特許第5694360号(P5694360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5694360スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5694360
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20150312BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
   H01L21/285 S
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-540860(P2012-540860)
(86)(22)【出願日】2011年10月25日
(86)【国際出願番号】JP2011074487
(87)【国際公開番号】WO2012057106
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2013年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-241051(P2010-241051)
(32)【優先日】2010年10月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(72)【発明者】
【氏名】塚本 志郎
(72)【発明者】
【氏名】大橋 一允
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−067978(JP,A)
【文献】 特開平11−189870(JP,A)
【文献】 特開2007−146294(JP,A)
【文献】 特開2001−295040(JP,A)
【文献】 特開2000−345330(JP,A)
【文献】 特開2009−191324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
H01L 21/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tiターゲットに、Cu−Cr合金製バッキングプレートを接合したスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体であって、TiターゲットとCu−Cr合金製バッキングプレートとの界面に、双方に拡散させずに接合できる歪吸収材料の非拡散層を介して接合されていることを特徴とするスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【請求項2】
スパッタリングをオンにした場合のフラットからの変位の最大値とスパッタリングをオフにした場合のフラットからの変位の最大値との差が1mm以下であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【請求項3】
ターゲット−バッキングプレート接合体の接合界面の接着強度が、3kgf/mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【請求項4】
前記歪吸収材料がNi、Zn、Ag、Cu、Al、Cr、Sn又はこれらを主成分とする合金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【請求項5】
前記歪吸収材料からなる層が、厚さ1mm以上、6mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【請求項6】
Cu−Cr合金製バッキングプレート表面が、接合前に予め旋盤で粗加工された面であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【請求項7】
Tiターゲットが、4N5以上の高純度Tiからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【請求項8】
TiターゲットとCu−Cr合金製バッキングプレートを接合するスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法であって、該ターゲット材とバッキングプレートとの界面に、厚さ1mm以上、6mm以下のAl若しくはAlを主成分とする合金からなる層を介在させ、ターゲット材とバッキングプレートとの双方に拡散させずに、温度400〜550°Cで接合することを特徴とするスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法。
【請求項9】
ターゲット−バッキングプレート接合体とAl若しくはAlを主成分とする合金からなる層との接合界面を拡散させずに、接着強度を3kgf/mm以上とすることを特徴とする請求項8記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン(Ti)をスパッタリングターゲット材とする際に使用するスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体、特にスパッタリング時の変形(変位)を防止するために、ターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収することができるスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MRAM用としてチタン(Ti)のスパッタリングターゲットが必要とされている。ターゲットは通常バッキングプレート接合され、生産効率を上げるために、ハイパワーでスパッタリングされるが、このハイパワーでのスパッタリングの際に問題となるのは、バッキングプレート自体の強度と冷却能及びバッキングプレートとターゲットとの接合強度である。
【0003】
従来技術として、ターゲットとバッキングプレートとの接合強度を向上させるための工夫がいくつか提案されている。これらを紹介すると、例えば、Al又はAl合金のターゲット材とバッキングプレートを接合する際に、インサート材としてAg又はAg合金を使用し、これらを装入した後、固相拡散させる技術(特許文献1参照)がある。
また、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとの接合面に、同心円状の凹凸を形成し、相互に嵌合した状態で、HIP、ホットプレス、固相拡散接合法によって接合する技術(特許文献2参照)がある。
【0004】
また、1000°C以上の融点を有するターゲット材とバッキングプレートを接合する際に、ターゲットよりも融点の低いインサート材(Al、Cu、Ni及びこれらの合金)を介して固相拡散接合する技術(特許文献3参照)がある。
また、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとの間に銅の微粉を介在させ、低温で接合する方法(特許文献4参照)がある。
【0005】
また、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとの間に、Al又はAl合金のスペーサーを介して、爆着又はホットロールで接合する技術(特許文献5参照)がある。また、バッキングプレートの冷却面に凹凸を設けて表面積を増大させたスパッタリング装置(特許文献6参照)がある。
【0006】
また、特許文献7には、タンタル又はタングステン−銅合金製バッキングプレート組立体で、厚さ0.8mm以上のアルミニウム又はアルミニウム合金板のインサート材を介して拡散接合する技術が記載されている。
また、特許文献8には、高純度コバルトと銅合金製バッキングプレートとの拡散接合組立体で、厚さ0.8mm以上のアルミニウム又はアルミニウム合金板のインサート材を介して拡散接合する技術が記載されている。
【0007】
また、特許文献9には、複数の金属層2、3からなるバッキングプレート材4とターゲット材5とが、拡散接合又は溶接により一体接合したスパッタリングターゲットが記載されている。
また、特許文献10には、ターゲットとバッキングプレートをインサート材を介して固相拡散接合する際に、双方又は片方の面を、粗さRa0.01〜3.0μmとなるように平坦化処理を施すことが記載されている。
【0008】
また、特許文献11には、ターゲットとバッキングプレートを接合するに際して、エラストマー樹脂を使用し、その樹脂の中に金属メッシュを介在させた接合方法が記載されている。
また、特許文献12には、ターゲットとバッキングプレートの間に、銅、アルミニウム又はこれらの合金箔を、挟んでスパッタリングすることが記載されている。
【0009】
これらの特許文献は、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとの接合強度を高めるための接合方法の工夫がなされているが、バッキングプレートとターゲットの材質に起因する歪量について、特にチタンをターゲットとし、バッキングプレートとしてCu−Cr合金を使用する場合の歪発生の問題点及びその解決する手段の開示は全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−172993号公報
【特許文献2】特許第4017198号公報
【特許文献3】特開平6−108246号公報
【特許文献4】特開昭55−152109号公報
【特許文献5】特開平4−131374号公報
【特許文献6】特開平6−25839号公報
【特許文献7】特許第3905301号公報
【特許文献8】特許第3905295号公報
【特許文献9】特開2001−295040号公報
【特許文献10】特開2000−239838号公報
【特許文献11】特開2006−33603号公報
【特許文献12】特開平11−189870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、チタン(Ti)をスパッタリングターゲット材とする際に使用するスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体、特にスパッタリング効率を上げるためにバッキングプレートとの接合強度を高め、チタン(Ti)固有の問題とそれに適合するバッキングプレートの選択に関連する問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、以下の発明を提供するものである。
1)Tiターゲットに、Cu−Cr合金製バッキングプレートを接合したスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体であって、TiターゲットとCu−Cr合金製バッキングプレートとの界面に、双方に拡散させずに接合できる歪吸収材料の非拡散層を介して接合されていることを特徴とするスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
2)スパッタリングをオンにした場合のフラットからの変位の最大値とスパッタリングをオフにした場合のフラットからの変位の最大値との差が1mm以下であることを特徴とする上記1)に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
3)ターゲット−バッキングプレート接合体の接合界面の接着強度が、3kgf/mm以上であることを特徴とする上記1)又は2)記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【0013】
4)前記歪吸収材料がNi、Zn、Ag、Cu、Al、Cr、Sn又はこれらを主成分とする合金であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
5)前記歪吸収材料からなる層が、厚さ1mm以上、6mm以下であることを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
6)Cu−Cr合金製バッキングプレート表面が、接合前に予め旋盤で粗加工された面であることを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
7)Tiターゲットが、4N5以上の高純度Tiからなることを特徴とする上記1)〜9)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【0014】
8)TiターゲットとCu−Cr合金製バッキングプレートを接合するスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法であって、該ターゲット材とバッキングプレートとの界面に、厚さ1mm以上、6mm以下のAl若しくはAlを主成分とする合金からなる層を介在させ、温度400〜550°Cで接合することを特徴とするスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法。
9)ターゲット−バッキングプレート接合体の接合界面を拡散させずに、接着強度を3kgf/mm以上とすることを特徴とする上記11)記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、Tiからなるターゲット材に、Cu−Cr合金からなるバッキングプレートを接合してなるスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を作製するに際して、該ターゲット材と該バッキングプレートとの界面に歪吸収材料からなる層を介して接合するものであり、これによりスパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収してターゲットの変形を抑制し、これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
Arガスを導入したスパッタリング装置において、ターゲット側をカソードとし基板側をアノードとして、双方に電圧を印加し、Arイオンによるターゲットへの衝撃によりターゲット材を叩き出し、その飛来による基板への被覆方法、又はターゲットからスパッタされた原子がイオン化し、さらにスパッタを行ういわゆる自己スパッタによる被覆方法が、スパッタリング方法として既に知られている。
多くの場合、スパッタリングターゲットはバッキングプレートに接合し、かつ該バッキングプレートを冷却して、ターゲットの異常な温度上昇を防止し、安定したスパッタリングが可能なように構成されている。
【0017】
このようなスパッタ装置において、生産効率を上げ、高速のスパッタリングが可能となるように、スパッタリングパワーを上昇させる傾向にある。バッキングプレートとスパッタリングターゲットは同質の材料を用いることは殆どない。通常、バッキングプレートは熱伝導性の良い材料であり、かつ一定の強度を持つ材料が使用される。
さらに、スパッタリング装置の中で、バッキングプレートを冷却し、このバッキングプレートを介してターゲットにかかる熱衝撃を吸収させている。しかし、その冷却にも限界がある。特に問題となるのは、ターゲットとバッキングプレートとの熱膨張の差異による剥離又はターゲットの変形である。
【0018】
また、ターゲットはエロージョンを受け、形状に凹凸が生ずるが、高いパワーでスパッタリングを行う場合には、主に凹部にスパッタ時の熱により生じる熱応力が集中してターゲットが変形を起こしてユニフォーミテイが悪化すること、あるいはシールドとのアーキングが起きて異常パーテイクル発生が生じて、極端なケースではプラズマの発生が止まるという現象が生じる。
このような問題の解決のため、バッキングプレートの強度を高める、あるいは材質を変更して熱応力を軽減させる等の対策をとることが考えられるが、ターゲットの材質であるTiとの適合性の問題があり、これまで適切な解決方法が見出されていなかった。
【0019】
本願発明のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体は、Tiからなるターゲット材に、Cu−Cr合金からなるバッキングプレートを接合したスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体であり、該ターゲット材と該バッキングプレートとの界面にAl又はAlを主成分とする合金からなる層(インサート)を介して接合したものである。バッキングプレートであるCu−Cr合金は、Cr0.7〜1.2wt%含有する合金を使用する。このCu−Cr合金は強度が高くかつ熱伝導性に富む材料である。
【0020】
下記に実施例と比較例を示すが、TiとCu−Cr合金との接合する際に使用するAl又はAlを主成分とする合金はターゲットの変形を吸収し、なおかつ接合したターゲットとバッキングプレートプレートの組立体を加工する際及びスパッタリング中にも剥離が生じないという優れた効果を有する。
これは、ターゲット材がTiであり、バッキングプレートがCu−Cr合金である場合の固有の問題であることが分かる。このAl層又はAlを主成分とする合金層は、ターゲット及びバッキングプレート双方に拡散接合しておらず、双方に欠陥が発生することがない。これは変形を抑制し、接合強度を高めるために必要なことである。
【0021】
スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体では、接合界面の接着強度を3kgf/mm以上とすることが可能である。本願発明は、このようなスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を提供できる。
Al層又はAl合金層の代替品として、Ni、Zn、Ag、Cu、Cr、Sn又はこれらを主成分とする合金からなる層を挙げることができる。実施例にはAl層又はNi層又はAg層について説明しているが、Al、Ni、Agを主成分とする合金、Zn、Cu、Cr、Sn又はこれらを主成分とする合金からなる層でも同等の効果が得られることを確認している。
【0022】
前記Al又はAlを主成分とする合金からなる層を形成する場合には、最も効率的な手法として、Al又はAlを主成分とする合金板を介在させ、これを400〜550°C、プレス圧力1450kg/cmをかけて接合することにより製作することができる。しかし、Al又はAl合金を、TiターゲットとCu−Cr合金バッキングプレートとの間に、所定の厚みに介在させることができれば、他の形成手段でも良い。例えば、スパッタリング法等の物理的蒸着法、化学的蒸着方法、めっき方法でも行うことができることは容易に理解できるであろう。
【0023】
近年、Tiからなるターゲット材が、4N5以上の高純度Tiが要求されているが、このTiからなるスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体として最適である。また、このAl又はAlを主成分とするAl合金からなる層は、Tiからなるターゲット材のバッキングプレートに接する面に形成するのが、ターゲットに均一にかつ確実に被覆するために、好ましい方法である。しかし、バッキングプレート又はこれらの双方に被覆することも可能である。
【0024】
このAl又はAlを主成分とする合金からなる層は、厚さ1mm以上、6mm以下とすることが望ましい。これは多くの実験で確かめたことであるが、多量の被覆はバッキングプレートへの熱の伝達を阻害する可能性があり、また多量の被覆は生産効率からみて、好ましいことはない。また厚さが小さい場合には、良好な歪み吸収効果が得られず、また十分な接合強度が得られないからである。
【0025】
本願発明では、Cu−Cr合金からなるバッキングプレート表面を、接合前に予め旋盤で粗加工して、さらに接合強度を高めることが可能である。
前記Al又はAlを主成分とする合金からなる層は、下記実施例に示すようにAlを使用できるが、Alを主成分とする合金については、例えば、Al:50wt%以上含有するAl合金、具体的にはCr:20wt%、残部AlからなるAl合金を使用することができる。
【実施例】
【0026】
本願発明を、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例のみに制限されるものではない。すなわち、本発明に含まれる他の態様または変形を包含するものである。
【0027】
(実施例1)
次に、実施例1を説明する。テストピースとしては、4N5(ガス成分を除き、99.995wt%)の高純度チタンをターゲット材(厚さ0.45インチ、15.654インチφ)とした。バッキングプレートとしては、上記Cu−Cr合金(厚さ0.5インチ、15.654インチφ)を用いた。
【0028】
そして、Tiターゲットとバッキングプレートとの接合界面に、厚さ2mmのアルミ(Al)板(インサート)を介在させ、テストピースとした。これらのターゲットとバッキングプレートの表面を清浄した後、真空容器に封入し、300°C、圧力1450kg/cmで、保持時間1hr、HIPした。
【0029】
界面にAl板(Alインサート材)を介在させたターゲットとバッキングプレートの接合後、ターゲット側から超音波探傷試験を行い、内部欠陥を観察した。この超音波探傷試験では、ターゲットとバッキングプレートの界面には欠陥が全く観察されなかった。
すなわち、TiターゲットとCu−Cr合金バッキングプレートとの界面にAlを被覆し場合、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、切断、切削する加工の工程で、これらの界面から剥離を生ずることは全く無かった。
【0030】
次に、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、中心部で1個、1/2R部で2個、外周部で2個サンプリングし、引張試験片を作製した。これらのサンプリングを使用して引張試験を実施した。
この引張試験の結果、接着強度は、3〜6kg/mmの範囲となり良好な接着強度が得られた。いずれのサンプル箇所においても、本願発明の好適な条件である3kgf/mm以上の接合強度を達成することができた。
本実施例1では、界面のAl被覆層の厚さは、2mmとしたものであるが、Alからなる層が、厚さ1mm以上、6mm以下である場合において、いずれも好適な接着強度をえることが可能であった。
【0031】
次に、界面にAl板(Alインサート材)を介在させてターゲットとバッキングプレートの接合した本実施例のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け各種の測定を実施した。この測定結果を表1に示す。
このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け(バッキングプレートの外周を固定)、該バッキングプレートの背面から水圧をかけて冷却水を流した。
【0032】
この後、38kWhで、33秒間のスパッタリング(スパッタON)を実施し、さらに74秒間のスパッタリング停止(スパッタOFF)を行った。そして、この操作を15回繰り返した。この間、冷却は続行した。この15回の繰り返しにより、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の中央部の膨らみ(変位量)は一定となった。なお、この場合の変位量は、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け時、すなわちフラット状態からの変位量である。
【0033】
前記スパッタOFFの際の、フラット状態からの変位のMax値は、3.066mmとなった。他方、スパッタリングオンにおけるフラット状態からの変位のMax値は、3.379mmとなった。これらは、いずれも前記15回のオン、オフの繰り返しにより測定した平均値である。そして、これらのMax値の間の差異は、0.313mmとなり、極めて少なかった。なお、長時間スパッタOFFにした場合の変位のMax値は、3.307mmであった。参考までに表1に示す。
【0034】
オン、オフの繰り返しによる前記Max値の間の差異が小さくできることは、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収してターゲットの変形を抑制していることを意味し、これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有するものである。
【0035】
その後(スパッタリング後)に、水冷、水圧を取り除いたときのフラットからの変位のMax値は0.1458mm、ターゲットの固定ネジを取り除いたときの、フラット状態からの変位のMax値は−0.04945mmであった(マイナスは逆反り、すなわち中央がやや凹む現象である)。
【0036】
また、スパッタリングオフにおける温度は91.42°C、スパッタリングONにおける温度は407.9°Cであった。そして、スパッタリングオフにおける温度とスパッタリングオンにおける温度の差異は316.5°Cとなった。
以上の実施例1については、アルミインサート材は、2mm厚みを有するアルミニウム板を用いたが、厚さ1mm以上、6mm以下であれば、実施例1と同等の効果を得ることができた。
【0037】
【表1】
【0038】
(実施例2)
次に、実施例2を説明する。テストピースとしては、4N5(ガス成分を除き、99.995wt%)の高純度チタンをターゲット材(厚さ0.45インチ、15.654インチφ)とした。バッキングプレートとしては、上記Cu−Cr合金(厚さ0.5インチ、15.654インチφ)を用いた。
【0039】
そして、Tiターゲットとバッキングプレートとの接合界面に、厚さ2mmのニッケル(Ni)板(インサート)を介在させ、テストピースとした。これらのターゲットとバッキングプレートの表面を清浄した後、真空容器に封入し、300°C、圧力1450kg/cmで、保持時間1hr、HIPした。
【0040】
界面にNi板(Niインサート材)を介在させたターゲットとバッキングプレートの接合後、ターゲット側から超音波探傷試験を行い、内部欠陥を観察した。この超音波探傷試験では、ターゲットとバッキングプレートの界面には欠陥が全く観察されなかった。
すなわち、TiターゲットとCu−Cr合金バッキングプレートとの界面にNiを被覆し場合、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、切断、切削する加工の工程で、これらの界面から剥離を生ずることは全く無かった。
【0041】
次に、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、中心部で1個、1/2R部で2個、外周部で2個サンプリングし、引張試験片を作製した。これらのサンプリングを使用して引張試験を実施した。
この引張試験の結果、接着強度は、3〜5kg/mmの範囲となり良好な接着強度が得られた。いずれのサンプル箇所においても、本願発明の好適な条件である3kgf/mm以上の接合強度を達成することができた。
本実施例2では、界面のNi被覆層の厚さは、2mmとしたものであるが、Niからなる層が、厚さ1mm以上、6mm以下である場合において、いずれも好適な接着強度をえることが可能であった。
【0042】
次に、界面にNi板(Niインサート材)を介在させてターゲットとバッキングプレートの接合した本実施例のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け各種の測定を実施した。この測定結果を表1に示す。
このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け(バッキングプレートの外周を固定)、該バッキングプレートの背面から水圧をかけて冷却水を流した。
【0043】
この後、38kWhで、33秒間のスパッタリング(スパッタON)を実施し、さらに74秒間のスパッタリング停止(スパッタOFF)を行った。そして、この操作を15回繰り返した。この間、冷却は続行した。この15回の繰り返しにより、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の中央部の膨らみ(変位量)は一定となった。なお、この場合の変位量は、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け時、すなわちフラット状態からの変位量である。
【0044】
前記スパッタOFFの際の、フラット状態からの変位のMax値は、3.073mmとなった。他方、スパッタリングオンにおけるフラット状態からの変位のMax値は、3.387mmとなった。これらは、いずれも前記15回のオン、オフの繰り返しにより測定した平均値である。そして、これらのMax値の間の差異は、0.314mmとなり、極めて少なかった。なお、長時間スパッタOFFにした場合の変位のMax値は、3.315mmであった。参考までに表1に示す。
【0045】
オン、オフの繰り返しによる前記Max値の間の差異が小さくできることは、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収してターゲットの変形を抑制していることを意味し、これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有するものである。
【0046】
その後(スパッタリング後)に、水冷、水圧を取り除いたときのフラットからの変位のMax値は0.1467mm、ターゲットの固定ネジを取り除いたときの、フラット状態からの変位のMax値は−0.04987mmであった(マイナスは逆反り、すなわち中央がやや凹む現象である)。
【0047】
また、スパッタリングオフにおける温度は90.92°C、スパッタリングONにおける温度は408.5°Cであった。そして、スパッタリングオフにおける温度とスパッタリングオンにおける温度の差異は316.5°Cとなった。
以上の実施例2については、ニッケルインサート材は、2mm厚みを有するニッケル板を用いたが、厚さ1mm以上、6mm以下であれば、実施例2と同等の効果を得ることができた。
【0048】
(実施例3)
次に、実施例3を説明する。テストピースとしては、4N5(ガス成分を除き、99.995wt%)の高純度チタンをターゲット材(厚さ0.45インチ、15.654インチφ)とした。バッキングプレートとしては、上記Cu−Cr合金(厚さ0.5インチ、15.654インチφ)を用いた。
【0049】
そして、Tiターゲットとバッキングプレートとの接合界面に、厚さ2mmの銀(Ag)板(インサート)を介在させ、テストピースとした。これらのターゲットとバッキングプレートの表面を清浄した後、真空容器に封入し、300°C、圧力1450kg/cmで、保持時間1hr、HIPした。
【0050】
界面にAg板(Agインサート材)を介在させたターゲットとバッキングプレートの接合後、ターゲット側から超音波探傷試験を行い、内部欠陥を観察した。この超音波探傷試験では、ターゲットとバッキングプレートの界面には欠陥が全く観察されなかった。
すなわち、TiターゲットとCu−Cr合金バッキングプレートとの界面にAgを被覆し場合、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、切断、切削する加工の工程で、これらの界面から剥離を生ずることは全く無かった。
【0051】
次に、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、中心部で1個、1/2R部で2個、外周部で2個サンプリングし、引張試験片を作製した。これらのサンプリングを使用して引張試験を実施した。
この引張試験の結果、接着強度は、7〜10kg/mmの範囲となり良好な接着強度が得られた。いずれのサンプル箇所においても、本願発明の好適な条件である3kgf/mm以上の接合強度を達成することができた。
本実施例3では、界面のAg被覆層の厚さは、2mmとしたものであるが、Niからなる層が、厚さ1mm以上、6mm以下である場合において、いずれも好適な接着強度を得ることが可能であった。
【0052】
次に、界面にAg板(Agインサート材)を介在させてターゲットとバッキングプレートの接合した本実施例のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け各種の測定を実施した。この測定結果を表1に示す。
このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け(バッキングプレートの外周を固定)、該バッキングプレートの背面から水圧をかけて冷却水を流した。
【0053】
この後、38kWhで、33秒間のスパッタリング(スパッタON)を実施し、さらに74秒間のスパッタリング停止(スパッタOFF)を行った。そして、この操作を15回繰り返した。この間、冷却は続行した。この15回の繰り返しにより、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の中央部の膨らみ(変位量)は一定となった。なお、この場合の変位量は、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け時、すなわちフラット状態からの変位量である。
【0054】
前記スパッタOFFの際の、フラット状態からの変位のMax値は、3.059mmとなった。他方、スパッタリングオンにおけるフラット状態からの変位のMax値は、3.372mmとなった。これらは、いずれも前記15回のオン、オフの繰り返しにより測定した平均値である。そして、これらのMax値の間の差異は、0.313mmとなり、極めて少なかった。なお、長時間スパッタOFFにした場合の変位のMax値は、3.299mmであった。参考までに表1に示す。
【0055】
オン、オフの繰り返しによる前記Max値の間の差異が小さくできることは、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収してターゲットの変形を抑制していることを意味し、これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有するものである。
【0056】
その後(スパッタリング後)に、水冷、水圧を取り除いたときのフラットからの変位のMax値は0.1451mm、ターゲットの固定ネジを取り除いたときの、フラット状態からの変位のMax値は−0.04921mmであった(マイナスは逆反り、すなわち中央がやや凹む現象である)。
【0057】
また、スパッタリングオフにおける温度は91.13°C、スパッタリングONにおける温度は407.1°Cであった。そして、スパッタリングオフにおける温度とスパッタリングオンにおける温度の差異は316.0°Cとなった。
以上の実施例3については、銀インサート材は、2mm厚みを有する銀板を用いたが、厚さ1mm以上、6mm以下であれば、実施例2と同等の効果を得ることができた。
【0058】
(比較例1)
次に、比較例1を説明する。テストピースとしては、4N5(ガス成分を除き、99.995wt%)の高純度チタンをターゲット材(厚さ0.45インチ、15.654インチφ)とした。バッキングプレートとしては、上記Cu−Cr合金(厚さ0.5インチ、15.654インチφ)を用いた。但し、Tiターゲットとバッキングプレートとの間にインサートは介在させなかった。このテストピースとした。
これらのターゲットとバッキングプレートの表面を清浄した後、真空容器に封入し、温度300°C、圧力1450kg/cmで、保持時間1hr、HIPした。
【0059】
Al板(Alインサート材)を介在させずにターゲットとバッキングプレートの接合後、ターゲット側から超音波探傷試験を行い、内部欠陥を観察した。この超音波探傷試験では、ターゲットとバッキングプレートの界面には欠陥が観察された。
【0060】
次に、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、中心部で1個、1/2R部で2個、外周部で2個サンプリングし、引張試験片を作製した。これらのサンプリングを使用して引張試験を実施した。
この引張試験の結果を実施した。この結果、接着強度は、1〜2kg/mmの範囲となり接着強度は不良となった。いずれのサンプル箇所においても、本願発明の好適な条件である3kgf/mm以上の接合強度を達成することはできなかった。
【0061】
次に、比較例のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け、実施例1と同様の各種の測定を実施した。
この測定結果を表1に示す。このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け(バッキングプレートの外周を固定)、該バッキングプレートの背面から水圧をかけて冷却水を流した。
【0062】
この後、38kWhで、33秒間のスパッタリング(スパッタON)を行い、さらに74秒間のスパッタリング停止(スパッタOFF)を行った。そして、この操作を15回繰り返した。この間、冷却は続行した。この15回の繰り返しにより、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の中央部の膨らみ(変位量)は一定となった。
なお、この場合の変位量は、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け時、すなわちフラット状態からの変位量である。
【0063】
前記スパッタOFFの際の、フラット状態からの変位のMax値は、上記の通り0.9565mmとなった。他方、スパッタリングオンにおけるフラット状態からの変位のMax値は、2.676mmとなった。これらは、いずれも前記15回のオン、オフの繰り返しにより測定した平均値である。そして、これらのMax値の間の差異は、1.7195mmとなり、差が増大し、実施例の5〜6倍であった。
【0064】
しかしながら、スパッタOFFとスパッタONとの間の変位の量が大きいことは、好ましいことではない。オン、オフの繰り返しによる前記Max値の間の差異が大きいことは、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収することができず、ターゲットの変形を抑制できないからである。これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を得ることができず、不良率が増加し、かつ生産効率の低下を招く原因となる。
【0065】
なお、長時間スパッタOFFにした場合の変位のMax値は、0.3491mmであった。参考までに表1に示す。
その後(スパッタリング後)に、水冷、水圧を取り除いたときのフラットからの変位のMax値は0.04566mm、ターゲットの固定ネジを取り除いたときの、フラット状態からの変位のMax値は−0.04628mmであった(マイナスは逆反り、すなわち中央がやや凹む現象である)。
また、スパッタリングオフにおける温度は90.87°C、スパッタリングONにおける温度は406.4°Cであった。そして、スパッタリングオフにおける温度とスパッタリングオンにおける温度の差異は315.5°Cとなった。
【0066】
(比較例2)
次に、比較例2を説明する。テストピースとしては、4N5(ガス成分を除き、99.995wt%)の高純度チタンをターゲット材(厚さ0.45インチ、15.654インチφ)とした。バッキングプレートとしては、上記Cu−Cr合金(厚さ0.5インチ、15.654インチφ)を用いた。
【0067】
そして、Tiターゲットとバッキングプレートとの接合界面に、厚さ2mmのタンタル(Ta)板(インサート)を介在させ、テストピースとした。これらのターゲットとバッキングプレートの表面を清浄した後、真空容器に封入し、500°C、圧力1450kg/cmで、保持時間1hr、HIPした。
【0068】
界面にTa板(Taインサート材)を介在させたターゲットとバッキングプレートの接合後、ターゲット側から超音波探傷試験を行い、内部欠陥を観察した。この超音波探傷試験では、ターゲットとバッキングプレートの界面には欠陥が全く観察されなかった。
【0069】
次に、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、中心部で1個、1/2R部で2個、外周部で2個サンプリングし、引張試験片を作製した。これらのサンプリングを使用して引張試験を実施した。
この引張試験の結果を実施した。この結果、接着強度は、7〜10kg/mmの範囲となり接着強度は不良となった。いずれのサンプル箇所においても、本願発明の好適な条件である3kgf/mm以上の接合強度を達成することができた。
【0070】
次に、比較例のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け、実施例1と同様の各種の測定を実施した。
この測定結果を表1に示す。このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け(バッキングプレートの外周を固定)、該バッキングプレートの背面から水圧をかけて冷却水を流した。
【0071】
この後、38kWhで、33秒間のスパッタリング(スパッタON)を行い、さらに74秒間のスパッタリング停止(スパッタOFF)を行った。そして、この操作を15回繰り返した。この間、冷却は続行した。この15回の繰り返しにより、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の中央部の膨らみ(変位量)は一定となった。
なお、この場合の変位量は、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け時、すなわちフラット状態からの変位量である。
【0072】
前記スパッタOFFの際の、フラット状態からの変位のMax値は、上記の通り0.8946mmとなった。他方、スパッタリングオンにおけるフラット状態からの変位のMax値は、2.571mmとなった。これらは、いずれも前記15回のオン、オフの繰り返しにより測定した平均値である。そして、これらのMax値の間の差異は、1.6764mmとなり、差が増加し、実施例の5〜6倍であった。
比較例2のスパッタリング時の変形量は、実施例1に比べてやや少ないが、これはスパッタリングターゲットとバッキングプレートが拡散接合し、強固に接合されているためと考えられる。
【0073】
しかしながら、スパッタOFFとスパッタONとの間の変位の量が大きいことは、好ましいことではない。オン、オフの繰り返しによる前記Max値の間の差異が大きいことは、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収することができず、ターゲットの変形を抑制できないからである。これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を得ることができず、不良率が増加し、かつ生産効率の低下を招く原因となる。
【0074】
なお、長時間スパッタOFFにした場合の変位のMax値は、0.2982mmであった。参考までに表1に示す。
その後(スパッタリング後)に、水冷、水圧を取り除いたときのフラットからの変位のMax値は0.04161mm、ターゲットの固定ネジを取り除いたときの、フラット状態からの変位のMax値は−0.04584mmであった(マイナスは逆反り、すなわち中央がやや凹む現象である)。
また、スパッタリングオフにおける温度は90.99°C、スパッタリングONにおける温度は406.7°Cであった。そして、スパッタリングオフにおける温度とスパッタリングオンにおける温度の差異は315.7°Cとなった。
【0075】
以上の実施例と比較例の対比から明らかなように、チタンをターゲット材とし、バッキングプレートとしてCu−Cr合金を用いた場合、該Tiターゲットとバッキングプレートとの接合界面に、厚さ2mmのアルミ(Al)板、ニッケル(Ni)板および銀(Ag)板をインサート材として介在させた場合には、スパッタリングをオンにした場合のフラットからの変位の最大値とスパッタリングをオフにした場合のフラットからの変位の最大値との差が1mm以下となった。
【0076】
このように、ターゲット材がTi、バッキングプレートがCu−Cr合金であるとい特殊な材料であるにもかかわらず、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収してターゲットの変形を抑制することができる。これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0077】
Tiからなるターゲット材とCu−Cr合金からなるバッキングプレートを、界面にNi、Zn、Ag、Cu、Al、Cr、Sn又はこれらを主成分とする合金からなる層を介して接合した本発明のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体は、ターゲットがTiという特殊な材料であるにもかかわらず、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収してターゲットの変形を抑制し、これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有する。また、高強度で高熱伝導性の銅合金製バッキングプレートとの界面に欠陥が発生せず、接合強度が高いため、ハイパワーでのスパッタリングを可能とし、生産効率を上げることができるという大きな効果を有するので、産業上極めて有効である。