特許第5696664号(P5696664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5696664二次電池用電極、二次電池電極用バインダー及び二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696664
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】二次電池用電極、二次電池電極用バインダー及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20150319BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20150319BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20150319BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20150319BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150319BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/13
   H01M4/139
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】8
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2011-533076(P2011-533076)
(86)(22)【出願日】2010年9月28日
(86)【国際出願番号】JP2010066817
(87)【国際公開番号】WO2011037254
(87)【国際公開日】20110331
【審査請求日】2013年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2009-221870(P2009-221870)
(32)【優先日】2009年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 康尋
(72)【発明者】
【氏名】薮内 庸介
(72)【発明者】
【氏名】早野 重孝
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−048462(JP,A)
【文献】 特開2009−151959(JP,A)
【文献】 特開平10−241693(JP,A)
【文献】 特開2006−278303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体、及び前記集電体上に設けられた、ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まないブロックコポリマー及び電極活物質を含む電極活物質層を有し、
前記ブロックコポリマーが、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを含有する電解液に対して相溶性を示すセグメントA、および、前記電解液に対して相溶性を示さないセグメントBを有し、
前記セグメントAが、エステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のアクリル酸アルキルエステル、エステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のメタクリル酸アルキルエステル、及び/又はカルボン酸基を有する単量体に基づく重合単位を有し、
前記セグメントBが、α,β−不飽和ニトリル化合物、スチレン系単量体、エステル基中のアルキル基の炭素数が6以上のアクリル酸アルキルエステル及び/又はエステル基中のアルキル基の炭素数が6以上のメタクリル酸アルキルエステルに基づく重合単位を有するリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
前記ブロックコポリマーが、ガラス転移温度15℃以下の軟質重合体のセグメントを含む請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項3】
前記ブロックコポリマーの重量平均分子量が、1,000〜500,000の範囲にある請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項4】
ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まないブロックコポリマーを含み、
前記ブロックコポリマーが、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを含有する電解液に対して相溶性を示すセグメントA、および、前記電解液に対して相溶性を示さないセグメントBを有し、
前記セグメントAが、エステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のアクリル酸アルキルエステル、エステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のメタクリル酸アルキルエステル、及び/又はカルボン酸基を有する単量体に基づく重合単位を有し、
前記セグメントBが、α,β−不飽和ニトリル化合物、スチレン系単量体、エステル基中のアルキル基の炭素数が6以上のアクリル酸アルキルエステル及び/又はエステル基中のアルキル基の炭素数が6以上のメタクリル酸アルキルエステルに基づく重合単位を有するリチウムイオン二次電池電極用バインダー。
【請求項5】
前記ブロックコポリマーが、ガラス転移温度15℃以下の軟質重合体のセグメントを含む請求項4に記載のリチウムイオン二次電池電極用バインダー。
【請求項6】
前記ブロックコポリマーの重量平均分子量が、1,000〜500,000の範囲にある請求項4に記載のリチウムイオン二次電池電極用バインダー。
【請求項7】
ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まないブロックコポリマー、及び電極活性物質を含有するスラリーを、集電体上に塗布し、乾燥する工程を含む請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法であって、
前記ブロックコポリマーが、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを含有する電解液に対して相溶性を示すセグメントA、および、前記電解液に対して相溶性を示さないセグメントBを有し、
前記セグメントAが、エステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のアクリル酸アルキルエステル、エステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のメタクリル酸アルキルエステル、及び/又はカルボン酸基を有する単量体に基づく重合単位を有し、
前記セグメントBが、α,β−不飽和ニトリル化合物、スチレン系単量体、エステル基中のアルキル基の炭素数が6以上のアクリル酸アルキルエステル及び/又はエステル基中のアルキル基の炭素数が6以上のメタクリル酸アルキルエステルに基づく重合単位を有する、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項8】
正極、電解液、セパレーター及び負極を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極及び/又は負極が、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極であるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極及びその製造方法、その電極活物質層を構成するバインダー及び二次電池用電極を用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、実用化電池の中で最も高いエネルギー密度を示し、特に小型エレクトロニクス用に多用されている。また、自動車用途への展開も期待されている。その中で、リチウムイオン二次電池の長寿命化や、広い温度範囲での作動、及び安全性の向上などの更なる高性能化が要望されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極は、一般に、正極活物質として用いられる、LiCoO、LiMn及びLiFePO等のリチウム含有金属酸化物等を、ポリフッ化ビニリデン等のバインダーにより結合させて形成されている。一方負極は、負極活物質として用いられる、炭素質(非晶質)の炭素材料、金属酸化物もしくは金属硫化物等を、スチレン−ブタジエン共重合体等のバインダーにより結合させて形成されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の高性能化に向けて、例えば、特許文献1には、活物質とバインダーからなる電極のバインダーとして、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を用いることが開示されている。スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を用いることにより活物質の脱離を防ぐことができ、低い内部抵抗を有する電池が得られている。
【0005】
また、特許文献2には、活物質とバインダーからなる電極のバインダーとして、含フッ素ブロック共重合体を用いることが開示されている。含フッ素セグメントと、非フッ素セグメントとより構成される含フッ素ブロック共重合体を用いることにより、集電体への密着性と耐電解液性とのバランスに優れる電極が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−133275号公報
【特許文献2】特開2002−141068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1及び2に記載の方法では、ブロックコポリマーの主鎖に不飽和結合を有すること、又は構造中にハロゲン元素を有することにより、ポリマーが高温状態において不安定になり、ポリマーの分解等の副反応が起こり、その結果、二次電池の高温サイクル特性等の高温特性が大幅に低下することが分かった。
また、長期サイクル特性を向上させるためには、電極の電解液保持性や電解液含浸性を更に向上させる必要があることがわかった。
従って、本発明の目的は、高温特性及び長期サイクル特性が更に向上した、リチウムイオン二次電池などに使用される二次電池用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、バインダーとして、ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まないブロックコポリマーを用いることにより、高温下においてもポリマーの分解等の副反応を起こさないことから、そのブロックコポリマーを有する二次電池用電極を用いた二次電池の高温特性及び長期サイクル特性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まないブロックコポリマー及び電極活物質を含有する電極活物質層が、集電体上に積層されてなる二次電池用電極が提供される。
【0010】
本発明においては、ブロックコポリマーが、電解液に対する相溶性を示すセグメントと電解液に対する相溶性を示さないセグメントとから構成されることが好ましい。ブロックコポリマーが上記構造であることにより、電極活物質への高い吸着安定性により分散性が向上し、高い電解液保持性や電解液含浸性を有し、高い長期サイクル特性に加えて高い出力特性を示すことができる。
【0011】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、下記事項を要旨として含む。
(1) 集電体、及び前記集電体上に設けられた、ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まないブロックコポリマー及び電極活物質を含む電極活物質層を有する二次電池用電極。
(2) 前記ブロックコポリマーが、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを含有する電解液に対して相溶性を示すセグメントおよび、前記電解液に対して相溶性を示さないセグメントを有する(1)に記載の二次電池用電極。
(3) 前記ブロックコポリマーが、ガラス転移温度15℃以下の軟質重合体のセグメントを含む(1)又は(2)に記載の二次電池用電極。
(4) 前記ブロックコポリマーの重量平均分子量が、1,000〜500,000の範囲にある(1)〜(3)のいずれかに記載の二次電池用電極。
(5) ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まないブロックコポリマーを含む二次電池電極用バインダー。
(6) 前記ブロックコポリマーが、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを含有する電解液に対して相溶性を示すセグメントおよび、前記電解液に対して相溶性を示さないセグメントを有する(5)に記載の二次電池電極用バインダー。
(7) 前記ブロックコポリマーが、ガラス転移温度15℃以下の軟質重合体のセグメントを含む(5)又は(6)に記載の二次電池電極用バインダー。
(8) 前記ブロックコポリマーの重量平均分子量が、1,000〜500,000の範囲にある(5)〜(7)のいずれかに記載の二次電池電極用バインダー。
(9) ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まないブロックコポリマー、及び電極活性物質を含有するスラリーを、集電体上に塗布し、乾燥する工程を含む(1)〜(4)のいずれかに記載の二次電池用電極の製造方法。
(10) 正極、電解液、セパレーター及び負極を有する二次電池であって、
前記正極及び/又は負極が、(1)〜(4)のいずれかに記載の二次電池用電極である二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、二次電池用電極が特定のバインダーを含有することにより、該二次電池用電極における、電極活物質の高度な分散性及び高度な電解液保持性が達成され、得られる二次電池の高温特性及び長期サイクル特性がより向上する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳述する。
本発明の二次電池用電極は、集電体、及び集電体上に設けられた、ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まないブロックコポリマー及び電極活物質を含有する電極活物質層を有する。本発明の電極活物質層は電極活物質及びブロックコポリマーを含有する。以下、この構成材料について詳細に説明する。
【0014】
(電極活物質)
本発明の二次電池用電極に用いられる電極活物質は、電極が利用される二次電池に応じて選択することが一般的である。前記二次電池としては、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池が挙げられる。
【0015】
本発明の二次電池用電極を、リチウムイオン二次電池正極用に用いる場合、リチウムイオンを吸蔵放出可能な活物質が用いられ、リチウムイオン二次電池正極用の電極活物質(正極活物質)は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
【0016】
無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属とのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が使用される。
【0017】
遷移金属酸化物としては、MnO、MnO、V、V13、TiO、Cu、非晶質VO−P、MoO、V、V13等が挙げられ、中でも得られる二次電池のサイクル安定性と容量からMnO、V、V13、TiOが好ましい。
遷移金属硫化物としては、TiS、TiS、非晶質MoS、FeS等が挙げられる。
リチウム含有複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0018】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物等が挙げられる。
スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはマンガン酸リチウム(LiMn)やMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn3/21/2]O(ここでMは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu等)等が挙げられる。
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはLiMPO(式中、Mは、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B及びMoから選ばれる少なくとも1種、0≦X≦2)であらわされるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。電気伝導性に乏しい、鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を共存させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これら化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
【0019】
有機化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子を用いることができる。
【0020】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。正極活物質の粒子径は、電池の他の特性との兼ね合いで適宜選択されるが、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、50%体積累積径が、通常0.1〜50μm、好ましくは1〜20μmである。50%体積累積径がこの範囲であると、充放電容量が大きい二次電池を得ることができ、かつ電極活物質スラリーおよび電極を製造する際の取扱いが容易である。50%体積累積径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる。
【0021】
本発明の二次電池用電極を、リチウムイオン二次電池負極用に用いる場合、リチウムイオン二次電池負極用の電極活物質(負極活物質)としては、たとえば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維などの炭素質材料、ポリアセン等の導電性高分子などがあげられる。また、負極活物質としては、リチウム金属、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn等のリチウム合金を形成する単体金属および合金、及びそれらの酸化物や硫化物等が用いられる。それらの中でもケイ素(Si)、スズ(Sn)または鉛(Pb)の単体金属若しくはこれら原子を含む合金、酸化スズ、酸化マンガン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化バナジウム等の酸化物、Si、Sn、PbおよびTi原子よりなる群から選ばれる金属元素を含むLiTiなどのリチウム含有金属複合酸化物材料が挙げられる(0.7≦x≦1.5、1.5≦y≦2.3、0≦z≦1.6、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、ZnおよびNb)。電極活物質は、機械的改質法により表面に導電剤を付着させたものも使用できる。負極活物質の粒径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、50%体積累積径が、通常1〜50μm、好ましくは15〜30μmである。
【0022】
本発明の二次電池用電極を、ニッケル水素二次電池正極用に用いる場合、用いることのできる正極活物質としては、水酸化ニッケル粒子が挙げられる。水酸化ニッケル粒子は、コバルト、亜鉛、カドミウム等を固溶していてもよく、あるいは表面がアルカリ熱処理されたコバルト化合物で被覆されていてもよい。
【0023】
本発明の二次電池用電極を、ニッケル水素二次電池負極用に用いる場合、ニッケル水素二次電池負極用の電極活物質(負極活物質)としては、水素吸蔵合金粒子は、電池の充電時にアルカリ電解液中で電気化学的に発生させた水素を吸蔵でき、なおかつ放電時にその吸蔵水素を容易に放出できるものであればよく、特に限定はされないが、AB5型系、TiNi系及びTiFe系の水素吸蔵合金からなる粒子が好ましい。具体的には、例えば、LaNi、MmNi(Mmはミッシュメタル)、LmNi(LmはLaを含む希土類元素から選ばれる少なくとも一種)及びこれらの合金のNiの一部をAl,Mn,Co,Ti,Cu,Zn,Zr,Cr及びB等から選択される1種以上の元素で置換した多元素系の水素吸蔵合金粒子を用いることができる。特に、一般式:LmNiCoMnAl(原子比w,x,y,zの合計値は4.80≦w+x+y+z≦5.40である)で表される組成を有する水素吸蔵合金粒子は、充放電サイクルの進行に伴う微粉化が抑制されて充放電サイクル特性が向上するので好適である。
【0024】
これらの二次電池用の電極活物質の中でも長寿命化や、広い温度範囲での作動、及び安全性の向上が最も求められているリチウムイオン二次電池用の電極活物質が好ましい。その中でも、電極作製時に高密度化させてエネルギー密度を向上させて用いることが多く、浸漬後の厚み変化の抑制効果が顕著に見られることから、無機化合物が好ましく中でもリチウム含有複合金属酸化物が好ましい。更には、本発明のバインダーを用いることで少量の導電剤でも高い導電性を示すことができる。そのため、活物質の導電性が低すぎず、少量の導電剤を用いて使用される、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物及びスピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物が、最も大きな効果が得られる為好ましい。
【0025】
本発明においては、電極活物質層中の電極活物質の含有割合は、好ましくは90〜99.9質量%、より好ましくは95〜99質量%である。電極活物質中における電極活物質の含有量を、前記範囲とすることにより、電極活物質層が結着性及び柔軟性に優れ、二次電池が高い容量を有する。
【0026】
(ブロックコポリマー)
本発明の二次電池用電極の電極活物質層は、ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まないブロックコポリマーを含む。
本発明に用いるブロックコポリマーは、好ましくは2種のセグメント(セグメントA、セグメントB)を有するブロック型コポリマーである。
【0027】
本発明に用いるブロックコポリマーが、ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まないことにより、ポリマーが高温状態においても安定化し、ポリマーの分解等の副反応も抑制できることにより、二次電池用電極の高温特性、特に高温サイクル特性が大幅に向上する。ブロックコポリマーに含まれないハロゲン原子とは、周期表第17族元素に属し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アスタチン原子が相当する。
【0028】
本発明にて、ブロックコポリマーがハロゲン原子を含まないとは、ブロックコポリマー中のハロゲン含有量が100ppm以下であることをいう。ハロゲン含有量は燃焼イオンクロマトグラフにより求められる。
【0029】
本発明にて、ブロックコポリマーは主鎖に不飽和結合を含まない。主鎖とは、例えばC=C結合の付加重合に基づく重合体であれば、単位−(CR−CR)−(個々のRは独立に水素原子又は側鎖との結合手)が連なった鎖である。従って、例えばイソプレン、ブタジエン等の共役ジエンの1,4−付加重合に基づく単位を有するコポリマーは、本発明における前記の主鎖に不飽和結合を含まないコポリマーには含まれない。
主鎖に不飽和結合を含まないブロックコポリマーは、そのヨウ素価が10mg/100mg以下のものとすることができる。ヨウ素価はJISK0070(1992)に従って求められる。
【0030】
本発明に用いるブロックコポリマーが有する前記二つのセグメントは、ハロゲン原子を含まず、かつ主鎖に不飽和結合を含まなければ、様々な成分から構成することができる。その中でも、電極が電解液含浸性や電解液保持性を有することが可能となり、さらに電極活物質の分散性を向上させられるように、2種のセグメントのうち、1種のセグメントが、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを含有する電解液に対する相溶性を示し、かつ、他のセグメンが前記電解液に対する相溶性を示さないことが好ましい。以下においては便宜上、前記2種のセグメントのうちの前者をセグメントAとし、後者をセグメントBとする。
【0031】
セグメントが前記電解液に対し相溶性を示すとは、前記電解液中にてセグメントが一定以上の広がりを示すことを指し、前記電解液に対するセグメントの膨潤度で判断することができる。ここでは、相溶性を示すとは、前記電解液に対するセグメントの膨潤度が500%以上であるかまたは前記電解液に溶解することを指す。
一方、セグメントが前記電解液に対し相溶性を示さないとは、前記電解液中にてセグメントが示す広がりが一定以下であることを指し、電解液に対するセグメントの膨潤度が0%以上、300%以下であることを指す。
【0032】
(膨潤度)
本発明において、各セグメントの膨潤度は以下の方法で測定する。
セグメントAの構成成分からなる重合体及びセグメントBの構成成分からなる重合体をそれぞれ約0.1mm厚のフィルムに成形し、これを約2センチ角に切り取って重量(浸漬前重量)を測定する。その後、温度60℃の前記電解液中で72時間浸漬する。浸漬したフィルムを引き上げ、前記電解液をふき取った直後の重量(浸漬後重量)を測定し、(浸漬後重量)/(浸漬前重量)×100(%)の値を前記膨潤度とする。
前記電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(容積比、ただしECは40℃での容積、DECは20℃での容積)で混合してなる混合溶媒にLiPFを1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いる。
【0033】
ブロックコポリマーが、上記構造を有することにより、後述する電極活物質スラリーにおいて、電極活物質及び後述する導電剤を溶媒中に高度に分散させることができる。加えて上記構造を有するブロックコポリマーを含む電極を電池内部で使用した時に、電極が長期間にわたる高い電解液保持性を有することと、更に電極からの金属イオンやオリゴマー成分の溶出が抑えられ、その電極を有する二次電池が高い長期サイクル特性を示す。更に、電極内部においてブロックコポリマーが海島構造を形成し電解液への適度な膨潤性を有することから、電極が高いリチウム伝導性を示し、その電極を有する二次電池が高い出力特性を示す。
本発明に用いるブロックコポリマーは、前記セグメントAとセグメントBからのみ構成されるABブロック構造(ここで、ABブロック構造とは、AB型、ABA型、及びBAB型の構造からなる群より選択される構造としうる)でも、他の任意成分を含有する構造でもよい。他の任意成分を含有する場合は、かかる任意成分がABブロック構造の末端に配位していても、ABブロック構造中に配位していても、いずれでもよい。
その中でも、特に末端の構造が電解液に対し相溶性を示す成分であるほうが、電極が高い電解液含浸性と電解液保持性を有し、その電極を有する二次電池が高い長期サイクル特性を示すことから好ましい。
【0034】
(セグメントA)
セグメントAは、溶解度パラメーターが8.0以上11未満(単位:(cal/cm1/2)である単量体成分、及び/または親水性基を有する単量体成分の単位を含むものが好ましい。かかる単量体成分を含むことにより、セグメントAの電解液に対する膨潤度を、組成により制御して、電解液に対する相溶性を示すセグメントとすることができる。
本願において、「単量体」又は「単量体成分」の文言は、その文脈に応じて、単量体組成物を構成する単量体であると解されるか、または、重合体を構成する、単量体に基づく重合単位であると解される。
【0035】
上記溶解度パラメーターが8.0以上11未満である単量体としては、エチレンやプロピレンなどのアルケン類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレートなどのエステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のメタクリル酸アルキルエステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレートなどのエステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のアクリル酸アルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニルエステル類などがあげられる。これらの中でも、電解液との相溶が高く、小粒径の分散においてポリマーによる橋架け凝集を起こしにくいことから、エステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のアクリル酸アルキルエステル又はエステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のメタクリル酸アルキルエステルがより好ましい。
【0036】
アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、及びアクリル酸ペンチルなどのエステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、及びメタクリル酸ペンチルなどのエステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のメタクリル酸アルキルエステル;が挙げられる。
【0037】
電解液に対する相溶性を示すセグメントAが、溶解度パラメーター(SP)が8.0以上11未満である単量体成分の単位を含むものである場合における、セグメントA中の溶解度パラメーター(SP)が8.0以上11未満である単量体成分の含有量は、用いる単量体全量100質量%に対して好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50〜90質量%の範囲である。セグメントA中の溶解度パラメーター(SP)が8.0以上11未満である単量体成分の含有量は、ブロックポリマー製造時の単量体仕込み比により制御できる。溶解度パラメーター(SP)が8.0以上11未満である単量体成分の含有量が適切な範囲にあることで、電解液への相溶性を示しつつも溶解せず、電池内部での溶出を起こさず、高い長期サイクル特性を示す。
【0038】
ポリマーの溶解度パラメーターは、Polymer Handbookに記載される方法に従って求めることができるが、この刊行物に記載のないものについてはSmallが提案した「分子引力定数法」に従って求めることができる。この方法は、化合物分子を構成する官能基(原子団)の特性値、すなわち、分子引力定数(G)の統計と分子容とから次式に従ってSP値(δ)(cal/cm1/2を求める方法である。
δ=ΣG/V=dΣG/M
ΣG:分子引力定数Gの総計
V:比容
M:分子量
d:比重
【0039】
親水性基を有する単量体成分としては、−COOH基(カルボン酸基)を有する単量体、−OH基(水酸基)を有する単量体、−SOH基(スルホン酸基)を有する単量体、−PO基を有する単量体、−PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)を有する単量体、及び低級ポリオキシアルキレン基を有する単量体が挙げられる。
【0040】
カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸及びその誘導体やジカルボン酸、その酸無水物、及びこれらの誘導体などが挙げられる。モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。モノカルボン酸誘導体としては、2−エチルアクリル酸、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、などマレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシルなどのマレイン酸エステル;が挙げられる。
【0041】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、マレイン酸−ジ−2−ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ−4−ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式CH=CR−COO−(C2nO)−H(mは2ないし9の整数、nは2ないし4の整数、Rは水素またはメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−4−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−6−ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコール(メタ)モノアリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテル;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
【0042】
また、スルホン酸基を有する単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0043】
−PO基及び/又は−PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)を有する単量体としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
低級ポリオキシアルキレン基含基を含有する単量体としては、ポリ(エチレンオキシド)等のポリ(アルキレンオキシド)などが挙げられる。
【0044】
電解液に対する相溶性を示すセグメントAとして、前記親水性基を有する単量体成分の単位を含む場合において、これらの親水性基を有する単量体の中でも、電極活物質及び後述の導電剤の分散性をさらに向上させられる観点から、カルボン酸基を有する単量体が好ましい。
【0045】
電解液に対する相溶性を示すセグメントAが、前記親水性基を有する単量体成分の単位を含む場合における、セグメントA中の親水性基を有する単量体の含有量は、用いる単量体全量100質量%に対して好ましくは0.5〜40質量%、更に好ましくは3〜20質量%の範囲である。セグメントA中の親水性基を有する単量体の含有量は、ブロックポリマー製造時の単量体仕込み比により制御できる。セグメントAの親水性基を有する単量体の含有量が所定の範囲にあることにより適正な電解液への膨潤性を示し、電池内部での溶出等も起こらない。
【0046】
セグメントAはこれらの単量体成分のうち1種類を単独で有するものであってもよく、2種類以上を組み合わせて有するものであってもよい。セグメントAはまた、後述する、これらの単量体と共重合可能な単量体を含んでいても良い。
【0047】
(セグメントB)
セグメントBは、溶解度パラメーターが8.0未満もしくは11以上である単量体成分、及び/または疎水性部を有する単量体成分の単位を含むものが好ましい。かかる単量体成分を含むことにより、セグメントBの電解液に対する膨潤度を、組成により制御して、電解液に対する相溶性を示さないセグメントとすることができる。膨潤度を、架橋により制御して、電解液に対する相溶性を示さないものにするためには、後述する架橋性基を有する単量体成分の単位を含むものが好ましい。
【0048】
溶解度パラメーターが8.0未満あるいは11以上である単量体成分としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル化合物などが挙げられる。
【0049】
セグメントBが、溶解度パラメーター(SP)が8.0未満あるいは11以上である単量体成分の単位を含むものである場合の、セグメントB中の溶解度パラメーターが8.0未満あるいは11以上である単量体成分の含有量は、用いる単量体全量100質量%に対して好ましくは30質量%以上100質量%以下、更に好ましくは50質量%以上100質量%以下の範囲である。セグメントB中の溶解度パラメーター(SP)が8.0未満あるいは11以上である単量体成分の含有量は、ブロックコポリマー製造時の単量体仕込み比により制御できる。セグメントB中の、溶解度パラメーター(SP)が8.0未満、11以上である単量体成分の含有割合が、上記範囲にあることにより、より高い耐電解液性及び長期サイクル特性を示す。
【0050】
疎水性部を有する単量体成分としては、スチレン、α−スチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリル酸−ヘキシル、アクリル酸−ヘプチル、アクリル酸−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸−ノニル、アクリル酸−デシル、アクリル酸−ラウリル、アクリル酸−n−テトラデシル、アクリル酸−ステアリルなどのエステル基中のアルキル基の炭素数が6以上のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸−ヘキシル、メタクリル酸−ヘプチル、メタクリル酸−オクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−ノニル、メタクリル酸−デシル、メタクリル酸−ラウリル、メタクリル酸−n−テトラデシル、メタクリル酸−ステアリルなどのエステル基中のアルキル基の炭素数が6以上のメタクリル酸アルキルエステル;が挙げられる。
【0051】
本発明においては、電解液に対する相溶性を示さないセグメントBを構成する単量体成分として、電解液に対する相溶性が低いことから、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸−ノニル、アクリル酸−デシル、アクリル酸−ラウリル、アクリル酸−n−テトラデシル、アクリル酸−ステアリルなどのアルキル基の炭素数が9以上のアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−ノニル、メタクリル酸−デシル、メタクリル酸−ラウリル、メタクリル酸−n−テトラデシル、メタクリル酸−ステアリルなどのエステル基中のアルキル基の炭素数が9以上のメタクリル酸アルキルエステルα,β−不飽和ニトリル化合物及びスチレン系単量体が好ましく、電解液への膨潤性を全く示さないことからα,β−不飽和ニトリル化合物及びスチレン系単量体がより好ましく、スチレン系単量体が最も好ましい。
【0052】
セグメントBが、疎水性部を有する単量体成分の単位を含む場合における、セグメントB中の疎水性部を有する単量体成分の含有量は、用いる単量体全量100質量%に対して好ましくは10質量%以上100質量%以下、更に好ましくは20質量%以上100質量%以下である。セグメントB中の疎水性部を有する単量体成分の含有量は、ブロックポリマー製造時の単量体仕込み比により制御できる。セグメントB中の疎水性部を有する単量体成分の含有量が上記範囲にあることにより、より高い耐電解液性及び長期サイクル特性を示す。
【0053】
セグメントBが、後述する架橋性基を有する単量体成分の単位を含む場合における、セグメントB中の架橋性基を有する単量体成分の含有量は、用いる単量体全量100質量%に対して好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。セグメントB中の架橋性基を有する単量体成分の含有量は、ブロックポリマー製造時の単量体仕込み比により制御できる。セグメントB中の架橋性基を有する単量体成分の含有量が上記範囲にあることにより、より高い耐電解液性及び長期サイクル特性を示す。
【0054】
セグメントBはこれらの単量体成分のうち1種類を単独で有するものであってもよく、2種類以上を組み合わせて有するものであってもよい。セグメントBはまた、後述する、これらの単量体と共重合可能な単量体を含んでいても良い。
【0055】
本発明においては、ブロックコポリマーがガラス転移温度15℃以下の軟質重合体のセグメントを含むことが好ましい。「ブロックポリマーがガラス転移温度15℃以下の軟質重合体のセグメントを含む」とは、ガラス転移温度が15℃以下である軟質重合体を構成するセグメントを、本発明のブロックポリマーが含んでいるということを意味する。具体的には、セグメントAとセグメントBの少なくとも一方が、ガラス転移温度が15℃以下である軟質重合体を構成するセグメントと同一のセグメントであることが、高い柔軟性を有する電極が得られる為に好ましい。
中でもセグメントAが電解液に対する相溶性を示し、セグメントBが電解液に対する相溶性を示さない場合においては、セグメントAが、ガラス転移温度15℃以下の軟質重合体を構成するセグメントと同一のセグメントであることが好ましく、更に好ましくは、ガラス転移温度−5℃以下の軟質重合体を構成するセグメントと同一のセグメントであり、特に好ましくは、ガラス転移温度−40℃以下の軟質重合体を構成するセグメントと同一のセグメントである。当該ガラス転移温度の下限は、特に限定されないが、−40℃以上とすることができる。セグメントAが、ガラス転移温度が上記範囲内である軟質重合体を構成するセグメントと同一のセグメントであることにより、ブロックコポリマー中のセグメントBが活物質表面に吸着した状態で、セグメントAの可動性が増すため、低温でのリチウム受け入れ性が向上する。
なお、セグメントのガラス転移温度は、前記に例示した単量体の組み合わせ及び後述する共重合可能な単量体を更に組み合わせることによって調製可能である。
【0056】
ブロックコポリマーにおけるセグメントAとセグメントBとの比率は、ブロックコポリマーの電解液への膨潤度を所定の範囲内に制御し長期サイクル特性を有しつつも、高い出力特性を有する為に、その組成、架橋度などにより異なるが、セグメントAとセグメントB以外の共重合成分を有さない場合では、セグメントAとセグメントBとの比率が、10:90〜90:10(質量比)、更に好ましくは30:70〜70:30(質量比)である。
【0057】
ブロックポリマーにおけるセグメントAとセグメントBの組み合わせとしては、上述したセグメントAの好ましいものと、セグメントBの好ましいものを組み合わせることが好ましい。これらの中でも、セグメントAとしてはメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレートなどのエステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のメタクリル酸アルキルエステル;モノカルボン酸及びその誘導体やジカルボン酸、その酸無水物、及びこれらの誘導体などのカルボン酸基を有する単量体が、セグメントBとしてはスチレン、α−スチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリル酸−ヘキシル、アクリル酸−ヘプチル、アクリル酸−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸−ノニル、アクリル酸−デシル、アクリル酸−ラウリル、アクリル酸−n−テトラデシル、アクリル酸−ステアリルなどのエステル基中のアルキル基の炭素数が6以上のアクリル酸アルキルエステルの組み合わせが好ましく、セグメントAとしてエステル基中のアルキル基の炭素数が1〜5のメタクリル酸アルキルエステル、セグメントBとしてはスチレンの組み合わせが分散性、負荷特性、サイクル特性が優れる点からもっとも好ましい。
【0058】
ブロックコポリマーの電解液に対する膨潤度は、分子量が大きいほど小さくなり、分子量が小さいほど大きくなる傾向にある。分子量が小さすぎると電解液への溶解も起こりやすくなる傾向にある。従って、好適な膨潤度とするためのブロックポリマーの重量平均分子量の範囲は、その構造、架橋度などにより異なるが、例えばセグメントAとセグメントB以外の共重合成分を有さない場合では、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定した標準ポリスチレン換算値で1,000〜500,000、更に好ましくは5,000〜100,000である。ブロックポリマーの重量平均分子量が上記範囲にあることにより、活物質へのポリマーの吸着安定性が高くポリマーによる橋かけ凝集も起こらず、優れた分散性を示す。また、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnで示されるブロックコポリマーの分子量分布が2.0未満であることが好ましく、より好ましくは1.8以下、特に好ましくは1.5以下である。ブロックコポリマーの分子量分布が、上記範囲であることにより、ミクロ相分離構造が均一となり安定した強度が得られる。分子量分布の下限は、特に限定されないが、1.01以上とすることができる。
【0059】
ブロックコポリマーの電解液に対する膨潤度は、架橋度により制御することができる。電解液に対する膨潤度は架橋度が大きいほど小さくなる傾向にある。好適な架橋度の範囲は、例えば、テトラヒドロフラン等の極性溶剤に24時間浸漬した時、溶解または400%以上に膨潤する程度の架橋度が好ましい。
ブロックコポリマーの架橋方法としては、加熱またはエネルギー線照射により架橋させる方法が挙げられる。加熱またはエネルギー線照射により架橋可能なブロックコポリマーを架橋して用いることで、加熱条件やエネルギー線照射の照射条件(強度など)により架橋度を調節できる。また、架橋度が高いほど膨潤度が小さくなる傾向にあるので、架橋度を変えることにより膨潤度を調節することができる。
加熱またはエネルギー線照射により架橋可能なブロックコポリマーとする方法としては、ブロックコポリマー中に架橋性基を導入する方法や、架橋剤を併用する方法が挙げられる。
【0060】
前記ブロックコポリマー中に架橋性基を導入する方法としては、ブロックコポリマー中に光架橋性の架橋性基を導入する方法や熱架橋性の架橋性基を導入する方法が挙げられる。これら中でも、ブロックコポリマー中に熱架橋性の架橋性基を導入する方法は、電極形成後に電極に加熱処理を行うことにより、電極を架橋させることができ、さらに電解液への溶解を抑制でき、強靱で柔軟な電極が得られるので好ましい。ブロックコポリマー中に熱架橋性の架橋性基を導入する場合において、熱架橋性の架橋性基としては、エポキシ基、ヒドロキシル基、N−メチロールアミド基、オキセタニル基、及びオキサゾリン基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、エポキシ基が架橋及び架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0061】
エポキシ基を含有する単量体としては、炭素−炭素二重結合およびエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
炭素−炭素二重結合およびエポキシ基を含有する単量体としては、たとえば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステルなどの不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類;が挙げられる。
【0062】
N−メチロールアミド基を含有する単量体としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0063】
オキセタニル基を含有する単量体としては、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−トリフロロメチルオキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−4−トリフロロメチルオキセタンなどが挙げられる。
【0064】
オキサゾリン基を含有する単量体としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等が挙げられる。
【0065】
ブロックコポリマー中の熱架橋性の架橋性基の含有割合は、重合時の熱架橋性の架橋性基を含有する単量体量として、単量体全量100質量%に対して、好ましくは0.1〜10質量%、更に好ましくは0.1〜5質量%の範囲である。ブロックコポリマー中の熱架橋性の架橋性基の含有割合は、ブロックコポリマーを製造する時の単量体仕込み比により制御できる。ブロックコポリマー中の熱架橋性の架橋基の含有割合が、上記範囲内にあることで電解液への溶出を抑制し、優れた電極強度と長期サイクル特性を示すことができる。
【0066】
熱架橋性の架橋性基は、前記ブロックコポリマーを製造する際に、上述の単量体に加えて熱架橋性の架橋基を含有する単量体、並びに/又はこれらと共重合可能な任意の単量体とを共重合することでブロックコポリマー中に導入することができる。
【0067】
本発明に用いるブロックコポリマーは、上述した単量体成分以外に、これらと共重合可能な単量体を含んでいてもよい。これらと共重合可能な単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどのアミド系単量体;が挙げられる。これらの単量体を、適宜の手法により、共重合させることにより、前記構成のブロックポリマーが得られる。
【0068】
本発明に用いるブロックコポリマーは、セグメントA及びセグメントBを有するブロックコポリマーが得られればその重合方法について特に限定されることはなく、1)連鎖重合による、セグメントAを構成するためのモノマーAと、セグメントBを構成するためのモノマーBの逐次成長法、2)それぞれ分布の規制された、セグメントAに相当するポリマーAと、セグメントBに相当するポリマーBとのカップリング法や、末端官能基を利用した重付加、重縮合法、3)末端官能基を有するセグメントAに相当するポリマーAをマクロ開始剤とした連鎖重合法、などにより合成される。
【0069】
上記1)の手法では、モノマーAをリビング重合法にて重合し、次いで、得られた重合体の成長末端を停止させずに、モノマーBを添加し、重合することにより、ブロックコポリマーを得ることができる。
【0070】
上記2)の手法では、モノマーA及びモノマーBをそれぞれ別々にリビング重合法にて合成し、ポリマーAとポリマーBとが好ましくは末端同士で反応し結合し得るように、それぞれの末端に官能基を導入する。その後AとBとを混合することでカップリング反応、重付加、重縮合させることでブロックコポリマーを得ることができる。例えば、酸塩化物とアミンとを界面重縮合または溶液重縮合させる方法や、アミン末端のポリアミドとカルボン酸末端のポリアミドとを溶融状態で重縮合させる方法などが挙げられる。
【0071】
上記3)の手法では、モノマーAをリビング重合法にて重合した後、リビング末端に官能基を導入し、末端官能基を有するポリマーAを得る。得られたポリマーAを末端基反応によりラジカル開始剤を導入し、マクロ開始剤としてモノマーBと連鎖重合させることでブロックコポリマーを得ることができる。例えば、ポリマー末端にOH基を持つ場合、過剰のジイソシアナートでNCO化し、t−ブチルヒドロペルオキシドを末端に結合させ、その後ラジカル重合させる方法が挙げられる。
【0072】
リビング重合法には、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、リビング配位重合、リビングラジカル重合等の様々な重合法がある。このような重合法を用いることにより、種々のビニルモノマーを重合することが可能である。中でも、リビングラジカル重合がブロック共重合体の分子量および構造制御の点ならびに架橋性官能基を有する単量体を共重合できる点から好ましい。
【0073】
リビング重合とは、狭義においては、末端が常に活性を持ち続ける重合のことを示すが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にある擬リビング重合も含まれる。本発明におけるリビングラジカル重合は、重合末端が活性化されたものと不活性化されたものが平衡状態で維持されるラジカル重合であり、近年様々なグループで積極的に研究がなされている。
【0074】
その例としては、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いるもの、コバルトポルフィリン錯体(Journal of American Chemical Society,1994年,第116巻,7943頁)やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの(Macromolecules,1994年,第27巻,7228頁)、大津らによるジチオカーバメートに光照射しラジカル開烈させるイニファーター重合(Macromol.Chem.Rapid Commun.,3,133(1982))、有機ハロゲン化物などを開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)、チオカルボニルチオ(チオエステル)構造を有する化合物を連鎖移動剤として用いる可逆的付加脱離連鎖移動(Reversible Addition−Fragmentation Chain Transfer:RAFT)重合などを挙げることができる。本発明において、これらのうちいずれの方法を使用するかは特に制約はないが、制御の容易さなどからラジカル補足剤を用いるものや可逆的付加脱離連鎖移動重合が好ましい。
【0075】
リビング重合としてラジカル補足剤を用いる場合は、ラジカル補足剤としては安定ニトロキシラジカル化合物を用いる。上記安定ニトロキシラジカル化合物としては、特に限定されず、公知の安定フリーラジカル剤が挙げられ、2,2,5,5−置換−1−ピロリジニルオキシラジカル等、環状ヒドロキシアミンからのニトロキシフリーラジカルが好ましい。置換基としてはメチル基やエチル基等の炭素数4以下のアルキル基が適当である。具体的なニトロキシフリーラジカル化合物としては、限定はされないが、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)、2,2,6,6−テトラエチル−1−ピペリジニルオキシラジカル、2,2,6,6−テトラメチル−4−オキソ−1−ピペリジニルオキシラジカル、2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシラジカル、1,1,3,3−テトラメチル−2−イソインドリニルオキシラジカル、N,N−ジ−t−ブチルアミンオキシラジカル等が挙げられる。なかでも、2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ、4−オキソ−2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシが好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上併用されてもよい。
【0076】
上記安定ニトロキシラジカル化合物を用いる場合には、通常ラジカル発生剤が使用される。上記ラジカル発生剤としては、重合温度下でラジカルを発生させるものであれば特に限定されず、一般的な熱分解型の重合開始剤を使用することができ、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスイソ酪酸エステル、次亜硝酸エステル等のアゾ化合物;過酸化ベンゾイル(BPO)、過酸化ラウロイル、ジクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上併用されてもよい。
【0077】
安定ニトロキシラジカル化合物とラジカル発生剤とを併用する代わりに、アルコキシアミン化合物を開始剤として用いてもよい。アルコキシアミン化合物を開始剤として用いる場合、アルコキシ基に官能基を持つようなアルコキシアミンを用いることで、末端官能基を導入することが出来る。
【0078】
上記安定ニトロキシラジカル化合物またはアルコキシアミン化合物を用いる場合には、重合温度は、50〜170℃ぐらいで重合することが一般的である。好ましい温度範囲としては、70〜160℃である。反応圧力は通常、常圧で行われるが、加圧して行うことも可能である。
【0079】
上記安定ニトロキシラジカル化合物を用いる方法の場合、重合されたビニル系共重合体の末端に官能基を導入する方法としては、例えば、目的とする官能基を分子内に有する連鎖移動剤や停止剤を用いる方法等が挙げられる。上記官能基を分子内に有する連鎖移動剤や停止剤としては特に限定されず、例えば、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、メルカプトブタノール、2,2’−ジチオエタノール等により水酸基が導入され、2−メルカプト酢酸、2−メルカプトプロピオン酸、ジチオグリコール酸、3,3’−ジチオプロピオン酸、2,2’−ジチオ安息香酸等によりカルボキシル基が導入され、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等によりシリル基が導入される。
【0080】
リビング重合として可逆的付加脱離連鎖移動重合(RAFT重合)を用いる場合では、連鎖移動剤(さらに開始剤の役目もする)としてジチオエステル、トリチオカルバメート、ザンテートまたはジチオカルバメートなどの硫黄化合物を開始剤として重合が行われる。(例えば、WO98/01478 A1およびWO99/31144 A1など)これらは単独で用いられてもよく、2種以上併用されてもよい。
【0081】
リビング重合としてRAFT重合を用いる場合には、重合用の追加的ラジカル開始剤、特に熱で分解してラジカルを発生するアゾもしくはパーオキソ開始剤を更に含んで成る開始剤を用いる方が好適である。例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスイソ酪酸エステル、次亜硝酸エステル等のアゾ化合物;過酸化ベンゾイル(BPO)、過酸化ラウロイル、ジクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上併用されてもよい。
【0082】
本発明におけるリビング重合は、無溶媒(塊状重合)、有機溶媒(例えばトルエン)中の溶液重合、乳化重合または懸濁重合法で行うことができる。重合方法の各段階は同じ反応器で「バッチ」法(すなわち不連続法)で行うか、別々の反応器で半連続または連続法で行うことができる。
【0083】
溶液重合させる場合、使用される溶剤としては、以下の溶剤が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、ヘキサン、オクタンなどの炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどのエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族石油系溶剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数を組合せて用いてもよい。使用する溶剤の種類や量は、使用する単量体の溶解度、得られる重合体の溶解度、十分な反応速度を達成するために適切な重合開始剤濃度や単量体濃度、硫黄化合物の溶解度、人体や環境に与える影響、入手性、価格などを考慮して決定すればよく、特に限定されない。中でも、溶解度、入手性、価格の点で、工業的には、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、およびアセトンが好ましく、トルエンおよびジメチルホルムアミドがより好ましい。
【0084】
乳化重合させる場合、使用される乳化剤としては、以下の乳化剤が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、脂肪酸石けん、ロジン酸石けん、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸アンモニウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミドなどの非イオン系界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン系界面活性剤などが挙げられる。これらの乳化剤は単独で用いてもよく、複数を組合せて用いてもよい。必要に応じて、後述する懸濁重合の分散剤を添加してもよい。乳化剤の使用量は、特に限定されないが、乳化状態が良好で重合がスムーズに進行する点で、単量体100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましい。これらの乳化剤のうち、乳化状態の安定性の点で、アニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤が好ましい。
【0085】
懸濁重合させる場合、使用される分散剤としては、通常用いられる分散剤のいずれをも利用することが可能である。例えば、以下の分散剤が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、部分けん化ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリアルキレンオキサイドなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数を組合せて用いてもよい。必要に応じて、上記乳化重合の際に用いられる乳化剤を併用してもよい。分散剤の使用量は、特に限定されないが、重合がスムーズに進行する点で、使用される単量体100重量部に対して0.1〜20重量部が好ましい。
【0086】
本発明に用いるブロックコポリマーは、ブロックコポリマーの製造工程において、ポリマー溶液もしくはポリマー分散液に含まれる粒子状の金属を除去する粒子状金属除去工程を経て得られたものであることが好ましい。ポリマー溶液もしくはポリマー分散液に含まれる粒子状金属成分の含有量が10ppm以下であることにより、後述する電極活物質スラリー中のポリマー間の経時での金属イオン架橋を防止し、粘度上昇を防ぐことができる。さらに二次電池の内部短絡や充電時の溶解・析出による自己放電増大の懸念が少なく、電池のサイクル特性や安全性が向上する。
前記粒子状金属除去工程におけるポリマー溶液もしくはポリマー分散液から粒子状の金属成分を除去する方法は特に限定されず、例えば、濾過フィルターによる濾過により除去する方法、振動ふるいによる除去する方法、遠心分離により除去する方法、磁力により除去する方法等が挙げられる。中でも、除去対象が金属成分であるため磁力により除去する方法が好ましい。磁力により除去する方法としては、金属成分が除去できる方法であれば特に限定はされないが、生産性および除去効率を考慮すると、好ましくはブロックコポリマーの製造ライン中に磁気フィルターを配置することで行われる。
【0087】
二次電池用電極中のブロックコポリマーの含有割合は、活物質100質量部に対して好ましくは0.1〜10質量%、更に好ましくは0.5〜5質量%である。二次電池用電極中のブロックコポリマーの含有割合が、前記範囲にあることで、活物質同士及び集電体への結着性に優れ更に柔軟性を維持しながらも、Liの移動を阻害せず抵抗が増大することがない。
【0088】
(集電体)
本発明の二次電池用電極に用いられる集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するとの観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましい。中でも、リチウムイオン二次電池の正極用としてはアルミニウムが特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、電極活物質層の接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、電極活物質層の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0089】
(他の含有成分)
本発明の二次電池用電極には、上記成分のほかに、さらに導電剤、補強材、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤、ブロックコポリマー以外のバインダー等の、任意の成分が含まれていてもよく、後述の電極活物質スラリー中に含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0090】
導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。黒鉛などの炭素粉末、各種金属のファイバーや箔なども挙げられる。導電性付与材を用いることにより電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、特にリチウムイオン二次電池に用いる場合に放電負荷特性を改善したりすることができる。補強材としては、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。補強材を用いることにより強靭で柔軟な電極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を示すことができる。導電性付与材や補強剤の使用量は、電極活物質100質量部に対して通常0.01〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。前記範囲に含まれることにより、高い容量と高い負荷特性を示すことができる。
【0091】
分散剤としてはアニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物が例示される。分散剤は用いる電極活物質や導電剤に応じて選択される。電極中の分散剤の含有割合は、電極活物質100質量部に対して好ましくは0.01〜10質量部である。分散剤量が上記範囲であることによりスラリーの安定性に優れ、平滑な電極を得ることができ、高い電池容量を示すことができる。
【0092】
レベリング剤としてはアルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。前記界面活性剤を混合することにより、塗工時に発生するはじきを防止したり、電極の平滑性を向上させたりすることができる。電極中のレベリング剤の含有割合は、電極活物質100質量部に対して好ましくは0.01〜10質量部である。レベリング剤が上記範囲であることにより電極作製時の生産性、平滑性及び電池特性に優れる。
【0093】
酸化防止剤としてはフェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が挙げられる。ポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体であり、重量平均分子量が200〜1000、好ましくは600〜700のポリマー型フェノール化合物が好ましく用いられる。電極活物質層中の酸化防止剤の含有割合は、電極活物質100質量部に対して好ましくは0.01〜10質量部、更に好ましくは0.05〜5質量部である。酸化防止剤が上記範囲であることによりスラリー安定性、電池容量及びサイクル特性に優れる。
【0094】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物などが挙げられる。増粘剤の使用量がこの範囲であると、塗工性や、電極や有機セパレーターとの密着性が良好である。本発明において、「(変性)ポリ」は「未変性ポリ」又は「変性ポリ」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタアクリル」を意味する。電極活物質層中の増粘剤の含有割合は、電極活物質100質量部に対して好ましくは0.01〜10質量部である。増粘剤が上記範囲であることによりスラリー中の活物質等の分散性に優れ、平滑な電極を得ることができ、優れた負荷特性及びサイクル特性を示す。
【0095】
電解液添加剤は、後述する電極活物質スラリー中及び電解液中に使用されるビニレンカーボネートなどを用いることができる。電極活物質層中の電解液添加剤の含有割合は、電極活物質100質量部に対して好ましくは0.01〜10質量部である。電解液添加剤が上記範囲であることによりサイクル特性及び高温特性に優れる。その他には、フュームドシリカやフュームドアルミナなどのナノ微粒子:アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。前記ナノ微粒子を混合することにより電極形成用スラリーのチキソ性をコントロールすることができ、さらにそれにより得られる電極のレベリング性を向上させることができる。電極活物質層中のナノ微粒子及の含有割合は、電極活物質100質量部に対して好ましくは0.01〜10質量部である。ナノ微粒子が上記範囲であることによりスラリー安定性、生産性に優れ、高い電池特性を示す。前記界面活性剤を混合することにより電極活物質スラリー中の活物質等の分散性を向上することができ、さらにそれにより得られる電極の平滑性を向上させることができる。電極活物質層中の界面活性剤の含有割合は、電極活物質100質量部に対して好ましくは0.01〜10質量部である。界面活性剤が上記範囲であることによりスラリー安定性、電極平滑性に優れ、高い生産性を示す。
【0096】
バインダーには、前記ブロックポリマーのほかに、さらに任意のバインダー成分が含まれていてもよい。かかる任意のバインダー成分としては、様々な樹脂成分を併用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどを用いることができる。また、上記樹脂成分を50%以上含む共重合体も用いることができ、例えばアクリル酸ースチレン共重合体、アクリル酸ーアクリレート共重合体等のポリアクリル酸誘導体、アクリロニトリルースチレン共重合体、アクリロニトリルーアクリレート共重合体等のポリアクリロニトリル誘導体も用いることができる。
更に、下に例示する軟質重合体もバインダーとして使用することができる。
ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ブチルアクリレート・スチレン共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体などの、アクリル酸またはメタクリル酸誘導体の単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体である、アクリル系軟質重合体;ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、ジヒドロキシポリシロキサンなどのケイ素含有軟質重合体;液状ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などのオレフィン系軟質重合体;ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリステアリン酸ビニル、酢酸ビニル・スチレン共重合体などビニル系軟質重合体;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エピクロルヒドリンゴムなどのエポキシ系軟質重合体;フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴムなどのフッ素含有軟質重合体;天然ゴム、ポリペプチド、蛋白質、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどのその他の軟質重合体などが挙げられる。これらの軟質重合体は、架橋構造を有したものであってもよく、また、変性により官能基を導入したものであってもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
本発明の二次電池用電極の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜250μmである。電極厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度共に高い特性を示す。
【0098】
本発明の二次電池用電極は、前記集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に電極活物質層を積層させる方法で製造される。例えば、前記電極活物質層の構成材料を溶媒と共に混合し電極活物質スラリーを調整し、前記集電体の一方の面に電極活物質スラリーを塗布・乾燥し製造方法が挙げられる。
以下に、電極活物質スラリー、電極活物質スラリーの製造方法、二次電池用電極の製造方法について説明する。なお、二次電池用電極の構成要素である集電体、電極活物質、ブロックコポリマー及びその他含有成分については、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0099】
(電極活物質スラリー)
本発明に用いる二次電池電極活物質スラリーは、電極活物質、ブロックポリマー、その他含有成分及び溶媒を含む。
(溶媒)
溶媒としては、本発明のブロックポリマーを均一に溶解または分散し得るものであれば特に制限されない。
電極活物質スラリーに用いる溶媒としては、水および有機溶媒のいずれも使用できる。有機溶媒としては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、エチルメチルケトン、ジソプロピルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアシロニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類があげられる。
これらの溶媒は、単独で使用しても、これらを2種以上混合して混合溶媒として使用してもよい。これらの中でも特に、本発明の重合体の溶解性に優れ、電極活物質及び導電剤の分散性にすぐれ、沸点が低く揮発性が高い溶媒が、短時間でかつ低温で除去できるので好ましい。アセトン、トルエン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、キシレン、水、若しくはN−メチルピロリドン、またはこれらの混合溶媒が好ましい。
【0100】
本発明に用いる電極活物質スラリーの固形分濃度は、塗布、浸漬が可能な程度でかつ、流動性を有する粘度になる限り特に限定はされないが、一般的には10〜80質量%程度である。
【0101】
(電極活物質スラリーの製造方法)
本発明においては、電極活物質スラリーの製法は、特に限定はされず、ブロックポリマー、電極活物質、及び溶媒と必要に応じ添加される任意の含有成分を混合して得られる。
本発明においては上記成分を用いることにより混合方法や混合順序にかかわらず、電極活物質と導電剤が高度に分散された電極活物質スラリーを得ることができる。混合装置は、上記成分を均一に混合できる装置であれば特に限定されず、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどを使用することができるが、中でも高濃度での分散が可能なことから、ボールミル、ロールミル、顔料分散機、擂潰機、プラネタリーミキサーを使用することが特に好ましい。
電極活物質スラリーの粘度は、均一塗工性、スラリー経時安定性の観点から、好ましくは10mPa・s〜100,000mPa・s、更に好ましくは100〜50,000mPa・sである。前記粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
【0102】
(二次電池用電極の製造方法)
本発明の二次電池用電極の製造方法は、前記集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に電極活物質層を積層させる方法であればよい。例えば、前記集電体の一方の面に前記電極活物質スラリーを塗布する段階と乾燥する段階とを含む製造方法が挙げられる。
【0103】
電極活物質スラリーを集電体へ塗布する方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ジップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。乾燥方法としては例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。
【0104】
次いで、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により電極の空隙率を低くすることが好ましい。空隙率の好ましい範囲は5%〜15%、より好ましくは7%〜13%である。空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する。空隙率が低すぎる場合は、高い体積容量が得難く、電極が剥がれ易く不良を発生し易いといった問題を生じる。さらに、硬化性の重合体を用いる場合は、硬化させることが好ましい。
【0105】
本発明はまた、上記の二次電池用電極、または上記の二次電池用電極を用いて構成される、二次電池である。本発明による電極の構成は、積層型電池にも双極型電池にも適用することができる。以下に、本発明の二次電池の構造について説明する。
【0106】
(二次電池)
本発明の二次電池は、正極、電解液、セパレーター及び負極を有し、前記正極及び/または負極が本発明の二次電池用電極である。
【0107】
前記二次電池としては、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池等挙げられるが、長期サイクル特性の向上・広い作動温度範囲等の性能向上が最も求められていることから用途としてはリチウムイオン二次電池が好ましい。以下、リチウムイオン二次電池に使用する場合について説明する。
【0108】
(リチウムイオン二次電池用電解液)
リチウムイオン二次電池用の電解液としては、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に制限はないが、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。これらは、二種以上を併用してもよい。解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0109】
リチウムイオン二次電池用の電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などのカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
また前記電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。添加剤としては前述の電極活物質スラリー中に使用されるビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が挙げられる。
【0110】
リチウムイオン二次電池用の電解液中における支持電解質の濃度は、通常1〜30質量%、好ましくは5質量%〜20質量%である。また、支持電解質の種類に応じて、通常0.5〜2.5モル/Lの濃度で用いられる。支持電解質の濃度が低すぎても高すぎてもイオン導電度は低下する傾向にある。
上記以外の電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質や前記ポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、LiI、LiNなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0111】
(リチウムイオン二次電池用セパレーター)
リチウムイオン二次電池用セパレーターとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂や芳香族ポリアミド樹脂を含む微多孔膜または不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;など公知のものを用いることができる。例えばポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)、及びこれらの混合物あるいは共重合体等の樹脂からなる多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂からなる微多孔膜またはポリオレフィン系の繊維を織ったもの、またはその不織布、絶縁性物質粒子の集合体等が挙げられる。これらの中でも、セパレーター全体の膜厚を薄くし電池内の活物質比率を上げて体積あたりの容量を上げることができるため、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
セパレーターの厚さは、通常0.5〜40μm、好ましくは1〜30μm、更に好ましくは1〜10μmである。この範囲であると電池内でのセパレーターによる抵抗が小さくなり、また電池作成時の作業性に優れる。
【0112】
リチウムイオン二次電池の具体的な製造方法としては、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をする事もできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【実施例】
【0113】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における、材料の量比に関する部および%は、特記しない限り質量基準である。
実施例および比較例において、各種物性は以下のように評価した。
【0114】
<電池特性:出力特性>
得られたフルセルコイン型電池を、25℃で0.1Cの定電流法によって4.3Vまで充電し次いで0.1Cにて3.0Vまで放電し、0.1C放電容量を求める。その後、0.1Cにて4.3Vまで充電し次いで20Cにて3.0Vまで放電し、20C放電容量を求める。これらの測定をフルセルコイン型電池10セルについて行う。10セルの0.1C放電容量の平均値、及び10セルの20C放電容量の平均値を求めそれぞれa及びbとする。20C放電容量bと0.1C放電容量aとの電気容量の比((b/a)×100(単位:%))で表される容量保持率を求め、これを出力特性の評価基準とし、以下の基準により判定する。この値が高いほど出力特性に優れている。
A:50%以上
B:40%以上50%未満
C:20%以上40%未満
D:1%以上20%未満
E:1%未満
【0115】
<電池特性:サイクル特性>
得られたフルセルコイン型電池を、25℃で0.1Cで3Vから4.3Vまで充電し、次いで0.1Cで4.3Vから3Vまで放電する充放電を、100サイクル繰り返し、5サイクル目の0.1C放電容量に対する100サイクル目の0.1C放電容量の割合を百分率で算出した値を容量維持率とし、下記の基準で判断した。この値が大きいほど放電容量減が少なく、サイクル特性に優れている。
A:70%以上
B:60%以上70%未満
C:50%以上60%未満
D:40%以上50%未満
E:30%以上40%未満
F:30%未満
【0116】
<電池特性:高温特性>
得られたフルセルコイン型電池を、60℃で0.1Cで3Vから4.3Vまで充電し、次いで0.1Cで4.3Vから3Vまで放電する充放電を、20サイクル繰り返し、5サイクル目の0.1C放電容量に対する20サイクル目の0.1C放電容量の割合を百分率で算出した値を容量維持率とし、下記の基準で判断した。この値が大きいほど放電容量減が少なく、高温特性に優れている。
A:70%以上
B:60%以上70%未満
C:50%以上60%未満
D:40%以上50%未満
E:30%以上40%未満
F:30%未満
【0117】
<電池特性:低温特性>
得られたフルセルコイン型電池を、25℃で充放電レートを0.1Cとし、定電流定電圧充電法にて、4.3Vになるまで定電流で充電し、定電圧で充電する。次いで0.1Cにて3.0Vまで放電し、25℃での放電容量を求める。その後、−20℃に設定した恒温槽内で0.1Cで定電流定電圧充電を行った。25℃での電池容量をa、−20℃での電池容量をbとする。−20℃での放電容量bと25℃での電池容量aの放電容量の比((b/a)×100(単位:%))で表される低温容量保持率を求め、これを低温特性の指標とし、下記基準で判断した。この値が大きいほど、低温でのリチウム受け入れ性がよい電池であることを示す。
A:70%以上
B:60%以上70%未満
C:50%以上60%未満
D:40%以上50%未満
E:30%以上40%未満
F:30%未満
【0118】
(実施例1)
<ブロックコポリマーの合成>
メカニカルスターラー、窒素導入口、冷却管およびラバーセプタムを備えた4つ口フラスコに、トルエン100部、スチレン40部を入れた後、これに2,2´−ビピリジン1.3部を所定量加えてから、系内を窒素置換した。これに窒素気流下、臭化銅0.41部を加えた後、反応系を90℃に加熱し、開始剤として、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸2−ヒドロキシエチルを0.21部加えて重合を開始させ、窒素気流下で、90℃で9時間重合させた。重合率(加熱し揮発成分を除去したポリマー重量を、揮発成分を除去する前の重合液そのままのポリマー重量で割った値で定義される割合)が90%以上であることを確認した後、これにアクリル酸n−ブチル60部をラバーセプタムから添加し、これをさらに110℃で12時間加熱した。このようにして、スチレン−アクリル酸ブチルのブロックコポリマーのトルエン溶液が得られた。続いて、攪拌機付きオートクレーブに、得られたブロックコポリマー溶液を入れた。次いでトリス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド0.1部をトルエン5部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧0.9MPa、160℃で8時間水素化反応を行い、生長末端のブロモ基を水素化した。このブロックコポリマー100部にスルホン酸型カチオン交換樹脂10部を加えて、120℃で2時間撹拌した後、当該イオン交換樹脂を除去し、さらに重合触媒と水素化触媒等を除去して、凝固・乾燥し、無色透明なスチレンに基づく重合単位含量約40%の重合体−1を得た。分子量分布(Mw/Mn)は1.2〜1.3であった。得られた重合体−1の組成、比率、重量平均分子量、及びガラス転移温度を表1に示す。ガラス転移温度は、示差走査熱量法(DSC法)により、示差走査熱量分析(セイコーインスツルメンツ社製、製品名「EXSTAR6000」)で−120℃から120℃まで20℃/分の昇温速度で測定した。重量平均分子量は重合体−1をテトラヒドロフランに溶解して、0.2重量%溶液とした後、0.45μmのメンブランフィルターで濾過し、測定試料として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて下記条件にて測定し、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を求めた。
測定装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)
カラム:TSKgel Multipore HXL−M(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
溶離速度:0.3ml/分
検知器:RI(極性(+))
カラム温度:40℃
【0119】
<ブロックポリマー溶液の作製>
得られた重合体−1をN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPという。)に溶解し、固形分濃度20%の重合体−1のNMP溶液を得た。
【0120】
<負極用電極組成物および負極の製造>
負極活物質として粒子径20μm、比表面積4.2m/gのグラファイト98部と、バインダーとしてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を固形分相当で5部とを混合し、更にN−メチルピロリドンを加えてプラネタリーミキサーで混合してスラリー状の負極用電極組成物(負極活物質層形成用スラリー)を調製した。この負極用電極組成物を厚さ10μmの銅箔の片面に塗布し、110℃で3時間乾燥した後、ロールプレスして厚さ60μmの負極活物質層を有する負極を得た。
【0121】
<正極用電極組成物および正極の製造>
正極活物質としてスピネル構造を有するマンガン酸リチウム92部と、アセチレンブラック5部、バインダーとして重合体−1のNMP溶液を固形分相当で3部とを加え、さらにNMPで固形分濃度87%に調整した後にプラネタリーミキサーで60分混合した。さらにNMPで固形分濃度84%に調整した後に10分間混合してスラリー状の正極用電極組成物(正極活物質スラリー)を調製した。この正極用電極組成物を厚さ18μmのアルミニウム箔に塗布し、120℃で3時間乾燥した後、ロールプレスして厚さ50μmの正極活物質層を有する正極を得た。
【0122】
<電池の作製>
次いで、得られた正極を直径13mmの円形に切り抜いた。得られた負極を直径14mmの円形に切り抜いた。厚さ25μmの乾式法により製造された単層のポリプロピレン製セパレーター(気孔率55%)を直径18mmの円形に切り抜いた。これらを、ポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。外装容器内の円形の電極及びセパレーターの配置は、下記の通りとした。円形の正極は、そのアルミニウム箔が外装容器底面に接触するよう配置した。円形のセパレーターは、円形の正極と円形の多孔膜付負極との間に介在するよう配置した。円形の多孔膜付負極は、その多孔膜側の面が、円形のセパレーターを介して円形の正極の正極活物質層側の面に対向するよう配置した。更に負極の銅箔上にエキスパンドメタルを載置し、この容器中に電解液(EC/DEC=1/2、1M LiPF)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約3.2mmのフルセル型コインセルを製造した(コインセルCR2032)。得られた電池について出力特性、サイクル特性、高温特性、及び低温特性を測定した。結果を表2に示す。
【0123】
(実施例2〜5)
正極を構成するバインダーとして重合体−1のかわりに表1に示す組成及び重量平均分子量からなる重合体−2〜5を用いた他は、実施例1と同様に正極活物質スラリー、正極、及び電池を作製した。そして、得られた電池の出力特性、サイクル特性、高温特性、及び低温特性を評価した。結果を表2に示す。重合体2〜5の分子量分布(Mw/Mn)は全て、1.2〜1.3であった。
【0124】
(実施例6)
フラスコにスチレン及び他の物質(開始剤等)を入れた後の90℃における重合反応の時間を9時間から36時間に変更し、反応混合物にアクリル酸n−ブチルを添加した後の110℃に加熱する時間を12時間から48時間に変更した他は、実施例1と同様にブロックポリマーを合成し、重合体−6を得た。得られた重合体−6の組成、比率、重量平均分子量、及びガラス転移温度を表1に示す。重合体6の分子量分布(Mw/Mn)は1.2〜1.3であった。
正極を構成するバインダーとして重合体−1のかわりに重合体−6を用いた他は、実施例1と同様に正極活物質スラリー、正極、及び電池を作製した。そして、得られた電池の出力特性、サイクル特性、高温特性、及び低温特性を評価した。結果を表2に示す。
【0125】
(実施例7)
フラスコにスチレン及び他の物質(開始剤等)を入れた後の90℃における重合反応の時間を9時間から1時間に変更し、反応混合物にアクリル酸n−ブチルを添加した後の110℃に加熱する時間を12時間から2時間に変更した他は、実施例1と同様にブロックポリマーを合成し、重合体−7を得た。得られた重合体−7の組成、比率、重量平均分子量、及びガラス転移温度を表1に示す。重合体7の分子量分布(Mw/Mn)は1.2〜1.3であった。
正極を構成するバインダーとして重合体−1のかわりに重合体−7を用いた他は、実施例1と同様に正極活物質スラリー、正極、及び電池を作製した。そして、得られた電池の出力特性、サイクル特性、高温特性、及び低温特性を評価した。結果を表2に示す。
【0126】
(実施例8)
メカニカルスターラー、窒素導入口、冷却管およびラバーセプタムを備えた4つ口フラスコに、トルエン100部、スチレン40部を入れた後、これに2,2´−ビピリジン1.3部を所定量加えてから、系内を窒素置換した。これに窒素気流下、臭化銅0.41部を加えた後、反応系を90℃に加熱し、開始剤として、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸2−ヒドロキシエチルを0.21部加えて重合を開始させ、窒素気流下で、90℃で3時間重合させた。重合率(加熱し揮発成分を除去したポリマー重量を、揮発成分を除去する前の重合液そのままのポリマー重量で割った値で定義される割合)が90%以上であることを確認した後、これにアクリル酸n−ブチル50部とアクリル酸10部の混合物をラバーセプタムから添加し、これをさらに110℃で7時間加熱した。このようにして、スチレン−アクリル酸ブチル/アクリル酸のブロックコポリマーのトルエン溶液が得られた。続いて、攪拌機付きオートクレーブに、得られたブロックコポリマー溶液を入れた。次いでトリス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド0.1部をトルエン5部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧0.9MPa、160℃で8時間水素化反応を行い、生長末端のブロモ基を水素化した。このブロックコポリマー100部にスルホン酸型カチオン交換樹脂10部を加えて、120℃で2時間撹拌した後、当該イオン交換樹脂を除去し、さらに重合触媒と水素化触媒等を除去して、凝固・乾燥し、無色透明なスチレンに基づく重合単位含量約40%の重合体−8を得た。得られた重合体−8の組成、比率、重量平均分子量、及びガラス転移温度を表1に示す。重合体8の分子量分布(Mw/Mn)は1.2〜1.3であった。
正極を構成するバインダーとして重合体−1のかわりに重合体−8を用いた他は、実施例1と同様に正極活物質スラリー、正極、及び電池を作製した。そして、得られた電池の出力特性、サイクル特性、高温特性、及び低温特性を評価した。結果を表2に示す。
【0127】
(比較例1)
電極を構成するバインダーとして重合体−1のかわりに表1に示す組成及び重量平均分子量からなる重合体−9(アクリル酸n−ブチルとスチレンのランダム共重合体、アクリル酸n−ブチルに基づく重合単位とスチレンに基づく重合単位の質量比60/40)を用いた他は、実施例1と同様に正極活物質スラリー、電極、及び電池を作製した。そして、得られた電池の出力特性、サイクル特性、高温特性、及び低温特性を評価した。結果を表2に示す。
【0128】
(比較例2)
実施例1において、電極を構成するバインダーとして重合体−1のかわりにポリフッ化ビニリデンを用いた他は、実施例1と同様に正極活物質スラリー、電極、及び電池を作製した。そして、得られた電池の出力特性、サイクル特性、高温特性、及び低温特性を評価した。結果を表2に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
なお、表1〜表2中、「BA」はアクリル酸n−ブチル、「ST」はスチレン、「AN」はアクリロニトリル、「2EHA」はアクリル酸2−エチルヘキシル、「AA」はアクリル酸、「PVDF」はポリフッ化ビニリデンを表す。
【0132】
本発明によれば、実施例1〜実施例8に示すように、ハロゲン原子を含まず主鎖に不飽和結合を有さないブロックポリマーを二次電池用電極に用いることにより、出力特性、高温特性、高温特性、低温特性に優れた電池を得ることができる。また、実施例の中でも、ブロックポリマー内に電解液に対して相溶性が高いセグメントAとしてアクリル酸n−ブチルを、相溶性が低いセグメントBとしてスチレンを有し、更にセグメントA:セグメントBの比率が30:70〜70:30の範囲にあるブロックポリマーをバインダーとして用いた実施例1は、出力特性、サイクル特性、高温特性、低温特性のすべてに優れており、特に出力特性、サイクル特性において優れた効果を示している。
一方、ブロック構造を有さない重合体を用いたもの(比較例1)、ハロゲン原子を含むバインダーを用いたもの(比較例2)は、出力特性、サイクル特性、高温特性、低温特性が劣り、特に高温特性において著しく劣っている。