【実施例】
【0034】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内で、実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【0035】
(実施例1)
銅精錬工程における転炉で精製された後の粗銅(純度約99%)を原料アノードとし、硫酸銅溶液で電解精製を行った。粗銅中に含有されている鉛は硫酸鉛として析出するので、析出物が電析に巻き込まれるのを防止するために陰イオン交換膜を用いた隔膜電解とした。
陽極で粗銅を電気溶解し、所定の銅濃度になった液をポンプで抜き取り、ろ過後、析出物のない液を陰極に送り、電析を得た。これにより、鉛濃度の低い純度4Nの銅電析物を得た。Pb, U, Thの含有量は それぞれ<0.01wtppm, <5wtppb, <5wtppbだった。
【0036】
回収した電析銅を洗浄・乾燥し、1200°Cの温度で溶解・鋳造し、溶解・鋳造直後からα線量の経時変化を調べた。α線測定用試料は溶解・鋳造した板を圧延して約1.5mmの厚さにし、310mm×310mmのプレートに切り出した。この表面積は961cm
2である。これをα線測定試料とした。
【0037】
α線測定装置はOrdela社製のGas Flow Proportional Counterモデル8600A−LBを用いた。使用ガスは90%アルゴン−10%メタン、測定時間はバックグラウンド及び試料とも104時間で、最初の4時間は測定室パージに必要な時間として5時間後から104時間後までである。つまり、α線量算出に用いたのは、溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後の、それぞれにおける5時間後から104時間後までのデータである。
【0038】
上記試料について、溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後及び鉛の同位体
206Pbへの壊変によるα線を発生させるポロニウムの同位体
210Poがない状態において、
210Pb→
210Bi→
210Po→
206Pbの崩壊チェーンが平衡状態になる27ヶ月を過ぎた30ヵ月後にα線量を測定した結果、α線量は最大でも0.001cph/cm
2であり、本願発明の条件を満たしていた。
【0039】
また、銅合金インゴットとする場合において、添加する合金元素として、通常Al, Ag, B, Ba, Be, Bi, Ca, Ce, Co, Cr, Dy, Eu, Gd, Ge, In, Ir, La, Mg, Mo, Nd, Ni, P, Pd, Pt, Rh, Ru, Sb, Si, Sn, Sr, Y, Ti, Yb, Zn, Zrから選択される1種以上を数10〜数100wtppm添加することが行われる。
この銅合金の製造の場合において、溶解・鋳造の際に、ベース(基)となるCuを含め、銅合金に含まれるPb, U, Thの含有量を、それぞれ<0.01wtppm, <5wtppb, <5wtppbとすることが重要であり、本実施例では、これらの銅合金の製造においても、同様に、α線量を測定した結果、α線量を最大でも0.001cph/cm
2を達成することができた。
【0040】
(比較例1)
市販無酸素銅を溶解鋳造し、実施例1と同様の方法でα線試料を作製した。Pb, U, Th含有量はそれぞれ1wtppm, <5wtppb, <5wtppbであった。
溶解鋳造直後からα線量の経時変化を調べた結果、α線量は、溶解鋳造直後は0.001cph/cm
2以下であったが徐々に増加した。これは溶解・鋳造工程でPoが蒸発したために一時的にα線量が低くなったが、Pbが1wtppm含有されているために、再び崩壊チェーンが構築されてα線量が増加したと考えられる。この結果、本願発明の目的を達成することはできなかった。
【0041】
(比較例2)
銅精錬工程における転炉で精製された後の粗銅(純度約99%)を原料アノードとし、硫酸銅溶液で隔膜を用いずに電解精製を行った。その結果Pb, U, Thの含有量が それぞれ0.2wtppm, <5wtppb, <wt5ppbであった。
溶解鋳造直後からα線量の経時変化を調べた結果、α線量は、溶解鋳造直後は0.001cph/cm
2以下であったが徐々に増加した。これは溶解・鋳造工程でPoが蒸発したために一時的にα線量が低くなったが、Pbが0.2wtppm含有されているために再び崩壊チェーンが構築されてα線量が増加したと考えられる。この結果、本願発明の目的を達成することはできなかった。
【0042】
(実施例2)
実施例1の方法で作製した銅インゴットを、線引き加工により直径25μmのワイヤとした。α線測定装置の試料トレイに敷き詰め、実施例1と同様の方法でα線を測定した結果、α線量は増加せず、安定して0.001cph/cm
2以下であった。以上から、この加工した銅ワイヤは、銅ボンディングワイヤとして、有効に利用できる。
【0043】
また、前記実施例1において製造したAl, Ag, B, Ba, Be, Bi, Ca, Ce, Co, Cr, Dy, Eu, Gd, Ge, In, Ir, La, Mg, Mo, Nd, Ni, P, Pd, Pt, Rh, Ru, Sb, Si, Sn, Sr, Y, Ti, Yb, Zn, Zrから選択される1種以上を数10〜数100wtppm添加した銅合金インゴットを用いて、線引き加工を行い、α線を測定した結果、α線量は増加せず、安定して0.001cph/cm
2が得られた。これは、銅合金の製造段階における慎重な成分調整が重要であり、ベース(基)となるCuを含め、銅合金に含まれるPb, U, Thの含有量を、それぞれ<0.01wtppm, <5wtppb, <5wtppbとすることにより達成できたものである。
【0044】
(比較例3)
比較例1及び比較例2の方法で作製した銅インゴットを線引き加工により直径25μmのワイヤとした。α線測定装置の試料トレイに敷き詰め測定した結果、α線量は、線引き加工直後は0.001cph/cm
2程度であったが、これが徐々に増加した。以上から、この加工した銅ワイヤは、銅ボンディングワイヤとして、有効な材料とは言えない。