特許第5692223号(P5692223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5692223溶融ガラス処理装置、その製造方法、およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692223
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】溶融ガラス処理装置、その製造方法、およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/43 20060101AFI20150312BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   C03B5/43
   C03C3/091
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-512803(P2012-512803)
(86)(22)【出願日】2011年4月20日
(86)【国際出願番号】JP2011059753
(87)【国際公開番号】WO2011136109
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-104350(P2010-104350)
(32)【優先日】2010年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 栄治
(72)【発明者】
【氏名】浜島 和雄
【審査官】 植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/030738(WO,A1)
【文献】 特表2004−523449(JP,A)
【文献】 特開2007−077004(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/024940(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/43
C03C 3/091
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内表面が溶融ガラスに接触する白金製または白金合金製の部材と、該部材の外表面の少なくとも一部を覆うガラス層と、該ガラス層の少なくとも外側が浸透している耐熱性繊維体とを備える溶融ガラス処理装置であって、
前記耐熱性繊維体は、ガラス繊維またはセラミックス繊維を含み、酸化物基準の質量%表示で、SiO含有量が50%以上であり、
前記ガラス層を形成するガラスは、使用温度において、102.5dPa・s以上の粘度を有し、
前記ガラス層には、外気と連通していない空隙が含まれている溶融ガラス処理装置。
【請求項2】
前記ガラス層の厚さが1mm未満である請求項1に記載の溶融ガラス処理装置。
【請求項3】
前記空隙は前記部材に対して開放されており、前記空隙内の気体が前記部材に接触している請求項1または2に記載の溶融ガラス処理装置。
【請求項4】
前記空隙は、前記ガラス層の断面の2〜70%を占めている請求項1〜3のいずれか1つに記載の溶融ガラス処理装置。
【請求項5】
前記ガラス層を形成するガラスは、使用温度において、前記耐熱性繊維体よりも前記部材に対する濡れ性の高いガラスである請求項1〜4のいずれか1つに記載の溶融ガラス処理装置。
【請求項6】
前記ガラス層を形成するガラスは、無アルカリガラスである請求項1〜5のいずれか1つに記載の溶融ガラス処理装置。
【請求項7】
前記ガラス層の厚さが0.2mm以上である請求項1〜6のいずれか1つに記載の溶融ガラス処理装置。
【請求項8】
前記ガラス層の前記耐熱性繊維体への浸透深さが0.1mm以上である請求項1〜7のいずれか1つに記載の溶融ガラス処理装置。
【請求項9】
前記耐熱性繊維体の厚さが0.5mm以上である請求項1〜8のいずれか1つに記載の溶融ガラス処理装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の溶融ガラス処理装置を製造する方法であって、
前記部材と前記耐熱性繊維体との間に、ガラス粉末を含むコート層を形成し、焼成することで、前記ガラス層を形成する工程を含む溶融ガラス処理装置の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の溶融ガラス処理装置と、前記溶融ガラス処理装置から供給される溶融ガラスを所定形状に成形する成形装置とを備えるガラス製造装置。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の溶融ガラス処理装置から供給される溶融ガラスを所定形状に成形するガラス製造方法。
【請求項13】
前記溶融ガラスは、無アルカリガラスである請求項12に記載のガラス製造方法。
【請求項14】
前記溶融ガラスは、酸化物基準の質量%表示で、SiO:58〜66%、Al:15〜22%、B:5〜12%、MgO:0〜8%、CaO:0〜9%、SrO:3〜12.5%、BaO:0〜2%を含有し、MgO+CaO+SrO+BaOが9〜18%の無アルカリガラスである請求項12に記載のガラス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラス処理装置、その製造方法、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融ガラス処理装置において、溶融ガラスが接触する部材の材料には、一般的に、白金または白金合金が用いられている。白金合金は、白金(Pt)の他、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、金(Au)などを含む合金である。白金や白金合金は、融点が高く、大気中で酸化され難く、溶融ガラスとの反応性が低いという特徴を有しているので、溶融ガラスが接触する部材の材料として適している。
【0003】
しかしながら、白金や白金合金を用いた場合、溶融ガラス中に気泡が発生するという問題があった。この気泡は、溶融ガラス中に溶存する水分に起因するものである。水分が水素と酸素に分解されると、水素が白金を透過して外部に散逸し、酸素が溶融ガラス中に残存して気泡を形成すると考えられている。また、白金が外気中の酸素と反応して白金酸化物(PtO)のガスを生成することによって、または、白金自体が熱によって揮散することによって、白金製または白金合金製の部材が徐々に揮散するという問題もあった。
【0004】
そこで、上記問題を解決するため、白金製または白金合金製の部材の外表面に、水素低透過層を設けることが提案されている。水素低透過層の材料としては、ガラスやセラミックスが用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特表2004−523449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水素低透過層の材料としてガラス等を用いる場合、ガラスが自重によって下方に熱流動し、部材の外表面から離れてしまうことがある。
【0007】
また、水素低透過層の材料としてセラミックスを単独で用いる場合、セラミックス粒子を部材の外表面に溶射すると、セラミックスと白金との熱膨張差に起因してセラミックスや白金に亀裂が生じやすい。
【0008】
特に近年では、液晶ディスプレイ(LCD)などのフラットパネルディスプレイ(FPD)向けに、無アルカリガラスが用いられている。無アルカリガラスは、アルカリ金属を実質的に含まないガラスであって、一般的なソーダライムガラスと比べて、溶解温度が100℃以上高い。そのため、上記部材の使用温度が高くなっており、上記問題が顕在化しやすくなっている。
【0009】
また近年では、ガラス原料を溶解する溶解槽において、ガラス原料の加熱源として、酸素燃焼バーナが用いられる傾向にある。酸素燃焼バーナは、空気燃焼バーナに比べて、加熱効率が良い。しかしながら、酸素燃焼バーナを用いると、溶解槽内の上部空間における水分濃度が高くなるので、溶融ガラス中に溶存する水分濃度が高くなる。そのため、上記問題が顕在化しやすくなっている。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、溶融ガラス中での気泡の生成をより効果的に抑制することができる溶融ガラス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を解決するため、本発明は、内表面が溶融ガラスに接触する白金製または白金合金製の部材と、該部材の外表面の少なくとも一部を覆うガラス層と、該ガラス層の少なくとも外側が浸透している耐熱性繊維体とを備える溶融ガラス処理装置であって、
前記耐熱性繊維体は、ガラス繊維またはセラミックス繊維を含み、酸化物基準の質量%表示で、SiO含有量が50%以上であり、
前記ガラス層を形成するガラスは、使用温度において、102.5dPa・s以上の粘度を有し、
前記ガラス層には、外気と連通していない空隙が含まれている、溶融ガラス処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶融ガラス中での気泡の生成をより効果的に抑制することができる溶融ガラス処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における溶融ガラス処理装置の使用状態の断面図である。
図2】溶融ガラス処理装置1の製造方法の説明図(1)である。
図3】溶融ガラス処理装置1の製造方法の説明図(2)である。
図4】溶融ガラス処理装置1を備えるガラス製造装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、後述の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、後述の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0015】
(溶融ガラス処理装置)
溶融ガラス処理装置は、溶融ガラスを処理する装置であって、例えば、溶融ガラスの溶解、清澄、調温、搬送、撹拌などのための装置である。なお、本発明の溶融ガラス処理装置はこれに限定されない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態における溶融ガラス処理装置の使用状態の断面図である。例えば、溶融ガラス処理装置1は、図1に示すように、内表面31が溶融ガラス2に接触する白金製または白金合金製の部材3と、該部材3の外表面32の少なくとも一部を覆うガラス層4と、該ガラス層4の少なくとも外側(部材3と反対側)が浸透している耐熱性繊維体5とを備える。ガラス層4は、部材3の外表面32の少なくとも一部を覆うことで、溶融ガラス2中に含まれる水素が部材3を透過し外部に散逸するのを抑制する。耐熱性繊維体5は、ガラス層4が熱流動するのを抑制する。以下、各構成について説明する。
【0017】
部材3は、白金または白金合金で構成されている。白金合金は、白金(Pt)の他、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、金(Au)などを含む合金である。白金や白金合金は、融点が高く、大気中で酸化され難く、溶融ガラス2との反応性が低いという特徴を有しているので、溶融ガラス2が接触する部材3の材料として適している。
【0018】
部材3の形状は、溶融ガラス処理装置1の種類や用途等に応じて設定される。例えば、部材3の形状は、箱形状や管形状に設定される。部材3の内表面31には溶融ガラス2が接触しており、部材3の外表面32にはガラス層4が接触している。
【0019】
ガラス層4は、部材3の外表面32の少なくとも一部を覆うことで、溶融ガラス2中に含まれる水素が部材3を透過し外部に散逸するのを抑制し、ひいては、溶融ガラス2中に溶存する水分の分解を抑制している。よって、水分の分解に起因する、気泡の生成を抑制することができる。また、白金などの揮散を抑制することができる。
【0020】
ガラス層4を形成するガラスは、特に限定されないが、例えば、酸化物基準の質量%表示で、SiO:50〜72%、Al:0.5〜24%好ましくは0.5〜23%、B:0〜12%、MgO:0〜8%、CaO:0〜14.5%、SrO:0〜24%、BaO:0〜13.5%、NaO+LiO+KO:0〜15%を含有し、MgO+CaO+SrO+BaOが9〜29.5%である。このとき、さらにZrO:0〜5%を含有してもよい。
【0021】
ガラス層4を形成するガラスは、溶融ガラス2が無アルカリガラスの場合、同じく無アルカリガラスであることが望ましい。部材3が損傷した場合に、ガラス層4中のアルカリ金属が溶融ガラス2に混入するのを防止するためである。
【0022】
ガラス層4を形成する無アルカリガラスは、特に限定されないが、例えば、酸化物基準の質量%表示で、SiO:50〜66%、Al:10.5〜24%好ましくは10.5〜22%、B:0〜12%、MgO:0〜8%、CaO:0〜14.5%、SrO:0〜24%、BaO:0〜13.5%を含有し、MgO+CaO+SrO+BaOが9〜29.5%である。このとき、さらにZrO:0〜5%を含有してもよい。好ましくは、酸化物基準の質量%表示で、SiO:58〜66%、Al:15〜22%、B:5〜12%、MgO:0〜8%、CaO:0〜9%、SrO:3〜12.5%、BaO:0〜2%を含有し、MgO+CaO+SrO+BaOが9〜18%である。
【0023】
ガラス層4を形成するガラスは、使用温度において、102.5dPa・s以上(好ましくは102.8dPa・s以上、より好ましくは103.5dPa・s以上)の粘度ηを有する。この粘度ηが低過ぎる場合、ガラスが自重によって下方に熱流動したり、ガラスが耐熱性繊維体5を通って外部に流出したりして、ガラス層4が部材3から離れてしまう。一方、この粘度ηが高過ぎる場合、連続したガラス層4を形成するのが難しく、また、ガラス層4の内部に外気と連通していない空隙7(詳しくは後述)を形成するのが難しい。よって、この粘度ηは、使用温度において、104.8dPa・s以下であることが好ましく、104.5dPa・s以下であることがより好ましい。
【0024】
ここで、使用温度とは、部材3が溶融ガラス2に接触している状態における温度をいう。溶融ガラス2、部材3、ガラス層4の使用温度は、通常、略同一である。
【0025】
ガラス層4を形成するガラスの少なくとも一部は、使用温度において、耐熱性繊維体5に浸透している。ガラス層4の耐熱性繊維体5への浸透深さD2は、0.1mm以上であることが望ましい。ここで、浸透深さD2は、平均値を意味する。浸透深さD2が小さ過ぎると、ガラス層4の熱流動を耐熱性繊維体5によって抑制するのが難しい。
【0026】
なお、本実施形態では、図1に示すように、ガラス層4を形成するガラスの一部のみが耐熱性繊維体5に浸透しているが、ガラス層4が部材3に接触している限り、ガラス層4を形成するガラスの全部が耐熱性繊維体5に浸透しても良い。
【0027】
ガラス層4を形成するガラスは、使用温度において、耐熱性繊維体5よりも部材3に対する濡れ性の高いガラスであることが望ましい。これにより、ガラス層4と部材3との密着性を高めることができる。
【0028】
ガラス層4を形成するガラスと、部材3を構成する材料(例えば、白金や白金合金)との接触角θaは、ガラスの種類などにもよるが、使用温度において例えば30〜60°、好ましくは45〜55°である。
【0029】
ここで、接触角とは、JIS R 3257−1999に規定されている接触角に準拠するものである。本発明では、接触角θaは、部材3を構成する材料(例えば、白金や白金合金)で形成した試験板を水平に設置し、ガラス層4を形成するガラスの液滴を試験板に静置して測定される。この接触角は、市販の装置により測定することが可能である。
【0030】
一方、ガラス層4を形成するガラスと、耐熱性繊維体5を構成する材料(例えば、ガラスやセラミックス)との接触角θbは、使用温度において、例えば60〜110°、好ましくは70〜110°である。接触角θbが小さ過ぎると、ガラス層4と部材3との密着性が悪くなる。また、接触角θbが大き過ぎると、ガラス層4と耐熱性繊維体5との密着性が悪くなる。
【0031】
本発明では、接触角θbは、耐熱性繊維体5を構成する材料(例えば、ガラスやセラミックス)と同組成で形成した試験板(例えば、ガラス板やセラミックス板)を水平に設置し、ガラス層4を形成するガラスの液滴を試験板に静置して測定される。
【0032】
ガラス層4の厚さD1(浸透深さD2を含む)は、0.2mm以上であることが望ましい。ここで、厚さD1は、平均値を意味する。厚さD1が過小であると、ガラス層4を設けた効果が十分に発現されない。一方、厚さD1が過大であると、ガラス層4を形成するガラスが自重によって下方に熱流動し、ガラス層4が部材3から離れてしまう。よって、厚さD1は、3mm以下であることが好ましく、1mm未満であることがより好ましく、0.9mm以下であることがさらに好ましく、0.8mm以下であることが特に好ましい。
【0033】
本実施形態のガラス層4は、図1に示すように、外気と連通していない空隙7、9を含んでいる。空隙7、9は、ガラス層4に分散配置されている。空隙7は、部材3の外表面32に対して開放されており、空隙7内の気体が部材3の外表面32に接触している。空隙7は、水素が部材3を内側から外側に向けて透過するのを抑制し、ひいては、溶融ガラス2中での気泡の生成などを抑制する。その理由は、十分に把握されていないが、次の(1)〜(3)の理由が考えられる。
【0034】
(1)空隙7内の気体には、部材3を内側から外側に透過した水素が蓄積される。そのため、水素濃度の高い気体が部材3の外表面32に接触しているので、水素が部材3を内側から外側に向けて透過するのが抑制される。
【0035】
(2)水素は、部材3やガラス層4などの固体や液体には原子として含まれ、空隙7内の気体には分子として含まれる。従って、空隙7を介して部材3からガラス層4に水素が移動するためには、原子が結合して分子となった後、分子が原子に分解される必要がある。これらの結合や分解には、所定のエネルギーが必要となるので、水素の移動が抑制される。
【0036】
(3)空隙7は、ガラス層4を形成するガラスと部材3との間に接触界面を形成することで、部材3に対するガラスの表面張力を発現し、部材3に対してガラスが熱流動するのを抑制している。
【0037】
空隙9は、空隙9内の気体が部材3の外表面32に接触しないように構成されている。空隙9は、上記(2)と同様の理由で、水素が部材3を内側から外側に向けて透過するのを抑制し、ひいては、溶融ガラス2中での気泡の生成などを抑制する。
【0038】
外気と連通していない空隙7、9は、合計で、ガラス層4の断面の2〜70%を占めていることが望ましい。空隙7、9の占める割合が低過ぎると、上記(1)〜(3)の効果が十分に得られない。一方、空隙7、9の占める割合が高過ぎると、空隙7、9が外気に連通したり、ガラス層4の機械的な強度が低くなったりする。より好ましい範囲は5〜65%であり、さらに好ましい範囲は10〜60%であり、特に好ましい範囲は20〜50%である。
【0039】
なお、本実施形態のガラス層4は、空隙7、9の両方を含むとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ガラス層4は、空隙7のみを含んでいても良い。
【0040】
また、本実施形態の空隙7、9は、図1に示すように、ガラス層4のうち、耐熱性繊維体5に浸透していない部分に形成されているが、外気に連通していない限り、耐熱性繊維体5に浸透している部分に形成されていても良い。ちなみに、この場合、空隙7、9内の気体が耐熱性繊維体5に接触することになる。
【0041】
耐熱性繊維体5は、ガラス層4が熱流動するのを抑制する。また、耐熱性繊維体5は、ガラス層4から外側に延在することで、ガラス層4に接触する外気の流れを遮っている。ガラス層4に新鮮な外気が接触すると、空隙7、9内の気体の水素濃度や水分濃度が低くなるからである。
【0042】
耐熱性繊維体5は、ガラス繊維またはセラミックス繊維を含む。ここで、耐熱性とは、ガラス繊維の場合、ガラス繊維が使用温度よりも高い軟化点を有することを意味し、セラミックス繊維の場合、セラミックス繊維が使用温度よりも高い融点を有することを意味する。これらの繊維は、使用温度で熱変形し難いので、ガラス層4の熱流動を抑制することができる。
【0043】
耐熱性繊維体5は、これらの繊維の集合体である。耐熱性繊維体5の形態は、特に限定されないが、複数の繊維を布状に編んだものであっても良いし、複数の繊維を塊状に絡めたものであっても良い。複数の繊維を布状に編んだものは、フレキシブル性や加工性に優れている。繊維の平均長さは、10mm以上であることが好ましい。
【0044】
耐熱性繊維体5は、酸化物基準の質量%表示で、SiO含有量が50%以上である。SiO含有量が50%未満の場合、耐熱性繊維体5に対するガラス層4を形成するガラスの濡れ性が高過ぎるので、ガラスが耐熱性繊維体5を通って外部に流出し、ガラス層4が部材3から離れてしまう。
【0045】
耐熱性繊維体5の厚さD3(浸透深さD2を含む)は、0.5mm以上であることが好ましい。ここで、厚さD3は、平均値を意味する。厚さD3が0.5mm未満であると、耐熱性繊維体5の剛性が十分でなく、ガラス層4の熱流動を抑制する効果が十分に得られない。
【0046】
この耐熱性繊維体5の外側には、断熱部材6が設けられても良い。断熱部材6は、耐火物などで構成される。断熱部材6は、外気による冷却を緩和すると共に、溶融ガラス2の液圧によって部材3や耐熱性繊維体5などが変形するのを抑制する。
【0047】
(溶融ガラス処理装置の製造方法)
次に、上記溶融ガラス処理装置1を製造する方法について説明する。
【0048】
この製造方法は、部材3と耐熱性繊維体5との間に、ガラス粉末を含むコート層を形成し、焼成することで、ガラス層4を形成する工程を含む。
【0049】
具体的には、まず、図2に示すように、部材3の外表面32の少なくとも一部に、ガラス粉末を含むスラリーを塗布し乾燥することで、コート層8を形成する。
【0050】
スラリーは、無機バインダーまたは有機バインダーを含有することが好ましい。無機バインダーとしては、コロイダルシリカなどが用いられる。有機バインダーとしては、水溶性高分子(例えば、信越化学工業製、商品名:メトローズなど)が用いられる。
【0051】
スラリーを塗布する方法は、一般的な方法であって良く、例えばスプレーコート法やスピンコート法、スクリーン印刷法、刷毛塗りなどが用いられる。なお、スラリーを塗布する代わりに、スラリーを乾燥させてなるフィルムを貼り付けても良い。
【0052】
塗布したスラリーを乾燥する温度は、40〜130℃であることが好ましい。
【0053】
次に、図3に示すように、コート層8の外側に耐熱性繊維体5を貼り付ける。その際、耐熱性繊維体5の外側を図1に示す断熱部材6で保持しても良い。
【0054】
最後に、図3に示す組立体を焼成する。これにより、コート層8に含まれるガラス粉末が熱流動して図1に示すガラス層4になる共に、ガラス粉末の隙間が図1に示す空隙7、9になる。
【0055】
焼成条件は、ガラス粉末の種類や空隙7、9の割合などに応じて適宜設定される。例えば、焼成は、大気中、使用温度と略同じ温度で実施される。
【0056】
このようにして、図1に示す溶融ガラス処理装置1が得られる。この製造方法では、溶射装置などが不要であるので、既存の設備である部材3にガラス層4や耐熱性繊維体5を設けることが可能である。
【0057】
なお、本実施形態では、コート層8を形成した後、コート層8の外側に耐熱性繊維体5を貼り付けるとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ガラス粉末を含むスラリーを耐熱性繊維体5の内側に塗布した後、耐熱性繊維体5の内側を部材3の外表面32に貼り付け、乾燥することで、コート層8を形成しても良い。
【0058】
(ガラス製造装置)
次に、上記溶融ガラス処理装置1を備えるガラス製造装置について説明する。
【0059】
図4は、溶融ガラス処理装置1を備えるガラス製造装置のブロック図である。図4に示すように、ガラス製造装置10は、溶解槽11と、清澄槽12と、撹拌槽13と、成形装置14とを備える。溶解槽11、清澄槽12、撹拌槽13、および成形装置14は、搬送管15〜17によって接続されている。
【0060】
溶解槽11は、ガラス原料を溶解して、溶融ガラスを製造する。溶解槽11の内壁には、原料投入口、複数のバーナなどが設けられている。バーナとしては、空気燃焼バーナや酸素燃焼バーナがあるが、環境保護の観点から、酸素燃焼バーナが望ましい。
【0061】
原料投入口から投入されたガラス原料は、バーナが噴出する火炎の輻射熱によって加熱され、溶融ガラスとなる。この溶融ガラスは、搬送管15を介して、清澄槽12に送出される。
【0062】
清澄槽12は、溶融ガラスに含まれる気泡を浮上させて除去する。この気泡は、主に、粉末状のガラス原料を溶解する際に生成されるものである。気泡の浮上の促進のため、例えば清澄槽12内の上部空間を減圧しても良い。清澄槽12内の溶融ガラスは、搬送管16を介して、撹拌槽13に送出される。
【0063】
撹拌槽13は、溶融ガラスを撹拌して均質化する。溶融ガラスを撹拌する装置としては、例えばスターラーなどの回転部材が用いられる。撹拌槽13内の溶融ガラスは、搬送管17を介して成形装置14に送出される。
【0064】
成形装置14は、溶融ガラスを所定形状に成形する。成形装置14は、溶融ガラスの成形に用いられる一般的な装置であって良い。例えば、成形装置14は、溶融ガラスを帯板状に成形する場合、フロート成形装置やフュージョン成形装置が用いられる。また、成形装置14は、溶融ガラスをボトル状に成形する場合、鋳込み成形装置が用いられる。成形された溶融ガラスは、徐冷された後、必要に応じて所定寸法に切断され、製品となる。
【0065】
このガラス製造装置10において、溶融ガラス処理装置1は、溶解槽11、清澄槽12、撹拌槽13、および搬送管15〜17の少なくとも一部の内壁(特に、側壁や底壁)に用いられる。
【0066】
このように、本実施形態によるガラス製造装置10は、溶融ガラス処理装置1と、溶融ガラス処理装置1から供給される溶融ガラスを所定形状に形成する成形装置14とを備えるので、溶融ガラス中での気泡の生成を抑制することができる。その結果、品質の高いガラス製品を製造することができる。
【0067】
(ガラス製造方法)
次に、上記ガラス製造装置10を用いたガラス製造方法について説明する。
【0068】
まず、複数種類の原料を調合して、ガラス原料を調製する。例えば、酸化物基準の質量%表示で、SiO:50〜72%、Al:0.5〜24%好ましくは0.5〜23%、B:0〜12%、MgO:0〜8%、CaO:0〜14.5%、SrO:0〜24%、BaO:0〜13.5%、NaO+LiO+KO:0〜15%を含有し、MgO+CaO+SrO+BaOが9〜29.5%である(このとき、さらにZrO:0〜5%を含有してもよい)ガラスとなるように、複数種類の原料を調合する。
【0069】
無アルカリガラスの原料を調製する場合、例えば、酸化物基準の質量%表示で、SiO:50〜66%、Al:10.5〜24%好ましくは10.5〜22%、B:0〜12%、MgO:0〜8%、CaO:0〜14.5%、SrO:0〜24%、BaO:0〜13.5%を含有し、MgO+CaO+SrO+BaOが9〜29.5%である(このとき、さらにZrO:0〜5%を含有してもよい)無アルカリガラスとなるように、複数種類の原料を調合する。好ましくは、酸化物基準の質量%表示で、SiO:58〜66%、Al:15〜22%、B:5〜12%、MgO:0〜8%、CaO:0〜9%、SrO:3〜12.5%、BaO:0〜2%を含有し、MgO+CaO+SrO+BaOが9〜18%である無アルカリガラスとなるように、複数種類の原料を調合する。
【0070】
次いで、調製したガラス原料を溶解槽11に投入して、溶融ガラスを製造する。続いて、製造した溶融ガラスを、搬送管15を介して、清澄槽12に送出し、内部に含まれる気泡を浮上させて除去する。この気泡は、主に、粉末状のガラス原料を溶解する際に生成されるものである。気泡の浮上の促進のため、例えば清澄槽12内の上部空間を減圧しても良い。続いて、清澄槽12内の溶融ガラスを、搬送管16を介して、撹拌槽13に送出し、溶融ガラスを撹拌して均質化する。その後、撹拌槽13内の溶融ガラスを、搬送管17を介して、成形装置14に送出し、所定形状に成形する。成形方法には、例えばフロート法やフュージョン法、鋳込み成形法などがある。成形された溶融ガラスは、徐冷された後、必要に応じて所定寸法に切断され、製品となる。
【0071】
このガラス製造方法において、溶融ガラス処理装置1は、溶解槽11、清澄槽12、撹拌槽13、および搬送管15〜17の少なくとも一部の内壁(特に、側壁や底壁)に用いられる。
【0072】
このように、本実施形態によるガラス製造方法は、溶融ガラス処理装置1から供給される溶融ガラスを所定形状に成形するので、溶融ガラス中での気泡の生成を抑制することができる。その結果、品質の高いガラス製品を製造することができる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0074】
[例1〜例12]
(溶融ガラス処理装置)
最初に、溶融ガラスが接触する部材として、白金合金製(白金90質量%、ロジウム10質量%)のルツボを用意した。このルツボは、JIS H 6201−1986に準拠したものであって、所定形状(高さ:27mm、上部外径:25mm、底部外径:15mm、容量:10cc、質量:8.0g)を有する。
【0075】
用意したルツボの外表面にスラリーを塗布し、大気中90℃で2時間乾燥し、コート層を形成した。スラリーには、ガラス粉末(粒度:#320アンダー)67質量部と、メトローズ水溶液(濃度:0.3質量%)33質量部とを混ぜて調製したものを用いた。ガラス粉末には、表1に示すガラスA〜Dのいずれかを用いた。ガラスA〜Cは、無アルカリガラスである。各ガラスA〜Dの組成を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
次に、コート層の外側に、上記メトローズ水溶液を含浸させた耐熱性繊維体を貼り付けた。耐熱性繊維体としては、次のいずれかの市販品を用いた。即ち、複数の繊維を布状に編んだものとして、石英ガラス布(ニチアス社製、シルテックスクロス、SiO:99質量%以上)、リボン状のセラミックス布(ニチアス社製、SiO:53質量%、Al:47質量%)、アルミナ布(ニチアス社製、Al:99質量%以上)、ジルコニア布(ジルカー社製、ZrO:約90質量%、Y:約10質量%)、およびシリカアルミナ布(デンカ社製、SiO:20質量%、Al:80質量%)のいずれかを用いた。また、複数の繊維を塊状に絡めたものとして、石英ガラスウール(東ソー社製、SiO:99質量%以上)を用いた。
【0078】
次に、耐熱性繊維体を断熱部材で囲んだ状態で、大気中110℃で2時間乾燥させた。断熱部材としては、アルミナおよびシリカを含む、有底筒状(外部寸法:48mm×48mm×48mm、凹部深さ:26mm、凹部内径:32mm)の耐火物を用いた。
【0079】
最後に、白金合金製のルツボ内に、溶融ガラスを投入し、水分濃度の低い大気雰囲気中(絶対湿度:3g/m)、使用温度Tで1時間熱処理した後、室温まで冷却して溶融ガラス処理装置を製造した。ルツボ内に投入する溶融ガラスには、無アルカリガラス(酸化物基準の質量%表示で、SiO:59.4%、Al:17.6%、B:7.9%、MgO:3.3%、CaO:3.8%、SrO:8.0%)を用いた。この無アルカリガラスは、ルツボ内に投入する前に、水分量を示すβ−OHの値Bが0.5mm−1であった。β−OHの値Bは、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて、ガラスの板厚Cおよび透過率Tを測定し、該測定結果を下記式に代入して算出した。B=(1/C)log10(T1/T2)(なお、T1:参照波数4000/cmにおけるガラスの透過率(単位:%)、T2:水酸基吸収波数3570/cm付近におけるガラスの最小透過率(単位:%))
【0080】
(溶融ガラス処理装置の評価)
次に、溶融ガラス処理装置を評価した。
【0081】
溶融ガラス中に含まれる気泡の割合は、製造した溶融ガラス処理装置のルツボ内を上方からカメラで撮像し、撮像した画像中における溶融ガラス上面の面積S1に対する気泡の面積S2の割合(S2/S1×100)として測定した。この気泡の割合は、プラズマディスプレイ用や液晶ディスプレイ用のフラットパネルディスプレイに対して近年求められる高品質な表示品質を考慮すると、15%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
【0082】
ガラス層の厚さ、ガラス層の断面に占める空隙の割合、ガラス層とルツボとの密着性、耐熱性繊維体の厚さ、ガラス層の耐熱性繊維体への浸透深さは、製造した溶融ガラス処理装置を縦に半割し、切断面を顕微鏡で観察して調べた。ここで、ガラス層の厚さ、耐熱性繊維体の厚さ、ガラス層の耐熱性繊維体への浸透深さは、切断面の15箇所で測定した平均値である。
【0083】
ガラス層を形成するガラスの使用温度Tにおける粘度η(単位:dPa・s)は、該ガラスと同じ組成のガラスを白金ルツボに投入して溶融し、回転円筒型粘度計(モトヤマ社製)を用いて測定した。
【0084】
ガラス層を形成するガラスと、部材を構成する材料(白金合金)との使用温度Tにおける接触角θa、および、ガラス層を形成するガラスと、耐熱性繊維体を構成する材料(石英ガラスまたはセラミックス)との使用温度Tにおける接触角θbは、高温接触角計(クルス社製)を用いて測定した。
【0085】
(評価結果)
溶融ガラス処理装置の評価結果を表2〜表3に示す。ここで、例1〜例5は実施例であり、例6〜例12は比較例である。なお、ガラス層が熱流動しその一部がルツボから剥離した例7、9〜12については、ガラス層の特性(粘度ηを除く)を測定できなかった。
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
例1〜例5では、白金合金製のルツボの外表面にガラス層が形成され、ガラス層の熱流動が耐熱性繊維体によって抑制されていた。また、ガラス層には、外気と連通しておらず、且つ、部材に対して開放されている空隙が含まれていた。そのため、例1〜例5では、例6〜例12と比較して、溶融ガラス中に含まれる気泡の割合が小さいことがわかる。
【0089】
なお、例7では、耐熱性繊維体を用いなかったので、ガラス層が自重によって下方に熱流動し、その一部がルツボから離れていた。
【0090】
例9では、ガラス層を形成するガラスの使用温度Tにおける粘度ηが102.5dPa・s未満であるので、ガラス層が自重によって下方に熱流動し、その一部がルツボから離れていた。
【0091】
例10〜例12では、断熱性繊維体のSiO含有量が50質量%未満であるので、断熱性繊維体に対するガラス層の濡れ性が高過ぎ、ガラス層の一部が断熱性繊維体を通過して外部に流出していた。また、ガラス層の残部に含まれる空隙が外気と連通していた。
【0092】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、様々な修正や変更を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2010年4月28日出願の日本特許出願2010−104350に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0093】
1 溶融ガラス処理装置
2 溶融ガラス
3 部材
31 内表面
32 外表面
4 ガラス層
5 耐熱性繊維体
6 断熱部材
7 空隙
8 コート層
9 空隙
10 ガラス製造装置
11 溶解槽
12 清澄槽
13 撹拌槽
14 成形装置
15〜17 搬送管
図1
図2
図3
図4