(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来のレジンボンド砥石(切断用ブレード)においては、ブレード本体が弾性を有している(つまり弾性率が低い)ために、被切断材に切り込まれにくく、また自生発刃作用が十分とはいえず、切断抵抗が高くなりやすかった。またこれにより、被切断材のチッピング等が大きくなりやすく、切断速度を高めることができなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ブレード本体にレジンボンド相を用いつつも、弾性率が高められて被切断材に切り込みやすくされ、かつ、自生発刃作用が十分に促されて、切断抵抗を低減できるとともに加工品位が向上され、より切断速度を高めることができる切断用ブレードの製造方法及び切断用ブレードを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の発明者は、このような切断用ブレードについて鋭意研究を重ねた結果、ブレード本体に所定の温度範囲・保持時間による熱処理を施すことによって、このブレード本体の弾性率が高められて切れ味が増し、かつ、該ブレード本体が適度に脆くなって自生発刃作用が促されるという知見を得るに至った。
【0008】
本発明に係る切断用ブレードの製造方法は、このような知見に基づいてなされたものであり、フェノール樹脂を主成分とするレジンボンド相に砥粒が分散されて保持された円形薄板状のブレード本体を、
350〜500℃の温度範囲で1〜10時間保持して熱処理することを特徴としている。
【0009】
本発明の切断用ブレードの製造方法では、フェノール樹脂を主成分とするレジンボンド相に砥粒が分散保持されたブレード本体に対して、前述の温度範囲・保持時間による熱処理を施すことで、該ブレード本体の弾性を抑えるとともに弾性率を高めている。
このような熱処理が施されたブレード本体は、被切断材に接触する切れ刃部分の砥粒がレジンボンド相内に弾性により押し戻されるようなことが抑制されて、該被切断材に対して鋭く切り込まれ、切れ味が高められる。また、このブレード本体は適度に脆くもされており、砥粒はその摩耗状態に応じてレジンボンド相から脱落しやすくされて、自生発刃作用が十分に促される。
従って、このように製造された切断用ブレードは、切断抵抗が低減されるとともに加工品位が向上されて、より切断速度を高めることができるのである。
【0010】
ここで、熱処理温度が250℃を下回るほど低かったり、熱処理時間が1時間を下回るほど短かったりすると、前述した顕著な効果が得られるほどにはブレード本体の弾性率は高められず、また適度な脆性が得られない。
また、熱処理温度が500℃を上回るほど高かったり、熱処理時間が10時間を上回るほど長かったりすると、ブレード本体が炭化して切断中に破損するおそれや、該ブレード本体の変質(弾性率向上)に寄与することなく無駄に加熱エネルギーや時間が浪費される可能性がある。
【0011】
具体的に、従来では、レジンボンド砥石に対して例えば220℃以上の熱処理を施すことは劣化のおそれがあると考えられ、当業者は行わなかった。一方、本発明の発明者は、鋭意研究を重ねることにより、当業者が容易には想到し得ない所定の熱処理を積極的に取り入れることで、前述の顕著な効果が得られることを見出したのである
。
【0012】
また、本発明の切断用ブレードの製造方法において、前記ブレード本体を、400〜500℃の温度範囲で熱処理することとしてもよい。
また、本発明の切断用ブレードの製造方法において、前記ブレード本体を、前記温度範囲で5〜10時間保持して熱処理することとしてもよい。
【0013】
この場合、熱処理後のブレード本体の弾性率が、熱処理前のブレード本体の弾性率を基準(100%)として、例えば105〜180%程度にまで確実に高められることになる。これにより、熱処理後のブレード本体は、その剛性が確保されつつも適度な脆性が得られて、前述した効果が一層確実に奏功される。
【0014】
また、本発明に係る切断用ブレードは、前述した切断用ブレードの製造方法により製造され、熱処理前の前記ブレード本体の弾性率を基準として、熱処理後の当該ブレード本体の弾性率が105%以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の切断用ブレードの製造方法及びこれにより製造された切断用ブレードによれば、ブレード本体にレジンボンド相を用いつつも、弾性率が高められて被切断材に切り込みやすくされ、かつ、自生発刃作用が十分に促されて、切断抵抗を低減できるとともに加工品位が向上され、より切断速度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る切断用ブレード10について、図面を参照して説明する。
本実施形態の切断用ブレード10は、半導体デバイス(電子材料部品)に用いられる例えば酸化アルミニウム(Al
2O
3)、炭化珪素(SiC)、石英、ガラス、水晶等の硬脆材料を被切断材とした精密切断加工に使用されるものである。具体的に、この切断用ブレード10は、例えば発振子等、強ピッチで溝加工を必要とされる分野や、切断することによって個片化する製法をとる電子材料製造分野に適している。
【0018】
図1に示されるように、切断用ブレード10は、軸線Oを中心とした円形薄板状をなし、厚さ0.05〜0.5mm程度とされたブレード本体1を有している。また、ブレード本体1の中央部には、このブレード本体1の軸線Oを中心とした円形をなし、該ブレード本体1を厚さ方向(
図2における左右方向)に貫通する取付孔4が形成されており、このためブレード本体1は、厳密には円環薄板状を呈している。
【0019】
特に図示しないが、切断用ブレード10は、ブレード本体1がフランジを介して切断装置の主軸に取り付けられて、軸線O回りに回転されつつ該軸線Oに垂直な方向に送り出されることにより、該ブレード本体1においてフランジより径方向外側に突出された外周端縁(切れ刃)で被切断材を切断する。
【0020】
図3に示されるように、ブレード本体1の切れ刃は、該ブレード本体1の厚さと等しい極小さな幅の外周面1Aと、該ブレード本体1の軸線O方向を向く両側面1Bにおける外周縁部と、外周面1A及び側面1Bの交差稜線部分であるエッジ部とによって形成されている。
【0021】
そして、ブレード本体1は、フェノール樹脂を主成分とするレジンボンド相2と、該レジンボンド相2に分散されて保持された砥粒3とを備えている。砥粒3は、ダイヤモンド砥粒及びcBN砥粒の少なくともいずれかからなり、レジンボンド相2において複数の砥粒3同士は、互いの間隔が均一となるように分散されている。尚、特に図示しないが、ブレード本体1のレジンボンド相2には、さらにWC(炭化タングステン)等からなるフィラーが分散されている。
【0022】
次に、本実施形態の切断用ブレード10の製造方法について説明する。
この切断用ブレード10の製造方法は、レジンボンド相2素材に溶媒、砥粒3及びフィラーを混合してスラリーとするスラリー形成工程と、前記スラリーをドクターブレード法によりシート状とし、さらに円板状にくり抜いてブレード本体1素材とする成形工程と、前記ブレード本体1素材をホットプレスする圧縮工程と、圧縮工程を経たブレード本体1素材を、250〜500℃の温度範囲で1〜10時間保持して熱処理する熱処理工程と、このブレード本体1素材を所定サイズに仕上げ加工する(形状を整える)仕上げ工程とを備えている。
【0023】
[スラリー形成工程]
まず、フェノール樹脂(レジンボンド相2)素材を所定量秤量し、IPA溶媒を10ml加えてフェノール樹脂素材を溶解させる。次に、溶解させた樹脂溶液に、上述した砥粒3及び粉末状のフィラーを添加して混ぜ合わせることにより、スラリーを形成する。尚、上記樹脂溶液に、シランカップリング剤を混合してもよい。
【0024】
[成形工程]
次いで、上記スラリーを、ドクターブレード法により、例えば厚さ0.3mmのシート状に成形する。
このシートを乾燥させた後、該シートから直径70mmの円板状ブレードをくり抜くことにより、ブレード本体1素材を形成する。
【0025】
[圧縮工程]
次いで、上記ブレード本体1素材を、ホットプレスにて圧縮成型する。成型条件は、例えば、熱板200℃、180℃雰囲気で30分間、圧力10tonである。
【0026】
[熱処理工程]
次いで、上記ブレード本体1素材を、例えば電気炉(オーブン)等に収容して、250〜500℃の温度範囲で1〜10時間保持して熱処理する。この熱処理は、大気雰囲気中で行われる。
ここで、前記熱処理は、300〜500℃の温度範囲で行われることが好ましく、400〜500℃の温度範囲で行われることがより望ましい。また、5〜10時間保持して熱処理することが好ましい。
【0027】
[仕上げ工程]
こうしてブレード本体1素材を熱処理したものを、所定サイズとなるように外周部と内周部を切断あるいは研削加工することで、所望形状の切断用ブレード10を得ることができる。
尚、上述した各工程における材料の種類や名称、成形寸法、成型条件等は、本実施形態に限定されるものではない。
【0028】
このような切断用ブレード10の製造方法により製造される切断用ブレード10は、熱処理前のブレード本体1(素材)の弾性率を基準(100%)として、熱処理後の当該ブレード本体1の弾性率が105%以上とされており、好ましくは120%以上、望ましくは160%以上であって、180%以下である。
【0029】
以上説明した本実施形態の切断用ブレード10の製造方法では、フェノール樹脂を主成分とするレジンボンド相2に砥粒3が分散保持されたブレード本体1(素材)に対して、250〜500℃の温度範囲で1〜10時間保持して熱処理することで、該ブレード本体1の弾性を抑えるとともに弾性率を高めている。
このような熱処理が施されたブレード本体1は、被切断材に接触する切れ刃部分の砥粒3がレジンボンド相2内に弾性により押し戻されるようなことが抑制されて、該被切断材に対して鋭く切り込まれ、切れ味が高められる。また、このブレード本体1は適度に脆くもされており、砥粒3はその摩耗状態に応じてレジンボンド相2から脱落しやすくされて、自生発刃作用が十分に促される。
従って、このように製造された切断用ブレード10は、切断抵抗が低減されるとともに加工品位が向上されて、より切断速度を高めることができるのである。
【0030】
ここで、熱処理温度が250℃を下回るほど低かったり、熱処理時間が1時間を下回るほど短かったりすると、前述した顕著な効果が得られるほどにはブレード本体1の弾性率は高められず、また適度な脆性が得られない。
また、熱処理温度が500℃を上回るほど高かったり、熱処理時間が10時間を上回るほど長かったりすると、ブレード本体1が炭化して切断中に破損するおそれや、該ブレード本体1の変質(弾性率向上)に寄与することなく無駄に加熱エネルギーや時間が浪費される可能性がある。
【0031】
具体的に、従来では、レジンボンド砥石に対して例えば220℃以上の熱処理を施すことは劣化のおそれがあると考えられ、当業者は行わなかった。一方、本発明の発明者は、鋭意研究を重ねることにより、当業者が容易には想到し得ない所定の熱処理を積極的に取り入れることで、前述の顕著な効果が得られることを見出したのである。
尚、前述の効果をより確実に奏功するには、ブレード本体1を、300℃〜500℃の温度範囲で熱処理することが好ましい。
【0032】
また、前述の熱処理工程において、ブレード本体1を、400〜500℃の温度範囲で熱処理したり、5〜10時間保持して熱処理したりした場合には、熱処理後のブレード本体1の弾性率が、熱処理前のブレード本体1の弾性率を基準(100%)として、例えば105〜180%程度にまで確実に高められることになる。これにより、熱処理後のブレード本体1は、その剛性が確保されつつも適度な脆性が得られて、前述した効果が一層確実に奏功される。
【0033】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0034】
例えば、前述の実施形態では、ブレード本体1として、砥粒3及びフィラーが分散されたレジンボンド相2が1層設けられているが、このようなレジンボンド相2が複数積層されたブレード本体1であってもよい。
また、レジンボンド相2には、フィラーが分散されていなくても構わない。
【0035】
また、前述の実施形態では、切断用ブレード10が、被切断材として例えば酸化アルミニウム(Al
2O
3)、炭化珪素(SiC)、石英、ガラス、水晶等の硬脆材料の切断に使用されると説明したが、それ以外の電子部品材料からなる被切断材を切断することとしてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0037】
まず、熱処理工程における条件(温度・時間)と、この熱処理によるブレード本体1の弾性率との関係について、確認を行った。
具体的には、フェノール樹脂をホットプレスしてなるブレード本体1素材の帯板状サンプル品に対して、熱処理工程を施したもの(温度・時間を種々に設定)と、熱処理工程を施さないもの(つまり熱処理前のものと同じ)とを、下記表1のように用意した。そして、これらサンプル品の弾性率(単位:MPa)を、抗折試験による3点曲げで測定した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示されるように、熱処理を施さないもの(弾性率:2546MPa)に対して、250〜500℃の温度範囲で1〜10時間保持して熱処理を施したものは、弾性率がすべて高くなっていた。中でも、5〜10時間保持して熱処理したものは、熱処理していないものを基準(100%)として、弾性率がすべて105%以上となっていた。さらに、400〜500℃の温度範囲で熱処理したものは、熱処理していないものを基準として、弾性率がすべて120%以上となっており、そのうち、5時間・10時間保持したものについては、弾性率が160%以上であった。尚、温度が550℃のものは、ブレード本体1が炭化して測定不可であった。
以上のことから、ブレード本体1に本発明の温度範囲・保持時間とされた熱処理を施すことによって、弾性率が高められることが確認された。
【0040】
次に、熱処理工程における条件(温度・時間)と、チッピング量及び角欠けとの関係について、確認を行った。
具体的には、前述した切断用ブレードの製造方法により、ブレード組成(体積%)がフェノール樹脂:61.25%、ダイヤモンド砥粒:12.5%、WCフィラー:26.25%とされた切断用ブレードを複数作製し、これら切断用ブレードのうち、熱処理を施したものと、熱処理を施さないものとを用意した。尚、熱処理を施したものに関しては、温度を下記表2のように設定し、保持時間はすべて5時間とした。
【0041】
また切断条件については、使用ダイサー:A−WD10A(株式会社東京精密製)、使用ワーク(被切断材):アルミナ96%、スピンドル(主軸)回転数:21000rpm、送り速度:5mm/sとした。そして、切断して得られたチップにおける最大チッピング量と角欠けの有無について確認した。尚、上記最大チッピング量とは、切断加工によって、チップ内へ向けて意図せずカーフ端面から切り欠かれたチッピングのうち、最も大きいものの切り欠き量(深さ)を差し、上記角欠けの有無とは、矩形状に切り欠かれたチップにおける四隅のいずれか1つ以上に、折損(欠け)が有るか否かを差す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示されるように、熱処理を施したものは、熱処理を施さないものに比べて、最大チッピング量がすべて低減され、また角欠けも確認されなかった。尚、550℃の温度で熱処理したものは、ブレード本体1が破損して測定不可であった。
以上のことから、ブレード本体1に本発明の温度範囲・保持時間とされた熱処理を施すことによって、切断の加工品位が向上することが確認された。