(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る抵抗変化素子は、第1の電極と、第2の電極と、第1の金属酸化物層と、第2の金属酸化物層と、電流制限層とを具備する。
上記第1の金属酸化物層は、上記第1の電極と上記第2の電極との間に配置され、第1の抵抗率を有する。
上記第2の金属酸化物層は、上記第1の金属酸化物層と上記第2の電極との間に配置され、上記第1の抵抗率よりも高い第2の抵抗率を有する。
上記電流制限層は、上記第1の電極と上記第1の金属酸化物層との間に配置され、上記第1の抵抗率よりも高く上記第2の抵抗率よりも低い第3の抵抗率を有する。
【0012】
上記抵抗変化素子においては、第1の電極と第2の電極との間に電流制限層が設けられているため、素子サイズを大きくすることなく、スイッチング動作時に発生し得る過大電流から素子を保護することができる。
【0013】
また上記抵抗変化素子においては、第1の電極と第1の金属酸化物層との間に電流制限層が設けられているため、第2の電極と第2の金属酸化物層との間に電流制限層を設ける場合と比較して、スイッチング動作の信頼性を確保することができる。
【0014】
上記電流制限層は、金属酸化物で構成されてもよい。
これにより第1及び第2の金属酸化物層と同様の成膜装置で電流制限層を形成することができ、生産性の低下を抑制することができる。
【0015】
上記電流制限層の抵抗率は、第1及び第2の金属酸化物層の抵抗率、第1及び第2の電極間に印加される電圧の大きさ等に応じて適宜設定可能であり、例えば、素子全体が10kΩ以上50kΩ以下となるような抵抗率に設定される。これにより、例えば高抵抗状態から低抵抗状態へのスイッチング動作時に生じ得る過大なリセット電流から素子を効果的に保護することができる。
【0016】
上記電流制限層は、酸素欠損した金属酸化物で構成されてもよい。これにより酸化度を調整することで所望とする抵抗率を有する電流制限層を形成することができる。
また上記電流制限層は、上記第1の電極に対してオーミック接合されることで、高抵抗状態と低抵抗状態との間の安定した状態遷移、すなわちスイッチング動作を確保することができる。
【0017】
上記第1の金属酸化物層は、酸素欠損した金属酸化物で構成されてもよい。この場合、上記第2の金属酸化物層は、化学量論組成の金属酸化物で構成されてもよい。
これにより抵抗率の異なる第1及び第2の金属酸化物層を容易に形成することができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る抵抗変化素子の製造方法は、第1の電極を形成することを含む。
上記第1の電極の上に、第1の抵抗率よりも高く第2の抵抗率よりも低い第3の抵抗率を有する金属酸化物で構成された電流制限層が形成される。
上記電流制限層の上に、上記第1の抵抗率を有する第1の金属酸化物層が形成される。
上記第1の金属酸化物層の上に、上記第2の抵抗率を有する第2の金属酸化物層が形成される。
上記第2の金属酸化物層の上に、第2の電極が形成される。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係る抵抗変化素子の一構成例を示す概略側断面図である。
【0021】
本実施形態の抵抗変化素子1は、基板2と、下部電極層3(第1の電極)と、電流制限層4と、酸化物半導体層5と、上部電極層6(第2の電極)とを有する。
【0022】
基板2は、例えばシリコン基板で構成されるが、これに限られず、ガラス基板等の他の基板材料で構成されてもよい。
【0023】
下部電極層3は、基板2上に配置され、本実施形態では白金(Pt)で形成される。なお材料はこれに限定されず、例えば、Hf,Zr,Ti,Al,Fe,Co,Mn,Sn,Zn,Cr,V,W等の遷移金属、あるいはこれらの合金(TaSi,WSi,TiSiなどのシリコン合金、TaN,WN,TiN,TiAlNなどの窒素化合物、TaCなどの炭素合金等)等を用いることができる。
【0024】
酸化物半導体層5は、第1の金属酸化物層51と、第2の金属酸化物層52とを有する。第1の金属酸化物層51及び第2の金属酸化物層52は、それぞれ同種の金属からなる酸化物材料で構成されているが、異種の金属からなる酸化物材料で構成されてもよい。
【0025】
第1の金属酸化物層51及び第2の金属酸化物層52のうち一方は、化学量論組成又はこれに近い酸化物材料(以下「化学量論組成材料」ともいう。)で構成され、他方は、酸素欠損を多数含む酸化物材料(以下「酸素欠損材料」ともいう。)で構成される。本実施形態では、第1の金属酸化物層51が酸素欠損材料で構成され、第2の金属酸化物層52が化学量論組成材料で構成される。したがって第2の金属酸化物層52は、第1の金属酸化物層51よりも高い抵抗率を有する。
【0026】
第1の金属酸化物層51は、電流制限層4の上に配置され、本実施形態では酸化タンタル(TaOx)で形成されている。第1の金属酸化物層51を構成するタンタル酸化物は酸素欠損材料で形成され、例えば、1Ω・cmより大きく、1×10
5Ω・cm以下の抵抗率を有する。第1の金属酸化物層51の厚みは特に限定されず、所望とする抵抗値が得られる大きさに適宜設定され、本実施形態では例えば40nmである。
【0027】
第1の金属酸化物層51を構成する材料は上記に限られず、例えば、酸化ジルコニウム(ZrOx)、酸化ハフニウム(HfOx)、酸化チタン(TiOx)、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化シリコン(SiOx)、酸化鉄(FeOx)、酸化ニッケル(NiOx)、酸化コバルト(CoOx)、酸化マンガン(MnOx)、酸化錫(SnOx)、酸化亜鉛(ZnOx)、酸化バナジウム(VOx)、酸化タングステン(WOx)、酸化銅(CuOx)、Pr(Ca,Mn)O3、LaAlO
3、SrTiO
3、La(Sr,Mn)O
3等の二元系あるいは三元系以上の金属酸化物材料が用いられる。
【0028】
第2の金属酸化物層52は、第1の金属酸化物層51の上に配置され、本実施形態では酸化タンタル(TaOx)で形成されている。第2の金属酸化物層52に用いられる酸化タンタルは化学量論組成材料で構成され、第1の金属酸化物層51を形成する酸化タンタルよりも高い抵抗率を有し、その値は、例えば3×10
6Ω・cmより大きいが、3×10
9Ω・cmより大きく、3×10
11Ω・cm以下の抵抗率を有するのがさらに好ましい。
【0029】
第2の金属酸化物層52の厚みは特に限定されず、所望とする抵抗値が得られる大きさに適宜設定され、本実施形態では例えば40nmである。第2の金属酸化物層52を構成する材料はこれに限られず、上述したような二元系あるいは三元系以上の金属酸化物材料が適用可能である。
【0030】
電流制限層4は、下部電極層3と第1の金属酸化物層51との間に配置され、本実施形態では、酸化タンタル(TaOx)で形成されている。電流制限層4は、第1の金属酸化物層51の抵抗率(第1の抵抗率)よりも大きく、第2の金属酸化物層52の抵抗率(第2の抵抗率)よりも小さい抵抗率(第3の抵抗率)を有する。
【0031】
電流制限層4を構成するタンタル酸化物は酸素欠損材料で形成され、例えば、1×10
5Ω・cmより大きく、3×10
6Ω・cm以下の抵抗率、より好ましくは、3×10
5Ω・cmより大きく、3×10
6Ω・cm以下の抵抗率を有する。電流制限層4の厚みは特に限定されず、所望とする抵抗値が得られる大きさに適宜設定され、本実施形態では例えば5nmである。
【0032】
電流制限層4は、下部電極層3に対してオーミック接合されるのが好ましい。これにより電流制限層4と下部電極層3との間の電位障壁を低くすることができるため、抵抗変化素子1の低電圧駆動が可能となる。また、高抵抗状態と低抵抗状態との間の安定した状態遷移、すなわちスイッチング動作を確保することができる。
【0033】
オーミック接合を実現する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)金属酸化物ターゲットとArなどの不活性ガスを用いた高周波スパッタ法により、金属酸化物層を形成する。
(2)Pt,Ir,Ru,Pd,TiN,TiAlN,TaNなどの酸化耐性がある電極上にALD法、CVD法、酸化ガスによる反応性スパッタ法などにより、金属酸化物を多層積層する。
(3)IrOx,RuOx,SrRuO
3,LaNiO
3,ITOなどの酸化物電気伝導体上にALD法、CVD法、酸化ガスによる反応性スパッタ法などにより、金属酸化物を堆積させる。
(4)TaC,WSi,WGeのようなSi,C,Geなどの還元力の強い元素が含まれる電気伝導体上にALD法、CVD法、酸化ガスによる反応性スパッタ法などにより、金属酸化物を堆積させる。
(5)電位障壁を形成しない金属材料と酸化物材料を組み合わせる。
【0034】
また、電流制限層4は、抵抗変化素子1が10kΩ以上50kΩ以下となるような抵抗率に設定される。これにより、例えば高抵抗状態から低抵抗状態へのスイッチング動作時に生じ得る過大なリセット電流から素子を効果的に保護することができる。
【0035】
上部電極層6は、第2の金属酸化物層52上に配置され、本実施形態では白金(Pt)で形成される。なお材料はこれに限定されず、例えば、Hf,Zr,Ti,Al,Fe,Co,Mn,Sn,Zn,Cr,V,W等の遷移金属、あるいはこれらの合金(TaSi,WSi,TiSiなどのシリコン合金、TaN,WN,TiN,TiAlNなどの窒素化合物、TaCなどの炭素合金等)等を用いることができる。
【0036】
電流制限層4、第1の金属酸化物層51及び第2の金属酸化物層52は、例えば、プロセスガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O
2)を用いたの反応性スパッタリング法によって形成される。スパッタ方式は特に限定されず、例えば高周波スパッタ法、DCスパッタ法等が採用可能である。本実施形態では、酸素が導入された真空チャンバにおいて金属(Ta)ターゲットのDCパルススパッタ法によって、酸化タンタルからなる電流制限層4及び金属酸化物層51,52が基板2(電流制限層4)上に順次形成される。電流制限層4及び各金属酸化物層51,52の酸化度は、真空チャンバに導入される酸素の流量(分圧)によって制御される。
【0037】
抵抗変化素子1の第2の金属酸化物層52は、第1の金属酸化物層51よりも酸化度が高いため、第1の金属酸化物層51よりも高い抵抗率を有する。ここで、上部電極層6に負電圧、下部電極層3に正電圧をそれぞれ加えると、高抵抗である第2の金属酸化物層52中の酸素イオン(O
2-)が低抵抗である第1の金属酸化物層51中に拡散し、第2の金属酸化物層52の抵抗が低下する(低抵抗状態)。一方、下部電極層3に負電圧、上部電極層6に正電圧をそれぞれ加えると、第1の金属酸化物層51から第2の金属酸化物層52へ酸素イオンが拡散し、再び第2の金属酸化物層52の酸化度が高まり、抵抗が高くなる(高抵抗状態)。
【0038】
上述のように下部電極層3と上部電極層6との間の電圧を制御することにより、第2の金属酸化物層52は、高抵抗状態と低抵抗状態とを可逆的にスイッチングする。さらに、両電極層3,6間に電圧が印加されていなくても上記低抵抗状態及び高抵抗状態は保持されるため、高抵抗状態でデータの書き込み、低抵抗状態でデータの読み出しというように、抵抗変化素子1は不揮発性メモリ素子として利用可能となる。
【0039】
その一方で、一般に
図2に示す抵抗変化素子は、スイッチング動作の際(例えば高抵抗状態から低抵抗状態へ遷移する際)に一時的に過大な電流が発生し得る。このときその過大電流によって素子が破壊され、あるいは信頼性(例えば繰り返し書き換え耐性)が低下するおそれがあった。
【0040】
図2は第1の比較例に係る抵抗変化素子11の構成を示す概略側断面図であり、基板2上に、下部電極層3、第1の金属酸化物層51、第2の金属酸化物層52、上部電極層6が順に積層された構造を有する。第1の比較例に係る抵抗変化素子11のスイッチング特性を評価したところ、
図3(A)に示す電流−電圧特性が得られた。なお
図2において
図1と対応する部分については同一の符号を付し、その説明は省略する。また各層3,5,6の接触面積はそれぞれ100μm
2とした。
【0041】
図3(A)に示すように、データ書き込み時には、抵抗変化素子11に約−1Vの電圧を印加することで、抵抗変化素子11は高抵抗状態から低抵抗状態へ変化する。一方、データ消去時には、書き込み時と逆極性の電圧を印加することで、抵抗変化素子11は低抵抗状態から高抵抗状態へ変化する。
【0042】
上記の例において、データの書き込み時においては、高抵抗状態において素子を流れる電流が微弱であるにもかかわらず、低抵抗状態への変化と同時に100μA(絶対値)を越える過大なリセット電流が素子を流れることになる。リセット電流の大きさは金属酸化物層51,52の抵抗率によって変化するものの、素子設計によっては素子の破壊を招いたり、繰り返し書き込み耐性に悪影響を及ぼしたりするほどの大きな電流値になるおそれがある。
【0043】
そこで本実施形態の抵抗変化素子1は、下部電極層3と上部電極層6との間に上記構成の電流制限層4を設けることで、上記過大電流から素子を保護するようにしている。
図3(B)は、電流制限層4の電流−電圧特性の一例を示している。
図4は、その評価に用いたサンプル構成図であり、
図1と対応する部分については同一の符号を付している。抵抗率が約3×10
6Ω・cmのTaOx層をTaターゲットの酸素リアクティブスパッタ法により、5nmの厚みで成膜し、上下のPt電極層3,6との接触面積がそれぞれ100μm
2となるように形成した。
【0044】
図3(B)より、読み出し電圧(1V)時の電流制限層4の抵抗値は19kΩであった。−1.5Vから1.5Vの電圧を印加したところ、電流値は最大でも約100μAであった。
【0045】
図3(C)は、
図3(B)に示す電流−電圧特性を有する電流制限層4を用いて
図1に示した本実施形態の抵抗変化素子1を作製したときのスイッチング特性を示している。各層3,4,5,6の接触面積はそれぞれ100μm
2とした。その結果、−1V印加時のリセット電流は、最大でも約52μAであった。
【0046】
以上のように、本実施形態においてはリセット電流に対して電流制限層4が抵抗成分となることで、抵抗変化素子1が過大電流から保護される。これにより当該過大電流から素子の破壊や繰り返し書き込み耐性の低下を防止することができる。
【0047】
本実施形態によれば、電流制限層4が素子内部に組み込まれているため、電流制限回路を素子の外部に設ける場合と比較して配線長を短くでき、これによりスイッチングの書き換え時間が長くなることを防止することができる。また素子サイズを大型化することなく、スイッチング動作時に発生し得る過大電流から素子を保護することができる。
【0048】
さらに本実施形態に係る抵抗変化素子1においては、下部電極層3と低抵抗の第1の金属酸化物層51との間に電流制限層4が設けられているため、上部電極層6と高抵抗の第2の金属酸化物層52との間に電流制限層を設ける場合(
図6参照)と比較して、以下に説明するようにスイッチング動作の信頼性を確保することができる。
【0049】
図5は、
図2に示した第1の比較例に係る抵抗変化素子11の層間のポテンシャル特性を示す概念図である。一方、
図6は、第2の比較例に係る抵抗変化素子13の構成を示しており、この抵抗変化素子13は、基板2上に、下部電極層3、第1の金属酸化物層51、第2の金属酸化物層52、電流制限層40、上部電極層6が順に積層された構造を有する。
図5において
図1と対応する部分については同一の符号を付している。また電流制限層40は、
図1に示す電流制限層4と同様の構成を有しているため、その説明は省略する。
【0050】
抵抗変化素子11が高抵抗状態のとき、
図5に示すように上部電極層6(Te-Pt)と第2の金属酸化物層52(TaOx)の界面におけるショットキー障壁は、
図5において符号b1で示すように高く、これにより抵抗変化素子11は高い抵抗値を示す。一方、
図6に示すように上部電極層6と第2の金属酸化物層52との間に電流制限層40をオーミック接合で挿入した場合、上記のショットキー障壁は、
図5において符号b2で示すように低くなる。この場合、
図6に示す抵抗変化素子13は、高抵抗状態における抵抗値が低くなり、安定した高抵抗状態を維持することが困難となる。
【0051】
また、
図6に示す抵抗変化素子13においては、データ書き込みのため上部電極層6に負電圧を印加した場合、電流制限層40や第2の金属酸化物層52の中の酸素イオンが第1の金属酸化物層51側へ移動する。この場合、電流制限層40がある分、抵抗変化させるのに必要な酸素イオンの量が多くなり、大きな電圧を印加しないと抵抗変化を示さなくなる。逆に、例えばデータ消去のため上部電極層6に正電圧を印加した場合、第2の金属酸化物層52の酸素イオンが電流制限層40に移動してしまい、正常なスイッチング動作では起こらない余計な動作が起こり、スイッチングの信頼性が低下する。
【0052】
これに対して本実施形態の抵抗変化素子1においては、下部電極層3(BE-Pt)と第1の金属酸化物層51(TaOx)との間に電流制限層4が挿入されているため、上部電極層6と第2の金属酸化物層52との間の高い電位障壁が確保される。これにより高抵抗状態を安定に維持することができるとともに、信頼性の高いスイッチング動作を確保することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0054】
例えば以上の実施形態では電流制限層4が金属酸化物層で構成される例を説明したが、電流制限層4は他の材料で構成されてもよく、例えば、下部電極層3の酸化膜で構成されてもよい。これにより上述の第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0055】
また以上の実施形態では、第1の金属酸化物層51よりも抵抗率が高い第2の金属酸化物層52を上部電極層6に接合したが、これに代えて、当該第2の金属酸化物層52を下部電極層3に接合してもよい。この場合、電流制限層4は、第1の金属酸化物層51と上部電極層6との間に配置される。