【課題を解決するための手段】
【0025】
欠陥分布制御による欠陥フリー結晶の育成技術で問題となる生産性・歩留まりの低さを改善することを目的として、本発明者らは水素ドープ技術に着目し、検討を行った結果、以下の二つの結論に到達した。
【0026】
第1に、結晶中心部での温度勾配Gcを結晶外周部での温度勾配Geと同一かこれより大きくするように工夫されたホットゾーン構造を用いて、引上げ速度を徐々に低下させながら単結晶を成長させたときの結晶縦断面におけるOSF発生領域をU字形化する場合に、引上げ炉内に導入する不活性ガス中に微量の水素ガスを混入すると、その結晶縦断面における欠陥分布は、
図4に示すように、欠陥フリー化のための引上げ速度範囲B′−C′が、水素ノンドープのときの
図3中のB−Cに比べて結晶軸方向に拡大する。
【0027】
第2に、この引上げ速度範囲の拡大は、リングOSF発生領域が結晶中心部に消滅する臨界速度Voが上がることと、転位クラスタが発生する臨界速度Vdが低下することにより実現される。つまり、欠陥フリー化のための引上げ速度範囲B′−C′は、水素ノンドープのときの
図3中のB−Cに比べて高速側、即ち
図3中の上方、および低速側、即ち
図3中の下方へ拡大する。この現象を
図5により説明すると、以下の如くである。
【0028】
図5は引上げ速度とOSFリング径の関係に及ぼす欠陥分布の影響度を示している。図中、破線は結晶中心部での温度勾配Gcが結晶外周部での温度勾配Geより小さい場合、即ち、引上げ速度を徐々に低下させながら成長させた単結晶の縦断面におけるOSF発生領域の形状が下に凸のV字形の場合である。この場合は、引上げ速度が低下するにつれてOSFリング径が徐々に縮小し、臨界速度Voで0に収束する。
【0029】
実線(細線)は、結晶中心部での温度勾配Gcを結晶外周部での温度勾配Geと同一かこれより大きくした場合、即ち、引上げ速度を徐々に低下させながら成長させた単結晶の縦断面におけるOSF発生領域の形状をU字形状化した場合で、且つ水素ノンドープの場合である。この場合は、OSFリング径が縮小を開始する引上げ速度が低下し、その開始速度より急激に縮小が起こり、破線の場合とほぼ同じ臨界速度Voで0に収束する。即ち、臨界速度Voが一定のままでリング径の減少勾配が急になる。これにより、臨界速度Voの近傍で、結晶径方向全域で転位クラスタ及びCOPが存在しない欠陥フリーの単結晶が育成されるが、臨界速度Voが上がるわけではないので、低速引上げを強いられる。
【0030】
これに対し、実線(太線)は、結晶中心部での温度勾配Gcを結晶外周部での温度勾配Geと同一かこれより大きくした場合、即ち、引上げ速度を徐々に低下させながら成長させた単結晶の縦断面におけるOSF発生領域の形状をU字形状にした場合で、且つ水素ドープの場合である。この場合は、実線(細線)と比べて、リング径の減少勾配が急勾配のままで臨界速度がVoからVo′へ上がる。実線(細線)が高速側へ平行移動したのが実線(太線)である。
【0031】
このように、Grown−inフリー欠陥結晶の育成に水素ドープを組み合わせることにより、リングOSF領域が結晶中心部で消滅する臨界速度が上がり、これにより、as grownで結晶径方向全域に転位クラスタ及びCOPが存在しないGrown−in欠陥フリーの単結晶が、従来より高速の引上げにより育成可能となる。さらに、水素ドープにより、転位ククラスタの発生する下限の引き上げ速度VdがVd′に低下することにより、欠陥フリー化のための引上げ速度範囲がB−CからB′−C′に広がる結果、無欠陥結晶が安定して育成可能となり、Grown−in欠陥フリー結晶の製造歩留まりが著しく向上する。
【0032】
水素ドープを組み合わせることにより欠陥フリー化のための引上げ速度範囲が拡大する理由、すなわちリングOSFの臨界速度Voが増大し、転位クラスタが発生する臨界速度Vdが低下する理由は以下のように考えられる。
【0033】
1300〜1390℃の高温水素中でシリコンウェーハを熱処理し急冷した場合、空孔または格子間シリコンと水素が反応し空孔−水素または格子間シリコン−水素複合体が形成される(文献1:末澤正志 1999年6月3日 応用物理学会結晶工学分科会第1100回研究会テキスト P11)。従って、水素を含む不活性雰囲気中でCZ結晶を育成した場合、結晶冷却過程のCOP(約1100℃)または転位クラスタ(約1000℃)等のGrown−in欠陥が形成される温度よりも高温部において、シリコン結晶中で過剰に存在する空孔または格子間シリコンと水素が反応し、空孔−水素または格子間シリコン−水素などの複合体が形成されるために、空孔および格子間シリコンの濃度が低下することになる。このために、空孔や格子間シリコンの凝集は抑制され、COPおよび転位クラスタのない、またはサイズが小さいCZ結晶が育成できることになる。
【0034】
しかし、水素を含む不活性雰囲気中でV/Gが充分大きい空孔優勢条件下でCZ結晶を育成するとき、水素濃度が高くなると水素欠陥と呼ばれる大きさ数μm〜数10μmの巨大空洞(空孔の凝集体と考えられる)ができ(文献2:E.Iino、K.Takano、M.Kimura、H.Yamagishi:Material Science and Engineering B36(1996)146-149及び文献3:T.H.Wang、T.F.Ciszk、and T.Schuyler:J.Cryst.Growth 109(1991)155-161)、またV/Gが充分小さい格子間シリコン優勢条件下では、格子間シリコン型の水素欠陥(格子間シリコンの凝集体と考えられる転位対)ができることが知られている(文献4:Y.Sugit:Jpn.J.Appl.Phys 4(1965)p962)。
【0035】
このため、引き上げ速度をリングOSF領域の発生する臨界速度以下に低下させなくても、水素を十分含む雰囲気中でCZ法で引き上げた場合、COPの生成を抑制できるが、巨大空洞が発生するために半導体用のウェーハとして使えないことになる。また、低速引き上げの場合にも、転位クラスタの生成は抑制されるが、転位対の発生によって半導体用のウェーハとして使えないことになる。
【0036】
図6は、CZ結晶育成時の結晶中心部における1100℃以上の温度での、空孔および格子間シリコンの濃度CvおよびCiと引き上げ速度Vと固液界面近傍での結晶側の温度勾配Gとの比V/Gとの関係であり、水素が結晶中に存在する場合のCOPおよび転位クラスタの生成抑制効果を示している。この図を用いて、COPおよび転位クラスタの生成が抑制される理由を説明する。ここで、Vo、Vc及びVdはそれぞれリングOSF領域、COP及び転位クラスタが結晶中心部または径方向の一部に生成し始める臨界速度であり、Cv−OSF、Cv−COP及びCi−Dislは、それぞれOSFリング領域、COP及び転位クラスタが生成する臨界点欠陥濃度を示す。
【0037】
Grown−in欠陥フリー結晶が育成できるように結晶径方向にV/Gが、Gc≧Geの関係を満たすように設計されたホットゾーンからなるCZ炉を用いて、結晶を育成する場合、引き上げ速度をVoより大きくした場合(
図6の〔H2〕=0の場合)、空孔が優勢な点欠陥種であるCOPが通常発生する。しかしながら、水素を含む雰囲気中でCZ結晶を育成する場合(
図6のH1、H2の場合)には、空孔と水素が複合体を形成するため、自由な空孔の濃度は低下する。この自由空孔の濃度の低下は結晶中の水素濃度に依存し、水素濃度が増大するほど空孔濃度の低下は大きくなる。このため、水素が存在する場合、OSFリングが生成するための引き上げ速度VoはVo′、Vo″のように高速側にシフトし、COPが生成するための引き上げ速度VcもVc′のように高速側にシフトすることになる。
【0038】
一方、引き上げ速度をVdよりも小さくした場合(
図6の〔H2〕=0の場合)には、格子間シリコンが優勢な点欠陥種となり、格子間シリコンの濃度はCi>Ci−dislとなり、格子間シリコンの2次欠陥として転位クラスタが通常発生する。しかし、水素を含む雰囲気中で育成する場合(
図6の〔H2〕=H1またはH2場合)には、格子間シリコンと水素が複合体を形成するために、自由な格子間シリコンの濃度が低下する。従って、転位クラスタを生成するための引き上げ速度Vdは、臨界濃度Ci−dislと一致するように、より低速側のVd′又はVd″にシフトすることになる。
【0039】
図6の〔H2〕=H1のように水素濃度が相対的に低い場合、V/Gが充分大きくなると、空孔濃度がCOPを生成するための臨界濃度Cv−COPよりも高くなるために、COPの生成は完全には抑制されないが、水素が存在しない場合よりも空孔濃度が低下するために、COPのサイズは小さくなる。
【0040】
さらに、
図6の〔H2〕=H2のように水素濃度が相対的に高くなると、空孔濃度がCv−COPよりも低くなり、引上げ速度を可能な範囲で増大させても、COPは形成されなくなる。
【0041】
OSFリング発生の臨界速度Vo′またはVo″以下、および転位クラスタ発生の臨界速度Vd′またはVd″以上の引き上げ速度の範囲では、空孔および格子間シリコンの濃度は十分低いので、COPおよび転位クラスタは発生せず、さらに巨大空洞である空孔型の水素欠陥、または転位対である格子間シリコン型の水素欠陥も発生することはない。また、水素をドープしない場合よりも、Grown−in欠陥フリーとなる引き上げ速度の範囲(マージン)が顕著に拡大するので、無欠陥結晶をより安定に高歩留まりで育成することができる。
【0042】
またOSFリングが閉じる臨界V/G条件よりもV/Gが大きいが比較的近い場合には、リングOSFは結晶中心部で閉じずCOPがその内側領域に発生するが、そのサイズは水素ドープによって空孔濃度が低下するために小さくなる。また、この場合にも、空孔濃度が充分に低いために巨大空洞を発生することはない。
【0043】
本発明はかかる知見を基礎にして完成されたものであり、そのシリコンウェーハは、水素を含む不活性雰囲気中でCZ法により育成されたシリコン単結晶のウェーハであり、as grown状態、即ち引き上げたままの熱処理を受けない状態で、ウェーハ厚さ方向全域で結晶径方向の全域にCOPを含まない完全Grown−in欠陥フリーウェーハか、若しくはサイズが0.1μm以下のCOPが結晶径方向の少なくとも一部に存在する準Grown−in欠陥フリーウェーハである。
【0044】
いずれのGrown−in欠陥フリーウェーハも、as grown状態で、ウェーハ厚さ方向全域で結晶径方向の全域に転位クラスタを含まないことは言うまでもない。
前記Grown−in欠陥フリーウェーハは、表面から1μm以上の深さの部分に前記COPまたはボイドを含まないか、リングOSF発生領域が結晶径方向の一部に存在するか又は結晶中心部で消滅したことができる。このシリコンウェーハをベースウェーハとしたSIMOX型、又は活性層側ウェーハとした貼り合わせ型のSOI基板とすることもできる。
【0045】
水素を含む不活性雰囲気中で育成時のシリコン単結晶中の水素濃度は、雰囲気中の水素分圧によって制御できる。水素の結晶への導入は、雰囲気中の水素がシリコン融液に溶解して定常(平衡)状態となり、さらに、結晶へは凝固時に濃度偏析によって液相と固相中の濃度が分配される。
【0046】
融液中の水素濃度は、ヘンリーの法則から気相中の水素分圧に依存して決まり、
P
H2=kC
LH2
と、表される。ここで、P
H2は雰囲気中の水素分圧、C
LH2はシリコン融液中の水素濃度、kは両者の間の係数である。
【0047】
一方、結晶中の濃度は融液中濃度と偏析の関係で決まり、
C
SH2=k′C
LH2=(k′/k)P
H2
と、表される。ここで、C
SH2は結晶中の水素濃度、k′は水素のシリコン融液−結晶間の偏析係数である。
【0048】
以上から、凝固直後の結晶中水素濃度は雰囲気中の水素分圧を制御することで結晶の軸方向に一定に所望する濃度で制御できる。
【0049】
リングOSF発生領域については、結晶径方向の一部にこれが存在していてもよいし、結晶中心部で消滅していてもよい。
【0050】
本発明のシリコンウェーハは、PW(Polished Wafer、鏡面ウェーハ)に使用できる他、SIMOX型SOIウェーハ、又は貼り合わせ型SOIの活性層側ウェーハとしても使用できる。
【0051】
as grownで結晶径方向の全域にCOPが含まれない完全Grown−in欠陥フリーのウェーハの場合は必要ないが、サイズが0.1μm以下に制限されたCOPが含まれる準Grown−in欠陥フリーウェーハの場合は、1100〜1200℃×1hr以上の水素アニール、又はアルゴンアニールといったCOPフリー化アニールにより、表面から1μm以上の深さの部分でCOPを除去するのが好ましい。
【0052】
本発明のシリコン単結晶育成方法は、結晶中心部での温度勾配Gcが結晶外周部での温度勾配Geと同一かこれより大きくなるホットゾーン構造を用いて、シリコン融点から1370℃までの軸方向温度勾配が、単結晶中心部(Gc)で3.0〜3.2℃/mmであり、周辺部(Ge)では2.3〜2.5℃/mmとしてCZ法によりシリコン単結晶を育成する際に
、3体積%
超8体積%以下の水素を含む不活性ガスを引上げ炉内に供給することでGrown−in欠陥フリー化ができる引き上げ速度範囲の上限と下限を水素を含まないときに比べて拡大し、且つ、リングOSF発生領域が結晶中心部で消滅する臨界速度の近傍で結晶引上げを行うとともに、拡大した範囲内で、COPが発生する空孔優勢領域が結晶径方向全域において消滅する引き上げ速度を上限とし、転位クラスターが発生する格子間シリコン優勢領域が結晶径方向の一部に発生する引き上げ速度を下限として、結晶径方向の全域にCOP及び転位クラスターを含まない完全Grown−in欠陥フリー結晶とする範囲内に引き上げ速度を制御することを特徴とする
。
本発明のシリコン単結晶育成方法は、結晶中心部での温度勾配Gcが結晶外周部での温度勾配Geと同一かこれより大きくなるホットゾーン構造を用いて、CZ法によりシリコン単結晶を育成する際に、3体積%以上8体積%以下の水素を含む不活性ガスを引上げ炉内に供給することでGrown−in欠陥フリー化ができる引き上げ速度範囲(マージン)を水素を含まないときに比べて拡大し、且つ、リングOSF発生領域が結晶中心部で消滅する臨界速度の近傍で結晶引上げを行うことができる。
本発明のシリコン単結晶育成方法は、シリコン融点から1370℃までの軸方向温度勾配は、単結晶中心部(Gc)で3.0〜3.2℃/mmであり、周辺部(Ge)では2.3〜2.5℃/mmであることができる。
【0053】
また、本発明のシリコン単結晶製造方法は、結晶中心部での温度勾配Gcが結晶外周部での温度勾配Geと同一かこれより大きくなるホットゾーン構造を用いて、CZ法によりシリコン単結晶を育成する際に、水素を含む不活性ガスを引上げ炉内に供給し、且つ、リングOSF発生領域が結晶中心部で消滅する臨界速度の近傍で結晶引上げを行うものである。
【0054】
水素でトラップされた空孔(水素−空孔複合体)は、その後、酸素析出物の形成反応の自由エネルギーを低下させるために、酸素析出を促進させ、また、さらに巨大空洞を形成する可能性がある。リングOSFが発生する臨界速度よりも充分速い育成条件では、V/Gが充分大きくなるために、凝固時に導入される空孔濃度が高い。このために、水素でトラップされた水素−空孔複合体によって高温で安定な析出核が生成し、デバイスの熱処理により成長して表層近傍に強固な析出物として残留したり、酸化熱処理でOSFを発生させるために、デバイス特性の劣化を招く恐れがある。また、V/Gが十分大きく、かつ、水素濃度が高い場合には、さらに巨大空洞が発生するが、もちろんこのようなウェーハは、半導体用のウェーハとして適切でないことは言うまでもない。このような、安定酸素析出核や巨大空洞の生成を防止するためには、導入される空孔濃度を低くする必要があり、このためにV/Gが相対的に小さくなるリングOSF領域発生の臨界引き上げ速度近傍に制御する必要がある。
【0055】
この方法により、結晶径方向全域で転位クラスタ及びCOPが存在しない完全Grown−in欠陥フリーの単結晶、若しくはCOPが存在してもそのサイズが0.1μm以下に制限された準Grown−in欠陥フリーの単結晶が、従来より高速で、かつ極めて広い速度範囲(マージン)の引上げにより能率的にかつ安定的に育成される。
【0056】
臨界速度の近傍とは、定性的には、結晶径方向の全域に転位クラスタ及びCOPを含まない完全Grown−in欠陥フリー結晶が得られる引上げ速度であって、
図4中のB′−C′であるが、COPサイズが0.1μm以下に制限される範囲内であれば、これより若干高い引上げ速度でもよい。
【0057】
定量的には、臨界速度をVoとして約1.7倍程度(1.7Vo)の引き上げ速度であるが、COPの密度とサイズはV/Gと1100℃近傍の冷却速度に依存し、CZ炉の熱的環境に依存するため一義的に決めることはできない。この範囲より低速であると転位クラスタが発生し、高速である場合はサイズが0.1μmを超える過大なCOPと高温安定な酸素析出核が発生する。さらに、水素濃度が相対的に高くなると巨大空洞も発生する。
【0058】
水素ガス添加量については、不足すると臨界速度を上げる効果が不十分となり、多くすると炉内に空気がリークしたときに、燃焼、更には爆ごうを生じる危険性が生じる。このため下限については0.1体積%以上が好ましく、3体積%以上が特に好ましい。0.1%以下では水素の効果がほとんどなく、また3%未満で0.1%以上では水素の効果はある程度あるが、十分ではない。上限については、使用する不活性ガスによる希釈限界できまる水素濃度(約10体積%)以下が好ましく、特に8体積%以下が特に好ましい。この場合、仮に空気が炉内にリークして流入したとしても、燃焼することはなく、安全な操業が可能である。
【0059】
また、本発明のシリコンウェーハ製造方法は、本発明のシリコン単結晶製造方法により製造された高品質で経済的な単結晶からシリコンウェーハを採取するものであり、シリコンウェーハの品質及び経済性を高い次元で両立させることができる。
【0060】
採取されたシリコンウェーハがサイズ0.1μm以下のCOPを含む準Grown−in欠陥フリーウェーハの場合は、1100〜1200℃×1hr以上の水素アニール、又はアルゴンアニールといったCOPフリー化アニールにより、表面から1μm以上の深さの部分でCOPを除去するのが好ましいのは、前述したとおりである。
【0061】
また、完全Grown−in欠陥フリー又は準Grown−in欠陥フリーの単結晶から採取されたウェーハはPW(Polished Wafer、鏡面ウェーハ)に使用できる他、SIMOX型SOI基板のベースウェーハに、又は貼り合わせ型SOI基板の活性層側のウェーハに使用できることも前述のとおりである。
【0062】
なお、結晶中心部での温度勾配Gcが外周部での温度勾配Geより小であり、引上げ速度を徐々に低下させながら成長させた単結晶の縦断面におけるOSF発生領域が、下方に尖ったV字形状になる通常のホットゾーン構造を用いて、臨界速度近傍で引上げを行う場合に水素ドープを組み合わせると、以下のようになり、本発明が狙う効果は得られない。
【0063】
Ge>Gcの場合にも、水素の効果によって、リングOSF発生領域およびCOPが結晶中心部で発生し始める臨界速度Vo、Vcは増大し、転位クラスタが結晶の一部に発生しはじめる臨界速度Vdは低下する。従って、Ge>Gcであっても両者が比較的近い場合には、COPや転位クラスタの無い完全Grown−in欠陥フリー結晶が得られる場合もあるが、引き上げ速度のマージンは、Ge≦Gcを満たす場合に比較すると極めて狭く、安定して欠陥フリーの結晶を製造できない。また、Ge>GcでGeとGcの差が大きい場合には、たとえ水素を添加しても欠陥フリーとなる速度マージンは得られない。