(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アクリロニトリル系重合体と溶剤との混合物を、シリンダーとシリンダー内で回転するローターとを有するせん断装置の分散室に供給し、下記条件下で前記ローターを回転させて前記混合物にせん断力を与え、その後、得られた混合物を加熱してアクリロニトリル系重合体溶液を得るアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法であって:
W=(W1−W2)/M≧0.12(kWh/kg)、
ここで、W1は、前記混合物にせん断力を与える際にローターを回転させるために必要な電力(kW)であり;W2は、前記混合物に替えて前記混合物と同じ質量流量の水を用いた場合に、W1が得られる際のローターの回転数と同じ回転数を得るために必要な電力(kW)であり;Mは、W1が得られる際の、分散室に供給されるアクリロニトリル系重合体の質量流量(kg/h)であり、
前記せん断装置が、シリンダー内壁及びローター外壁にそれぞれ互いに接触しない位置にピン部材が突設されたピン型ミキサーであって、ローター外壁に突設されたピン部材の先端とシリンダー内壁との距離が、2mm以上、5mm未満である
アクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
アクリロニトリル系重合体と溶剤との混合物を、シリンダーとシリンダー内で回転するローターとを有するせん断装置の分散室に供給し、下記条件下で前記ローターを回転させて前記混合物にせん断力を与えてアクリロニトリル系重合体溶液を得るアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法であって:
W=(W1−W2)/M≧1.60(kWh/kg)、
ここで、W1は、前記混合物にせん断力を与える際にローターを回転させるために必要な電力(kW)であり;W2は、前記混合物に替えて前記混合物と同じ質量流量の水を用いた場合に、W1が得られる際のローターの回転数と同じ回転数を得るために必要な電力(kW)であり;Mは、W1が得られる際の、分散室に供給されるアクリロニトリル系重合体の質量流量(kg/h)であり、
前記せん断装置が、シリンダー内壁及びローター外壁にそれぞれ互いに接触しない位置にピン部材が突設されたピン型ミキサーであって、ローター外壁に突設されたピン部材の先端とシリンダー内壁との距離が、2mm以上、5mm未満である
アクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
前記せん断装置が、シリンダーの内壁及びローター外壁にそれぞれ互いに接触しない位置にピン部材が突設されたピン型ミキサーであって、シリンダー内壁に突設されたピン部材の先端とローター外壁との距離が、2mm以上、5mm未満である請求項1〜9のいずれか一項に記載のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
シリンダー内壁に突設されたピン部材と、ローター外壁に突設されたピン部材とが最接近した時の隣合うピン部材同士の間の軸方向の距離が、2mm以上10mm以下である請求項1〜10のいずれか一項に記載のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
シリンダーとシリンダー内で回転するローターとを有するせん断装置であって、シリンダー内壁及びローター外壁には、それぞれ互いに接触しない位置にピン部材が突設されており、ローター外壁に突設されたピン部材の先端とシリンダー内壁との距離が、2mm以上、5mm未満であるアクリロニトリル系重合体溶液のせん断装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の溶解方法は、アクリロニトリル系重合体をその溶媒に対して均一に溶解するという点で、改善された方法である。しかし、アクリロニトリル系重合体の溶解性を更に向上させることが望まれる。実際、特許文献1の実施例の記載から後に詳述する指標Wを推定すると、約0.2kWh/kgであり、二重管式熱交換器を用いた場合よりは、濾過昇圧試験による圧力上昇度(溶解性の尺度)は良好になるものの、更なる溶解性の向上が望まれる。
【0007】
本発明の目的は、アクリロニトリル系重合体を溶剤に均一に且つ効率的に溶解でき、フィルターや紡糸ノズルのつまりが抑えられ、安定してアクリロニトリル系重合体溶液を製造することのできるアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法、およびこの方法を行うために好適に用いることができるせん断装置を提供することにある。
【0008】
また得られたアクリロニトリル系重合体溶液を使用したアクリロニトリル系繊維の製造方法及びこのアクリロニトリル系繊維を前駆体とする炭素繊維の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の各態様により、以下のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法、せん断装置、アクリロニトリル系繊維の製造方法、炭素繊維の製造方法が提供される。
ただし、以下において10)は欠番とする。
【0010】
1)アクリロニトリル系重合体と溶剤との混合物を、シリンダーとシリンダー内で回転するローターとを有するせん断装置の分散室に供給し、下記条件下で前記ローターを回転させて前記混合物にせん断力を与え、その後、得られた混合物を加熱してアクリロニトリル系重合体溶液を得るアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法
であって:
W=(W
1−W
2)/M≧0.12(kWh/kg)、
ここで、W
1は、前記混合物にせん断力を与える際にローターを回転させるために必要な電力(kW)であり;W
2は、前記混合物に替えて前記混合物と同じ質量流量の水を用いた場合に、W
1が得られる際のローターの回転数と同じ回転数を得るために必要な電力(kW)であり;Mは、W
1が得られる際の、分散室に供給されるアクリロニトリル系重合体の質量流量(kg/h)であ
り、
前記せん断装置が、シリンダー内壁及びローター外壁にそれぞれ互いに接触しない位置にピン部材が突設されたピン型ミキサーであって、ローター外壁に突設されたピン部材の先端とシリンダー内壁との距離が、2mm以上、5mm未満である
アクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
【0011】
2)前記Wが、4.00kWh/kg以下である1)に記載のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
【0012】
3)前記Wが、1.60kWh/kg未満である1)に記載のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
【0013】
4)前記加熱の際に、前記混合物を100〜130℃に加熱する1)〜3)のいずれか一項に記載のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
【0014】
5)前記加熱の際に、熱交換器及び温調タンクから選ばれる少なくとも1つの手段を用いて加熱を行
う、1)〜4)のいずれか一項に記載のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
【0015】
6)アクリロニトリル系重合体と溶剤との混合物を、シリンダーとシリンダー内で回転するローターとを有するせん断装置の分散室に供給し、下記条件下で前記ローターを回転させて前記混合物にせん断力を与えてアクリロニトリル系重合体溶液を得るアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法
であって:
W=(W
1−W
2)/M≧1.60(kWh/kg)、
ここで、W
1は、前記混合物にせん断力を与える際にローターを回転させるために必要な電力(kW)であり;W
2は、前記混合物に替えて前記混合物と同じ質量流量の水を用いた場合に、W
1が得られる際のローターの回転数と同じ回転数を得るために必要な電力(kW)であり;Mは、W
1が得られる際の、分散室に供給されるアクリロニトリル系重合体の質量流量(kg/h)であ
り、
前記せん断装置が、シリンダー内壁及びローター外壁にそれぞれ互いに接触しない位置にピン部材が突設されたピン型ミキサーであって、ローター外壁に突設されたピン部材の先端とシリンダー内壁との距離が、2mm以上、5mm未満である
アクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
【0016】
7)前記Wが、5.00kWh/kg以下である6)に記載のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
【0017】
8)前記混合物がせん断装置の分散室に滞在する時間が、3秒以上1500秒以下である1)〜7)のいずれかに記載のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
【0018】
9)前記分散室出口における混合物の温度が40℃以上115℃以下である1)〜8)のいずれかに記載のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
【0020】
11)前記せん断装置が、シリンダーの内壁及びローター外壁にそれぞれ互いに接触しない位置にピン部材が突設されたピン型ミキサーであって、シリンダー内壁に突設されたピン部材の先端とローター外壁との距離が、2mm以上、5mm未満である1)〜10)のいずれか一項に記載のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
【0021】
12)シリンダー内壁に突設されたピン部材と、ローター外壁に突設されたピン部材とが最接近した時の隣合うピン部材同士の間の軸方向の距離が、2mm以上10mm以下である1)〜11)のいずれか一項に記載のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。
【0022】
13)シリンダーとシリンダー内で回転するローターとを有するせん断装置であって、シリンダー内壁及びローター外壁には、それぞれ互いに接触しない位置にピン部材が突設されており、ローター外壁に突設されたピン部材の先端とシリンダー内壁との距離が、2mm以上、5mm未満であるアクリロニトリル系重合体溶液のせん断装置。
【0023】
14)前記シリンダー内壁に突設されたピン部材の先端と前記ローター外壁との距離が、2mm以上、5mm未満である13)に記載のアクリロニトリル系重合体溶液のせん断装置。
【0024】
15)シリンダー内壁に突設されたピン部材と、ローター外壁に突設されたピン部材との隣合うピン部材同士の間の軸方向の距離が、2mm以上10mm以下である13)または14)に記載のアクリロニトリル系重合体溶液のせん断装置。
【0025】
16)前記1)〜12)のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたアクリロニトリル系重合体溶液を紡糸してアクリルニトリル系繊維を得るアクリロニトリル系繊維の製造方法。
【0026】
17)前記16)に記載の製造方法によって製造されたアクリロニトリル系繊維を焼成して炭素繊維を得る炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アクリロニトリル系重合体を溶剤に均一に且つ効率的に溶解でき、フィルターや紡糸ノズルのつまりが抑えられ、安定してアクリロニトリル系重合体溶液を製造することのできるアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法、およびこの方法を行うために好適に用いることができるせん断装置が提供される。
【0028】
また本発明によれば、得られたアクリロニトリル系重合体溶液を使用したアクリロニトリル系繊維の製造方法及びこのアクリロニトリル系繊維を前駆体とする炭素繊維の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明ではアクリロニトリル系重合体と溶剤との混合物を、せん断装置(特にはその分散室)に供給する。せん断装置は、シリンダーとシリンダー内で回転するローターとを有する。シリンダー内壁とローター外壁の間に分散室が形成される。ローターを回転させることによって、分散室中で混合物にせん断力が与えられる。このとき、少なくとも重合体が分散されるが、重合体の溶解が伴ってもよい。
【0031】
本発明のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法の第一の形態によれば、分散室でせん断力を混合物に与えた後に、得られた混合物を加熱して、アクリロニトリル系重合体溶液を得る。
【0032】
本発明のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法の第二の形態によれば、分散室でせん断力を混合物に与えてアクリロニトリル系重合体溶液を得る。この場合、せん断力を与えた後に加熱は行わない。
【0033】
前記第一の形態において、すなわち混合物にせん断力を与えた後に加熱する場合は、せん断力を与える際に前記ローターを式Iで示される条件下で回転させる:
W=(W
1−W
2)/M≧0.12(kWh/kg)・・・I。
【0034】
ここで、W
1は、前記混合物にせん断力を与える際にローターを回転させるために必要な電力(kW)である。W
2は、前記混合物に替えて前記混合物と同じ質量流量の水を用いた場合に、W
1が得られる際のローターの回転数と同じ回転数を得るために必要な電力(kW)である。Mは、W
1が得られる際の、分散室に供給されるアクリロニトリル系重合体の質量流量(kg/h)である。
【0035】
前記Wが式Iを満たす条件下でローターを回転させて前記混合物にせん断力を与えることが、アクリロニトリル系重合体と溶剤とを均一に混合しやすく、フィルターが詰まりにくくなるので好ましい。
【0036】
上記Wは、前記混合物の中でローターを回転させる電力値W
1から、W
1が得られるときの回転数と同じ回転数で水(W
1が得られるときの混合物と同じ質量流量の水)を用いた場合の電力値W
2を減じた電力値(W
1−W
2)を、せん断装置の分散室における前記混合物中のアクリロニトリル系重合体の単位質量流量当たり換算した電力値である。つまりWは、混合物が、せん断装置中に滞在している間に与えられたせん断力を電力で表した値であると言える。
【0037】
W
2が与えられる系は、前記混合物に替えて同質量流量の水を用いること以外は、W
1が与えられる系と同様である(結果として測定されるW
1とW
2は異なる)。
【0038】
前記第二の形態において、すなわち分散室でせん断力を混合物に与えてアクリロニトリル系重合体溶液を得る(せん断力を与えた後に加熱は行わない)場合には、せん断力を与える際に前記ローターを式IIで示される条件下で回転させる:
W=(W
1−W
2)/M≧1.60(kWh/kg)・・・II。
ここでW
1、W
2、Mは、式Iの場合と同様に定義される。
【0039】
前記第二の形態において、前記Wが式IIを満たす条件下でローターを回転させて前記混合物にせん断力を与えることが、アクリロニトリル系重合体と溶剤とを均一に混合しやすく、フィルターが詰まりにくくなるので好ましい。
【0040】
前記第一および第二の形態において、式Iもしくは式IIの条件を満たすようにするには、実際にはローターの回転数を調節すればよい。
【0041】
以下に、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1、2及び3は、いずれも本発明の実施形態を解り易く説明する為に模式的に示したものであり、本発明はこれらの構成に基づいて何ら限定されるものではない。
【0042】
図1に示される装置について説明する。供給タンク1に、アクリロニトリル系重合体と溶剤との混合物が供給される。その混合物は供給ポンプ2によってせん断装置3に供給され、ここでアクリロニトリル系重合体が分散される(通常、重合体の分散に加えて、重合体の少なくとも一部が溶解される)。せん断装置から排出された液体(混合物)は、加熱式溶解装置4に送られ、ここで加熱により重合体が溶解される。その後混合物は冷却装置5において冷却され、紡糸供給ポンプ6で昇圧され、濾過フィルター7で濾過される。この装置で得られたアクリロニトリル系重合体溶液は、アクリルニトリル系繊維を得るための紡糸装置の紡糸口8に、紡糸原液として供給することができる。この装置は、バッチ式ではなく、流通式のせん断装置である。
【0043】
この装置は、前記アクリロニトリル系重合体溶液の製造方法の第一の形態を行うに好適である。前記第二の形態を行うには、この装置において加熱式溶解装置4による加熱を行わなければよい。あるいは、この装置から、加熱式溶解装置4を取り去った構成を有する装置を用いて前記第二の形態を行うことができる。
【0044】
アクリロニトリル系重合体溶液の製造方法の第一の形態において、アクリロニトリル系重合体と溶剤との混合物にせん弾力を与える際のWの上限は4.00kWh/kg以下が好ましい。4.00kWh/kg以下であれば、その後の加熱により、混合物が高温になることによるゲル化の発生を抑制しやすくなる。前記Wは、2.70kWh/kg以下がより好ましく、1.60kWh/kg未満がさらに好ましい。
【0045】
前記Wが、1.60kWh/kg以上であれば、せん断力を与える工程(せん断力付与工程)の後に加熱をしなくてもアクリロニトリル系重合体溶液を得ることができるが、4.00kWh/kg以下であれば、せん断力付与工程の後に加熱してもよい。せん断力付与工程の後に加熱を行うか否かは、混合物の組成等に基づいて適宜選択できる。
【0046】
またアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法の第二の形態において、すなわち加熱装置により加熱を行わない場合は、前記Wを1.60kWh/kg以上として、せん弾力により分散を行いながら、せん断力に伴う発熱で重合体を溶解することが、重合体を均一に混合しやすく、フィルターが詰まりにくくなるので好ましい。前記Wは2.00kWh/kg以上が好ましい。また、前記Wは、高温によるゲル化を防止する観点から5.00kWh/kg以下が好ましく、3.60kWh/kg以下がより好ましく、3.00kWh/kg以下がさらに好ましい。
【0047】
せん断力による発熱により混合体の温度が高温になることを防止する観点から、せん断装置(特にはその外周)の少なくとも一部に、混合体を冷却するためのジャケットを備えて混合体を冷却することもできる。
【0048】
前記分散室出口における混合物の温度は、40〜115℃が好ましい。40℃以上であれば、重合体が溶剤に徐々に溶解し、均一に溶解することが容易である。また、115℃以下であれば、溶解した混合物がゲル化することを防止しやすくなる。前記出口温度は100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。
【0049】
ここで
図2に示したせん断装置について説明する。この装置は、ピン型ミキサーであり、円筒状のシリンダー10を有し、同シリンダー10の内部には円柱状のローター9が、その軸心を前記シリンダー10の軸心に一致させ、高速回転可能に収納されている。ローター9とシリンダー10とはそれぞれピン部材12、13を有し、ピン部材12と13とは、互いに接触しない位置関係にある。シリンダー10の内壁と、ローター9の外壁との間に分散室14が形成される。ローターの外形(ピン部材を除く)は回転体状であり、また、シリンダーの少なくとも内壁(ピン部材を除く)の形状も回転体状である。
【0050】
前記シリンダー10の下部中央には、ポンプから送られてくる重合体とその溶剤との混合液をシリンダー10内に供給するための導入口が形成されていると共に、同シリンダー10の上部には得られた重合体溶液の導出口が形成されている。
【0051】
この装置は、シリンダー10、ローター9にそれぞれ、加熱もしくは冷却流体の流路11a、11bが設けられている。これらの流路に加熱もしくは冷却流体を流すことにより、混合物(液体)の温度制御がより容易になる。しかしこれら流路は、必ずしも使用する必要はない。
【0052】
この装置に関して言えば、W
1は、アクリロニトリル系重合体と溶媒との混合物を分散室に供給したときに、ある回転数においてローター9を回転させたときに測定される電力値である。W
2は、この混合物に替えて、混合物と同じ質量流量を有する水を用いること以外はW
1を測定するときと同様にして測定される電力値である。Mは、W
1を測定した際に、前記混合物中に存在するアクリロニトリル系重合体の質量流量である。
【0053】
このせん断装置では、前記混合物が該装置を通過する間に、ピン部材12を有する円筒状のローター9を回転させて混合物にせん断力を与えてアクリロニトリル系重合体と溶媒とを均一に混合している。処理量や粘度の変化に対しては、ローター9の回転数を変化させる事により目標の前記Wを与える事が出来る。
【0054】
このせん断装置は、式Iもしくは式IIで示される条件を満たすような運転を行うことができる限り、公知の装置を用いる事が可能である。
【0055】
せん断装置は、高粘性流体に対してせん断力が与えられる装置であれば形状は限定されない。例えば、ニーダー、オーガ、ヘリカルローター、スクリュー押出機、サーマルプロセッサ、ピンミキサー、ロールミキサー、テーパーロールミキサー、インターナルミキサー、コンティニュアスミキサー、バンバリーミキサー、ギアーコンパウンダー、らいかい機、アトライター、サンドグラインダーなどが挙げられる。中でもピンミキサーが混合物にせん断力を効率良く与えられる点で好ましい。
【0056】
前記混合物がせん断装置の分散室に滞在する時間(滞留時間)は、第一の形態においては、3〜800秒が好ましい。前記滞在する時間が3秒以上であれば、混合物にせん断力を与えて、均一に重合体を溶媒に分散することができ易くなる。前記滞在する時間は、10秒以上が好ましく。15秒以上がより好ましい。また、800秒以下であれば、混合物に与えるせん断力が過剰にならず、その発熱によるゲル化の発生を抑制しやすくなる。前記滞在する時間は、300秒以下が好ましく、200秒以下がより好ましい。
【0057】
第二の形態においては、前記滞在時間は、600〜1500秒が好ましい。前記滞在時間が600以上であれば、混合物にせん断力を与えて、そのせん断熱により重合体を溶媒に溶解することができ易くなる。また、1500秒以下であれば、混合物に与えるせん断力が過剰にならず、その発熱によるゲル化の発生を抑制しやすくなる。前記滞在する時間は、1000秒以下が好ましく、800秒以下がより好ましい。
【0058】
前記せん断装置がピン型ミキサーの場合、ピンの先端とピンの先端と向かい合う壁との距離が、2mm以上、5mm未満が好ましい。
図2に関して言えば、ローター外壁に突設されたピン部材12の先端と、シリンダー10の内壁との間の距離が、2mm以上5mm未満であることが好ましく、また、シリンダー内壁に突設されたピン部材13の先端と、ローター9の外壁との間の距離が、2mm以上5mm未満であることが好ましい。前記距離が2mm以上であれば、機械的な振動や偏芯があってもピン部材が壁面に接触せずに安定した運転をすることが容易である。また前記距離が5mm未満であれば、せん断力を発生させて溶解を進行させることが容易である。
【0059】
また、シリンダー内周面に突設されたピン部材13と、ローター外周面に突設されたピン部材12とが最接近した時の隣合うピン部材同士の間の軸方向の距離(ローターの回転軸方向の距離。
図2においては上下方向の距離。)が、2mm以上10mm以下であることが好ましい。この距離が2mm以上であれば、機械的な振動や偏芯があってもピン部材同士が接触せずに安定した運転をすることが容易である。またこの距離が10mm以下であれば、せん断力を発生させて溶解を進行させることが容易である。
【0060】
アクリロニトリル系重合体溶液の製造方法の第一の形態において、せん断力付与工程の後の加熱を、アクリルニトリル系重合体が溶媒に溶解する温度まで加温することができる適宜の加熱装置を用いて行うことができる。加熱装置として、例えば、熱交換器(多管式熱交換器やプレート型熱交換器など)、温調タンクなどを用いることができる。例えば
図3に示した加熱式溶解装置で加熱を行うことができる。この装置は、せん断装置の後に設置すればよい。
【0061】
図3に示した装置において、胴23に設けられた加熱媒体入口20から加熱媒体が供給され、加熱媒体出口19から加熱媒体が排出される。被加熱液体(アクリロニトリル系重合体と溶媒との混合物)が、液導入口17から入口側チャンネルカバー15を経て、チューブ21を通過し、出口側チャンネルカバー16を経て、液導出口18から排出される。チューブ内にはミキサーエレメント(スタティックミキサー)22が配置される。チューブ内部で、被加熱液体に加熱媒体から熱が与えられ、またミキサーエレメントによって被加熱液体が攪拌され、重合体が溶解される。
【0062】
せん断力付与工程の後に行う加熱において、混合物を、60℃以上、150℃以下に加熱することが好ましい。60℃以上であれば、アクリルニトリル系重合体が溶剤に溶解しやすくなる。また、150℃以下であれば、アクリルニトリル系重合体溶液がゲル化しにくくなる。80℃以上、140℃以下がより好ましく、90℃以上、130℃以下がさらに好ましく、100℃以上、130℃以下が特に好ましい。
【0063】
また、せん断力付与工程の後に行う加熱において、加熱時間は、1分以上15分以下が好ましい。1分以上であれば、アクリルニトリル系重合体混合物が、十分溶解しやすくなる。15分以下であれば、ゲル化を防止しやすくなる。3分以上10分以下がさらに好ましい。
【0064】
アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリル単位を主な構成単位として含む重合体である。アクリロニトリル系重合体中の、アクリロニトリル単位の割合は、例えば、80質量%以上、さらには92質量%以上、特には96質量%以上である。アクリロニトリル系重合体を構成するアクリロニトリル以外の単量体としては、アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体から適宣選択することができ、アクリロニトリル系重合体の親水性を向上させるビニル系単量体、耐炎化促進効果を有するビニル系単量体が好ましい。
【0065】
アクリロニトリル系重合体の親水性を向上する単量体としては、例えば、カルボキシル基、スルホ基、アミノ基、アミド基、ヒドロキシル基等の親水性の官能基を有するビニル化合物がある。
【0066】
カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸、メサコン酸等が挙げられ、中でもアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましい。
【0067】
スルホ基を有する単量体としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スルホプロピルメタクリレート等が挙げられ、中でも、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が好ましい。
【0068】
アミノ基を有する単量体としては、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ターシャリーブチルアミノエチルメタクリレート、アリルアミン、o−アミノスチレン、p−アミノスチレン等が挙げられ、中でもジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレートが好ましい。
【0069】
アミド基を有する単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、クロトンアミドが好ましい。
【0070】
ヒドロキシル基を有する単量体としては、ヒドロキシメチルメタクリレート、ヒドロキシメチルアクリレート、2―ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどが挙げられる。
【0071】
このような単量体を配合することで、アクリロニトリル系重合体は親水性が向上する。親水性が向上すると、この重合体から得られる前駆体繊維の緻密性が向上し、表層部のミクロボイド発生を抑制することができる。
【0072】
上述の単量体は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。このようなアクリロニトリル系重合体の親水性を向上させる単量体の配合量は、アクリロニトリル系重合体中0.5〜10.0質量%とすることが好ましく、0.5〜4.0質量%とすることがより好ましい。
【0073】
耐炎化促進効果を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、マレイン酸、メサコン酸又はこれらの低級アルキルエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。
【0074】
中でも、少量の配合量でより高い耐炎化促進効果を得る観点から、カルボキシル基を有する単量体が好ましく、特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のビニル系単量体がより好ましい。
【0075】
このような単量体を配合することで、後述する耐炎化工程の時間を短縮でき、製造コストを低減できる。
【0076】
上述の単量体は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。このような耐炎化促進効果を有する単量体の配合量は、アクリロニトリル系重合体中0.5〜10.0質量%であることが好ましく、0.5〜4.0質量%とすることがより好ましい。
【0077】
溶媒としてはアクリロニトリル系重合体を溶解する溶剤であれば良く、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウム等の無機化合物の水溶液が挙げられるが、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドが、緻密なアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維が得られるため好ましい。
【0078】
せん断装置によって得られるアクリロニトリル系重合体混合物は混合不良物が少なく、アクリロニトリル系重合体が均一に混合できているため、前記混合物を溶解することで未溶解物が少なく、斑の少ない均一なアクリロニトリル系重合体溶液を得ることができる。
【0079】
本発明によって得られるアクリロニトリル系重合体溶液は未溶解物が少なく、アクリロニトリル系重合体を溶剤に均一に溶解できているため、効率よくアクリロニトリル系繊維(炭素繊維前駆体繊維)を製造することができる。また、得られるアクリロニトリル系繊維もその長さ方向や単繊維間での斑が少なく、品質の高いものになる。紡糸方式としては湿式紡糸法や乾湿式紡糸法など公知の方法が挙げられる。
【0080】
このようにして得られたアクリロニトリル系繊維を、公知の方法によって焼成することによって、炭素繊維を得ることができる。
【0081】
本発明の方法によれば、アクリロニトリル系重合体が溶剤に均一に且つ十分に溶解されているため、フィルターや紡糸ノズルのつまりが発生しにくくなりコスト面に優れたアクリロニトリル系重合体溶液を製造することが出来る。
【実施例】
【0082】
以下、本発明について具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における各種試験は以下の通りである。
【0083】
<濾過昇圧試験>
製造したアクリロニトリル系重合体溶液を60℃で保持しながら、1.6g/分の流量で、濾過面積が28cm
2で目開きが5μmであるステンレス鋼繊維焼結フィルター(型番:NF2M−05S、(株)日本精線製)に定量供給し、アクリロニトリル系重合体溶液をフィルターに通液してから単位面積当たりの積算通過ポリマー量が100kg/m
2になった時と、1000kg/m
2になった時に、それぞれフィルター前後の圧力の差である差圧を測定した。圧力上昇度は、前記積算通過ポリマー量が1000kg/m
2になった時の差圧から、積算通過ポリマー量が100kg/m
2になった時の差圧を減じた値を、単位濾過面積を通過した積算通過ポリマー質量当たりに換算した値とし、比較に用いた。
【0084】
<指標Wの求め方(電力の測定方法)>
電力W
1、W
2の測定には電力計(型番:MODEL6300、共立電気計器株式会社製)を用いた。前記電力計は、せん断装置のローターを回転させるモーターを制御するインバーターの1次側にある接続端子に取り付けた。W
1は、前記混合物にせん断力を与える際にローターを回転させるために必要な電力(kW)を10秒間測定した平均値であり;W
2は、前記混合物に替えて前記混合物と同じ質量流量の水を用いた場合に、W
1が得られる際のローターの回転数と同じ回転数を得るために必要な電力(kW)を10秒間測定した平均値である。指標Wは、W
1からW
2を差し引いた値を、せん断装置の分散室における前記混合物中のアクリロニトリル系重合体の質量流量(W
1が得られる場合の)Mで除して算出する値である。
【0085】
(実施例1)
アクリロニトリル系重合体としてアクリロニトリル単量体単位(AN)96質量%、メタクリル酸単量体単位(MAA)1質量%、アクリルアマイド単量体単位(AAm)3質量%からなるアクリロニトリル系重合体、溶剤としてジメチルアセトアミドを用意した。
【0086】
ジメチルアセトアミドを攪拌しているタンク内にアクリロニトリル系重合体を少しずつ投入し混合した。
【0087】
これらの混合物(重合体濃度21.2質量%、温度10℃)を定量ポンプで
図2に示すせん断装置に450g/分で供給し、せん断装置から排出された混合物を
図3に示す加熱式溶解装置に供給した。この時、せん断装置でローターを回転させるときの指標Wは0.28kWh/kgであり、混合物の分散室に滞在する時間は2.4分であった。
【0088】
せん断装置から排出される混合物の温度は、100℃以下とした。この温度になるように、せん断装置のジャケットに水を通水して混合物の温度を調整した。このようにして、アクリロニトリル系重合体を前記溶剤に溶解しアクリロニトリル系重合体溶液(紡糸原液)を得た。
【0089】
せん断装置のシリンダーとローターの間に形成される分散室14はシリンダー内壁とローター外壁との距離が16.5mmであり、ピン部材の壁からの突出長さが13.5mm、縦8mm、横8mmの正四角柱状のピン部材を、ローター外周面に12列11段、シリンダー内周面に12列12段で配列している。シリンダーに取り付けているピン部材の先端とローター外壁との距離は3.0mm、ローターに取り付けているピン部材の先端とシリンダー内壁との距離は3.0mmである。シリンダー内周面に突設されたピン部材と、ローター外周面に突設されたピン部材とが最接近した時の隣合うピン部材同士の間の軸方向の距離は3mmとした。ここで、ピン部材の「列」は、周方向のピンの数であり、「段」は、ローター軸方向のピンの数である。
【0090】
加熱式溶解装置は内径12.7mm、長さ600mm、チューブ12本の多管式熱交換器である。アクリロニトリル系重合体と溶剤との混合物は、せん断装置で加熱もしくは冷却流体の流路(11aおよび11b)に水を通水して冷却しながらせん断力を与えられた後に、加熱式溶解装置でアクロニトリル系重合体混合物の熱交換器出口温度が110℃になるように加温して溶解した後、60℃に冷却した。得られたアクリロニトリル系重合体混合液について濾過昇圧試験を行い、その結果は表1に示す通りであった。
【0091】
(実施例2〜3)
ローターを回転させるときの指標W、せん断装置内滞在時間を表1に示すように変更した他は、実施例1と同様に操作して、アクリロニトリル系重合体溶液を得た。
【0092】
(実施例4〜8)
ローターを回転させるときの指標W、せん断装置内滞在時間を表1に示すように変更し、熱交換器は使用しなかった他は、実施例1と同様に操作して、アクリロニトリル系重合体溶液を得た。
【0093】
(実施例9)
アクリロニトリル系重合体としてアクリロニトリル単量体単位98質量%、メタクリル酸単量体単位2質量%からなるアクリロニトリル系重合体、溶剤としてジメチルホルムアミドを用意した。
【0094】
これらの混合物(重合体濃度23.2質量%、温度10℃)を定量ポンプで
図2に示すせん断装置に440g/分で供給し、せん断装置から排出された混合物を
図3に示す加熱式溶解装置に供給した。この時、せん断装置でローターを回転させるときの指標Wは0.22kWh/kgであった。
【0095】
これら以外は実施例1と同様にして、アクリロニトリル系重合体溶液を得、得られた溶液について濾過昇圧試験を行った。
【0096】
(実施例10〜13)
ローターを回転させるときの指標W、せん断装置内滞在時間を表1に示すように変更した他は、実施例9と同様に操作して、アクリロニトリル系重合体溶液を得た。
【0097】
(比較例1)
せん断装置を用いずに、加熱式溶解装置(多管式熱交換器)のみを使用して、熱交換器での滞在時間を6分、アクリロニトリル系重合体混合物の熱交換器出口温度を110℃として溶解し、その後に冷却を行い温度を60℃にしたこと以外は実施例1と同様にして、アクリロニトリル系重合体溶液を得た。
【0098】
(比較例2〜4)
ローターを回転させるときの指標W、せん断装置内滞在時間を表1に示すように変更し、加熱式溶解装置を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様に操作して、アクリロニトリル系重合体溶液を得た。
【0099】
(比較例5)
せん断装置を用いずに、加熱式溶解装置(多管式熱交換器)のみを使用して、熱交換器での滞在時間を6分、クリロニトリル系重合体混合物の熱交換器出口温度を110℃として溶解し、その後に冷却を行い温度を60℃にしたこと以外は実施例9と同様にして、アクリロニトリル系重合体溶液を得た。
【0100】
(比較例6,7)
ローターを回転させるときの指標W、せん断装置内滞在時間を表1に示すように変更した他は、実施例9と同様に操作して、アクリロニトリル系重合体溶液を得た。
【0101】
以上の実施、比較例における濾過昇圧試験の結果は表1に示す通りである。表中、せん断装置滞在時間は、混合物がせん断装置の分散室に滞在する時間を意味し、せん断装置出口温度は、せん断装置の分散室出口における混合物の温度を意味する。
【0102】
【表1】
【0103】
上述した実施例及び比較例からも明らかなように、本発明の方法によれば、せん断装置と加熱式溶解装置を使用することで(第一の形態)アクリロニトリル系重合体を溶剤に均一かつ十分に溶解できる。特に、ローターを回転させるときの指標Wが0.12〜4.00kWh/kgで濾過性向上の効果、すなわち溶解性向上の効果が大きい。
【0104】
またせん断装置のみを用いた場合(第二の形態)、ローターを回転させるときの指標Wが1.60〜5.00kWh/kgの範囲であれば濾過性が良好であった。