【実施例】
【0026】
本願発明を、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例のみに制限されるものではない。すなわち、本発明に含まれる他の態様または変形を包含するものである。
【0027】
(実施例1)
次に、実施例1を説明する。テストピースとしては、4N5(ガス成分を除き、99.995wt%)の高純度チタンをターゲット材(厚さ0.45インチ、15.654インチφ)とした。バッキングプレートとしては、上記Cu−Cr合金(厚さ0.5インチ、15.654インチφ)を用いた。
【0028】
そして、Tiターゲットとバッキングプレートとの接合界面に、厚さ2mmのアルミ(Al)板(インサート)を介在させ、テストピースとした。これらのターゲットとバッキングプレートの表面を清浄した後、真空容器に封入し、300°C、圧力1450kg/cm
2で、保持時間1hr、HIPした。
【0029】
界面にAl板(Alインサート材)を介在させたターゲットとバッキングプレートの接合後、ターゲット側から超音波探傷試験を行い、内部欠陥を観察した。この超音波探傷試験では、ターゲットとバッキングプレートの界面には欠陥が全く観察されなかった。
すなわち、TiターゲットとCu−Cr合金バッキングプレートとの界面にAlを被覆し場合、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、切断、切削する加工の工程で、これらの界面から剥離を生ずることは全く無かった。
【0030】
次に、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、中心部で1個、1/2R部で2個、外周部で2個サンプリングし、引張試験片を作製した。これらのサンプリングを使用して引張試験を実施した。
この引張試験の結果、接着強度は、3〜6kg/mm
2の範囲となり良好な接着強度が得られた。いずれのサンプル箇所においても、本願発明の好適な条件である3kgf/mm
2以上の接合強度を達成することができた。
本実施例1では、界面のAl被覆層の厚さは、2mmとしたものであるが、Alからなる層が、厚さ1mm以上、6mm以下である場合において、いずれも好適な接着強度をえることが可能であった。
【0031】
次に、界面にAl板(Alインサート材)を介在させてターゲットとバッキングプレートの接合した本実施例のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け各種の測定を実施した。この測定結果を表1に示す。
このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け(バッキングプレートの外周を固定)、該バッキングプレートの背面から水圧をかけて冷却水を流した。
【0032】
この後、38kWhで、33秒間のスパッタリング(スパッタON)を実施し、さらに74秒間のスパッタリング停止(スパッタOFF)を行った。そして、この操作を15回繰り返した。この間、冷却は続行した。この15回の繰り返しにより、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の中央部の膨らみ(変位量)は一定となった。なお、この場合の変位量は、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け時、すなわちフラット状態からの変位量である。
【0033】
前記スパッタOFFの際の、フラット状態からの変位のMax値は、3.066mmとなった。他方、スパッタリングオンにおけるフラット状態からの変位のMax値は、3.379mmとなった。これらは、いずれも前記15回のオン、オフの繰り返しにより測定した平均値である。そして、これらのMax値の間の差異は、0.313mmとなり、極めて少なかった。なお、長時間スパッタOFFにした場合の変位のMax値は、3.307mmであった。参考までに表1に示す。
【0034】
オン、オフの繰り返しによる前記Max値の間の差異が小さくできることは、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収してターゲットの変形を抑制していることを意味し、これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有するものである。
【0035】
その後(スパッタリング後)に、水冷、水圧を取り除いたときのフラットからの変位のMax値は0.1458mm、ターゲットの固定ネジを取り除いたときの、フラット状態からの変位のMax値は−0.04945mmであった(マイナスは逆反り、すなわち中央がやや凹む現象である)。
【0036】
また、スパッタリングオフにおける温度は91.42°C、スパッタリングONにおける温度は407.9°Cであった。そして、スパッタリングオフにおける温度とスパッタリングオンにおける温度の差異は316.5°Cとなった。
以上の実施例1については、アルミインサート材は、2mm厚みを有するアルミニウム板を用いたが、厚さ1mm以上、6mm以下であれば、実施例1と同等の効果を得ることができた。
【0037】
【表1】
【0038】
(実施例2)
次に、実施例2を説明する。テストピースとしては、4N5(ガス成分を除き、99.995wt%)の高純度チタンをターゲット材(厚さ0.45インチ、15.654インチφ)とした。バッキングプレートとしては、上記Cu−Cr合金(厚さ0.5インチ、15.654インチφ)を用いた。
【0039】
そして、Tiターゲットとバッキングプレートとの接合界面に、厚さ2mmのニッケル(Ni)板(インサート)を介在させ、テストピースとした。これらのターゲットとバッキングプレートの表面を清浄した後、真空容器に封入し、300°C、圧力1450kg/cm
2で、保持時間1hr、HIPした。
【0040】
界面にNi板(Niインサート材)を介在させたターゲットとバッキングプレートの接合後、ターゲット側から超音波探傷試験を行い、内部欠陥を観察した。この超音波探傷試験では、ターゲットとバッキングプレートの界面には欠陥が全く観察されなかった。
すなわち、TiターゲットとCu−Cr合金バッキングプレートとの界面にNiを被覆し場合、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、切断、切削する加工の工程で、これらの界面から剥離を生ずることは全く無かった。
【0041】
次に、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、中心部で1個、1/2R部で2個、外周部で2個サンプリングし、引張試験片を作製した。これらのサンプリングを使用して引張試験を実施した。
この引張試験の結果、接着強度は、3〜5kg/mm
2の範囲となり良好な接着強度が得られた。いずれのサンプル箇所においても、本願発明の好適な条件である3kgf/mm
2以上の接合強度を達成することができた。
本実施例2では、界面のNi被覆層の厚さは、2mmとしたものであるが、Niからなる層が、厚さ1mm以上、6mm以下である場合において、いずれも好適な接着強度をえることが可能であった。
【0042】
次に、界面にNi板(Niインサート材)を介在させてターゲットとバッキングプレートの接合した本実施例のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け各種の測定を実施した。この測定結果を表1に示す。
このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け(バッキングプレートの外周を固定)、該バッキングプレートの背面から水圧をかけて冷却水を流した。
【0043】
この後、38kWhで、33秒間のスパッタリング(スパッタON)を実施し、さらに74秒間のスパッタリング停止(スパッタOFF)を行った。そして、この操作を15回繰り返した。この間、冷却は続行した。この15回の繰り返しにより、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の中央部の膨らみ(変位量)は一定となった。なお、この場合の変位量は、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け時、すなわちフラット状態からの変位量である。
【0044】
前記スパッタOFFの際の、フラット状態からの変位のMax値は、3.073mmとなった。他方、スパッタリングオンにおけるフラット状態からの変位のMax値は、3.387mmとなった。これらは、いずれも前記15回のオン、オフの繰り返しにより測定した平均値である。そして、これらのMax値の間の差異は、0.314mmとなり、極めて少なかった。なお、長時間スパッタOFFにした場合の変位のMax値は、3.315mmであった。参考までに表1に示す。
【0045】
オン、オフの繰り返しによる前記Max値の間の差異が小さくできることは、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収してターゲットの変形を抑制していることを意味し、これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有するものである。
【0046】
その後(スパッタリング後)に、水冷、水圧を取り除いたときのフラットからの変位のMax値は0.1467mm、ターゲットの固定ネジを取り除いたときの、フラット状態からの変位のMax値は−0.04987mmであった(マイナスは逆反り、すなわち中央がやや凹む現象である)。
【0047】
また、スパッタリングオフにおける温度は90.92°C、スパッタリングONにおける温度は408.5°Cであった。そして、スパッタリングオフにおける温度とスパッタリングオンにおける温度の差異は316.5°Cとなった。
以上の実施例2については、ニッケルインサート材は、2mm厚みを有するニッケル板を用いたが、厚さ1mm以上、6mm以下であれば、実施例2と同等の効果を得ることができた。
【0048】
(実施例3)
次に、実施例3を説明する。テストピースとしては、4N5(ガス成分を除き、99.995wt%)の高純度チタンをターゲット材(厚さ0.45インチ、15.654インチφ)とした。バッキングプレートとしては、上記Cu−Cr合金(厚さ0.5インチ、15.654インチφ)を用いた。
【0049】
そして、Tiターゲットとバッキングプレートとの接合界面に、厚さ2mmの銀(Ag)板(インサート)を介在させ、テストピースとした。これらのターゲットとバッキングプレートの表面を清浄した後、真空容器に封入し、300°C、圧力1450kg/cm
2で、保持時間1hr、HIPした。
【0050】
界面にAg板(Agインサート材)を介在させたターゲットとバッキングプレートの接合後、ターゲット側から超音波探傷試験を行い、内部欠陥を観察した。この超音波探傷試験では、ターゲットとバッキングプレートの界面には欠陥が全く観察されなかった。
すなわち、TiターゲットとCu−Cr合金バッキングプレートとの界面にAgを被覆し場合、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、切断、切削する加工の工程で、これらの界面から剥離を生ずることは全く無かった。
【0051】
次に、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、中心部で1個、1/2R部で2個、外周部で2個サンプリングし、引張試験片を作製した。これらのサンプリングを使用して引張試験を実施した。
この引張試験の結果、接着強度は、7〜10kg/mm
2の範囲となり良好な接着強度が得られた。いずれのサンプル箇所においても、本願発明の好適な条件である3kgf/mm
2以上の接合強度を達成することができた。
本実施例3では、界面のAg被覆層の厚さは、2mmとしたものであるが、Niからなる層が、厚さ1mm以上、6mm以下である場合において、いずれも好適な接着強度を得ることが可能であった。
【0052】
次に、界面にAg板(Agインサート材)を介在させてターゲットとバッキングプレートの接合した本実施例のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け各種の測定を実施した。この測定結果を表1に示す。
このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け(バッキングプレートの外周を固定)、該バッキングプレートの背面から水圧をかけて冷却水を流した。
【0053】
この後、38kWhで、33秒間のスパッタリング(スパッタON)を実施し、さらに74秒間のスパッタリング停止(スパッタOFF)を行った。そして、この操作を15回繰り返した。この間、冷却は続行した。この15回の繰り返しにより、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の中央部の膨らみ(変位量)は一定となった。なお、この場合の変位量は、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け時、すなわちフラット状態からの変位量である。
【0054】
前記スパッタOFFの際の、フラット状態からの変位のMax値は、3.059mmとなった。他方、スパッタリングオンにおけるフラット状態からの変位のMax値は、3.372mmとなった。これらは、いずれも前記15回のオン、オフの繰り返しにより測定した平均値である。そして、これらのMax値の間の差異は、0.313mmとなり、極めて少なかった。なお、長時間スパッタOFFにした場合の変位のMax値は、3.299mmであった。参考までに表1に示す。
【0055】
オン、オフの繰り返しによる前記Max値の間の差異が小さくできることは、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収してターゲットの変形を抑制していることを意味し、これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有するものである。
【0056】
その後(スパッタリング後)に、水冷、水圧を取り除いたときのフラットからの変位のMax値は0.1451mm、ターゲットの固定ネジを取り除いたときの、フラット状態からの変位のMax値は−0.04921mmであった(マイナスは逆反り、すなわち中央がやや凹む現象である)。
【0057】
また、スパッタリングオフにおける温度は91.13°C、スパッタリングONにおける温度は407.1°Cであった。そして、スパッタリングオフにおける温度とスパッタリングオンにおける温度の差異は316.0°Cとなった。
以上の実施例3については、銀インサート材は、2mm厚みを有する銀板を用いたが、厚さ1mm以上、6mm以下であれば、実施例2と同等の効果を得ることができた。
【0058】
(比較例1)
次に、比較例1を説明する。テストピースとしては、4N5(ガス成分を除き、99.995wt%)の高純度チタンをターゲット材(厚さ0.45インチ、15.654インチφ)とした。バッキングプレートとしては、上記Cu−Cr合金(厚さ0.5インチ、15.654インチφ)を用いた。但し、Tiターゲットとバッキングプレートとの間にインサートは介在させなかった。このテストピースとした。
これらのターゲットとバッキングプレートの表面を清浄した後、真空容器に封入し、温度300°C、圧力1450kg/cm
2で、保持時間1hr、HIPした。
【0059】
Al板(Alインサート材)を介在させずにターゲットとバッキングプレートの接合後、ターゲット側から超音波探傷試験を行い、内部欠陥を観察した。この超音波探傷試験では、ターゲットとバッキングプレートの界面には欠陥が観察された。
【0060】
次に、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、中心部で1個、1/2R部で2個、外周部で2個サンプリングし、引張試験片を作製した。これらのサンプリングを使用して引張試験を実施した。
この引張試験の結果を実施した。この結果、接着強度は、1〜2kg/mm
2の範囲となり接着強度は不良となった。いずれのサンプル箇所においても、本願発明の好適な条件である3kgf/mm
2以上の接合強度を達成することはできなかった。
【0061】
次に、比較例のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け、実施例1と同様の各種の測定を実施した。
この測定結果を表1に示す。このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け(バッキングプレートの外周を固定)、該バッキングプレートの背面から水圧をかけて冷却水を流した。
【0062】
この後、38kWhで、33秒間のスパッタリング(スパッタON)を行い、さらに74秒間のスパッタリング停止(スパッタOFF)を行った。そして、この操作を15回繰り返した。この間、冷却は続行した。この15回の繰り返しにより、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の中央部の膨らみ(変位量)は一定となった。
なお、この場合の変位量は、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け時、すなわちフラット状態からの変位量である。
【0063】
前記スパッタOFFの際の、フラット状態からの変位のMax値は、上記の通り0.9565mmとなった。他方、スパッタリングオンにおけるフラット状態からの変位のMax値は、2.676mmとなった。これらは、いずれも前記15回のオン、オフの繰り返しにより測定した平均値である。そして、これらのMax値の間の差異は、1.7195mmとなり、差が増大し、実施例の5〜6倍であった。
【0064】
しかしながら、スパッタOFFとスパッタONとの間の変位の量が大きいことは、好ましいことではない。オン、オフの繰り返しによる前記Max値の間の差異が大きいことは、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収することができず、ターゲットの変形を抑制できないからである。これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を得ることができず、不良率が増加し、かつ生産効率の低下を招く原因となる。
【0065】
なお、長時間スパッタOFFにした場合の変位のMax値は、0.3491mmであった。参考までに表1に示す。
その後(スパッタリング後)に、水冷、水圧を取り除いたときのフラットからの変位のMax値は0.04566mm、ターゲットの固定ネジを取り除いたときの、フラット状態からの変位のMax値は−0.04628mmであった(マイナスは逆反り、すなわち中央がやや凹む現象である)。
また、スパッタリングオフにおける温度は90.87°C、スパッタリングONにおける温度は406.4°Cであった。そして、スパッタリングオフにおける温度とスパッタリングオンにおける温度の差異は315.5°Cとなった。
【0066】
(比較例2)
次に、比較例2を説明する。テストピースとしては、4N5(ガス成分を除き、99.995wt%)の高純度チタンをターゲット材(厚さ0.45インチ、15.654インチφ)とした。バッキングプレートとしては、上記Cu−Cr合金(厚さ0.5インチ、15.654インチφ)を用いた。
【0067】
そして、Tiターゲットとバッキングプレートとの接合界面に、厚さ2mmのタンタル(Ta)板(インサート)を介在させ、テストピースとした。これらのターゲットとバッキングプレートの表面を清浄した後、真空容器に封入し、500°C、圧力1450kg/cm
2で、保持時間1hr、HIPした。
【0068】
界面にTa板(Taインサート材)を介在させたターゲットとバッキングプレートの接合後、ターゲット側から超音波探傷試験を行い、内部欠陥を観察した。この超音波探傷試験では、ターゲットとバッキングプレートの界面には欠陥が全く観察されなかった。
【0069】
次に、このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体を、中心部で1個、1/2R部で2個、外周部で2個サンプリングし、引張試験片を作製した。これらのサンプリングを使用して引張試験を実施した。
この引張試験の結果を実施した。この結果、接着強度は、7〜10kg/mm
2の範囲となり接着強度は不良となった。いずれのサンプル箇所においても、本願発明の好適な条件である3kgf/mm
2以上の接合強度を達成することができた。
【0070】
次に、比較例のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け、実施例1と同様の各種の測定を実施した。
この測定結果を表1に示す。このスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け(バッキングプレートの外周を固定)、該バッキングプレートの背面から水圧をかけて冷却水を流した。
【0071】
この後、38kWhで、33秒間のスパッタリング(スパッタON)を行い、さらに74秒間のスパッタリング停止(スパッタOFF)を行った。そして、この操作を15回繰り返した。この間、冷却は続行した。この15回の繰り返しにより、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の中央部の膨らみ(変位量)は一定となった。
なお、この場合の変位量は、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体をスパッタリング装置に取り付け時、すなわちフラット状態からの変位量である。
【0072】
前記スパッタOFFの際の、フラット状態からの変位のMax値は、上記の通り0.8946mmとなった。他方、スパッタリングオンにおけるフラット状態からの変位のMax値は、2.571mmとなった。これらは、いずれも前記15回のオン、オフの繰り返しにより測定した平均値である。そして、これらのMax値の間の差異は、1.6764mmとなり、差が増加し、実施例の5〜6倍であった。
比較例2のスパッタリング時の変形量は、実施例1に比べてやや少ないが、これはスパッタリングターゲットとバッキングプレートが拡散接合し、強固に接合されているためと考えられる。
【0073】
しかしながら、スパッタOFFとスパッタONとの間の変位の量が大きいことは、好ましいことではない。オン、オフの繰り返しによる前記Max値の間の差異が大きいことは、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収することができず、ターゲットの変形を抑制できないからである。これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を得ることができず、不良率が増加し、かつ生産効率の低下を招く原因となる。
【0074】
なお、長時間スパッタOFFにした場合の変位のMax値は、0.2982mmであった。参考までに表1に示す。
その後(スパッタリング後)に、水冷、水圧を取り除いたときのフラットからの変位のMax値は0.04161mm、ターゲットの固定ネジを取り除いたときの、フラット状態からの変位のMax値は−0.04584mmであった(マイナスは逆反り、すなわち中央がやや凹む現象である)。
また、スパッタリングオフにおける温度は90.99°C、スパッタリングONにおける温度は406.7°Cであった。そして、スパッタリングオフにおける温度とスパッタリングオンにおける温度の差異は315.7°Cとなった。
【0075】
以上の実施例と比較例の対比から明らかなように、チタンをターゲット材とし、バッキングプレートとしてCu−Cr合金を用いた場合、該Tiターゲットとバッキングプレートとの接合界面に、厚さ2mmのアルミ(Al)板、ニッケル(Ni)板および銀(Ag)板をインサート材として介在させた場合には、スパッタリングをオンにした場合のフラットからの変位の最大値とスパッタリングをオフにした場合のフラットからの変位の最大値との差が1mm以下となった。
【0076】
このように、ターゲット材がTi、バッキングプレートがCu−Cr合金であるとい特殊な材料であるにもかかわらず、スパッタリング時のターゲットとバッキングプレートとの界面の歪を吸収してターゲットの変形を抑制することができる。これによってハイパワーでのスパッタリングにおいても、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有する。