特許第5695426号(P5695426)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5695426レーザ干渉測長装置の絶対距離測定方法、及びレーザ干渉測長装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5695426
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】レーザ干渉測長装置の絶対距離測定方法、及びレーザ干渉測長装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 9/02 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
   G01B9/02
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-1987(P2011-1987)
(22)【出願日】2011年1月7日
(65)【公開番号】特開2012-145362(P2012-145362A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2013年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 薫
【審査官】 神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−135703(JP,A)
【文献】 特開2008−141054(JP,A)
【文献】 特開2009−250786(JP,A)
【文献】 特開平04−324304(JP,A)
【文献】 特開2002−081907(JP,A)
【文献】 特開2007−309677(JP,A)
【文献】 特開2009−117566(JP,A)
【文献】 特開2010−002244(JP,A)
【文献】 特開2012−134371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 9/00−11/30
G01B 21/00−21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収セルの飽和吸収線に基づき共振器長を変化させて特定波長のレーザ光を、所定の変調周波数及び所定の変調振幅の変調信号にて変調して被測定物に照射し、前記被測定物からの戻り光と参照用の参照光との干渉に基づく干渉信号に応じて測長を行うレーザ干渉測長装置の絶対距離測定方法であって、
前記被測定物が静止した状態で、前記共振器長を変化させて、前記レーザ光の波長を変更する波長変更工程と、
前記レーザ光の発振周波数が複数の前記飽和吸収線の各周波数にそれぞれ合致した各時点での各前記干渉信号の位相を検出する位相検出工程と、
前記複数の飽和吸収線の各周波数と前記各干渉信号の位相とに基づいて、前記被測定物までの第1の絶対距離を算出する第1絶対距離算出工程と
前記干渉信号に基づいて、前記被測定物の移動量を算出する移動量算出工程と、
前記第1の絶対距離及び前記移動量に基づいて、第2の絶対距離を算出する第2絶対距離算出工程と、
前記第2の絶対距離と、前記変調信号の変調周波数及び振幅と、複数の前記飽和吸収線のうち特定の飽和吸収線の中心となる周波数から求められる真空中の波長と、に基づいて、前記移動量を補正する移動量補正工程と、を備える
ことを特徴とする絶対距離測定方法。
【請求項2】
吸収セルの飽和吸収線に基づき共振器長を変化させて特定波長のレーザ光を、所定の変調周波数及び所定の変調振幅の変調信号にて変調して被測定物に照射し、前記被測定物からの戻り光と参照用の参照光との干渉に基づく干渉信号に応じて測長を行うレーザ干渉測長装置の絶対距離測定方法であって、
前記レーザ干渉測長装置は、空気屈折率を算出する屈折率算出装置を備え、
前記被測定物が静止した状態で、前記共振器長を変化させて、前記レーザ光の波長を変更する波長変更工程と、
前記レーザ光の発振周波数が複数の前記飽和吸収線の各周波数にそれぞれ合致した各時点での各前記干渉信号の位相を検出する位相検出工程と、
前記複数の飽和吸収線の各周波数と前記各干渉信号の位相とに基づいて、前記被測定物までの第1の絶対距離を算出する第1絶対距離算出工程と
前記干渉信号に基づいて、前記被測定物の移動量を算出する移動量算出工程と、
前記第1の絶対距離及び前記移動量に基づいて、第2の絶対距離を算出する第2絶対距離算出工程と、
前記第2の絶対距離と、前記被測定物の移動前後における前記空気屈折率の変化量とに基づいて、前記移動量を補正する移動量補正工程と、を備える
ことを特徴とする絶対距離測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の絶対距離測定方法において、
前記波長変更工程は、
前記レーザ光の発振周波数が3つ以上の前記飽和吸収線の各周波数にそれぞれ合致するように前記共振器長を変化させ、
前記位相検出工程は、
3つ以上の前記各時点での各前記干渉信号の位相を検出し、
前記第1絶対距離算出工程は、
前記3つ以上の飽和吸収線の各周波数と前記3つ以上の干渉信号の位相とに基づいて、前記第1の絶対距離を算出する
ことを特徴とする絶対距離測定方法。
【請求項4】
共振器長を変更可能に構成され、所定の変調周波数及び所定の変調振幅の変調信号にて変調された特定波長のレーザ光を生成するレーザ光生成部と、
前記レーザ光を被測定物に照射するとともに、前記被測定物からの戻り光と参照用の参照光との干渉に基づく干渉信号を出力する干渉計と、
前記レーザ光生成部の動作を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記レーザ光生成部の動作を制御し、吸収セルの飽和吸収線に基づき前記共振器長を変化させて前記レーザ光の波長を変更する波長制御部と、
前記レーザ光の発振周波数が複数の前記飽和吸収線の各周波数にそれぞれ合致した各時点での各前記干渉信号の位相を検出する位相検出部と、
前記複数の飽和吸収線の各周波数と前記各干渉信号の位相とに基づいて、前記被測定物までの第1の絶対距離を算出する第1絶対距離算出部と
前記干渉信号に基づいて、前記被測定物の移動量を算出する移動量算出部と、
前記第1の絶対距離及び前記移動量に基づいて、第2の絶対距離を算出する第2絶対距離算出部と、
前記第2の絶対距離と、前記変調信号の変調周波数及び振幅と、複数の前記飽和吸収線のうち特定の飽和吸収線の中心となる周波数から求められる真空中の波長と、に基づいて、前記移動量を補正する移動量補正部と、を備える
ことを特徴とするレーザ干渉測長装置。
【請求項5】
共振器長を変更可能に構成され、所定の変調周波数及び所定の変調振幅の変調信号にて変調された特定波長のレーザ光を生成するレーザ光生成部と、
前記レーザ光を被測定物に照射するとともに、前記被測定物からの戻り光と参照用の参照光との干渉に基づく干渉信号を出力する干渉計と、
空気屈折率を算出する屈折率算出装置と、
前記レーザ光生成部の動作を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記レーザ光生成部の動作を制御し、吸収セルの飽和吸収線に基づき前記共振器長を変化させて前記レーザ光の波長を変更する波長制御部と、
前記レーザ光の発振周波数が複数の前記飽和吸収線の各周波数にそれぞれ合致した各時点での各前記干渉信号の位相を検出する位相検出部と、
前記複数の飽和吸収線の各周波数と前記各干渉信号の位相とに基づいて、前記被測定物までの第1の絶対距離を算出する第1絶対距離算出部と、
前記干渉信号に基づいて、前記被測定物の移動量を算出する移動量算出部と、
前記第1の絶対距離及び前記移動量に基づいて、第2の絶対距離を算出する第2絶対距離算出部と、
前記第2の絶対距離と、前記被測定物の移動前後における前記空気屈折率の変化量とに基づいて、前記移動量を補正する移動量補正部と、を備える
ことを特徴とするレーザ干渉測長装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ干渉測長装置の絶対距離測定方法、及びレーザ干渉測長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物までの距離を測定する装置として、例えば、追尾式レーザ干渉計が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の追尾式レーザ干渉計は、以下に示す再帰反射体、光学系、2軸回転機構、及びコントローラを備える。
再帰反射体は、被測定物に取り付けられ、入射光を入射方向に沿う方向に反射させる。
干渉計は、測定光を出射するとともに、以下に示す信号をコントローラに出力する。
すなわち、干渉計は、被測定物からの戻り光(再帰反射体にて反射された戻り光)と参照用の参照光との干渉に基づく第1の信号をコントローラに出力する。また、干渉計は、測定光と被測定物からの戻り光との光軸のずれ量に基づく第2の信号をコントローラに出力する。
2軸回転機構は、コントローラによる制御の下、干渉計の姿勢を変更することで、測定光の出射方向を変更する。
【0003】
コントローラは、干渉計からの第2の信号に基づいて、光軸のずれ量が0となるように、2軸回転機構の動作を制御し、再帰反射体を追尾する(測定光の出射方向を再帰反射体に向ける)。
そして、特許文献1に記載の追尾式レーザ干渉計では、距離を測定する距離センサ等を別途追加することなく、以下に示す方法により、被測定物(再帰反射体)までの絶対距離を測定している。
特許文献1に記載の技術では、光軸のずれ量と、2軸回転機構の角度調整量と、被測定物までの絶対距離との間に所定の関係があることに着目している。
そして、光軸のずれ量が既知の値となるまで2軸回転機構を動作させ、当該動作させた際の2軸回転機構の角度調整量と既知の値である光軸のずれ量とに基づいて、上記関係から被測定物までの絶対距離を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−309677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、光軸のずれ量を検出する位置検出器(例えば、受光素子)のダイナミックレンジに制限され、被測定物までの距離が大きい場合には、被測定物までの絶対距離の算出が困難なものとなる、という問題がある。
【0006】
本発明の目的は、被測定物までの絶対距離を良好に算出できる絶対距離測定方法、及びレーザ干渉測長装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の絶対距離測定方法は、吸収セルの飽和吸収線に基づき共振器長を変化させて特定波長のレーザ光を被測定物に照射し、前記被測定物からの戻り光と参照用の参照光との干渉に基づく干渉信号に応じて測長を行うレーザ干渉測長装置の絶対距離測定方法であって、前記被測定物が静止した状態で、前記共振器長を変化させて、前記レーザ光の波長を変更する波長変更工程と、前記レーザ光の発振周波数が複数の前記飽和吸収線の各周波数にそれぞれ合致した各時点での各前記干渉信号の位相を検出する位相検出工程と、前記複数の飽和吸収線の各周波数と前記各干渉信号の位相とに基づいて、前記被測定物までの第1の絶対距離を算出する第1絶対距離算出工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明では、レーザ光の波長を走査した場合に複数の飽和吸収線が観測される各時点での各干渉信号の位相と、前記複数の飽和吸収線の各周波数と、被測定物までの第1の絶対距離との間に所定の関係があることに着目した。
そして、本発明の絶対距離測定方法は、上述した波長変更工程及び位相検出工程により前記各時点での各干渉信号の位相を検出し、上述した第1絶対距離算出工程により、前記所定の関係を利用することで、被測定物までの第1の絶対距離を算出する。
このことにより、従来のように位置検出器のダイナミックレンジに制限されることなく、被測定物までの絶対距離を良好に算出できる。
【0009】
また、レーザ干渉測長装置として、被測定物が3次元的に移動せずに測長装置に対して近接隔離するように直線的にのみ移動し、このような被測定物までの絶対距離を測定する構成(レーザ光の出射方向の変更を不要とする構成)とした場合には、従来の追尾式干渉計のような2軸回転機構や位置検出器は不要である。
このようなレーザ干渉測長装置において、被測定物までの絶対距離を測定する場合に、本発明の絶対距離測定方法を実施すれば、2軸回転機構や位置検出器を別途、追加することなく、被測定物までの絶対距離を良好に測定できる。
【0010】
本発明の絶対距離測定方法では、前記波長変更工程は、前記レーザ光の発振周波数が3つ以上の前記飽和吸収線の各周波数にそれぞれ合致するように前記共振器長を変化させ、前記位相検出工程は、3つ以上の前記各時点での各前記干渉信号の位相を検出し、前記第1絶対距離算出工程は、前記3つ以上の飽和吸収線の各周波数と前記3つ以上の干渉信号の位相とに基づいて、前記第1の絶対距離を算出することが好ましい。
本発明では、3つ以上の前記各時点での各干渉信号の位相と、3つ以上の飽和吸収線の各周波数とに基づいて、第1の絶対距離を算出するので、第1の絶対距離を精度良く算出できる。
【0011】
本発明の絶対距離測定方法では、前記干渉信号に基づいて、前記被測定物の移動量を算出する移動量算出工程と、前記第1の絶対距離及び前記移動量に基づいて、第2の絶対距離を算出する第2絶対距離算出工程とを備える。
すなわち、本発明では、絶対距離測定方法は、上述した移動量算出工程及び第2絶対距離算出工程を備える。
このことにより、被測定物までの絶対距離を測定する際に、例えば、被測定物の移動に伴い、順次、被測定物の移動量を算出する(移動量算出工程)。そして、算出した移動量を、第1絶対距離算出工程にて算出された第1の絶対距離(初期位置)に加算または減算して第2の絶対距離を算出する(第2絶対距離算出工程)。
このように算出された第2の絶対距離を被測定物までの絶対距離とすれば、被測定物の移動に伴い、順次、第1絶対距離算出工程を実施する方法と比較して、測長を容易にかつ迅速に実施できる。
【0012】
本発明の絶対距離測定方法では、前記第2の絶対距離と、前記変調信号の変調周波数及び振幅と、複数の前記飽和吸収線のうち特定の飽和吸収線の中心となる周波数から求められる真空中の波長と、に基づいて、前記移動量を補正する移動量補正工程と、に基づいて、前記移動量を補正する移動量補正工程を備える。
ところで、測長に用いられるレーザ光が変調信号にて変調されている場合や、測長中に空気屈折率が変動した場合等には、移動量算出工程にて算出された移動量に、被測定物の位置(第2の絶対距離)に応じた誤差が含まれることとなる。
本発明では、絶対距離測定方法は、上述した移動量補正工程を備えるので、移動量に含まれる上述した被測定物の位置に応じた誤差を除去し、移動量を適切な値とすることができる。
【0013】
前述のように、本発明の絶対距離測定方法では、前記レーザ干渉測長装置は、所定の変調周波数及び所定の変調振幅の変調信号にて変調した前記レーザ光を前記被測定物に照射し、前記移動量補正工程は、前記第2の絶対距離、前記変調周波数、及び前記変調振幅に基づいて、前記移動量を補正する。
すなわち、本発明では、移動量補正工程は、第2の絶対距離、変調周波数、及び変調振幅に基づいて、移動量を補正するので、レーザ光の変調により生じる誤差を適切に除去し、移動量を適切な値とすることができる。
【0014】
本発明の絶対距離測定方法では、前記レーザ干渉測長装置は、空気屈折率を算出する屈折率算出装置を備え、前記移動量補正工程は、前記第2の絶対距離と前記被測定物の移動前後における前記空気屈折率の変化量とに基づいて、前記移動量を補正する、としてもよい
本発明では、移動量補正工程は、第2の絶対距離と被測定物の移動前後における空気屈折率の変化量とに基づいて、移動量を補正するので、空気屈折率の変動により生じる誤差を適切に除去し、移動量を適切な値とすることができる。
【0015】
本発明のレーザ干渉測長装置は、共振器長を変更可能に構成され、所定の変調周波数及び所定の変調振幅の変調信号にて変調された特定波長のレーザ光を生成するレーザ光生成部と、前記レーザ光を被測定物に照射するとともに、前記被測定物からの戻り光と参照用の参照光との干渉に基づく干渉信号を出力する干渉計と、前記レーザ光生成部の動作を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記レーザ光生成部の動作を制御し、吸収セルの飽和吸収線に基づき前記共振器長を変化させて前記レーザ光の波長を変更する波長制御部と、前記レーザ光の発振周波数が複数の前記飽和吸収線の各周波数にそれぞれ合致した各時点での各前記干渉信号の位相を検出する位相検出部と、前記複数の飽和吸収線の各周波数と前記各干渉信号の位相とに基づいて、前記被測定物までの第1の絶対距離を算出する第1絶対距離算出部と、前記干渉信号に基づいて、前記被測定物の移動量を算出する移動量算出部と、前記第1の絶対距離及び前記移動量に基づいて、第2の絶対距離を算出する第2絶対距離算出部と、前記第2の絶対距離と、前記変調信号の変調周波数及び振幅と、複数の前記飽和吸収線のうち特定の飽和吸収線の中心となる周波数から求められる真空中の波長と、に基づいて、前記移動量を補正する移動量補正部と、を備えることを特徴とする。
本発明のレーザ干渉測長装置は、さらに、空気屈折率を算出する屈折率算出装置を備え、前記移動量補正工程は、前記第2の絶対距離と前記被測定物の移動前後における前記空気屈折率の変化量とに基づいて、前記移動量を補正する、としてもよい。
本発明では、レーザ干渉測長装置は、上述した絶対距離測定方法を実施する装置であるため、上述した絶対距離測定方法と同様の作用及び効果を享受できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態におけるレーザ干渉測長装置を示すブロック図。
図2】第1実施形態におけるレーザ光生成部を示すブロック図。
図3】第1実施形態における制御装置を示すブロック図。
図4】第1実施形態における波長制御部による処理を説明するための図。
図5】第1実施形態における位相検出部による処理を説明するための図。
図6】第1実施形態における位相検出部による処理を説明するための図。
図7】第1実施形態における絶対距離測定方法を説明するフローチャート。
図8】第1実施形態における第1の絶対距離の算出工程を説明するフローチャート。
図9】第2実施形態における第1の絶対距離の算出工程を説明するフローチャート。
図10】第2実施形態における絶対距離測定方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
〔レーザ干渉測長装置の構成〕
図1は、第1実施形態におけるレーザ干渉測長装置1(以下、測長装置1)を示すブロック図である。
測長装置1は、レーザ光の干渉を利用して、当該測長装置1から被測定物(後述するコーナーキューブ20)までの絶対距離を測定する装置である。
この測長装置1は、図1に示すように、レーザ光生成部10と、コーナーキューブ20と、干渉計30と、屈折率算出装置40と、差動検出回路50と、制御装置60とを備える。
【0018】
〔レーザ光生成部の構成〕
図2は、レーザ光生成部10を示すブロック図である。
レーザ光生成部10は、図2に示すように、レーザ発生部11と、レーザ光検出部12と、変復調信号発生器13と、アクチュエータ駆動回路14と、ロックインアンプ15とを備える。
レーザ発生部11は、波長808nmのレーザ光L1を放出する励起用半導体レーザ111と、レーザ光L1を入力し、波長532nmのレーザ光L2を出力する共振波生成部112とを備える。
共振波生成部112は、誘導輻射から波長1064nmの光を発光するNd:YVO4結晶112A、波長1064nmの光を反射させ波長532nmの光とするKTP結晶(非線形光学結晶)112B、レーザ光の特定周波数のみを透過させるエタロン112C、波長1064nmの光を反射させ波長532nmの光を透過させる反射鏡112D等の光学素子が共振器筐体112Eに収納された構成を有する。
そして、共振器筐体112E内部にエタロン112Cを配設することで、シングルモードのレーザ光L2が得られる。
また、共振器筐体112E内部には、電圧の印加により反射鏡112Dの位置を変更(共振器長を変更)するピエゾ素子等のアクチュエータ112Fが配設されている。
【0019】
レーザ光検出部12は、図2に示すように、λ/2板121と、偏光ビームスプリッタ122,123と、λ/4板124と、ヨウ素セル(吸収セル)125と、反射鏡126と、光検出器127とを備える。
そして、レーザ光L2は、λ/2板121を透過した後、偏光ビームスプリッタ122で、測長等に使用されるレーザ光L3と、後述する周波数安定化制御に使用されるレーザ光L4に分離される。
また、レーザ光L4は、偏光ビームスプリッタ123、λ/4板124、及びヨウ素セル125を通過した後、反射鏡126にてヨウ素セル125に向けて反射される。
そして、レーザ光L4は、再度、ヨウ素セル125及びλ/4板124を通過した後、偏光ビームスプリッタ123にて光検出器127に向けて反射され、光検出器127にて光電変換されて光出力信号S1として出力される。
【0020】
変復調信号発生器13は、アクチュエータ駆動回路14に変調周波数1fHzの変調信号Sm1を出力し、ロックインアンプ15に周波数2f,3fHzの変調信号Sm2,Sm3を出力する。
アクチュエータ駆動回路14は、制御装置60による制御の下、アクチュエータ112Fを駆動させ(アクチュエータ112Fに電圧Vを印加し)、変復調信号発生器13からの変調信号Sm1でレーザ光L2を変調する。
ロックインアンプ15は、アクチュエータ駆動回路14にて変調信号Sm1に基づき変調されたレーザ光L2の励起により得られる光出力信号S1を周波数2f,3fHzの各変調信号Sm2,Sm3でそれぞれ復調し、2次,3次微分信号S2,S3をそれぞれ出力する。
【0021】
〔コーナーキューブの構成〕
コーナーキューブ20は、入射光を入射方向に沿って反射させるものであり、被測定物(図示略)に取り付けられる。
なお、本実施形態では、被測定物は、干渉計30に対して直線的に近接隔離するように移動するものである。すなわち、コーナーキューブ20も同様である。
【0022】
〔干渉計の構成〕
干渉計30は、レーザ光生成部10にて生成されたレーザ光L3を被測定物(コーナーキューブ20)に出射するとともに、被測定物からの戻り光(コーナーキューブ20にて反射された戻り光)と参照用の参照光との干渉に基づく干渉信号SiA〜SiDを出力する。
本実施形態では、干渉計30は、公知のマイケルソン干渉計で構成されている。
干渉計30は、図1に示すように、λ/2板31,36と、偏光ビームスプリッタ32,39A,39Bと、λ/4板33,35,38と、コーナーキューブ34と、ビームスプリッタ37と、PD(Photo Detector)30A〜30Dとを備える。
レーザ光生成部10にて生成され干渉計30に入力されたレーザ光L3は、λ/2板31を通過した後、偏光ビームスプリッタ32で、S偏光成分である参照用の参照光Lrと、測定用の測定光Lmとに分離される。
また、参照光Lrは、λ/4板33を通過した後、コーナーキューブ34にてλ/4板33に向けて反射され、λ/4板33を再度、通過する(λ/4板33を2回通過する)ことでP偏光となり、偏光ビームスプリッタ32を通過する。
【0023】
一方、測定用の測定光Lmは、λ/4板35を通過した後、被測定物に出射される。
また、測定光Lmは、コーナーキューブ20にて干渉計30(λ/4板35)に向けて反射され、λ/4板35を再度、通過する(λ/4板35を2回通過する)ことでS偏光となり、偏光ビームスプリッタ32にて反射される。
【0024】
そして、偏光ビームスプリッタ32を通過した参照光Lrと、偏光ビームスプリッタ32にて反射された測定光Lmは、干渉光Liとなる。
干渉光Liは、λ/2板36を通過した後、ビームスプリッタ37にて2つの干渉光Li1,Li2に分離される。
干渉光Li1は、λ/4板38を通過した後、偏光ビームスプリッタ39Aで、S偏光成分及びP偏光成分に分離される。
そして、S偏光成分及びP偏光成分は、PD30A,30Bにてそれぞれ光電変換されて、干渉信号SiA,SiBとしてそれぞれ出力される。
【0025】
一方、干渉光Li2は、偏光ビームスプリッタ39Bで、S偏光成分及びP偏光成分に分離される。
そして、S偏光成分及びP偏光成分は、PD30C,30Dにてそれぞれ光電変換されて、干渉信号SiC,SiDとしてそれぞれ出力される。
なお、上述した光路を辿ることから、各干渉信号SiA〜SiDは、位相が90°ずれていることとなる。
【0026】
例えば、参照光Lr及び測定光Lmのそれぞれの平面波Er,Emを以下の式(1)とした場合、4つのPD30A〜30Dのいずれかに照射される光の強度Iは、以下の式(2)で与えられる。
【0027】
【数1】
【0028】
【数2】
【0029】
ここで、式(2)において、λ,f,cは、それぞれ真空中の波長、レーザ光L2の発振周波数、及び光速度である。
また、dは、参照光Lrがコーナーキューブ34に到達するまでの光路長である。d´は、測定光Lmがコーナーキューブ20に到達するまでの光路長である。
本実施形態では、d´−d=0となる箇所を原点としている。
【0030】
〔屈折率算出装置の構成〕
屈折率算出装置40は、具体的な図示は省略したが、温度センサと、気圧センサと、湿度センサと、演算装置とを備える。
温度センサ、気圧センサ、及び湿度センサは、干渉計30からコーナーキューブ20に出力される測定光Lmの光路近傍の温度、気圧、及び湿度をそれぞれ計測する。
演算装置は、上記各センサにて計測された温度、気圧、及び湿度に基づいて、空気屈折率を算出する。
例えば、演算装置は、上記各センサにて計測された温度、気圧、及び湿度の値を、エドレンの実験式に代入することで、空気屈折率を算出する。
そして、屈折率算出装置40は、算出した空気屈折率に応じた信号Snを出力する。
【0031】
〔差動検出回路〕
差動検出回路50は、干渉計30から干渉信号SiA〜SiDを入力する。そして、差動検出回路50は、干渉信号SiA,SiBを差動検出し、また、干渉信号SiC,SiDを差動検出し、90°位相がずれた2相の干渉信号Siを出力する。
【0032】
〔制御装置の構成〕
図3は、制御装置60を示すブロック図である。
制御装置60は、CPU(Central Processing Unit)や、メモリ等を備え、メモリに記憶されたプログラムにしたがって、種々の処理を実行する。
具体的に、制御装置60は、レーザ光生成部10及び屈折率算出装置40の動作を制御するとともに、差動検出回路50からの2相の干渉信号Si、及び屈折率算出装置40からの信号Snに基づいて、被測定物までの絶対距離を測定する。
この制御装置60は、図3に示すように、波長制御部61と、位相検出部62と、第1絶対距離算出部63と、移動量算出部64と、第2絶対距離算出部65と、移動量補正部66と、メモリ67等を備える。
【0033】
図4は、波長制御部61による処理を説明するための図である。具体的に、図4は、波長532.245nm帯域の飽和吸収線を示した図である。
なお、図4(A)及び図4(B)は、2次,3次微分信号S2,S3の出力値を縦軸とし、周波数を横軸とし、共振器長を変化させた場合(レーザ光L2の波長(発振周波数)を変化させた場合)での2次,3次微分信号S2,S3の波形をそれぞれ示す図である。図4(C)は、図4(A)の領域Ar1を拡大した図である。図4(D)は、図4(B)の領域Ar2を拡大した図である。
図4(B)に示すように、2次微分信号S2には、周波数の低い側から順に、a1〜a15の飽和吸収線が観測される。また、図4(A)に示すように、3次微分信号S3においても、2次微分信号S2と略同様の特徴を有する飽和吸収線が観測される。
【0034】
波長制御部61は、干渉計30からの2次,3次微分信号S2,S3に基づいて、アクチュエータ駆動回路14の動作を制御し(アクチュエータ112Fに印加する電圧Vを調整し)、以下に示す周波数安定化制御を実施する。
すなわち、波長制御部61は、アクチュエータ112Fに印加する電圧Vを、レーザ光L2の発振周波数が特定の飽和吸収線の中心となる周波数に一致する電圧Vに変更した後、2次,3次微分信号S2,S3を常時、観測する。
そして、波長制御部61は、2次微分信号S2の出力値が所定の電圧値(飽和吸収線と認定できる電圧値)以上となり、かつ、3次微分信号S3の出力値が0V近傍となるように電圧Vを調整する。
このような周波数安定化制御により、レーザ光L2の発振周波数は、特定の飽和吸収線の中心となる周波数に安定化される。
言い換えれば、レーザ光L2の波長は、特定の飽和吸収線の中心となる周波数に応じた波長に安定化される。
【0035】
図5及び図6は、位相検出部62による処理を説明するための図である。具体的に、図5は、時間に伴う干渉信号Siの強度(振幅)変化を示す図である。また、図6は、2相の干渉信号Siによるリサージュ波形を示す図である。
なお、図5及び図6では、2相の干渉信号Siにおいて、干渉信号SiA,SiBが差動検出された干渉信号を干渉信号SiABとし、干渉信号SiC,SiDが差動検出された干渉信号を干渉信号SiCDとしている。
位相検出部62は、差動検出回路50からの2相の干渉信号Siに基づいて、干渉信号Siの位相φを検出し、干渉信号Siの位相φの変動分Δφを算出する。
上述したように、2相の干渉信号Siは、90°位相がずれているため、図5及び図6に示すように、概略円形のリサージュ信号となる。
そして、位相検出部62は、リサージュ信号の変化を検出することで、干渉信号Siの位相φの変動分Δφを算出している。
【0036】
具体的に、位相検出部62は、リサージュ信号が所定方向に1周分変化する度に、計数値Nを1だけカウントアップする。また、位相検出部62は、リサージュ信号が前記所定方向と逆方向に1周分変化する度に、計数値Nを1だけカウントダウンする。
なお、計数値Nは、干渉信号Siの位相φの変動分Δφを2πで正規化した値に相当するものである。
また、位相検出部62は、リサージュ信号の1周分内で数百〜数千個分に等分割し、リサージュ信号の変化に応じて、計数値Nを変更する。
例えば、リサージュ信号の1周分内を100個に等分割した場合には、位相検出部62は、リサージュ信号の変化に応じて、計数値Nを0.01ずつ変更していく。
【0037】
第1絶対距離算出部63は、屈折率算出装置40からの信号Snと、メモリ67に記憶された飽和吸収線の周波数と、位相検出部62にて計数された計数値Nとに基づいて、被測定物までの第1の絶対距離(幾何学的距離)を算出する。
移動量算出部64は、屈折率算出装置40からの信号Snと、メモリ67に記憶された飽和吸収線の周波数と、位相検出部62にて計数された計数値Nとに基づいて、被測定物の移動量(幾何学的距離)を算出する。
【0038】
第2絶対距離算出部65は、第1絶対距離算出部63にて算出された第1の絶対距離に、移動量算出部64にて算出された移動量を加算または減算することで、被測定物までの第2絶対距離を算出する。
移動量補正部66は、第2絶対距離算出部65にて算出された第2絶対距離に基づいて、移動量算出部64にて算出された移動量を補正する。
なお、各構成63〜65の具体的な処理については、以下の絶対距離測定方法を説明する際に詳細に説明する。
メモリ67は、制御プログラムや、上述した各構成61〜66にて用いられる情報を記憶する。
【0039】
〔絶対距離測定方法〕
図7は、絶対距離測定方法を説明するフローチャートである。
次に、上述した測長装置1による絶対距離測定方法について説明する。
なお、絶対距離測定方法は、図7に示すように、第1の絶対距離の算出工程(S1)、移動量算出工程(S2)、第2絶対距離算出工程(S3)、及び移動量補正工程(S4)が順に実施されるものである。
【0040】
〔第1の絶対距離の算出工程(S1)〕
図8は、第1の絶対距離の算出工程S1を説明するフローチャートである。
利用者は、被測定物を初期位置に静止させた状態で、測長装置1を操作し、制御装置60に被測定物(初期位置)までの第1の絶対距離を算出させる(ステップS1)。
なお、第1の絶対距離の算出工程S1は、測長装置1の起動時等に行われるものである。
先ず、波長制御部61は、上述した周波数安定化制御によりレーザ光L2の波長を第1の飽和吸収線の中心となる周波数に応じた第1の波長λに安定化させる(ステップS1A)。
ここで、第1の飽和吸収線としては、例えば、飽和吸収線a10(図4)とされる。
次に、位相検出部62は、リサージュ信号の変化を計数し、計数値Nをメモリ67に記憶させる(ステップS1B)。
次に、制御装置60は、屈折率算出装置40に空気屈折率を算出させる。そして、制御装置60は、屈折率算出装置40からの信号Snを入力し、算出された空気屈折率n(n)をメモリ67に記憶させる(ステップS1C)。
【0041】
次に、波長制御部61は、上述した周波数安定化制御によりレーザ光L2の波長を第2の飽和吸収線の中心となる周波数に応じた第2の波長λに安定化させる(ステップS1D)。
ここで、第2の飽和吸収線としては、例えば、飽和吸収線a1(図4)とされる。
次に、位相検出部62は、ステップS1Bと同様に、リサージュ信号の変化を計数し、計数値Nをメモリ67に記憶させる(ステップS1E)。
次に、制御装置60は、ステップS1Cと同様に、屈折率算出装置40にて算出された空気屈折率n(n)をメモリ67に記憶させる(ステップS1F)。
【0042】
次に、波長制御部61は、上述した周波数安定化制御によりレーザ光L2の波長を第1の波長λに再度、安定化させる(ステップS1G)。
次に、位相検出部62は、ステップS1B,S1Eと同様に、リサージュ信号の変化を計数し、計数値Nをメモリ67に記憶させる(ステップS1H)。
次に、制御装置60は、ステップS1C,S1Fと同様に、屈折率算出装置40にて算出された空気屈折率n(n)をメモリ67に記憶させる(ステップS1I)。
以上説明したステップS1A,S1D,S1Gが本発明に係る波長変更工程に相当するものである。また、ステップS1B,S1E,S1Hが本発明に係る位相検出工程に相当するものである。
【0043】
次に、第1絶対距離算出部63は、以下に示すように、第1の絶対距離を算出する(ステップS1J:第1絶対距離算出工程)。
ここで、第1の絶対距離Lは、以下の式(3)で与えられる。
【0044】
【数3】
【0045】
なお、式(3)において、nは空気屈折率であり、λはレーザ光L2の波長である。また、式(3)では、φ/(2π)をMとしている。
ここで、被測定物を静止した状態で(第1の絶対距離Lを一定にした状態で)、レーザ光L2の波長をδλだけ変更すると、干渉信号Siの位相が変化し、MがδMだけ変わるとする。
この場合、第1の絶対距離Lは、以下の式(4)で与えられる。
【0046】
【数4】
【0047】
そして、式(3),(4)からMを消すことで、以下の式(5)が得られる。
【0048】
【数5】
【0049】
そして、ステップS1A〜S1Fでは、レーザ光L2の波長を第1の波長λから第2の波長λに変更しているため、式(5)において、λをλとし、λ+δλをλとすれば、式(5)は、以下の式(6)に変形できる。
【0050】
【数6】
【0051】
そして、第1絶対距離算出部63は、式(6)を利用して、レーザ光L2の波長が第1の波長λから第2の波長λに変更された過程(ステップS1A〜S1F)において、メモリ67に記憶されている情報(2つの計数値N、空気屈折率n,n、第1,第2の飽和吸収線の中心となる各周波数)から、1つ目の第1の絶対距離を算出する。
なお、δMは、レーザ光L2の波長が第1の波長λから第2の波長λに変更された際の干渉信号Siの位相変化に相当するものであるため、ステップS1Bにおいてメモリ67に記憶された計数値Nと、ステップS1Eにおいてメモリ67に記憶された計数値Nとで求めることができる。
また、第1,第2の波長λ,λの真空中の波長λ10,λ20は、メモリ67に予め記憶されている第1,第2の飽和吸収線の中心となる各周波数から求めることができる。
【0052】
また、同様に、第1絶対距離算出部63は、式(6)を利用して、レーザ光L2の波長が第2の波長λから第1の波長λに変更された過程(ステップS1D〜S1I)において、メモリ67に記憶されている情報から、2つ目の第1の絶対距離を算出する。
なお、δMは、ステップS1Eにおいてメモリ67に記憶された計数値Nと、ステップS1Hにおいてメモリ67に記憶された計数値Nとで求めることができる。
次に、第1絶対距離算出部63は、算出した2つの第1の絶対距離を平均化する(ステップS1K)。
【0053】
〔移動量算出工程(S2)〕
なお、以降の工程S2〜S4は、測長装置1の起動後(ステップS1の後)、上述した周波数安定化制御によりレーザ光L2の波長を特定の飽和吸収線の中心となる周波数に応じた波長に安定化させた状態で、被測定物が実際に移動した場合での移動量等を算出する工程である。
ここで、被測定物の移動量Dは、以下の式(7)で与えられる。
【0054】
【数7】
【0055】
ここで、式(7)において、nは、被測定物の移動後の空気屈折率である。また、λは、前記特定の飽和吸収線の中心となる周波数に応じた波長の真空中での波長である。さらに、Nは、被測定物の移動前後における干渉信号Siの位相の変動分Δφを2πで正規化したもの(Δφ/2π)である。なお、位相検出部62の計数値Nを被測定物の移動前に0にリセットしておけば、被測定物の移動後に位相検出部62にて計数された計数値Nは、式(7)中のNに相当するものとなる。
【0056】
そして、移動量算出部64は、被測定物の移動後に屈折率算出装置40にて算出された空気屈折率n及び位相検出部62にて計数された計数値Nと、メモリ67に記憶された前記特定の飽和吸収線の中心となる周波数から求められる真空中の波長λを式(7)に代入することで、移動量Dを算出する。
【0057】
〔第2の絶対距離の算出工程(S3)〕
第2絶対距離算出部65は、ステップS1Kにおいて平均化された移動前(初期位置に位置付けられた)の被測定物までの第1の絶対距離に、ステップS2において算出された移動量Dを加算または減算することで、移動後の被測定物までの第2の絶対距離を算出する(ステップS3:第2の絶対距離算出工程)。
【0058】
〔移動量補正工程(S4)〕
ところで、レーザ光L2は、変調信号Sm1に基づき変調されている。このようにレーザ光L2に変調がかかっている場合、変調信号Sm1の変調周波数(1fHz)をΩ、振幅をλ´とすると、干渉信号Siの本来の位相φ´は、以下の式(8)で与えられる。
【0059】
【数8】
【0060】
ここで、λ≫λ´とすると、式(8)は、以下の式(9)に変更できる。
【0061】
【数9】
【0062】
すなわち、ステップS2では、本来の位相φ´ではなく、位相φ(計数値Nに対応)を利用して移動量Dを算出しているため、式(9)の最右辺の第2項に応じた誤差が含まれている。
ここで、式(9)の最右辺の第2項における(d´−d)は、ステップS3において算出された移動後の被測定物までの第2の絶対距離に相当するものである。
そこで、移動量補正部66は、ステップS3において算出された第2の絶対距離と、メモリ67に記憶された変調周波数Ω及び振幅λ´と、メモリ67に記憶された前記特定の飽和吸収線の中心となる周波数から求められる真空中の波長λとに基づいて、式(9)の最右辺の第2項に応じた誤差を算出する。
また、移動量補正部66は、ステップS2において算出された移動量Dから、算出した誤差を除去し、移動量Dを補正する。
【0063】
そして、制御装置60は、測定結果として、ステップS3において算出された第2の絶対距離と、ステップS4において補正された移動量Dとを出力する。
なお、出力する第2の絶対距離としては、ステップS1Kにて平均化された第1の絶対距離に、ステップS4において補正された移動量Dを加算した値としても構わない。
【0064】
上述した第1実施形態によれば、以下の効果がある。
本実施形態では、レーザ光L2の波長を走査した場合に複数の飽和吸収線が観測される各時点での各干渉信号Siの位相(δMに対応)と、複数の飽和吸収線の各周波数(真空中の波長λ10,λ20に対応)と、被測定物までの第1の絶対距離Lとの間に、式(6)の関係があることに着目した。
そして、本実施形態の絶対距離測定方法は、波長変更工程S1A,S1D,S1G及び位相検出工程S1B,S1E,S1Hにより前記各時点での各干渉信号の位相を検出し、第1絶対距離算出工程S1Jにより、式(6)を利用することで、第1の絶対距離Lを算出する。
このことにより、従来のように位置検出器のダイナミックレンジに制限されることなく、被測定物までの絶対距離を良好に算出できる。
【0065】
また、測長装置1として、本実施形態のように、被測定物が測長装置1に対して近接隔離するように直線的にのみ移動し、このような被測定物までの絶対距離を測定する構成の場合には、従来の追尾式干渉計のような2軸回転機構や位置検出器は不要である。
そして、本願のような測長装置1において、被測定物までの絶対距離を測定する場合に、本願の絶対距離測定方法を実施すれば、2軸回転機構や位置検出器を別途、追加することなく、被測定物までの絶対距離を良好に測定できる。
【0066】
さらに、第1の絶対距離の算出工程S1では、当該工程S1で算出される第1の絶対距離として、2つの第1の絶対距離を算出し、これら2つの第1の絶対距離を平均化したものを採用している。このため、工程S1で算出される第1の絶対距離を精度の高いものとすることができる。
【0067】
また、絶対距離測定方法は、移動量算出工程S2及び第2絶対距離算出工程S3を備える。
このことにより、被測定物までの絶対距離を測定する際に、被測定物の移動に伴い、順次、被測定物の移動量Dを算出する(移動量算出工程S2)。そして、算出した移動量Dを、第1の絶対距離の算出工程S1において算出された第1の絶対距離Lに加算または減算して第2の絶対距離を算出する(第2絶対距離算出工程S3)。
このように算出された第2の絶対距離を被測定物までの絶対距離とすれば、被測定物の移動に伴い、順次、第1の絶対距離の算出工程S1を実施する方法と比較して、測長を容易にかつ迅速に実施できる。
【0068】
さらに、絶対距離測定方法は、移動量補正工程S4を備えるので、移動量Dに含まれる被測定物の位置に応じた誤差を除去し、移動量Dを適切な値とすることができる。
特に、第2の絶対距離、変調周波数Ω、及び変調振幅λ´に基づいて、移動量Dを補正するので、レーザ光L2の変調により生じる誤差を適切に除去し、移動量Dを適切な値とすることができる。
【0069】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
なお、以下では、前記第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明については省略する。
本実施形態では、前記第1実施形態に対して、第1の絶対距離の算出工程S1が異なるものである。その他の工程、及び測長装置1の構成については、前記第1実施形態と同様である。
【0070】
図9は、第2実施形態における第1の絶対距離の算出工程S1を説明するフローチャートである。
利用者は、被測定物を静止させた状態で、測長装置1を操作し、制御装置60に以下の処理を実行させる。
先ず、波長制御部61は、上述した周波数安定化制御によりレーザ光L2の波長を所定の飽和吸収線の中心となる周波数に対応する波長に安定化させる(ステップS10A:波長変更工程)。
【0071】
次に、位相検出部62は、リサージュ信号の変化を計数し、計数値Nをメモリ67に記憶させる(ステップS10B:位相検出工程)。
次に、制御装置60は、屈折率算出装置40に空気屈折率を算出させる。そして、制御装置60は、屈折率算出装置40からの信号Snを入力し、算出された空気屈折率nをメモリ67に記憶させる(ステップS10C)。
そして、制御装置60は、ステップS10Aにてレーザ光L2の波長を全ての飽和吸収線a1〜a15の中心となる各周波数に応じた各波長に安定化させるまで、ステップS10A〜S10Cを繰り返し実施する(ステップS10D)。
【0072】
ステップS10Aが終了した後(レーザ光L2の波長の走査が終了した後)、第1絶対距離算出部63は、以下に示すように、第1の絶対距離を算出する(ステップS10E:第1絶対距離算出工程)。
ここで、第1の絶対距離Lは、レーザ光L2の発振周波数をf、光速度をcとした場合に、以下の式(10)で与えられる。
【0073】
【数10】
【0074】
図10は、第1の絶対距離の算出方法を説明するための図である。
したがって、図10に示すように、横軸を2nf/cの変化量δ(2nf/c)とし、縦軸をMの変化量δMとして、ステップS10A〜S10Cを繰り返し実施することでメモリ67に記憶された情報等から、変化量δ(2nf/c)及び変化量δMを求め、その求められた点群(図10中、P1〜P4)を最小二乗法によって直線近似し、その傾斜を求めることで第1の絶対距離Lが求められる。
なお、図10では、説明の便宜上、変化量δ(2nf/c)及び変化量δMの組を4組(P1〜P4)のみ図示している。
【0075】
例えば、レーザ光L2の波長を飽和吸収線a1の中心となる周波数に応じた波長に安定化させた時点(以下、第1時点)と、飽和吸収線a2の中心となる周波数に応じた波長に安定化させた時点(以下、第2時点)間での変化量δ(2nf/c)及び変化量δMは、以下に示すように求めることができる。
すなわち、第1,第2時点でメモリ67に記憶された各空気屈折率nと、メモリ67に予め記憶されている飽和吸収線a1,a2の中心となる各周波数とに基づいて、変化量δ(2nf/c)を求めることができる。
また、第1,第2時点でメモリ67に記憶された各計数値Nに基づいて、変化量δMを求めることができる。
以上のようにして、第1絶対距離算出部63は、第1の絶対距離Lを算出する。
【0076】
上述した第2実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の効果の他、以下の効果がある。
本実施形態では、レーザ光L2の波長を全ての飽和吸収線a1〜a15の中心となる各周波数に応じた各波長に安定化させ、安定化した時点での各干渉信号Siの位相と、飽和吸収線a1〜a15の中心となる各周波数とに基づいて、第1の絶対距離Lを算出するので、前記第1実施形態と比較して、より高精度に第1の絶対距離Lを算出できる。
【0077】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
なお、以下では、前記第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明については省略する。
前記第1実施形態では、移動量補正部66は、レーザ光L2が変調信号Sm1にて変調されていることによる移動量Dに含まれる誤差を除去するように移動量Dを補正していた。
これに対して、第3実施形態では、移動量補正部66は、第2絶対距離算出部65にて算出された第2絶対距離と、屈折率算出装置40にて算出された空気屈折率とに基づいて、移動量Dを補正する。
【0078】
具体的に、第3実施形態における移動量補正部66は、以下に示すように、移動量Dを補正する。
すなわち、移動量補正部66は、第2絶対距離算出部65にて算出された第2の絶対距離をDとし、屈折率算出装置40にて算出された被測定物の移動前後の空気屈折率の変化量をΔnとした場合に、光路長の変化分であるΔn・Dを移動量Dに加算または減算して、移動量Dを補正する。
【0079】
上述した第3実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の効果の他、以下の効果がある。
本実施形態では、移動量補正工程S4は、第2の絶対距離と被測定物の移動前後における空気屈折率nの変化量とに基づいて、移動量Dを補正するので、空気屈折率nの変動により生じる誤差を適切に除去し、移動量Dを適切な値とすることができる。
【0080】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0081】
前記第1実施形態において、図8に示すステップS1G〜S1I,S1Kを省略し、ステップS1において算出される第1の絶対距離として、前記第1実施形態で説明した1つ目の第1の絶対距離を採用しても構わない。
前記第2実施形態では、レーザ光L2の波長を全ての飽和吸収線a1〜a15の中心となる各周波数に応じた各波長に安定化させていたが、これに限らない。飽和吸収線a1〜a15のうち、3つ以上の飽和吸収線の中心となる各周波数に応じた各波長にレーザ光L2の波長を安定化させることが好ましい。
【0082】
前記各実施形態では、測長装置1として、測長装置1に対して近接隔離するように直線的に移動する被測定物までの絶対距離を測定する構成を採用していたが、これに限らない。すなわち、測長装置として、従来の追尾式レーザ干渉計のように、2軸回転機構や位置検出器を設け、3次元的に移動する被測定物までの絶対距離を測定する構成としても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、吸収セルの飽和吸収線に基づき共振器長を変化させて特定波長のレーザ光を被測定物に照射し、被測定物からの戻り光と参照用の参照光との干渉に基づく干渉信号に応じて測長を行うレーザ干渉測長装置に利用できる。
【符号の説明】
【0084】
1・・・レーザ干渉測長装置
10・・・レーザ光生成部
30・・・干渉計
40・・・屈折率算出装置
60・・・制御装置
61・・・波長制御部
62・・・位相検出部
63・・・第1絶対距離算出部
68・・・周波数検出部
S1A,S1D,S1G,S10A・・・波長変更工程
S1B,S1E,S1H,S10B・・・位相検出工程
S1J,S10E・・・第1絶対距離算出工程
S2・・・移動量算出工程
S3・・・第2絶対距離算出工程
S4・・・移動量補正工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10