(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のリチウム硫黄電池用正極材料は、正極活物質として、ケッチェンブラックに硫黄ナノ粒子が内包されてなる複合体を含有する。
本発明のリチウム硫黄電池用正極材料によれば、ケッチェンブラックに内包される硫黄粒子をナノサイズとしたことにより、リチウム硫黄電池のサイクル特性を向上させることができる。かかる効果が得られる理由は以下のように推測されるが、本発明は以下の理由によって限定されることはない。
【0015】
リチウム硫黄電池用正極材料に用いられる硫黄粒子と炭素材料との複合体に関する公知技術としては、硫黄粒子を核としその表面に炭素微粒子層を有する構成の複合体が既に知られている(特許第4456448号公報、特許第4456449号公報)。
この公知の複合体における硫黄粒子は、単体の硫黄を出発物質として得られたものであり、それゆえに、粒径がマイクロメートルオーダー(例えば10μm)となっている。
本発明者らの検討により、この公知の複合体を用いると、サイクル特性が悪化する場合があることが明らかとなった。この理由は、硫黄粒子の粒径がマイクロメートルオーダーであることにより、電解液中に硫黄の還元生成物であるLi
2S
n(2≦n≦8)が溶出し易くなり、下記のシャトルメカニズムを抑制できなくなるため、と考えられる。
【0016】
ここで、シャトルメカニズムについて説明する。
一般に、リチウム硫黄電池における充電では、正極において、下記式(1)〜(4)の順の反応により、硫黄が酸化されることが理想的であると考えられる。
2Li
2S → Li
2S
2+2Li
++2e
− … 式(1)
2Li
2S
2 → Li
2S
4+2Li
++2e
− … 式(2)
2Li
2S
4 → Li
2S
8+2Li
++2e
− … 式(3)
Li
2S
8 → S
8+2Li
++2e
− … 式(4)
ところが、電解液中にLi
2S
n(2≦n≦8)が溶出すると、溶出したLi
2S
nが電解液中を泳動し、正極付近で酸化される一方、負極付近で還元され、この酸化還元を繰り返し、やがて負極上でLi
2Sとして析出し、失活してしまう現象が生じる。この現象はシャトルメカニズムと呼ばれている。
シャトルメカニズムが生じると、上記式(1)〜(4)の反応による充電が終結せず、充放電を繰り返したときのサイクル特性が低下する。シャトルメカニズムによるサイクル特性の低下については、例えば、Electrochim.Acta,51,1330-1335(2006)でも報告されている。
【0017】
そこで、ケッチェンブラックにナノサイズの硫黄粒子(硫黄ナノ粒子)が内包されてなる複合体をリチウム硫黄電池の正極に用いることにより、電解液中へのLi
2S
n(2≦n≦8)の溶出を抑制できるとともに、正極内(詳しくはケッチェンブラック内)で上記式(1)〜(4)の反応を行うことができ、シャトルメカニズムを抑制できると考えられる。
従って、本発明のリチウム硫黄電池用正極材料によれば、リチウム硫黄電池のサイクル特性を向上させることができる。
更には、本発明のリチウム硫黄電池用正極材料によれば、ケッチェンブラックにナノサイズの硫黄粒子(硫黄ナノ粒子)が内包されてなる複合体を含むことにより、リチウム硫黄電池のレート特性をも向上させることができる。
【0018】
次に、本発明のリチウム硫黄電池用正極材料に用いられる複合体及びその製造方法、リチウム硫黄電池用正極材料、並びにリチウム硫黄電池について説明する。
【0019】
<複合体及びその製造方法>
本発明の複合体は、ケッチェンブラックに硫黄ナノ粒子が内包された構造を有している。このような構造は、透過型電子顕微鏡等により確認できる。
前記ケッチェンブラックとしては特に限定はなく、公知のものを用いることができるが、中でも、空隙率60〜80体積%の中空構造を有し、一次粒子径が30〜50nmである炭素粒子が好適である。
また、前記ケッチェンブラックは、BET法による比表面積が、800〜1800m
2/gであることが好ましく、1000〜1500m
2/gであることがより好ましい。
また、前記ケッチェンブラックは、DBP吸油量(15g法)が、400〜600cm
3/100gであることが好ましく、450〜550cm
3/100gであることがより好ましい。
【0020】
また、硫黄ナノ粒子としては、ナノサイズ(平均粒子径1μm未満)の硫黄粒子であれば特に限定はないが、本発明の効果をより効果的に奏する観点からは、平均粒子径0.5nm〜20nmの硫黄粒子が好ましく、平均粒子径0.5nm〜10nmの硫黄粒子がより好ましい。
また、本発明の複合体においては、ケッチェンブラックの内部空間に複数の硫黄ナノ粒子が内包されていることが好ましい。
【0021】
また、本発明の複合体において、ケッチェンブラックと硫黄ナノ粒子との合計量に対する硫黄ナノ粒子の含有量には特に限定はないが、分散性や利用効率などの観点からは、5〜70質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。
【0022】
本発明の複合体を製造する方法については特に限定はないが、収率の観点等からは、反応器内で、ケッチェンブラック、チオ硫酸塩、及び酸に、ずり応力及び遠心力を加え、これらを反応させる方法(以下、「方法A」ともいう)が好適である。
本発明の複合体を製造する方法については、上記方法A以外にも、単体の硫黄をナノサイズまで微細化しケッチェンブラック内に配置させる方法(以下、「方法B」ともいう)も考えられるが、この方法Bでは、硫黄粒子をナノサイズまで微細化することが難しい。
従って、本発明の複合体を製造する方法としては、前記方法Aが好ましい。
【0023】
前記方法Aは、例えば特開2007−160151号公報の
図1に記載されている反応器、即ち、同心円筒型の外筒及び内筒を有し、前記外筒内に内筒が回転自在に設けられており、かつ、前記内筒側面に貫通孔が設けられている反応器を用いて好適に行うことができる。
即ち、前記反応器の内筒内に原料(ケッチェンブラック、チオ硫酸塩、及び酸)を収容し、原料が収容された内筒を旋回させることにより、遠心力によって内筒内の原料を内筒の貫通孔を通じて外筒の内壁面に移動させる。これにより、外筒の内壁面に反応物を含む薄膜を生成させるとともに、この薄膜に対し内筒の旋回によってずり応力及び遠心力を加える。
以上の操作により、原料に対し、大きな機械的エネルギーを加えることができるので、化学反応を促進させることができる(メカノケミカル反応)。
以上により、前記方法Aによれば、原料に対するメカノケミカル反応により、ケッチェンブラックに硫黄ナノ粒子が内包された構造を有する本発明の複合体を生成することができる。
以下、前記方法Aによる処理を、「超遠心処理」や「UC処理」ということがある。
【0024】
前記方法Aにおいて、反応温度及び反応時間には特に制限は無いが、反応温度は、例えば5〜50℃(好ましくは10〜30℃)とすることができ、反応時間は、例えば50〜600秒間(好ましくは100〜400秒間)とすることができる。
また、前記方法Aにおいて、遠心力は、10000N〜100000Nであることが好ましく、20000〜80000Nであることがより好ましく、40000〜80000Nであることが特に好ましい。
【0025】
前記方法Aにおいて、チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)、チオ硫酸カリウム(K
2S
2O
3)、チオ硫酸カルシウム(CaS
2O
3)、チオ硫酸アンモニウム((NH
4)
2S
2O
3)等が挙げられるが、中でも、チオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)が好ましい。
前記方法Aにおいて、酸としては、酢酸、マレイン酸、フタル酸等が挙げられ、中でも酢酸が好ましい。
また、前記方法Aにおける酸としては、酸無水物と水とを反応(加水分解)させて得られた酸を用いてもよい。前記酸無水物としては、無水酢酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が挙げられ、中でも無水酢酸が好ましい。
【0026】
例えば、前記方法Aにおいて、チオ硫酸塩としてチオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)を用い、酸無水物として無水酢酸を用いた場合には、以下式(a)及び式(b)の反応により、硫黄(S)が生成される。
【0027】
(CH
3COO)
2O+H
2O → 2CH
3COOH … 式(a)
Na
2S
2O
3+2CH
3COOH → 2CH
3COONa+S+SO
2+H
2O … 式(b)
【0028】
このようにして生成した硫黄(S)が、硫黄ナノ粒子として、ケッチェンブラックの内部空間に配置される。なお、硫黄(S)は、ケッチェンブラックの内部空間において、S
8(複数の同素体を含む)の形態となっていてもよい。
【0029】
<リチウム硫黄電池用正極材料>
本発明のリチウム硫黄電池用正極材料は、前記本発明の複合体を含有する。
本発明のリチウム硫黄電池用正極材料は、必要に応じバインダーや溶剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
前記バインダーとしては、例えば、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンオキシド(PEO)、等が挙げられる。
前記溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、等)、水、等が挙げられる。
本発明のリチウム硫黄電池用正極材料を用いて正極を作製する方法としては、溶剤を含むスラリー状のリチウム硫黄電池用正極材料を、アルミニウム等の集電体上に塗布し乾燥させて正極を得る方法や、固形状のリチウム硫黄電池用正極材料を圧延法によりシート状に成形し、得られた成形物をアルミニウム等の集電体に接着して正極を得る方法、等が挙げられる。
【0030】
<リチウム硫黄電池>
本発明のリチウム硫黄電池は、既述の本発明のリチウム硫黄電池用正極材料を含む。
本発明のリチウム硫黄電池の構成は、正極として本発明のリチウム硫黄電池用正極材料を用いた正極を用いること以外は、公知のリチウムイオン二次電池と同様の構成とすることができ、例えば、本発明のリチウム硫黄電池用正極材料を用いた正極と、セパレータと、負極と、電解液と、を含む構成とすることができる。
前記負極としては、例えば、リチウム、リチウム合金、又はこれらの酸化物を用いることができる。
前記電解液としては、溶媒中に電解質が溶解された公知の電解液を用いることができる。
前記電解質としては、例えば、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)、ヨウ化リチウム(LiI)、塩化リチウム(LiCl)、等のリチウム塩を用いることができる。
前記溶媒としては、例えば、1,3−ジオキソラン(DOL)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、エーテル系溶媒(テトラヒドロフラン等)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、又はこれらの混合溶媒を用いることができる。
前記セパレータとしては、例えば、多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム等の多孔性プラスチックフィルムを用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下において、特に断りのない限り、「室温」は25℃を指す。
【0032】
〔実施例1〕
<ケッチェンブラック(KB)−硫黄ナノ粒子複合体(S/KB複合体1)の合成>
Na
2S
2O
3を5.9157g量り取り、純水38mlに溶解させた。Na
2S
2O
3が完全に溶解した後、無水酢酸を10.5ml加えて撹拌し、無水酢酸を完全に溶解させた。
得られた溶液に、ケッチェンブラック・インターナショナル(株)製のケッチェンブラックEC600JD(DBP吸油量495cm
3/100g(15g法)、BET法による比表面積1270m
2/g、一次粒子径34nm、空隙率80体積%)0.8gを加えて混合し、混合物を得た。
【0033】
次に、特開2007−160151号公報の
図1に示すような、同心円筒型の外筒及び内筒を有し、前記内筒が回転自在に設けられており、かつ、前記内筒側面に貫通孔が設けられている反応器を準備した。
この反応器の内筒に上記混合物を収容し、66000Nの遠心力で内筒を旋回させ、上記混合物にずり応力及び遠心力を加える処理(超遠心処理)を300秒施し、反応生成物を得た。
上記超遠心処理の終了後、反応生成物から吸引ろ過により溶媒を除去し、純水で十分に洗浄した。洗浄後の反応生成物を室温、真空(6.2×10
−2Pa)下で一晩乾燥させ、ケッチェンブラック(KB)−硫黄ナノ粒子複合体(以下、「S/KB複合体1」ともいう)を得た。
【0034】
<S/KB複合体1の構造確認>
〜電子顕微鏡観察〜
上記で得られたS/KB複合体1について、走査型電子顕微鏡(SEM)及び高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM)による観察を行った。ここで、走査型電子顕微鏡(SEM)としては、(株)日立ハイテクノロジーズ製の走査電子顕微鏡S−5500を用い、高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM)としては、(株)日立ハイテクノロジーズの透過電子顕微鏡H−9500を用いた。
【0035】
HR−TEM写真(明視野像)を
図1に、HR−TEM写真(暗視野像)を
図2に、SEM写真を
図3に、それぞれ示す。
図2に示すように、HR−TEM写真(暗視野像)では、ケッチェンブラック中に複数の白点が観測された。HR−TEM写真(暗視野像)では原子番号が大きい元素ほど白く観察されるため、これらの白点は硫黄粒子である。また、硫黄粒子(白点)の粒径は1〜10nm程度であった。
一方、
図3に示すように、SEM写真では、硫黄(S
8)をSEM観察したときに見られるチャージアップはほとんど観測されなかった。従って、ケッチェンブラック表面には硫黄が殆ど存在していないことがわかった。一方、EDX測定により(不図示)、S/KB複合体1中に硫黄が存在することが確認された。
以上の結果から、S/KB複合体1の構造は、ケッチェンブラック中に硫黄ナノ粒子が内包された構造であることがわかった。
【0036】
〜X線構造回折(XRD)測定〜
上記で得られたS/KB複合体1について、X線構造回折(XRD)測定を行った。XRD測定は、(株)リガク製のSMARTLABを用いて行った。
図4中、下段にS/KB複合体1のXRDパターンを、上段にS
8(試薬)(比較用)のXRDパターンを、中段にNa
2S
2O
3から合成されたS
8(Na
2S
2O
3由来のS
8)(比較用)のXRDパターンをそれぞれ示す。
図4に示すように、S/KB複合体1のXRDパターンでは、S
8に由来するピークは全く観測されなかった。従って、S/KB複合体1においてケッチェンブラック表面には硫黄が殆ど存在していないことがわかった。
以上の結果からも、S/KB複合体1の構造は、ケッチェンブラック中に硫黄ナノ粒子が内包された構造であることがわかった。
【0037】
なお、比較用の「Na
2S
2O
3由来のS
8」は、以下のようにして合成した(以降の「Na
2S
2O
3由来のS
8」の合成方法も同様である)。
即ち、Na
2S
2O
3を5.9157g量り取り、純水46mlに完全に溶解させた後、得られた溶液に無水酢酸3.7ml加えて無水酢酸を完全に溶解させ、その後、80℃に温めて一晩撹拌し続けた。得られた生成物から溶液を吸引ろ過により除去し、純水で十分に洗浄することにより、Na
2S
2O
3由来のS
8を得た。
【0038】
〜ラマン分光測定〜
上記で得られたS/KB複合体1について、ラマン分光測定を行った。ラマン分光測定は、日本分光(株)製のJASCO NRS−2100を用いて行った。
図5中、下段にS/KB複合体1のラマンスペクトルを、上段にS
8(試薬)(比較用)のラマンスペクトルを、中段にNa
2S
2O
3から合成されたS
8(Na
2S
2O
3由来のS
8)(比較用)のラマンスペクトルをそれぞれ示す。
図5に示すように、S/KB複合体1のラマンスペクトルでは、ノイズのみが観測され、S
8に由来するピークは全く観測されなかった。従って、S/KB複合体1においてケッチェンブラック表面には硫黄が殆ど存在していないことがわかった。
【0039】
〜熱重量分析(TG−DTA)測定〜
上記で得られたS/KB複合体1について、熱重量分析(TG−DTA)測定を行った。熱重量分析(TG−DTA)測定は、セイコーインスツル(株)製のEXSTAR6300を用い、昇温速度5℃/min.の条件で行った。
図6に、S/KB複合体1のTG−DTA測定結果を、
図7に、S
8(試薬)(比較用)のTG−DTA測定結果を、それぞれ示す。
図6及び7に示すように、S/KB複合体1では、S
8(試薬)において観測された120〜290℃にかけての燃焼は殆ど観測されなかった。
図6において観測された600℃付近の燃焼は、ケッチェンブラックに由来する炭素の燃焼である。
図6において観測された220〜360℃付近の燃焼の由来は明らかではないが、KBの熱振動が激しくなったところでようやくSが空気と触れて燃焼したものと推測される。
以上の結果からも、S/KB複合体1の構造は、ケッチェンブラック中に硫黄ナノ粒子が内包された構造であることが示唆された。
また、
図6の結果から、硫黄とKBとの合計量に対する硫黄の含有量を求めたところ、22.9質量%となっていた。
【0040】
<正極の作製>
S/KB複合体1(0.0500g)に、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)(アルドリッチ社製)10質量%のNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液(0.1250g)を加えて混練した。次に、得られた混練物に、更に適量のNMPを加えて適度な粘度とした後、15分間混練した。次に、得られた混練物に、更にNMPを加えて適度な粘度とし、正極用スラリーを得た。
この正極用スラリーを、ドクターブレード法によりアルミニウム集電体(宝泉(株)製)に塗布し、乾燥空気下で1日乾燥させた後、室温、真空(6.2×10
−2Pa)下で3時間乾燥させて正極を得た。
【0041】
<リチウム硫黄電池の作製>
下記に示すリチウム硫黄電池の各部材を用い、
図8に示すように、下蓋、Li(負極)、電解液で湿らせたセパレータ、ガスケット、S/KBコンポジット(正極)、スペーサー、スプリング、及び上蓋をこの順に積層した積層体を準備した。この積層体をコインカシメ機でかしめて密封し、リチウムイオン電池(コイン型電池)を得た。
【0042】
〜リチウム硫黄電池の部材〜
・下蓋、上蓋 … 2032型コインセル(宝泉(株)製)の下蓋及び上蓋
・Li(負極)… Li(Al0.1wt%)(本城金属(株)製)
・セパレータ … セルガード(株)製Celgard2400
・S/KBコンポジット(正極) … 上記で作製された正極
・電解液 … 1,3−ジオキソラン(DOL)と1,2−ジメトキシエタン(DME)とを1:1(体積比)の割合で混合して得られた混合溶媒中に、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)を0.5Mの濃度で溶解させた電解液(キシダ化学(株)製)
・スペーサー … ステンレス製スペーサー
・スプリング … ステンレス製スプリング
【0043】
<充放電特性の評価>
(株)ナガノ製の充放電電源装置BTS2305−1Pを用い(測定制御には、(株)ナガノ製のBTS2300を用いた)、上記で得られたリチウム硫黄電池(コイン型電池)の充放電特性の評価を行った。
【0044】
〔比較例1〕
実施例1において、ケッチェンブラック−硫黄ナノ粒子複合体(S/KB複合体1)を、以下のようにして作製したケッチェンブラック−硫黄粒子複合体(S/KB複合体2)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、正極及びリチウム硫黄電池を作製し、実施例1と同様にして充放電特性の評価を行った。
【0045】
<ケッチェンブラック(KB)−硫黄粒子複合体(S/KB複合体2)の合成>
硫黄粉末(S
8)((株)高純度化学研究所製)と前述のケッチェンブラックEC600JDとを、質量比〔S:KB〕84:16で混合した。
得られた混合物に対し、特許4456448号公報の段落0035に記載の処理と同様の処理を施し、S/KB複合体2を得た。
図9は、S/KB複合体2の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図9では、S/KB複合体2の構造をわかりやすくするために、S/KB複合体2の外表面を示すSEM写真に、S/KB複合体2の断面のSEM写真(
図9中、右側の四角く囲った部分)を重ねて表示した。
図9に示すように、S/KB複合体2は粒径が10〜50μm程度であり、マイクロメートルサイズの硫黄粒子の表面がKBで覆われた構造となっていた。
【0046】
<充放電特性の評価結果>
図10は、上記実施例1及び比較例1において、充放電のサイクルを50サイクル行ったときの、硫黄1g当たりの発現容量(単位:mAhg
−1)の推移を示すグラフである。
詳細には、
図10は、放電終了条件をセル電圧1.5Vとし、充電終了条件をセル電圧3Vとして、充放電のサイクルを50サイクル行ったときの、硫黄1g当たりの発現容量(単位:mAhg
−1)の推移を示している。
図10に示すように、正極材料として、ケッチェンブラックにナノメートルサイズの硫黄粒子(硫黄ナノ粒子)が内包された構造のS/KB複合体1を用いた実施例1では、マイクロメートルサイズの硫黄粒子の表面がKBで覆われた構造のS/KB複合体2を用いた比較例1と比較して、充放電のサイクルを重ねたときの発現容量の低下が抑制されており、サイクル特性に優れることが確認された。
【0047】
図11は、実施例1における放電曲線、及び、正極にS
8を用いた一般的なリチウム硫黄電池の放電曲線である。
図11に示すように、実施例1における放電曲線は、S
8を用いたリチウム硫黄電池の放電曲線と酷似していた。この結果から、実施例1におけるS/KB複合体1中の硫黄は、S
8である可能性が高いことがわかった。