(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、多層配線板、半導体パッケージに対する配線の高密度化や電子部品の搭載密度が大きくなり、また半導体素子も高集積化して単位面積あたりの発熱量が大きくなったため、半導体パッケージからの熱放散をよくすることが望まれるようになっている。
【0003】
半導体パッケージでは、発熱体とアルミや銅等の放熱体との間に、熱伝導グリース又は熱伝導シートをはさんで密着させることにより熱を放散する放熱装置が一般に簡便に使用されているが、熱伝導グリースよりは熱伝導シートの方が放熱装置を組み立てる際の作業性に優れている。PCの場合、熱伝導シートは
図3に示すように発熱体であるチップ102とヒートスプレッダ101間に介在させ、チップから熱をヒートスプレッダ側へピックアップする用途(103)と、ヒートスプレッダ101と放熱フィン100の間に介在させ放熱フィンへ熱を伝達する用途(104)がある。
【0004】
このように熱伝導シートは部材に挟まれた状態で使用される。熱伝導シートの実装では、挟む部材の片方に熱伝導シートを仮付けすることで作業性が向上し取り扱いが容易となる。さらに熱伝導シートの仮付けしない面の粘着力を仮付面の粘着力よりも小さくすることで、実装時の位置決めエラーが起こった場合、熱伝導シートを破壊せずに部材同士を離すことができる。
【0005】
例えば、
図3に示すような熱伝導シート104が放熱フィン100に仮固定される場合を考える。熱伝導シートを放熱フィンに仮固定すると、放熱フィンとヒートスプレッダを貼り這わせる工程において作業性がいい。放熱フィンと熱伝導シートは熱伝導シートの表面の粘着力によって密着していることが好ましい。表面の粘着力で密着する場合は、仮固定する際に温度や高圧力を負荷する必要がないためである。さらに接着材等を用いて固定する必要もない。このように熱伝導シートの表面に粘着力があると温度を負荷することなく熱伝導シートを密着させた放熱フィンをヒートスプレッダの上にのせることができる。このとき、ヒートスプレッダに対して放熱フィンの位置ずれや、固定がうまくできない場合、放熱フィンを一度、ヒートスプレッダから離し再度貼りあわせる。その際、熱伝導シートとヒートスプレッダの剥離性が良いと熱伝導シートを破壊することなく、放熱フィンとヒートスプレッダを離すことができる。つまりこのような実装方法において熱伝導シートには、仮固定できる粘着性を有する表面と、一度接触したものからシートを破壊することなく離れる剥離性を有する表面が求められる。
【0006】
以上、放熱フィンとヒートスプレッダの間に使用する熱伝導シートについて説明したが、部材と部材の間に介入して部材間を接続することを目的とするシートであれば、シートには部材に仮固定できる粘着性を有する表面と、一度接触した部材からシートを破壊することなく剥がす剥離性を有する表面があれば、実装作業を容易にすることができる。
【0007】
以上のようにシートの表裏で粘着力が異なる熱伝導シートは実装工程の作業性を向上させることが可能で、実装不良の際も熱伝導シートを破損させることなく再利用できるため、歩留りを向上させることも出来る。
【0008】
熱伝導シートの多くは熱伝導フィラーが分散した樹脂シートである。樹脂シートにおいて表面の粘着力を変える方法としては、表層にシート材料とは異なる組成の材料の膜や層を形成する方法がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では熱伝導性の支持体の両面にシリコーンゲル層を設け、チップやヒートシンクとの密着性を高めている(
図4参照)。このシリコーンゲル層によってシートの密着力が向上し、実装においてもチップまたはヒートシンク側への仮固定は可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1の熱伝導シートでは、シリコーンゲル層を設けるプロセスが必要である。また熱伝導性の観点から、この特許文献1の構造に限らず熱を移動させる経路において層と層の界面が存在すると、そこで熱の接触抵抗が発生するため熱の流路中に異なる組成の材料からなる層を設けることは好ましくない。熱流路とは熱が伝わる経路のことを言い、
図3のような実装構造に用いられる用途では、主な熱流路は半導体チップ102から放熱フィン100へ伝わる方向である。
また熱抵抗、熱伝導性の悪化は界面での接触抵抗のみではなく、表面に形成する層や膜にも関与する。一般的にシート表層に粘着力を増すことを目的として形成する層や膜は、形成する層や膜の樹脂の柔軟性を利用するものである。樹脂自体のバルクの熱伝導率は高いとは言えず、そのような樹脂が数μmシート表層にある場合、シート全体での熱伝導性は急激に悪化してしまう。
【0011】
上記のようなシート表面の粘着力を変える方法では、熱伝導性の悪化とシート表層に粘着に関与する層や膜を設けるプロセスが必要である。
図4に示すようなシート断面構造が対称構造の場合、粘着力の違いをシート表裏で発現することができない問題があるが、表裏を異なる組成の材料を使用して膜を形成すれば、表裏での粘着力の違いを発現することができる。しかし、表裏界面で使用する材料が異なるため、材料が増える点、またプロセスが増える点等の問題がある。
【0012】
本発明の目的は、実装工程を容易にする粘着力と熱伝導性を悪化させず、かつプロセスを増やすことなく表面の粘着力に違いを持つ樹脂シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
<1>本発明は第1の面とそれに対向する第2の面とを有し、第1の面及び第2の面の間と、第1の面と、第2の面と、は同一の材料であって、第1の面と第2の面との粘着力が異なることを特徴とする樹脂シートに関する。
【0014】
<2>本発明は前記第1の面と第2の面との粘着力の比が0.3〜0.8であることを特徴とする上記<1>に記載の樹脂シートに関する。
【0015】
<3>本発明は、前記第1の面または第2の面と平行で連続で且つ第1の面及び第2の面と材料の異なる第3の面がないことを特徴とする上記<1>に記載の樹脂シートに関する。
【0016】
<4>本発明は、前記第1の面及び第2の面の間と、第1の面と、第2の面と、は鱗片状、楕球状又は棒状である熱伝導性の無機材料と有機高分子化合物とを含有する組成物を含む材料であることを特徴とする上記<1>に記載の樹脂シートに関する。
【0017】
<5>本発明は、下記(1)〜(4)の工程を含む、第1の面とそれに対向する第2の面とを有し、第1の面及び第2の面の間と、第1の面と、第2の面と、は同一の材料であって、第1の面と第2の面との粘着力が異なる樹脂シートを得る製造方法に関する。
(1)鱗片状、楕球状又は棒状である熱伝導性の無機材料と有機高分子化合物とを含有する組成物を混練し、混練物を得る混練工程、
(2)前記混練物をシート状にして一次シートを得る一次シート作製工程、
(3)前記一次シートを積層するか、又は捲回して成形体を得る積層工程、
(4)前記成形体を、刃断面形状が非対称であるナイフを用いてスライスして、第1の面と第2の面との粘着力が異なる樹脂シートを得るスライス工程。
【0018】
<6>本発明は第1の面とそれに対向する第2の面とを有し、第1の面及び第2の面の間と、第1の面と、第2の面と、は鱗片状、楕球状又は棒状である熱伝導性の無機材料と有機高分子化合物とを含有する組成物を含む材料であって、第1の面と第2の面との粘着力が異なる熱伝導シートを、半導体チップとヒートシンクの間に設置したことを特徴とするサーマルモジュールに関する。
【0019】
<7>本発明は第1の面とそれに対向する第2の面とを有し、第1の面及び第2の面の間と、第1の面と、第2の面と、は鱗片状、楕球状又は棒状である熱伝導性の無機材料と有機高分子化合物とを含有する組成物を含む材料であって、第1の面と第2の面との粘着力が異なる熱伝導シートを、ヒートシンクとヒートシンクの間に設置したことを特徴とするサーマルモジュールに関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明による樹脂シートは、シート表層に異なる樹脂組成の膜を形成することなく、つまり樹脂シートの断面構造において界面を有することなく、シート表面の粘着力が一方の面とそれに対向する面で異なるため、熱伝導性を悪化させることなく、実装工程での作業性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<樹脂シート>
本発明の樹脂シートは、第1の面とそれに対向する第2の面とを有し、第1の面及び第2の面の間と、第1の面と、第2の面と、は同一の材料であって、第1の面と第2の面との粘着力が異なることを特徴とする。
本発明の樹脂シートは、
図1及び
図2に示すように、第1の面300とそれに対向する第2の面301を有する。樹脂シート表裏とは第1の面、第2の面のことである。第1の面と第2の面の間を302とする。また第1の面と第2の面の間302の長さは樹脂シートの膜の厚みである。本発明の樹脂シートを放熱フィンとヒートスプレッダ間の熱伝導シートとして使用する場合、第1の面と第2の面には放熱フィンかヒートスプレッダのいずれかが接触する。
【0023】
本発明の樹脂シートは、仮固定できる粘着性を有する表面と、一度接触したものからシートを破壊することなく離れる剥離性を有する表面とを持ち、その表面の粘着力の比は、粘着力が大きい方を分母とすると、好ましくは0.3〜0.8、更に好ましくは0.4〜0.7、もっとも好ましくは0.4〜0.6であるとよい。粘着力の比が1に近づくと、樹脂シートの表面、裏面で粘着力が同じになり、一度接触したものから剥がしにくかったり、全く付かなかったりする。また粘着力がゼロに近づくと、シート片側の粘着力だけが異常に大きくなるので、樹脂シートのハンドリングが難しくなったり、仮固定が強固に接着してしまい本固定になる問題がある。
なお、本発明における粘着力は以下の方法により測定した数値を基準とする。
プローブタック試験装置((株)レスカ製、TAC−II)を用いて、樹脂シートの両方の表面(第1の面と第2の面)を粘着力を測定する。温度25℃でプローブ(先端形状:φ5.1mmの円形(面積:20.4mm
2)、材質:ステンレス(SUS304))を0.5Nで10秒間、樹脂シートに密着させた後、引き剥がす際の最大応力値を粘着力とする。
上記方法で測定された粘着力の絶対値は、粘着力の小さい方で好ましくは、1.5〜38kPa、更に好ましくは4〜24kPa、もっとも好ましくは5〜14kPaで、大きい方で好ましくは、5〜48kPa、更に好ましくは10〜34kPa、もっとも好ましくは12.5〜24kPaである。
【0024】
本発明の樹脂シートは、熱伝導シートとして使用することが好ましい。以下に樹脂シートの組成について説明する。
本発明の樹脂シートは、鱗片状、楕球状又は棒状である熱伝導性の無機材料と有機高分子化合物とを含有する組成物を含んでなる。
鱗片状、楕球状又は棒状である熱伝導性の無機材料は以下に列挙するものに限定されるわけではないが、窒化ホウ素、黒鉛、炭素繊維を挙げることができる。
【0025】
なお、本発明において「鱗片状」とは、魚の鱗のように、薄く平たい形状を示す。「楕球状」とは、ラグビーボールのように、楕円を回転した楕円体形状を示す。
「棒状」とは、細長い(径に対する長さの割合が大きいもの、具体的には、径に対する長さの割合が100〜500程度)円柱形状や角柱状形状を示す。いずれの形状も異方性を有する形状となる。
【0026】
本発明で使用される無機材料の含有量は特に制限されないが、組成物全体積の10〜50体積%であることが好ましく、30〜45体積%であることがより好ましい。
なお、本明細書における無機材料の含有量(体積%)は次式により求めた値である。
無機材料の含有量(体積%)=(Aw/dA)/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd)+(Dw/Dd)+・・・)×100
Aw:無機材料の質量組成(質量%)
Bw:有機高分子化合物の質量組成(質量%)
Cw:その他の任意成分の質量組成(質量%)
Ad:無機材料の比重(本発明においてAdは黒鉛の場合:2.1、窒化ほう素の場合:2.2、炭素繊維の場合:1.8で計算した。)
Bd:有機高分子化合物の比重
Cd:その他の任意成分の比重
【0027】
本発明における有機高分子化合物は、Tg(ガラス転移温度)が50℃以下、好ましくは−70〜20℃、より好ましくは−60〜0℃である。前記Tgが50℃を超える場合は、柔軟性に劣り、発熱体及び放熱体に対する密着性が不良となる傾向がある。
本発明において、ガラス転移温度の測定は、熱機械測定(TMA)を用いて行う。
【0028】
本発明で使用する有機高分子化合物としては、例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等を主要な原料成分としたポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(所謂アクリルゴム)、ポリジメチルシロキサン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂シリコーン樹脂)、ポリイソプレン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂イソプレンゴム、天然ゴム)、クロロプレンを主要な原料成分とした高分子化合物(所謂クロロプレンゴム)、ポリブタジエン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂ブタジエンゴム)等、一般に「ゴム」と総称される柔軟な有機高分子化合物が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、特にアクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルのいずれか又は両方を共重合成分として含み、その共重合組成中の50質量%以上であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が、高い柔軟性を得易く、化学的安定性、加工性に優れ、粘着性をコントロールし易く、かつ比較的廉価であるため好ましい。
【0030】
また、柔軟性を損なわない範囲で架橋構造を含ませると長期間の密着保持性と膜強度の点で好ましい。例えば、−OH基を有するポリマに複数のイソシアネート基を持つ化合物を反応させることで架橋構造を含ませることができる。有機高分子化合物の含有量は特に制限されないが、組成物全体積に対して好ましくは10〜70体積%、より好ましくは20〜50体積%である。
【0031】
また、本発明の樹脂シートは、難燃剤を含有することができる。難燃剤としては特に限定されず、例えば、赤りん系難燃剤やりん酸エステル系難燃剤を含有することができる。
赤りん系難燃剤としては、純粋な赤りん粉末の他に、安全性や安定性を高める目的で種々のコーティングを施したもの、マスターバッチになっているもの等が挙げられ、具体的には、例えば、燐化学工業株式会社製、商品名:ノーバレッド、ノーバエクセル、ノーバクエル、ノーバペレット等が挙げられる。
【0032】
りん酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の脂肪族リン酸エステル;
トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、トリス(t-ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(イソプロピル化フェニル)ホスフェート、リン酸トリアリールイソプロピル化物等の芳香族リン酸エステル;
レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等の芳香族縮合リン酸エステル;等が挙げられる。
これらは一種類を用いても、二種類以上を併用してもよい。また、難燃剤がりん酸エステル系化合物であり、かつ凝固点が15℃以下、沸点が120℃以上の液状物であると、難燃性と柔軟性やタック性を両立するのが容易となり、好ましい。凝固点が15℃以下、沸点が120℃以上の液状物のリン酸エステル系難燃剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。
【0033】
難燃剤の含有量は特に制限されないが、組成物全体積に対して好ましくは5〜50体積%、より好ましくは10〜40体積%である。難燃剤の含有量が前記範囲であれば、充分な難燃性が発現され、かつ柔軟性の点で有利となるので好ましい。前記難燃剤の含有量が5体積%未満である場合は、充分な難燃性が得難く、50体積%を超える場合は、シート強度が低下する傾向がある。
【0034】
また、本発明の樹脂シートは、さらに必要に応じてウレタンアクリレート等の靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物等の接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の濡れ向上剤;シリコーン油等の消泡剤;無機イオン交換体等のイオントラップ剤;等を適宜添加することができる。
【0035】
<樹脂シートの製造方法>
本発明の樹脂シートの製造方法について説明する。
本発明の樹脂シートの製造方法は、下記(1)〜(4)の工程を含む(
図5参照)。
(1)鱗片状、楕球状又は棒状である熱伝導性の無機材料と有機高分子化合物とを含有する組成物を混練し、混練物を得る混練工程、
(2)前記混練物をシート状にして一次シートを得る一次シート作製工程、
(3)前記一次シートを積層するか、又は捲回して成形体を得る積層工程、
(4)前記成形体を、刃断面形状が非対称であるナイフを用いてスライスして、第1の面と第2の面との粘着力が異なる樹脂シートを得るスライス工程。
本発明の樹脂シートの製造方法は、工程中、樹脂シート表面に新たに異なる組成の膜や層を形成するプロセスは不要である。樹脂シート表裏の粘着力の違いはスライス工程で発現される。
【0036】
以下に、各工程について説明する。
(1)混練工程
鱗片状、楕球状又は棒状である熱伝導性の無機材料と有機高分子化合物とを含有する組成物を混練し、混練物を得る混練工程で用いる無機材料の大きさは、スライス工程で加工するスライス厚みに準じて選定するのが好ましく、鱗片、楕球、棒状の最も長い箇所の大きさが平均で250μmの材料や、500〜1000μmや1500〜2000μm等の条件で投入してよい。より熱伝導率を上げるためにはスライス後のシート断面で貫通する無機材料が多くする必要があるため、スライス厚みよりも大きな無機材料を通常は選定する。
本発明において無機材料の平均粒径の測定は、レーザー回折・散乱法により測定したときのD50の値とする。
混練手段としては2本ロール、ニーダー等の装置を利用する。
【0037】
(2)一次シート作製工程
一次シート作製工程では、混練して得られた混練物を平板プレスやメタルロールを使用して押しつぶして作製する。温度条件は高温すぎると樹脂が脆性化し、低温すぎると軟化しないため25〜150℃の範囲が好ましい。一次シート厚みは薄い方が好ましく0.2〜2.0mmの厚みが最も好ましい。
【0038】
(3)積層工程
続いての積層工程では1次シートを所定の大きさに切り抜き積層して成形体を得る。その際、1次シート間の密着を上げるためプレス等によって圧力をかけると良い。プレスでの圧縮量は3〜20%の範囲が好ましい。プレス以外にもメタルロールでも問題なく作製できる。なお、圧縮量はプレス前後の変化量とする。
あるいは、積層する代わりに、1次シートを捲回して成形体を得ることも可能である。1次シートを捲回する方法も特に限定されず、1次シートを無機材料の配向方向を軸にして捲回すればよい。捲回の形状は、特に限定されず、例えば円筒形でも角筒形でもよい。
【0039】
(4)スライス工程
スライス工程では、刃断面形状が非対称であるナイフを用いて成形体から所定の厚みだけを切り出し、第1の面と第2の面との粘着力が異なる樹脂シートを得る。樹脂シートは任意の厚みに加工することができるが、熱伝導性を考慮すると薄いほうがよい。
以下にスライス方法、装置について説明する。
スライスはスライスナイフを使用し行う。本発明の樹脂シートの製造方法は、成形体のスライス工程において
刃断面形状が非対称であるナイフを用いることが重要である。
刃断面形状が非対称であるナイフでスライスすることにより、ナイフ両面の各被削材(樹脂シート及び成形体)が受ける摩擦を異ならせることができ、それによりスライス部両面で粘着力の異なるシートが得られる。つまり、樹脂シートの第1の面となる面と、第2の面となる面とが、それぞれナイフの違う面でスライスされるようにすればよい。
【0040】
図6にスライス加工の断面模式図を示す。スライスナイフ600が成形体602の一面から所定の高さ601だけ突出するように設定し、成形体またはナイフ自体が水平方向603に駆動する。
図7にスライスナイフ700の形状を示す。刃角701は45°〜10°が好ましく、35°〜20°がもっとも好ましい。刃角が大きすぎるとスライスシート(樹脂シート)の表面が粗くなり、密着性が劣ってしまう。また刃角が小さすぎると、ナイフの強度が低下しスライス加工時にナイフ刃先が変動するため、スライスシート(樹脂シート)の厚みにばらつきが生じる。逃げ角702は0°〜5°が好ましく、1°〜3°がもっとも好ましい。
図6に示すように加工断面において成形体に対してスライスナイフが非対称な形状で切り込ませるのがよい。この非対称性によってナイフの逃げ角を構成する面605と、もう一方の面606では被削材(樹脂シート及び成形体)が受ける摩擦を異ならせることができる。
逆に対称構造とは
図8に示すようにスライスナイフの形状が対称で、スライスナイフのそれぞれの面802、803において被削材が受ける摩擦は同じである。
【0041】
スライス方法は、(1)ナイフを固定して成形体を動かす方法、(2)積層体を固定してナイフを動かす方法の2種類がある。動かす方向は、
図6に示すように水平方向603である。また、ナイフまたは成形体を動かす際に垂直方向604の圧縮力を成形体に対して加える。
圧縮力は0.05〜2.5MPaが好ましく、0.2〜0.6MPaが最も好ましい。圧縮力がゼロの場合、安定した膜厚を得ることができない。圧縮力を大きくするに従い、加工膜厚は大きくなり、流動性のある樹脂成分が表面ににじみでて、スライスシート表面の粘着力が増してくる。しかし圧縮力が大きすぎるとナイフへの負担が増すのと水平方向へナイフまたは成形体を動かしづらくなってしまう。
【0042】
スライスシート厚みの調整はナイフが突出する量で調整する。圧縮力に応じて膜厚はかわるので、圧縮力に応じてナイフの突出量を調整する。
【0043】
<樹脂シートを用いたサーマルモジュール>
本発明の樹脂シートを半導体チップとヒートシンクの間、又はヒートシンクとヒートシンクの間に設置したサーマルモジュールも本発明の範囲内である。
ヒートシンクとしては、ヒートスプレッダ、放熱フィン、ヒートパイプ等が挙げられる。
本発明のサーマルモジュールは、半導体チップとヒートシンク、又はヒートシンクとヒートシンクに、本発明の樹脂シートの各々の面を接触させることで成立する。樹脂シートが被着体に充分に密着させた状態で固定できる方法であれば、接触させる方法に制限はないが、手動で押し当てて密着させる、ロボット等を用いて自動で密着させる等の手段による接触方法が好ましい。
【実施例】
【0044】
<実施例1>
前述した工程に従って本発明の樹脂シートを作製した例を説明する。熱伝導性の無機材料には鱗片状で粒子長さが500〜1000μmの黒鉛を使用した。黒鉛の含有量は組成物全体積の45体積%とした。有機高分子化合物は、アクリル酸ブチルがその共重合組成中の76質量%であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を使用した。その含有量は組成物全体積に対して30体積%とした。
【0045】
難燃剤はりん酸エステル系であるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を使用し含有量は組成物全体積に対して25体積%とした。
【0046】
以上の材料を配合し、まず始めに加圧ニーダーを用いて混錬した。条件を組成物質量3.5kgあたり温度100℃で40分間として混錬し、混練物を得た。混練物を油圧プレスを用いて数十mm厚まで圧縮し、さらに80℃のメタルロールを数回通して1.0mm厚の1次シートを作製した。
次に1次シートを50mm×200mmの形状に切り出し、高さが50mmになるまで積層し、成形体を得た。成形体をさらに油圧プレスを用いて0.1MPa以下の圧力で加圧した。そして成形体の積層面の法線に対して平行な面をスライスした。
スライスシートの厚みが0.25mmになるようにナイフの突出量を調整し、積層体温度を10℃、加工速度を54mm/分、刃先角度を32°、逃げ角3°とした条件で加工した。ナイフを固定し成形体に垂直方向から0.3MPaの圧縮力をかけて水平方向に移動させた。
【0047】
以上の条件で作製した樹脂シートaの粘着力を測定した。測定装置はプローブタック試験機を使用した。φ5mmのフラットな形状のプローブ先端を0.5N(50gf)の荷重で樹脂シートに10s間押付け、プローブを樹脂シートから引き離す時の密着力を測定した。温度は25℃で行った。その結果を
図9に示す。この測定では、粘着力の小さい面を表面と定義した。樹脂シートaの表面の粘着力は、6kPaであり、裏面の粘着力は14kPaであった。
得られた樹脂シートaはシート表裏で粘着力が異なる結果を得た。この樹脂シートaの表面と裏面とでの粘着力の比は0.43であった。このように上述した本発明の実施の方法によってシート表層に異なる材料組成の膜を形成することなく、シート表裏で粘着力のことなる樹脂シートを作製することが可能である。
【0048】
<実施例2>
図10は樹脂シートa(1002)を放熱ファン1000とヒートスプレッダ1001の間に取り付けた例である。粘着力のある表面を放熱フィンに接触させ、粘着力が小さい面をヒートスプレッダに接触するように実装する。この構造によって、樹脂シートaは放熱ファンには容易に密着することができ、ヒートスプレッダとは一度接触しても容易に剥離することができる。
このようにヒートシンク同士の接合にも本発明の樹脂シートは利用することができる。
本発明の樹脂シートには適度な粘着力があるので、高圧力や温度を負荷して固定する必要はないが、より十分に固定したい場合は次の条件で樹脂シートを挟むことが好ましい。
ヒートスプレッダと放熱フィンの間に温度50〜200℃、圧力0.1〜2.0MPaを負荷する。
【0049】
<実施例3>
図11は樹脂シートa(1103)を半導体チップ1102とヒートシンク1100の間に取り付けた例である。ヒートシンクの種類にはヒートスプレッダや放熱フィン、ヒートパイプが含まれる。それらは熱を拡散する機能がある。粘着力のある表面をヒートシンクに接触させ、粘着力が小さい面を半導体チップに接触するように実装する。この構造によって、樹脂シートは放熱ファンには容易に密着することができ、半導体チップとは一度接触しても容易に剥離することができる。
【0050】
本発明の樹脂シートには適度な粘着力があるので、半導体チップに負荷を与えることなく密着することが可能である。
【0051】
<比較例1>
実施例1と同様の方法で得られた樹脂シートaの粘着力の高い方の面に粘着性のある樹脂を拭きつけ、粘着性のある樹脂を拭きつけ形成された粘着層の厚みが異なる樹脂シートb、c、dを得た。粘着性のある樹脂とは、市販されているアクリルゴム10%を含むスプレーのりを用いた。
粘着性のある樹脂のスプレー塗布前後の膜厚を接触式膜厚計によって測定し、シート表層に形成された樹脂の膜厚を算出した。その結果、以下の通りであった。
樹脂シートb:粘着層厚み0μm
樹脂シートc:粘着層厚み1.35μm
樹脂シートd:粘着層厚み2.27μm
熱伝導性の評価では熱抵抗測定を行った。熱抵抗の測定にはトランジスタ法を用いて、15Wの電力を印可して樹脂シート表裏界面付近の温度差を測定した。結果を
図12に示す。表層の粘着性のある樹脂の厚みが微小の数μmであっても熱伝導性の悪化がみられる。このように樹脂シートの表層に粘着層または粘着膜を設けることは、プロセスが増えるだけでなく、熱伝導性も悪化することになる。