特許第5696688号(P5696688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5696688-レニウムの回収方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696688
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】レニウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 61/00 20060101AFI20150319BHJP
   C22B 3/42 20060101ALI20150319BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20150319BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20150319BHJP
   B01J 41/04 20060101ALI20150319BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   C22B61/00
   C22B3/00 M
   C22B3/00 R
   C22B7/02 B
   B01J41/04 110
   C02F1/42 G
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-124235(P2012-124235)
(22)【出願日】2012年5月31日
(65)【公開番号】特開2013-249503(P2013-249503A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2014年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】窪田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】武田 和典
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−95979(JP,A)
【文献】 特開平7−286221(JP,A)
【文献】 特開2006−130387(JP,A)
【文献】 米国特許第3672874(US,A)
【文献】 特開昭61−232222(JP,A)
【文献】 特表2003−512525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
C02F 1/42
B01J 39/00−49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レニウムと共に不純物を含有する水溶液からレニウムを分離回収する方法であって、該水溶液を四級アンモニウム塩型の陰イオン交換樹脂に通液してレニウムを吸着させた後、レニウムを吸着した該陰イオン交換樹脂に1.5モル/l以上3.5モル/l以下の濃度の硫酸溶液を通液してレニウムを溶離し、得られた溶離後液中のレニウムを硫化剤の添加により硫化物として分離回収することを特徴とするレニウムの回収方法。
【請求項2】
前記水溶液は、不純物として銅、亜鉛、カドミウム、砒素の少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1に記載のレニウムの回収方法。
【請求項3】
前記水溶液が、銅製錬工程で発生した排ガスをスクラバーで洗浄して回収した水溶液であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレニウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レニウムと共に不純物を含有する水溶液から、陰イオン交換樹脂を用いてレニウムを効率良く分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レニウム(Re)は、天然には輝水鉛鉱(Molybdenite,MoS)の中に含有されて存在することが知られている。モリブデン製錬では、この輝水鉛鉱を酸化焙焼してモリブデンを可溶化する処理が行なわれるが、その際に輝水鉛鉱中に含有されているレニウムは酸化物Reの形態となって揮発するので、排ガス洗浄工程においてスクラバーで回収し、精製して製品とされる。
【0003】
また、輝水鉛鉱は黄銅鉱(Chalcopyrite,CuFeS)などの硫化銅鉱物と共存することも知られているが、黄銅鉱と輝水鉛鉱を浮遊選鉱などの工業的な物理分離方法を用いて分離することは困難である。そのため、黄銅鉱を原料とする銅の乾式製錬においても、共存する輝水鉛鉱からレニウムは酸化物となって揮発するので、排ガス洗浄工程において回収される。
【0004】
上記したモリブデンや銅の乾式製錬からの排ガスには原料の鉱石中に共存する砒素、銅、亜鉛、カドミウムなどが酸化物の形態で含まれるため、これら金属の酸化物は洗浄工程での洗浄液中に、レニウムの酸化物、例えば過レニウム酸と共に、不純物として含有された状態となる。これら多種多様な不純物を含有する洗浄液からレニウムを回収する方法として、従来から陰イオン交換樹脂を用いてレニウムを吸着分離する方法が行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、非鉄金属製製錬工程から発生する亜硫酸ガス洗浄液の硫酸濃度を70g/l以上に保持し、該亜硫酸ガス洗浄液に硫化水素ガスを吹き込むか又は可溶性の硫化物を添加して酸化還元電位120〜150mV(対銀−塩化銀電極)の条件下でレニウムを含む硫化物沈澱を生成させ、次に該硫化物沈澱を酸性水溶液中で硫酸銅と混合することによりレニウムを含む水溶液とし、得られた該含レニウム水溶液を第4級アンモニウム塩陰イオン交換物質に接触させてレニウムを選択的に吸着、回収するレニウムの回収方法が記載されている。
【0006】
上記特許文献1に記載の方法では、陰イオン交換樹脂に吸着したレニウムを溶離する際にチオシアン酸アンモニウム水溶液を用いている。しかし、チオシアン酸アンモニウムは、分解すると有毒なシアン化物イオンが生成する危険がある。また、チオシアン酸アンモニウムが分解した化合物を含む排水は、化学的酸素要求量(COD)や窒素濃度が高くなるなど環境負荷が大きいという問題もある。そのため、排水の処理に必要な薬品のコストが高くつくなど、工業的な実施には多くの課題があった。
【0007】
また、特許文献2には、レニウム及び白金を含有するアルカリ性水溶液を硫酸第一鉄で還元して白金を分離し、次に上記水溶液を陰イオン交換樹脂と接触させてレニウムを吸着して分離し、レニウムを吸着した樹脂に塩酸溶液を通液してイオン交換樹脂からレニウムを溶離した後、得られた溶離液の塩酸濃度を5〜6.5mol/lに調整し、最後に硫化水素をレニウムに対して1.5倍等量添加して、レニウムを硫化物として分離する方法が記載されている。
【0008】
上記特許文献2に記載の方法では、陰イオン交換樹脂からレニウムを溶離する際に塩酸溶液を用いるため、上記特許文献1の方法のように有毒なシアン化物が発生する恐れはなく、排水処理での環境負荷の問題も軽減できる利点がある。しかしながら、レニウムを完全に溶離するには7モルの高濃度な塩酸溶液が必要であるため、取り扱いの安全性や作業環境の点で問題があった。また、高濃度の塩酸溶液を使用するため設備の耐食性が必要となり、そのための設備コストがかさむという課題もあった。
【0009】
更に、上記特許文献2に記載の方法は、銅や鉛などの非鉄金属製錬で生じたレニウムを含有する排水などからのレニウムの回収に適用した場合、排水中に含まれる銅、亜鉛、カドミウム、砒素などの不純物も陰イオン交換樹脂に吸着される傾向があるため、相対的にレニウムの樹脂への吸着量が減少するだけでなく、回収した製品レニウムへの不純物の混入が問題となっていた。
【0010】
このように、モリブデンや銅の乾式製錬で発生した排ガスから回収した多くの不純物を含む水溶液中のレニウムを、環境負荷の低減やコストの抑制を図りながら、陰イオン交換樹脂を用いて効率良く分離回収することは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平07−286221号公報
【特許文献2】特開2006−130387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、多くの不純物を含有するレニウムの水溶液から陰イオン交換樹脂を用いてレニウムを分離回収する際に、発生する排水の処理などにおける環境負荷を低減でき且つ設備腐食の危険をなくして、コストの抑制を図ると共に、共存する不純物がレニウムの回収に影響を与えることを排除して、レニウムを効率良く分離回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明が提供するレニウムの回収方法は、レニウムと共に不純物を含有する水溶液からレニウムを分離回収する方法であって、該水溶液を四級アンモニウム塩型の陰イオン交換樹脂に通液してレニウムを吸着させた後、レニウムを吸着した該陰イオン交換樹脂に1.5モル/l以上3.5モル/l以下の濃度の硫酸溶液を通液してレニウムを溶離し、得られた溶離後液中のレニウムを硫化剤の添加により硫化物として分離回収することを特徴とする。
【0014】
上記本発明によるレニウムの回収方法において、前記水溶液は、不純物として銅、亜鉛、カドミウム、砒素の少なくとも1種を含有することを特徴とする。また、前記水溶液は、銅製錬工程で発生した排ガスをスクラバーで洗浄して回収した水溶液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、不純物を含有するレニウムの水溶液から陰イオン交換樹脂を用いてレニウムを選択的に吸着し、共存する不純物の影響を受けることなくレニウムを溶離して、効率良く分離回収することができる。また、レニウムを分離回収する際に有毒な排水が発生せず且つ設備の腐食もないため、安全に操業でき、コストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】溶離液の酸濃度と溶離後液中レニウム濃度及びレニウムの溶離率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、まず吸着工程において、レニウムと共に不純物を含有する水溶液、例えば銅など非鉄金属の製錬で生じた排ガスをスクラバーで処理した水溶液を、四級アンモニウム塩型の陰イオン交換樹脂に接触させることにより、陰イオン交換樹脂にレニウムを選択的に吸着させる。尚、銅など非鉄金属の製錬で生じた排ガスをスクラバーで処理した水溶液は、銅、亜鉛、カドミウム、砒素のいずれか1種類以上の元素を不純物として含有する硫酸酸性の水溶液であり、レニウムは過レニウム酸(HReO)として存在するものと考えられる。
【0018】
本発明においてレニウムと共に不純物を含有する水溶液中のレニウムの吸着に使用するイオン交換樹脂は、陰イオン交換樹脂であれば使用することができるが、交換基(官能基)としてトリメチルアンモニウム基やジメチルエタノールアンモニウム基のようなアンモニウム基を有する四級アンモニウム塩型の陰イオン交換樹脂を用いることが特に好ましい。かかる四級アンモニウム塩型の陰イオン交換樹脂は市販のものが使用でき、例えば、住化ケムテックス(株)のDiolite A113F型(商品名)、三菱化学(株)のDIAION HPA−25(商品名)など、市販されている四級アンモニウム塩型陰イオン交換樹脂を好適に使用することができる。
【0019】
上記した強塩基性の四級アンモニウム塩型陰イオン交換樹脂を用いることにより、特にその中でもトリメチルアンモニウム基を有する最も塩基性の強いI型の四級アンモニウム塩型陰イオン交換樹脂を用いることによって、過レニウム酸よりも弱酸で大過剰に含まれる砒酸イオンや硫酸イオンなどの陰イオン存在下であっても、レニウムを選択的に吸着することができる。また、上記四級アンモニウム塩型陰イオン交換樹脂での吸着の際には、レニウム回収後のろ液処理のために、レニウムを含む水溶液の硫酸濃度をアルカリの添加などにより0.5モル/l未満に調整しておくことが好ましい。
【0020】
水溶液中のレニウムを四級アンモニウム塩型陰イオン交換樹脂に選択的に吸着させた後、本発明では次の溶離工程において、硫酸溶液を溶離液として陰イオン交換樹脂からレニウムを溶離する。溶離液として硫酸溶液を用いることによって、設備の耐食性を考慮する必要がなく、またチオシアン酸アンモニウム水溶液を用いた場合のように有毒な物質が生成する危険もなくなるため、設備や排水処理に要するコストを低減することができる。
【0021】
溶離液である硫酸溶液の硫酸濃度としては、0.5モル/l以上あればレニウムの溶離が可能であるが、工業的に実用できる範囲とされる40%程度の溶離率を得るためには1.5モル/l以上が必要である。また、硫酸濃度が高くなるほどレニウムの溶離率も上昇し、濃度2モル/lで溶離率が70%となり、2.5〜3モル/l程度の濃度で溶離率はほぼ100%となる。但し、硫酸濃度が3.5モル/lを超えても溶離率はもはや上昇しなくなるため、設備や樹脂の耐久性や取り扱い上の安全性、使用する硫酸のコストなどを考慮すると、3.5モル/l以下の硫酸濃度とすることが好ましい。
【0022】
本発明では溶離液として濃度1.5〜3.5モル/lの硫酸溶液を用いることにより、銅、亜鉛、カドミウム、砒素などの不純物の影響を排除して、高純度のレニウムを高い溶離率で効率よく溶離することができる。その理由は、上記した不純物と錯塩を生成しない硫酸を溶離液に用いることで、溶離後液が陰イオン交換樹脂に残留したとしても、不純物が錯塩を生成して陰イオン交換樹脂に吸着することを回避できるからである。一方、溶離液に塩酸溶液を使用する従来の方法では、上記の不純物は塩化物イオンと錯体を形成して陰イオン交換樹脂に吸着される性質があるため、塩化物の錯体としてイオン交換樹脂に吸着して残留した不純物イオンが新たに通液した水溶液と接触してしまい、樹脂へのレニウムの吸着量が減少するうえ、溶離したレニウムへの不純物の混入が避けられない。
【0023】
上記のごとく陰イオン交換樹脂から溶離されたレニウムを含む溶離後液は、回収工程において、硫化水素ガスあるいは水硫化ナトリウムや硫化ナトリウムなどの可溶性の硫化物を添加することにより、レニウムを硫化物として沈殿生成させる。得られた硫化物沈殿を固液分離することにより、レニウムを硫化物として回収することができる。
【実施例】
【0024】
[実施例1]
元液として、濃度36g/lの銅、濃度1g/lの亜鉛、濃度6g/lの砒素、濃度3g/lのカドミウム、濃度1g/lのレニウム、及び濃度30g/l(約0.3モル/l)の硫酸を含む水溶液を準備した。四級アンモニウム基を置換基とする陰イオン交換樹脂(商品名:Duolite A113LF)を高さ0.8cm(容積10ml)まで充填した直径4cmのカラムに、上記元液(液温25℃)を1リットル/時間(SV=25/hr)の割合で100ml通液した。
【0025】
通液後の元液中のレニウム濃度をICP質量分析装置により測定し、通液量と通液前後の濃度から計算した通液前後での物量差を通液した物量で除した値をレニウムの吸着率として求めたところ、吸着率は99%以上であった。
【0026】
その後、レニウムを吸着させた陰イオン交換樹脂に硫酸溶離液(液温25℃)をSV=25/hrの条件で500ml通液して、陰イオン樹脂からレニウムを溶離した。その際、硫酸溶離液の硫酸濃度を変えて0.5、1.0、1.5、2.5及び5モル/lの5種類とし、それぞれの硫酸濃度での溶離後液中のレニウム濃度をICP質量分析装置により測定して溶離率を求めた。
【0027】
尚、溶離率(%)は溶離量/吸着量×100として計算し、溶離量は溶離後液量×レニウム濃度により算出した。このようにして求めた溶離後液中のレニウム濃度及びレニウム溶離率と、硫酸溶離液の濃度との関係を図1に示した。この図1から、硫酸濃度2.5モル/l以上の硫酸溶離液を用いることによって、90%以上の溶離率でレニウムを溶離できることが分かる。
【0028】
上記硫酸濃度が2.5モル/lの硫酸溶離液で溶離した場合について、得られた溶離後液に硫酸を添加して硫酸濃度を150g/l以上とし、酸化還元電位(ORP)値が銀塩化銀電極を参照電極とする電位で100mVとなるように水硫化ナトリウム水溶液を添加して、硫化レニウムの沈殿を生成させた。この硫化レニウムの澱物を固液分離して回収したところ、回収できたレニウムは元液中に含有される量の90%以上であった。
【0029】
[比較例1]
上記実施例1と同じ元液を、同じ条件で同じ陰イオン交換樹脂に通液してレニウムを吸着させた。その後、溶離液として濃度を1.0、2.1、3.0、7.5及び11モル/lの5種類に調整した塩酸溶液を用いて、それぞれ上記実施例1と同じ方法で通液して陰イオン交換樹脂からレニウムを溶離した。
【0030】
それぞれの塩酸濃度の溶離液を使用した場合の溶離後液のレニウム濃度を、図1に併せて示した。この図1から明らかなように、塩酸溶離液を用いた比較例では、溶離後液中のレニウム濃度が硫酸溶離液を用いた本発明に比べて遥かに低かった。
図1