(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5694614
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】揚げ物衣用小麦粉
(51)【国際特許分類】
A23L 1/176 20060101AFI20150312BHJP
【FI】
A23L1/176
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-530842(P2014-530842)
(86)(22)【出願日】2014年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2014054721
【審査請求日】2014年7月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-217019(P2013-217019)
(32)【優先日】2013年10月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】日清フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】大村 雅人
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 育之
(72)【発明者】
【氏名】榊原 通宏
(72)【発明者】
【氏名】福留 真一
(72)【発明者】
【氏名】石塚 晃司
(72)【発明者】
【氏名】野崎 聡美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 美和
【審査官】
竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−069925(JP,A)
【文献】
特開昭62−285761(JP,A)
【文献】
特開平11−069945(JP,A)
【文献】
特開平10−052232(JP,A)
【文献】
特開平11−137198(JP,A)
【文献】
特開平09−191847(JP,A)
【文献】
特開2003−235482(JP,A)
【文献】
特開2013−141447(JP,A)
【文献】
特開平11−318366(JP,A)
【文献】
特開2002−065193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/10−1/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉と該小麦粉100質量部に対して0.05〜0.5質量部の乳化剤との混合物を、該混合物の温度が65〜99℃となる条件で1〜20秒間加熱処理してなり、該乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンから選択される1種以上であり、該加熱処理が、該混合物に過熱水蒸気又は飽和水蒸気を直接当てる処理である揚げ物衣用小麦粉。
【請求項2】
平均粒子径が100μm未満である請求項1に記載の揚げ物衣用小麦粉。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の揚げ物衣用小麦粉を含有した揚げ物用衣材。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の揚げ物衣用小麦粉を含有した天ぷら粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天ぷら、から揚げ等の揚げ物の衣材として有用な揚げ物衣用小麦粉に関し、詳細には、水への分散性が良好で作業性に優れ且つ衣がクリスピーな食感を有する揚げ物を提供し得る、揚げ物衣用小麦粉に関する。
【背景技術】
【0002】
衣付き揚げ物は、表面に衣材を付着させた具材を油中で加熱する、油ちょうによって得られる揚げ物食品である。具材と衣とを同時にバランスよく油ちょうすることによって、具材には、衣に包まれた状態で加熱されることに起因して素材の旨みが凝縮され、また衣には、油ちょうの際の高温の油によって水分が蒸発することに起因して焦げた油の風味とクリスピーな食感とが付与され、それらが相俟って揚げ物の特有の食味、食感が得られる。しかしながら、そのような特有の食味、食感を有する揚げ物を得るには、油ちょう油の温度管理、具材の大きさと下ごしらえ、衣付けの量、衣の粘度や溶き具合などについて、調理人に相応の経験が必要となるところ、一般家庭等においてそのような経験に基づいて油ちょうを行うのは稀であり、そのため、衣が厚く硬い食感になってしまったり、クリスピー感に欠ける食感になってしまったりするケースが多発していた。
【0003】
また、揚げ物を製造する際には、通常、小麦粉を主成分とする衣材を水と混合してバッター液(衣液)を調製し、このバッター液を具材に付着させるところ、従来衣材に用いられている小麦粉は水に対する分散性が悪く、しかも小麦粉に含まれるグルテンは、溶液状態で時間経過と共に網目構造を形成して粘調になるため、分散性の向上等のためにバッター液を長時間撹拌し続けることはできず、調製後速やかに使用する必要がある。そこで、衣材により適した小麦粉が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、小麦粉及び小麦粉100質量部に対して0.01〜0.5質量部の乳化剤からなり、平均粒子径が100〜180μmである、調理後に再加熱しても風味、食感のよい天ぷら用小麦造粒物が記載されている。この天ぷら用小麦造粒物の製造方法に関し、特許文献1の〔0012〕には、小麦粉と乳化剤との混合物に加水したものを、熱風温度120〜140℃、乾燥時間5秒以内の条件で乾燥しながら造粒することも記載されている。また特許文献2には、熱処理した小麦粉、酸化澱粉及びショ糖脂肪酸エステルを含有するフライ用衣組成物が記載されており、特許文献2の〔0011〕には、この熱処理した小麦粉を、小麦粉を80〜120℃の温度下で20〜90分間加熱することにより製造する旨記載されている。
【0005】
また特許文献3には、揚げ物用熱処理小麦粉として、含有澱粉が実質的にα化されておらず、グルテンバイタリティが未処理小麦粉の90〜98%で、グルテン膨潤度が105〜155%であるものが記載されている。特許文献3記載の揚げ物用熱処理小麦粉は、飽和水蒸気が導入された加圧状態の密閉系高速攪拌機中に小麦粉を導入し、該小麦粉を、品温65〜80℃、滞留時間2〜20秒間の条件で湿熱処理することにより製造されるもので、乳化剤は含有していない。また特許文献4には、蒸し饅頭、蒸しパン類等の蒸し物類に適した蒸し物類用小麦組成物として、小麦粉及び小麦粉100質量部に対して0.1〜2.0質量部の乳化剤を混合後、その混合物を品温80〜150℃、加熱時間5〜120分間の条件で間接加熱処理してなるものが記載されている。この間接加熱処理は、熱源として加熱水蒸気を用い、加熱水蒸気を小麦粉と乳化剤との混合物に直接当てるのではなく、該混合物が収容された容器に当てて、その容器内の該混合物を間接的に加熱する処理である。
【0006】
特許文献1〜3記載の技術によれば、食感が良好な揚げ物が得られるが、揚げ物の衣にはよりクリスピーな食感が求められている。また、衣の原料となる衣材には、水への分散性が良好でバッター液の調製等の作業性に優れ、揚げ物製造の手間が簡便になり得るものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−69925号公報
【特許文献2】特開2000−125794号公報
【特許文献3】特開平8−84568号公報
【特許文献4】特開2007−117002号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明の揚げ物衣用小麦粉は、小麦粉と該小麦粉100質量部に対して0.05〜0.5質量部の乳化剤との混合物を、該混合物の温度が65〜99℃となる条件で1〜20秒間加熱処理してなる。該乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンから選択される1種以上である。また本発明は、前記揚げ物衣用小麦粉を含有した揚げ物用衣材又は天ぷら粉である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、水への分散性が良好で作業性に優れ且つ衣がクリスピーな食感を有する揚げ物を提供し得る、揚げ物衣用小麦粉並びにそれを用いた揚げ物用衣材及び天ぷら粉に関する。
【0010】
本発明の揚げ物衣用小麦粉は、少なくとも小麦粉及び乳化剤を含む。本発明で原料として用いる原料小麦粉は、薄力粉、中力粉、強力粉、デュラム小麦粉のいずれでもよく、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、薄力粉、中力粉が特に好ましい。
【0011】
本発明で用いる乳化剤は、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンから選択される1種以上である。上記以外の乳化剤では、水への分散性が低下するおそれがある。本発明で用いる乳化剤は粉体、液体のいずれでもよい。
【0012】
本発明の揚げ物衣用小麦粉における小麦粉と乳化剤との配合割合は、小麦粉100質量部に対して乳化剤0.05〜0.5質量部であり、好ましくは乳化剤0.1〜0.45質量部、更に好ましくは乳化剤0.1〜0.35質量部である。小麦粉100質量部に対して乳化剤が0.05質量部未満であると、水への分散性が悪くなると共に、油ちょうして得られる衣の食感がねちゃついた感じとなり、小麦粉100質量部に対して乳化剤が0.5質量部を超えると、油ちょうして得られる衣の吸油が増え、食感が硬くなる。
【0013】
本発明の揚げ物衣用小麦粉は、小麦粉と乳化剤とが前記配合割合で配合された混合物を、該混合物の温度(品温)が65〜99℃となる条件で1〜20秒間加熱処理することにより得られる。加熱処理における混合物の品温が65℃未満であると、油ちょうして得られる衣のクリスピーな食感が低下し、該品温が100℃以上であると、製造工程が煩雑になると共に、揚げ物衣用小麦粉の粒子の造粒が過剰に起こるおそれがある。揚げ物衣用小麦粉粒子の造粒が過剰に起こると、揚げ物衣用小麦粉の平均粒子径が増大する結果、揚げ物衣用小麦粉を油ちょうして得られる衣の吸油が増え、食感が硬くなる。また、加熱時間が1秒未満又は20秒を超えると、衣のクリスピーな食感が低下したものとなる。小麦粉と乳化剤との混合物の加熱処理において、該混合物の品温は好ましくは70〜95℃であり、より好ましくは70〜90℃である。また、該混合物の加熱時間(該品温の維持時間)は好ましくは1〜15秒間、より好ましくは1〜13秒間である。
【0014】
このように、本発明の揚げ物衣用小麦粉を得るための前記加熱処理は、加熱温度(品温)が比較的低温で且つ処理時間が比較的短時間である温和な処理であるため、該加熱処理の熱媒体としては、過熱水蒸気あるいは飽和水蒸気を好適に用いることができる。即ち、小麦粉と乳化剤とが前記配合割合で配合された混合物の温度が65〜99℃となる条件で1〜20秒間加熱処理する方法(本発明の揚げ物衣用小麦粉の製造方法)の好ましい一例として、該混合物に過熱水蒸気あるいは飽和水蒸気を直接当ててこれを加熱処理する方法が挙げられる。より具体的には、小麦粉と乳化剤とを前記配合割合で混合し、この混合物をジャケット等の加温手段で加温された密閉容器に入れ、攪拌しながら該密閉容器内に過熱水蒸気あるいは飽和水蒸気を吹き込み、該混合物を加熱する方法が挙げられる。また、本発明の揚げ物衣用小麦粉の製造方法の好ましい他の一例として、攪拌移送機構を備え且つジャケット等の加温手段で加温された連続粉体移送装置(密封系高速撹拌機)に、小麦粉と乳化剤とを前記配合割合で連続的に導入して攪拌移送しながら、該装置内に高圧で飽和水蒸気を導入し、所望の加熱温度及び加熱時間となるように、これらの混合物を加熱攪拌する方法が挙げられる。
【0015】
このような加熱処理方法において、本発明に係る「小麦粉と乳化剤とが前記配合割合で配合された混合物の温度」は、「加熱中の小麦粉又は乳化剤の品温」としてもよく、「前記密閉容器又は前記連続粉体移送装置の出口から小麦粉及び乳化剤が排出される際のそれらの少なくとも一方の品温」(出口温度)としてもよい。また、本発明に係る「前記混合物の加熱時間」(前記混合物の品温の維持時間)は、「前記混合物(小麦粉及び乳化剤)が過熱水蒸気あるいは飽和水蒸気と接触する時間」としてもよく、「前記混合物が装置内に対流する時間」としてもよい。
【0016】
尚、前記加熱処理に関し、その実施前又は実施中に、小麦粉と乳化剤との混合物に加水しないことが好ましい。斯かるタイミングで混合物を含む系に加水すると、最終的に得られる揚げ物衣用小麦粉の粒子の造粒が過剰に起こり、該揚げ物衣用小麦粉の平均粒子径を所望の範囲に調整することが困難になるおそれがある。
【0017】
前記加熱処理を経て得られる本発明の揚げ物衣用小麦粉の平均粒子径は、揚げ物衣用小麦粉を油ちょうして得られる衣のクリスピーな食感を向上させる観点から、好ましくは100μm未満、更に好ましくは50〜95μm、特に好ましくは55〜90μmである。尚、本明細書において、小麦粉の平均粒子径とは、粒度分布測定装置を用いたレーザー回折・散乱法により測定された体積平均径を意味する。
また、本発明に使用する平均粒子径としては、メディアン径を用いることもでき、その場合、本発明の揚げ物衣用小麦粉の平均粒子径は、好ましくは30〜85μm、更に好ましくは35〜80μmである。
粒度分布測定装置としては、例えばマイクロトラックMT3000II(日機装株式会社)を用いることができる。
【0018】
本発明の揚げ物衣用小麦粉の平均粒子径を前記の好ましい範囲に設定するには、原料小麦粉として、平均粒子径が好ましくは35〜80μm、更に好ましくは40〜70μmの範囲内にあるものを用いればよい。例えば、平均粒子径40μm程度の原料小麦粉を用いた場合には、前記加熱処理を経た小麦粉(本発明の揚げ物衣用小麦粉)に対し、特に粒度調整を実施しなくても、該小麦粉の平均粒子径を前記の好ましい範囲に設定することができる。また例えば、平均粒子径90μm程度の原料小麦粉を用いた場合には、前記加熱処理を経た小麦粉に対し、必要に応じて粉砕処理を行った後、粒度調整することで、該小麦粉の平均粒子径を前記の好ましい範囲に設定することができる。粒度の調整方法は、篩や分級機等公知の方法を採用できる。尚、原料小麦粉の平均粒子径とは、前記の粒度分布測定装置を用いた体積平均径をいう。
【0019】
また、本発明の揚げ物用衣材は、前述した本発明の揚げ物衣用小麦粉を含有する。本発明の揚げ物用衣材は、前述した本発明の揚げ物衣用小麦粉のみを含有していてもよく、該揚げ物衣用小麦粉に加えて更に他の成分を含有していてもよい。この他の成分としては、この種の揚げ物用衣材に一般的に用いられる成分を特に制限なく用いることができ、例えば、糖類、穀粉、澱粉、油脂、調味料、香料、卵、増粘剤、乳化剤、食塩等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明の揚げ物用衣材は、天ぷら、から揚げ、フリッター、コロッケ、カツ等の揚げ物(衣付き揚げ物食品)の製造において衣材として使用される。即ち、本発明の揚げ物用衣材には、前述した本発明の揚げ物衣用小麦粉を含有した天ぷら粉、から揚げ粉等が含まれる。本発明の揚げ物用衣材を用いて揚げ物を製造する場合、該揚げ物用衣材を具材に付着させた後、該揚げ物用衣材が付着した具材を油で揚げるか、揚げ焼きする等の方法により油ちょうすればよい。あるいは、本発明の揚げ物用衣材を付着させた具材を、調理せずに冷蔵、チルドもしくは冷凍で保存もしくは流通させ、適時調理してもよい。本発明の揚げ物用衣材を用いて得られた揚げ物は、そのまま食してもよく、あるいは冷蔵、チルドもしくは冷凍で保存もしくは流通させ、適時再加熱して食してもよい。
【0021】
本発明の揚げ物用衣材を具材に付着させる手順としては、通常の手法を用いればよい。例えば、本発明の揚げ物用衣材を具材に直接押し付けたりまぶしたりして付着させてもよく、又は予め調味料、打ち粉、溶き卵、バッター液(本発明の揚げ物用衣材を含んでいてもいなくともよい)等を付着させた具材に、本発明の揚げ物用衣材を押し付けたりまぶしたりして付着させてもよい。あるいは、本発明の揚げ物用衣材を含むバッター液を調製した後、当該バッター液に具材を浸すか、当該バッター液を具材に噴霧する等して該揚げ物用衣材を具材に付着させてもよい。本発明の揚げ物用衣材を含むバッター液は、該揚げ物用衣材を水や卵液等の液体と混合することで調製することができ、例えば、該揚げ物用衣材100質量部に水50〜200質量部を加えて混合すればよい。本発明の揚げ物用衣材は、水への分散性が非常に良好なため、具材に直接付着させてもムラなくきれいに付着させることができ、また、しつこくかき回さなくても適度に分散したバッター液となるため、揚げ物の調理を極めて簡便に行うことができる。
【0022】
本発明の揚げ物用衣材を用いて製造される揚げ物の具材としては、特に限定されず、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉等の肉類、イカ、タコ、エビ、サケ、サバ、カレイ、貝類等の魚介類、大豆、米、ニンジン、タマネギ、カボチャ、ジャガイモ、サツマイモ、キノコ等の穀類、野菜類もしくは根菜類、およびこれらの加工品等が挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
〔実施例1〜5及び比較例1〜2〕
小麦粉として薄力粉(日清製粉製:フラワー)、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ製:リョートーシュガーエステルS-770)を用い、これらを下記表1に示す量で配合して均一に混合して混合物を得た。その混合物を密封系高速攪拌機に導入し、該攪拌機内に飽和水蒸気を導入しながら、加熱温度(出口温度)が80℃となる条件で5秒間加熱処理した。加熱処理後に乾燥して、実施例1〜5及び比較例1〜2の揚げ物衣用小麦粉を得た。こうして得られた各揚げ物衣用小麦粉の平均粒子径は、何れも61〜77μmの範囲内であった。
【0025】
〔実施例6〜11及び比較例3〜4〕
加熱処理における混合物の品温を適宜変更した以外は実施例5と同様にして、実施例6〜11及び比較例3〜4の揚げ物衣用小麦粉を得た。こうして得られた各揚げ物衣用小麦粉の平均粒子径は、何れも61〜77μmの範囲内であった。
【0026】
〔実施例12〜16及び比較例5〜7〕
加熱処理における加熱時間を適宜変更した以外は実施例5と同様にして、実施例12〜16及び比較例5〜7の揚げ物衣用小麦粉を得た。また、実施例15の揚げ物衣用小麦粉を、コーヒーミルを用いて粉砕し、実施例16の揚げ物衣用小麦粉を得た。
【0027】
〔実施例17〜19、比較例8〜9及び参考例1〜2〕
乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルの代わりにレシチン(理研ビタミン社製:レシオンLP-1)を用いた以外は実施例5と同様にして、実施例17〜19及び比較例8〜9の揚げ物衣用小麦粉を得た。また、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルの代わりにソルビタン脂肪酸エステル(理研ビタミン社製:ポエムO-80V)を用いた以外は実施例5と同様にして、参考例1〜2の揚げ物衣用小麦粉を得た。こうして得られた各揚げ物衣用小麦粉の平均粒子径は、何れも58〜91μmの範囲内であった。
【0028】
〔試験例〕
10名のパネラーに、各実施例及び比較例の揚げ物衣用小麦粉をそれぞれ単独で用いてバッター液を調製してもらい、そのときの揚げ物衣用小麦粉の水分散性を下記評価基準により評価してもらった。バッター液の調製は、揚げ物衣用小麦粉100質量部に対してベーキングパウダー1.5質量部及び水170質量部を加えて混合することにより行った。また、こうして調製した各バッター液に、1cm×1cm×5cmにカットしたサツマイモを浸漬して衣付けし、油ちょうして、衣付き揚げ物食品であるサツマイモ天ぷらを得た。得られた各サツマイモ天ぷらについて、10名のパネラーによりその食感を下記評価基準により評価した。以上の評価結果(10名のパネラーの平均点)を下記表1〜表4に示す。尚、表1は、各評価項目に対するショ糖脂肪酸エステル(乳化剤)の影響をまとめたものであり、表2は、加熱処理における加熱対象物(小麦粉と乳化剤との混合物)の品温の影響をまとめたものであり、表3は、加熱処理における加熱時間の影響をまとめたものであり、表4は、各評価項目に対するレシチン又はソルビタン脂肪酸エステル(乳化剤)の影響をまとめたものである。また表2及び表3には、比較容易の観点から、実施例5の結果を再掲している。
【0029】
(水分散性の評価基準)
5点:水への分散性が極めて良く、非常に良好。
4点:水への分散性が良く、良好。
3点:水への分散性が良くも悪くもない。
2点:水への分散性が悪く、ややダマができる。
1点:水への分散性が非常に悪く、ダマができる。
(食感の評価基準)
5点:衣が非常にクリスピーで、極めてサクサクしている。
4点:衣がクリスピーで、サクサクしている。
3点:衣がやや割れにくく、引き(硬さ)がある。
2点:衣が硬く、割れにくい。
1点:衣が極めて硬く弾力性があり、引きが強い。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
表1から明らかなように、比較例1及び2は、小麦粉100質量部に対しての乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル)の配合量が前記特定範囲(0.05〜0.5質量部)から外れているため、乳化剤の配合量が前記特定範囲内にある各実施例に比して低評価となった。
表2から明らかなように、比較例3及び4は、小麦粉と乳化剤との混合物の加熱処理における該混合物の品温が前記特定範囲(65〜99℃)から外れているため、該混合物の品温が前記特定範囲内にある各実施例に比して低評価となった。
表3から明らかなように、比較例5〜7は、小麦粉と乳化剤との混合物の加熱処理における加熱時間が前記特定範囲(1〜20秒間)から外れているため、該加熱時間が前記特定範囲内にある各実施例に比して低評価となった。また、実施例15と実施例16との対比から、揚げ物衣用小麦粉の平均粒子径を100μm未満に調整すると、揚げ物衣用小麦粉の水分散性を高レベルで維持しつつ、衣のクリスピーな食感を向上させ得ることがわかる。
表4から明らかなように、乳化剤としてレシチンを用いた実施例17〜19及び比較例8〜9は、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを用いた例(表1参照)と同様の結果であり、レシチンについてもその配合量が前記特定範囲(0.05〜0.5質量部)にあることの有効性が認められた。一方、乳化剤としてソルビタン脂肪酸エステルを用いた参考例1〜2は、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンであれば効果が認められる配合量であっても、目立った効果は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、水への分散性が良好で作業性に優れ且つ衣がクリスピーな食感を有する揚げ物が得られる。
【要約】
本発明の揚げ物衣用小麦粉は、小麦粉と該小麦粉100質量部に対して0.05〜0.5質量部の乳化剤との混合物を、該混合物の温度が65〜99℃となる条件で1〜20秒間加熱処理してなる。前記乳化剤は、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンから選択される1種以上である。前記乳化剤の配合割合は、小麦粉100質量部に対して、好ましくは0.1〜0.45質量部、更に好ましくは乳化剤0.1〜0.35質量部である。本発明の揚げ物衣用小麦粉の平均粒子径は、好ましくは100μm未満である。また本発明には、前記揚げ物衣用小麦粉を含有した揚げ物用衣材、及び前記揚げ物衣用小麦粉を含有した天ぷら粉が含まれる。