(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
銅粉末を添加することにより1〜10mass%の銅を含有し、その結晶相がβ相もしくはα相およびβ相のいずれかであり、該結晶相が100μm以下の結晶粒で構成され、かつ、該結晶相の任意の部位の1mm3当たりの銅濃度が、他の任意の部位に比べて±40mass%以内にあり、少なくともアルミニウムとバナジウムを含有するα+β型またはβ型チタン合金、または、アルミニウムとバナジウムを含有し、かつモリブデン、鉄、クロム、スズの中の少なくとも1種以上の元素が含まれるα+β型またはβ型チタン合金であって、
前記合金種は、mass%にて、
(90〜99)(Ti-6Al-4V)-(1〜10)Cu、
Ti-(9〜10)V-(1.8〜2)Fe-(2.7〜3)Al-(1〜10)Cu、
Ti-(13.5〜15)V-(2.7〜3)Cr-(2.7〜3)Al-(2.7〜3)Sn-(1〜10)Cu、
Ti-(4.1〜4.5)Al-(2.7〜3)V-(1.8〜2)Fe-(1.8〜2)Mo-(1〜10)Cu、
Ti-(4.5〜5)Al-(4.5〜5)V-(4.5〜5)Mo-(2.7〜3)Cr-(1〜10)Cu、
Ti-(4.5〜5)Al-(3.6〜4)V-(0.5〜0.6)Mo-(0.3〜0.4)Fe-(1〜10)Cu
のいずれかであることを特徴とするα+β型またはβ型チタン合金。
前記チタン合金が、銅粉末およびチタン合金粉末からなる混合粉を加温下において加圧成形することにより得られたものであることを特徴とする請求項1に記載のα+β型またはβ型チタン合金。
前記加温下での加圧成形温度(Tw(℃))が、(Td−100℃)<Tw<(Td+100℃)の範囲(ここで、Td(℃)は、加圧成形するチタン合金のβ変態点を表す)とすることを特徴とする請求項3に記載のα+β型チタン合金またはβ型チタン合金の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の最良の実施形態について図面を用いて以下に説明する。
本発明に係るα+β型またはβ型チタン合金は、1〜10mass%の銅を含有し、その結晶相がβ相もしくはα相およびβ相のいずれかであり、100μm以下の結晶粒で構成され、しかも、かつ、該結晶相の任意の部位の1mm
3当たりの銅濃度が、他の任意の部位に比べて±40
mass%以内にあることを特徴とするものである。
【0027】
従来の粉末冶金法では、チタン合金を原料として製造された合金粉に銅粉を添加して製造されたものであることに起因して、合金内の異なる部位間に濃度の差異を生じる場合がある。しかしながら、本発明に係るチタン合金は、上記結晶相の任意の部位の1mm
3当たりの銅濃度が、他の任意の部位に比べて±40
mass%以内に抑えられているという特徴のため、合金組織全体としては充分に均一に保たれている。
【0028】
また、本発明に係るα+β型またはβ型チタン合金は1〜10mass%の銅粉末を含むチタン合金粉末を加温下での加圧成形により製造されたことを特徴とするものである。
【0029】
ここで本発明においては、1〜10mass%の銅粉末を含むチタン合金粉末とは、銅粉末を含まないチタン合金粉末に、別途準備した銅粉末を添加混合して得られた複合粉を意味する。
【0030】
本発明においては、チタン合金粉末としては、アルミニウムまたはバナジウムを含むチタン合金粉を使用することが好ましい。このような合金粉の好ましい例としては、Ti−6Al−4V合金粉、Ti−3Al−2.5V合金粉等が挙げられる。
【0031】
また、アルミニウムやバナジウム以外にも、モリブデンや鉄、あるいは、クロムやスズを適宜含んだ合金粉でもよい。これらの代表的な合金粉を以下に列挙しておく。
Ti−10V−2Fe−3Al合金粉、
Ti−15V−3Al−3Al−3Cr−3Sn合金粉、
Ti−4.5Al−3V−2Fe−2Mo合金粉、
Ti−5Al−5V−5Mo−3Cr合金粉、
Ti−5Al−4V−0.6Mo−0.4Fe合金粉
【0032】
上記のチタン合金粉は、インゴットの切削切粉やスクラップを原料とし、これを水素化脱水素法(以降、「HDH法」と呼ぶ場合がある。)により製造されることを好ましい態様とするものである。
【0033】
図1は、本発明に係るチタン合金の製造に係る工程の好ましい態様を表している。本発明に供されるチタン合金原料としては、チタン合金切粉、チタン合金鍛造片、あるいはチタン合金棒の端材等の、当初より所望の成分を有する合金スクラップまたはチタン合金インゴットを用いることができる。
【0034】
前記した合金スクラップ材を原料として使用することにより、チタン合金粉の製造コストを効果的に抑制することができるという効果を奏するものである。これらのチタン合金スクラップまたはチタン合金インゴット(以降、単に「チタン合金原料」と略称する場合がある。)は、事前に所定の長さ、あるいは、大きさに寸法調整しておくことが好ましい。
【0035】
例えば、合金切粉の場合には、100mm以下の長さに、事前に切断しておくことが好ましい。前記のような長さに切断しておくことにより、次工程の水素化工程を効率よく進めることができるという効果を奏するものである。また、鍛造片のようなブロック状の合金スクラップでは、水素化炉に入る程度の大きさであれば、特に事前処理の必要はない。合金原料が、チタン合金インゴットの場合は、切粉にすることが好ましい。
【0036】
前記したように調整されたチタン合金原料は、水素雰囲気下での水素化処理工程に供される。水素化処理は、500〜650℃の温度域で行なうことが好ましい。合金原料の水素化処理反応は、発熱反応であるため、水素化反応の進行に伴い、加熱炉による昇温操作は不要であり自発的に水素化反応を進めることができるという効果を奏するものである。
【0037】
水素化処理されたチタン合金原料(以降、単に「水素化チタン合金」と略称する場合がある。)は、室温まで冷却後、アルゴンガス等の不活性雰囲気で所定の粒度になるまで粉砕・篩別することが好ましい。
【0038】
続いて、粉末状に粉砕・篩別された水素化チタン合金粉は、減圧雰囲気に保持された雰囲気中で、高温域まで加熱処理することが好ましい。
【0039】
脱水素処理温度は、500℃〜800℃の温度域で真空排気しながら行うことが好ましい。脱水素反応は、前記の水素化処理反応と異なり吸熱反応であるために、水素化チタン合金粉からの水素の発生がなくなるまで加熱操作が必要とされる。
【0040】
前記操作により本発明に係るチタン合金粉を得ることができる。本発明に係るチタン合金粉は、1〜300μmの範囲に整粒しておくことが好ましいとされ、より好ましくは、5〜150μmである。粒子径がこの範囲より粗いと、最終製品の合金の密度が上がりにくい傾向があり、一方、この範囲より細かいと、かさ密度が低くなるとともに、酸化されやすく、酸素含有量の上昇や燃焼等の不都合が生じる。
【0041】
前記脱水素処理が完了して得られたチタン合金粉は、相互に焼結している場合があり、この場合には、適宜、解砕処理を行なうことが好ましい。
【0042】
本発明においては、前記方法で製造されたチタン合金粉に対して、1〜10mass%の銅粉を配合することを特徴とするものである。
【0043】
チタン合金粉に対して1〜10mass%の銅粉を配合しておくことにより、前記合金粉を原料として加圧成形することにより得られたチタン合金材の強度と硬度とを高い水準に維持することができるという効果を奏するものである。
【0044】
チタン合金粉に配合する銅粉の粒度は1〜300μmの範囲に整粒したものを用いることが好ましい。より好ましくは1〜50μmの範囲の銅粉を使用することを好ましい態様とするものである。
【0045】
より微細な銅粉を使用する方が組成の均一なチタン合金粉を製造する上で有利であるため、前記した粒度1〜50μmの範囲において、銅粉の平均粒度(d50)は、10〜40μmの範囲となるように調整しておくことが好ましいとされる。
【0046】
本発明では、上述の方法で得られた銅添加チタン合金粉を更に、均一混合した後、加温下で加圧成形を行うことが好ましい。
【0047】
本発明で用いる加圧成形にはHIP、ホットプレス、CIP−HIP、加温下での押出などの公知の技術を適用することができるが、特に加温下での押出を用いる場合には、短時間のうちに、焼結と形状成形を同時に進めることができるという効果も奏し、生産性の点で優れた効果を奏する。
【0048】
本発明においては、前記銅粉を配合したチタン合金粉は、金属製のカプセルに充填した後、加温下での加圧成形を施すことが好ましい。
【0049】
金属製のカプセルに充填した銅粉を配合したチタン合金粉の押出により得られたチタン合金材は、従来法では製造できなかった高い組成の銅を含有したチタン合金であって、銅の偏析が少なく、更には強度があり、しかも硬質であるという優れた機械的特性を発揮するものである。
【0050】
前記した加圧成形の温度(Tw)は、(Td−100℃)<Tw<(Td+100℃)の範囲とすることが好ましい。ここで、Tdは、加圧成形の対象とするチタン合金のβ変態点を意味する。前記した範囲にてチタン合金粉を事前に加熱しておくことにより、前記加圧成形を円滑に進めることができるという効果を奏する。
【0051】
加圧成形温度が、(Td−100℃)よりも低温側にある場合には、チタン合金粉の変形抵抗が大きく、加圧成形後もチタン合金粉を十分に緻密化させきることが困難である。
特に、押出加工により加圧成形する場合にはダイス内に材料が詰まってしまう場合があるので好ましくない。
【0052】
これに対して、本発明においては、前記加圧成形温度が、(Td+100℃)よりも高温側にある場合には、チタン合金材の結晶粒が100μm以上に粗大化する傾向を示し、チタン合金材の機械的特性に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0053】
また、本発明に係る加圧成形温度が、(Td−100℃)〜Tdの温度域、すなわちα+β領域にて加圧成形を行なう場合においては、加圧成形されたチタン合金材の結晶組織は、均一かつ微細化されているために、強度があり硬質であるだけでなく、引っ張り強さと伸びとのバランスが良い優れた機械的特性を発揮するものである。
【0054】
本発明にかかるチタン合金は、1〜10mass%組成の銅を含有するものであり、前記合金の任意の部位における1mm
3当たりの銅の濃度の値が、他の任意の部位の銅の濃度の値に対して±40
mass%以内とすることを特徴とするものである。
【0055】
上記態様は、本発明に係るチタン合金中の銅が合ほぼ均一に分布していることを意味するものである。
【0056】
このような組織を有するチタン合金の中でもTi−6Al―4V合金を例にとれば、引っ張り強度が1400〜1550MPa、伸びが2〜7%という高い値を示し、従来の合金に比べて優れた引っ張り強度のみならず伸びについても優れた値を示すという効果を奏するものである。
【0057】
このように優れた機械的性質を有するチタン合金は、粉末法の中でも、とりわけ、プリアロイ法と呼ばれる溶解法で得られた合金を粉末化した合金粉を原料としてこれを緻密化して製造されたことを好ましい態様とするものである。
【0058】
ここで「プリアロイ法」とは、溶解法で製造された合金を原料として製造された粉末を焼結原料として使用することを意味するものであり、成分単体で構成された金属粉を個別に用意しこれらの金属粉を一様に混合して得られる素粉末混合粉と相対するものである。
【0059】
上記粉末法の中でも特にプリアロイ粉末を原料に用いることにより、均一な合金組成を有するチタン合金を製造することができるという効果を奏するものである。
【0060】
前記したような特性を実現するためのこのましい緻密化条件について、押し出しを例にとり、以下に説明する。
【0061】
まずは、目的とする組成のチタン合金粉および銅粉を準備し、これを均一混合した後に、混合粉を金属製のカプセルに装入し、次いで、カプセル内部を10
−1Torr以下の真空状態にした後、HIP、CIP−焼成あるいは押出などによって加圧成形することが好ましい。粉末をダイスに充填して10
−2Torr以下の真空度でホットプレスすることも好ましい。
【0062】
前記加温下での加圧成形温度(Tw)は(Td−100℃)<Tw<(Td+100℃)の範囲とすることが好ましい。
【0063】
このように、本発明における加温下での加圧成形は、HIP、ホットプレス、CIP−HIP、あるいは加温下での押出などの公知の方法を用いることにより達成できる。
【0064】
本発明においては、前記加温下での加圧成形の中で、熱間押出による加圧成形では、押出装置内に装入するカプセル断面積に対する押出されたチタン合金材の断面積の比(以降、単に「押出比」と呼ぶ場合がある)を、1/10〜1/30の範囲とすることが好ましい。
【0065】
前記した範囲に押出比を設定することにより、チタン合金粉を内装したカプセルの流動の程度が制御され、押出されたチタン合金材の鍛錬度合いを調整することができ、より好ましい機械的特性を付与するという効果を奏するものである。
【0066】
HIPあるいはホットプレス、CIP−HIPなどの加圧成形体についても、上述の断面積比にて圧延、鍛造等の加温下による鍛錬加工を加えることにより製造されたチタン合金材に付与された機械的特性を高めることができるという効果を奏するものである。
【0067】
なお、本発明におけるHIP、CIP−HIP、加温下の押出等方法で製造されたチタン合金材を被覆しているカプセルは、切削あるいは酸洗により分離しておくことが好ましい。このようにカプセルが分離されたチタン合金材は、再度、真空雰囲気下にて高温に加熱してもよい。
【0068】
前記した処理を経たチタン合金材の強度は格段に優れており、細かい結晶粒を有し、均一に分布したCuによって強化されているために、高強度機械部品のような構造材に好適に使用することができるという効果を奏するものである。
【0069】
即ち、本発明による銅を含むチタン合金材の強度は、従来の銅を含まないチタン合金材に比べて、10〜30%もの高い値を示すのみならず、その原料としてチタン合金スクラップを使用した場合には、原料コストを安価にでき、その結果、最終製品であるチタン合金材のコストも、従来に比べて、50〜70%削減できるという効果を奏するものである。
【0070】
また、本発明に係るチタン合金材は、硬さにおいても、銅を添加しない材料に比べて10〜30%もの高い値を示すという効果を奏するものである。
【0071】
本発明に係るチタン合金は、前記したように優れた機械的性質を有しており、その結果、工業用の精密機械部品のみならず、医療用材料にも好適に適用でき、さらには、強度のみならず耐摩性も要求されるような航空機部品についても好適に使用することができるという効果を奏するものである。
【0072】
なお、銅を含む前記チタン合金は、溶解法でも製造することはできるが、偏析が著しく、実用的な合金を製造することは困難である。
【0073】
本発明において製造されるチタン合金材は、少なくともアルミニウムとバナジウムを含有していることを好ましい態様とするものであるが、これに、モリブデンや鉄、あるいは、クロム、錫を適宜含んでいてもよい。これらの代表的な合金を以下に列挙しておく。但し、本発明で製造しうる合金は、これらに限定されるものではなく、更に、種々のチタン合金に適用することができる。
【0074】
Ti-(9〜10)V-(1.8〜2)Fe-(2.7〜3)Al-(1〜10)Cu、
Ti-(13.5〜15)V-(2.7〜3)Cr-(2.7〜3)Al-(2.7〜3)Sn-(1〜10)Cu、
Ti-(4.1〜4.5)Al-(2.7〜3)V-(1.8〜2)Fe-(1.8〜2)Mo-(1〜10)Cu、
Ti-(4.5〜5)Al-(4.5〜5)V-(4.5〜5)Mo-(2.7〜3)Cr-(1〜10)Cu、
Ti-(4.5〜5)Al-(3.6〜4)V-(0.5〜0.6)Mo-(0.3〜0.4)Fe-(1〜10)Cu。
【0075】
以上述べたように、本発明により、従来法では製造できなかった組成の銅含有チタン合金であって、銅の偏析がなく、更には強度があり、しかも硬質であるチタン合金を提供できるという効果を奏するものである。またそれらのチタン合金を効率よく従来法より安価に製造することができるという効果を奏するものである。
【実施例】
【0076】
次に示す条件にて、実施例および比較例に係るデータを採取した。
1.原料
1)64合金粉
製法:64合金スクラップをHDH法で製造した後、粉砕整粒
平均粒径(d50):52μm
2)銅粉
製法:電解銅粉、JX日鉱日石金株式会社製、商品名51−N
平均粒径(d50):35μm
3)チタン合金粉に対する銅粉配合比
1%〜10mass%
4)混合
前記64合金粉および銅粉は、市販の混合機を用いて均一化した。
【0077】
2.予備試験
加温下での加圧成形条件を決定するために、64合金粉末に銅粉末を0%、3%、5%、7%、10%添加してサンプルを作り、β変態点(Td)とβ変態点(Td)近傍の温度における変形抵抗を求めた。β変態点(Td)は、試験片をアルゴンガス雰囲気中で昇温加熱しながら四端子法で電気抵抗を測定し、電気抵抗変化の温度依存性が変化する温度を変態点とした。装置は電気抵抗測定装置(商品名ARC−TER−1型)を用いた。この結果は以下の通りであった。
【0078】
【表1】
【0079】
文献で報告されている64合金(0%銅)のβ変態点(Td)は995℃とされており、その値にほぼ一致した。
【0080】
次に、上記で求めたβ変態点(Td)及びβ変態点(Td)より30℃低い温度、β変態点(Td)より50℃高い温度での変形抵抗を求めた。測定は熱間加工再現装置(冨士電波工機株式会社製、サーメックマスターZ)を用いての圧縮試験でおこなった。結果を以下に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
3.押出
押出温度は、押出装置の押出力と、材料の変形抵抗を考慮して決定した。64合金粉末に銅粉末を0%、3%、5%、7%、10%混合した複合粉を軟鋼カプセルに充填し、内部を1×10
−2Torrまで真空排気後封入した。この粉末封入カプセルを加温下の加圧成形の一例として熱間押出にて成形した。この時の各銅含有量の加熱温度は表3に記載の温度とした。加熱時間は2Hrとした。それぞれの銅含有量合金の加熱温度と、その温度のβ変態点(Td)からの温度差は下表の通りである。
【0083】
【表3】
【0084】
4.加圧成形材の処理
加温下の加圧成形により生成したチタン合金材の表面に残留しているカプセルを酸洗により溶解除去した。
【0085】
5.機械的特性の測定
1)引張強度測定
インストロン社製の引張り試験機(型番:5985型)を使用した。
2)結晶組織観察
日本電子製の測定器EPMA(型番:JXA−8100)を使用した。
3)結晶組織中の銅の分布
日本電子製の測定器EPMA(型番:JXA−8100)を使用した。
【0086】
[実施例1・比較例1](銅粉添加の有無の効果の差異)
64合金粉に、銅粉を添加した場合と、添加しない場合における機械的特性を調査した。表4に示すように、銅粉を添加した方が、降伏強さ、引張り強さ、硬さに優れていることが確認された。銅添加合金は特に銅含有量5%以上の材料で伸びがやや少ない結果となったが、これは、加圧成形温度がβ温度域であることが影響している、と考えられた。
【0087】
【表4】
【0088】
[実施例2・比較例2](加圧成形温度の差)
Cu5%添加64合金(ベータ変態点:950℃)について、加圧成形して得られた焼結体の結晶組織に及ぼす加圧成形温度の影響を調べた。
加圧成形温度が本発明の範囲にある実施例2−1、実施例2−2においては、
図2に示すようにβ相とα相の混相組織が観察された。これに対して加圧成形温度が本発明の範囲外にある比較例2−1においては、結晶組織中のβ相が粗大化していた。また、比較例2においては、ダイスの中で材料が詰まり、加圧成形材を得ることができなかった。
【0089】
【表5】
【0090】
[実施例3](製造されたチタン材の銅濃度分布)
実施例2において、加圧成形により製造されたチタン材の結晶組織中の成分濃度をEPMAにて調べた。Ti、Al、V、CuについてそれぞれのX線像を求めた。画像を
図3に示すとともに、その結果を以下に示す。ここで示している数字はEPMAのカウント数であり、それぞれの元素によって感度が違うので、カウント数を濃度に換算するために、平均カウント数を各元素の公称濃度として、表6に示すように濃度補正係数を求めた。この補正係数をもとに、濃度別の存在割合を表7および表8のように求めた。それぞれの元素の最低濃度と最高濃度は以下の通りであった。
【0091】
Ti(平均濃度85.5%)は、最低濃度74.8%、最高濃度96.3%
Al(平均濃度5.7%)は、最低濃度3.8%〜最高濃度8.6%
V(平均濃度3.8%)は、最低濃度3.0%〜最高濃度4.8%
Cu(平均濃度5.0%)は、最低濃度2.0%〜最高濃度8.2%
【0092】
Cu濃度をミクロ的にみると材料の公称値から100%近く離れた組成の領域もあるが、任意の1mm
3の部位におけるCu濃度の平均値は、1mm
3をどのように設定しても4.5%〜5.5%であり、材料の公称値5%対して±10%の範囲内である。即ちマクロの偏析はない。Al、Vについても任意の1mm
3の部位における濃度の平均値をみてみると、Alは材料の公称値に対し±8%の範囲内、Vは材料の公称値に対し±15%の範囲内であった。
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
[比較例3](素粉末混合法による合金の製法)
実施例1において、64合金粉の代わりに、アルミニウム粉(60wt%)とバナジウム粉(40%)を所定量秤量して均一混合して得られた混合粉を用いた以外は、実施例1と同じ条件下で、銅添加した64合金を製造した。
【0096】
製造された64合金の機械的特性は、実施例1の表1の結果と大きな差異は認められなかった。しかしながら、製造コストは実施例1で製造された材料に比べて2〜3倍に達した。これは、主として64合金粉のコストの違いに由来するものであった。
【0097】
[比較例4](溶解法による合金)
実施例1において用いた合金粉に代えて、64合金塊、および電解銅を準備して電解銅を3、5、10wt%配合した後、電子ビーム溶解炉を用いてφ100の銅入り64合金インゴットを得た。
【0098】
当該銅入り64合金インゴットより試験片を切り出して、機械的性質を調査し、その結果を表8に整理した。当該比較例で溶製されたインゴットの引っ張り強度は、実施例1に比べて20%〜25%低い値を示した。
【0099】
その原因を調査すべく、当該インゴット中の銅の分布状況をCX線マイクロアナライザーで調査したところ、1mm
3以上の広い領域に渡って、Cu濃度が0.3〜0.5%と平均濃度に対して1/10以上希薄な領域や、Cu濃度が20%〜40%と平均濃度に対し10倍以上濃縮している箇所が観察された。
【0100】
以上の試験結果より、本発明に係るチタン合金は、従来の溶解法で製造されたチタン合金に比べて優れた機械的性質を有していることが確認された。更に、本発明に用いたプリアロイ法で製造された合金粉を使用することにより、素粉末混合法と同等レベルの機械的特性を示すにも拘わらず、製造コストは、30〜40%も安価に製造しうることが確認された。
【0101】
【表8】
【0102】
[実施例4](Ti−10V−2Fe−3Al合金粉に5%Cu添加)
Ti−10V−2Fe−3Al合金インゴットの切削切粉を水素化し、Ti−10V−2Fe−3Al合金の水素化物を製造、粉砕・篩別してD50=50μmの合金粉末を得た。この粉末に、実施例1で用いた電解銅粉を5%添加して、Ti−10V−2Fe−3Al合金粉と電解銅粉からなる混合粉末を得た。この混合粉末を軟鋼製カプセルに封入し、熱間押出加工した。押出は 800℃に2時間加熱した後に実施した。押出材の組織観察、引張り試験、硬さ測定、EPMA観察を行った。結晶粒径、降伏強さ、引張り強さ、伸び、硬さを表9に示す。
【0103】
EPMAのX線マッピングより、実施例3と同様に、Ti、V、Fe、Al、CuのそれぞれのEPMAカウントと平均濃度から補正係数を求め、各成分の濃度分布を求めた。その結果を表10に示す。
【0104】
[比較例5](Ti−10V−2Fe−3Al合金粉、銅粉添加なし)
実施例4で製造したTi−10V−2Fe−3Al合金粉に銅粉を添加せずに、軟鋼製カプセルに封入し、熱間押出加工した。押出条件は実施例4と同じにした。押出材の組織観察、引張り試験、硬さ測定を行った。その結果を表9に示す。
【0105】
[実施例5](Ti−15V−3Al−3Cr−3Sn合金粉に5%の銅粉を添加)
Ti−15V−3Al−3Cr−3Sn合金インゴットの切削切粉を水素化し、Ti−15V−3Al−3Cr−3Sn合金の水素化物を製造、粉砕・篩別してD50=50μmの合金粉末を得た。この粉末に、実施例1で用いた電解銅粉を5%添加して、Ti−15V−3Al−3Cr−3Sn合金粉と電解銅粉からなる混合粉末を得た。この混合粉末を軟鋼製カプセルに封入し、熱間押出加工した。押出は 750℃に2時間加熱した後に実施した。押出材の組織観察、引張り試験、硬さ測定、EPMA観察を行った。結晶粒径、降伏強さ、引張り強さ、伸び、硬さを表9に示す。
【0106】
EPMAのX線マッピングより、実施例3と同様に、Ti、V、Al、Cr、Sn、CuのそれぞれのEPMAカウントと平均濃度から補正係数を求め、各成分の濃度分布を求めた。その結果を表11に示す。
【0107】
[比較例6](Ti−15V−3Al−3Cr−3Sn合金粉、銅粉添加なし)
実施例5で製造したTi−15V−3Al−3Cr−3Sn合金粉にCu粉を添加せずに、軟鋼製カプセルに封入し、熱間押出加工した。押出条件は実施例5と同じにした。押出材の組織観察、引張り試験、硬さ測定を行った。その結果を表9に示す。
【0108】
[実施例6](Ti−4.5Al−3V−2Fe−2Mo合金粉に5%銅粉添加)
Ti−4.5Al−3V−2Fe−2Mon合金インゴットの切削切粉を水素化し、Ti−4.5Al−3V−2Fe−2Mo合金の水素化物を製造、粉砕・篩別してD50=50μmの合金粉末を得た。この粉末に、実施例1で用いた電解銅粉を5%添加して、Ti−4.5Al−3V−2Fe−2Mo合金粉と電解銅粉からなる混合粉末を得た。この混合粉末を軟鋼製カプセルに封入し、熱間押出加工した。押出は 880℃に2時間加熱した後に実施した。押出材の組織観察、引張り試験、硬さ測定、EPMA観察を行った。結晶粒径、降伏強さ、引張り強さ、伸び、硬さを表9に示す。
【0109】
EPMAのX線マッピングより、実施例3と同様に、Ti、Al、V、Fe、Mo、CuのそれぞれのEPMAカウントと平均濃度から補正係数を求め、各成分の濃度分布を求めた。その結果を表12に示す。
【0110】
[比較例7](Ti−4.5Al−3V−2Fe−2Mo合金粉、銅粉添加なし)
実施例6で製造したTi−4.5Al−3V−2Fe−2Mo合金粉に銅粉を添加せずに、軟鋼製カプセルに封入し、熱間押出加工した。押出条件は実施例6と同じにした。押出材の組織観察、引張り試験、硬さ測定を行った。その結果を表9に示す。
【0111】
[実施例7](Ti−5Al−5V−5Mo−3Cr合金粉に5%銅粉を添加)
Ti−5Al−5V−5Mo−3Cr合金インゴットの切削切粉を水素化し、Ti−5Al−5V−5Mo−3Cr合金の水素化物を製造、粉砕・篩別してD50=50μmの合金粉末を得た。この粉末に、実施例1で用いた電解銅粉を5%添加して、Ti−5Al−5V−5Mo-3Cr合金粉と銅粉からなる混合粉末を得た。この混合粉末を軟鋼製カプセルに封入し、熱間押出加工した。押出は840℃に2時間加熱した後に実施した。押出材の組織観察、引張り試験、硬さ測定、EPMA観察を行った。結晶粒径、降伏強さ、引張り強さ、伸び、硬さを表9に示す。
【0112】
EPMAのX線マッピングより、実施例3と同様に、Ti、Al、V、Fe、Mo、CuのそれぞれのEPMAカウントと平均濃度から補正係数を求め、各成分の濃度分布を求めた。その結果を表13に示す。
【0113】
[比較例8](Ti−5Al−5V−5Mo−3Cr合金粉、銅粉添加なし)
実施例7で製造したTi−5Al−5V−5Mo−3Cr合金粉に銅粉を添加せずに、軟鋼製カプセルに封入し、熱間押出加工した。押出条件は実施例7と同じにした。押出材の組織観察、引張り試験、硬さ測定を行った。その結果を表9に示す。
【0114】
[実施例8](Ti−5Al−4V−0.6Mo-0.4
Fe合金粉に5%銅粉添加)
Ti−5Al−5V−5Mo-3
Fe合金インゴットの切削切粉を水素化し、Ti−5Al−4V−0.6Mo-0.4
Fe合金の水素化物を製造、粉砕・篩別してD50=50μmの合金粉末を得た。この粉末に、実施例1で用いた電解銅粉を5%添加して、Ti−5Al−4V−0.6Mo−0.4
Fe合金粉と銅粉からなる混合粉末を得た。この混合粉末を軟鋼製カプセルに封入し、熱間押出加工した。押出は 900℃に2時間加熱した後に実施した。押出材の組織観察、引張り試験、硬さ測定、EPMA観察を行った。結晶粒径、降伏強さ、引張り強さ、伸び、硬さを表9に示す。
【0115】
EPMAのX線マッピングより、実施例3と同様に、Ti、Al、V、Mo、
Fe、CuのそれぞれのEPMAカウントと平均濃度から補正係数を求め、各成分の濃度分布を求めた。その結果を表14に示す。
【0116】
[比較例9](Ti−5Al−4V−0.6Mo-0.4
Fe合金粉、銅粉添加なし)
実施例8で製造したTi−5Al−4V−0.6Mo-0.4
Fe合金粉に銅粉を添加せずに、軟鋼製カプセルに封入し、熱間押出加工した。押出条件は実施例8と同じにした。押出材の組織観察、引張り試験、硬さ測定を行った。その結果を表9に示す。
【0117】
【表9】
【0118】
【表10】
【0119】
【表11】
【0120】
【表12】
【0121】
【表13】
【0122】
【表14】