特許第5697041号(P5697041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5697041修飾されたアントシアニンを花弁に含有するキク植物を生産する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697041
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】修飾されたアントシアニンを花弁に含有するキク植物を生産する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150319BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20150319BHJP
   A01H 5/00 20060101ALI20150319BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   A01H1/00 A
   A01H5/00 A
   A01G7/06 Z
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-510258(P2011-510258)
(86)(22)【出願日】2010年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2010053909
(87)【国際公開番号】WO2010122850
(87)【国際公開日】20101028
【審査請求日】2013年1月23日
(31)【優先権主張番号】特願2009-107055(P2009-107055)
(32)【優先日】2009年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 尚信
(72)【発明者】
【氏名】間 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 早苗
(72)【発明者】
【氏名】大宮 あけみ
(72)【発明者】
【氏名】田中 良和
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−504103(JP,A)
【文献】 特表2006−512057(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/017147(WO,A1)
【文献】 J. Plant Biol.,2007年,vol. 50,p. 626-631
【文献】 Plant Cell Physiol.,2000年,vol. 41,p. 495-502
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
A01G 7/06
A01H 1/00
A01H 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の:
(1)配列番号1に示す塩基配列を含む核酸、
(2)シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号1に示す塩基配列に対して1個又は数個の塩基配列の付加、欠失及び/又は置換により修飾された塩基配列を含む核酸、
(3)シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号1に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸と高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすることができる核酸、及び
(4)シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号1に示す塩基配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する核酸、
から成る群から選ばれる核酸を含む発現ベクター又は発現カセットを用いて、遺伝子組換え技術によりキク植物において核酸を転写させる方法。
【請求項2】
前記核酸を転写させる方法が、フラボノイド合成系に関わる核酸を転写させることによるフラボノイド合成系の制御方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸を転写させる方法が、アントシアニン修飾に関わる核酸を転写させることによるアントシアニンの修飾方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に定義する核酸を含む発現ベクター又は発現カセットを用いて、シソアントシアニン3−アシル基転移酵素をキク植物において発現させて、芳香族アシル化アントシアニンを花弁に含有するキク植物を生産する方法。
【請求項5】
前記発現ベクター又は発現カセットが配列番号2に示す塩基配列を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により生産され、かつ、請求項1に定義する核酸が導入されている、キク植物若しくはその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織。
【請求項7】
芳香族アシル化アントシアニンを含む、請求項6に記載のキク植物若しくはその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織。
【請求項8】
デルフィニジンを含む、請求項6に記載のキク植物若しくはその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織。
【請求項9】
切り花である、請求項6に記載のキク植物若しくはその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織。
【請求項10】
請求項9に記載の切り花を用いた切り花加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シソ由来アントシアニン3−アシル基転移酵素(3AT)遺伝子を用いてキク植物においてフラボノイド生合成系を制御する方法、アントシアニンを修飾する方法、及び該遺伝子が導入されたキク植物若しくはその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織、特に、花弁、切り花に関する。
本発明は、また、パンジー由来フラボノイド3',5'-水酸化酵素(以下、F3'5'Hともいう)遺伝子#40(以下、BP40ともいう。)由来の転写調節領域及びその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術を利用すると、有用な遺伝子を目的の植物で発現させることにより、その植物に新しい形質を植物に付与することができる。このようにして作製された遺伝子組換え植物は既に広範囲で栽培されている。遺伝子の発現の調節は、主に転写の段階で制御されていて、転写調節は遺伝子の発現を調節する上で最も重要である。すなわち、適切な時期に、適切な組織で、適切な強さで転写をさせることが、産業上有用な遺伝子組換え植物を作製するために重要である。転写は多くの場合、翻訳領域の5'側にあるDNA配列により制御されている。遺伝子の転写の開始部位を決定し、その頻度を直接的に調節するDNA上の領域をプロモーターという。プロモーターは、開始コドンの5'側数十bpに存在することがあり、TATAボックスなどの配列を含むことが多い。そのさらに5’側には様々な転写調節因子が結合するシスエレメントがあり、これらの存在は、転写の時期、転写が行われる組織、転写の強さを制御している。転写調節因子はアミノ酸配列により多くのファミリーに分類される。例えば、Myb型転写調節因子、bHLH(basic helix loop helix)型転写調節因子などは有名なファミリーである。実際には、転写制御領域とプロモーターは同じような意味で用いられることが多い。
【0003】
花の色の主成分であるアントシアニンは、フラボノイドと総称される二次代謝物の一員である。アントシアニンの色はその構造に依存する。すなわち、アントシアニンの発色団であるアントシアニジンのB環の水酸基の数が増加すると青くなる。また、アントシアニンを修飾する芳香族アシル基(クマロイル基、カフェオイル基など)の数が増加するとアントシアニンの色は青くなり(すなわち吸収極大値が長波長にシフトする)、アントシアニンの安定性が増すことが知られている(以下、非特許文献1参照)。
アントシアニンの生合成に関わる酵素や該酵素をコードする遺伝子はよく研究されている(同非特許文献1参照)。例えば、アントシアニンに芳香族アシル基を転移する反応を触媒する酵素遺伝子はリンドウ、ラベンダー、ペチュニアなどから得られている(以下、特許文献1、特許文献2参照)。赤ジソの葉に蓄積されるアントシアニン(マロニルシソニン、3-O-(6-O-(E)-p-coumaroyl-β-D-glucopyranosyl)-5-O-(6-O-malonyl-β-D-glucopyranosyl)-cyanidin)(以下、非特許文献2参照)の合成に関わる酵素遺伝子は、ヒドロキシシナモイルCoA:アントシアニン3−グルコシド−芳香族アシル基転移酵素(3AT)の遺伝子{以下、単に「シソアントシアニン3−アシル基転移酵素(3AT)遺伝子」ともいう。}を始め既に報告されている(同特許文献1参照)。さらにアントシアニンの生合成酵素の遺伝子の転写制御(調節)についても知見が得られている。これらの遺伝子の開始コドンの5'側に位置する転写調節領域の中には、Myb型転写調節因子、bHLH型転写調節因子が結合するシスエレメント配列がある。Myb型転写調節因子とbHLH型転写調節因子がペチュニア、トウモロコシ、シソなどのアントシアニンの合成を制御していることも知られている(同非特許文献1参照)。
【0004】
植物において遺伝子の転写を担っているプロモーター(以下、転写調節領域ともいう。)には、どの組織でも又は発育段階のどの時期にでも機能するいわゆる構成的プロモーターと、特定の器官・組織でのみ機能する器官・組織特異的プロモーターや、発育段階の特定時期にのみ発現する時期特異的プロモーターとがある。遺伝子組換え植物で有用遺伝子を発現させるためのプロモーターとしては、構成的プロモーターがよく用いられる。代表的な構成的プロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス35S(以下、CaMV35Sともいう。)プロモーターやそれを元に構築されたプロモーター(以下、非特許文献3参照)、Mac1プロモーター(以下、非特許文献4参照)などがある。しかしながら、植物において、多くの遺伝子は、組織・器官特異的又は時期特異的に発現している。これは遺伝子を組織・器官特異的又は時期特異的に発現することが植物にとっては必要であることを示唆している。このような組織・器官特異的又は時期特異的な転写調節領域を利用して植物の遺伝子組換えを行った例がある。例えば、種子特異的な転写調節領域を用いて蛋白質を種子で蓄積させた例がある。
【0005】
ところで、植物は多様な色の花を咲かせるが、全ての色の花を咲かせることができる種は、その種がもつ遺伝的な制約から、少ない。例えば、バラ、カーネーションなどには青や紫色の花を咲かせる品種は自然には存在しない。なぜなら、バラやカーネーションは、多くの青や紫色の花を咲かせる種が合成するデルフィニジンというアントシアニジンを合成するために必要なF3'5'H遺伝子を持っていないからである。これらの種に、青や紫色の花を咲かせる種であるペチュニア、パンジーなどのF3'5'H遺伝子を導入することにより、これらの種で、花の色を青くすることができた。カーネーションの場合、異種由来のF3'5'H遺伝子を転写させるために、キンギョソウ又はペチュニア由来のカルコン合成酵素遺伝子の転写調節領域が用いられている。例えば、キンギョソウ又はペチュニア由来のカルコン合成酵素遺伝子の転写調節領域を含むプラスミドとして、以下の特許文献3に記載されたプラスミドpCGP485、pCGP653、構成的な転写調節領域を含むプラスミドとして、プラスミドpCGP628(Mac1プロモーターを含む)、以下の特許文献4に記載されたプラスミドpSPB130(エンハンサーが付加されたCaMV35Sプロモーターを含む)が挙げられる。
【0006】
しかしながら、このようなプロモーターが組換え植物において、どの程度強く機能して目的の表現型をもたらすことができるかどうかは、予測することは困難である。また、複数の外来遺伝子を発現させるために同じプロモーターを繰り返して使うことは遺伝子のサイレンシングを引き起こすことがあるので、避けるべきであると考えられている(以下、非特許文献5参照)。
したがって、いくつかのプロモーターが花の色を変えるために使われてきたが、目的の宿主植物と目的に応じた有用なプロモーターが未だ必要とされている。
【0007】
特に、キク植物(単に、「キク」ともいう。)は、日本全国の卸売価格(農林水産統計平成19年花き卸売市場調査結果の概要)の内の約30%を占め、バラの約9%、カーネーションの約7%と比較しても重要な作目である。キクには、白・黄・橙・赤・桃・紫赤などの花色はあるものの、紫や青といった青色系の花色はない。従って、青色花の育種は新たな需要を喚起するための目標の一つとされている。キクの花色は、アントシアニンとカロテノイドの組み合わせにより発現している。アントシアニンは基本骨格であるアントシアニジンの構造の違いや、糖や有機酸による修飾の違いなどにより、多様な色を発現できる。しかしながら、キクの花色を担うアントシアニンは、シアニジンの3位がグルコースとマロン酸により修飾された二種類(cyanidin 3-O-(6"-O-monomalonyl-β-glucopyranosideとcyanidin 3-O-(3",6"-O-dimalonyl-β-glucopyranoside)のみであることが知られている(以下、非特許文献6参照)。また、それらの構造は比較的単純である(図1参照)。これにより、キクのアントシアニンによる発色のバリエーションが極めて小さい要因になっている。
【0008】
前記したように、キクは日本で最も重要な花きであるが、六倍体と高次倍数性を有し、かつゲノムサイズも大きいことから、形質転換効率が低いのに加えて、導入遺伝子のサイレンシング(不活化)が起こることもあり、安定に導入遺伝子を発現する遺伝子組換えキクを得ることは容易ではない。CaMV35Sプロモーターに連結したβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を導入したキクでは、同じ遺伝子を導入したタバコに比べ、GUS遺伝子の活性は10分の1程度であり、かつ、その活性は形質転換後12ヶ月経過するとほとんどの個体で低下することが報告されている(以下、非特許文献7参照)。キクで外来遺伝子を安定に発現させるために、キクで良好に機能するクロロフィルa/b結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーターを得た報告があるが、同プロモーターは、クロロフィルが余り存在しない花弁で遺伝子を発現させるためには適していない(以下、非特許文献8参照)。タバコのelongation factor 1αプロモーターに連結したGUS遺伝子をキクに導入すると、20ヶ月以上経過しても、葉や花弁でGUS遺伝子が発現したという報告がある(以下、非特許文献9参照)。さらに、変異型のエチレンレセプター遺伝子をキクで発現させ花の寿命を延長した例(以下、非特許文献10参照)、キクのAGAMOUS遺伝子の発現を抑制して花の形を変化させた例(以下、非特許文献11参照)、タバコのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子の5'-非翻訳領域(以下、タバコADH-5'UTRともいう)を用いてキクにおける外来遺伝子の発現を上昇させた例(以下、非特許文献12参照)がある。
【0009】
一方、遺伝子組換えによるキクの花色改変の成功例として、カルコン合成酵素(CHS)の遺伝子をコサプレッション法により抑制して、ピンク色を白色にした報告(以下、非特許文献13参照)と、カロテノイド分解酵素(CCD4a)の遺伝子をRNAi法により抑制して、白色を黄色にした報告(以下、非特許文献14参照)があるが、いずれも内在性の遺伝子の発現抑制による花色改変であり、外来遺伝子の過剰発現による花色改変の成功例はないし、アントシアニンの構造やそれに伴う花色の変化を実現した例もない。
【0010】
外来遺伝子の過剰発現による花色改変の試みは、デルフィニジンが合成されるために必要な酵素であるF3'5'Hをコードする遺伝子を導入した報告があるが(以下、特許文献5、非特許文献15参照)、導入したF3'5'H遺伝子の働きにより生産されたデルフィニジンが舌状花弁に蓄積し、青色系のキクが作出されたという報告はない。キクでは、CaMV35SプロモーターでF3'5'Hを発現させても、デルフィニジンの生産は認められない(非特許文献15参照)。また、CaMV35Sプロモーターで発現させた遺伝子の発現は、キク形質転換体の成長に伴って消失するなど、安定的な発現には不適切である(非特許文献7参照)。キクで外来遺伝子を舌状花弁で効率的かつ安定的に発現できるプロモーターとして、ポテトLhca3.St.1プロモーター(以下、非特許文献16参照)、キクUEP1プロモーター(以下、非特許文献17参照)や、タバコEF1αプロモーター(以下、特許文献6、非特許文献9参照)等が開発されている。しかしながら、これらのプロモーターを用いた外来遺伝子の過剰発現によるキクの花色改変は報告がない。以上のことから、花の色が変化したキクを遺伝子組換えにより作出するために、キクに適したプロモーターの開発を含むフラボノイド生合成系遺伝子の発現制御技術を確立する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO 96/25500
【特許文献2】WO 01/72984
【特許文献3】WO 94/28140
【特許文献4】WO 05/17147
【特許文献5】米国特許第5948955号
【特許文献6】特開2004−65096号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Plant J. 54, 737-749, 2008
【非特許文献2】Agricultural and Biological Chemistry, 53, 797-800, 1989
【非特許文献3】Plant Cell Physiology 1996, 37, 49-59
【非特許文献4】Plant Molecular Biology 1990, 15, 373-381
【非特許文献5】Annals of Botany 1997, 79, 3-12
【非特許文献6】Journal of Horticultural Science & Biotechnology, 81, 728-734, 2006
【非特許文献7】Plant Biotechnology, 17, 241-245, 2000
【非特許文献8】Breeding Science, 54, 51-58, 2004
【非特許文献9】Japan Agricultural Research Quarterly, 39:269-274, 2005
【非特許文献10】Postharvest Biology and Technology, 37, 101-110, 2005
【非特許文献11】Plant Biotechnology, 25:55-59, 2008
【非特許文献12】Plant Biotechnology, 25:69-75,2008
【非特許文献13】Bio/Technology 12:268, 1994
【非特許文献14】Plant Physiology 142:1193, 2006
【非特許文献15】J. Plant Biol., 50:626, 2007
【非特許文献16】Mol Breed 8: 335, 2001
【非特許文献17】Transgenic Res 11: 437, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、キク植物の花の色を変えるために有用なプロモーターであるシソ由来アントシアニン3−アシル基転移酵素(3AT)遺伝子の転写調節領域を用いてキク植物においてフラボノイド生合成系を制御する方法、アントシアニンを修飾する方法、修飾されたアントシアニンを花弁に含有するキク植物を生産する方法、及び該調節領域が導入されたキク植物若しくはその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織、特に、花弁、切り花を提供することである。
本発明は、上記切り花を用いた加工品(切り花加工品)にも関する。ここで、切り花加工品としては、当該切り花を用いた押し花、プリザーブドフラワー、ドライフラワー、樹脂密封品などを含むが、これに限定されるものではない。
本発明が解決しようとする課題は、キク植物及びキク以外の植物の花の色を変えるために有用なプロモーターを提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、実験を重ねた結果、シソ由来のアントシアニン3−アシル基転移酵素(3AT)遺伝子の転写調節領域が、キクの花弁においてアントシアニンの構造を変化させ、その結果、キク植物の花の色を変えるために有用なプロモーターであることを発見し、その有用性を実験により確認して、本願発明を完成するに至った。
本発明者らは、パンジー由来のF3’5’H遺伝子の転写調節領域がキク植物又はキク植物以外の植物の花の色を変えるために有用であることをも見出し、本願発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0015】
[1]以下の:
(1)配列番号1に示す塩基配列を含む核酸、
(2)シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号1に示す塩基配列に対して1個又は数個の塩基配列の付加、欠失及び/又は置換により修飾された塩基配列を含む核酸、
(3)シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号1に示す塩基配列に相補的な塩基配列から成る核酸と高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすることができる核酸、及び
(4)シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号1に示す塩基配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する核酸、
から成る群から選ばれる核酸を含む発現ベクター又は発現カセットを用いて、遺伝子組換え技術によりキク植物において核酸を転写させる方法。
【0016】
[2]前記核酸を転写させる方法が、フラボノイド合成系に関わる核酸を転写させることによるフラボノイド合成系の制御方法である、前記[1]に記載の方法。
[3]前記核酸を転写させる方法が、アントシアニン修飾に関わる核酸を転写させることによるアントシアニンの修飾方法である、前記[1]に記載の方法。
[4]前記[1]に定義する核酸を含む発現ベクター又は発現カセットを用いて、シソアントシアニン3−アシル基転移酵素をキク植物において発現させて、芳香族アシル化アントシアニンを花弁に含有するキク植物を生産する方法。
[5]前記発現ベクター又は発現カセットが配列番号2に示す塩基配列を含む、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記[1]に定義する核酸が導入されているか又は前記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法により生産された、キク植物若しくはその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織。
【0017】
[7]芳香族アシル化アントシアニンを含む、前記[6]に記載のキク植物若しくはその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織。
【0018】
[8]デルフィニジンを含む、前記[6]又は[7]に記載のキク植物若しくはその子孫若しくはその栄養増殖体若しくは又はその部分若しくは組織。
【0019】
[9]切り花である、前記[6]〜[8]のいずれかに記載のキク植物若しくはその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織。
【0020】
[10]前記[9]に記載の切り花を用いた切り花加工品。
[11]以下の:
(1)配列番号15に示す塩基配列を含む核酸、
(2)パンジーF3'5'H遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号15に示す塩基配列に対して1個又は数個の塩基配列の付加、欠失及び/又は置換により修飾された塩基配列を含む核酸、
(3)パンジーF3'5'H遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号15に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸と高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすることができる核酸、及び
(4)パンジーF3'5'H遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号15に示す塩基配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する核酸、
から成る群から選ばれる核酸。
【0021】
[12]前記[11]に記載の核酸を含む発現ベクター又は発現カセットを用いて、キク植物又はキク植物以外の植物において核酸を発現させる方法。
[13]前記核酸を発現させる方法が、フラボノイド合成系に関わる核酸を発現させることによるフラボノイド合成系の制御方法である、前記[12]に記載の方法。
[14]前記核酸を発現させる方法が、アントシアニン修飾に関わる核酸を発現させることによるアントシアニンの修飾方法である、前記[12]に記載の方法。
[15]前記[11]に定義する核酸が導入されているか又は前記[12]〜[14]のいずれかに記載の方法により生産された、キク植物又はキク以外の植物又はその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織。
[16]芳香族アシル化アントシアニンを含む、前記[15]に記載のキク植物又はキク以外の植物又はその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織。
[17]デルフィニジンを含む、前記[15]又は[16]に記載のキク植物又はキク以外の植物又はその子孫若しくはその栄養増殖体若しくは又はその部分若しくは組織。
[18]切り花である、前記[15]〜[17]のいずれかに記載のキク植物又はキク以外の植物又はその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織。
[19]前記[18]に記載の切り花を用いた切り花加工品。
【発明の効果】
【0022】
アカジソの葉で酵素遺伝子の転写を司っていると考えられる転写調節領域、すなわち、シソアントシアニン3−アシル基転移酵素の転写調節領域が異種であるキクの花弁で転写調節領域として機能しうることが分かった。したがって、シソアントシアニン3−アシル基転移酵素の転写調節領域を利用して、花などのアントシアニンが蓄積する組織内で特異的に外来遺伝子の転写を起こさせることが可能となる。転写させる外来遺伝子としては、花色、香りに関連した遺伝子があるが、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】キクのフラボノイドの生合成経路の概略図、並びにシアニジン3−O−(6’’−O−モノマロニル−β−グルコピラノシド及びシアニジン3−O−(3’’,6’’−O−ジマロニル−β−グルコピラノシドの構造。
図2】形質転換されたキクのフラボノイド生合成産物の例。
図3】シソ3AT遺伝子導入用バイナリーベクターpSPB3311及びpSPB3323の概略図。
図4】アントシアニンの組成が変化した形質転換キクのHPLCクロマトグラム。芳香族アシル化アントシアニンを34%含む形質転換体1275−17。使用プラスミドpSPB3311(図3参照)。1:シアニジン3−マロニルグルコシド、2:シアニジン3−ジマロニルグルコシド、3:シアニジン3−芳香族アシルグルコシド。
図5】キク形質転換体の花弁から検出された吸収スペクトル。3の吸収スペクトルには、芳香族有機酸で修飾されたアントシアニンに見られる326nm付近に吸収極大が観察され、さらに、マロニル化されたもの吸収スペクトル(1、2)に対し、アントシアニンの吸収極大は(518nmから522nmまで約5nmほど)長波長側にシフトしている。
図6】アントシアニンの組成が変化した形質転換キクのHPLCクロマトグラム。芳香族アシル化アントシアニンを50%、デルフィニジン配糖体を0.8%含む形質転換体1300−4。使用プラスミドpSPB3323(図3参照)。1:シアニジン3−マロニルグルコシド、2:シアニジン3−ジマロニルグルコシド、3:シアニジン3−芳香族アシルグルコシド、4:デルフィニジン3−マロニルグルコシド。
図7】プラスミドpSFL635の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、シソのヒドロキシシナモイルCoA:アントシアニン3−グルコシドアシル基転移酵素(Pf3AT)をコードする遺伝子の5'領域(Pf3ATpro)(本明細書中、「シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域」ともいう。)により、3ATやF3'5'H等のフラボノイド生合成系遺伝子を発現させる遺伝子カセットを含有するベクターで(図3参照)、キク植物を形質転換することを含む、キク植物において核酸を転写させる方法、フラボノイド合成系に関わる核酸を転写させることによるフラボノイド合成系の制御方法、アントシアニン修飾に関わる核酸を転写させることによるアントシアニンの修飾方法、かかる方法によって作出された花弁のアントシアニン組成が改変されたキク植物及び/又は花色が改変された、キク植物若しくはその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織、特に、花弁、切り花に関する。
本発明は、パンジーのF3’5’H遺伝子の5’領域(本明細書中、「パンジーF3’5’H遺伝子の転写調節領域」ともいう。)により、F3'5'H等のフラボノイド生合成系遺伝子を発現させる遺伝子カセットを含有するベクターで(図3図7参照)、キク植物及びキク以外の植物を形質転換することを含む、キク植物及びキク以外の植物において核酸を転写させる方法、フラボノイド合成系に関わる核酸を転写させることによるフラボノイド合成系の制御方法、アントシアニン修飾に関わる核酸を転写させることによるアントシアニンの修飾方法、かかる方法によって作出された花弁のアントシアニン組成が改変された植物及び/又は花色が改変された、キク植物又はキク以外の植物又はその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織、特に、花弁、切り花に関する。
本発明は、上記切り花を用いた加工品(切り花加工品)にも関する。ここで、切り花加工品としては、当該切り花を用いた押し花、プリザーブドフラワー、ドライフラワー、樹脂密封品などを含むが、これに限定されるものではない。
本明細書中、「フラボノイド合成系を制御する方法」とは、フラボノイド合成系に関与するタンパク質をコードする遺伝子、例えば、3AT遺伝子やF3’5’H遺伝子の発現を制御することによりフラボノイド合成系を制御する方法をいう。上記アントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子としては、例えば、シソ由来のアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子がある。また、F3’5’H遺伝子としては、例えばパンジー由来のF3’5’H遺伝子がある。
【0025】
本発明により、3AT等のアシル基転移酵素を機能させて芳香族アシル基をアントシアニンに転移させることで、アントシアニンの吸収極大を長波長側にシフトさせることが可能になり、既存の花色に青みを持たせることが可能になった(図4図5図6参照)。
また、Pf3ATプロモーター及びPf3ATターミネーターでシソの3AT遺伝子を発現させることにより、キクのアントシニンの34%〜50%を芳香族アシル化することができており(図4図6参照)、このプロモーターを様々な遺伝子の発現に用いることで、キクの舌状花弁で効率的かつ安定的に外来遺伝子を機能させることができる。また、F3'5'H遺伝子と3AT遺伝子を同時に発現させることで、青色アントシアニンの基本骨格であるデルフィニジンの配糖体を、芳香族アシル基により修飾することができ(図6参照)、青いキクを作出することが可能になる。
本発明に係る転写制御領域としては、例えば、配列番号1又は配列番号15に示す塩基配列から成る核酸が挙げられる。しかしながら、配列番号1又は配列番号15に示す塩基配列から成る核酸において数個(1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個)の塩基の付加、欠失及び/又は置換によって修飾された塩基配列から成るプロモーターも、元のプロモーターと同様の活性を維持していると考えられる。従って、本発明に係る転写調節領域は、キク花弁又は他の植物で転写調節領域として機能する限り、配列番号1又は配列番号15に示す塩基配列に対して1個又は数個の塩基配列の付加、欠失及び/又は置換により修飾された塩基配列から成る核酸であることもできる。
本発明に係る転写調節領域は、さらに、シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号1に示す塩基配列に対して高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすることができる核酸、又はシソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号1に示す塩基配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する核酸であることもできる。
本発明に係る転写調節領域は、パンジーF3’5’H遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号15に示す塩基配列に対して高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすることができる核酸、又はパンジーF3’5’H遺伝子の転写調節領域として機能することができ、かつ、配列番号15に示す塩基配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する核酸であることもできる。
【0026】
これらの核酸として、配列番号1又は配列番号15に示す塩基配列を含有するポリヌクレオチドとストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすることができる、配列番号1又は配列番号15に示す塩基配列と好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、最も好ましくは約99%の塩基配列同一性を有する塩基配列から成る核酸が挙げられる。
【0027】
ここで、ストリンジェンシー条件とは、当業者によって容易に決定されるハイブリダイゼーション条件のことで、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存して経験的に求められるものである。一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングのための温度が高くなり、プローブが短くなると温度は低くなる。ハイブリダイゼーションは、一般的に、相補的鎖がその融点に近いがそれより低い環境に存在する場合における変性DNAの再アニールする能力に依存する。
具体的には、例えば、低ストリンジェンシー条件として、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄段階において、37℃〜42℃の温度条件下、5×SSC及び0.1%SDS溶液中で洗浄することなどが挙げられる。また、高ストリンジェンシー条件としては、例えば、洗浄段階において、65℃、0.1×SSC、0.1%SDS溶液中で洗浄することなどが挙げられる。ストリンジェンシー条件をより高くすることにより、相同性又は同一性の高いポリヌクレオチドを得ることができる。
【0028】
本発明に係る転写調節領域は、発現ベクター又は発現カセットに含まれ、これらの発現ベクター又は発現カセットは、例えば、配列番号2、又はWO 04/020637に記載のパンジーF3’5’H遺伝子に示す塩基配列を含む。
本発明は、上記転写調節領域(核酸)が導入された、キク植物又はキク以外の植物又はその子孫又はその部分若しくは組織、本発明に係る方法を用いた結果として作出された、芳香族アシル化アントシアニン、及び/又はデルフィニジンを含む、キク植物又はキク以外の植物又はその子孫若しくはその栄養増殖体又はその部分若しくは組織、特に、花弁、切り花にも関する。
【0029】
本明細書中、用語「キク植物(単に「キク」ともいう)」とは、キク科(Asteraceae)のキク属(Chrysanthemum)の植物を意味する。例えば、イエギク(Dendranthema grandiflorum Kitam)、西洋菊、大菊、中菊、小菊などが挙げられ、代表的な種としては、キク(Chrysanthemum morifolium)が挙げられる。キク以外の植物は、特に問わないが、好ましくはバラであることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
分子生物学的手法はとくに断らない限り、Molecular Cloning(Sambrook and Russell, 2001)に依った。
実施例1:シソアントシアニン3−アシル基転移酵素染色体遺伝子のクローニング
シソにはアントシアニンを葉に蓄積する赤い変種と蓄積しない緑色の変種が知られている。前者の葉から、その染色体DNAを、報告されている方法(Plant Mol Biol. December 1997; 35(6):915-27参照)で調製した。この染色体DNAをSau3AI(TOYOBO社製)で部分分解し、ショ糖密度勾配法により10〜15kbのDNA断片を含む画分を回収した。この断片を、公知の方法を用いてラムダファージベクターの一種であるEMBL3(Promega社製)のBamHI部位に挿入することにより、染色体DNAライブラリーを作製した。得られたライブラリーをシソに由来するアントシアニン3−アシル基転移酵素のcDNAであるpSAT208(Plant Cell Physiol. April 2000; 41(4):495-502参照)をプローブとして用いてスクリーニングした。ライブラリーのスクリーニングは、既に報告されている方法(Plant Cell Physiol. July 1996; 37(5):711-6参照)に拠った。プローブとハイブリダイズしたプラークを純化後、培養し、得られたファージからDNAを調製した。
【0031】
実施例2:シソアントシアニン3−アシル基転移酵素染色体遺伝子の塩基配列決定
上記で得たDNA10μgをXbaIで消化し、0.7%アガロースゲルで分離した後、ハイボンドN(アマシャム社製)にブロットした。この膜を上記と同じようにハイブリダイズしたところ、約6.8kbのDNA断片がプローブとハイブリダイズすることが分かった。同じDNA20μgをXbaIで消化し、0.7%アガロースゲルで分離した後、約6.8kbのDNA断片を、ジーンクリーン(フナコシ株式会社)を用いて精製し、XbaIで消化したpBluescriptSKII-と連結した。得られたプラスミドをpSPB513とした。このプラスミドに含まれるシソ由来のDNA配列をプライマーウォーキング法により決定した。その塩基配列を配列番号4に示す。この配列には、アントシアニン3−アシル基転移酵素cDNAであるpSAT208と高い相同性を示す領域があり、この領域がコードする蛋白質のアミノ酸配列(配列番号6)は、pSAT208のコードするアミノ酸配列と比べて19個のアミノ酸残基の置換と2個のアミノ酸の欠失が見られ、イントロンは観察されなかった。また、上記pSAT208と高い相同性を示す領域を含む配列は、その開始コドンと考えられるATGの上流に3438bpの配列と、その終止コドンと考えられるTAAの下流に2052bpの配列を含んでいた。上記3438bpの配列内には、アントシアニン3−アシル基転移酵素ではない別のオープンリーディングフレーム(ORF、配列番号5)が存在した。この部分を除く、シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域を増幅するために、以下の実験を行った。
【0032】
実施例3:シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域の増幅
1ngのpSPB513を鋳型として2種のプライマー(5’-AAGCTTAACTATTATGATCCCACAGAG-3’(配列番号7、下線部はHindIIIの認識配列)、5’-GGATCCGGCGGTGTTGAACGTAGC-3’(配列番号8、下線部はBamHIの認識配列)を用いて、PCR(95℃1分間保持後、52℃1分間、72℃2分間、95℃1分間からなる反応を25サイクル)を行なった。増幅された約1.1kbのDNA断片をHindIIIとBamHIで消化した。
【0033】
特許文献4に記載されたプラスミドpSPB567(エンハンサーが付加されたカリフラワーモザイク35Sプロモーターの3'側にパンジー由来のF3'5'H遺伝子が連結され、さらにその3'側にノパリンシンターゼのターミネーターが連結されている)をPacIで消化し、パンジー由来のF3'5'H遺伝子を含むDNA断片をpBin+(Transgenic Research 4, 288-290, 1995参照)のPacI部位にクローニングした。得られたプラスミドの内、エンハンサーが付加されたカリフラワーモザイク35SプロモーターがpBin+のAscI部位近くに存在するところのプラスミドをpSPB575とした。このプラスミドをHindIIIとBamHIで消化し、これに、前記したシソアントシアニン3−アシル基転移酵素の転写調節領域を含む約1.1kbのDNA断片をHindIIIとBamHIで消化したDNA断片を、挿入した。得られたプラスミドをpSFL205とした。
【0034】
pSFL205をHindIIIとSacIで消化して、約100bpのDNA断片を回収した。このDNA断片と、pSPB513をSacIとXbaIで消化して得られる約4kbのDNA断片と、HindIIIとXbaIで消化したプラスミドpBin+とを連結して、プラスミドpSPB3311を得た。このプラスミドpSPB3311は、配列番号2に示す塩基配列を含むバイナリーベクターとなっていて、シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域と該遺伝子の翻訳領域とその3'側の非翻訳領域を含む。
【0035】
実施例4:pSPB3323の構築
パンジーのF3'5'H遺伝子BP#40(WO 04/020637参照)の転写調節領域をTaKaRa LA PCRTM in vitro Cloning Kitを用いて、以下のように増幅した。
パンジーの葉からDNA easy plant kit (QIAGEN社)を用いて染色体DNAを調製した。3μgの染色体DNAを制限酵素HindIIIにより消化した。消化したDNAを、HindIII末端DNA(TaKaRa LA PCRTM in vitro Cloning Kitに含まれる)と、Ligation High (TOYOBO)を用いて、16℃で40分間反応させ、連結した。反応液4μlを10μlの水で薄め、連結したDNAを94℃10分間の処理により変性させた後、氷中で冷却した。5pmolのプライマーC1 (5’-GTACATATTGTCGTTAGAACGCGTAATACGACTCA-3’、配列番号9、HindIIIカセット配列の一部の配列でKitに含まれる)と5pmolのプライマーBP40-i5 (5’-AGGTGCATGATCGGACCATACTTC-3’、配列番号10、BP#40の翻訳領域の相補鎖に相当する)を加え、キットのプロトコールに従い、25μlの反応液で、98℃20秒間、68℃で15分間の反応を30回繰り返した。反応液を水で10倍に希釈した。このうち、0.5μlを鋳型として、5pmolのプライマーC2(5’-CGTTAGAACGCGTAATACGACTCACTATAGGGAGA-3’、配列番号11、HindIIIカセット配列の一部の配列でKitに含まれる)と5pmolのプライマー BP40-i7 (5’-GACCATACTTCTTAGCGAGTTTGGC-3’、配列番号12)を含む25μlの反応液で、98℃で5分間反応後、98℃で20秒間、68℃で15分間の反応を30回繰り返した。
【0036】
得られたDNA断片を、プラスミドpCR2.1 (Invitrogen社)に導入した。挿入されたDNAの塩基配列を決定したところ、その配列はBP#40のcDNA塩基配列と一致しない箇所が見られた。これはPCRの際にエラーが起こったためと考えられる。エラーのない配列を増幅するために以下の操作を行なった。
約2kbのBP#40の5’非翻訳領域と200bpの翻訳領域を増幅するために、200ngのパンジーの染色体DNAを鋳型として、50pmolのプライマー BP40-i7 (配列番号12)と50pmolのプライマーBP40 pro-F (5’-ACTCAAACAAGCATCTCGCCATAGG-3’、配列番号13、BP#40遺伝子の5’非翻訳領域にある配列)を用いて、25μlの反応液でPCRを行なった。98℃5分間処理した後、98℃20秒間と68℃15分間からなる反応を30回繰り返した。増幅されたDNA断片をpCR2.1に挿入した。このDNA断片には約2.1kbの5’非翻訳領域と200bpの翻訳領域が含まれていた。このプラスミドをpSFL614とした。プラスミドpSFL614配列の塩基配列を配列番号14に示す。
【0037】
pSFL614に含まれる約2.1kbの5’非翻訳領域(BP40pro,配列番号15)をBP#40遺伝子を転写させるために用いた。この際にBamHI部位をNheIに変更した。1ngのpSFL614プラスミドを鋳型とし、50pmolのプライマーBP40pro-HindIII-F (5’-AAG CTT GTG ATC GAC ATC TCT CTC C-3’、配列番号16)と50pmolのプライマーBP40pro-NheI-R (5’-CGA GGC TAG CTA AAC ACT TAT-3’、配列番号17)、Ex-Taq DNAポリメラーゼを加え、25μlの反応液で98℃5分間保持した後、98℃20秒間、68℃15分間の反応を25回繰り返した。増幅したDNA断片をpCR2.1にクローニングした。この配列にPCRによるエラーがないことを、塩基配列を確認することにより決定した。このプラスミドをHindIIIとNheIで消化し、470bpのDNA断片を得た。このDNA断片を断片Aとした。
【0038】
1ngのpSFL614プラスミドを鋳型とし、50pmolのプライマーBP40pro-NheI-F (5’-TTT AGC TAG CCT CGA AGT TG-3’、配列番号18)と50pmolのプライマーBP40pro-BamHI-R (5’-GGA TCC CTA TGT TGA GAA AAA GGG ACT-3’、配列番号19)、Ex-Taq DNAポリメラーゼを加え、25μlの反応液で98℃5分間保持した後、98℃20秒間、68℃15分間の反応を25回繰り返した。増幅したDNA断片をpCR2.1にクローニングした。この配列にPCRによるエラーがないことを、塩基配列を決定することにより確認した。このプラスミドをHindIIIとNheIで消化し、630bpのDNA断片を得た。このDNA断片を断片Bとした。
【0039】
特許文献4に記載されたプラスミドpSPB567をBamHIとHindIIIで消化して生じるDNA断片のうち大きいほうの断片を回収し、上述の断片Aと断片Bとを連結し、pSFL620とした。
pSFL620をPacIで消化後、約3.2kbのDNA断片を回収した。このDNA断片をpBin+のPacI部位に挿入した。得られたプラスミドをpSPB3317とした。上述のpSPB3311をAscIとXbaIで消化して得られた断片を、pSPB3317のAscIとXbaI部位に導入し、得られたプラスミドをpSPB3323とした。
【0040】
実施例5:シソアントシアニン3−アシル基転移酵素染色体遺伝子のキクでの発現
実施例3で調製したpSPB3311をアグロバクテリウムに導入し、このアグロバクテリウムを用いてキク品種94-765(精興園、未発売)を公知の方法により形質転換した。キクの形質転換は、例えば、非特許文献8に記載されているが、形質転換の方法はこれに限定されない。6系統の形質転換系統を取得した。この舌状花弁を凍結後に粉砕し、粉砕した花弁50〜100mgを500μLの50%酢酸水溶液で抽出し、0.45μmのフィルターで濾過した。この抽出液に含まれるアントシアニンを蒸留水で5倍に希釈したものを分析サンプルとし、高速液体クロマトグラフィーを用いて以下の条件で分析した。カラムはInertsil ODS-2(粒径5μm、4.6×250mm、ジーエルサイエンス)を用い、流速0.8ml/minで、移動相は1.5%リン酸を含む、4%酢酸、5%アセトニトリルから20%酢酸、25%アセトニトリルの直線濃度勾配40分間の後、1.5%リン酸及び20%酢酸を含む25%アセトニトリルで10分間のイソクラティック溶出を行った。検出はAgilent 1100シリーズ・ダイオードアレイ検出器(ジーエルサイエンス)を用い、250nm〜600nmの波長領域を検出し、530nmの吸光度の面積により各アントシアニンの存在比を求めた。
【0041】
形質転換体である分析系統1275-13、1275-14、1275-15、及び1275-17におけるアントシアニンの内、それぞれ、23%、1%、17%、及び34%は、保持時間20分以上であり、これらのアントシアニンは芳香族アシル基により修飾されていることが示唆された。保持時間20分以上に溶出されるアントシアニンの吸収極大は長波長側にシフトされており、上記形質転換により、既存の花色に青みを持たせることが可能になった。一方、元のキク品種94−765の花弁中のアントシアニンには、保持時間20分以上のものはなかった。
LC-FT-ICR-MSの手法(J. Japan. Soc. Hort. Sci. 77:94-102 (2008), Plant J. 54:949-962)により組換えキク1275-17のアントシアニンを分析した。この手法を用いるとアントシアニンの精密マススペクトルを測定でき、タンデム質量分析によりMS/MSスペクトルを得ることができる。キク1275-17には、宿主には検出されないシアニジン(クマロイル)グルコシドに相当する化合物(検出m/z:595.146259)、MSMSによるフラグメントはシアニジンに相当するm/z 287.1のみ)のピークが検出された。
以上の結果から、異種であるシソの3ATの転写調節領域がキク植物において機能したこと、シソの3ATもキクにおいて機能し、アントシアニンの構造と花の色を変化させたことが明らかとなった。また、本発明により、3AT等のアシル基転移酵素を機能させて芳香族アシル基をアントシアニンに転移させることで、アントシアニンの吸収極大を長波長にシフトさせることが分った(図4図5図6参照)。
【0042】
実施例6:シソアントシアニン3−アシル基転移酵素染色体遺伝子とパンジーF3’5’H遺伝子のキクでの発現
実施例4で調製したpSPB3323をアグロバクテリウムに導入し、このアグロバクテリウムを用いてキク品種94-765(精興園、未発売)を公知の方法により形質転換した。6系統の形質転換系統を取得した。この花弁に含まれるアントシアニンを、実施例5に記載の方法で高速液体クロマトグラフィーを用いて分析した。
【0043】
形質転換体である分析系統1300-2、1300-3、及び1300-4のそれぞれにおけるアントシアニンの20%、2%、及び50%は、保持時間20分以上であり、これらのアントシアニンは芳香族アシル基により修飾されていることが示唆された。宿主のアントシアニンには、保持時間20分以上のものはなかった。以上のことから、異種であるシソの3ATの転写調節領域がキク植物において機能したこと、シソの3ATがキクのなかで機能して、アントシアニンの構造と花の色を変化させたことが明らかとなった。したがって、シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域を、様々な遺伝子の発現に用いることで、キクの舌状花弁で効率的かつ安定的に外来遺伝子を機能させることができるようになる。
【0044】
また、以下の方法で抽出したアントシアニジンの分析を行った。舌状花弁を凍結後に粉砕し、粉砕した花弁50〜100mgを500μLの1%塩酸メタノールで抽出し、この抽出液に500μLの4N 塩酸(HCl)を加えて混合し、100℃で1時間、加水分解を行った。分解後の溶液を冷却後、1mlの0.05M トリフルオロ酢酸(TFA)を添加して混合した。次に、この溶液をSep-Pak C18(ミリポア)に添加して加水分解産物を吸着させた。Sep-Pak C18は予め80%アセトニトリル(MeCN)で洗浄後、0.05M TFAで平衡化した。Sep-Pak C18に吸着した加水分解産物を0.05M TFAで洗浄後、さらに20%MeCN, 0.05M TFAで洗浄した後に、80%MeCN, 0.05M TFAで加水分解産物を溶出し、分析サンプルとした。
分析サンプルは、高速液体クロマトグラフィーを用いて以下の条件で分析した。カラムはInertsil ODS-2(粒径5μm, 4.6×250mm, ジーエルサイエンス)を用い、流速0.8ml/minで、移動相は1.5%リン酸を含む、5%酢酸、6.25%アセトニトリルから20%酢酸、25%アセトニトリルの直線濃度勾配20分間の後、1.5%リン酸及び20%酢酸を含む25%アセトニトリルで5分間のイソクラティック溶出を行った。検出はAgilent 1100シリーズ・ダイオードアレイ検出器(ジーエルサイエンス)を用い、250nm〜600nmの波長領域を検出し、530nmの吸光度の面積により各アントシアニジンの存在比を求めた。
分析の結果、形質転換体である分析系統1300-3、1300-4、1300-5、及び1300-6において、それぞれ、デルフィニジンが全アントシアニジンの0.9%、0.8%、1.4%、及び0.6%検出された。これは、パンジーのBP40転写調節領域がBP40の転写を司ったことを示唆する。デルフィニジン及び芳香族アシル基で修飾されていることが示唆されるアントシアニンが検出された1300-3及び1300-4においては、芳香族アシル基で修飾されたデルフィニジン型アントシアニンをも含むことが示唆された。このようにF3'5'Hと3ATを同時に発現させることでフラボノイド合成系を制御することができ、青色アントシアニンの基本骨格であるデルフィニジンの配糖体を、芳香族アシル基により修飾することができ、青いキクを作出することが可能になる。
【0045】
実施例7:pBI121-シソ3ATpro::ADHNF-パンジーF3'5'H#40::シソ3ATterの作製
実施例3で得られたプラスミドpSPB3311を鋳型に、HAP_gPf3ATpro_long_Fd(5'-AAGCTTGGCGCGCCGTTTAAACAACTATTATGATCCCACAG-3'、配列番号20)とX-gPf3ATpro-Rv(5'-TCTAGAGGCGGTGTTGAACGTAGCTGTGG-3'、配列番号21)をプライマーとして用い、Prime Star DNAポリメラーゼ(Takara)でPCRを行って、約1.1kbpのシソアントシアニン3-アシル基転移酵素遺伝子(Pf3AT)のプロモーター領域(Pf3ATpro)を増幅した。得られたPCR産物をpCR-BluntII-TOPO(Invitrogen)にクローニングして得られたプラスミドをpCR-Pf3ATproとした。
次に、pSPB3311を鋳型に、SSS-gPf3ATter-Fd(5'-GAGCTCACTAGTGTCGACTAAATGTATGTAATTAAACTAAT-3'、配列番号22)、及びESS-gPf3ATter-Rv(5'-GAATTCAGGCCTGCCCGGGCTATCTTTATCATATTTCGTCTAC-3'、配列番号23)をプライマーとして用い、Prime Star DNAポリメラーゼ(Takara)で、約1.5kbpのシソアントシアニン3-アシル基転移酵素遺伝子の3'側非翻訳領域(Pf3ATter)をPCRにより増幅した。PCR産物をpCR-BluntII-TOPO(Invitrogen)にクローニングして得られたプラスミドをpCR-Pf3ATterとした。
pCR-Pf3ATterをSacIとEcoRIで消化して得られるPf3ATter DNA断片を、pBI121-ADHNF のSacIとEcoRIに挿入した。次に、得られたプラスミドを、HindIIIとXbaIで消化し、pCR-Pf3ATproをHindIIIとXbaIで消化して得られるPf3ATpro DNA断片を連結して得られたバイナリーベクターを、pBI121-Pf3ATp-GUS-Pf3ATtとした。
【0046】
ハマナスの染色体DNAライブラリーを、λBlueSTARTM Xho I Half-Site Arms Kit (Novagen, http://www.merckbiosciences.com/product/69242)を用いて、以下のように作製した。ハマナスの若い葉から、Nucleon Phytopure [Registered] (TEPNEL Life Sciences)を用いて染色体DNAを調製した。約100μgの染色体DNAを制限酵素Sau3AIで部分消化した。
このDNA断片をdGTP とdATPの存在下においてDNA polymerase I Klenow fragment (TOYOBO)で部分的にフィルインをし、ショ糖密度勾配遠心により分画した。約13kbの大きさにDNAを回収し、エタノール沈殿により濃縮した。約180ngのDNAを1μL の λBlueSTARTM Xho I Half-Site Arms Kitと4℃で15時間連結した後、in vitro packaging反応を行ない、染色体ライブラリーを得た。
このハマナス染色体DNAライブラリーをトレニアのフラバノン3-水酸化酵素(F3H) cDNA (NCBI No. AB211958)によりスクリーニングし、シグナルを示すプラークを得た。そのうち1プラークから、製造者(Novagen)が推奨する方法を用いてin vivoの切り出しを行い、プラスミドに変換した。これを制限酵素SpeIで消化し、2.6kbのDNA断片を回収し、pBluescript SKII- (STRATAGENE)のSpeI部位にサブクローングすることにより、プラスミドpSPB804を得た。このプラスミドはF3Hに相同性を示す塩基配列を有していた。
F3Hの5'-非翻訳領域を増幅するために、1ngのpSPB804を鋳型に、プライマーRrF3H-F (5’-AAGCTTCTAGTTAGACAAAAAGCTA-3’、配列番号26)、プライマーRrF3H (5’-GGATCCTCTCTTGATATTTCCGTTC-3’、配列番号27)、及びEx-Taq DNA Polymerase (Takara)を用いて50μLの反応液でPCRを行なった。PCRの反応条件は、94℃5分間反応後、94℃30秒間、50℃30秒間、72℃30秒間を1サイクルとする反応を30回繰り返し、さらに72℃で7分間保持した。得られたDNA断片をpCR-TOPO (INVITROGEN)に挿入し、プラスミドpSPB811を得た。このプラスミドからは、HindIIIとBamHIを用いて約1.2kbのF3Hの5'-非翻訳領域を回収できる。
【0047】
特許文献4に記載されたpSPB567(El2エンハンサーが付加されたCaMV35Sプロモーター、パンジーのF3'5'HBP40、ノパリンシンターゼターミネーターを含むプラスミドpUC)のプロモーター部分をHindIIIとBamHIを用いて約1.2kbのF3Hの5'-非翻訳領域に置き換えて、プラスミドpSFL814 (R. rugosa F3H 5': BPF3'5'H#40: nos 3'を含む)を得た。
pSFL814を鋳型に、ADH-BP40-Fd(5'-CAAGAAAAATAAATGGCAATTCTAGTCACCGAC-3'、配列番号28)とNcoI-BP40-Rv(5'-CTCGAGCGTACGTGAGCATC-3'、配列番号29)をプライマーに用いてPCRで増幅したDNA断片、及びpBI221 ADH-221を鋳型にBamHI-ADH-Fd(5'-CGCGGATCCGTCTATTTAACTCAGTATTC-3'、配列番号30)とBP40-ADH-Rv(5'-TAGAATTGCCATTTATTTTTCTTGATTTCCTTCAC-3'、配列番号31)をプライマーに用いてPCRで増幅したDNA断片を混合して鋳型に用い、BamHI-ADH-FdとNcoI-BP40-Rvをプライマーに用いて、PCRにより、タバコADH-5'UTR 94bpがパンジーF3'5'H#40の開始コドンに直結したDNA断片を得た。
このDNA断片をpCR2.1にTAクローニングした後に、BamHI及びNcoIで消化して得られる約600bpのDNA断片と、pSFL814をBamHI及びNcoIで消化して得られるバイナリーベクター断片とを連結させることにより、pBinPLUS ハマナスF3Hpro::ADHNF-パンジーF3'5'H#40:: NOSterを得た。
【0048】
pBINPLUSハマナスF3Hpro:: ADHNF-パンジーF3'5'H#40::NOSterを鋳型に、SpeISmaI-ADH-Fd(5'-ACTAGTCCCGGGGTCTATTTAACTCAGTATTCAG-3'、配列番号24)とSacI-BP40-Rv(5'-GAGCTCTCAGGTTGCGTACGGGTTTGAGG-3'、配列番号25)をプライマーとして用い、Prime Star DNA polymeraseを用いたPCRによりADHNF-パンジーF3'5'H #40 DNA断片を増幅した。このDNA断片をpCR-BluntII-TOPOにクローニングして得られたプラスミドをpCR-ADHBP40-SpeSacとした。
pCR-ADHBP40-SpeSacをSpeI及びEcoICRIで消化して得られるADHNF-パンジーF3'5'H #40 DNA断片を、pBI121-Pf3ATp-GUS-Pf3ATtをSalIで消化した後、Blunting High(TOYOBO)を用いて平滑末端化し、さらにXbaIで消化して得られるバイナリーベクターの断片に、連結することにより、pBI121-シソ3ATpro::ADHNF-パンジーF3'5'H#40::シソ3ATterを得、これを、Agrobacterium tumefaciens EHA105株に形質転換した。
この形質転換アグロバクテリウムを用いて、キク品種大平由来の組換えキク7系統を得た。このうち5系統でデルフィニジンが検出され、デルフィニジン含有率は17.7%に達した。
また、pBI121-シソ3ATpro::ADHNF-パンジーF3'5'H#40::シソ3ATterから得たシソ3ATpro::ADHNF-パンジーF3'5'H#40::シソ3ATterの発現カセットをpWTT2132(WO96/36716)に導入することによりpSPB3718を構築し、Agrobacterium tumefaciens Agl0株に形質転換した。これを用いてキク品種Improved Regan(精興園)を形質転換した。25系統の形質転換キクを取得し、そのうち7系統で花色変化が見られた。デルフィニジン含有率は最高20%であった。
【0049】
実施例8
pSFL535(WO2008/156206に記載)をPacIで部分消化し、パンジーF3'5’H遺伝子を含む発現カセットを除去したDNA断片を回収した。このDNA断片と、実施例4に記載のpSFL620をPacIで消化して得られる約3.2kbのDNA断片とを連結し、図7に示す構造をもつプラスミドpSFL635を得た。このプラスミドのT-DNAが植物に導入されると、トレニア由来のフラボン合成酵素遺伝子とトレニア由来のアントシアニンメチル基転移酵素が構成的に発現し、パンジーF3'5’H遺伝子が花弁特異的に発現されることが期待される。このプラスミドをWO2008/156206に記載に方法を用いてアグロバクテリウムに導入し、バラ品種WKS124に導入し、83系統の形質転換体を得た。これらの花弁にはWKS124には見られないマルビジン、ペチュニジン、デルフィニジンが含まれていた。総アントシアニジンのうちこれらの合計は平均73%、最高85%であった。この結果は本実験で得たパンジーBP40由来のプロモーター領域(pSFL514に含まれる約2.1kbの5'非翻訳領域(BP40pro、配列番号15、実施例4参照)は、外来遺伝子を植物、特にバラで発現させるのに適していることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
アカジソの葉で酵素遺伝子の転写を司っていると考えられるプロモーター領域、すなわち、シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域が異種であるキクの花弁で転写調節領域として機能しうることが分かった。したがって、シソアントシアニン3−アシル基転移酵素遺伝子の転写調節領域を利用して、花などのアントシアニンが蓄積する組織内で特異的に外来遺伝子の転写を起こさせることが可能となる。転写させる外来遺伝子としては、花色、香りに関連した遺伝子があるが、これらに限られるものではない。
また、パンジー由来のF3’5’H遺伝子の転写調節領域が、キク植物又はキク以外の植物の花の色を変えるために有用であることも分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]