルタに対して粒子状物質の燃焼時間を短縮することができ、良好な特性を有する排ガス浄化フィルタとなることが分かった。また、実施例1〜8の排ガス浄化フィルタは、圧力損失特性についても、比較例1、2に対して良好な特性を有することが分かった。
また、実施例1〜8ではいずれも良好な結果が得られているが、特に、炭化珪素を主体とする多孔質膜を焼成した後で、多孔質膜の外表面を酸化させることにより二酸化珪素層を形成したもの(実施例1〜5)が、液相法で二酸化珪素層を形成したもの(実施例6、7)と比較して良好な結果が得られた。さらに、実施例のうちでも、二酸化珪素層の厚さを1nm以上10nm以下としたもの(実施例1〜3、8)において、燃焼試験の結果が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の排ガス浄化フィルタにおいては、粒子状物質の捕集効率を維持しつつ、圧力損失の上昇を抑えることができる。また、フィルタの再生サイクルの間隔を長くすることができ、再生回数を少なくできることから、本発明は産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0095】
10 DPF、11 フィルタ基体、12 ガス流路、12A 流入セル、12B 流出セル、13 多孔質膜、14 隔壁、30 粒子状物質、α,γ 端面、G 排ガス、C 浄化ガス H 空孔部 S 固体部 F、F’ 空孔部上の多孔質膜に形成された排ガスないしは燃焼ガス流路 P、P’ 固体部上の多孔質膜に形成された排ガスないしは燃焼ガス流路 X、X‘ ガス流路として形成されていない部分
図1
図2
図3