(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692589
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】トナー用ポリエステル樹脂を製造する方法、トナー用ポリエステル樹脂、およびトナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20150312BHJP
C08G 63/21 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
G03G9/08 331
C08G63/21
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-89899(P2011-89899)
(22)【出願日】2011年4月14日
(65)【公開番号】特開2011-248341(P2011-248341A)
(43)【公開日】2011年12月8日
【審査請求日】2014年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-104831(P2010-104831)
(32)【優先日】2010年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田村 陽子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀幸
【審査官】
石附 直弥
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−037206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00− 9/113
C08G 63/00− 64/42
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィトステロール、植物由来の1,3−プロパンジオールを含む多価アルコール及び多価カルボン酸を含む混合物を重縮合するトナー用ポリエステル樹脂を製造する方法であって、前記フィトステロールを前記混合物中に1〜20質量%含むトナー用ポリエステル樹脂を製造する方法。
【請求項2】
請求項1の方法で得られたトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項3】
請求項2に記載のトナー用ポリエステル樹脂を用いたトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法や静電印刷法等において、静電荷像または磁気潜像の現像に好適に用いられるトナー用ポリエステル樹脂を製造する方法、該方法で得られたトナー用ポリエステル樹脂およびトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真印刷法および静電荷現像法により画像を得る方法では、感光体上に形成された静電荷像をあらかじめ摩擦により帯電させたトナーによって現像したのち、定着が行われる。定着方式については、現像によって得られたトナー像を加圧および加熱されたローラーを用いて定着するヒートローラー方式と、電気オーブンまたはフラッシュビーム光を用いて定着する非接触定着方式とがある。これらのプロセスを問題なく通過するためには、トナーは、まず安定した帯電量を保持することが必要であり、次に紙への定着性が良好である必要がある。
【0003】
また、装置は加熱体である定着部を有し、装置内の温度上昇により、トナーがブロッキングしないことが必要である。また、連続印刷時においても装置の汚れや印刷面へのカブリなどが見られないこと、すなわちトナーの耐久性が必要である。
【0004】
さらに、ヒートローラー方式においては、省エネ化の観点から定着部の低温化が進み、トナーにはより低い温度で紙に定着する性能、つまり低温定着性が強く求められるようになってきた。加えて、装置のコンパクト化が進み、オイルを塗布しないローラーが用いられるようになってきており、トナーはヒートローラーとの剥離性、すなわち非オフセット性を保持することが必要となっている。
トナー用バインダー樹脂は、上述のようなトナー特性に大きな影響を与えるものである。トナー用バインダー樹脂としては、ポリスチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂等が知られており、必要性能等に応じて適宜選択使用されている。
【0005】
一方で、近年、地球温暖化抑制等の環境保護の観点から、従来の石油原料由来のプラスチックから環境負荷の少ない植物原料由来のプラスチックへの転換が積極的に図られている。例えば日本バイオプラスチック協会では、原材料、製品に含まれるバイオマスプラスチック組成中のバイオマス由来成分の全体量に対する割合が、25重量%以上のプラスチック製品を「バイオマスプラ」として認証し、定められた認証マークの使用を認可している。トナーについても植物由来成分の使用が望まれており、トナーを構成するバインダー樹脂においても植物原料由来の構成単位を含むものが望まれている。
【0006】
このような環境負荷の低いポリエステル樹脂として、例えば特許文献1には植物由来のジカルボン酸およびジオールを重縮合したポリエステル樹脂が提案されている。また、特許文献2には、重合時にライスワックスなどの天然ワックスを添加して得られたポリエステル樹脂が記載されている。また、特許文献3には、植物由来の物質であるフィトステロールをトナー化の際に、色消剤として混合するトナーについて記載がある。
【特許文献1】特開2007−197654号公報
【特許文献2】特開平11−295919号公報
【特許文献3】特開2000−56497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のポリエステル樹脂は、トナー用バインダー樹脂としての利用に関しては全く示唆されておらず、さらに該文献に記載されているポリエステル樹脂は、トナー用バインダー樹脂として必要とされる、保存安定性、耐ホットオフセット性が不十分である。
また、特許文献2のように樹脂中に天然ワックスを導入する場合は、得られるポリエステル樹脂のガラス転移温度が低下するため、トナーの保存安定性と定着性を両立させることが困難である。さらに、特許文献2に記載のポリエステル樹脂は、非オフセット温度幅が40℃程度であり、高速印刷などより広い定着温度幅が必要となる用途の使用に適さないという課題があった。また、該文献に記載のポリエステル樹脂の天然物由来物質の導入量は5質量%程度であり、環境負荷の低減に関する効果は不十分であった。
特許文献3においては、バインダー樹脂中にフィトステロールを含むものではなく、色消剤としてトナー中に混合するものであり、その導入量は0.5質量%程度であり、低温定着性、耐ホットオフセットも不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、フィトステロール、植物由来の1,3−プロパンジオールを含む多価アルコール及び多価カルボン酸を含む混合物を重縮合するトナー用ポリエステル樹脂を製造する方法であって、前記フィトステロールを前記混合物中に1〜20%質量含むトナー用ポリエステル樹脂を製造する方法にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法で得られたトナー用ポリエステル樹脂をナー用バインダー樹脂として用いることで、環境負荷が低く、定着性、保存安定性が良好で、非オフセット温度幅の広いトナーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、フィトステロールと、植物由来の1,3−プロパンジオールを含む多価アルコールと、多価カルボン酸とを含む混合物を重縮合する。
【0011】
フィトステロールをトナー化の際にポリエステル樹脂に混合することで、トナー中の植物由来物質の比率を高めることはできるが、トナーとしての保存安定性が悪化しやすい。本発明では、フィトステロールの存在下で多価カルボン酸および多価アルコールを含む単量体混合物を重縮合することにより、フィトステロールの水酸基が多価カルボン酸成分とエステル結合し、ポリエステル樹脂中にフィトステロール由来の構造が導入され、トナー中の植物由来物質の比率を高めた場合でも、トナーとしての保存安定性が良好となる。
【0012】
本発明では、フィトステロールを前記混合物中に1〜20質量%含むことが必要である。フィトステロールを1質量%以上含むことで、トナー中の植物由来物質の比率を高め、環境負荷の低減がはかれるとともに、トナーとしての低温定着性および耐ホットオフセット性が良好となる。また、フィトステロールの含有量を20質量%以下とすることで、ポリエステル樹脂の保存安定性が良好となる。より好ましくは5〜15質量%である。
本発明で用いられるフィトステロールは、植物に含まれるステロール類の総称であり、β−シトステロール、スティグマステロール、ブラシカステロール、カンペステロール等の環状アルコールである。植物の中でも特に、大豆、菜種、綿実、トール、小豆、さとうきびなどに含まれている。大豆由来のフィトステロールは、β−シトステロールを主成分とし、スティグマステロール、カンペステロール等からなる混合物である。
前記フィトステロールは、上述の環状アルコール単一成分からなるものであってもよく、2種以上からなるものであっても良い。フィトステロールは、工業的にはタマ生化学製の大豆由来のフィトステロールなどが入手可能である。
さらに本発明では、前記混合物中に多価アルコールとして植物原料由来の1,3−プロパンジオールを含むことが必要である。植物原料由来の1,3−プロパンジオールを含むことで、トナー中の植物由来物質の比率を高め、環境負荷の低減がはかれるとともに、低温定着性が向上する。
環境負荷低減の観点から、植物原料由来の1,3−プロパンジオールの含有量はポリエステル樹脂の全構成成分に対して5質量%以上含まれていることが好ましい。より好ましくは10質量%以上である。
【0013】
植物原料由来の1,3−プロパンジオールは、とうもろこしデンプンなどを原料として得ることができ、例えば、Susterra(登録商標)プロパンジオール(DuPont(株))が入手可能である。
また前記混合物中に含まれる、植物原料由来の1,3−プロパンジオール以外の多価アルコールとしては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソソルバイドなどの脂肪族ジオール、ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.2)−ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどの芳香族ジオール、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサテトラロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチル−1,2,3−プロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンなどの三価以上のアルコール成分等が挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲で、単独でまたは2種以上を組み合わせて適宜使用することができる。また、これらは植物由来物質、石油由来物質のいずれでも良い。
【0014】
また,前記混合物中に含まれる、多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチル等の二価のカルボン酸、またはこれらのエステルもしくは酸無水物等の芳香族ジカルボン酸成分、フタル酸、セバシン酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、またはこれらのエステルもしくは酸無水物等の脂肪族ジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸またはこれらのエステルもしくは酸無水物等の3価以上のカルボン酸等が挙げられ、単独でまたは2種以上を組み合わせて適宜使用することができる。また、これらは植物由来物質、石油由来物質のいずれでも良い。
なお、三価以上のカルボン酸および/または三価以上のアルコールを用いる場合は、多価カルボン酸全量中に0.5〜30モル%含むことが好ましい。三価以上のカルボン酸が0.5モル%以上の場合にトナーとしての耐ホットオフセット性が良好となる傾向にあり、30モル%以下の場合保存安定性が良好となる傾向にある。
【0015】
さらに本発明では、植物原料由来のイソソルバイドを共重合成分として用いることにより、保存安定性の低下を防ぎ、かつ全原料中の植物由来物質の比率を高め環境負荷低減に効果がある。植物原料由来のイソソルバイドとしては、例えば、Polysorb−P(登録商標)(Roquette社製)が挙げられる。
本発明では、前記混合物の重縮合は公知の方法で行えばよく、例えば、前記混合物を反応容器内に投入して、エステル化反応又はエステル交換反応を経て重縮合する方法が挙げられる
ポリエステル樹脂の重縮合に際しては、例えば、チタンテトラアルコキシド、酸化チタン、ジブチルスズオキシド、酢酸スズ、酢酸亜鉛、二硫化スズ、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム、酢酸マグネシウム等の重合触媒を用いることができる。
【0016】
重合温度は、特に制限されないが、180℃〜280℃の範囲とするのが好ましい。重合温度が180℃以上の場合に、生産性が良好となる傾向にあり、280℃以下の場合に、樹脂の分解や、臭気の要因となる揮発分の副生成を抑制できる傾向にある。重合温度の下限値は200℃以上がより好ましく、220℃以上が特に好ましい。重合温度の上限値は270℃以下がより好ましい。
【0017】
本発明では、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で前記の混合物に離型剤成分を添加して重縮合することもできる。離型剤成分を添加して重縮合することにより、トナーの定着性、ワックス分散性が向上する傾向にある。離型剤成分としては、後述するトナー配合物として使用できるワックスと同様のものが適宜使用でき、例えばカルナバワックス、ライスワックス、蜜蝋、合成エステル系ワックス、パラフィンワックス、各種ポリオレフィンワックスまたはその変性品、脂肪酸アミド、シリコーン系ワックス等を挙げることができる。
また、本発明の製造方法により得られるトナー用ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が52℃〜75℃であることが好ましい。Tgが48℃以上である場合に、トナーの保存安定性が良好となる傾向にあり、また、75℃以下である場合にトナーの定着性が良好となる傾向にある。Tgの下限値は54℃以上がより好ましい。上限値は72℃以下がより好ましい。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂の軟化温度は、110〜160℃であることが好ましい。軟化温度が110℃以上の場合に、トナーの耐ホットオフセット性が良好となる傾向にあり、160℃以下の場合にトナーの定着性が良好となる傾向にある。
【0019】
さらに、本発明のポリエステル樹脂の酸価は25mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が25mgKOH/g以下の場合にトナーの画像濃度が安定する傾向にある。
本発明の方法で得られるトナー用ポリエステル樹脂は、トナー用バインダー樹脂として好適に使用できる。本発明のトナー用ポリエステル樹脂に、着色剤、荷電制御剤、離型剤、流動改質剤、磁性体等を配合してトナーが得られる。
【0020】
着色剤としては、特に制限されないが、カーボンブラック、ニグロシン、アニリンブルー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ハンザイエロー、ローダミン系染顔料、クロムイエロー、キナクリドン、ベンジジンイエロー、ローズベンガル、トリアリルメタン系染料、モノアゾ系、ジスアゾ系、縮合アゾ系染料もしくは顔料などを挙げることができる。これらの染料や顔料はそれぞれ単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。フルカラートナーの場合には、イエローとしてベンジジンイエロー、モノアゾ系染顔料、縮合アゾ系染顔料など、マゼンタとしてキナクリドン、ローダミン系染顔料、モノアゾ系染顔料など、シアンとしてフタロシアニンブルーなどが挙げられる。着色剤の含有量は、特に制限されないが、トナーの色調や画像濃度、熱特性の点から、トナー中2〜10質量%であることが好ましい。
【0021】
荷電制御剤としては、特に制限されないが、正帯電制御剤として4級アンモニウム塩や、塩基性もしくは電子供与性の有機物質等が挙げられ、負帯電制御剤として金属キレート類、含金属染料、酸性もしくは電子求引性の有機物質等が挙げられる。カラートナーの場合、帯電制御剤が無色ないし淡色で、トナーへの色調障害がないことが重要であり、例としてはサリチル酸またはアルキルサリチル酸のクロム、亜鉛、アルミニウム等との金属塩、金属錯体、アミド化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物等が挙げられる。さらに、スチレン系、アクリル酸系、メタクリル酸系、スルホン酸基を有するビニル重合体を荷電制御剤として用いてもよい。
【0022】
荷電制御剤の含有量は、特に制限されないが、トナー中0.5〜5質量%であるのが好ましい。荷電制御剤の含有量が0.5質量%以上の場合にトナーの帯電量が充分なレベルとなる傾向にあり、5質量%以下の場合に荷電制御剤の凝集による帯電量の低下が抑制される傾向にある。
【0023】
離型剤としては、特に制限されず、トナーの離型性、保存性、定着性、発色性等を考慮して、カルナバワックス、ライスワックス、蜜蝋、ポリプロピレン系ワックス、ポリエチレン系ワックス、合成エステル系ワックス、パラフィンワックス、脂肪酸アミド、シリコーン系ワックス等を適宜選択して使用できる。これらは単独であるいは二種以上を併用して使用することができる。
【0024】
離型剤の融点は特に制限されず、上記トナー性能を考慮して適宜選択して使用できる。離型剤の含有量は特に制限されないが、上記のトナー性能を左右することから、トナー中0.3〜15質量%であることが好ましい。離型剤の含有量の下限値は、より好ましくは1質量%以上がより好ましく、2質量%以上が特に好ましい。また、離型剤の含有量の上限値は、13質量%以下がより好ましく、12質量%以下が特に好ましい。
【0025】
流動改質剤などの添加剤としては、特に制限されないが、微粉末のシリカ、アルミナ、チタニア等の流動性向上剤、マグネタイト、フェライト、酸化セリウム、チタン酸ストロンチウム、導電性チタニア等の無機微粉末、スチレン樹脂、アクリル樹脂等の抵抗調節剤、滑剤が挙げられ、これらは内添剤または外添剤として使用される。
【0026】
これらの添加剤の含有量は、特に制限されないが、トナー中0.05〜10質量%であるのが好ましい。これらの添加剤の含有量が0.05質量%以上の場合にトナーの性能改質効果が充分に得られる傾向にあり、10質量%以下の場合にトナーの画像安定性が良好となる傾向にある。
【0027】
さらにバインダー樹脂として、本発明の製造方法で得られるポリエステル樹脂以外のバインダー樹脂を、本発明の効果を損なわない範囲で用いてもよく、例えば、本発明の製造方法で得られるポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、環状オレフィン樹脂、メタクリル酸系樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができ、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
本発明のトナーは、磁性1成分現像剤、非磁性1成分現像剤、2成分現像剤の何れの現像剤としても使用できる。
【0029】
磁性1成分現像剤として用いる場合には磁性体を含有し、磁性体としては、フェライト、マグネタイト、鉄、コバルト、ニッケル等を含む強磁性の合金の他、化合物や強磁性元素を含まないが、適当に熱処理することによって強磁性を表すようになる合金、例えば、マンガン−銅−アルミニウム、マンガン−銅−スズ等のマンガンと銅とを含む所謂ホイスラー合金、二酸化クロム等が挙げられる。
【0030】
磁性体の含有量は、特に制限されないが、トナーの粉砕性に大きく影響を与えるため、トナー中3〜70質量%であることが好ましい。磁性体の含有量が3質量%以上の場合にトナーの帯電量が充分なレベルとなる傾向にあり、70質量%以下の場合にトナーの定着性や粉砕性が良好となる傾向にある。磁性体の含有量の下限値は、3質量%以上がより好ましく、3質量%以上が特に好ましい。また、磁性体の含有量の上限値は、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
【0031】
また、2成分現像剤として用いる場合、キャリアと併用して用いられる。キャリアとしては、鉄粉、マグネタイト粉、フェライト粉などの磁性物質、それらの表面に樹脂コーティングを施したもの、磁性キャリア等を使用することができる。樹脂コーティングキャリアのための被覆樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル共重合系樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、それらの樹脂の混合物などを使用することができる。
【0032】
本発明のトナーの製造方法については、特に制限されないが、前述のバインダー樹脂および配合物を混合した後、2軸押出機などで溶融混練し、粗粉砕、微粉砕、分級を行い、必要に応じて無機粒子の外添処理等を行って製造する方法(粉砕法)、前述のバインダー樹脂および配合物を溶剤に溶解・分散させ、水系媒体中にて造粒したのち溶剤を除去し、洗浄、乾燥してトナー粒子を得て、必要に応じて無機粒子の外添処理等を行って製造する方法(ケミカル法)等が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を示す。また、本実施例で示される樹脂やトナーの評価方法は以下の通りである。
【0034】
(ガラス転移温度(Tg))
島津製作所(株)製示差走差熱量計DSC−60を用い、昇温速度5℃/分で測定した時のチャートの低温側のベースラインとガラス転移温度近傍にある吸熱カーブの接線との交点の温度を求めた。
【0035】
(軟化温度(T4mm))
島津製作所(株)製フローテスターCFT−500を用い、1mmφ×10mmのノズルにより、荷重294N(30Kgf)、昇温速度3℃/分の等速昇温下で測定した時、サンプル1.0g中の1/2が流出した温度を求めた。
(酸価)
サンプル約0.2gを枝付き三角フラスコ内に精秤し(A(g))、ベンジルアルコール10mlを加え、窒素雰囲気下で230℃のヒーターにて15分加熱し樹脂を溶解した。室温まで放冷後、ベンジルアルコール10ml、クロロホルム20ml、フェノールフタレイン溶液数滴を加え、0.02規定のKOH溶液にて滴定した(滴定量=B(ml)、KOH溶液の力価=p)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=C(ml))、以下の式に従って算出した。
酸価(mgKOH/g)=(B−C)×0.02×56.11×p÷A
(保存安定性)
トナーを5g秤量してサンプル瓶に投入し、これを45℃に保温された乾燥機に約24時間放置し、トナーの凝集の程度を評価して耐ブロッキング性の指標とした。評価基準を以下の通りとした。
◎(非常に良好):サンプル瓶を逆さにするだけで分散する。
○(良好):サンプル瓶を逆さにし、2〜5回叩くと分散する。
×(劣る):サンプル瓶を逆さにし、5回叩いた際に分散しない。
【0036】
(低温定着性)
シリコーンオイルが塗布されていない定着ローラーを有し、ローラー速度を30mm/sに設定したローラー温度変更可能であるプリンターを用いて、テストパターンとして0.5mg/cm
2のトナー濃度にて縦4.5cm×横15cmのベタ画像を作成し、定着ローラーの温度を95℃に設定して試験紙に定着させた。得られた試験紙の濃度測定部分を縦に谷折りとして、保護紙を乗せた上から折り曲げ部に1kgの重りを5回滑らせて折り目をつけ、続いて同じ折り目で山折りとして、保護紙を乗せた上から折り曲げ部に1kgの重りを5回滑らせた。試験紙を伸ばし、折り曲げ部にセロハンテープ(日東電工CSシステム社 No.29)を貼りつけて5回なぞった後、ゆっくりと剥がし、マクベス社製画像濃度計RD917にて画像濃度を測定した。3箇所で同様に測定を行い、試験前後の画像濃度より各々の定着率を以下の式で算出し、3箇所の平均定着率により評価した。
定着率=試験後の画像濃度/試験前の画像濃度 ×100 (%)
定着率70%以上:低温定着性良好
定着率70%未満 または95℃でオフセット現象が発生:低温定着性不十分
(耐ホットオフセット性)
シリコーンオイルが塗布されていない定着ローラーを有し、ローラー速度100mm/sに設定したローラー温度変更可能であるプリンターを用いて、テストパターンとして0.5mg/cm2のトナー濃度にて縦4.5cm×横15cmのベタ画像を作成して、ローラー温度を5℃毎に変更し定着した際、ホットオフセット現象により定着ローラーにトナーが移行しない最高温度をオフセット上限温度と定め、以下の基準により評価した。
○(良好) :耐ホットオフセット上限温度が200℃以上
×(劣る) :耐ホットオフセット上限温度が200℃未満
【0037】
(合成例1)
表1に示す多価カルボン酸、多価アルコール、フィトステロール(タマ生化学製)、および全酸成分に対して1500ppmの三酸化アンチモンを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。なお、表1に記載した多価カルボン酸、多価アルコールの仕込み組成は、全酸成分100モル部としたときの各成分のモル部である。また、フィトステロールは、得られる樹脂100質量%中に5質量%となるように、全原料中4.6質量%を投入した。
【0038】
次いで、反応系の昇温を開始し、反応容器中の攪拌翼の回転数を120rpmとして、反応系内の温度が265℃になるように加熱した。昇温途中より蒸留塔から水が留出し始めエステル化反応が開始した。エステル化反応中は、蒸留塔の留出口の温度が水の沸点である100℃を超えないよう、必要に応じ反応系内の温度調節や蒸留塔の冷却を実施して、水より沸点の高い揮発性物質の飛散を防止する策を講じた。反応系からの水の留出がなくなったところで、エステル化反応を終了した。
次いで、反応系内の温度を下げて235℃に保ち、反応容器内を減圧し重縮合反応を開始した。約20分かけて減圧して反応容器内の真空度を133Paとし、反応系からジオール成分を留出させながら重縮合反応を進行させた。反応とともに反応系の粘度が上昇し、粘度上昇とともに窒素により反応系内の真空度を段階的に常圧に近づけ、攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで重縮合反応を進行させた。そして、所定のトルクを示した時点で撹拌を停止し、反応系を常圧に戻して重縮合反応を終了した。窒素により反応系内を加圧して反応容器底部より反応物を取り出し、ポリエステル樹脂1を得た。得られたポリエステル樹脂1の物性値を表1に示す。
【0039】
【表1】
ジオールA:ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
ジオールB:ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
【0040】
(合成例2)
多価カルボン酸、多価アルコール、フィトステロール(タマ生化学製)を表1に示すとおりに変更する以外は、合成例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂2を得た。なお、フィトステロールは、得られる樹脂100質量%中に10質量%となるように、全原料中9.2質量%を投入した。
【0041】
(合成例3)
多価カルボン酸、多価アルコール、フィトステロール(タマ生化学製)を表1に示すとおりに変更する以外は、合成例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂3を得た。なお、フィトステロールは、得られる樹脂100質量%中に3質量%となるように、全原料中2.7質量%を投入した。
【0042】
(合成例4)
多価カルボン酸、多価アルコール、フィトステロール(タマ生化学製)を表1に示すとおりに変更する以外は、合成例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂4を得た。なお、フィトステロールは、得られる樹脂100質量%中に14質量%となるように、全原料中13.7質量%を投入した。
【0043】
(合成例5)
多価カルボン酸、多価アルコールを表1に示すとおりに変更する以外は、合成例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂6を得た。
【0044】
(合成例6)
多価カルボン酸、多価アルコール、フィトステロール(タマ生化学製)を表1に示すとおりに変更する以外は、合成例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂7を得た。なお、フィトステロールは、得られる樹脂100質量%中に25質量%となるように、全原料中23.1質量%を投入した。
【0045】
(合成例7)
多価カルボン酸、多価アルコール、フィトステロール(タマ生化学製)を表1に示すとおりに変更する以外は、合成例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂8を得た。なお、フィトステロールは、得られる樹脂100質量%中に0.5質量%となるように、全原料中0.46質量%を投入した。
【0046】
(合成例8)
多価カルボン酸、多価アルコール、フィトステロール(タマ生化学製)を表1に示すとおりに変更する以外は、合成例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂9を得た。なお、フィトステロールは、得られる樹脂100質量%中に10質量%となるように、全原料中9.4質量%を投入した。
【0047】
(実施例1)
上記のポリエステル樹脂1を用いてトナー化を行った。ポリエステル樹脂1を93質量%、キナクリドン顔料(クラリアント社製HOSTAPARM PINK E、C.I.番号:Pigment Red 122)を3質量%、カルナバワックス1号(東洋アドレ社製)3質量%、負帯電性の荷電制御剤(日本カーリット社製LR−147)1質量%を、ヘンシェルミキサーで5分間混合した。
【0048】
次いで、得られた混合物を2軸混練機で溶融混練した。溶融混練はシリンダーの設定温度が120℃で行った。混練後、冷却した混合物をジェットミル微粉砕機で10μm以下に微粉砕し、分級機にて3μm以下の微粒子をカットして粒径を整えた。得られた微粉末100質量部に対して、0.25質量部のシリカ(日本アエロジル社製R−972)を加え、ヘンシェルミキサーで混合してトナーを得た。得られたトナー性能の評価結果を表2に示す。
【0049】
(実施例2〜4、比較例1〜3)
バインダー樹脂を表2に示すとおりに変更する以外は、実施例1と同様の方法でトナーを得た。得られたトナー性能の評価結果を表2に示す。
【0050】
(比較例4)
バインダー樹脂として、ポリエステル樹脂1に替えて、ポリエステル樹脂5:95質量部とフィトステロール:5質量部をドライブレンドしたものを用いること以外は、実施例1と同様の方法でトナーを得た。ポリエステル樹脂5:95質量部とフィトステロール:5質量部をブレンドして得られるバインダー樹脂の植物由来原料比率は21.5質量%である。
【0051】
得られたトナー性能の評価結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
比較例1では、フィトステロールの含有量が多く、トナーの保存安定性が不良であった。
【0053】
比較例2では、フィトステロールの含有量が少なく、トナーの低温定着性、耐ホットオフセット性が不良であった。
【0054】
比較例3では、植物由来の1,3−プロパンジオールを含有しておらず、低温定着性が不十分であった。
【0055】
比較例4では、トナー化の際にフィトステロールをドライブレンドしており、保存安定性、耐ホットオフセット性が不良であった。