特許第5690917号(P5690917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5690917銅又は銅合金、ボンディングワイヤ、銅の製造方法、銅合金の製造方法及びボンディングワイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690917
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】銅又は銅合金、ボンディングワイヤ、銅の製造方法、銅合金の製造方法及びボンディングワイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20150305BHJP
   C22B 15/14 20060101ALI20150305BHJP
   C22C 9/01 20060101ALI20150305BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20150305BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20150305BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20150305BHJP
   C22C 9/08 20060101ALI20150305BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20150305BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20150305BHJP
   C25C 1/12 20060101ALN20150305BHJP
   C25C 7/04 20060101ALN20150305BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C22B15/14
   C22C9/01
   C22C9/02
   C22C9/04
   C22C9/06
   C22C9/08
   C22C9/10
   H01L21/60 301F
   !C25C1/12
   !C25C7/04 301
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-503437(P2013-503437)
(86)(22)【出願日】2012年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2012053524
(87)【国際公開番号】WO2012120982
(87)【国際公開日】20120913
【審査請求日】2013年7月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-49645(P2011-49645)
(32)【優先日】2011年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(72)【発明者】
【氏名】加納 学
【審査官】 本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−300668(JP,A)
【文献】 特開2001−271159(JP,A)
【文献】 特開2004−043946(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/073434(WO,A1)
【文献】 三宅保彦,工業材料としての高純度銅の製造と応用,日本金属学会会報,日本,1992年 4月,Vol.31 No.4,Page.267-276
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
C25C 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解・鋳造した後の試料のα線量が0.001cph/cm以下である銅の製造方法であって、電解液としてCu濃度30〜200g/Lの硫酸銅溶液を用い、陽極と陰極の間に、Pb2+イオンが通過しない陰イオン交換膜からなる隔膜を設け、陽極側から抜き出した電解液中の析出物である硫酸鉛を除去した後に、陰極側に電解液を供給し、電解を行って電析物を得、これをさらに溶解・鋳造することを特徴とするα線量が0.001cph/cm以下である銅の製造方法。
【請求項2】
Pbの同位体である210Pbを含むPb含有量が0.01ppm未満、U含有量が5wtppb未満、Th含有量が5wtppb未満、とすることを特徴とする請求項1に記載の銅の製造方法。
【請求項3】
溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後及び30ヵ月後の試料の、それぞれのα線量が0.001cph/cm以下、とすることを特徴とする請求項1〜2のいずれか一項に記載の銅の製造方法。
【請求項4】
純度が4N(99.99%)以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の銅の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の銅の製造方法により製造した銅を原料とする銅合金の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の銅の製造方法により製造した銅を原料とするボンディングワイヤの製造方法。
【請求項7】
溶解・鋳造した後の試料のα線量が0.001cph/cm以下、Pbの同位体である210Pbを含むPb含有量が0.01ppm未満、U含有量が5wtppb未満、Th含有量が5wtppb未満、であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法により製造した銅又は銅合金
【請求項8】
溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後及び30ヵ月後の試料の、それぞれのα線量が0.001cph/cm以下であることを特徴とする請求項7に記載の銅又は銅合金
【請求項9】
純度が4N(99.99%)以上であることを特徴とする請求項7又は8のいずれか一項に記載の銅又は銅合金
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の銅又は銅合金を原料とするボンディングワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体の製造等に使用する、α線量を低減させた銅又は銅合金及び銅又は銅合金を原料とするボンディングワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、銅は、半導体の製造に使用される材料で、特に銅又は銅合金配線、銅又は銅合金ボンディングワイヤ、はんだ材料の主たる原料である。半導体装置を製造する際に、銅又は銅合金配線、銅又は銅合金ボンディングワイヤ、はんだ(Cu−Ag−Sn)は、ICやLSI等のSiチップをリードフレームやセラミックスパッケージにボンディングし又は封止する時、TAB(テープ・オートメイテッド・ボンディング)やフリップチップ製造時のバンプ形成、半導体用配線材等に使用されている。
最近の半導体装置は、高密度化及び動作電圧やセルの容量が低下しているので、半導体チップ近傍の材料からのα線の影響により、ソフトエラーが発生する危険が多くなってきた。このようなことから、銅又は銅合金の高純度化の要求があり、またα線の少ない材料が求められている。
【0003】
本願発明とは異なる材料であるが、α線を減少させるという開示、すなわち錫からα線を減少させるという目的の技術に関するいくつかの開示がある。それを以下に紹介する。
下記特許文献1には、錫とα線量が10cph/cm以下の鉛を合金化した後、錫に含まれる鉛を除去する精錬を行う低α線錫の製造方法が記載されている。この技術の目的は高純度Pbの添加により錫中の210Pbを希釈してα線量を低減しようとするものである。
しかし、この場合、錫に添加した後で、Pbをさらに除去しなければならないという煩雑な工程が必要であり、また錫を精錬した3年後にはα線量が大きく低下した数値を示しているが、3年を経ないとこのα線量が低下した錫を使用できないというようにも理解されるので、産業的には効率が良い方法とは言えない。
【0004】
下記特許文献2には、Sn−Pb合金はんだに、Na、Sr、K、Cr、Nb、Mn、V、Ta、Si、Zr、Baから選んだ材料を10〜5000ppm添加すると、放射線α粒子のカウント数が0.5cph/cm以下に低下するという記載がある。
しかし、このような材料の添加によっても放射線α粒子のカウント数を減少できたのは0.015cph/cmレベルであり、今日の半導体装置用材料としては期待できるレベルには達していない。
さらに問題となるのは、添加する材料としてアルカリ金属元素、遷移金属元素、重金属元素など、半導体に混入しては好ましくない元素が用いられていることである。したがって、半導体装置組立て用材料としてはレベルが低い材料と言わざるを得ない。
【0005】
下記特許文献3には、はんだ極細線から放出される放射線α粒子のカウント数を0.5cph/cm以下にして、半導体装置等の接続配線用として使用することが記載されている。しかし、この程度の放射線α粒子のカウント数レベルでは、今日の半導体装置用材料としては期待できるレベルには達していない。
【0006】
下記特許文献4には、特級硫酸、特級塩酸などの精製度の高い硫酸と塩酸を使用して電解液とし、かつ高純度の錫を陽極に用いて電解することにより鉛濃度が低く、鉛のα線カウント数が0.005cph/cm以下の高純度錫を得ることが記載されている。コストを度外視して、高純度の原材料(試薬)を使用すれば、高純度の材料が得られることは当然ではあるが、それでも特許文献4の実施例に示されている析出錫の最も低いα線カウント数が0.002cph/cmであり、コスト高の割には、期待できるレベルには達していない。
【0007】
下記特許文献5には、粗金属錫を加えた加熱水溶液に硝酸を添加してメタ錫酸を沈降させ、ろ過し、これを洗浄し、洗浄後のメタ錫酸を塩酸又は弗酸で溶解し、この溶解液を電解液として電解採取により5N以上の金属錫を得る方法が記載されている。この技術には漠然とした半導体装置用としての適用ができると述べているが、放射性元素及び放射線α粒子のカウント数の制限については、特に言及されておらず、これらについては関心が低いレベルのものと言える。
【0008】
下記特許文献6には、はんだ合金を構成するSn中に含まれるPbの量を減少させ、合金材としてBi又はSb、Ag、Znを用いるとする技術が示されている。しかし、この場合たとえPbをできるだけ低減したとしても、必然的に混入してくるPbに起因する放射線α粒子のカウント数の問題を根本的に解決する手段は、特に示されていない。
【0009】
下記特許文献7には、特級硫酸試薬を用いて電解して製造した、品位が99.99%以上であり、放射線α粒子のカウント数が0.03cph/cm以下である錫が開示されている。この場合も、コストを度外視して、高純度の原材料(試薬)を使用すれば、高純度の材料が得られることは当然ではあるが、それでも特許文献7の実施例に示されている析出錫の最も低いα線カウント数が0.003cph/cmであり、コスト高の割には、期待できるレベルには達していない。
【0010】
下記特許文献8には、4ナイン以上の品位を有し、放射性同位元素が50ppm未満、放射線α粒子のカウント数が0.5cph/cm以下である、半導体装置用ろう材用鉛が記載されている。また、下記特許文献9には、99.95%以上の品位で、放射性同位元素が30ppm未満、放射線α粒子のカウント数が0.2cph/cm以下である、半導体装置用ろう材用錫が記載されている。
これらはいずれも、放射線α粒子のカウント数の許容量が緩やかで、今日の半導体装置用材料としては期待できるレベルには達していない問題がある。
【0011】
このようなことから、本出願人は下記特許文献10に示すように、高純度錫、すなわち純度が5N以上(但し、O、C、N、H、S、Pのガス成分を除く)であり、その中でも放射性元素であるU、Thのそれぞれの含有量が5ppb以下、放射線α粒子を放出するPb、Biのそれぞれの含有量が1ppm以下とし、半導体チップへのα線の影響を極力排除する提案を行った。この場合、高純度錫は最終的には、溶解・鋳造及び、必要により圧延・切断して製造されるもので、その高純度錫のα線カウント数が0.001cph/cm以下であることを実現する技術に関するものである。
【0012】
Snの精製の際に、Poは非常に昇華性が高く、製造工程、例えば溶解・鋳造工程で加熱されるとPoが昇華する。製造の初期の段階でポロニウムの同位体210Poが除去されていれば、当然ながらポロニウムの同位体210Poから鉛の同位体206Pbへの壊変も起こらず、α線も発生しないと考えられる。
製造工程でのα線の発生は、この210Poから鉛の同位体206Pbへの壊変時と考えられたからである。しかし、実際には、製造時にPoが殆ど消失したと考えられていたのに、引き続きα線の発生が見られた。したがって、単に製造初期の段階で、高純度錫のα線カウント数を低減させるだけでは、根本的な問題の解決とは言えなかった。
【0013】
上記は専ら、錫に関するα線に関するものであるが、銅又は銅合金は半導体用としてLSIの配線材料やチップとリードフレームを接続するボンディングワイヤに使われているのであるが、ボンディングワイヤはソフトエラーを起こすメモリー部分と距離が離れているためにワイヤから発生するα線量はあまり考慮されず、0.5cph・cm以下程度で充分と考えられていた(下記特許文献11の段落0004参照)。
この他、銅又は銅合金ボンディングワイヤに関する特許文献があるが、α線量に関する開示は見当たらない。以下に、銅又は銅合金ボンディングワイヤに関する特許文献を列挙し、簡単に説明する。
【0014】
特許文献12には、半導体装置のボンディングワイヤ用高純度銅の製造方法の記載があり、不可避不純物の全含有量を5ppm以下、不可避不純物中のS、Se、及びTe成分の含有量を、それぞれS:0.5ppm以下、Se:0.2ppm以下、Te:0.2ppm以下、ビッカース硬さ、伸び、破断強度を向上させることが記載されている。
特許文献13には、ボンディングワイヤ用銅素材の製造方法として、電解精錬→真空溶解→帯域融解法により精製することが記載されている。
特許文献14には、Fe、P、Inを含有し、Sn、Pb、Sbのうち少なくとも1種以上のボンディングワイヤが記載されている。
【0015】
特許文献15には、半導体素子用ボンディング線素材の製造方法として、凝固速度を調整したボンディング線素材の製造方法が記載されている。
特許文献16には、導線用またはケーブル用体屈曲高力高導電性銅合金が記載され、Fe、Pを含有し、In、Sn、Pb、Sbから選択される2種とZrを含有することが記載されている。
特許文献17には、耐熱高力高導電性銅合金が記載され、Fe、P含有、In、Sn、Pb、Sbから選択される2種とZrを含有することが記載されている。
【0016】
この他、銅の精製方法として、特許文献18に、アノードとカソードとを隔膜で分離させ、アノードから溶出したCuイオン含有電解液を抜き出し、カソードボックスに入れる直前に0.1μm程度の目開きの活性炭フィルターを通す技術、特許文献19に、電解採取又は電解精製により高純度化することを前提とし、銅含有溶液のアノライトから酸と活性炭処理により不純物を除去し、除去した高純度銅液をカソライトとして使用する技術、特許文献20に、陽極(アノード)室および陰極(カソード)室を隔膜で分離した隔膜電解槽を使用し、電解液として塩素浴での黄銅鉱浸出液を用いてカソード室に給液して、カソード表面で電解還元により電気銅を採取する技術が記載されている。
しかし、これらの銅の精製方法においてα線を減少させるという技術開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第3528532号公報
【特許文献2】特許第3227851号公報
【特許文献3】特許第2913908号公報
【特許文献4】特許第2754030号公報
【特許文献5】特開平11−343590号公報
【特許文献6】特開平9−260427号公報
【特許文献7】特開平1−283398号公報
【特許文献8】特公昭62−47955号公報
【特許文献9】特公昭62−1478号公報
【特許文献10】WO2007−004394号公報
【特許文献11】特開2005−175089号公報
【特許文献12】特公平7−36431号公報
【特許文献13】特公平8−23050号公報
【特許文献14】特公昭62−56218号公報
【特許文献15】特開昭63−34934号公報
【特許文献16】特開昭62−214145号公報
【特許文献17】特開61−76636号公報
【特許文献18】特許4620185号公報
【特許文献19】特許4519775号公報
【特許文献20】特開2005−105351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
最近の半導体装置は、高密度化及び動作電圧やセルの容量が低下しているので、半導体チップ近傍の材料からのα線の影響により、ソフトエラーが発生する危険が多くなってきている。特に、半導体装置に近接して使用される、銅又は銅合金配線、銅又は銅合金ボンディングワイヤ、はんだ材料などの銅又は銅合金に対する高純度化の要求が強く、またα線の少ない材料が求められているので、本発明は、銅又は銅合金のα線発生の現象を解明すると共に、要求される材料に適応できるα線量を低減させた銅又は銅合金、及び銅又は銅合金を原料とするボンディングワイヤを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するために、以下の発明を提供するものである。
1)溶解・鋳造した後の試料のα線量が0.001cph/cm以下であることを特徴とする銅又は銅合金。
2)溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後及び30ヵ月後の、それぞれのα線量が0.001cph/cm以下であることを特徴とする銅又は銅合金。
3)純度が4N(99.99%)以上であることを特徴とする上記1)又は2)記載の銅又は銅合金。
この銅合金の場合、ベース(基)となるCuと添加元素を含めた純度である。
4)Pb含有量が0.1ppm以下であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一項に記載の銅又は銅合金。
5)上記1〜4のいずれか一項に記載の銅又は銅合金を原料とするボンディングワイヤ。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、最近の半導体装置は、高密度化及び動作電圧やセルの容量が低下しており、半導体チップ近傍の材料からのα線の影響により、ソフトエラーが発生する危険が多くなってきているが、α線の少ない材料に適応できる銅又は銅合金及び銅又は銅合金を原料とするボンディングワイヤを提供できるという優れた効果を有する。これにより、半導体装置のα線の影響によるソフトエラーの発生を著しく減少できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ウラン(U)が崩壊し、206Pbに至るまでの崩壊チェーン(ウラン・ラジウム崩壊系列)を示す図である。
図2】ポロニウムの同位体210Poが殆どない状態から、210Pb→210Bi→210Po→206Pbの崩壊チェーンが再構築されて放射されるα線量を示す図である。
図3】Cu中のPb含有量とα線量との関係を示す図である。
図4】隔膜電解法による鉛除去工程の概略を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0022】
α線を発生する放射性元素は数多く存在するが、多くは半減期が非常に長いか非常に短いために実際には問題にならず、問題になるのはU崩壊チェーン(図1参照)における、ポロニウムの同位体210Poから鉛の同位体206Pbに壊変する時に発生するα線である。
半導体装置に近接して使用される、銅又は銅合金配線、銅又は銅合金ボンディングワイヤ、はんだ材料には、銅又は銅合金を原料とする材料が開発されており、低α線の銅又は銅合金材料が求められている。
【0023】
例えば、銅又は銅合金ボンディングワイヤの原料としては、通常4N〜5Nの無酸素銅が使用されており、鉛が0.1wtppm以上含有されており、α線の発生量も0.001cph/cmを超えている。また、従来は、低α線の必要もないと考えられていたために、低減する動機もなかったと言える。
【0024】
前述の通り、Poは非常に昇華性が高く、製造工程、例えば溶解・鋳造工程で加熱されるとPoが昇華する。製造工程でポロニウムの同位体210Poが除去されていれば、ポロニウムの同位体 210Poから鉛の同位体206Pbへの壊変も起こらず、α線も発生しないと考えられる(図1の「U崩壊チェーン」参照)。
しかし、ポロニウムの同位体210Poが殆どない状態において、210Pb→210Bi→210Po→206Pbの崩壊が起こる。そして、この崩壊チェーンが平衡状態になるには約27ヶ月(2年強)を要することが分かった(図2参照)。
【0025】
すなわち、銅材料中に鉛の同位体210Pb(半減期22年)が含有されていると、時間の経過とともに210Pb→210Bi(半減期5日)→210Po(半減期138日)の壊変(図1)が進み、崩壊チェーンが再構築されて210Poが生じるために、ポロニウムの同位体210Poから鉛の同位体206Pbへの壊変によるα線が発生するのである。
従って、製品製造直後はα線量が低くても問題は解決せず、時間の経過とともに徐々にα線量が高くなり、ソフトエラーが起こる危険性が高まるという問題が生ずるのである。前記約27ヶ月(2年強)は、決して短い期間ではない。
【0026】
製品製造直後は、α線量が低くても時間の経過とともに徐々にα線量が高くなるという問題は、材料中に図1に示すU崩壊チェーンの鉛の同位体210Pbが含有されているからであり、鉛の同位体210Pbの含有量を極力少なくしなければ、上記の問題を解決することはできないと言える。
図3にCu中のPb含有量とα線量との関係を示す。この図3に示す直線は、鉛の同位体214Pb、210Pb、209Pb、208Pb、207Pb、206Pb、204Pbの割合によって上下にシフトし、鉛の同位体210Pbの割合が大きいほど上にシフトすることが分かった。
【0027】
以上から、この銅中の鉛の同位体210Pbの割合を低減することが重要であり、またPbを0.1ppm以下にまで低減することにより、結果として、鉛の同位体210Pbも低減できるため、時間の経過とともにα線量が高くならない。
また、鉛の同位体206Pbの存在比が少ないということは、図1に示すU崩壊チェーンの比率が相対的に小さいということであり、この系列に属する鉛の同位体210Pbも少なくなると考えられる。
【0028】
これにより、溶解・鋳造した銅のα線量が0.001cph/cm以下を達成することが可能となる。このレベルのα線量にすることが、本願発明の基本であり、従来技術においては、このような認識を持って、上記を達成することを開示又は示唆する記載はなかったと言える。
具体的には、溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後及び鉛の同位体206Pbへの壊変によるα線を発生させるポロニウムの同位体210Poがない状態において、210Pb→210Bi→210Po→206Pbの崩壊チェーンが平衡状態になる27ヶ月を過ぎた30ヵ月後の、それぞれのα線量が0.001cph/cm以下である銅又は銅合金を提供する。
【0029】
なお、錫などの低α化(α線量の低減化)の電解精製で用いられる塩酸浴では、Pbが析出しないため、本件の隔膜電解法によってはPbを除去できない。又、Cuの電解精製では、硝酸浴も使用されるが、この場合Pbが析出しないため、本件の隔膜電解法によってはPbを除去できない。本件では、Pbを析出させることで、隔膜電解法によってPbを除去し、低α化(α線量の低減化)を図るものである。
【0030】
さらに、α線量を測定する場合に注意を要することがある。それはα線測定装置(機器)からα線(以下、必要に応じて「バックグラウンド(BG)α線」という用語を使用する。)が出ることである。本願発明で上記のα線量は、α線測定装置から出るα線を除去した実質のα線量である。本願明細書で記載する「α線量」は、この意味で使用する。
【0031】
以上については、銅又は銅合金から発生するα線量について述べたが、銅又は銅合金を含有する合金においても、同様にα線量の影響を強く受ける。α線量が少ないか又は殆ど発生しない銅以外の成分によりα線量の影響が緩和されることもあるが、少なくとも合金成分中に、銅が40%以上含有する銅合金の場合については、α線量が少ない本発明の銅を用いることが望ましいと言える。
【0032】
銅の精製は、以下に示す隔膜電解法により行う。
電解液は硫酸銅溶液とし、陽極と陰極の間に隔膜を設け、陽極側から抜き出した電解液中の析出物、特に硫酸鉛を除去した後に陰極側に電解液を供給する。
本発明の隔膜電解法は、硫酸銅溶液(例えばCu濃度30〜200g/L)を用いること、隔膜はPb2+イオンが通過しないように陰イオン交換膜を用いることに特徴がある。隔膜電解を行っても、陽イオン交換膜を用いた場合には、Pb2+イオンが通過してしまい、カソード側の電析銅に鉛が混入してしまうので、上記の通り、陰イオン交換膜を用いる必要がある。また、電解液中から析出物の硫酸鉛の除去は、フィルターを用いた濾過により行う。
【0033】
上記の通り、本願発明は、硫酸銅溶液を電解液として用い、陰イオン交換膜を用いた隔膜電解法により、鉛を0.1ppmレベルまで除去することが可能となった。このようにして得た本願発明の銅又は銅合金は、半導体装置のα線の影響によるソフトエラーの発生を著しく減少できるという優れた効果を有する。
なお、上記の通り、硫酸銅溶液を電解液として用い、陰イオン交換膜を用いた隔膜電解法は有効な方法であるが、α線量を0.001cph/cm以下とすることができる製法であれば、この方法に限定されないことは容易に理解できるであろう。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内で、実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【0035】
(実施例1)
銅精錬工程における転炉で精製された後の粗銅(純度約99%)を原料アノードとし、硫酸銅溶液で電解精製を行った。粗銅中に含有されている鉛は硫酸鉛として析出するので、析出物が電析に巻き込まれるのを防止するために陰イオン交換膜を用いた隔膜電解とした。
陽極で粗銅を電気溶解し、所定の銅濃度になった液をポンプで抜き取り、ろ過後、析出物のない液を陰極に送り、電析を得た。これにより、鉛濃度の低い純度4Nの銅電析物を得た。Pb, U, Thの含有量は それぞれ<0.01wtppm, <5wtppb, <5wtppbだった。
【0036】
回収した電析銅を洗浄・乾燥し、1200°Cの温度で溶解・鋳造し、溶解・鋳造直後からα線量の経時変化を調べた。α線測定用試料は溶解・鋳造した板を圧延して約1.5mmの厚さにし、310mm×310mmのプレートに切り出した。この表面積は961cmである。これをα線測定試料とした。
【0037】
α線測定装置はOrdela社製のGas Flow Proportional Counterモデル8600A−LBを用いた。使用ガスは90%アルゴン−10%メタン、測定時間はバックグラウンド及び試料とも104時間で、最初の4時間は測定室パージに必要な時間として5時間後から104時間後までである。つまり、α線量算出に用いたのは、溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後の、それぞれにおける5時間後から104時間後までのデータである。
【0038】
上記試料について、溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後及び鉛の同位体206Pbへの壊変によるα線を発生させるポロニウムの同位体210Poがない状態において、210Pb→210Bi→210Po→206Pbの崩壊チェーンが平衡状態になる27ヶ月を過ぎた30ヵ月後にα線量を測定した結果、α線量は最大でも0.001cph/cmであり、本願発明の条件を満たしていた。
【0039】
また、銅合金インゴットとする場合において、添加する合金元素として、通常Al, Ag, B, Ba, Be, Bi, Ca, Ce, Co, Cr, Dy, Eu, Gd, Ge, In, Ir, La, Mg, Mo, Nd, Ni, P, Pd, Pt, Rh, Ru, Sb, Si, Sn, Sr, Y, Ti, Yb, Zn, Zrから選択される1種以上を数10〜数100wtppm添加することが行われる。
この銅合金の製造の場合において、溶解・鋳造の際に、ベース(基)となるCuを含め、銅合金に含まれるPb, U, Thの含有量を、それぞれ<0.01wtppm, <5wtppb, <5wtppbとすることが重要であり、本実施例では、これらの銅合金の製造においても、同様に、α線量を測定した結果、α線量を最大でも0.001cph/cmを達成することができた。
【0040】
(比較例1)
市販無酸素銅を溶解鋳造し、実施例1と同様の方法でα線試料を作製した。Pb, U, Th含有量はそれぞれ1wtppm, <5wtppb, <5wtppbであった。
溶解鋳造直後からα線量の経時変化を調べた結果、α線量は、溶解鋳造直後は0.001cph/cm以下であったが徐々に増加した。これは溶解・鋳造工程でPoが蒸発したために一時的にα線量が低くなったが、Pbが1wtppm含有されているために、再び崩壊チェーンが構築されてα線量が増加したと考えられる。この結果、本願発明の目的を達成することはできなかった。
【0041】
(比較例2)
銅精錬工程における転炉で精製された後の粗銅(純度約99%)を原料アノードとし、硫酸銅溶液で隔膜を用いずに電解精製を行った。その結果Pb, U, Thの含有量が それぞれ0.2wtppm, <5wtppb, <wt5ppbであった。
溶解鋳造直後からα線量の経時変化を調べた結果、α線量は、溶解鋳造直後は0.001cph/cm以下であったが徐々に増加した。これは溶解・鋳造工程でPoが蒸発したために一時的にα線量が低くなったが、Pbが0.2wtppm含有されているために再び崩壊チェーンが構築されてα線量が増加したと考えられる。この結果、本願発明の目的を達成することはできなかった。
【0042】
(実施例2)
実施例1の方法で作製した銅インゴットを、線引き加工により直径25μmのワイヤとした。α線測定装置の試料トレイに敷き詰め、実施例1と同様の方法でα線を測定した結果、α線量は増加せず、安定して0.001cph/cm以下であった。以上から、この加工した銅ワイヤは、銅ボンディングワイヤとして、有効に利用できる。
【0043】
また、前記実施例1において製造したAl, Ag, B, Ba, Be, Bi, Ca, Ce, Co, Cr, Dy, Eu, Gd, Ge, In, Ir, La, Mg, Mo, Nd, Ni, P, Pd, Pt, Rh, Ru, Sb, Si, Sn, Sr, Y, Ti, Yb, Zn, Zrから選択される1種以上を数10〜数100wtppm添加した銅合金インゴットを用いて、線引き加工を行い、α線を測定した結果、α線量は増加せず、安定して0.001cph/cmが得られた。これは、銅合金の製造段階における慎重な成分調整が重要であり、ベース(基)となるCuを含め、銅合金に含まれるPb, U, Thの含有量を、それぞれ<0.01wtppm, <5wtppb, <5wtppbとすることにより達成できたものである。
【0044】
(比較例3)
比較例1及び比較例2の方法で作製した銅インゴットを線引き加工により直径25μmのワイヤとした。α線測定装置の試料トレイに敷き詰め測定した結果、α線量は、線引き加工直後は0.001cph/cm程度であったが、これが徐々に増加した。以上から、この加工した銅ワイヤは、銅ボンディングワイヤとして、有効な材料とは言えない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
上記の通り、本発明はα線の少ない材料に適応できる銅又は銅合金及び銅又は銅合金を原料とするボンディングワイヤを提供できるという優れた効果を有するので、半導体チップへのα線の影響を極力排除することができる。したがって、半導体装置のα線の影響によるソフトエラーの発生を著しく減少でき、銅又は銅合金配線、銅又は銅合金ボンディングワイヤ、はんだ材料などの銅又は銅合金を使用する箇所の材料として有用である。
図1
図2
図3
図4