【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、総務省、「超低消費電力光ノード実現に向けた超小型高速相変化光スイッチの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凹部が、幅が前記光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下の複数の凹部からなり、且つ、隣接する前記凹部の間隔が前記光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下である請求項5に記載の導波路型光ゲートスイッチ。
前記相変化材料部が、幅が前記光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下の複数の分割相変化材料膜要素からなり、且つ、隣接する前記分割相変化材料膜要素の間隔が前記光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下である請求項4に記載の導波路型光ゲートスイッチ。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信シムテムの進展に伴って光通信ネットワークが大容量化され、それに対応して様々な機能を有する光デバイスが開発されている。特に、光導波路を伝播する光信号の透過量を制御する光スイッチはキーデバイスとなる。
【0003】
例えば、このような光スイッチにおいて、小型化或いはスイッチ速度の高速化の観点から相変化材料を用いて光信号のON−OFFを行う相変化光スイッチが注目を集めている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、本発明者も相変化材料を用いた光スイッチを幾つか提案している(例えば、特許文献2または特許文献3参照)。例えば、相変化材料を用いた方向性結合器型光スイッチは、方向性結合部において互いに平行して延在する一対のコア層の間に相変化材料部を設けている。
【0005】
この構成では、相変化材料部に電流パルスを印加すること或いは制御光を照射することによって、結晶状態とアモルファス状態との間の相変化を行う。その結果、相変化材料の動作波長における複素屈折率(主に、実数部)が変化し、一対の導波路の屈折率の変化に伴って光結合量が変化して出力ポートが切り替わるので光スイッチとして動作する。なお、片方の入出力導波路に着目すれば光ゲートスイッチである。
【0006】
ここで、図
9を参照して、従来の導波路型光ゲートスイッチの一例を説明する。図
9は、従来の導波路型光ゲートスイッチの構成説明図であり、図
9(a)は、概略的透視平面図であり、図
9(b)は図
9(a)におけるB−B′を結ぶ一点鎖線に沿った概略的断面図である。
【0007】
図に示すように、石英基板61上に下部クラッド層62を介してストライプ状のSiO
2コア層63を設け、このSiO
2コア層63を上部クラッド層64で被覆する。SiO
2コア層63の直上近傍の上部クラッド層64に凹部を設け、この凹部にGST(Ge
2Sb
2Te
5)膜等の相変化材料膜65を配置する。
【0008】
この導波路型光ゲートスイッチにおいては、光パルスを相変化材料膜65に加えることによって結晶状態からアモルファス状態にあるいは、アモルファス状態から結晶状態に変化させる。その結果、相変化材料膜65の信号光波長における複素屈折率(主として虚数部)が変化し、光ゲートスイッチとして動作する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の導波路型光ゲートスイッチの構成では、相変化材料膜の温度を急激に下げることが困難であり、結晶状態からアモルファス状態への変化が起こりにくいという問題があり、これがスイッチング速度の高速化の障害になるという問題がある。特に、相変化材料の近傍に存在するSiO
2は熱伝導率が小さいので相変化材料の放熱を妨げることになる。
【0011】
図
10は、GST膜の冷却速度の膜厚依存性の説明図であり、図
10(a)はシミュレーションモデルであり、図
10(b)はシミュレーション結果である。図
10(a)に示すように、シミュレーションにおいては、幅800nmで長さが2000nmのGST膜71をSiO
2膜72で覆った状態で、GST膜71の膜厚を変化させた。なお、シミュレーションにおいては、GSTの熱伝導率を1.5W・m
−1・K
−1とし、比熱容量を250J・kg
−1・K
−1とし、初期値において、900Kに加熱したと仮定している。
【0012】
図
10(b)に示すように、GST膜の中心部の温度は膜厚が薄くなるほど急速に冷却して、例えば、20nmの膜厚の場合には3nsで100℃程度まで降温する。一方、図示はしていないものの、従来の相変化材料膜の膜厚である200nm程度では、アモルファス化に必要な10ns程度の時間での冷却は困難であった。
【0013】
したがって、ON状態を実現するためのアモルファス化を容易にするためには、相変化材料膜の膜厚を薄くすること、特に、100nm以下にすることが望ましいことが判明した。
【0014】
本発明は、相変化材料部の放熱効率を高めて、相変化材料部のアモルファス化を確実に且つ短時間で行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、
(1)本発明は、単結晶コア層と前記単結晶コア層を囲むクラッド層とからなる光導波路と、前記光導波路に設けられ、複素屈折率を変化させることによって前記光導波路を伝搬する光の透過量を変化させる相変化材料部とを有する導波路型光ゲートスイッチであって、前記相変化材料部を、少なくとも
一層当りの膜厚が100nm以下の相変化材料膜と、前記相変化材料膜より熱伝導率の高い別種材料膜とを交互に多層に積層して構成されるとともに、前記単結晶コア層の分断部に配置する。
【0016】
このように、相変化材料部を構成する相変化材料膜を多層で構成することで一層当たりの膜厚を薄くすることができ、且つ、相変化材料膜の間に熱伝導率の高い別種材料膜を設けることによって放熱効率を高くすることができる。それによって、制御光の照射によって溶融した相変化材料を急速に冷却してアモルファス化に要する時間、即ち、スイッチング時間を大幅に短縮することができる。
特に、一層当たり100nm以下にすることによって、上記の図12(b)に示したように、数nsでアモルファス化することが可能になる。
【0018】
(
2)また、本発明は、上記
(1)において、前記別種材料膜を、Au、Pt、Al、Al
2O
3、ダイヤモンド、BN、SiC、AlNのいずれかとする。別種材料膜は熱伝導率が良好な材料であれば良く、Au、Pt、Al等の金属、或いは、Al
2O
3、ダイヤモンド、BN、SiC、AlN等の誘電体を用いれば良い。特に、制御光に対して透明なAl
2O
3やダイヤモンド等が好適である。
【0019】
(
3)また、本発明は、上記(1)
または(2)において、前記相変化材料膜と前記別種材料膜との間に、SiO
2より硬度の低い保護膜を介在させる。このように、SiO
2より硬度の低い保護膜を介在させることによって、相変化材料膜の相変化に伴う体積変動が容易になるとともに、膜の剥離等が防止されるので長寿命化が可能になる。
【0020】
(
4)また、本発明は、単結晶コア層と前記単結晶コア層を囲むクラッド層とからなる光導波路と、前記光導波路に設けられ、複素屈折率を変化させることによって前記光導波路を伝搬する光の透過量を変化させる相変化材料部とを有する導波路型光ゲートスイッチであって、前記
相変化材料部を、100nm以下の膜厚の相変化材料膜からなるとともに、前記単結晶コア層上にSiO
2より硬度の低い保護膜を介して積層する。
【0021】
このように、相変化材料部を、100nm以下の膜厚の相変化材料膜から構成するとともに熱伝導率の良好な単結晶コア層上に積層することによって、放熱効率を高めることができる。また、SiO
2より硬度の低い保護膜を介して積層することによって、相変化に伴う体積変動を容易にすることができる。
【0022】
(
5)また、本発明は、上記(
4)において、前記相変化材料部の少なくとも一部を前記単結晶コア層の一部に設けた凹部に埋め込む。このように、
相変化材料部を埋込構造にすることによって、ゲート透過状態における有効屈折率の積層導波路部とSi導波路部の不一致が小さくなり損失の低い光ゲートスイッチを構成することができる。
【0023】
(
6)また、本発明は、上記(
5)において、前記凹部を、幅が前記光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下の複数の凹部とし、且つ、隣接する前記凹部の間隔を前記光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下とする。このように、伝搬光の波長の1/2以下の微細な凹凸構造にすることによって、相変化材料部の構造が伝搬光から見えなくなるので、相変化材料部の構造が光の伝搬に与える影響を小さくすることができる。
【0024】
(
7)また、本発明は、上記(
4)において、前記相変化材料部を、幅が前記光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下の複数の分割相変化材料膜要素とし、且つ、隣接する前記分割相変化材料膜要素の間隔を前記光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下とする。
【0025】
このように、伝搬光の波長の1/2以下の微細な分割相変化材料膜要素の集合体とすることによって、相変化材料部の構造が伝搬光から見えなくなるので、相変化材料部の構造が光の伝搬に与える影響を小さくすることができる。また、各分割相変化材料膜要素は微細であるので、表面積の占める比率が高まり、熱が滞留することが少なくなるので急速冷却が容易になる。
【0026】
(
8)また、本発明は、上記(
4)において、前記単結晶コア層の一部が多モード干渉型1×1結合器を構成するとともに、前記相変化材料部を、前記多モード干渉型1×1結合器上に積層する。
【0027】
多モード干渉型1×1結合器に入力された信号光は、多モード干渉型1×1結合器中で一度集光し、再び出力導波路に結合する箇所で集光するので、相変化材料部を集光する箇所に設けることによって、相変化材料部の寸法を小さくすることができる。さらに、下部の多モード干渉型1×1結合器の幅が単結晶コア層の幅より太くなっているので、熱容量が増加し、放熱特性が改善されて冷却効率が高まる。
【発明の効果】
【0033】
開示の導波路型光ゲートスイッチによれば、相変化材料部の放熱効率を高めているので、相変化材料膜のアモルファス化を確実に且つ短時間で行うことができ、それによって、光信号をON−OFFするスイッチング速度を向上することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
ここで、
図1を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の実施の形態の導波路型光ゲートスイッチの概念的構成図であり、
図1(a)は相変化材料部を単結晶コア層の分断部に設けた場合の概略的断面図である。また、
図1(b)は相変化材料部を単結晶コア層の直上に設けた場合の概略的断面図である。
【0036】
図1(a)に示すように基板1上に設けた下部クラッド層2と上部クラッド層4との間にストライプ状の単結晶コア層3を設けて光導波路を構成するとともに、単結晶コア層3の分断部に相変化材料部5を設けて光ゲート部を構成する。
【0037】
この相変化材料部5は、複数の相変化材料膜6と相変化材料膜6より熱伝導率の高い別種材料膜7とを交互に多層に積層して形成する。また、相変化材料膜6と別種材料膜7との間には、SiO
2より硬度の低い保護膜8を介在させる。なお、図においては、相変化材料膜6を二層にしているが、三層以上にしても良い。
【0038】
この場合の光導波路を構成する単結晶コア層3としては、Si、SiGe、InP、GaAs、InGaAsP、InAlAs、InGaAs、GaN、GaNAs等の半導体単結晶が望ましい。材料の選択に際して、光信号の波長帯における吸収率の低い材料を選択する必要があり、例えば、1.3μm〜1.55μm帯においてはSi或いはInGaAsPが望ましい。
【0039】
また、光導波路を構成する基板構造としては、単結晶コア層3を構成するために、基板貼り合わせ技術或いはラテラルシーディング法によって形成したSOI(Sbmiconductor on Insulator)基板や、熱伝導率の高いサファイア基板を用いたSOS(Silicon on Sapphire)基板を用いることが望ましい。
【0040】
また、相変化材料膜6は、α−Si、α−Ge、α−GaSb、α−GaAs、α−Sb等のテトラヘドラル系材料、Ge−Sb−Te系カルコゲナイド系材料、Sb−Te系カルコゲナイト材料、AsSe
3或いはAsS
3等のカルコゲナイド材料、NiO、HfO
2、ZrO
2、或いは、ZnO等の遷移金属酸化物材料等の相変化型光ディスク等で実績のある材料が望ましい。特に、相変化に伴う光吸収率の変化の大きなGe
2−Sb
2−Te
5或いはGe
6−Sb
2−Te
9等のGe−Sb−Te系カルコゲナイド系材料が望ましい。
【0041】
また、保護膜としては、相変化に伴う体積変化を容易にするために、SiO
2より柔らかいSiO
2にZnSを添加したSiO
2−ZnS混合膜が望ましい。SiO
2−ZnS混合膜は、相変化材料膜6を構成する材料の拡散(マイグレーション)を防止する作用も有している。
【0042】
また、別種材料膜7は、熱伝導率が良好な材料であれば良く、Au、Pt、Al等の金属、或いは、Al
2O
3、ダイヤモンド、BN、SiC、AlN等の誘電体を用いれば良い。特に、制御光に対して透明なAl
2O
3やダイヤモンド等が好適である。このような別種材料膜7を相変化材料膜6に隣接させることによって、相変化材料膜6の熱を急速に排出して短時間でアモルファス化することが容易になる。
【0043】
この相変化手段6にレンズ9を介して制御光を照射することによって、相変化材料膜6の複素屈折率を変化させることによって、相変化材料部5の相を変化させる。急激な温度の上昇による溶融と急冷により光吸収係数の小さなアモルファス状態となり、溶融しない程度の相対的にゆっくりとした温度上昇と徐冷によって光吸収係数の大きな結晶状態となる。この時、複素屈折率の主に実数部の変化による屈折率変化ではなく、複素屈折率の主に虚数部の変化による光吸収係数の変化により単結晶コア層3を伝播する光信号の消光比を高速に制御する。
【0044】
なお、消光比は相変化材料部5の長さに依存するものである(必要ならば、特願2009−182141参照)。相変化材料膜6として相変化に伴う光吸収率の変化の大きなGe
2−Sb
2−Te
5を用いた場合には、相変化材料部5の長さを1.0μm以上にすることで、消光比を−30dB以下にすることができる。
【0045】
或いは、
図1(b)に示すように基板1上に設けた下部クラッド層2と上部クラッド層4との間にストライプ状の単結晶コア層3を設けて光導波路を構成するとともに、単結晶コア層3の直上近傍に相変化材料部11を設けて光ゲート部を構成する。
【0046】
この相変化材料部11は、厚さが100nm以下の相変化材料膜12をSiO
2より硬度の低い保護膜13で覆って形成する。この場合の単結晶コア層3、相変化材料膜12及び保護膜13の材料は、
図1(a)に示した導波路型光ゲートスイッチの場合と同様の材料を用いる。なお、下限の厚さは、10nmが望ましい。
【0047】
このように、相変化材料部11を単結晶コア層3の直上近傍に設ける場合には、単結晶コア層3の一部に凹部を設けて埋め込んでも良い。相変化材料部11を埋込構造にすることによって、ゲート透過状態における有効屈折率の積層導波路部とSi導波路部の不一致が小さくなり損失の低い光ゲートスイッチを構成することができる。
【0048】
また、この凹部を幅が光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下で相互の間隔が光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下の複数の微小凹部で構成することにより、相変化材料部11の構造が伝搬光から見えなくなるので、相変化材料部11の構造が光の伝搬に与える影響を小さくすることができる。
【0049】
或いは、相変化材料部11を、幅が光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下で相互の間隔が光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下の複数の分割相変化材料膜要素で構成しても良い。この場合も、相変化材料部11の構造が伝搬光から見えなくなるので、相変化材料部11の構造が光の伝搬に与える影響を小さくすることができる。また、各分割相変化材料膜要素は微細であるので、表面積の占める比率が高まり、熱が滞留することが少なくなるので急速冷却が容易になる。
【0050】
或いは、単結晶コア層3の一部に多モード干渉型1×1結合器を設け、相変化材料部11多モード干渉型1×1結合器上に積層しても良い。この場合には、相変化材料部11の寸法を小さくすることができるとともに、放熱特性が改善されて冷却効率が高まる。
【0051】
或いは、2本の伝搬用単結晶コア層と、前記2本の伝搬用単結晶コア層との間を光結合する結合用単結晶コア層とを設け、結合用単結晶コア層上に相変化材料膜を積層して導波路型光ゲートスイッチを構成しても良い。特に、相変化材料膜は、100nm以下且つ10nm以上の膜厚とし、SiO
2より硬度の低い保護膜を介して積層することが望ましい。
【実施例1】
【0052】
以上を前提として、次に、
図2及び
図3を参照して本発明の実施例1の導波路型光ゲートスイッチを説明する。
図2は本発明の実施例1の導波路型光ゲートスイッチの構成説明図であり、
図2(a)は概略的透視平面図であり、また、
図2(b)は
図2(a)におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った概略的断面図である。
【0053】
図に示すようにSOI基板を用いて、シリコン基板21上に形成した厚さが、150nm〜200nmのSiO
2膜を下部クラッド層22とし、その上に形成した単結晶シリコン層をストライプ状にエッチングして例えば、幅が450nmで高さが220nmの単結晶シリコンコア層23を形成する。この時、単結晶シリコンコア層23に例えば、長さが2μmの分断部を形成しておき、この分断部に相変化材料部25を埋め込む。次いで、厚さが、150nm〜200nmのSiO
2膜を堆積させて上部クラッド層24とする。
【0054】
図3は本発明の導波路型光ゲートスイッチの相変化材料部の概略的断面図であり、単結晶シリコンコア層23に形成した分断部にメタルマスクを用いたマスクスパッタリング法を用いて相変化材料部25を形成する。厚さが、例えば、20nmのAl
2O
3膜27及び厚さが、例えば、50nmのGe
2−Sb
2−Te
5組成のGST膜28を例えば、厚さが10nmのSiO
2−ZnS混合膜からなる保護膜26を介して交互に積層する。最後に、メタルマスクをサイズの大きなものに交換してSiO
2−ZnS混合膜からなる埋込保護膜29を形成する。
【0055】
この場合の単結晶シリコンコア層23とGST膜28との間隔は、例えば、50nm〜100nm程度とする。また、図では、埋込保護膜29の表面を平坦に図示しているが、SiO
2−ZnS混合膜とSiO
2の屈折率差はあまりないので、この埋込保護膜29は上部クラッド層として機能するので、平坦にする必要はない。
【0056】
次に、本発明の実施例1の導波路型光ゲートスイッチの定性的な動作を説明する。相変化材料膜であるGST膜28が始めに結晶状態にあると仮定する。結晶状態では吸収係数が大きいため、光導波路を伝搬する波長1500nmの信号光のほとんどは相変化材料部25で吸収されて透過しない。
【0057】
ここで、パルス幅が10ns程度の高強度、例えば、100mW程度の制御光パルスを基板上面からレンズで集光して相変化材料部25に照射にすると、GST膜28は急激に温度が上昇し融点を超えて溶けるが、膜厚が薄いことと、熱伝導性に優れるAl
2O
3膜27の作用により急速に冷却されてアモルファス状態に相変化する。アモルファス状態のGST膜28の吸収係数は小さいため、光導波路を伝搬する信号光はGST膜28でほとんど吸収されず透過する。
【0058】
なお、制御光の波長は、相変化材料の状態にかかわらず相変化材料が吸収できる波長であれば良いが、ここでは、入手が容易なレーザの発光波長である650nmとする。溶融された後の冷却速度が遅いと、アモルファス状態に相変化できない。レンズ(
図1に示したレンズ9と同様)は、集光ビームスポット形状を相変化材料部25の形状に合わせて吸収効率を高める。
【0059】
本発明の実施例1においては、GST膜28の膜厚を100nm以下の50nmにしているので、ナノ秒オーダで光吸収領域の急速冷却が可能になる。また、高い消光比でのゲート動作には、相変化材料体積を増やす必要があるのでここでは、二層のGST膜28を用いて多層化している。
【0060】
一方、アモルファス化したGST膜28にパルス幅が100ns程度の低強度の、例えば、30mW程度の制御光パルスを照射すると、GST膜28の温度は上昇し、結晶化温度よりも高くなるが融点は超えない。長いパルスで比較的ゆっくりと冷却されるとGST膜28は再び結晶状態に変化する。
【実施例2】
【0061】
次に、
図4を参照して本発明の実施例2の導波路型光ゲートスイッチを説明する。
図4は、本発明の実施例2の導波路型光ゲートスイッチの構成説明図であり、
図4(a)は概略的透視平面図であり、
図4(b)は
図4(a)におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った概略的断面図である。この実施例2の基本的な光導波路は上記の実施例1と同様である。
【0062】
この実施例2の導波路型光ゲートスイッチにおいては、単結晶シリコンコア層23の直上に、厚さが、例えば、20nmのSiO
2−ZnS混合膜からなる保護膜31を介して長さが例えば2μmで厚さが100nm以下、例えば、50nmのGe
2−Sb
2−Te
5組成のGST膜32をマスクスパッタリング法で堆積し、その表面をSiO
2−ZnS混合膜からなる保護膜33で被覆して相変化材料部30を形成する。次いで、厚さが、150nm〜200nmのSiO
2膜を堆積させて上部クラッド層24とする。なお、ここでは、屈折率変化が連続的に変化するように、GST膜32の両端をテーパ状にしている。
【0063】
この実施例2においては、単結晶シリコンコア層23の直上に相変化材料部30を設けるだけであるので、製造が容易になる。また、単結晶シリコンコア層23を形成するSiは熱伝導率が高いので、実施例1のようにAl
2O
3等からなる別種材料膜を設ける必要がないので構成も簡素化される。なお、スイッチの動作は実施例1と同様である。
【実施例3】
【0064】
次に、
図5を参照して本発明の実施例3の導波路型光ゲートスイッチを説明する。
図5は、本発明の実施例3の導波路型光ゲートスイッチの構成説明図であり、
図5(a)は概略的透視平面図であり、
図5(b)は
図5(a)におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った概略的断面図である。この実施例3の基本的な光導波路は上記の実施例1と同様である。
【0065】
この実施例3の導波路型光ゲートスイッチにおいては、単結晶シリコンコア層23の表面に例えば、長さが2μmで深さが50nmの凹部を形成する。この凹部にマスクスパッタリング法を用いて、厚さが、例えば、20nmのSiO
2−ZnS混合膜からなる保護膜35を介して厚さが100nm以下、例えば、50nmのGe
2−Sb
2−Te
5組成のGST膜36を堆積させ、その表面をSiO
2−ZnS混合膜からなる保護膜37で被覆して相変化材料部34を形成する。次いで、厚さが、150nm〜200nmのSiO
2膜を堆積させて上部クラッド層24とする。
【0066】
この実施例3においては、単結晶シリコンコア層23に設けた凹部に相変化材料部34を埋め込んでいるので、ゲート透過状態における有効屈折率の積層導波路部とSi導波路部の不一致が小さくなり損失の低い光ゲートスイッチを構成することができる。
【実施例4】
【0067】
次に、
図6を参照して本発明の実施例4の導波路型光ゲートスイッチを説明する。
図6は、本発明の実施例4の導波路型光ゲートスイッチの構成説明図であり、
図6(a)は概略的透視平面図であり、
図6(b)は
図6(a)におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った概略的断面図である。この実施例4の基本的な光導波路は上記の実施例1と同様である。
【0068】
この実施例4の導波路型光ゲートスイッチにおいては、単結晶シリコンコア層23の表面に例えば、長さが70nmで深さが50nmの溝38を例えば、30nmの間隔で形成する。この溝38内にマスクスパッタリング法を用いて、厚さが、例えば、10nmのSiO
2−ZnS混合膜からなる保護膜40を介して厚さが100nm以下、例えば、50nmのGe
2−Sb
2−Te
5組成のGST膜41を堆積させ、その表面をSiO
2−ZnS混合膜からなる保護膜42で被覆して相変化材料部39を形成する。次いで、厚さが、150nm〜200nmのSiO
2膜を堆積させて上部クラッド層24とする。
【0069】
この実施例4においては、単結晶シリコンコア層23に設けた周期的な溝38にGST膜41を埋め込んで相変化材料部39としているので、上記の実施例3に比べてGST膜41の体積が小さくなり冷却が容易になる。
【0070】
また、この場合のGST膜41としての構造は幅50nmの微細構造が50nmの間隔で周期的には配置された構造となり、幅及び間隔が光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下となるので、相変化材料部39の構造が伝搬光から見えなくなり、相変化材料部39の構造が光の伝搬に与える影響を小さくすることができる。
【実施例5】
【0071】
次に、
図7を参照して本発明の実施例5の導波路型光ゲートスイッチを説明する。
図7は、本発明の実施例5の導波路型光ゲートスイッチの構成説明図であり、
図7(a)は概略的透視平面図であり、
図7(b)は
図7(a)におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った概略的断面図である。この実施例5の基本的な光導波路は上記の実施例1と同様である。
【0072】
この実施例5の導波路型光ゲートスイッチにおいては、単結晶シリコンコア層23の直上に、厚さが、例えば、20nmのSiO
2−ZnS混合膜からなる保護膜44を介して導波路伝搬方向の長さが、例えば、50nm、導波路伝搬垂直方向の長さが、例えば、1000nm、厚さが100nm以下、例えば、50nmのGe
2−Sb
2−Te
5組成のGST膜45を例えば50nmの間隔でマスクスパッタリング法で堆積し、その表面をSiO
2−ZnS混合膜からなる保護膜46で被覆して相変化材料部43を形成する。次いで、厚さが、150nm〜200nmのSiO
2膜を堆積させて上部クラッド層24とする。なお、相変化材料部43全体の導波路伝搬方向の長さは例えば、2μmとする。
【0073】
この実施例5においては、微細構造のGST膜45を堆積するだけであるので、製造が容易になるとともに、体積が小さくなるので冷却が容易になる。また、この場合も、GST膜45の幅及び間隔が光導波路を伝搬する光の波長の1/2以下となるので、相変化材料部43の構造が伝搬光から見えなくなり、相変化材料部43の構造が光の伝搬に与える影響を小さくすることができる。
【実施例6】
【0074】
次に、
図8を参照して本発明の実施例6の導波路型光ゲートスイッチを説明する。
図8は、本発明の実施例6の導波路型光ゲートスイッチの構成説明図であり、
図8(a)は概略的透視平面図であり、
図8(b)は
図8(a)におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った概略的断面図である。この実施例6は、単結晶シリコンコア層の一部に多モード干渉型1×1結合器を設けたもので、その他の基本的な構成は上記の実施例2と同様である。
【0075】
この実施例6の導波路型光ゲートスイッチにおいては、単結晶シリコンコア層23の一部に設けた幅が例えば、4.0μmの多モード干渉型1×1結合器47の直上に、厚さが、例えば、20nmのSiO
2−ZnS混合膜からなる保護膜49を介して長さが例えば2μmで厚さが100nm以下、例えば、30nmのGe
2−Sb
2−Te
5組成のGST膜50をマスクスパッタリング法で堆積し、その表面をSiO
2−ZnS混合膜からなる保護膜51で被覆して相変化材料部48を形成する。次いで、厚さが、150nm〜200nmのSiO
2膜を堆積させて上部クラッド層24とする。
【0076】
この実施例6においては、多モード干渉型1×1結合器47中で周期的に導波光が集光する特性を利用している。即ち、多モード干渉型1×1結合器47に入力された信号光は、多モード干渉型1×1結合器47中で一度集光し、再び出力導波路に結合する箇所で集光する。相変化材料部47は、集光する箇所に設けられるのでその寸法を小さくすることができる。
【0077】
さらに、多モード干渉型1×1結合器47は単結晶シリコンコア層23の幅より太くなっているので熱容量が増加し、放熱特性が改善されて冷却効率が高まる。スイッチの動作は実施例1と同様である。