(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記積層基材を構成する複数のプリプレグが、プリプレグに含まれる強化繊維の方向が疑似等方となるように積層された請求項1から4のいずれか一項に記載の積層基材。
前記積層基材を構成する複数のプリプレグが、前記プリプレグのうち任意の一つに含まれる強化繊維の方向を0°としたとき、前記プリプレグのそれぞれに含まれる強化繊維の方向が0°であるプリプレグと90°であるプリプレグが交互に積層されている請求項1から4のいずれか一項に記載の積層基材。
前記積層基材を構成するプリプレグに含まれる強化繊維の体積含有率が前記プリプレグの全体体積に対して20体積%以上、55体積%以下である、請求項1から7のいずれかに記載の積層基材。
シート状のプリプレグを複数枚積層して積層基材を製造する方法であって、プリプレグを複数枚積層した後、積層基材の外周断面部分の全ての50%以上を、プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物で覆うことを特徴とする積層基材の製造方法。
前記シート状物が粘着テープであって、積層基材の外周に沿って最下層基材外周部、積層基材の外周断面、最上層基材外周部を覆うように粘着テープを貼ることを特徴とする請求項13に記載の積層基材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、構造材に適用可能な曲げ強度や曲げ弾性率など優れた力学物性を有しながら、それらの力学特性のばらつきが低く、さらに複雑な形状への賦形性に優れ、短時間で成形可能である積層基材、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、一方向に配向した強化繊維と熱可塑性マトリクス樹脂とを含むプリプレグに、特定のスリットを設けることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、下記(1)〜(15)のような実施の態様を有する。
(1) 一方向に配向した強化繊維と熱可塑性マトリクス樹脂とを含むシート状のプリプレグを複数枚積層した積層基材であって、前記プリプレグは、表面から裏面に貫通した切込を有し、各切込は各強化繊維と1回のみ交差するように設けられ、かつ前記切込の開始点と終点を結ぶ線分の長さをLsとした場合、前記線分の長さLsと切込の長さLrとが下記式1の関係を満たし、
Ls≦Lr≦Ls×1.5 ・・・(式1)
前記線分と前記強化繊維の繊維方向との交差する角度が30°以上、90°以下であり、前記プリプレグ1m
2あたりの切込の長さLrの総和が20m以上、200m以下であるプリプレグを含む積層基材。
(2) 前記切込によって切断された強化繊維の長さが、5mm以上100mm以下であるプリプレグを含む上記(1)に記載の積層基材。
(3) 前記強化繊維の平均単繊維繊度が0.5dtex以上、2.4dtex以下である炭素繊維である上記(1)または(2)に記載の積層基材。
(4) 前記積層基材が、熱可塑性樹脂からなる層をさらに含む上記(1)から(3)のいずれかの一項に記載の積層基材。
(5) 前記積層基材を構成する複数のプリプレグが、プリプレグに含まれる強化繊維の方向が疑似等方となるように積層された上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の積層基材。
(6) 前記積層基材を構成する複数のプリプレグが、前記プリプレグのうち任意の一つに含まれる強化繊維の方向を0°としたとき、前記プリプレグのそれぞれに含まれる強化繊維の方向が0°であるプリプレグと90°であるプリプレグが交互に積層されている上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の積層基材。
(7) 切込の開始点と終点を結ぶ直線と強化繊維の交差する角度が30°以上、60°以下である上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の積層基材。
(8) 前記積層基材を構成するプリプレグに含まれる強化繊維の体積含有率がプリプレグの全体体積に対して20体積%以上、55体積%以下である、上記(1)から(7)のいずれかに記載の積層基材。
(9) 前記プリプレグのいずれの5cm×5cmの部分においても、当該25cm
2あたりの切込の長さLrの総和が0.5m以上5m以下である上記(1)から(8)のいずれか一項に記載の積層基材。
(10) 前記積層基材を構成するプリプレグの厚さが50μm以上、200μm以下である、上記(1)から(9)のいずれか一項に記載の積層基材。
(11) 前記積層基材を構成するプリプレグ同士が接着されている上記(1)から(10)のいずれか一項に記載の積層基材。
(12) 積層基材の外周断面部分の全ての50%以上が、プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物で覆われている上記(1)から(11)のいずれかに記載の積層基材。
(13) シート状物が粘着テープであって、積層基材の外周に沿って最下層基材外周部、積層基材の外周断面、最上層基材外周部を覆うように粘着テープが貼られた上記(12)に記載の積層基材。
(14) プリプレグを複数枚積層して積層基材を製造する方法であって、プリプレグを複数枚積層した後、積層基材の外周断面部分の全ての50%以上を、プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物で覆うことを特徴とする積層基材の製造方法。
(15) 前記シート状物が粘着テープであって、積層基材の外周に沿って最下層基材外周部、積層基材の外周断面、最上層基材外周部を覆うように粘着テープを貼ることを特徴とする上記(14)に記載の積層基材の製造方法。
【0011】
また、下記(16)〜(27)も本発明の実施形態の1つである。
(16) 前記切込がレーザーマーカーを用いて施されたものである上記(1)から(13)のいずれか一項に記載の積層基材。
(17) 前記切込がカッティングプロッタを用いて施されたものである上記(1)から(13)のいずれか一項に記載の積層基材。
(18) 前記切込が打抜型を用いて施されたものである上記(1)から(13)のいずれか一項に記載の積層基材。
(19) 前記プリプレグの少なくとも1辺の長さが1m以上で、前記プリプレグの面積が1m
2以上である上記(1)から(13)、(16)から(18)のいずれかに一項に記載の積層基材。
(20) 前記プリプレグが、表面から裏面に貫通した切込を有し、各切込は各強化繊維と1回のみ交差するように設けられ、かつ前記切込の開始点と終点を結ぶ線分の長さをLsとした場合、前記切込の長さLrが下記式1を満たし、
Ls≦Lr≦Ls×1.5 ・・・(式1)
前記線分と前記強化繊維の繊維方向との交差する角度が30°以上、90°以下であり、前記プリプレグ1m
2あたりの切込の長さLrの総和が20m以上、200m以下であるプリプレグである上記(14)または(15)に記載の積層基材の製造方法。
(21) 前記切込がレーザーマーカーを用いて施されたものである上記(20)に記載の積層基材の製造方法。
(22) 前記切込がカッティングプロッタを用いて施されたものである上記(20)に記載の積層基材の製造方法。
(23) 前記切込が打抜型を用いて施されたものである上記(20)に記載の積層基材の製造方法。
(24) 積層基材の外周断面部分の全ての50%以上を、プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物で覆う前または覆った後に、積層したプリプレグ同士を熱溶着を用いて接着することを特徴とする上記(14)、(15)、(20)から(23)のいずれか一項に記載の積層基材の製造方法。
(25) 積層基材の外周断面部分の全ての50%以上を、プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物で覆う前または覆った後に、積層したプリプレグ同士を振動溶着を用いて接着することを特徴とする上記(14)、(15)、(20)から(23)のいずれか一項に記載の積層基材の製造方法。
(26) 積層基材の外周断面部分の全ての50%以上を、プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物で覆う前または覆った後に、積層したプリプレグ同士を熱プレスを用いて接着することを特徴とする上記(14)、(15)、(20)から(23)のいずれか一項に記載の積層基材の製造方法。
(27) 積層基材の外周断面部分の全ての50%以上を、プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物で覆う前または覆った後に、積層したプリプレグ同士を熱ロールプレスを用いて接着することを特徴とする上記(14)、(15)、(20)〜(23)のいずれか一項に記載の積層基材の製造方法。
【0012】
また、本発明の実施態様の別の側面においては、以下のような態様も有する。
(1A)一方向に配向した強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを複数枚積層した積層基材であって、前記プリプレグは、強化繊維を横切る方向に強化繊維を切断する深さの切込を有し、前記切込が直線状であって、切込と強化繊維のなす角度が30°以上、60°以下であり、前記プリプレグ1m
2あたりの切込長の総和が20m以上、150m以下であるプリプレグを含む積層基材。
(2A)一方向に配向した強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを複数枚積層した積層基材であって、前記プリプレグは、強化繊維を横切る方向に強化繊維を切断する深さの切込を有し、前記切込が直線状の中心線に沿った曲線であって、かつ曲線を中心線に投影した際に重なりがなく、該中心線と強化繊維のなす角度が30°以上、60°以下であり、前記プリプレグ1m
2あたりの切込長の総和が20m以上、150m以下であるプリプレグを含む積層基材。
(3A)切込によって切断された強化繊維の長さが、10mm以上50mm以下であるプリプレグを含む(1A)または(2A)のいずれかに記載のある積層基材。
(4A)前記積層基材を構成するプリプレグの厚さが50μm以上、200μm以下である前記(1A)〜(3A)のいずれか一項に記載の積層基材。
【0013】
また、本発明の実施態様の別の側面においては、以下のような態様も有する。
(1B)一方向に配向した強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを複数枚積層した積層基材であって、前記プリプレグは、強化繊維を横切る方向に強化繊維を切断する深さの切込を有し、前記切込が直線状であって、切込と強化繊維のなす角度が30°以上、60°以下であり、前記プリプレグ1m
2あたりの切込長の総和が20m以上、150m以下、プリプレグの少なくとも一辺の長さが1m以上、プリプレグの面積が1m
2以上である積層基材。
(2B)切込によって切断された強化繊維の長さが、10mm以上50mm以下である(1B)に記載の積層基材。
(3B)前記積層基材を構成する複数のプリプレグが、プリプレグに含まれる強化繊維の方向が0°であるプリプレグ(A)と45°であるプリプレグ(D)と90°であるプリプレグ(B)と−45°であるプリプレグ(F)が交互に積層された(1B)又は(2B)のいずれか一項に記載の積層基材。
(4B)前記積層基材を構成する複数のプリプレグが、プリプレグに含まれる強化繊維の方向が0°(A)であるプリプレグと45°であるプリプレグ(D)と90°であるプリプレグ(B)と−45°であるプリプレグ(F)のプリプレグがそれぞれ2つ以上を組み合わせてなる45°であるプリプレグ(d、e)と90°であるプリプレグ(b、c)と−45°であるプリプレグ(f、g)が交互に積層された(1B)から(3B)のいずれか一項に記載の積層基材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複雑な形状への賦形性に優れて短時間成形可能であり、かつ構造材に適用可能な曲げ強度や曲げ弾性率など優れた力学物性、その低ばらつき性を持つ積層基材、およびその製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る積層基材は、一方向に配向した強化繊維と熱可塑性マトリクス樹脂とを含むシート状のプリプレグを複数枚積層した積層基材であって、前記プリプレグは、表面から裏面に貫通した切込を有し、各切込は各強化繊維と1回のみ交差するように設けられ、かつ前記切込の開始点と終点を結ぶ線分の長さをLsとした場合、前記切込の長さLrが下記式1を満たし、
Ls≦Lr≦Ls×1.5 ・・・(式1)
前記線分と前記強化繊維の繊維方向の交差する角度が30°以上、90°以下であり、前記プリプレグ1m
2あたりの切込の長さLrの総和が20m以上、200m以下であるプリプレグを含む積層基材である。
【0017】
(プリプレグ)
本実施形態で用いるプリプレグは、一方向に配向した強化繊維と熱可塑性マトリクス樹脂とを含み、強化繊維と交差する方向に、表面から裏面に貫通する切込を有するシート状のプリプレグである。一方向に配向した強化繊維、及び熱可塑性マトリクス樹脂については後述する。「強化繊維と交差する方向に切込を有する」とは、後述する線状の切込の方向が強化繊維と並行でないことであり、切込と交差する部位においてプリプレグに含まれる強化繊維が切断されていることである。
一般に積層基材に含まれる強化繊維の長さは、長いほど力学特性に優れるものの、スタンピング成形時の流動性が低下する傾向にある。一方、スタンピング成形時の流動性向上のためには、強化繊維が短いこと、すなわち強化繊維がある長さに切断されていることが効果的で、これによりリブやボスといった複雑な3次元形状にも流動する積層基材を得ることができる。しかしながら、それぞれ任意の方向に配向するように積層された平板状の積層基材は力学特性にばらつきを生じるため、部品設計が困難であった。この解決策として切込を有したプリプレグを複数枚、積層することで、力学特性が良好で、その上、ばらつきが小さく、スタンピング成形時の流動性に優れる積層基材を得ることができる。
【0018】
切込は、プリプレグの表面から裏面までを貫通している。ここでプリプレグの表面から裏面とは、積層基材を構成する複数枚のプリプレグそれぞれについて、最も面積が広い一対の面を表面及び裏面としたものを指す。切込がプリプレグ内で多くの強化繊維を切断しているので、積層基材の成形時の流動性を優れたものとすることができる。
【0019】
スタンピング成形時の流動性は、切込の開始点と終点を結ぶ線分(直線)と強化繊維の繊維方向との交差する角度(単に強化繊維とのなす角度ともいう、以下、「θ」という。)および、プリプレグ1m
2あたりの切込の長さLrの総和(以下、「la」という。)に依存する。ここで切込の開始点及び終点とは、後述する切込の様々な形状において長さの値も最も大きい方向をとり、その一端を開始点、他端を終点とするが、後述するように切込が線状である場合は、その線の一端と他端を指す。また、ここでθは線同士が交差する際になす角度のうち鋭角の側を指す。
θの値が90度に近いほど強化繊維間のせん断力が小さくなるために流動性が高く、laの値が大きいほど流動性が高くなる。平板のスタンピング成形に用いるプリプレグの場合、θは25°以上であることが好ましく、laは10m以上が好ましい。さらにリブなど複雑形状のスタンピング成形の場合、θは30°以上であることが好ましく、laは20m以上であることが好ましい。
また、プリプレグのいずれの5cm×5cmの部分においても、当該25cm
2あたりの切込の長さLrの総和(la)が0.5m以上5m以下であることが好ましい。
【0020】
プリプレグの曲げ強度、曲げ弾性率に代表される力学物性は、前記繊維と交差する(切断する)切込の開始点と終点を結ぶ線分と強化繊維の交差する角度θのみならず、1m
2あたりの切込の長さの総和laに依存する。θが小さいほど機械物性が高いことが知られており(特許文献5)、またlaが小さいほど高い力学物性が得られる。例えば本実施形態の積層基材を自動車の準構造部材に利用するためには、プリプレグの前記θが70°以下であることが好ましく、laは200m以下であることが好ましい。また、曲げ強度と引張強度のバランスにより優れた構造部材に用いるためには、θは60°以下であることが好ましく、laは200m以下であることが好ましい。
【0021】
切込を施したプリプレグを製造する時間や製造コストは、強化繊維と交差する切込と強化繊維の交差する角度θのみならず、1m
2あたりの切込の長さの総和laに大きく依存する。θが小さく、かつlaが大きい場合であって、カッティングプロッタで切断する場合には切込加工に有する時間が長大になる。また打ち抜きで切込を加工する場合には、打ち抜き刃の製造コストが膨大になるだけでなく、打ち抜く際に強化繊維方向に裂け目が生じやすく、隣接する切込間でシートの欠落が生じる。このためθは15°以上が好ましく、laは200m以下が好ましい。さらに切込加工後の積層工程を考慮すると、θは30°以上が好ましく、laは200m以下がさらに好ましい。
【0022】
これまでに述べたように、θとlaは、積層基材の用途、必要とされる力学特性、加工性などを考慮すると、θが30°以上、90°以下、laが20m以上、200m以下であってもよい。
【0023】
本実施形態の積層基材に用いることができるプリプレグは、切込によりプリプレグに含まれる強化繊維が切断されていることが必要である。切断された強化繊維の長さ(以下「L」という。)は特に制限されるものではないが、力学特性と流動性の観点から、5mm以上、100mm以下が好ましい。特に十分な力学物性とスタンピング成形時のリブ等の薄肉部への流動を両立させるためには5mm以上50mm以下がさらに好ましく、10mm以上50mm以下が特に好ましい。
【0024】
なお、前記切込の形状は、線状、特に直線状や曲線状であることが好ましい。ここで直線(状)又は曲線(状)、すなわち線状であるとは、例えば切込の長さに対して、前記プリプレグ表面における切込みの幅が1.0mm未満であることである。前記表面における切込の幅がこの条件以内であれば、この線状の切込みの表面−裏面の断面における断面形状は、長方形又は楔型等のいずれの形状であってもよい。
各切込は各炭素繊維と1回のみ交差するよう設けられ、かつ切込の開始点と終点を結ぶ線分の長さLsとした場合、切込の長さLrが下記式1を満たせば直線状である必要はなく、例えば
図2に示したような曲線を用いることもできる。なお、Ls=Lvの時、切込は直線状である。ここで切込の長さとは切込の中心に沿った線が曲線形状である場合、その曲線の全長(前記中心に沿った線上を辿る道程の総計)を指す。
Ls≦Lr≦Ls×1.5 ・・・(式1)
切込の形状を曲線とすることで、θとLの値を保ちながら、laを大きくすることができる。この場合高い力学物性を維持しつつスタンピング成形性の向上が期待できるので好ましい。しかしながら切込加工に有する時間が長大化するために、前記したように切込は直線状であることが好ましい。
各切込が各炭素繊維と1回のみ交差するように設けられているとは、同じ一つの切込は、一つの炭素繊維に対して1回のみ交差するよう設けられている(一つの炭素繊維に一つの切込が複数回交差することはない)状態を指す。一方、一つの切込みが、複数の炭素繊維と交差している状態であってもよい。具体的には、切込が直線状又は湾曲の少ない曲線状であれば、これらの状態を好適に実現することができる。
【0025】
本実施形態の積層基材に用いることができるプリプレグは、θとlaの値が所定の範囲内であれば、切込の長さと切込の数の異なるプリプレグを積層しても良い。スタンピング成形時、ボスやリブなどの薄肉で三次元形状を有する部分にはθを大きく、かつlaを大きくすることが好ましい。逆に流動が二次元的で流動長が小さく、高い力学物性を必要とする部分には、θを小さく、かつlaを小さくすることが好ましい。
【0026】
本実施形態の積層基材に用いることができるプリプレグは、繊維体積含有率Vfが55%以下であれば、十分な流動性を得ることができるので好ましい。Vfの値が低いほど流動性は向上するが、Vfの値が20%未満では構造材に必要な力学特性は得られない。流動性と力学特性の関係を鑑みると、20%以上55%以下が好ましい。かかるVf値は、例えば、水中置換法により得られたプリプレグの密度ρcと、同様の方法で得られた繊維の密度ρf、またプリプレグの質量W、プリプレグを燃焼し樹脂を焼失させた後の重量W1より、以下の式を用いて求めるものを用いる。
Wf=(W−W1)×100/W・・・式(2)
Vf=Wf×ρc/ρf・・・式(3)
【0027】
プリプレグの厚みに関しては、本実施形態の積層基材に用いることができるプリプレグは、切込を有するため、分断されるプリプレグの厚みが大きいほど強度が低下する傾向であり、構造材に適用することを前提とするならば、プリプレグの厚さは200μm以下とするのが良い。一方厚みが50μm未満ではプリプレグの取り扱いが難しく積層基材とするために積層するプリプレグの数が非常に多くなるので、生産性が著しく悪化する。よって生産性の観点から50μm以上200μm以下であることが好ましい。プリプレグの厚み以外の寸法、例えばプリプレグの前記平断面形状が長方形であるときは、前記長方形の長さや幅は積層基材の製造方法に適するように任意に決められるが、本実施形態では、積層基材に積層する際はプリプレグの長さや幅がそれぞれ200〜2000mm程度になるよう裁断して用いてもよい。プリプレグの少なくとも1辺の長さ、具体的には前記平断面形状における長方形の長さ又は幅は、1m以上であることが好ましい。プリプレグの面積、具体的には前記平断面形状における長方形の面積は1m
2以上であることが好ましい。
【0028】
本実施形態の積層基材に用いることができる強化繊維としては、強化繊維の種類は特に限定されず、無機繊維、有機繊維、金属繊維、またはこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維が使用できる。無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維などが挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステルなどが挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維を挙げられ、また金属を被覆した炭素繊維でもよい。これらの中では、最終成形物の強度等の機械特性を考慮すると、炭素繊維が好ましい。また、強化繊維の平均繊維直径は、1〜50μmであることが好ましく、5〜20μmであることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態のプリプレグは、上述の強化繊維が一方向に配向されてなる。一方向に配向(又は一方向に配列)されてなるとは、繊維の長尺の方向がほぼ平行であることである。ほぼ平行であるとは、具体的には、プリプレグが含有する繊維のうち90〜100%の長尺の方向が−5°〜+5°の範囲内に収まっていることであり、好ましくは繊維の95〜100%の長尺の方向が−2°〜+2°の範囲に収まっていることである。本実施形態では特に、プリプレグの製造において、繊維を寄せ合わせた繊維束に張力をかけることにより方向をほぼ揃えることで、繊維が一方向に配向されてなる(この状態を、繊維が一方向に引き揃えられている、ともいう)ことが好ましい。
【0030】
前記強化繊維の平均単繊維繊度は、通常0.1dtex以上、5.0dtex以下である。平均単繊維繊度が低すぎると強化繊維の開繊が難しくプリプレグの製造が不可能となり、高すぎると力学物性の低下が生じる。ここで、平均単繊維繊度とは10,000mあたりの繊維の質量として定義される値であり、一定長さの繊維束の質量を繊維数で除し、長さ10,000mに換算することにより計測される。本実施形態で用いる強化繊維としては、平均単繊維繊度が0.5dtex以上、2.4dtex以下である炭素繊維が特に好ましい。
【0031】
本実施形態の積層基材には熱可塑性樹脂を用いる。すなわち、不連続な強化繊維を用いた繊維強化プラスチックの場合、強化繊維端部同士を連結するように破壊するため、一般的に熱硬化性樹脂よりも靱性値が高い熱可塑性樹脂を用いることで、強度、特に耐衝撃性(対衝撃性)が向上する。さらに熱可塑性樹脂は化学反応を伴うことなく冷却固化して形状を決定するので、短時間成形が可能であり、生産性に優れる。このような熱可塑性樹脂としては、ポリアミド(ナイロン6若しくはナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン若しくはポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、アクリル(ポリメタクリル酸メチル等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステル、又はアクリロニトリルとスチレンの共重合体等を用いることができる。また、これらの混合物を用いてもよい。さらに、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合したものであってもよい。本実施形態で用いる熱可塑性樹脂としては、強化繊維との馴染みが良く高い力学物性と高い流動性の観点から、特にポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、アクリル又はポリカーボネートが好ましい。また、得たい成形品の要求特性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤又は導電性フィラー等を添加しておくこともできる。本実施形態では、この熱可塑性樹脂を構成素材とする熱可塑性マトリクス樹脂を用いる。
【0032】
(積層基材)
本実施形態における積層基材は、上述のプリプレグを複数枚積層した積層基材である。具体的にはプリプレグを2枚以上積層した積層基材であって、高い流動性の観点からプリプレグを4枚以上積層した積層基材が好ましく、特に好ましくはプリプレグを8枚以上積層した積層基材である。なお、製造コストの観点から、通常はプリプレグを192枚以下積層した積層体であり、好ましくはプリプレグを96枚以下積層した積層体である。
【0033】
本実施形態の積層基材は、複数枚のプリプレグを強化繊維の方向が擬似等方となるように積層されていることが、プレス時の流動の異方性を小さくする点で好ましい。ここで疑似等方とは、各層の繊維が360゜/n(nは目安として3以上の整数)で示される等角に積層することをいう。プリプレグが疑似等方となるよう積層されることで、より多くの方向において、剛性や弾性等の物理的性質が優れたものが得られる。本実施形態では、例えばn=8、すなわち各繊維が45°の等角に積層されたものを用いている。
【0034】
本実施形態の積層基材は、プリプレグに含まれる強化繊維の方向が0°であるプリプレグと90°であるプリプレグが交互に積層されていることが、積層基材の強度の異方性を小さくする点で好ましい。ここで強化繊維の方向については、前記プリプレグのうち任意の一つに含まれる強化繊維の方向を0°としたとき、前記0°に対する方向を指す。
【0035】
本実施形態の積層基材は、積層基材を構成する複数のプリプレグの間に、さらに熱可塑性樹脂からなる層を積層することが、プレス時の流動性をさらに向上する点で好ましい。このような、熱可塑性樹脂からなる層としては、プリプレグに含まれる樹脂組成物と同一の樹脂組成物であるかもしくは、ポリアミド(ナイロン6若しくはナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン若しくはポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート若しくはポリブチレンテレフタレート等)、アクリル(ポリメタクリル酸メチル等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステル、又はアクリロニトリルとスチレンの共重合体等などが好ましく用いることができる。プリプレグとの馴染みが良く高い力学物性と高い流動性の観点から、特に好ましくはポリアミド、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、アクリル、又はポリカーボネートである。
【0036】
本実施形態の積層基材は、繊維体積含有率Vfが55%以下であれば、十分な流動性を得ることができるので好ましい。Vfの値が低いほど流動性は向上するが、Vfの値が20%未満では構造材に必要な力学特性は得られない。前記Vfはこれらの流動性と力学特性の関係を鑑みると、20%以上55%以下が好ましい。かかるVf値は、上述の方法に基づき測定できる。
【0037】
本実施形態の積層基材の厚みは、積層基材に求められるスペックにもよるが、切込加工性の観点から、通常10〜500μmであり、好ましくは50〜200μmである。ここで積層基材の厚みは、積層基材の任意の複数の部位をマイクロメーターで測定した際の値を用いる。
【0038】
本実施形態における積層基材は、積層基材の取扱いの観点から、積層基材を構成するプリプレグ同士が接着されていることが好ましい。積層基材を構成する複数のプリプレグの間に、さらに熱可塑性樹脂からなる層等のプリプレグ以外の層を積層する場合は、前記層とプリプレグとが接着されていることが好ましい。プリプレグ同士の接着は任意の方法により行われていてもよいが、接着剤を介して、又は後述するように熱溶着若しくは振動溶着されたものであってもよい。
【0039】
本実施形態の積層基材は、取扱いの観点から、積層基材の外周断面部分の全ての50%以上が、より好ましくは60%以上が、プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物で覆われていることが好ましい。ここで、外周断面部分とは具体的には積層基材の表面と裏面以外の面、即ち積層基材の表面と裏面を含まない外周部分の面を指す。積層基材の外周に沿って最下層基材外周部、積層基材の外周断面、最上層基材外周部を覆うように該シートで覆われていることがより好ましい。最下層基材外周部とは積層基材の一番下の層を構成する基材の周辺部分近傍の範囲、積層基材の外周断面とは積層基材の表面と裏面を含まない外周部分の面、最上層基材外周部とは積層基材の一番上の層を構成する基材の周辺部分近傍の範囲を指す。
【0040】
「プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持する」とは、前記シート状物が、前記温度(マトリクス樹脂の融点+10℃)と23℃におけるヤング率の比が0.8以上であることを意味する。シート状とは、面積が厚みに対して特に大きい(目安として、幅及び長さが面積の少なくとも1/100以上)の形状を指す。前記シート状物としては、例えば、紙、布、プラスチックフィルム、又は金属箔等が挙げられる。前記シート状物は、使用のしやすさの観点から、粘着テープを用いるあることが好ましい。
【0041】
(積層基材の製造方法)
以下に本実施形態の積層基材に用いることができるプリプレグの製造方法の一実施形態を説明するが、本実施形態はこれによって特に制限されるものではない。
【0042】
本実施形態の積層基材に用いることができるプリプレグは、例えばフィルム状とした熱可塑性樹脂を二枚準備し、その二枚の間に強化繊維をシート状に並べた強化繊維シートを挟み込み、加熱および加圧を行うことにより得ることができる。
強化繊維シートは、以下のような方法により製造されたものを用いる。例えば、炭素繊維を一方向に引き揃える際には、繊維を配列させて張力をかける等の手法により行う。
この強化繊維シートを熱可塑性樹脂のフィルムに挟み込んでプリプレグとする際には、より具体的には、2枚の熱可塑性樹脂からなるフィルムを送り出す、2つのロールから二枚のフィルムを送り出すとともに、強化繊維シートのロールから供給される強化繊維シートを二枚のフィルムの間に挟み込ませた後に、加熱および加圧する。加熱および加圧する手段としては、公知のものを用いることができ、二個以上の熱ロールを利用したり、予熱装置と熱ロールの対を複数使用したりするなどの多段階の工程を要するものであってもよい。ここで、フィルムを構成する熱可塑性樹脂は一種類である必要はなく、別の種類の熱可塑性樹脂からなるフィルムを、上記のような装置を用いてさらに積層させてもよい。
【0043】
上記加熱温度は、熱可塑性樹脂の種類にもよるが、通常、100〜400℃であることが好ましい。一方、加圧時の圧力は、通常0.1〜10MPaであることが好ましい。この範囲であれば、プリプレグに含まれる強化繊維の間に、熱可塑性樹脂を含浸させることができるので好ましい。また、本実施形態の積層基材に用いることができるプリプレグは、市販されているプリプレグを用いることもできる。
【0044】
本実施形態の積層基材に用いることができるプリプレグの切込は、レーザーマーカー、カッティングプロッタ又は抜型等を利用して切込を入れることにより得ることができる。すなわち、レーザーマーカーによりプリプレグの熱可塑性樹脂に対して熱により形状を穿つことにより切込を得る、カッティングプロッタによってプリプレグの表面を切り抜くことにより切込を得る、又は抜型によってプリプレグから一定形状を切り抜くことにより切込を得る、等である。が、前記切込がレーザーマーカーを用いて施されたものであると、曲線やジグザグ線など複雑な切込を高速に加工できるという効果があるので好ましく、また、前記切込がカッティングプロッタを用いて施されたものであると、2m以上の大判のプリプレグ層を加工できるという効果があるので好ましい。さらに、前記切込が抜型を用いて施されたものであると、高速に加工が可能であるという効果があるので好ましい。
【0045】
次工程では、上記のようにして得られたプリプレグを強化繊維の方向が疑似等方、または交互積層になるよう積層して積層基材を作成する。この際取扱いの容易さから超音波溶着機(日本エマソン社製、製品名:2000LPt)でスポット溶接して積層基材とすることもできる。また、本実施形態の積層基材は、プリプレグを8〜96層となるように積層することが好ましい。
次工程では、上記のようにして得られた積層基材を加熱および加圧(ホットスタンピング)して一体化した積層基材を成形する。この工程は、加熱および加圧に通常用いられる種々の装置、例えば加熱プレス機を用いて行うことができ、その際に用いる型については、所望の形状を有するものを用いることができる。型の材質についても、ホットスタンピング成形で通常用いられるものを採用することができ、金属製のいわゆる型を用いることができる。具体的に本工程は、例えば前記積層基材を型内に配置して、加熱および加圧することにより行うことができる。
【0046】
前記加熱においては、積層基材に含まれる熱可塑性樹脂の種類にもよるが、100〜400℃で加熱することが好ましく、さらに好ましくは150〜350℃で加熱することが好ましい。また、前記加熱に先立って、予備加熱を行ってもよい。予備加熱については、通常150〜400℃、好ましくは200〜380℃で加熱することが好ましい。
【0047】
前記加圧において積層基材にかける圧力としては、好ましくは0.1〜10MPaであり、より好ましくは0.2〜2MPaである。この圧力については、プレス力を積層基材の面積で除した値とする。
【0048】
上記加熱および加圧する時間は、0.1〜30分間であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜10分間である。また、加熱および加圧の後に設ける冷却時間は、0.5〜30分間であることが好ましい。上記ホットスタンピング成形を経た本実施形態にかかる一体化した積層基材の厚さは、0.5〜10mmであることが好ましい。
【0049】
なお、前記加熱および加圧は、型と上記積層基材との間に潤滑剤が存在する条件下で行ってもよい。潤滑剤の作用により、前記加熱および加圧時に上記積層基材を構成するプリプレグに含まれる強化繊維の流動性が高まるため、強化繊維の間への熱可塑性樹脂の含浸を高まるとともに、得られる積層基材において強化繊維の間および強化繊維と熱可塑性樹脂の間におけるボイドを低減させることができるからである。
【0050】
前記潤滑剤としては、例えばシリコーン系潤滑剤やフッ素系潤滑剤を用いることができる。また、前記潤滑剤としてはこれらの混合物を用いてもよい。前記潤滑剤に用いるシリコーン系潤滑剤としては、高温環境で用いることができる耐熱性のものが好ましく用いられる。より具体的には、メチルフェニルシリコーンオイルやジメチルシリコーンオイルのようなシリコーンオイルを挙げることができ、市販されているものを好ましく用いることができる。フッ素系潤滑剤としては、高温環境で用いることができる耐熱性のものが好ましく用いられる。そのようなものの具体例としては、パーフルオロポリエーテルオイルや三フッ化塩化エチレンの低重合物(質量平均分子量500〜1300)のようなフッ素オイルを用いることができる。
【0051】
上記潤滑剤は、上記積層基材の片側若しくは両側の表面上、前記型の片側もしくは両側の表面上または上記積層基材および型の双方の片側若しくは両側の表面上に、潤滑剤塗布装置などの適当な手段によって供給されてもよいし、予め型の表面上に塗布しておいてもよい。中でも積層基材の両側の表面に潤滑剤が供給される態様が好ましい。
【0052】
本実施形態の積層基材に用いることができるプリプレグは、隣接する層をなすプリプレグ同士を超音波溶着機でスポット溶接しながら積層することで積層基材とすることもでき、取扱いを容易にする点で好ましい。
【0053】
本実施形態の積層基材の製造方法の別の実施形態として、プリプレグを複数枚積層して積層基材を製造する方法であって、プリプレグを複数枚積層した後、積層基材の外周断面部分の全ての50%以上を、プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物で覆うことを特徴とする積層基材の製造方法が挙げられる。当該製造方法により、積層基材を容易に取り扱うことができる。
【0054】
プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物については上述した通りである。また、積層基材の外周断面部分の全ての50%以上を、プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物で覆うことについても、上述した通りである。
【0055】
本実施形態の積層基材の製造方法においては、生産性の観点から、前記シート状物が粘着テープであって、積層基材の外周に沿って最下層基材外周部、積層基材の外周断面、最上層基材外周部を覆うように粘着テープを貼ることを特徴とする上記の積層基材の製造方法とすることがより好ましい。
【0056】
本実施形態の積層基材の製造方法においては、得られる積層基材が構造材に適用可能な曲げ強度や引張弾性率など優れた力学物性を有しながら、力学特性のばらつきが低く、さらに複雑な形状への賦形性に優れるという観点から、積層基材の製造方法においては、プリプレグは上述の、表面から裏面に貫通した切込を有し、各切込は各強化繊維と1回のみ交差するように設けられ、かつ前記切込の開始点と終点を結ぶ線分の長さをLsとした場合、前記線分の長さLsと前記切込の長さLrとが下記式1の関係を満たし、
Ls≦Lr≦Ls×1.5 ・・・(式1)
切込の開始点と終点を結ぶ直線と強化繊維の交差する角度が30°以上、90°以下であることが好ましい。さらに、前記プリプレグは前記切込の切込の長さが5〜100mmであり、前記プリプレグ1m
2あたりの切込の長さの総和が20m以上、200m以下であるプリプレグであることが好ましい。
【0057】
プリプレグに上記切込を施す方法としては、例えばレーザーマーカーを用いて施す方法、カッティングプロッタを用いて施す方法、打抜型を用いて施す方法等が挙げられる。この操作は、プリプレグシートを積層する前に、プリプレグシートに対して行ってもよい。
【0058】
積層基材を構成するプリプレグ同士を接着させる方法としては、例えば積層したプリプレグ同士を熱溶着を用いて、すなわちプリプレグに熱を加えてプリプレグに含まれる樹脂等の一部を溶解させることにより接着する方法、積層したプリプレグ同士を振動溶着を用いて、すなわちプリプレグに振動を加えてプリプレグに含まれる樹脂等の一部を溶解させることにより接着する方法、積層したプリプレグ同士を熱プレスを用いて、すなわちプリプレグに熱及び圧力を加えてプリプレグに含まれる樹脂等の一部を溶解させることにより接着する方法、積層したプリプレグ同士を熱ロールプレスを用いて、すなわちプリプレグに熱及び圧力を加えてプリプレグに含まれる樹脂等の一部を溶解させることにより接着する方法等が挙げられる。この操作は、積層基材の外周断面部分の全ての50%以上を、プリプレグを構成するマトリクス樹脂の融点+10℃で形状を保持するシート状物で覆う操作の前後に行ってもよい。
【0059】
(プレスによる流動性の評価)
本実施形態の積層基材は、成形時の流動性が良好であるため、種々の複雑な形状に成形することができる。かかる流動性は、例えば、積層基材を加熱および加圧した場合に、加熱および加圧後の厚みが加熱および加圧前の厚みに比して小さくなっている程度が大きいことにより評価することができる。具体的には、例えば、加熱および加圧して一体化した厚さ2mmの積層基材を78mm角に切り出した後に2枚重ね、あらかじめ230℃に加温したヒーター内で10分間保持し、その後すぐに145℃に加熱した小型プレス(東洋精機社製、製品名:ミニテストプレスMP−2FH)に移して挟み、10MPa、60秒条件でプレスした場合に、プレス前の厚みをプレス後の厚みで除した値が大きいほど流動性に優れるとする。本実施形態の積層基材の流動性は、通常2.0以上、好ましくは2.5以上である。
【0060】
(3点曲げ試験)
また、本実施形態の加熱および加圧して一体化した積層基材は、破壊強度(曲げ強度)に優れる。かかる曲げ強度は、JIS K7074に基づいて測定することができる。本実施形態の積層基材の曲げ強度は、通常250MPa以上、好ましくは300MPa以上である。
【0061】
(引張試験)
また、本実施形態の加熱および加圧して一体化した積層基材は、引張強度に優れる。かかる引張強度は、JIS K7164に基づいて測定することができる。本実施形態の積層基材の曲げ強度は、通常150MPa以上、好ましくは200MPa以上である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の発明に限定されるものではない。
【0063】
(評価方法)
本実施例においてプレスによる流動性の評価は、上述のように、加熱および加圧して一体化した厚さ2mmの積層基材を78mm角に切り出した後に2枚重ね、あらかじめ230℃に加温したヒーター内で10分間保持し、その後すぐに145℃に加熱した小型プレス(東洋精機社製、製品名:ミニテストプレスMP−2FH)に移して挟み、10MPa、60秒条件でプレスした場合に、プレス前の厚みをプレス後の厚みで除した値を評価した。
3点曲げ試験は、上述のJIS K7074に基づいて、25mm幅、100mm長さの試験片を、標点間距離80mm、R2mmの支持の上に置き、R5mmの圧子を用いて、クロスヘッド速度5mm/minで3点曲げ試験を行った。
引張強度の試験は、上述のJIS K7164に基づいて、25mm幅、250mm長さの試験片を、両端より25mmをチャックで固定し、クロスヘッド速度2mm/minで引張試験を行った。
【0064】
(実施例1)
炭素繊維(三菱レイヨン製、製品名:パイロフィル(登録商標)TR−50S15L)を、強化繊維の方向が一方向となるように平面状に引き揃えて目付が72.0g/m
2である強化繊維シートとした。この強化繊維シートの両面を、酸変性ポリプロピレン樹脂製のフィルム(三菱化学社製、製品名:モディック(登録商標)P958、目付:36.4g/m
2)で挟み、カレンダロールを通して、熱可塑性樹脂を強化繊維シートに含浸し、繊維体積含有率(Vf)が33%、厚さが、0.12mmのプリプレグを得た。
【0065】
得られたプリプレグを、300mm角に切り出し、カッティングプロッタ(レザック社製、製品名:L−2500)を用いて
図1に示すように一定間隔で直線状(Ls=Lr)の切込を入れた。その際、シートの端部より5mm内側部分を除き、L=25.0mm一定、切込の長さl=20.0mmになるよう、θ=30°の切込加工を施した。この際la=80.0mであった。
またシート一枚を切込加工する時間を測定して、切込加工時間と定義した。
【0066】
このようにして得られた切込16層を疑似等方([0/45/90/−45]s2)に重ね、超音波溶着機(日本エマソン社製、製品名:2000LPt)でスポット溶接して積層基材を作成した。
このようにして得た積層基材を300mm角で深さ1.5mmの印籠型内に配置して加熱し圧縮成形機(神藤金属工業所製、製品名:SFA−50HH0)を用いて、高温側プレスにて220℃、油圧指示0MPaの条件で7分間保持し、次いで同一温度にて油圧指示2MPa(プレス圧0.55MPa)の条件で7分間保持後、型を冷却プレスに移動させ、30℃,油圧指示5MPa(プレス圧1.38MPa)にて3分間保持することで成形品を得た。
【0067】
得られた積層基材は、強化繊維のうねりがなく、その端部まで強化繊維が均等に流動しており、ソリもなく、良好な外観と平滑性を保っていた。
得られた積層基材から、長さ100mm,幅25mmの曲げ強度試験片を切り出した。JIS K7074に規定する試験方法に従い、万能試験機(インストロン社製、製品名:4465型)を用いて、標点間距離を80mmとし、クロスヘッド速度5.0mm/分で3点曲げ試験を行った。測定した試験片の数はn=6とし、その全平均値を曲げ強度とした。
【0068】
得られた積層基材から、長さ250mm、幅25mmの引張試験片を切り出した。JIS K7164に規定する試験方法に従い、万能試験機(インストロン社製、製品名:4465型)を用いて、クロスヘッド速度2.0mm/分で引張試験を行った。測定した試験片の数はn=6とし、その全平均値を引張強度とした。
【0069】
得られた積層基材より、たて78mm、よこ78mmの板状物を2枚切り出した。その板状物を2枚重ねて、ミニテストプレス(東洋精機社製、製品名:MP−2FH)を用いて230℃で10分間加熱後、145℃、10MPa条件で60秒間プレスした。プレス成形前後での厚みを測定し、初期厚みを最終厚みで除すことにより流動性の評価とした。
実施例1の評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0070】
(実施例2)
L=25.0mm一定、切込の長さl=40.0mmになるよう、θ=30°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=80.0mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0071】
(実施例3)
L=25.0mm一定、切込の長さl=60.0mmになるよう、θ=30°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=80.0mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0072】
(実施例4)
L=37.5mm一定、切込の長さl=40.0mmになるよう、θ=30°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=53.3mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、流動性、引張強度及び加工時間ともに良好であった。
【0073】
(比較例1)
L=25.0mm一定、切込の長さl=86.4mmになるよう、θ=10°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した。しかしながらカッティングプロッタでは刃が滑り、切込加工を施すことができなかった。
【0074】
(比較例2)
L=25.0mm一定、切込の長さl=77.3mmになるよう、θ=15°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=154.5mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度及び加工時間は良好であったが、流動性が不十分であった。
【0075】
(比較例3)
L=3.0mm一定、切込の長さl=40.0mmになるよう、θ=30°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=666.7mであった。評価結果は、曲げ弾性及び流動性は良好であったが、曲げ強度と引張強度とが不十分であり、加工時間が長大であった。
【0076】
(比較例4)
L=3.0mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=471.4mであった。評価結果は、曲げ弾性及び流動性は良好であったが、曲げ強度と引張強度とが不十分であり、加工時間が長大であった。
【0077】
(実施例5)
L=12.5mm一定、切込の長さl=40.0mmになるよう、θ=30°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=160.0mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0078】
(実施例6)
L=12.5mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=113.1mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0079】
(実施例7)
L=25.0mm一定、切込の長さl=14.1mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=56.6mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0080】
(実施例8)
L=25.0mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=56.6mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0081】
(実施例9)
L=25.0mm一定、切込の長さl=42.4mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=56.6mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0082】
(実施例10)
L=37.5mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=37.7mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0083】
(実施例11)
L=25.0mm一定、切込の長さl=23.1mmになるよう、θ=60°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=46.2mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0084】
(実施例12)
L=25.0mm一定、切込の長さl=20.7mmになるよう、θ=75°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=41.4mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0085】
(実施例13)
L=25.0mm一定、切込の長さl=20.0mmになるよう、θ=90°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=40.0mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0086】
(
比較例9)
L=50.0mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=28.3mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0087】
(比較例5)
L=100.0mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=14.1mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度及び加工時間ともに良好であったが、流動性が不十分であった。
【0088】
(実施例15)
L=25.0mm一定、切込の長さl=42.4mmになるよう、強化繊維に対する角度θ=30°のX軸(X軸は、切込の開始点と終点を結ぶ直線)に対して、y=sin(0.5X)mmとしたサインカーブ状の切込加工を施した(
図2)以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際、1.1Ls=Lr、la=84.9mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0089】
(実施例16)
L=25.0mm一定、切込の長さl=34.6mmになるよう、強化繊維に対する角度θ=45°のX軸(X軸は、切込の開始点と終点を結ぶ直線)に対して、y=2.0sin(0.5X)mmとしたサインカーブ状の切込加工を施した(
図2)以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際、1.2Ls=Lr、la=69.2mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0090】
(実施例17)
切込加工をレーザーマーカー(パナソニック電工SUNX社製、製品名:LP−S500)で行い、L=25.0mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=56.6mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0091】
(実施例18)
切込加工を特別に作成した抜型と圧縮成形機(神藤金属工業所製、製品名:SFA−50HH0)で行い、L=25.0mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=56.6mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0092】
(実施例19)
一方向に炭素繊維(三菱レイヨン社製、製品名:パイロフィル(登録商標)TR−50S15L)を平面状に引き揃えて目付が78.0g/m
2となる強化繊維シートとし、強化繊維シートの両面を、酸変性ポリプロピレン樹脂(三菱化学社製、製品名:モディック(登録商標)P958)からなる目付が36.4g/m
2のフィルムで挟み、カレンダロールを通して、熱可塑性樹脂を繊維シートに含浸し、繊維体積含有率(Vf)が35%、厚さが、0.12mmのプリプレグを得た。このプリプレグのL=25.0mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=56.6mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0093】
(比較例6)
一方向に炭素繊維(三菱レイヨン社製、製品名:パイロフィル(登録商標)TR−50S15L)を平面状に引き揃えて目付が93.0g/m
2となる強化繊維シートとし、強化繊維シートの片面を、酸変性ポリプロピレン樹脂(三菱化学社製、製品名:モディック(登録商標)P958)からなる目付が36.4g/m
2のフィルムとをあわせ、カレンダロールを通して、熱可塑性樹脂を繊維シートに含浸し、繊維体積含有率(Vf)が56%、厚さが、0.09mmのプリプレグを得た。このプリプレグをL=25.0mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施し、24層を疑似等方([0/45/90/−45]s3)に積層した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=56.6mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度及び加工時間ともに良好であったが、流動性が不十分であった。
【0094】
(比較例7)
L=6.0mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=235.7mであった。評価結果は、流動性及び加工時間ともに良好であったが、曲げ強度と引張強度とが不十分であった。
【0095】
(実施例20)
一方向に炭素繊維(三菱レイヨン社製、製品名:パイロフィル(登録商標)TR−50S15L)を平面状に引き揃えて目付が72.0g/m
2となる強化繊維シートとし、強化繊維シートの両面を、ポリアミド樹脂(宇部興産社製、製品名:1013B)からなる目付が45.6g/m
2のフィルムで挟み、カレンダロールを通して、熱可塑性樹脂を繊維シートに含浸し、繊維体積含有率(Vf)が33%、厚さが、0.12mmのプリプレグを得た。このプリプレグをL=25.0mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した。高温側プレス温度を260℃に設定した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、下記に記す流動性評価以外は実施例1と同様の方法で評価をおこなった。この際la=56.6mであった。また流動性評価は、実施例1の記載の板状物を、ミニテストプレス(東洋精機製、製品名:MP−2FH)を用いて270℃で10分間加熱後、180℃、10MPa条件で60秒間間プレスした。プレス成形前後での厚みを測定し、初期厚みを最終厚みで除すことにより流動性の評価とした。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性及び加工時間ともに良好であった。
【0096】
(実施例21)
ポリアクリロニトリルを主成分し、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルを2モル%含有する共重合体をジメチルアセトアミド中に溶解して紡糸原液とし、湿式紡糸法を用いて、紡糸原液から平均単繊維繊度2.5dtex、総単糸数24,000本の炭素繊維前駆体を得た。さらに得られた炭素繊維前駆体を250〜290℃の熱風循環式耐炎化炉にて60分間空気酸化することで耐炎化処理を行い、引き続き窒素雰囲気下において660℃で90秒間および1350℃で90秒間高温熱処理炉にて炭素化処理を行い炭素繊維を得た。得られた炭素繊維を電解液中で表面酸化処理を行った後、エポキシ樹脂をサイジング剤として付着量が0.4質量%となる様にサイジング処理して、PAN系炭素繊維(平均単繊維繊度:1.4dtex、真円度:0.82、フィラメント数:24000本、ストランド強度:4275MPa、ストランド弾性率:230GPa、サイズ剤種:エポキシ樹脂、サイズ剤付着量:0.4質量%)を得た。
【0097】
前記PAN系炭素繊維を、強化繊維の方向が一方向となるように平面状に引き揃えて目付が72.0g/m
2である強化繊維シートとした。この強化繊維シートの両面を、酸変性ポリプロピレン樹脂製のフィルム(酸変性ポリプロピレン樹脂:三菱化学社製、製品名:モディック(登録商標)P958、目付:36.4g/m
2)で挟み、カレンダロールを通して、熱可塑性樹脂を強化繊維シートに含浸し、繊維体積含有率(Vf)が33%、厚さが、0.12mmのプリプレグを得た。このプリプレグをL=25.0mm一定、切込の長さl=28.3mmになるよう、θ=45°の直線状(Ls=Lr)の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で積層基材とその成形品を作成し、評価をおこなった。この際la=56.6mであった。評価結果は、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、流動性、加工時間ともに良好であった。
【表1】
【表2】
【0098】
(実施例22)
実施例1と同様の方法で得られたプリプレグを、935×1235mmに切り出し、サンプルカット機(レザック社製、製品名:L−2500)を用いて
図1に示すように一定間隔で切込を入れた。その際、シートの端部より17.5mm内側部分を除き、強化繊維の長さL=25.4mm一定、平均切込の長さl=42.4mmになるよう、繊維を切断する切込と強化繊維の交差する角度θ=45°の切込加工を施した。この際1m
2あたりの切込の長さの総和la=56.6mであった。
このようにして得られた切込プリプレグを疑似等方([0/45/90/−45]s2)の16層に重ね、超音波溶着機(日本エマソン社製、製品名:2000LPt)でスポット溶接して積層基材を作成した。
【0099】
このようにして得られた積層基材をプリプレグ積層体の外枠切断面を含む最外層基材(最下層基材1層目と最上層基材16層目)の周囲を工業用接着テープ(ソニーケミカル社製、製品名:T4082S、幅25mm)で囲い貼り付けて固定した積層基材を作成した。
得られた積層基材は、取扱い性が良好であった。
【0100】
このようにして得られた積層基材を940×1240mm角で深さ5mmの印籠型内に配置して、加熱プレスにて190℃、0.3MPaの条件で10分間保持し、次いで型を冷却プレスに移動させ、80℃,1.1MPaの条件で1分間保持することで厚みが約2mmの成形板を得た。
【0101】
得られた成形板は、強化繊維のうねりがなく、その端部まで強化繊維が均等に流動しており、ソリもなく、バリもなく、良好な外観と平滑性を保っていた。 得られた積層基材から、長さ100mm,幅25mmの曲げ強度試験片を切り出した。JIS K−7074に規定する試験方法に従い、万能試験機(インストロン社製、製品名:4465型)を用いて、標点間距離を80mmとし、クロスヘッド速度5.0mm/分で3点曲げ試験を行った。測定した試験片の数はn=6とし、その全平均値を曲げ強度とした。
評価結果は、曲げ強度及び曲げ弾性率、ともに良好であった。
【0102】
(実施例23)
実施例1と同様に行い、得られたプリプレグを打抜型(株式会社ダイテックス製)にてシートの端部より17.5mm内側部分を除き、強化繊維の長さL=25.4mm、平均切込の長さl=42.4mm、繊維を切断する切込と強化繊維の交差する角度θ=45°の切込、1m
2あたりの切込の長さの総和la=56.6mの切込加工を施した935×1235mmに切り出した。評価結果は、取扱い性良好で、得られた成形板は、強化繊維のうねりがなく、その端部まで強化繊維が均等に流動しており、ソリもなく、バリもなく、良好な外観と平滑性を保っていた。得られた成形板は、曲げ強度及び曲げ弾性率、ともに良好であった。
【0103】
(
実施例24)
実施例1と同様に行い、プリプレグ積層体の周囲を粘着テープにて囲い貼り付けて固定しない積層基材を作成した。評価結果は、取扱い性は不良で、得られた成形板は、強化繊維のうねりがあり、強化繊維が不均等に流動しており、ソリがあり、バリもあった。得られた成形板は、曲げ弾性率が不良であった。
【0104】
(取り扱い性)
積層基材を取扱う際の取扱い性を作業者の感覚にて評価した。評価の判定は以下の基準で行った。
「○」:取扱い易い。
「×」:取扱い難い。(積層間が開く)
【0105】
(強化繊維のうねり)
成形体を作業者の目視にて評価した。評価の判定は以下の基準で行った。
「○」:強化繊維のうねりが確認し難い。
「×」:明らかな強化繊維のうねりが確認される。
【0106】
(バリ)
プレス成形後のバリ取り前後の質量を測定し、バリの質量をバリ取り前の成形体の質量で割り返し評価した。評価の判定は以下の基準で行った。
「○」:2質量%未満のバリ。
「×」:2質量%以上のバリ。
【0107】
【表3】