(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692996
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】石英ルツボ製造用モールド
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20150312BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20150312BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
C03B20/00 H
C30B15/10
C30B29/06 502B
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2009-284314(P2009-284314)
(22)【出願日】2009年12月15日
(65)【公開番号】特開2011-126726(P2011-126726A)
(43)【公開日】2011年6月30日
【審査請求日】2012年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(74)【代理人】
【識別番号】100161492
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 栄斉
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 拓麿
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 江梨子
【審査官】
後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−292553(JP,A)
【文献】
特開2008−081398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 20/00
C30B 15/10
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転しているモールド内壁に石英粉を張り付けた状態でアークにより加熱溶融して石英ルツボを製造する際に用いるモールドであり、
円筒状の直胴部と、すり鉢状の底部と、これらを連接するコーナー部とをそなえるモールドにおいて、
該モールドの円筒状直胴部の上端から少なくとも1/5の上部領域が、その領域より下のモールド下部の熱伝導率よりも20W/m・K以上小さいことを特徴とする石英ルツボ製造用モールド。
【請求項2】
高断熱構造になる前記上部領域の厚み方向の熱伝導率が120W/m・K以下であることを特徴とする請求項1記載の石英ルツボ製造用モールド。
【請求項3】
前記上部領域の全体または一部を、多孔質カーボンまたは炭素繊維複合カーボンで構成したことを特徴とする請求項1または2記載の石英ルツボ製造用モールド。
【請求項4】
前記上部領域のモールド内部に空気層を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の石英ルツボ製造用モールド。
【請求項5】
前記空気層が、水平方向のスリット状空間を垂直方向に積層した構造になることを特徴とする請求項4記載の石英ルツボ製造用モールド。
【請求項6】
前記空気層に、繊維状カーボンまたは粉状カーボンを充填したことを特徴とする請求項4または5記載の石英ルツボ製造用モールド。
【請求項7】
前記上部領域の外周にフェルトカーボンを巻き付けたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の石英ルツボ製造用モールド。
【請求項8】
前記上部領域の上方から下方にかけて断熱性に勾配を設けたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の石英ルツボ製造用モールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CZ法等の引き上げ法によってシリコン単結晶インゴットを製造する際に使用する石英ルツボの製造に用いて好適な石英ルツボ製造用モールドに関するものである。
特に、本発明は、回転モールド法によって石英ルツボを製造する場合に、モールド上部の断熱性の向上すなわち保温性の向上を図り、もってアーク加熱時におけるモールド全体の均熱化を図ることにより、使用石英粉の有利な低減ならびに製品コストの有利な低減を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの基板としてシリコンウェーハの使用が急増している。かようなシリコンウェーハは、通常、シリコン単結晶インゴットを作製後、それをスライスすることによって製造される。
【0003】
かようなシリコン単結晶インゴットは、例えばCZ法等の引き上げ法によって製造されるのが一般的である。また、シリコン単結晶の引き上げには、石英ルツボが使用される。
【0004】
石英ルツボの代表的な製造方法として回転モールド法が知られている。この回転モールド法は、回転するモールドの内壁すなわちモールドの底面と側面に石英粉を張り付け、アークで加熱溶融して石英ルツボを製造する方法である。
【0005】
ところで、最近では、シリコンウェーハの需要の急増に伴って、シリコン単結晶インゴットについても大口径のものが要求されている。
このような大口径のシリコン単結晶インゴットを引き上げ法によって製造する場合、それに用いる石英ルツボも同様に大口径のものが必要とされている。
通常、シリコン単結晶インゴットを引き上げ法によって製造するには、インゴット径の約3倍の口径の石英ルツボが必要とされる。
【0006】
ところで、上述した回転モールド法によって石英ルツボを製造する場合、石英ルツボの上部には外径が小さく、肉厚が薄い部分(以下、径小薄肉部分という)が生じるため、この径小薄肉部分は切断除去する必要がある。
その理由は、石英ルツボにSiを充填し溶かしてSi単結晶を引上げる工程で、高温に加熱するが、高温になると石英の粘度が小さくなり、石英ルツボが変形しやすくなるからである。特に、石英ルツボ上部が径小薄肉の場合、石英ルツボ上部が内側に倒れやすく、容易に変形してしまう。
このような径小薄肉部分が発生する原因は、モールド開口部は熱が逃げ易く、アーク加熱によっても石英粉が溶けにくいため、石英ルツボの上部外径が小さくなり、肉厚が薄くなるためである。
【0007】
さらに、モールドとしてカーボン製のモールドを使用した場合、通常、カーボンの熱伝導率は約140W/m・Kと大きく、保温性が良いとは言い難い。そのため、モールド開口部付近で、かつ、モールドと接触している部分の石英粉は特に溶けにくくなるため、石英ルツボの上部外径が小さくなり、肉厚が薄くなる。かような径小薄肉部分の発生は、製法上、余儀ないものとされる。
【0008】
なお、上記した径小薄肉部分のルツボ内側への倒れ込みを防止する技術として、特許文献1に、ルツボの上部域内に、好ましくはカーボン質からなるリング状部材を埋設したシリカガラスルツボが提案されている。このシリカガラスルツボの開発により、径小薄肉部分のルツボ内側への倒れ込みは軽減されたとはいえ、この技術では、やはり径小薄肉部分の発生を完全に防止することはできない。従って、このシリカガラスルツボを用いてもなお、引き上げ法により健全なシリコン単結晶インゴットを製造することは難しかった。
【0009】
そのため、回転モールド法によって石英ルツボを製造する際場合には、かような径小薄肉部分の発生を見越して、ルツボ高さが製品仕様高さよりも径小薄肉部分の分だけ高い石英ルツボを製造し、径小薄肉部分については切断除去して製品としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−96616号公報
【特許文献2】特開2002−3228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したとおり、回転モールド法によって石英ルツボを製造する場合には、径小薄肉部分の発生が避けられないので、ルツボ高さが製品仕様高さよりも径小薄肉部分の分だけ高い石英ルツボを製造し、径小薄肉部分については切断除去した後、通常の工程を経て製品(石英ルツボ)としていた。
しかしながら、前述したとおり、最近では、シリコン単結晶インゴットの大口径に伴い、石英ルツボも大口径のものが必要となってきたが、ルツボを大口径化した場合、それに伴い径小薄肉化により切断除去を余儀なくされる部分も増大するため、原料コストひいては製品コストの面で重大な問題となっている。
【0012】
例えば、外径が約457mm(18インチ)で厚みが8mmのルツボを製造する場合、切断除去高さ10mm当たり、絶対量で約0.3kgの石英粉が余分に使用されることになる。
これに対し、外径が約813mm(32インチ)という大口径の石英ルツボを製造しようとする場合、厚みはおおよそ15mmに増大し、切断除去高さ10mm当たり、絶対量で約1.0kgもの石英粉が余分に使用されることになる。
従って、大口径の石英ルツボを製造する場合、小口径の石英ルツボを製造する場合に比べると、ルツボ1個の切断除去高さ当たりの製造に使用される無駄な石英粉量は3〜4倍にも膨れ上がる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、モールド上部の断熱性(保温性)を向上させて、アーク加熱時の均熱性および熱効率を向上させることにより、石英ルツボ上部の径小薄肉化により切断除去を余儀なくされる部分を減少でき、ひいては原料コストを効果的に低減することができる石英ルツボ製造用モールドを提案することを目的とする。
【0014】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.回転しているモールド内壁に石英粉を張り付けた状態でアークにより加熱溶融して石英ルツボを製造する際に用いるモールドであり、
円筒状の直胴部と、すり鉢状の底部と、これらを連接するコーナー部とをそなえるモールドにおいて、該モールドの円筒状直胴部の上端から少なくとも1/5の上部領域
が、その領域より下のモールド下部の熱伝導率よりも20W/m・K以上小さいことを特徴とする石英ルツボ製造用モールド。
【0015】
2.高断熱構造になる前記上部領域の厚み方向の熱伝導率が120 W/m・K以下であることを特徴とする前記1記載の石英ルツボ製造用モールド。
【0016】
3.前記上部領域の全体または一部を、多孔質カーボンまたは炭素繊維複合カーボンで構成したことを特徴とする前記1または2記載の石英ルツボ製造用モールド。
【0017】
4.前記上部領域のモールド内部に空気層を設けたことを特徴とする前記1または2記載の石英ルツボ製造用モールド。
【0018】
5.前記空気層が、水平方向のスリット状空間を垂直方向に積層した構造になることを特徴とする前記4記載の石英ルツボ製造用モールド。
【0019】
6.前記空気層に、繊維状カーボンまたは粉状カーボンを充填したことを特徴とする前記4または5記載の石英ルツボ製造用モールド。
【0020】
7.前記上部領域の外周にフェルトカーボンを巻き付けたことを特徴とする前記1乃至6のいずれかに記載の石英ルツボ製造用モールド。
【0021】
8.前記上部領域の上方から下方にかけて断熱性に勾配を設けたことを特徴とする前記1乃至7のいずれかに記載の石英ルツボ製造用モールド。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来に比べ、モールド上部の断熱性(保温性)を向上させて、アーク加熱時の均熱性、熱効率を向上させることにより、径小薄肉化により切断除去される部分を減少させることができ、その結果原料コスト、使用電力ひいては製品コストを低減することができる。さらに、本発明によれば、保温性が向上するので、壁部の肉厚が従来に比べてより厚い石英ルツボの製造が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】回転モールド法による石英ルツボの製造要領を示す断面図である。
【
図2】一般的なモールドを用いて製造された石英ルツボの断面図である。
【
図3】本発明に従う石英ルツボ製造用モールドの好適例を示す断面図である。
【
図4】アーク加熱時における石英粉表面からモールド外表面までの温度変移を示した図である。
【
図5】モールドの上部領域に高断熱素材を埋設した状態を示す断面図である。
【
図6】モールドの上部領域に空気層(垂直方向)を設けた状態を示す断面図である。
【
図7】モールドの上部領域に空気層(水平方向)を設けた状態を示す断面図である。
【
図8】モールドの上部領域に設けた空気層に充填材を充填した状態を示す断面図である。
【
図9】モールドの上部領域の外周にフェルトカーボンを巻き付けた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体的に説明する。
図1に、回転モールド法による石英ルツボの一般的な製造要領を模式で示す。図中、符号1はモールド、2は通気配管、3はアーク電極、そして4がモールドの内壁に張り付けられた石英粉である。また、モールド1は、図示したとおり、円筒状の直胴部Aとすり鉢状の底部Bとこれらを連接するコーナー部Cとからなっている。
回転モールド法では、回転するモールド1の内壁に張り付けられた石英粉4をアークにより加熱溶融してガラス化し、ルツボの形状に成形することができる。
【0025】
図2に、従来の一般的なモールドを用いて石英ガラスルツボを製造したときの、ルツボ5の断面形状を示す。
同図に示したとおり、石英ガラスルツボ5の上部外径は小さくなり、またルツボ壁部の肉厚も薄くなって、径小薄肉部分6が発生する。
ちなみに、外径:約813mm(32インチ)、厚み:15mmのルツボを製造する場合に発生する径小薄肉部分の高さは30〜100mm程度である。
【0026】
そこで、本発明では、
図3に示すように、モールド上部の断熱性(保温性)を向上させ、ひいてはアーク加熱時におけるモールド全体の均熱化を図ることによって、上記の問題の解決を図るのである。
本発明は、石英ルツボの製造に際し、不可避的にルツボの上部外径が小さくなり、ルツボ壁部の肉厚が薄くなるのであれば、その部分のモールド形状を、モールド上部の断熱性(保温性)を良くして、無駄に使用される石英粉の量を減少させることが可能になるという技術思想に立脚している。
また、本発明は、アーク加熱時の均熱性および熱効率を向上させることにより、モールド内面全体の石英粉の均一溶融および使用電力の抑制が可能になるという技術思想に立脚している。
【0027】
なお、特許文献2には、上下二分割構造になるモールドが開示されているが、このモールドは、上下でモールドの材質を変更すべく単に二分割構造にしたもので、モールド上部の保温性を工夫したり、モールド全体の均熱性を工夫したりして無駄に使用される石英粉の量を減少させることについては何ら考慮が払われておらず、本発明とは技術思想が全く異なるものである。
【0028】
図3に、本発明に従う石英ルツボ製造用モールドの好適例を断面で示す。図中、番号7が通常のカーボンモールド、そして8が断熱性(保温性)の良い高断熱素材からなる上部モールドである。
前述したとおり、石英ルツボ製造時に、ルツボ上部に径小薄肉部分が発生する原因は、モールド開口部は熱が逃げ易く、アーク加熱によっても石英粉が溶けにくいためである。また、モールドの材質である通常のカーボンの熱伝導率は約145W/m・Kと大きく、保温性が悪いこともその要因である。
そのため、モールド上部の断熱性(保温性)を向上させることによって、モールド全体の均熱性を改善し、これにより、径小薄肉部分が発生を低減するのである。
【0029】
本発明において、モールド上部をモールド下部よりも断熱性(保温性)が良い構造とすることが重要である。
すなわち、モールド全体(上部、下部とも)を高断熱構造にすると、やはりモールド全体の均熱性は改善されず、モールド下部の石英粉が溶けやすくなるため、アーク溶融の時間を短くしたり、パワーを小さくしたりする必要が生じ、所定の石英ルツボ下部の肉厚まで溶かしたときにアーク加熱を終了すると、結果として、ルツボ上部で径小薄肉部分の発生が避けられない。
【0030】
本発明において、モールド上部の高断熱構造とすべき領域は、モールドの円筒状直胴部の上端から少なくとも1/5の領域とする必要がある。
というのは、高断熱構造とするモールドの上部領域が円筒状直胴部の1/5に満たないと、モールド全体の均熱化が図れず、満足いくほどの径小薄肉部分の低減効果が得られないからである。
なお、高断熱構造とするモールドの上部領域が円筒状直胴部の4/5を超えると、モールド全体の均熱性はむしろ劣化し、しかもルツボ底部の石英粉が溶けやすくなり、アーク加熱終了後、モールドからルツボを取り出せなくなるおそれがある。
【0031】
また、本発明において、高断熱構造になるモールド上部の厚み方向の熱伝導率は、120W/m・K以下とすることが望ましい。より好ましくは、80W/m・K以下である。
というのは、モールド上部の熱伝導率が120W/m・Kより大きいと通常カーボンとの熱伝導率の差が小さいため、断熱性(保温性)の改善効果がほとんどないからである。これに対し、モールド上部の熱伝導率を120W/m・K以下、より好ましくは、80W/m・K以下にすることによって、モールド全体の均熱性が良くなり、モールド上部の保温性が向上する結果、ルツボ上部の径小薄肉部分を低減することができる。
なお、モールド上部における保温効果は、熱伝導率が小さいほど大きい傾向にある。加えて、モールド全体の均熱性の観点からは、モールド上部の熱伝導率は、モールド下部の熱伝導率よりも20W/m・K以上小さくす
る。好ましくは60W/m・K以上である。
【0032】
本発明に用いる高断熱素材としては、断熱効果が高くかつ必要な強度を有するものであればいずれでもよく、特に限定はされないが、好適なものとしては、多孔質カーボンや炭素繊維複合カーボン等が挙げられる。モールドの上部領域を、これら多孔質カーボンや炭素繊維複合カーボンで構成することにより、モールドの上部の断熱性(保温性)が向上し、その結果モールド全体の均熱性が向上するのである。
【0033】
図4を参照して、本発明により径小薄肉部分の生成が低減する理由について説明する。図は、モールドとして通常のカーボンを用いた場合のアーク加熱時における石英粉表面からモールド外表面までの温度変移を示したもので、図中、qはアーク熱源からの熱流束(W/m
2)、T
1は石英粉内表面の温度(℃)、T
2は石英粉とカーボンの接触面の温度(℃)、T
3はカーボン外表面の温度(℃)であり、λ
Aは石英粉の熱伝導率(W/m・K)、λ
Bはカーボンの熱伝導率(W/m・K)、L
Aは石英粉の厚み(m)、L
Bはカーボンの厚み(m)、そしてα
cは空気の熱伝達率(W/m
2・K)である。
ここで、T
2が、石英粉が溶ける最低温度と仮定する。
さて、本発明に従い、通常のカーボンに代えて断熱性の高いカーボン例えば多孔質カーボンを用いると、より好適に伝達された熱を断熱するため、石英粉とカーボンの接触温度がT
2からT
2′に上昇してカーボン内の温度勾配が大きくなる、また、それに伴って石英粉内表面温度もT
1からT
1′に上昇する。
上述したとおり、本発明に従い、モールドの上部領域に断熱性の高いカーボンを用いると、従来、石英粉とカーボンの接触面の温度がT
2であった位置では接触温度が(T
2′−T
2)だけ上昇し、石英粉が溶ける最低温度T
2となる位置は、従来接触面の温度がT
2であった位置よりも上方に位置するようになるので、その分、径小薄肉部分の生成を低減することができるのである。
また、本発明によれば、保温性の向上に伴い、壁部の肉厚が従来に比べてより厚い石英ルツボの製造が容易になる。
【0034】
ところで、熱伝導率が小さい材質の中には、強度が小さいものや消耗しやすいものもある。このような材質のものを用いる場合には、強度や消耗の影響を小さくするために、部分的に使用することもできる。
例えば、
図5に示すように、熱伝導率が小さい材質をモールドの上部領域の内部に埋設するようにすれば、強度や摩耗の影響を小さくした上で熱伝導率の小さい材質を有利に活用することができる。かような埋設材9としては、フェルトカーボン等が有利に適合する。
【0035】
また、本発明では、
図6に示すように、モールドの上部領域に空気層10を設けることによっても、モールドの上部領域を高断熱構造とすることができる。乾燥空気の熱伝導率は0.024W/m・Kと小さいので、極めて良好な断熱性(保温性)を得ることができる。
かような空気層を設けるに際し、その形成のし易さからは、
図6に示したように、モールド垂直方向の空間構造とすることが有利である。
しかしながら、かかる空気層の形成に際しては、高温空気の対流がしないように、
図7に示すように水平方向のスリット状空気層11を垂直方向に積層した構造とすることもでき、かかる水平方向のスリット状空間構造とすることにより、空気の対流が低減されて、より効率的に断熱(保温)効果を高めることができる。
なお、
図8に示すように、空気層内の空気が動き難くなるように、空気層内に充填材12として繊維状カーボンや粉末カーボンを充填する構造としても良い。
【0036】
さらに、本発明では、
図9に示すように、モールド上部の外周にフェルトカーボン13を巻き付けて、断熱性(保温性)を高める構造とすることもできる。この方法では、新たにモールドを造る必要がなく、既存のモールドの上部領域にフェルトカーボンを巻き付けるだけでよく、またフェルトカーボンが消耗したら、安価に交換できるという利点もある。
【0037】
また、本発明では、上部領域の上方から下方にかけて断熱性に勾配をもたせることも有利である。かような構造とすることにより、モールド全体の均熱性を一層向上させることができる。
かような勾配を付けるには、例えば、前掲
図7に示した水平方向のスリット状空気層11を垂直方向に積層する構造において、上方に行くほど(開口部に近づくほど)スリット状空気層の幅を大きくしてやればよい。
その他、モールドの上部領域を2段構造とし、下段を熱伝導性の小さい多孔質カーボンで構成し、上段をより熱伝導率の小さい炭素繊維複合カーボンで構成するようにすることもできる。
【0038】
表1に、本発明において好適高断熱素材として示した多孔質カーボン、炭素繊維複合カーボン、フェルトカーボンおよび乾燥空気の熱伝導率を、通常のカーボンと比較して示す。
【実施例】
【0040】
比較例1
図1に示した従来の構造のモールドを用いて、外径が810mm、厚みが15mmの32インチ石英ルツボを製造した。なお、モールド厚みは150mm、円筒状直胴部の高さは450mmである。
その結果、石英ルツボ上部に高さ100mmの径小薄肉部分が生成した。
【0041】
実施例1
図3に示した構造で、モールドの上部領域(円筒状直胴部の上端から250mmの領域)を高多孔質カーボンで構成したモールドを用いて、外径が810mm、厚みが15mmの32インチ石英ルツボを製造した。なお、このモールドの上部領域における厚み方向の熱伝導率は120 W/m・Kであった。また、この実施例1を含め、それ以降の実施例においても、モールドとしては、モールド厚みは150mm、円筒状直胴部の高さが450mmのモールドを用いた。
その結果、実施例1は、石英ルツボ上部における径小薄肉部分の生成高さを90mmに低減することができ、比較例1と比較して保温性が10%向上することが確認された。
【0042】
実施例2
図3に示した構造で、モールドの上部領域(円筒状直胴部の上端から250mmの領域)を炭素繊維複合カーボンにしたモールドを用いて、外径が810mm、厚みが15mmの32インチ石英ルツボを製造した。なお、このモールドの上部領域における厚み方向の熱伝導率は20 W/m・Kであった。
その結果、実施例2は、石英ルツボ上部における径小薄肉部分の生成高さを50mmに低減することができ、保温性が比較例1と比較して50%向上することが確認された。
【0043】
実施例3
図5に示した構造で、150mmのモールド厚みの中央部50mmの幅で円筒状直胴部の上端から250mmのモールドの上部領域に炭素繊維複合カーボンを埋設したモールドを用いて、外径が810mm、厚みが15mmの32インチ石英ルツボを製造した。なお、このモールドの上部領域における厚み方向の熱伝導率は約100W/m・Kであった。
その結果、実施例3は、石英ルツボ上部における径小薄肉部分の生成高さを80mmに低減することができ、保温性が比較例1と比較して20%向上することが確認された。
【0044】
実施例4
図6に示した構造で、150mmのモールド厚みの中央部40mmの幅で円筒状直胴部の上端から200mmのモールドの上部領域(但し、ルツボの上端は閉塞してある)に空気層を設けたモールドを用いて、外径が810mm、厚みが15mmの32インチ石英ルツボを製造した。なお、このモールドの上部領域における厚み方向の熱伝導率は約100W/m・Kであった。
その結果、実施例4は、石英ルツボ上部における径小薄肉部分の生成高さを80mmに低減することができ、保温性が比較例1と比較して20%向上することが確認された。
【0045】
実施例5
実施例4で用いたモールドの上部領域における空気層に充填材として繊維状カーボンを充填した
図8に示したモールドを用いて、外径が810mm、厚みが15mmの32インチ石英ルツボを製造した。なお、このモールドの上部領域における厚み方向の熱伝導率は約100W/m・Kであった。
その結果、実施例5は、石英ルツボ上部における径小薄肉部分の生成高さを80mmに低減することができ、保温性が比較例1と比較して20%向上することが確認された。
【0046】
実施例6
図7に示した構造で、円筒状直胴部の上端から300mmのモールドの上部領域に、スリット幅が10mm、スリット長さが90mm、60mm、30mmの3種類のスリット状空気層を、スリット長さが長い順に上からそれぞれ3層づつ垂直方向に積層した構造のモールドを用いて、外径が810mm、厚みが15mmの32インチ石英ルツボを製造した。なお、このモールドの上部領域における厚み方向の熱伝導率は、空気層のスリット長さが長い順にそれぞれの領域で約60W/m・K、約90W/m・K、約120W/m・K、であった。
その結果、実施例6は、石英ルツボ上部における径小薄肉部分の生成高さを70mmに低減することができ、保温性が比較例1と比較して30%向上することが確認された。
【0047】
実施例7
図9に示した構造で、円筒状直胴部の上端から250mmのモールドの上部領域を厚みが30mmのフェルトカーボンで巻いたモールドを用いて、外径が810mm、厚みが15mmの32インチ石英ルツボを製造した。なお、このモールドの上部領域における厚み方向の熱伝導率は約120W/m・Kであった。
その結果、実施例7は、石英ルツボ上部における径小薄肉部分の生成高さを90mmに低減することができ、保温性が比較例1と比較して10%向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、熱伝導率の小さいカーボンをモールド上部に使用し、モールド上部の断熱性(保温性)を向上させることによって、石英ルツボ上部における径小薄肉部分の生成を低減することができ、特に、本発明を口径が大きいルツボに適用した場合に、より大きな効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 モールド
2 通気配管
3 アーク電極
4 石英粉
5 ルツボ
6 径小薄肉部分
7 モールド下部(通常カーボン)
8 モールド上部(保温性良い部分)
9 埋設材
10 空気層
11 スリット状空気層
12 充填材
13 フェルトカーボン