(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
<近赤外線吸収部材>
図1は、本発明の近赤外線吸収部材の一例を示す断面図である。近赤外線吸収部材10は、2枚の透明基材12と、2枚の透明基材12の間に設けられた赤外線吸収膜14とを有する。
近赤外線吸収部材としては、カメラ用の近赤外線フィルタ、プラズマディスプレイ用の光学フィルタ、車両(自動車等)用のガラス窓、ランプ等が挙げられる。
【0015】
(透過率)
近赤外線吸収部材の、下式(3)で表わされる透過率の変化量D’は、−0.36以下が好ましく、−0.37以下がより好ましい。
D’(%/nm)=[T
700(%)−T
630(%)]/[700(nm)−630(nm)] ・・・(3)。
ただし、T
700は、近赤外線吸収部材の波長700nmの透過率であり、T
630は、近赤外線吸収部材の波長630nmの透過率である。
【0016】
透過率の変化量D’が−0.36以下であれば、波長630〜700nmの間における透過率の変化が充分に急峻となり、カメラの近赤外線吸収フィルタに好適となる。
【0017】
近赤外線吸収部材の波長600nmの透過率は、70%以上が好ましく、75%以上がより好ましい。波長600nmの透過率が70%以上であれば、赤色光の吸収が充分に抑えられ、カメラの近赤外線吸収フィルタに好適となる。
近赤外線吸収部材の波長450nmの透過率は、75%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。波長450nmの透過率が75%以上であれば、可視光領域の光吸収が少なく、カメラの近赤外線吸収フィルタに好適となる。
【0018】
近赤外線吸収部材の波長715nmの透過率は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。波長715nmの透過率が10%以下であれば、近赤外線領域の透過率が充分に低くなる。
近赤外線吸収部材の波長500nmの透過率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。波長500nmの透過率が80%以上であれば、可視光領域の透過率が充分に高くなる。
近赤外線吸収部材の透過率は、紫外可視分光光度計を用いて測定される。
【0019】
(透明基材)
透明基材とは、光の透過性を有する基材を意味する。
透明基材の形状は、フィルム状であってもよく、板状であってもよい。透明基材の材料としては、ガラス、シクロオレフィンポリマー、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、フッ素樹脂等が挙げられ、耐湿性、水蒸気透過性の点から、ガラス、シクロオレフィンポリマーが好ましく、透明性、耐熱性、耐湿性、水蒸気透過性の点から、ガラスがより好ましい。また、透明基材としては、樹脂フィルムの表面にガスバリア層(シリカ蒸着膜、トップコート等)が形成されたバリアフィルムも好ましい。
【0020】
(赤外線吸収膜)
赤外線吸収膜は、近赤外線吸収粒子を含む膜であり、樹脂からなるマトリックス中に近赤外線吸収粒子が分散したものが好ましい。
赤外線吸収膜は、必要に応じて分散剤、他の光吸収材を含んでいてもよい。
【0021】
近赤外線吸収粒子の量は、赤外線吸収膜(100質量%)のうち、10〜60質量%が好ましい。近赤外線吸収粒子の量が10質量%以上であれば、充分な近赤外線吸収特性を発現できる。近赤外線吸収粒子の量が60質量%以下であれば、可視光領域の透過率を高く維持できる。
樹脂の量は、樹脂組成物(100質量%)のうち、40〜90質量%が好ましい。
【0022】
(樹脂)
樹脂としては、熱可塑性樹脂(ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、アルキド系樹脂等)、熱硬化性樹脂(エポキシ系樹脂、熱硬化型アクリル系樹脂、シルセスキオキサン系樹脂等)が挙げられる。2枚の透明基材をラミネートしやすい点から、熱硬化性樹脂が好ましい。
【0023】
(分散剤)
分散剤としては、近赤外線吸収粒子の表面に対して改質効果を示すもの、たとえば、界面活性剤、シラン、シリコーンレジン、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコアルミネート系カップリング剤等が挙げられる。
【0024】
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤(特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、アルキルリン酸エステル等)、ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、ソルビタン高級カルボン酸エステル等)、カチオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルアミンカルボン酸エステル、アルキルアミン、アルキルアンモニウム塩等)、両性界面活性剤(高級アルキルベタイン等)が挙げられる。
【0025】
シランとしては、シランカップリング剤、クロロシラン、アルコキシシラン、シラザンが挙げられる。シランカップリング剤としては、官能基(グリシドキシ基、ビニル基、アミノ基、アルケニル基、エポキシ基、メルカプト基、クロロ基、アンモニウム基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基等)を有するアルコキシシラン等が挙げられる。
シリコーンレジンとしては、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン等が挙げられる。
【0026】
チタネート系カップリング剤としては、アシロキシ基、ホスホキシ基、ピロホスホキシ基、スルホキシ基、アリーロキシ基等を有するものが挙げられる。
アルミニウム系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートが挙げられる。
ジルコアルミネート系カップリング剤としては、アミノ基、メルカプト基、アルキル基、アルケニル基等を有するものが挙げられる。
【0027】
(他の光吸収材)
他の光吸収材としては、紫外線吸収材、他の赤外線吸収材等が挙げられる。
紫外線吸収材としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、マイカ、カオリン、セリサイト等が挙げられる。
他の赤外線吸収材料としては、ITO(Indium Tin Oxide)、ATO(Antimony doped Tin Oxide)等が挙げられる。ITOは、可視光領域の透過率が高く、かつ1100nmを超える電波領域も含めた広範囲の電磁波吸収性を有するため、電波遮蔽性を必要とする場合に特に好ましい。
他の光吸収材の数平均凝集粒子径は、透明性の点から、100nm以下が好ましい。
【0028】
(近赤外線吸収粒子)
本発明における近赤外線吸収粒子は、下式(1)で表わされる化合物の結晶子を有する。下式(1)で表わされる化合物の結晶子からなるコア粒子と、該コア粒子の表面を覆うシェル(酸化ケイ素等)とを有するコアシェル構造のものであってもよい。
A
1/nCuPO
4 ・・・(1)。
ただし、Aは、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)およびNH
4からなる群から選ばれる1種以上であり、
nは、Aがアルカリ金属またはNH
4の場合は1であり、Aがアルカリ土類金属の場合は2である。
【0029】
「結晶子」とは、単結晶とみなせる単位結晶を意味し、「粒子」は、複数の結晶子によって構成される。
「式(1)で表わされる化合物の結晶子からなる」とは、たとえば
図2に示すように、X線回折によってA
1/nCuPO
4の結晶構造を確認でき、実質的にA
1/nCuPO
4の結晶子からなることがX線回折によって同定されていることを意味し、「実質的にA
1/nCuPO
4の結晶子からなる」とは、結晶子がA
1/nCuPO
4の結晶構造を充分に維持できる(X線回折によってA
1/nCuPO
4の結晶構造を確認できる)範囲内で不純物を含んでいてもよいことを意味する。
X線回折は、粉末状態の近赤外線吸収粒子について、X線回折装置を用いて測定される。
【0030】
本発明においてAとして、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはNH
4を採用する理由は、下記の(i)〜(iii)の通りである。
(i)近赤外線吸収粒子における結晶子の結晶構造は、PO
43−とCu
2+との交互結合からなる網目状三次元骨格であり、骨格の内部に空間を有する。該空間のサイズが、アルカリ金属イオン(Li
+:0.90Å、Na
+:1.16Å、K
+:1.52Å、Rb
+:1.66Å、Cs
+:1.81Å)、アルカリ土類金属イオン(Mg
2+:0.86Å、Ca
2+:1.14Å、Sr
2+:1.32Å、Ba
2+:1.49Å)およびNH
4+(1.66Å)のイオン半径と適合するため、結晶構造を充分に維持できる。
【0031】
(ii)アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンおよびNH
4+は、溶液中で1価または2価のカチオンとして安定に存在できるため、近赤外線吸収粒子の製造過程において、前駆体が生成する際、結晶構造中にカチオンが取り込まれやすい。
(iii)PO
43−と配位結合性の強いカチオン、たとえば遷移金属イオン等では、充分な近赤外線吸収特性を発現する本発明における結晶構造とは異なる結晶構造を与える可能性がある。
Aとしては、PO
43−とCu
2+とからなる骨格内に取り込まれるイオンとして最もカチオンサイズが適し、熱力学的な安定構造をとる点から、Kが特に好ましい。
【0032】
近赤外線吸収粒子における結晶子の大きさは、5〜50nmが好ましく、10〜30nmがより好ましい。結晶子の大きさが5nm以上であれば、結晶子がA
1/nCuPO
4の結晶構造を充分に維持でき、その結果、充分な近赤外線吸収特性を発現できる。結晶子の大きさが50nm以下であれば、近赤外線吸収粒子の数平均凝集粒子径を小さく抑えることができ、分散液、樹脂組成物およびこれらを用いて形成された近赤外線吸収膜のヘーズが低く抑えられる。
結晶子の大きさは、粉末状態の近赤外線吸収粒子についてX線回折を行い、シェラーの方法により計算によって求めた値である。
【0033】
近赤外線吸収粒子の数平均凝集粒子径は、20〜200nmが好ましく、20〜150nmがより好ましい。数平均凝集粒子径が20nm以上であれば、結晶子がA
1/nCuPO
4の結晶構造を充分に維持でき、その結果、充分な近赤外線吸収特性を発現できる。数平均凝集粒子径が200nm以下であれば、近赤外線吸収膜のヘーズが低くなり、すなわち透過率が高くなり、たとえばカメラの近赤外線吸収フィルタの用途等に好適となる。
数平均凝集粒子径は、近赤外線吸収粒子を分散媒に分散させた粒子径測定用分散液について、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
【0034】
近赤外線吸収粒子の、拡散反射スペクトルにおける波長450nmの反射率は、80%以上が好ましく、81%以上がより好ましい。
近赤外線吸収粒子の反射率が高いということは、近赤外線吸収粒子による光の吸収が少なく、近赤外線吸収粒子の反射率が低いということは、近赤外線吸収粒子による光の吸収が多いことを示している。波長450nmの反射率は、粒子を含む膜の透過スペクトルでの可視光領域の短波長側の波長420nmの透過率に対応するとみなすことができる。つまり、本発明では、拡散反射スペクトルの反射率の波長に対する変化量が大きな波長420nmではなく、該変化量が比較的小さくなる波長450nmの反射率を用いて近赤外吸収粒子の光の吸収が少ないことを判定している。すなわち、前記波長450nmの反射率が80%以上であれば、粒子を含む膜の透過スペクトルでの波長420nmの透過率が充分に高くなり、近赤外線吸収粒子による可視光領域の光吸収が充分に抑えられ、例えばカメラの近赤外線吸収フィルタに好適となる。
【0035】
近赤外線吸収膜のヘーズを低く抑えるために、近赤外線吸収粒子の数平均凝集粒子径を小さくしようと、近赤外線吸収粒子に過度の粉砕処理を施すと、コア粒子を構成する結晶子がA
1/nCuPO
4の結晶構造を充分に維持できなくなり、拡散反射スペクトルにおける波長450nmの反射率が小さくなる傾向にある。よって、波長450nmの反射率が80%以上であれば、近赤外線吸収粒子の数平均凝集径が200nm以下であっても、結晶子がA
1/nCuPO
4の結晶構造を充分に維持していることの目安となる。また、結晶子がA
1/nCuPO
4の結晶構造を充分に維持するためには、過度の粉砕処理を施すことなく数平均凝集粒子径が充分に小さい近赤外線吸収粒子を得ることができる、後述する近赤外線吸収粒子の製造方法(工程(a)〜(c))が好適である。
【0036】
近赤外線吸収粒子の、下式(2)で表わされる反射率の変化量Dは、−0.41以下が好ましく、−0.45以下がより好ましい。
D(%/nm)=[R
700(%)−R
600(%)]/[700(nm)−600(nm)] ・・・(2)。
ただし、R
700は、近赤外線吸収粒子の拡散反射スペクトルにおける波長700nmの反射率であり、R
600は、近赤外線吸収粒子の拡散反射スペクトルにおける波長600nmの反射率である。
【0037】
光吸収がある粒子の拡散反射スペクトル測定では、光吸収波長において光路長により光吸収の強度が異なるため、粒子を含む膜の透過スペクトルにおいて弱い吸収帯が、拡散反射スペクトルでは比較的強く観測される。そこで、本発明における反射率の変化率算出には、粒子を含む膜の透過スペクトルでの透過率変化と同等に反射率が変化する範囲である600〜700nmの反射率の値を用いる。
前記反射率の変化量Dが−0.41以下であれば、波長630〜700nmの間における透過率の変化が充分に急峻となり、これを用いて形成された近赤外線吸収膜は、たとえばカメラの近赤外線吸収フィルタに好適となる。
【0038】
近赤外線吸収粒子の、拡散反射スペクトルにおける波長715nmの反射率は、19%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。波長715nmの反射率が19%以下であれば、近赤外線領域の透過率が充分に低くなる。
近赤外線吸収粒子の、拡散反射スペクトルにおける波長500nmの反射率は、85%以上が好ましく、86%以上がより好ましい。波長500nmの反射率が85%以上であれば、可視光領域の透過率が充分に高くなる。
拡散反射スペクトルは、粉末状態の近赤外線吸収粒子について、紫外可視分光光度計を用いて測定される。
【0039】
近赤外線吸収粒子においては、A
1/nCuPO
4以外の結晶構造、たとえば、A
1/nCu
4(PO
4)
3が増えると、波長630〜700nmの間における透過率の変化が緩慢となり、これを用いて形成された近赤外線吸収膜は、カメラの近赤外線吸収フィルタに適さない。
よって、X線回折によって実質的にA
1/nCuPO
4の結晶子が同定されていることが必要である。
【0040】
以上説明した本発明における特定の近赤外線吸収粒子にあっては、A
1/nCuPO
4で表わされる化合物の結晶子を有するため、可視光領域の透過率が高く、近赤外線領域の透過率が低く、かつ該近赤外線吸収粒子を含む膜は波長630〜700nmの間で急峻に透過率が変化する。
【0041】
(近赤外線吸収粒子の製造方法)
近赤外線吸収粒子の製造方法は、下記の工程(a)〜(d)を有する方法が好ましい。
(a)溶媒中にて、Cu
2+を含む塩と、PO
43−を含む塩または有機物とを、Cu
2+に対するPO
43−のモル比(PO
43−/Cu
2+)が10〜20となるような割合で、かつA
n+の存在下に混合して得られる原料粉末を、分散媒に分散させて原料スラリーを得る工程。
(b)前記工程(a)で得られた原料スラリーを熱プラズマまたは火炎中に導入し、得られた生成物を冷却して粒子を得る工程。
(c)前記工程(b)で得られた粒子を、300〜700℃で熱処理して、A
1/nCuPO
4の結晶子からなる近赤外線吸収粒子を得る工程。
(d)必要に応じて、A
1/nCuPO
4の結晶子からなる近赤外線吸収粒子(コア粒子)を、金属アルコキシドによって表面処理する工程。
【0042】
工程(a):
Cu
2+を含む塩としては、硫酸銅(II)五水和物、塩化銅(II)二水和物、酢酸銅(II)一水和物、臭化銅(II)、硝酸銅(II)三水和物等が挙げられる。
PO
43−を含む塩または有機物としては、アルカリ金属のリン酸塩、リン酸のアンモニウム塩、アルカリ土類金属のリン酸塩、リン酸等が挙げられる。
【0043】
アルカリ金属のリン酸塩またはアルカリ土類金属のリン酸塩としては、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二ナトリウム十二水和物、リン酸二水素ナトリウム二水和物、リン酸三ナトリウム十二水和物、リン酸リチウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素マグネシウム三水和物、リン酸マグネシウム八水和物等が挙げられる。
リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム四水和物、リン酸アンモニウム三水和物等が挙げられる。
【0044】
A
n+を存在させる方法としては、PO
43−を含む塩としてアルカリ金属のリン酸塩、リン酸のアンモニウム塩、アルカリ土類金属のリン酸塩等を用いる方法;Cu
2+を含む塩とPO
43−を含む塩または有機物とを混合する際に、A
n+を含む塩を添加する方法等が挙げられる。
A
n+を含む塩としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ金属の臭化物、アルカリ土類金属の臭化物、アルカリ金属の硝酸塩、アルカリ土類金属の硝酸塩、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ土類金属の硫酸塩等が挙げられる。
【0045】
Cu
2+を含む塩とPO
43−を含む塩または有機物との混合は、溶媒中で行う。該溶媒としては、Cu
2+を含む塩、およびPO
43−を含む塩または有機物を溶解し得る溶媒が好ましい。A
n+を含む塩を用いる場合、該溶媒としては、A
n+を含む塩も溶解し得る溶媒が好ましい。該溶媒としては、水が特に好ましい。
【0046】
Cu
2+を含む塩とPO
43−を含む塩または有機物との割合は、Cu
2+に対するPO
43−のモル比(PO
43−/Cu
2+)が10〜20、好ましくは12〜18となるような割合とする。PO
43−/Cu
2+が10以上であれば、工程(b)においてA
1/nCu
4(PO
4)
3が副生しない、または副生したとしてもその量が、結晶子がA
1/nCuPO
4の結晶構造を充分に維持できる程度であるため、波長630〜700nmの間における透過率の変化が充分に急峻となる近赤外線吸収粒子が得られる。PO
43−/Cu
2+が20以下であれば、工程(b)においてA
1/nCuPO
4以外の不純物が副生しない、または副生したとしてもその量が、結晶子がA
1/nCuPO
4の結晶構造を充分に維持できる程度であるため、波長630〜700nmの間における透過率の変化が充分に急峻となる近赤外線吸収粒子が得られる。
【0047】
Cu
2+を含む塩とPO
43−を含む塩または有機物とを混合する際の温度は、10〜95℃が好ましく、15〜40℃がより好ましい。該温度が高すぎると、溶媒の蒸発による溶質の濃縮が生じ、目的とする生成物以外の不純物が混入するおそれがある。該温度が低すぎると、反応速度が遅くなり、反応時間が長くなるため、工程上好ましくない。
【0048】
溶媒中にて、Cu
2+を含む塩と、PO
43−を含む塩または有機物とを、Cu
2+に対するPO
43−のモル比(PO
43−/Cu
2+)が10〜20となるような割合で、かつA
n+の存在下に混合して得られる原料粉末は、必要に応じて固液分離し乾燥させ、分散媒に分散させて原料スラリーとする。
【0049】
原料スラリーの分散媒としては、水、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、アルデヒド、アミン、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられる。分散媒は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。分散媒としては、取扱いが容易で、かつ熱プラズマ通過時に酸素源となる酸素原子を含むものが好適である点から、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールが好ましい。
【0050】
原料スラリー中の固形分濃度により、工程(b)で得られる近赤外線吸収粒子の粒子径が変化するため、必要に応じて原料スラリーの固形分濃度を調整する必要がある。すなわち、原料スラリー中の固形分濃度が高いほど、熱プラズマ通過時の結晶核濃度が高く、結晶成長が生じ、粒子径の大きい近赤外線吸収粒子が得られる。原料スラリー中の固形分濃度が低いほど、熱プラズマ通過時の結晶核濃度が低く、結晶成長が抑制され、粒子径が小さい近赤外線吸収粒子が得られる。分散媒の量は、分散液(100質量%)のうち、50〜95質量%が好ましい。
【0051】
原料スラリーは、原料粉末、分散媒、必要に応じてジルコニアビーズ等を混合し、自転・公転式ミキサー、ビーズミル、遊星ミル、超音波ホモジナイザ等を用いた撹拌により調製できる。粒子径が小さく、かつ均一な近赤外線吸収粒子を得るためには、原料スラリー中の原料粉末の粒子径も小さく、かつ均一である必要があるため、充分に撹拌する必要がある。撹拌は、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
【0052】
工程(b):
原料スラリーを熱プラズマまたは火炎中に導入し、得られた生成物を冷却して粒子を得る方法は、特開2005−170760号公報、特許第4420690号公報等に記載されている。
よって、原料スラリーとして工程(a)で得られた原料スラリーを用いる以外は、特開2005−170760号公報、特許第4420690号公報等に記載された装置を用い、特開2005−170760号公報、特許第4420690号公報等に記載された条件を適宜変更して粒子を製造すればよい。
【0053】
たとえば、プラズマガス(アルゴンガス等)をプラズマトーチ内に供給し、該プラズマトーチ内にて熱プラズマを発生させつつ、プラズマトーチに設けられたノズルから原料スラリーをキャリアガス(酸素ガス等)とともに噴霧することによって、原料スラリーの液滴を熱プラズマに導入する。熱プラズマ内にて原料スラリーの溶媒を蒸発させつつ、原料スラリーに含まれていた原料を反応させ、熱プラズマから発生する生成物をプラズマトーチの下方に隣接するチャンバに移動させる。チャンバ内で熱プラズマからの生成物を急冷することによって結晶化させ、粒子を生成させる。
【0054】
工程(c):
前記工程(b)で得られた粒子は、結晶構造中に酸素欠陥を有する場合がある。結晶構造中に酸素欠陥を有する粒子は、可視光領域の透過率が低下するため、熱処理を施し、結晶構造中の酸素欠陥を低減することが好ましい。
【0055】
熱処理温度は、300〜700℃であり、300〜500℃が好ましい。熱処理温度が300℃以上であれば、結晶構造中の酸素欠陥を充分に低減できる。熱処理温度が700℃以下であれば、熱による分解を抑制できる。
熱処理時間は、0.5〜300分が好ましく、1〜10分がより好ましい。熱処理時間が0.5分以上であれば、結晶構造中の酸素欠陥を充分に低減できる。熱処理時間が300分以下であれば、熱処理による結晶成長を抑制できる。
赤外イメージ炉を用いると、急速加熱および急速冷却が可能であるため、結晶成長の抑制に有効である。また、粒子を流動させながら焼成可能なロータリーキルン炉も、結晶成長の抑制に効果がある。
【0056】
工程(d):
A
1/nCuPO
4の結晶子からなるコア粒子を、アルコキシシランによって表面処理する方法としては、公知の方法を用いればよい。
金属アルコキシドとしては、アルコキシシラン、アルミニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、チタニウムアルコキシド等が挙げられる。
【0057】
他の表面処理:
以上のようにして得られた近赤外線吸収粒子は、耐候性、耐酸性、耐水性等の向上や表面改質によるバインダ樹脂との相溶性の向上を目的に、公知の方法にてさらに表面処理されてもよい。
表面処理の方法としては、近赤外線吸収粒子を含む分散液中に、表面処理剤または溶媒で希釈した表面処理剤を添加し、撹拌して処理した後、溶媒を除去し乾燥させる方法(湿式法);近赤外線吸収粒子を撹拌しながら、表面処理剤または溶媒で希釈した表面処理剤を、乾燥空気または窒素ガスで噴射させて処理した後、乾燥させる方法(乾式法)が挙げられる。
表面処理剤としては、界面活性剤、カップリング剤等が挙げられる。
【0058】
以上説明した近赤外線吸収粒子の製造方法にあっては、工程(b)において原料スラリーが熱プラズマまたは火炎中を通過することで、原料スラリー中に含まれる原料粒子が急速加熱され原子状態まで気化した後、急速に冷却される。そのため、近接する結晶核同士の結合による粒子成長が抑制され、X線回折から求めた結晶子の大きさが5〜50nmの生成物を容易に得ることができる。また、該生成物に対し、工程(c)において熱処理を施すことによって、熱処理による粒子成長が抑制され、かつ構造欠陥が少なく可視光領域の透過率が高い粒子が得られる。すなわち、過度の粉砕処理を施すことなく粒子の数平均凝集粒子径が20〜200nmとなる。
【0059】
一方、工程(a)〜(c)を有する方法を用いない場合、近赤外線吸収粒子の数平均凝集粒子径を20〜200nmとするためには、湿式粉砕等の処理が必要である。しかし、過度の粉砕処理を行うことで粒子の結晶構造が部分的に崩壊し、可視光領域の透過率が減少することがある。すなわち、工程(a)〜(c)を有する方法を用いない場合、過度の粉砕処理を必要とするため、数平均凝集粒子径が小さいが、可視光領域の透過率が低い近赤外線吸収粒子となる場合がある。また、長時間の粉砕は生産性の効率を下げるので、できるだけ短時間の粉砕処理が好ましい。
【0060】
以上から、工程(a)〜(c)を有する方法にあっては、過度の粉砕処理を施すことなく、X線回折から求めた結晶子の大きさが5〜50nmであり、数平均凝集粒子径が20〜200nmである、A
1/nCuPO
4の結晶子からなるコア粒子を製造できる。
【0061】
(近赤外線吸収部材の製造方法)
本発明の近赤外線吸収部材は、たとえば、後述する樹脂組成物を介して、2枚の透明基材をラミネートし、樹脂組成物を硬化させることによって製造できる。
【0062】
樹脂組成物は、上述した樹脂と、該樹脂に分散された近赤外線吸収粒子とを含み、必要に応じて分散剤、他の光吸収材を含む。
近赤外線吸収粒子の量は、樹脂組成物(100質量%)のうち、10〜60質量%が好ましい。近赤外線吸収粒子の量が10質量%以上であれば、充分な近赤外線吸収特性を発現できる。近赤外線吸収粒子の量が60質量%以下であれば、可視光領域の透過率を高く維持できる。
樹脂の量は、樹脂組成物(100質量%)のうち、40〜90質量%が好ましい。
【0063】
樹脂組成物は、近赤外線吸収粒子、樹脂、必要に応じて分散剤、他の光吸収材等を混合し、自転・公転式ミキサー、ビーズミル、遊星ミル、ミキサー型混練機、3本ロール等によって混練することにより調製できる。高い透明性を確保するためには、充分に混練する必要がある。混練は、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
【0064】
(作用効果)
以上説明した本発明の近赤外線吸収部材にあっては、特定の近赤外線吸収粒子を含む赤外線吸収膜を有しているため、可視光領域の透過率が高く、近赤外線領域の透過率が低く、かつ該近赤外線吸収粒子を含む膜は波長630〜700nmの間で急峻に透過率が変化する。
また、以上説明した本発明の近赤外線吸収部材にあっては、赤外線吸収膜が2枚の透明基材の間に設けられているため、赤外線吸収膜に含まれる近赤外線吸収粒子が水分と接触しにくくなる。そのため、近赤外線吸収粒子の結晶子がA
1/nCuPO
4の結晶構造を充分に維持でき、可視光領域の透過率の低下および近赤外線領域の透過率の上昇が抑えられる、すなわち該近赤外線吸収粒子を含む赤外線吸収膜の耐湿性が良好となる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
例1〜3は、実施例であり、例4は、比較例である。
【0066】
(X線回折)
粉末状態の近赤外線吸収粒子について、X線回折装置(RIGAKU社製、RINT−TTR−III)を用いてX線回折の測定を行い、結晶構造の同定を行った。また、結晶子の大きさを、2θ=14°の反射についてシェラーの方法により計算によって求めた。
【0067】
(数平均凝集粒子径)
近赤外線吸収粒子を水に分散させた粒子径測定用分散液(固形分濃度:5質量%)について、動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装社製、マイクロトラック超微粒子粒度分析計UPA−150)を用いて数平均凝集粒子径を測定した。
【0068】
(反射率)
粉末状態の近赤外線吸収粒子について、紫外可視分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100形)を用いて拡散反射スペクトル(反射率)を測定した。ベースラインとして、硫酸バリウムを用いた。
【0069】
(透過率)
近赤外線吸収部材について紫外可視分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100形)を用いて透過スペクトル(透過率)を測定した。
【0070】
(ヘーズ)
透過率の測定に用いた近赤外線吸収部材についてヘーズメーター(BYK Gardner社製、haze−gard plus)を用いてヘーズを測定した。
【0071】
〔例1〕
工程(a):
52質量%リン酸水素二カリウム(純正化学製)水溶液の500gに、撹拌しながら、5質量%硫酸銅・五水和物(純正化学製)水溶液の500gを加え、5時間以上室温にて撹拌し、水色反応液を得た。反応時のPO
43−/Cu
2+(モル比)を表1に示す。水色反応液を、卓上遠心分離機を用いて固液分離し、水色沈降物を得た。水色沈降物をアセトン中に分散させ、超音波処理を行った後、卓上遠心分離機を用いて固液分離した。得られた沈降物を150℃で2時間乾燥した後、エタノールに分散させて、原料スラリーを得た。
【0072】
工程(b):
特開2005−170760号公報に記載された装置を用い、工程(a)で得られた原料スラリーをプラズマトーチ内の熱プラズマに導入し、得られた生成物をチャンバ内で冷却して暗緑色の粒子を得た。
【0073】
工程(c):
工程(b)で得られた粒子を、平皿に移し、大気中で、500℃で5分間熱処理し、薄青緑色の近赤外線吸収粒子を得た。熱処理には赤外線イメージ炉を用いた。
得られた近赤外線吸収粒子は、走査型電子顕微鏡を用いた観察よって平均粒子径が70nm程度で粒度分布の少ないことが確認された。また、コア粒子についてX線回折を測定した。結果を
図2に示す。X線回折の結果から、KCuPO
4の結晶構造を確認でき、該粒子は、実質的にKCuPO
4の結晶子からなるコア粒子であることが同定された。また、結晶子の大きさを表1に示す。
また、近赤外線吸収粒子の粒子径測定用分散液を調製し、数平均凝集粒子径を測定した。結果を表1に示す。
また、近赤外線吸収粒子の拡散反射スペクトル(反射率)を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
近赤外線吸収部材:
工程(c)で得られた近赤外線吸収微粒子の0.6g、アクリレート(大阪ガスケミカル社製、EA−F5503)の2.4g、アゾビスイソブチロニトリルの0.025gを混錬し、樹脂組成物を調製した。
2枚のガラス基板(厚さ100μm)によって、厚さ100μmの樹脂組成物を挟み込み、樹脂組成物を120℃で20分間加熱して熱硬化させ、赤外線吸収膜を形成し、2枚のガラス基板が赤外線吸収膜でラミネートされた近赤外線吸収部材を得た。
【0075】
該近赤外線吸収部材について、透過率およびヘーズを測定した。また、耐湿熱試験を行った。試験機として、恒温恒湿器(エスペック社製、小型環境試験機LH−113)を用い、試験条件は85℃、相対湿度85%とし、100時間暴露した。該試験後の近赤外線吸収部材の透過率およびヘーズを測定し、試験前と比較評価した。結果を表1に、透過スペクトルを
図3に示す。なお、比較評価方法としては、下記を採用した。
【0076】
耐湿熱試験100時間経過後の、近赤外線吸収部材の透過率スペクトルについては、(100−(試験後の近赤外線吸収部材の800nmの透過率(%))を(100−(試験前の近赤外線吸収部材の800nmの透過率(%))で割った値が0.95以上である場合、○とした。上記値が0.90以上、かつ、0.95未満である場合、△とした。上記値が0.90未満である場合、×とした。
耐湿熱試験100時間経過後の、近赤外線吸収部材のヘーズについては、(100−(試験後の近赤外線吸収部材のヘーズ(%))を(100−(試験前の近赤外線吸収部材のヘーズ(%))で割った値が0.95以上である場合、○とした。上記値が0.90以上、かつ、0.95未満である場合、△とした。上記値が0.90未満である場合、×とした。
【0077】
〔例2〕
ガラス基板の代わりに、厚さ100μmのシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン社製、ゼオノアフィルムZF14−100)を用いた以外は、例1と同様にして2枚のフィルムが赤外線吸収膜でラミネートされた赤外線吸収部材を得た。
該近赤外線吸収部材について、透過率およびヘーズを測定した。また、耐湿熱試験を行った。結果を表1に、透過スペクトルを
図4に示す。
【0078】
〔例3〕
ガラス基板の代わりに、厚さ100μmのバリアフィルム(三菱樹脂社製、X−BARRIER)を用いた以外は、例1と同様にして2枚のフィルムが赤外線吸収膜でラミネートされた赤外線吸収部材を得た。
該近赤外線吸収部材について、透過率およびヘーズを測定した。また、耐湿熱試験を行った。結果を表1に、透過スペクトルを
図5に示す。
【0079】
〔例4〕
厚さ100μmのポリエステルフィルム(東レ社製、ルミラーT60)の表面に、例1の樹脂組成物を厚さ100μmになるように塗布し、樹脂組成物を120℃で20分間加熱して熱硬化させ、フィルムの表面に赤外線吸収膜が形成された赤外線吸収部材を得た。
該近赤外線吸収部材について、透過率およびヘーズを測定した。また、耐湿熱試験を行った。結果を表1に、透過スペクトルを
図6に示す。
【0080】
【表1】