特許第5692059号(P5692059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5692059-免疫グロブリン精製用セルロース系ゲル 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692059
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】免疫グロブリン精製用セルロース系ゲル
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20150312BHJP
   B01J 20/24 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   G01N30/88 101T
   G01N30/88 201X
   G01N30/88 201G
   G01N30/88 J
   B01J20/24 C
【請求項の数】18
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-500639(P2011-500639)
(86)(22)【出願日】2010年2月18日
(86)【国際出願番号】JP2010052407
(87)【国際公開番号】WO2010095673
(87)【国際公開日】20100826
【審査請求日】2012年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2009-37651(P2009-37651)
(32)【優先日】2009年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-260183(P2009-260183)
(32)【優先日】2009年11月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】松本 吉裕
(72)【発明者】
【氏名】梅田 靖人
(72)【発明者】
【氏名】青山 茂之
(72)【発明者】
【氏名】戸所 正美
【審査官】 谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−005329(JP,A)
【文献】 特開平08−082303(JP,A)
【文献】 特開昭62−224362(JP,A)
【文献】 特開昭61−100262(JP,A)
【文献】 特開昭61−100261(JP,A)
【文献】 特表2009−506340(JP,A)
【文献】 特開平03−277967(JP,A)
【文献】 特開平01−258739(JP,A)
【文献】 特表昭60−500539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/88
B01J 20/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性セルロース粒子に、極限粘度0.21〜0.90dL/gを有する多糖類が付加してなる多孔性セルロース系ゲルであって、前記多孔性セルロース系ゲルの単位体積あたりの乾燥重量が、前記多孔性セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.06〜1.40倍であることを特徴とする多孔性セルロース系ゲル。
【請求項2】
前記多孔性セルロース粒子は、粒子径30〜200μmを有し、且つ、重量平均分子量1.5×10Daの標準ポリエチレンオキシドで純水を移動相として使用した時のKavで表されるゲル分配係数0.15〜0.6を有するものである、請求項1記載の多孔性セルロース系ゲル。
【請求項3】
前記多糖類はデキストランである、請求項1又は2記載の多孔性セルロース系ゲル。
【請求項4】
前記多糖類はプルランである、請求項1又は2記載の多孔性セルロース系ゲル。
【請求項5】
前記多孔性セルロース粒子は、水膨潤度5〜20ml/gを有する架橋セルロース粒子である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔性セルロース系ゲル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔性セルロース系ゲルにリガンドが付加してなる、クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項7】
前記リガンドはスルホン基である、請求項6記載の充填剤。
【請求項8】
前記リガンドの導入量は、イオン交換容量で0.13〜0.30mmol/mlである、請求項7記載の充填剤。
【請求項9】
前記リガンドは硫酸エステル基である、請求項6記載の充填剤。
【請求項10】
前記リガンドの導入量は、硫黄含量で5000〜60000ppmであり、前記硫黄含量が多孔性セルロースゲルの全乾燥重量に占める硫黄重量分の割合である、請求項9記載の充填剤。
【請求項11】
免疫グロブリン精製用である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の充填剤。
【請求項12】
免疫グロブリンの吸着量が150〜250mg/mlである、請求項11記載の充填剤。
【請求項13】
免疫グロブリンの吸着量が190〜250mg/mlである、請求項12記載の充填剤。
【請求項14】
多孔性セルロース粒子に、極限粘度0.21〜0.90dL/gを有する多糖類が付加してなる多孔性セルロース系ゲルであって、前記多孔性セルロース系ゲルの単位体積あたりの乾燥重量が、前記多孔性セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.06〜1.40倍である多孔性セルロース系ゲルに、リガンドを付加する工程を含む、クロマトグラフィー用充填剤の製造方法。
【請求項15】
前記多孔性セルロース粒子は、粒子径30〜200μmを有し、且つ、重量平均分子量1.5×10Daの標準ポリエチレンオキシドで純水を移動相として使用した時のKavで表されるゲル分配係数0.15〜0.6を有するものである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記多糖類がデキストランである、請求項14又は15記載の方法。
【請求項17】
前記多糖類がプルランである、請求項14又は15記載の方法。
【請求項18】
請求項6〜8及び11〜13のいずれか1項に記載の充填剤を用いて免疫グロブリンを分離精製する工程を含む、免疫グロブリン製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィー用充填剤、特に抗体医薬に利用できる免疫グロブリン、血液製剤用バイオ医薬などタンパク質製剤などの分離精製に適した陽イオン交換型クロマトグラフィー用充填剤の製造と使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗体医薬に代表されるタンパク質製剤は、大量発酵及び高力価発酵により生産性が向上している。それに伴い精製工程も効率化が求められている。特に、精製に使用されるクロマトグラフィー用充填剤の高流速化と高吸着化は、コスト削減にもつながるために、改善が望まれている。
【0003】
高流速化を実現するために、ベースゲルを架橋して強度を上げる手法で製造されたクロマトグラフィー用充填剤が開発されている。さらに、これらの架橋ゲルに、デキストランなどの親水性高分子を組み合わせることで、吸着性が向上することが知られており、このような親水性高分子を導入した多孔性基材が、クロマトグラフィー用充填剤の開発領域において注目されている。
例えば、非特許文献1(Journal of Chromatography A,679 (1994) 11-22)では、ポリスチレン−シリカからなるコア粒子にイオン交換基が付加してなる、デキストラン由来のハイドロゲルからなるイオン交換吸着剤(Biosepra社(フランス)より「S HyperD(商標)」として市販されている)を用いることで、タンパク質の吸着性能が向上することが報告されている。
【0004】
また、特許文献1(特開2008−528966号公報)では、メタクリレートポリマー粒子にポリエチレンイミンが付加してなるクロマトグラフィー用充填剤を用いることで、タンパク質の吸着特性が増強したことが報告されている。
さらに、特許文献2(特開2008−232764号公報)では、多孔性メタクリレート粒子に分子量50万のプルランを固定化したゲルに、2−ブロモエタンスルホンを用いてリガンドを導入することで、良好な流速特性を示す強カチオンイオン交換型クロマトグラフィー用マトリクスが得られたことが記載されている。ここでは、ヒト免疫グロブリンの吸着容量160mg/mlを達成したことが報告されている。
【0005】
また、非特許文献2(Journal of Chromatography A,1146 (2007) 202-215)では、アガロースからなるコア粒子にデキストランを用いて表面修飾を施したときの効果について報告されている。これによれば、デキストランを用いてコア粒子の表面を修飾することで、目的とするタンパク質の担体内における拡散性が向上するため、対象物の物質移動が増大するとされている。そして、このような設計のクロマトグラフィー用充填剤の例として、GEヘルスケアサイエンス社から「SP Sepharose(商標)XL」が市販されている。
【0006】
さらに、特許文献3(国際公開第2007−027139号パンフレット)では、抗体医薬製造用に利用できる陽イオン交換型クロマトグラフィー用ゲルマトリクスの例として、架橋アガロースゲルに分子量40kDaのデキストランが共有結合してなる粒子に、ビニルスルホン酸を用いてイオン交換基を導入することで、143mg/mlの免疫グロブリン(IgG)吸着性能を持つゲルが得られたことが報告されている。
【0007】
上記のように、ベースゲルに親水性高分子を付加させることにより、吸着性能が向上することが報告されている。しかし、特に、抗体医薬の製造分野では、製造の大容量化及び高力価化が鋭意実践されており、そのため精製基材に対しても高流速と動的吸着特性の更なる改善が強く望まれている。
【0008】
クロマトグラフィー用充填剤として代表的なシリカを基材とする充填剤は高流速性に優れている。しかし、アルカリ条件下において材質が不安定であるため、一般的なアルカリ洗浄性に対して不利となる。
【0009】
一方、多糖類を基材とするクロマトグラフィー用充填剤はアルカリ耐性が強い。また、多糖類を基材とするクロマトグラフィー用充填剤は、タンパク質サイズの分離精製に好適な多孔性を有しており、タンパク質又はワクチン製剤の分離精製用として有望である。
【0010】
代表的な多糖類であるセルロースとアガロースとでは、セルロースの方が水素結合のネットワークが強固なため、クロマトグラフィー用充填剤に求められている高流速化には有利である。しかし、これまで、セルロースを基材とし、タンパク質製剤、特に抗体医薬のための免疫グロブリンの分離精製に好適な流速特性と吸着特性を実現した例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−528966号公報
【特許文献2】特開2008−232764号公報
【特許文献3】国際公開第2007−027139号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Journal of Chromatography A,679 (1994) 11-22
【非特許文献2】Journal of Chromatography A,1146 (2007) 202-215
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のような状況の中で、流速特性と吸着特性がともに改善されたクロマトグラフィー用充填剤の提供が求められている。特に、抗体医薬製造における免疫グロブリンの分離精製に適したクロマトグラフィー用充填剤、またはヘパリンゲル代替のクロマトグラフィー用充填剤の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意努力の結果、多孔性セルロース粒子に多糖類が所定量付加してなるベースゲルに陽イオン交換基を導入することで、所望の流速特性を示すとともに、これまでにない高い値の吸着特性を示すクロマトグラフィー用充填剤を得ることに成功した。さらに、その過程で、高い極限粘度の多糖類を用いることにより、より簡易な方法でクロマトグラフィー用充填剤を製造できることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、以下に示したとおりの多孔性セルロース系ゲル、クロマトグラフィー用充填剤及びそれらの製造方法ならびに用途等を提供するものである。
【0016】
[1]多孔性セルロース粒子に、極限粘度0.21〜0.90dL/gを有する多糖類が付加してなる多孔性セルロース系ゲルであって、前記多孔性セルロース系ゲルの単位体積あたりの乾燥重量が、前記多孔性セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.06〜1.40倍であることを特徴とする多孔性セルロース系ゲル。
[2]前記多孔性セルロース粒子は、粒子径30〜200μmを有し、且つ、重量平均分子量1.5×10Daの標準ポリエチレンオキシドで純水を移動相として使用した時のKavで表されるゲル分配係数0.15〜0.6を有するものである、[1]記載の多孔性セルロース系ゲル。
[3]前記多糖類はデキストランである、[1]又は[2]記載の多孔性セルロース系ゲル。
[4]前記多糖類はプルランである、[1]又は[2]記載の多孔性セルロース系ゲル。
[5]前記多孔性セルロース粒子は、水膨潤度5〜20ml/gを有する架橋セルロース粒子である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の多孔性セルロース系ゲル。
【0017】
[6][1]〜[5]のいずれか1項に記載の多孔性セルロース系ゲルにリガンドが付加してなる、クロマトグラフィー用充填剤。
[7]前記リガンドはスルホン基である、[6]記載の充填剤。
[8]前記リガンドの導入量は、イオン交換容量で0.13〜0.30mmol/mlである、[7]記載の充填剤。
[9]前記リガンドは硫酸エステル基である、[6]記載の充填剤。
[10]前記リガンドの導入量は、硫黄含量で5000〜60000ppmである、[9]記載の充填剤。
[11]免疫グロブリン精製用である、[6]〜[8]のいずれか1項に記載の充填剤。
[12]免疫グロブリンの吸着量が150〜250mg/mlである、[11]記載の充填剤。
[13]免疫グロブリンの吸着量が190〜250mg/mlである、[12]記載の充填剤。
[13a]血液製剤の製造用である、[9]または[10]記載の充填剤。
[13b]免疫グロブリン精製用である、[9]または[10]記載の充填剤。
【0018】
[14]多孔性セルロース粒子に、極限粘度0.21〜0.90dL/gを有する多糖類が付加してなる多孔性セルロース系ゲルであって、前記多孔性セルロース系ゲルの単位体積あたりの乾燥重量が、前記多孔性セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.06〜1.40倍である多孔性セルロース系ゲルに、リガンドを付加する工程を含む、クロマトグラフィー用充填剤の製造方法。
[15]前記多孔性セルロース粒子は、粒子径30〜200μmを有し、且つ、重量平均分子量1.5×10Daの標準ポリエチレンオキシドで純水を移動相として使用した時のKavで表されるゲル分配係数0.15〜0.6を有するものである、[14]記載の方法。
[16]前記多糖類がデキストランである、[14]又は[15]記載の方法。
[17]前記多糖類がプルランである、[14]又は[15]記載の方法。
【0019】
[18][6]〜[8]及び[11]〜[13]のいずれか1項に記載の充填剤を用いて免疫グロブリンを分離精製する工程を含む、免疫グロブリン製剤の製造方法。
[18a][9]又は[10]記載の充填剤を用いて血液製剤を分離精製する工程を含む、血液製剤の製造方法。
[18b][9]又は[10]記載の充填剤を用いて免疫グロブリンを分離精製する工程を含む、免疫グロブリン製剤の製造方法。
【0020】
なお、本明細書において、「多孔性セルロース系ゲル」とは、クロマトグラフィー用の分離剤であって、多孔性セルロース粒子に多糖類が付加してなる多孔性粒子が、その内部に溶媒を含んで、あるいは溶媒を吸収して、膨潤した状態のものをいう。
【発明の効果】
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、流速特性と吸着特性がともに改善されたクロマトグラフィー用充填剤及びそれに好適に用いられる基材を提供することができる。
本発明の好ましい態様によれば、多孔性セルロース粒子に付加させる多糖類として所定の極限粘度を有するデキストランを用いることで、リガンドを効率よく導入することができ、簡便な方法で目的物質に対する吸着性能を高めることができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、本発明の多孔性セルロース系ゲルにリガンドとして十分量のスルホン基を導入することで、抗体医薬分野における免疫グロブリンの分離精製に利用可能な陽イオン交換型クロマトグラフィー用ゲルを提供することができる。本発明の好ましい態様によれば、免疫グロブリンの吸着性能を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例及び比較例で得られた湿ゲルの一例の分配係数Kavをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の多孔性セルロース系ゲル、クロマトグラフィー用充填剤及びそれらの製造方法ならびに用途等について詳細に説明する。
【0024】
1.多孔性セルロース系ゲル
まず、本発明の多孔性セルロース系ゲルについて説明する。
本発明の多孔性セルロース系ゲルは、多孔性セルロース粒子に、極限粘度0.21〜0.90dL/gを有する多糖類が付加してなるものであって、単位体積あたりの乾燥重量が、前記多孔性セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.06〜1.40倍であることを特徴とする。
【0025】
本発明の多孔性セルロース系ゲルは、多孔性セルロース粒子に所定の極限粘度を有する多糖類が所定量付加してなるものであり、エピクロロヒドリンなどの架橋剤によってセルロース分子間が架橋された多孔性セルロース粒子の表面又は細孔内部を、所定の極限粘度を有する多糖類で修飾することによって、クロマトグラフィー用充填剤に用いたときに高い流速特性を確保するとともに、リガンドを効率よく導入することができるために高い吸着特性を付与することを可能にする。また、本発明では、所定の極限粘度を有する多糖類を用いることで、簡易な方法で所望量の多糖類を多孔性セルロースに付加させることができる。
【0026】
本発明に用いる多孔性セルロース粒子は、粒子径30〜200μmを有するものが好ましく、粒子径50〜150μmを有するものが特に好ましい。所望の粒子径は、例えば、JIS標準ふるいなどを用いての分級操作により、調整することができる。特に、目開き54μm(線径0.04mm)と目開き125μm(線径0.088mm)でふるったものが、本発明の粒子径を得るのに好適である。
【0027】
また、本発明に用いる多孔性セルロース粒子の平均粒子径は、80〜120μmが好ましく、90〜110μmがより好ましい。多孔性セルロース粒子の平均粒子径は、走査電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて撮影した任意の数のセルロース粒子写真を実測定し、その平均を求めることで算出できる。具体的な測定方法は、実施例にて示したとおりである。
【0028】
なお、本発明に用いる多孔性セルロース粒子の真球度(短径/長径)は特に制限されないが、0.8〜1.0の球状の形態を有するものが好ましい。
【0029】
多孔性セルロース粒子に多糖類を所定量付加させ、最終的に所望とするタンパク質を吸着し回収するために、適度の細孔サイズを持つことが好ましく、本発明に用いる多孔性セルロース粒子は、多孔性の指標として、重量平均分子量1.5×10Daの市販の標準ポリエチレンオキシドで、純水を移動相として使用した時のKavで表されるゲル分配係数0.15〜0.6を有するものが好ましい。該ゲル分配係数は、0.20〜0.55がより好ましく、0.25〜0.50がさらに好ましい。重量平均分子量1.5×10Daの標準ポリエチレンオキシドとしては、例えば、東ソー社製の標準ポリエチレンオキシド「SE−5」が好ましく挙げられる。
【0030】
本発明において、ゲル分配係数Kavは、分子量の標準物質の溶出体積及びカラム体積の関係から次式により求めることができる。
Kav=(Ve−V)/ (Vt−V
[式中、Veはサンプルの保持容量(ml)、Vtは空カラム体積(ml)、VはデキストランT2000保持容量(ml)である。]
【0031】
ゲル分配係数Kavの測定方法は、例えば、L.Fischer著生物化学実験法2「ゲルクロマトグラフィー」第1版(東京化学同人)などに記載されている。具体的な測定方法は、実施例にて示したとおりである。
本発明の多孔性セルロース粒子のゲル分配係数Kavは、例えば、後述の参考例1に記したセルロース粒子製造時のセルロース溶解濃度の制御により調整できる。結晶セルロース セオラスPH101(商品名、旭化成ケミカルズ株式会社製)を使用した場合、その濃度を好ましくは4〜6%(W/W)に調整することで本発明の多孔性セルロース粒子に好適なゲル分配係数Kavを得ることができる。さらに、多孔性セルロース粒子のゲル分配係数Kavは、例えば、セルロース粒子の架橋方法・架橋条件の制御によっても制御可能である。好ましくは、後述の参考例1に記載の架橋方法・架橋条件に制御することにより本発明の多孔性セルロース粒子に好適なゲル分配係数Kavを得ることができる。当然ながら、セルロース粒子製造時のセルロース溶解濃度の制御とセルロース粒子の架橋方法・架橋条件の制御とを組み合わせた方法を利用してもかまわない。
【0032】
本発明に用いる多孔性セルロース粒子は、架橋セルロース粒子であっても、未架橋セルロース粒子であってもよいが、本発明の多孔性セルロース系ゲルを基材としてクロマトグラフィー用充填剤を製造したときに、より高い流速特性が得られることから、架橋セルロース粒子を用いることが好ましい。
【0033】
架橋セルロース粒子は未架橋セルロース粒子を架橋することにより得ることができる。架橋は、それぞれのセルロース粒子内に三次元的な網目構造を形成したセルロース分子の遊離ヒドロキシル基と架橋剤の官能基との間で行われる。
【0034】
架橋セルロース粒子の製造方法は、特に制限されないが、未架橋セルロース粒子を溶媒中に分散させた懸濁液に架橋剤を反応させることで製造することができる。
溶媒は、未架橋セルロース粒子を分散できるものであれば特に制限されなく、水、アルコールやケトン、エーテル、芳香族炭化水素などの有機溶媒、または水と有機溶媒との混合物のいずれを用いてもよい。これらの溶媒の中でも水溶性溶媒が好ましく、特に水が好ましい。また、架橋反応の効率を上げるために、懸濁液には安価な硫酸ナトリウムなどの無機塩を共存させてもかまわない。
架橋剤は、多官能のものであれば特に制限されず、本発明においては二官能のものが好ましく用いられる。本発明に用いる架橋剤は、セルロースとの結合が化学的に安定であり、反応の際に望ましくない吸着作用を生じうる荷電した基が導入されないことから、エピクロロヒドリン、ポリエチレングリコール又はソルビトールの水酸基をグリシジルエーテル化したエポキシ化合物などが好ましい例として挙げられる。これらの架橋剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらの中でも、本発明においては、結合がより強固となるエピクロロヒドリンを用いることが好ましい。
【0035】
なお、溶媒として水を用いる場合は、アルカリの存在下で架橋反応を行うことが好ましく、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。中でも、アルカリ金属の水酸化物は溶解性が良好であることから、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0036】
架橋セルロース粒子の製造方法として、より具体的には、例えば、特公昭43−10059号公報、特表2000−508361号公報及び特開昭60−39558号公報などに記載された方法を用いることができる。特に、本発明に好適な多孔性を維持しながら優れた流速特性を有する架橋セルロース粒子を得ることができることから、本参考例1に記載された方法を用いることが好ましい。すなわち、未架橋セルロース粒子を水に分散させた懸濁液に、セルロースモノマーのモル数に対し4〜12倍量の架橋剤と、架橋剤のモル数に対し0.1〜2倍量のNaOHとを3時間以上かけて連続滴下または分割添加する工程からなる方法にて製造することが好ましい。
【0037】
本発明に用いる多孔性セルロース粒子の水膨潤度は5〜20ml/gが好ましく、特に6〜13ml/gが好ましい。
【0038】
本発明において多孔性セルロース粒子の水膨潤度は、容積/固形分重量(ml/g)で定義され、水で膨潤したゲルをメスシリンダーに入れて、その容積が一定になるまで時々振動を与えながら放置した後、容積を測定し、次いで、メスシリンダーからゲルを取り出して、ゲルの全量を乾燥させて多孔性セルロース粒子の乾燥重量を測定し、得られた測定値を用いて次式から求めることができる。
水膨潤度(ml/g)= ゲルの容積(ml)÷ ゲルの乾燥重量(g)
本発明の多孔性セルロース粒子の水膨潤度は、例えば、後述の参考例1に記したセルロース粒子製造時のセルロース溶解濃度の制御により調整できる。結晶セルロース セオラスPH101(商品名、旭化成ケミカルズ株式会社製)を使用した場合、その濃度を好ましくは4〜6%(w/w)に調整することで本発明の多孔性セルロース粒子に好適な水膨潤度を得ることができる。さらに、多孔性セルロース粒子の水膨潤度はセルロース粒子の架橋方法・架橋条件の制御によっても制御可能である。好ましくは、後述の参考例1に記載の架橋方法・架橋条件に制御することにより本発明の多孔性セルロース粒子に好適な水膨潤度を得ることができる。当然ながら、セルロース粒子製造時のセルロース溶解濃度の制御とセルロース粒子の架橋方法・架橋条件の制御とを組み合わせた方法を利用してもかまわない。
【0039】
本発明において多孔性セルロース粒子に付加させる多糖類は、極限粘度0.21〜0.90dL/gを有するものを用いる。本発明に用いる多糖類が上記極限粘度を有していると、所望量の多糖類を多孔性セルロース粒子に付加させることができる。これにより、クロマトグラフィー用充填剤を製造する際にリガンドを効率的に導入することが可能になり目的物質に対する吸着特性を高めることができる。また、多糖類が上記極限粘度のものを用いると、反応操作にも負荷がかからないといった利点もある。本発明の好ましい態様に用いる多糖類の極限粘度の範囲は、例えば0.21〜0.90dL/gであり、0.21〜0.80dL/gまたは0.21〜0.70dL/gであってもよく、さらに、0.21〜0.64dL/gであってもよい。
多糖類の極限粘度は、例えば、市販のものの中から適当な極限粘度を有する多糖類を選択することにより調整するようにしてもよいし、あるいは、公知の方法、例えば、適当な極限粘度の多糖類を生産する微生物を選択し、その微生物から多糖類を得ること、多糖類を生産する微生物の培養条件を変更し、その培養条件で生成された多糖類を得ることなどにより調整するようにしてもよい。
【0040】
本発明において、多糖類の極限粘度は、日本薬局方14版に収載された一般測定法における粘度測定法、第1法「毛細管粘度計法」にしたがって、数個の異なる濃度の高分子溶液の粘度を求めて粘度の濃度依存性を測定し、得られた直線の濃度を0に外挿することにより求めることができる。
【0041】
なお、デキストランの極限粘度は、重量平均分子量と下記の関係式を満たすことが知られていることから、デキストランの極限粘度を、重量平均分子量から求めることもできる。
極限粘度(η)=9×10−4×重量平均分子量(Mw)0.5
【0042】
重量平均分子量を目安にする場合、本発明に用いる多糖類の重量平均分子量は、60kDa以上がより好ましく、70kDa以上がさらに好ましい。また、多糖類の重量平均分子量は、500kDa以下がより好ましく、300kDa以下がさらに好ましい。
【0043】
本発明に用いる多糖類の具体例としては、反応の際に望ましくない非特異的な吸着作用を生じさせないよう荷電した基をもたず、多孔性セルロース粒子に結合させることができ、かつ、その後にリガンドの導入が可能となるための反応性官能基(好ましくは、水酸基)をもつものであれば特に制限されない。例えば、アガロース、デキストラン、プルラン、デンプン及びそれらの誘導体が挙げられる。これらの中でも、水溶性で反応操作性の点で有利であり、安価に入手できるデキストランを用いることが好ましい。本発明の別の好ましい態様で用いる多糖類は、プルランである。
【0044】
本発明において、多孔性セルロース粒子に付加する多糖類の量は、多糖類付加前後の単位体積あたり乾燥重量の変化量で表される。すなわち、本発明では、多孔性セルロース系ゲルの単位体積あたりの乾燥重量が、前記多孔性セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.06〜1.40倍であることが好ましい。この比は多糖類の粘度により好適な範囲があるが、概ね、1.10倍以上がより好ましく、1.15倍以上がさらに好ましく、1.20倍以上が特に好ましい。多糖類の付加量が上記範囲であると、本発明の多孔性セルロース系ゲルを用いてクロマトグラフィー用充填剤を製造するときにリガンドを効率よく導入することができ、目的物質の吸着特性を高めることができる。
【0045】
多孔性セルロース系ゲルの単位体積あたりの乾燥重量及び多孔性セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量は、次のようにして求めることができる。
まず、多孔性セルロース系ゲル10.0gを50ml栓付メスシリンダーに加え、さらに純水を50mlの線まで加え、栓をして体積が変わらなくなるまで静置する。体積が変わらなくなったらゲルの体積をメスシリンダーの目盛りから読み取る。
次いで、メスシリンダーからゲルを取り出して、ゲルの全量を乾燥させた後、乾燥ゲルの重量を測定する。
各測定値を用いて、下記の式にしたがって、多孔性セルロース系ゲルの単位体積あたりの乾燥重量を求めることができる。
単位体積あたりの乾燥重量(g/ml)=ゲルの乾燥重量(g)÷ゲルの体積(ml)
多孔性セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量も、上記と同様にして求めることができる。具体的な測定方法は、実施例にて示したとおりである。
多孔性セルロース系ゲルの単位体積あたりの乾燥重量及び多孔性セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量は、例えば、使用する多糖類の分子量を選択することや多孔性セルロース粒子への付加量を制御することなどで調整できる。
【0046】
本発明において多孔性セルロース粒子に多糖類を付加させる方法は、多糖類を多孔性セルロース粒子に化学的な共有結合によって結合させることができるものであれば特に制限されない。例えば、溶媒中、アルカリの存在下、多孔性セルロース粒子を架橋剤と反応させ、次いで、得られた反応生成物を多糖類と反応させることにより、多孔性セルロース粒子に多糖類を付加させることができる。反応に用いる架橋剤は、二官能または多官能のものであれば特に制限されなく、多孔性セルロース粒子の架橋に用いられるものと同様のものを例示することができる。特にエピクロロヒドリンを用いることが好ましい。反応に用いるアルカリは、多孔性セルロース粒子の架橋に用いられるものと同様のものを例示することができる。反応に用いる溶媒は、多孔性セルロース粒子を分散できるものであれば特に制限されない。例えば、多孔性セルロース粒子の架橋に用いたものと同じものを例示することができる。これらの中でも特に水が好ましい。なお、反応効率を上げるために反応混合物中に硫酸ナトリウムなどの無機塩を共存させてもよい。
【0047】
多孔性セルロース粒子に多糖類を付加させる方法としては、特開昭60−77769号公報に記載された方法を用いてもよい。すなわち、架橋セルロース粒子にエピクロロヒドリンを反応させてエポキシ基を導入し、これにデキストラン硫酸又はその塩を反応させることにより、架橋セルロース粒子にデキストランを付加させることができる。この方法によれば、未反応のデキストラン硫酸又はその塩を回収して再利用できるという利点がある。
【0048】
上記のように多孔性セルロース粒子に所定の極限粘度を有する多糖類を付加させて本発明の多孔性セルロース系ゲルを得ることができる。こうして得られた本発明の多孔性セルロース系ゲルにリガンドを付加することにより、所望の流速特性を付与できるとともに、目的物質の吸着特性に優れたクロマトグラフィー用充填剤を得ることができる。
【0049】
2.クロマトグラフィー用充填剤
次に、本発明のクロマトグラフィー用充填剤について述べる。
本発明のクロマトグラフィー用充填剤は、前述した本発明の多孔性セルロース系ゲル中に存在する反応性官能基の少なくとも一部にリガンドが付加してなるものである。多孔性セルロース粒子に所定の極限粘度を有する多糖類が所定量付加してなる本発明の多孔性セルロース系ゲルは、流速特性が優れている上に、リガンドを効率よく導入することができるため、これにリガンドが付加してなる本発明のクロマトグラフィー用充填剤は流速特性及び吸着特性に優れている。
【0050】
リガンドの種類及び導入量に応じて目的の化合物に対する親和性が付与されるため、リガンドの種類及び導入量は、用途等に応じて適宜選択すればよい。リガンドの種類としては、イオン交換基、疎水基、アフィニティー基などがあり、具体的には、ジエチルアミノ、アミノエチル、カルボキシメチル、スルホンエチル、スルホン、フェニル、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ファニルホウ酸基、Protein A、その他のアフィニティーを有する反応性官能基などが挙げられる。
【0051】
本発明のクロマトグラフィー用充填剤は、本発明の多孔性セルロース系ゲルの反応性官能基の少なくとも一部にリガンドを付加することによって、容易に得ることができる。
【0052】
例えば、本発明の多孔性セルロース系ゲルが有する反応性官能基(例えば水酸基など)の少なくとも一部にスルホン基を導入することにより、リゾチーム及び免疫グロブリンなどのタンパク質の分離精製に好適なクロマトグラフィー用充填剤を得ることができる。あるいは、本発明の多孔性セルロース系ゲルが有する反応性官能基(例えば水酸基など)の少なくとも一部に硫酸エステル基を導入することにより、リゾチーム、血液凝固因子IX、免疫グロブリンなどの分離精製に好適なクロマトグラフィー用充填剤を得ることができる。
【0053】
例えば、本発明の多孔性セルロース系ゲルにスルホン基を導入する際は、次のようにして行うことができる。
まず、反応容器にスルホン化剤を準備する。スルホン化剤としては、3−クロロー2ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム又は3−ブロモプロパンスルホン酸ナトリウムなどのハロアルカンスルホン酸;1,4−ブタンサルトン又は1,2−エポキシエタンスルホン酸などのエポキシドを有するスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、1,4−ブタンサルトン又は1,2−エポキシエタンスルホン酸などのエポキシドを有するスルホン酸を用いることが好ましい。スルホン化剤の使用量は、目的とするスルホン基の導入率及び反応条件によって任意に選択すればよく、例えば、多孔性セルロース系ゲル中の反応性官能基に対して、0.001〜1当量を用いるのが適当である。
【0054】
次に、乾燥させた多孔性セルロース系ゲルをスルホン化剤中に加えて反応させる。反応温度及び反応時間は、溶媒やスルホン化剤の種類によっても異なるが、不活性ガス中で、通常0〜100℃、好ましくは20〜85℃で、好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは0.5〜10時間行う。
【0055】
反応終了後、反応混合物にアルカリ水溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和してもよい。
その後、得られた反応混合物を濾過または遠心分離することにより、生成物を回収し、水で中性になるまで洗浄して、目的物質を得ることができる。スルホン基の導入量は、スルホン化剤の使用量を変更することなどによって調整することができ、クロマトグラフィー充填剤の用途などに応じて適宜決定すればよい。具体的には、スルホン化剤の使用量を増やすことによって、スルホン基の導入量を増やすことができる。
スルホン基の導入方法の詳細は、特開2001−302702号公報及び特開平9−235301号公報などを参照することができる。
【0056】
本発明のクロマトグラフィー用充填剤におけるリガンドの導入量は特に制限されないが、所望の吸着特性が得られることから、イオン交換容量で0.13〜0.30mmol/mlであることが好ましく、0.15mmol/ml以上が特に好ましい。また、0.20mmol/ml以下が特に好ましい。なお、本明細書において「イオン交換容量」とは、体積ゲルあたりのリガンドモル量を意味する。具体的な測定方法は、実施例にて示したとおりである。
【0057】
また、本発明の多孔性セルロース系ゲルに硫酸エステル基を導入する際は、次のようにして行うことができる。
本発明の多孔性セルロース系ゲルへの硫酸エステル基の導入は、例えば、米国特許第4,480,091号パンフレットや特開2006−274245号公報などに開示の通常知られた方法、即ち、ジメチルホルムアミドやピリジンなどの溶媒中で硫酸化剤にクロロスルホン酸を作用させる方法が利用できる。その際の硫酸化剤の使用量は、目的とする粒子の硫黄含量により異なるが、セルロースゲルと硫酸化剤の重量比(セルロースゲル:硫酸化剤)は、100:10〜100:100、好ましくは100:10〜100:50の範囲であるのが適当である。反応は、溶媒、硫酸化剤の種類によっても異なるが、不活性ガス中で、0〜100℃、好ましくは20〜85℃にて、0.5〜24時間、好ましくは0.5〜10時間行う。
【0058】
その後、得られた反応混合物を濾過または遠心分離することにより、生成物を回収し、水で中性になるまで洗浄して、目的物質を得ることができる。硫酸エステル基の導入量は、上述の通り硫酸化剤の仕込み量などによって調整することができ、クロマトグラフィー充填剤の用途などに応じて適宜決定すればよい。具体的には、セルロースゲルに対する硫酸化剤の重量比率をあげることによって、硫酸エステル基の導入量を増やすことができる。
【0059】
本発明のクロマトグラフィー用充填剤における硫酸エステル基の導入量は特に制限されないが、所望の吸着特性が得られることから、硫黄含量で5000〜60000ppmであることが好ましく、10000ppm以上が特に好ましい。また、50000ppm以下が特に好ましい。なお、本明細書において「硫黄含量」とは、多孔性セルロースゲルの全乾燥重量に占める硫黄重量分の割合を意味する。具体的な測定方法は、実施例にて示したとおりである。
【0060】
本発明のクロマトグラフィー用充填剤は特に免疫グロブリンの分離精製に好適に用いられる。本発明の多孔性セルロース系ゲルを用いることにより、所望量のスルホン基を効率よく導入することができるので、免疫グロブリンに対する親和性を付与することができる。本発明の好ましい態様によれば、本発明のクロマトグラフィー用充填剤における免疫グロブリンの吸着量は110〜250mg/mlである。さらに、本発明の好ましい態様によれば、スルホン基の導入量を適宜調整することで、免疫グロブリンに対して150〜250mg/ml、より好ましくは190〜250mg/mlの吸着量を得ることもでき、免疫グロブリンの分離精製に有用なクロマトグラフィー用充填剤を提供することができる。なお、本明細書において「免疫グロブリンの吸着量」とは、実施例にて示した測定方法によって測定された体積ゲルあたりの免疫グロブリンの吸着量を意味する。
【0061】
リガンドが硫酸エステル基である本発明のいくつかの態様のクロマトグラフィー用充填剤は、ヘパリンゲル代替のクロマトグラフィー用充填剤として好適に利用することができる。本態様のクロマトグラフィー用充填剤は、リゾチームなどの種々のタンパク質の分離精製に好適に用いることができる。好ましくは、本態様のクロマトグラフィー用充填剤におけるリゾチームの吸着量は、50〜250mg/mlである。さらに、硫酸エステルの導入量を適宜調整することで、リゾチームに対して100〜250mg/mlの吸着量を得ることもでき、リゾチームの分離精製に有用なクロマトグラフィー用充填剤を提供することができる。なお、本明細書において「リゾチームの吸着量」とは、実施例にて示した測定方法によって測定された体積ゲルあたりのリゾチームの吸着量を意味する。
【0062】
さらには、本発明のクロマトグラフィー用充填剤を用いて免疫グロブリンを分離精製することにより、簡便な方法で高純度の免疫グロブリン製剤を提供することができる。
あるいは、本発明のいくつかの態様のクロマトグラフィー用充填剤を、ヘパリンゲル代替のクロマトグラフィー用充填剤として用いて、血漿中などから血液製剤を分離精製することにより、簡便な方法で血液製剤を提供することができる。
尚、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2009−37651号(2009年2月20日出願)および特願2009−260183号(2009年11月13日出願)の特許請求の範囲、明細書、および図面の開示内容を包含する。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれらに制限されるものではない。
【0064】
<参考例1>
架橋セルロース粒子の調製
Journal of Chromatography,195(1980)、221-230、特開昭55−44312号公報に記載された方法にしたがい、下記のようにしてチオシアン酸カルシウム60重量%水溶液に溶解させるセルロース濃度を6%(w/w)又は10%(w/w)とするセルロース粒子を製造した。
【0065】
(A)6%球状セルロース粒子の製造
(1)100gのチオシアン酸カルシウム60重量%水溶液に6.4gの結晶性セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名:セオラスPH101)を加え、110〜120℃に加熱して溶解した。
(2)この溶液に界面活性剤としてソルビタンモノオレエート6gを添加し、130〜140℃に予め加熱したo−ジクロロベンゼン480ml中に滴下し、200〜300rpmにて攪拌分散した。
(3)次いで、上記分散液を40℃以下まで冷却し、メタノール190ml中に注ぎ、粒子の懸濁液を得た。
(4)この懸濁液を濾過分別し、粒子をメタノール190mlにて洗浄し、濾過分別した。この洗浄操作を数回行った。
(5)さらに大量の水で洗浄した後、目的とする球状セルロース粒子を得た。
(6)次いで、球状セルロース粒子をふるいにかけて、所望の粒子サイズ間隔(50〜150μm、平均粒子径100μm)にした。
【0066】
(B)10%球状セルロース粒子の製造
6.4gの結晶性セルロースを10.0gの結晶性セルロースを用いたことを除いて、上記6%球状セルロース粒子の製造と同様にして10%球状セルロース粒子を得た。
【0067】
次に、得られたセルロース粒子を、目開き54μm(線径0.04mm)と目開き125μm(線径0.088mm)の金網篩による篩操作で分級した。
分級後のセルロース粒子の平均粒子径は100μmであり、水膨潤度は、それぞれ、6%セルロース粒子で16.4ml/g、10%セルロース粒子で9.6ml/gであった。
【0068】
次いで、得られたセルロース粒子を下記の方法にしたがって架橋した。
【0069】
(A)架橋6%セルロース粒子の調製
(1)上記で得られた6%球状セルロース粒子100g(含水率10.8)を、121gの純水に60gのNaSOを溶解した液に加え、撹拌した。混合物の温度を50℃にして2時間撹拌を継続した。
(2)次に、この混合物に45重量%のNaOH水溶液3.3gとNaBH0.5gとを加え、撹拌した。初期アルカリ濃度[NaOH]は0.69%(w/w)であった。
(3)50℃で混合物の撹拌を継続しながら、45重量%のNaOH水溶液48gと、エピクロロヒドリン50gとをそれぞれ25等分した量を、15分置きにおよそ6時間かけて添加した。
(4)添加終了後、この混合物を温度50℃で16時間反応させた。
(5)この混合物を温度40℃以下に冷却した後、酢酸2.6gを加え、中和した。
(6)反応混合物を濾過してゲルを回収し、純水で濾過洗浄し、目的の架橋6%セルロース粒子を得た。
【0070】
得られた架橋6%セルロース粒子の水膨潤度、平均粒子径、並びに、標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10Da)又はSE−15(重量平均分子量1.5×10Da)を用いて純水を移動相として測定したKavは以下のとおりである。
水膨潤度 11.4ml/g
平均粒子径 100μm
ゲル分配係数Kav 0.38(SE−15)、0.60(SE−5)
【0071】
(B)架橋10%セルロース粒子の調製
(1)上記で得られた10%球状セルロース粒子100g(含水率6.3)を、282gの純水に104gのNaSOを溶解した液に加え、撹拌した。混合物の温度を50℃にして2時間撹拌を継続した。
(2)次に、この混合物に45重量%のNaOH水溶液5.7gとNaBH0.9gとを加え、撹拌した。初期アルカリ濃度[NaOH]は0.69%w/wであった。
(3)50℃で混合物の撹拌を継続しながら、45重量%のNaOH水溶液83gと、エピクロロヒドリン85gとをそれぞれ25等分した量を、15分置きにおよそ6時間かけて添加した。
(4)添加終了後、この混合物を温度50℃で16時間反応させた。
(5)この混合物を温度40℃以下に冷却した後、酢酸4.0gを加え、中和した。
(6)反応混合物を濾過してゲルを回収し、純水で濾過洗浄し、目的の架橋10%セルロース粒子を得た。
【0072】
得られた架橋10%セルロース粒子の水膨潤度、平均粒子径、並びに、標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10Da)又はSE−15(重量平均分子量1.5×10Da)を用いて純水を移動相として測定したKavは以下のとおりである。
水膨潤度 7.1ml/g
平均粒子径 100μm
ゲル分配係数Kav 0.27(SE−15)、0.47(SE−5)
【0073】
次に、架橋セルロース粒子に多糖類を付加させるために、下記の方法で架橋セルロース粒子にエポキシ基を導入した。
【0074】
<参考例2A>
架橋6%セルロース粒子のエポキシ化
1Lセパラブルフラスコに吸引ろ過した架橋6%セルロース粒子を200g入れた。そこへ純水160mlを入れ、蓋をして該フラスコを30℃の温浴へ浸した。フラスコ内の温度が30℃になったら、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム54g、純水133g)とエピクロロヒドリン120gとを加えて、30℃で2時間攪拌した。
2時間後、反応混合物を吸引ろ過し、得られた湿ゲルを3倍量の純水で5回洗浄した。
洗浄後、得られたゲルを吸引ろ過して余分な水分を除き、湿ゲルの状態で保存した。
【0075】
<参考例2B>
架橋10%セルロース粒子のエポキシ化
架橋6%セルロース粒子に代えて架橋10%セルロース粒子を用いたことを除いて、参考例2Aと同様の手順でエポキシ化反応を行った。
【0076】
次に、参考例2A又は2Bで得られたエポキシ化架橋セルロース粒子にデキストランを付加して多孔性セルロース系ゲルを得、さらにこれにスルホン化処理を行ってクロマトグラフィー用充填剤を得た。
【0077】
<実施例1>
500mlセパラブルフラスコに純水43gとデキストラン70(名糖産業、極限粘度0.23dL/g、重量平均分子量約70,000)32.0gを加え、室温で溶解するまで攪拌した。
溶解したらそこへ参考例2Aで得られた湿ゲル60gを加え、30℃で1時間攪拌した。次に、該フラスコに45%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液を6.6g加え、そのまま30℃で18時間攪拌した。18時間後反応混合物を吸引ろ過し、得られた湿ゲルを3倍量の純水で5回洗浄した。洗浄後、湿ゲルを吸引ろ過して余分な水分を除き、湿ゲルの状態で保存した。標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10)で純水を移動相に使用して求めたKavは0.30であった。参考例1(A)で得られた架橋6%セルロースのKavに対する割合は50%であった。また、得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋6%セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.06倍であった。
さらに、50ml栓付三角フラスコへ得られた湿ゲル5gを入れた。そこへ硫酸ナトリウム(和光純薬)5g、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム0.98g、純水7.8g)を入れ、50℃のインキュベーターで30分攪拌した。30分後1、4−ブタンサルトン(和光純薬)1.41gを加え、50℃で6時間攪拌した。6時間後反応溶液を吸引ろ過し、得られたゲルを5倍量の純水で5回洗浄した。洗浄後、得られたゲルを吸引ろ過して余分な水分を除き、湿ゲルの状態で保存した。このようにして、リガンドとしてスルホン基を導入した湿ゲルを得た。この時のイオン交換容量は0.17mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は、146mg/mlであった。
【0078】
<実施例2>
デキストラン70を24.8gで実施したことを除いて、実施例1と同様にして湿ゲルを得た。標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10)で純水を移動相に使用して求めたKavは0.37であった。参考例1(A)で得られた架橋6%セルロースのKavに対する割合は62%であった。また、得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋6%セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.09倍であった。
さらに、実施例1と同様に、1,4−ブタンサルトン1.28gを用いて、得られたゲルをスルホン化し、湿ゲルの状態で保存した。この時のイオン交換容量は0.13mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は122mg/mlであった。
【0079】
<実施例3>
デキストラン70に代えて高分子デキストランEH(名糖産業、極限粘度0.42dL/g、重量平均分子量約178,000〜218,000)17.5gを用いたことを除いて、実施例1と同様にして湿ゲルを得た。標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10)で純水を移動相に使用して求めたKavは0.17であった。参考例1(A)で得られた架橋6%セルロースのKavに対する割合は28%であった。また、得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋6%セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.11倍であった。
さらに、実施例1と同様に、1,4−ブタンサルトン1.39gを用いて、得られたゲルをスルホン化し、湿ゲルの状態で保存した。この時のイオン交換容量は0.15mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は124mg/mlであった。
【0080】
<実施例4>
デキストラン70に代えて高分子デキストランEH33.0gを用いたことを除いて、実施例1と同様にして湿ゲルを得た。標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10)で純水を移動相に使用して求めたKavは0.03であった。参考例1(A)で得られた架橋6%セルロースのKavに対する割合は5%であった。また、得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋6%セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.34倍であった。
さらに、実施例1と同様に、1,4−ブタンサルトン1.57gを用いて、得られたゲルをスルホン化し、湿ゲルの状態で保存した。この時のイオン交換容量は0.19mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は241mg/mlであった。
【0081】
<実施例5>
デキストラン70に代えてデキストランT500(Pharmacosmos、重量平均分子量500kDa、極限粘度0.64dL/g)10.9gを用いたことを除いて、実施例1と同様にして湿ゲルを得た。標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10)で純水を移動相に使用して求めたKavは0.21であった。参考例1(A)で得られた架橋6%セルロースのKavに対する割合は35%であった。また、得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋6%セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.10倍であった。
さらに、実施例1と同様に、1,4−ブタンサルトン1.29gを用いて得られたゲルをスルホン化し、湿ゲルの状態で保存した。この時のイオン交換容量は0.14mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は117mg/mlであった。
【0082】
<実施例6>
デキストラン70に代えてデキストランT500を17.3g用いたことを除いて、実施例1と同様にして湿ゲルを得た。標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10)で純水を移動相に使用して求めたKavは0.17であった。参考例1(A)で得られた架橋6%セルロースのKavに対する割合は28%であった。また、得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋6%セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.22倍であった。
さらに、実施例1と同様に、1,4−ブタンサルトン1.41gを用いて、得られたゲルをスルホン化し、湿ゲルの状態で保存した。この時のイオン交換容量は0.14mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は199mg/mlであった。
【0083】
<実施例7>
デキストラン70に代えてデキストランT500を24.5g用いたことを除いて、実施例1と同様にして湿ゲルを得た。標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10)で純水を移動相に使用して求めたKavは0.02であった。参考例1(A)で得られた架橋6%セルロースのKavに対する割合は3%であった。また、得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋6%セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.34倍であった。
さらに、実施例1と同様に、1,4−ブタンサルトン1.55gを用いて得られたゲルをスルホン化し、湿ゲルの状態で保存した。この時のイオン交換容量は0.17mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は217mg/mlであった。
【0084】
<比較例1>
デキストラン70に代えてデキストラン40(名糖産業、極限粘度0.17dL/g、重量平均分子量約40,000)33gを用いたことを除いて、実施例1と同様にして湿ゲルを得た。標準ポリエチテンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10)で純水を移動相に使用して求めたKavは0.42であった。参考例1(A)で得られた架橋6%セルロースのKavに対する割合は70%であった。また、得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋6%セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.10倍であった。
さらに、実施例1と同様に、1、4−ブタンスルトン1.29gを用いて得られたゲルをスルホン化し、湿ゲルの状態で保存した。この時のイオン交換容量は0.13mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は101mg/mlであった。
【0085】
<比較例2>
デキストラン70(名糖産業、極限粘度0.23dL/g、重量平均分子量約70,000)17.5gを用いたことを除いて、実施例1と同様にして湿ゲルを得た。標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10)で純水を移動相に使用して求めたKavは0.43であった。参考例1(A)で得られた架橋6%セルロースのKavに対する割合は72%であった。また、得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋6%セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.04倍であった。
さらに、実施例1と同様に、1,4−ブタンサルトン1.23gを用いて得られたゲルをスルホン化し、湿ゲルの状態で保存した。この時のイオン交換容量は0.13mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は70mg/mlであった。
【0086】
<比較例3>
デキストラン70に代えて高分子デキストランEH(名糖産業、極限粘度0.42dL/g、重量平均分子量約200,000)11.0gを用いたことを除いて、実施例1と同様にして湿ゲルを得た。標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10)で純水を移動相に使用して求めたKavは0.32であった。参考例1の架橋6%セルロースのKavに対する割合は53%であった。また、得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋6%セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.05倍であった。
さらに、実施例1と同様に、1,4−ブタンサルトン1.26gを用いて得られたゲルをスルホン化し、湿ゲルの状態で保存した。この時のイオン交換容量は0.12mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は76mg/mlであった。
【0087】
実施例1〜7及び比較例1〜3の結果を表1にまとめた。
【表1】
【0088】
表1に示したとおり、実施例で得られた多孔性セルロース系ゲルのγ−グロブリン吸着量は、比較例のものと比べて顕著に高い数値を示した。
【0089】
なお、上記実施例及び比較例において、γ−グロブリン10%動的吸着容量、Kav、デキストラン付加前後の乾燥重量の変化量、イオン交換容量及び平均粒子径は、下記の測定法1〜5にしたがって求めた。
【0090】
[測定法1]
γ−グロブリンを用いた動的吸着容量の測定
(1)使用機器及び試薬
LCシステム : BioLogicLP(BIORAD)
バッファー : 酢酸バッファーPH4.3、0.05MNaCl
抗体 : γ―グロブリン、人血清由来(和光純薬)
カラム : ガラスカラム内径5mm、長さ50mm(EYELA)
(2)測定方法
まず抗体をバッファーに溶かし1mg/mlの抗体溶液を作製した。そしてカラムにイオン交換基を付加したゲルを隙間のないよう充填した。次にカラムをシステムに接続しバッファーを用いて、カラム流出液のUV(紫外線吸光度、280nm)と電気伝導度が一定になるまで流速1ml/分で平衡化した。その後、ベースラインのUVをゼロにした。バイパスラインから抗体溶液を流しカラムへの流路を抗体溶液で置換した。次にバイパスラインからカラムへのラインへ切り変え、カラムに抗体溶液を流速1ml/minで流した。カラム流出液のUVをモニターし、カラム流出液のUVが、予め測定しておいた抗体溶液のUVの10%に達した時点で抗体溶液を流すのを止めた。以下の式により10%動的吸着容量を求めた。尚、この分析は20℃の部屋で行った。

{抗体溶液濃度(mg/ml)×抗体溶液を流し始めてから終えるまでの時間(min)×流速(ml/min)−空カラム容量}/カラム体積=10%動的吸着容量(mg/ml)
【0091】
[測定法2]
多孔性セルロースゲルのゲル分配係数Kavの測定
(1)使用機器及び試薬
カラム : エンプティカラム1/4×4.0mm I.D×300mm、
10F(東ソー)
リザーバー : パッカ・3/8(東ソー)
ポンプ : POMP P−500 (Pharmacia)
圧力計 : AP−53A(KEYENCE)
【0092】
(2)カラム充填法
カラムとリザーバーを接続しカラム下部にエンドフィッティングを接続した。Kavを測定するゲルを減圧濾過した湿ゲルの状態で15g計りとり、50mlビーカーへ入れた。そこへ超純水20ml加え軽く攪拌した。粒子またはゲルが溶液に分散した状態でリザーバーの壁を伝わらせるようにカラムへゆっくり加えた。ビーカーへ残ったゲルは少量の超純水ですすぎゆっくりとカラムへ加えた。その後リザーバーの上部ぎりぎりまで超純水を加えリザーバーの蓋をした。リザーバー上部へアダプターを接続しポンプで超純水を送液した。送液ラインの途中に圧力計を接続しておき圧力をモニターした。圧力が0.3MPaになるまで流速を上げ、その後30分超純水を流しながら充填した。充填が終わったらポンプを止めアダプターとリザーバーの蓋を外した。次にリザーバーの中の超純水をピペットで吸いだした。リザーバーを外し、カラムからはみ出したゲルを除きエンドフィッティングを接続した。
多孔性セルロース粒子のゲル分配係数Kavの求め方も、上記多孔性セルロースゲルの方法と同様である。
【0093】
(3)Kav測定装置
システム : SCL−10APVP(SHIMAZU)
ワークステーション : CLASS−VP(SHIMAZU)
RI検出器 : RID−10A(SHIMAZU)
ポンプ : LC−10AT(SHIMAZU)
オートインジェクター : SIL−10ADVP(SHIMAZU)
【0094】
(4)Kav測定サンプル
1.デキストランT2000(Pharmacia)
2.SE−70(東ソー)分子量5.8×10
3.SE−30(東ソー)分子量3.0×10
4.SE−15(東ソー)分子量1.5×10
5.SE−8(東ソー)分子量1.01×10
6.SE−5(東ソー)分子量4.3×10
7.SE−2(東ソー)分子量2.77×10
8.PEG19000(SCIENTIFIC POLYMER PRODUCTS)分子量19700
9.PEG8650(POLYMER LABORATORIES)分子量8650
10.PEG4120(POLYMER LABORATORIES)分子量4120
【0095】
(5)Kav導出式
Kav=(Ve−V)/ (Vt−V
[式中、Veはサンプルの保持容量(ml)、Vtは空カラム体積(ml)、VはデキストランT2000保持容量(ml)である。]
【0096】
(6)測定結果
Kavプロットの一例を図1に示す。
【0097】
[測定法3]
デキストラン付加前後の乾燥重量変化量の測定
参考例1で得られた架橋セルロース粒子10.0gを50ml栓付メスシリンダーに加え、さらに純水を50mlの線まで加え、栓をして体積が変わらなくなるまで静置する。体積が変わらなくなったらゲルの体積をメスシリンダーの目盛りから読み取る。
次いで、メスシリンダーからゲルを取り出して、ゲルの全量を、80℃のオーブンで16時間乾燥させた後、乾燥ゲルの重量を測定する。得られた測定値から、下記の式にしたがって、架橋セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量を求めることができる。
単位体積あたりの乾燥重量(g/ml)=ゲルの乾燥重量(g)÷ゲルの体積(ml)
デキストラン付加反応後の湿ゲルについても同様にして単位体積あたりの乾燥重量(g/ml)を求め、架橋セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量に対する乾燥重量変化を算出する。
【0098】
[測定法4]
イオン交換容量測定法
ブタンサルトンを付加した湿ゲル1mlをビーカーに秤量し、0.5mol/l塩酸(和光純薬)を加えて3分間攪拌した。その後、吸引濾過により塩酸を取り除き、さらに純水で洗浄した。
洗浄したゲル1mlをビーカーに加え、0.1mol/l水酸化ナトリウム溶液(和光純薬)3mlとフェノールフタレイン溶液1滴を加えた。この溶液に、0.1mol/l塩酸(和光純薬)を溶液の色が透明になるまで加えた。透明になるまで加えた塩酸量をXmlとすると、ゲル1mlあたりのイオン交換容量(IEC)は、次式
(0.1×3/1000−0.1×X/1000)×1000 (mmol/ml)
で求めることができる。
【0099】
[測定法5]
平均粒子径の測定
スライドグラスに湿潤セルロース粒子を取り、光学顕微鏡を用いて倍率100倍で撮影した写真から任意に200粒子の直径を測定し、その平均値を平均粒子径とした。
【0100】
<実施例8>
10%架橋ゲルの実施例
架橋6%セルロース粒子の代わりに参考例2Bで得られた架橋10%セルロース粒子を用い、デキストラン70を54g用いたことを除いて、実施例1と同様にして湿ゲルを得た。この時のデキストラン付加量は16.3mg/mlであった。標準ポリエチレンオキシド(東ソー社製)SE−5(重量平均分子量4.3×10)で純水を移動相に使用して求めたKavは0.24であった。参考例1(B)で得られた架橋10%セルロースのKavに対する割合は51%であった。また、得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋10%セルロース粒子の単位体積あたりの乾燥重量の1.10倍であった。
50ml栓付三角フラスコへ得られた湿ゲル5gを加え、そこへ硫酸ナトリウム(和光純薬)5g、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム1.55g、純水15.37g)を入れ50℃のインキュベーターで30分攪拌した。30分後、1、4−ブタンサルトン(和光純薬)4.11gを加え、50℃で6時間攪拌した。6時間後、反応混合物を吸引ろ過し、得られたゲルを5倍量の純水で5回洗浄した。洗浄後のゲルを吸引ろ過して余分な水分を除き、湿ゲルの状態で保存した。この時のイオン交換容量は0.28mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は125mg/mlであった。
上記の結果から、10%架橋セルロース粒子を用いても、6%架橋セルロース粒子を用いた場合と同様に免疫グロブリンを効率よく分離精製することができるクロマトグラフィー用充填剤が得られることが実証された。
【0101】
<実施例9>
500mlセパラブルフラスコに純水40gとプルラン(林原社製、化粧品用プルラン、極限粘度0.73dL/g)24gを加え、室温で溶解するまで攪拌した。
溶解したらそこへ参考例2Aで得られた湿ゲル60gを加え、30℃で1時間攪拌した。次に、該フラスコに45%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液を6.4g加え、そのまま30℃で18時間攪拌した。18時間後反応混合物を吸引ろ過し、得られた湿ゲルを3倍量の純水で5回洗浄した。洗浄後、湿ゲルを吸引ろ過して余分な水分を除き、湿ゲルの状態で保存した。得られた湿ゲルの単位体積あたりの乾燥重量は、架橋6%セルロース粒子の単位体積あたり乾燥重量の1.24倍であった。
【0102】
さらに、50ml栓付三角フラスコへ得られた湿ゲル8gを入れた。そこへ硫酸ナトリウム(和光純薬)8.9g、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム1.8g、純水15g)を入れ、50℃のインキュベーターで30分攪拌した。30分後1、4−ブタンサルトン(和光純薬)1.2gを加え、50℃で6時間攪拌した。6時間後反応溶液を吸引ろ過し、得られたゲルを5倍量の純水で5回洗浄した。洗浄後、得られたゲルを吸引ろ過して余分な水分を除き、湿ゲルの状態で保存した。このようにして、リガンドとしてスルホン基を導入した湿ゲルを得た。この時のイオン交換容量は0.13mmol/mlであり、γ―グロブリン10%動的吸着容量は、178 mg/mlであった。
【0103】
実施例6との比較から判るように、デキストランの代わりの多糖類にプルランを用いてもγ−グロブリン吸着量は高い値を示した。
【0104】
<実施例10−1>
硫酸エステルのリガンド導入
実施例4に記載した方法と同様にして高分子デキストランEHと反応させて得た湿ゲル100gに300gのメタノールを加え室温で10分間攪拌した後、吸引ろ過した。この作業を5回繰り返すことによりメタノール置換ゲルを得た。このゲルを水分含量が2.5%(w/w)になるまで50〜60℃にて真空乾燥した。500mlセパラブルフラスコにピリジン200gを攪拌しながら10℃以下まで冷却後、窒素雰囲気下、クロロスルホン酸4gを滴下した。滴下終了後、10℃以下で1時間反応させた後、65℃まで加熱した。65℃到達後、前記乾燥させたゲル30gを投入し、攪拌下4時間反応させた。反応終了後、25℃にて一晩放置し、その後、20%w/wNaOHを添加して中和した。反応混合物をろ過してゲルを回収し、純水で中性になるまで洗浄し、硫酸エステル基をリガンドに持つ湿ゲルを得た。
【0105】
<実施例10−2>
実施例10−1の湿ゲルの下記測定法6に従って測定したリゾチームの吸着量は、ゲル1mlあたり97mgであった。またこのゲルの下記測定法7に従って求めた硫酸化度(硫黄含量)は22200ppmであった。
【0106】
本実施例のデキストランが付加されてなる多孔性セルロースゲルはリガンドを例えば硫酸エステルとするクロマトグラフィー用充填剤としての利用も可能である。本実施例のゲルはデキストランが硫酸エステル化されたリガンドであるため、ヘパリンゲル代替のクロマトグラフィー用充填剤としての利用も可能である。
【0107】
[測定法6]
リゾチーム吸着量の測定
内径7mmのカラムに上記実施例10−1の湿ゲルを1ml充填し0.05Mトリス塩酸緩衝液(pH9.5)で50ml/hの流量で0.6時間平衡化した。濃度が5.0mg/mlになるようにリゾチーム(和光純薬社製)に0.05Mトリス塩酸緩衝液(pH9.5)を加え溶解し、この溶液100mlを前記の充填ゲルに50ml/hの流量で通液し、リゾチームを充填ゲルに吸着させた。さらに、充填ゲルを0.05Mトリス塩酸緩衝液(pH9.5)で50ml/hの流量で50ml洗浄した。これら、リゾチーム溶液と洗浄液の充填ゲル通過液を全量回収し、250mlにメスアップした。充填ゲルにおけるリゾチーム吸着量は吸着前後の280nmの吸光度より計算されたリゾチームの差し引きによって求めた。具体的には、それぞれのリゾチーム溶液を10倍希釈した溶液の、280nmの吸光度は下記の通りであった。
5.0mg/mlリゾチーム溶液の吸光度 A280=1.250
充填ゲルの通過液+洗浄液の吸光度 A280=0.397
リゾチーム吸着量(mg/ml−gel)=
5.0x100−5.0x(0.397/01.250)x250=103
【0108】
[測定法7]
硫酸化度(硫黄含量)の測定
硫黄含量は、「イオンクロマトグラフィー法」(文献名:改訂5版分析化学便覧p30(社団法人 日本分析化学会編)にしたがい、次に記載の方法によって求めた。60℃で16〜20時間真空乾燥したサンプルを乳鉢ですりつぶし、更に、105℃にて2時間乾燥した。この乾燥試料0.05gに2Mの塩酸2.5mlを加え、110℃にて16時間加水分解した。氷冷後、上澄液を1ml採取し、2Mの水酸化ナトリウム水溶液で中和し、25mlにメスアップした。カラムに横河電気社製ICS−A−23を用い、オーブン温度40℃、溶離液に3mM NaCO溶液、除去液に15mM 硫酸をそれぞれ1ml/minの流量の条件で使用し、横河電機社製IC7000イオンクロマトアナライザーを用いて分析し、さらに後述の標準溶液から作成した検量線を基にSO濃度を求めた。ブランク値は乾燥試料を加えずに同様に操作し時の値とした。SO標準液(関東化学社製 陰イオン混合標準液IV)より2μg/ml液を本測定法の標準溶液とし、更に段階希釈し、同様の条件でイオンクロマトアナライザーにて分析し、検量線を作成した。イオン含量は以下の式により求めた。
硫黄含量(ppm)=(X試料−Xブランク)x25x2.5x0.3333/0.05(試料量 g)
上記式中、X試料、XブランクはSO標準液による検量線から求めた濃度(ppm)である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のクロマトグラフィー用充填剤は流速特性及び目的物質に対する吸着特性に優れているため、各種分野における目的物質の分離精製用充填剤として有用である。本発明の好ましい態様のクロマトグラフィー用充填剤は、免疫グロブリンの吸着性能が特に優れているため、抗体医薬の分離精製に好適に用いられる。
図1