(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン、バナジウム、リン及びアルカリ金属を含むメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒の製造方法であって、
少なくともモリブデン及びリンを含むヘテロポリ酸を含む水性スラリー又は水溶液に、リン1モルあたり0.8〜2.5モルのアルカリ金属を含むアルカリ金属原料を添加する工程と、
触媒に使用するリン及び金属の全原料を混合後、リン1モルあたり0.5モル以上40モル以下のアンモニウム根が存在するように、アンモニウム根原料を添加する工程と、
を含み、
前記触媒が水難溶性成分と水可溶性成分とからなり、該触媒に含まれる全バナジウム原子の60モル%以上が該水可溶性成分に含まれるメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<メタクリル酸製造用へテロポリ酸系触媒>
本発明に係るメタクリル酸製造用へテロポリ酸系触媒は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン、バナジウム、リン及びアルカリ金属を含むメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒であって、該触媒が水難溶性成分と水可溶性成分とからなり、該触媒に含まれる全バナジウム原子の60モル%以上が該水可溶性成分に含まれる。
【0010】
本発明者らは、前記触媒の水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合を調整することで、触媒性能を大きく向上させることができることを見出した。この理由としては、触媒に含まれるバナジウム原子の状態がメタクリル酸の選択率に影響を及ぼしており、触媒に含まれる全バナジウム原子のうち水可溶性成分に含まれるバナジウム原子を60モル%以上とすることで、メタクリル酸を製造する反応に有効な化学構造を有する触媒が得られるためと推測している。
【0011】
本発明においてヘテロポリ酸系触媒とは、プロトン型へテロポリ酸及びヘテロポリ酸塩を含む触媒を示す。本発明に係るメタクリル酸製造用へテロポリ酸系触媒には、水可溶性成分であるプロトン型ヘテロポリ酸と、水難溶性成分であるヘテロポリ酸塩が存在する。また、ヘテロポリ酸(塩)以外にも、ヘテロポリ酸(塩)になり得なかった不純物も存在する。このヘテロポリ酸(塩)になり得なかった不純物の役割は明らかではないが、バナジウム原子がプロトン型ヘテロポリ酸を構成することでメタクリル酸の選択率、収率が向上すると考えられる。したがって、プロトン型ヘテロポリ酸中に存在するバナジウム原子の割合を増加させることで、メタクリル酸の選択率、収率を向上させることができる。
【0012】
本発明に係る触媒の製造方法の一例としては、後述するように、配位元素としてモリブデンを含むヘテロポリ酸塩と、配位元素としてバナジウムを含むプロトン型ヘテロポリ酸を別に調製し、乾燥前に混合する。これによりバナジウム原子はプロトン型ヘテロポリ酸を形成しやすくなり、メタクリル酸の選択率、収率が向上すると推測している。
【0013】
本発明に係る触媒の水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合は60モル%以上である。該割合が60モル%未満では、触媒をメタクリル酸製造に用いた場合に高いメタクリル酸選択率、収率を得ることができない。一方、該割合の上限は特に限定されず高い方が好ましい。
【0014】
なお、本発明において水難溶性成分、水可溶性成分とは、触媒0.1g及び純水50mlを超音波処理装置(BRANSONIC−42J、YAMATO製)を用いて超音波照射(37KHz)しながら30分間混合し、更に16000rpmで5分間遠心分離を行い、溶液中に溶解しない成分を水難溶性成分、溶液中に溶解する成分を水可溶性成分とする。
【0015】
また、水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合は、以下の方法により算出した値とする。まず、触媒0.1g、25〜28質量%アンモニア水0.5ml及び純水20mlを超音波処理装置(BRANSONIC−42J、YAMATO製)を用いて超音波照射(37KHz)しながら30分間混合し、試料が完全に溶解した溶液を調製する。続いて該溶液を希釈してICP発光分析法で分析することにより、触媒に含まれる全バナジウム量を測定する。また、水可溶性成分が含まれている前記遠心分離を行った溶液中のバナジウム量を同様にICP発光分析法で分析することにより測定する。該溶液中のバナジウム量と前記触媒に含まれる全バナジウム量との比から、水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合を算出する。
【0016】
前記アルカリ金属としては、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。この中でも、原料のアルカリ金属化合物の熱安定性の観点からセシウムが好ましい。
【0017】
本発明に係る触媒は、モリブデン、バナジウム、リン及びアルカリ金属を含む触媒であれば触媒組成は特に制限されないが、下記式(1)で表される組成を有することが好ましい。
【0018】
Mo
aP
bV
cCu
dX
eY
fO
g (1)
(式(1)中、Mo、P、V、Cu及びOはそれぞれモリブデン、リン、バナジウム、銅及び酸素を示す元素記号である。Xは、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Yは、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f及びgは、各元素の原子比を表し、a=12のとき、b=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0.01〜3、f=0〜3であり、gは、前記各元素の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比である。)。
【0019】
<メタクリル酸製造用へテロポリ酸系触媒の製造方法>
本発明に係る触媒は、下記工程(i)〜(v)の工程を含む方法により製造することができる。
(i)水中に少なくともモリブデン原料及びリン原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリー又は水溶液(A液)を調製した後、該A液に含まれるリン1原子当たり0.8〜2.5原子のアルカリ金属原子を含むアルカリ金属化合物を該A液に添加して、前記ヘテロポリ酸のプロトンの少なくとも一部がアルカリ金属イオンで置換されたヘテロポリ酸塩を析出させた水性スラリー(B液)を調製する工程
(ii)水中に少なくともモリブデン原料、リン原料及び該リン原料に含まれるリン1原子当たり1.2〜2.5原子のバナジウム原子を含むバナジウム原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリー又は水溶液(C液)を調製する工程
(iii)前記B液と前記C液とを混合し水性スラリーを調製する工程
(iv)前記工程(iii)の水性スラリーを乾燥して乾燥物を製造する工程
(v)前記工程(iv)の乾燥物を熱処理する工程。
【0020】
なお、前記工程(iv)と工程(v)の間又は工程(v)の後に、さらに乾燥物又は熱処理された乾燥物を成形する工程(成形工程)を有していてもよい。
【0021】
〔工程(i):B液調製工程〕
工程(i)は、A液調製工程とB液調製工程からなる。まず、A液調製工程について説明する。
【0022】
A液調製工程は、少なくともモリブデン原料及びリン原料を水中に添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリー又は水溶液(A液)を調製する工程である。該工程では、モリブデン原料及びリン原料以外の触媒原料を水中に添加してもよいが、該工程で添加する触媒原料は水難溶性成分となりやすいため、該工程においてバナジウム原料を添加する場合には、バナジウムの添加量は全バナジウムの40モル%未満であることが好ましい。バナジウムの添加量は全バナジウムの30モル%未満であることがより好ましく、20モル%未満であることが更に好ましく、10モル%未満であることが特に好ましく、該工程ではバナジウムを添加しないことが最も好ましい。また、前記式(1)に示す触媒組成とする場合には、銅原料は該工程において添加することが好ましい。
【0023】
モリブデン原料及びリン原料は、工程(i)、後述する工程(ii)の両方において添加するが、工程(i)で添加するモリブデン原料は、全モリブデン原料のうち40〜80モル%であることが好ましい。また、工程(i)で添加するリン原料は、全リン原料のうち40〜80モル%であることが好ましい。
【0024】
本発明において使用する触媒原料としては、各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物等が挙げられる。例えば、モリブデン原料としては、三酸化モリブデン、パラモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸、塩化モリブデン等が挙げられる。リン原料としては、正リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が挙げられる。バナジウム原料としては、リンバナドモリブデン酸、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム等が挙げられる。銅原料としては、硝酸銅、酸化銅、炭酸銅、酢酸銅等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0025】
A液の調製方法は、特に制限されないが、水に前記触媒原料を加え、加熱しながら攪拌する方法が簡便であるため好ましい。加熱温度はとくに制限されないが、80〜100℃が好ましく、90〜100℃がより好ましい。
【0026】
また、A液のpHは特に制限されないが、ケギン型ヘテロポリ酸が安定に存在できる3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。ケギン型へテロポリ酸を形成させることにより、特に低い反応温度において高選択率でメタクリル酸を得ることができる。A液のpHを3.0以下とするには、例えばモリブデン原料として三酸化モリブデンを使用する、硝酸イオン等を多く含むように各触媒原料を選択する等の方法が挙げられる。
【0027】
なお、A液中にヘテロポリ酸が形成されていることは、A液を乾燥させたものを赤外吸収分析で測定することにより確認することができる。ケギン型構造を有するヘテロポリ酸であれば、得られる赤外吸収スペクトルは1060、960、870、780cm
-1付近に特徴的なピークを有する。ドーソン型を有するヘテロポリ酸であれば、得られる赤外吸収スペクトルは、1040、1020、930、720、680cm
-1付近に特徴的なピークを有する。後の工程におけるヘテロポリ酸(塩)の生成確認も同様に行うことができる。
【0028】
次に、B液調製工程について説明する。B液調製工程は、A液に含まれるリン1原子当たり0.8〜2.5原子のアルカリ金属原子を含むアルカリ金属化合物をA液に添加して、前記ヘテロポリ酸のプロトンの少なくとも一部がアルカリ金属イオンで置換されたヘテロポリ酸塩を析出させた水性スラリー(B液)を調製する工程である。
【0029】
アルカリ金属化合物の添加量は、A液に含まれるリン1原子当たり、0.8〜2.5原子のアルカリ金属原子を含む量を添加する。前記添加量が0.8原子のアルカリ金属原子を含む量未満である場合、また、前記添加量が2.5原子のアルカリ金属原子を含む量をこえる場合、製造される触媒をメタクリル酸製造に用いた場合にメタクリル酸選択率、収率が低いため好ましくない。アルカリ金属化合物の添加量は、A液に含まれるリン1原子当たり、1.0〜2.3原子のアルカリ金属原子を含む量を添加することが好ましく、1.5〜2.3原子のアルカリ金属原子を含む量を添加することがより好ましい。
【0030】
アルカリ金属化合物としては、セシウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。前記式(1)で表される組成を有する触媒を製造する場合においては、アルカリ金属化合物はX元素の原料となる。アルカリ金属化合物としては、熱安定性の観点からセシウム化合物が好ましい。セシウム化合物としては、重炭酸セシウム、硝酸セシウム、酸化セシウム等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0031】
アルカリ金属化合物は、溶媒に溶解又は懸濁させたアルカリ金属化合物を含む溶液又はスラリーの状態でA液に添加することが好ましい。溶媒としては、水、エチルアルコール、アセトン等が挙げられるが、水性スラリー又は水溶液と同じ水を用いることが好ましい。
【0032】
A液にアルカリ金属化合物を添加する前に、A液を冷却することが好ましい。冷却温度は20〜80℃が好ましく、20〜60℃がより好ましい。
【0033】
B液のpHは、ケギン型ヘテロポリ酸が安定に存在できる3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。ケギン型へテロポリ酸を形成させることにより、特に低い反応温度において高選択率でメタクリル酸を得ることができる。pHの調節方法は、前記A液において予め低いpHに調節しておく方法が挙げられる。
【0034】
〔工程(ii):C液調製工程〕
工程(ii)では、水中に少なくともモリブデン原料、リン原料及び該リン原料に含まれるリン1原子当たり1.2〜2.5原子のバナジウム原子を含むバナジウム原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリー又は水溶液(C液)を調製する。工程(ii)では、モリブデン原料、リン原料及びバナジウム原料以外の触媒原料を添加してもよいが、C液中にヘテロポリ酸塩を生成させない観点からヘテロポリ酸と塩を形成するイオンを含む化合物を添加しないことが好ましい。例えば、工程(ii)において前記アルカリ金属化合物は添加しないことが好ましい。
【0035】
工程(ii)におけるバナジウム原料の添加量は、工程(ii)で添加するリン原料に含まれるリン1原子当たり1.2〜2.5原子のバナジウム原子を含む量を添加する。この範囲内で製造した触媒をメタクリル酸製造に用いた場合、高いメタクリル酸選択率、収率を示すためである。好ましくは、1.4〜2.3原子である。
【0036】
C液の調製方法は、水に各触媒原料を加え、加熱しながら攪拌する方法が簡便なため好ましい。加熱温度は80〜100℃が好ましく、90〜100℃がより好ましい。
【0037】
C液のpHは、ケギン型ヘテロポリ酸が安定に存在できる3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。pHを3.0以下とするには、例えばモリブデン原料として三酸化モリブデンを使用する、硝酸イオン等を多く含むように各触媒原料を選択する等の方法が挙げられる。
【0038】
〔工程(iii):B液、C液混合工程〕
工程(iii)では、B液とC液を混合し水性スラリーを調製する。
【0039】
B液とC液の混合時は攪拌することが好ましい。撹拌装置としては、回転翼撹拌機、高速回転剪断撹拌機(ホモジナイザー等)等の回転式撹拌装置、振り子式の直線運動型撹拌機、容器ごと振とうする振とう機、超音波等を用いた振動式撹拌機等の公知の撹拌装置が挙げられる。回転式撹拌装置における撹拌翼又は回転刃の回転速度は、液の飛散等の不都合が起きない程度に、容器、撹拌翼、邪魔板等の形状、液量等を勘案して適宜調整すればよい。撹拌は連続的又は断続的のいずれの方法で行ってもよいが、連続的に行う方が好ましい。
【0040】
撹拌時の混合液の温度は、20〜80℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。撹拌時間は5〜60分が好ましく、10〜30分がより好ましい。なお、混合はB液にC液を混合しても、C液にB液を混合してもよい。
【0041】
また、前記水性スラリーに含まれるリン1モル当たり、0.5モル以上、好ましくは3〜40モルのアンモニウム根が存在するように、工程(iii)で得られる水性スラリーにアンモニウム根原料を添加することが好ましい。このようにすることで、より性能の高い結晶構造を持つヘテロポリ酸を得ることができる。アンモニウム根原料としては特に限定されないが、例えば硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム等が挙げられる。アンモニウム根原料は水に溶解させて添加することが好ましい。
【0042】
〔工程(iv):乾燥工程〕
工程(iv)では、前記工程(iii)で得られた水性スラリーを乾燥して乾燥物を製造する。乾燥方法は特に限定されず、例えばスプレー乾燥法、ドラム乾燥法、蒸発乾固法、気流乾燥法等の公知の方法が挙げられる。乾燥は、通常、120〜500℃、好ましくは140〜350℃で、水性スラリーが乾固するまで行う。この際に使用する乾燥機の機種や乾燥温度等の条件は特に限定されず、所望する乾燥品の形状や大きさにより適宜選択することができる。
【0043】
〔成形工程〕
工程(iv)において得られた乾燥物はそのまま工程(v)において熱処理してもよいが、該乾燥物を賦型し、得られた賦型品を工程(v)において熱処理してもよい。また、該乾燥物を工程(v)において熱処理したものを賦型してもよい。乾燥物又は熱処理した乾燥物の賦型に用いる装置としては、打錠成形機、押出成形機、転動造粒機等の公知の粉体用成形機が挙げられる。賦型品の形状としては特に制限はなく、球状、リング状、円柱状、星型状等の任意の形状が挙げられる。
【0044】
〔工程(v):熱処理工程〕
工程(v)では、乾燥物又は乾燥物の賦型品を熱処理することで、触媒を得ることができる。熱処理条件としては特に限定されず、公知の熱処理条件を適用できる。熱処理は通常、空気等の酸素含有ガス流通下及び/又は不活性ガス流通下で、200〜500℃、好ましくは300〜450℃で、0.5時間以上、好ましくは1〜40時間で行う。なお、前記熱処理条件では通常そのままヘテロポリ酸(塩)として残存し、分解により水難溶性の酸化モリブデンが生成することはほとんどない。
【0045】
以上の方法により製造される本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する触媒として用いた場合に、メタクリル酸を高選択率、高収率で製造することができる。
【0046】
<メタクリル酸の製造方法>
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、本発明に係るメタクリル酸製造用へテロポリ酸系触媒又は本発明に係る方法により製造されるメタクリル酸製造用へテロポリ酸系触媒を用いて、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する方法である。
【0047】
具体的には、メタクロレイン及び分子状酸素を含む原料ガスと、本発明に係る触媒とを接触させることで、メタクリル酸を製造する。この反応は、通常、固定床で行う。また、触媒層は1層でもよく、2層以上でもよい。触媒は、担体に担持させたものであってもよく、その他の添加成分を混合したものであってもよい。
【0048】
原料ガス中のメタクロレインの濃度は、広い範囲で変えることができ、1〜20容量%が好ましく、3〜10容量%がより好ましい。メタクロレインは、水、低級飽和アルデヒド等の本反応に実質的な影響を与えない不純物を少量含んでいてもよい。原料ガス中の分子状酸素の濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4〜4モルが好ましく、0.5〜3モルがより好ましい。なお分子状酸素源としては、経済性の観点から空気が好ましい。必要ならば、空気に純酸素を加えて分子状酸素を富化した気体等を用いてもよい。
【0049】
原料ガスは、メタクロレイン及び分子状酸素源を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。さらに、原料ガスに水蒸気を加えてもよい。水の存在下で反応を行うことにより、メタクリル酸をより高選択率、高収率で得ることができる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1〜50容量%が好ましく、1〜40容量%がより好ましい。
【0050】
原料ガスと触媒との接触時間は、1.5〜15秒が好ましく、2〜5秒がより好ましい。反応圧力は、大気圧(0.1MPa−G)〜数気圧(例えば1MPa−G)が好ましい。反応温度は、200〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」は質量部を意味する。
【0052】
触媒組成は以下の方法で測定した。まず触媒0.1g、25〜28質量%アンモニア水0.5ml及び純水20mlを超音波処理装置(BRANSONIC−42J、YAMATO製)を用いて超音波照射(37Hz)しながら30分間混合し、試料が完全に溶解した溶液を調製した。続いて該溶液を適当な倍率に希釈してICP発光分析法で分析することによって、触媒組成を算出した。
【0053】
水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合は以下の方法で測定した。まず触媒0.1g及び純水50mlを超音波処理装置(BRANSONIC−42J、YAMATO製)を用いて超音波照射(37Hz)しながら30分間混合し、更に16000rpmで5分間遠心分離を行い水可溶性成分と水難溶性成分を分離した。続いて溶液中に含まれる水可溶性成分をICP発光分析法で分析し、前記触媒組成の測定で求められた触媒全体に含まれるバナジウム原子の量との比から、水可溶性成分に存在するバナジウム原子の割合を算出した。
【0054】
原料ガス及び生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。ガスクロマトグラフィーの結果から、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率及びメタクリル酸の収率を下記式にて求めた。
【0055】
メタクロレインの反応率(%)=(B/A)×100、
メタクリル酸の選択率(%)=(C/B)×100、
メタクリル酸の収率(%)=(C/A)×100。
【0056】
式中、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0057】
〔実施例1〕
純水200部に、三酸化モリブデン50部、85質量%リン酸水溶液3.7部及び硝酸銅1.5部を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌し、モリブデン、リン及び銅を含むヘテロポリ酸を含むA液を調製した。続いてA液を50℃まで冷却後回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、純水20部に溶解した重炭酸セシウム12.4部(リン:セシウムの原子比=1:2.0)を滴下してヘテロポリ酸塩を析出させ、B液を調製した。
【0058】
純水200部に、三酸化モリブデン50部、85質量%リン酸水溶液3.7部及びメタバナジン酸アンモニウム5.1部(リン:バナジウムの原子比=1:1.4)を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌し、モリブデン、バナジウム及びリンを含むヘテロポリ酸を含むC液を調製した。
【0059】
前記C液を50℃まで冷却後回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、前記B液を混合して15分間攪拌した後、純水20部に溶解した硝酸アンモニウム11.6部を滴下し更に15分間攪拌した。
【0060】
前記混合液を101℃に加熱し、攪拌しながら蒸発乾固させた。得られた乾燥物を130℃で16時間さらに乾燥させた後、加圧成形により賦型した。得られた賦型品を空気流通下に380℃で5時間熱処理した。
【0061】
得られた触媒の酸素を除く元素組成(以下同じ)は、次の通りであった。
【0062】
Mo
12P
1.1V
0.75Cu
0.11Cs
1.1
また前記触媒において、水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合は66モル%であった。
【0063】
前記触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の原料ガスを反応温度290℃、接触時間3.6秒で通じた。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析してメタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、及びメタクリル酸の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0064】
〔実施例2〕
純水280部に、三酸化モリブデン70部、85質量%リン酸水溶液5.1部及び硝酸銅1.5部を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌し、モリブデン、リン及び銅を含むヘテロポリ酸を含むA液を調製した。続いてA液を50℃まで冷却後回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、純水20部に溶解した重炭酸セシウム12.4部(リン:セシウムの原子比=1:1.4)を滴下してヘテロポリ酸塩を析出させ、B液を調製した。
【0065】
純水120部に、三酸化モリブデン30部、85質量%リン酸水溶液2.2部及びメタバナジン酸アンモニウム5.1部(リン:バナジウムの原子比=1:2.3)を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌し、モリブデン、バナジウム及びリンを含むヘテロポリ酸を含むC液を調製した。その後、実施例1と同様に触媒を製造した。
【0066】
得られた触媒の元素組成は、次の通りであった。
【0067】
Mo
12P
1.1V
0.75Cu
0.11Cs
1.1
また前記触媒において、水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合は64モル%であった。前記触媒を用いて実施例1と同様にメタクリル酸の製造を行った。結果を表1に示す。
【0068】
〔比較例1〕
純水400部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム5.1部、85質量%リン酸水溶液7.3部及び硝酸銅1.5部を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌し、モリブデン、バナジウム、リン及び銅を含むヘテロポリ酸を含む溶液を調製した。続いて該溶液を50℃まで冷却後回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、純水20部に溶解した重炭酸セシウム12.4部及び純水20部に溶解した硝酸アンモニウム11.6部を滴下してヘテロポリ酸塩を析出させ、更に15分間攪拌した。
【0069】
前記混合液を用いた以外は、実施例1と同様にして触媒を製造した。得られた触媒の元素組成は次の通りであった。
【0070】
Mo
12P
1.1V
0.75Cu
0.11Cs
1.1
また前記触媒において、水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合は55モル%であった。前記触媒を用いて実施例1と同様にメタクリル酸の製造を行った。結果を表1に示す。
【0071】
〔比較例2〕
純水140部に、三酸化モリブデン35部、85質量%リン酸水溶液2.6部及び硝酸銅1.5部を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌し、モリブデン、リン及び銅を含むヘテロポリ酸を含むA液を調製した。続いてA液を50℃まで冷却後回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、純水20部に溶解した重炭酸セシウム12.4部(リン:セシウムの原子比=1:2.9)を滴下してヘテロポリ酸塩を析出させ、B液を調製した。
【0072】
純水260部に、三酸化モリブデン65部、85質量%リン酸水溶液4.8部及びメタバナジン酸アンモニウム5.1部(リン:バナジウムの原子比=1:1.0)を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌し、モリブデン、バナジウム及びリンを含むヘテロポリ酸を含むC液を調製した。その後、実施例1と同様に触媒を製造した。
【0073】
得られた触媒の元素組成は、次の通りであった。
【0074】
Mo
12P
1.1V
0.75Cu
0.11Cs
1.1
また前記触媒において、水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合は49モル%であった。前記触媒を用いて実施例1と同様にメタクリル酸の製造を行った。結果を表1に示す。
【0075】
〔比較例3〕
C液の調製において、メタバナジン酸アンモニウムの添加量を3.0部(リン:バナジウムの原子比=1:0.8)とした以外は実施例1と同様に触媒を製造した。得られた触媒の元素組成は、次の通りであった。
【0076】
Mo
12P
1.1V
0.45Cu
0.11Cs
1.1
また前記触媒において、水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合は46モル%であった。前記触媒を用いて実施例1と同様にメタクリル酸の製造を行った。結果を表1に示す。
【0077】
〔実施例3〕
B液の調製において、重炭酸セシウムの添加量を4.9部(リン:セシウムの原子比=1:0.8)とした以外は実施例1と同様に触媒を製造した。得られた触媒の元素組成は、次の通りであった。
【0078】
Mo
12P
1.1V
0.45Cu
0.11Cs
0.44
また前記触媒において、水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合は46モル%であった。前記触媒を用いて実施例1と同様にメタクリル酸の製造を行った。結果を表1に示す。
【0079】
〔比較例4〕
純水302部に、三酸化モリブデン75.6部、85質量%リン酸水溶液5.5部及び硝酸銅1.5部を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌し、モリブデン、リン及び銅を含むヘテロポリ酸を含むA液を調製した。続いてA液を50℃まで冷却後回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、純水20部に溶解した重炭酸セシウム12.4部(リン:セシウムの原子比=1:1.3)を滴下してヘテロポリ酸塩を析出させ、B液を調製した。
【0080】
純水98部に、三酸化モリブデン24.4部、85質量%リン酸水溶液1.8部及びメタバナジン酸アンモニウム5.1部(リン:バナジウムの原子比=1:2.8)を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌し、モリブデン、バナジウム及びリンを含むヘテロポリ酸を含むC液を調製した。その後、実施例1と同様に触媒を製造した。
【0081】
得られた触媒の元素組成は、次の通りであった。
【0082】
Mo
12P
1.1V
0.75Cu
0.11Cs
1.1
また前記触媒において、水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合は54モル%であった。前記触媒を用いて実施例1と同様にメタクリル酸の製造を行った。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
以上の結果から、水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合が60モル%以上である実施例1〜3の触媒では、高い選択率、収率でメタクリル酸を製造することができた。一方、水可溶性成分に含まれるバナジウム原子の割合が60モル%未満である比較例1〜4の触媒では、実施例の触媒と比較していずれもメタクリル酸の選択率、収率が低かった。