特許第5693697号(P5693697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5693697ワイヤソーで加工物を複数のウェハに切断するための、中断されたプロセスを再開するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5693697
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】ワイヤソーで加工物を複数のウェハに切断するための、中断されたプロセスを再開するための方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20150312BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20150312BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20150312BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   B24B27/06 S
   B24B27/06 H
   B24D11/00 G
   B28D5/04 C
   H01L21/304 611W
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-246223(P2013-246223)
(22)【出願日】2013年11月28日
(65)【公開番号】特開2014-104580(P2014-104580A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2014年1月21日
(31)【優先権主張番号】10 2012 221 904.8
(32)【優先日】2012年11月29日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599119503
【氏名又は名称】ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・ビースナー
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−223862(JP,A)
【文献】 特開平10−6202(JP,A)
【文献】 特開2006−297847(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101015943(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B24D 11/00
B28D 5/04
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤソーで加工物5を複数のウェハに切断するための、中断されたプロセスを再開するための方法であって、平行に配置された多くのワイヤセクションからなるワイヤウェブ4にわたるソーイングワイヤ3を含み、前記ソーイングワイヤ3は、前進運動で供給スプール1aから解かれ、少なくとも1つの回転可能な偏向プーリ2を越えて前記ワイヤウェブ4に案内され、再び少なくとも1つのさらなる回転可能な偏向プーリ2を介して前記ワイヤウェブ4を出て、巻取スプール1bに巻きつけられ、中断前、前記ソーイングワイヤ3は、規定された時間間隔で、前方に長さL1で、および後方に長さL2で、交互に移動され、
前記中断されたプロセスを再開するために、前記ワイヤウェブ4は、前記ソーイングワイヤ3の液体状の切断用媒体が加えられる状態で、前記ワイヤウェブ4または前記加工物5がワイヤによる切断プロセスの中断の位置に達するまで、前進運動で、前記ソーイングワイヤ3の第1の速度v1で、前記加工物5の存在する切断挽き目に侵入し、前記ソーイングワイヤ3は停止し、前記切断プロセスを再開するとき、前記ワイヤ3は、規定された時間間隔で、速度vで長さL3だけ前方に、および速度v’で長さL4だけ後方に、交互に移動され、L4はL3未満であり、前進運動および後退運動はサイクルZに対応し、各前進運動中、1つおきの前進運動中、または任意の数の前進運動の後、前記前進運動中に解かれる前記ワイヤ長さL3は、前記中断前の前記前進運動の前記ワイヤ長さL1に対応するまで増大される、方法。
【請求項2】
前記長さL3は、前記中断前の前記長さL1に等しくなるまで、各サイクルZで、1つおきのサイクルZで、または任意の数のサイクルZ後に、線形または非線形で増大される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記長さL4は前記長さL2と等しい、請求項1および請求項2の1つに記載の方法。
【請求項4】
前記長さL4は前記長さL2より短く、前記長さL4は、前記長さL2に等しくなるまで、各サイクルZで、1つおきのサイクルZで、または任意の数のサイクルZ後に、線形または非線形で増大される、請求項1および請求項2の1つに記載の方法。
【請求項5】
前記長さL3は、前記中断前の前記長さL1に等しくなるまで、各サイクルZで、1つおきのサイクルZで、または任意の数のサイクルZ後に、1%〜40%増大する、請求項1および請求項2の1つに記載の方法。
【請求項6】
第1のサイクルにおける前記長さL3は、前記長さL1の5%〜90%に対応する、請求項1〜請求項5の1つに記載の方法。
【請求項7】
前記ワイヤが前進移動される前記速度vは、前記ワイヤが後退移動される前記速度v’と等しい、請求項1〜請求項6の1つに記載の方法。
【請求項8】
前記ワイヤが前進移動される前記速度vは、前記ワイヤが後退移動される前記速度v’と等しくない、請求項1〜請求項6の1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイヤソーで加工物を複数のウェハに切断するための、中断されたプロセスを再開するための方法に関する。この発明に従う方法は、半導体材料からなる加工物をワイヤソーで複数のウェハに切断するためのプロセスの例を参照してここに説明されるが、それは他の材料からなる加工物に対しても好適である。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス、マイクロエレクトロニクスおよびマイクロエレクトロメカニクスにおいては、全体的および局所的な平坦性、片側参照局所平坦性(ナノトポロジ)、粗さ、および清浄さに対する極端な要件をともなう半導体ウェハが、出発原料(基板)として必要である。半導体ウェハは、半導体材料、特に、ガリウムひ素のような化合物半導体、ならびにシリコンおよび時としてゲルマニウムのような主に元素状態の半導体からなるウェハである。
【0003】
先行技術に従うと、半導体ウェハは複数の連続するプロセスステップで製造され、第1のステップにおいては、例えば、半導体材料からなる単結晶(ロッド)が、チョクラルスキ法によって引上げられるか、または、半導体材料からなる多結晶のブロックが成形され、そして、さらなるステップにおいては、半導体材料からなる、結果として得られた円柱形またはブロック状の加工物(インゴット)が、ワイヤソーによる切断によって個々の半導体ウェハに切断される。
【0004】
ワイヤソーは、半導体材料から形成された加工物から複数のウェハをカットするために用いられる。DE 195 17 107 C2およびUS−5,771,876は、半導体ウェハの製造に好適なワイヤソーの機能的な原理について記載する。これらのワイヤソーの本質的な構成要素は、マシンフレームと、送り装置と、平行なワイヤセクションからなるウェブ(「ワイヤウェブ」)からなる切断工具とを含む。ワイヤウェブにおけるワイヤの間隔は、切断されるウェハの所望の目標厚みに依存し、半導体材料ウェハについては、例えば100〜1000μmである。
【0005】
DE 101 47 634 B4は、半導体材料からなるウェハを単結晶から切断する方法について記載し、単結晶は、半導体ウェハの切断中、長手方向軸のまわりを回転し、その一方でワイヤソーの2つのワイヤウェブのソーイングワイヤを貫通し、半導体材料からなる切断されたウェハは、平行な回転対称的な湾曲した側部を有する。
【0006】
一般に、ワイヤウェブは、少なくとも2つのワイヤガイドローラ間において張力をかけられる複数の平行なワイヤセクションから形成され、ワイヤガイドローラは回転可能に取付けられ、それらの少なくとも1つは従動ローラである。
【0007】
ワイヤセクションは、ローラのシステムのまわりに螺旋状に案内され、ストックスプールからレシーバスプール上に解かれる、単一の有限のワイヤに属してもよい。特許明細書US4,655,191は、対照的に、複数の有限のワイヤが設けられ、ワイヤウェブの各ワイヤセクションはこれらのワイヤの1つに割当てられる、ワイヤソーを開示する。EP 522 542 A1も、複数の無端ワイヤループがワイヤガイドローラのシステムのまわりを走るワイヤソーを開示する。
【0008】
切断プロセス中、加工物は、ソーイングワイヤが互いと平行なワイヤセクションの形式で配置されるワイヤウェブを通過する。ワイヤウェブの通過は、加工物をワイヤウェブに対して、またはワイヤウェブを加工物に対して、または加工物およびワイヤウェブを互いに対して、移動させる送り装置によって生じる。
【0009】
ワイヤウェブが加工物に切込むとき、先行技術によれば、規定された時間の間および特定の速度で、規定された長さのソーイングワイヤが前方に送られ(ワイヤ前進)、そしてさらなる規定された長さのソーイングワイヤが送り戻され(ワイヤ後退)、後退長さWBLは概して前進長さ(WFL)より短い。この切断方法は、往復運動法とも呼ばれ、例えばDE 39 40 691 A1およびUS2010 1630 10 A2に開示される。
【0010】
EP 1 717 001 B1は、ワイヤソーで加工物を切断するとき、前進運動および後退運動が行われ、後退運動(WBL)中のワイヤの長さは、前進運動(WFL)中のワイヤの長さより短いことを教示する。
【0011】
DE 11 2008 003 321 T5は、切断された加工物からのワイヤウェブの除去に関して、それぞれ、前進方向および後退方向それぞれにおける1m以下のワイヤ走行長さ、および2m/分以下のワイヤ走行速度を開示する。
【0012】
加工物は液体状の切断用媒体の存在下においてワイヤソーで多数のウェハに切断されるが、切断用媒体は、とりわけ、切断挽き目からソーイングワイヤによって剥離された材料を運ぶように用いられ、先行技術によると、それはソーイングワイヤ上に適用される。
【0013】
ソーイングワイヤが、研摩材コーティング、例えばダイヤモンドで覆われている場合、自由な研摩材のない切断用媒体が概して用いられる。固定的に接合された研摩材なしでソーイングワイヤを含むワイヤソーを用いるとき、研摩材は切断プロセス中において懸濁剤(切断用媒体懸濁剤、切断用スラリー、スラリー)の形態で供給される。
【0014】
半導体材料から形成された加工物からウェハを切断するとき、従来は、加工物は、ソーイングワイヤがプロセスの終わりで切込む切断細長片に接続される。切断細長片は例えばグラファイト細長片であり、それは、加工物の横方向面上に粘着的に接着または接合される。次いで、切断細長片をともなう加工物は、支持体に接合される。切断後、結果として得られた半導体ウェハは、櫛の歯のように切断細長片上に固定されたままであり、したがってワイヤソーから除去することが可能である。その後、残りの切断細長片は、半導体ウェハから分離される。
【0015】
半導体材料から形成された加工物、例えば単結晶の円柱形ロッドまたは直方体の多結晶ブロックからの半導体ウェハの製造は、ワイヤによる切断に対して大きな要求がある。切断プロセスの目的は、一般的に、各切断された半導体ウェハが、可能な限り平面で、互いに平行な側面を有することである。
【0016】
理想的なウェハ形状からの偏差は、とりわけ、反りおよび湾曲パラメータによって記載される。
【0017】
いわゆるウェハの反りは、所望の理想形状からの実際のウェハ形状の偏差の、公知の尺度である。反りは、概して、総計で大きくとも数マイクロメートル(μm)になるはずである。
【0018】
湾曲は、ウェハの凸状または凹状変形の尺度であり、一般に、大きくとも数マイクロメートル(μm)になるはずである。
【0019】
ウェハの反りおよび湾曲は、本質的に、加工物に対するソーイングワイヤセクションの相対的運動によって引起こされ、それは、切断プロセスの間において加工物に関して軸方向において起こる。この相対的運動は、例えば、熱膨張、軸受の遊び、または加工物の熱膨張によるワイヤガイドローラの切断中の軸方向変位中に生じる切断力の結果であり得る。
【0020】
米国出願US2010/0089377A1は、ウェハの反りおよび湾曲が低減される、加工物から複数のウェハを切断するための方法を教示する。この目的のために、軸方向における加工物およびワイヤウェブの変位が、それぞれ測定され、相応して適合される。
【0021】
加工物からのウェハの切断中に、ワイヤウェブにおけるソーイングワイヤの強い機械的および熱的負荷が生じ、それによって、ワイヤによる切断プロセスが、ワイヤ破損(ワイヤ破砕)のため、計画外の中断に至り得る。
【0022】
ワイヤウェブによって加工物を複数のウェハに切断する際にワイヤ破損を回避するために、公開明細書DE 10 2011 008 397 A1は、ソーイングワイヤにかけられる過度に大きい引張り応力を回避することができるように、偏向プーリの静止軸上にトルク検出装置を適用すること教示する。
【0023】
ワイヤ破損の場合には、切断プロセスは、ワイヤソーおよび切断されるべき材料に対する損傷を回避するために、可能な限り速やかに中断されなければならない。
【0024】
ワイヤ破損を直ちに識別することができるように、および可能な限り短い時間内にワイヤソープロセスを停止することができるように、WO 2011/151022 A1は、ワイヤウェブによって加工物を切断するときにワイヤ破損を監視する方法であって、直流をワイヤウェブに流して、ワイヤアレイ上に電圧を発生させ、それをセンサによって監視する方法を開示する。ワイヤ破損によって電圧偏差が引起こされると、切断プロセスは自動的に中断される。
【0025】
ワイヤ破損、およびワイヤソーのスイッチが切られた後、加工物およびワイヤウェブは互いから分離される。この目的のため、例えば、加工物はウェブから上方向に除去されてもよい。修理の後、加工物は、任意で切断用媒体がある状態でソーイングワイヤの小さな移動で、ワイヤウェブに再導入される。
【0026】
ワイヤによる切断プロセスの中断は可能な限り短くあるべきであり、なぜならば、加工物への切込みによって加熱されたソーイングワイヤおよびガイドロールは遮断中に冷却され、ソーイングワイヤおよびガイドロールの収縮が生じるかもしれないからである。これは、切断プロセスの再開で、ウェハ表面のナノトポグラフィが損なわれることに至るかもしれない。
【0027】
計画外の遮断での加熱されたソーイングワイヤおよびガイドロールの収縮を回避するために、公開DE 11 2009 001 747 T5は、ワイヤソーの動作を再開するための方法であって、計画外の遮断中に、加工物およびワイヤソーの関連部品(ソーイングワイヤおよびガイドロール)の熱の制御が液体状の切断用媒体によって確実にされる方法を開示する。加えて、プロセスの中断での加工物の変位に対応する、ワイヤウェブのガイドロールについての変位の大きさが、軸方向に設定される。
【0028】
しかしながら、切断プロセスの再開に関しては、公開DE 11 2009 001 747 T5の教示は、ソーイングワイヤが修理後に中断前とは異なる度合いの摩耗を少なくとも部分的に有するという事実を考慮しない。
【0029】
この理由で、ワイヤによる切断プロセスを再開するときに、深い切開(溝、窪み)が、切断されるウェハの表面に生じて、最も好ましくない場合においては、ウェハは、劣った表面トポグラフィのため、もはやさらなる処理に対して好適ではなくなるかもしれない。この問題が、この発明の目的を生じさせた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】DE 195 17 107 C2
【特許文献2】US−5,771,876
【特許文献3】DE 101 47 634 B4
【特許文献4】US4,655,191
【特許文献5】EP 522 542 A1
【特許文献6】DE 39 40 691 A1
【特許文献7】US2010 1630 10 A2
【特許文献8】EP 1 717 001 B1
【特許文献9】DE 11 2008 003 321 T5
【特許文献10】US2010/0089377A1
【特許文献11】DE 10 2011 008 397 A1
【特許文献12】WO 2011/151022 A1
【特許文献13】DE 11 2009 001 747T5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
この発明の目的は、半導体材料からなる加工物のワイヤによる切断中の計画外のプロセス中断の場合に、プロセスの再開時に半導体材料からなる切断されたウェハの表面トポグラフィに対する悪影響を回避する方法を与えることだった。
【課題を解決するための手段】
【0032】
この目的は、ワイヤソーで加工物5を複数のウェハに切断するための、中断されたプロセスを再開するための方法によって達成され、この方法は、平行に配置された多くのワイヤセクションからなるワイヤウェブ4にわたるソーイングワイヤ3を含み、ソーイングワイヤ3は、前進運動で供給スプール1aから解かれ、少なくとも1つの回転可能な偏向プーリ2を越えてワイヤウェブ4に案内され、再び少なくとも1つのさらなる回転可能な偏向プーリ2を介してワイヤウェブ4を出て、巻取スプール1bに巻きつけられ、中断前、ソーイングワイヤ3は、規定された時間間隔で、前方に長さL1で、および後方に長さL2で、交互に移動され、中断されたプロセスを再開するために、ワイヤウェブ4は、ソーイングワイヤ3の液体状の切断用媒体が加えられる状態で、ワイヤウェブ4または加工物5がワイヤによる切断プロセスの中断の位置に達するまで、前進運動で、ソーイングワイヤ3の第1の速度v1で、加工物5の存在する切断挽き目に侵入し、ソーイングワイヤ3は停止し、切断プロセスを再開するとき、ワイヤ3は、規定された時間間隔で、速度vで長さL3だけ前方に、および速度v’で長さL4だけ後方に、交互に移動され、L4はL3未満であり、前進運動および後退運動はサイクルZに対応し、各前進運動中、1つおきの前進運動中、または任意の数の前進運動の後、前進運動中に解かれるワイヤ長さL3は、中断前の前進運動のワイヤ長さL1に対応するまで増大される。
【0033】
加工物は、少なくとも2つの平行な平面(端面)および1つの側面からなる表面を有する幾何学体であり、それは平行な直線によって形成される。円柱体の場合、端面は円形の領域であり、側面は凸状である。直方柱の加工物の場合においては、側面は平面である。
【0034】
この発明は主として半導体材料からなる加工物に関するが、それは、それにもかかわらず、任意の所望の材料からなる加工物の、ワイヤソーでの切断に対しても、使用可能である。
【0035】
半導体材料からなる加工物は半導体材料からなる単結晶または結晶であり、半導体材料は通常はシリコンである。
【0036】
半導体材料からなる加工物から切断された半導体材料ウェハは、前側および後側ならびに周方向縁部を有し、さらなる処理ステップにおいて精巧にされる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1a】先行技術に従う、円柱形の加工物を切断するためのワイヤソーの構造を示す図である。
図1b】ワイヤウェブから供給されるワイヤが少なくとも1つのさらなる偏向プーリを介して巻取スプールに巻取られるのを示す図である。
図2a】往復運動法に従うワイヤによる切断プロセス中において時間tの関数としてソーイングワイヤの振動(前進および後退運動)ためのワイヤ速度v(m/s)を示す図である。
図2b】ワイヤによる切断プロセスを計画外の遮断後に再開するための、この発明に従う往復運動法におけるワイヤ振動を示す図である。
図3a】加工物から切断された半導体材料ウェハの表面のプロファイルを概略的に示す図である。
図3b】この発明に従う方法での、ワイヤによる切断プロセスの計画外の遮断後における再開から結果として生じるプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、先行技術に従う、円柱形の加工物5を切断するためのワイヤソーの構造を、非常に単純化された態様で示す。ソーイングワイヤ3は、供給スプール1aから少なくとも1つの偏向プーリ2を介してワイヤウェブ4に案内される。ワイヤウェブ4は複数のワイヤセクションからなり、それらは平行に配置され、切断プロセス中において加工物5に切込む(図1a)。ワイヤウェブ4から外へ送られたワイヤは、少なくとも1つのさらなる偏向プーリ2を介して巻取スプール1bに巻取られる(図1b)(ワイヤ前進、WF)。ソーイングワイヤ3が巻き戻されるときは(ワイヤ後退、WB)、ワイヤ前進ステップにおける巻取スプール1bは供給スプール1aになり、供給スプール1aは巻取スプール1bになる。
【0039】
図2aは、往復運動法に従うワイヤによる切断プロセス中において時間tの関数としてソーイングワイヤ3の振動(前進および後退運動)ためのワイヤ速度v(m/s)を示す図である。この場合におけるワイヤ振動のサイクルZは、時間t01における前進運動(ワイヤ前進)の開始でのソーイングワイヤの加速の、時間t03における、ワイヤの前進運動から直接続く後退運動の終わりまでの期間を含む。したがって、サイクルZは、前進運動位相(ワイヤ前進、WF)および後退運動位相(ワイヤ後退、WB)からなる。
【0040】
図2bは、ワイヤによる切断プロセスを計画外の遮断後に再開するための、この発明に従う往復運動法におけるワイヤ振動を示す図である。前進方向(WF)において供給スプール1aから解かれるワイヤ長さL3は、各サイクルにおいて、L3がL1に等しくなるまで、より長くなる。ここに例として示される実施例においては、後退方向(WB)において巻取スプール1bから巻き戻されるワイヤ長さL4は、L4がL2に等しくなるまで、各サイクルにおいて、より長くなり、ここで、L4はL3(図示せず)より短い。
【0041】
図3は、加工物5から切断された半導体材料ウェハの表面のプロファイルを概略的に示す図である。図3aにおける深い溝は、先行技術に従う、ワイヤによる切断プロセスの計画外の遮断後における再開の結果である。図3bは、この発明に従う方法での、ワイヤによる切断プロセスの計画外の遮断後における再開から結果として生じるプロファイルを示す図である。
【0042】
この発明に従う方法においては、従来のワイヤソーが用いられる。切断される加工物5は、概ね切断細長片上に固定され、それはワイヤソーにおいて取付板でクランプされる。加工物の切断はワイヤウェブ3で実行される。
【0043】
ワイヤソーのワイヤウェブ3は、少なくとも2つ(任意で3つ、4つまたはそれ以上)のワイヤガイドローラ6間で張力をかけられる複数の平行なワイヤセクションによって形成され、ワイヤガイドローラ6は回転可能に取付けられ、ワイヤガイドローラ6の少なくとも1つが駆動される。ワイヤセクションは、概して単一の有限のワイヤ3に属し、それはローラのシステムのまわりを螺旋状に案内され、供給スプール(ワイヤストックスプール)1aから巻取スプール(レシーバスプール)1b(図1a)上に解かれる。
【0044】
ワイヤウェブ4による加工物5の切断(またはそれへの切込み)は、送り装置で実行され、それは、加工物5をワイヤウェブ4に対して、またはワイヤウェブ4を加工物5に対して、または加工物5およびワイヤウェブ4を互いに対して、移動させる(切断運動)。同時に、ソーイングワイヤ3は、供給スプール1aからワイヤウェブ4を介して巻取スプール1bに巻きつけられる(図1b)。
【0045】
液体状の切断用媒体は、好ましくはノズル(図示せず)によってワイヤウェブ4のワイヤセクションに適用される。
【0046】
ワイヤウェブにおけるソーイングワイヤが固定的に接合された研摩材(例えばダイヤモンド研摩材、シリコンカーバイド)を含むワイヤソー、およびソーイングワイヤが研摩材コーティングを有しておらず、切断力が、切断プロセス中またはその前にソーイングワイヤ上に適用される、研摩材を含む切断用懸濁液によって与えられるワイヤソーの両方が、この発明に従う方法に対して好適である。
【0047】
先行技術に従うすべての液体媒体が、切断用媒体として好適である。好ましくは、グリコール、油または水がキャリア材料として用いられ、シリコンカーバイドが研摩材として用いられる。
【0048】
切断される加工物5は、端面5aがワイヤウェブ4のワイヤセクションと平行に整列される態様で、保持装置(図示せず)上に切断細長片によって固定される。切断プロセス中、送り装置は、ワイヤセクションおよび加工物5の相互に向けられた相対的運動を誘導する。この送り運動の結果として、切断用媒体が適用されるワイヤ3は、加工物5を通して材料浸食によって作用して、平行な切断挽き目を形成し、ウェハから結果として得られる櫛が形成される。
【0049】
半導体材料加工物のワイヤによる切断は、好ましくはいわゆる往復運動法(ワイヤ振動法、ピルグリムステップ運動法)に従って実行され、つまり、ソーイングワイヤは、サイクルZ(図2a)に対応する、ソーイングワイヤ3の一定の速度vでの規定された期間である加速位相とソーイングワイヤが停止するまでの減速位相とを含む前進運動位相WF1と、反対方向におけるソーイングワイヤ3の一定の速度v’での規定された期間である、反対方向における加速位相と、ソーイングワイヤが停止するまでの減速位相とを含む後退運動位相WB2とで、交互に、ワイヤウェブにおいて、好適な駆動部によって、前進および後退させられる。
【0050】
時間t01から時間tまで、ソーイングワイヤ3は、速度vに到達するまで、前進方向(WF)において加速される。ソーイングワイヤ3は、時間間隔t〜tにおいては、規定された一定の速度vで、前進移動される。期間t〜t02においては、前進速度は0m/sに低減される(図2a)。
【0051】
時間t02から、後退方向(WB)におけるソーイングワイヤ3の速度は、時間tまで速度v’に加速され、ソーイングワイヤ3の後退運動は、時間tまで一定の速度v’で起こる。期間t4〜03においては、後退速度は0m/sに低減される(図2a)。
【0052】
ソーイングワイヤの、それぞれ、速度vまたはv’は、好ましくは毎秒5〜20メートル(以下m/s)、特に好ましくは10〜15m/sである。
【0053】
ワイヤ3が時間間隔t01〜t02(=WF1)において前進方向に移動される間、ワイヤ長さL1は供給スプール1aから解かれ、対応するワイヤ長さL1が巻取スプール1bに巻きつけられる。
【0054】
期間t02〜t03(=WB2)においては、ワイヤ3は後退方向に移動され、ワイヤ長さL2が巻取スプール1bから再び解かれ、対応するワイヤ長さL2が供給スプール1a上に巻き戻され、ここで、L2<L1である。
【0055】
長さL1は好ましくは200mから500mまで、特に好ましくは300mから400mまでである。
【0056】
長さL2は、好ましくは長さL1の30%から90%に対応する。
L2がL1より短いため、各切断サイクルZで、規定された長さL(new)(L(new)=L1−L2)の新しいワイヤが、ワイヤ摩耗を最小限にするためにワイヤウェブ4に供給される。
【0057】
サイクルZ(=WF1+WB2)のための期間は、ワイヤによる切断プロセスの全体にわたって一定である。
【0058】
ワイヤ破損または別の計画外の事象、例えば電気的または機械的な故障が、ここで、ワイヤによる切断プロセスの中断に至る場合、ワイヤ駆動および切断運動からなるワイヤによる切断プロセスは自動的に終了され、ワイヤソーはワイヤ破損または他方の計画外の事象の後数秒内に、制御された態様で停止される。
【0059】
切断プロセスの終了に対する信号は、システム内部の少なくとも1つの監視装置によって自動的に引起こされる。監視装置は、例えば電気的なワイヤ破損監視または接地短絡信号からなってもよい。
【0060】
接地短絡信号は、破損したソーイングワイヤと金属表面との接触が引き金となって引起こされる。
【0061】
ワイヤ破損の場合においては、必要な場合には、破損したワイヤは、加工物から手で除去される。
【0062】
ワイヤによる切断プロセスの計画外の中断の後、加工物5はワイヤウェブ4から除去される。
【0063】
ワイヤによる切断プロセスの再開は、ソーイングワイヤ3の修理後、もしくは任意でその置換後、または別の故障の解決後に起こる。
【0064】
中断されたワイヤによる切断プロセスの再開は、加工物5において既に存在する切断挽き目へのワイヤウェブ4の導入で始まる。ソーイングワイヤは、この場合、好ましくは低速速度v1、好ましくは0.1〜0.5m/sで、「ワイヤ前進」方向において供給スプールからワイヤウェブを介して巻取スプール上に巻かれ、平行に配置されたワイヤセクションによって形成されるワイヤウェブ4は、切断用媒体の存在下で、中断時の位置に到達するまで、加工物5に再導入される。
【0065】
ワイヤウェブ4、または切断される加工物5、が中断時の位置に再び達すると、つまり、ワイヤウェブ4のワイヤセクションがそれぞれの切断挽き目の上側端部に達すると、ワイヤ導入プロセスは終了され、ソーイングワイヤの前進巻きは停止される(ワイヤ速度0m/s)。
【0066】
別の実施例では、ワイヤウェブ4または切断される加工物5が中断時の位置に再び達すると、ワイヤによる切断プロセスの再開が、ソーイングワイヤの前進巻きを停止せずに開始される。
【0067】
ワイヤによる切断プロセスの計画外の中断後の再開は、好ましくは「ワイヤ前進」方向において実行され、なぜならば、そのようにすると、ほとんど使用されていないソーイングワイヤ3が、ストックスプールからワイヤウェブ4を介して加工物5に既に存在する切断挽き目に入るからである。
【0068】
ワイヤによる切断プロセスが計画外の中断の後直ちに同じワイヤ振動、つまり計画外の中断前と同じ、L2(ワイヤ後退)に対するワイヤ長さL1(ワイヤ前進)の比で始められる場合、加工物5から切断されたウェハの表面上のソーによる切開(溝)の形成が、計画外の中断前後におけるソーイングワイヤ3の異なる摩耗度合いのために生じる。このとき、ウェハ表面におけるソーによる切開の深さは局所的に数倍深いかもしれず(図3a)、切断されたウェハの最小切断厚みを達成しないかもしれない。
【0069】
中断されたワイヤによる切断プロセスを再開するためのこの発明に従う方法では、加工物から切断されたウェハの表面における、計画外の中断前後におけるソーイングワイヤ3の異なる摩耗度合いによる、ソーによる切開の深さが最小限にされ(図3b)、それは、加工物から切断されたウェハの最小切断厚みに対して肯定的な効果がある。
【0070】
この発明に従う方法は、特別のワイヤ振動、つまり一方の方向(ワイヤ前進、WF3)においては最初は長さL1に等しくない長さL3、および他方の方向(ワイヤ後退、WB4)においては長さL2に等しいかまたは最初は長さL2に等しくない長さL4で加工物を通るソーイングワイヤの運動が特徴である。
【0071】
この発明に従う方法におけるサイクルZのワイヤ前進位相WF3では、ワイヤによる切断プロセスの再開の開始、つまり第1のサイクルにおけるワイヤ長さL3は、通常のワイヤによる切断プロセスの前進運動位相WF1のワイヤ長さL1の95%未満である。
【0072】
好ましくは、ワイヤによる切断プロセスの再開の開始におけるL3は、L1に対して5%と90%との間によって低減され、特に好ましくは、L3はL1に対して10%と70%との間によって低減される。
【0073】
このように、ワイヤによる切断プロセスの再開中の新しいワイヤの長さは、中断前におけるワイヤによる切断プロセスと比較して低減され、再開中において形成される、深い切断切開の危険性が大きく低減される(図3)。
【0074】
この発明に従う方法の第1の実施例においては、長さL3は、中断前における前進運動位相WF1の長さL1に再び達するまで、各サイクルZで一定値ずつ線形に増大される(長くされる)。好ましくは、長さL3は、長さL1に等しくなるまで、各サイクルで、長さL1の1%〜40%ずつ、特に好ましくは2%〜20%ずつ、長くされる。
【0075】
この発明に従う方法の第2の実施例においては、長さL3は、中断前における長さL1に再び達するまで、各サイクルで非線形に増大される(長くされる)。好ましくは、長さL3は、長さL1に等しくなるまで、再開後第1のサイクルにおける長さL3に対して、1%〜40%、特に2%〜20%、長くされる。
【0076】
この発明に従う方法の第3の実施例においては、長さL3は、中断前における長さL1に再び達するまで、1つおきのサイクル毎に、または他の任意のサイクル数で、線形または非線形に増大される。好ましくは、長さL3は、長さL1に等しくなるまで、再開後第1のサイクルにおける長さL3に対して、1%〜40%、特に2%〜20%、長くされる。
【0077】
中断されたワイヤによる切断プロセスを再開するためのこの発明に従う方法のサイクル数は、L3=L1(通常動作)となるサイクルまで、それぞれの実施例、および長さL3のそれぞれの延長に依存する。
【0078】
好ましくは、通常動作に到達する前のサイクル数は、少なくとも12サイクル、特に好ましくは少なくとも8サイクルである。
【0079】
前述の実施例とは独立して、この発明に従う方法においてサイクルZの後退運動位相WB4中に巻き戻されるワイヤ長さL4は、長さL2と等しくてもよく、または最初は異なってもよい。
【0080】
長さL4はL3より短いため、実施例に依って、規定された長さL(new)(L(new)=L3−L4)の新しいワイヤが、ワイヤ摩耗を最小限にするために、各切断サイクル、1つおきの切断サイクル、または別の任意のサイクル数Zで、ワイヤウェブ4に導入される。
【0081】
ワイヤ後退位相WB4におけるワイヤ長さL4が最初は長さL2とは異なる場合、長さL4は、好ましくはL3の固定された分数に対応する。この場合、長さL4は、ワイヤによる切断プロセスの中断前の長さL2に対応するまで、各切断サイクル、1つおきの切断サイクル、または任意の切断サイクル数で、多少、より大きくなる。
【0082】
例えば、L3の長さが、第1のサイクルWF3−1において150mであり、第2のサイクルWF3−2においてL3=200mである場合、ソーイングワイヤの後退巻取長さL4は、第1のサイクルWB4−1において75m、および第2のサイクルWB4−2において100mであってもよい。
【0083】
特に好ましくは、長さL4は長さL2に等しく、つまり巻き戻されるワイヤの長さは、中断された切断プロセスの再開時、および通常の切断プロセスの際の両方において、同じである。この実施例においては、巻き戻されるワイヤ長さL4は一定のままであり、一方、前進方向に巻かれるワイヤ長さL3は、L3=L1になるまで、次もしくは1つおいて次の切断サイクルにおいて、または任意の数の切断サイクル後に、より大きくなるかまたは長くされる。
【0084】
ソーイングワイヤの、それぞれ、速度vまたはv’、つまりこの発明に従う方法中に時間間隔t〜tまたはt〜tにおいてソーイングワイヤが前後に巻き付けられる速度は、好ましくは5〜20m/s、特に好ましくは10〜15m/sである。
【0085】
好ましくは、時間間隔t〜tにおいてソーイングワイヤが前進移動される速度vは、ソーイングワイヤが時間間隔t〜tにおいて後退移動される速度v’に等しい(図2a)。
【0086】
同様に好ましくは、時間間隔t〜tにおいてソーイングワイヤが前進移動される速度vは、ソーイングワイヤが時間間隔t〜tにおいて後退移動される速度v’に等しくない。
【0087】
中断された切断プロセスの再開が完了するとき、つまり、L3=L1のとき、および任意でL4=L2のとき、加工物の切断は、中断の前に設定されたワイヤ切断サイクルおよびソーイングワイヤの速度で直接継続される。
【符号の説明】
【0088】
1a 供給スプール、1b 巻取スプール、2 偏向プーリ、3 ソーイングワイヤ、4 ワイヤウェブ、5 加工物、L1,L2,L3,L4 長さ、v,v’ 速度、v1 第1の速度、Z サイクル。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b