特許第5691636号(P5691636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5691636二次電池の電解液噴出防止材、電解液噴出防止システムおよびこれを用いた二次電池システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5691636
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】二次電池の電解液噴出防止材、電解液噴出防止システムおよびこれを用いた二次電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/12 20060101AFI20150312BHJP
【FI】
   H01M2/12 106
   H01M2/12 101
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-39746(P2011-39746)
(22)【出願日】2011年2月25日
(65)【公開番号】特開2012-178249(P2012-178249A)
(43)【公開日】2012年9月13日
【審査請求日】2014年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】和田 真一
(72)【発明者】
【氏名】小布施 洋
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/029669(WO,A1)
【文献】 特開2011−124201(JP,A)
【文献】 特開2012−190768(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/070816(WO,A1)
【文献】 特開2011−090929(JP,A)
【文献】 特開2007−012485(JP,A)
【文献】 特開平09−035703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極が電解液とともに封入された筐体と、前記筐体の内圧上昇時に前記筐体内部の高圧ガスを逃がすための防爆弁とを備える二次電池の異常時に噴出する電解液を吸収するための二次電池の電解液噴出防止材であって、
二酸化ケイ素と酸化マグネシウムを主体とする結晶性化合物である無機多孔質素材からなり、
前記無機多孔質素材が、粉体の成形品であることを特徴とする二次電池の電解液噴出防止材。
【請求項2】
前記無機多孔質素材は、20〜60%の二酸化ケイ素を含有することを特徴とする請求項1に記載の電解液噴出防止材。
【請求項3】
前記無機多孔質素材は、比表面積が100〜1000m/gであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解液噴出防止材。
【請求項4】
前期無機多孔質素材が、50〜2000μmの平均粒子径を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電解液噴出防止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の異常時に電池内部で発生する電解液蒸気の外部への噴出を防止する機能を備えた噴出防止材、その噴出防止材を備えた電解液噴出防止システムおよびこの電解液噴出防止システムを用いた二次電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池では、過充電や短絡等の異常時に内部の温度が上昇し、それに伴い電解液が蒸発して内圧も上昇し、電池ケースが破損するなどの危険性を有する。そのため、非水電解質二次電池は、防爆弁を備え、万一所定の内圧を超えた場合でも、防爆弁から電解液の蒸気を外部へ噴出させるような仕組みとなっている。しかしながら、それらの電解液は可燃性のものや有毒なものを大量に含むため、それらを外部へ噴出させない噴出防止技術が様々開発されている。
【0003】
この噴出防止技術として、例えば、特許文献1には、二次電池を備えた二次電池パックにフィルタ部を設け、このフィルタ部において二次電池から噴出した可燃性物質の電解液の蒸気を吸着することにより、電解液の外部への噴出を防止する技術が開示されている。また、特許文献2には、二次電池の内部に電解液噴出防止材を包含したガス吸収素子を設けることにより、電池内圧の上昇を長期間安定して抑制することによりガス等の噴出を防止する技術が開示されている。さらに、特許文献3には、電池外部へ噴出した電解液をスポンジや多孔紙材などの吸収体を用いて吸収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−228610号公報
【特許文献2】特開2003−77549号公報
【特許文献3】特開平9−35703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、異常時に非水電解質型二次電池から噴出する電解液の蒸気やミストは非常に高温で噴出量も多いため、特許文献2に記載された従来の電解液噴出防止材では性能が不十分である、という問題点があった。
【0006】
一方、その他の吸着材としてゼオライトや一般的な多孔質素材、イオン交換樹脂等を用いることも検討されているが、電解液の吸収量が少なく、噴出を完全に防止できないため、発火、発煙、異臭などの問題が発生する恐れがある。
【0007】
また、特許文献1に記載されたフィルタ部や特許文献3に記載されたスポンジや多孔紙材などの吸収体により二次電池の外部へ噴出した電解液を吸収させる技術では、十分な漏えい防止効果は期待できない、という問題点があった。
【0008】
さらに、非水電解質型二次電池はモバイル機器や自動車等、設置スペースの限られたものに適用されることが多いため、電解液の蒸気の吸収性能が高いことに加え、コンパクトかつ低コストであることが要求される。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、非水電解質型二次電池から噴出する電解液分解を省スペース、低コストで効率よく吸収することができる二次電池の電解液噴出防止材を提供することを目的とする。また、本発明は、この電解液噴出防止材を用いた電解液噴出防止システムおよびこれを用いた二次電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、正極及び負極が電解液とともに封入された筐体と、前記筐体の内圧上昇時に前記筐体内部の高圧ガスを逃がすための防爆弁とを備える二次電池の異常時に噴出する電解液を吸収するための二次電池の電解液噴出防止材であって、二酸化ケイ素および酸化マグネシウムを主体とする無機多孔質素材からなることを特徴とする二次電池の電解液噴出防止材を提供する(発明1)。
【0011】
かかる発明(発明1)によれば、二酸化ケイ素および酸化マグネシウムを主体とする無機多孔質素材は、二次電池の筐体内に封入されているエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、あるいはジメチルカーボネートなどの可燃性の電解液の蒸気(気化物)を迅速に、かつ高い吸収率で吸収するので、二次電池の異常時などに防爆弁から電解液の蒸気が外部に噴出するのを防止することができる。しかも、電解液噴出防止材の量が少なくて済むので、二次電池システムのコンパクト化を図ることができる。
【0012】
上記発明(発明1)においては、前記無機多孔質素材は、20〜60重量%の二酸化ケイ素を含有するのが好ましい(発明2)。
【0013】
かかる発明(発明2)によれば、二次電池の筐体内に封入されている可燃性の電解液の蒸気を細孔内に捕捉してより迅速に吸収することができる。
【0014】
上記発明(発明1,2)においては、前記無機多孔質素材は、比表面積が100〜1000m/gであるのが好ましい(発明3)。
【0015】
かかる発明(発明3)によれば、無機多孔質素材と電解液の蒸気との接触面積を十分に確保することができるので、高い吸収率を維持することができる。
【0016】
上記発明(発明1〜3)においては、前記無機多孔質素材は、50〜2000μmの平均粒子径を有するのが好ましい(発明4)。また、上記発明(発明1〜4)においては、前記無機多孔質素材が、粉体の成形品であるのが好ましい(発明5)。
【0017】
かかる発明(発明4,5)によれば、無機多孔質素材と噴出した電解液の蒸気との接触効率を良好なものとすることができるので、電解液の噴出防止効果を高い水準に維持することができる。
【0018】
第二に本発明は、発明1から5に記載の電解液噴出防止材を使用したことを特徴とする電解液噴出防止システムを提供する(発明6)。
【0019】
かかる発明(発明6)によれば、二酸化ケイ素および酸化マグネシウムを主体とする無機多孔質素材は、二次電池の筐体内に封入されているエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、あるいはジメチルカーボネートなどの可燃性の電解液の蒸気を迅速に、かつ高い吸収率で吸収するので、二次電池の異常時などに防爆弁から電解液の蒸気が外部に噴出するのを防止することができる。
【0020】
さらに、第三に本発明は、発明6に記載の電解液噴出防止システムを備えたことを特徴とする二次電池システムを提供する(発明7)。
【0021】
かかる発明(発明7)によれば、二酸化ケイ素および酸化マグネシウムを主体とする無機多孔質素材は、二次電池の筐体内に封入されているエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、あるいはジメチルカーボネートなどの可燃性の電解液の蒸気を迅速に、かつ高い吸収率で吸収するので、二次電池の異常時などに防爆弁から電解液の蒸気が外部に噴出するのを防止することができる。しかも、電解液噴出防止材の量が少なくて済むので、二次電池システムのコンパクト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、正極及び負極が電解液とともに封入された筐体と、前記筐体の内圧上昇時に前記筐体内部の高圧ガスを逃がすための防爆弁とを備える二次電池の異常時に噴出する電解液の蒸気を吸収する電解液噴出防止材として、二酸化ケイ素および酸化マグネシウムを主体とする無機多孔質素材からなるものを用いるので、二次電池の筐体内に封入されているエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、あるいはジメチルカーボネートなどの可燃性の電解液の蒸気を迅速に、かつ高い吸収率で吸収するので、二次電池の異常時などに防爆弁から電解液の蒸気が外部に噴出するのを防止することができる。しかも電解液噴出防止材は吸収量が多いのでその充填量が少なくてすむので、二次電池システムのコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質型二次電池を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る非水電解質型二次電池の内部構造を概略的に示す断面図である。
図3】電解液噴出防止材の試験装置を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、本実施形態はいずれも例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
図1及び図2は本実施形態の電解液噴出防止材を適用可能な非水電解質型二次電池を示している。図1及び図2において、リチウムイオン電池等の非水電解質型二次電池Eは、正極端子1及び負極端子2と、電池ケース(筐体)3と、この電池ケース3の外周面に形成された防爆弁4とを備え、電池ケース3の内部に電極体10を収納する。電極体10は、図2に示すように正極集電体11及び正極用電極板12と、負極集電体13及び負極用電極板14とを有し、正極用電極板12と負極用電極板14とは、それぞれセパレータ15を介して巻回した構造を有する。そして、正極端子1は正極用電極板12に、負極端子2は、負極用電極板14にそれぞれ電気的に接続されている。筐体としての電池ケース3は、例えば、アルミニウム製またはステンレス製の角型電池槽缶である。
【0026】
このような非水電解質型二次電池において、防爆弁4は、電池ケース3内の圧力が上昇した際に、外部へその圧力を開放する役割がある。この防爆弁4は、リチウムイオン電池の場合、一般的に約0.5〜1.0MPaで開くように設計されている。
【0027】
正極用電極板12は、両面に正極合剤を保持させた集電体である。例えば、その集電体は厚さ約20μmのアルミニウム箔であり、ペースト状の正極合剤は、遷移金属のリチウム含有酸化物であるリチウムコバルト酸化物(LiCoO)に結着材としてポリフッ化ビニリデンと導電材としてアセチレンブラックとを添加後混練したものである。そして、正極用電極板12は、このペースト状の正極合剤をアルミニウム箔の両面に塗布後、乾燥、圧延、帯状に切断の手順で得られる。
【0028】
負極用電極板14は、両面に負極合剤を保持させた集電体である。例えば、その集電体は厚さ10μmの銅箔であり、ペースト状の負極合剤は、グラファイト粉末に結着材としてポリフッ化ビニリデンを添加後混練したものである。そして、負極用電極板14はこのペースト状の負極合剤を銅箔の両面に塗布後、乾燥、圧延、帯状に切断の手順で得られる。
【0029】
セパレータ15としては、多孔膜を用いる。例えば、セパレータ15は、ポリエチレン製微多孔膜を用いることができる。また、セパレータに含浸させる電解液は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及びジメチルカーボネート(DMC)を1:1:1(容積比)の割合で混合した混合液に1mol/Lの六フッ化リン酸リチウムを添加したものを用いることができる。
【0030】
このような非水電解質型二次電池Eの防爆弁4に隣接して、カートリッジケース(図示せず)を設け、このカートリッジケース内に電解液噴出防止材を収容する。カートリッジケースの材料としては、SUS、Al、Al合金、Mg合金、Ti合金等に代表される金属材料、フッ素系樹脂等の高耐食性材料、ポリプロピレン、カーボンファイバ等の軽量材料、及びこれらの複合材料が挙げられる。
【0031】
電解液噴出防止材は、カートリッジケース内に満杯に充填するよりも、例えば、10〜50容積%程度の空間を設けて充填することが好ましい。充填率が50容積%未満では電解液噴出防止材が少なすぎるため、十分な電解液の捕集効果が得られない可能性がある一方、充填率が90容積%を超えると、可燃性の電解液の蒸気の拡散性が悪くなり、電解液噴出防止材との接触効率が低くなるために、電解液の噴出防止効果が低くなる恐れがある。
【0032】
本実施形態においては、電解液噴出防止材を構成する無機多孔質素材として、二酸化ケイ素と酸化マグネシウムを主体とする結晶性化合物を用いる。具体的には、二酸化ケイ素と酸化マグネシウムが主体であるケイ酸・マグネシウム複合多孔質粉体である。無機多孔質素材は、二酸化ケイ素を20〜60重量%、特に50〜60重量%含有するのが好ましい。二酸化ケイ素が20重量%未満では、可燃性の電解液の蒸気の吸収率が低下する一方、60を超えると電解液の蒸気の吸収速度が低下するため好ましくない。無機多孔質素材における酸化マグネシウムの含有率は、10〜40重量%、特に25〜35重量%であるのが好ましい。なお、この無機多孔質素材は、二酸化ケイ素と酸化マグネシウム以外の残部として、アルミニウム、チタン及びカルシウムなどの元素あるいはイオンを10〜20重量%程度含んでいてもよい。また、その他結晶水等の水分を含んでいてもよい。
【0033】
上述したような無機多孔質素材は、必要に応じて活性化処理を行うことができる。この活性化処理は、例えば80〜200℃、特に100〜150℃で加熱することにより、無機多孔質素材の細孔内に含まれる水分を除去すればよい。活性化処理温度が80℃未満では、無機多孔質素材の細孔内に含まれる水の除去率が低くなってしまう恐れがある一方、200℃を超えて加熱して活性化を行った場合、細孔を構成する水分子の脱離が起こり、細孔がつぶれてしまうため、電解液の吸収性能が低下する恐れがあるため好ましくない。
【0034】
なお、無機多孔質素材は、細孔容積が0.4〜2.0cm/gであるのが好ましく、特に0.7〜1.5cm/gであるのが好ましい。細孔容積が0.4cm/g未満では、噴出した電解液の蒸気の吸収率が低下する一方、2.0cm/gを超えると、特に電解液の保持性が低下するため好ましくない。
【0035】
さらに、無機多孔質素材は、比表面積が100〜1000m/gであるのが好ましい。無機多孔質素材の比表面積が100m/g未満では、無機多孔質素材と電解液の蒸気との接触面積が小さく、電解液の吸収率が小さくなる一方、比表面積が1000m/gを超えても電解液の蒸気の吸収率の向上効果が得られないばかりか、電解液噴出防止材の強度が低下するため好ましくない。
【0036】
この無機多孔質素材は、50〜2000μm、特に200〜1000μmの平均粒子径を有するのが好ましい。平均粒子径が50μm未満では、噴出した電解液の蒸気と無機多孔質素材との接触効率が悪くなり、噴出防止効果が低下してしまう一方、平均粒子径が2000μmを超えると、噴出した電解液の蒸気が無機多孔質素材の粒子の間を通過してしまい、噴出防止効果が低下する恐れがあるため好ましくない。
【0037】
本実施形態の電解液噴出防止材では、主に無機多孔質素材の実質的な平均粒子径を向上させる目的で、スプレードライなど適当な手法を用いて成形してもよい。成形品の形状に特に制限はないが、噴出物の拡散性、充填性、取扱い易さを考慮すると、顆粒、粒状、ビーズ、ペレットなどの形状とすればよい。
【0038】
上述したような無機多孔質素材を用いた本実施形態の二次電池の電解液噴出防止材は、電解液(蒸気)1gに対して、0.2g以上用いることにより、80%以上、特に85%以上の電解液の蒸気の吸収率(噴出防止率)を有する。このような電解液噴出防止材を使用した電解液噴出防止システムを二次電池システムに用いることにより、二次電池の筐体内に封入されているエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、あるいはジメチルカーボネートなどの可燃性の電解液の蒸気を迅速に、かつ高い吸収率で吸収するので、二次電池の異常時などに防爆弁から電解液の蒸気が外部に噴出するのを防止することができる。しかも、電解液噴出防止材の量が少なくて済むので、二次電池システムのコンパクト化を図ることができる。
【実施例】
【0039】
以下の実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(試験装置)
本発明の二次電池の電解液噴出防止材の評価試験装置として、図3に示す高温高圧でリチウムイオン電池から噴出する電解液の蒸気の挙動の模擬試験装置を製作した。
【0041】
図3において、電解液噴出防止材の試験装置21は、電解液充填加熱容器22と、試料(電解液噴出防止材)充填容器23とを有し、これらは接続部材24,25を介して管路26により連通している。この管路26の途中には開閉弁27が設けられていて、試料充填容器23の出口側はさらに捕集用のテドラーバッグ28が連通している。
【0042】
また、接続部材24には、圧力計29が設けられているとともに、接続部材24,25には熱電対30,31が付設されている。そして、電解液充填加熱容器22と接続部材24,25と管路26とは、過熱手段としてマントルヒータ(図示せず)により加熱可能となっていて、これらマントルヒータ及び熱電対30,31は、図示しない制御装置に接続していて、熱電対30,31の出力に応じてマントルヒータのオン・オフ制御が可能となっている。
【0043】
(実施例1)
上述したような電解液噴出防止材の試験装置21において、電解液充填加熱容器22にエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを1:1:1(容積比)の割合で混合した電解液を8g充填し、試料充填容器23には、電解液噴出防止材としてMgO含有率29重量%、SiO含有率58重量%(残部HOなど)からなる無機多孔質素材(平均粒子径約121μm)を10mL(3.07g)充填した。
【0044】
続いて、開閉弁27を閉鎖した状態でマントルヒータにより、電解液充填加熱容器22、接続部材24,25及び管路26内が280℃以上となるように加熱した。そして、電解液が気化して電解液充填加熱容器22内に蒸気が充満し、装置内部の圧力が0.93MPaに達したら、開閉弁27を開放することにより、高温の電解液の蒸気を、管路26を経由して試料充填容器23に供給した。そして、該試料充填容器23内で吸収しきれなかった蒸気を試料充填容器23の出口に設けたテドラーバッグ28で捕集した。
【0045】
このときの試料充填容器23内の電解液噴出防止材の質量と、テドラーバッグ28で捕集された電解液の重量とを計測し、これらの計測結果からの電解液の噴出量と、噴出防止率とを算出した。結果を電解液噴出防止材のMgO含有率、SiO含有率とともに表1に示す。なお、電解液の噴出量は、電解液噴出防止材の質量増加分を電解液噴出防止材の電解液吸収量として、この吸収量とテドラーバッグ28で捕集された電解液の量との合計とした。
【0046】
(実施例2)
実施例1において、試料充填容器23内に電解液噴出防止材として、MgO含有率32重量%、SiO含有率55重量%(残部HOなど)からなる無機多孔質素材(平均粒子径約139μm)を10mL(3.48g)充填した以外は同様にして試験を行った。結果を表1にあわせて示す。
【0047】
(実施例3)
実施例1において、試料充填容器23内に電解液噴出防止材として、MgO含有率12重量%、SiO含有率29重量%(残部Alなど)からなる無機多孔質素材(平均粒子径約99μm)を10mL(3.89g)充填した以外は同様にして試験を行った。結果を表1にあわせて示す。
【0048】
(実施例4)
実施例1において、試料充填容器23内に電解液噴出防止材として、MgO含有率14重量%、SiO含有率35重量%(残部Alなど)からなる無機多孔質素材(平均粒子径約92μm)を10mL(1.90g)充填した以外は同様にして試験を行った。結果を表1にあわせて示す。
【0049】
(実施例5)
実施例1において、試料充填容器23内に電解液噴出防止材として、MgO含有率13重量%、SiO含有率31重量%(残部Alなど)からなる無機多孔質素材(平均粒子径約200μm)を10mL(4.62g)充填した以外は同様にして試験を行った。結果を表1にあわせて示す。
【0050】
(比較例1)
実施例1において、試料充填容器23内に電解液噴出防止材として、MgO含有率0重量%、SiO含有率65重量%(残部CaOなど)からなる無機多孔質素材(平均粒子径約47μm)を10mL(1.16g)充填した以外は同様にして試験を行った。結果を表1にあわせて示す。
【0051】
(比較例2)
実施例1において、電解液噴出防止材として、天然ゼオライト(平均粒子径約129μm)を10mL(6.95g)充填した以外は同様にして試験を行った。結果を表1にあわせて示す。
【0052】
なお、参考までに、各実施例及び比較例の電解液噴出防止剤のタップ密度、平均粒子径、比表面積及び細孔容積を表2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1から明らかなように実施例1〜5の二次電池の電解液噴出防止材は、電解液の蒸気の吸収率が85重量%以上と高かった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
上述したような本発明の電解液噴出防止材は、二次電池の電解液の蒸気の噴出を防止することができるので、二次電池の安全性及び環境問題に配慮するものとして産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0057】
1…正極端子(正極)
2…負極端子(負極)
4…防爆弁
11…正極集電体(正極)
13…負極集電体(負極)
E…非水電解質型二次電池(二次電池)
図1
図2
図3