(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中空糸膜がメッシュ状に配置された中空糸膜メッシュと、前記中空糸膜メッシュと接する、ナノファイバーの集合体からなるナノファイバー層とを有する細胞培養足場材料が、2枚のカバーの間に液密に配置され、
前記中空糸膜の両端側の部分は前記の2枚のカバーの外側にはみ出しており、
前記カバーにおける前記ナノファイバー層に対応する位置に、培養細胞を注入する細胞注入口と、該細胞注入口以外の開口とが形成され、前記細胞注入口と開口がシートで塞がれている細胞培養用モジュール。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[細胞培養用モジュール]
本発明の細胞培養用モジュールは、中空糸膜がメッシュ状に配置された中空糸膜メッシュと、前記中空糸膜メッシュと接する、ナノファイバーの集合体からなるナノファイバー層とを有する細胞培養足場材料が、2枚のカバーの間に液密に配置されている。また、本発明の細胞培養用モジュールは、前記カバーにおける前記ナノファイバー層に対応する位置に、培養細胞を注入する細胞注入口と、該細胞注入口以外の開口とが形成され、前記細胞注入口と開口がシートで塞がれている。以下、本発明の細胞培養用モジュールの実施形態の一例を示して詳細に説明する。
【0018】
本実施形態の細胞培養用モジュール1(以下、「モジュール1」という。)は、
図1(A)および
図1(B)に示すように、細胞培養足場材料10(以下、「足場材料10」という。)がポッティング樹脂で型枠40に固定されており、さらに、それらが2枚のカバーである下底20、上蓋30により挟まれ、足場材料10が液密に封入されている。
【0019】
下底20は、
図1(C)に示すように、板21、22の間にシート23が配置されている。平板21、22には、細胞注入口21a、22a、および開口21b、22bが形成されている。平板21、22の形状は、足場材料10の形状に合わせた形状であればよい。
平板21、22としては、足場材料10を挟んでしっかりと固定するのに適した強度を有するものであればよく、例えば、アクリル板が挙げられる。
シート23としては、細胞注入口21a、22a、および開口21b、22bを密封でき、かつ必要に応じて顕微鏡、チューブ等の接続、注射針の刺し込み等が可能なものであればよく、例えば、シリコンゴムからなるシートが挙げられる。
【0020】
細胞注入口21a、22aは、培養細胞を注入するための開口である。例えば、細胞注入口21a、22aにおいて、シート23に注射針を刺し込んで、培養細胞を足場材料10へと注入できる。
細胞注入口21a、22aの形状は特に限定されず、穴あけ加工の容易さの点から、円形状が好ましい。
細胞注入口21a、22aの大きさは特に限定されず、それぞれが開口21b、22bと独立して形成され、培養細胞の注入が可能な範囲であればよい。例えば、細胞注入口21a、22aの形状が円形状である場合、その直径は500μm以上5mm以下が好ましい。
【0021】
開口21b、22bは、細胞注入口21a、22aとは独立して形成される開口である。開口21b、22bは、例えば、チューブの接続による栄養や空気の供給もしくは代謝老廃物の除去、または顕微鏡の接続による培養状態の観察等に使用できる。
開口21b、22bの形状は特に限定されず、穴あけ加工の容易さの点から、円形状が好ましい。
また、開口21b、22bの大きさは特に限定されず、それぞれが細胞注入口21a、22aと独立して形成される範囲であればよい。例えば、開口21b、22bの形状が円形状である場合、その直径はモジュール1の大きさにも依るが、1mm以上でナノファイバー層の短辺を上限とすることが好ましい。
【0022】
上蓋30は、
図1(C)に示すように、平板31、32の間にシート33が配置されている。平板31、32には、細胞注入口31a、32a、および開口31b、32bが形成されている。
平板31、32、シート33は、平板21、22、シート23と同じものを用いることができる。
細胞注入口21a、22aと細胞注入口31a、32aの形状および大きさは、同じであっても異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。また、開口21bおよび開口22bと開口31bおよび開口32bの形状および大きさは、同じであっても異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0023】
本実施形態では、足場材料10はポッティング樹脂により型枠40に固定されている。足場材料10がポッティング樹脂で型枠40に固定されていることにより、該ポッティング樹脂と型枠40とにより、モジュール1における足場材料10の側面部分が密封され、足場材料10がモジュール1内に液密に封入されている。また、型枠40を用いることで、足場材料10の作製が容易になる。
【0024】
型枠40は、
図1(B)および
図2(A)、(B)に示すように、開口41aを有する底枠41と、底枠41の四隅に設けられた角枠42と、上枠44とを有している。
底枠41および上枠44の材質としては、ポッティング樹脂との接着性が充分に得られるものであればよく、例えば、シリコンゴム等が挙げられる。
また、角枠42の材質としては、シリコンゴムが好ましい。角枠42の材質がシリコンゴムであれば、下底20と上蓋30により型枠40に固定された足場材料10を挟んだ後、それらをクリップ等で固定する際に、高い圧力が加わってもモジュール1が破損することを抑制しやすい。
【0025】
本発明におけるポッティング樹脂は、充分な接着性を有するものであればよく、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂等の各種の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0026】
本発明における細胞培養足場材料は、
図3に例示した足場材料10であることが好ましい。ただし、これに限定されるものではない。
足場材料10は、
図3(A)〜(C)に示すように、中空糸膜11a、11b(11)がメッシュ状に配置された中空糸膜メッシュ12と、ナノファイバーの集合体からなるナノファイバー層15と、中空糸膜13a、13b(13)がメッシュ状に配置された中空糸膜メッシュ14とが、この順に積層されている。
【0027】
中空糸膜メッシュ12を形成する中空糸膜11の膜基材ポリマーは、中空糸膜上に成形できるものであればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスルフォン、ポリアリルスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアクリロニトリル、セルロースアセテート、ポリフッ化ビニリデン、これらの2種類以上を混合した混合物等が挙げられる。
【0028】
中空糸膜11の外径は、50〜3000μmが好ましく、100〜2000μmがより好ましい。外径が50μm以上であれば、中空糸膜11において充分な大きさの中空部分を確保しやすいため、培養液を送液する際の差圧が大きくなったり、代謝老廃物の除去が不充分になったりすることを抑制しやすい。また、外径が3000μm以下であれば、単位体積あたりの中空糸膜11の表面積をより大きくすることができるため、培養細胞に充分な栄養およびガスを供給することが容易になる。
【0029】
中空糸膜11の膜厚は、5〜500μmが好ましい。膜厚が5μm以上であれば、栄養供給やガス供給の際の加圧によって中空糸膜が破壊されることを防止しやすい。また、膜厚が500μm以下であれば、ろ過抵抗がより小さくなるため、培養細胞への栄養供給やガス供給や、培養細胞からの代謝老廃物の除去の効率が向上する。
なお、中空糸膜11が多層膜である場合の膜厚は、各層の膜厚の総和(全層の膜厚)である。
中空糸膜11の内径は、10μm以上2995μm以下が好ましい。
【0030】
中空糸膜11としては、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ガス分離膜等を用いることができる。これらは必要に応じて適宜選択することができる。
物質選択透過性を有する中空糸膜を用いることにより、特定の物質を培養細胞に供給したり、特定の代謝老廃物を培養細胞から除去したりすることができる。また、培養液中の特定成分、化学物質、薬物等の被験物質を培養細胞に効率的に供給することや、老廃物や代謝物を系外に排出させてこれらをモニタリングすることが可能となる。
物質選択透過性を有する中空糸膜としては、前記精密ろ過膜や限外ろ過膜を挙げることができ、さらに、膜素材そのものに物質選択透過性を有する中空糸膜や、中空部分に選択透過性を有する物質が充填された多孔質中空糸膜を挙げることができる。
【0031】
また、ガス分離膜を用いることにより、培養細胞に空気、酸素、およびその他のガスを効率的、かつ選択的に供給することができる。ガス供給は多孔質中空糸膜を用いて行ってもよく、この場合、ガス分離機能を有する非多孔性の膜基材を、多孔性の膜基材で支持した中空糸膜が好ましい。このようなガス分離機能を有する中空糸膜を用いることにより、培養液中にバブルレスでガスを供給できるので、培養細胞へのダメージを防止しやすい。また、培養液等の液体が中空糸膜の中空部分に入り込んで該中空部を閉塞することを防止しやすい。
【0032】
また、中空糸膜11は、親水化処理されていることが好ましい。中空糸膜を親水化処理することにより、培養細胞への培養液等の液体成分の供給が容易になり、また中空糸膜表面への細胞接着の抑制も容易になる。中空糸膜を親水化処理する方法としては、例えば、中空糸膜をエチレン−ビニルアルコール共重合体等の親水性高分子や、グリセリン、エタノールで処理する方法が挙げられる。
また、中空糸膜メッシュ12には、2種類以上の中空糸膜を用いることもできる。例えば、栄養の供給を行う精密ろ過膜、ガスの供給を行うガス分離膜、培養細胞への特定成分の供給あるいは培養細胞からの特定の代謝老廃物の排出を行う物質選択透過性を有する中空糸膜を、任意に組み合わせて用いることができる。
【0033】
中空糸膜メッシュ12は、複数の中空糸膜を網目が形成するようにメッシュ状に配置したものである。中空糸膜メッシュ12の形態としては、例えば、複数の中空糸膜11a(中空糸膜11)を所定の間隔で平行に配置してシート状とし、それら中空糸膜11aに対して直交する方向に沿って複数の中空糸膜11b(中空糸膜11)を所定の間隔で平行に配置してシート状とすることにより、メッシュ状とした形態が挙げられる(
図3(A))。
中空糸膜11aの間隔d
1(
図4(A))は、0.05〜5mmが好ましく、0.05〜1mmがより好ましい。前記間隔d
1は、中空糸膜11aの外径以上で、5mm以下であれば、栄養やガスの供給や代謝老廃物の除去がナノファイバー層15に接着した細胞全体に均一に行えるため、細胞培養の効率が向上する。中空糸膜11bの間隔d
2(
図4(A))は、同様の理由から、0.05〜5mmが好ましく、0.05〜1mmがより好ましい。
中空糸膜メッシュ12における中空糸膜11からなるシートの層数は特に制限されず、2〜10層が好ましい。この例では、シートは2層(中空糸膜11aからなる層と中空糸膜11bからなる層)である。
【0034】
2種類以上の中空糸膜で中空糸膜メッシュを形成する場合には、種類の異なる中空糸膜を同一シート内に混在させてもよく、シート毎に種類の異なる中空糸膜を用いるようにしてもよい。すなわち、本実施形態の場合、中空糸膜11aとして種類の異なる2種以上の中空糸膜を用い、かつ中空糸膜11bとして種類の異なる2種以上の中空糸膜を用いる態様(1)としてもよく、中空糸膜11aとして同一種類の中空糸膜を用い、中空糸膜11bとして中空糸膜11aとは異なる種類の同一種類の中空糸膜を用いる態様(2)としてもよく、中空糸膜11aまたは中空糸膜11bのいずれか一方に異なる2種以上の中空糸膜を用い、他方に同一種類の中空糸膜を用いる態様(3)としてもよい。中空糸膜メッシュ12において2種類以上の中空糸膜11を用いる場合には、同一種類の中空糸膜を集結させてポート部を設け、該ポート部を外部機器に繋いで中空糸膜を介して排出された老廃物等をオンラインで分析することが容易である点から、態様(2)が好ましい。
具体的には、例えば、中空糸膜11aとして精密ろ過膜、中空糸膜11bとしてガス分離膜を用いることにより、中空糸膜11aにより培養細胞に栄養を供給し、中空糸膜11bにより培養細胞にガスを供給することができる(態様(2))。
中空糸膜メッシュ12における中空糸膜11a、11bは、メッシュ状となっている部分以外の部分をポッティング樹脂により固定することで、位置を固定することができる。ポッティング樹脂は、前述のポッティング樹脂を用いることができる。
【0035】
本発明における中空糸膜メッシュ14および中空糸膜13は、中空糸膜メッシュ12および中空糸膜11と同じものを用いることができ、好ましい形態も同じである。
足場材料10においては、中空糸膜メッシュ12、14の形態は、中空糸膜を介する栄養や気体の供給、代謝老廃物の除去に応じて選択すればよく、足場材料10をモジュール化する際のポート部の設計にも依存する。
足場材料10では、中空糸膜メッシュ12の中空糸膜11aと中空糸膜メッシュ14の中空糸膜13aは同一種類の中空糸膜であることが好ましい。同様に、中空糸膜メッシュ12の中空糸膜11bと中空糸膜メッシュ14の中空糸膜13bは同一種類の中空糸膜であることが好ましい。このような形態とすることで、足場材料10をモジュール化する際に、中空糸膜11aおよび中空糸膜13aと、中空糸膜11bおよび中空糸膜13bとをそれぞれ集結させて同一のポート部に繋ぐことで、中空糸膜を介して排出された老廃物等をオンラインで分析しながら細胞培養を行うことが容易になる。
【0036】
本実施形態の足場材料10では、
図3(B)および(C)に示すように、中空糸膜メッシュ12と中空糸膜メッシュ14における互いに平行な中空糸膜11、13が、それぞれ1/2ピッチずつ、ずれて配置されるようにすることが好ましい。これにより、足場材料10において中空糸膜を、ナノファイバー層15に対してより高い密度で均一に配列させることができるため、細胞培養の効率が向上する。
中空糸膜メッシュ12と中空糸膜メッシュ14における中空糸膜11bと中空糸膜13bの間隔d
3(
図4(B))は、0.5〜1000μmが好ましく、1.0〜50μmがより好ましい。前記間隔d
3が0.5μm以上1000μm以下であれば、栄養やガスの供給や代謝老廃物の除去がナノファイバー層15に接着した細胞全体に均一に行えるため、細胞培養の効率が向上する。
【0037】
本実施形態のナノファイバー層15は、ナノファイバーの集合体からなる層である。
ナノファイバー層15は、基材上で、エレクトロスピニング(電界紡糸)により形成されたものであることが好ましい。前記基材は、特に制限されず、エレクトロスピニングにより表面にナノファイバー層15を形成できるものであればよく、例えば、アルミ箔等が挙げられる。
【0038】
ナノファイバーの材質は、紡糸が容易である点から、溶剤可溶性のポリマーであることが好ましい。特にエレクトロスピニングが可能な溶剤可溶性のポリマーとしては、例えば、ナイロン4,6、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリスルフォン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、シルク、酢酸セルロース、キトサン、コラーゲン等が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではなく、これらのポリマーの混合物や、無機物や炭素材料を含有させたものであってもよい。
【0039】
また、前記ポリマーの分子量は特に限定されないが、分子量が低すぎると曳糸性が低下するおそれがあり、分子量が高すぎると粘度が高くなって紡糸が困難になるおそれがある。
また、溶剤に不溶なポリマーであっても、レーザーエレクトロスピニング法を適用する場合は熱可塑性ポリマーを用いることができる。レーザーエレクトロスピニング法に適用できる熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0040】
ナノファイバー(単繊維)の直径は1nm〜1000nmが好ましく、10nm〜500nmがより好ましく、20nm〜300nmがさらに好ましい。前記直径が1nm以上であれば、充分な強度を有するナノファイバーとなりやすい。また、前記直径が1000nm以下であれば、充分な比表面積を有するナノファイバーとなりやすい。ナノファイバーの特徴の一つは比表面積の大きさであり、単繊維の直径が小さくなるほど比表面積が指数関数的に大きくなり、吸着特性が大きくなるため、細胞培養の足場材料として好適である。
ナノファイバーの単繊維の直径は、以下のようにして測定することができる。ナノファイバー、またはその集合体(ナノファイバー層15)の表面を電子顕微鏡により観察し、得られた電子顕微鏡写真(
図9(B))中の任意の20本のナノファイバー表面の幅を計測し、その平均をナノファイバーの単繊維の直径とする。電子顕微鏡としては、走査型電子顕微鏡(SEM)が好ましい。観察倍率は5000倍〜5万倍が好ましい。観察倍率が5000倍以上であれば、ナノファイバーの直径の決定が容易になる。また、単繊維の直径を求める際には、画像解析ソフトを用いることが好ましい。画像解析ソフトによって得られるナノファイバーの単繊維の直径は、画像解析のための画質調整、画像解析ソフトの種類等によって若干変動があるが、その差は通常の実験誤差の範囲内である。
【0041】
ナノファイバー層15の厚みは、0.5〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。厚みが0.5μm以上であれば、ナノファイバー層15を中空糸膜メッシュ間に配置するのが容易になる。厚みが100μm以下であれば、栄養やガスの供給や代謝老廃物の除去がナノファイバー層15に接着した細胞全体に均一に行えるため、細胞培養の効率が向上する。
【0042】
本実施形態では、ナノファイバー層15に生理活性物質を吸着または固定させることにより、培養細胞の接着、増殖、分化、機能発現の制御を行うことができる。
生理活性物質としては、機能性ポリマー、アミノ酸、タンパク質、糖鎖、ビタミン類等
が挙げられる。特に、細胞培養に有効な生理活性物質、例えば培養細胞の増殖、分化、機能発現に重要な役割を有する生理活性物質の総称であるサイトカインを用いると効果的である。サイトカインとしては、インターロイキン、増血因子、増殖因子等が挙げられる。また、細胞−細胞外マトリックス、細胞−細胞間の接着に関与するインテグリン、カドヘリン等の細胞接着基質を用いることも効果的である。また、薬剤や化学物質等の被験物質をナノファイバー層15に吸着または固定することにより、細胞培養試験を行うことも可能である。
【0043】
本実施形態の足場材料10は、以上説明した中空糸膜メッシュ12と中空糸膜メッシュ14との間に、ナノファイバー層15が配置された積層体を有する。このように、ナノファイバー層を中空糸膜メッシュ間に配置することにより、ナノファイバーを中空糸膜メッシュに強固に固定することができ、培養細胞への栄養やガスの供給や、細胞培養からの代謝老廃物の除去をより安定して行うことができる。
また、中空糸膜メッシュ上にナノファイバー層を形成して該ナノファイバー層上に培養細胞を接着させる場合に比べ、ナノファイバー層を中空糸膜メッシュ間に配置することで、ナノファイバー層に接着させた培養細胞と中空糸膜との距離が近くなるため、培養細胞への栄養やガスの供給や、細胞培養からの代謝老廃物の除去をより高い効率で行うことができ、培養細胞のネクローシスが減少して細胞培養の効率が向上する。
【0044】
本発明における細胞培養足場材料は、中空糸膜メッシュとナノファイバー層の積層数は特に限定されず、中空糸膜メッシュ、ナノファイバー層、中空糸膜メッシュ、ナノファイバー層、中空糸膜メッシュがこの順に積層された細胞培養足場材料であってもよく、これ以上の数が積層された細胞培養足場材料であってもよい。
また、中空糸膜メッシュのメッシュ部分の形態も足場材料10における中空糸膜11a(13a)と中空糸膜11b(13b)とが直交する形態には限定されない。例えば、ナノファイバー層に接着させた培養細胞に対する、栄養やガスの供給や代謝老廃物の排出の効率が低くなりすぎない範囲であれば、中空糸膜11a(13a)と中空糸膜11b(13b)とが直交していなくてもよい。また、縦方向と、該縦方向となす角がα(0°<α<90°)、β(−90°<β<0°)の斜め2方向(例えば縦方向に対して±60°の2方向)との3方向に、中空糸膜をそれぞれ平行に配置してメッシュ状とした中空糸膜メッシュであってもよい。この場合、ナノファイバー層の形状もそれに合わせて六角形にすることが好ましい。また、該足場材料を固定する型枠についても、六角形のものを用いることが好ましい。
【0045】
以下、本実施形態における型枠40に固定された足場材料10の形態について説明する。
底枠41の枠部分43に、中空糸膜13aが一定の間隔で配置され、さらに中空糸膜13aと直交する方向に沿って中空糸膜13bが配置され、中空糸膜メッシュ14が形成されている(
図5(A))。また、中空糸膜メッシュ14の上に、ナノファイバー層15が配置され、ポッティング樹脂により該ナノファイバー層15の四隅が角枠42に固定されている(
図5(B))。
【0046】
また、ナノファイバー層15の上に、中空糸膜11bが配置され、さらに中空糸膜11bと直交する方向に沿って中空糸膜11aが配置されて中空糸膜メッシュ12が形成され(
図5(C))、これら中空糸膜11b、11aと、先に配置した中空糸膜13a、13bがポッティング樹脂で底枠41に固定される。中空糸膜メッシュ12上には、上枠44がポッティング樹脂で固定されている(
図6(A))。
【0047】
足場材料10は、ポート部を設けるのが容易になることから、同一のポート部に接続する中空糸膜同士の型枠40の外側の部分が、束ねて固定されていることが好ましい。例えば、中空糸膜の型枠40よりも外側の部分を束ねてシリコンチューブ50に通して結び、シリコンチューブ50内にポッティング樹脂を充填して固定する(
図6(B))。その後、型枠40からシリコンチューブ50までの中空糸膜部分をポッティング樹脂で覆って固定し、シリコンチューブ50よりも先の部分を切断して除去する(
図6(C))。
【0048】
本発明のモジュール1は、下底20の開口21b、22bと、上蓋30の開口31b、32bに、例えばチューブ等を接続することにより、栄養やガスの供給や、代謝老廃物の除去の行う経路として、中空糸膜メッシュ12、14の中空糸膜11、13以外の第3の経路を設けることができる。そのため、中空糸膜のみを用いて栄養やガスを供給したり、代謝老廃物を除去したりする場合に比べて、より多くの条件でかつそれらの条件を独立に制御しながらの細胞培養を、より簡便に行うことができる。また、下底20の細胞注入口21a、22aと、上蓋30の細胞注入口31a、32aにより、前記開口にチューブや顕微鏡等が接続された状態でも、の足場材料10のナノファイバー層20に容易に培養細胞を注入して接着できる。また、モジュール1は、下底20と上蓋30(カバー)を用いて足場材料1を液密に封入するため、足場材料10を容器中の培養液中に浸漬させるような形態に比べ、モジュールをコンパクト化することができる。
【0049】
モジュール1の使用方法としては、例えば、以下に示す使用方法が挙げられる。
モジュール1において、中空糸膜メッシュの中空糸膜の両端を集結させたものの開口部をポート部に繋げ、中空糸膜から排出された老廃物や代謝物等を外部機器に導入することで、オンラインでの分析が可能になる。
例えば、モジュール1において、中空糸膜11a、13aとしてガス分離膜である中空糸膜、中空糸膜11b、13bとして物質選択透過性を有する中空糸膜を用いた場合、中空糸膜11a、13aの片端より酸素を含むガスを供給しつつ、他方の端部より該ガスを排出させ、かつ中空糸膜11b、13bの片端より培養細胞の栄養を供給し、他方の端部より該培養細胞の老廃物や代謝物を排出させることができる。これにより、排出される成分をオンラインで分析することで、培養細胞を培養しながら連続的に培養細胞の生育状況を評価することも可能である。また、下底20の開口21b、22bと、上蓋30の開口31b、31bに、チューブ等を接続し、該チューブから培養細胞に対して、中空糸膜11a、13aとは別の成分、条件の栄養を供給することもできる。
【0050】
また、モジュール1中で培養した培養細胞に、中空糸膜11b、13bの片端より被験物質を投与し、老廃物や代謝物を含む溶液を中空糸膜11b、13bの他方の端部より排出させ、この溶液を分析しモニタリングすることによって、被験物質を投与した場合の培養細胞が受けるストレスや培養細胞の状態を経時的に評価することができる。この場合についても、被験物質の投与、および老廃物や代謝物を含む溶液の排出を、下底20の開口21b、22bおよび上蓋30の開口31b、32bに接続したチューブ等によって行ってもよい。
【0051】
以上説明した本発明の細胞培養用モジュールは、2枚のカバー(下底20、上蓋30)の間に細胞培養足場材料を配置し、液密に封入することで、培養領域を一定の領域に分画しているため、培養条件の制御が容易である。また、細胞培養足場材料を容器中の培養液に浸漬させるような形態のモジュールに比べ、モジュールをコンパクト化することができるため、複数のモジュールを並べて多検体、多条件の同時培養を行う場合でも培養スペースをより小さくすることができる。
【0052】
また、本発明の細胞培養用モジュールのカバーは、細胞注入口と該細胞注入口以外の開口を有し、それら細胞注入口と開口がシートで塞がれた形態である。そのため、カバーの開口にチューブ等を接続することにより、中空糸膜メッシュの中空糸膜以外の新たな経路を設けることができる。これにより培養細胞への経路が増えるため、より簡便な手法で、栄養やガスの供給や、代謝老廃物の除去の条件を多くでき、かつそれらの条件を独立に制御した細胞培養を行うことができる。また、培養細胞を注入する細胞注入口を独立して設けているため、モジュールの製造後に前記開口にチューブや顕微鏡等が接続された状態でも、モジュール内の細胞培養足場材料に容易に培養細胞を注入して接着できる。
【0053】
また、細胞培養ディッシュやプレートを用いた通常の培養では、細胞培養ディッシュやプレート上での平面的な細胞培養しか行えないのに対し、本発明の細胞培養用モジュールは、ナノファイバー層を有する細胞培養足場材料を備えているため、培養細胞が該ナノファイバー層の内部にまで入り込んで三次元的に付着増殖できる。そのため、培養された細胞形態が生体内の形態に近く、医薬品、化学物質、化粧品等の物質の薬効試験、毒性試験、安全性試験等において、より評価の信頼性の高い培養細胞が得られる。
【0054】
尚、本発明の細胞培養用モジュールは、
図1に例示したモジュール1には限定されない。例えば、細胞培養足場材料を液密に封入できれば、前述の型枠を用いずにモジュールを形成してもよい。
また、細胞培養用モジュールにおける細胞培養足場材料も前述の足場材料10には限定されず、中空糸膜メッシュ上にナノファイバー層が形成された細胞培養足場材料であってもよく、中空糸膜メッシュの中空糸膜間にナノファイバーを有する細胞培養足場材料であってもよい。また、エレクトロスピニング以外の湿式紡糸、溶融紡糸等の方法を用いてナノファイバー層を形成した細胞培養足場材料であってもよい。
【0055】
[製造方法]
以下、本発明の細胞培養用モジュール製造方法の一例として、前述の足場材料10を有するモジュール1の製造方法について説明する。
ナノファイバー層15は、均一で斑のないナノファイバー層が得られやすく、製造効率が高い点から、前述の表面に凹凸のない基材上で、エレクトロスピニング(電界紡糸)により形成することが好ましい。ただし、エレクトロスピニングには限定されず、湿式紡糸、溶融紡糸等の方法を用いてもよい。
【0056】
以下、エレクトロスピニング法を用いたナノファイバー層15の製造について簡単に説明する。エレクトロスピニング法の基本的な装置構成は、ノズル、ターゲット、直流高圧電源からなる。この装置において、ノズルに紡糸原液を供給しつつ高電圧を印加すると、紡糸原液に電気的反発力が生じる。このとき、ノズルとターゲットの間に基材を設置しておくことで、紡糸原液がターゲットに向かって噴射され、紡糸条件が適当な場合に基材上にナノオーダーの繊維からなる層、すなわちナノファイバー層を得ることができる。
【0057】
ナノファイバー層15を得るための紡糸条件は、ナノファイバーを形成するポリマーの分子量、溶媒、溶液の濃度、印加電圧、ノズルとターゲットとの距離等であり、これらを適宜調節することにより所望のナノファイバー層を得ることができる。
ポリマーは、エレクトロスピニングが容易である点から、前述の溶剤可溶性のポリマーを用いることが好ましい。また、熱可塑性ポリマーを用いる場合は、レーザーエレクトロスピニング法を適用することも可能である。
用いるポリマーの分子量は特に限定されないが、分子量が低すぎると曳糸性が低下するおそれがあり、分子量が高すぎると粘度が高くなって紡糸が困難になるおそれがある。
また、ポリマーの溶解性が低い場合であっても、ポリマー濃度を低く調節することによりエレクトロスピニングを可能にすることもできる。また、添加剤を加える等して、紡糸原液の表面張力や導電性を調整することも可能である。
【0058】
紡糸原液のポリマー濃度は、使用するポリマーの種類や分子量、溶媒により異なるため、一概には言えないが、0.1〜40wt%に調整することが好ましい。ポリマー濃度が0.1wt%以上であれば、生産性により優れ、ナノファイバー層15が得られやすい。また、ポリマー濃度が40wt%以下であれば、紡糸原液の粘度が上昇しすぎてノズルから噴射しにくくなることを防ぎやすい。
【0059】
用いる溶媒は、前記濃度でポリマーを溶解させることができれば特に限定されず、例えば、アセトン、トリアセチン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の溶剤を用いることができる。溶媒は、溶媒が揮発してノズルの先端にポリマーが詰まることを抑制しやすい点から、揮発性の高い溶媒を用いることが好ましい。また、溶媒は、ポリマー
の溶解性の向上等のために、複数の溶媒をブレンドして用いてもよい。
【0060】
印加する電圧は、用いるポリマーの種類や物性により異なるため一概には言えないが、0.1〜50kVが好ましく、1kV〜40kVがより好ましい。電圧が0.1kV以上であれば、ナノファイバー層の製造効率が向上する。また、電圧が40kV以下であれば、ノズルとターゲットの間で短絡しにくくなる。
ノズルとターゲットの距離は、用いるポリマーの種類や物性や印加電圧により異なるため一概には言えないが、10〜1000mmが好ましく、30mm〜500mmがより好ましい。前記距離が10mm以上であれば、放電が生じにくくなる。また、前記距離が1000mm以下であれば、ノズルからの紡糸原液の噴射性が向上する。
また、ターゲットの形状は、均一なナノファイバー層15が得られやすい点から、平板状、ロール状が好ましい。
以上説明した方法によりナノファイバー層15が得られる。
【0061】
次に、中央に開口41aを有する底枠41(
図2(A))の四隅に、角枠42をポッティング樹脂により固定する(
図2(B))。その後、底枠41に、中空糸膜13aを配置し、さらに中空糸膜13aと直交する方向に沿って中空糸膜13bを配置し、底枠41外にある中空糸膜の端部を仮固定して中空糸膜メッシュ14を形成する(
図5(A))。
次いで、形成した中空糸膜メッシュ14の上に、ナノファイバー層15を設置し、ポッティング樹脂により該ナノファイバー層15の四隅を角枠42に固定する(
図5(B))。
【0062】
次いで、ナノファイバー層15の上に、中空糸膜11bを配置し、さらに中空糸膜11bと直交する方向に沿って中空糸膜11aを配置して中空糸膜メッシュ12を形成し(
図5(C))、これら中空糸膜11b、11aと、先に配置した中空糸膜13a、13bを角枠42間の枠部分43でポッティング樹脂により固定する。
中空糸膜メッシュ12の上側には、上枠44をポッティング樹脂で固定し、足場材料10が型枠40に固定された状態とする(
図6(A))。
【0063】
次に、中空糸膜の型枠40よりも外側の部分を束ねてシリコンチューブ50に通して結び、該チューブ内にポッティング樹脂を充填して固定する(
図6(B))。その後、型枠40の外側の中空糸膜部分をポッティング樹脂で覆って固定し、結び目を切断する(
図6(C))。
【0064】
次いで、型枠40に足場材料10が固定されたものを、下底20と上蓋30で挟み、それらをクリップ等で固定する。ただし、足場材料10を下底20と上蓋30で挟んだものの固定方法は、前記クリップ等を用いる方法には限定されず、これらをしっかりと固定できる方法であれば特に限定されない。
また、ナノファイバー層15への培養細胞の接着は、型枠40で固定した足場材料10を下底20と上蓋30で挟んで固定した後、細胞注入口のシートに注射器の針を刺し込んで注入する等して行うことができる。細胞注入口から培養細胞を注入すれば、下底20と上蓋30の開口の形状、該開口へのチューブ、顕微鏡等の接続状況に関わらず培養細胞の接着が可能である。また、下底20または上蓋30の一方の細胞注入口から培養細胞を注入する際、他方の細胞注入口や開口を利用して、細胞注入による与圧を調整することも可能である。なお、ナノファイバー層15への培養細胞の接着は、細胞注入口から培養細胞を注入する方法には限定されず、下底20と上蓋30で挟んで固定する前に行ってもよく、チューブ等を接続する前に下底20または上蓋30の開口から注射器等により行ってもよい。
以上の方法により、足場材料10が液密に封入されたモジュール1が得られる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
本実施例におけるナノファイバーの直径の測定方法は以下の通りである。
[ナノファイバー層の観察]
ナノファイバー層の観察には、日本電子(株)製の走査型電子顕微鏡JSM−6060Aを用いた。
【0066】
[ナノファイバーの単繊維の直径]
ナノファイバーの単繊維の直径は、得られたSEM写真を画像解析ソフト((株)プラネトロン製、Image−Pro Plus ver.4.5.0.24)を用いて画像解析することによって求めた。SEM写真のスケールに対して、画像解析のスケールが合うように調整した後、SEM写真中の任意の20本のナノファイバーの表面の幅を求め、その平均値をナノファイバーの単繊維の直径とした。
【0067】
[実施例1]
ナノファイバー層の形成は、カトーテック製のNEUナノファイバーエレクトロスピニングユニットを用いた。前記エレクトロスピニングユニットのドラム型のターゲットにアルミ箔を固定した。ナノファイバーを形成するポリマーとして、質量平均分子量(Mw)が約350000、アクリロニトリル含量が約97%のポリアクリロニトリル系重合体を用いた。このポリアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに10wt%になるように溶解して紡糸原液とした。この紡糸原液を18Gのノズル(ニードル)が取り付けられたシリンジ内に充填し、エレクトロスピニングを行ってアルミ箔上にナノファイバー層15Aを作製した。紡糸条件は、ターゲットである金属ドラムの周速度を1m/min、印加電圧を12kV、ノズル先端とターゲットの距離を100mmとし、紡糸時間を60分とした。
ナノファイバー層15AのSEM写真を
図7(A)、(B)に示す。ナノファイバー層15の厚みは約5μmであった。また、ナノファイバーの直径は、約200nmであった。
【0068】
中空糸膜として、親水化された多孔質中空糸膜(三菱レイヨンエンジニアリング製、EX270FS)(中空糸膜11a、13a)と、ガス分離機能を有する三層複合中空糸膜(三菱レイヨンエンジニアリング製、MHF200TL)(中空糸膜11b、13b)を用いた。
底枠41(縦35mm×横35mm、枠部分の幅10mm)に、中空糸膜13aを2mm間隔で配置し、次いで該中空糸膜13aに対して直交する方向に沿って中空糸膜13bを2mm間隔で配置した。この際、中空糸膜13aと中空糸膜13bで構成されるメッシュ部分は約15mm×15mmになるように配置し、底枠外の中空糸膜の端部を仮止めして中空糸膜メッシュ14を形成した(
図5(A))。
【0069】
次いで、中空糸膜メッシュ14上に、アルミ箔から剥離したナノファイバー層15Aを設置し、ポッティング樹脂(日本ポリウレタン工業(株)のコロネート(登録商標)4403とニッポラン(登録商標)4223を1/1(wt比)で調合したもの)により、ナノファイバー層15Aの四隅を角枠42に固定した(
図5(B))。さらにナノファイバー層15A上に、中空糸膜11bを2mm間隔で配置し、次いで該中空糸膜11bに対して直交する方向に沿って中空糸膜11aを2mm間隔で配置した。中空糸膜11aおよび中空糸膜11bはそれぞれ、隣り合う中空糸膜13a、13bの中間に位置するように、すなわち1/2ピッチずつずれるように設置して、中空糸膜メッシュ12を形成した(
図5(C))。これら中空糸膜11b、中空糸膜11aと、先に配置した中空糸膜13aと中空糸膜13bをポッティング樹脂により枠部分43で固定した。その後、中空糸膜メッシュ10上に上枠44を設置し、ポッティング樹脂で固定し、型枠40に固定された細胞培養足場材料10Aを得た(
図6(A))。
【0070】
次いで、中空糸膜メッシュ12、14における中空糸膜11aおよび13aと、中空糸膜11bおよび13bとをそれぞれ束ねて、シリコンチューブ50(長さ10mm)に通して結び、該シリコンチューブ50内にポッティング樹脂を充填して固定した後、型枠40の外側の中空糸膜部分をポッティング樹脂で覆って固定し、シリコンチューブ50よりも先の部分を切断して除去した。
この型枠40に固定された細胞培養足場材料10Aの写真を
図8に示す。
【0071】
次いで、型枠40に固定された細胞培養足場材料10Aを、細胞注入口および開口を有する2枚のアクリル板間にシリコンゴムからなるシートを配置した下底20と、下底20と同様に細胞注入口および開口を有する2枚のアクリル板間にシリコンゴムからなるシートを配置した上蓋30とで挟んで固定することで細胞培養用モジュール1Aを得た。
【0072】
[実施例2]
ナノファイバー層の作製において紡糸時間を120分に変更した以外は、実施例1と同様にしてナノファイバー層15Bを形成し、細胞培養足場材料1Bを形成した。
ナノファイバー層15BのSEM写真を
図9(A)、(B)に示す。ナノファイバー層15Bの厚みは約10μmであった。また、ナノファイバーの直径は、約200nmであった。
【0073】
本発明の細胞培養用モジュールは、モジュールがコンパクトであった。そのため、多検体、多条件の同時培養においても培養スペースをより小さくできる。また、中空糸膜を介して栄養やガスの供給および代謝老廃物の除去を行うため、高い効率で細胞培養を行うことができる。また、下底、上蓋(カバー)の開口にチューブ等を接続することで、特別な装置を用いなくても、栄養やガスの供給や老廃物の除去を3種以上の条件で、かつそれらの条件を独立に制御して行うことが容易である。さらに、細胞注入口から培養細胞を注入することで、開口にチューブや顕微鏡等が接続されている状態でも、ナノファイバー層への培養細胞の接着が容易に行える。
【0074】
<細胞培養>
以下、本発明の細胞培養用モジュールを用いた細胞培養について説明する。
[実施例3]
実施例1で製造した細胞培養用モジュール1Aを用いて、ヒト胎児肝細胞(Hc細胞、大日本住友製薬社製)の培養を32日間行った。該培養は、中空糸膜11a、31aを含む培地循環回路を形成し、該回路を用いて細胞培養用モジュール100A内にCS−C培地(Cell Systems社製)を6.8mL/hrで連続的に供給しながら行った。供給する前記CS−C培地の交換時期は、培地のpH(pH指示薬)とグルコース濃度(測定試薬:グルコースCII−テストワコー、和光純薬工業社製)の測定結果から判断し、培養開始から15、25、27、29、および31日目にそれぞれ新しい培地に交換した。また、培養開始から19日目からは、エアポンプにより中空糸膜11b、31bから細胞培養用モジュール100Aに空気を供給(約1L/min)しつつ培養を行った。
32日間の培養における細胞密度の変化を
図10に示す。細胞密度は、培地中のグルコース濃度の減少度合いから算出した。
図10中の破線は、空気の供給の開始時点を示す。また、培養後の細胞用足場材料における細胞形態を位相差倒立顕微鏡(ECLIPSE−TE300、Nikon社製)により観察した顕微鏡写真を
図11(観察倍率32倍)および
図12(観察倍率56倍)に示す。なお、
図11および
図12における(A)および(B)は、同一の細胞培養足場材料におけるそれぞれ別の部分を観察した写真である。
【0075】
[比較例1]
実施例3の培養との比較対象として、細胞培養足場材料1Aを用いた静置培養を行った。
実施例1で製造した細胞培養足場材料1Aを、35mm培養ディッシュ内のCS−C培地(Cell Systems社製)中に入れ、ヒト胎児肝細胞(Hc細胞、大日本住友製薬社製)を22日間、静置培養した。該培養は、細胞培養足場材料1A内部への物質移動を良好にするために、ディッシュを振盪しながら行った。前記CS−C培地の交換時期は、培地のpH(pH指示薬)とグルコース濃度(測定試薬:グルコースCII−テストワコー、和光純薬工業社製)の測定結果から判断し、6日目までは2日間隔、7〜10日目は1日間隔、11〜14日目は18時間間隔、15〜23日目は12時間間隔で交換した。
31日間の静置培養における細胞密度の変化を
図13に示す。細胞密度は、培地中のグルコース濃度の減少度合いから算出した。また、22日間の培養後の細胞用足場材料における細胞形態を位相差倒立顕微鏡(ECLIPSE−TE300、Nikon社製)により観察した顕微鏡写真を
図14(観察倍率56倍)に示す。また、22日後の細胞用足場材料上の細胞をホルマリンで固定した後、細胞骨格と核を染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した顕微鏡写真を
図15(観察倍率200倍)に示す。なお、
図14および
図15における(A)および(B)は、同一の細胞用足場材料におけるそれぞれ別の部分を観察した写真である。また、
図15においては、左上が細胞骨格を観察した写真、右上が核を観察した写真、左下が細胞用足場材料を観察した写真、右下が細胞骨格および核を観察した写真である。
【0076】
図10に示すように、本発明の細胞培養用モジュールを用いた実施例3の培養では、CS−C培地と空気を連続的に供給したことで、細胞密度の最大値が1.2×10
8cells/cm
3(培養開始後32日目に到達)と高密度になった。一方、
図13に示すように、比較例1の培養ディッシュによる静置培養では、細胞密度の最大値が1.9×10
7cells/cm
3(培養開始後20日目に到達)となった。このように、本発明の細胞培養用モジュールを用いて培地や空気を連続的に供給しながら行う培養は、静置培養と比較して約6倍の細胞密度が得られ、優れた細胞増殖促進能を示した。
【0077】
また、共焦点レーザー顕微鏡により、静置培養した細胞培養足場材料における細胞の核を観察した写真(
図15、右上)においては、核が重なって観察された。この結果から、静置培養における細胞培養足場材料に付着増殖した細胞は、ナノファイバー層の内部のファイバー間にまで入り込んで三次元的に増殖していることがわかった。一方、
図11、13および
図14に示すように、実施例3の培養および比較例1の静置培養のいずれの培養においても、細胞は細胞培養足場材料のナノファイバー層に同様に付着増殖していることが確認された。実施例3の培養と比較例1の静置培養における細胞培養足場材料は同じであり、実施例3の培養においても、細胞培養足場材料において、細胞は三次元的に増殖していると考えられる。