(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5695427
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】半導体ウエハの割断方法及び割断装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
H01L21/78 T
H01L21/78 W
H01L21/78 M
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-5624(P2011-5624)
(22)【出願日】2011年1月14日
(65)【公開番号】特開2012-146897(P2012-146897A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2013年8月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100060575
【弁理士】
【氏名又は名称】林 孝吉
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆
【審査官】
馬場 進吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−076872(JP,A)
【文献】
特開平11−111645(JP,A)
【文献】
特開2007−141996(JP,A)
【文献】
特開平6−151589(JP,A)
【文献】
特開平3−236261(JP,A)
【文献】
特開2007−95780(JP,A)
【文献】
特開2003−258067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハを分割予定ラインに沿って割断し、複数の半導体チップに分割する半導体ウエハの割断方法において、
表面に前記ウエハを全面吸着する連続した吸着平面を持ち、裏面にはチップサイズに応じて間隔を空けて区画化された複数のブロックを持ち、前記吸着平面上に各ブロックに対応して該各ブロックの領域内に配置された吸気孔を持ち、前記吸着平面全体が一枚の板からなる真空吸着台に、前記ウエハを載せ置く工程と、
前記真空吸着台の吸着平面を減圧して前記ウエハを前記各ブロック領域内の該吸着平面に全面吸着する工程と、
前記吸着平面に沿って吸着させた前記ウエハを前記真空吸着台ごと折り曲げるように撓ませ、前記分割予定ラインで一様に前記ウエハを割断する工程と、
からなる半導体ウエハの割断方法。
【請求項2】
半導体ウエハを分割予定ラインに沿って割断し、複数の半導体チップに分割する半導体ウエハの割断方法において、
前記ウエハの裏面に対してエキスパンド可能な弾性保護フィルムを貼り付ける工程と、
表面に前記ウエハを全面吸着する連続した吸着面を持ち、裏面にはチップサイズに応じて間隔を空けて区画化された複数のブロックを持ち、前記吸着平面上に各ブロックに対応して該ブロックの領域内に配置された吸気孔を持ち、前記吸着平面全体が一枚の板からなる真空吸着台に前記ウエハを載せ置く工程と、
前記弾性保護フィルムを貼り付けた前記ウエハを、前記真空吸着台に平面的に吸着する工程と、
前記吸着平面に沿って吸着させた前記ウエハを前記真空吸着台ごと折り曲げるように撓ませて、前記分割予定ラインに沿って一様に前記ウエハを割断する工程と、
割断後、前記弾性保護フィルムに張力をかけて前記複数の半導体チップに離間する工程と、
からなることを特徴とする半導体ウエハの割断方法。
【請求項3】
上記弾性保護フィルムが通気性を有するフィルムでなることを特徴とする請求項2記載の半導体ウエハの割断方法。
【請求項4】
半導体ウエハを分割予定ラインに沿って割断し、複数の半導体チップに分割する半導体ウエハの割断装置において、
減圧して前記ウエハを全面吸着する連続した吸着平面を有する吸着板を持ち、前記吸着板の裏側に設けられ、チップサイズに応じて間隔を空けて配された複数個のブロックを持ち、前記吸着平面上には各ブロックに対応して該各ブロックの領域内に配置された吸気孔が設けられ、前記吸着平面全体が一枚の板からなる真空吸着台と、
前記ウエハを前記吸着平面に沿って吸着保持した前記真空吸着台を折り曲げるように撓ませて該ウエハの割断を行う真空吸着台撓ませ機構と、
を備えることを特徴とする半導体ウエハの割断装置。
【請求項5】
半導体ウエハを分割予定ラインに沿って割断し、複数の半導体チップに分割する半導体ウエハの割断装置において、
減圧して前記ウエハを全面吸着する連続した吸着平面を持ち、該吸着平面の裏側には該ウエハの切断予定ライン位置に対応して一定の深さまで形成された複数本の溝を持ち、前記吸着面上には前記溝に区画されると共にチップサイズに応じて間隔を空けて配された複数のブロックに対応して各ブロックの領域内に配置された吸気孔を持ち、前記吸着平面全体が一枚の板からなる真空吸着台と、
前記ウエハを前記吸着平面に沿って吸着保持した前記真空吸着台を折り曲げるように撓ませて該ウエハの割断を行う真空吸着台撓ませ機構と、
を備えることを特徴とする半導体ウエハの割断装置。
【請求項6】
上記半導体ウエハは、エキスパンド可能な弾性保護フィルムを貼り付けたウエハであることを特徴とする請求項4または5記載の半導体ウエハの割断装置。
【請求項7】
上記弾性保護フィルムは、通気性を有するフィルムでなることを特徴とする請求項6記載の半導体ウエハの割断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体ウエハの割断方法及び割断装置に関するものであり、特に、各チップ間に改質部ないしは亀裂により分割予定ラインが設けられた半導体ウエハを、その分割予定ラインに沿って割断し、複数の半導体チップに分割する半導体ウエハの割断方法及び割断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイス製造分野においては、略円板形状である半導体ウエハを、該半導体ウエハの表面に格子状に形成された分割予定ライン(これを「ストリート」とも言う)により複数個に区画し、その区画された複数の領域内にIC、LSI等のデバイスを形成し、該デバイスが形成された各領域を分割予定ラインに沿って割断し、分割して切り離すことにより個々の半導体チップを製造している。このようにして分割された半導体チップは、パッケージングされて携帯電話やパソコン等の電気機器に広く利用されている。
【0003】
また、従来、半導体ウエハを、分割予定ラインに沿って割断し、個々の半導体チップに分割する加工装置としては、例えば特許文献1〜特許文献4等が知られている。
【0004】
特許文献1で知られる加工装置は、研削研磨後のウエハにレーザー光を照射し、ウエハ内部に改質領域を形成する改質領域形成手段と、ウエハ裏面にダイシングテープを貼着してウエハをフレームにマウントするテープマウント手段と、ダイシングテープのエキスパンドを行い、ウエハの各チップ間の間隔を拡張するエキスパンド手段等を備えた構成となっている。
【0005】
ここで、一般に、レーザー光により切断の起点となる改質領域をもつウエハは、ダイシングテープのエキスパンドによって割断されるのであるが、この際に応力として作用するのは、引っ張り応力である。引張応力で物体を割断する場合、通常、割断の際に非常に大きな応力が必要となる。シリコン等の脆性材料によるウエハ等の場合では、引っ張り応力よりも、曲げ応力を与えた方が、ウエハを割る応力として小さくて済むのであるが、エキスパンドでウエハを割る場合には、割るための過剰な応力が必要となる。
【0006】
また、エキスパンドするダイシングフィルムに貼り付けたウエハを引っ張り応力で割り、それぞれのチップを離間させる場合において、エキスパンドするダイシングフィルム内でチップが離間させるために、フィルム内で伸びる部分と、ウエハを接着力で保持するため、伸びない部分が存在する。こうした伸びる部分や伸びない部分等、フィルム全体で必ずしも完全に均質ではないために、本来割断したいところが十分に伸びきらず、結果的に割断できずに一部引っ付いた状態で残る場合もある。特に、ウエハ面内で割れに時間的なギャップがある場合等は、割れた部分はフィルムが伸びやすくなり、そのフィルムが伸びた部分で、フィルムにかけられた引っ張り応力が消費されることになる。一方、局所的にウエハが割れてフィルムが一部先に伸びると、まだウエハが割れていないところに十分な引っ張り応力がかからず、やはりチップ同士が引っ付いたままで残るという事態が発生する。
【0007】
さらに、こうした事象はフィルム面内の伸びやすさや伸びにくさに起因して起こるだけでもない。ウエハをフィルムで固定するのであるが、これは簡易の接着によって固定されている。ウエハが割れて離間する部分は、フィルムが伸びてウエハとずれを生じることから、この接着はチップ周囲で剥がれるのであるが、このウエハとフィルムを貼り付ける接着材やその強度も均質であるとは限らない。部材であるが故に、必ず一定のばらつきは持っているものである。その際、ウエハとフィルムが局所的に強固に接着している部分は、フィルムが伸びにくくなるため、ウエハが割断しにくくチップに分割されにくいが、弱く接着している部分はフィルムが伸びて割断されやすくなる場合がある。しかし、あまりに弱く接着しているときには、いくつかのウエハチップが一緒になって、フィルムから浮き上がる場合もある。こうした場合は、例えフィルムだけが伸びたとしてもフィルムの伸びがウエハチップ間の引っ張り応力として伝わらず、結果的に一部チップが割断できないという問題が依然として残る。
【0008】
また、エキスパンドして割る場合、通常エキスパンドするための弾性テープ材料を使用し、それを伸ばして使用することから、当然ウエハを支える部材として、ウエハを強固に固定したリジッドな部材ではない。
【0009】
したがって、そうした弾性材料上でウエハを引っ張り応力で割る際には、ウエハが割れる瞬間に一部に局所的な振動が発生する。その局所的に発生した振動は、ウエハ面内を伝播するが、これを微視的に見れば本来ウエハが割れてほしくないところまで局所振動の伝播の仕方によって割れてしまう場合が度々発生する。ウエハを強固に固定して本来の切断ラインに応力が集中するようにしてから、応力を付与すれば、こうした誤った割れ方をしないのであるが、弾性フィルム上で弾性フィルムを引っ張って割る場合には、ウエハが割れた瞬間に弾性フィルムが上下に波打ち、誤って割れるのである。
【0010】
次に、特許文献2における半導体ウエハの分割加工方法は、特許文献1のような単純な引っ張り応力とは異なり、半導体ウエハを概略、次の手順(1)〜(4)のようにして複数個の半導体チップに分割している。
【0011】
(1)まず、表面に分割予定ラインが設けられている半導体ウエハを、環状フレームの内側に張設してなるエキスパンド可能な弾性保護フィルム上に、その裏面側を下側に向けて載せ、かつ、該弾性保護フィルムに貼り付けて固定し、該半導体ウエハと該弾性保護フィルムを一体化する。
【0012】
(2)次いで、半導体ウエハと弾性保護フィルムが取り付けられた環状フレームを、ウエハ割断装置のフレーム載置台上にセットする。その後、上部先端部に球面状の押圧面を有する押圧部材を下側から上昇させて、該押圧部材の押圧面を弾性保護フィルムの下面に当接させ、かつ、突き上げて該弾性保護フィルムを押圧する。その結果、半導体ウエハの裏面には弾性保護フィルムを伸長させる応力と弾性保護フィルムを介して半導体ウエハを折り曲げる荷重が作用し、この折り曲げ荷重が分割予定ラインに作用して、該半導体ウエハが該分割予定ラインの部分で割断し、複数個の半導体チップに分割される。
【0013】
(3)また、押圧部材がさらに押し上げられると、弾性保護フィルムが大きく伸長され、各半導体チップ同志の間に隙間が作られて互いに離間し、個々に分離される。
【0014】
(4)その後、押圧部材が下降されると、弾性保護フィルムは伸長されたまま、各半導体チップの間に隙間が設けられた状態で保持される。
【0015】
この場合、球面状の押圧面を有する押圧部材を下側から上昇させると、ウエハを折り曲げる荷重が作用し、前記特許文献1における引っ張り応力だけで割る場合とは、曲げ応力が多少作用する意味では異なる。しかしながら、ウエハをフィルムに貼り、このフィルムに貼り付けられたウエハを球面状の押圧面で下側から上昇させて分割する方法では、最初に球面状の押圧面と接する部分はウエハの内側であるので、内側から先に割れ、順に外側に割れるようになる。しかし、内側の弾性フィルムが伸びることによって、フィルムの伸びに対する耐性が損なわれ、外側には有効にフィルムが伸びなくなる。
【0016】
また、ウエハの内側が先に割れ、既に割れたチップが傾くことで、ウエハ外周部で球面状の押圧面に倣わせようとしても、一部倣わず、ウエハが完全に割断できなくなる場合が存在する。
【0017】
さらに、フィルムそのものも完全に均質なフィルムというものは存在せず、多かれ少なかれ伸びやすさの方向の異方性が存在する。このため、球面状押圧面を下側から上昇させたとしても、フィルムそのものの伸びやすさのばらつきにより、球面状押圧面からフィルムの伸びやすい方向にフィルムがずれ、ウエハ面内が一様なフィルムの伸びと、ウエハ各所における一様な曲げ応力を与えることができない。
【0018】
また、フィルムに貼られたウエハの場合、フィルムは伸びやすいが、ウエハはほとんど伸びない。よって、フィルムは、展延性がある一方、自身に平面の姿勢を維持するほどの剛性はなく、単にウエハに貼り付けられているだけであり、ウエハの姿勢は、ウエハ自身によって決まる。
【0019】
また、フィルムの下の押圧部材と、フィルムは吸着しておらず、単に接触して押し上げているだけである。よって、面同士を全面吸着により密着させ、強制的に押圧部材の面形状に一致するように倣わせるというほどの矯正手段は持たない。こうした場合、特許文献2にあるようにウエハを薄くして割りやすくしている構成においては、この程度で十分割ることは可能であるが、ウエハが厚い場合、ウエハ剛性が高い材料である場合、ないしは、ウエハに形成した切断起点が非常に小さい場合などにおいては、十分ではない。
【0020】
また、
図8(a)に示すように、剛性のある基台101にウエハ102が密着していない場合、割れる直前のウエハ状態として、切断予定ライン103の近傍(図中、符号104で示す部分)が基台101から浮き上がり、切断予定ライン近傍に急峻な曲げ応力Fが作用せず、応力Fが緩和されることになる。
【0021】
さらに、押圧部材をウエハ裏面から押圧してウエハ102を一様に曲げようとする場合、切断予定ライン以外においても、少なからず曲げ応力が作用する。切断予定ライン以外にあらかじめ小さな欠陥があった場合、時としてその小さな欠陥を起点として切断予定ライン以外の部分が割れることも想定される。
【0022】
以上から、理想的には、
図8(b)に示すように、基台101にウエハ102が密着していて、切断予定ライン103には局所的かつ急峻な曲げ応力Fが作用しつつも、切断予定ライン以外の部分は、ほとんど曲げ応力が作用しないことが望ましい。しかしながら、特許文献2はその様な構成ではない。
【0023】
次に、特許文献3は、ウエハ割断予定線部分を局部的に吸引して、割断予定線部分に曲げ応力を発生させ、この曲げ応力で割断することを開示している。しかし、特許文献3に開示される割断方法では、真空吸引の局部的な応力をウエハ割断の曲げ応力として利用する場合において、ウエハの一部割れた場合の衝撃波がウエハ面内を伝播する際に、必ずしもウエハ割断予定線部分を通るとは限らない。真空吸引によって、急激な局部応力がウエハに係るために、割れた瞬間に、その振動の伝播によって割断予定ラインから逸れた部分を割ることが想定される。
【0024】
また、ウエハを真空に引いて割る際に、ウエハ全面を吸着支持しているのではなく、割るための局所応力を与えるための手段として真空を使用している。したがって、ウエハの割断予定線のごく周辺は、吸着支持されておらず、下に支持が無い状態である。すなわち、ウエハをリジッドに固定した状態ではなく、半分浮かせた形態になっている。こうした場合、ウエハ割断予定ラインに曲げ応力が集中するとも限らず、先に述べたようなウエハが割断する際にウエハ面内を伝播する曲げ応力によって、全く想定外の部分が割れるという問題が発生することがある。
【0025】
さらには、ウエハが割れる際、局所的な曲げ応力が割断予定線部分に集中すればよいが、ウエハ裏面に支持が無いような場合、裏面支持が無い全体において、ウエハが曲がるための空間的な余地が存在することになる。この場合、割断予定線部分に応力を集中させようとして曲げたとしても、その付近の割断予定線のすぐ脇の部分においても、ウエハが局所的に曲げられることになるから、割断予定線に応力を集中させ、少ない曲げ応力で効率よく割ることができなくなる。
【0026】
また、さらに真空に引くことで、その局所空間で生じる差圧で曲げ応力を発生させる場合、曲げ応力を付与する際に、曲げの変位を与える変位量や、変位を与えるための速度を厳密に制御することはできない。そして、曲げ応力を割断予定線部分に集中させて精度よく割断するためには、過度な変位や、その過度な変位を急激な速度で与えることは、割断予定線以外のウエハが脆くなっている部分にまで、割れを発生することにもなりかねない。また、ウエハを割ることに対するウエハに所定の変位を与えることと、その変位を与えることに対する時間的な制御を行うことは実質的に不可能である。
【0027】
次に、特許文献4においても、同様に、ウエハ割断予定線近くはウエハが完全に固定されていないため、割断予定線付近においてウエハが曲げられる空間的余地が生まれる。その結果、曲げ応力を割断予定線部分に集中させることができないことから、効率よく、かつ精度よく割ることができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特開2007−214457号公報
【特許文献2】特許第4494728号公報。
【特許文献3】特開2006−344910号公報
【特許文献4】特許3276506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかしながら、上述した従来における半導体ウエハを分割する方法では、押圧部材の押圧面を弾性保護フィルムの下面に押し当て、弾性保護フィルムと半導体ウエハに曲げ加工を施す分割作業と、弾性保護フィルムを伸長させて半導体チップ同志を引き離す分離作業を、同時に行うようにしているため、大きな応力を必要としていた。このため、装置が大型化するという問題点があった。
【0030】
また、押圧部材により曲げ加工を施す際、押圧部材の上部押圧面に対する弾性保護フィルムの密着性が悪く、弾性保護フィルム及び半導体ウエハが押圧部材の押圧面から離れて該半導体ウエハと該押圧面の間に隙間ができ、この隙間によって押圧部材から弾性保護フィルム及び半導体ウエハに付与される曲げ応力が分散する。この曲げ応力の分散は、分割予定ラインでの分割面の切断に悪い影響を与え、分割面にバリ等を発生させることがある。このため、バリを除去する処理作業が必要となり、作業コストを増加させ、さらに大きな応力も必要とするので、装置も大型化するという問題点があった。
【0031】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、比較的小さい応力で効率よくチップを割断して、ウエハを貼り付けているダイシングフィルムの弾性のばらつきや、そのエキスパンドする際の異方性のばらつき、及び、ウエハとフィルムの密着性のばらつきによるチップの分割ミスをなくし、また、ウエハ割断の際に、ウエハに曲げ応力を生むための一定の変位量を制御された速度で与えて、割断するための応力を局所的に集中させるようにすることにより、ウエハ面内には曲げ応力を与えず、安定したチップの割断及びチップの分割・離間を可能とする半導体ウエハの割断方法及び割断装置を提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、半導体ウエハを分割予定ラインに沿って割断し、複数の半導体チップに分割する半導体ウエハの割断方法において、表面に前記ウエハを全面吸着する連続した吸着
平面を持ち、裏面にはチップサイズに応じて間隔を空けて区画化された
複数のブロックを持ち、前記吸着
平面上に
各ブロックに対応して
該各ブロックの領域内に配置された吸気孔を持ち、前記吸着
平面全体が一枚の板からなる真空吸着台に、前記ウエハを載せ置く工程と、前記真空吸着台の吸着
平面を減圧して前記ウエハを
前記各ブロック領域内の該吸着
平面に全面吸着する工程と、
前記吸着平面に沿って吸着させた前記ウエハを前記真空吸着台ごと
折り曲げるように撓ませ、前記分割予定ラインで一様に前記ウエハを割断する工程と、からなる半導体ウエハの割断方法を提供する。
【0033】
この方法によれば、分割予定ラインが設けられている半導体ウエハを、例えばエキスパンド可能な弾性保護フィルム上に貼り付け、半導体ウエハと該弾性保護フィルムを一体化するとともに、これを真空吸着台上に配置し、かつ、該真空吸着台で吸着して固定する。次に、該半導体ウエハ及び該弾性保護フィルムを真空吸着固定している真空吸着台に、真空吸着台撓ませ機構により撓み力を付与すると、チップサイズに応じて間隔を空けて区画化されている複数個のブロック間の部分で真空吸着台の吸着面全体が撓み、この撓みにより半導体ウエハも撓んで折り曲げられ、該半導体ウエハが分割予定ラインを起点として割断される。
【0034】
これにより、従来のような引っ張り応力によることなく、比較的小さい曲げ応力で効率よくチップを割断することができる。
【0035】
また、吸着板のウエハ吸着面と反対側に切断予定ライン位置に対応して設けた溝の部分が撓むことによって、吸着板の撓み剛性はチップ面内で大きくなり、チップ面内はほとんど撓まず、各チップ間の分割予定ラインにおいては大きく撓むことになる。その結果、分割予定ラインだけに応力が局所的に集中し効率よくウエハを割断することが可能となる。
【0036】
また、ウエハはあらかじめ吸着板に吸着されることにより、ウエハに反りがあっても、吸着板に平面矯正される。ここで、ウエハは吸着板に完全に密着しているため、ウエハの撓みは吸着板の撓みに完全に追従し、吸着板と一体的に変形する。
【0037】
従来は、ウエハが凸状の押圧体に押し上げられる機構であっても、吸着台に密着していないため、曲げの力が働くと、ウエハが曲率をもつ台の形状に倣わず局所的に浮き上がり、その浮き上がりにより、局所的に曲げ応力が緩和されて割れにくくなるということがあった。しかし、本構成の場合、ウエハは基本的に真空吸着台に密着しているため、ウエハが真空吸着台とともに撓む過程において、ウエハの局所的な浮き上がりは抑制され、真空吸着台の撓み形状に強制的に完全に追従するようになる。そのため、ウエハ分割予定ラインに応力が集中し、正確にウエハを割断することが可能となる。
【0038】
また、連続した吸着板の撓みによって、ウエハに撓み応力を与えることができるため、大きなウエハ面であっても、ほぼ同時にウエハ面に対して撓み応力を与えることが可能となる。
【0039】
また、チップが割断されて実質的に個々に分断されるものの、吸着板は、一枚の連続した板であるため、面内でチップ間が別機構に固定されて、相互に相対位置が変化してしまうという余地もない。
【0040】
また、エキスパンドフィルムのように展延性があって相互の位置関係が狂う要素もない。連続した吸着板が平面状態から撓むことにより、ウエハチップ間の相対位置が移動することなく割断できる。
【0041】
また、ウエハを貼り付けているダイシングフィルムの弾性のばらつきや、そのエキスパンドする際の異方性のばらつき、ウエハとフィルムの密着性のばらつきによって、チップの分割性能が変化することなく、ウエハに一様な曲げ応力を発生するための変位を与えることが可能となる。
【0042】
さらに、そのウエハへ与える曲げ応力を生むための一定の変位量を、同時にウエハを支持する吸着台の面を同時を撓ませることで、同時に与えることができる。
【0043】
また、その一定の変位量を、制御された速度で与えることが可能であるため、切断予定ラインに応力を集中させながら割ることが可能となる。
【0044】
さらに、ウエハを真空で吸着しているため、ウエハは剛体である真空吸着台に密着支持され、割断付近のウエハ変位は完全に抑制されるために、割断するための応力は局所的に集中することになる。
【0045】
また、ウエハを割った後に接着台に固定すると、それから採り剥がすのが大変であるが、真空吸着でウエハを支持して曲げた後、それを元の水平な姿勢に戻して真空をOFFして大気開放するだけで、接着剤を除去する等の手間もなくなり、割れたウエハをテープに貼り付けられた状態で簡便に、取り外すことが可能となる。
【0046】
また、上記目的を達成するために、請求項2記載の発明は、半導体ウエハを分割予定ラインに沿って割断し、複数の半導体チップに分割する半導体ウエハの割断方法において、前記ウエハの裏面に対してエキスパンド可能な弾性保護フィルムを貼り付ける工程と、表面に前記ウエハを全面吸着する連続した吸着面を持ち、裏面にはチップサイズに応じて間隔を空けて区画化された
複数のブロックを持ち、前記吸着
平面上に
各ブロックに対応して
該ブロックの領域内に配置された吸気孔を持ち、前記吸着
平面全体が一枚の板からなる真空吸着台に前記ウエハを載せ置く工程と、前記弾性保護フィルムを貼り付けた前記ウエハを、前記真空吸着台に平面的に吸着する工程と、
前記吸着平面に沿って吸着させた前記ウエハを前記真空吸着台ごと
折り曲げるように撓ませて、前記分割予定ラインに沿って一様に前記ウエハを割断する工程と、割断後、前記弾性保護フィルムに張力をかけて前記複数の半導体チップに離間する工程と、からなる半導体ウエハの割断方法を提供する。
【0047】
この方法によれば、分割予定ラインが設けられている半導体ウエハを、例えばエキスパンド可能な弾性保護フィルム上に貼り付け、半導体ウエハと該弾性保護フィルムを一体化するとともに、これを真空吸着台上に配置し、かつ、該真空吸着台で吸着して固定する。次に、該半導体ウエハ及び該弾性保護フィルムを真空吸着固定している真空吸着台に、真空吸着台撓ませ機構により撓み力を付与すると、ウエハの切断予定ライン位置に対応して形成されている各溝の部分で真空吸着台の吸着面全体が撓み、この撓みにより半導体ウエハも撓んで折り曲げられ、該半導体ウエハが分割予定ラインを起点として割断される。これにより、従来のような引っ張り応力によることなく、比較的小さい曲げ応力で効率よくチップを割断することができる。
【0048】
これにより、従来のような引っ張り応力によることなく、比較的小さい曲げ応力で効率よくチップを割断することができる。
【0049】
また、吸着板のウエハ吸着面と反対側に切断予定ライン位置に対応して設けた溝の部分が撓むことによって、吸着板の撓み剛性はチップ面内で大きくなり、チップ面内はほとんど撓まず、各チップ間の分割予定ラインにおいては大きく撓むことになる。その結果、分割予定ラインだけに応力が局所的に集中し効率よくウエハを割断することが可能となる。
【0050】
また、ウエハはあらかじめ吸着板に吸着されることにより、ウエハに反りがあっても、吸着板に平面矯正される。ここで、ウエハは吸着板に完全に密着しているため、ウエハの撓みは吸着板の撓みに完全に追従し、吸着板と一体的に変形する。
【0051】
従来は、ウエハが凸状の押圧体に押し上げられる機構であっても、吸着台に密着していないため、曲げの力が働くと、ウエハが曲率をもつ台の形状に倣わず局所的に浮き上がり、その浮き上がりにより、局所的に曲げ応力が緩和されて割れにくくなるということがあった。しかし、本構成の場合、ウエハは基本的に真空吸着台に密着しているため、ウエハが真空吸着台とともに撓む過程において、ウエハの局所的な浮き上がりは抑制され、真空吸着台の撓み形状に強制的に完全に追従するようになる。そのため、ウエハ分割予定ラインに応力が集中し、正確にウエハを割断することが可能となる。
【0052】
また、連続した吸着板の撓みによって、ウエハに撓み応力を与えることができるため、大きなウエハ面であっても、ほぼ同時にウエハ面に対して撓み応力を与えることが可能となる。
【0053】
また、チップが割断されて実質的に個々に分断されるものの、吸着板は、一枚の連続した板であるため、面内でチップ間が別機構に固定されて、相互に相対位置が変化してしまうという余地もない。
【0054】
また、エキスパンドフィルムのように展延性があって相互の位置関係が狂う要素もない。連続した吸着板が平面状態から撓むことにより、ウエハチップ間の相対位置が移動することなく割断できる。
【0055】
また、ウエハを貼り付けているダイシングフィルムの弾性のばらつきや、そのエキスパンドする際の異方性のばらつき、ウエハとフィルムの密着性のばらつきによって、チップの分割性能が変化することなく、ウエハに一様な曲げ応力を発生するための変位を与えることが可能となる。
【0056】
さらに、そのウエハへ与える曲げ応力を生むための一定の変位量を、同時にウエハを支持する吸着台の面を同時を撓ませることで、同時に与えることができる。
【0057】
また、その一定の変位量を、制御された速度で与えることが可能であるため、切断予定ラインに応力を集中させながら割ることが可能となる。
【0058】
さらに、ウエハを真空で吸着しているため、ウエハは剛体であるウエハチャックに密着支持され、割断付近のウエハ変位は完全に抑制されるために、割断するための応力は局所的に集中することになる。
【0059】
また、ウエハを割った後に接着台に固定すると、それから採り剥がすのが大変であるが、真空吸着でウエハを支持して曲げた後、それを元の水平な姿勢に戻して真空をOFFして大気開放するだけで、接着剤を除去する等の手間もなくなり、割れたウエハをテープに貼り付けられた状態で簡便に、取り外すことが可能となる。
【0060】
また、上記目的を達成するために、請求項3記載の発明は、上記弾性保護フィルムが通気性を有するフィルムでなる半導体ウエハの割断方法を提供する。
【0061】
この方法によれば、真空吸着台に真空吸着された弾性保護フィルムは、その通気性により、真空吸着台に対して多少の移動が可能となり、弾性保護フィルムにシワを作ることなく密着した状態で吸着保持される。
【0062】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項4記載の発明は、半導体ウエハを分割予定ラインに沿って割断し、複数の半導体チップに分割する半導体ウエハの割断装置において、減圧して前記ウエハを全面吸着する連続した吸着
平面を有する吸着板を持ち、前記吸着板の裏側に設けられ、チップサイズに応じて間隔を空けて配された複数個のブロックを持ち、前記吸着
平面上には
各ブロックに対応して
該各ブロックの領域内に配置された吸気孔が設けられ、前記吸着
平面全体が一枚の板からなる真空吸着台と、前記ウエハを
前記吸着平面に沿って吸着保持した前記真空吸着台を
折り曲げるように撓ませて該ウエハの割断を行う真空吸着台撓ませ機構と、を備える半導体ウエハ割断装置を提供する。
【0063】
この構成によれば、請求項1,2または3記載の上記半導体ウエハの割断方法を容易に実施することが可能になる。
【0064】
また、上記目的を達成するために、請求項5記載の発明は、半導体ウエハを分割予定ラインに沿って割断し、複数の半導体チップに分割する半導体ウエハの割断装置において、減圧して前記ウエハを全面吸着する連続した吸着
平面を持ち、該吸着
平面の裏側には該ウエハの切断予定ライン位置に対応して一定の深さまで形成された複数本の溝を持ち、前記吸着面上には前記溝に区画されると共にチップサイズに応じて間隔を空けて配された
複数のブロックに対応して
各ブロックの領域内に配置された吸気孔を持ち、前記吸着
平面全体が一枚の板からなる真空吸着台と、前記ウエハを
前記吸着平面に沿って吸着保持した前記真空吸着台を
折り曲げるように撓ませて該ウエハの割断を行う真空吸着台撓ませ機構と、を備える半導体ウエハの割断装置を提供する。
【0065】
この構成によれば、請求項1,2または3記載の上記半導体ウエハの割断方法を容易に実施することが可能になる。
【0066】
また、上記目的を達成するために、請求項6記載の発明は、上記半導体ウエハは、エキスパンド可能な弾性保護フィルムを貼り付けたウエハである、半導体ウエハの割断装置を提供する。
【0067】
この構成によれば、弾性保護フィルムによる貼り付けで、半導体ウエハを一体に取り扱うことができ、請求項1,2または3記載の上記半導体ウエハの割断方法をさらに容易に実施することが可能になる。
【0068】
また、上記目的を達成するために、請求項7記載の発明は、上記弾性保護フィルムは、通気性を有するフィルムでなる半導体ウエハの割断装置を提供する。
【0069】
この構成によれば、真空吸着台に真空吸着された弾性保護フィルムは、その通気性により、真空吸着台に対して多少の移動が可能となり、弾性保護フィルムにシワを作ることなく密着した状態で吸着保持される。これにより、請求項1,2または3記載の上記半導体ウエハの割断方法をさらに容易に実施することが可能になる。
【発明の効果】
【0070】
発明によれば、比較的小さい応力で効率よくチップを割断して、ウエハを貼り付けているダイシングフィルムの弾性のばらつきや、そのエキスパンドする際の異方性のばらつき、及び、ウエハとフィルムの密着性のばらつきによるチップの分割ミスをなくすことができる。また、ウエハ割断の際に、ウエハに曲げ応力を生むための一定の変位量を制御された速度で与えて、割断するための応力を局所的に集中させるようにすることができ、安定したチップの割断及びチップの分割・離間を可能とすることができる。さらに、装置の小形化と、バリ取り作業等を軽減化して作業性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】本発明に係るウエハの割断方法の一実施例を説明する工程図。
【
図3】ウエハを弾性保護フィルムに貼り付けた状態を示す斜視図。
【
図5】
図4のA−A線断面を示し、(a)は突き出し及び回動体を下降させた状態で示す図で、(b)は突き出し及び回動体を上昇させた状態で示す図、(c)は突き出し及び回動体を下降させ、かつ、半導体チップ離間部材を上昇させた状態で示す図。
【
図7】
図6に示した真空吸着台の説明図で、(a),(b)はシリンダ操作がOFFのときの図、(c)はシリンダ操作がONのときの図。
【
図8】従来の半導体チップ分離・離間装置の問題点を説明する図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0072】
本発明は、小さな曲げ応力で、かつ分割時に綺麗な分割面を得ることができるようにするという目的を達成するために、半導体ウエハを分割予定ラインに沿って割断し、複数の半導体チップに分割する半導体ウエハの割断方法において、表面に前記ウエハを全面吸着する連続した吸着
平面を持ち、裏面にはチップサイズに応じて間隔を空けて区画化された
複数のブロックを持ち、前記吸着
平面上に
各ブロックに対応して
該各ブロックの領域内に配置された吸気孔を持ち、前記吸着
平面全体が一枚の板からなる真空吸着台に、前記ウエハを載せ置く工程と、前記真空吸着台の吸着
平面を減圧して前記ウエハを
前記各ブロック領域内の該吸着
平面に全面吸着する工程と、
前記吸着平面に沿って吸着させた前記ウエハを前記真空吸着台ごと
折り曲げるように撓ませ、前記分割予定ラインで一様に前記ウエハを割断する工程と、を含むようにしたことにより実現した。
【実施例】
【0073】
以下、本発明のウエハの割断方法について、添付図面を参照して説明する。
【0074】
図1は、半導体ウエハとしてのシリコンウエハを個々の半導体チップに分割するための本発明を実施するための分割工程を示す図である。本実施例の割断方法では、半導体ウエハの裏面に対してエキスパンド可能な弾性保護フィルムを貼り付ける工程S1と、表面に前記ウエハを全面吸着する吸着平面を持ち、裏面にチップサイズに応じて区画化されたブロックを有してなる真空吸着台上に、前記ウエハを載せ置く工程S2と、前記弾性保護フィルムを貼り付けた前記ウエハを前記真空吸着台に吸着する工程S3と、吸着させた前記ウエハを前記真空吸着台ごと撓ませて、前記分割予定ラインに沿って一様に前記ウエハを割断する工程S4と、割断後、前記弾性保護フィルムに張力をかけて前記複数の半導体チップに離間する工程S5を経て、半導体ウエハから個々の半導体チップを形成するようになっている。
【0075】
次に、その各工程について詳細に説明する。まず、本実施例で使用する半導体ウエハ10は、
図2に示すように平行に形成された表裏面を有している。該半導体ウエハ10の表面側には、格子状に配列された複数の分割予定ライン11,11…が設けられている。そして、該分割予定ライン11により、半導体ウエハ10の表面側が格子状をした複数の領域に区画されており、この区画された各領域にそれぞれ半導体チップ12,12…を形成するIC、LSI等の機能素子を設けている。なお、ここでの分割予定ライン11は、レーザー加工により形成された改質部ないしは亀裂であり、半導体ウエハ10を容易に割断することが出来るようにして設けられているが、これ以外の手段により形成される場合もある。
【0076】
そして、分割予定ライン11が形成された半導体ウエハ10は、前記工程S1において、
図3に示すように、弾性保護フィルム13上に、その裏面を下側に向けて載せ、その半導体ウエハ10の裏面を弾性保護フィルム13上に貼り付けて固定する。この貼着固定は、例えば半導体ウエハ10の裏面と弾性保護フィルムの間を加熱しつつ、該半導体ウエハ10を弾性保護フィルム13上に押圧して貼着する、あるいは半導体ウエハ10の裏面と弾性保護フィルムの間に接着剤を介在させて脱着固定する等の手段が適宜採用される。
【0077】
また、該弾性保護フィルム13は、例えば厚さが約70μmのシート状のフィルムであり、常温では伸縮性を有し、所定温度(例えば70℃)以上の熱によって収縮する性質を有するポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン等の合成樹脂シートで、かつ、通気性が得られる構成となっている。
【0078】
前記工程S1において半導体ウエハ10が取り付けられた前記弾性保護フィルム13は、
図4及び
図5に示すように、半導体ウエハ割断装置14上に移動される。
【0079】
前記半導体ウエハ割断装置14は、前記工程S2〜工程S5を処理するための装置であり、前記弾性保護フィルム13を張った状態で脱着可能に固定するための前後(Y軸方向)と左右(X軸方向)に各々配設されるフィルム固定保持部材15,15,15,15と、該フィルム固定保持部材15,15,15,15で囲まれた領域の内側に配設された真空吸着台16と、該真空吸着台16を支持している真空吸着台支持部材17と、前記真空吸着台16を撓ませる真空吸着台撓ませ機構18と、前記弾性保護フィルム13に張力をかけて複数の半導体チップに離間する半導体チップ離間部材19等で構成されている。
【0080】
前記真空吸着台16は、前記半導体ウエハ10を取り付けた前記弾性保護フィルム13を載せて、該弾性保護フィルム13を介して前記半導体ウエハ10を全面吸着する板状の連続した吸着面20aを表面側に有した吸着板部20を備えている。また、該吸着板部20の裏面側には、前記半導体ウエハ10の分割予定ライン11の位置に対応して一定深さまで形成された複数本の溝21,21…を設けて、チップサイズに応じた間隔を空けて区画された複数個のブロック22,22…が前記吸着板部19と一体に設けられている。なお、
図4では、理解を容易にするため、前記溝11,11…及びブロック22,22…は、実線で示しているが、実際には
図5に示すように、吸着板部20の裏面側に設けられているものである。
【0081】
前記真空吸着台16は、可撓性を有し、通常は
図5(a)に示すように水平面状をなして保持されているが、
図5(b)に示すように真空吸着台撓ませ機構18により持ち上げられると、上方に膨出した状態に撓むようになっている。
【0082】
さらに詳述すると、前記吸着板部19の上面(以下、「吸着面」という)には、前記ブロック22,22…に対応して複数個の吸気孔23,23…が設けられている。各吸気孔23,23…は、図示せぬパイプ材を介して真空引き装置に接続されており、該真空引き装置が吸引操作されると、該吸気孔23,23…から空気を吸い込み、前記吸着板部20の吸着面20aを減圧して該吸着面20aに前記弾性保護フィルム13を介して前記半導体ウエハ10を吸着保持できるようになっている。なお、本実施例では、半導体ウエハ10が載せ置きされる部分以外の箇所に設けられた吸気孔23,23…(図中、黒塗りした孔)は孔を塞いだ状態にしている。
【0083】
前記真空吸着台撓ませ機構18は、断面蒲鉾状をした押圧台24と、該押圧台24を上下動並びに90度回転操作する突き出し及び回動体25とで構成されている。
【0084】
前記半導体チップ離間部材19は、前記フィルム固定保持部材15と前記真空吸着台支持部材17との間で、通常は前記フィルム固定保持部材15に張られた前記弾性保護フィルム13の位置よりも下側に配置されている。また、該半導体チップ離間部材19は上下動可能で、上方に移動されると、前記フィルム固定保持部材15に張られた前記弾性保護フィルム13に引っ張り力を与えて、該弾性保護フィルム13の全体をX−Y方向に引き延ばすことができるようになっている。
【0085】
次に、前記半導体ウエハ割断装置14の動作を、
図1に示した処理工程S1〜S5に従って、
図4及び
図5と共に説明する。
【0086】
前記半導体ウエハ割断装置14は、半導体ウエハ10の割断処理が行われていないとき、前記吸着板部20での真空引きは停止されており、また半導体チップ離間部材19は下方に移動している。
【0087】
そして、前記工程S1の処理でエキスパンド可能な前記弾性保護フィルム13の貼り付けを終えた半導体ウエハ10は、該弾性保護フィルム13の四辺を前記フィルム固定保持部材15,15,15,15で固定し、
図5(a)に示すように前記真空載置台16の吸着板部20上にセットする(工程S2)。
【0088】
次いで、前記吸着板部20での真空引きが開始される。真空引きが開始されると、吸着面20a上が減圧され、これに伴って同じく
図5(a)に示すように前記弾性保護フィルム13が吸着面20aの全面に吸着保持される(工程S3)。
【0089】
続いて、前記吸着板部20での真空引きを行った状態で、真空吸着台撓ませ機構18が駆動される。そして、突き出し及び回動体25が押圧台24と共に上方に突き出す。これにより、押圧台24がブロック22の下面に当接して突き上げる。また、前記真空載置台16全体が下側から突き上げられると、該真空載置台16が前記弾性保護フィルム13と共に上方に突出し、全体が蒲鉾状に湾曲変形する。このとき弾性保護フィルム13上に貼り付けられている半導体ウエハ10も上方に突出されて蒲鉾状に湾曲変形される。この湾曲により、半導体ウエハ10が分割予定ライン11を基点として、該分割予定ライン11に沿ってx軸方向(またはy軸)側が折り曲げられ、この折り曲げによりx軸に沿う側が半導体チップ12,12…毎に割断される。また、x軸方向(またはy軸方向)側の折り曲げによる割断が終わったら、前記突き出し及び回動体25を前記押圧台24と共に下方に戻す。
図5(c)はこの状態を示している。
【0090】
次いで、前記突き出し及び回動体25を該押圧台24と共に90度回転させ、その後、再び突き出し及び回動体25を押圧台24と共に上方に突き出し、前記半導体ウエハ10を前記弾性保護フィルム13と共に蒲鉾状に湾曲変形させる。この湾曲により、半導体ウエハ10が分割予定ライン11を基点として、該分割予定ライン11に沿ってy軸方向(またはx軸方向)側が折り曲げられ、この折り曲げによりy軸に沿う側が半導体チップ12,12…毎に割断される。また、x軸方向(またはy軸)側の折り曲げによる割断が終わったら、前記突き出し及び回動体25を前記押圧台24と共に下方に戻す。これにより、x軸に沿う側とy軸に沿う側が割断される。すなわち、前記割断工程S4の処理が行われることになる。
【0091】
なお、このように弾性保護フィルム13が真空載置台16に吸着保持されている状態で蒲鉾状に湾曲されて分割処理された場合では、半導体ウエハ10は真空載置台16と一体化されていて該真空載置台16から浮き上がらないので、曲げ応力は各分割予定ライン11の部分に集中することになる。したがって、基台に弾性保護フィルム13を吸着しないで曲げて割断する従来の方法に比べて、分割するための曲げ応力は小さくて済み、また割断面にバリ等を作ることなく綺麗に分割することができる。
【0092】
また、前記割断工程S4の処理が終了し、前記突き出し及び回動体25が前記押圧台24と共に下方に戻されると、前記押圧台24は前記真空載置台16と離れた初期位置に下降され、
図5(c)に示すように真空載置台16も水平な状態に復帰される。
【0093】
工程S4による半導体ウエハの割断処理が終了したら、次に、前記半導体チップ離間部材19が上方に移動され、前記フィルム固定保持部材15に張られた前記弾性保護フィルム13の下側に前記半導体チップ離間部材19が突き当てられて該弾性保護フィルム13に引っ張り力を与え、該弾性保護フィルム13の全体をX−Y方向に引っ張って延ばす。これにより、各半導体チップ12,12…が互いに大きく離間し、個々の半導体チップ12,12…に分割され、また前記半導体チップ離間部材19も下方の所定の位置に戻される。すなわち、前記分離・離間工程S5の処理が終了する。工程S5の終了後、前記弾性保護フィルム13は半導体チップ12と共に前記フィルム固定保持部材15から取り外される。
【0094】
なお、前記弾性保護フィルム13を伸長させて各半導体チップ12,12…間に形成された隙間は、前記弾性保護フィルム13の張力を取り除いた後も維持される。そして、このように分割処理された半導体ウエハ10では、各半導体チップ12,12…の間に弾性保護フィルム13が伸長されてなる隙間を有して離間されているので、個々の半導体チップ12,12同士が接触することはなく、搬送時等において半導体チップ12,12…同士が接触して損傷するのを防止することができる。
【0095】
また、半導体ウエハ割断装置14は、真空吸着台撓ませ機構18において、押圧台24と突き出し及び回転体25を使用せずに、例えば
図6に示すように、エアシリンダ26とエアシリンダ27と、該エアシリンダ26の動作を受けて真空載置台16をx軸方向に撓ませ、該真空載置台16をx軸に沿って上方に膨出させるx軸制御部材28と、該エアシリンダ27の動作を受けて真空載置台16をy軸方向に撓ませ、該真空載置台16をy軸に沿って上方に膨出させるy軸制御部材29を設けた構成としてもよい。
【0096】
図7は、
図6に示す真空吸着台撓ませ機構18の動作を説明する図である。すなわち、この真空吸着台撓ませ機構の構造では、前記エアシリンダ26(または27)が引き動作していない場合、前記真空載置台16は同図(a),(b)に示すように平面状をなしている。そして、前記エアシリンダ26(または27)が引き動作されると、前記真空載置台16に符号Fで示すような曲げ力発生し、該真空載置台16の全体が上方に膨出した状態に撓み変形し、この撓み変形で前記弾性保護フィルム13を半導体ウエハ10と共に撓ませ、半導体ウエハ10の割断処理を行う。
【0097】
なお、前記エアシリンダは、エアシリンダ26またはエアシリンダ27の一方だけ設け、前記真空載置台16上に載置された弾性保護フィルム13及び半導体ウエハ10を、前記フィルム固定保持部材15と共に90度回転させて割断処理を行ってもよい。また、前記真空載置台16上に前記半導体ウエハ10を位置決めして載せ置きするための位置決め皿30を設けてもよい。
【0098】
さらに、上記実施例では、真空載置台16が、吸着板部20とブロック22を一体に形成してなる構造を開示したが、吸着板部20とブロック22を別体に形成して一体化した構造であってもよい。
【0099】
また、本発明は、上述したように本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明したように、本発明は半導体ウエハを分割する以外にも、プリント配線基板等を分割する装置にも応用できる。
【符号の説明】
【0101】
10 半導体ウエハ
11 分割予定ライン
12 半導体チップ
13 弾性保護フィルム
14 半導体ウエハ割断装置
15 フィルム固定保持部材
16 真空載置台
17 真空吸着台支持部材
18 真空吸着台撓ませ機構
19 半導体チップ離間部材
20 吸着板部
20a 吸着面
21 溝
22 ブロック
23 吸気孔
24 押圧台
25 突き出し及び回動体
26 エアシリンダ
27 エアシリンダ
28 x軸制御部材
29 y軸制御部材
30 位置決め皿