特許第5691138号(P5691138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5691138
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】電界効果トランジスタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20150312BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20150312BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   H01L29/80 H
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2009-108571(P2009-108571)
(22)【出願日】2009年4月28日
(65)【公開番号】特開2010-258313(P2010-258313A)
(43)【公開日】2010年11月11日
【審査請求日】2012年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大巻 雄治
【審査官】 早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−201279(JP,A)
【文献】 特表2009−503815(JP,A)
【文献】 特開2005−277047(JP,A)
【文献】 特開2005−244072(JP,A)
【文献】 特開2007−067240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/337−21/338
H01L 27/095−27/098
H01L 29/775−29/778
H01L 29/80−29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1窒化物半導体層と、
前記第1窒化物半導体層の上に設けられ、前記第1窒化物半導体層よりもバンドギャップエネルギーが大きいAl含有窒化物半導体を含む第2窒化物半導体層と、
前記第2窒化物半導体層の上に設けられたゲートコンタクト層と、を備える電界効果トランジスタであって、
前記第2窒化物半導体層の上の一部に、Al含有窒化物半導体からなる第3窒化物半導体層が設けられ、前記第3窒化物半導体層の上に前記ゲートコンタクト層が設けられており、
前記ゲートコンタクト層の表面にゲート電極が設けられ、前記ゲートコンタクト層及び前記第3窒化物半導体層を挟んでソース電極とドレイン電極が設けられており、
前記第2窒化物半導体層は、前記第1窒化物半導体層側に設けられたAlGa1−aN(0<a≦1)からなる第1層と、前記第3窒化物半導体層側に設けられたAlGa1−bN(0≦b<1、b<a)又はInGaNからなる第2層と、から構成され、前記第2層は前記ゲートコンタクト層の直下のみに設けられており、
前記第3窒化物半導体層は前記第2窒化物半導体層の前記第3窒化物半導体層側よりもAl組成比が大きいAl含有窒化物半導体からなる電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記第2層がAlGa1−bN(0<b<1、b<a)であり、前記第3窒化物半導体層はAlGa1−cN(0<c≦1、c>b)である請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項3】
第1窒化物半導体層と、
前記第1窒化物半導体層の上に設けられ、前記第1窒化物半導体層よりもバンドギャップエネルギーが大きいAl含有窒化物半導体を含む第2窒化物半導体層と、
前記第2窒化物半導体層の上に設けられたゲートコンタクト層と、を備える電界効果トランジスタであって、
前記第2窒化物半導体層の上の一部に、Al含有窒化物半導体からなる第3窒化物半導体層が設けられ、前記第3窒化物半導体層の上に前記ゲートコンタクト層が設けられており、
前記ゲートコンタクト層の表面にゲート電極が設けられ、前記ゲートコンタクト層及び前記第3窒化物半導体層を挟んでソース電極とドレイン電極が設けられており、
前記第2窒化物半導体層は、前記第1窒化物半導体層側がAlGa1−aN(0<a≦1)、前記第3窒化物半導体層側がAlGa1−bN(0≦b<1、b<a)であって、且つ、前記第1窒化物半導体層側から遠ざかるに従ってAl組成比が減少する組成傾斜層からなり、前記第2窒化物半導体層は、前記ソース電極及び前記ドレイン電極が設けられた領域の膜厚が、前記ゲート電極が設けられた領域の膜厚よりも小さく、
前記第3窒化物半導体層は前記第2窒化物半導体層の前記第3窒化物半導体層側よりもAl組成比が大きいAl含有窒化物半導体からなる電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記第2窒化物半導体層は前記第3窒化物半導体層側がAlGa1−bN(0<b<1、b<a)であり、前記第3窒化物半導体層はAlGa1−cN(0<c≦1、c>b)である請求項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記第3窒化物半導体層はAlGa1−cN(0<c≦1、b<c<a)からなる請求項2又は4に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項6】
前記ゲートコンタクト層はInGaN又はGaNである請求項1〜5のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項7】
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は前記第2窒化物半導体層に設けられている請求項1〜6のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項8】
第1窒化物半導体層と、前記第1窒化物半導体層よりもバンドギャップエネルギーの大きいAl含有窒化物半導体を含む第2窒化物半導体層と、ゲートコンタクト層と、を順に積層する半導体層積層工程と、
ゲート電極形成領域を残して前記ゲートコンタクト層を除去する半導体層除去工程と、を有し、
前記ゲートコンタクト層にゲート電極が形成され、前記ゲートコンタクト層を挟んでソース電極とドレイン電極が形成された電界効果トランジスタの製造方法であって、
前記半導体層積層工程において、前記第2窒化物半導体層として、前記第1窒化物半導体層側にAlGa1−aN(0<a≦1)からなる第1層を形成し、前記第1層の上にAlGa1−bN(0≦b<1、b<a)又はInGaNからなる第2層を形成し、さらに、前記第2層の上に、前記第2層よりもAl組成比が大きいAl含有窒化物半導体からなる第3窒化物半導体層を形成し、
前記半導体層除去工程において、前記第3窒化物半導体層をエッチングストップ層として第1エッチングにより前記ゲートコンタクト層を除去した後、前記第1エッチングと異なる第2エッチングにより前記第3窒化物半導体層及び前記第2層を除去して前記第1エッチングによるダメージ層を除去し、前記第1層を露出させる電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項9】
第1窒化物半導体層と、前記第1窒化物半導体層よりもバンドギャップエネルギーの大きいAl含有窒化物半導体を含む第2窒化物半導体層と、ゲートコンタクト層と、を順に積層する半導体層積層工程と、
ゲート電極形成領域を残して前記ゲートコンタクト層を除去する半導体層除去工程と、を有し、
前記ゲートコンタクト層にゲート電極が形成され、前記ゲートコンタクト層を挟んでソース電極とドレイン電極が形成された電界効果トランジスタの製造方法であって、
前記半導体層積層工程において、前記第2窒化物半導体層として、前記第1窒化物半導体層側である下面側がAlGa1−aN(0<a≦1)であり、前記第1窒化物半導体層と対向する側である上面側がAlGa1−bN(0≦b<1、b<a)であって、前記第1窒化物半導体層側から遠ざかるに従ってAl組成比が減少する組成傾斜層を形成し、前記第2窒化物半導体層の上に、前記第2窒化物半導体層の上面側よりもAl組成比が大きいAl含有窒化物半導体からなる第3窒化物半導体層を形成し、
前記半導体層除去工程において、前記第3窒化物半導体層をエッチングストップ層として第1エッチングにより前記ゲートコンタクト層を除去した後、前記第1エッチングと異なる第2エッチングにより前記第3窒化物半導体層及び前記第2窒化物半導体層の一部を除去して前記第1エッチングによるダメージ層を除去し、前記第2窒化物半導体層の、前記ソース電極及び前記ドレイン電極が設けられる領域の膜厚を、前記ゲート電極が設けられる領域の膜厚よりも小さくする電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項10】
前記第1エッチング及び前記第2エッチングはドライエッチングであり、
前記第2エッチングは前記第1エッチングよりも低出力で行う請求項8又は9に記載の電界効果トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタに関し、特に窒化物半導体を用いたノーマリオフ型の電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
GaNを用いた半導体素子は、ワイドギャップ半導体で飽和電子速度も大きい。このため、従来のSi系やGaAs系素子と比べて、高温動作、高出力動作、高速動作が可能であり、ミリ波やパワーエレクトロニクス分野での応用が期待されている。特にオン抵抗はSi系デバイスにくらべ2桁以上低減することが可能であるため、インバータやコンバータなどのスイッチング装置の損失を大幅に低減することが可能である。このようなGaN系電界効果トランジスタ(FET:Field effect Transistor)は通常、ゲート電極に電圧を印加しない状態では、ソース電極とドレイン電極の間に電流が流れるノーマリオン型であり、故障時の安全性を確保するためには別途保護回路を設ける必要がある。一方、ノーマリオフ型であればゲート電圧を印加しない状態ではソース電極とドレイン電極の間に電流が流れないので、安全性の観点から望ましく、保護回路を設ける必要もない。
【0003】
ノーマリオフ型のFETを得るためには、いくつかの方法が提案されており、例えば、ゲート電極の下にp型層やInGaN層を設ける構造が提案されている(特許文献1〜6参照)。例えば、AlGaN/GaNヘテロ構造でゲート電極の下にp型GaN層を設けた構造の場合は、最大で閾値電圧をpn内部電位(およそ3V)まで引き上げることができる。閾値電圧値は、障壁層であるAlGaN層の組成比と膜厚の調整によって調整可能である。
【0004】
AlGaN層のAl組成比を変化させる構造が提案されており(特許文献7及び8参照)、特にゲート電極下にp型層などの介在層を設ける場合には、Alの組成比が大きい層を設けてエッチングストップ層とする構造が提案されている(特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−261053
【特許文献2】特開2003−209124
【特許文献3】特開2002−16087
【特許文献4】特開2005−244072
【特許文献5】特開2007−109830
【特許文献6】特開2008−91394
【特許文献7】特開2000−252458
【特許文献8】特開2003−151996
【特許文献9】特開2007−201279
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゲート電極下にp型GaN層などの介在層を設けた従来のFETにおいて、AlGaN層の内部障壁を小さくする、すなわち組成比または膜厚を減少させると閾値電圧は上昇するが、低抵抗化のためp型GaN層を除去したゲート電極部以外の部分ではキャリア濃度の減少により高抵抗化してしまう。このように閾値電圧と抵抗はトレードオフの関係にあり、閾値電圧をパワー用途で扱いやすい2V以上に高めようとすると、抵抗は急激に増加していく、といった問題点がある。
【0007】
また、ゲート電極下以外のp型GaN層を除去するために例えばAl組成比の大きいAlGaN層をエッチングストップ層として選択エッチングを行うが、エッチングストップ層にはエッチングダメージが蓄積されると考えられ、選択エッチングの後、エッチングガスを変更してエッチングストップ層として用いたAlGaN層の表面を除去することで、キャリア濃度増加及び移動度向上がみられる。
【0008】
しかし、図7に示すように、AlGaN層の膜厚を薄くすると、それに伴って界面準位濃度が減少してしまい、キャリア濃度も減少してしまう。図7は、AlGaN層の膜厚lに対するバンド図とキャリア濃度Nsの変化を示す図である。AlGaN層が一定のAl組成比の単層である場合、エッチング前後で界面準位分布が変わらないと仮定すれば、深くエッチングすればするほどフェルミ準位より高エネルギーの正に帯電した界面準位が減っていく。これに伴って、補償電荷であるGaN層のキャリア濃度も減少していき、移動度低下や高抵抗化を引き起こす。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電界効果トランジスタは、第1窒化物半導体層と、前記第1窒化物半導体層の上に設けられ、前記第1窒化物半導体層よりもバンドギャップエネルギーが大きいAl含有窒化物半導体を含む第2窒化物半導体層と、前記第2窒化物半導体層の上に設けられたゲートコンタクト層と、を備える電界効果トランジスタであって、前記第2窒化物半導体層の上の一部に、Al含有窒化物半導体からなる第3窒化物半導体層が設けられ、前記第3窒化物半導体層の上にゲートコンタクト層が設けられており、前記ゲートコンタクト層の表面にゲート電極が設けられ、前記ゲートコンタクト層及び前記前記第3窒化物半導体層を挟んでソース電極とドレイン電極が設けられており、前記第2窒化物半導体層は、前記第1窒化物半導体層側がAlGa1−aN(0<a≦1)、前記第3窒化物半導体層側がAlGa1−bN(0≦b<1、b<a)又はInGaNであり、前記第3窒化物半導体層は前記第2窒化物半導体層の前記第3窒化物半導体層側よりもAl組成比が大きいAl含有窒化物半導体からなる。
【0010】
本発明の電界効果トランジスタには以下の構成を組み合わせることができる。
前記第2窒化物半導体層は、前記第1窒化物半導体層側に設けられたAlGa1−aN(0<a≦1)からなる第1層と、前記第3窒化物半導体層側に設けられたAlGa1−bN(0≦b<1、b<a)又はInGaNからなる第2層と、から構成される。
また、前記第2窒化物半導体層は、前記第1窒化物半導体層側から遠ざかるに従ってAl組成比が減少する組成傾斜層からなる。
前記第2窒化物半導体層は前記第3窒化物半導体層側がAlGa1−bN(0<b<1、b<a)であり、前記第3窒化物半導体層はAlGa1−cN(0<c≦1、c>b)である。
また、前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、前記第3窒化物半導体層に設けられており、前記第3窒化物半導体層は、前記ソース電極及び前記ドレイン電極が設けられた領域の膜厚が、前記ゲート電極の設けられた領域の膜厚よりも小さくすることができる。
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は前記第2半導体層に設けられていてもよい。
さらに、前記第窒化物半導体層はAlGa1−cN(0<c≦1、b<c<a)からなる。前記ゲートコンタクト層はInGaN又はGaNである。
【0011】
本発明の電界効果トランジスタの製造方法は、第1窒化物半導体層と、前記第1窒化物半導体層よりもバンドギャップエネルギーの大きいAl含有窒化物半導体を含む第2窒化物半導体層と、ゲートコンタクト層と、を順に積層する半導体層積層工程と、ゲート電極形成領域を残して前記ゲートコンタクト層を除去する半導体層除去工程と、を有し、前記ゲートコンタクト層にゲート電極が形成され、前記ゲートコンタクト層を挟んでソース電極とドレイン電極が形成された電界効果トランジスタの製造方法であって、前記半導体層積層工程において、前記第2窒化物半導体層として、前記第1窒化物半導体層側がAlGa1−aN(0<a≦1)であり、前記第1窒化物半導体層と対向する側がAlGa1−bN(0≦b<1、b<a)又はInGaNである窒化物半導体層を形成し、前記第2窒化物半導体層の上に、前記第2窒化物半導体層の前記第1窒化物半導体層と対向する側よりもAl組成比が大きいAl含有窒化物半導体からなる第3窒化物半導体層を形成し、前記半導体層除去工程において、前記第3窒化物半導体層をエッチングストップ層として第1エッチングにより前記ゲートコンタクト層を除去した後、前記第1エッチングと異なる第2エッチングにより前記第3窒化物半導体層を除去して前記第1エッチングによるダメージ層を除去する。
【0012】
また、前記第2エッチングは前記第1エッチングよりも低出力で行う。前記第2エッチングにより、前記第3窒化物半導体層の少なくとも一部を除去する。
前記第2窒化物半導体層は、前記第1窒化物半導体層側に設けられたAlGa1−aN(0<a≦1)からなる第1層と、前記第3窒化物半導体層側に設けられたAlGa1−bN(0≦b<1、b<a)又はInGaNからなる第2層と、から構成され、前記第2エッチングにより、前記第2層の少なくとも一部を除去してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のFETによれば、高キャリア濃度、高移動度、低抵抗のトランジスタが実現できる。また、所望のキャリア濃度のFETを精度よく作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は一実施形態のFETを示す断面模式図である。
図2図2図1に示すFETの製造方法を説明するための断面模式図である。
図3図3図1に示すFETにおける第2窒化物半導体層及び第3窒化物半導体層の膜厚に対するバンド図とキャリア濃度の変化を示す図である。
図4図4は実施例1のHEMTを示す断面模式図である。
図5図5は参考例1のHEMTにおけるRIE処理時間と移動度及びキャリア濃度の関係を示すグラフである。
図6図6は実施例2のHEMTにおけるRIE処理時間と移動度及びキャリア濃度の関係を示すグラフである。
図7図7は従来技術のAlGaN層膜厚に対するバンド図とキャリア濃度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に、本発明の一実施の形態に係るFETとして、高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)を構成した例を示す。この図に示すHEMT10は、基板18の上に、第1窒化物半導体層11と、その上に順に形成された第2窒化物半導体層12と、第3窒化物半導体層13と、ゲートコンタクト層14と、第2窒化物半導体層12の表面に形成されたソース電極15、ドレイン電極16と、ゲートコンタクト層14の表面に形成されたゲート電極17を備える。この構造のHEMT10においては、第1窒化物半導体層11と第2窒化物半導体層12との界面近傍の第1窒化物半導体層11においてチャネルが形成され、このチャネルにおいて電子などのキャリアが高移動度で走行できる。第2窒化物半導体層12は第1層101と第2層102を含む。
【0016】
(第1窒化物半導体層11)
第1窒化物半導体層11は、アンドープの層とすることが好ましい。なお、本明細書においてアンドープとは、形成時に意図的に不純物を添加しないものをいう。図1の例では、第1窒化物半導体層11としてアンドープのGaN層、第1層101としてアンドープのAlGa1−aN層(0<a≦1)を採用している。また、この例のFETは電子をキャリアとするユニポーラ素子のHEMTであるが、ホールをキャリアとする場合には、各層の不純物や導電型を逆転させる。
【0017】
(第2窒化物半導体層12)
第1窒化物半導体層11上に結晶成長される第2窒化物半導体層12は、その第1窒化物半導体層11側が第1窒化物半導体層11よりもバンドギャップエネルギーの大きなAl含有窒化物半導体で構成される。この第2窒化物半導体層12は、アンドープの層とすることが好ましい。また窒化物半導体の窒素抜けを補償できる程度に、p型不純物をドープすることもできる。
【0018】
第2窒化物半導体層12は、第1窒化物半導体層11側がAlGa1−aN(0<a≦1)で構成され、第3窒化物半導体層13側がAlGa1−bN(0≦b<1、b<a)又はInGaNで構成される。図1の例では第窒化物半導体層12は、第1窒化物半導体層11側から、AlGa1−aN(0<a≦1)からなる第1層101と、AlGa1−bN(0≦b<1、b<a)又はInGaNからなる第2層102とで構成される。
【0019】
第1層101はAlGa1−aN(0<a≦1)からなり、厚膜で形成するためにはAlGa1−aN(0<a<1)であることが好ましい。この場合、AlGa1−aN層と第1窒化物半導体層11であるGaN層との間に、更にバンドギャップエネルギーが大きいAlN層を設けることで、チャネルにおけるキャリア移動度を向上させることができる。AlN層は結晶性良く厚膜で形成することが困難であるため、第2窒化物半導体層12よりも薄くする。AlN層は2nm以下の膜厚とすると結晶性よく形成でき好ましく、特に0.5〜1nm程度の膜厚とすることが好ましい。第1層101は、好ましくはAlGa1−aN(0<a<0.4)とする。Al組成比aが0.4未満の範囲であると、結晶性の良好なAlGaN層が形成可能なため、移動度を高いものとできる。Al組成比aは特に0.1以上が好ましい。
【0020】
また第1層101の膜厚増加に対して移動度は増加していき、特定の膜厚まで達すると飽和し始める。例えばAl組成比aが0.3の場合は7nmあたりから飽和し始める。一方、閾値電圧を一定とした場合のキャリア濃度は膜厚増加とともに減少する。したがってシート抵抗は、閾値電圧が一定のもとでは、移動度が飽和し始める膜厚で最小となり、第1層101はこのような膜厚とすることが低抵抗化の観点から好ましい。
【0021】
第2層102はAlGa1−bN(0≦b<1、b<a)又はInGaNで構成される。図1の例では第2層102はゲートコンタクト層14下の膜厚がそれ以外の膜厚よりも厚くなっている。後述のように、界面準位を増加させるためには、ゲート電極17下以外の領域に第2層102を設けないことが理想的であるが、エッチング精度の点から困難であるので、好ましくは図1のように第2層102の深さ方向の一部が除去された構造とする。若しくは、ゲート電極17下以外の第2層102が完全に除去され、第1層101の深さ方向の一部が除去された構造としてもよい。
【0022】
第2層102は、閾値電圧の低下を抑えるように、できるだけ薄くするか、Al組成比を下げる必要がある。第2層は第1層をエッチングダメージから守れる程度に厚膜とすることが好ましく、エッチングダメージ侵入長より若干厚めになる程度にし、閾値電圧を下げないようにAl組成比を下げる。このためAl組成比bは、第1層101のAl組成比a及び第3窒化物半導体層13のAl組成比cよりも小さくする。また第2層102の上にAl組成比が大の第3窒化物半導体層13を設けており、第2層102をエッチングストップ層として機能させる必要がないため、第2層102のAl組成比を小さくできる。キャリア濃度の低下を抑制するために、第2層102はAlGa1−bN(0<b<1、b<a)からなることが好ましい。上に積層される第3窒化物半導体層13がAl含有層であることからも、第2層102はAlGaNであることが好ましい。
【0023】
一方、第2層102をGaN又はInGaNで構成することもできる。GaN又はInGaNはAlGaNよりも分極が弱いため、第1層のAl組成比を増大させたときの閾値電圧低下を抑制することができ、閾値電圧を維持したまま第1層のAl組成比を増大させてキャリア濃度を増大させることができる。ソース電極15及びドレイン電極16のコンタクト層としてはAl含有窒化物半導体層が好ましいため、第2層102がAlを含有しない窒化物半導体であるGaN又はInGaNからなる場合は、ソース電極15及びドレイン電極16下の第2層102の膜厚はゲート電極17下の第2層102の膜厚よりも小さいことが好ましい。さらに好ましくは、ソース電極及びドレイン電極下の第2層を完全に除去して、第1層の表面にソース電極及びドレイン電極を設ける。
【0024】
図1の例では第2窒化物半導体層12として第1層101と第2層102の2層を設けている。第2窒化物半導体層12は第1窒化物半導体層11に近付くに従ってAl組成比を大きくした複数の層の積層又は単層とすることもできる。このとき、前述した第1層101の構成を第1窒化物半導体層11側とし、第2層102の構成を第3窒化物半導体層13側として採用できる。図1の例のように2層で構成することで、第2層102が一部除去されたときに電荷が増加しやすい。また2層の場合は、後述のように2層の界面においてキャリア濃度が最大となるため、第2窒化物半導体層を除去する量をキャリア最大位置に合わせて容易に設計することができる。
【0025】
(第3窒化物半導体層13)
第3窒化物半導体層13はAlGa1−cN(0<c≦1、c>b)で構成される。第3窒化物半導体層13は、好ましくは半導体積層構造の厚みを正確に制御するためのエッチングストップ層として機能する材料を選択する。Alを含む窒化物半導体層は、他の組成の窒化物半導体層、若しくはそれよりもAl組成比の小さい窒化物半導体層に比してエッチングレートが小さい、すなわちAl組成比が大きいほどエッチングレートが小さくなる。この性質を利用して、AlGaN、AlNなどのAlを含む窒化物半導体層(Al高混晶層)を、それよりもAl組成比の小さい窒化物半導体層、若しくはAlを含まない窒化物半導体層の下に配置することで、Alを含む窒化物半導体層(Al高混晶層)をエッチングストップ層として機能させることができる。また、Alを含む窒化物半導体層(Al高混晶層)を、それよりもAl混晶比の小さい窒化物半導体層、若しくはAl混晶比の小さい別の窒化物半導体層の上に配置することで、エッチング時において、エッチングに悪影響を受けるのを押さえる層として機能させることができる。
【0026】
Al組成比が大きい第3窒化物半導体層13は分極が強く、閾値電圧を減少させる作用があるので薄くする必要があるが、ゲートコンタクト層14を除去する工程で完全に削りとられずに少し残る程度に、すなわちエッチングストップ層として作用する程度の膜厚は確保することが好ましい。具体的には0.5nm以上2nm以下の膜厚とする。第3窒化物半導体層13側の第2窒化物半導体層はAl組成比が小さい又はAlを含まないので、第3窒化物半導体層13の膜厚が小さくても第2窒化物半導体層12へのエッチングの影響を抑制できる。
【0027】
第2窒化物半導体層12と第3窒化物半導体層13の膜厚と組成比は、所望の閾値電圧が得られるように設定できる。具体的には、設定閾値電圧が、キャリア走行層である第1窒化物半導体層11とゲート電極17との間にある層の、熱平衡状態時の内部電位から、ゲートバイアスを印加してフラットバンドとなった時の内部電位を差し引いた値に相当するように、膜厚と組成比を設計する。例えば、ゲートコンタクト層にp型層を含む場合は、pn接合内部電位から設定閾値電圧を引いた値が、第1窒化物半導体層11とp型層との間にある層のフラットバンド時の内部電位に相当するように設計する。例えば、設定閾値電圧を2Vとするのであれば、pn接合内部電位の3Vから設定閾値電圧の2Vを引いた1Vが、第1窒化物半導体層11とp型層の間にある層のフラットバンド時の内部電位に相当するようにする。
【0028】
(ゲートコンタクト層14)
ゲートコンタクト層14は、ゲート電極17と第3窒化物半導体層13との間に設ける。このゲートコンタクト層14は、InGa1−xN(0≦x<1)からなる単層又は複数の層とすることで、FETの閾値電圧を上昇させることができる。ゲートコンタクト層14は、ゲート電極17が形成された領域以外にも存在すると、キャリア濃度に影響を与えて抵抗を悪化させてしまうため、ゲート電極17の形成領域のみに設けることが好ましい。また、ゲートコンタクト層14を第3窒化物半導体層よりもAl組成比が小さい窒化物半導体層、若しくはAlを含まない窒化物半導体層とすると、第3窒化物半導体層をエッチングストップ層として選択的エッチングを行う場合に好ましい。
【0029】
ゲートコンタクト層14は、InGaN層を含んでもよい。InGaN層は、格子緩和を生じさせる機能を有させるため、その膜厚は臨界膜厚以上とすることが好ましく、特に、5nm〜10nmの膜厚とすることが好ましい。これにより、閾値電圧を好適に大きくすることができるので、ノーマリオフ型のトランジスタが実現できる。またこの際、オン抵抗の上昇を抑制することもできるので、消費電力や発熱を抑制できる。
【0030】
ゲートコンタクト層14はp型層であることが好ましく、さらにゲート電極17と接する側をp型層としてその下にInGaN層を有することが好ましい。ゲート電極17の直下にp型層を付加することで、ゲート電極17にバイアスを印加しない状態でも空乏層が広がるため、フラットバンドにするために必要なバイアスを大きくする効果、言い換えると閾値電圧を一層大きくする効果が得られる。ゲートコンタクト層14がp型層を含む場合、ゲートコンタクト層14をゲート電極17の形成領域以外にも積層すると、空乏層が形成され電流を阻害するので、ゲート電極17の下のみを残す。またp型層はp型GaN層とすることが好ましい。
【0031】
ゲートコンタクト層14は、ゲート電極17側から順にp型GaN層、InGaN層の積層とすることが好ましい。p型GaN層へのInの拡散を防止するため、p型GaN層とInGaN層の間に更にGaN層を設けることもできる。このGaN層は典型的にはアンドープとする。なお、ここでp型GaNとは、Be、Zn、Mn、Cr、Mg、Ca等のp型不純物を含有するGaNを指す。好適にはMgを含有させる。
【0032】
(電極15、16、17)
ゲートコンタクト層14の表面にゲート電極17が形成され、これを挟んでソース電極15とドレイン電極16が形成される。ソース電極15とドレイン電極16としては、第2窒化物半導体層12又は第3窒化物半導体層13の表面に形成され、電流を供給するためにオーミック電極が用いられる。ゲート電極17としては、空乏層を制御性よく形成しキャリアを制御できるようにショットキー電極が用いられる。なお、ゲートコンタクト層がp層である場合は、ゲートコンタクト層に対するオーミック電極が用いられる。また、これらの電極は、図示しないが複数の層からなる金属層や合金層及びそれらの組合せを適宜用いることができる。
【0033】
(窒化物半導体層、基板18)
GaN系FETは、窒化ガリウム系化合物半導体で構成される。窒化ガリウム系化合物半導体層は、基板18上に必要に応じてバッファ層を形成し、さらに第1窒化物半導体層11、第2窒化物半導体層12、第3窒化物半導体層13、ゲートコンタクト層14を順にエピタキシャル成長し、さらに電極を積層して形成することができる。なおバッファ層は、GaN等のエピタキシャル層と格子整合する基板を用いる場合は必ずしも必要でない。結晶成長方法としては、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD:metal-organic chemical vapor deposition)、ハイドライド気相成長法(HVPE)、ハイドライドCVD法、MBE(molecularbeam epitaxy)等の方法が利用できる。窒化ガリウム系化合物半導体には、n型不純物、p型不純物を適宜含有させることもできる。
【0034】
半導体構造を形成する成長用の基板18はサファイア基板やGaN基板等が利用できる。成長初期のバッファ層や下地層などは結晶性が悪い傾向にあり、その部分がリークパスとなることがある。このため、Mg、Zn、Fe等の不純物を添加してリークを低減させることが好ましい。また成長用の基板上に成長後、熱伝導が高く放熱性に優れたSiC基板、CuW基板等に転写することもできる。
【0035】
また、窒化物半導体層の積層構造は、ゲート電極の少なくとも片側、好ましくは両側に第1窒化物半導体層の端部を露出させる側面を備えた段差部を有するメサ構造としてもよい。段差部の側面には、少なくとも第1窒化物半導体層の端部と接続された、ソース電極、ドレイン電極の少なくとも一方、好ましくは両方が設けられ、ソース電極、ドレイン電極の一部は段差部上面、つまり第2窒化物半導体層の表面に設けられる。これにより、ソース電極とドレイン電極が好適に低接触抵抗化でき、抵抗をさらに低減させることができる。
【0036】
(電界効果トランジスタの製造方法)
図1に示すFETを製造する方法について、図2(a)〜(c)を用いて説明する。図2(a)〜(c)は図1に示すFETの製造方法を説明するための断面模式図である。
【0037】
まず、図2(a)に示すように、第1窒化物半導体層11、第2窒化物半導体層12、第3窒化物半導体層13、ゲートコンタクト層14を順に積層する。ゲートコンタクト層14の表面にはゲート電極17を形成する。
【0038】
次に、図2(b)に示すように、ゲート電極17が形成された領域を残してゲートコンタクト層14を除去する。ゲートコンタクト層14より深くエッチングしないように、第1エッチングとして第3窒化物半導体層13がエッチングストップ層となる選択的エッチングを行う。ゲートコンタクト層よりも第3窒化物半導体層のエッチング速度が小さいエッチングとしては、例えばAl組成比によりエッチング速度の異なるハロゲン系のガス、具体的にはヨウ化水素ガス、Cl、SiClを用いることができる。

【0039】
図2(c)に示すように、第1エッチングによるダメージ層を除去するために、第2エッチングを行う。第2エッチングでは、第3窒化物半導体層13に対するエッチング速度を向上させるため、第1エッチングと異なるエッチングガスを用いることが好ましい。例えばClとメタンの混合ガスを用いる。また、第1エッチングよりもダメージを残さずにエッチングするためには、第2エッチングを第1エッチングよりも低い出力で行うことや、第1エッチングよりも選択性の小さいエッチングガスで行うことが有効であると考えられる。低出力であればエッチング速度を抑えることができるので、半導体層の削り過ぎを防止する観点からも好ましい。第3窒化物半導体層13側の第2窒化物半導体層12は第3窒化物半導体層13よりもAl組成比が小さい又はAlを含まない層であるため、エッチングストップ層として用いることはできない。ダメージ層を十分に除去するためには、第3窒化物半導体層13は完全に除去する。第1エッチングと第2エッチングは典型的にはドライエッチングを用いる。
【0040】
そして、第3窒化物半導体層13を除去した後の半導体層表面にソース電極とドレイン電極を設ける。なお、ゲート電極17はエッチング後に設けてもよい。
【0041】
図3に、第1層101と第2層102からなる第2窒化物半導体層12の膜厚lに対するバンド図とキャリア濃度Nsの変化を示す。図3に示すように、第2層102はAl組成比が小さく分極が弱いため、バンドは表面に向かって下がっている。従って、第2層102を削っていく過程ではフェルミ準位より高エネルギーとなり正に活性化する界面準位が増加するため、キャリア濃度も増大する。一方、第1層101はAl組成比が大きく分極が強いため、バンドは表面に向かって上がっていくから、エッチングが第1層101に差し掛かると正に活性化した界面準位が減少し、キャリア濃度は減少に転ずる。
【0042】
最大のキャリア濃度が得られるのは第2層102を完全に除去した状態であり、この前後において同程度のキャリア濃度を得ることができるため、エッチング精度が十分でない場合であっても同程度のキャリア濃度のFETを安定して得ることができる。また表面からの散乱が少なくなるようなエッチング条件のもとでは、散乱が抑えられるので移動度が向上する。このキャリア濃度の増大と移動度の向上により低抵抗化が期待できる。またエッチング条件をエッチング前よりも界面準位濃度が高くなるように設定すれば、さらにキャリア濃度が上がり、低抵抗化を図れることになる。
【0043】
上述のように、キャリア濃度を増大させるためには第2層102のみを完全に除去することが理想的である。しかし、エッチング精度の点から困難であるので、少なくとも一部を除去し、ゲートコンタクト層14の下とそれ以外とで第2層102の膜厚が異なる程度とすることが好ましい。第2層102を完全に除去し、第1層101の一部を除去してもよい。第1層101を削り過ぎるとキャリア濃度が減少してしまうため、エッチング深さは第2層102のみが完全に除去される程度か、第2層102の一部が除去される程度を狙って設定することが好ましい。なお、第2窒化物半導体層12が組成傾斜層である場合は、第2窒化物半導体層12を削るほど表面のAl組成比が大きくなる一方、削るほど膜厚は小さくなるため、キャリア濃度の変化は図3よりもなだらかな山状となる。
【実施例1】
【0044】
実施例1のFETとして、図4に示すHEMT20を作製する。図4に示すHEMT20は、サファイア基板21の上にバッファ層(図示せず)を介して、第1窒化物半導体層として膜厚3μmのアンドープi型GaN層22、膜厚0.9nmのアンドープi型AlN層23、第2窒化物半導体層の第1層として膜厚6nmのアンドープi型Al0.3Ga0.7N層24、第2層として膜厚1nmのアンドープi型Al0.1Ga0.9N層25、第3窒化物半導体層として膜厚1nmのアンドープi型Al0.2Ga0.8N層26、ゲートコンタクト層として膜厚20nmのp型GaN層27が順に積層され、p型GaN層27の表面にゲート電極33が設けられている。ゲート電極33下以外の領域では、Al0.1Ga0.9N層25、Al0.2Ga0.8N層26、p型GaN層27が除去されてソース電極31とドレイン電極32が設けられており、各電極から露出した半導体層の側面及び表面はSiO保護膜34に覆われている。また、チャネルとなるGaN層22上部の側面が露出する段差部が形成されており、ソース電極31とドレイン電極32は段差部の側面に接して設けられている。
【0045】
Al0.1Ga0.9N層25、Al0.2Ga0.8N層26、p型GaN層27の除去は2段階のエッチングにより行う。まず、p型GaN層27のエッチング速度がAl0.2Ga0.8N層26のエッチング速度よりも大きいヨウ化水素ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE:reactive ion etching)を行う。次に、W数を下げてClとメタンの混合ガスを用いたRIEによってAl0.2Ga0.8N層26とAl0.1Ga0.9N層25を除去する。
【0046】
Al0.2Ga0.8N層26とAl0.1Ga0.9N層25を除去することで、キャリア濃度と移動度が向上したHEMT20が得られる。
【0047】
(参考例1)
参考例1として、Al0.1Ga0.9N層25とAl0.2Ga0.8N層26を省略した点が実施例1と異なるHEMTを作製する。キャリア走行層としてのGaN層上に、膜厚0.9nmのAlN層、膜厚7nmのAl0.3Ga0.7N層、膜厚20nmのp型GaN層を順に形成し、Al0.3Ga0.7N層をエッチングストップ層として、ゲート電極形成領域以外のp型GaN層を実施例1と同様に選択的エッチングにより除去する。その後、選択的エッチングによるダメージ層を除去するために、W数を下げてClとメタンの混合ガスを用いたRIEによってAl0.3Ga0.7N層の一部を除去する。ダメージ層を除去する際のRIE処理時間と、ホール測定による移動度及びキャリア濃度の関係を図5に示す。図5に示すように、選択的エッチング後にダメージ除去工程を行うことにより、キャリア濃度及び移動度ともに増加し低抵抗化することができた。ダメージ除去工程により正に帯電した界面準位濃度が増加し補償電荷としてのキャリアが増大したことと、ダメージ層除去による表面状態改善が、移動度増加に結びついているものと考えられる。
【実施例2】
【0048】
実施例2として、Al0.3Ga0.7N層24とAl0.1Ga0.9N層25に代えて、Al組成比を変化させたAlGaN層を膜厚7nmで形成し、Al0.2Ga0.8N層26に代えてAl0.3Ga0.7N層を膜厚1nmで形成した点が実施例1と異なるHEMTを作製する。AlGaN層は、AlN層側のAl組成比を0.3、Al0.3Ga0.7N層側のAl組成比を0.05として連続的に変化させている。
【0049】
図6にp型GaN層エッチング後のダメージ層を除去する際のRIE処理時間と、ホール測定による移動度及びキャリア濃度の関係を示す。RIE処理により、キャリア濃度、移動度ともに増加し、RIE処理時間が20秒のときに最も低抵抗化することができ、エッチング前の1000Ω/sqから600Ω/sqへと大幅に低減することができた。
【符号の説明】
【0050】
10 電界効果トランジスタ
11 第1窒化物半導体層
12 第2窒化物半導体層
101 第1層、102 第2層
13 第3窒化物半導体層
14 ゲートコンタクト層
15 ソース電極、16 ドレイン電極、17 ゲート電極
18 基板
20 高電子移動度トランジスタ
21 サファイア基板
22 GaN層、23 AlN層、24 Al0.3Ga0.7N層、25 Al0.1Ga0.9N層、26 Al0.2Ga0.8N層、27 p型GaN層
31 ソース電極、32 ドレイン電極、33 ゲート電極
34 保護膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7