特許第5694094号(P5694094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5694094フレキシブルプリント配線板用銅箔、銅張積層板、フレキシブルプリント配線板及び電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5694094
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】フレキシブルプリント配線板用銅箔、銅張積層板、フレキシブルプリント配線板及び電子機器
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/09 20060101AFI20150312BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20150312BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   H05K1/09 A
   C22C9/00
   C22C9/02
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-191086(P2011-191086)
(22)【出願日】2011年9月1日
(65)【公開番号】特開2013-55163(P2013-55163A)
(43)【公開日】2013年3月21日
【審査請求日】2014年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】冠 和樹
【審査官】 小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−34541(JP,A)
【文献】 特開2009−108376(JP,A)
【文献】 特開2008−106312(JP,A)
【文献】 特開2008−106313(JP,A)
【文献】 特開2007−107036(JP,A)
【文献】 特開2006−283078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/09
C22C 9/00
C22C 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔であって、
前記銅箔の板厚方向に平行な断面を観察した場合に、前記断面において、001方位を中心に10°の範囲にある結晶方位を有する部分の面積Aの割合が前記断面の観察面積の10%以上であるフレキシブルプリント配線板用銅箔。
【請求項2】
銅箔であって、
200〜350℃で30分間の熱処理が行われたとき、前記銅箔の板厚方向に平行な断面において、001方位を中心に10°の範囲にある結晶方位を有する部分の面積Aの割合が前記断面を観察した場合に、前記断面の観察面積の10%以上であるフレキシブルプリント配線板用銅箔。
【請求項3】
前記断面における前記面積Aの割合が60%以上である請求項1又は2に記載のフレキシブルプリント配線板用銅箔。
【請求項4】
ポリイミド樹脂層及び熱可塑性ポリイミド接着層で形成された厚さ10〜55μmの基材に、厚さ4〜50μmとした前記銅箔を積層して熱圧着により形成した銅張積層板に対し、180°密着曲げを1回実施して前記銅箔の曲げ部を固定し、曲げ方向と平行な方向で切断して得た前記銅箔の曲げ部の断面を観察した場合に、前記断面において、001方位を中心に10°の範囲にある結晶方位を有する部分の面積Bの割合が前記断面の観察面積の10%以上である請求項1〜3のいずれかに記載のフレキシブルプリント配線板用銅箔。
【請求項5】
前記銅箔の曲げ部の断面における前記面積Bの割合が60%以上である請求項4に記載のフレキシブルプリント配線板用銅箔。
【請求項6】
不可避的不純物としてのP、Fe、Zr、Mg、S、Ge及びTiからなる群から選択された1種又は2種以上が合計で20質量ppm以下である請求項1〜5のいずれかに記載のフレキシブルプリント配線板用銅箔。
【請求項7】
Ag、In、Au、Pd及びSnからなる群から選択された1種又は2種以上を合計で20〜500質量ppm含む請求項1〜6のいずれかに記載のフレキシブルプリント配線板用銅箔。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の銅箔を備えた銅張積層板。
【請求項9】
請求項8に記載の銅張積層板を材料としたフレキシブルプリント配線板。
【請求項10】
請求項9に記載のフレキシブルプリント配線板と、前記フレキシブルプリント配線板で電気的に接続された第1の基板及び第2の基板とを備えた電子機器。
【請求項11】
請求項9に記載のフレキシブルプリント配線板を用いた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板用銅箔、銅張積層板、フレキシブルプリント配線板及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント配線板は、曲げ、ねじり、巻き付け及び重ね等が可能な軟らかいプリント配線板であり、又、狭空間に実装可能であるため、携帯電話、コンピュータ関連製品、オーディオ・ビジュアル製品、カメラ及び自動車等の配線に使用されている。
フレキシブルプリント配線板に求められる特性としては、MIT屈曲性に代表される良好な折り曲げ性、及び、IPC屈曲性に代表される高サイクル屈曲性があり、従来、このような特性を備えた銅箔や銅−樹脂基板積層体が開発されている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−100887号公報
【特許文献2】特開2009−111203号公報
【特許文献3】特開2007−207812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フレキシブルプリント配線板は、小スペース化のために折り曲げて使用される場合があるが、近年、このような折り曲げの曲げ半径が小さくなっており、MIT屈曲性試験では評価できないほど過酷な状態で使用されている。特にタッチパネル式のスマートフォンに代表される小型機器ではタッチパネルにつながるフレキシブルプリント配線板やLEDモジュールのフレキシブルプリント配線板の折り曲げが過酷となっている。
【0005】
上述のように厳しい折り曲げ加工を施したフレキシブルプリント配線板を一度他の部品へ接続した後、やり直し等で、折り曲げ加工を元の状態に戻して、再度同様に厳しい折り曲げ加工を施すことがあるが、折り曲げ加工が厳しいと、これらを数回繰り返すだけでフレキシブルプリント配線板の銅箔が割れてしまうことがある。また、MIT屈曲性試験では数百回、数千回繰り返して曲げ加工を施しても割れない銅箔が、上述の厳しい折り曲げ加工を数回繰り返しただけで割れてしまうことがある。
【0006】
そこで、本発明は、折り曲げ加工性に優れたフレキシブルプリント配線板用銅箔、及び、それを用いた銅張積層板、フレキシブルプリント配線板及び電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、銅箔の折り曲げ加工性が、当該銅箔の断面において結晶方位が001方位を中心に10°の範囲にある面積の割合と関係があることを見出した。そして、このような知見に基づき銅箔断面において結晶方位が001方位を中心に10°の範囲にある面積の割合を制御することで、折り曲げ加工性に優れたフレキシブルプリント配線板用銅箔を提供することができることを見出した。
【0008】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、銅箔であって、前記銅箔の板厚方向に平行な断面を観察した場合に、前記断面において、001方位を中心に10°の範囲にある結晶方位を有する部分の面積Aの割合が前記断面の観察面積の10%以上であるフレキシブルプリント配線板用銅箔である。
【0009】
本発明は別の一側面において、銅箔であって、200〜350℃で30分間の熱処理が行われたとき、前記銅箔の板厚方向に平行な断面において、001方位を中心に10°の範囲にある結晶方位を有する部分の面積Aの割合が前記断面を観察した場合に、前記断面の観察面積の10%以上であるフレキシブルプリント配線板用銅箔である。
【0010】
本発明に係るフレキシブルプリント配線板用銅箔の一実施形態においては、前記断面における前記面積Aの割合が60%以上である。
【0011】
本発明に係るフレキシブルプリント配線板用銅箔の別の実施形態においては、ポリイミド樹脂層及び熱可塑性ポリイミド接着層で形成された厚さ10〜55μmの基材に、厚さ4〜50μmとした前記銅箔を積層して熱圧着により形成した銅張積層板に対し、180°密着曲げを1回実施して前記銅箔の曲げ部を固定し、曲げ方向と平行な方向で切断して得た前記銅箔の曲げ部の断面を観察した場合に、前記断面において、001方位を中心に10°の範囲にある結晶方位を有する部分の面積Bの割合が前記断面の観察面積の10%以上である。
【0012】
本発明に係るフレキシブルプリント配線板用銅箔の更に別の実施形態においては、前記銅箔の曲げ部の断面における前記面積Bの割合が60%以上である。
【0013】
本発明に係るフレキシブルプリント配線板用銅箔の更に別の実施形態においては、不可避的不純物としてのP、Fe、Zr、Mg、S、Ge及びTiからなる群から選択された1種又は2種以上が、合計で20質量ppm以下である。
【0014】
本発明に係るフレキシブルプリント配線板用銅箔の更に別の実施形態においては、Ag、In、Au、Pd及びSnからなる群から選択された1種又は2種以上を合計で20〜500質量ppm含む。
【0015】
本発明は別の一側面において、本発明に係る銅箔を備えた銅張積層板である。
【0016】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅張積層板を材料としたフレキシブルプリント配線板である。
【0017】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係るフレキシブルプリント配線板と、前記フレキシブルプリント配線板で電気的に接続された第1の基板及び第2の基板とを備えた電子機器である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、折り曲げ加工性に優れたフレキシブルプリント配線板用銅箔、及び、それを用いた銅張積層板、フレキシブルプリント配線板及び電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】180°密着曲げの態様を示す模式図である。
図2】180°密着曲げの銅張積層板の曲げ方向を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(フレキシブルプリント配線板用銅箔の構成)
フレキシブルプリント配線板用銅箔の材料としては、圧延銅箔及び電解銅箔のいずれを用いてもよいが、折り曲げ加工性が良好な圧延銅箔を用いることが好ましい。圧延銅箔としては、タフピッチ銅(JIS−H3100 C1100)や無酸素銅(JIS−H3100 C1020、JIS−H3510 C1011)が使用可能である。
本明細書において「銅箔」には銅合金箔も含まれ、「タフピッチ銅」及び「無酸素銅」で形成した銅箔には、タフピッチ銅及び無酸素銅をベースとした銅合金箔も含まれる。タフピッチ銅及び無酸素銅をベースした銅合金箔は、具体的には、Ag、In、Au、Pd及びSnからなる群から選択された1種又は2種以上を合計で20〜500質量ppm含むことが、後述の銅箔断面における結晶方位が001方位を中心に10°の範囲にある面積Aの割合を大きくする効果があるため好ましい。当該金属が合計で20質量ppm未満であれば望ましい効果が得られず、500質量ppm超であれば001方位を中心に10°の範囲の発達が小さくなりこちらも望ましい効果が得られなくなる。
【0021】
本発明に係る銅箔は、工業的に使用される銅で形成されており、99.9質量%、又は、99.99質量%の銅、及び、不可避的不純物を含んでいる。このうち、不可避的不純物としてのP、Fe、Zr、Mg、S、Ge及びTiは、微少量存在していても、銅箔の折り曲げ加工によって結晶方位が回転し易くなり、剪断帯も入り易く、折り曲げ加工性が低下するため好ましくない。このため、本発明に係る銅箔は、不可避的不純物としてのP、Fe、Zr、Mg、S、Ge及びTiからなる群から選択された1種又は2種以上を合計で20質量ppm以下に制御することが好ましい。
【0022】
本発明に係る銅箔の厚さとしては、4〜50μmが好ましく、6〜50μmがより好ましい。銅箔の厚さが4μm未満であると銅箔のハンドリングが悪くなり、50μm超であるとフレキシブル性が低下する。銅箔の厚さは、12〜35μmがより好ましい。
【0023】
本発明に係る銅箔は、結晶方位が001方位を中心に10°の範囲にある面積Aの割合が10%以上である断面を有する。銅箔は、折り曲げを数回繰り返すと結晶方位が回転する。この結晶方位の回転が亀裂発生の原因となる。結晶の001方位が銅箔の厚さ方向の断面にあり、その断面に平行な方向が曲げ方向であると結晶方位が回転し難くなり、折り曲げ加工性が向上する。また、亀裂の原因の一つである剪断帯も入り難くなり、折り曲げ加工性が向上する。本発明に係る銅箔は、001方位を中心に10°の範囲にある面積Aの割合が10%以上であるためこの折り曲げ加工性が良好となっている。断面における面積Aの割合は、より好ましくは60%以上である。結晶方位は、EBSD(Electron Back Scattering Diffraction)法により測定することができる。
【0024】
本発明に係る銅箔は、ポリイミド樹脂層及び熱可塑性ポリイミド接着層で形成された厚さ10〜55μmの基材に、厚さ6〜50μmとした銅箔を積層して熱圧着により形成した銅張積層板に対し、180°密着曲げを1回実施して前記銅箔の曲げ部を固定し、曲げ方向と平行な方向で切断して得た銅箔の曲げ部の断面において、結晶方位が001方位を中心に10°の範囲にある面積Bの割合が10%以上であってもよい。
上記180°密着曲げの態様を図1に示す。まず、状態Aに示すように、銅張積層板を折り曲げ治具により折り曲げ、状態Bのように180°折り返されるように折り曲げる。続いて、180°折り曲げた銅張積層板を状態Cに示すように戻し治具を用いて開き、状態Dに示すように曲げ部を直線状に戻す。これを1回の180°密着曲げとする。これを再度状態Aに示す折り曲げへ移行することで、2回目、3回目と繰り返すことができる。
また、上記「曲げ方向」とは、図2に示すように、銅張積層板を折り曲げていく方向を示す。
このような構成によれば、180°密着曲げを1回実施した後であっても、結晶方位が001方位を中心に10°の範囲にある面積Bの割合が10%以上であるため、良好な折り曲げ加工性を有している。また、銅箔の曲げ部の断面における前記面積Bの割合は、より好ましくは60%以上である。
【0025】
(フレキシブルプリント配線板の構成)
本発明に係るフレキシブルプリント配線板は、絶縁基板と、この絶縁基板の表面に形成された配線パターンとを備えている。絶縁基板は、フレキシブルプリント配線板に適用可能な良好な屈曲性及び折り曲げ加工性を有するものであれば特に制限を受けないが、例えば、ポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルム、ポリエチレンナフタレート等を使用することができる。絶縁基板の厚さは、12〜50μmが好ましい。厚さが12μm未満であるとハンドリングが悪くなり、50μm超であるとフレキシブル性が低下する。配線パターンは、上述のフレキシブルプリント配線板用圧延銅箔を用いて形成されている。配線パターンの形状は特に限定されず、どのようなものであってもよい。
【0026】
(フレキシブルプリント配線板用銅箔の製法)
フレキシブルプリント配線板用銅箔が圧延銅箔である場合は、以下の製造方法によって作製することができる。
まず、P、Fe、Zr、Mg、S、Ge及びTiの含有量が少ない高純度電気銅を銅原料にし、坩堝、鋳型、耐火物からの不純物を混入させないように、さらに、脱酸素処理でP、Zr、Mgを混入させないようにして、不可避的不純物としてのP、Fe、Zr、Mg、S、Ge及びTiからなる群から選択された1種又は2種以上が、合計で20質量ppm以下に制御してインゴットを作製する。このとき、Ag、In、Au、Pd及びSnからなる群から選択された1種又は2種以上が合計で20〜500質量ppmとなるように副成分を添加してインゴットを作製してもよい。
次に、このインゴットを熱間圧延後、表面研削で酸化物を除去し、冷間圧延、焼鈍、酸洗を繰り返して所定の厚さまで加工することで、フレキシブルプリント配線板用の圧延銅箔を作製する。圧延加工において、結晶方位である001方位を中心に10°の範囲の割合を厚み方向の断面に対して10%以上に制御するために、0.1mm厚以下の圧延の張力を100MPa以下とし圧延1パスの加工度を20%以下とする。さらに、圧延油の動粘度を1〜5mm2/sとし、圧延の歪速度を30〜800/sとする。
【0027】
(フレキシブルプリント配線板の製法)
フレキシブルプリント配線板は、上記銅箔を用いて製造することができる。以下に、フレキシブルプリント配線板の製造例を示す。
まず、銅箔と、良好な屈曲性及び折れ曲げ性を有するポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルム等の絶縁基板とを貼り合わせて銅張積層板を製造する。銅箔は、あらかじめ所定の表面処理を施しておいてもよい。
【0028】
貼り合わせの方法は、ポリイミドフィルムの場合、熱硬化性ポリイミドフィルムに熱可塑性のポリイミド接着剤を塗工、乾燥した後、銅箔と積層させ、熱圧着させる。圧着方法としては真空熱プレスする方法や熱ロールによってラミネートする方法がある。またポリイミドフィルムの場合、銅箔にポリイミドの前駆体を塗工、乾燥、硬化させることで銅張積層板を作製する。
【0029】
銅張積層板からフレキシブルプリント配線板を作製する工程は当業者に周知の方法を用いればよい。例えば、エッチングレジストを銅張積層板の銅箔面に配線パターンとしての必要部分だけに塗工し、エッチング液を銅箔面に噴射することで不要銅箔を除去して回路パターンを形成する。次いでエッチングレジストを剥離・除去して配線パターンを露出することで、フレキシブルプリント配線板を作製する。
【0030】
このフレキシブルプリント配線板を2つの電子基板間に設けて、それらを電気的に接続させることで、種々の電子機器を作製することができる。電子機器としては、特に限定されず、例えば、液晶ディスプレイ、カーナビゲーション、携帯電話、ゲーム機、CDプレイヤー、デジタルカメラ、テレビ、DVDプレイヤー、電子手帳、電子辞書、電卓、ビデオカメラ、プリンター等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0032】
(例1:実施例1〜22)
高純度電気銅に表1に記載の元素を添加してインゴットを作製した。また、このとき、坩堝、鋳型、耐火物からの不純物を混入させないように、さらに、脱酸素処理でP、Zr、Mgを混入させないようにすることで、不可避的不純物としてのP、Fe、Zr、Mg、S、Ge及びTiからなる群から選択された1種又は2種以上が、合計で20質量ppm以下となるように制御した。
続いて、このインゴットを熱間圧延で厚さ7mmの板に加工し、表面研削で酸化物を取り除いた後、冷間圧延、焼鈍、酸洗を繰り返し、0.1mmの圧延は全てのパスで張力を100MPa以下、加工度20%以下として表1に記載の厚さに加工した。実施例3、10は歪速度60/s、圧延油の動粘度1.5mm2/s、実施例2、4、9、12は歪速度800/s、動粘度1.5mm2/s、その他の実施例は歪速度60/s、動粘度5mm2/sで圧延した。
続いて、銅箔片面に、Cu−Niめっきの粗化処理を行い、その後Cr浸漬めっきを行った。逆面にはクロメート処理を行った。
続いて、カプトンEN(登録商標)に熱可塑性PI接着剤を2μm塗工、乾燥して形成した27μm厚の樹脂層を銅箔に積層させて真空熱プレス(200〜350℃で30分間加熱)によって銅張積層板を作製した。
【0033】
(例2:比較例1〜2)
比較例1〜2は、18μm厚の市販の特殊電解銅箔を用いて、カプトンEN(登録商標)に熱可塑性PI接着剤を2μm塗工、乾燥して形成した27μm厚の樹脂層を銅箔に積層させて真空熱プレス(200〜350℃で30分間加熱)によって銅張積層板を作製した。
【0034】
(例3:比較例3〜4)
比較例3〜4は、表1に記載の元素を添加した無酸素銅(JIS−H3100 C1020)のインゴットを作製した。また、このとき、不可避的不純物の抑制は行わず、P、Fe、Zr、Mg、S、Ge及びTiからなる群から選択された1種又は2種以上が、合計で20質量ppm超となった。
続いて、このインゴットを熱間圧延で厚さ7mmの板に加工し、表面研削で酸化物を取り除いた後、冷間圧延、焼鈍、酸洗を繰り返して表1に記載の厚さに加工した。このとき、0.1mm厚以下の圧延では張力を100MPa超としたパスを少なくとも1回行った。動粘度は6m2/s、歪速度は900/sで圧延した。
続いて、カプトンEN(登録商標)に熱可塑性PI接着剤を2μm塗工、乾燥して形成した27μm厚の樹脂層を銅箔に積層させて真空熱プレス(200〜350℃で30分間加熱)によって銅張積層板を作製した。
【0035】
このようにして作製した実施例1〜22及び比較例1〜4の供試材を、CP法(クロスセッションポリッシャー法)を用いて厚み方向に切断し、銅箔断面を得た。その後、すぐに「表1に記載の銅箔厚み」×「300μm幅」の面積において電子顕微鏡JEOL FE−SEMを用い、TSL社製の解析ソフトを用いてEBSPをとってKAM値を算出し、結晶方位が001方位を中心に10°の範囲にある面積Aの割合を算出した。
この結果、実施例はいずれも表1に示す通り001方位を中心に10°の範囲にある面積Aの割合が10%以上存在する断面があったため、この断面に対して平行となるようにL(ライン)/S(スペース)=300μm/300μmの回路を形成してフレキシブルプリント配線板とした。
一方、比較例はいずれも表1に示す通り001方位を中心に10°の範囲にある面積Aの割合が10%以上存在する断面が無かったため、MD(machine direction:圧延平行方向)に平行となるようにL(ライン)/S(スペース)=300μm/300μmの回路を形成してフレキシブルプリント配線板とした。
次に、実施例及び比較例に係るフレキシブルプリント配線板に180°密着曲げを1回行い、フレキシブルプリント配線板を曲げた状態で樹脂埋めして固定し、回路に平行な方法にCP法(クロスセッションポリッシャー法)を用いて切断し、曲げ部の銅箔断面を得た。その後、酸化膜が形成されないようにすぐに「表1に記載の銅箔厚み」×「銅箔の曲げ頂点を中心に両側へ50μm幅ずつの合計100μm幅(図2参照)」の面積においてEBSD測定を10断面行い、その合計面積における001方位を中心に10°の範囲にある面積Bの割合を算出した。
また、折り曲げを行っている際に銅箔に破断が生じたか否かについても観察した。
ここで、破断の発生は以下のように判定した。すなわち、フレキシブルプリント配線板の銅箔回路に一定電流(0.01〜0.1mA)を流し、当該電流を流すために必要な電圧値を測定し、測定した電圧値からフレキシブルプリント配線板の銅箔回路の抵抗値を算出した。算出した抵抗値が初期値(上記折り曲げ前の抵抗値)の500%以上となったときに、破断が生じたと判定した。
測定結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
(評価)
実施例1〜22は、いずれも不可避的不純物としてのP、Fe、Zr、Mg、S、Ge及びTiからなる群から選択された1種又は2種以上が合計で20質量ppm以下であり、180°密着曲げ前で面積Aの割合、及び、当該曲げを1回行って固定した状態で面積Bの割合をそれぞれ測定した結果、いずれも10%以上であり、180°密着曲げを4回又は8回繰り返しても銅箔に破断が生じなかった。
比較例1〜4は、いずれも不可避的不純物としてのP、Fe、Zr、Mg、S、Ge及びTiからなる群から選択された1種又は2種以上が合計で20質量ppm超であり、180°密着曲げ前で面積Aの割合、及び、当該曲げを1回行って固定した状態で面積Bの割合をそれぞれ測定した結果、いずれも10%未満であり、180°密着曲げを2回行っただけですぐに銅箔に破断が生じた。
なお、実施例1、3、14、15、19、20、21、22に用いた銅箔を、樹脂層に積層せずに、200℃〜350℃で30分間加熱した。その後、当該銅箔の面積Aの割合(%)を測定した。その結果、当該銅箔の面積Aの割合(%)は、それぞれ表1に記載の実施例1、3、14、15、19、20、21、22の180°密着曲げ前の面積Aの割合(%)と同じ値となった。
図1
図2