特許第5692218号(P5692218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692218
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】電子デバイスとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G09F 9/30 20060101AFI20150312BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20150312BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20150312BHJP
   G02F 1/1339 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   G09F9/30 309
   G09F9/00 338
   G02F1/13 101
   G02F1/1339 505
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-505770(P2012-505770)
(86)(22)【出願日】2011年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2011056627
(87)【国際公開番号】WO2011115266
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2013年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-63839(P2010-63839)
(32)【優先日】2010年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川浪 壮平
(72)【発明者】
【氏名】阿見 佳典
(72)【発明者】
【氏名】満居 暢子
【審査官】 田井 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−227566(JP,A)
【文献】 特開2007−008808(JP,A)
【文献】 特開2000−169168(JP,A)
【文献】 特開2008−059802(JP,A)
【文献】 特開2008−115057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13− 1/1334
1/1339− 1/1341
1/1347
1/137− 1/141
G09F 9/00− 9/46
H01J 9/24−17/64
H01L 27/32
51/50
H01M 12/00−16/00
H04N 1/024− 1/036
H05B 33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の封止領域を備える表面を有する第1のガラス基板と、
前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域を備える表面を有し、前記表面が前記第1のガラス基板の前記表面と対向するように配置された第2のガラス基板と、
前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部と、
前記電子素子部を封止するように、前記第1のガラス基板の前記第1の封止領域と前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域との間に形成された封着層とを具備する電子デバイスであって、
前記封着層は封着ガラスと低膨張充填材と電磁波吸収材とを含有する封着材料を電磁波で局所加熱した溶融固着層からなり、かつ前記第1及び第2のガラス基板の内部に前記封着層との界面から最大深さが30nm以上の前記封着層との反応層が生成していることを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
前記反応層は前記封着層の端部付近より中心部付近が前記第1及び第2のガラス基板の内部に向けて突出した形状を有することを特徴とする請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記反応層の最大深さD1が前記封着層の端部付近における前記反応層の深さD2に対して1.1倍以上(D1/D2≧1.1)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記反応層の断面積が50μm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項5】
前記封着ガラスは、質量割合で70〜90%のBi、1〜20%のZnO、2〜12%のB、及び10〜380ppmのNaOを含むビスマス系ガラスからなることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項6】
前記電磁波吸収材はFe、Cr、Mn、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属または前記金属を含む化合物からなり、かつ前記封着材料は前記電磁波吸収材を体積割合で0.1〜40%の範囲で含有することを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項7】
前記電磁波吸収材を体積割合で0.1〜10%の範囲で含有することを特徴とする請求項に記載の電子デバイス。
【請求項8】
前記低膨張充填材は、シリカ、アルミナ、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ムライト、コージェライト、ユークリプタイト、スポジュメン、リン酸ジルコニウム系化合物、酸化錫系化合物、及び石英固溶体からなる群から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記封着材料は前記低膨張充填材を体積割合で1〜50%の範囲で含有することを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項9】
前記低膨張充填材を体積割合で10〜50%の範囲で含有することを特徴とする請求項に記載の電子デバイス。
【請求項10】
前記封着層の厚さが2〜15μmであり、幅が0.2〜1.5mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項11】
第1の封止領域を備える表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、
前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域と、前記第2の封止領域上に形成され、質量割合で70〜90%のBi、1〜20%のZnO、2〜12%のB、及び10〜380ppmのアルカリ金属酸化物含むビスマス系ガラスからなる封着ガラスと低膨張充填材と電磁波吸収材とを含有する封着材料の焼成層からなる封着材料層とを備える表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、
前記第1のガラス基板の前記表面と前記第2のガラス基板の前記表面とを対向させつつ、前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、
前記封着ガラスの軟化点温度T(℃)に対して前記封着材料層の加熱温度が(T+200℃)以上で(T+800℃)以下の範囲となるように、前記第1のガラス基板および/または前記第2のガラス基板を通して前記封着材料層に電磁波を照射して局所的に加熱し、前記封着材料層を溶融させて前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部を封止する封着層を形成する工程と
を具備することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項12】
第1の封止領域を備える表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、
前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域と、前記第2の封止領域上に形成され、質量割合で70〜90%のBi、1〜20%のZnO、2〜12%のB、及び10〜380ppmのNaOを含むビスマス系ガラスからなる封着ガラスと低膨張充填材と電磁波吸収材とを含有する封着材料の焼成層からなる封着材料層とを備える表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、
前記第1のガラス基板の前記表面と前記第2のガラス基板の前記表面とを対向させつつ、前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、
前記封着ガラスの軟化点温度T(℃)に対して前記封着材料層の加熱温度が(T+200℃)以上で(T+800℃)以下の範囲となるように、前記第1のガラス基板および/または前記第2のガラス基板を通して前記封着材料層に電磁波を照射して局所的に加熱し、前記封着材料層を溶融させて前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部を封止する封着層を形成する工程と
を具備することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記NaOの含有量が100〜350ppmの範囲の前記ビスマス系ガラスからなる封着ガラスを用いると共に、前記封着材料層の加熱温度が(T+300℃)以上で(T+500℃)以下の範囲となるように、前記封着材料層に電磁波を照射することを特徴とする請求項12に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記封着層の形成工程で、前記第1及び第2のガラス基板の内部に前記封着層との界面から最大深さが30nm以上の前記封着層との反応層を生成することを特徴とする請求項11ないし請求項13のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記反応層を前記封着層の端部付近より中心部付近が前記第1及び第2のガラス基板の内部に向けて突出するように生成することを特徴とする請求項14に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記電磁波として出力密度が250〜10000W/cmの範囲のレーザ光を前記封着材料層に照射することを特徴とする請求項11ないし請求項15のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項17】
前記電磁波として出力が1〜30kWの範囲の赤外線を前記封着材料層に照射することを特徴とする請求項11ないし請求項16のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子デバイスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ(Organic Electro−Luminescence Display:OELD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶表示装置(LCD)等の平板型ディスプレイ装置(FPD)は、発光素子等を形成した素子用ガラス基板と封止用ガラス基板とを対向配置し、これら2枚のガラス基板間を封着したガラスパッケージで発光素子等を封止した構造を有している。さらに、色素増感型太陽電池のような太陽電池においても、2枚のガラス基板で太陽電池素子(色素増感型光電変換素子)を封止したガラスパッケージを適用することが検討されている。
【0003】
2枚のガラス基板間を封止する封着材料としては、封着樹脂や封着ガラスが用いられている。有機EL(OEL)素子等は水分により劣化しやすいことから、耐湿性等に優れる封着ガラスの適用が進められている。封着ガラスによる封着温度は400〜600℃程度であるため、焼成炉を用いて加熱処理した場合にはOEL素子等の電子素子部の特性が劣化しやすい。そこで、2枚のガラス基板の周辺部に設けられた封止領域間にレーザ吸収材を含む封着用ガラス材料層(封着材料層)を配置し、これにレーザ光を照射して封着材料層を局所的に加熱・溶融させて封着することが試みられている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
レーザ光による局所加熱を適用した封着(レーザ封着)には、封着ガラス(ガラスフリット)としてバナジウム系ガラス(特許文献1参照)、またビスマス系ガラスやリン酸系ガラス(特許文献2,3参照)等が用いられている。レーザ封着は電子素子部への熱的影響を抑制できる反面、封着材料層を局所的に急熱・急冷するプロセスであるため、封着材料層の溶融固着層からなる封着層とガラス基板との接着界面に残留応力が生じやすい。接着界面の残留応力は、封着部やガラス基板にクラックや割れ等を生じさせたり、またガラス基板と封着層との接着強度を低下させる原因となる。
【0005】
このように、2枚のガラス基板間の封止にレーザ封着等の局所加熱封着を適用した場合、局所的な急熱・急冷プロセスに起因してガラス基板と封着層との接着界面に残留応力が生じやすく、これによりガラス基板と封着層との接着強度を十分に高めることができないという難点がある。これはOELD、PDP、LCD等のFPD、あるいは太陽電池の信頼性を低下させる要因となる。局所的な急熱・急冷プロセスに起因する接着強度の低下はレーザ封着に限らず、赤外線を使用した局所加熱等でも発生しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−524419号公報
【特許文献2】特開2008−059802号公報
【特許文献3】特開2008−115057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、2枚のガラス基板間の封着に局所加熱を適用するにあたって、ガラス基板と封着層との接着強度を向上させることによって、気密性や信頼性を再現性よく高めることを可能にした電子デバイスとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様に係る電子デバイスは、第1の封止領域を備える表面を有する第1のガラス基板と、前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域を備える表面を有し、前記表面が前記第1のガラス基板の前記表面と対向するように配置された第2のガラス基板と、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部と、前記電子素子部を封止するように、前記第1のガラス基板の前記第1の封止領域と前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域との間に形成された封着層とを具備する電子デバイスであって、前記封着層は封着ガラスと低膨張充填材と電磁波吸収材とを含有する封着材料を電磁波で局所加熱した溶融固着層からなり、かつ前記第1及び第2のガラス基板の内部に前記封着層との界面から最大深さが30nm以上の前記封着層との反応層が生成していることを特徴としている。
本発明の態様に係る電子デバイスの製造方法は、第1の封止領域を備える表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域と、前記第2の封止領域上に形成され、質量割合で70〜90%のBi、1〜20%のZnO、2〜12%のB、及び10〜380ppmのアルカリ金属酸化物を含むビスマス系ガラスからなる封着ガラスと低膨張充填材と電磁波吸収材とを含有する封着材料の焼成層からなる封着材料層とを備える表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、前記第1のガラス基板の前記表面と前記第2のガラス基板の前記表面とを対向させつつ、前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、前記封着ガラスの軟化点温度T(℃)に対して前記封着材料層の加熱温度が(T+200℃)以上で(T+800℃)以下の範囲となるように、前記第1のガラス基板および/または前記第2のガラス基板を通して前記封着材料層に電磁波を照射して局所的に加熱し、前記封着材料層を溶融させて前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部を封止する封着層を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【0009】
本発明の態様に係る電子デバイスの製造方法は、第1の封止領域を備える表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域と、前記第2の封止領域上に形成され、質量割合で70〜90%のBi、1〜20%のZnO、2〜12%のB、及び10〜380ppmのNaOを含むビスマス系ガラスからなる封着ガラスと低膨張充填材と電磁波吸収材とを含有する封着材料の焼成層からなる封着材料層とを備える表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、前記第1のガラス基板の前記表面と前記第2のガラス基板の前記表面とを対向させつつ、前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、前記封着ガラスの軟化点温度T(℃)に対して前記封着材料層の加熱温度が(T+200℃)以上で(T+800℃)以下の範囲となるように、前記第1のガラス基板および/または前記第2のガラス基板を通して前記封着材料層に電磁波を照射して局所的に加熱し、前記封着材料層を溶融させて前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部を封止する封着層を形成する工程とを具備することを特徴としている。
なお、上記した電子デバイスの製造方法において、第1のガラス基板を用意する工程と、第2のガラス基板を用意する工程の順番は、どちらが先に行なわれても、同時進行に行なわれてもよい。上記した第1のガラス基板を用意する工程と、第2のガラス基板を用意する工程とが、終了した後、第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と封着層を形成する工程とが順次行なわれる。
上記した数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、以下本明細書においても「〜」を同様の意味をもって使用される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様に係る電子デバイスとその製造方法によれば、上記したような局所加熱を適用して封着したガラス基板と封着層との接着強度を向上させることができる。従って、気密性や信頼性を向上させた電子デバイスを再現性よく提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態による電子デバイスの構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態による電子デバイスの製造工程を示す断面図である。
図3図2に示す電子デバイスの製造工程で使用する第1のガラス基板を示す平面図である。
図4図3のA−A線に沿った断面図である。
図5図2に示す電子デバイスの製造工程で使用する第2のガラス基板を示す平面図である。
図6図5のA−A線に沿った断面図である。
図7図1に示す電子デバイスを拡大して示す断面図である。
図8図7に示す電子デバイスにおけるガラス基板に生成された反応層部分を模式的に示す図である。
図9】実施例5における封着後のガラス基板と封着層との界面近傍の線組成分析結果を示す図である。
図10】実施例5における封着前のガラス基板と封着材料層との界面近傍の線組成分析結果を示す図である。
図11】実施例6で作製したガラスパネルにおける封着後のガラス基板の反応層の形成跡およびその近傍の表面形状を測定した結果を示す図である。
図12】実施例9で作製したガラスパネルにおける封着後のガラス基板の反応層の形成跡およびその近傍の表面形状を測定した結果を示す図である。
図13】比較例1で作製したガラスパネルにおける封着後のガラス基板の封着層の形成領域およびその近傍の表面形状を測定した結果を示す図である。
図14】接着強度及び反応層形状の測定用サンプルの作製に使用したガラス基板を示す図である。
図15】接着強度及び反応層形状の測定用サンプルを示す図である。
図16】反応層形状の測定状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態による電子デバイスの構成を示す図、図2は本発明の電子デバイスの製造工程を示す図、図3及び図4はそれに用いる第1のガラス基板の構成を示す図、図5及び図6はそれに用いる第2のガラス基板の構成を示す図である。
【0013】
図1に示す電子デバイス1は、OELD、PDP、LCD等のFPD、あるいはOEL素子等の発光素子を使用した照明装置(OEL照明等)、あるいは色素増感型太陽電池のような太陽電池等を構成するものである。電子デバイス1は第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とを具備している。第1及び第2のガラス基板2、3は、例えば各種公知の組成を有する無アルカリガラスやソーダライムガラス等で構成される。無アルカリガラスは35〜40×10−7/℃程度の熱膨張係数を有している。ソーダライムガラスは80〜90×10−7/℃程度の熱膨張係数を有している。無アルカリガラスの代表的なガラスの組成は、質量%表示で、SiO 50〜70%、Al 1〜20%、B 0〜15%、MgO 0〜30%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 0〜30%を含有するものが挙げられ、ソーダライムガラスの代表的なガラスの組成は、質量%表示で、SiO 55〜75%、Al 0.5〜10%、CaO 2〜10%、SrO 0〜10%、NaO 1〜10%、KO 0〜10%であるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
第1のガラス基板2の表面2aとそれと対向する第2のガラス基板3の表面3aとの間には、電子デバイス1に応じた電子素子部4が設けられている。電子素子部4は、例えばOELDやOEL照明であればOEL素子、PDPであればプラズマ発光素子、LCDであれば液晶表示素子、太陽電池であれば色素増感型太陽電池素子(色素増感型光電変換部素子)を備えている。OEL素子のような発光素子や色素増感型太陽電池素子等を備える電子素子部4は各種公知の構造を有している。この実施形態の電子デバイス1は電子素子部4の素子構造に限定されるものではない。
【0015】
図1に示す電子デバイス1において、第1のガラス基板2は素子用ガラス基板を構成しており、その表面にOEL素子やPDP素子等の素子構造体が電子素子部4として形成されている。第2のガラス基板3は第1のガラス基板2の表面に形成された電子素子部4の封止用ガラス基板を構成するものである。ただし、電子デバイス1の構成はこれに限られるものではない。例えば、電子素子部4が色素増感型太陽電池素子等の場合には、第1及び第2のガラス基板2、3の各表面2a、3aに素子構造を形成する配線膜や電極膜等の素子膜が形成される。電子素子部4を構成する素子膜やそれらに基づく素子構造体は、第1及び第2のガラス基板2、3の表面2a、3aの少なくとも一方に形成される。
【0016】
電子デバイス1の作製に用いられる第1のガラス基板2の表面2aには、図3及び図4に示すように、電子素子部4が形成される素子領域5の外周に沿って第1の封止領域6が設けられている。第1の封止領域6は素子領域5を囲うように設けられている。第2のガラス基板3の表面3aには、図5及び図6に示すように、第1の封止領域6に対応する第2の封止領域7が設けられている。第1及び第2の封止領域6、7は封着層の形成領域(第2の封止領域7については封着材料層の形成領域)となる。なお、第2のガラス基板3の表面3aにも必要に応じて素子領域が設けられる。
【0017】
第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とは、素子領域5や第1の封止領域6を有する表面2aと第2の封止領域7を有する表面3aとが対向するように、所定の間隙を持って配置されている。第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間の間隙は封着層8で封止されている。すなわち、封着層8は電子素子部4を封止するように、第1のガラス基板2の封止領域6と第2のガラス基板3の封止領域7との間に形成されている。電子素子部4は第1のガラス基板2と第2のガラス基板3と封着層8とで構成されたガラスパネルで気密封止されている。封着層8は例えば2〜15μmの厚さを有し、また0.2〜1.5mmの幅(以下、線幅ともいう。)を有していることが好ましい。かかる封着層8は、通常、第1および第2のガラス基板の周囲の全周に渡って枠状に、上記第1の封止領域6および第2の封止領域7に形成される。
【0018】
電子素子部4としてOEL素子等を適用する場合、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間には一部空間が残存する。そのような空間はそのままの状態であってもよいし、また透明な樹脂等が充填されていてもよい。透明樹脂はガラス基板2、3に接着されていてもよいし、単にガラス基板2、3と接触しているだけであってもよい。また、電子素子部4として色素増感型太陽電池素子等を適用した場合には、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間の間隙全体に電子素子部4が配置される。
【0019】
封着層8は第2のガラス基板3の封止領域7上に形成された封着材料層9を溶融させて第1のガラス基板2の封止領域6に固着させた溶融固着層からなるものである。封着材料層9はレーザ光や赤外線等の電磁波10を用いた局所加熱により溶融される。すなわち、電子デバイス1の作製に用いられる第2のガラス基板3の封止領域7には、図5及び図6に示すように枠状の封着材料層9が形成されている。第2のガラス基板3の封止領域7に形成された封着材料層9を、レーザ光や赤外線等の電磁波10の熱で第1のガラス基板2の封止領域5に溶融固着させることによって、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間の空間(素子配置空間)を気密封止する封着層8が形成される。
【0020】
封着材料層9は、低融点ガラスからなる封着ガラス(ガラスフリット)と電磁波吸収材(レーザ光や赤外線等の電磁波を吸収して発熱する材料)と低膨張充填材とを含有する封着材料(封着用ガラス材料)の焼成層である。封着材料はその熱膨張率をガラス基板2、3の熱膨張率と整合させる上で、低膨張充填材を含有している。封着材料は主成分としての封着ガラスに電磁波吸収材と低膨張充填材とを配合したものである。封着材料はこれら以外の添加材を必要に応じて含有していてもよい。
【0021】
封着ガラスとしては、例えばビスマス系ガラス、錫−リン酸系ガラス、バナジウム系ガラス、ホウケイ酸アルカリ系ガラス、鉛系ガラス等の低融点ガラスが用いられる。特にビスマス系ガラスが好ましい。封着ガラスの含有量は、封着材料に対して、49.9〜97.9体積%の範囲とすることが好ましい。封着ガラスの含有量が49.9体積%未満であると、封着材料の溶融時の流動性が劣化し接着性が低下するおそれがある。封着ガラスの含有量が97.9体積%を超えると、封着材料層とガラス基板の熱膨張のミスマッチが大きすぎて歪により割れが生じるおそれがある。好ましくは、60〜85体積%の範囲である。
【0022】
電磁波吸収材としては、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(合金も含む)、または前記金属の少なくとも1種の金属を含む酸化物等の化合物が用いられる。電磁波吸収材の含有量は封着材料に対して0.1〜40体積%の範囲とすることが好ましい。電磁波吸収材の含有量が0.1体積%未満であると、レーザ光や赤外線を照射した際に封着材料層9を十分に溶融させることができない。電磁波吸収材の含有量が40体積%を超えると、レーザ光や赤外線の照射時に第2のガラス基板3との界面近傍で局所的に発熱して第2のガラス基板3に割れが生じたり、封着材料の溶融時の流動性が劣化して第1のガラス基板2との接着性が低下したりするおそれがある。特に、封着材料層9の厚さが7μm以上の場合では、電磁波吸収材の含有量は0.1〜10体積%の範囲が好ましく、1〜9体積%がより好ましい。また、封着材料層9の厚さを7μm未満とした場合では、電磁波吸収材の含有量は2〜40体積%の範囲が好ましく、3〜25体積%がより好ましい。
【0023】
低膨張充填材としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ムライト、コージェライト、ユークリプタイト、スポジュメン、リン酸ジルコニウム系化合物、酸化錫系化合物、石英固溶体からなる群から選ばれる少なくとも1種が用いられる。リン酸ジルコニウム系化合物としては、(ZrO)、NaZr(PO、KZr(PO、Ca0.5Zr(PO、Na0.5Nb0.5Zr1.5(PO、K0.5Nb0.5Zr1.5(PO、Ca0.25Nb0.5Zr1.5(PO、NbZr(PO、Zr(WO)(PO、これらの複合化合物が挙げられる。低膨張充填材とは、封着材料の主成分である封着ガラスより低い熱膨張係数を有するものである。
【0024】
低膨張充填材の含有量は、封着材料の熱膨張係数がガラス基板2、3の熱膨張係数に近づくように適宜に設定される。低膨張充填材は封着ガラスやガラス基板2、3の熱膨張係数にもよるが、封着材料に対して1〜50体積%の範囲で含有させることが好ましい。低膨張充填材の含有量が1体積%未満であると、封着材料の熱膨張率を調整する効果を十分に得ることができないおそれがある。一方、低膨張充填材の含有量が50体積%を超えると、封着材料の流動性が低下して接着強度が低下するおそれがある。特に、封着材料層9の厚さが7μm以上の場合では、低膨張充填材の含有量は10〜50体積%が好ましく、15〜40体積%がより好ましい。また、封着材料層9の厚さが7μ未満の場合では、低膨張充填材の含有量は1〜40体積%が好ましく、2〜30体積%がより好ましい。
【0025】
ところで、封着材料層9の加熱・溶融にレーザ光や赤外線等の電磁波10による局所加熱を適用した場合には、前述したように局所的な急熱・急冷プロセスに起因してガラス基板2、3と封着層8との接着界面に残留応力が生じやすい。接着界面に生じる残留応力は、ガラス基板2、3と封着層8との接着強度を低下させる要因となる。そこで、この実施形態の電子デバイス1においては、図7の拡大図に示すように、第1及び第2のガラス基板2、3の内部に封着層8との界面から最大深さが30nm以上の反応層(すなわち、ガラス基板2、3と封着層8との反応層)11を生成している。
【0026】
反応層11は、ガラス基板2、3の構成元素と封着層8の構成元素との複数の元素を含む混合層である。このような反応層11をガラス基板2、3の内部に生成すると共に、その最大深さを30nm以上とすることによって、ガラス基板2、3と封着層8との接着状態を強固にすることができる。上記したガラス基板2、3の内部に反応層11が生成するとは、ガラス基板の封着層8の形成領域の表面から内部に向かって生成していることを意味する。従って、局所的な急熱・急冷プロセスに起因してガラス基板2、3と封着層8との接着界面に残留応力が生じるような場合においても、ガラス基板2、3と封着層8との接着強度を高めることが可能となる。反応層11の最大深さが30nm未満であると、接着強度を高める効果を十分に得ることができない。反応層11の最大深さは50nm以上とすることがより好ましく、さらに好ましくは150nm以上である。
【0027】
さらに、反応層11は封着層8の端部付近より中心部付近が第1及び第2のガラス基板2、3の内部に向けて突出した形状を有することが好ましい。言い換えると、反応層11はガラス基板2、3の内部への深さが封着層8の端部側より中心部付近の方が深い形状を有することが好ましい。例えば、このような形状としては、円孤状、あるいは鍋底状などの形状が挙げられる。このような反応層11によれば、ガラス基板2、3と反応層11との界面に生じる応力を反応層11全体に分散させることができるため、ガラス基板2、3と封着層8との接着強度をより一層高めることが可能となる。反応層の深さが一様であると、残留応力が反応層の側面や底面等に集中するおそれがある。反応層11の形状は図7に示すような形状に限らず、突出部分が複数存在するような形状であってもよい。
【0028】
上記した反応層11の具体的な形状としては、図8に示すように、反応層11の最大深さD1が封着層8の端部付近における深さD2に対して1.1倍以上(D1/D2≧1.1)の突形状(すなわち、ガラス基板側に突出した形状であって、図8において下向きの突形状)であることが好ましい。ここで、反応層11の端部付近の深さD2は、反応層11の端部から最大深さD1となる位置までの距離をL1としたとき、端部から距離L1の1/10の距離L2(L2=(1/10)×L1)の位置における深さを示すものとする。また、突出部分が複数(例えば2つ)存在する場合には、最大深さD1とその位置の最寄りの端部から最大深さD1となる位置までの距離L1の1/10の距離L2の位置における深さD2とに基づいてD1/D2を求めるものとする。
【0029】
封着層8の端部付近における深さD2に対する最大深さD1の比(D1/D2)が1.1以上の反応層11によれば、ガラス基板2、3と封着層8との接着強度をより一層高めることができると共に、ガラス基板2、3と反応層11との界面における応力の分散効果を再現性よく得ることが可能となる。すなわち、D1/D2比を1.1以上とすることによって、反応層11の形成量を増加させつつ、反応層11の形状をガラス基板2、3内により突出させた形状とすることができる。従って、ガラス基板2、3と封着層8との接着強度の向上効果とガラス基板2、3と反応層11との界面における応力の分散効果をより向上させることが可能となる。D1/D2比は2.0以上であることがより好ましい。
【0030】
また、反応層11が形成された部分の断面積が50μm以上であることが好ましい。ここにおいて、断面積とは、反応層11において、形成された封着層8の幅方向の縦断面方向の面積をいう。反応層11の断面積を50μm以上することによって、ガラス基板2、3と封着層8とをより強固に接着することができる。反応層11の断面積は100μm以上であることがより好ましい。反応層11の断面積は、例えば反応層11の形状(深さ等)により増加させることができる。なお、反応層11の断面積は封着層8の幅(線幅)を広くしても増加させることができ、これもガラス基板2、3と封着層8との接着強度を高める手段として挙げられる。ただし、封着層8の幅(線幅)は電子デバイス1の構成等に基づいて制約され、具体的には、0.2mm以上、1.5mm以下とすることが好ましい。
【0031】
反応層の生成は、ガラス基板2、3と封着層8との接着界面近傍のEE−EPMA線組成分析により確認することができるが、実用的な方法として以下に示す方法が挙げられる。ここでは、反応層11の形状(深さ、断面積、D1/D2比等)に関しては以下に示す方法で測定した値を示すものとする。
【0032】
まず、封着した電子デバイス(ガラス基板2、3と封着層8とで構成されたガラスパネル)1の一部を研磨しやすいように切り出して試料とする。この試料から一方のガラス基板を研磨して除去する。なお、接着強度が低くて封着層8内で剥離する場合には、ガラス基板の研磨工程を省くことができる。次いで、一方のガラス基板を除去した試料をエッチング液に浸漬して封着層を除去する。エッチング液には封着ガラスの構成元素を溶解することが可能な酸液を使用する。例えば、封着ガラスとしてビスマス系ガラスを用いた場合には、例えば30%硝酸水溶液を使用する。反応層11はガラス基板2、3の構成元素と封着ガラスの構成元素の混合層であるため、封着層8の除去と同時に反応層11も除去される。
【0033】
このようにして、反応層11の形成跡が凹状部として残存するガラス基板を作製する。このような凹状部を有するガラス基板の表面形状を表面粗さ計で測定することによって、反応層11の形成跡である凹状部の形状、すなわち反応層11の形状を測定、評価することができる。図10は後述する実施例5で作製したガラスパネルにおけるガラス基板の反応層11の形成跡の表面形状を測定した結果を示す図、図11は後述する実施例8で作製したガラスパネルにおけるガラス基板の反応層11の形成跡の表面形状を測定した結果を示す図である。これらの図に示すように、ガラス基板2、3から反応層11を溶解除去した後に、ガラス基板2、3の表面形状を表面粗さ計で測定することによって、反応層11の形状を評価することができる。
【0034】
上述したような形状を有する反応層11は、例えば封着ガラスの組成や、照射するレーザ光や電磁波による封着材料層9の加熱温度等を制御することにより再現性よく生成することができる。すなわち、封着ガラス(ガスフリット)にビスマス系ガラスを適用する場合、質量割合で70〜90%のBi、1〜20%のZnO、2〜12%のB、及び10〜380ppmのNaOの組成を適用することが好ましい。Bi、ZnO、及びBの3成分で形成されるガラスは、透明でガラス転移点が低い等の特性を有することから、局所加熱用の封着材料のガラス成分として好適である。ただし、上記した3成分による封着ガラスでは、ガラス基板2、3と封着層8との間に十分な反応層11を生成することができないおそれがある。
【0035】
ガラス基板2、3と封着層8との接着界面に所要の作用をもった反応層11を形成するためには、ガラスフリット中に拡散しやすい元素、具体的には1価のアルカリ金属元素を含有させることが効果的である。特に、ビスマス系ガラスフリットにおいては、NaOを含有させることが効果的である。このようなBi、ZnO、及びBの3成分で形成されるビスマス系ガラスフリットに適量のNaOを含有させた4成分系のガラスフリットを使用することによって、ガラス基板2、3と封着層8との接着界面に反応層11が生成されやすくなる。
【0036】
上述した4成分で形成されるビスマス系ガラスフリットにおいて、Biはガラスの網目を形成する成分であり、封着ガラス中に70〜90質量%の範囲で含有させることが好ましい。Biの含有量が70質量%未満であるとガラスフリットの軟化温度が高くなる。Biの含有量が90質量%を超えるとガラス化しにくくなり、ガラスの製造が困難になると共に、熱膨張係数が高くなりすぎる傾向がある。封着温度等を考慮して、Biの含有量は78〜87質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0037】
ZnOは熱膨張係数や軟化温度を下げる成分であり、封着ガラス中に1〜20質量%の範囲で含有させることが好ましい。ZnOの含有量が1質量%未満であるとガラス化が困難になる。ZnOの含有量が20質量%を超えると低融点ガラス成形時の安定性が低下し、失透が発生しやすくなって、ガラスが得られないおそれがある。ガラス製造の安定性等を考慮して、ZnOの含有量は7〜12質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0038】
はガラス骨格を形成してガラス化が可能になる範囲を広げる成分であり、封着ガラス中に2〜12質量%の範囲で含有させることが好ましい。Bの含有量が2質量%未満であるとガラス化が困難になる。Bの含有量が12質量%を超えると軟化点が高くなる。ガラスの安定性や封着温度等を考慮して、Bの含有量は5〜10質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0039】
NaOはガラス基板2、3と封着層8との反応性を高める成分であり、封着ガラス中に質量割合で10〜380ppmの範囲で含有させることが好ましい。NaOの含有量が10質量ppm未満であると反応層11の生成効率を十分に高めることができない。一方、NaOの含有量が380質量ppmを超えると第1のガラス基板2の表面に形成される配線等に悪影響を及ぼすおそれがある。過剰なNaOは、電子デバイスとして機能させるために形成された、第1のガラス基板2上の配線と反応し、配線に断線等を生じさせるおそれがある。さらに、NaOの含有量が多すぎるとガラスの安定性が損なわれ、失透が発生しやすくなる。ガラス基板2、3と封着層8との接着強度の向上効果、配線等への影響、ガラスの安定性等を考慮して、NaOの含有量は質量割合で100〜350ppmの範囲とすることがより好ましい。
【0040】
上述したNaOと同様に、LiOやKO等のアルカリ金属酸化物もガラス基板2、3と封着層8との接着界面に反応層11を形成させる成分として機能する。封着ガラスに添加されるこれらアルカリ金属酸化物は、これらの合計量で、封着ガラス中に質量割合で10〜380ppmの範囲が好ましい。ただし、これらアルカリ金属酸化物のうちでも、特にガラス基板2、3との反応性に優れるNaOが効果的であることから、ガラスフリットして用いるビスマス系ガラスはNaOを含むことが好ましい。なお、NaOの一部はLiOやKOから選ばれる少なくとも1種で置換してもよい。LiOやKOによるNaOの置換量は、接着界面における反応層11の形成性等を考慮して、Na2O量の50質量%以下とすることが好ましい。
【0041】
上述した4成分で形成されるビスマス系ガラスはガラス転移点が低く、封着材料に適したものであるが、Al、CeO、SiO、AgO、WO、MoO、Nb、Ta、Ga、Sb、CsO、CaO、SrO、BaO、P、SnO(xは1または2である)等の1種または複数種の任意成分を含有していてもよい。ただし、任意成分の含有量が多すぎるとガラスが不安定となって失透が発生したり、ガラス転移点や軟化点が上昇したりするおそれがあるため、任意成分の合計含有量は10質量%以下とすることが好ましい。任意成分の合計含有量の下限値は特に限定されるものではない。ビスマス系ガラス(ガスフリット)には、添加の目的に基づいて有効量の任意成分を配合することができる。
【0042】
上記した任意成分のうち、Al、SiO、CaO、SrO、BaO等はガラスの安定化に寄与する成分であり、その含有量は0〜5質量%の範囲とすることが好ましい。CsOはガラスの軟化温度を下げる効果を有し、CeOはガラスの流動性を安定化させる効果を有する。AgO、WO、MoO、Nb、Ta、Ga、Sb、P、SnO等はガラスの粘性や熱膨張係数等を調整する成分として含有させることができる。これら各成分の含有量は任意成分の合計含有量が10質量%を超えない範囲(0質量%を含む)内において、適宜に設定することができる。
【0043】
ここでは封着ガラスとしてビスマス系ガラスを用いる場合を例として説明したが、封着材料の主成分となる封着ガラスはビスマス系ガラスに限られるものではない。例えば、質量%表示で、Bi 70〜85%、ZnO 3〜20%、B 2〜12%、BaO 0.1〜10%、NaO 10〜380ppmを必須成分とする封着ガラスも使用できる。ビスマス系ガラス以外の封着ガラスを使用する場合においても、上述したようにガラス基板2、3との反応性を向上させる成分(例えば、アルカリ金属酸化物成分)を含有させることによって、ガラス基板2、3内に封着層8との反応層11を生成することができる。例えば、ホウケイ酸アルカリ系ガラスが挙げられる。
さらに、以下に示す封着材料層9の加熱条件を適用することによって、反応層11の生成効率を高めることができる。
【0044】
封着材料層9の加熱条件に関しては、封着ガラスの軟化点温度T(℃)に対して、封着材料層9の加熱温度が(T+200℃)以上で(T+800℃)以下の範囲となるように、封着材料層9に電磁波10を照射することが好ましい。すなわち、封着材料層9の加熱温度をガラスの軟化点温度T(℃)より200℃以上高い温度に設定することによって、ガラス基板2、3と封着ガラスとの反応性を高めることができる。ただし、封着材料層9の加熱温度が(T+800℃)を超える温度になると、ガラス基板2、3にクラックや割れ等が生じやすくなる。封着材料層9の加熱温度は(T+300℃)以上で(T+500℃)以下の範囲とすることがより好ましい。本明細書では、レーザ光による加熱温度は、放射温度計(浜松ホトニクス株式会社製、商品名:LD−HEATER L10060)で測定した。
【0045】
この実施形態の電子デバイス1は、例えば以下のようにして作製される。まず、図2(a)に示すように、電子素子部4を有する第1のガラス基板2と封着材料層9を有する第2のガラス基板3とを用意する。封着材料層9は、封着ガラスと低膨張充填材と電磁波吸収材とを含有する封着材料を、ビヒクルと混合して封着材料ペーストを調製し、これを第2のガラス基板3の封止領域7に塗布した後に乾燥及び焼成することにより形成される。
【0046】
封着材料ペーストの調製に用いられるビヒクルとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキシエチルセルロース、ベンジルセルロース、プロピルセルロース、ニトロセルロース等の樹脂を、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したもの、またメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリテート、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート等のアクリル系樹脂を、メチルエチルケトン、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したものが挙げられる。
【0047】
封着材料ペーストの粘度は、ガラス基板3に塗布する装置に対応した粘度に合わせればよく、樹脂(バインダ成分)と溶剤の割合や封着材料とビヒクルの割合により調整することができる。封着材料ペーストには、希釈用の溶剤、消泡剤や分散剤のようなガラスペーストで公知の添加物を加えてもよい。封着材料ペーストの調製には、撹拌翼を備えた回転式の混合機やロールミル、ボールミル等を用いた公知の方法を適用することができる。
【0048】
第2のガラス基板3の封止領域7に封着材料ペーストを塗布し、これを乾燥させて封着材料ペーストの塗布層を形成する。封着材料ペーストは、例えばスクリーン印刷やグラビア印刷等の印刷法を適用して第2の封止領域7上に塗布したり、あるいはディスペンサ等を用いて第2の封止領域7に沿って塗布したりする。封着材料ペーストの塗布層は、例えば120℃以上の温度で10分以上乾燥させることが好ましい。乾燥工程は塗布層内の溶剤を除去するために実施するものである。塗布層内に溶剤が残留していると、その後の焼成工程でバインダ成分を十分に除去することができないおそれがある。
【0049】
上記した封着材料ペーストの塗布層を焼成して封着材料層9を形成する。焼成工程は、まず塗布層を封着材料の主成分である封着ガラス(ガラスフリット)のガラス転移点以下の温度に加熱し、塗布層内のバインダ成分を除去した後、封着ガラス(ガラスフリット)の軟化点以上の温度に加熱し、封着材料を溶融してガラス基板3に焼き付ける。このようにして、封着材料の焼成層からなる封着材料層9を形成する。封着材料ペーストを第2のガラス基板の封着領域7に線条に塗布するに当たっては、封着層8が、2〜15μmの厚さであって、かつ0.2〜1.5mmの幅となるように、その線条の厚さおよび幅を選択する。
【0050】
次に、図2(b)に示すように、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とを、電子素子部4を有する表面2aと封着材料層9を有する表面3aとが対向するように積層する。次いで、図2(c)に示すように、第2のガラス基板3を通して封着材料層9にレーザ光や赤外線等の電磁波10を照射する。なお、図2には示していないが、第1のガラス基板2を通して封着材料層9にレーザ光や赤外線等の電磁波10を照射しても良いし、また第1および第2のガラス基板の両側から、第1および第2のガラス基板を通して封着材料層9にレーザ光や赤外線等の電磁波10を照射してもよい。封着材料層9に照射する電磁波10としてレーザ光を使用する場合、レーザ光は、ガラス基板の周辺に枠状に形成された封着材料層9に沿って走査しながら照射される。レーザ光は特に限定されず、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、HeNeレーザ等からのレーザ光が使用される。電磁波として赤外線を使用する場合には、例えば封着材料層9の形成部位以外をAg等の赤外線反射膜等でマスキングすることによって、封着材料層9に赤外線を選択的に照射することが好ましい。
【0051】
レーザ光や赤外線等の電磁波10による封着材料層9の加熱温度は、前述したように封着ガラスの軟化点温度T(℃)に対して(T+200℃)以上で(T+800℃)以下の範囲とすることが好ましい。このような加熱条件を満足させる上で、電磁波10としては出力密度が250〜10000W/cmの範囲のレーザ光や、出力が1〜30kWの範囲の赤外線を使用することが好ましい。より好ましくは、出力密度が1000〜8000W/cmの範囲のレーザ光や、出力が5〜25kwの範囲の赤外線を使用する。なお、レーザ光や赤外線を照射した際の封着材料層9の加熱温度は、封着材料層9の厚さや線幅、またレーザ光の場合には走査速度等によっても変化するため、これらの条件を加味した上で、上記した封着材料層9の加熱温度になるようにレーザ光や赤外線の照射条件を設定することが好ましい。
【0052】
電磁波10としてレーザ光を使用した場合、封着材料層9はそれに沿って走査されるレーザ光が照射された部分から順に溶融し、レーザ光の照射終了と共に急冷固化されて第1のガラス基板2に固着する。そして、封着材料層9の全周にわたってレーザ光を照射することによって、図2(d)に示すように第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間を封止する封着層8が形成される。また、電磁波10として赤外線を使用した場合、封着材料層9は赤外線の照射に基づいて溶融し、赤外線の照射終了と共に急冷固化されて第1のガラス基板2に固着する。このようにして、図2(d)に示すように第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間を封止する封着層8が形成される。
【0053】
ここで、封着材料層9にレーザ光や赤外線等の電磁波10を照射した場合、封着材料層9のみが局所的に加熱されることになる。封着材料層9の熱はガラス基板2、3を通して外部に放散されることになるが、封着材料層9の中心付近は端部付近に比べて熱の伝達効率が低い。このため、熱が逃げにくい封着材料層9の中心付近において、ガラス基板2、3と封着ガラスとの反応が進行しやすい。従って、レーザ光や赤外線による局所加熱を適用した場合には、図7図8に示したような形状を有する反応層11が得られやすい。さらに、電磁波10としてレーザ光を使用する場合には、強度分布が突状のレーザ光を使用することが好ましく、これにより反応層11も突形状となりやすい。
【0054】
このようにして、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3と封着層8とで構成したガラスパネルで、それらの間に設けられる電子素子部4を気密封止した電子デバイス1を作製する。電子デバイス1の信頼性はガラス基板2、3と封着層8との接着強度等に依存する。この実施形態によればガラス基板2、3と封着層8との接着強度を高めることができるため、信頼性に優れる電子デバイス1を提供することが可能となる。なお、内部を気密封止したガラスパネルは電子デバイス1に限らず、電子部品の封止体、あるいは複層ガラスのようなガラス部材(建材等)にも応用することが可能である。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の具体的な実施例及びその評価結果について述べる。なお、以下の説明は本発明を限定するものではく、本発明の趣旨に沿った形での改変が可能である。
【0056】
(実施例1)
質量割合でBi 83%、B 5.5%、ZnO11%、Al 0.5%の組成を有し、さらに質量割合で12ppmのNaOを含むビスマス系ガラスフリット(軟化点:420℃)、低膨張充填材としてコージェライト粉末、電磁波吸収材として質量割合でFe24%、CuO22%、Al20%、MnO34%の組成を有するレーザ吸収材を用意した。NaOの含有量はICPにより分析した。ビスマス系ガラスフリットの組成比は便宜的に主要成分の合計量を100質量%として示したが、微量成分であるNaO量も封着ガラスの成分合計(100質量%)に含まれるものである。
【0057】
ビスマス系ガラスフリット68体積%とコージェライト粉末25体積%とレーザ吸収材7体積%とを混合して封着材料(熱膨張係数:71×10−7/℃)を作製した。この封着材料84質量%を、バインダ成分としてエチルセルロース5質量%を2,2,4−トリメチル−1,3ペンタンジオールモノイソブチレート95質量%に溶解して作製したビヒクル16質量%と混合して封着材料ペーストを調製した。次いで、無アルカリガラス(旭硝子株式会社製、AN100(熱膨張係数:38×10−7/℃))からなる第2のガラス基板(板厚:0.7mm、寸法:90mm×90mm)を用意し、このガラス基板の封止領域に封着材料ペーストをスクリーン印刷法で塗布した後、120℃×10分の条件で乾燥させた。この塗布層を480℃×10分の条件で焼成することによって、膜厚が10μm、線幅が0.5mmの封着材料層を形成した。
【0058】
次に、封着材料層を有する第2のガラス基板と素子領域(OEL素子を形成した領域)を有する第1のガラス基板(第2のガラス基板と同組成、同形状の無アルカリガラスからなる基板)とを積層した。次いで、第2のガラス基板を通して封着材料層に対して、波長940nm、スポット径1.6mm、出力23.5W(出力密度:1169W/cm)のレーザ光(半導体レーザ)を10mm/秒の走査速度で照射し、封着材料層を溶融並びに急冷固化することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。レーザ光の強度分布は一定に形成せず、突形状の強度分布を有するレーザ光を使用した。
【0059】
レーザ光を照射した際の封着材料層の加熱温度を放射温度計で測定したところ、封着材料層の温度は650℃であった。上記したビスマス系ガラスフリットの軟化点温度Tは420℃であるため、封着材料層の加熱温度は(T+230℃)に相当する。このようにして作製したガラスパネルを有する電子デバイスを後述する特性評価に供した。
【0060】
(実施例2)
NaOの含有量が質量割合で100ppmであるビスマス系ガラスフリット(軟化点:420℃)を用いる以外は、実施例1と同様にして封着材料層の形成、及びレーザ光による第1のガラス基板と第2のガラス基板との封着を実施した。レーザ光を照射した際の封着材料層の温度は、実施例1と同様に650℃であった。このようにして作製したガラスパネルを有する電子デバイスを後述する特性評価に供した。
【0061】
(実施例3)
出力が28W(出力密度:1393W/cm)のレーザ光を用いる以外は、実施例2と同様にして封着材料層の形成、及びレーザ光による第1のガラス基板と第2のガラス基板との封着を実施した。レーザ光を照射した際の封着材料層の温度は730℃であった。この加熱温度は(T+310℃)に相当する。このようにして作製したガラスパネルを有する電子デバイスを後述する特性評価に供した。
【0062】
(実施例4)
出力が32W(出力密度:1592W/cm)のレーザ光を用いる以外は、実施例2と同様にして封着材料層の形成、及びレーザ光による第1のガラス基板と第2のガラス基板との封着を実施した。レーザ光を照射した際の封着材料層の温度は790℃であった。この加熱温度は(T+370℃)に相当する。このようにして、素子領域をガラスパネルで封止した電子デバイスを後述する特性評価に供した。
【0063】
(実施例5)
出力が37W(出力密度:1847W/cm)のレーザ光を用いる以外は、実施例2と同様にして封着材料層の形成、及びレーザ光による第1のガラス基板と第2のガラス基板との封着を実施した。レーザ光を照射した際の封着材料層の温度は900℃であった。この加熱温度は(T+480℃)に相当する。このようにして、素子領域をガラスパネルで封止した電子デバイスを後述する特性評価に供した。
【0064】
(実施例6)
封着材料層の線幅を0.75mm、出力が28W(出力密度:1393W/cm)のレーザ光を用いる以外は、実施例4と同様にして封着材料層の形成、及びレーザ光による第1のガラス基板と第2のガラス基板との封着を実施した。レーザ光を照射した際の封着材料層の温度は、実施例4と同様に790℃であった。このようにして作製したガラスパネルを有する電子デバイスを後述する特性評価に供した。
【0065】
(実施例7)
封着材料層の線幅を1mmとすると共に、出力が25W(出力密度:1244W/cm)のレーザ光を用いる以外は、実施例3と同様にして封着材料層の形成、及びレーザ光による第1のガラス基板と第2のガラス基板との封着を実施した。レーザ光を照射した際の封着材料層の温度は740℃であった。加熱温度は(T+320℃)に相当する。このようにして作製したガラスパネルを有する電子デバイスを後述する特性評価に供した。
【0066】
(実施例8)
NaOの含有量が質量割合で350ppmであるビスマス系ガラスフリット(軟化点:420℃)を用いる以外は、実施例1と同様にして封着材料ペーストを調製した。このビスマス系ガラスフリットを含む封着材料ペーストを、ソーダライムガラス(旭硝子株式会社製、(熱膨張係数:84×10−7/℃))からなる第2のガラス基板(板厚:0.7mm、寸法:90mm×90mm)の封止領域にスクリーン印刷法で塗布した後、120℃×10分の条件で乾燥させた。この塗布層を480℃×10分の条件で焼成することによって、膜厚が10μm、線幅が1mmの封着材料層を形成した。
【0067】
次に、封着材料層を有する第2のガラス基板と素子領域を有する第1のガラス基板(第2のガラス基板と同組成、同形状のソーダライムガラスからなる基板)とを積層した。次いで、第2のガラス基板を通して封着材料層に対して、波長940nm、スポット径1.6mm、出力18W(出力密度:896W/cm)のレーザ光(半導体レーザ)を5mm/秒の走査速度で照射し、封着材料層を溶融並びに急冷固化することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。レーザ光の強度分布は一定に形成せず、突形状の強度分布を有するレーザ光を使用した。
【0068】
レーザ光を照射した際の封着材料層の加熱温度を放射温度計で測定したところ、封着材料層の温度は620℃であった。前述したビスマス系ガラスフリットの軟化点温度Tは420℃であるため、封着材料層の加熱温度は(T+200℃)に相当する。このようにして作製したガラスパネルを有する電子デバイスを後述する特性評価に供した。
【0069】
(実施例9)
ビスマス系ガラスフリット中のNaOの含有量は実施例2と、その他の条件については実施例1と同様にして、無アルカリガラスからなる第2のガラス基板の封止領域に膜厚が10μm、線幅が0.5mmの封着材料層を形成した。次に、封着材料層を有する第2のガラス基板と第1のガラス基板(第2のガラス基板と同組成、同形状の無アルカリガラスからなる基板)とを積層した。出力が10〜20kWの赤外線加熱装置内に配置して封着材料層を溶融並びに急冷固化することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。
【0070】
赤外線照射時の封着材料層付近のガラスの温度を熱電対で測定したところ、封着材料層の温度は900℃であった。前述したビスマス系ガラスフリットの軟化点温度Tは420℃であるため、封着材料層の加熱温度は(T+480℃)に相当する。このようにして作製したガラスパネルを有する電子デバイスを後述する特性評価に供した。
なお、実施例1〜9において得られた封着材料層に電磁波を照射して加熱して形成された封着層の厚みと線幅は、封着層材料層の厚みと線幅と同様であり、変化がなかった。
【0071】
(比較例1)
出力が13W(出力密度:647W/cm)のレーザ光を用いる以外は、実施例1と同様にして封着材料層の形成、及びレーザ光による第1のガラス基板と第2のガラス基板との封着を実施した。レーザ光を照射した際の封着材料層の温度は540℃であった。この加熱温度は(T+120℃)に相当する。このようにして作製したガラスパネルを有する電子デバイスを後述する特性評価に供した。
【0072】
(比較例2)
NaOの含有量が質量割合で4ppmであるビスマス系ガラスフリット(軟化点:420℃)を用いる以外は、実施例1と同様にして封着材料層の形成、及びレーザ光による第1のガラス基板と第2のガラス基板との封着を実施した。レーザ光を照射した際の封着材料層の温度は、実施例1と同様に650℃であった。このようにして作製したガラスパネルを有する電子デバイスを後述する特性評価に供した。
【0073】
上述した実施例1〜9で作製したガラスパネルについて、光学顕微鏡(100倍)にて接着の有無を確認したところ、全てのパネルが接着されていることを確認した。また、実施例5で作製したガラスパネルについて、ガラス基板と封着層との接着界面近傍を断面SEMで観察し、さらにガラス基板の主要構成元素であるSiと封着層の主要構成元素であるBiの線組成分析をFE−EPMAで行った。実施例5によるガラスパネルのSiとBiの線組成分析結果を図9に示す。また、レーザで封着する前のガラス基板と封着材料層との界面近傍を断面SEMで観察し、さらにガラス基板の主要構成元素であるSiと封着層の主要構成元素であるBiの線組成分析をFE−EPMAで行った。その結果を図10に示す。図9図10との比較から明らかなように、界面近傍でSiとBiとが混合しており、反応層が生成していることが確認された。
【0074】
次に、反応層の形状と接着強度を測定するために、実施例1〜9及び比較例1〜2と同一条件にて、ガラス基板の寸法と封着領域のみが異なるサンプルを用意した。サンプルは以下のようにして作製した。ガラス基板の寸法は、板厚を0.7mm、縦×横を70mm×25mmとした。まず、図14に示すように、ガラス基板21の封着領域Aに封着材料層22を形成し、さらに図15に示すように、ガラス基板21とガラス基板23とを重ねた後、各実施例及び比較例と同一条件で封着を行った。このようなサンプルの接着強度をJIS K6856(接着剤の曲げ接着強さ試験方法)を参考にして測定した。JIS K6856からの変更点は、基板の厚さを2.8mmから0.7mmとし、またシール幅を12.5mmから各実施例及び参考例の幅とした。接着強度の測定結果を表1及び表2に示す。
【0075】
反応層の形状は、前述したガラス基板の表面測定方法(反応層をエッチング除去した後にガラス基板の表面形状を表面粗さ計で測定する方法)に基づいて測定した。サンプルは上述した通りである。サンプルのガラス基板の一部を研磨しやすいようにダイサー(dicer)で切り出して試料とした。この試料から一方のガラス基板を、研磨粉(株式会社フジミコーポレッド製FO#500)を使用して平面研磨盤で研磨して除去した。このとき、除去するガラス基板が残らないように、また試料として使用する側のガラス基板を研磨しないように十分に注意した。接着強度が低くて封着層内で剥離する場合には、ガラス基板の研磨工程を省くことができた。次いで、硝酸水溶液(60%)を蒸留水で1:1の比率で希釈してエッチング液を作製し、一方のガラス基板を除去した試料をエッチング液に2時間浸漬した。次いで、蒸留水で試料を洗浄し、120℃の乾燥機に5分間入れて乾燥させた。試料の封着領域Aの表面状態を図16に示すように、接触式表面粗さ計(株式会社東京精密製、サーフコム1400D)を用いて測定した。
【0076】
図11に実施例6で作製したガラスパネルにおけるガラス基板の反応層の形成跡およびその近傍の表面形状を測定した結果を示す。また、図12に実施例9で作製したガラスパネルにおけるガラス基板の反応層の形成跡およびその近傍の表面形状を測定した結果を、図13に比較例1で作製したガラスパネルにおけるガラス基板の封着層の形成領域およびその近傍の表面形状を測定した結果を示す。ガラス基板の表面測定結果から反応層の形状を判定し、さらに反応層の最大深さD1、断面積、D1/D2比を求めた。これらの測定・評価結果を表1及び表2に示す。表1及び表2にはガラスパネルの製造条件を併せて示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1及び表2から明らかなように、比較例1〜2では反応層が生成されておらず、そのために接着強度が低いことが分かる。これらに対して、実施例1〜9によるガラスパネルはいずれも反応層が十分な深さや形状で生成されているため、良好な接着強度が得られている。なお、実施例2と同様にして封着材料層を形成した第2のガラス基板と第1のガラス基板とを積層し、これを加熱炉内に配置して500℃×1時間の条件で加熱処理したところ、接着界面近傍に反応層が生成されていたものの、加熱炉による焼成を適用しているため、反応層は一様な深さ(平板状)を有していた。
【0080】
(実施例10)
質量割合でBi 79.3%、B 7.1%、ZnO7.6%、BaO5.6%、Al 0.4%の組成を有し、さらに質量割合で22ppmのNaOを含むビスマス系ガラスフリット(軟化点:430℃)を用い、他の条件は実施例1と同様にガラスパネルを有する電子デバイスを作製した。接着強度の測定結果は6.0Nで、しっかりと接着されていることを確認した。この実施例では反応層の確認は行わなかったが、ガラスフリット成分のZnOの一部をBaOに置換することにより、ガラスフリットの結晶化ポテンシャルが下がり、ガラスの流動性が向上して、良好な反応層が形成されたことと推定できる。
【0081】
(実施例11)
実施例1と同様のビスマス系ガラスフリット、低膨張充填材、レーザ吸収材を用意し、ビスマス系ガラスフリット74体積%とコージェライト粉末11体積%と電磁波吸収材(レーザ吸収材)15体積%とを混合して封着材料(熱膨張係数:90×10−7/℃)を作製した。この封着材料84質量%を、バインダ成分としてエチルセルロース5質量%を2,2,4−トリメチル−1,3ペンタンジオールモノイソブチレート95質量%に溶解して作製したビヒクル16質量%と混合して封着材料ペーストを調製した。次いで、無アルカリガラス(旭硝子株式会社製、AN100(熱膨張係数:38×10−7/℃))からなる第2のガラス基板(板厚:0.7mm、寸法:90mm×90mm)を用意し、このガラス基板の封止領域に封着材料ペーストをスクリーン印刷法で塗布した後、120℃×10分の条件で乾燥させた。この塗布層を480℃×10分の条件で焼成することによって、膜厚が4μm、線幅が0.5mmの封着材料層を形成した。次に、実施例3と同様の条件でガラスパネルを有する電子デバイスを作製した、接着強度の測定結果は7.0Nで、しっかりと接着されていることを確認した。反応層を確認したところ、突形状、最大深さが150nm、断面積が54μm、D1/D2が6.0の反応層を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、各種電子デバイスにおけるガラス基板と封着層との接着強度を向上させることができ、気密性や信頼性を向上させた電子デバイスを再現性よく提供することができ、OELD、PDP、LCD等のFPD、あるいは太陽電池素子等の電子デバイスにおいて有用である。また、太陽熱発電用の反射ミラーにおいて、反射膜を保護するために、2枚のガラス基板で反射膜を気密封止する用途にも有用である。
なお、2010年3月19日に出願された日本特許出願2010−063839号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。
【符号の説明】
【0083】
1…電子デバイス、2…第1のガラス基板、3…第2のガラス基板、4…電子素子部、5…素子領域、6…第1の封止領域、7…第2の封止領域、8…封着層、9…封着材料層、10…電磁波、11…反応層。
図1
図2
図3
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